荷役用クレーンの走行制御装置
【課題】この発明は、荷役用クレーンの走行開始時に、走行方向への風荷重によってコンテナクレーンが押し流されることを防止することを目的とする。
【解決手段】荷役用クレーンの走行方向への駆動力を供給する走行モータを備え、荷役用クレーンの走行停止時に、走行方向の風速に応じて走行モータのトルクを制御し、荷役用クレーンを零速度状態とする。零速度状態における走行方向の風速と走行モータのトルクとを入力パラメータとして、走行方向の風速と走行モータのトルクとコンテナクレーン係数と間に成立する関係式から、コンテナクレーン係数を算出する。荷役用クレーンの走行開始直前において、走行開始直前の走行方向の風速とコンテナクレーン係数とを入力パラメータとして上述の関係式から起動トルクを算出する。ブレーキを閉めた状態において、起動トルクが確立したことを確認しブレーキを開放する。
【解決手段】荷役用クレーンの走行方向への駆動力を供給する走行モータを備え、荷役用クレーンの走行停止時に、走行方向の風速に応じて走行モータのトルクを制御し、荷役用クレーンを零速度状態とする。零速度状態における走行方向の風速と走行モータのトルクとを入力パラメータとして、走行方向の風速と走行モータのトルクとコンテナクレーン係数と間に成立する関係式から、コンテナクレーン係数を算出する。荷役用クレーンの走行開始直前において、走行開始直前の走行方向の風速とコンテナクレーン係数とを入力パラメータとして上述の関係式から起動トルクを算出する。ブレーキを閉めた状態において、起動トルクが確立したことを確認しブレーキを開放する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、港湾のコンテナターミナル内等で使用されるコンテナクレーン等の荷役用クレーンの走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾のコンテナターミナル内等において、岸壁に沿った走行用レール上を走行するコンテナクレーンが知られている。コンテナクレーンは、岸壁に接岸したコンテナ船等の船舶と陸上との間でコンテナ等の荷役作業を行うために用いられる。コンテナクレーンは大きく分けて4つの動作からなる。4つの動作は、(1)スプレッダを上下させるための巻上動作、(2)運転室とトロリを陸側、海側へ移動させるための横行動作、(3)コンテナ船が通過する際にはブームが船に接触してしまうため、衝突を回避するためブームを起こしたり倒したりする起伏動作、(4)岸壁と陸側のエプロンに平行して敷かれている走行用レール上を走るコンテナクレーン脚部によりコンテナ船のコンテナ列に沿って移動するための走行動作である。
【0003】
各動作の駆動力にはモータが使用され、停止にはシュー形ブレーキが使用される。シュー形ブレーキはフェイルセーフのため各動作の制御装置からのブレーキ開放指令である電気信号が無い限りモータが回らないようブレーキを常時閉めている機構であり、運転動作開始時に各動作の制御装置がブレーキ開放指令を出力し、ブレーキが開放されモータが回転可能になりモータの駆動力にて各動作の運転が実現されている。
【0004】
コンテナクレーンの走行動作に関して、特許文献1(特公昭59−12598号公報)には、トロリの横行位置および横行方向への風荷重によって、クレーン本体の左車輪と右車輪に加わる負荷荷重が異なることに着目し、左車輪と右車輪の駆動トルクをそれぞれ変化させるモータ制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭59−12598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、上述したコンテナクレーンが停止状態から走行動作を開始する場合には、ブレーキ開放指令が出された後、運転指令が出されて走行モータに電流が流される。風が無い場合には、この運転手順で問題ないが、コンテナクレーンは海に面した場所に設置されるため風の影響を強く受けやすい。特に地域によっては常に風が吹いている場所もある。そのため、風がある場合には、ブレーキ開放指令後から走行モータに電流が流されて走行モータのトルクが確立されるまでの間に、走行方向への風荷重によってコンテナクレーンが押し流されてしまうという課題があった。
【0007】
その結果、インチング操作(コンテナ船のコンテナ列に合わせてコンテナクレーンの位置を微調整する際の操作方法をいう。)の際に少し移動したいにも関わらず、風に流されてしまうため大幅な作業効率の低下を招く場合があった。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、コンテナクレーンの停止状態からの走行開始時に、走行方向への風荷重によってコンテナクレーンが押し流されることを防止することのできる荷役用クレーンの走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記の目的を達成するため、走行用レール上を走行する荷役用クレーンの走行位置制御装置において、荷役用クレーンの走行方向への駆動力を供給する走行モータと、走行モータの回転を制動するブレーキと、走行方向の風速を取得する風速取得手段と、荷役用クレーンの走行停止時に、走行方向の風速に応じて走行モータのトルクを制御し、荷役用クレーンを零速度状態とする零速度制御手段と、零速度状態における走行方向の風速と走行モータのトルクとを入力パラメータとして、走行方向の風速と走行モータのトルクとコンテナクレーン係数と間に成立する関係式から、コンテナクレーン係数を算出する係数算出手段と、荷役用クレーンの走行開始直前において、走行開始直前の走行方向の風速と上記コンテナクレーン係数とを入力パラメータとして、上記関係式から走行モータのトルク(以下、起動トルクという。)を算出する起動トルク算出手段と、ブレーキを閉めた状態において、走行モータに起動トルクを発生させる起動トルク発生手段と、起動トルクが確立したか否かを判定する起動トルク確立判定手段と、起動トルクを確立した場合に、ブレーキを開放する走行開始手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、コンテナクレーンの停止状態からの走行開始時に、走行方向の風速に応じた起動トルクを確立させてからブレーキを開放するため、走行方向への風荷重によってコンテナクレーンが押し流されることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】港湾のコンテナターミナル内等に形成された荷役用クレーンの構成を説明するための側面図である。
【図2】港湾のコンテナターミナル内等に形成された荷役用クレーンの構成を説明するための正面図である。
【図3】コンテナクレーンの走行動作を制御する制御装置のブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1における走行停止の手順を表したフローチャートである。
【図5】走行方向の風速Vgとトロリ方向の風速Vtとのベクトル分解図である。
【図6】コンテナクレーン係数αに関する走行方向の風速Vgと走行モータトルクTとの関係を示す図である。
【図7】コンテナクレーン係数αの分布グラフである。
【図8】本発明の実施の形態1における走行開始の手順を表したフローチャートである。
【図9】逆風がある場合における本発明の走行制御の例を示すタイミングチャートである。
【図10】コンテナクレーン係数αを計算するためのフローチャートである。
【図11】従来の走行制御において、逆風がある場合の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0013】
実施の形態1.
