説明

荷役機械

【課題】低コストで飛び跳ね動作の検出精度が高く、さらに種々の荷役機械に柔軟に取り付け可能な飛び跳ね対策技術を提供する。
【解決手段】本発明の荷役機械1は、上下方向に移動自在に構成され荷役物7をクランプ機構8によって保持して昇降させるアーム4を有する昇降機構5と、エアー源22から供給されるエアーの圧力によって昇降機構5を駆動するシリンダ20とを有し、シリンダ20に対して給排気するエアーの流量及び圧力を操作ボックス9からの命令に基づき圧力比例制御弁21を用いて制御する荷役機械である。アーム4先端部の動作加速度を検出するMEMS技術による加速度センサ30が設けられ、加速度センサ30にて得られた結果に基づき、電子制御回路25から圧力比例制御弁21への命令によってシリンダ20に対するエアーの流量及び圧力を制御する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷役物を昇降して搬送するための荷役機械に関し、特にエアー式の駆動源によって昇降機構を駆動する荷役機械に関する。
【背景技術】
【0002】
工場の生産ラインあるいは倉庫などでは、比較的重量のある機材の脱着作業に伴う搬送、半製品ワークの次工程への搬送、また出荷製品の運搬など多種多様な搬送が行われている。こうした各種負荷の搬送作業では、労力軽減化と安全化を図り、かつ、小回りが利き機動性と簡便さを備えた荷役機械が使用されている。
【0003】
図9は、従来の荷役機械のエアー制御系の構成を示すブロック図である。
図9に示すように、荷役機械101の本体103の内部には空気圧シリンダ120が配設され、空気圧シリンダ120のピストンロッド120aの先端部には昇降機構105のアーム104がリンク機構で連結されている。
【0004】
このリンク機構はアーム104の上昇下降動作時の力点となるとともに、アーム104は本体103内部で支持されこの支持部がアーム104の支点となっている。
さらにアーム104の先端には、操作グリップ109aを備えた操作ボックス109とクランプ機構108が設けられ、これにより荷役物107を保持して移動できるようになっている。なお、操作ボックス109には、負荷バランスボタン111と無負荷バランスボタン112が設けられている。
【0005】
空気圧シリンダ120には圧力比例制御弁121を介してエアー源122が接続配管され、作業者110による操作ボックス109からの上昇・下降指令に応じて、エアー源122から空気圧シリンダ120へエアーの給排気処理を行うように構成されている。なお、圧力比例制御弁121には、消音器123が接続されている。
【0006】
このような構成において、例えば作業者110が操作グリップ109aを上方向に操作すると、空気圧シリンダ120には圧力比例制御弁121を介してエアーが給気され、これにより空気圧シリンダ120のピストンロッド120aが図中下方向に動作し、アーム104先端のクランプ機構108によって把持された荷役物107が、てこの原理で上方向に移動する。
【0007】
ところで、荷役機械101には、作業者110が直接荷役物107を掴んで無重力感覚で自在に移動・移載できるバランスモードという制御モードがある。このバランスモードにおける制御回路の動作を図9の従来の荷役機械の制御回路ブロック図を使って説明する。
【0008】
このバランスモードでは、荷役機械101は、同図に示すように支点に対してアーム104の重量、クランプされた荷役物107の重量による反時計回りのモーメントと、空気圧シリンダ120のピストンロッド120aに支持された時計回りのモーメントを一致させることにより、停止した状態(バランス状態)になる。
【0009】
このバランスされた状態で作業者110が荷役物107に力を加えると、これら両モーメントの僅かなバランスが崩れて荷役物107を自由に動かすことが可能になる。
このバランスモードにおいて重要な役目を果たすのが、圧力比例制御弁121である。圧力比例制御弁121は、空気圧シリンダ120内のエアー圧が一定になるようにシリンダ内のエアー圧を制御している。
