説明

落橋防止装置

【課題】緩衝効果が大きく、しかも簡単に製造することができる落橋防止装置を提供する。
【解決手段】2つの構造物間である桁端部と橋台との間又は隣接する桁端部間を連結して橋桁が落下するのを防止するための落橋防止装置であって、2つの構造物に両端部がそれぞれ連結され、少なくとも一部に伸縮することが可能な伸縮部11を有する連結部材11と、伸縮部11aが短縮された状態で金属スリーブ13内に収容され、その両端が金属スリーブ13内周に固定されてなる緩衝機構とを備え、金属スリーブ13にはその軸方向に間隔を置いて周方向に延びる多数のスリット15が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、落橋防止装置に関し、さらに詳細には、橋梁において地震時に上部構造である橋桁が橋台や橋脚等の下部構造から落下するのを防止する装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の落橋防止装置として、チェーンやケーブル、鋼棒等を用い、桁端部と橋台との間あるいは桁端部間を連結したものが知られている。これら連結部材を用いた落橋防止装置は一般には緩衝機構が組み込まれ、チェーンを用いたものの緩衝機構としてはゴムの内部にチェーンを短縮した状態で埋め込んだものが知られている(特許文献1参照)。
【0003】
このチェーンによる落橋防止装置は、地震による衝撃荷重をゴムで緩和しようとするものであるが、緩衝材がゴムであるためそれほど大きな緩衝効果を期待することができない。また、チェーンがゴム内部に埋設された構造であるため、製造が簡単であるとは言えない。
【0004】
この出願の発明に関連する先行技術情報としては次のようなものがある。
【特許文献1】特許第3756979号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この発明は上記のような技術的背景に基づいてなされたものであって、次の目的を達成するものである。
この発明の目的は、緩衝効果が大きく、しかも簡単に製造することができる落橋防止装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この発明は上記課題を達成するために、次のような手段を採用している。
すなわち、この発明は、2つの構造物間である桁端部と橋台との間又は隣接する桁端部間を連結して橋桁が落下するのを防止するための落橋防止装置であって、
前記2つの構造物に両端部がそれぞれ連結され、少なくとも一部に伸縮することが可能な伸縮部を有する連結部材と、
前記伸縮部が短縮された状態で金属スリーブ内に収容され、その両端が前記金属スリーブ内周に固定されてなる緩衝機構とを備え、
前記金属スリーブにはその軸方向に間隔を置いて周方向に延びる多数のスリットが形成されていることを特徴とする落橋防止装置にある。
【0007】
上記落橋防止装置において、前記伸縮部はチェーンからなる構成を採用することができる。また、前記連結部材は前記伸縮部を含む全体がチェーンからなる構成を採用することもできる。前記金属スリーブの両端部にその半径方向に横切ってロッドが固定され、これらのロッドに前記チェーンの両端部が嵌合し固定されている構成を採用することができる。
【発明の効果】
【0008】
この発明によれば、落橋防止装置の緩衝機構を多数のスリットを有する金属スリーブと、その内部に短縮した状態で収容される連結部材の一部である伸縮部とで構成したので、構造物に作用する衝撃荷重が連結部材に伝達されると、金属スリーブが延伸することにより衝撃エネルギーを吸収し、大きな緩衝効果を得ることができる。また、緩衝機構の構造は
極めて簡単であって、容易に製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
この発明の実施形態を図面を参照しながら以下に説明する。図1は、この発明による落橋防止装置の設置例を示す図である。図示の例では、落橋防止装置10は2つの構造物の一方である橋台1と、他方の構造物である橋桁2の端部との間を連結すべく設置されている。落橋防止装置10は、両端部が橋台1及び橋桁2の端部にそれぞれ連結される連結部材11と緩衝機構12とからなっている。
【0010】
図2は緩衝機構12を示す平面図である。連結部材11はこの実施形態ではリンクチェーンからなり、緩衝機構12は金属スリーブ13とその内部に収容されるリンクチェーン11の一部11aとで構成されている。なお、図示において、図面の複雑化を避けるために、リンクチェーン11と金属スリーブ13とは別個に示されている(それぞれ(a),(b))。
【0011】
リンクチェーン11は周知のように多数のリンク14からなり、1つのリンクを挟んでその両側にある2つのリンク14,14間の間隔を詰めることにより長さが短縮し、また間隔を広げることにより伸長することが可能な部材である。金属スリーブ13の内部に収容されるリンクチェーン11の一部11aは、上記のようにして長さを短縮した状態で収容されている。すなわち、リンクチェーン11の一部11aは請求項1でいうところの伸縮部に相当する部分である。
【0012】
金属スリーブ13は鋼管からなり、その周壁に軸方向に間隔を置いて周方向に延びる多数のスリット15が形成されている。この実施形態では1つの周方向に関して2つのスリット15,15が形成され、軸方向に隣接するスリット15どうしは周方向に関してほぼ90度ずれて配列されている(図3参照)。
【0013】
金属スリーブ13の両端部周壁には、その直径線上に位置する2つの穴16,16が設けられ、この穴16部分に穴16と整合する穴をもつ座金17が溶接されている。穴16,16には、図4に示すようにボルト18が挿入され、ナット19により金属スリーブ13に固定されている。このボルト18に伸縮部11aの両端部のリンク14が嵌っている。すなわち、ボルト18はリンクチェーン11の伸縮部11aの両端部を金属スリーブ13に固定するためのロッドを構成している。
【0014】
次に、上記落橋防止装置10の作用について説明する。図1に示すように、落橋防止装置10の連結部材を構成するリンクチェーン11は、緩衝機構12以外の部分が弛みをもつようにして橋台1及び橋桁2間に取り付けられる。この弛みにより橋桁2の温度変化等による伸縮を吸収することができる。
【0015】
ここで、地震により橋桁2に衝撃荷重が作用すると、リンクチェーン11の弛みがなくなって緊張し、荷重はリンクチェーン11及びボルト18を介して金属スリーブ13に伝達される。この結果、金属スリーブ13には軸方向の引張力が作用し、図5(b)に示すようにスリット15の幅が広がって延伸する(弾性変形及び塑性変形)。この金属スリーブ13の延伸によって、衝撃エネルギーが吸収される。そして、金属スリーブ13の延伸に伴って、その内部の伸縮部11aも図5(a)に示すように伸長し、伸縮部11aが完全に伸びきると荷重はリンクチェーン11のみによって支持されることになる。すなわち、リンクチェーン11がストッパとして機能し、橋桁2の落下を防止する。
【0016】
図6は金属スリーブ13の別の実施形態を示す平面図である。この実施形態では、金属スリーブに1つの周方向に関して3つのスリット15が形成され、軸方向に隣接するスリット15どうしは周方向に関してほぼ60度ずれて配列されている(図7参照)。
【0017】
図8は、上記落橋防止装置の力学的特性を示す線図であり、縦軸は荷重を横軸は変位をそれぞれ示している。変位δ1がリンクチェーン11の弛みによる移動量、変位δ2が地震時における落橋防止装置作動時の移動量である。Pyは金属スリーブの降伏荷重、Pdは設計荷重、Puはリンクチェーンの破断荷重をそれぞれ示している。斜線で示す部分が落橋防止装置による吸収エネルギーである。
【0018】
金属スリーブ13に引張力が作用しその降伏荷重Pyに達すると、金属スリーブ13は塑性変形を始める。そして、この塑性変形により衝撃エネルギーを吸収する。金属スリーブ13の降伏荷重はゴムに比べて極めて大きく、したがって大きなエネルギー吸収効果を得ることができる。この金属スリーブの降伏荷重は、設計荷重よりも小さな範囲で、スリーブの径、材質、スリット15の数及び幅等を変えることにより自由に設定することができる。なお、伸縮部11aの両端のリンク14を固定するボルト18は、装置の作動時に曲がってもよいが、破断はさせない強度とする。
【0019】
上記実施例は例示にすぎず、この発明は以下に記すように種々の態様を採ることができる。
(1)上記実施形態では、連結部材はその全体がリンクチェーンによって構成されているが、一部のみ、すなわち金属スリーブの内部に収容される伸縮部のみをリンクチェーンで構成し、他の部分をリンクチェーン以外の部材、例えばPCケーブルなどで構成することもできる。
【0020】
(2)金属スリーブの内部に収容される伸縮部も短縮した状態で金属スリーブに収容固定し、金属スリーブの延伸に伴って伸びることができる部材であればよく、リンクチェーンに限らない。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】この発明による落橋防止装置の設置例を示す図である。
【図2】緩衝機構を示す平面図である。
【図3】図2(b)の線A矢視断面図(a)、線B矢視断面図(b)である。
【図4】金属スリーブのボルト取付部の半径方向断面図である。
【図5】落橋防止装置作動時における緩衝機構の変形を示す平面図である。
【図6】金属スリーブの別の実施形態を示す平面図である。
【図7】図6の線A矢視断面図(a)、線B矢視断面図(b)である。
【図8】この発明による落橋防止装置の力学的特性を示す線図である。
【符号の説明】
【0022】
1 橋台
2 橋桁
10 落橋防止装置
11 リンクチェーン(連結部材)
11a 伸縮部(連結部材の一部)
12 緩衝機構
13 金属スリーブ
14 リンク
15 スリット
16 穴
18 ボルト

