説明

茹で中華麺類の製造方法

【課題】通常より高い茹で歩留りに茹で上げたことで、1食当たりのカロリーが低減されており、且つ高歩留りまで茹で上げられていても、本来の麺らしさを保持している、すなわち外観・食感・滑らかさに優れる茹で中華麺類を提供すること。
【解決手段】製麺原料として、小麦グルテン20〜40質量%(乾物換算)、リン酸架橋澱粉40〜80質量%及び小麦粉0〜40質量%を用いて製麺し、得られた生麺線を茹で上げて、茹で歩留り300〜530%となるように調整して茹で中華麺類を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特定の製麺原料を特定割合で用いることにより、300〜530%という高歩留りまで茹で上げても、外観・食感・滑らかさに優れる茹で中華麺類が得られる茹で中華麺類の製造方法、及び該製造方法により得られた茹で中華麺類に関する。本発明は、特に、比較的麺線が細く茹で歩留りを高くしにくく、且つ茹で伸びしやすい中華麺類に効果的に適用することができる。そして、例えば、本発明において茹で中華麺類の歩留りを300〜330%にすることにより、1食当たりのカロリーを約30%またはそれ以上カットすることができ、また、歩留りを420〜530%にすることにより、1食当たりのカロリーを約50%またはそれ以上カットすることが可能である。
【背景技術】
【0002】
近年の健康志向やダイエットーブームに伴い、様々な食品分野において低カロリー化された商品が求められている。麺類についても低カロリー化が求められている。
【0003】
低カロリー麺類を提供することを目的として、特許文献1には、レジスタントスターチを含む澱粉とグリアジンを配合することが提案されている。しかし、この方法で得られる麺類では食感や風味の点で本来の麺類とは異なるだけでなく、カロリーのカット率も20%程度かそれ未満であり、低カロリー麺類としては十分とはいえない。同様に低カロリー麺類を提供することを目的として、特許文献2には、ハイドロコロイドを形成し保水力のある多糖類としてのグルコマンナンと、高粘性を呈する水溶液または水分散性多糖類(具体的には各種ガム類等の増粘剤)を配合して、高歩留りまで茹でることが提案されている。高歩留りまで茹でれば低カロリー化は実現できるが、特許文献2に記載の成分を使用すると、食感や風味が本来の麺類とは異なったものになってしまう。
【0004】
一方、特許文献3には、長期間保存可能な麺類を製造するために、製麺原料として、小麦粉10〜40重量%、エーテル化澱粉及び/またはリン酸架橋エーテル化澱粉45〜70重量%、凍結乾燥または真空乾燥したグルテン5〜20重量%を用いて製麺し、得られた麺線を茹でる工程、茹でた該麺線を包装した後、加熱殺菌処理を施す工程を含む方法が提案されている。しかしながら、特許文献3に記載の方法は、対象とする麺類は麺線が太いうどんであり、麺線が細い中華麺については全く記載されておらず、またうどんの茹で歩留りも通常と同程度であり、この文献には中華麺を300〜530%という高歩留りとすることは何ら示唆されていない。仮にこの方法で中華麺を製造して高歩留りまで茹で上げた場合、食感や製麺時の作業性などの点で問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平10−262589号公報
【特許文献2】特開2004−357571号公報
【特許文献3】特開2004−073183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、通常より高い茹で歩留りに茹で上げたことで、1食当たりのカロリーが低減されており、且つ高歩留りまで茹で上げられていても、本来の麺らしさを保持している、すなわち外観・食感・滑らかさに優れる茹で中華麺類を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、製麺原料として、小麦グルテン20〜40質量%(乾物換算)、リン酸架橋澱粉40〜80質量%及び小麦粉0〜40質量%を用いて製麺し、得られた生麺線を茹で上げて、茹で歩留り300〜530%となるように調整することを特徴とする茹で中華麺類の製造方法を提供することにより、上記目的を達成したものである。
