説明

苗植機の苗植制御装置

【課題】 苗植条行程の終端部で走行方向の折返旋回操向を行うときは、操作タイミングが難しく、このタイミングのずれによって苗植付け条間間隔や、植付位置の不揃い等が生じ易い。
【解決手段】 ステアリングハンドルの操向により、車体に対して苗植装置を上昇すると共に、植付クラッチ5を切りにして走行旋回する苗植機において、この折返し走行旋回位置をGPSから入力することことによって、前記苗植装置を下降して植付クラッチ5を入りにする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、車体の操向旋回をGPS(全地球測位システム)の利用により検出しながら、車体に対して苗植装置を昇降しながら、この苗植装置を苗植付け姿勢に切替操作する苗植機の苗植制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ステアリング操向角による車体走行の旋回によって、この車体に対する苗植装置を、非苗植付け姿勢から苗植付け姿勢へ下降させて、自動的に苗植付け作業を開始させる技術(例えば、特許文献1参照)が知られている。
【特許文献1】特開2006ー81444号公報(第2頁、図5)。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
苗植条行程の終端部で走行方向の折返旋回操向を行うときは、ステアリングハンドルや、操向クラッチ、ブレーキ等のペダル操作による操向を行うが、走行土壌面に車輪のスリップ現象等を伴い易く、これらの操作タイミングが難しく、このタイミングのずれによって苗植付け条間間隔や、植付位置の不揃い等が生じ易い。
【課題を解決するための手段】
【0004】
請求項1に記載の発明は、ステアリングハンドル4の操向により、車体1に対して苗植装置2を上昇すると共に、植付クラッチ5を切りにして走行旋回する苗植機において、この折返し走行旋回位置をGPS3から入力することによって、前記苗植装置2を下降して植付クラッチ5を入りにする苗植制御装置を設けたことを特徴とする苗植機とする。苗植条行程の終端部で折返し走行旋回するときは、ステアリングハンドル4の操向操作によって車体1が一定角度操向されると、苗植装置2が車体1に対して非苗植位置へ自動的に上昇され、この苗植装置2の植付クラッチ5が切りになって植付伝動が停止されて、苗植装置2の土壌面に対する接触や、土壌面の掻回し抵抗等を無くして、円滑な車体の操向旋回を行わせる。このとき、GPS3からの情報による車体1の走行位置を検出していて、この検出による車体1の旋回位置が旋回完了位置になることによって、前記非苗植位置にあった苗植装置2を車体1に対して自動的に下降して、土壌面に接地摺動させて、植付クラッチ5を入りにし、苗植付作動を開始する。
【0005】
請求項2に記載の発明は、前記GPS3による走行旋回位置を入力することによって、苗植装置2を下降し、植付クラッチ5を入りにするGPSターンスイッチ7を設ける。前記のように、GPS3による検出データを用いて旋回操向制御して苗植作業を行わせるときは、このGPSターンスイッチ7を操作する。このGPSターンスイッチ7は、例えば、押し操作の回数によって、GPS3を用いるか、否かを決定される。このGPSターンスイッチ7を押さないときは、前記GPSターンモードも、又、走行旋回内側の車軸の回転数検出により苗植装置を上昇し植付クラッチを切りにする形態のオートリフトターンモードも行われない。このGPSターンスイッチ7を1回押したときは、GPSターンモードは行われないで、該オートリフトターンモードにより行わせる。又、このGPSターンスイッチ7を2回押したときは、GPSターンモードと、オートリフトターンモードとの併用による旋回制御を行わせることができる。
【0006】
請求項3に記載の発明は、前記車体1のブレーキ6を操作することによって、又は、走行旋回操作によるステアリングハンドル4の操向回動の戻りによって、前記GPSターンモードを実行可能に設ける。前記のように、苗植条作業行程の終端部での走行旋回は、ステアリングハンドル4の操向によってオートリフトターン制御が行われる。そして、この旋回操向において、ブレーキ6の制動操作が行われたとき、又は、ステアリングハンドル4が直進に近い状態の操向位置に戻ったときは、この旋回が行われて隣接の苗植条行程の始端部に移るとき、GPSターンモードの操向制御が実行されて、苗植装置2が下降して、植付クラッチ5が入りになって、苗植作業を開始するものである。
【発明の効果】
【0007】
