説明

茹麺類の製造方法

【課題】100℃を越える加圧環境下の茹水で麺類を茹上げる茹麺類の製造において、茹麺の食感に粘弾性を付与しながら、茹上げ装置の耐圧構造部分を茹工程の一部に設置することで太麺類の量産設備であっても設置費用及び管理負担を最小限に止めることができる実用化が可能な茹麺類の製造方法を提供すること。
【解決手段】麺原料を混練した麺生地から麺線を調製する製麺工程、製麺工程で得られた麺線を大気圧下90℃以上の茹水で茹でる低温茹工程、低温茹工程に続いて、100℃を越える加圧環境下の茹水で茹上げる高温茹工程、高温茹工程に続いて、茹上げた麺線を冷却する冷却工程を備えた茹麺類の製造方法において、90℃以上の茹水に浸漬されている総茹時間を4分以上とし、大気圧下における茹時間を前記総茹時間の90〜50%とし、加圧環境下における茹上げ時間を前記総茹時間の10〜50%とし、加圧環境下の茹水の最高温度を110〜140℃とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、うどん、スパゲッティ、マカロニ等の茹麺類の製造方法に関し、詳しくは、100℃を超える温度の茹水で茹上げる茹麺類の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
麺類を100℃を超える加圧環境下の茹水で茹上げる方法は、澱粉のアルファー化を促進させることで麺の食感に重要な粘弾性を高める手段として従来から注目されてきた。しかし、量産する場合には、長大な加圧茹釜の製作費用や管理負担などの課題があり、茹麺業界において加圧高温茹上げ方法は普及していない。
【0003】
従来、麺の肌が荒れるなどの品質上の課題を解決するために、生麺類を加圧環境下でかつ100℃を超える温度の水で茹上げる方法において、真空度600mmHg以下の減圧環境下で混練された生麺類を茹上げる方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。また、生麺類を加圧環境下でかつ100℃を超える温度の水で茹上げる方法において、茹上げたときの麺の水分含量を55〜68重量%とする方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。更に、加圧環境下の茹水中で生麺を茹でる際、高圧エアーによる追加圧力によって沸騰を抑えることで肌荒れを防止する方法が知られている(例えば、特許文献3参照)。
【0004】
麺類を加圧環境下で、かつ100℃を超える温度の茹水で茹上げる装置は、大きくバッチ式装置と連続式装置に分けられ、量産に適するのは連続式装置である。連続式装置には、パイプ内の茹水と共に生麺を一定時間流すことで茹上げる装置(例えば、特許文献4参照)や、無端チェーンに取り付けられた蓋付きの茹篭に生麺を収容し茹水中を搬送する装置(例えば、特許文献5参照)や、複数の茹篭を直列に並べ茹水中の生麺を一定時間ごとに順次隣の茹篭へ移し替えることで茹上げる装置(例えば、特許文献6及び7参照)が知られている。とりわけ、特許文献7には、大気圧下で、生麺の付着防止を目的とした攪拌専用の茹篭を複数設けてもよい旨の記載がある。
【特許文献1】特開昭60―176554号公報
【特許文献2】特開平3―195466号公報
【特許文献3】特開2006―34176号公報
【特許文献4】特開平5―317180号公報
【特許文献5】特開昭60―232115号公報
【特許文献6】特開平6―253761号公報
【特許文献7】特開平10―179069号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、前記した麺類を加圧環境下で、かつ100℃を超える温度の茹水で茹上げる方法、例えば減圧環境下で混練された麺を茹上げる方法(特開昭60―176554)や、茹上げたときの麺の水分含量を低く抑える方法(特開平3―195466)、さらには追加圧力によって沸騰を抑える方法(特開2006―34176)では、品質上の課題を解決できるものの、量産に適した方法の提案には至っていない。
