説明

落雪防止ネット

【課題】静電誘導による帯電を抑制することができ、湿潤時の溶損を防止できる落雪防止ネットを提供する。
【解決手段】高電圧設備2の周りを囲うための網地3を備えた落雪防止ネット1において、上記網地3を構成する網糸4のうちの少なくとも1本を、主繊維5と金属線6とが合わされた金属配合網糸7から形成し、その金属配合網糸7の金属線6にアース線8を接続したものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送電用鉄塔などの高電圧設備の周りを囲うための落雪防止ネットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、送電用鉄塔などでは冬季に鋼材に雪や氷が付着し、その付着した雪や氷が成長して塊となることがあり、その付着した塊が高所から落下する際に鉄塔の周囲に飛散する虞がある。
【0003】
そこで、従来、鉄塔に雪や氷が付着することを防止するための着雪防止装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平5−263551号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上述の着雪防止装置を設けた場合でも、万が一に付着を防止できなかったときには鉄塔から塊が落下する可能性がある。
【0006】
そこで、本願発明者らは、鉄塔に付着した塊が落下する範囲を限定するために、鉄塔の周りをネットで囲うことを検討した。
【0007】
しかし、送電線近傍に張られたロープ・ネット等は静電誘導により帯電することから湿潤時に溶損が発生する虞があった。
【0008】
静電誘導(せいでんゆうどう;Electrostatic induction)とは帯電した物体を導体に接近させることで、帯電した物体に近い側に、帯電した物体とは逆の極性の電荷が引き寄せられる現象。導体中を実際に電荷が移動することで引き起こされる。このとき、電荷は導体内の電位差を打ち消すように移動するため、導体内部は等電位となる。良く似た現象に誘電分極があり、こちらは誘電体の場合に起きる現象である。
【0009】
(1)送電線や変電所等の高電圧設備の近傍に設置されるロープの場合、湿潤したロープは、電気設備からの静電誘導に対して導体として振る舞い、ロープを接地するとロープと同一径の導体と同じ大きさの静電誘導電流が流れる。これはネットの場合も同様と考えられる。
【0010】
(2)湿潤ロープ・ネットを流れる静電誘導電流は両端に近づくほど大きくなり、両端の取付点からは誘導される全静電誘導電流の各1/2が流出される。
【0011】
(3)送電線や変電所等の高電圧設備の近傍における湿潤ロープ・ネットの溶損現象はこの静電誘導電流に起因し、同電流が最大となるロープ端近傍で溶損が生じる。
【0012】
(4)湿潤ロープ・ネットが溶損しない溶損限界電流は周辺高電圧設備の電圧が高いほど小さくなり500kVの高電圧ではナイロンロープが1mA前後、アラミドロープでは、5mA前後となる。この溶損限界電流の一例を表1に示す。
【0013】
【表1】

【0014】
以上(1)−(4)で述べたように、送電線などの近傍にネットを設けた場合には、そのネットが湿潤したときに静電誘導により帯電し、その帯電したネットが鉄塔に接触することでネットの電荷(静電気)が一気に放電されてネットが溶損してしまうという問題があった。
【0015】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、静電誘導による帯電を抑制することができ、湿潤時の溶損を防止できる落雪防止ネットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記目的を達成するために本発明は、高電圧設備の周りを囲うための網地を備えた落雪防止ネットにおいて、上記網地を構成する網糸のうちの少なくとも1本を、主繊維と金属線とが合わされた金属配合網糸から形成し、その金属配合網糸の金属線にアース線を接続したものである。
【0017】
上記網地が、上記主繊維と上記金属線とを撚り合わせると共に、無結節で編網して形成されたものでもよい。
【0018】
上記網地が、上記主繊維をラッセルで編網して形成されたラッセル網に上記金属線を挿入して形成されたものでもよい。