【特許請求の範囲】
【請求項1】
2つの構造物間である桁端部と橋台との間又は隣接する桁端部間を連結して橋桁が落下するのを防止するための落橋防止装置であって、
前記2つの構造物に両端部がそれぞれ連結され、少なくとも一部に伸縮することが可能な伸縮部を有する連結部材と、
前記伸縮部が短縮された状態で金属スリーブ内に収容され、その両端が前記金属スリーブ内周に固定されてなる緩衝機構とを備え、
前記金属スリーブにはその軸方向に間隔を置いて周方向に延びる多数のスリットが形成されていることを特徴とする落橋防止装置。
【請求項2】
前記伸縮部はチェーンからなることを特徴とする請求項1記載の落橋防止装置。
【請求項3】
前記連結部材は前記伸縮部を含む全体がチェーンからなることを特徴とする請求項1記載の落橋防止装置。
【請求項4】
前記金属スリーブの両端部にその半径方向に横切ってロッドが固定され、これらのロッドに前記チェーンの両端部が嵌合し固定されていることを特徴とする請求項2又は3記載の落橋防止装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−53618(P2010−53618A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−220976(P2008−220976)
【出願日】平成20年8月29日(2008.8.29)
【出願人】(509199007)株式会社川金コアテック (8)
【出願人】(597165618)株式会社ネクスコ東日本エンジニアリング (18)
【Fターム(参考)】