【0006】
一方、前記した麺類を加圧環境下で、かつ100℃を超える温度の茹水で茹上げる装置、例えばパイプ内の茹水と共に生麺を一定時間流すことで茹上げる装置(特開平5―317180)では、茹工程の通過を周囲の水流に任せているために、茹時間が不安定となる問題がある。また、無端チェーンに取り付けられた蓋付きの茹篭に生麺を収容し茹水中を搬送する装置(特開昭60―232115)では、加圧圧力が水頭圧であるために得られる温度に制約があり、かつ高温環境を通過する時間帯を茹時間全体の概ね中央に位置せざるを得ない制約がある。その点、複数の茹篭を直列に並べ茹水中の生麺を一定時間ごとに順次隣の茹篭へ移し替えることで茹上げる装置(特開平6―253761、特開平10―179069など)では、茹時間を正確に、かつ加圧高温環境の時間帯を自由に設定できるが、茹時間を長く要するうどん用の茹釜で量産化を進めると、茹釜のサイズが長大となり、この茹釜が密閉度や耐圧強度を要する圧力容器であるために製作費用や管理負担が大きくなり、極めて不経済である。
【0007】
本発明の課題は、100℃を越える加圧環境下の茹水で麺類を茹上げる茹麺類の製造方法において、茹麺の食感に粘弾性を付与しながら、茹上げ装置の耐圧構造部分を茹工程の一部に設置することで太麺類の量産設備であっても設置費用及び管理負担を最小限に止めることができる実用化が可能な茹麺類の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するため、加圧環境下の高温熱水で茹る工程を、茹上げ工程の一部とすることができないか加圧釜(図1)による検討を行った。すなわち、茹時間12分の生うどんにおいて、生麺投入後の1分間を大気圧下で攪拌茹でした後、(1)始めから終わりまで加圧可能な密閉状態として生麺投入後の4分〜10分を115℃で茹上げて冷却した試験区(全域115℃)、(2)前半は大気圧下97℃で茹た後、後半を加圧可能な密閉状態として生麺投入後の7分〜10分の間を115℃で茹上げて冷却した試験区(後半115℃)、(3)前半を加圧可能な密閉状態として生麺投入後の4分〜7分を115℃で茹た後、後半を大気圧下97℃で茹上げて冷却した試験区(前半115℃)の各々の茹麺の食味性を比較評価した。また、茹工程の全てを大気圧下98℃で茹上げて冷却したものを対照とした。この温度経過と評価結果を図2及び表1に示す。その結果、(1)の全域115℃の試験区、次いで(2)の後半115℃の試験区の順で食感が優れていた。なお、表1における食味性の評価は、以下の評価基準に基づいて行った。また、水分(%)は、135℃、6時間の乾燥法により測定した。
3点:基準値に比べて優れている
1点:基準値に比べてやや優れている
0点:対照(基準値)
−1点:基準値に比べてやや劣っている
−3点:基準値に比べて劣っている
【0009】
【表1】



【0010】
次に、茹工程の最後だけ加圧環境下の高温熱水で茹上げる方法について、更に高温の茹水で茹上げることで効果的な食感改善が可能ではないかと考え検討を行った。茹時間13分の生うどんについて、生麺投入後1分間を大気圧下で攪拌茹した後、(1)98℃の静かな状態を継続し、生麺投入後の10分〜12分を125〜127℃の高温で茹上げた試験区(最後の2分を125℃)と、(2)茹時間の全域を加圧状態として115〜117℃で茹上げた試験区(全域を115℃)の茹麺の食味性を比較評価した。なお、全域を115℃の試験区では、評価サンプルの水分を合わせるため茹時間を適宜調整した。その結果、(1)の最後の2分を125℃の試験区でも、(2)の全域を115℃で茹上げた試験区と同等の食感を得られることが確認された。この温度経過と評価結果を図3及び表2に示す。なお、表2における食味性評価は、以下の評価基準に基づいて行った。また、水分(%)は、135℃、6時間の乾燥法により測定した。
3点:基準値に比べて優れている
1点:基準値に比べてやや優れている
