説明

蒸気ボイラの運転方法

【課題】 蒸気ボイラへ給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用するとともに、蒸気が凝縮して得られる復水を蒸気ボイラへ供給する給水と混合して、再利用する蒸気ボイラ装置において、蒸気系や復水系の配管等に生じる腐食を容易に,かつ効果的に抑制する。
【解決手段】 蒸気ボイラ装置1における蒸気ボイラ5からの蒸気は、蒸気ヘッダ6において、復水配管41に接続された熱交換器等の第一蒸気利用装置7と連絡する第一蒸気配管40と、蒸気そのものを食品加工に利用する蒸し器等の第二蒸気利用装置8と連絡する第二蒸気配管43とに分配される。薬注装置9から蒸気ヘッダ6へ脂肪酸塩の水分散液を注入すると、この脂肪酸塩の水分散液は、蒸気に対して添加され、第一蒸気配管40,第二蒸気配管43および復水配管41の腐食を抑制する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、蒸気ボイラ装置の運転方法,とくに蒸気ボイラへ給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用するとともに、蒸気が凝縮して得られる復水を蒸気ボイラへ供給する給水と混合して、再利用する蒸気ボイラ装置の運転方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蒸気ボイラへ給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を負荷装置等において利用するとともに、この蒸気が凝縮して得られる復水を蒸気ボイラへ供給する給水と混合して、再利用する蒸気ボイラ装置が知られている。このような蒸気ボイラ装置では、復水を給水の一部として再利用しているため、給水の絶対量を減少させることができ、蒸気ボイラの経済的な運転が可能となる。
【0003】
ところで、前記のような蒸気ボイラ装置は、蒸気ボイラにおいて発生した蒸気を負荷装置等へ供給するための蒸気配管および復水を回収して給水と混合するための復水配管等として、主として、鋼管を利用している。このため、蒸気ボイラ装置は、運転期間の長期化に伴って、蒸気配管や復水配管の寿命を短縮し、蒸気ボイラ装置の継続的で安定な運転を妨げる原因となる。そこで、蒸気ボイラ装置では、通常、蒸気配管内や復水配管内へ腐食を抑制するための薬剤を注入し、腐食の進行を抑制している。
【0004】
そして、前記のような腐食は、一般に、給水中に含まれる炭酸水素イオンが蒸気ボイラ内で熱分解して生じる炭酸ガスが蒸気中へ混入し、それが蒸気や復水のpHを低下させることにより生じるものと考えられている。このため、蒸気ボイラ装置においては、前記薬剤として、pH調整剤を用いている。ここで、pH調整剤は、蒸気や復水に含まれる炭酸ガスを中和して蒸気や復水のpHを高めることにより、腐食を抑制するものであり、通常、脂肪酸アミノアルコール系化合物が用いられている。
【0005】
しかしながら、蒸気配管や復水配管の腐食は、蒸気や復水のpH低下のみを原因として生じるものではなく、給水中に含まれる溶存酸素が蒸気とともに蒸気配管や復水配管へ供給されること、あるいは蒸気ボイラ装置の運転停止時に復水配管内が負圧となって外部の空気が流入し、復水中の溶存酸素濃度が高まることなどの原因によって生じることも判明している。すなわち、腐食は、蒸気や復水のpH低下のみではなく、蒸気や復水に含まれる溶存酸素の影響によっても進行し得る。したがって、前記薬剤として、pH調整剤を用いた場合、蒸気や復水のpH低下による腐食の発生は、有効に抑制することができるが、蒸気や復水に含まれる溶存酸素の影響による腐食の発生を抑制するのは困難である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