また、本発明は、上記製造方法により得られた茹で中華麺類を提供することにより、上記目的を達成したものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、通常より高い茹で歩留りに茹で上げたことで、1食当たりのカロリーが低減されており、且つ高歩留りまで茹で上げられていても、本来の麺らしさを保持している、すなわち外観・食感・滑らかさに優れる茹で中華麺類を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の茹で中華麺類の製造方法においては、製麺原料として小麦グルテンを20〜40質量%(乾物換算)配合するが、好ましくは25〜40質量%、より好ましくは25〜35質量%である。ここで用いる小麦グルテンとしては、ウェットグルテン、粉末状グルテン(バイタルグルテン)のいずれも用いることができる。小麦グルテンの量が20質量%未満であると生地のつながりが悪くなり、通常より高い歩留りまで茹で上げると外観・食感・滑らかさに優れる茹で中華麺類が得られず、40質量%を超えると製造時の作業性が低下し、また、粘弾性のバランスが崩れ、硬く、ゴワゴワして脆い食感となる。なお、ウェットグルテンを用いる場合には、乾物換算してその配合量を決定するとともに、含有水分量を後述する製麺時の加水量から差し引く等、実際に添加する水の量を調節する必要がある。
【0010】
また、本発明の茹で中華麺類の製造方法においては、製麺原料としてリン酸架橋澱粉を40〜80質量%、好ましくは45〜75質量%配合する。リン酸架橋澱粉としては、特に限定されないが、リン酸架橋馬鈴薯澱粉及び/又はリン酸架橋タピオカ澱粉が好ましい。リン酸架橋澱粉の量が40質量%未満であると硬い食感となり、滑らかさも低下し、80質量%を超えると脆く軟らかい食感となってしまう。リン酸架橋澱粉としては、さらに化工処理を施したリン酸架橋澱粉、具体的には、エステル化リン酸架橋澱粉(例えばアセチル化リン酸架橋澱粉)、エーテル化リン酸架橋澱粉(例えばヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)などを使用することもできる。また、リン酸架橋澱粉としては、リン酸架橋馬鈴薯澱粉及びリン酸架橋タピオカ澱粉のほかに、リン酸架橋小麦澱粉、リン酸架橋コーンスターチなどを使用することもできる。
【0011】
また、本発明の茹で中華麺類の製造方法においては、製麺原料として小麦粉を0〜40質量%配合する。小麦粉は必ずしも配合する必要はないが、配合する場合には10〜40質量%が好ましく、10〜30質量%がさらに好ましい。小麦粉としては特に限定されないが、中力粉、強力粉が好ましい。小麦粉の量が40質量%を超えると通常より高い歩留りまで茹で上げた際に茹で溶けや麺の表面の崩れが生じ、軟らかく粘弾性がなく、水っぽく非常に不自然な食感となってしまう。
【0012】
本発明の茹で中華麺類の製造方法においては、製麺原料として、小麦グルテン及びリン酸架橋澱粉、必要に応じて小麦粉をそれぞれ別個に用いてもよいが、これらの製麺原料を含む組成物、すなわち小麦グルテン20〜40質量%(乾物換算)、リン酸架橋澱粉20〜80質量%及び小麦粉0〜40質量%を含む組成物をあらかじめ調製して用いてもよい。
【0013】
また、本発明の茹で中華麺類の製造方法においては、製麺原料として、上記の小麦グルテン、リン酸架橋澱粉及び必要に応じて用いられる小麦粉に加えて、さらに、本発明の効果を損なわない範囲で、小麦粉以外の穀粉類、例えば大麦粉、そば粉、米粉、ライ麦粉、ライ小麦粉、コーンフラワー、大豆粉などや、リン酸架橋澱粉以外の澱粉類を配合してもよい。該澱粉類としては、例えば、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、小麦澱粉、米澱粉などの澱粉、及びこれらにα化、エーテル化、エステル化、酸化処理などの処理を施した化工澱粉などが挙げられる。これらの穀粉類や澱粉類を配合する場合、その配合量は、製麺原料中で10質量%未満であることが好ましい。
【0014】