0点:最後の2分を125℃の試験区(基準値)
−1点:基準値に比べてやや劣っている
−3点:基準値に比べて劣っている
【0011】
【表2】

【0012】
以上のように、発明者らは、最後のわずか2分程度125℃で茹上げることで全域を115℃で茹上げた場合と同等の効果が得られることを偶然見い出し、かかる知見に加えて、更に量産に適した生麺の移行方法や、品質を損なわない茹上げ条件を確認し、本発明を完成するに至った。
【0013】
すなわち本発明は、(1)麺原料を混練した麺生地から麺線を調製する製麺工程、製麺工程で得られた麺線を大気圧下90℃以上の茹水で茹でる低温茹工程、低温茹工程に続いて、100℃を越える加圧環境下の茹水で茹上げる高温茹工程、高温茹工程に続いて、茹上げた麺線を冷却する冷却工程を備えた茹麺類の製造方法であって、90℃以上の茹水に浸漬されている総茹時間が4分以上であり、大気圧下における茹時間が前記総茹時間の90〜50%であり、加圧環境下における茹上げ時間が前記総茹時間の10〜50%であって、加圧環境下の茹水の最高温度が110〜140℃であることを特徴とする茹麺類の製造方法や、(2)製麺工程において、真空度400mmHg以下で混練して麺生地とすることを特徴とする上記(1)の茹麺類の製造方法や、(3)複数の反転する茹篭が直列に並び、その一部が大気圧茹槽に、残りが密閉茹槽に配置されており、大気圧茹槽と密閉茹槽との間、及び密閉茹槽からの取りだし側に気圧調整茹槽が設けられている茹上げ装置を用いることを特徴とする上記(1)又は(2)の茹麺類の製造方法や、(4)茹上げ装置が、1時間あたり生麺投入量で100kg以上の処理量であることを特徴とする上記(3)の茹麺類の製造方法や、(5)茹篭中の茹麺の堆積高が茹上げ状態で10cm以下とすることを特徴とする上記(3)又は(4)の茹麺類の製造方法や、(6)冷却工程において、加圧環境下を大気圧下とする前に、100℃を越える加圧環境下の茹水の温度を、冷却水によって99℃以下に冷却することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかの茹麺類の製造方法や、(7)冷却工程において、加圧環境下を大気圧下とする前に、茹上げた麺を99℃以下の冷却水に投入することによって100℃以下に急冷することを特徴とする上記(1)〜(5)のいずれかの茹麺類の製造方法や、(8)茹麺類が茹うどんであることを特徴とする上記(1)〜(7)のいずれかの茹麺類の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0014】
大気圧下で茹でた麺類を、続いて加圧環境下で100℃を越える温度の茹水で茹上げる方法によって、従来の加圧環境下で100℃を越える温度の茹水で茹上げた茹麺の食感と同等の粘弾性を付与しながら、茹上げ装置の耐圧構造部分の割合を少なくし、耐圧構造部分を茹工程の一部に設置することで、太麺類の量産設備であっても設置費用や管理負担を最小限に止めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明の茹麺類の製造方法としては、麺原料を混練した麺生地から麺線を調製する製麺工程、製麺工程で得られた麺線を大気圧下90℃以上の茹水で茹でる低温茹工程、低温茹工程に続いて、100℃を越える加圧環境下の茹水で茹上げる高温茹工程、高温茹工程に続いて、茹上げた麺線を冷却する冷却工程を備えた茹麺類の製造方法であって、90℃以上の茹水に浸漬されている総茹時間が4分以上であり、大気圧下における茹時間が前記総茹時間の90〜50%であり、加圧環境下における茹上げ時間が前記総茹時間の10〜50%であって、加圧環境下の茹水の最高温度が110〜140℃である製造方法であれば特に制限されるものではなく、上記麺類としては、うどん、きしめん、スパゲッティ、マカロニ等を例示することができるが、中でもうどんを好適に例示することができる。
【0016】
