説明

荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法

【課題】試料表面とマーク表面との高低差に依存するビーム照射位置のずれを抑え、パターンの描画精度を向上させる。
【解決手段】荷電粒子ビーム描画装置1は、ステージ11上の試料Wに対して荷電粒子ビームによる描画を行う描画部2と、ステージ11上に位置して高さが異なる複数のマークM1〜M4と、マークM1〜M4に対するビームの照射によりマーク表面でのビームの照射位置を検出する照射位置検出器12と、その照射位置検出器12により検出された照射位置に応じてマーク表面でのビームのドリフト量を算出するドリフト量算出部35と、そのドリフト量算出部35により算出された少なくとも二つのマーク表面でのドリフト量を用いて試料表面でのドリフト量を求めるドリフト量処理部36と、そのドリフト量処理部36により求められた試料表面でのドリフト量を用いてビームの照射位置を補正する描画制御部33とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の大規模集積回路(LSI)の高集積化及び大容量化に伴って、半導体デバイスに要求される回路線幅は益々微小になってきている。半導体デバイスに所望の回路パターンを形成するためには、リソグラフィ技術が用いられており、このリソグラフィ技術では、マスク(レチクル)と称される原画パターンを用いたパターン転写が行われている。このパターン転写に用いる高精度なマスクを製造するためには、優れた解像度を有する荷電粒子ビーム描画装置が用いられている。
【0003】
この荷電粒子ビーム描画装置の一例としては、マスクやブランクなどの試料に描画するパターンを複数のストライプ領域に分割するとともに、各ストライプ領域を多数のサブ領域に分割し、試料が載置されたステージをストライプ領域の長手方向に移動させつつ、電子ビームを主偏向により各サブ領域に位置決めし、副偏向によりサブ領域の所定位置にショットして図形を描画する荷電粒子ビーム描画装置が開発されている。
【0004】
このような荷電粒子ビーム描画装置では、描画中に電子ビームの照射位置が様々な要因で時間経過と共にシフトするビームドリフトと呼ばれる現象が生じることがある。このビームドリフトの発生要因の一つとしては、反射電子による電界発生が挙げられる。詳しくは、試料に対する電子ビームの照射により反射電子が発生し、その発生した反射電子が装置内の光学系や検出器などに衝突してチャージアップされ、これにより新たな電界が生じる。この電界により電子線の軌道が変化するため、ビームドリフトが発生することになる。
【0005】
このビームドリフトをキャンセルするため、ドリフト補正が行われる。このドリフト補正では、電子ビームのドリフト量を測定し、そのドリフト量が無くなるように電子ビームのショット位置、すなわち照射位置が補正される。このとき、ドリフト量を測定するため、ステージ上に設けられた位置測定用のマークが定期的にビームにより走査される。このマークは、一定の高さを有するマーク部材であり、ステージ上に固定されている。
【0006】
前述の試料の厚さは、通常、公差により試料毎に異なっているため、ステージ上の試料表面の高さは試料毎に変化する。この試料表面の高さが変化すると、電子ビームの照射位置がずれることなる。このため、荷電粒子ビーム描画装置の中には、試料の高さに応じて照射位置を補正するため、例えば、ステージ上の試料表面にレーザ光を入反射させて試料の高さを測定する高さ測定器やその高さ測定器を校正するための校正ブロックなどを備える荷電粒子ビーム描画装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2010−219283号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述のようにマークを用いてドリフト補正を行う場合には、試料毎の厚さが異なるため、試料表面の高さとマーク表面の高さを一致させることは困難であり、試料表面の高さとマーク表面の高さが異なっているのが現状である。このため、電子ビームが試料表面やマーク表面に斜めに入射する場合には、マーク表面でのドリフト量と試料表面での真のドリフト量との間には誤差が生じるが、マーク表面でのドリフト量はそのままドリフト補正に用いられる。したがって、前述の誤差分だけドリフト補正が不十分となるため、ビーム照射位置のずれが発生し、パターンの描画精度は低下してしまう。