請求項1に記載の発明は、テアリングハンドル4による走行旋回しながら、この旋回の内側の車軸回転数の検出によって、苗植装置2を上昇し植付クラッチ5を切りにするオートリフトターン等の旋回操向形態において、GPS3によって苗植機車体2の走行旋回が完了したことを検出することによって、自動的に苗植装置2を車体1に対して下降させて苗植付作用を行わせるもので、苗植付位置での植付開始のタイミングや、苗植付条や、植付苗株位置等を揃い易くして、整然とした苗植付開始を行わせることができる。又、操向クラッチや、操向ブレーキの操作によって旋回操向しながら、このGPS3の検出による苗植装置2の下降制御や、植付クラッチ5の入り操作制御を行わせることも可能で、簡単で、的確な苗植付け開始操作を行わせることができ、旋回苗植付制御の精度を高めることができる。
【0008】
請求項2に記載の発明は、GPSターンスイッチ7の操作によって、GPS3を利用した走行旋回制御を選択的に行わせることができ、走行、乃至作業条件等に応じて、GPS3を用いた的確な苗植機の操向旋回や、苗植付け開始作業等を簡単、容易に行うことができる。
【0009】
請求項3に記載の発明は、前記オートリフトターンにおいて、旋回中にブレーキペダルを踏み込んでブレーキ、乃至操向ブレーキを制動したり、又は、この旋回操作のステアリングハンドル4を直進に近い状態に戻したときは、これによってGPSターンモードを自動的に働かせることによって、これまでの走行旋回中における操向誤差を修正して、正確な旋回走行、及び、苗植作業を開始することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
図例に基づいて、前輪10、後輪11を配置して運転席15の下側に搭載のエンジン12によって駆動し、この全部上側のダッシュボード13後側のステアリングハンドル4で操向する四輪駆動走行形態のトラクタ車体1において、この運転席15の後側に、リフトシリンダ14の伸縮によって昇降される平行リンク16を介して苗植装置2を装着する。車体1の後部には、肥料を収容するホッパー17と、この下側にあってホッパー17内の収容肥料を繰出す繰出装置18、この繰出された肥料を苗植付土壌面へ案内する施肥ホース19等を設ける。前記苗植装置2は、底部にフロート20を配置して、苗植機体21を支持して土壌面を滑走させる。この苗植機体21上には、左右へ移動可能の苗タンク22を前上り傾斜にして支架し、この後端下部に、苗植具23を作動させて、多条植え形態の苗植作業を行う。
【0011】
ここにおいて、この苗植制御装置は、ステアリングハンドル4の操向により、車体1に対して苗植装置2を上昇すると共に、植付クラッチ5を切りにして走行旋回する苗植機において、この折返し走行旋回位置をGPS3から入力することことによって、前記苗植装置2を下降して植付クラッチ5を入りにする構成とする。苗植条行程の終端部で折返し走行旋回するときは、ステアリングハンドル4の操向操作によって車体1が一定角度操向されると、苗植装置2が車体1に対して非苗植位置へ自動的に上昇され、この苗植装置2の植付クラッチ5が切りになって植付伝動が停止されて、苗植装置2の土壌面に対する接触や、土壌面の掻回し抵抗等を無くして、円滑な車体の操向旋回を行わせる。このとき、GPS3からの情報による車体1の走行位置を検出していて、この検出による車体1の旋回位置が旋回完了位置になることによって、前記非苗植位置にあった苗植装置2を車体1に対して自動的に下降して、土壌面に接地摺動させて、植付クラッチ5を入りにし、苗植付作動を開始する。
【0012】
又、前記GPS3による走行旋回位置を入力することによって、苗植装置2を下降し、植付クラッチ5を入りにするGPSターンスイッチ7を設ける。前記のように、GPS3による検出データを用いて旋回操向制御して苗植作業を行わせるときは、このGPSターンスイッチ7を操作する。このGPSターンスイッチ7は、例えば、押し操作の回数によって、GPS3を用いるか、否かを決定される。このGPSターンスイッチ7を押さないときは、前記GPSターンモードも、又、走行旋回内側の車軸の回転数検出により苗植装置を上昇し植付クラッチを切りにする形態のオートリフトターンモードも行われない。このGPSターンスイッチ7を1回押したときは、GPSターンモードは行われないで、該オートリフトターンモードにより行わせる。又、このGPSターンスイッチ7を2回押したときは、GPSターンモードと、オートリフトターンモードとの併用による旋回制御を行わせることができる。
【0013】
更には、前記車体1のブレーキ6を操作することによって、又は、走行旋回操作によるステアリングハンドル4の操向回動の戻りによって、前記GPSターンモードを実行可能に設ける。前記のように、苗植条作業行程の終端部での走行旋回は、ステアリングハンドル4の操向によってオートリフトターン制御が行われる。そして、この旋回操向において、ブレーキ6の制動操作が行われたとき、又は、ステアリングハンドル4が直進に近い状態の操向位置に戻ったときは、この旋回が行われて隣接の苗植条行程の始端部に移るとき、GPSターンモードの操向制御が実行されて、苗植装置2が下降して、植付クラッチ5が入りになって、苗植作業を開始するものである。
【0014】
この走行旋回制御のコントローラ27の入力側には、前記ステアリングハンドル4の操向角を検出するハンドル角センサ41や、前輪10の操向角を検出する操向角センサ等を設ける。左、右の車軸の回転数を検出する車軸回転センサ8や、前記GPS3からの車体走行位置の情報を受信するGPS受信機42や、このGPS受信機42による受信によって旋回制御を行わせるGPSターンモード制御のGPSターンスイッチ7、ブレーキペダルを踏み込んで制動したことを検出するブレーキセンサ9等を設ける。又、出力側には、前記苗植装置2を昇降するためのリフトシリンダ14の油圧回路の昇降制御弁24や、左、右の前輪10、乃至後輪11の車軸を回転伝動を入りにしたり、この駆動伝動を切りにする操向クラッチ7のクラッチ制御弁25、乃至、この操向クラッチ7に操向ブレーキ6のブレーキ制御弁26等を設け、前記苗植装置2の苗タンク22の苗繰出装置や、苗植具23の伝動を入り、切りする植付クラッチ5等を設ける。
【0015】
苗植作業は、苗植装置2を下降させてフロート20を接地滑走させた状態で、苗植付クラッチ5を入りにして、苗タンク22の苗を繰出しながら、植付具23の駆動によって苗を分離保持して走行土壌面へ多条植え形態に植え付ける。圃場の植付条端に達すると、ハンドル4の操向によってU字形態に折返し旋回して隣接苗植条の作業に移るが、このハンドル4の操向操作に基づいて、ハンドル角センサ41の検出によって、旋回行程に入ると、昇降制御弁24の出力によって苗植装置2が苗植位置から非苗植位置へ上昇され、植付クラッチ5が切りに作動されて、車軸回転センサ8により旋回の内側における車軸の回転数を検出しながら、オートリフトターンの制御を行う。そして、このような操向旋回においては、GPSターンスイッチ7を操作して、GPSターンモードの旋回制御を行わせるときは、この旋回状態をGPS3で検出していて、このような旋回制御が行われて車体が隣接苗植条位置に操向されると、このGPS3からの信号入力によって、GPSターン制御を行って、苗植装置2が下降して、植付クラッチ5が入りになって苗植作業を再開する。
【0016】
又、このGPSターンスイッチ7による選択操作形態によっては、このGPS3を用いない単なるオートリフトターンモードによる旋回操向や、操向ブレーキ等を操作しながら、このGPSターンモードによる操向制御形態を組み合わせて走行旋回させることも可能である。又、前記のように、走行旋回制御において、操向ブレーキ6等を制動するときは、この制動によってオートリフトターンによる旋回制御における各タイミングのずれが生じ易いものであるが、前記GPSターン制御を行わせることによって、このような影響を少なくすることができる。
【0017】
前記GPSターンスイッチ7をON操作していても、ブレーキペダルを踏まないで旋回を行うときは、前記後輪11の車軸回転センサ8による検出を行いながら、通常のオートリフトターン制御による旋回制御を優先して行わせるように構成し、このブレーペダルを踏むことによって前記のようにGPSターンモードによる旋回制御を行わせる形態とすることも可能である。
【0018】
又、前記オートリフトターン制御において、後輪11の車軸ギヤの回転において、旋回内側の回転数が変化しないで、旋回外側の回転数が変化しているときは、この内側の後輪11がスリップ状態にあるものと判定して、前記のようにGPSターンモードによる旋回制御を行わせるように構成することも可能である。
【0019】
前記のような走行旋回制御において、苗植装置2が上昇したときは植付クラッチ5が自動的に切りの位置になって、空植え作用を無くするものであるが、何らかの原因でこのような事態が生じたときは、コントローラ27の出力側に設けられた警報ブザー、乃至ランプ28を出力させて、苗植装置2が上昇しているときに植付クラッチ5が入りになっていることを警告させるように構成している。
【0020】