製麺工程で用いられる麺原料としては、公知の麺原料であればどのようなものでも良く、主原料としては、小麦粉の他、小麦粉に米、大麦、ライ麦、ヒエ、アワ、キビ等の穀物粉や、タピオカ、馬鈴薯、緑豆などの澱粉を適宜組合せたものを挙げることができる。主原料の糊化特性から茹麺の食感に求められる粘弾性が不足する場合、とりわけ、アミロース含有量が比較的高めなうるち系の穀物粉を原料に使用する場合にも、本発明を効果的に実施することができる。また、小麦粉であれば製粉時の歩留まりを高く取り、比較的糊化粘度の低い小麦粉から高品質な茹麺を製造する場合にも本発明を効果的に利用できる。
【0017】
製麺工程において、麺原料を混練して麺生地を調製する場合、真空度400mmHg以下、好ましくは60mmHg以上260mmHg以下の減圧条件下で混練することが好ましい。加圧環境下の110〜140℃の茹水で茹上げる場合、麺の肌荒れを抑えるには麺生地を混練する際の真空度は重要な要件であり、真空度を下げることで麺生地の含気量を減少させ、肌荒れを抑えることができる。
【0018】
麺原料を混練した麺生地から麺線を調製する製麺方法については特に制限されず、例えば、うどんであれば中力粉100重量部に対し、塩分濃度4〜15%の塩水36〜50重量部の割合で配合し、減圧下で混練した後、回転ローラーにより麺帯に成形し、適宜麺帯の熟成を行い、回転ローラーによる麺帯圧延を行った後麺線に切り出して製麺することができる。また、麺生地の高度な鍛えが可能な手打ち式の圧延方法等によれば、グルテン組織の立体的展開によって麺の食感に弾力を付与することが可能だが、粘りの強化は容易ではない。しかし、本発明によると、粘りを強化しバランスのとれた優れた食感を有する茹麺製品を合理的に製造することができる。
【0019】
中でも最も食感の改善効果が認められるのは、手延べ式製麺方法であるが、手延べ式製麺方法では、細められた多加水生地を引き伸ばすことによって麺線を形成するため、麺線の表層と内層でグルテン組織の延伸にずれがないことを製麺の特徴とし、弾力と歯切れの強さを食感の特徴としている。この食感は、そうめん、冷麦等の細物に適したものであるが、うどんに代表される太物には粘りが不足する傾向がある。本発明によれば、不足する粘りを補い、バランスのとれた優れた食感を有する手延べ式茹うどんが経済的に量産できる。
【0020】
また、製麺工程の後に乾燥工程を加え水分を30%以下に調整した半生麺や、水分15%以下に調整した乾燥うどん、乾燥きしめん、乾燥スパゲッティ、乾燥マカロニ等を、製麺された生麺に代えて用いることもできる。本発明によれば、粘りを強化しバランスのとれた優れた食感に合理的に茹で上げることができる。
【0021】
本発明の茹麺類の製造方法は、低温茹工程に続いて高温茹工程に切り替える工程順序が重要である。仮に、120℃の高温茹の後に98℃の低温茹を行なった場合、98℃の茹上げは、120℃の高度な澱粉質のアルファー化によって得られた麺の食感を損なう吸水工程となる。茹る最後を高温茹工程とすることで麺の食感に優れた粘弾性を付与することができる。
【0022】
低温茹工程は、高温茹工程の前段階として適度なアルファー化と必要な吸水を行わせることを目的とする。90℃以上の茹水温度は、生麺の茹上げに必要とされる温度である。よって、澱粉質のアルファー化を効率的に進めるには高いほどよいが、大気圧下で行う低温茹工程では、茹水が沸騰しない96〜98℃が麺の肌荒れを防止するために好ましい。
【0023】
低温茹工程に続く高温茹工程では、100℃を越える加圧環境下の茹水、例えば110〜140℃、好ましくは120〜130℃の茹水で茹上げ、麺の食感を決定すべきアルファー化を行うことを目的とする。高温茹工程における茹水温度を比較的低めの110〜120℃にする場合は茹上げ装置の耐圧強度を1kg/cmに、120〜133℃であれば2kg/cmに、133〜140℃であれば3kg/cmの耐圧強度に設計すればよい。このように、茹上げ装置の耐圧強度を高めることで高温茹工程における茹上げ温度を高く設定し、総茹時間に占める高温茹工程の比率を低くできるので、高温茹工程の装置部分をコンパクトに設置することができる。なお、低温茹工程から高温茹工程への切り替え時間は、概ね2分以内、望ましくは30秒以内にすればよい。