【0010】
例えば、操作ボックス109に設けられた負荷バランスボタン111が押された場合、エアー制御回路124は、負荷/無負荷バランス圧設定回路125で設定された負荷バランス圧(荷役物を吊り上げた状態時にバランス状態を保つシリンダ内のエアー圧)の値を圧力比例制御弁121の入力設定ポートに設定する。
【0011】
これにより、圧力比例制御弁121は入力ポートに設定されたエアー圧(負荷バランス圧)を出力ポートに設定し、空気圧シリンダ120内のエアー圧を負荷重量とバランスが取れたエアー圧に設定する。
この状態では作業者110が吊り上げた荷役物107に力を加えると、この加えた力によって空気圧シリンダ120のピストンロッド120aが動きシリンダ内のエアー圧が少し変化する。
【0012】
しかし、圧力比例制御弁121はこのバランス圧から僅か増減したエアー圧を給排気処理によって吸収してしまい、空気圧シリンダ120内のエアー圧が常時設定しているバランス圧を維持するように制御する。このように制御することによってバランスモードでは、作業者110の操作によって空気圧シリンダ120内のピストンが動いても空気圧シリンダ120内にはこの操作力に反発する力が発生しないため、荷役物107は作業者110が荷役物107に力を加えた方向に動くことになる。
【0013】
このようなバランスモードにおいて、クランプしていた荷役物107が落下した場合の動作を説明する。
荷役物107をクランプした状態では、支点に対するアーム104の重量及びクランプされた荷役物107の重量による反時計回り方向のモーメントと、空気圧シリンダ120のピストンロッド120aに支持された時計回り方向のモーメントとの大きさが一致しているためバランス状態を維持していたが、荷役物107が落下すると支点に対して反時計回り方向のモーメントが小さくなるため、相対的に空気圧シリンダ120内のエアー圧による時計回り方向のモーメントの方が大きくなり、荷役機械101のアーム104は急激に上昇していく。
【0014】
この現象(以後、飛び跳ね動作という)が発生した場合、荷役機械101のアーム104は作業者110の操作とは関係なく急激に上昇するため、荷役機械101を操作している作業者110にとっては大変危険な状態になる。
【0015】
この飛び跳ね動作を抑えるため、通常の場合、図9に示すように、荷役機械101には飛び跳ね対策ユニット130が本体103内部に設けられている。この飛び跳ね対策ユニット130は、上昇時の空気圧シリンダ120のピストンロッド120aの動きを監視しており、同ピストンロッド120aが作業者110の操作力による上昇速度(又は加速度)を超えて動作した場合は、ピストンロッド120aを即刻ロックしアーム104の上昇動作を停止させる。
【0016】
この種の荷役機械には、上述したアーム式荷役機械の他にベルト(ロープ)式タイプのものがあるが、ベルト式の荷役機械の場合においても、同様に荷役物落下時に発生するベルトの高速上昇動作を機械的手段で検出し、所定の速度(加速度)を超えた場合、ベルトの上昇動作を停止させるロック機構を備えている。
【0017】
従来、荷役機械の飛び跳ね対策機構については、種々の提案がなされている(例えば、特許文献1〜3参照)が、これら従来技術においては、以下のような問題点がある。
(1)シリンダにオイルダンパーを取り付けた飛び跳ね対策機構の場合、このオイルダンパーによる作動力が抵抗となり、上下動作時の操作性を悪化させるという問題がある。
(2)従来の機械式の飛び跳ね対策機構では、荷役機械の構造(例えばアーム式、ベルト式など)によっては、構造が違うため取り付けできなかったり、また、空きスペースなど物理的な制約によりうまく取り付けできない場合がある。例えば、シートベルトを使った飛び跳ね対策機構の場合、ベルト式の荷役機械には適用することができるが、アーム式の荷役機械にはそのままでは適用することはできない。
