説明

落錘試験装置及び衝突ばねの算出方法

【課題】車輪を対象物に衝突させたときの変位を正確に計測することが可能な落錘試験装置を提供する。
【解決手段】車輪が横まくらぎ71に衝突したときの変形を計測するための落錘試験装置1である。そして、上方から横まくらぎに向けて落下させる重錘2と、重錘の下面に設けられる車輪を模擬した車輪型接触子3と、車輪型接触子から水平方向に延伸される複数のターゲット板4A,4B,・・・と、時刻とともにターゲット板の変位をそれぞれ計測する変位計5,・・・と、時刻とともに重錘の加速度を計測する加速度計6とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車輪が対象物に衝突したときの変形やそのときの衝突ばねの大きさなどを知るための試験に使用される落錘試験装置、及びその装置を使用した試験結果に基づいた衝突ばねの算出方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、重錘を対象物に落下させたり、対象物を上方から床面に落下させたりすることで、対象物の変形や強度を試験する装置が知られている(特許文献1、2など参照)。
【0003】
例えば、特許文献1には、自動車などの大型の対象物の衝突試験に使用される落下試験装置が開示されている。この落下試験装置は、重錘を吊り上げる支柱の高さを抑えるために、重錘を自由落下させるだけではなく、加速装置によって重錘を加速して落下させる構成となっている。
【0004】
一方、特許文献2には、対象物を床面に向けて落下させる落下試験装置が開示されている。この落下試験装置では、落下中に対象物が回転しないように、対象物の落下中の姿勢角度が固定できる構成となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−207790号公報
【特許文献2】特開2005−30938号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、列車が高速で走行中に大地震が起きると、列車を構成する車両の車輪がレールから外れて、横まくらぎ上を走行する可能性があることが知られている。
【0007】
そして、脱線によって車両の車輪が横まくらぎに衝突すると衝撃力が発生し、その衝撃力によって車両が持ち上がることになる。そこで、衝撃力の大きさと車両の跳ね上がり量との関係を解析によって確認しておくことが望まれるが、その解析において、車輪と横まくらぎとの衝突ばねをどのような値に設定するかが重要になる。
【0008】
他方、車輪のような曲面を衝突させる場合は、平面に平面を衝突させる従来の落下試験装置とは異なり、対象物に重錘が衝突している間に重錘が傾いて正確な変位が計測できないおそれがある。また、衝突中に発生する変位は、重錘の落下開始からの全変位に比べて非常に小さく、双方の変位を正確に計測することは難しい。
【0009】
そこで、本発明は、車輪を対象物に衝突させたときの変位を正確に計測することが可能な落錘試験装置、及び車輪と対象物とが衝突したときの衝突ばねの算出方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記目的を達成するために、本発明の落錘試験装置は、車輪が対象物に衝突したときの変形を計測するための落錘試験装置であって、上方から前記対象物に向けて落下させる重錘と、前記重錘の下面に設けられる前記車輪を模擬した車輪型接触子と、前記車輪型接触子又は前記重錘から水平方向に延伸される複数のターゲット面と、時刻とともに前記ターゲット面の変位をそれぞれ計測する変位計と、時刻とともに前記重錘の加速度を計測する加速度計とを備えたことを特徴とする。
【0011】
ここで、前記ターゲット面は、対向する位置に対になって取り付けられることが好ましい。また、前記ターゲット面は、前記車輪型接触子の車軸方向の両側と、車軸直交方向の両側とに取り付けられる構成とすることもできる。
【0012】
さらに、本発明の衝突ばねの算出方法は、上記の落錘試験装置を使った衝突ばねの算出方法であって、前記変位計及び前記加速度計による計測をおこないながら前記重錘の前記車輪型接触子を前記対象物に衝突させる工程と、前記変位計によって計測された複数のターゲット面の変位から平均変位を算出する工程と、前記加速度計によって計測された加速度に基づいて衝突開始時刻を決定し、その衝突開始時刻の平均変位を基準にして衝突中の食込み量を算出する工程と、前記加速度から算出される衝撃力と前記食込み量との関係から衝突ばねを算出する工程とを備えたことを特徴とする。
