説明

荷電粒子線装置、及び試料加工観察方法

【課題】
本発明の目的は、荷電粒子線による試料の加工と、その加工断面のモニターと、を高スループットで実現することに関する。
【解決手段】
FIB加工途中の断面構造の観察を、断面を削っているイオンビームにより試料から発生する二次粒子像を用いて観察し、少なくとも二つ以上の断面を作製し、加工と加工断面のモニターを行いながら試料の加工を進めれば、所望領域の場所と大きさが未知であっても、所望の領域を失うことなく正確な試料加工が可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、荷電粒子線を用いた試料の加工観察技術に関する。例えば、半導体デバイスの基板から取り出した微細試料に、FIB(Focused Ion Beam:集束イオンビーム)を用いた特定個所の微細加工を利用して加工面を作製し、かつその加工面を走査透過型電子顕微鏡(STEM),透過型電子顕微鏡(TEM),走査型電子顕微鏡(SEM)などで観察する荷電粒子線装置に関する。
【背景技術】
【0002】
FIB装置とSTEM装置の組み合わせに関する技術は、特開2004−228076号公報に開示されている。FIB加工により作製されたSTEM観察用試料は、イオンビーム軸と電子ビーム軸の交点に置かれ、FIBによる追加工とSTEM観察ができることが示されている。イオンビーム軸と電子ビーム軸は鋭角(図5では約45度)交差であり、FIB追加工とSTEM観察間でSTEM試料は両軸に垂直な回転軸周辺で回転させる。
【0003】
また、特開2006−127850号公報にはFIB加工時とSETM観察時との間での試料回転作業等の省略化・最小化、及び加工途中のSTEM像モニターを利用した試料厚さの最適化作業の簡略化を実現する技術が述べられている。イオンビーム照射系,電子ビーム照射系,透過・散乱ビーム検出手段を試料周辺に配置し、FIB照射系の照射軸とSTEM観察用電子ビーム照射系の照射軸を略直行させ、その交差位置に試料を配置している。これにより、試料を動かさずに、FIB加工とSTEM観察の両方を行うことができる。
【0004】
非特許文献(加藤,大塚:東レリサーチセンター THE TRC NEWS No.84 (July.2003))には、FIB加工とSEM観察を用いた三次元構造解析の手法が述べられている。FIB照射系と電子ビーム照射系の両照射軸は鋭角で交差しており、両ビームの走査画像、つまり走査イオン顕微鏡像(SIM像)とSEM像にて同じ領域の像を表示することができる。電子ビーム照射系から見込まれるように断面をFIBで加工作製すれば、加工断面は試料傾斜せずにSEM観察することができる。このFIB加工とSEM観察を繰り返していけば、加工面の奥行き方向に連続的な切片画像が積算できる。
【0005】
【特許文献1】特開2004−228076号公報
【特許文献2】特開2006−127850号公報
【非特許文献1】THE TRC NEWS No.84 (July.2003))
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来、FIB加工とSTEM観察を別々の装置で行うことが多かった。FIB装置で加工作製したSTEM用薄膜試料は、一旦、FIB装置から取り出した後にSTEM装置に入れて観察する必要があった。STEM観察とFIB追加工の繰り返しによって観察個所を特定する薄膜化加工は、スループットの観点から、ユーザのニーズに十分に応えられていなかった。そこで、FIB加工とSTEM観察を一体化した装置が発表され、スループットの改善が計られている。
【0007】
しかし、正確な不良箇所とその大きさが分からない試料を、所望の不良箇所を残して薄膜に加工する場合などは、(1)通常よりも大きな薄膜試料を作製する、(2)FIB加工と断面モニターのSEM・STEM観察の繰り返しも通常より多く行い、観察個所を判断しながら薄膜化加工を行う、(3)加工領域自体が大きくなる、などの理由により、劇的なスループットの改善には至っていない。
【0008】
FIB加工中は、断面をSEM・STEM観察できないことも、スループットが上がらない要因の一つである。また、薄膜試料などの複数の断面を持つ試料に対して、複数断面をSEMあるいはSTEM観察するには、電子ビームを観察したい断面に照射するために試料あるいは試料ステージの回転,傾斜といった移動動作が必要である。また、ひとたび試料を移動させると、視野再調整やフォーカス再調整が必要となる。これらの要因により、FIB加工とSTEM観察の一体化装置であっても、十分なスループットを確保できているとは言い難い。
【0009】