(3)従来の機械式の過速度・過加速度検出機構では、検出する過速度・過加速度を変更する場合、検出部の構成部品の一部を変更する必要があるため、可搬重量、または作業内容に合わせて同検出値を変更することは極めて困難である。
【特許文献1】特許第3787065号公報
【特許文献2】特開平5−147892号公報
【特許文献3】特開2000−7287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、このような従来の技術の課題を解決するためになされたもので、その目的とするところは、低コストで飛び跳ね動作の検出精度が高く、さらに種々の荷役機械に柔軟に取り付け可能な飛び跳ね対策技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0019】
上記目的を達成するためになされた請求項1記載の発明は、上下方向に移動自在に構成され、所定の荷役物をクランプ機構によって保持して昇降させるアームを有する昇降機構と、所定のエアー源から供給されるエアーの圧力によって前記昇降機構を駆動するエアー式駆動部とを有し、前記エアー式駆動部に対して給排気するエアーの流量及び圧力を所定の操作部からの命令に基づき圧力比例制御弁を用いて制御する荷役機械であって、前記昇降機構の動作加速度を検出する加速度センサと、前記圧力比例制御弁の動作を制御する電子制御回路とを備え、前記加速度センサにて得られた結果に基づき、前記電子制御回路から前記圧力比例制御弁への命令によって前記エアー式駆動部に対するエアーの流量及び圧力を制御するように構成されているものである。
請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明において、前記圧力比例制御弁と前記エアー式駆動部との間に、前記電子制御回路によって制御される電磁弁が設けられているものである。
請求項3記載の発明は、請求項1又は2のいずれか1項記載の発明において、前記加速度センサが、MEMS技術によるセンサから構成されているものである。
請求項4記載の発明は、請求項1乃至3のいずれか1項記載の発明において、前記エアー式駆動部を停止させるエアー式のブレーキユニットと、当該ブレーキユニットのオン/オフを制御するブレーキ用電磁弁とを有し、当該ブレーキ用電磁弁が前記電子制御回路によって制御されるように構成されているものである。
【0020】
本発明の場合、昇降機構の動作加速度を検出する加速度センサと、圧力比例制御弁の動作を制御する電子制御回路とを備え、この加速度センサにて得られた結果に基づき、電子制御回路から圧力比例制御弁への命令によってエアー式駆動部に対するエアーの流量及び圧力を制御するようにしたことから、従来の機械式の跳び跳ね手段に比べ、高精度で過加速度の検出ができ、これにより、荷役物の落下を迅速かつ正確に検出して、飛び跳ね対策処理を迅速に実行することができる。
【0021】
また、従来の機械式の飛び跳ね対策機構では、荷役機械の構造(例えばアーム式、ベルト式など)によっては、構造が違うため取り付けできなかったり、また、空き実装スペースなどの物理的な制約により取り付けできない場合があったりしたが、本発明の場合、加速度センサとして小型のものを採用することができるので、如何なる荷役機械でも簡単にセンサを搭載し過加速度を検出することができる。
【0022】
さらに、センサを搭載する装置によっては、荷役機械の可搬重量、作業内容に応じて検出する過加速度を変更する必要があるが、従来の機械式による過速度・過加速度検出機構では、検出する過速度・過加速度を変更する場合、変更ができなかったり、また変更できても検出部の構成部品の一部を入れ替える必要がある。これに対し、本発明によれば過加速度の検出設定値をメモリに環境パラメータとしてデータを格納することができるため、過加速度の検出値を変更する場合は、環境パラメータを変更するだけで容易に対応することが可能である。
【0023】
さらにまた、従来のオイルダンパーによる飛び跳ね対策機構などの場合、このオイルダンパーによる作動力が抵抗となり、上下動作時の操作性を悪化させるという問題があったが、本発明によれば、加速度センサによって過加速検出を行うことから、上下動作時の操作性に全く影響を与えることはないという効果もある。
【0024】
本発明において、圧力比例制御弁とエアー式駆動部との間に、前記電子制御回路によって制御される電磁弁が設けられている場合には、荷役物の落下を検出した際に、エアー式駆動部内のエアーを急速排気することに加え、エアー式駆動部に対してエアーの供給を遮断することができ、これにより一層確実に飛び跳ね対策処理を実行することができる。
【0025】
本発明において、加速度センサが、MEMS技術によるセンサから構成されている場合には、加速度センサとして大きさが小さく低価格のものを採用することができるので、より低コストで検出精度が高い飛び跳ね対策機能を備えた荷役機械を提供することができる。
【0026】
本発明において、エアー式駆動部を停止させるエアー式のブレーキユニットと、このブレーキユニットのオン/オフを制御するブレーキ用電磁弁とを有し、このブレーキ用電磁弁が前記電子制御回路によって制御されるように構成されている場合には、ブレーキユニットによる負荷をエアー式駆動部に対して与えることができるため、飛び跳ね動作検出時において、より確実にアームを停止させることができる。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、低コストで飛び跳ね動作の検出精度が高く、さらに種々の荷役機械に柔軟に取り付け可能な飛び跳ね対策機能を備えた荷役機械を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の好ましい実施の形態を図面を参照して詳細に説明する。
図1は、本発明に係る荷役機械の実施の形態の外観構成を示す概略図、図2は、同荷役機械のエアー制御系の構成を示すブロック図である。
【0029】
図1に示すように、本実施の形態の荷役機械1は、鉛直に立設された支柱2を有し、この支柱2の上部に本体3が設けられている。
図2に示すように、この本体3内には、従来技術と同様の空気圧シリンダ(エアー式駆動部)20が設けられている。この空気圧シリンダ20(以下、シリンダ20という。)は、消音器23付きの圧力比例制御弁21を介してエアー源22に接続されている。
【0030】
ここで、圧力比例制御弁21とシリンダ20の間には後述する電磁弁24が設けられ、圧力比例制御弁21からシリンダ20へのエアー給気、排気を所定のタイミングで遮断するように構成されている。
【0031】
荷役機械1は、第1〜第3のアーム4a〜4cから構成されるアーム4を有する昇降機構5を備える。ここで、第1のアーム4aは、上下方向に所定の角度回動可能な状態で、てこの支点及び力点を構成するように支持されシリンダ20のピストンロッド20aによって駆動される。
また、第1のアーム4aは、支柱2の中心軸を中心にして水平方向に旋回するように支持されている。
【0032】
第1のアーム4aの先端部には、第2のアーム4bが、関節部6を介して常に水平状態を保持する状態で連結され、さらに、第2のアーム4bの先端部(下端部)には、鉛直方向に延びる第3のアーム4cが関節部6を中心として水平方向に回転可能な状態で連結されている。
【0033】
第3のアーム4cの下端部には、例えば把持によって荷役物7を保持するクランプ機構8が取り付けられている。また、第3のアーム4cの下部には、操作グリップ9aを有する操作ボックス(操作部)9が取り付けられている。
【0034】
図2に示すように、この操作ボックス9には、負荷バランス圧設定ボタン11と無負荷バランス圧設定ボタン12が設けられ、これら負荷バランス圧設定ボタン11と無負荷バランス圧設定ボタン12は、マイクロコンピュータ、半導体メモリ等を有する電子制御回路25に接続されている。
本実施の形態においては、操作ボックス9内に、MEMS(Micro Electro Mechanical Systems)技術による加速度センサ30を内蔵して構成された制御ボックスが設けられている。
【0035】
