説明

荷電粒子線装置

【課題】多くの測定点数が存在するホトマスクのCD検査において、再検査を実行するための再検査用レシピを的確かつ自動で生成する荷電粒子線装置を提供する。
【解決手段】試料の位置座標、測定条件を含むレシピに基づいて、前記試料の自動測長を行う荷電粒子線装置であって、前記試料にUVまたはイオン照射のうち少なくとも1つを実行する試料前処理部と、アドレッシング、オートフォーカス、オートスティグマ、オートブライトネス、オートコントラストのうち少なくとも1つを実行する測定前処理部と、前記試料のSEM画像取得を行う検査実行部と、n回目の測長に用いる前記レシピを複写し、該複写レシピから前記画像取得に成功した前記位置座標を消去し、n+1回目の検査レシピを生成するレシピ生成部と、を備えることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造ラインでパターン幅を測長するCD(Critical Dimension)検査を行うための荷電粒子線装置に関し、例えばホトマスク用測長荷電粒子線装置を代表とする、ホトマスク上に形成された集積回路パターンを自動測長する荷電粒子線装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
半導体製造で使用されるホトマスクは、パターンの高集積化に伴い微細化が進んでいる。それに伴い、ホトマスク検査装置の高精度化が求められ、ホトマスク用測長荷電粒子線装置を代表とする荷電粒子線を用いた検査装置が主流になっている。
【0003】
従来、この検査装置を用いたCD検査では、荷電粒子線装置にて取得したSEM画像からパターンの配線幅などの各種寸法値が計測され、これらの寸法値からパターンの出来栄えが評価される。また、計測は、パターンの位置座標・サイズ・形状、測定シーケンス・測定条件等が登録されたレシピに基づいて自動で行われる。例えば特許文献1は、SEM装置等において、レシピを自動作成する技術を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−351746号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記レシピに基づいて計測後、SEM画像取得が失敗したパターンの位置座標は再検査を要するため、オペレータは当該座標を手作業で記録し、再検査用のレシピを短時間で正確に作成しなければならない。オペレータは、ホトマスク用測長荷電粒子線装置の生産寄与率を低下させないように、レシピ作成時間を最短にするよう努めなければならない。
【0006】
近年のパターンの微細化に伴うOPC(Optical Proximity Correction)技術等の導入により、評価を要する測定点数が爆発的に増加する傾向にある。例えば、ホトマスク一枚につき測定点数は数千点またはそれ以上にも及ぶ。このため、上述のレシピ作成には多大な時間浪費を強いられ、オペレータの手作業では限界がある。
【0007】
また、測定条件としてレシピに登録されるホトマスクのコンタミネーション・帯電除去のためのUV・イオン最適照射時間は、ホトマスク完成までの製造プロセスに依存するため、一意に決定することは困難である。従って、コンタミネーション・帯電の影響を受けないと想定される一般的な値か、オペレータの経験により適当な値をレシピに登録している。照射時間が最適でない場合は、荷電粒子線のフォーカスずれや倍率変動が生ずるため、パターンのSEM画像取得が失敗し、スループット低下の要因となる。
【0008】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、多くの測定点数が存在するホトマスクのCD検査において、再検査を実行するための再検査用レシピを的確かつ自動で生成する荷電粒子線装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明では、現在のレシピは予め複写され、ホトマスク上のパターン画像取得後、画像取得が成功した場合は複写したレシピから当該位置座標を削除し、画像取得が失敗した場合は当該位置座標を残す仕組みを設ける。また、コンタミネーション・帯電除去のための最適照射時間は、予め登録された表に基づき一意に決定できる仕組みを設ける。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、多くの測定点数が存在するホトマスクのCD検査において、再検査を実行するための再検査用レシピが的確かつ自動で生成されるため、CD検査の時間を大幅に削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明のホトマスク用測長荷電粒子線装置の構成図である。
【図2】本発明のホトマスク用測長荷電粒子線装置の搬送経路を示す図である。
【図3】本発明のホトマスクの収納状態図である。
