説明

荷役装置

【課題】電力供給装置における発電機の供給電力の周波数及び電圧を維持しつつ、その発電機を駆動するディーゼルエンジンの燃費効率を向上したコンテナ用ヤードクレーンを提供する。
【解決手段】荷役装置の電力供給装置9、15におけるディーゼルエンジン21と交流発電機22との間に変速手段23を介設する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量貨物の取扱作業を行う荷役装置に関し、詳しくはディーゼルエンジンで回転駆動される発電機からの電力により駆動される荷役装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重量貨物を取り扱う荷役装置では、正確に位置を決めかつ起動と停止を頻繁に繰り返すことができるように、電動モータを動力源とするものがある。そのような荷役装置の代表的なものとしては、コンテナヤードにおいてコンテナの積み替え作業を行うヤードクレーンや、重量物の搬送を行う荷役搬送車などがある。電動モータは、荷役装置に搭載された電力供給装置を電源とするが、この電力供給装置は、発電機と、その発電機に機械的に直結されたディーゼルエンジンとから主に構成される(特許文献1を参照)。電動モータを安定して動作させるには、電力供給装置は規定の周波数及び電圧(例えば、60Hz、AC440V)の電力を供給しなければならないが、そのためには発電機の回転子を所定の回転速度(例えば、1800rpm)で回転させる必要がある。従って、発電機と直結されているディーゼルエンジンは、大きな電力を消費している時でも電力をあまり消費していない時であっても、上記回転子の所定の回転速度と同じ回転速度(例えば、1800rpm)で運転されることになる。
【0003】
ところで、一般にディーゼルエンジンは、低負荷の領域では回転数を下げた方が同じ負荷状態においても燃費効率が良くなる特性を有している(特許文献1を参照)。例えば上記のヤードクレーンに用いられているドイツ社製BFシリーズのディーゼルエンジンは、回転速度が1200〜1500rpmの範囲になると、回転速度が1800rpmの場合に比べて同じ出力の時でも燃費効率が約10%以上も向上する。従って、電力供給装置のディーゼルエンジンの燃費を向上するには、回転速度を下げればよいことになる(図10を参照)。
【0004】
しかし、前述のようにディーゼルエンジンと発電機は機械的に直結されているため、ディーゼルエンジンの回転速度を下げると、発電機の回転子の回転速度も低下するので供給電源の周波数や電圧が変化してしまい、重量貨物の荷役作業に支障をきたしてしまうという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−218225号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、発電機の供給電力の周波数及び電圧を維持するために発電機を一定回転数で駆動すると共に、大きな電力を消費していない時にはディーゼルエンジンの回転数を下げることにより燃費効率を向上した荷役装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の目的を達成するため、本発明は、ディーゼルエンジンで駆動される交流発電機で発電された電力を電源とする電動モータにより駆動される荷役装置において、前記ディーゼルエンジンと前記交流発電機との間に可変速の変速手段を介設したことを特徴とする荷役装置である。
【0008】
上記の変速手段を、リングギアと、そのリングギアの片面に立設された軸受と、それら軸受に互いに対向して回転自在に取り付けられた一対のピニオンギアと、それらピニオンギアの両方に噛合する一対のサイドギアと、リングギアに噛合する出力ギアとを備えた差動歯車変速機とし、サイドギアの一方をディーゼルエンジンに接続し、他方を電動モータに接続し、かつ出力ギアを交流発電機に接続することが望ましい。
【0009】
あるいは、上記の変速手段を、太陽ギアと、その太陽ギアを外囲するリングギアと、遊星キャリアに回転自在に取り付けられ太陽ギア及びリングギアに噛合する複数の遊星ギアと、前記リングギアに噛合する入力ギアとを備えた遊星歯車減速機とし、遊星キャリアをディーゼルエンジンに接続し、該入力ギアを電動モータに接続し、かつ太陽ギアを交流発電機に接続することが望ましい。
【0010】
また、本発明の荷役装置は、ヤードクレーンや荷役搬送車に好適に用いられる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の荷役装置によれば、ディーゼルエンジンで駆動される交流発電機で発電された電力を電源とする電動モータにより駆動される荷役装置において、ディーゼルエンジンと回転子との間に可変速の変速手段を介設したので、ディーゼルエンジンの燃費が良い低回転速度でも発電機を定格の回転速度で駆動することができるため、発電機の供給電力の周波数及び電圧を維持しつつディーゼルエンジンの燃費効率を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の実施形態からなる荷役装置の例であるヤードクレーンの正面図である。
【図2】図1のヤードクレーンの側面図である。
【図3】本発明の実施形態からなる荷役装置の別の例である荷役搬送車の側面図である。
【図4】図3の荷役搬送車のA−A部の矢視図である。