FIB加工とSEM観察を用いた三次元構造解析においても、FIB加工とSEM観察を切り替えながら交互に繰り返すため、同様の課題がある。大きな領域を三次元構造解析する場合には、FIB加工が進むにつれてSEM観察断面像の視野ずれとフォーカスずれが生じるため、SEMの視野調整やフォーカス調整を何度も行う必要があり、これらの作業もスループットの低下を引き起こす要因となっている。
【0010】
さらに、最近は、高い電気特性を有する微細構造を実現するために、Low−K材料と呼ばれる電子線照射に非常に弱い材料が多用されるようになり、SEM観察等の電子線照射で試料を壊す、あるいは変形させてしまう事例が頻発するようになった。この対策として、(1)試料を冷却してダメージを軽減する、(2)電子線の加速電圧を極端に低くし、照射エネルギーを下げる、等の手法が用いられる。
【0011】
しかし、(1)の手法は、試料冷却と試料交換に時間がかかり、加工のスループットが極端に下がってしまう、また、電子線照射により発生するダメージは局所的であり、冷却パスが十分に確保されないと、試料台を冷却しても観察部位の変形は起こってしまう。(2)の手法は、電子線の加速電圧を下げる事でSEMの像分解能が低下し、微細構造の確認が困難となる、という欠点がある。
【0012】
本発明の目的は、荷電粒子線による試料の加工と、その加工断面のモニターと、を高スループットで実現することに関する。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、FIB加工途中の断面構造の観察を、断面を削っているイオンビームにより試料から発生する二次粒子像を用いて観察することに関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、加工に用いるイオンビームにより、断面の観察が行える。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本願発明者が鋭意検討した結果、次のような知見に至った。
【0016】
場所と大きさが未知の不良が存在する試料であっても、所望の不良領域を失うことなく、正確な試料作製を行うためには、少なくとも二つ以上の断面を作製し、加工と加工断面のモニターを行いながら試料の加工を進めれば良い。加工と加工断面のモニタープロセスの高スループット化は、FIB加工途中の断面構造の観察を、断面を削っているイオンビームにより試料から発生する二次粒子像を用いて観察することで加工と観察を同時に行えるようにすれば良い。これにより、加工と加工断面のモニターを繰り返して試料の構造解析を行うプロセスも高スループット化できる。
【0017】
断面を削る最終段階では、加工領域の形状は細長い短冊状となり、通常、観察画像も細長い形状となる。これを用いた加工終点の判断は、従来、観察画像全体の平均輝度で行われた。従って、断面加工が表面から試料基板側へ進行していく過程は概略把握できるものの、断面の構造把握は困難であった。このため、SEMの併用が検討された。本実施例では、上記観察を短冊形状の短辺方向に拡大表示するようにし、FIBのみで加工進行時における断面構造が把握できるようにした。
【0018】
一般的にFIB加工で形成される加工断面は、試料に入射するイオンビームの局所的な角度とスパッタリング効率の関係から、イオンビームの入射角度に対し、数度の傾きを持った断面が形成される(J.Vac.Sci.Technol.B9(5),Sep/Oct 1991,pp2636)。本実施例では、この物理現象を利用し、傾き部分に短冊状の加工領域を設定し、その加工モニターを短辺方向に拡大表示することで、断面構造の表示を可能とした。ビームは断面に平行に近い斜め方向から照射されるため、ビーム径よりも像分解能は劣化するが、配線構造の有無等断面構造を把握するには十分な画像が表示可能である。この機能を利用して断面構造を確認し、所望の断面にまだ到達していな場合、加工領域を断面方向にシフトして加工と断面構造の判定を繰り返し行うことで、SEMの併用無しに、所望の断面に到達することができる。
【0019】
SEM・STEM・TEMによる高分解能観察が必要な領域は部分的であるので、高分解能観察の必要ない領域は上記FIB加工観察を行い、高分解能観察が必要な領域が出現してから、SEM・STEM・TEM観察に切り替える。これで、ステージ移動やFIB加工とSEM・STEM・TEM観察の切り替え動作が削減できる。
【0020】