[荷役用クレーンの基本構成]
本発明の実施の形態1における荷役用クレーンの基本構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は、港湾のコンテナターミナル内等に形成された荷役用クレーンの構成を説明するための側面図である。図2は、図1に示す荷役用クレーンの正面図である。
【0014】
図1において、岸壁1は海と陸との境界である。岸壁1の陸側には荷役エリアであるエプロン2が設けられている。エプロン2には、岸壁1に沿って走行用レール3が敷設されている(図2)。走行用レール3は、岸壁1に接岸し停泊する船の船体と略平行に敷設されている。走行用レール3上には、船体に積載されたコンテナ等の荷物を船体と陸との間で荷役する荷役用クレーン(以下、単にコンテナクレーンという。)4が配置されている。
【0015】
コンテナクレーン4の構成について説明する。コンテナクレーン脚部5は、4つの脚それぞれに、走行用レール3上を走行するための車輪を備えている。各脚には、車輪を駆動する電動式の走行モータ6と、シュー形ブレーキ(図示省略)とが対になって設けられている。
【0016】
コンテナクレーン4の上部には、平面視において走行用レール3と直行するように、所定の高さに水平に設けられ、その一端が船体の上方にまで突設されたブーム7を備えている。ブーム7には、ブーム7に沿って走行するトロリ8(運転室9を有する)が設けられている。トロリ8には、ワイヤロープ等の巻上用ロープ10が設けられている。巻上用ロープ10には、コンテナ等の荷物を掴んで支持するスプレッダ11が吊り下げられている。スプレッダ11は、巻上用ロープ10が巻き掛けられた巻上装置(図示省略)によって上下方向に移動(巻上げ、巻下げ)され、所定角度内における長手方向の傾き、短手方向の傾き、水平方向の回転が制御可能に構成されている。
【0017】
また、コンテナクレーン4には、走行モータ6、トロリ8、巻上装置等の各種機器を制御するための機械室12が設けられており、運転室9からの指令に従って各種機器を動作させる。さらに、コンテナクレーン4の上部には、コンテナクレーン4に吹く風の風速を計測する風速計21と、風向きを計測する風向計22とが取り付けられている。
【0018】
このような構成において、コンテナクレーン4は大きく分けて4つの動作を行う。4つの動作とは、スプレッダ11を上下方向に移動させる巻上動作、運転室9とトロリ8をブーム7に沿って陸側、海側(横行方向)に移動させる横行動作、ブーム7を起こしたり倒したりする起伏動作、及びコンテナクレーン4を、走行用レール3上で走行方向に移動させる走行動作である。
【0019】
図3は、本発明の実施の形態1におけるコンテナクレーン4の走行動作を制御する制御装置のブロック図である。図3では、本制御装置の各部がブロックで表され、ブロック間の主な信号の伝達が矢印で表されている。図3に示すコンテナクレーン4の制御装置には、走行制御装置24が設けられている。走行制御装置24は、PLC(Programmable Logic Controller)を有する制御装置であり、運転室9又は機械室12に設けられている。走行制御装置24には、上述した風速計21、風向計22が接続されており、風速、風向の情報を随時入力されている。加えて、走行制御装置24には、走行速度指令装置23、記憶装置25、走行モータ制御装置26、走行モータ制動用のシュー形ブレーキ(図示省略。以下、単にブレーキともいう。)が接続されている。走行速度指令装置23は、運転室9に設けられ、運転手によって運転指令(速度指令)、停止指令等の操作がなされるコントローラである。走行制御装置24は、走行速度指令装置23からの指令により速度基準を生成し、走行モータ制御装置26へ出力する。記憶装置25は、走行制御装置24からの指令に基づいて読み書き可能なメモリである。走行モータ制御装置26は、速度基準を入力として、速度基準に従った電流を走行モータ6に供給するドライブ装置である。また、走行モータ制御装置26は、走行モータ6のトルク値を走行制御装置24に出力する。走行モータ制動用のシュー形ブレーキは、走行制御装置24からのブレーキ開放指令である電気信号が無い限りモータが回らないようブレーキを常時閉めている機構である。
【0020】
上述した構成において、一般的に、コンテナクレーン4が停止状態から走行動作を開始する場合には、まず、走行制御装置24からブレーキにブレーキ開放指令が出される。その後、運転指令に応じた速度基準に従って走行モータ6に電流が流される。また、コンテナクレーン4が走行状態から停止する場合には、走行モータ6が所定速度(例えば、定格速度の15%程度)に減速した時点で、ブレーキを強制的に閉めて停止させている。
【0021】
しかし、コンテナクレーン4は海に面した位置に設置されているため風の影響を強く受けやすい。地域によっては常に風が吹いている場所もある。そのため、風がある場合には、ブレーキ開放指令後から走行モータ6のトルクが確立されるまでの間に、走行方向への風荷重によって予期しない方向にコンテナクレーン4が押し流されてしまう問題があった。その結果、インチング操作の際に大幅な作業効率の低下を招く場合があった。
【0022】
また、走行状態から停止する際には、走行速度が定格速度の数%に減速した時点でブレーキを締めているため、モータ回転中にブレーキを締めることになり、ブレーキパッドへの負担が大きかった。
【0023】
図11は、上述した従来の走行制御の一例を示す図であり、逆風がある場合の例を示すタイミングチャートである。時刻t1において、運転指令が出されると、走行制御装置24は、ブレーキにブレーキ開放指令を出すと同時に走行動作を開始するための速度基準を生成する。時刻t1後、速度基準に従って走行モータ6のトルクが確立されるまでの間、コンテナクレーン4は十分な駆動力を有していない。そのため、逆風を受けて反対方向に流されることとなる(図11(B))。また、時刻t3において、停止指令が出されると、停止するための速度基準が生成され、速度基準に従って走行モータ6のトルクが減少する。時刻t4において、走行モータ6が動作中にも関わらず、走行速度が定格速度の数%まで減速した時点でブレーキを閉める(図11(B))。そのため、ブレーキパッドに大きな負担がかかることとなる。