【図5】電力供給装置の構成図である。
【図6】変速手段の構成の第1の例である。
【図7】変速手段の構成の第2の例である。
【図8】変速手段の構成の第2の例の作用を説明する正面図である。
【図9】変速手段の制御システムの一例を示すブロック図である。
【図10】ディーゼルエンジンにおけるエンジン出力と燃料消費量との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。
【0014】
図1及び図2は、本発明の実施形態からなる荷役装置の例を示す。
この荷役装置は、コンテナヤードにおいてコンテナ1の積み替えを行うヤードクレーンである。このヤードクレーンは、2本の脚部2とそれらの上部に渡されたガーダ3からなる門型の形状を有しており、コンテナ1と結合するスプレッダ4を、ヘッドブロック5を介してワイヤ6により巻き上げ又は巻き下げする回転ドラム7を備えたトロリー8が、ガーダ3上に横行可能に載置されている。これらの回転ドラム7やトロリー8などは、図示しない電動モータにより駆動され、その電力は片方の脚部2に設置された電力供給装置9から供給されるようになっている。
【0015】
図3及び図4は、本発明の実施形態からなる荷役装置の別の例を示す。
この荷役装置は、コンテナヤードや製造工場において重量物の搬送を行う荷役搬送車である。この荷役搬送車は、平板状の架台11に重量物12を積載して、複数のタイヤ13により自在に走行するものである。タイヤ13の一部は電動モータ14により駆動され、その電力は車輌中央部に吊設された電力供給装置15から供給されるようになっている。
【0016】
これらの荷役装置の電力供給装置9、15は、図5に示すように、ディーゼルエンジン
21、交流発電機22、及びそれらの間に介設された変速手段23から基本的に構成される。この変速手段23は、ディーゼルエンジン21から入力軸に伝達される回転速度(例えば、700〜1800rpm)を増速して、交流発電機22が所定の電力(例えば、周波数60Hz、AC440V)を得るのに必要な回転速度(例えば、1800rpm)に変換するものである。
【0017】
このように、荷役装置の電力供給装置におけるディーゼルエンジンと交流発電機との間に可変速の変速手段を介設することにより、ディーゼルエンジンの回転速度を必要な電力が得られる範囲内でできるだけ低い回転速度に低下させても、発電機を規定の回転速度で運転することができるため、発電機の供給電力の周波数及び電圧を維持しつつディーゼルエンジンの燃費効率の向上を図ることができる。
【0018】
図6は、変速手段の第1の例を示す。
この変速手段は、リングギア30と、その片面に設置された互いに対向する2枚の軸受板31と、それら軸受板31にピニオンシャフト32を介して回転自在に取り付けられた一対のピニオンギア33と、それらピニオンギア33の双方に噛合する一対のサイドギア34、及びリングギア30に噛合する出力ギア35から主に構成される作動歯車減速機である。
【0019】
リングギア30側に配置されたサイドギア34Aは入力軸36に、出力ギア35は出力軸37に、それぞれ接続されている。また、もう片方のサイドギア34Bは、電動モータ38に接続され回転駆動されるようになっている。
【0020】
この変速手段の作用を以下に説明する。なお、ここでは交流発電機22を駆動する所定の回転速度が1800rpm、ディーゼルエンジン21の回転速度が700〜1800rpmの間で負荷に応じて可変速となる条件を例にとる。
【0021】
ディーゼルエンジン21から700〜1800rpmの回転速度が入力軸36に伝達されるとサイドギア34Aが回転する。このとき、他方のサイドギア34Bは、電動モータ38と接続しているため、2つのピニオンギア33と軸受板31を介してリングギア30が入力軸36の回転速度と電動モータ38の回転速度を加えた速度で回転する。この回転は噛合する出力ギア35を通じて出力軸37に伝達され、電動モータ38の回転速度を、例えば0〜800rpm(1800rpm−ディーゼルエンジン21の回転速度)とすることで、リングギア30に噛合した出力軸37の回転速度を1800rpmの一定回転数とすることができる。従って、交流発電機22は規定の回転速度で駆動されるため、ディーゼルエンジン21の回転速度が変化しても荷役装置を駆動するのに必要な周波数60Hz、AC440Vの電力を安定して供給することができる。
【0022】
また、このように構成することにより、ディーゼルエンジン21の回転速度の変動を電動モータ38により補うことができるため、出力軸37の回転速度をより安定に保持することができる。
【0023】
図7及び図8は、変速手段の第2の例を示す。
この変速手段は、太陽ギア40と、その太陽ギア40のまわりを噛合しながら公転する複数の遊星ギア41と、それら遊星ギア41に内周面が噛合するリングギア42から主に構成される遊星歯車減速機である。各遊星ギア41は遊星キャリア43に回転自在に取り付けられており、その遊星キャリア43は入力軸44に接続されている。また、太陽ギア40は出力軸45に接続されており、リングギア42は太陽ギア40を中心として回転可能であると共に、そのリングギア42の外周面に噛合し、電動モータ46で回転する入力ギア47を設置している。
【0024】
この変速手段の作用を以下に説明する。なお、第1の例の変速手段の場合と同じ条件を用いる。
【0025】
