説明

荷電粒子線照射装置

【課題】荷電粒子線の線量分布における辺縁部のむらや低下を簡易に抑制することができる荷電粒子線照射装置を提供する。
【解決手段】荷電粒子線照射装置1は、荷電粒子線Rを走査するための走査電磁石5a,5bと、走査電磁石5a,5bの動作を制御する制御装置6と、を備えている。荷電粒子線照射装置1では、制御装置6が、照射ラインに沿って荷電粒子線Rを照射するときの走査速度を、荷電粒子線Rの線量分布における辺縁部が補正されるように変更する。つまり、線量分布の辺縁部が補正されるように荷電粒子線Rの照射時間が長く又は短くされることになる。よって、荷電粒子線Rの強度を制御することなく線量分布の辺縁部が制御され、線量分布の辺縁部のむらや低下が簡易に抑制される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スキャニング法による荷電粒子線照射装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、荷電粒子線照射装置として、例えば特許文献1に記載されたように、スキャニング法によるものが知られている。このような荷電粒子線照射装置は、荷電粒子線を走査するための走査電磁石と、走査電磁石の動作を制御する制御手段と、を備えており、被照射物に設定された照射野において照射ラインに沿って荷電粒子線を走査しながら連続照射する。
【特許文献1】特開2002−22900号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上述したような荷電粒子線照射装置では、照射された荷電粒子線の線量分布(以下、単に「線量分布」という)の辺縁部において、むらや低下が生じてしまうおそれがある。ここで、荷電粒子線の強度を制御することによって、線量分布の辺縁部のむらや低下を抑制することが考えられる。しかし、この場合、スキャニング法では、荷電粒子線の強度を高速で制御することが必要となり、且つその制御も複雑となるため、現実的ではない。
【0004】
そこで、本発明は、荷電粒子線の線量分布における辺縁部のむらや低下を簡易に抑制することができる荷電粒子線照射装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明に係る荷電粒子線照射装置は、被照射物に設定された照射野において照射ラインに沿って荷電粒子線を走査しながら連続照射する荷電粒子線照射装置であって、荷電粒子線を走査するための走査電磁石と、走査電磁石の動作を制御する制御手段と、を備え、制御手段は、照射ラインに沿って荷電粒子線を照射するときの走査速度を、荷電粒子線の線量分布における辺縁部が補正されるように変更することを特徴とする。
【0006】
この荷電粒子線照射装置では、照射ラインに沿って荷電粒子線を照射するときの走査速度を、荷電粒子線の線量分布における辺縁部が補正されるように変更する。つまり、線量分布の辺縁部が補正されるように荷電粒子線の照射時間が長く又は短くされることになる。従って、荷電粒子線の強度を制御することなく辺縁部の線量分布を制御することができ、よって、線量分布における辺縁部のむらや低下を簡易に抑制することが可能となる。
【0007】
また、照射ラインは、具体的には、矩形波状に延在しており、所定間隔で並設された複数の第1照射ラインと、隣接する第1照射ラインの一端同士又は他端同士を接続する複数の第2照射ラインと、を含んで構成される場合がある。なお、ここでの「矩形波状」とは、完全な矩形波状だけでなく、略矩形波状も含むものを意味する。
【0008】
このとき、制御手段は、複数の第1照射ラインのうち外側の第1照射ラインに沿って荷電粒子線を照射するときの走査速度を、それ以外の第1照射ラインに沿って荷電粒子線を照射するときの走査速度よりも遅くすることが好ましい。ここで、通常、荷電粒子線の線量がガウス分布を示すことから、線量分布が外縁側で裾広がりになり易いため、線量分布の急峻さが低下することがある。この点、本発明では、上記のように、複数の第1照射ラインのうち外側の第1照射ラインに沿って荷電粒子線を照射するときの走査速度を、それ以外の第1照射ラインに沿って荷電粒子線を照射するときの走査速度よりも遅くしている。そのため、外側の第1照射ラインに沿っては、荷電粒子線が充分に照射されることになる。よって、第1照射ラインが並ぶ方向における辺縁部の線量分布が低下するのを簡易に抑制することができる。
【0009】
また、制御手段は、第1照射ラインの端部に荷電粒子線を照射するときの走査速度を、第1照射ラインの端部以外に荷電粒子線を照射するときの走査速度よりも遅くする、又は所定時間の間0とすることが好ましい。この場合、第1照射ラインの端部に荷電粒子線が充分に照射されることとなる。よって、第1照射ラインに沿う方向における辺縁部の線量分布が低下するのを簡易に抑制することができる。
【0010】
また、制御手段は、第2照射ラインに沿って荷電粒子線を走査するときの走査速度を、第1照射ラインに沿って荷電粒子線を走査するときの走査速度よりも速めることが好ましい。照射ラインが矩形波状を呈していると、照射野の第1照射ラインの端部側には、第2照射ラインが存在する領域と存在しない領域とが混在する。そのため、照射野の第1照射ラインの端部側においては、照射された荷電粒子線の線量が多い領域と少ない領域とのむらが生じ易い(例えば、図7(a)参照)。この点、本発明では、上記のように、第2照射ラインに沿っての走査速度を、第1照射ラインに沿っての走査速度よりも速めている。そのため、第2照射ラインに沿って照射された荷電粒子線の線量が抑えられることになる。よって、照射野の第1照射ラインの端部側において、荷電粒子線の線量が多い領域と少ない領域とのむらが生じるのを簡易に抑制することができる(例えば、図7(b)参照)。
【0011】
また、制御手段は、線量分布における辺縁部の照射ラインに沿って荷電粒子線を照射するときの走査速度を、それ以外の照射ラインに沿って荷電粒子線を照射するときの走査速度よりも遅くすることが好ましい。この場合、辺縁部の線量分布が低下するのを簡易に抑制することができる。
【0012】
また、照射ラインは、照射野の外縁に沿って延在する第3照射ラインと、第3照射ラインの内側の第4照射ラインと、を含んで構成され、制御手段は、第3照射ラインに沿って荷電粒子線を走査するときの走査速度を、第4照射ラインに沿って荷電粒子線を走査するときの走査速度よりも遅くすることが好ましい。この場合、第3照射ラインに沿って荷電粒子線が充分に照射されることになるため、辺縁部の線量分布が低下するのを簡易に抑制することが可能となる。
【0013】
このとき、第4照射ラインは、矩形波状に延在しており、所定間隔で並設された複数の第5照射ラインと、隣接する第5照射ラインの一端同士又は他端同士を接続する複数の第6照射ラインと、を含んで構成される場合がある。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、荷電粒子線の線量分布における辺縁部のむらや低下を簡易に抑制することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、添付図面を参照して、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、以下の説明において同一又は相当要素には同一符号を付し、重複する説明は省略する。
【0016】
まず、本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線照射装置について説明する。図1は本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線照射装置の斜視図であり、図2は図1の荷電粒子線照射装置の概略構成図である。図1に示すように、荷電粒子線照射装置1は、スキャニング法によるものであり、治療台11を取り囲むように設けられた回転ガントリ12に取り付けられ、該回転ガントリ12によって治療台11の回りに回転可能とされている。
【0017】
この荷電粒子線照射装置1は、図2に示すように、患者13の体内の腫瘍(被照射物)14に向けて荷電粒子線Rを連続照射する。具体的には、荷電粒子線照射装置1は、腫瘍14を深さ方向(Z方向)に複数層に分け、各層に設定された照射野Fにおいて照射ラインLに沿って荷電粒子線Rを走査速度Vで走査しながら連続照射(いわゆる、ラインスキャニング)する。つまり、荷電粒子線照射装置1は、腫瘍14に合わせた3次元の照射野を形成するため、腫瘍14を複数の層に分割してこれらの各層のそれぞれに対して平面スキャニングを行う。これにより、腫瘍14の3次元形状に合わせて荷電粒子線Rが照射されることとなる。
【0018】
荷電粒子線Rは、電荷をもった粒子を高速に加速したものであり、荷電粒子線Rとしては、例えば陽子線、重粒子(重イオン)線、電子線等が挙げられる。照射野Fは、例えば最大200mm×200mmの領域とされ、図4に示すように、ここでの照射野Fは、その外形が略矩形状とされている。なお、照射野Fの形状は、種々の形状としてもよく、例えば腫瘍14の形状に沿った形状としても勿論よい。
【0019】
照射ラインLは、荷電粒子線Rを照射する予定線(仮想線)である。ここでの照射ラインLは、矩形波状に延在しており、具体的には、所定間隔で並設された複数の第1照射ラインL(L11〜L1n、nは整数)と、隣接する第1照射ラインLの一端同士又は他端同士を接続する複数の第2照射ラインLと、を含んで構成されている。
【0020】
図2に戻り、荷電粒子線照射装置1は、サイクロトロン2、収束用電磁石3a,3b、モニタ4a,4b、走査電磁石5a,5b及びファインデグレーダ8を備えている。サイクロトロン2は、荷電粒子線Rを連続的に発生させる発生源である。このサイクロトロン2で発生した荷電粒子線Rは、ビーム輸送系7によって後段の収束用電磁石3aへ輸送される。
【0021】
収束用電磁石3a,3bは、荷電粒子線Rを絞って収束させるものである。収束用電磁石3a,3bは、荷電粒子線Rの照射軸(以下、単に「照射軸」という)においてサイクロトロン2の下流側に配置されている。
【0022】
モニタ4aは、荷電粒子線Rのビーム位置を監視し、モニタ4bは、荷電粒子線Rの線量の絶対値と荷電粒子線Rの線量分布とを監視する。モニタ4aは、例えば照射軸において収束用電磁石3a,3b間に配置され、モニタ4bは、例えば照射軸において収束用電磁石3bの下流側に配置されている。
【0023】
走査電磁石5a,5bは、荷電粒子線Rを走査するためのものである。具体的には、印加される電流に応じて磁場を変化させることで、通過する荷電粒子線Rの照射位置を照射野において移動させる。走査電磁石5aは、照射野FのX方向(照射軸に直交する方向)に荷電粒子線Rを走査し、走査電磁石5bは、照射野FのY方向(照射軸及びX方向に直交する方向)に荷電粒子線Rを走査する。これらの走査電磁石5a,5bは、照射軸において収束用電磁石3b及びモニタ4b間に配置されている。なお、走査電磁石5aがY方向に荷電粒子線Rを走査し、走査電磁石5bがX方向に荷電粒子線Rを走査する場合もある。
【0024】
ファインデグレーダ8は、深さ方向に複数層に分割された腫瘍14の各層に荷電粒子線Rを照射するためのものである。具体的には、このファインデグレーダ8は、通過する荷電粒子線Rのエネルギー損失を変化させ、患者13の体内における荷電粒子線Rの到達深さを調整することで、分割された各層のうちの一の層に荷電粒子線Rの到達深さを合わせる。
【0025】
また、荷電粒子線照射装置1は、制御装置(制御手段)6を備えている。この制御装置6は、モニタ4b及び走査電磁石5a,5bに電気的に接続されており、モニタ4bにて監視した荷電粒子線Rの線量の絶対値と線量分布とに基づいて、走査電磁石5a,5bの動作を制御する(詳しくは、後述)。
【0026】
次に、説明した荷電粒子線照射装置1の動作について図3に示すフローチャートを参照しつつ説明する。
【0027】
荷電粒子線照射装置1では、腫瘍14を深さ方向に複数層に分割し、その一の層に設定された照射野Fに向けて荷電粒子線Rを照射する。そして、これを各層に繰り返し実施することで、腫瘍14の3次元形状に沿って荷電粒子線Rが照射されることとなる。
【0028】
ここで、荷電粒子線Rを照射する際には、制御装置6で走査電磁石5a,5bを制御することにより、照射野Fの照射ラインLに沿って荷電粒子線Rを平行に走査すると共に、その走査速度を、線量分布における辺縁部(ここでは、外縁部)が補正されるように変更する。具体的には、制御装置6によって走査電磁石5a,5bを制御して、以下の動作を実行する。
【0029】
すなわち、図4(a)に示すように、まず、外側の第1照射ラインL11の一端(照射ラインLの基端)に照射点を合わせて荷電粒子線Rを照射しつつ、所定時間tの間だけ走査を停止(走査速度0に)する(S1)。所定時間tは、下式(1)に示すように、荷電粒子線Rの半値幅Dと後述の走査速度V11とに関する時間とされている。
=α×D/V11 (但し、0<α<1) ・・・(1)
【0030】
続いて、図4(b)に示すように、第1照射ラインL11に沿って、荷電粒子線Rを走査速度V11で走査しながら連続照射する(S2)。そして、図4(c)に示すように、荷電粒子線Rの照射点が第1照射ラインL11の他端に達したとき、荷電粒子線Rの走査を所定時間tの間だけ停止する(S3)。
【0031】
続いて、図4(d)に示すように、第2照射ラインLに沿って、荷電粒子線Rを走査速度Vで走査しながら連続照射する(S4)。この走査速度Vは、後述の走査速度V12よりも速く設定されている。そして、図4(c)に示すように、荷電粒子線Rの照射点が第1照射ラインL12の他端に達したとき、荷電粒子線Rの走査を所定時間tの間だけ停止する(S5)。所定時間tは、下式(2)に示すように、荷電粒子線Rの半値幅Dと後述の走査速度V12とに関する時間とされている。
=α×D/V12 (但し、0<α<1) ・・・(2)
【0032】
続いて、図5(a)に示すように、第1照射ラインL12に沿って、荷電粒子線Rを走査速度V12で走査しながら連続照射する(S6)。この走査速度V12は、走査速度V11よりも速く設定されている。換言すると、第1照射ラインL11に沿っての走査速度V11が、第1照射ラインL12に沿っての走査速度V12よりも遅くなっている。
【0033】
続いて、荷電粒子線Rの照射点が第1照射ラインL12の一端に達したとき、荷電粒子線Rの走査を所定時間tの間だけ停止する(S7)。そして、第2照射ラインLに沿って、荷電粒子線Rを走査速度Vで走査しながら連続照射する(S8)。
【0034】
続いて、S5〜S8を所定回数繰り返した後、第1照射ラインL11に対し反対側の第1照射ラインL1nの一端に荷電粒子線Rの照射点が達したとき、荷電粒子線Rの走査を所定時間tの間だけ停止する(S9)。所定時間tは、下式(3)に示すように、荷電粒子線Rの半値幅Dと後述の走査速度V1nとに関する時間とされている。
=α×D/V1n (但し、0<α<1) ・・・(3)
【0035】
そして、図5(b)に示すように、この第1照射ラインL1nに沿って、走査速度V12よりも遅い走査速度V1nで荷電粒子線Rを走査しながら連続照射する(S10)。最後に、図5(c)に示すように、荷電粒子線Rの照射点が第1照射ラインL1nの他端(照射ラインの終端)に達したとき、荷電粒子線Rの走査を所定時間tの間だけ停止する(S11)。これにより、照射野Fの照射ラインLに沿っての荷電粒子線Rの照射が完了することとなる。
【0036】
図6(a)は、従来の荷電粒子線照射装置での線量分布を示す図、図6(b)は、図1の荷電粒子線照射装置での線量分布を示す図、図6(c)は、図6(a),(b)の比較図である。図中において、線量分布B0,B1は、荷電粒子線Rの線量分布(総線量分布)を示し、線量分布B0,B1は、各照射ラインLに沿っての線量分布のみを示している。
【0037】
荷電粒子線Rの線量(強度)がガウス分布を示すことから、図6(a)に示すように、従来の荷電粒子線照射装置では、線量分布B0が辺縁部で低下(線量分布B0の急峻さが低下)している。つまり、線量分布B0の内側では、隣接する照射ラインLに沿って照射された荷電粒子線Rの影響(重なり)で均一性を保つことができるものの、辺縁部(輪郭)では、なだらかに傾斜し裾広がりとなってしまう。
【0038】
これに対し、本実施形態の荷電粒子線照射装置1では、上述したように、制御装置6が、第1照射ラインLのうち外側の第1照射ラインL11,L1nに沿って荷電粒子線Rを照射するときの走査速度V11,V1nを、それ以外の第1照射ラインに沿って荷電粒子線Rを照射するときの走査速度V12よりも遅くさせている。そのため、第1照射ラインL11,L1nに沿った荷電粒子線Rの照射時間が長くなり、第1照射ラインL11,L1nに沿って荷電粒子線Rが充分に照射されることになる。よって、図6(b),(c)に示すように、荷電粒子照射装置1による線量分布B1にあっては、第1照射ラインLが並ぶ方向(図4の左右方向)の辺縁部で線量分布B1が急峻に立ち上がるようになり、かかる辺縁部での低下を抑制することが可能となる。
【0039】
また、荷電粒子線照射装置1では、上述したように、制御装置6が、第1照射ラインLの端部(一端及び他端の位置)に荷電粒子線Rを照射するとき、荷電粒子線Rの走査を所定時間tの間だけ停止させている。そのため、第1照射ラインLの端部では、荷電粒子線Rの照射時間が長くなって充分に照射される。よって、線量分布B1にあっては、第1照射ラインLに沿う方向(図4の上下方向)の辺縁部で線量分布B1が急峻に立ち上がるようになり、かかる辺縁部での低下を抑制することが可能となる。
【0040】
ここで、照射ラインLが矩形波状に延在していると、図5(c)に示すように、照射野Fの第1照射ラインLの端部側には、第2照射ラインLが存在する領域20と存在しない領域21とが混在する。そのため、従来の荷電粒子線照射装置では、図7(a)に示すように、照射野Fの第1照射ラインLの端部側において、照射された荷電粒子線Rの線量が多い領域と少ない領域とのむらが生じ易い(斑状となり易い)。
【0041】
この点、荷電粒子線照射装置1によれば、上述したように、制御装置6が、第2照射ラインLに沿って荷電粒子線Rを走査するときの走査速度Vを、第1照射ラインLに沿って荷電粒子線を走査するときの走査速度V11,V12,V1nよりも速めている。そのため、図7(b)に示すように、第2照射ラインLに沿って照射される荷電粒子線Rの線量を抑えることができ、照射野Fの第1照射ラインLの端部側にむらが生じるのを抑制することができる。
【0042】
以上、本実施形態1の荷電粒子線照射装置1によれば、制御装置6が、照射ラインLに沿って荷電粒子線を照射するときの走査速度Vを、荷電粒子線Rの線量分布における辺縁部が補正されるように変更する。従って、荷電粒子線Rの強度を制御することなく線量分布B1の辺縁部を制御することができ、線量分布B1の辺縁部のむらや低下を簡易に抑制することが可能となる。
【0043】
なお、荷電粒子線照射装置1では、上述したように、荷電粒子線Rを連続的に発生させるサイクロトロン2を採用している。このことは、荷電粒子線Rを断続(パルス)的に発生させるシンクロトロンを採用した場合に比べ、照射ラインLに沿って荷電粒子線Rを連続照射する点で有効である。
【0044】
次に、本発明の第2実施形態に係る荷電粒子線照射装置について説明する。なお、本実施形態の説明では、上記の第1実施形態の荷電粒子線照射装置1と異なる点について主に説明する。
【0045】
図9に示すように、照射ラインL10は、照射野Fの外縁に沿って延在する第3照射ラインLと、この第3照射ラインLの内側に位置する第4照射ラインLと、を含んで構成されている。また、第4照射ラインLは、上記の照射ラインLと同様な第5照射ラインL、及び上記の照射ラインLと同様な第6照射ラインLを含んでいる。制御装置6は、走査電磁石5a,5bを制御して、以下の動作を実行する。
【0046】
すなわち、まず、図9(a)に示すように、第3照射ラインLに沿って荷電粒子線Rを走査速度Vで走査しながら連続照射する(図8のS21)。この走査速度Vは、後述の走査速度Vよりも遅く設定されている。
【0047】
続いて、図9(b)に示すように、第4照射ラインLに沿って荷電粒子線Rを走査速度Vで走査しながら連続照射する(S22)。具体的には、荷電粒子線Rを、上記の走査速度V12と同様な走査速度V41で照射ラインLに沿って走査しつつ照射し、上記の走査速度Vと同様な走査速度V42で照射ラインLに沿って走査しつつ照射する。そして、このS22を所定回数繰り返すことにより、図9(c)に示すように、照射野Fにおける照射ラインL10に沿っての荷電粒子線Rの照射が完了する。
【0048】
以上、本実施形態の荷電粒子線照射装置では、制御装置6が、第3照射ラインLに沿って荷電粒子線Rを照射するときの走査速度Vを、この第3照射ラインLの内側の照射ラインである第4照射ラインLに沿って荷電粒子線Rを照射するときの走査速度V(V41及びV42)よりも遅くさせている。つまり、制御装置6は、線量分布B1における辺縁部の照射ラインに沿って荷電粒子線Rを照射するときの走査速度を、それ以外の照射ラインに沿って荷電粒子線Rを照射するときの走査速度よりも遅くさせている。従って、第3照射ラインLに沿った荷電粒子線Rの照射時間が長くなり、第3照射ラインLに沿って荷電粒子線Rが充分に照射されることになる。その結果、線量分布B1の辺縁部が低下するのを簡易に抑制することが可能となる。
【0049】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【0050】
例えば、図10(a)に示すように、照射野Fにおいて三角波状に延在する照射ラインL20に沿って荷電粒子線Rを走査しながら連続照射(いわゆる、ラスタースキャニング)してもよい。つまり、本発明は、あらゆる形状の照射ラインに適応することが可能である。また、図10(b)に示すように、照射野Fの一部(ここでは中央部)を避けるように照射ラインL30を設定し、照射野Fの一部を避けるように荷電粒子Rを照射してもよい。なお、この場合の線量分布の辺縁部は、外縁部及び内縁部となる。
【0051】
また、上記実施形態では、第1照射ラインLの一端及び他端の位置に荷電粒子線Rを照射するとき、その走査を所定時間の間停止したが、走査を停止せずに走査速度を遅くしてもよい。つまり、第1照射ラインL11の一端及び他端では、走査速度V11よりも遅くしてもよく、第1照射ラインL12の一端及び他端では走査速度V12よりも遅くしてもよく、第1照射ラインL1nの一端及び他端では走査速度V1nよりも遅くしてもよい。
【0052】
また、モニタ4a,4bの配置される位置は、上記実施形態における位置に限定されず、適宜な位置に配置しても勿論よい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の第1実施形態に係る荷電粒子線照射装置の斜視図である。
【図2】図1の荷電粒子線照射装置の概略構成図である。
【図3】図1の荷電粒子線照射装置の動作を示すフローチャートである。
【図4】図1の荷電粒子線照射装置の動作を説明するための図である。
【図5】図4の後続の図である。
【図6】図5(c)のVI−VI線に沿う断面での線量分布を示す線図である。
【図7】図5(c)のVII−VII線に沿う断面での線量分布を示す線図である。
【図8】本発明の第2実施形態に係る荷電粒子線照射装置の動作を示すフローチャートである。
【図9】図7の荷電粒子線照射装置の動作を説明するための図である。
【図10】照射ラインの他の例を示す図である。
【符号の説明】
【0054】
1…荷電粒子線照射装置、5a,5b…走査電磁石、6…制御装置(制御手段)、14…腫瘍(被照射物)、F…照射野、L,L10,L20,L30…照射ライン、L1,L11〜L1n…第1照射ライン、L2…第2照射ライン、L3…第3照射ライン、L4…第4照射ライン、L5…第5照射ライン、L6…第6照射ライン、R…荷電粒子線。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被照射物に設定された照射野において照射ラインに沿って荷電粒子線を走査しながら連続照射する荷電粒子線照射装置であって、
前記荷電粒子線を走査するための走査電磁石と、
前記走査電磁石の動作を制御する制御手段と、を備え、
前記制御手段は、前記照射ラインに沿って前記荷電粒子線を照射するときの走査速度を、前記荷電粒子線の線量分布における辺縁部が補正されるように変更することを特徴とする荷電粒子線照射装置。
【請求項2】
前記照射ラインは、矩形波状に延在しており、所定間隔で並設された複数の第1照射ラインと、隣接する前記第1照射ラインの一端同士又は他端同士を接続する複数の第2照射ラインと、を含んで構成されることを特徴とする請求項1記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項3】
前記制御手段は、複数の前記第1照射ラインのうち外側の第1照射ラインに沿って前記荷電粒子線を照射するときの走査速度を、それ以外の第1照射ラインに沿って前記荷電粒子線を照射するときの走査速度よりも遅くすることを特徴とする請求項2記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項4】
前記制御手段は、前記第1照射ラインの端部に前記荷電粒子線を照射するときの走査速度を、前記第1照射ラインの前記端部以外に前記荷電粒子線を照射するときの走査速度よりも遅くする、又は所定時間の間0とすることを特徴とする請求項2又は3記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項5】
前記制御手段は、前記第2照射ラインに沿って前記荷電粒子線を走査するときの走査速度を、前記第1照射ラインに沿って前記荷電粒子線を走査するときの走査速度よりも速めることを特徴とする請求項2〜4の何れか一項記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項6】
前記制御手段は、前記線量分布における辺縁部の照射ラインに沿って前記荷電粒子線を照射するときの走査速度を、それ以外の照射ラインに沿って前記荷電粒子線を照射するときの走査速度よりも遅くすることを特徴とする請求項1記載の課電流視線照射装置。
【請求項7】
前記照射ラインは、前記照射野の外縁に沿って延在する第3照射ラインと、前記第3照射ラインの内側の第4照射ラインと、を含んで構成され、
前記制御手段は、前記第3照射ラインに沿って前記荷電粒子線を走査するときの走査速度を、前記第4照射ラインに沿って前記荷電粒子線を走査するときの走査速度よりも遅くすることを特徴とする請求項6記載の荷電粒子線照射装置。
【請求項8】
前記第4照射ラインは、矩形波状に延在しており、所定間隔で並設された複数の第5照射ラインと、隣接する前記第5照射ラインの一端同士又は他端同士を接続する複数の第6照射ラインと、を含んで構成されることを特徴とする請求項7記載の荷電粒子線照射装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2009−243891(P2009−243891A)
【公開日】平成21年10月22日(2009.10.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−87123(P2008−87123)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(000002107)住友重機械工業株式会社 (2,241)
【Fターム(参考)】