【0024】
上記高温茹工程終了後の冷却工程においては、茹上げ麺が浸漬されている茹水を沸騰させることなく冷却させることが麺の肌荒れを防止する上で好ましく、例えば、大気圧下とする前に10〜98℃の冷却水に投入する方法や、冷却水を投入して茹水を90〜99℃にする方法を例示することができる。概ね98℃以下にすれば大気圧下での沸騰は避けられるが、麺のふやけ等の食感低下を避けるために1分以内に40℃以下、2分以内に10℃以下に急冷することが追加の水分吸収を避けるために好ましい。すなわち、高度なアルファー化を伴わない水分吸収は、100℃以上の温度であっても本発明の製造方法にとっては、いわゆる「ふやけ症状」に相当し好ましくない。冷却工程の後に、包装した後の二次加熱工程や、凍結して冷凍茹麺類とする凍結工程を有していてもよい。
【0025】
本発明の茹麺類の製造方法においては、上記低温茹工程、高温茹工程及び冷却工程における90℃以上の茹水に浸漬されている総茹時間が4分以上、好ましくは4分以上28分以下、より好ましくは6分以上18分以下であり、大気圧下における茹時間が前記総茹時間の90〜50%、好ましくは80〜60%であり、加圧環境下での茹上げ時間が前記総茹時間の10〜50%、好ましくは20〜40%であることを特徴とする。上記総茹時間とは、90℃以上の茹水に浸かっている澱粉質のアルファー化が進行する全ての時間に加え、温度条件の異なる茹水から茹水への移動工程を含んだ全ての時間をいい、また、冷却工程の初期の加圧環境下での冷却時間も加圧環境下での茹上げ時間に含まれる。なお、高温茹工程における加圧環境下での茹上げ時間と加圧環境下の茹水の最高温度との関係は、加圧環境下での茹上げ時間が長ければ加圧環境下の茹水の最高温度は低めに、加圧環境下での茹上げ時間が短ければ加圧環境下の茹水の最高温度は高めに設定され、最終製品の茹麺が所望の食感に調整される。
【0026】
本発明の茹麺類の製造方法の低温茹工程、高温茹工程及び冷却工程において用いられる装置としては、従来公知の加圧茹機構を備えたものであれば特に制限されないが、複数の反転する茹篭が直列に並び、その一部が大気圧茹槽に、残りが密閉茹槽に配置されている装置を好適に例示することができる。この場合、高温茹工程における加圧環境下での茹上げ時間が前記総茹時間の10〜50%であることから、すべて加圧環境下で茹上げる場合に比べて、密閉茹槽の割合を10〜50%にすることができる。
【0027】
上記大気圧茹槽と密閉茹槽との間や、密閉茹槽からの取りだし側には、気圧調整茹槽を設けることが好ましい。気圧調整茹槽は、高温茹工程の密閉茹槽の気圧を維持するために密閉茹槽の入口と出口に設ける密閉可能な1篭分の区画からなる茹槽であり、麺類を加圧高温環境の密閉茹槽に移す場合は、高圧側を閉じ大気側を開けた状態で麺を気圧調整茹槽に投入し、次に大気側を閉じて気圧を加圧環境に合わせてから加圧側を開け、麺を密閉茹槽に投入する。反対に、高温茹工程で茹上がった麺を大気圧下に排出するときは、密閉茹槽の気圧調整茹槽側を開け、気圧調整茹槽の出口側を閉じた状態で麺を気圧調整茹槽に投入し、次に気圧調整茹槽の密閉茹槽側を閉じ、高圧環境下の茹水を100℃以下、好ましくは98℃以下に冷却後、気圧調整茹槽内を大気圧に調整してから麺類を冷却水槽に移すとよい。これらの気圧調整茹槽を通過させる手段には、各茹槽の配置の高低差を利用して滑らせる方法や、反転篭を気圧調整茹槽に備える方法がある。扉の開閉方法には高圧側への内開きの開き戸形式でも、高圧側での引き戸形式でも、配管バルブの開閉方法でも自由に採用できる。
【0028】
上記の気圧調整茹槽における気圧の調整及び麺類の出し入れには少なくとも20秒以上の時間が必要であるが、上記のように、複数の反転する茹篭を直列に並べ、隣の篭へ順次移し替える麺類の移行方法によれば、仮に生麺投入量が1篭あたり50食、時間あたり4000食の茹装置の場合、1篭分の通過時間に45秒確保され、余裕をもって必要な茹処理を行うことができる。