FIB加工とSEM観察を用いた三次元構造解析や電子線照射に非常に弱い材料を扱う場合でも、SEM・STEM・TEMによる高分解能観察が必要な領域は部分的であるので、高分解能観察の必要ない領域は上記FIB加工観察を行い、高分解能観察が必要な領域が出現してから、SEM・STEM・TEM観察に切り替える。これにより、FIB加工が進むにつれて必要となるSEM観察断面像の再視野調整や再フォーカス調整を削減できるとともに、電子線照射に非常に弱い材料への電子線照射の量も削減できる。
【0021】
本実施例によれば、加工と加工断面のモニターを繰り返しながら、薄膜等の試料を製作するプロセスに対して、たとえ正確な不良箇所の分からない試料であっても、高スループットで所望の領域を失うことなく、正確な試料作製を実現できる。また、加工と加工断面のモニターを繰り返して試料の三次元構造解析を行うプロセスに対しても解析スループットの向上を実現できる。更に、電子線照射に非常に弱い材料であっても限りなく真の姿に近い断面を観察できる。
【0022】
加工に用いるイオンビームにより断面の加工と観察が同時に行えるので、加工途中の断面をモニターするためのステージ移動,SEMの視野・フォーカス調整が削減できる。また、試料表面に対して垂直入射のイオンビームにより加工・観察を行うので、断面を作製する位置はどこでも良い。したがって、所望の領域が縦横斜め等、どのように存在していても、少なくとも二つ以上の断面を作製して加工とモニターを繰り返してゆけば、所望の領域は確実に残すことができる。複数の加工断面をモニターする場合でも、SEM・STEM・TEMによる高分解能観察以外は断面モニターのためにステージを移動する必要はなく、試料位置も変わらないのでイオンビームの再フォーカス調整等の作業も必要ない。本実施例は、不要なステージ移動とそれに伴うビーム調整,断面モニター用のSEM・STEM・TEM観察が削減できるので、連続的あるいは断続的な加工と加工断面のモニターを伴うプロセス、たとえば今まで述べてきたような薄膜試料の作製や三次元構造解析などを高スループット化できる。また、従来FIB加工中は取得できなかった断面情報も取得することができ、断面情報としては、離散的な画像データのみならず、連続的な動画データとして取得することもできる。
【0023】
また、SEMの併用無しに所望の断面を形成する事が可能となるため、電子線照射に弱い試料の試料断面の損傷や変形を抑えてFIB断面加工や薄膜加工が可能となる。真空中でFIB加工を施した断面は、吸着ガス等の不純物が無い清浄表面であるので、同一真空容器内にFIBとSEMあるいはSTEM等を具備すれば、電子線照射に弱い試料の損傷や変形が極小で、かつ吸着ガスが殆ど存在しない、限りなく清浄な表面を高分解能観察することが可能となる。
【実施例】
【0024】
図1は、イオンビーム照射系を具備する荷電ビーム装置の概略構成図である。図2はイオンビーム照射系と電子ビーム照射系とを具備する荷電ビーム装置の概略構成図である。主に図1を使用して説明する。図1(a)は荷電ビーム装置の概略構成図、図1(b)はイオンビームによる加工中の二次粒子像表示に関する概略説明図である。図1の荷電ビーム装置の実施例は、イオンビーム11を発生させると共に集束させ試料3の上を走査させるイオンビーム照射系1と、試料3から発生する二次粒子を検出する二次粒子検出器5と、試料3を載置する試料ステージ4と、試料ステージ4が配置される真空容器8と、二次粒子により形成される二次粒子像15を表示する表示手段6と、各々の構成要素を制御する制御手段7を具備している。制御手段7は、以下の工程を実行する機能を有する。
(1)オンビーム11の照射により、ビーム照射方向12と概ね平行に断面(A)9, 断面(B)10を形成する。
(2)ビーム照射方向12から、該断面部位が含まれる領域に短冊状の加工領域を設定し 加工する。
(3)加工中の二次粒子像15を少なくとも短冊形状の短辺方向を拡大するように表示す る。
【0025】
表示手段6には、工程(3)により拡大表示された二次粒子像14が表示される。試料3には、少なくとも二つ以上の断面(A)9,断面(B)10を作製し、断面(A)9,断面(B)10の観察には、少なくとも1回以上は工程(1)(2)(3)を用いる。
【0026】