【0009】
特に、前述の反射電子のチャージアップにより発生した電界が突然消失すると、突発的にビームの入射角度が大きく変化することがあり、ビームの入射角度が大きくなるほど、マーク表面でのドリフト量と試料表面での真のドリフト量との間に生じる誤差は顕著になる。このため、前述と同様に、ドリフト補正が不十分となるため、ビーム照射位置のずれが発生し、パターンの描画精度は低下してしまう。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、試料表面とマーク表面との高低差に依存するビーム照射位置のずれを抑え、パターンの描画精度を向上させることができる荷電粒子ビーム描画装置及び荷電粒子ビーム描画方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の実施の一形態に係る荷電粒子ビーム描画装置は、ステージ上の試料に対して荷電粒子ビームによる描画を行う描画部と、ステージ上に位置して高さが異なる複数のマークと、マークに対する荷電粒子ビームの照射により、マーク表面での荷電粒子ビームの照射位置を検出する照射位置検出器と、照射位置検出器により検出された照射位置に応じて、マーク表面での荷電粒子ビームのドリフト量を算出するドリフト量算出部と、ドリフト量算出部により算出された少なくとも二つのマーク表面でのドリフト量を用いて、試料表面でのドリフト量を求めるドリフト量処理部と、ドリフト量処理部により求められた試料表面でのドリフト量を用いて、荷電粒子ビームの照射位置を補正する描画制御部とを備える。
【0012】
また、上記荷電粒子ビーム描画装置において、ドリフト量処理部は、複数のマークの中から、試料表面の高さより低いマークと試料表面の高さより高いマークとを選択し、選択した二つのマーク表面でのドリフト量を用いて、試料表面でのドリフト量を求めることが望ましい。
【0013】
また、上記荷電粒子ビーム描画装置において、ドリフト量処理部は、ドリフト量算出部により算出された三つ以上のマーク表面でのドリフト量を用いて二次関数により処理し、試料表面でのドリフト量を求めることが望ましい。
【0014】
また、上記荷電粒子ビーム描画装置において、複数のマークは、試料表面の高さより低いマークと試料表面の高さより高いマークとの二つのマークであることが望ましい。
【0015】
本発明の実施の一形態に係る荷電粒子ビーム描画方法は、ステージ上の試料に対して荷電粒子ビームによる描画を行う描画部と、ステージ上に位置して高さが異なる複数のマークとを備える荷電粒子ビーム装置を用いて、描画を行う荷電粒子ビーム描画方法であって、マークに対する荷電粒子ビームの照射により、マーク表面での荷電粒子ビームの照射位置を検出する工程と、検出した照射位置に応じて、マーク表面での荷電粒子ビームのドリフト量を算出する工程と、算出した少なくとも二つのマーク表面でのドリフト量を用いて、試料表面でのドリフト量を求める工程と、求めた試料表面でのドリフト量を用いて、荷電粒子ビームの照射位置を補正する工程とを有する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、試料表面とマーク表面との高低差に依存するビーム照射位置のずれを抑え、パターンの描画精度を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の実施の一形態に係る荷電粒子ビーム描画装置の概略構成を示す図である。
【図2】図1に示す荷電粒子ビーム描画装置が備えるステージの概略構成を示す図である。
【図3】図1に示す荷電粒子ビーム描画装置が行う描画処理の流れを示すフローチャートである。
【図4】図3に示す描画処理における試料表面の高さ合わせ及びマーク選択を説明するための説明図である。