【図4】本発明のホトマスク荷電粒子線装置におけるレシピ生成方法のフロー図である。
【図5】本発明のUV・イオン照射時間決定表である。
【図6】本発明の中央処理装置の機能構成を概略的に表した構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、ホトマスク上に形成された集積回路パターンを自動測長する荷電粒子線装置に関するものである。以下、添付図面を参照して本発明の実施形態について説明する。ただし、本実施形態は、発明を実施するための一形態にすぎず、本発明の技術的範囲を限定するものではないことに注意すべきである。また、各図において共通の構成については同一の参照番号が付されている。
【0013】
<ホトマスク用測長荷電粒子線装置の装置構成>
図1は、本発明のホトマスク用測長荷電粒子線装置の構成図である。ホトマスク用測長荷電粒子線装置は、常時真空に保持されホトマスク102のSEM画像を取得するための試料室104、大気/真空の変換を行い大気側または真空側からのホトマスク102を待機させる予備室106、ホトマスク102を予備室106に搬送するための試料搬送機構109、を備える。試料室104と予備室106はゲートバルブ107、予備室と大気側はゲートバルブ108、によって区別されている。
【0014】
試料室104は、荷電粒子線を出し偏向を行う荷電粒子光学系101、水平面内を移動するステージ105を備える。予備室106は、ホトマスク102を乗せる試料台103を備える。
【0015】
図2は、ホトマスク用測長荷電粒子線装置の搬送経路を示す図である。試料搬送機構109は、ホトマスク102を収納するマスクケース110を開閉するオープナー111、ホトマスク102上に付着したコンタミネーションを除去するためのUV照射室112、ホトマスク102の表面の帯電を一様に除去するイオナイザ115、オープナー111、UV照射室112及び予備室106間でホトマスク102の搬送を行う搬送ロボット113、を備える。搬送ロボット113のロボットアーム114は、ホトマスク102端面をクランプして保持する構造とし、材質は導電性の樹脂を使用し、ホトマスク102端面に一部回りこんでいる導電性のクロム(Cr)を接地除電する。また、UV・イオン照射、ホトマスクの搬送・移動等、必要な演算処理及び制御処理等を行う中央処理装置116、中央処理装置116での処理に必要なデータを格納する記憶媒体118、データの入出力を行うための入出力装置117、を備える。
【0016】
図6は、中央処理装置116の機能構成を概略的に表した構成図である。中央処理装置116は、検査実行部600、レシピ生成部601、搬送・移動制御部602、試料前処理部603、測定前処理部604、本測定部605、を備える。
【0017】
<ホトマスク用測長荷電粒子線装置の処理>
ホトマスク用測長荷電粒子線装置で検査されるホトマスクは、通常絶縁物である石英(Qz)を母材に、表面は電子線描画装置等で描画されたクロム(Cr)の集積回路パターンで覆われている。また、そのクロム(Cr)上に、電子線描画装置等で電子ビームを照射し、レジストを感光することによって配線パターンを形成する方法が採用されている。このようにして得られた集積回路パターンは、照射する電子ビームの強度や絞りによってパターンの形状が変化する。したがって、高精度の集積回路パターンを形成するには、ホトマスク用測長荷電粒子線装置を用いてパターンの出来栄えを検査する必要がある。
【0018】
以下、本発明のホトマスク用測長荷電粒子線装置を用いてホトマスク上に形成された集積回路パターンを自動測長する処理について説明する。この処理は、パターンの位置座標・サイズ・形状、測定シーケンス・測定条件等が登録されたレシピに基づいて行われる。
【0019】
(ホトマスクの搬送)
ホトマスク102は、クリーンな環境を維持するためのマスクケース110に常時保管されている(図3)。そのホトマスク102は、オープナー111にセットされ、マスクケース110の蓋が開けられ、搬送ロボット113によってUV照射室112に搬送される。
【0020】
(試料前処理)
試料前処理では、搬送されたホトマスク102に、UV・イオン照射が行われる。ホトマスクには、半導体製造プロセス中に異物が付着することがある。また、パターン製造工程中やホトマスクのハンドリング中に、露出した絶縁物である石英(Qz)が帯電を起こしやすい。このホトマスク上の集積回路パターンの寸法を電子線で測定する場合、異物や帯電が、荷電粒子線のフォーカスずれや倍率変動を発生させ、延いては測長誤差の要因となる。そのため、ホトマスク用測長荷電粒子線装置内にコンタミネーション・帯電除去機構を配置し、予めレシピに登録された時間UVあるいはイオンを照射することでコンタミネーション・帯電を除去する。
【0021】