FIB加工により作製される断面には、3〜6°程度の角度18が生じるため、試料表面に対して垂直入射のイオンビーム11でもイオンビームの走査範囲19にある断面が加工中の二次粒子像15として観察できる。この短冊状の二次粒子像を拡大表示することで断面構造の概要を把握できるようになり、試料表面に対して垂直入射のイオンビームでもステージの傾斜なしに断面構造の判断が可能となる。これにより、断面を観察するために加工を中断して、イオンビーム11を加工用のイオンビームから観察用のイオンビームに切り替えて断面が観察できる位置に試料ステージ4を移動(X,Y,Z方向,回転,傾斜等)する、あるいは、加工を中断して試料3をSEMあるいはSTEMといった別の装置に移設する、あるいはその両方の動作を削減、あるいは排除できる。更に、本発明は、加工と同時に断面構造の観察を行うため加工・観察の切り替えが不要である。これらの効果により、特に正確な不良箇所がわからない試料を、不良箇所を探しながら、かつ、所望の不良箇所を確実に残すための正確な加工の終了判断を必要とする加工・観察作業の作業効率は大きく改善される。本実施例では、断面が二つの加工観察例を示したが、断面の数は幾つでも構わないし、断面の方向も自由に設定できる。また、断面は平面である必要も無く、円のような形状でも構わない。従来は、加工と観察を交互に行うため、断面の観察データは画像等の離散的なデータとなる。本実施例では、加工と観察を同時に行えるため、断面の観察データは、画像のような離散的なデータとして取得するだけではなく、動画のような連続的なデータとして取得することもできる。
【0027】
図3は、本発明を用いた試料3の三次元データ構築の実施例である。図3(a)は薄膜加工における加工領域の三次元データの構築、図3(b)はバルク試料に対する加工領域の三次元データ構築の実施例である。本実施例は、離散的な画像データを用いた三次元データ構築を示す。加工と観察を連続的あるいは断続的に行い、断面(A)9の拡大表示された二次粒子像14を順次取得して断面の位置情報と関連付けて保存する。これらの保存した複数の画像データを、断面加工の方向31に沿って並べてゆき、各々隣り合う画像間のつながりを補完して試料3の三次元データ(A)32を構築する。本実施例では、3次元データを構築した加工領域は一つであるが、複数であっても良い。また、画像だけではなく、例えば、元素分析のマッピングデータであっても良い。動画データを用いてシームレスな試料3の三次元データ(A)32を構築することもできる。構築する三次元データ(A)32は、縦横の寸法比を試料3の実寸法比に合うように補正を加えても良い。
【0028】
図4は、本実施例を用いた試料3の三次元データ構築の別の実施例である。本発明の荷電ビーム装置101により加工と観察を連続的あるいは断続的に行い、断面(A)9および断面(B)10の拡大表示された二次粒子像14を順次取得して断面の位置情報と関連付けて保存する。試料3は電子線103が透過する膜厚となるまで薄膜加工を行う。次に、加工後の試料100を別の電子ビーム装置102に移し、加工後の試料100の透過粒子像22を取得する。このデータも試料3に対する位置情報と関連付けて保存する。
【0029】
荷電ビーム装置101で取得・保存した複数の画像データを、縦横の寸法比を試料3の実寸法比に合うように補正を加え断面加工の方向31に沿って並べてゆき、このデータ群に別の電子ビーム装置102で取得・保存した画像データを加えて各々隣り合う画像間のつながりを補完して試料3の三次元データ(B)33を構築する。本実施例の場合、イオンビーム11による走査イオン顕微鏡像(SIM像)と透過電子像(TEM像)との合成データとなる。別の電子ビーム装置102にて取得するデータは、二次電子像あるいは反射電子像であっても良い。荷電ビーム装置101で取得するデータは、動画データであっても良い。
【0030】
図2は、イオンビーム照射系と電子ビーム照射系とを具備する荷電ビーム装置の実施例である。図2(a)は荷電ビーム装置の概略構成図、図2(b)はイオンビームによる加工中の二次粒子像表示に関する概略説明図である。本実施例は、図1の実施例に電子ビーム16を発生させると共に集束させ試料上を走査させる電子ビーム照射系2を追加した複合装置である。イオンビーム照射系1と電子ビーム照射系2は、イオンビーム11のビーム照射方向12と電子ビーム16の電子ビーム照射方向17とがある1点で交わるように配置される。試料3は、イオンビーム11のビーム照射方向12と電子ビーム16の電子ビーム照射方向17とが交わる点の近傍に配置される。断面(A)9,断面(B)10のいずれか一方、本実施例では断面(B)10が、電子ビーム16で照射できる位置に作製される。本実施例では、図1の実施例の効果に加えて、断面(B)10を電子ビーム照射系2で高分解能観察することができ、より詳細な断面構造の把握が可能となる。加工の終了判断に電子ビーム照射系2による高分解能観察を用いれば、より高精度な終了判断が可能となる。
【0031】