この発明の目的は、蒸気ボイラへ給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用するとともに、蒸気が凝縮して得られる復水を蒸気ボイラへ供給する給水と混合して、再利用する蒸気ボイラ装置について、蒸気系や復水系の配管等に生じる腐食を効果的に抑制することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この発明の方法は、蒸気ボイラへ給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用するとともに、その蒸気が凝縮して得られる復水を前記給水と混合して、再利用する蒸気ボイラ装置の運転方法であり、前記蒸気および前記復水のうちの少なくとも一方に対して、脂肪酸塩の水分散液を添加することで、蒸気配管および復水配管の内面に脂肪酸の皮
膜を形成する工程を含んでいる。
【0008】
この運転方法において用いられる脂肪酸塩は、たとえば炭素数が10〜18個の直鎖脂肪酸のアンモニウム塩である。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、蒸気系や復水系の配管等に生じる腐食を容易に,かつ効果的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】この発明の運転方法を実施可能な蒸気ボイラ装置の一例の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
図1を参照して、この発明の運転方法を実施可能な蒸気ボイラ装置の一例を説明する。図1において、蒸気ボイラ装置1は、蒸気発生部2と蒸気利用部3とを主に備えている。
【0012】
蒸気発生部2は、給水装置4と蒸気ボイラ5とを主に備えている。給水装置4は、蒸気ボイラ5へ給水を供給するためのものであり、補給水の注水路20,この注水路20からの補給水を貯留するための給水タンク21および給水路22を主に備えている。注水路20は、軟水装置23と脱酸素装置24とをこの順に備えている。軟水装置23は、水道水や地下水などの原水をナトリウム型強酸性陽イオン交換樹脂により処理し、原水中に含まれる各種の硬度分や重金属イオンをナトリウムイオンに置換して、軟水に変換するためのものである。また、脱酸素装置24は、軟水装置23で得られた軟水中に含まれる溶存酸素を機械的に除去するためのものである。給水路22は、給水タンク21から延び,かつ蒸気ボイラ5と連絡しており、給水タンク21内に貯留された給水を蒸気ボイラ5へ送り出すための給水ポンプ25を備えている。
【0013】
蒸気ボイラ5は、給水装置4から供給される給水を加熱して蒸気を発生するためのものであり、給水を加熱するための加熱バーナ26を備えている。この蒸気ボイラ5は、たとえば運転圧力が1MPa以下のもの,たとえば「ボイラ及び圧力容器安全規則」に記載された貫流ボイラであり、軟水仕様のものである。
【0014】
蒸気利用部3は、蒸気ヘッダ6,第一蒸気利用装置7および第二蒸気利用装置8を主に備えている。蒸気ヘッダ6は、蒸気ボイラ5において発生した蒸気を第一蒸気利用装置7および第二蒸気利用装置8へ分配するためのものであり、蒸気ボイラ5からの蒸気供給管27が連絡している。また、蒸気ヘッダ6には、薬注装置9が設けられている。薬注装置9は、薬剤を貯蔵するための薬剤タンク30と、この薬剤タンク30と蒸気ヘッダ6とを連絡する薬注配管31とを備えている。薬注配管31は、薬剤タンク30内の薬剤を蒸気ヘッダ6内へ供給するための薬注ポンプ32を備えている。
【0015】
薬剤タンク30に貯蔵されている薬剤は、脂肪酸塩の水分散液である。ここで用いられる脂肪酸塩は、通常、炭素数が10〜18個の脂肪酸の塩,とくにナトリウム塩やカリウム塩等のアルカリ金属塩およびアンモニウム塩であり、脂肪酸は、飽和脂肪酸および不飽和脂肪酸のいずれであってもよい。ただし、脂肪酸は、一価の直鎖状のものが好ましく、ラウリン酸,オレイン酸およびステアリン酸がとくに好ましい。また、この薬剤は、2種以上の脂肪酸塩を含んでいてもよい。ここにおいて、脂肪酸塩は、天然物に由来する脂肪酸と食品添加物とを原料としており、人体若しくは環境に対する安全性の高い物質である。また、脂肪酸塩は、それ自体が乳化性を有するため、前記薬剤は、脂肪酸塩を純水に加えて混合,分散させると、容易に調製することができる。