【0013】
ここで、前記対象物の塑性変形量を求める工程と、前記食込み量から前記塑性変形量を差し引いた弾性変形量を求める工程とを備えた構成とすることもできる。
【発明の効果】
【0014】
このように構成された本発明の落錘試験装置は、重錘の下面に車輪を模擬した車輪型接触子が設けられている。また、車輪型接触子又は重錘から複数のターゲット面が水平方向に延伸されており、それらの変位が変位計によって計測される。さらに、重錘には加速度計が取り付けられている。
【0015】
このため、車輪型接触子が対象物に傾いて衝突したとしても、複数のターゲット面で変位を計測することで傾きによる影響を取り除くことができる。また、加速度計の計測結果から衝突開始時刻を判定させることによって、局所的な変位を計測可能な感度の高い変位計を使用して、車輪を対象物に衝突させたときの変位を正確に計測することができる。
【0016】
また、対となるターゲット面を対向する位置に取り付けることで、想定される一方向の傾きについては容易に取り除くことができる。さらに、車輪型接触子の車軸方向の両側と車軸直交方向の両側にターゲット面を設けることで、車輪型接触子の衝突時の様々な方向の傾きの影響をほとんど取り除くことができる。
【0017】
また、上記した落錘試験装置を使って速度のある衝撃力と食込み量との関係を把握することができれば、走行する車輪が対象物に衝突しているときの動的な衝突ばねを算出することができる。
【0018】
さらに、対象物の塑性変形量を計測して食込み量から差し引くことによって、衝突時に発生する最大の弾性変形量を算出することができ、実際に起きる現象に合った衝撃力が算出されるような的確な衝突ばねを設定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の実施の形態の落錘試験装置の構成を説明する斜視図である。
【図2】バラスト上に並べられた横まくらぎ上にレールを敷設する鉄道の軌道の構成を説明する斜視図である。
【図3】落錘試験装置の重錘及び車輪型接触子の構成を説明する正面図である。
【図4】落錘試験装置の重錘及び車輪型接触子の構成を説明する側面図である。
【図5】ターゲット板の取り付け位置を説明する平面図である。
【図6】落錘試験装置の計測結果を使った衝突ばねの算出方法を説明する図である。
【図7】衝撃力と食込み量との関係を示した図である。
【図8】脱線後に横まくらぎ上を車輪が走行するときの鉛直挙動を示した図と、そのときに車輪と横まくらぎ間に発生する接触力を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して説明する。図1,3,4,5は、本実施の形態の落錘試験装置1の構成を説明する図である。また、この落錘試験装置1の試験結果を使って衝突ばねを算出する目的を、図2を例にして説明する。
【0021】
この図2は、横まくらぎ71が配置される鉄道の軌道7を説明する斜視図である。この軌道7は、図2に示すように例えば鉄筋コンクリート製の道床コンクリート73上に設けられる。この道床コンクリート73の上には、バラスト75が敷き詰められており、その上に軌道7の延伸方向に略直交する方向に向けて横まくらぎ71が配置される。
【0022】
この横まくらぎ71は、例えばプレストレストコンクリートによって成形され、軌道7の延伸方向に一定の間隔を置いて平行に並べられる。また、その上には、レール72,72と、それと並行する逸脱防止ガード74,74とが敷設される。
【0023】
続いて、高速走行中の車両の車輪がレール72から外れた場合(脱線した場合)にどのような状態になるかをシミュレーションする解析について説明する。
【0024】
図8は、時速270 kmで走行中の列車の車両の車輪が脱線した状態をシミュレーションした解析結果を示した図である。ここで、「まくらぎ走行ケース」とは脱線後に車輪が横まくらぎ71,・・・上を走行するケースであり、「平坦面走行ケース」とは脱線後に車輪が平坦なコンクリート面上を走行するケースである。
【0025】
このようなシミュレーションをおこなうにあたって、車輪と横まくらぎ71(又はコンクリート面)とが接触するときの衝突ばねの値を設定する必要がある。すなわち、図8の下図に示した車輪の鉛直変位は、設定された衝突ばねの大きさによって変化する。このため、実際に起きる現象を忠実に再現するためには、衝突ばねの値、特に衝突時の速度によって変化するような動的な衝突ばねの値を的確に設定する必要がある。