図5は、図2の発明を用いた試料3の三次元データ構築の実施例である。本実施例は、離散的な画像データを用いた三次元データ構築を示す。加工と観察を連続的あるいは断続的に行い、断面(A)9の拡大表示された二次粒子像14を順次取得して断面の位置情報と関連付けて保存する。断面(B)10は、電子ビーム16による二次粒子像41を順次取得して断面の位置情報と関連付けて保存する。これらの保存した複数の画像データを、縦横の寸法比を試料3の実寸法比に合うように補正を加え断面加工の方向31に沿って並べてゆき、各々隣り合う画像間のつながりを補完して試料3の三次元データ(A)32を構築する。本実施例では、三次元データを構築した加工領域は二つであるが、二つ以上であっても良い。また、画像だけではなく、例えば、元素分析のマッピングデータであっても良い。断面(A)9は動画データを用いてシームレスな試料3の三次元データを構築することもできる。断面(B)10は、電子ビーム16により取得したデータとイオンビーム11により取得したデータの混合データでも良い。本実施例では、凸型の加工例で説明したが、図7のようにバルク試料内に薄膜部を作製して三次元データを構築しても良い。
【0032】
図6は、イオンビーム照射系と電子ビーム照射系とを具備する荷電ビーム装置の別の実施例である。図6(a)は荷電ビーム装置の概略構成図、図6(b)は試料3の三次元データ構築に関する概略説明図である。本実施例は、図2の実施例に透過電子を検出する透過電子検出器42と、反射電子を検出する反射電子検出器43とを追加した複合装置である。試料3の薄膜断面部の観察は、電子ビーム16と対向した断面(B)10は、電子ビームによる二次電子像41により観察し加工の終了判断を行い、断面(A)9は拡大表示された二次粒子像14により観察し加工の終了判断を行い、ステージの動作なしで所望の領域まで薄膜加工を行う。作製した薄膜試料は、透過電子検出器42により透過電子像44を取得し高分解能観察を行う。透過電子のみならず、反射電子を検出して反射電子像を取得しても良い。また、図5で述べた実施例のような三次元データを構築することもできる。以上の加工・観察は一つの荷電ビーム装置内で行うことができるので、試料3は一切大気に曝されず、吸着気体の無い清浄表面を観察あるいは分析することができる。真空容器8に加熱用のヒーターを設ければ表面に吸着する気体を更に減らすことができ、より洗浄な表面を観察・分析することができる。
【0033】
図8の実施例は、図2あるいは図6のイオンビーム照射系1と電子ビーム照射系2とを具備する荷電ビーム装置をもちいて、図4で述べた三次元データ構築を行う実施例である。本発明の荷電ビーム装置101においても電子ビーム16を用いた高分解能観察を行うことができる。荷電ビーム装置101では、加速電圧30kVでSTEM観察を行い、次に、加工後の試料100を別の電子ビーム装置102に移し、加速電圧200kVで更に高分解能なSTEM観察を行う。これらのデータを用いて三次元データ(B)33を構築する。
【0034】
図9は、表示手段6に表示され拡大表示された二次粒子像14が試料3の何れの断面像なのかを明示する実施例である。表示手段6には、設定した加工パターン(A)51と加工パターン(B)52と同時に拡大表示された二次粒子像14を表示する。現在表示されている拡大表示された二次粒子像14が何れの加工パターンを加工・観察しているものなのかは、対応している加工パターンを矢印53で指示すことで何れの断面像を加工・観察しているのかをオペレータに知らしめる。
【0035】
図10と図11は、表示手段6に表示される拡大表示された二次粒子像14が試料3の何れの断面像なのかを明示する別の実施例である。図10の実施例は、対応する加工パターンを矢印53で指示すると共に、設定した加工パターンごとに拡大表示された二次粒子像の表示の仕方を変える。この例では拡大表示された二次粒子像(A)54と拡大表示された二次粒子像(C)56とで上下を逆に表示することで、何れの断面像を加工・観察しているのかをオペレータに知らしめる。また、図11は図10の実施例とは逆で、オペレータが断面像の判断を行いやすいように、すべての拡大表示された断面像を同じ方向で表示し、この例では拡大表示された二次粒子像(A)54と拡大表示された二次粒子像(B)55とを同じ方向で表示し、何れの断面を加工・観察しているのかは図9の実施例と同じく対応している加工パターンを矢印53で指示すことでオペレータに知らしめる。ここでは断面が二つの実施例を示したが、断面の数は幾つあっても構わない。
【0036】
図12は、試料3の薄膜部60の厚さのモニター、測定を行う実施例である。表示手段6に薄膜部の厚さが観察された二次粒子像15を表示し、薄膜部60の二つの長辺カーソル、この例ではカーソル(A)61とカーソル(B)62を合わせると薄膜部60の厚さを自動測定し、表示手段6の厚さ表示部63に測定値を表示する。加工の終了判断に、この薄膜部60の厚さの情報も用いることで、より正確な加工終了判断が行えるようになる。
【0037】