【図5】図3に示す描画処理における試料表面での真のドリフト量の算出を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の実施の一形態について図面を参照して説明する。
【0019】
図1に示すように、本発明の実施形態に係る荷電粒子ビーム描画装置1は、荷電粒子ビームによる描画を行う描画部2と、その描画部2を制御する制御部3とを備えている。この荷電粒子ビーム描画装置1は、荷電粒子ビームとして電子ビームを用いた可変成形型の描画装置の一例である。なお、荷電粒子ビームは電子ビームに限られるものではなく、イオンビームなどの他の荷電粒子ビームであっても良い。
【0020】
描画部2は、描画対象となる試料Wを収容する描画室2aと、その描画室2aに連通する光学鏡筒2bとを有している。この光学鏡筒2bは、描画室2aの上面に設けられており、電子ビームBを成形及び偏向し、描画室2a内の試料Wに対して照射するものである。
【0021】
描画室2a内には、マスクやブランクなどの試料Wを支持する複数の支持ピン11aを有するステージ11が設けられている。支持ピン11aは、例えば試料Wを三点支持するため三本設けられている。このステージ11は水平面内で互いに直交するX方向及びY方向に移動可能に形成されており、図示しないステージ移動機構により移動する。さらに、ステージ11は、X方向及びY方向に直交するZ方向にも移動可能に形成されている。
【0022】
ステージ11の表面には、図1及び図2に示すように、水平面内でのステージ11の位置を測定するためのミラー11bと、電子ビームBのドリフト量を測定するための複数のマークM1〜M4が設けられている。ミラー11bはステージ11の表面の端部に固定されており、同様に各マークM1〜M4もステージ11の表面の端部に一列に並べて固定されている。これらのマークM1〜M4は一定の高さを有するマーク部材であって、各マークM1〜M4の高さは互いに異なっている。例えば、隣接するマーク同士の高さは50μm異なっている。なお、各マークM1〜M4の表面(上面)には、例えば、十字や格子などの図形が他の部分と異なる反射率を有する材料により形成されている。
【0023】
ステージ11の下方には、試料Wの表面(試料表面)の高さ基準となる基準高さ部材11cを有する台座11dが設けられている。基準高さ部材11cは、ステージ11の移動を妨げないように、例えば、待機するステージ11の切り欠き部分に位置するように台座11d上に固定されている。この基準高さ部材11cの表面に電子ビームBの焦点が合わされており、その表面と試料Wの表面が同じ高さにされ、試料Wの表面に電子ビームBの焦点が合わされる。
【0024】
また、ステージ11と台座11dとの間には、ステージ11をZ方向に移動させるための複数のくさび部材11eが設けられている。これらのくさび部材11eはステージ11と台座11dとの間にステージ11の両端から挿入されて設けられている。このようなくさび部材11eを有するステージ昇降機構は、ステージ11と台座11dとの間に位置する各くさび部材11eを抜き差しする方向に移動させ、ステージ11をZ方向に移動させる。
【0025】
図1に戻り、描画室2a内には、ステージ11上のマークM1〜M4に対する電子ビームBの照射により、その電子ビームBの照射位置を検出する照射位置検出器12が設けられている。この照射位置検出器12としては、マークM1〜M4が電子ビームBにより走査されると、そのマークM1〜M4により反射された反射電子を電流値として検出する電子検出器を用いているが、これに限るものではなく、例えば、反射電子ではなく二次電子を電流値として検出しても良い。
【0026】
また、描画室2aの外周面には、ステージ11上の試料Wの表面高さを検出する表面高さ検出器13が設けられている。この表面高さ検出器13は、ステージ11上の試料Wの表面に斜め上方からレーザ光を照射する投光部13aと、試料Wの表面からの反射光を受光する受光部13bとにより構成されている。この表面高さ検出器13は、投光部13aからレーザ光を出射し、ステージ11上の試料Wの表面で反射された反射光を受光部13bにより受光し、その反射光の受光位置からステージ11上の試料Wの表面高さを検出する。
【0027】