【0026】
そこで、本実施の形態の落錘試験装置1を使って、走行中の車輪が対象物としての横まくらぎ71に衝突する状況を模擬した試験をおこない、その試験結果を使って動的な衝突ばねを求める。
【0027】
この落錘試験装置1は、図1に示すように、上方から横まくらぎ71の上面に向けて落下させる重錘2と、重錘2の下面に設けられる車輪型接触子3と、車輪型接触子から水平方向に延伸される複数のターゲット面としてのターゲット板4A,4B,・・・と、ターゲット板4A,4B,・・・の変位をそれぞれ計測する変位計5,・・・と、重錘2の加速度を計測する加速度計6とを主に備えている。
【0028】
この重錘2は、図1,3−5に示すように、例えば鋼鉄などの磁性体によって円柱状に成形された錘である。この重錘2は、その上面に取り付けられる電磁石21を介して所定の高さまで持ち上げられる。
【0029】
この電磁石21は、巻上げ器(図示省略)に繋がる吊りワイヤ21aによって任意の高さに吊り上げることできる。また、電磁石21は、電源ケーブル21bに接続されており、任意のタイミングで通電と遮断をして磁力の有無を切り替えることができる。
【0030】
そして、所定の高さまで電磁石21に吸着されて持ち上げられた重錘2は、通電を遮断することによって電磁石21から切り離され、ガイドレール11に沿って自由落下して横まくらぎ71の上面に衝突することになる。この重錘2を持ち上げる高さを変えることによって、衝突時の速度を変化させることができる。
【0031】
また、重錘2の内部には、時刻と加速度を計測する加速度計6が埋設されている。この加速度計6は、計測ケーブル(図示省略)によって重錘2の自由落下の支障とならない状態で外部の計測装置(図示省略)に接続されており、計測結果は逐次、計測装置に記録される。
【0032】
さらに、重錘2の周面の対向する位置には、ガイドレール11,11に沿って移動させるための係合部22,22が設けられる。この係合部22は、図3−5に示すように、重錘2の周面に裏面を当接させる板状のベース部22bと、ベース部22bの表面に直交して並行に突出される並行刃部22cと、ベース部22bを重錘2に固定させるボルト22a,・・・とを備えている。
【0033】
この並行刃部22cは、一対の帯状板材をガイドレール11の厚みより大きな間隔で配置することによって形成される。この並行刃部22cの間隔がガイドレール11の厚みに近いほど、重錘2はガイドレール11に沿って真っ直ぐ落下することができるが、ガイドレール11と並行刃部22cとの接触が抵抗になるため落下速度及び衝撃力を低減させるおそれがある。このため、ガイドレール11と並行刃部22cとの間には、ある程度の離間を設ける。
【0034】
また、車輪型接触子3は、車両の車輪を模擬して成形される。すなわち、図3に示すように車輪型接触子3の本体部32の下方に設けられる車輪部31は、車輪の下部のように円弧状に成形される。また、図4に示すように、車輪部31の幅は、車輪の幅及び曲面を模擬して成形される。
【0035】
このような車輪型接触子3は、図5に示すように、横まくらぎ71の長手方向が車軸方向3Bと一致するように重錘2に取り付けられる。そして、車軸方向3Bに直交する車軸直交方向3Aの重錘2の周面に係合部22,22が取り付けられる。すなわち、ガイドレール11,11は、車軸直交方向3Aに横まくらぎ71を挟んで立てられる。
【0036】
そして、車輪型接触子3の鉛直方向の変位を計測するためのターゲット板4A,4Bが、図3,4に示すように重錘2の下面に取り付けられる。ここで、図5に示すように、車軸直交方向3Aの車輪型接触子3を挟んだ対向する位置に取り付けられるのがターゲット板4A,4Aとなり、車軸方向3Bの車輪型接触子3を挟んだ対向する位置に取り付けられるのがターゲット板4B,4Bとなる。
【0037】
この車軸直交方向3Aのターゲット板4A,4Aは、係合部22,22との干渉を避けるために中心(図5の一点鎖線3A)から少しずらした位置に取り付けられる。
【0038】
本実施の形態では、十字になるようにターゲット板4A,4A,4B,4Bを取り付け、主に車軸直交方向3Aと車軸方向3Bの傾きの影響を取り除けるようにした。
【0039】