図13は、本発明の荷電ビーム装置101と別の電子ビーム装置102とを用いたマイクロ角柱の三次元データ構築の実施例である。従来は、バルク状の試料3をイオンビーム11により加工領域(A)111,加工領域(B)112,加工領域(C)113,加工領域(D)114を除去し、微小な角柱状の試料であるマイクロ角柱108を作製した後、マイクロ角柱108をSTEMあるいはTEMに移し、高分解能で透過粒子像22を様々な方向から観察することで、マイクロ角柱108の構造解析を行っていた。この場合、スループットが低下するため、加工領域(A)111,加工領域(B)112,加工領域(C)113,加工領域(D)114の情報は捨てる、すなわち、加工領域(A)111,加工領域(B)112,加工領域(C)113,加工領域(D)114の加工中に加工を中断して断面を観察するようなことは行われていない。本実施例では、加工しながら同時にその断面を観察できるので、スループットを落とさないまま加工領域(A)111,加工領域(B)112,加工領域(C)113,加工領域(D)114の断面情報を取得することができる。4つの加工領域に対応する断面情報を、その断面が試料3のどの位置に存在するのかを示す位置情報と関連付けて保存し、別の電子ビーム装置102、この場合はSTEMあるいはTEMで観察したマイクロ角柱108の構造情報と融合して試料3の三次元データ(B)33を構築する。三次元データ(B)33の構築に使用する情報は、図4や図8で述べたような、同じサイズの断面画像である必要は無い。
【0038】
図14は、マイクロ円柱の三次元データ構築の実施例である。イオンビーム11を走査方向121で走査しながら試料ステージ4を試料回転方向123で回転し、イオンビーム11は徐々にシフト方向122へ移動してゆくことで、微小な円柱状の試料であるマイクロ円柱109を作製する。本実施例は、試料3を回転して円柱状に加工するため、断面像は一つである。表示手段6には、一枚の拡大表示された二次粒子像14を、試料の回転軸からパノラマビューで眺めるように表示する。これらデータを半径方向に融合することで試料3の三次元データ(B)33を構築することができる。マイクロ円柱109を別の電子ビーム装置に移して構造解析し、図13で述べたような三次元データを構築することもできる。
【0039】
図15は、四つの断面の加工・観察を行った場合の、拡大表示された二次粒子像を表示する実施例である。試料3の上面からイオンビーム11を照射し、4つの断面(C)131,断面(D)132,断面(E)133,断面(F)134を加工・観察する。図9,図10,図11で述べたように、各々の断面像を個別に表示手段6に示す代わりに、試料3の上面像と、その四辺の断面像(C)141,断面像(D)142,断面像(E)143,断面像(F)144を展開図のように表示手段6へ表示する。試料3の上面図と4つの断面像を見ながら加工の終了判断を行う。
【0040】
本実施例により、加工と加工断面のモニターを繰り返しながら、薄膜等の試料を製作するプロセスに対して、たとえ正確な不良箇所の分からない試料であっても、高スループットで所望の領域を失うことなく、正確な試料作製を実現できる。また、加工と加工断面のモニターを繰り返して試料の三次元構造解析を行うプロセスに対しても解析スループットの向上を実現できる。更に、電子線照射に非常に弱い材料であっても限りなく真の姿に近い断面を観察できる。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】イオンビーム照射系を具備する荷電ビーム装置の概略構成図。
【図2】イオンビーム照射系と電子ビーム照射系とを具備する荷電ビーム装置の概略構成図。
【図3】三次元データ構築の実施例。
【図4】三次元データ構築の実施例。
【図5】三次元データ構築の実施例。
【図6】イオンビーム照射系と電子ビーム照射系とを具備する荷電ビーム装置の概略構成図と三次元データ構築の実施例。
【図7】三次元データ構築の実施例。
【図8】三次元データ構築の実施例。
【図9】断面像表示の実施例。
【図10】断面像表示の実施例。
【図11】断面像表示の実施例。
【図12】薄膜厚測定の実施例。
【図13】三次元データ構築の実施例。
【図14】三次元データ構築の実施例。
【図15】断面像表示の実施例。
【符号の説明】
【0042】
1 イオンビーム照射系
2 電子ビーム照射系
3 試料
4 試料ステージ
5 二次粒子検出器
6 表示手段
7 制御手段
8 真空容器
9 断面(A)
10 断面(B)
11 イオンビーム
12 ビーム照射方向
13 短冊状の加工領域
14 拡大表示された二次粒子像
15 二次粒子像
16 電子ビーム
17 電子ビーム照射方向