ここで、加速度センサ30は、A/D変換器26を介して電子制御回路25に接続されており、加速度センサ30によって検出された加速度出力信号が、アナログ/デジタル変換され電子制御回路25にデジタルデータとして読み込まれるようになっている。
【0036】
また、電子制御回路25は、D/A変換器27を介して圧力比例制御弁21に接続されている。そして、圧力比例制御弁21の入力ポートのエアー圧の設定を、電子制御回路25から出力されたエアー圧設定データをD/A変換器27によってデジタル/アナログ変換することによって行う。
さらに、電子制御回路25は、過加速度検出値設定回路28と、負荷/無負荷バランス圧データ記憶・設定回路29とに接続されている。
【0037】
過加速度検出値設定回路28は、荷役物7の落下時に検出する過加速度の閾値データが例えば半導体メモリに格納されている。この過加速度の閾値データは、電子制御回路25にデータ入力装置を接続することにより、設定変更を行うことができるようになっている。
【0038】
そして、電子制御回路25は、クランプ機能の上昇時の加速度が予め設定されている過加速度を超えて動作した場合、荷役物落下による飛び跳ね動作と判断し、飛び跳ね対策処理を実行し飛び跳ね動作を抑えるように制御する。この処理については、後述する。
【0039】
また、負荷/無負荷バランス圧データ記憶・設定回路29は、操作ボックス9に設けられた負荷バランス圧設定ボタン11と無負荷バランス圧設定ボタン12を操作することによって、それぞれの値を記憶し且つ設定変更できるようになっている。
【0040】
以下、図2、図3及び図4を用い、本実施の形態における飛び跳ね動作(過加速度)の検出方法及びその対策方法について説明する。
図3は、本実施の形態における飛び跳ね対策処理方法の一例を示すフローチャート、図4は、同飛び跳ね対策処理方法の説明をするための図である。
【0041】
まず、図2に示す電子制御回路25は、飛び跳ね対策処理が実行されているか否かを判断し(ステップS1)、飛び跳ね対策処理が実行されていないと判断した場合には、ステップS2に進み、加速度センサ30からの出力される加速度出力信号に基づき、操作ボックス9即ち荷役物7の加速度が過加速度設定値を超えているか否かを判断する。
この場合、加速度センサ30からの出力される加速度出力信号は、A/D変換器26によってアナログ/デジタル変換され、電子制御回路25において所定のサンプリング周期で読み込み処理を行う。
【0042】
電子制御回路25で読み込んだ当該加速度データが、予め設定されている過加速度検出閾値を超え(ステップS2)、さらにその状態が所定の継続時間Δta(図4参照)を経過したことが検出された(ステップS3)場合、飛び跳ね動作発生(荷役物落下)と判断する。ここで、クランプした荷役物7が落下した場合には、シリンダ20内のエアー圧により、荷役機械1のアーム4は急激に上昇する。
【0043】
図4を用いて荷役物落下の検出方法について更に詳細に説明する。
図4において、加速度センサ30からの加速度データaをサンプリング周期ΔTでサンプリングし、さらにサンプリングした結果を下式(1)によって積算することによりアーム4先端の速度vを求める。
v =Σ(a×ΔT) …式(1)
飛び跳ね動作検出前において、加速度=0(停止状態)では、v=0に設定する。
【0044】
また、この状態で検出した過加速度が設定した過加速度閾値を超え(ステップS2)、さらに所定の時間を経過した(ステップS3)場合、飛び跳ね動作有り(荷役物落下)と判断し、現在の加速度の累積加算処理を行い現在の速度を算出する(ステップS4)。
さらに、この加速度の累積加算の結果、すなわち、速度が0以下であるか否かを判断し(ステップS5)、その結果に応じて以下の処理を実行する。
【0045】
まず、加速度の累積加算の結果が0より大きい場合には、電子制御回路25からの命令によって圧力比例制御弁21の出力を最低圧(大気圧)に設定し、シリンダ20内のエアーの急速排気処理を実行する(ステップS6)。