すなわち、ガイドレール11と並行刃部22cとの間には接触による抵抗を低減するための隙間が確保されているので、重錘2及び車輪型接触子3は、吊り上げ時、落下時、横まくらぎ71との衝突時に傾くおそれがある。
【0040】
そして、車輪型接触子3は、車輪部31が円弧状に成形されているため、横まくらぎ71に衝突すると車軸直交方向3Aに傾き易い。また、車輪型接触子3は、車輪幅を模擬しているため幅が狭く、横まくらぎ71に衝突すると車軸方向3Bにも傾き易い。このため、車軸直交方向3A(及び車軸方向3B)の車輪型接触子3を挟んだ対向する位置にターゲット板4A,4A(4B,4B)をそれぞれ配置して、傾きの影響を取り除けるようにする。
【0041】
また、ターゲット板4A,4Bは、重錘2の落下時及び横まくらぎ71との衝突中に撓まない程度の剛性を備えた板材である。さらに、ターゲット板4A,4Bの下面は、変位計5の計測基準面となるため、使用する変位計5の特性に合わせた面に形成される。
【0042】
この変位計5は、時刻とともにターゲット板4A,4Bの鉛直方向の変位をそれぞれ計測する計測器である。この変位計5は、計測ケーブル(図示省略)によって計測装置(図示省略)に接続されており、計測結果は逐次、計測装置に記録される。
【0043】
このような変位計5には、渦電流変位計、レーザー変位計などが使用できる。ここで、重錘2を横まくらぎ71に落下させた際の衝突は、数msec(1/1000秒程度)で終了するため、計測間隔が短い高サンプリングの計測が可能な変位計5を使用する必要がある。
【0044】
渦電流変位計は、高周波磁界を利用した変位計である。すなわち、変位計5の内部のコイルに高周波電流を流して高周波磁界を発生させると、電磁誘導作用によって磁界内にあるターゲット板4A,4Bの表面に磁束の通過と直交する方向の渦電流が流れることになる。この結果、コイルのインピーダンスが変化することになり、この発振状態の変化によって距離を計測することができる。
【0045】
このような渦電流変位計は、計測間隔が短い高サンプリングの計測が可能である。但し、計測レンジ(計測可能範囲)が大きくても数mm程度であるため、車輪と横まくらぎ71が直接、衝突するような食込み量が小さい(衝突速度が小さい)場合に適用することができる。
【0046】
他方、横まくらぎ71の表面に緩衝材などが設置されていたり、衝突速度が大きくなったりして、車輪が衝突した後の変位が大きくなる場合がある。このような場合には、高サンプリングのレーザー変位計を変位計5として使用することができる。
【0047】
レーザー変位計は、ターゲット板4A,4Bを反射面に利用した変位計である。このレーザー変位計は、高サンプリングのものであっても渦電流変位計ほどは高サンプリングで計測することはできないが、計測レンジを数cm程度にできるため、衝突速度が大きい場合や緩衝材が介在される場合などの食込み量が大きくなる場合にも適用することができる。
【0048】
次に、本実施の形態の落錘試験装置1を使って試験をおこなった結果から衝突ばねを算出する方法について説明する。
【0049】
まず、図1に示すように、落錘試験装置1のガイドレール11,11間に横まくらぎ71を設置する。この際、横まくらぎ71の長手方向とガイドレール11,11間方向とを直交させる。
【0050】
続いて、ガイドレール11,11に重錘2の係合部22,22を嵌めて、重錘2を横まくらぎ71上に配置する。なお、重錘2を先に設置して、その係合部22,22の位置に合わせてガイドレール11,11を立てても良い。
【0051】
また、ターゲット板4A,4A,4B,4Bの真下にはそれぞれ変位計5,・・・を設置する。この変位計5は、ターゲット板4A(4B)の真下に向けて張り出されたアーム上に設置する。
【0052】
さらに、重錘2の上面に電磁石21を吸着させて巻上げ器(図示省略)によって吊りワイヤ21aを巻き上げて、ガイドレール11,11に沿って重錘2を設定した高さまで持ち上げる。そして、電磁石21の通電を遮断して磁力を消滅させ、重錘2を横まくらぎ71の上面に向けて自由落下させる。
【0053】
このようにして自由落下し始めた重錘2は、ガイドレール11,11と係合部22,22との関係で制御できる範囲で平面位置と姿勢が保たれた状態で落下する。
【0054】
また、この落下中は、変位計5と加速度計6の計測が常時、おこなわれ、それらの計測値は計測装置に記録される。ここで、すべての変位計5,・・・と加速度計6の時間は同期されており、計測開始時間は同じになる。
【0055】