【0024】
[実施の形態1の特徴的制御]
次に、上述の問題を解決する本実施形態の特徴的な走行制御について説明する。本走行制御の特徴の1つは、コンテナクレーン4の走行停止時に、走行方向の風速に応じて走行モータ6のトルクを制御し、コンテナクレーン4を零速度状態(クレーンが完全に停止した状態)とする零速度制御を実施し、完全停止状態にてブレーキを締めることにある。これにより、ブレーキパッドへの負担を軽減することができる。さらに、本走行制御の大きな特徴は、上述の零速度状態を利用して、コンテナクレーン4が風に流されない為に必要な走行モータトルクと走行方向の風速との関係を記憶しておき、その後のコンテナクレーン4の走行開始時において、走行方向の風速に応じた必要な走行モータトルクを確立させてからブレーキを開放することにある。これにより、走行開始時にコンテナクレーン4が風の影響を受けて流されることを防止することができる。
【0025】
(走行停止時の特徴的制御)
より具体的な本実施形態の走行制御について説明する。図4は、本発明の走行停止の手順を表したフローチャートである。コンテナクレーン4が走行中から停止する場合、まず、走行速度指令装置23から走行制御装置24に停止指令が出力される(ステップS30)。走行制御装置24は、停止指令を受けて、クレーン停止に向かって速度基準を生成する。この速度基準は、現速度から零速度まで減速させるための速度制御情報である。走行制御装置24は走行モータ制御装置26に速度基準を出力する。走行モータ制御装置26は、速度基準に基づいて走行モータ6を減速停止させる。その後、コンテナクレーン4を停止状態で維持するトルク制御が開始される(ステップS31)。このコンテナクレーン4が完全に停止した状態での制御状態を零速度制御という。この零速度制御時に風速計21、風向計22から入力される風速、風向に基づいて走行制御装置24が走行方向の風速を計算する(ステップS32)。走行方向の風速は、図5に示すように、風速Vを走行方向の風速Vgとトロリ方向(横行方向)の風速Vtとにベクトル分解して、Vg=Vcosθgより計算できる。零速度制御時には、風速Vgの風荷重の影響でコンテナクレーン4が動かないように走行モータトルクを発生させている。この走行モータトルクは、走行モータ制御装置26に検出されている。走行制御装置24は、走行モータ制御装置26から零速度制御時の走行モータトルクを読み込む(ステップS33)。走行制御装置24は、この走行方向の風速Vgと走行モータトルクとに基づいてコンテナクレーン係数αを計算する(ステップS34)。その後、走行制御装置24は、走行方向の風速Vgと走行モータトルクとの関係、及び計算されたコンテナクレーン係数αを記憶装置25に書き込む(ステップS35)。記憶装置25には、これらの履歴が記憶されている。走行制御装置24は、記憶装置25に記憶されている履歴から、コンテナクレーン係数αの平均を計算し、走行制御装置24内で保持する(ステップS36)。その後、走行制御装置24は、ブレーキ開放指令を切り、ブレーキを閉める(ステップS37)。
【0026】
(コンテナクレーン係数αの算出)
上述したコンテナクレーン係数αの算出方法について詳細に説明する。図6は、コンテナクレーン係数αに関する走行方向の風速Vgと走行モータトルクTとの関係を示す図である。走行方向の風速Vgの値を横軸にし、走行モータトルクTの値を縦軸にすると、図6のように、走行モータトルクTは風速Vgの2乗に比例したグラフとなる。風速Vgと走行モータトルクTとを入力パラメータとして、式(1)に基づきコンテナクレーン係数αを算出することができる。
【0027】
風荷重と風速の関係は建築分野の導出方法、クレーン機械での導出方法と様々な導出方法があるため一概ではないが、一例としてクレーン機械の風荷重に関する式を用いて説明する。式(2)は、風荷重Wの構成要素である速度圧qを示す式である。速度圧qは、風速Vgの2乗を係数として含み、風速計21が設置された高さh[m]、重力係数gを用いて式(2)で表される。
【0028】
風荷重Wは、速度圧qと、風力係数Cと、コンテナクレーン4の受圧面積A[m2]とを用いて式(3)で表される。さらに、速度圧qの式(2)と、風荷重Wの式(3)より風荷重Wの式は式(4)に示すように、風速Vgの2乗とその他の係数とに分けられる。その他の係数は、各コンテナクレーンに関係する固有係数の集まりであるため実機試験などを行い得られる値である。
【0029】
この風荷重Wにトルク変換係数k[m]を乗じた式が式(5)である。実際に検出する風速Vg以外の係数をコンテナクレーン係数αと置くと、式(5)と等価な式(1)が得られる。
【0030】
式(1)及び図6に示すように、1点でも風速Vgと走行モータトルクのデータがあれば、コンテナクレーン係数αを求めることが可能である。風速Vgと走行モータトルクのデータが増えれば、コンテナクレーン係数αのデータは図7のように分布する。この平均値を求めることにより、コンテナクレーンに関係する係数として正確な値となる。記憶装置25はこれら風速Vgと走行モータトルクの情報からコンテナクレーン係数αを逐次計算する。そのため、実測していない風速Vgに対して、必要な走行モータトルクを式(1)より導出できる。また、コンテナクレーン係数αは追風時と、逆風時で異なる係数となるため、それぞれ算出することとする。
【0031】
(走行開始時の特徴的制御)
続いて、本実施形態の走行開始時の制御について説明する。図8は、本発明の走行開始の手順を表したフローチャートである。まず、走行を開始するため走行速度指令装置23より運転指令(速度指令)が出される(ステップS40)。走行制御装置24は、運転指令が出された瞬間の風速計21と風向計22の検出値から走行方向の風速Vgを計算する(ステップS41)。走行制御装置24は、算出された走行方向の風速Vgとコンテナクレーン係数αを入力パラメータとして式(1)より、風に押し流されないための走行モータトルク(以下、起動トルクともいう。)を計算する(ステップS42)。走行制御装置24は、この起動トルクを走行モータ制御装置26へ出力する(ステップS43)。そして、走行モータ6のトルク値が起動トルクと同じ値になったか否か(トルクが確立したか否か)を逐次判定する(ステップS44)。トルクの確立が確認された後、ブレーキ開放指令を出力する(ステップS45)。その後、速度基準の生成値通りに走行させる。