光学鏡筒2b内には、電子ビームBを出射する電子銃21と、その電子ビームBを集光する照明レンズ22と、ビーム成形用の第1の成形アパーチャ23と、投影用の投影レンズ24と、ビーム成形用の成形偏向器25と、ビーム成形用の第2の成形アパーチャ26と、試料W上にビーム焦点を結ぶ対物レンズ27と、試料Wに対する電子ビームBのショット位置(ビーム照射位置)を制御するための副偏向器28及び主偏向器29とが配置されている。
【0028】
このような描画部2では、電子ビームBが電子銃21から出射され、照明レンズ22により第1の成形アパーチャ23に照射される。この第1の成形アパーチャ23は例えば矩形状の開口を有している。これにより、電子ビームBが第1の成形アパーチャ23を通過すると、その電子ビームの断面形状は矩形状に成形され、投影レンズ24により第2の成形アパーチャ26に投影される。なお、この投影位置は成形偏向器25により偏向可能であり、投影位置の変更により電子ビームBの形状と寸法を制御することが可能である。その後、第2の成形アパーチャ26を通過した電子ビームBは、その焦点が対物レンズ27によりステージ11上の試料Wに合わされて照射される。なお、副偏向器28及び主偏向器29により、ステージ11上の試料Wに対する電子ビームBのショット位置を制御することが可能である。
【0029】
制御部3は、描画データを記憶する描画データ記憶部31と、その描画データを処理してショットデータを生成するショットデータ生成部32と、描画部2を制御する描画制御部33と、水平面内でのステージ11の位置を測定するステージ位置測定部34と、マーク表面でのドリフト量を算出するドリフト量算出部35と、そのマーク表面でのドリフト量を用いて試料表面でのドリフト量、すなわち真のドリフト量を求めるドリフト量処理部36と、その真のドリフト量を用いて電子ビームBのドリフトを補正するドリフト補正部37とを備えている。なお、前述の各部は電気回路などのハードウエアで構成されていても良く、これらの機能を実行するプログラムなどのソフトウエアで構成されていても良く、あるいは、それらの両方の組合せにより構成されていても良い。
【0030】
描画データ記憶部31は、試料Wにパターンを描画するための描画データを記憶する記憶部である。この描画データは、半導体集積回路の設計者などによって作成された設計データ(レイアウトデータ)が荷電粒子ビーム描画装置1に入力可能に、すなわち荷電粒子ビーム描画装置1用のフォーマットに変換されたデータであり、外部装置から描画データ記憶部31に入力されて保存されている。この描画データ記憶部31としては、例えば、磁気ディスク装置や半導体ディスク装置(フラッシュメモリ)などを用いることが可能である。
【0031】
なお、前述の設計データは、通常、多数の微小なパターンを含んでおり、そのデータ量はかなりの大容量になっている。この設計データがそのまま他のフォーマットに変換されると、変換後のデータ量はさらに増大してしまう。このため、描画データでは、データの階層化やパターンのアレイ表示などの方法により、データ量の圧縮化が図られている。このような描画データが、チップ領域のパターン、または、同一描画条件である複数のチップ領域を仮想的にマージして一つのチップに見立てた仮想チップ領域のパターンなどを規定するデータとなる。
【0032】
ショットデータ生成部32は、例えば、描画データにより規定されるパターンをストライプ状(短冊状)の複数のストライプ領域に分割し、さらに、各ストライプ領域を行列状の多数のサブ領域に分割する。加えて、ショットデータ生成部32は、各サブ領域内の図形の形状や大きさ、位置などを決定し、さらに、図形を一回のショットで描画不可能である場合には、描画可能な複数の部分領域に分割し、ショットデータを生成する。なお、ストライプ領域の短手方向(Y方向)の長さは電子ビームBを主偏向で偏向可能な長さに設定されている。
【0033】