図6に示した変位U,・・・,Uのグラフは、ターゲット板4A,4A,4B,4Bの変位の計測結果である。重錘2を落下させた当初は、変位計5,・・・の計測レンジ外にターゲット板4A,4A,4B,4Bが位置しているため変位が計測されないが、車輪型接触子3が横まくらぎ71に衝突するほど近づくと、計測が開始され、時刻とそのときの変位U,・・・,Uが記録される。
【0056】
一方、図6の最下段に示した加速度αのグラフは、重錘2の加速度の計測結果である。重錘2の加速度αは、自由落下している最中は一定の重力加速度のみであり、初期値を重力加速度の大きさに設定しておけば、加速度αは0のままである。そして、車輪型接触子3が横まくらぎ71に衝突すると、重力加速度とは逆向きの加速度αが急激に発生することになる。
【0057】
このように落錘試験装置1による試験結果としては、4つのターゲット板4A,4A,4B,4Bの変位U,・・・,Uと時間との関係、及び重錘2の加速度αと時間との関係が得られる。
【0058】
そこで、まず、4つの変位U,・・・,Uから傾きの影響を取り除いた平均変位Uを算出する。本実施の形態では、単純に4つの変位U,・・・,Uを足して4で割った相加平均を平均変位Uとして算出するが、計測位置によって重み付けをした加重平均などを平均変位Uとすることもできる。
【0059】
一方、加速度計6の計測結果から、加速度αが正の値を示した時刻を衝突開始時刻Tとし、加速度αが0に戻った時刻を衝突終了時刻Tとして読み取る。ここで、加速度計6の計測開始時刻と変位計5,・・・の計測開始時刻は同じに設定されているので、衝突開始時刻Tの平均変位Uが衝突開始時の変位となり、それを基準にした相対的な変位差が食込み量Vとなる。
【0060】
また、加速度計6によって計測された加速度αと、重錘2を主とする落下物の質量との積から衝撃力Fを求めることができる。図7は、衝撃力Fと食込み量Vとの関係を示した図である。
【0061】
このように衝撃力Fと食込み量Vとの関係を求めることができれば、衝撃力Fを食込み量Vで割ることによって衝突ばねの値を算出することができる。また、この衝突ばねの値は、自由落下によって生じた速度がある状態での衝撃力Fに対する値であるため、動的な衝突ばねの値が算出されているといえる。
【0062】
また、落錘試験後に横まくらぎ71の陥没深さをノギスなどで計測すると、衝突によって生じる塑性変形量Vを求めることができる。そして、図7に示すように最大の食込み量Vmaxから塑性変形量Vを差し引くことによって最大の弾性変形量Vを求めることができる。
【0063】
すなわち、図7に示すように、衝撃力Fの載荷時の経路L1と除荷時の経路L2とは異なっており、塑性変形量Vを計測することによって、載荷時と除荷時とで異なる大きさの衝突ばねの値を設定することができる。
【0064】
次に、本実施の形態の落錘試験装置1、及び衝突ばねの算出方法の作用について説明する。
【0065】
このように構成された本実施の形態の落錘試験装置1は、重錘2の下面に車輪を模擬した車輪型接触子3が設けられている。また、車輪型接触子3から複数のターゲット板4A,4B,・・・が水平方向に延伸されており、それらの変位が変位計5,・・・によって計測される。さらに、重錘2には加速度計6が取り付けられている。
【0066】
このため、車輪型接触子3が横まくらぎ71に傾いて衝突したとしても、複数のターゲット板4A,4B,・・・で変位を計測することで傾きによる影響を取り除くことができる。
【0067】
また、加速度計6の計測結果から衝突開始時刻Tを判定させることによって、局所的な変位を計測可能な感度の高い変位計5を使用して、車輪を横まくらぎ71に衝突させたときの変位を正確に計測することができる。すなわち、感度が高い変位計5は、計測レンジが数mmから数cmと狭いため、重錘2の落下開始から衝突までのすべてを計測することができないが、加速度計6によって衝突開始時刻Tが判定できるのであれば、重錘2の落下開始からの変位を計測する必要がなく、高感度の変位計5によって衝突時の変位のみを計測すればよい。
【0068】
さらに、対となるターゲット板4A,4A(4B,4B)を対向する位置に取り付けることで、想定される一方向の傾きについては容易に取り除くことができる。また、車輪型接触子3の車軸方向3Bの両側と車軸直交方向3Aの両側にターゲット板4A,4A,4B,4Bを設けることで、車輪型接触子3の衝突時の様々な方向の傾きの影響をほとんど取り除くことができる。
【0069】