【0016】
第一蒸気利用装置7は、蒸気ボイラ5で発生した蒸気を利用して、所用の物理的機能を発揮するものであり、たとえば熱交換器である。この第一蒸気利用装置7には、蒸気ヘッダ6からの第一蒸気配管40が連絡しており、この第一蒸気配管40を通じて、蒸気ヘッダ6から蒸気が供給されている。
【0017】
また、第一蒸気利用装置7には、復水配管41が接続されている。復水配管41は、第一蒸気利用装置7において利用された蒸気が凝縮して得られる凝縮水(復水)を給水タンク21へ供給するためのものであり、第一蒸気利用装置7から延び,かつスチームトラップ42を備えている。
【0018】
第二蒸気利用装置8は、蒸気ボイラ5で発生した蒸気をそのまま利用するものであり、たとえば食品工場において用いられる食品加工用の蒸し器である。この第二蒸気利用装置8には、蒸気ヘッダ6からの第二蒸気配管43が連絡しており、この第二蒸気配管43を通じて、蒸気ヘッダ6から蒸気が供給されている。
【0019】
ここにおいて、前記蒸気ボイラ装置1において用いられている各種の配管,すなわち第一蒸気配管40,第二蒸気配管43および復水配管41等は、主として、鋼管を用いて形成されている。
【0020】
つぎに、前記蒸気ボイラ装置1の運転方法について説明する。
蒸気ボイラ装置1を運転する場合は、注水路20から給水タンク21へ補給水を供給し、この補給水を給水タンク21に貯留する。ここにおいて、給水タンク21に貯留される給水は、軟水装置23および脱酸素装置24で処理されたもの,すなわち脱酸素処理された軟水である。そして、給水ポンプ25を作動させ、給水タンク21に貯留された給水を給水路22を通じて、蒸気ボイラ5へ供給する。蒸気ボイラ5は、加熱バーナ26により給水を加熱し、蒸気を発生する。発生した蒸気は、蒸気供給管27を通じて、蒸気ヘッダ6へ供給される。
【0021】
蒸気ヘッダ6へ供給された蒸気の一部は、第一蒸気配管40を通じて、第一蒸気利用装置7へ供給される。これにより、第一蒸気利用装置7は、所用の熱交換機能を発揮する。第一蒸気利用装置7を通過した蒸気は、潜熱を失って、一部が凝縮水に変わり、スチームトラップ42において、蒸気と水とが分離されて、復水(ドレン)となる。この復水は、復水配管41を通じて、給水タンク21内へ回収され、そこで注水路20からの補給水と混合されて、蒸気ボイラ5への給水として再利用される。
【0022】
また、蒸気ヘッダ6へ供給された蒸気の一部は、第二蒸気配管43を通じて、第二蒸気利用装置8へ供給される。第二蒸気利用装置8へ供給された蒸気は、たとえば穀類の蒸し煮用の蒸気として、そのまま利用され、第二蒸気利用装置8から放出される。
【0023】
前記のような蒸気ボイラ装置1の運転中において、薬注装置9の薬注ポンプ32を作動させ、薬剤タンク30内に貯蔵された薬剤を薬注配管31を通じて、蒸気ヘッダ6内へ注入する。蒸気ヘッダ6内に注入された薬剤,すなわち脂肪酸塩の水分散液は、蒸気ヘッダ6内において蒸気と混合され、第一蒸気配管40,第二蒸気配管43および復水配管41に対して供給される。そして、これらの配管へ供給された脂肪酸塩の水分散液は、脂肪酸となって配管の内周面に防食性の皮膜を形成し、これらの配管の内周面に対して、蒸気や復水が直接的に触れるのを抑制する。この結果、これらの配管は、蒸気や復水のpH低下や溶存酸素による腐食の進行が抑制される。因みに、脂肪酸が金属に対する腐食抑制効果を発揮することは、たとえば下記の文献に記載されており、すでに知られている。
【0024】
(1)「JIS 使い方シリーズ 防錆防食技術マニュアル」:第92頁
防錆防食技術マニュアル編集委員会偏
発行日:1986年7月9日
発行所:財団法人日本規格協会
(2)「防錆・防食技術総覧」:第326頁