【0019】
好ましくは、上記主繊維が合成樹脂繊維からなり、上記金属線が銅線からなるものである。
【0020】
好ましくは、上記金属配合網糸の端部から上記金属線が引き出されると共に、その金属線に上記アース線を接続するための端子が設けられたものである。
【0021】
好ましくは、上記高電圧設備が送電用鉄塔であり、上記網地が上下方向に長い矩形状に形成され、上記網糸が、上下方向に延びる複数のタテ糸と水平方向に延びる複数のヨコ糸とを有し、上記ヨコ糸のうちの少なくとも1本が上記金属配合網糸から形成されものである。
【0022】
上記目的を達成するために本発明は、高電圧設備の周りを囲うための網地を備えた落雪防止ネットにおいて、上記網地を構成する網糸のうちの少なくとも1本を、主繊維と導電性有機繊維とが合わされた導電性網糸から形成したものである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、静電誘導による帯電を抑制することができ、湿潤時の溶損を防止できるという優れた効果を発揮するものである。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】図1は、本発明に係る一実施形態による落雪防止ネットの概略図である。
【図2】図2は、図1のII部拡大図である。
【図3】図3は、鉄塔上部の概略側面図であり、本実施形態に係る落雪防止ネットを鉄塔に取り付けた状態を示す。
【図4】図4は、他の実施形態に係る落雪防止ネットの概略図である。
【図5】図5は、鉄塔下部の概略側面図であり、他の実施形態に係る落雪防止ネットを鉄塔に取り付けた状態を示す。
【図6】図6は、変形例に係る落雪防止ネットの概略側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態を添付図面に基づいて詳述する。
【0026】
[第1の実施形態]
本実施形態の落雪防止ネット(以下、ネットという)は、例えば送電用鉄塔(以下、鉄塔という)など高電圧設備を対象とする。
【0027】
図1から図3に基づき本実施形態のネットと鉄塔の概略構造を説明する。
【0028】
図3に示すように、鉄塔2は、地上(基礎部)から上方に延びる鉄塔本体21と、その鉄塔本体21の上部に設けられた3つのアーム22−24とを備える。鉄塔本体21は、主柱材211、水平材212や斜材213などを組み合わせてなり、断面がほぼ正方形に形成される。アーム22−24は、上下に間隔を隔てて配置され、各アーム22−24の先端には送電線25が各々保持される。その送電線25(充電部)の周りには、静電誘導による静電気が発生しやすい領域Eが形成される。
【0029】
この鉄塔2の上部に、本実施形態のネット1が設置される。ネット1は、矩形状に形成され、鉄塔本体21の頂部(上端)から最も下側のアーム24よりも下方の高さ位置まで、上下(鉛直方向)に並べて配置される。それらネット1は、同じ高さ位置の4つのネット1が、鉄塔本体21の周囲を上方から視てほぼ正方形に囲うように配置される。ネット1は、例えば、鉄塔本体21の水平材212などに取り付けられる。
【0030】
そのネット1は、静電気が発生し難い防護ネットであって、図1および図2に示すように、ネット1の網地3を編網するときに、導電性を有する金属線6を主繊維5と同時に編み込んだものである。詳しくは後述するが、本実施形態のネット1は、網地3が無結節網で形成された無結節ネットであり、網地3を編網する際に網糸4に少なくとも1本の静電性(導電性)を有する金属線6を同時に配して編網し、その金属線6(金属繊維)を配合した網地3を所定の形状に仕立てた後、網地3の端に露出した金属端子81に、別の金属線(アース線8)を結合し、そのアース線8を鉄塔2にアースしたものである。このネット1は、送電用の鉄塔2に用いられて静電気の発生の大きい鉄塔2の上部(アーム22−24の近傍)に設置される。
【0031】
本実施形態のネット1は、鉄塔本体21の周りを囲うための網地3を構成する網糸4のうちの少なくとも1本を、主繊維5と金属線6とが合わされた金属配合網糸7から形成し、その金属配合網糸7の金属線6にアース線8を接続したものである。
【0032】