18 3〜6°程度の角度
19 イオンビームの走査範囲
22 透過粒子像
31 断面加工の方向
32 三次元データ(A)
33 三次元データ(B)
41 電子ビームによる二次粒子像
42 透過電子検出器
43 反射電子検出器
44 透過電子像
51 加工パターン(A)
52 加工パターン(B)
53 矢印
54 拡大表示された二次粒子像(A)
55 拡大表示された二次粒子像(B)
56 拡大表示された二次粒子像(C)
60 薄膜部
61 カーソル(A)
62 カーソル(B)
63 厚さ表示部
100 加工後の試料
101 荷電ビーム装置
102 別の電子ビーム装置
103 電子線
108 マイクロ角柱
109 マイクロ円柱
111 加工領域(A)
112 加工領域(B)
113 加工領域(C)
114 加工領域(D)
121 走査方向
122 シフト方向
123 試料回転方向
131 断面(C)
132 断面(D)
133 断面(E)
134 断面(F)
141 断面像(C)
142 断面像(D)
143 断面像(E)
144 断面像(F)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージが配置される真空容器と、
イオンビームを発生させると共に集束させ試料上を走査させるイオンビーム照射系と、
前記試料から発生する二次粒子を検出する二次粒子検出器と、
前記二次粒子により形成される二次粒子像を表示する表示手段と、を備えた荷電ビーム装置であって、
イオン照射方向と略平行の断面に対し、イオンビーム照射方向から前記該断面が含まれる領域に短冊状の加工領域を設定し、
前記加工領域をイオンビームにより加工し、
加工中の二次粒子像を少なくとも短冊形状の短辺方向を拡大し、断面構造が判断できるように表示することを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項2】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
短辺方向を拡大した短冊形状の加工領域が、イオンビームによる加工の終了判断に用いられることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項3】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
少なくとも一つ以上の断面の加工において、前記試料の三次元データは前記試料の加工と観察を連続的あるいは断続的に行い、観察した二次粒子像を時系列で保存し、前記保存した二次粒子像を用いて構築されることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項4】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
前記試料は薄膜に加工され、前記二つ以上の断面に薄膜の両面が含まれることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項5】
請求項3記載の荷電ビーム装置にて時系列に保存した二次粒子像と、加工後の前記試料を他の荷電ビーム装置に移し、観察・保存した二次粒子像,透過粒子像、又は反射粒子像、若しくはこれらのうち少なくとも一つ以上を用いて試料の三次元データを構築することを特徴とする三次元試料解析システム。
【請求項6】
試料を載置する試料ステージと、
前記試料ステージが配置される真空容器と、
イオンビームを発生させると共に集束させ試料上を走査させるイオンビーム照射系と、
電子ビームを発生させると共に集束させ前記試料上を走査させる電子ビーム照射系と、
前記試料から発生する二次粒子を検出する二次粒子検出器と、
前記二次粒子により形成される二次粒子像を表示する表示手段と、を備えた荷電ビーム装置であって、
イオン照射方向と略平行の断面に対し、イオンビーム照射方向から前記該断面が含まれる領域に短冊状の加工領域を設定し、
前記加工領域をイオンビームにより加工し、
加工中の二次粒子像を少なくとも短冊形状の短辺方向を拡大し、断面構造が判断できるように表示することを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項7】
請求項6記載の荷電ビーム装置において、
薄膜加工された試料に対し、
一方の断面の二次粒子像を前記電子ビームにより取得し、他方の断面を前記イオンビームにより取得することを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項8】
請求項7記載の荷電ビーム装置において、
