説明

落下流水型水質計

【課題】垂直なノズルの先端から流下させた試料水の水流に光を照射し、前記水流を透過した光を検出することにより試料水の水質を測定する落下流水型水質計であって、ノズル径を変更することなく、セル長を変更することができ、したがって試料水の性状に応じて正確な測定を行うことが可能な落下流水型水質計を提供する。
【解決手段】ノズル100として、試料水が流れる中空部の水平断面が円形に形成され、所定間隔離間して並列配置された複数のノズルを設け、光106が複数のノズルから流下する複数の水流102をそれぞれ透過するようにする。また、単数のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態と、複数のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態とを切り替え可能とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ノズルの先端から試料水を流下させて試料水の水流を作るとともに、上記水流に直接光を当てて吸光光度法により試料水の水質を測定する落下流水方式の水質分析計(以下「落下流水型水質計」という)に関する。本発明の落下流水型水質計は、例えば、排水や環境水を汚染している有機物質の濃度(有機汚濁物質濃度)を計測する有機汚濁モニターなどとして好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
従来、ノズルの先端から試料水を流下させて試料水の水流を作るとともに、上記水流に直接光を当てて吸光光度法により試料水の水質を測定する落下流水型水質計が知られている(例えば、特許文献1参照)。落下流水型水質計は、水流の形状が安定に保持される位置に光学系を設けたもので、試料水に接触するセル窓がないため、セル窓の汚れに起因する測定誤差が生じないなどの特徴を有する。落下流水型水質計では、水流の太さがセル長(光路長)に相当する。
【0003】
上述した落下流水型水質計の1つとして、図3に示す紫外線吸光光度法を利用した有機汚濁モニターが使用されている(非特許文献1参照)。図3において、10は試料水が流れる中空部の水平断面が円形に形成され、垂直に設置されたノズル、12はノズル10に連結された試料水流通管、14は光源(低圧水銀ランプ)、16は光源用電源、18は集光レンズ、20、22はそれぞれハーフミラー、24は波長365〜435nmの可視光を波長選択する可視光パスフィルタ、26は可視光検出器、28は集光レンズ、30は波長254nmの紫外光を波長選択する紫外光パスフィルタ、32は紫外光検出器、34は紫外・可視比較光検出器、36は光学系を収容する収容体、38は水平方向に移動可能なスパンチェックのための校正用光学フィルタ、40はノズル10内に設けられた上下動可能な洗浄用ワイパー、42は演算部、44は表示部であり、可視光検出器26、紫外光検出器32、紫外・可視比較光検出器34はそれぞれ演算部42に電気的に接続されている。なお、上記洗浄用ワイパー40は、試料水の落下流水状態を安定に維持するために、周期的に上下動してノズル10の内面を自動洗浄するものである。
【0004】
本例の有機汚濁モニターは、ノズル12の先端から試料水を流下させて円柱形の落下水流46を形成し、この落下水流46に光源14からの光を照射して、可視光検出器24、紫外光検出器30、紫外・可視比較光検出器34により可視光、紫外光、紫外・可視比較光を検出するとともに、可視吸光度測定値VVIS、紫外吸光度測定値VUV、紫外・可視吸光度測定値VREFに基づいて演算部42で試料水中の有機汚濁物質濃度を演算し、その値を表示器46に表示するものである。この場合、落下水流46の径(太さ)aがセル長に相当し、本例ではノズル12の先端内径(ノズル径)が10mmであるため、セル長aは10mmである。
【0005】
また、本例の有機汚濁モニターは、可視光と紫外光の吸光度を測定する2波長吸光光度法による計測器であり、可視光パスフィルタ24および紫外光パスフィルタ30によって波長選択された試料水透過光は、演算部42での演算処理によって可視吸光度AVISと紫外吸光度AUVとの差が求められ、V/I変換器によって出力信号になる。したがって、原理上、水中の懸濁物質(SS)は補正されて有機汚濁物質濃度を有効的に示すことになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開昭53−72690号公報
【0007】
【非特許文献1】東亜ディーケーケー株式会社の「有機汚濁モニターUV計 OPM−423A」のカタログ(http://www.toadkk.co.jp/product/env/wq/uv.html)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
一般に、有機汚濁モニターでは、試料水中の有機汚濁物質濃度が高濃度である場合はセル長が短く、低濃度である場合はセル長が長いことが、正確な測定を行うために好ましい。
【0009】
しかし、図3に示した有機汚濁モニターは、ノズル径が10mmのノズルを1本有するのみであるため、有機汚濁物質濃度が低濃度の試料水に対応することが難しい。
【0010】
これに対し、ノズル径を2倍にすることによって、セル長を2倍に変更することは可能であるが、このようにすると、必要な試料水量は4倍になる。具体的には、図3の有機汚濁モニターは、ノズル径が10mmで、必要な試料水量は8L/分であるが、ノズル径を20mmにすると、必要な試料水量は32L/分になる。
【0011】
一方、試料水の落下流水状態を安定に維持するためには、水流が乱れることなく自然落下する必要があるため、十分に長いノズルを使って試料水の流れを層流にしなければならない。しかしながら、前述のように、ノズル径を2倍にすると、必要な試料水流量が4倍になるため、水流の安定な形成が難しくなるとともに、このように大きい試料水流量を確保することが難しくなり、実用的でなく、測定を行うことが実質上困難になる。
【0012】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたもので、有機汚濁モニターなどとして使用される落下流水型水質計であって、ノズル径を変更することなく、セル長を変更することができ、したがって試料水の性状に応じて正確な測定を行うことが可能な落下流水型水質計を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、上記目的を達成するため、垂直なノズルの先端から流下させた試料水の水流に光を照射し、前記水流を透過した光を検出することにより試料水の水質を測定する落下流水型水質計であって、前記ノズルとして、試料水が流れる中空部の水平断面が円形に形成され、所定間隔離間して並列配置された複数のノズルを有し、前記光が前記複数のノズルから流下する複数の水流をそれぞれ透過するとともに、単数のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態と、複数のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態とを切り替え可能としたことを特徴とする落下流水型水質計を提供する。