さらに、落錘試験装置1を使って速度のある衝撃力Fと食込み量Vとの関係を把握することができれば、走行する車輪が横まくらぎ71などの対象物に衝突しているときの動的な衝突ばねを算出することができる。
【0070】
また、変位計5による計測終了後に横まくらぎ71の塑性変形量Vを計測して食込み量Vから差し引くことによって、衝突時に発生する最大の弾性変形量Vを算出することができる。
【0071】
このように衝突時に発生する最大の弾性変形量Vが算出できれば、除荷時の衝突ばねの値を的確に設定することができる。すなわち、塑性変形量Vが計測されていない場合は、除荷時の変形量が最大の食込み量Vmaxとなって過大に設定されるため、正確に衝撃力を求めることができないおそれがあるが、除荷時の衝突ばねの値を的確に設定することによって、実際に起きる現象に合った衝撃力を算出することができるようになる。
【0072】
以上、図面を参照して、本発明の実施の形態を詳述してきたが、具体的な構成は、この実施の形態に限らず、本発明の要旨を逸脱しない程度の設計的変更は、本発明に含まれる。
【0073】
例えば、前記実施の形態では、対象物として横まくらぎ71について説明したが、これに限定されるものではなく、落錘試験装置1を使用して横まくらぎ71以外の対象物に車輪が衝突したときの衝突ばねを求めることもできる。
【0074】
また、前記実施の形態では、車輪型接触子3の側方からターゲット板4A,4B,・・・が延伸される構成について説明したが、これに限定されるものではなく、重錘2の上面又は周面から水平方向にターゲット面が延伸される構成であってもよい。
【0075】
さらに、前記実施の形態では、ターゲット板4A,4B,・・・を十字配置になるように4箇所に取り付けたが、これに限定されるものではなく、一方向の傾きの影響のみを取り除けば良い場合はいずれか一対のターゲット板4A,4A(4B,4B)のみの配置でもよい。また、3対以上のターゲット面を設けることもできる。
【0076】
また、前記実施の形態では、重錘2を自由落下させる場合について説明したが、これに限定されるものではなく、加速装置によって重錘2を加速させて落下させることもできる。
【符号の説明】
【0077】
1 落錘試験装置
2 重錘
3 車輪型接触子
31 車輪部
3A 車軸直交方向
3B 車軸方向
4A,4B ターゲット板(ターゲット面)
5 変位計
6 加速度計
F 衝撃力
衝突開始時刻
,・・,U 変位
平均変位
V 食込み量
弾性変形量
塑性変形量
α 加速度

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車輪が対象物に衝突したときの変形を計測するための落錘試験装置であって、
上方から前記対象物に向けて落下させる重錘と、
前記重錘の下面に設けられる前記車輪を模擬した車輪型接触子と、
前記車輪型接触子又は前記重錘から水平方向に延伸される複数のターゲット面と、
時刻とともに前記ターゲット面の変位をそれぞれ計測する変位計と、
時刻とともに前記重錘の加速度を計測する加速度計とを備えたことを特徴とする落錘試験装置。
【請求項2】
前記ターゲット面は、対向する位置に対になって取り付けられることを特徴とする請求項1に記載の落錘試験装置。
【請求項3】
前記ターゲット面は、前記車輪型接触子の車軸方向の両側と、車軸直交方向の両側とに取り付けられることを特徴とする請求項1又は2に記載の落錘試験装置。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の落錘試験装置を使った衝突ばねの算出方法であって、
前記変位計及び前記加速度計による計測をおこないながら前記重錘の前記車輪型接触子を前記対象物に衝突させる工程と、
前記変位計によって計測された複数のターゲット面の変位から平均変位を算出する工程と、
前記加速度計によって計測された加速度に基づいて衝突開始時刻を決定し、その衝突開始時刻の平均変位を基準にして衝突中の食込み量を算出する工程と、
前記加速度から算出される衝撃力と前記食込み量との関係から衝突ばねを算出する工程とを備えたことを特徴とする衝突ばねの算出方法。
【請求項5】
前記対象物の塑性変形量を求める工程と、
前記食込み量から前記塑性変形量を差し引いた弾性変形量を求める工程とを備えたことを特徴とする請求項4に記載の衝突ばねの算出方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate