説明

苗移植機

【課題】 本発明の課題は、機体の進行に逆らわずに、しかも軽量で、安定して甘藷苗等を土中に深く植え付けることができる苗移植機を提供することである。
【解決手段】 原動機(9)で走行する機体上に苗供給装置(4)を備えた苗移植機において、該苗供給装置(4)は、該苗供給装置(4)に原動機(9)からの駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、該駆動力伝達機構により上方から圃場上に向けて苗の前後の向きを同じにして苗を搬送する搬送部を備えた無端帯(42)と、クランク軸(60)の回転により往復運動する植付杆(5)とを備え、該植付杆(5)が無端帯(42)で移送された苗の一部分を圃場内に押さえ込んで植付ける構成としたことを特徴とする苗移植機とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば甘藷等のつる苗を移植するための苗移植機の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来の甘藷苗植込み装置は上下に長い非円形の軌道で旋回する植え込み爪を備え、植え込み爪が前記軌道で圃場に突入する際に、その先端に挟み込まれた苗が植え込まれるようにした苗移植機である(特許文献1参照)。
【0003】
また、特開平6−125622号公報に記載された従来の甘藷苗植込み移植機は回転ドラム式の植込み装置であり、苗の前後の向きを大きく変化させながら苗を植付位置へ供給して植え込むものであった(特許文献2参照。)。
【特許文献1】特開平8−89030号公報
【特許文献2】特開平6−125622号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載された苗植え込み装置は、機体の進行方向後方へ向けて圃場内に浅く斜めに苗を植え付けるものであり、機体の進行方向とは逆方向に苗を植え付けるため、苗を土中に深く植え付けられないおそれがある。
【0005】
また、特許文献2に記載された甘藷苗植込み装置は苗の前後の向きを大きく変化させながら苗を植付位置へ供給するので、苗の供給姿勢が安定しなくなるおそれがある。
本発明の課題は、機体の進行に逆らわずに、しかも軽量で、安定して甘藷苗等を土中に深く植え付けることができる苗移植機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、次のような技術的手段を講じた。
すなわち、原動機(9)で走行する機体上に苗供給装置(4)を備えた苗移植機において、該苗供給装置(4)は、該苗供給装置(4)に原動機(9)からの駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、該駆動力伝達機構により上方から圃場上に向けて苗の前後の向きを同じにして苗を搬送する搬送部を備えた無端帯(42)と、クランク軸(60)の回転により往復運動する植付杆(5)とを備え、該植付杆(5)が無端帯(42)で移送された苗の一部分を圃場内に押さえ込んで植付ける構成としたことを特徴とする苗移植機とした。
【0007】
従って、植付杆(5)を用いて苗の茎を圃場内に押さえ込むので植え付け精度が高くなる。また植え付け深さ等を調整することで適応性が高くなる。また全体の移植機の重量が重くならないので、操作性が良く、雨天前や小降りの後の軟弱圃場でも素早く植え付けができる。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、移植機の進行方向に前向きに苗を移植することができるので、苗を土中に長く植え付けることができる。また、本発明の移植機は、苗供給装置により苗の姿勢の前後の向きを同じにして苗を搬送するので、植付位置への苗の供給姿勢を安定させることができ、植付不良、植付欠株を防止できる。また、植付駆動機構の簡素化が図れ、また、植付装置の汎用性が向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明の実施の一形態を図面に基づき説明する。
図1、図2はそれぞれ、本発明の実施の形態の苗移植機の一例としての甘藷苗移植機の側面図と平面図である。この苗移植機1は、走行車輪(後輪2、2と前輪3、3)を有する走行部1aによって畝Uを跨いだ状態で機体を進行させながら、苗供給装置4、植付杵5等からなる植付部1bで甘藷の苗を畝Uの上面に植付ける構成となっている。作業者は、機体後方に設けた操縦ハンドル6で適宜機体を操向操作すると共に、植付作業時には機体側方を歩きながら苗供給装置4へ苗を補給する。以下、各部の構成について説明する。