【0029】
前述したように、製麺工程において真空度が400mmHg以下の減圧下で混練して麺生地を調製する好ましい態様の場合、麺生地中の含気量は減少し、茹工程では浮力の低下により沈み易くなり、麺線は過密化し水分の吸収や外観に支障が出るおそれがあることから、減圧下で混練した麺生地の場合には、特に、茹篭中の茹麺の堆積高が茹上げ状態で10cm以下とすることが好ましい。麺線の過密化に主として影響を与える茹麺の堆積高は、麺量に対する茹篭の底面積及び底部の形状に依存するが、いずれにしても堆積する麺の高さを制限することが望ましい。品質を損なわないためには、茹篭中の茹麺の堆積高を茹上げ状態で10cm以下、望ましくは5cm以下にするとよい。本発明に適した茹篭の形状としては、底面部分の面積を広くとり底面部分の傾斜角度を小さくしたものが好ましく、具体的には、底部の面積は茹篭の間口に対し50%以上、望ましくは65%以上、底面部分の傾斜角は15°以下、望ましくは5°以下にしたものが好ましい。
【0030】
次に、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例】
【0031】
以下に、量産に適した反転茹篭による生麺移行方法で茹上げる方法を想定した実験の内容を示す。
(生麺の調製)
小麦粉(日本製粉 さぬき菊)4kgに対して食塩水(ボーメ10°)43重量%を練り水として加え、横型ミキサーにて真空度36cmHg(減圧度53.3kPa)で10分間混練しうどん生地を得た。これを定法により圧延ロールにて麺帯とし、切刃(8番)にて略幅3.8mm×厚み3.7mmの麺線とした。
【0032】
(茹工程条件の設定)
低温茹工程の装置に相当する実験器として、寸胴鍋に20Lの熱湯を用意し、乳酸にてpHを5〜6付近に調整し98℃を維持した。また、高温茹工程の装置に相当する実験器として、加圧容器に30Lの熱湯を用意し、乳酸にてpHを5〜6付近に調整の後、密閉状態として更に120℃又は125℃に加熱した。加圧容器の上部には、図4に示した茹麺投入口を設け、バルブ1を閉、バルブ2を開の状態にしてホッパー部分を加熱待機した。なお、加圧容器には、メッシュ製の茹篭を用いた。
【0033】
(茹上げ工程)
麺線200gを寸胴鍋に投入し、攪拌を1分間行い大気圧下97℃の静置状態で茹でた後、0.5L程度の熱湯と共に茹麺を取り出し、加圧容器の茹麺投入口に熱湯と共に茹麺を流し込んだ。その際のバルブ1は開、バルブ2は閉である。次にバルブ1を閉とした後バルブ2を開としてホッパー部分の茹麺を120℃又は125℃の熱湯中に流し込み、所定の時間100℃を越える加圧環境下の茹水で茹上げた。その後12Lの冷却水を加圧容器に注入し30秒以内に98℃以下に冷却し、続いて大気開放し蓋を開けメッシュ製の茹篭を取り出し速やかに10℃以下に冷却し、水を切り冷凍麺として適切な凍結処理を行った冷凍麺を実施例とした。また、加圧容器にpHを調整した熱湯30Lを用意し、麺線200gを投入し1分間攪拌後、密閉状態として加圧環境下110℃に昇温、維持して茹上げる以外は実施例と同様にした冷凍麺を比較例とした。さらに、麺線200gを寸胴鍋で大気圧下98℃の静置状態で16分茹上げる以外は実施例と同様にした冷凍麺を対照とした。図5にそれらの温度経過を示す。
【0034】
その後、試験区、比較区、対照区のそれぞれの冷凍麺を、−18℃で2日間保持した後、沸騰水中約1分で解凍し冷却し、ざるうどんとしたものについて市販の麺つゆにて評価を行った。評価は、5名のパネラーにより以下の評価基準により行った。その結果を表4に示す。
【0035】
(食感評価基準)
肌荒れ
5点:標準に比べて肌荒れがなく非常に肌がきれい
4点:標準に比べて肌荒れがなく肌がきれい
3点:肌は標準である
2点:標準に比べて肌が荒れており外観が劣る
1点:標準に比べて肌が非常に荒れており外観が非常に劣る
かたさ