【0032】
(走行制御の例)
図9は、上述した図11と同様に逆風がある場合における本発明の走行制御の例を示すタイミングチャートである。時刻t0において、運転指令に応じた走行モータトルク(起動トルク)が計算される(図8のステップS40〜S42)。時刻t0後、走行モータ制御装置26は入力された起動トルクに応じた電流を走行モータ6に流す(図8のステップS43)。時刻t1において、走行モータ6のトルクの確立が確認されると、ブレーキ開放指令が出力される(図8のステップS44〜S45)。トルクが確立されているため、風に流されることなく、時刻t1から速度基準に速度フィードバックを追従させることができる。
【0033】
また、時刻t3において、走行速度指令装置23から停止指令が入力された場合には、速度基準に従って減速停止後に零速度制御を実施し、完全停止状態でブレーキを閉める(図4)。走行モータ6が回転していない状態でブレーキを閉めるため、ブレーキパッドの磨耗を抑制することができる。
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、
(1)コンテナクレーン4が停止状態から走行開始する際に、風に流されない為に必要な走行モータトルクを確立させてからブレーキを開放する。そのため、コンテナクレーンが走行方向に流されることを防止することができる。
(2)また、コンテナクレーン4が走行停止する際には、零速度制御での完全停止状態にてブレーキを閉める。そのため、ブレーキパッドへの負担を軽減することができる。
【0035】
ところで、上述した実施の形態1においては、記憶装置25にコンテナクレーン係数αの履歴を逐次記憶し、その平均値をコンテナクレーン係数αとして用いることとしているが、これに限定されるものではない。例えば、最初に試験時や荷役前などにコンテナクレーン係数αを計算し、そのコンテナクレーン係数αを固定値として用いることとしても良い。図10は、コンテナクレーン係数αを計算するためのフローチャートである。図10の処理は、上述した図4のステップS30〜S34で説明した内容と同様であるため、その説明は省略する。何回か試験した後、コンテナクレーン係数αの平均値などを取り、走行制御装置24に設定する。走行開始時にはこの固定のコンテナクレーン係数αを用いて上述した図8の処理を実施する。固定のコンテナクレーン係数αを用いることにより、コンテナクレーン係数αを逐次更新する手法に比べて、計算処理を簡略化することができる。また、定期的に図10の手順を行うことで、経年劣化によりコンテナクレーン係数αが変化しても再調整することができる。
【0036】
また、コンテナクレーン係数αは、コンテナクレーン4は、コンテナを掴んでいる場合と、掴んでいない場合とで表面積が変わる。また、給電が走行ケーブルリール式の場合、走行位置によりケーブルリール内ケーブルの風を受ける面積が変わる。更に経年変化や季節的な温度変化などにより、機械の摩擦係数などの特性が変化する。そのため、より高い効果を得るため、これらの情報を元に、都度コンテナクレーン係数を補正することとしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 岸壁、 2 エプロン、 3 走行用レール、
4 コンテナクレーン、 5 コンテナクレーン脚部、6 走行モータ、
7 ブーム、 8 トロリ、 9 運転室、
10 巻上用ロープ、 11 スプレッダ、 12 機械室、
21 風速計、 22 風向計、 23 走行速度指令装置、
24 走行制御装置、 25 記憶装置、 26 走行モータ制御装置、
Vg 走行方向の風速、 T 走行モータトルク、 α コンテナクレーン係数
【技術分野】
【0001】
この発明は、港湾のコンテナターミナル内等で使用されるコンテナクレーン等の荷役用クレーンの走行制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
港湾のコンテナターミナル内等において、岸壁に沿った走行用レール上を走行するコンテナクレーンが知られている。コンテナクレーンは、岸壁に接岸したコンテナ船等の船舶と陸上との間でコンテナ等の荷役作業を行うために用いられる。コンテナクレーンは大きく分けて4つの動作からなる。4つの動作は、(1)スプレッダを上下させるための巻上動作、(2)運転室とトロリを陸側、海側へ移動させるための横行動作、(3)コンテナ船が通過する際にはブームが船に接触してしまうため、衝突を回避するためブームを起こしたり倒したりする起伏動作、(4)岸壁と陸側のエプロンに平行して敷かれている走行用レール上を走るコンテナクレーン脚部によりコンテナ船のコンテナ列に沿って移動するための走行動作である。
【0003】
各動作の駆動力にはモータが使用され、停止にはシュー形ブレーキが使用される。シュー形ブレーキはフェイルセーフのため各動作の制御装置からのブレーキ開放指令である電気信号が無い限りモータが回らないようブレーキを常時閉めている機構であり、運転動作開始時に各動作の制御装置がブレーキ開放指令を出力し、ブレーキが開放されモータが回転可能になりモータの駆動力にて各動作の運転が実現されている。
【0004】
コンテナクレーンの走行動作に関して、特許文献1(特公昭59−12598号公報)には、トロリの横行位置および横行方向への風荷重によって、クレーン本体の左車輪と右車輪に加わる負荷荷重が異なることに着目し、左車輪と右車輪の駆動トルクをそれぞれ変化させるモータ制御が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特公昭59−12598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