イオンビームにより取得した二次粒子像、及び/又は前記電子ビームにより取得した二次粒子像が、イオンビームによる加工の終了判断に用いられることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項9】
請求項6記載の荷電ビーム装置において、
少なくとも一つ以上の断面の加工において、前記試料の加工と観察を連続的あるいは断続的に行い、イオンビームにより取得した二次粒子像、及び/又は前記電子ビームにより取得した二次粒子像を時系列で保存し、前記保存した二次粒子像を用いて前記試料の三次元データを構築することを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項10】
請求項6記載の荷電ビーム装置において、
透過電子を検出する透過電子検出器、及び/又は反射電子を検出する反射電子検出器を備え、
前記試料の加工と観察を連続的あるいは断続的に行い、イオンビームにより取得した二次粒子像、前記電子ビームにより取得した二次粒子像、前記電子ビームにより取得した透過電子像、及び/又は前記電子ビームにより取得した反射電子像、を時系列で保存し、前記保存した像を用いて試料の三次元データを構築することを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項11】
請求項6記載の荷電ビーム装置において、
前記断面の所望の領域までは、イオンビームにより二次粒子像を取得し、所望の領域に達した後は、前記電子ビームにより二次粒子像を取得することを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項12】
請求項9記載の荷電ビーム装置にて時系列に保存した像と、加工後の前記試料を他の荷電ビーム装置に移し、観察・保存した二次粒子像,透過粒子像、及び/又は反射粒子像を用いて三次元データを構築することを特徴とする三次元試料解析システム。
【請求項13】
請求項10記載の荷電ビーム装置にて時系列に保存した像と、加工後の前記試料を他の荷電ビーム装置に移し、観察・保存した二次粒子像,透過粒子像、及び/又は反射粒子像を用いて三次元データを構築することを特徴とする三次元試料解析システム。
【請求項14】
請求項1記載の荷電ビーム装置において、
前記表示手段は、前記断面の二次粒子像が何れの断面なのかを明示することを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項15】
請求項14の荷電ビーム装置において、
前記明示手段は、少なくとも一つ以上の前記断面の二次粒子像が表示され、前記二次粒子像は全て上下左右同じ方向で表示されることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項16】
請求項14の荷電ビーム装置において、
前記明示手段は、少なくとも一つ以上の前記断面の二次粒子像が表示され、前記二次粒子像は全て上下左右異なる方向で表示されることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項17】
請求項4記載の荷電ビーム装置において、
前記薄膜試料の薄膜部の厚さを測定し、前記測定した薄膜部の厚さが加工の終了判断に用いられることを特徴とする荷電ビーム装置。
【請求項18】
真空容器に配置された試料ステージに試料を載置し、
試料をイオンビームにより加工し、ビーム照射方向と概ね平行な断面を、少なくとも二つ試料に作製し、
イオン照射方向と略平行の断面に対し、イオンビーム照射方向から前記該断面が含まれる領域に短冊状の加工領域を設定し、
前記加工領域をイオンビームにより加工し、
加工中の二次粒子像を少なくとも短冊形状の短辺方向を拡大し、断面構造が判断できるように表示する加工観察方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【公開番号】特開2009−26621(P2009−26621A)
【公開日】平成21年2月5日(2009.2.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−188986(P2007−188986)
【出願日】平成19年7月20日(2007.7.20)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 〔発行者名〕 日本顕微鏡学会第63回学術講演会 事務局 〔刊行物名〕 日本顕微鏡学会第63回学術講演会 発表要旨集 〔発行年月日〕 2007年5月20日
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】