5点:標準に比べて非常にかたい
4点:標準に比べてかたい
3点:かたさは標準である
2点:標準に比べてやわらかい
1点:標準に比べて非常にやわらかい
粘性
5点:標準に比べてもちもちとした粘性が非常に強い
4点:標準に比べてもちもちとした粘性が強い
3点:粘性は標準である
2点:標準に比べてもちもちとした粘性が劣る
1点:標準に比べてもちもちとした粘性が非常に劣る
弾性
5点:標準に比べて弾力が非常に強い
4点:標準に比べて弾力が強い
3点:弾力は標準である
2点:標準に比べて弾力が劣る
1点:標準に比べて弾力が非常に劣る
食感バランス
5点:標準に比べて食感のバランスが非常によい
4点:標準に比べて食感のバランスがよい
3点:食感のバランスは標準である
2点:標準に比べて食感のバランスが劣る
1点:標準に比べて食感のバランスが非常に劣る
【0036】
【表3】



【0037】
茹時間の全域を110℃で茹でた比較例と、実施例(120℃及び125℃で3.5分)は全ての項目で概ね同等の評価となった。また、実施例(120℃及び125℃の5分又は7分)は粘性、弾性、バランスの項目で評価が更に向上していた。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】本発明のきっかけになった実験に使用した加圧釜を示す概略図である。
【図2】茹工程における茹上げ温度の経過を示す図である。
【図3】茹工程における茹上げ温度の経過を示す図である。
【図4】本発明の茹上げ装置に相当する実験器を示す概略図である。
【図5】試験区、比較区、対照区の茹工程における茹上げ温度の経過を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
麺原料を混練した麺生地から麺線を調製する製麺工程、製麺工程で得られた麺線を大気圧下90℃以上の茹水で茹でる低温茹工程、低温茹工程に続いて、100℃を越える加圧環境下の茹水で茹上げる高温茹工程、高温茹工程に続いて、茹上げた麺線を冷却する冷却工程を備えた茹麺類の製造方法であって、90℃以上の茹水に浸漬されている総茹時間が4分以上であり、大気圧下における茹時間が前記総茹時間の90〜50%であり、加圧環境下における茹上げ時間が前記総茹時間の10〜50%であって、加圧環境下の茹水の最高温度が110〜140℃であることを特徴とする茹麺類の製造方法。
【請求項2】
製麺工程において、真空度400mmHg以下で混練して麺生地とすることを特徴とする請求項1記載の茹麺類の製造方法。
【請求項3】
複数の反転する茹篭が直列に並び、その一部が大気圧茹槽に、残りが密閉茹槽に配置されており、大気圧茹槽と密閉茹槽との間、及び密閉茹槽からの取りだし側に気圧調整茹槽が設けられている茹上げ装置を用いることを特徴とする請求項1又は2記載の茹麺類の製造方法。
【請求項4】
茹上げ装置が、1時間あたり生麺投入量で100kg以上の処理量であることを特徴とする請求項3記載の茹麺類の製造方法。
【請求項5】
茹篭中の茹麺の堆積高が茹上げ状態で10cm以下とすることを特徴とする請求項3又は4記載の茹麺類の製造方法。
【請求項6】
冷却工程において、加圧環境下を大気圧下とする前に、100℃を越える加圧環境下の茹水の温度を、冷却水によって99℃以下に冷却することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の茹麺類の製造方法。
【請求項7】
冷却工程において、加圧環境下を大気圧下とする前に、茹上げた麺を99℃以下の冷却水に投入することによって100℃以下に急冷することを特徴とする請求項1〜5のいずれか記載の茹麺類の製造方法。
【請求項8】
茹麺類が茹うどんであることを特徴とする請求項1〜7のいずれか記載の茹麺類の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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