また、本発明の茹で中華麺類の製造方法においては、副資材として、かんすいを添加する。かんすいとしては、粉末状(かん粉)でも液状でもよく、市販品を適宜用いることができる。また、かんすいの配合量は、通常の範囲であればよく、特に制限されるものではないが、一般には、製麺原料(小麦グルテン、リン酸架橋澱粉、ならびに必要に応じて用いられる小麦粉、小麦粉以外の穀粉類及びリン酸架橋澱粉以外の澱粉類)の合計100質量部に対して0.1〜2.0質量部の範囲が好ましい。さらにその他の副資材として、食塩;卵白粉、全卵粉などの卵粉;キサンタンガム、グァーガム、ローカストビーンガム、アルギン酸類、寒天、ゼラチン、ペクチンなどの増粘剤;油脂類;エチルアルコールなどを配合することもできる。これらのその他の副資材の配合量は、その使用目的等に応じて適宜選択すればよく、特に制限されるものではないが、本発明の効果を損なわないようにする観点からは、製麺原料の合計100質量部に対し、10質量部未満の範囲とすることが好ましい。
【0015】
本発明の茹で中華麺類の製造方法では、まず、上述の製麺原料に、水、かんすい及び必要に応じてその他の副資材を加えた後にミキシングして生地を得る。加水量は、製麺原料の合計100質量部に対して、好ましくは30〜50質量部、さらに好ましくは35〜45質量部の範囲である。加水量が30質量部未満であると生地が硬く作業性が低下することがあり、50質量部を超えると生地がべたつき、また弱くなる可能性がある。ミキシングは、常法に従って、常圧下または減圧下で行えばよいが、ミキシング時間は、通常は5〜20分間程度である。このように得られた生地から、常法に従って、例えば圧延・麺線切り出し法、麺線押出法により製麺すればよいが、製麺時の作業性や茹で処理後の中華麺類の食感などから、圧延・麺線切り出し法が好ましい。製麺された生麺線の太さは特に制限されるものではないが、一般に中華麺類の場合、生麺線の太さは1.0〜2.0mmの範囲である。通常、中華麺類のような比較的細い麺線は茹で歩留りを高くすることができないが、本発明によれば、例えば太さは1.0〜2.0mmの細い麺線であっても、茹で歩留りを高くすることが可能であり、しかも、高歩留りまで茹で上げても、本来の麺らしさを保持することができる。
【0016】
次いで、得られた生麺を、常法に従って茹で処理を行い、茹で歩留りを調整する。通常、茹で中華麺類の茹で歩留りは、210〜240%である。本発明の茹で中華麺類における茹で歩留りは、麺類の種類、麺線の太さ等により異なるが、300〜530%、好ましくは350〜530%、より好ましくは420〜530%の範囲である。このような茹で歩留り調整することで、麺自体のカロリーを約30%以上、好ましくは約40%以上、より好ましくは50%以上カット(低減)することができる。なお、本発明における茹で歩留りとは、小麦グルテン、リン酸架橋澱粉、小麦粉ならびにその他の穀粉類及び澱粉類からなる製麺原料の合計100質量部に対して、これを用いて得られた生麺の茹で処理後の茹で中華麺類の質量の割合を意味する。すなわち、下記式により算出される。
茹で歩留り(%)=(茹で麺の質量/生麺の質量)×(製麺原料の質量+加水量+副資材の質量)
ここで、(製麺原料の質量+加水量+副資材の質量)は、製麺原料の質量を100質量部としたときの加水量(質量部)及び副資材の質量(質量部)を算出し、それらの和とする。
【0017】
本発明において、茹で歩留りが300%未満であると、硬すぎる食感となり、また所望の1食当たりのカロリーのカット(低減)率が達成されず、また530%を超えると、外観が茹で溶けにより崩れ、食感が軟らかく水っぽいものとなり、またホグレが悪化するなどの問題も生じる。
【0018】
茹で歩留りを上記範囲に調整する手段としては、通常は当該範囲まで茹で上げる方法が挙げられるが、茹で処理の前に、蒸し工程処理した後、茹で上げる方法、茹で処理を途中で止め、そのまま茹で湯中に放置する方法、あるいは茹で処理を途中で止めた後、スープ類中で再度、麺類を茹でる方法でも良い。
【0019】
本発明の茹で中華麺類の製造方法で製造された茹で中華麺類は、茹で上げてすぐに喫食に供するか、冷蔵もしくはチルド状態の茹で麺として、または冷凍麺の形態で流通・販売することが好ましいが、茹で中華麺類に殺菌処理などの所定の処理を施し、常温品として流通・販売してもよい。
【実施例】