防錆・防食技術総覧編集委員会偏
発行日:2000年5月17日
発行所:株式会社産業技術サービスセンター
(3)「防食技術便覧」:第664頁〜第665頁
腐食防食協会偏
発行日:昭和51年11月28日
発行所:日刊工業新聞社
【0025】
以上のように、この実施の形態に係る蒸気ボイラ装置1の運転方法では、蒸気ボイラ5において発生した蒸気に対して、脂肪酸塩の水分散液を添加しているので、pH調整剤を腐食抑制剤として用いる場合に比べ、蒸気系や復水系の配管,すなわち第一蒸気配管40,第二蒸気配管43および復水配管41等に生じる腐食を容易に,かつ効果的に、しかも安価に抑制することができる。
【0026】
さらに、この運転方法は、薬剤として、人体や環境に対する安全性の高い脂肪酸塩の水分散液を用いているため、蒸気を汚染しにくい。したがって、この運転方法によれば、蒸気をそのまま食品加工に利用する前記第二蒸気利用装置8に対しても、安全な蒸気を供給することができるので、食品の安全性を確保することができる。
【0027】
ところで、この実施の形態では、薬注装置9を蒸気ヘッダ6に対して設置することにより、蒸気に対して脂肪酸塩の水分散液を添加したが、薬注装置9を第一蒸気配管40および第二蒸気配管43に対して個別に設けて、蒸気に対して脂肪酸塩の水分散液を添加するようにした場合も、この発明を同様に実施することができる。また、脂肪酸塩の水分散液は、薬注装置9を復水配管41に対して設置することにより、復水中へ添加するようにしてもよい。さらに、脂肪酸塩の水分散液は、薬注装置9を第一蒸気配管40および第二蒸気配管43並びに復水配管41のそれぞれに個別に設けることにより、蒸気および復水の両方に添加されてもよい。
【0028】
また、前記の実施の形態では、1台の蒸気ボイラ5を備えた蒸気ボイラ装置1の運転方法について説明したが、蒸気ボイラ5を複数台備えた蒸気ボイラ装置についても、この発明を同様に実施することができる。この場合、蒸気ヘッダ6は、複数の蒸気ボイラ5からの蒸気を集中させるとともに、複数の蒸気利用装置へ分配させるように機能させる。さらに、前記の実施の形態では、2台の蒸気利用装置を備えた蒸気ボイラ装置の運転方法について説明したが、蒸気利用装置を1台だけ備えた蒸気ボイラ装置についても、この発明を同様に実施することができる。
【符号の説明】
【0029】
1 蒸気ボイラ装置
5 蒸気ボイラ
6 蒸気ヘッダ
7 第一蒸気利用装置
8 第二蒸気利用装置
9 薬注装置
40 第一蒸気配管
41 復水配管
43 第二蒸気配管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
蒸気ボイラへ給水を供給して加熱し、それにより発生する蒸気を利用するとともに、その蒸気が凝縮して得られる復水を前記給水と混合して、再利用する蒸気ボイラ装置の運転方法であって、前記蒸気および前記復水のうちの少なくとも一方に対して、脂肪酸塩の水分散液を添加することで、蒸気配管および復水配管の内面に脂肪酸の皮膜を形成する工程を含むことを特徴とする蒸気ボイラ装置の運転方法。
【請求項2】
前記脂肪酸塩は、炭素数が10〜18個の直鎖脂肪酸のアンモニウム塩であることを特徴とする請求項1に記載の蒸気ボイラ装置の運転方法。

【図1】
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【公開番号】特開2010−159966(P2010−159966A)
【公開日】平成22年7月22日(2010.7.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−86623(P2010−86623)
【出願日】平成22年4月5日(2010.4.5)
【分割の表示】特願2002−248135(P2002−248135)の分割
【原出願日】平成14年8月28日(2002.8.28)
【出願人】(000175272)三浦工業株式会社 (1,055)
【Fターム(参考)】