より具体的には、ネット1は、複数の網糸4から構成され外形が矩形(図例では上下に長いほぼ長方形状)の網地3と、その網地3の縁部に設けられた周囲ロープ31と、上記アース線8とを備える。
【0033】
網地3は、ほぼ正方形状の網目形状を有し、その網糸4が上下方向に延びるタテ糸41と左右(水平方向)に延びるヨコ糸42とからなる。詳しくは後述するが、ヨコ糸42のうちの複数本が金属配合網糸7からなる。
【0034】
本実施形態の網地3は、無結節で編網された無結節網であり、例えば、網地3のタテ糸41とヨコ糸42とは、各々2本の撚糸から形成され、交差部44にてタテ糸41(ヨコ糸42)の撚糸が交差する相手のヨコ糸42(タテ糸41)の撚糸の間を通るように撚られている。
【0035】
タテ糸41(撚糸)は、複数本の主繊維5の束から形成される。その主繊維5は合成樹脂繊維であり、好ましくはポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、スーパー繊維などからなる。本実施形態の主繊維5は、電気絶縁性を有するポリアリレート繊維であり、例えば株式会社クラレ製のベクトランからなる。
【0036】
ヨコ糸42は、上記タテ糸41と同様に主繊維5のみで形成される主ヨコ糸43と、上記金属配合網糸7とからなる。金属配合網糸7は、上下に所定の間隔を隔てて、かつ複数本の主ヨコ糸43と交互に配置される。図例では上から順に2本の主ヨコ糸43と1本の金属配合網糸7とが交互に配置される。
【0037】
図2に示すように、金属配合網糸7は、一方の撚糸が複数本の主繊維5の束から形成され、他方の撚糸が主繊維5の束に少なくとも1本の金属線6を組み合わせて引き揃えた束から形成される。金属配合網糸7の主繊維5は、タテ糸41の主繊維5と同じ材料からなり、金属線6は導電性を有する金属の線材(針金)、例えば銅線からなる。
【0038】
各金属配合網糸7は、左右いずれかの端部から金属線6が各々引き出され、それら引き出された金属線6が、後述する共同線82に各々接続され、その共同線82を介してアース線8に接続される。
【0039】
以上の網地3は、網目の大きさが、約1cm以上約10cm未満に設定される。これは、網目の大きさが約1cm未満の場合、ネット1(鉄塔2)にかかる風圧荷重が大きくなるためであり、約10cmを超えると、雪や氷の塊がネット1をすり抜けてしまう虞があるためである。
【0040】
この網地3の周囲が周囲ロープ31により囲われる。その周囲ロープ31は、網地3を縁取るように矩形(図例ではほぼ長方形)の枠体状に形成される。周囲ロープ31と網地3とは、例えば網地3の網糸4(タテ糸41とヨコ糸42)の端部を周囲ロープ31に巻き付け結束することで、互いに結合される。周囲ロープ31は、網地3の主繊維5と同じ材料からなり、その主繊維5を撚り合わせて形成される。
【0041】
この周囲ロープ31には、金属配合網糸7から引き出された金属線6をアース線8に接続するための共同線82が設けられる。その共同線82は、周囲ロープ31の左右のいずれかの辺に沿って上下に延び、その中間部に、金属配合網糸7の金属線6の端部が各々接続される。図例の共同線82は、最も上側の金属配合網糸7から最も下側の金属配合網糸7まで延びる。共同線82は、例えば、周囲ロープ31に撚り合わされた金属線(銅線など)からなる。その共同線82は、下端が周囲ロープ31から引き出されると共に、その下端にアース線8を接続するための端子81が取り付けられる。
【0042】
アース線8は、例えば、絶縁体で被覆された導体線からなる。アース線8は、一端が端子81に接続され、他端が鉄塔2に接続される。この鉄塔2およびアース線8を介してネット1がアース(対地へ接地)される。
【0043】
次に、図1および図3に基づき本実施形態のネット1の作用を説明する。
【0044】
図3に示すように、本実施形態のネット1は、例えば冬季など積雪の虞がある時期に鉄塔2に設置され、アーム22−24の近傍の鉄塔本体21を外周から囲う。
【0045】
その鉄塔本体21には、雪や氷が付着、成長して塊となり、その塊が日中など気温が上昇したときに鉄塔2から剥がれて落下する。その際に、鉄塔本体21がネット1により覆われることから、鉄塔本体21から剥がれた塊はネット1よりも内側(鉄塔2側)に落下することになり、落下する塊による鉄塔2周辺への落下が防止される。
【0046】
ここで、雪や氷が溶解してネット1が湿潤すると、送電線25の近傍では送電線25に印加されている高電圧により静電誘導が起きる可能性があるが、本実施形態では、ネット1の網地3を金属配合網糸7から構成すると共に、その金属配合網糸7の金属線6にアースを取っているので、ネット1が帯電することがない。
【0047】
そのため、ネット1が風などに煽られて鉄塔本体21に接触したとしても、放電が生じることがなくネット1が溶損することがない。
【0048】
このように本実施形態によれば、静電誘導による帯電を抑制することができ、湿潤時の溶損を防止できる。
【0049】
すなわち、本実施形態の、優れた静電性を有する(帯電し難い)ネット1は、主に送電線25の鉄塔2に使用され、鉄塔2に積雪または氷結した物体を鉄塔2周辺に落下させないために設置される。その鉄塔2の送電線25付近では静電気が発生しやすく、絶縁されたネットを使用した場合には、そのネットが湿潤により帯電した状態で鉄柱に接触した際に、ネットに発生した静電気がスパーク(放電)する場合がみられる。これに対して、本実施形態のネット1は、アース線8によりアースすることにより静電気を取り除くのでスパークを発生させない。その結果、湿潤した場合であってもネット1が溶損することがない。
【0050】
その他にも、網地3を無結節で編網しているため、網地3を容易に製造することができ、かつ軽量化や信頼性の向上を図ることができる。すなわち、例えば網地を有結節で編網する場合には、結び目ができることから、その結び目で金属線6が屈曲して断線してしまう虞がある。これに対して、本実施形態では、結び目がないため金属線6が過度に屈曲することなく断線の虞がない。その結果、ネット1が確実にアースされることになり信頼性を向上させることができる。
【0051】
金属線6を、アルミ線などに比べて高い導電性と強度(引張強度や繰り返し曲げ強度)を有する銅線から形成することで、ネット1の強度、耐久性を高めることができる。また、主繊維を合成樹脂繊維から形成することで、これによってもネット1の強度、耐久性を高めることができる。
【0052】
金属線6にアース線を接続するための端子81を設けることで、アース線8と金属線6との接続を容易に行うことができる。その結果、鉄塔2における高所作業の作業性を向上させることができる。
【0053】
金属配合網糸7をヨコ糸42とすることで、送電用鉄塔2での電気事故をより確実に防止することができる。すなわち、ネット1の囲繞対象が送電用鉄塔2である場合、その送電用鉄塔2が上下に長いことから、網地3も上下に長く形成されタテ糸41がヨコ糸42よりも長くなる。このような場合に、本実施形態では、金属配合網糸7をヨコ糸42としているので、タテ糸41とする場合に比べて、金属配合網糸7(金属線6)の長さが短くなる。そのため、万が一にネット1が送電用鉄塔から外れて送電線に接触しても、金属線6が短いので電気事故が生じる虞がない。また、金属線6の長さが短くなるので、金属線6の断線が発生し難くなりネット1の信頼性を向上させることができる。
【0054】
なお、上述の実施形態では、網地3が主繊維5と金属線6とを撚り合わせると共に無結節で編網した無結節網からなるが、これに限定されず、主繊維5をラッセルで編網してラッセル網を形成し、そのラッセル網の網糸に沿って金属線6を取り付けて網地3を形成してもよい。金属線6は、例えば、網糸(ヨコ糸)に沿って網糸内に金属線6を挿入することで取り付けられる。
【0055】
このラッセルネットの場合、ラッセル機で網地(ラッセル網)を仕立てた後に、導電性を有する少なくとも1本の金属線6が網糸4に一定間隔で配置される。その金属線6は、編網されたラッセル網のタテ糸41とヨコ糸42とのいずれか一方または両方に挿入される。例えば、金属線6はラッセル網を編網した後に手すきで挿入される。この場合には、金属線6が挿入されたタテ糸41またはヨコ糸42が金属配合網糸7をなす。また、ネット1は、網地3を主繊維5で編網して所定の形状に仕立てた後に、静電性を有する金属線6、82を網糸4と周囲ロープ31とに配置したものも使用できる。
【0056】
このラッセルネットも結び目がないことから、上述の無結節網と同様に軽量化や信頼性の向上を図ることができる。
【0057】
[第2の実施形態]
次に、図4および図5に基づき第2の実施形態を説明する。本実施形態の落雪防止ネットは、上述の第1の実施形態とは、網糸4が金属線6の替わりに導電性有機繊維を有する点とアース線8が省略される点とで異なり、その他は実質的に同じである。したがって、上述の第1の実施形態と同一の要素については、図中同一符号を付すに止め、詳細な説明は省略する。
【0058】
図4に示すように、本実施形態のネット11は、高電圧設備である鉄塔2の周りを囲繞するための網地3を備え、その網地3を構成する網糸4のうちの少なくとも1本が、主繊維5と導電性を有する有機繊維(以下、導電性有機繊維という)とが合わされた導電性網糸9から形成される。
【0059】
本実施形態では、第1の実施形態と同様に、網地3は、主繊維5と導電性有機繊維とを撚り合わせて無結節で編網するか、または主繊維5をラッセルで編網したラッセル網に導電性有機繊維を挿入して形成される。その網地3における複数のヨコ糸42が導電性網糸9で形成される。
【0060】
その導電性網糸9の導電性有機繊維としては、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリエチレン繊維、ポリプロピレン繊維およびスーパー繊維などの有機繊維にカーボンを配合したものが考えられる。
【0061】
また、ネット11は、第1の実施形態のネット1に比べて送電線25から離れた比較的電界の弱い位置に設置される。具体的には、図5に示すように、ネット11は、最も下側のアーム24よりも所定距離だけ下方の位置から地上近傍まで配置される。
【0062】
本実施形態のネット11によれば、ネット11が湿潤して静電誘導が生じる場合でも、その静電誘導による電荷が導電性有機繊維によりコロナ放電され、ネット11が帯電することがない。その結果、ネット11の溶損が防止される。またネット11は、第1の実施形態のネット1に比べて構造が単純であり安価に製造できる。
【0063】
ここで、上述の第1の実施形態のネット1と第2の実施形態のネット11とは、静電気の発生の大きさによって設置位置を選択することが好ましい。
【0064】
すなわち、図5に示すように、送電線25から離れており静電気の発生が少ないところでは、導電性有機繊維を有する第2の実施形態のネット11を配置することで、第1の実施形態のネット1に比べて設置コストの低減を図ることができる。
【0065】
他方、送電線25に近く静電気の発生の大きいところには金属線6を有する第1の実施形態のネット1を配置する。この第1の実施形態のネット1は、上述したように金属線6をアースすることによって、第2の実施形態のネット11よりも更に効率よく静電気を除去することが可能となっているので、確実にネット1の溶損を防止できる。
【0066】
このように、金属線6または導電性有機繊維を有するネット1、11を、静電気の発生度合いによって自由に配置でき、設置コストの低減と溶損の確実な防止とを図ることができる。なお、第1の実施形態のネット1と第2の実施形態のネット11との設置位置の境界は、送電線25からの距離や電界強度などを基に決定される。例えば、電圧が66000Vの送電線の場合、送電線25からの距離が約4m以内では第1の実施形態のネット1を設置し、約4mを超えると第2の実施形態のネット11を設置することが考えられる。
【0067】
次に、表2に基づき本発明に係る具体的な実施例を説明する。
【0068】
(実施例1)
1670デシテックスの全芳香族ポリエステル繊維(クラレ社製ベクトラン)18本をタテ*ヨコ糸とし、網糸として460デシテックスのポリエステルを使用したラッセル網地のヨコ糸に金属線として直径1.0mmの針金を同時に配合して1辺37mmのラッセル網地を得た。そのラッセル網地の端から針金を引き出し、その針金に別の金属線からなるアース線を接続し、そのアース線をアースした。
【0069】
(実施例2)
1670デシテックスの全芳香族ポリエステル繊維(クラレ社製ベクトラン)を18本として編網した、無結節網地のなかに1本の導電性を有する有機繊維を配合して編網し、1辺が37mmの無結節網地を得た。
【0070】
(比較例1)
針金にアース線を接続しないこと以外は、実施例1と同様のラッセル網地とした。
【0071】
(比較例2)
導電性を有するポリエステル繊維を配合しないこと以外は、実施例2と同様の無結節網地をとした。
【0072】
評価は、JIS L−1094の摩擦帯電減衰測定方法にて測定した。
【0073】
【表2】

【0074】
表2に示すように、実施例1は帯電圧が2.0kVであり、実施例2は帯電圧が1.6kVであり、ともに良好な静電性を示すことが確認できた。また、実施例1は、比較例1の帯電圧7.1kVに比べて帯電圧が低くアースにより帯電し難くなることが確認できた。実施例2は、比較例2の帯電圧7.6kVに比べて帯電圧が低く導電性有機繊維により帯電し難くなることが確認できた。
【0075】
なお、本発明は、上述の実施形態に限定されず、様々な変形例や応用例が考えられるものである。
【0076】
例えば、高電圧設備は、送電用の鉄塔に限定されず、変電所など様々なものが考えられる。
【0077】
上述の実施形態では、金属配合網糸または導電性網糸をヨコ糸としたが、これに限定されず、タテ糸、またはタテ糸とヨコ糸との両方としてもよい。
【0078】
網地の形状は、上下に長い長方形状や正方形状などに限定されず、様々形状が可能である。例えば、鉄塔の形状に合わせて下方に至るにつれ幅が広くなる台形状に形成してもよい。また、網地の網目形状は正方形に限定されず、様々なものが可能である。
【0079】
主繊維は、ポリエステル繊維、ポリエチレン繊維、スーパー繊維などに限定されず、例えば、環境保護の点からリサイクル繊維、ポリ乳酸繊維などを使用することも可能である。
【0080】
金属線は、銅線に限定されず、導電性を有する様々な金属の線材が可能である。
【0081】
また、第1の実施形態では、金属配合網糸7の金属線6を共通線82を介してアース線8に接続したが、これに限定されない。例えば、図6に示すように、共通線82を省略して各金属配合網糸7の端部から金属線6を引き出し、その金属線6に端子81を各々設けると共に端子81にアース線8を各々接続するようにしてもよい。
【符号の説明】
【0082】
1、11 ネット(落雪防止ネット)
2 鉄塔(高電圧設備)
3 網地
4 網糸
5 主繊維
6 金属線
7 金属配合網糸
8 アース線
9 導電性網糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高電圧設備の周りを囲うための網地を備えた落雪防止ネットにおいて、
上記網地を構成する網糸のうちの少なくとも1本を、主繊維と金属線とが合わされた金属配合網糸から形成し、その金属配合網糸の金属線にアース線を接続したことを特徴とする落雪防止ネット。
【請求項2】
上記網地が、上記主繊維と上記金属線とを撚り合わせると共に、無結節で編網して形成された請求項1記載の落雪防止ネット。
【請求項3】
上記網地が、上記主繊維をラッセルで編網して形成されたラッセル網に上記金属線を挿入して形成された請求項1記載の落雪防止ネット。
【請求項4】
上記主繊維が合成樹脂繊維からなり、上記金属線が銅線からなる請求項1から3いずれかに記載の落雪防止ネット。
【請求項5】
上記金属配合網糸の端部から上記金属線が引き出されると共に、その金属線に上記アース線を接続するための端子が設けられた請求項1から4いずれかに記載の落雪防止ネット。
【請求項6】
上記高電圧設備が送電用鉄塔であり、
上記網地が上下方向に長い矩形状に形成され、
上記網糸が、上下方向に延びる複数のタテ糸と水平方向に延びる複数のヨコ糸とを有し、上記ヨコ糸のうちの少なくとも1本が上記金属配合網糸から形成された請求項1から5いずれかに記載の落雪防止ネット。
【請求項7】
高電圧設備の周りを囲うための網地を備えた落雪防止ネットにおいて、
上記網地を構成する網糸のうちの少なくとも1本を、主繊維と導電性有機繊維とが合わされた導電性網糸から形成したことを特徴とする落雪防止ネット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−6996(P2011−6996A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−154027(P2009−154027)
【出願日】平成21年6月29日(2009.6.29)
【出願人】(000003687)東京電力株式会社 (2,580)
【出願人】(591151255)市川漁網製造株式会社 (4)
【出願人】(302029473)加藤株式会社 (2)
【Fターム(参考)】