【発明の効果】
【0014】
本発明の落下流水型水質計は、複数のノズルを並列配置したので、後述するように、前側のノズルから流下する水流を透過した光が、後側のノズルから流下する水流を透過するときにさらに屈折し、減衰することなく検出器に到達するため、ノズル径を変更することなく、セル長を変更することができる。また、単数のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態と、複数のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態とを切り替え可能としたので、セル長を広範囲にわたって変更することができる。したがって、本発明の落下流水型水質計によれば、試料水の性状に応じて正確な測定を行うことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る落下流水型水質計の一例のノズル部分を示すもので、(a)は模式的正面図、(b)は模式的平面図である。
【図2】従来の落下流水型水質計の一例のノズル部分を示すもので、(a)は模式的正面図、(b)は模式的平面図である。
【図3】従来の落下流水型水質計の一例のノズル部分を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
図1は、本発明に係る落下流水型水質計(有機汚濁モニター)の一例のノズル部分を示すもので、(a)は模式的正面図、(b)は模式的平面図である。図2は、従来の落下流水型水質計(有機汚濁モニター)の一例のノズル部分を示すもので、(a)は模式的正面図、(b)は模式的平面図である。
【0017】
まず、図2に示すノズルが1本の従来例について説明する。この従来例は、図3に示した有機汚濁モニターに相当するものである。図2に示すように、ノズル(ノズル径:10mm)100の先端から流下する試料水の円柱形の水流102に照射された光源104からの光(平行光)106は、水流102の屈折率にしたがって屈折するため、一般に水流102の後方に焦点108を結ぶ。この場合、水の屈折率は1.3程度であるため、光106は、水流102の後端から水流102の半径の長さ程度離れた後方位置に焦点を結ぶ。焦点108で収束した光は、そのまま発散を始めるため、水流102を透過した光はその後方にある検出器110に到達するまでにかなり減衰する。
【0018】
これに対し、本発明例では、図1に示すように、前側のノズル(ノズル径:10mm)100Aから流下する水流102Aに入射した光(平行光)106が結ぶ焦点108の位置より後方に、後側のノズル(ノズル径:10mm)100Bが配置されている。この場合、両ノズル100A、100Bはノズル径が互いに等しく、また、光106は、第1の水流102Aの後端から水流の半径の長さ程度離れた後方位置に焦点を結ぶので、各ノズル100A、100Bのノズル径mと、各ノズル100A、100Bから流下する水流102A、102B同士の間隔nとをほぼ等しい長さにしてある。
【0019】
そのため、本例では、第1の水流102Aを出て焦点108を結び、発散を始めた光106は、第2の水流102Bを透過するときにさらに屈折し、第1の水流102Aに入射したときのような平行光になるため発散することがなく、減衰することなく検出器110に到達する。
【0020】
したがって、本例では、セル長は、第1の水流102Aの径と第2の水流102Bの径との合計長さとなり、ノズルが1本の場合の2倍となる。この場合、ノズルを2本使用しても、必要な試料水量は16L/分であり、十分に実用的である。
【0021】
また、本例の有機汚濁モニターでは、1本のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態と、2本のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態とを切り替え可能としたので、試料水中の有機汚濁物質濃度が高濃度である場合には1本のノズルを用い、低濃度である場合は2本のノズルを用いることにより、試料水の性状に応じて正確な測定を行うことが可能である。なお、上記測定状態の切り替え手段は、適宜設定することができる。
【0022】
なお、本発明の落下流水型水質計は上記例に限定されるものではなく、種々の変更が可能であり、例えばノズルを3本以上設けてもよいが、検出器に平行光を入射させる点で、偶数本が好ましい。
【符号の説明】
【0023】
100 ノズル
102 水流
104 光源
106 光
108 焦点
110 検出器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
垂直なノズルの先端から流下させた試料水の水流に光を照射し、前記水流を透過した光を検出することにより試料水の水質を測定する落下流水型水質計であって、前記ノズルとして、試料水が流れる中空部の水平断面が円形に形成され、所定間隔離間して並列配置された複数のノズルを有し、前記光が前記複数のノズルから流下する複数の水流をそれぞれ透過するとともに、単数のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態と、複数のノズルから試料水を流下させて測定を行う状態とを切り替え可能としたことを特徴とする落下流水型水質計。
【請求項2】
前側のノズルから流下する水流に入射した光が結ぶ焦点の位置より後方に、前記前側のノズルに隣接する後側のノズルが配置されていることを特徴とする請求項1に記載の落下流水型水質計。
【請求項3】
前記各ノズルは、ノズル径が互いに等しいことを特徴とする請求項1または2に記載の落下流水型水質計。
【請求項4】
前記各ノズルのノズル径と、前記各ノズルから流下する水流の間隔とがほぼ等しい長さになるように、前記各ノズルの間隔を設定したことを特徴とする請求項3に記載の落下流水型水質計。
【請求項5】
前記ノズルの本数は偶数本であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の落下流水型水質計。
【請求項6】
前記ノズルの本数は2本であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の落下流水型水質計。
【請求項7】
紫外線吸光光度法による有機汚濁モニターとして構成されたことを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の落下流水型水質計。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−50389(P2013−50389A)
【公開日】平成25年3月14日(2013.3.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−188608(P2011−188608)
【出願日】平成23年8月31日(2011.8.31)
【出願人】(000219451)東亜ディーケーケー株式会社 (204)
【Fターム(参考)】