描画制御部33は、前述のパターンを描画する際、ステージ11をストライプ領域の長手方向であるX方向に移動させつつ、電子ビームBを主偏向器29により各サブ領域に位置決めし、副偏向器28によりサブ領域の所定位置にショットして図形を描画する。その後、一つのストライプ領域の描画が完了すると、ステージ11をY方向にステップ移動させてから次のストライプ領域の描画を行い、これを繰り返して試料Wの描画領域の全体に電子ビームBによる描画を行う。なお、描画中には、ステージ11が一方向に連続的に移動しているため、描画原点がステージ11の移動に追従するように、主偏向器29によって電子ビームBにサブ領域の描画原点をトラッキングさせている。
【0034】
このように電子ビームBは、副偏向器28と主偏向器29によって偏向され、連続的に移動するステージ11に追従しながら、その電子ビームBのショット位置(ビーム照射位置)が決められる。ステージ11のX方向の移動を連続的に行うとともに、そのステージ11の移動に電子ビームBのショット位置を追従させることで、描画時間を短縮することができる。ただし、本発明の実施形態では、ステージ11のX方向の移動を連続して行っているが、これに限るものではなく、例えば、ステージ11を停止させた状態で一つのサブ領域の描画を行い、次のサブ領域に移動するときは描画を行わないステップアンドリピート方式の描画方法を用いても良い。また、主副二段の多段偏向器を用いているが、これに限るものではなく、一段だけの偏向器を用いても良い。
【0035】
ステージ位置測定部34は、ステージ11上に固定されたミラー11bにレーザ光を入反射させてステージ11の位置を測定するレーザ測長器により構成されている。このステージ位置測定部34は、測定した水平面内でのステージ11の位置を描画制御部33に送信する。なお、ステージ11の位置を測定する測定手段としては、ステージ11の位置を測定することが可能な手段であれば良く、その手段は特に限定されるものではない。
【0036】
ドリフト量算出部35は、電子ビームBによりステージ11上のマークM1〜M4を走査して照射位置検出器12により検出された電子ビームBの照射位置を用いて、その照射位置の基準位置からのずれ量を電子ビームBのドリフト量として算出し、その後、算出したドリフト量、すなわちマーク表面でのドリフト量を描画制御部33に送信する。このマーク表面でのドリフト量は必要に応じて描画制御部33により保存される。
【0037】
ドリフト量処理部36は、ドリフト量算出部35により算出された少なくとも二つのマーク表面でのドリフト量を用いて、ステージ11上の試料表面での真のドリフト量を求め、その求めたドリフト量をドリフト補正部37に送信する(詳しくは、後述する)。このとき、各マークM1〜M4の全てのドリフト量を用いても良いが、真のドリフト量を求めるためには、少なくとも二つのマークのドリフト量を用いる必要がある。
【0038】
ドリフト補正部37は、ドリフト量処理部36から受信した真のドリフト量に基づいて、その真のドリフト量を無くすドリフト補正量を算出し、その算出したドリフト補正量に基づいて電子ビームBの偏向量、すなわちビーム照射位置を補正し、その補正情報を描画制御部33に送信する。この描画制御部33は、前述の描画データに加え、補正情報に基づいて描画を行うことになる。
【0039】
次に、前述の荷電粒子ビーム描画装置1が行う描画処理(描画動作)について説明する。この描画処理はドリフト測定処理及びドリフト補正処理も含んでおり、制御部3により実行される。
【0040】
なお、ビームドリフトは描画開始、すなわち照射開始から安定するまで時間を要するため、ビームドリフトが照射開始時から安定するまでは、ドリフト補正を頻繁に行う必要がある。このため、ドリフト補正を行う補正間隔は照射開始直後短く、時間経過に伴って徐々に長くなっていく。このような補正間隔に基づいて、ドリフト量の測定を指示するドリフト量測定指示が定期的に出される。
【0041】
図3に示すように、まず、ドリフト量測定指示があったか否かが判断され(ステップS1)、その判断が繰り返される(ステップS1のNO)。このとき、ドリフト量測定指示があったと判断されると(ステップS1のYES)、ドリフト量の測定に用いるマークの選択が済んでいるか否かが判断される(ステップS2)。
【0042】
ステップS2において、ドリフト量測定に用いるマークの選択が済んでいると判断されると(ステップS2のYES)、処理はステップS5に進む。一方、ドリフト量測定に用いるマークの選択が済んでいないと判断されると(ステップS2のNO)、試料Wの表面(試料表面)の高さ合わせが行われる(ステップS3)。
【0043】
この試料Wの表面の高さ合わせでは、ステージ11上の試料Wの表面高さが表面高さ検出器13により検出され、この表面高さが描画制御部33に入力される。その入力された試料Wの表面高さに基づいて、図4に示すように、試料Wの表面(上面)と基準高さ部材11cの表面(上面)の高低差が無くなるようにステージ昇降機構によりステージ11が下方向に移動する。これにより、試料Wの表面の高さと基準高さ部材11cの表面の高さとが一致する。なお、試料Wの表面高さに関しては、例えば、試料Wの表面に対して数箇所で表面高さを検出し、その平均を取るようにしても良い。
【0044】
図3に戻り、前述のステップS3が完了すると、ドリフト量の測定に用いるマークが選択される(ステップS4)。このマークの選択では、図4に示すように、前述の試料Wの表面の高さと基準高さ部材11cの表面の高さとが一致した状態で、試料Wの表面に高さが近い二つのマークM3、M4が選択される。このとき、二つのマークM3、M4の高さ範囲Z1〜Z2に試料表面の高さZ0が入っている(Z1≦Z0≦Z2)。なお、ステージ11上の試料Wの表面高さは前記のステップS3で把握されており、さらに、各マークM1〜M4の高さに関する高さ情報は予め記憶部(図示せず)に記憶されている。これらの情報が用いられ、試料Wの表面に高さが近い二つのマークM3、M4が選択される。
【0045】
図3に戻り、前述のステップS4が完了すると、選択された二つのマークM3、M4が用いられ、ドリフト量が測定される(ステップS5)。このドリフト量の測定では、まず、マークM3がステージ11の移動により対物レンズ27の中心位置に合わせられ、その位置で電子ビームBにより走査される。このときの反射電子が電流値として照射位置検出器12により検出されて電子ビームBの照射位置が求められ、その照射位置の基準位置からのずれ量がマークM3の表面におけるドリフト量として算出される。次に、マークM4がステージ11の移動により対物レンズ27の中心位置に合わせられ、その位置で電子ビームBにより走査され、前述と同様にして、マークM4の表面におけるドリフト量が算出される。
【0046】
このステップS5が完了すると、ステージ11上の試料Wの表面における真のドリフト量が求められる(ステップS6)。この真のドリフト量の算出では、ドリフト量処理部36により、マークM3(第1のマーク)の表面におけるドリフト量と、マークM4(第2のマーク)の表面におけるドリフト量とが用いられ、ステージ11上の試料Wの表面における真のドリフト量が算出される。
【0047】
ここで、図5に示すように、真のドリフト量である試料表面でのドリフト量を(Xd,Yd)、その試料表面の高さをZ0とし、第1のマーク表面でのドリフト量を(X1,Y1)、そのマーク表面の高さをZ1とし、第2のマーク表面でのドリフト量を(X2,Y2)、そのマーク表面の高さをZ2とする(図4参照)。なお、試料表面及び各マーク表面に対する電子ビームBの入射角は同じであり、高低差によりドリフト量が異なっている。
【0048】
最初に、マーク表面でのドリフト量に関して一般式を求めるため、そのマーク表面でのドリフト量を(Xn,Yn)とし、そのマーク表面での高さをZnとすると、
Xn=Xd+Ax(Zn−Z0)
Yn=Yd+Ay(Zn−Z0)
という式が成り立つ。なお、nは自然数であり、Ax及びAyは比例係数である。
【0049】
前述のX座標に関する式であるXn=Xd+Ax(Zn−Z0)にn=1及びn=2を代入すると、
X1=Xd+Ax(Z1−Z0)
X2=Xd+Ax(Z2−Z0)
となり、これらの式から、
Ax=(X2−X1)/(Z2−Z1)
の式が得られる。
【0050】
この式をX1=Xd+Ax(Z1−Z0)に代入すると、
X1=Xd+(X2−X1)/(Z2−Z1)×(Z1−Z0)
となり、この式を変形すると、
Xd=X1−(X2−X1)/(Z2−Z1)×(Z1−Z0)
となる。
【0051】
次に、前述のY座標に関する式であるYn=Yd+Ay(Zn−Z0)にn=1及びn=2を代入し、前述と同様に計算を行うと、
Yd=Y1−(Y2−Y1)/(Z2−Z1)×(Z1−Z0)
の式が得られる。ここで、試料表面の高さZ0は基準高さ部材11cの高さと一致しており、基準高さの0(ゼロ)である。
【0052】
このようにして、真のドリフト量である試料表面でのドリフト量(Xd,Yd)が、第1のマーク表面での第1のドリフト量(X1,Y1)と、第2のマーク表面での第2のドリフト量(X2,Y2)とから算出される。
【0053】
図3に戻り、前述のステップS6が完了すると、算出された真のドリフト量が用いられ、ドリフト補正量が算出される(ステップS7)。このドリフト補正量の算出では、ドリフト補正部37により、真のドリフト量が用いられてドリフト補正量が算出され、その算出したドリフト補正量に基づいて電子ビームBの偏向量、すなわちビーム照射位置が補正され、その補正情報が得られる。
【0054】
その補正量算出後、描画データが描画データ記憶部31から読み出され、その読み出された描画データ、さらに、前述の補正情報に基づいて描画が行われる(ステップS8)。その後、描画が完了したか否かが判断され(ステップS9)、描画が完了していないと判断されると(ステップS9のNO)、処理がステップS1に戻され、前述の処理が繰り返される。一方、描画が完了したと判断されると(ステップS9のYES)、処理が終了する。
【0055】
以上説明したように、本実施形態によれば、少なくとも二つ以上のマーク表面でのドリフト量が用いられ、ステージ11上の試料Wの表面における真のドリフト量が求められる。このように、高低差を有する二つのマークM3、M4が用いられ、それらのドリフト量から試料表面での真のドリフト量が求められるので、マーク表面でのドリフト量と試料表面での真のドリフト量との間に生じる誤差を除去することが可能となる。これにより、試料表面とマーク表面との高低差に依存するビーム照射位置のずれを抑え、パターンの描画精度を向上させることができる。特に、反射電子のチャージアップにより発生した電界の消失などにより、突発的に電子ビームBの入射角度が大きく変化する場合でも、マーク表面でのドリフト量と試料表面での真のドリフト量との間に生じる誤差を確実に除去することができる。
【0056】
また、複数のマークM1〜M4の中から、試料Wの表面の高さより低いマークM3と試料Wの表面の高さより高いマークM4とが選択され、その選択された二つのマークM3、M4のドリフト量が用いられ、真のドリフト量が求められる。これにより、試料Wの表面の高さが二つのマークM3、M4の高さ範囲に含まれることになるので、真のドリフト量をより正確に求めることができる。さらに、二つのマークM3、M4だけを用いて真のドリフト量を求めることが可能であり、三つ以上のマークを用いる場合に比べ、真のドリフト量を算出する処理時間を短縮することができる。加えて、二つのマークM3、M4に対してだけドリフト測定を行えば良く、ドリフト測定に要する測定時間を短縮することもできる。
【0057】
なお、前述の実施形態では、二つのマークM3、M4のドリフト量を用いて真のドリフト量を求めているが、これに限るものではなく、例えば、三つ以上のマークのドリフト量を用いて、それらのドリフト量を二次関数により処理し、真のドリフト量を求めるようにしても良い。この場合には、真のドリフト量を算出するために用いるドリフト量の数が増えるため、真のドリフト量をより正確に求めることができる。
【0058】
また、前述の実施形態では、複数のマークとして四つのマークM1〜M4を設けているが、これに限るものではなく、例えば、二つのマークだけを設けるようにしても良い。この場合でも、前述と同様の効果を得ることができる。ただし、その二つのマークとしては、試料Wの表面の高さより低いマークと試料Wの表面の高さより高いマークとの二つのマークを設けることが望ましい。試料Wの厚さの公差が比較的小さい場合には、試料Wの表面の高さが二つのマークの高さ範囲に含まれるような二つのマークを設けることは可能である。
【0059】
以上、本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0060】
1 荷電粒子ビーム描画装置
2 描画部
2a 描画室
2b 光学鏡筒
3 制御部
11 ステージ
11a 支持ピン
11b ミラー
11c 基準高さ部材
11d 台座
11e くさび部材
12 照射位置検出器
13 表面高さ検出器
13a 投光部
13b 受光部
21 電子銃
22 照明レンズ
23 第1の成形アパーチャ
24 投影レンズ
25 成形偏向器
26 第2の成形アパーチャ
27 対物レンズ
28 副偏向器
29 主偏向器
31 描画データ記憶部
32 ショットデータ生成部
33 描画制御部
34 ステージ位置測定部
35 ドリフト量算出部
36 ドリフト量処理部
37 ドリフト補正部
B 電子ビーム
M1 マーク
M2 マーク
M3 マーク
M4 マーク
W 試料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ステージ上の試料に対して荷電粒子ビームによる描画を行う描画部と、
前記ステージ上に位置して高さが異なる複数のマークと、
前記マークに対する前記荷電粒子ビームの照射により、前記マーク表面での前記荷電粒子ビームの照射位置を検出する照射位置検出器と、
前記照射位置検出器により検出された前記照射位置に応じて、前記マーク表面での前記荷電粒子ビームのドリフト量を算出するドリフト量算出部と、
前記ドリフト量算出部により算出された少なくとも二つの前記マーク表面での前記ドリフト量を用いて、前記試料表面でのドリフト量を求めるドリフト量処理部と、
前記ドリフト量処理部により求められた前記試料表面でのドリフト量を用いて、前記荷電粒子ビームの照射位置を補正する描画制御部と、
を備えることを特徴とする荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項2】
前記ドリフト量処理部は、複数の前記マークの中から、前記試料表面の高さより低い前記マークと前記試料表面の高さより高い前記マークとを選択し、選択した二つの前記マーク表面での前記ドリフト量を用いて、前記試料表面でのドリフト量を求めることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項3】
前記ドリフト量処理部は、前記ドリフト量算出部により算出された三つ以上の前記マーク表面での前記ドリフト量を用いて二次関数により処理し、前記試料表面でのドリフト量を求めることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項4】
複数の前記マークは、前記試料表面の高さより低い前記マークと前記試料表面の高さより高い前記マークとの二つのマークであることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子ビーム描画装置。
【請求項5】
ステージ上の試料に対して荷電粒子ビームによる描画を行う描画部と、前記ステージ上に位置して高さが異なる複数のマークとを備える荷電粒子ビーム装置を用いて、描画を行う荷電粒子ビーム描画方法であって、
前記マークに対する前記荷電粒子ビームの照射により、前記マーク表面での前記荷電粒子ビームの照射位置を検出する工程と、
検出した前記照射位置に応じて、前記マーク表面での前記荷電粒子ビームのドリフト量を算出する工程と、
算出した少なくとも二つの前記マーク表面での前記ドリフト量を用いて、前記試料表面でのドリフト量を求める工程と、
求めた前記試料表面でのドリフト量を用いて、前記荷電粒子ビームの照射位置を補正する工程と、
を有することを特徴とする荷電粒子ビーム描画方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−38297(P2013−38297A)
【公開日】平成25年2月21日(2013.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−174620(P2011−174620)
【出願日】平成23年8月10日(2011.8.10)
【出願人】(504162958)株式会社ニューフレアテクノロジー (669)
【Fターム(参考)】