この排気処理を実行すると、シリンダ20内のエアー圧は急速に低下していくため、アーム4を上昇方向に押し上げる力は急速に弱まる。
【0046】
その後も圧力比例制御弁21の出力を大気圧に設定しシリンダ20内のエアー排気処理を継続していくと、シリンダ20内のエアー圧はさらに下がっていくため、荷役機械1のアーム4は、上昇させる力よりもアーム重量等により下降方向に引き下げる力が強くなりアーム4の上昇速度は0になる。
【0047】
このときの加速度の変化は図4に示すとおりであり、飛び跳ね動作が発生する前の停止した状態では、加速度センサ30の出力は1G(=9.8m/s2)を示しているが、飛び跳ね動作時は加速度が急速に増加する。
【0048】
この状態において飛び跳ね動作有りと判断し、圧力比例制御弁21を使ってシリンダ20内のエアーを急速に排気処理を実行していくと、加速度センサ30において検出される加速度は上昇加速領域から上昇減速・下降加速領域に変化し、アーム4が停止すると検出される加速度は停止時の1Gになる。
【0049】
図4に示す加速度波形において、停止時の加速度1Gに対して上昇加速領域の面積はアーム4が上方向へ加速上昇している状態を示し、上昇減速・下降加速領域は上方向に上昇減速→下方向に下降加速している状態を示している。
【0050】
以上のように、飛び跳ね対策処理を実行中においては、アーム4の先端部の速度v(=加速度積算値)が0になるように制御するのであるが、シリンダ20内のエアー排気処理の時間が長過ぎると、上昇加速領域の面積よりも上昇減速・下降加速領域の面積が大きくなり、結果として下方向に大きく動いてしまうことになるので必要以上に下降させないよう制御する必要がある。
【0051】
さらに、図3に示すステップS5において、上述した加速度の累積加算の結果が0以下となった時点(t3)において、電子制御回路25からの命令によって電磁弁24を動作させ、圧力比例制御弁21からのシリンダ20へのエアー給気・排気処理を中止し、エアー供給回路を遮断する(ステップS7)。
これにより、アーム4の動作が停止する。
【0052】
なお、図3のステップS2において、電子制御回路25で読み込んだ加速度データが、予め設定されている過加速度検出閾値を超えていないと判断した場合には、現在の加速度の累積加算処理を行い現在の速度を算出する。そして、加速度が”0”(停止状態)の場合は、累積加算結果をクリアする(ステップS8)。
【0053】
次に、図5及び図6を用いて本実施の形態の飛び跳ね対策処理の作用効果について説明する。
図5は、荷役機械に飛び跳ね対策機構を全く有していない場合において、バランスモードの状態から荷役物を落下させた場合の加速度及び速度の変化を示すグラフである。
【0054】
ここでは、荷役物7を落下させた場合、アーム4は急速に加速しながら上昇していき、荷役機械1のメカニカルストッパー(図示せず)に衝突し停止したときの加速度、速度の波形を示している。
【0055】
一方、図6は、本実施の形態の飛び跳ね対策処理を実行したときの加速度及び速度の変化を示すグラフである。
図6に示すように、荷役物7の落下後、落下による上昇過加速度を上記方法によって検出し、飛び跳ね対策処理を実行すると、検出される加速度は上昇加速状態から上昇減速→下降加速状態に変化し停止する。
【0056】
ここで、速度波形図における速度波形の面積が飛び跳ね動作時のアーム4の上昇量に相当するので、アーム4上昇量を極力小さくするためには、この面積が最小になるように制御すること、即ち、荷役物の落下をいち早く検出し、荷役物の落下検出後は素早く飛び跳ね対策処理を実行する必要がある。
【0057】
従来の飛び跳ね対策手段は、慣性力等と利用したメカ機構によって飛び跳ね動作の検出を行うものであるが、以上説明した本実施の形態では、MEMS技術による加速度センサ30を用いて飛び跳ね動作の検出を行うことにより、高精度で過加速度の検出ができるので、荷役物の落下を迅速かつ正確に検出して、飛び跳ね対策処理を迅速に実行することができる。
【0058】
また、本実施の形態において採用するMEMS技術による加速度センサ30は、形状は5mm角程度のもので、大きさが小さく低価格であるので、低コストで検出精度が高い飛び跳ね対策機能を実現することができる。
【0059】
さらに、従来の機械式の飛び跳ね対策機構では、荷役機械の構造(例えばアーム式、ベルト式など)によっては、構造が違うため取り付けできなかったり、また、空き実装スペースなどの物理的な制約により取り付けできない場合があったりしたが、本実施の形態の場合、加速度センサ30が非常に小さいため、如何なる荷役機械でも簡単にセンサを搭載し過加速度を検出することができる。
【0060】
さらにまた、センサを搭載する装置によっては、荷役機械の可搬重量、作業内容に応じて検出する過加速度を変更する必要があるが、従来の機械式による過速度・過加速度検出機構では、検出する過速度・過加速度を変更する場合、変更ができなかったり、また変更できても検出部の構成部品の一部を入れ替える必要がある。これに対し、本実施の形態によれば過加速度の検出設定値を例えば半導体メモリに環境パラメータとしてデータが格納されているため、過加速度の検出値を変更する場合は、環境パラメータを変更するだけで容易に対応することが可能である。
【0061】
また、従来のオイルダンパーによる飛び跳ね対策機構などの場合、このオイルダンパーによる作動力が抵抗となり、上下動作時の操作性を悪化させるという問題があったが、本実施の形態によれば、MEMS技術による加速度センサ30によって過加速検出を行うことから、上下動作時の操作性に全く影響を与えることはないという効果もある。
【0062】
図7は、本発明の他の実施の形態の荷役機械のエアー制御系の構成を示すブロック図、図8は、同実施の形態における飛び跳ね対策処理方法の要部を示すフローチャートである。以下、上記実施の形態と対応する部分には同一の符号を付しその詳細な説明を省略する。
【0063】
図7に示すように、本実施の形態の荷役機械1Aにおいては、上記実施の形態のエアー制御回路に加えて、シリンダ20のピストンロッド20aに取り付けたブレーキユニット40と、このブレーキユニット40をオン/オフ制御するブレーキ用電磁弁41を有している。
ここで、ブレーキ用電磁弁41は、上述したエアー源22に接続されており、また上述した電子制御回路25からの命令によってオン/オフ制御されるようになっている。
【0064】
このような構成を有する本実施の形態において飛び跳ね対策処理を行う場合には、まず、上記実施の形態の場合と同様に、飛び跳ね対策処理が実行されているか否かを判断し(ステップS11)、飛び跳ね対策処理が実行されていないと判断した場合には、ステップS12に進み、上述したように、加速度センサ30からの出力される加速度出力信号に基づき、操作ボックス9即ち荷役物7の加速度が過加速度設定値(閾値)を超えているか否かを判断する。
【0065】
そして、さらにその状態が所定時間を経過したことが検出された(ステップS13)場合、飛び跳ね動作発生(荷役物落下)と判断し、電磁弁24を動作させて圧力比例制御弁21からのシリンダ20へのエアー給気・排気処理を中止しエアー回路を遮断する(ステップS14)とともに、ブレーキ用電磁弁41を動作させてブレーキユニット40をオンにしてピストンロッド20aをロックする(ステップS15)。
これにより、アーム4の急激な上昇を停止させる。
【0066】
なお、図8のステップS12において、電子制御回路25で読み込んだ加速度データが、予め設定されている過加速度検出閾値を超えていないと判断した場合には、現在の加速度の累積加算処理を行い現在の速度を算出する。そして、加速度が”0”(停止状態)の場合は、累積加算結果をクリアする(ステップS18)。
【0067】
このような構成を有する本実施の形態によれば、上記実施の形態と同様の効果に加え、ブレーキユニット40による負荷をピストンロッド20aに対して与えることができるため、飛び跳ね動作検出時において、より確実にアーム4を停止させることができるというメリットがある。
その他の構成及び作用効果については上述の実施の形態と同一であるのでその詳細な説明を省略する。
【0068】
なお、本発明は上述の実施の形態に限られることなく、種々の変更を行うことができる。
例えば、上述の実施の形態においては、加速度センサ30をアーム4の先端部の操作ボックス9内に設けるようにしたが、本発明はこれに限られず、例えば、アーム4の中腹部やシリンダ20のピストンロッド20aに加速度センサ30を設けることもできる。
ただし、跳び跳ね状態を感度良く検出する観点からは、上記実施の形態のように、アーム4の先端部に設けることが好ましい。
【0069】
また、上述の実施の形態においては、過加速度の検出結果が所定の閾値を超えた場合に飛び跳ね対策処理を開始するようにしたが、本発明はこれに限られず、過加速度の積分値であるアーム速度を検出し、その検出結果が所定の閾値を超えた場合に飛び跳ね対策処理を開始するように構成することもできる。
【0070】
アーム速度の検出結果が所定の閾値を超えた場合に飛び跳ね対策処理を開始する処理は、特に過加速度検出閾値を超えない状態でアームが加速されていき過速度状態に達した場合に有効となるものである。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】本発明に係る荷役機械の実施の形態の外観構成を示す概略図
【図2】同荷役機械のエアー制御系の構成を示すブロック図
【図3】同荷役機械における飛び跳ね対策処理方法の一例を示すフローチャート
【図4】同飛び跳ね対策処理方法の説明をするための図
【図5】荷役機械に飛び跳ね対策機構を全く有していない場合において、バランスモードの状態から荷役物を落下させた場合の加速度及び速度の変化を示すグラフ
【図6】本実施の形態の飛び跳ね対策処理を実行したときの加速度及び速度の変化を示すグラフ
【図7】本発明の他の実施の形態の荷役機械のエアー制御系の構成を示すブロック図
【図8】同実施の形態における飛び跳ね対策処理方法の要部を示すフローチャート
【図9】従来の荷役機械のエアー制御系の構成を示すブロック図
【符号の説明】
【0072】
1…荷役機械、3…本体、4…アーム、7…荷役物、9…操作ボックス(操作部)、20…空気圧シリンダ(エアー式駆動部)、20a…ピストンロッド、21…圧力比例制御弁、22…エアー源、24…電磁弁、25…電子制御回路、28…過加速度検出値設定回路、30…加速度センサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上下方向に移動自在に構成され、所定の荷役物をクランプ機構によって保持して昇降させるアームを有する昇降機構と、
所定のエアー源から供給されるエアーの圧力によって前記昇降機構を駆動するエアー式駆動部とを有し、
前記エアー式駆動部に対して給排気するエアーの流量及び圧力を所定の操作部からの命令に基づき圧力比例制御弁を用いて制御する荷役機械であって、
前記昇降機構の動作加速度を検出する加速度センサと、
前記圧力比例制御弁の動作を制御する電子制御回路とを備え、
前記加速度センサにて得られた結果に基づき、前記電子制御回路から前記圧力比例制御弁への命令によって前記エアー式駆動部に対するエアーの流量及び圧力を制御するように構成されている荷役機械。
【請求項2】
前記圧力比例制御弁と前記エアー式駆動部との間に、前記電子制御回路によって制御される電磁弁が設けられている請求項1記載の荷役機械。
【請求項3】
前記加速度センサが、MEMS技術によるセンサから構成されている請求項1又は2のいずれか1項記載の荷役機械。
【請求項4】
前記エアー式駆動部を停止させるエアー式のブレーキユニットと、当該ブレーキユニットのオン/オフを制御するブレーキ用電磁弁とを有し、当該ブレーキ用電磁弁が前記電子制御回路によって制御されるように構成されている請求項1乃至3のいずれか1項記載の荷役機械。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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