【0020】
本発明を具体的に説明するために実施例を挙げるが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0021】
〔実施例1〜8及び比較例1〜8〕
小麦グルテン、リン酸架橋澱粉などの化工澱粉及び小麦粉を表1に示す配合割合で含有する製麺原料をそれぞれ調製した。製麺原料100質量部、乾燥卵白1質量部、アルギン酸0.5質量部を試験用ミキサー(新東京麺機株式会社製)に投入し、次いで、予め増粘剤(キサンタンガム)0.3質量部、95%アルコール2質量部、かん粉1.0質量部及び食塩0.5質量部を水36質量部に溶かした溶液を加えて、減圧下(−700mmHg)で10分間混合ミキシングを行い、そぼろ状の中華麺生地をそれぞれ得た。
得られた生地を、常法に従ってまとめ、複合及び圧延を行って最終麺帯厚を1.3mmとした後、切り刃#26角刃で切り出し、生麺線を得た。得られた生麺線を一晩熟成した後、十分量の沸騰水中で茹で歩留りが表1に示す値となるように茹で上げた。
茹で上げた麺をラーメンスープの入った容器に入れ、中華麺の外観、食感及び滑らかさについて表2に示す評価基準表に従ってパネラー10人で評価した。その評価の平均点を表1に示す。なお、カロリーカット(低減)率は、茹で歩留り230%の茹で中華麺を対照とし、対照に対する同質量の茹で中華麺のカロリーの低減率として示す。
【0022】
【表1】

【0023】
【表2】

【0024】
比較例1(小麦粉100質量部、茹で歩留り230%)が通常品である。通常品と同様の配合で、カロリーを低減すべく茹で歩留りを高くすると、食感等の評価結果は極めて劣る(比較例2)。通常品から小麦粉の一部を小麦グルテンに置き換えると、食感等に改善傾向は認められるが、全く不十分である(比較例3、7)。
これに対し、小麦グルテン、リン酸架橋澱粉及び小麦粉を特定比率で使用すると、茹で歩留りを高くしても、良好な外観、食感及び滑らかさを保つことができる(実施例1〜8)。この効果は、小麦グルテン、リン酸架橋澱粉及び小麦粉の比率を本発明に係る特定範囲内としなければ奏させることができない(比較例4、6、8)。また、実施例1、2と比較例5との対比からは、リン酸架橋澱粉ではなくアセチル化澱粉を使用した場合は、茹で歩留りを高く茹で上げると、評価結果全体、特に食感が劣ることが分かる。
【0025】
〔実施例9〜11及び比較例9〜10〕
実施例1で用いたものと同じ小麦グルテン、リン酸架橋馬鈴薯澱粉及び小麦粉を表3に示す配合割合で含有する製麺原料をそれぞれ調製した。次いで、実施例1と同様にして生中華麺を製造して一晩熟成した後、十分量の沸騰水中で茹で歩留りが表3に示す値となるように茹で上げた。
茹で上げた麺をラーメンスープの入った容器に入れ、中華麺の外観、食感及び滑らかさについて表2に示す評価基準表に従ってパネラー10人で評価した。その評価の平均点を表3に示す。
【0026】
【表3】

【0027】
小麦グルテン、リン酸架橋澱粉及び小麦粉を特定比率で使用し、且つ茹で歩留りを本発明の範囲において高くすると、良好な外観、食感及び滑らかさを保ちながら、所望のカロリーカット(低減)率を達成することができる(実施例9〜11)。
しかし、茹で歩留りが本発明の範囲よりも低いと、十分なカロリーカット率が得られないだけでなく、食感および滑らかさもやや劣るようになる(比較例9)。一方、茹で歩留りが本発明の範囲よりも高いと、高いカロリーカット率は得られるものの、外観、食感及び滑らかさにおいて劣るようになる(比較例10)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
製麺原料として、小麦グルテン20〜40質量%(乾物換算)、リン酸架橋澱粉40〜80質量%及び小麦粉0〜40質量%を用いて製麺し、得られた生麺線を茹で上げて、茹で歩留り300〜530%となるように調整することを特徴とする茹で中華麺類の製造方法。
【請求項2】
上記リン酸架橋澱粉として、リン酸架橋馬鈴薯澱粉及び/又はリン酸架橋タピオカ澱粉を用いる請求項1記載の茹で中華麺類の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の製造方法により得られた茹で中華麺類。