【0010】
まず、走行部1aについて説明する。
走行部ミッションケース7の前側にエンジン9が配置されている。エンジン9の左側面部には該エンジン9の動力で駆動する油圧ポンプ10が設けられている。また、エンジン9の上側には燃料タンク11等が設けられ、その上側をボンネット12が覆っている。走行部ミッションケース7の背面部に側面視長方形の左右に長い連結フレーム13が一体に設けられており、この連結フレーム13の背面右端部に走行部1aと操縦ハンドル6をつなぐメインフレーム14の前端部が固着連結されている。
【0011】
メインフレーム14は、植付部1bの平面視右側を通って後方に延び、途中で斜め上向きに湾曲し、そのまま植付部1bの後方位置まで延びている。そして、その後端部に操縦ハンドル6が固着して取り付けられている。
【0012】
走行部ミッションケース7の左右側面から突出する回動筒部15、15に走行伝動ケース16、16が一体に取り付けられ、その走行伝動ケース16、16の先端部に駆動走行車輪である後輪2、2が軸支されている。また、エンジン9の下側に前後方向のピボット軸17aを中心に揺動自在に設けた前輪支持フレーム17の左右両端部に前輪支持ロッド18、18が高さ調節可能に取り付けられ、該ロッド18、18の下端部に従動走行車輪である前輪3、3が軸支されている。
【0013】
走行部1aには機体に対し後輪2、2を上下動させて機体位置を制御する機体制御機構が設けられている。この機体制御機構は、走行部ミッションケース7の上に配置した油圧バルブユニット20から後方に向けて昇降シリンダ21が設けられ、該シリンダ21のピストンロッド21aの先端部に天秤杆22が上下方向の軸まわりに回動自在に取り付けられている。ピストンロッド21aは、前後両端が油圧バルブユニット20とメインフレーム14に取り付けた取付部材23とに支持されたガイド軸24に沿って摺動するようになっている。天秤杆22の左右両端部と、回動筒部15、15に固着したスイングアーム25、25とが、連結ロッド26、26を介して連結されている。左側の連結ロッド26には、ローリングシリンダ27が組み込まれており、該シリンダ27を伸縮作動させることにより長さを変えられるようになっている。
【0014】
昇降シリンダ21及びローリングシリンダ27は、前記油圧ポンプ10から供給される作動油を油圧バルブユニット20内の制御バルブ(図示せず)で制御して作動させられる。昇降シリンダ21を伸縮作動させると、天秤杆22が前後し、スイングアーム25が昇降シリンダ21と連結されているので、天秤杆22の前後動作に連動して上下動して、これと一体の左右の後輪2、2が同方向に同量だけ機体に対し上下動し、機体が昇降する。また、ローリングシリンダ27を伸縮作動させると、左右の後輪2、2が逆方向に同量だけ機体に対し上下動し、機体が左右に傾斜する。
【0015】
畝に接地する接地プレート28の回動始点を機体に対して上下調節して苗の植付深さを変更するために植付深さ調節レバー40を設けている。
次に植付部1bの構成を説明する。
【0016】
連結フレーム13の上面に走行部ミッションケース7からエンジン動力が伝動される植付部ミッションケース30の下部が固着され、該植付部ミッションケース30の上部にはクランク軸32(図3)を介して供給ベルト伝動ケース31が固着されている。そして、供給ベルト伝動ケース31には後述する苗供給装置4への動力伝動用の歯車機構を設けている。またクランク軸32には植込杆5の上端部が固着されている。
【0017】
また、植付部ミッションケース30に基部を固着した上部フレーム34には苗載台41が載置され、苗載台41は苗供給装置4に隣接配置されている。
苗供給装置4は図3の斜視図に示すような構成を有し、断面略三角形の無端帯状の苗供給帯ベルト42からなる。該苗供給ベルト42は、その幅方向に伸びる板材43で各供給苗を区分けして搬送できる構成を備えており、各断面略三角形の各頂点部分には幅広のローラ44が配置されている。これらのローラ44の中で供給ベルト伝動ケース31に一番近いローラ44が供給ベルト伝動ケース31内の動力伝動用の歯車機構(図示せず)により駆動されることで、苗供給ベルト42が苗を図3の矢印A方向に搬送する。一対のローラ支持部材45a、45bがT字状に苗供給ベルト42の両側に取り付けられるが、苗供給ベルト42が上方から下方にほぼ鉛直状に降下する部分には苗供給ベルト42に対向した箇所に苗が苗供給ベルト上42の搬送領域からはみ出さないようにするための板材46が配置される。該板材46は植付部ミッションケース30に支持される。
【0018】
植込杆5はエンジン9の回転駆動力が伝達されるクランク軸32に固着しており、クランク軸32の回転が植込杆5の矢印B(図1)方向への往復運動に変換される。植込杆5の中間部がメインフレーム14に遊嵌された筒材48内を移動することで、その先端部は圃場上又は圃場内を矢印X(図1)に示す軌跡で往復運動をする。
【0019】
また、図1、図2に示すように、苗植付位置の後方には、各植付部に左右一対の鎮圧輪80、80が設けられている。この鎮圧輪80、80は、下部ほど互いの間隔が狭くなるように斜めに取り付けられ、植付部1b自体の重みで下向きに付勢されており、機体の進行に伴って畝面を転動し、苗が植付けられた後の苗移植穴の周囲の土を崩落させて穴を埋め戻すと共に、その跡を軽く鎮圧するようになっている。
【0020】
また、鎮圧輪80、80は植付装置4の支持フレームに端部が上下に揺動自在に支持された揺動フレーム87の後端部に取り付けられている。畝面の凹凸に応じて鎮圧輪80、80が機体に対し上下動すると、その鎮圧輪80、80の上下動により接地プレート28が畝の上面を検出して感知リンク機構29を介して油圧バルブユニット20内の昇降用油圧バルブ(図示せず)に伝えられ、揺動フレーム87の角度が元に戻る方向に昇降シリンダ21を作動させる。これにより、畝の上面から機体までの高さを一定に維持するように機体を昇降制御する。なお、鎮圧輪80、80のみが上下動しても、機体は昇降制御されないようになっている。
【0021】
また、図2に示すように平面視において、植付部ミッションケース30は、連結フレーム13の右端部(移植機の進行方向に向かって右側。以下、すべて右側、左側は移植機の進行方向に向かう側部をいう。)に固着されており、昇降シリンダ21と天秤杆22と右側の連結ロッド26の間に形成される機体制御機構の右側空間部を通って上方に延びている。また植付部ミッションケース30の後側には苗載台41が配置されている。
【0022】
そして、供給ベルト伝動ケース31は植付部ミッションケース30の左側、植付装置4は供給ベルト伝動ケース31の左側に配置されている。
また、植付部ミッションケース30、供給ベルト伝動ケース31及び苗載置台41を左右に振り分けて配置することにより、左右の重量バランスが良好となる。
【0023】
植込杆5の先端部は圃場上又は圃場内を矢印Xに示す軌跡で往復運動をするが、図4に示すように、圃場上に供給ベルト42から供給された甘藷苗の茎の先端部が植込杆5により圃場内に埋め込まれるように押しつけられる。
【0024】
上記苗移植機で苗供給装置4と植付杆5を含む苗植付部1bは苗移植機本体に対して前後方向に傾斜可能な構造にする。
すなわち、植付部ミッションケース30に対して供給ベルト伝動ケース31が、クランク軸32を備えるクランクアームの回動中心回りに揺動して前後に傾斜する。
【0025】
こうして苗移植機の走行部1aが前後傾斜したり、畝の高さが変わったりしても、苗植付部1bは圃場面に対して常に一定の傾斜角度を保つことができ、植付杆5が圃場内に苗を押し込むことができるので、苗の植え付けが確実になり、植え付けの失敗が無くなる。
【0026】
また、図5に移植機の側面図、図6にその植付装置部分の拡大図を示すように植付装置4は図1、図2のベルトに代えて一対の苗供給チェーン51、51を用いて、該チェーン51、51に複数の苗供給カップ52を橋渡し状に固定する構成にしても良い。各苗供給カップ52は甘藷苗を載置できる大きさとして、その底面の一部に貫通孔52aを設けておく。前記貫通孔52a部分に苗の茎側を載置しておき、カップ52の側面52bにスポンジ58を介して仮固定する。そして、苗供給カップ52が圃場上に移送されると前記貫通孔52a部分から苗が圃場上に降ろされる。圃場上の苗は植付杆5の先端のへら5aで圃場内に茎を押しつけることで植え付けられる。
【0027】
苗供給チェーン51、51はエンジン動力が伝動される植付部ミッションケース30から、第二中間チェーンケース56を経て該第二中間チェーンケース56から突出する駆動スプロケット57、伝動チェーン54、従動スプロケット55を介して第一中間伝動ケース53へ伝動され、該第一中間伝動ケース53内のベベルギヤ機構を介してスプロケット58へ伝達され、駆動される。
【0028】
また、植付杵5は、植付部ミッションケース30から第二中間チェーンケース56を介して伝動ケース59へ伝動され、該伝動ケース59から突出するクランクアームのクランク軸60を介して動力が伝達される。そのため、植付杆5の先端部は図5の矢印Xで示す軌跡で動くことができる。なお、植付杆5の上端部は苗供給チェーン51、51の支持部材62に設けられた揺動中心支持具63で揺動自在に支持される。また、供給チェーン伝動ケース59もアーム64を介して支持部材62に支持される。
【0029】
苗供給チェーン51、51は一対が取り付けられるが、苗供給チェーン51、51が上方から下方にほぼ鉛直状に降下する部分には苗供給チェーン51、51に対向した箇所に苗が苗供給チェーン51、51の搬送領域からはみ出さないようにするための板材66が配置されるが、該板材66は植付部ミッションケース30を介して支持部材62に支持される。
【0030】
植込杆5はエンジン9の回転駆動力が伝達されるクランク軸60の回転により植込杆5の矢印B(図5)方向への往復運動に変換される。植込杆5の中間部はメインフレーム14に遊嵌された筒材(図示せず)内を移動することで、その先端部は圃場上又は圃場内を矢印X(図5)に示す軌跡で往復運動をする。
【0031】
この苗供給カップ52を用いる構成により、圃場面の凹凸、局所的な傾斜などの状態により苗の姿勢が不適正になることなく植え付けることができる。
また、供給チェーン伝動ケース59と植付杆5とクランク軸60などからなるその駆動部材を苗供給装置4内に設けることで、苗移植機のコンパクト化が図れる。
【0032】
また、第一中間伝動ケース53内の歯車機構の歯車の組み合わせを図7に示すような欠歯ギア70と普通のギア71の組み合わせを用いて苗供給装置4側へ動力伝達させた構成にすることで、苗供給装置4を停止させたまま植付杆5を駆動させることができる。この場合には苗供給装置4が停止中に植付杆5が圃場内に苗を押し込むことができるので、苗の植え付けが確実になり、植え付けの失敗が無くなる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の実施の形態の苗移植機の側面図である。
【図2】図1の苗移植機の平面図である。
【図3】図1の苗移植機の苗供給装置部分の斜視図である。
【図4】本発明の実施の形態の苗移植機で圃場に植え付けられた甘藷苗の側面図である。
【図5】本発明の実施の形態の苗移植機の側面図である。
【図6】図5の苗移植機の苗供給装置部分の斜視図である。
【図7】図5の苗移植機の苗供給装置部分の第一中間伝動ケース内の歯車機構の歯車の組み合わせの例を示す図である。
【符号の説明】
【0034】
1:苗移植機、4:苗供給装置、5:植付杆、9:エンジン、42:無端帯、60:クランク軸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
原動機(9)で走行する機体上に苗供給装置(4)を備えた苗移植機において、該苗供給装置(4)は、該苗供給装置(4)に原動機(9)からの駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、該駆動力伝達機構により上方から圃場上に向けて苗の前後の向きを同じにして苗を搬送する搬送部を備えた無端帯(42)と、クランク軸(60)の回転により往復運動する植付杆(5)とを備え、該植付杆(5)が無端帯(42)で移送された苗の一部分を圃場内に押さえ込んで植付ける構成としたことを特徴とする苗移植機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2008−200055(P2008−200055A)
【公開日】平成20年9月4日(2008.9.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−143981(P2008−143981)
【出願日】平成20年5月31日(2008.5.31)
【分割の表示】特願2001−147521(P2001−147521)の分割
【原出願日】平成13年5月17日(2001.5.17)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】