まず、UV照射室112で予め登録した時間UVを照射することで、コンタミネーションが除去される。次に、再び搬送ロボット113で予備室106内の試料台103に搬送後、イオナイザ115からイオンを照射することで、帯電が除去される。これらの処理は、どちらか一方のみでも、両方行っても良い。この処理により、荷電粒子線のフォーカスずれや倍率変動の原因が除去される。その後、ホトマスクに描画した集積回路パターンを測定するための試料室104へ搬送される。
【0022】
(測定前処理)
測定前処理では、アドレッシング、オートフォーカス、オートスティグマ、オートブライトネス・コントラスト等の調整が行われる。この処理により、各測定ポイントが位置ずれなく、かつ高画質で撮像される。ここでの処理は、後述の本測定を実行する前処理として、レシピに登録されたパターンの位置座標の1つ1つに対して行われる。
【0023】
(本測定)
本測定は、ホトマスクに形成されたパターンのSEM画像が取得される。ここでは、測定するホトマスク、パターン位置座標、アライメント位置およびパターン検出などに用いる画像情報等、測定対象の情報が予め登録されたレシピを用いて行われる。イオン・UVの照射時間が十分で無く、コンタミネーション・帯電が除去しきれなかった場合、荷電粒子線のフォーカスずれや倍率変動が生じ、本測定が失敗する。本測定に失敗したパターン位置座標は、レシピに登録された全ての座標に対する測定が終了した後、まとめて再測定される。
【0024】
(再検査)
再検査は、本測定に失敗したパターン位置座標に対し修繕・洗浄処理が施された後、再度コンタミネーション・帯電除去から本測定までの処理が同様に行われる。ここでは、本測定に失敗したパターン位置情報、新たなイオン・UVの照射時間等が記録された再検査用レシピに基づき、実行される。再検査用レシピは、新規に生成されるのではなく、直前の検査で使用していた検査用レシピが複写され、必要最低限の変更が加えられた後、自動生成される。再検査用レシピの生成の詳細については後述する(図4)。
【0025】
以上の処理は、ホトマスク上の全パターン位置座標について本測定が正常に終了するまで繰り返される。
【0026】
<再検査用レシピの生成>
以下、本発明の再検査用レシピの自動生成方法について、図を参照しながら詳細に説明する。再検査用レシピとは、n回目の検査終了後、n+1回目の検査で用いるレシピを指す(n≧1)。
【0027】
図4は、本発明のホトマスク用測長荷電粒子線装置における再検査用レシピ生成を説明するためのフローチャートである。
【0028】
ステップ201では、検査実行部600が、n回目の検査用レシピを用いて、検査を開始する。
【0029】
ステップ202では、レシピ生成部601が、現在のレシピ名を取得し、複写回数を更新する。例えば、現在のレシピ名として「ホトマスクA検査用レシピ」を取得し、複写回数をn+1と更新する。
【0030】
ステップ203では、レシピ生成部601が、レシピ名に更新回数を付加してレシピを複写し、記憶媒体118に保存する。例えば、n回目の検査用レシピを複写し、複写したレシピ名を「n+1回目ホトマスクA検査用レシピ」とする。ここで複写したレシピは、以降の処理に付され、最終的に再検査用レシピとなる。
【0031】
ステップ204では、搬送・移動制御部602が、レシピに登録されている試料「ホトマスクA」を装置内に搬送する。
【0032】
ステップ205では、試料前処理部603が、搬送経路内に取り付けられたUV照射機構またはイオナイザを用いて、予めレシピに登録された時間UVまたはイオンを照射し、試料上のコンタミネーションまたは帯電を除去する。
【0033】
ステップ206では、搬送・移動制御部602が、コンタミネーションや帯電除去後のホトマスクを試料室104へ搬送する。
【0034】
ステップ207では、搬送・移動制御部602が、ホトマスクを測定登録位置へ移動する。
ステップ208では、測定前処理部604が、アドレッシング、オートフォーカス、オートスティグマ、オートブライトネス・コントラスト等の測定前処理が行われる。
【0035】
ステップ209では、検査実行部600が、測定前処理が正常に終了したか否か確認する。正常か否かは、測長パターンが入出力装置117の表示画面内に存在するかどうかで判断する。処理が、正常に終了した場合はステップ210へ、正常に終了しなかった場合はステップ213へ進む。
【0036】
ステップ210では、本測定処理部605が、本測定処理を行う。つまり、ホトマスクに形成されたパターンのSEM画像が取得される。
【0037】
ステップ211では、検査実行部600が、本測定の結果が正常であるか否か確認する。入出力装置117の表示画面内に存在する測長パターンの線幅は、現在の倍率と画面に表示される測長カーソルの幅より、大体予測できる。この予測に対して実寸法が閾値以内であれば、正常と判断する。「実際に測長したときの実寸法の正当性は、予測寸法に対して、±10%以内である。」というように予めユーザが閾値を決める。結果が正常である場合は、処理はステップ212へ進む。この場合、パターンのSEM画像の取得が成功したことになる。一方、正常でない場合は、処理はステップ213へ進む。この場合、荷電粒子線のフォーカスずれや倍率変動が原因で画像取得に失敗したことになる。