ディーゼルエンジン21から700〜1800rpmの回転速度が入力軸44に伝達されると、遊星キャリア43が回転して遊星ギア41が太陽ギア40とリングギア42の間を公転する。このとき、リングギア42は外周面に噛合し、電動モータ46で回転する入力ギア47により回転が与えられるので、遊星ギア41の自転により入力軸44の回転速度に電動モータ46の回転速度が加えた回転速度で太陽ギア40が回転して交流発電機22に接続した出力軸45に回転速度が伝達される。
【0026】
従って、交流発電機22は規定の回転速度で駆動されるため、ディーゼルエンジン21の回転速度が変化しても荷役装置を駆動するのに必要な周波数60Hz、AC440Vの電力を安定して供給することができる。
【0027】
また、このように構成することにより、ディーゼルエンジン21の回転速度の変動を電動モータ46により補うことができるため、出力軸45の回転速度をより安定に保持することができる。
【0028】
上述した変速手段を用いるための制御システムの一例を図9に示す。
この制御システムは、ヤードクレーンにおいて用いられ、ディーゼルエンジン21と交流発電機22との間に減速機(作動歯車減速機又は遊星歯車減速機)48が介設されている。交流発電機22で発生した電力は、複数のインバータ49に送られ、回転ドラム7やトロリー8の電動モータ50などを起動する。このような制御システムにおいて、コントローラ51はコンテナの荷役に必要とされる回転数(回転数指令値)を算出してディーゼルエンジン21に伝達すると共に、所定の電力(例えば、周波数60Hz、AC440V)を得るのに必要な交流発電機22の一定回転数(例えば、1800rpm)との差に相当する回転数が電動モータ38、46に生じるように専用インバータ52に回転数の指令を与える。この結果、ディーゼルエンジン21の回転数と電動モータ38、46の回転数とを合わせた一定の回転数(例えば、1800rpm)が交流発電機22に伝達されることになる。なお、コントローラ51には、ヤードクレーン本体のコントローラを使用することができる。
【0029】
また、この制御システムを用いることにより、減速時や荷物の降下時などの回生時に巻上用モータ50などから回生電力が交流発電機22に戻り、その回転数を増加させる側に働くような場合には、電動モータ38の増速度を下げるか又は減速を行うことにより、交流発電機22の回転を一定に維持したままディーゼルエンジン21の回転数を回転数指令値よりも上昇させ、エンジンブレーキが動作する領域で運転させることによって、効果的に交流発電機22の回転数の上昇を抑制することが可能となる。これにより、これまで必要であった回生電力消費用の抵抗を不要とすることができる。
【符号の説明】
【0030】
1 コンテナ
2 脚部
3 ガーダ
4 スプレッダ
5 ヘッドブロック
6 ワイヤ
7 回転ドラム
8 トロリー
9 (ヤードクレーンの)電力供給装置
11 架台
12 重量物
13 タイヤ
14 電動モータ
15 (荷役搬送車の)電力供給装置
21 ディーゼルエンジン
22 交流発電機
23 変速手段
30 リングギア
31 軸受板
32 ピニオンシャフト
33 ピニオンギア
34 サイドギア
35 出力ギア
36 入力軸
37 出力軸
38 電動モータ
40 太陽ギア
41 遊星ギア
42 リングギア
43 遊星キャリア
44 入力軸
45 出力軸
46 電動モータ
47 入力ギア
48 減速機
49 インバータ
50 (回転ドラムやトロリーの)電動モータ
51 コントローラ
52 専用インバータ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディーゼルエンジンで駆動される交流発電機で発電された電力を電源とする電動モータにより駆動される荷役装置において、
前記ディーゼルエンジンと前記交流発電機との間に可変速の変速手段を介設した荷役装置。
【請求項2】
前記変速手段が、リングギアと、該リングギアの片面に立設された軸受と、該軸受に互いに対向して回転自在に取り付けられた一対のピニオンギアと、該ピニオンギアの両方に噛合する一対のサイドギアと、前記リングギアに噛合する出力ギアとを備えた差動歯車減速機であって、前記サイドギアの一方を前記ディーゼルエンジンに接続し、他方を電動モータに接続し、かつ前記出力ギアを前記交流発電機に接続した請求項1に記載の荷役装置。
【請求項3】
前記変速手段が、太陽ギアと、該太陽ギアを外囲するリングギアと、遊星キャリアに回転自在に取り付けられ該太陽ギア及び該リングギアに噛合する複数の遊星ギアと、前記リングギアに噛合する入力ギアとを備えた遊星歯車減速機であって、前記遊星キャリアを前記ディーゼルエンジンに接続し、該入力ギアを電動モータに接続し、かつ前記太陽ギアを前記交流発電機に接続した請求項1に記載の荷役装置。
【請求項4】
前記荷役装置が、ヤードクレーン又は荷役搬送車である請求項1〜3のいずれかに記載の荷役装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2010−233375(P2010−233375A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−79211(P2009−79211)
【出願日】平成21年3月27日(2009.3.27)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】