一般的に、上述したコンテナクレーンが停止状態から走行動作を開始する場合には、ブレーキ開放指令が出された後、運転指令が出されて走行モータに電流が流される。風が無い場合には、この運転手順で問題ないが、コンテナクレーンは海に面した場所に設置されるため風の影響を強く受けやすい。特に地域によっては常に風が吹いている場所もある。そのため、風がある場合には、ブレーキ開放指令後から走行モータに電流が流されて走行モータのトルクが確立されるまでの間に、走行方向への風荷重によってコンテナクレーンが押し流されてしまうという課題があった。
【0007】
その結果、インチング操作(コンテナ船のコンテナ列に合わせてコンテナクレーンの位置を微調整する際の操作方法をいう。)の際に少し移動したいにも関わらず、風に流されてしまうため大幅な作業効率の低下を招く場合があった。
【0008】
この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、コンテナクレーンの停止状態からの走行開始時に、走行方向への風荷重によってコンテナクレーンが押し流されることを防止することのできる荷役用クレーンの走行制御装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
この発明は、上記の目的を達成するため、走行用レール上を走行する荷役用クレーンの走行位置制御装置において、荷役用クレーンの走行方向への駆動力を供給する走行モータと、走行モータの回転を制動するブレーキと、走行方向の風速を取得する風速取得手段と、荷役用クレーンの走行停止時に、走行方向の風速に応じて走行モータのトルクを制御し、荷役用クレーンを零速度状態とする零速度制御手段と、零速度状態における走行方向の風速と走行モータのトルクとを入力パラメータとして、走行方向の風速と走行モータのトルクとコンテナクレーン係数と間に成立する関係式から、コンテナクレーン係数を算出する係数算出手段と、荷役用クレーンの走行開始直前において、走行開始直前の走行方向の風速と上記コンテナクレーン係数とを入力パラメータとして、上記関係式から走行モータのトルク(以下、起動トルクという。)を算出する起動トルク算出手段と、ブレーキを閉めた状態において、走行モータに起動トルクを発生させる起動トルク発生手段と、起動トルクが確立したか否かを判定する起動トルク確立判定手段と、起動トルクを確立した場合に、ブレーキを開放する走行開始手段とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
この発明によれば、コンテナクレーンの停止状態からの走行開始時に、走行方向の風速に応じた起動トルクを確立させてからブレーキを開放するため、走行方向への風荷重によってコンテナクレーンが押し流されることを防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】港湾のコンテナターミナル内等に形成された荷役用クレーンの構成を説明するための側面図である。
【図2】港湾のコンテナターミナル内等に形成された荷役用クレーンの構成を説明するための正面図である。
【図3】コンテナクレーンの走行動作を制御する制御装置のブロック図である。
【図4】本発明の実施の形態1における走行停止の手順を表したフローチャートである。
【図5】走行方向の風速Vgとトロリ方向の風速Vtとのベクトル分解図である。
【図6】コンテナクレーン係数αに関する走行方向の風速Vgと走行モータトルクTとの関係を示す図である。
【図7】コンテナクレーン係数αの分布グラフである。
【図8】本発明の実施の形態1における走行開始の手順を表したフローチャートである。
【図9】逆風がある場合における本発明の走行制御の例を示すタイミングチャートである。
【図10】コンテナクレーン係数αを計算するためのフローチャートである。
【図11】従来の走行制御において、逆風がある場合の一例を示すタイミングチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態について添付の図面に従って説明する。なお、各図中、同一又は相当する部分には同一の符号を付しており、その重複説明は適宜に簡略化ないし省略する。
【0013】
実施の形態1.
[荷役用クレーンの基本構成]
本発明の実施の形態1における荷役用クレーンの基本構成について図1及び図2を用いて説明する。図1は、港湾のコンテナターミナル内等に形成された荷役用クレーンの構成を説明するための側面図である。図2は、図1に示す荷役用クレーンの正面図である。
【0014】
図1において、岸壁1は海と陸との境界である。岸壁1の陸側には荷役エリアであるエプロン2が設けられている。エプロン2には、岸壁1に沿って走行用レール3が敷設されている(図2)。走行用レール3は、岸壁1に接岸し停泊する船の船体と略平行に敷設されている。走行用レール3上には、船体に積載されたコンテナ等の荷物を船体と陸との間で荷役する荷役用クレーン(以下、単にコンテナクレーンという。)4が配置されている。
【0015】
コンテナクレーン4の構成について説明する。コンテナクレーン脚部5は、4つの脚それぞれに、走行用レール3上を走行するための車輪を備えている。各脚には、車輪を駆動する電動式の走行モータ6と、シュー形ブレーキ(図示省略)とが対になって設けられている。
【0016】
コンテナクレーン4の上部には、平面視において走行用レール3と直行するように、所定の高さに水平に設けられ、その一端が船体の上方にまで突設されたブーム7を備えている。ブーム7には、ブーム7に沿って走行するトロリ8(運転室9を有する)が設けられている。トロリ8には、ワイヤロープ等の巻上用ロープ10が設けられている。巻上用ロープ10には、コンテナ等の荷物を掴んで支持するスプレッダ11が吊り下げられている。スプレッダ11は、巻上用ロープ10が巻き掛けられた巻上装置(図示省略)によって上下方向に移動(巻上げ、巻下げ)され、所定角度内における長手方向の傾き、短手方向の傾き、水平方向の回転が制御可能に構成されている。
【0017】
また、コンテナクレーン4には、走行モータ6、トロリ8、巻上装置等の各種機器を制御するための機械室12が設けられており、運転室9からの指令に従って各種機器を動作させる。さらに、コンテナクレーン4の上部には、コンテナクレーン4に吹く風の風速を計測する風速計21と、風向きを計測する風向計22とが取り付けられている。
【0018】
このような構成において、コンテナクレーン4は大きく分けて4つの動作を行う。4つの動作とは、スプレッダ11を上下方向に移動させる巻上動作、運転室9とトロリ8をブーム7に沿って陸側、海側(横行方向)に移動させる横行動作、ブーム7を起こしたり倒したりする起伏動作、及びコンテナクレーン4を、走行用レール3上で走行方向に移動させる走行動作である。
【0019】
図3は、本発明の実施の形態1におけるコンテナクレーン4の走行動作を制御する制御装置のブロック図である。図3では、本制御装置の各部がブロックで表され、ブロック間の主な信号の伝達が矢印で表されている。図3に示すコンテナクレーン4の制御装置には、走行制御装置24が設けられている。走行制御装置24は、PLC(Programmable Logic Controller)を有する制御装置であり、運転室9又は機械室12に設けられている。走行制御装置24には、上述した風速計21、風向計22が接続されており、風速、風向の情報を随時入力されている。加えて、走行制御装置24には、走行速度指令装置23、記憶装置25、走行モータ制御装置26、走行モータ制動用のシュー形ブレーキ(図示省略。以下、単にブレーキともいう。)が接続されている。走行速度指令装置23は、運転室9に設けられ、運転手によって運転指令(速度指令)、停止指令等の操作がなされるコントローラである。走行制御装置24は、走行速度指令装置23からの指令により速度基準を生成し、走行モータ制御装置26へ出力する。記憶装置25は、走行制御装置24からの指令に基づいて読み書き可能なメモリである。走行モータ制御装置26は、速度基準を入力として、速度基準に従った電流を走行モータ6に供給するドライブ装置である。また、走行モータ制御装置26は、走行モータ6のトルク値を走行制御装置24に出力する。走行モータ制動用のシュー形ブレーキは、走行制御装置24からのブレーキ開放指令である電気信号が無い限りモータが回らないようブレーキを常時閉めている機構である。
【0020】
上述した構成において、一般的に、コンテナクレーン4が停止状態から走行動作を開始する場合には、まず、走行制御装置24からブレーキにブレーキ開放指令が出される。その後、運転指令に応じた速度基準に従って走行モータ6に電流が流される。また、コンテナクレーン4が走行状態から停止する場合には、走行モータ6が所定速度(例えば、定格速度の15%程度)に減速した時点で、ブレーキを強制的に閉めて停止させている。
【0021】
しかし、コンテナクレーン4は海に面した位置に設置されているため風の影響を強く受けやすい。地域によっては常に風が吹いている場所もある。そのため、風がある場合には、ブレーキ開放指令後から走行モータ6のトルクが確立されるまでの間に、走行方向への風荷重によって予期しない方向にコンテナクレーン4が押し流されてしまう問題があった。その結果、インチング操作の際に大幅な作業効率の低下を招く場合があった。
【0022】
また、走行状態から停止する際には、走行速度が定格速度の数%に減速した時点でブレーキを締めているため、モータ回転中にブレーキを締めることになり、ブレーキパッドへの負担が大きかった。
【0023】
図11は、上述した従来の走行制御の一例を示す図であり、逆風がある場合の例を示すタイミングチャートである。時刻t1において、運転指令が出されると、走行制御装置24は、ブレーキにブレーキ開放指令を出すと同時に走行動作を開始するための速度基準を生成する。時刻t1後、速度基準に従って走行モータ6のトルクが確立されるまでの間、コンテナクレーン4は十分な駆動力を有していない。そのため、逆風を受けて反対方向に流されることとなる(図11(B))。また、時刻t3において、停止指令が出されると、停止するための速度基準が生成され、速度基準に従って走行モータ6のトルクが減少する。時刻t4において、走行モータ6が動作中にも関わらず、走行速度が定格速度の数%まで減速した時点でブレーキを閉める(図11(B))。そのため、ブレーキパッドに大きな負担がかかることとなる。
【0024】
[実施の形態1の特徴的制御]
次に、上述の問題を解決する本実施形態の特徴的な走行制御について説明する。本走行制御の特徴の1つは、コンテナクレーン4の走行停止時に、走行方向の風速に応じて走行モータ6のトルクを制御し、コンテナクレーン4を零速度状態(クレーンが完全に停止した状態)とする零速度制御を実施し、完全停止状態にてブレーキを締めることにある。これにより、ブレーキパッドへの負担を軽減することができる。さらに、本走行制御の大きな特徴は、上述の零速度状態を利用して、コンテナクレーン4が風に流されない為に必要な走行モータトルクと走行方向の風速との関係を記憶しておき、その後のコンテナクレーン4の走行開始時において、走行方向の風速に応じた必要な走行モータトルクを確立させてからブレーキを開放することにある。これにより、走行開始時にコンテナクレーン4が風の影響を受けて流されることを防止することができる。
【0025】
(走行停止時の特徴的制御)
より具体的な本実施形態の走行制御について説明する。図4は、本発明の走行停止の手順を表したフローチャートである。コンテナクレーン4が走行中から停止する場合、まず、走行速度指令装置23から走行制御装置24に停止指令が出力される(ステップS30)。走行制御装置24は、停止指令を受けて、クレーン停止に向かって速度基準を生成する。この速度基準は、現速度から零速度まで減速させるための速度制御情報である。走行制御装置24は走行モータ制御装置26に速度基準を出力する。走行モータ制御装置26は、速度基準に基づいて走行モータ6を減速停止させる。その後、コンテナクレーン4を停止状態で維持するトルク制御が開始される(ステップS31)。このコンテナクレーン4が完全に停止した状態での制御状態を零速度制御という。この零速度制御時に風速計21、風向計22から入力される風速、風向に基づいて走行制御装置24が走行方向の風速を計算する(ステップS32)。走行方向の風速は、図5に示すように、風速Vを走行方向の風速Vgとトロリ方向(横行方向)の風速Vtとにベクトル分解して、Vg=Vcosθgより計算できる。零速度制御時には、風速Vgの風荷重の影響でコンテナクレーン4が動かないように走行モータトルクを発生させている。この走行モータトルクは、走行モータ制御装置26に検出されている。走行制御装置24は、走行モータ制御装置26から零速度制御時の走行モータトルクを読み込む(ステップS33)。走行制御装置24は、この走行方向の風速Vgと走行モータトルクとに基づいてコンテナクレーン係数αを計算する(ステップS34)。その後、走行制御装置24は、走行方向の風速Vgと走行モータトルクとの関係、及び計算されたコンテナクレーン係数αを記憶装置25に書き込む(ステップS35)。記憶装置25には、これらの履歴が記憶されている。走行制御装置24は、記憶装置25に記憶されている履歴から、コンテナクレーン係数αの平均を計算し、走行制御装置24内で保持する(ステップS36)。その後、走行制御装置24は、ブレーキ開放指令を切り、ブレーキを閉める(ステップS37)。
【0026】
(コンテナクレーン係数αの算出)
上述したコンテナクレーン係数αの算出方法について詳細に説明する。図6は、コンテナクレーン係数αに関する走行方向の風速Vgと走行モータトルクTとの関係を示す図である。走行方向の風速Vgの値を横軸にし、走行モータトルクTの値を縦軸にすると、図6のように、走行モータトルクTは風速Vgの2乗に比例したグラフとなる。風速Vgと走行モータトルクTとを入力パラメータとして、式(1)に基づきコンテナクレーン係数αを算出することができる。
【0027】
風荷重と風速の関係は建築分野の導出方法、クレーン機械での導出方法と様々な導出方法があるため一概ではないが、一例としてクレーン機械の風荷重に関する式を用いて説明する。式(2)は、風荷重Wの構成要素である速度圧qを示す式である。速度圧qは、風速Vgの2乗を係数として含み、風速計21が設置された高さh[m]、重力係数gを用いて式(2)で表される。
【0028】
風荷重Wは、速度圧qと、風力係数Cと、コンテナクレーン4の受圧面積A[m2]とを用いて式(3)で表される。さらに、速度圧qの式(2)と、風荷重Wの式(3)より風荷重Wの式は式(4)に示すように、風速Vgの2乗とその他の係数とに分けられる。その他の係数は、各コンテナクレーンに関係する固有係数の集まりであるため実機試験などを行い得られる値である。
【0029】
この風荷重Wにトルク変換係数k[m]を乗じた式が式(5)である。実際に検出する風速Vg以外の係数をコンテナクレーン係数αと置くと、式(5)と等価な式(1)が得られる。
【0030】
式(1)及び図6に示すように、1点でも風速Vgと走行モータトルクのデータがあれば、コンテナクレーン係数αを求めることが可能である。風速Vgと走行モータトルクのデータが増えれば、コンテナクレーン係数αのデータは図7のように分布する。この平均値を求めることにより、コンテナクレーンに関係する係数として正確な値となる。記憶装置25はこれら風速Vgと走行モータトルクの情報からコンテナクレーン係数αを逐次計算する。そのため、実測していない風速Vgに対して、必要な走行モータトルクを式(1)より導出できる。また、コンテナクレーン係数αは追風時と、逆風時で異なる係数となるため、それぞれ算出することとする。
【0031】
(走行開始時の特徴的制御)
続いて、本実施形態の走行開始時の制御について説明する。図8は、本発明の走行開始の手順を表したフローチャートである。まず、走行を開始するため走行速度指令装置23より運転指令(速度指令)が出される(ステップS40)。走行制御装置24は、運転指令が出された瞬間の風速計21と風向計22の検出値から走行方向の風速Vgを計算する(ステップS41)。走行制御装置24は、算出された走行方向の風速Vgとコンテナクレーン係数αを入力パラメータとして式(1)より、風に押し流されないための走行モータトルク(以下、起動トルクともいう。)を計算する(ステップS42)。走行制御装置24は、この起動トルクを走行モータ制御装置26へ出力する(ステップS43)。そして、走行モータ6のトルク値が起動トルクと同じ値になったか否か(トルクが確立したか否か)を逐次判定する(ステップS44)。トルクの確立が確認された後、ブレーキ開放指令を出力する(ステップS45)。その後、速度基準の生成値通りに走行させる。
【0032】
(走行制御の例)
図9は、上述した図11と同様に逆風がある場合における本発明の走行制御の例を示すタイミングチャートである。時刻t0において、運転指令に応じた走行モータトルク(起動トルク)が計算される(図8のステップS40〜S42)。時刻t0後、走行モータ制御装置26は入力された起動トルクに応じた電流を走行モータ6に流す(図8のステップS43)。時刻t1において、走行モータ6のトルクの確立が確認されると、ブレーキ開放指令が出力される(図8のステップS44〜S45)。トルクが確立されているため、風に流されることなく、時刻t1から速度基準に速度フィードバックを追従させることができる。
【0033】
また、時刻t3において、走行速度指令装置23から停止指令が入力された場合には、速度基準に従って減速停止後に零速度制御を実施し、完全停止状態でブレーキを閉める(図4)。走行モータ6が回転していない状態でブレーキを閉めるため、ブレーキパッドの磨耗を抑制することができる。
【0034】
以上説明したように、本発明によれば、
(1)コンテナクレーン4が停止状態から走行開始する際に、風に流されない為に必要な走行モータトルクを確立させてからブレーキを開放する。そのため、コンテナクレーンが走行方向に流されることを防止することができる。
(2)また、コンテナクレーン4が走行停止する際には、零速度制御での完全停止状態にてブレーキを閉める。そのため、ブレーキパッドへの負担を軽減することができる。
【0035】
ところで、上述した実施の形態1においては、記憶装置25にコンテナクレーン係数αの履歴を逐次記憶し、その平均値をコンテナクレーン係数αとして用いることとしているが、これに限定されるものではない。例えば、最初に試験時や荷役前などにコンテナクレーン係数αを計算し、そのコンテナクレーン係数αを固定値として用いることとしても良い。図10は、コンテナクレーン係数αを計算するためのフローチャートである。図10の処理は、上述した図4のステップS30〜S34で説明した内容と同様であるため、その説明は省略する。何回か試験した後、コンテナクレーン係数αの平均値などを取り、走行制御装置24に設定する。走行開始時にはこの固定のコンテナクレーン係数αを用いて上述した図8の処理を実施する。固定のコンテナクレーン係数αを用いることにより、コンテナクレーン係数αを逐次更新する手法に比べて、計算処理を簡略化することができる。また、定期的に図10の手順を行うことで、経年劣化によりコンテナクレーン係数αが変化しても再調整することができる。