【0038】
ステップ212では、レシピ生成部601が、ステップ203の複写レシピから、画像取得に成功したパターン位置座標を消去する。
【0039】
ステップ213では、検査実行部600が、ステップ201の検査用レシピに登録された全登録点の測定が終了するまで、ステップ207から212の処理を繰り返す。つまり、全登録点の測定が終了した時点で、複写レシピには、画像取得に失敗したパターン位置座標のみが残されている。
【0040】
ステップ214では、レシピ生成部601が、レシピの全登録点の測定終了後、UV・イオン照射時間決定表を記憶媒体118から読み出す。この表については後述する(図5)。
【0041】
ステップ215では、レシピ生成部601が、読み出したUV・イオン最適照射時間を複写レシピに書き込む。
【0042】
ステップ216では、レシピ生成部601が、照射時間が書き込まれた複写レシピを記憶媒体118に記録する。この処理により、検査回数に応じた最適な照射時間が複写レシピに登録される。
【0043】
以上の処理により、複写レシピには再検査すべきパターン位置座標およびUV・イオン最適照射時間等が登録され、当該複写レシピは再検査用レシピとして用いられる。
【0044】
図5は、UV・イオン照射時間決定表であり、レシピ複写回数とUV・イオン最適照射時間との対応関係を示す。検査が終了すると、画像取得に失敗したパターンは再検査のため修繕、洗浄処理(クリーニング)が行われる。すなわち、再検査が繰り返されるパターンは、そのたびにクリーニングに付されるので、一般的に照射時間は少なくて済む。よって、照射時間は検査回数、つまりレシピの複写回数と反比例の関係となる。図5は、この関係を表にしたものであり、検査実行前に予め記憶媒体118に格納しておき、ステップ215でレシピ複写回数から最適照射時間を求めるために用いる。図5のように、n回目再検査用レシピの照射時間を決定する際、複写回数がn−1の照射時間を用いる。なお、複写回数0回目、すなわち1回目の検査用レシピには、この表を用いず、一般的な値か、オペレータの経験等により、照射時間を登録する。また、この表は、多岐に渡る半導体製造プロセスに対して柔軟に対応するため、自由に変更できる仕組みを設ける。このように、最適照射時間をレシピに反映させることで、検査時間の短縮を図り、スループットが向上しうる。
【0045】
<まとめ>
本発明は、ホトマスク用測長荷電粒子線装置に限られるものではなく、イオンビーム照射装置等の荷電粒子線装置にも適用が可能である。
【0046】
本発明のホトマスク用測長荷電粒子線装置は、現在の検査レシピを複写し、複写レシピから画像取得に成功したパターン位置座標を消去し、複写レシピに複写回数に応じた最適照射時間を登録することで、再検査用レシピの生成を自動で行う。
【0047】
これにより、多くの測定点数が存在するホトマスクのCD検査において、再検査を実行するための再検査用レシピが的確かつ自動で生成されるため、CD検査の時間を大幅に削減することができる。
【符号の説明】
【0048】
101荷電粒子光学系、102ホトマスク、103試料台、104試料室、105ステージ、106予備室、107,108ゲートバルブ、109試料搬送機構、110マスクケース、111オープナー、112 UV照射室、113搬送ロボット、114ロボットアーム、115イオナイザ、116中央処理装置、117入出力装置、118記憶媒体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の位置座標、測定条件を含むレシピに基づいて、前記試料の自動測長を行う荷電粒子線装置であって、
前記試料にUVまたはイオン照射のうち少なくとも1つを実行する試料前処理部と、
前記試料にアドレッシング、オートフォーカス、オートスティグマ、オートブライトネス、オートコントラストのうち少なくとも1つを実行する測定前処理部と、
前記試料のSEM画像取得を行う検査実行部と、
n回目の測長に用いる前記レシピを複写し、該複写レシピから前記画像取得に成功した前記位置座標を消去し、n+1回目の検査レシピを生成するレシピ生成部と、
を備えることを特徴とする荷電粒子線装置。
【請求項2】
請求項1の荷電粒子線装置において、前記測定条件はUVまたはイオンの照射時間のうち少なくとも1つを含み、
前記レシピ生成部は、前記レシピに含まれる全ての位置座標の測定終了後、予め記憶媒体に格納されたレシピ複写回数とUVまたはイオンの最適照射時間との関係を用いて、前記複写レシピの前記測定条件に前記最適照射時間を登録することを特徴とする荷電粒子線装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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