この場合に、前記走行伝動装置の副変速位置(乃至、副変速レバー)が、「植付」位置と、「PTO」位置との複数位置にあって、この「PTO」位置において洗車作業を行わせることができる形態である場合は、この副変速が「植付」位置にある時のみブザー、乃至ランプ28を鳴らすように構成することができる。又、このブザー、乃至ランプ28の警報は、前記苗タンク22にマット形態の苗が供給されているときにおいて、前記不具合が発生したときに発信するように構成することも可能である。又、このような警報ブザー、乃至ランプ28の発信は、走行操作のHSTレバーを操作して機体が走行発進を開始するときに行わせるように構成することも可能である。
【0021】
前記苗植作業中において、苗植装置2はフロート20の土壌面滑走による耕盤深さを検出の深さセンサーを有するため、機体の車輪11が耕盤の深いと所を走行すると、前記リフトシリンダ14の伸出によって車体1に対する苗植装置2が高位置に上昇支持される形態となる。従って、このように苗植装置2が高位置に上昇されたときは深い耕盤土壌の走行条件位置として、この苗植装置2が一定以上の位置に上昇したときには、ブザー、乃至ランプ28を発信させるように構成することもできる。この形態では、苗植機が圃場の耕盤の深いと所に入る前に警報することによって、走行の安全を図るものである。
【0022】
次に、主として図3に基づいて、前記苗植装置の走行伝動装置として、HST(油圧無断変速装置)を用いた形態では、圃場の条件により、HSTレバーの中立位置への自動戻りが発生し易いため、この対応策としてスプリング荷重を大きくしたが、レバー荷重も大きくなって操作性が低下する。そこで、HSTトラ二オン軸30のアーム31のスプリング32荷重を、電動モータ33によって回動アーム34を駆動して、スプリング32のトラニオンアーム31の戻り回動圧力を自動的に調整するように構成したものである。35は係合ロールで、トラニオンアーム31の回りに形成のラック36に係合して、適宜角度位置に移動調節することができる。このような、戻りスプリング32のモータ33による荷重調整を、苗植作用時の植付クラッチ5の入りのときのみ作動して、スプリング32の荷重を高くするように構成し、副変速レバーが「PTO」位置や、「移動速」位置では、HSTレバーの自動戻りが少ないためにモータ33による調整は行わせないようにする。
【0023】
又、前記HSTレバー31にセンサーを設けて、手でグリップを把持しているときはモータ33を電動させないで、手を離したとき二モータ33を作動させることができるように構成して、フィーリングを良好に維持する形態とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】苗植機の旋回制御部のブロック図。
【図2】その苗植機の側面図。
【図3】そのHSTにおけるトラニオン軸部の正面図。
【符号の説明】
【0025】
1 車体
2 苗植装置
3 GPS
4 スタリングハンドル
5 植付クラッチ
6 操向ブレーキ
7 GPSターンスイッチ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステアリングハンドル(4)の操向により、車体(1)に対して苗植装置(2)を上昇すると共に、植付クラッチ(5)を切りにして走行旋回する苗植機において、この折返し走行旋回位置をGPS(3)から入力することによって、前記苗植装置(2)を下降して植付クラッチ(5)を入りにする苗植制御装置を設けたことを特徴とする苗植機。
【請求項2】
前記GPS(3)による走行旋回位置を入力することによって、苗植装置(2)を下降し、植付クラッチ(5)を入りにするGPSターンスイッチ(7)を設けたことを特徴とする請求項1に記載の苗植機。
【請求項3】
前記車体(1)の操向ブレーキ(6)を制動することによって、又は、走行旋回操作によるステアリングハンドル(4)の操向回動の戻りによって、前記GPSターンモードを実行可能に設けた苗植制御装置としたことを特徴とする請求項1、又は2に記載の苗植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−284795(P2009−284795A)
【公開日】平成21年12月10日(2009.12.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−139645(P2008−139645)
【出願日】平成20年5月28日(2008.5.28)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】