【0036】
また、コンテナクレーン係数αは、コンテナクレーン4は、コンテナを掴んでいる場合と、掴んでいない場合とで表面積が変わる。また、給電が走行ケーブルリール式の場合、走行位置によりケーブルリール内ケーブルの風を受ける面積が変わる。更に経年変化や季節的な温度変化などにより、機械の摩擦係数などの特性が変化する。そのため、より高い効果を得るため、これらの情報を元に、都度コンテナクレーン係数を補正することとしてもよい。
【符号の説明】
【0037】
1 岸壁、 2 エプロン、 3 走行用レール、
4 コンテナクレーン、 5 コンテナクレーン脚部、6 走行モータ、
7 ブーム、 8 トロリ、 9 運転室、
10 巻上用ロープ、 11 スプレッダ、 12 機械室、
21 風速計、 22 風向計、 23 走行速度指令装置、
24 走行制御装置、 25 記憶装置、 26 走行モータ制御装置、
Vg 走行方向の風速、 T 走行モータトルク、 α コンテナクレーン係数
【特許請求の範囲】
【請求項1】
走行用レール上を走行する荷役用クレーンの走行位置制御装置において、
前記荷役用クレーンの走行方向への駆動力を供給する走行モータと、
前記走行モータの回転を制動するブレーキと、
走行方向の風速を取得する風速取得手段と、
前記荷役用クレーンの走行停止時に、走行方向の風速に応じて前記走行モータのトルクを制御し、前記荷役用クレーンを零速度状態とする零速度制御手段と、
零速度状態における走行方向の風速と前記走行モータのトルクとを入力パラメータとして、走行方向の風速と前記走行モータのトルクとコンテナクレーン係数と間に成立する関係式から、コンテナクレーン係数を算出する係数算出手段と、
前記荷役用クレーンの走行開始直前において、走行開始直前の走行方向の風速と前記コンテナクレーン係数とを入力パラメータとして、前記関係式から、前記走行モータのトルク(以下、起動トルクという。)を算出する起動トルク算出手段と、
前記ブレーキを閉めた状態において、前記走行モータに前記起動トルクを発生させる起動トルク発生手段と、
前記起動トルクが確立したか否かを判定する起動トルク確立判定手段と、
前記起動トルクを確立した場合に、前記ブレーキを開放する走行開始手段と、
を備えることを特徴とする荷役用クレーンの走行制御装置。
【請求項2】
前記係数算出手段により算出された前記コンテナクレーン係数の履歴を記憶する記憶手段と、
前記履歴から平均コンテナクレーン係数を算出する平均係数算出手段と、を更に備え
前記起動トルク算出手段は、前記荷役用クレーンの走行開始直前において、走行開始直前の走行方向の風速と前記平均コンテナクレーン係数とを入力パラメータとして、前記関係式から起動トルクを算出すること、
を特徴とする請求項1記載の荷役用クレーンの走行制御装置。
【請求項3】
前記関係式は、前記走行モータのトルクが走行方向の風速の2条に比例し、コンテナクレーン係数を比例定数とする関数の式であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の荷役用クレーンの走行制御装置。
【請求項1】
走行用レール上を走行する荷役用クレーンの走行位置制御装置において、
前記荷役用クレーンの走行方向への駆動力を供給する走行モータと、
前記走行モータの回転を制動するブレーキと、
走行方向の風速を取得する風速取得手段と、
前記荷役用クレーンの走行停止時に、走行方向の風速に応じて前記走行モータのトルクを制御し、前記荷役用クレーンを零速度状態とする零速度制御手段と、
零速度状態における走行方向の風速と前記走行モータのトルクとを入力パラメータとして、走行方向の風速と前記走行モータのトルクとコンテナクレーン係数と間に成立する関係式から、コンテナクレーン係数を算出する係数算出手段と、
前記荷役用クレーンの走行開始直前において、走行開始直前の走行方向の風速と前記コンテナクレーン係数とを入力パラメータとして、前記関係式から、前記走行モータのトルク(以下、起動トルクという。)を算出する起動トルク算出手段と、
前記ブレーキを閉めた状態において、前記走行モータに前記起動トルクを発生させる起動トルク発生手段と、
前記起動トルクが確立したか否かを判定する起動トルク確立判定手段と、
前記起動トルクを確立した場合に、前記ブレーキを開放する走行開始手段と、
を備えることを特徴とする荷役用クレーンの走行制御装置。
【請求項2】
前記係数算出手段により算出された前記コンテナクレーン係数の履歴を記憶する記憶手段と、
前記履歴から平均コンテナクレーン係数を算出する平均係数算出手段と、を更に備え
前記起動トルク算出手段は、前記荷役用クレーンの走行開始直前において、走行開始直前の走行方向の風速と前記平均コンテナクレーン係数とを入力パラメータとして、前記関係式から起動トルクを算出すること、
を特徴とする請求項1記載の荷役用クレーンの走行制御装置。
【請求項3】
前記関係式は、前記走行モータのトルクが走行方向の風速の2条に比例し、コンテナクレーン係数を比例定数とする関数の式であること、
を特徴とする請求項1又は2記載の荷役用クレーンの走行制御装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−23294(P2013−23294A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−156499(P2011−156499)
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成23年7月15日(2011.7.15)
【出願人】(501137636)東芝三菱電機産業システム株式会社 (904)
【Fターム(参考)】
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