説明

蒸気弁

【課題】 蒸気弁の弁棒の耐エロージョン性を向上すること
【解決手段】 開口2を有する弁座3と、開口2に対向して設けられた弁体5と、弁体5を弁座3に接離する方向に移動させる弁棒7と、弁棒7を摺動自由に支持する円筒状の支持部材である衛帯筐9とをケーシング1に収納して構成され、弁体5に設けた環状の溝部25に衛帯筐9の筒状部17を挿通させ、穴23の軸方向の距離D1と筒状部17の軸方向の距離D2は弁棒のストロークD3以上に設定することで、弁体5が開閉動作したときでも、蒸気流に同伴する固形粒子が弁棒7に当たるのを遮ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸気弁に関し、特に弁棒の耐エロージョン性を向上する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
火力発電プラントの蒸気タービン発電設備に設置される主な蒸気弁は、主蒸気系統の主蒸気止め弁及び蒸気加減弁、再熱蒸気系統の再熱蒸気止め弁、インターセプト弁などから構成される。主蒸気止め弁及び再熱蒸気止め弁は危急時にタービンに流入する蒸気を遮断する目的で配置され、蒸気加減弁及びインターセプト弁はタービンに流入する蒸気量を調整し、タービンの制御を行なう目的で配置されている。
【0003】
蒸気弁は、開口を有する弁座と、弁座の開口に対向して設けられた弁体と、弁体を弁座に接離する方向に移動させる弁棒と、弁棒を摺動自由に支持する円筒状の支持部材とを備えて構成されている。
【0004】
ところで、火力発電プラントの高効率、低コスト化、蒸気条件の高温高圧化、メンテナンス間隔の長期化に伴い、蒸気弁の信頼性を向上することが要求されている。特に、高温高圧の蒸気流にさらされる弁棒の信頼性を向上することが要求されている。
【0005】
このような要求に対応して、弁棒の信頼性を向上するために、弁棒の材料に保護性の高い酸化皮膜を有するNi基合金を用いることで弁棒スティックの原因となる酸化スケールの生成を抑制し、さらに弁棒表面を窒化処理することにより耐磨耗性を向上する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。
【0006】
【特許文献1】2004−183051号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1では、蒸気流に同伴して飛来する酸化物固形微粒子により弁棒の表面が損傷されることについては、配慮されていない。
【0008】
すなわち、蒸気弁の弁棒は、ボイラから蒸気流に同伴して飛来する酸化物固形微粒子などの粉粒体が弁棒の表面に衝突して、エロージョンにより侵食されたり、摩耗されたりすると、弁棒の動きが影響を受けて、弁棒がスティックして開閉不能になったり、蒸気弁の開閉動作の円滑性が損なわれたりするという問題がある。
【0009】
本発明は、蒸気弁の弁棒の耐エロージョン性を向上することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するため、本発明の蒸気弁は、開口を有する弁座と、弁座の開口に対向して設けられた弁体と、弁体を弁座に接離する方向に移動させる弁棒と、弁棒を摺動自由に支持する円筒状の支持部材とを備えた蒸気弁において、弁体と支持部材は、対向する端部が弁体の可動範囲において互いに重なり合う形状に形成されていることを特徴とする。
【0011】
このようにしたことから、弁体が開閉動作したときでも、弁棒が蒸気流に露出しないので、蒸気流に同伴する固形粒子が弁棒に当たるのを遮ることができ、固形粒子によるエロージョンを抑制することができる。その結果、蒸気弁の弁棒の耐エロージョン性を向上することができる。
【0012】
この場合、弁体の支持部材に対向する端部に、支持部材の円筒状の端部が挿入される環状溝を設け、弁体が弁座に当接されたときの環状溝と支持部材とが重なり合う部分の軸方向の長さを弁体のストローク以上とすることが好ましい。一般に、支持部材は弁座に対して蒸気流の下流側に配置されているから、弁座と弁体との間で流速が速くなった蒸気流が弁棒に直接衝突するのを遮ることができ、環状溝と支持部材との間に蒸気が流入するのを抑制することができる。
【0013】
また、弁体の支持部材に対向する端部を円筒状に延在して形成し、支持部材の弁体に対向する端部に円筒状の弁体の端部が挿入される環状溝を設け、弁体が弁座に当接されたときの環状溝と弁体とが重なり合う部分の軸方向の長さを弁体のストローク以上とすることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、蒸気弁の弁棒の耐エロージョン性を向上することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を実施の形態に基づいて説明する。図1は本発明の一実施形態の蒸気弁の要部を示す構成断面図、図2は本実施形態の蒸気弁の動作を説明するための構成断面図である。図示のように、本実施形態の蒸気弁は、開口2を有する弁座3と、開口2に対向して設けられた弁体5と、弁体5を弁座3に接離する方向に移動させる弁棒7と、弁棒7を摺動自由に支持する円筒状の支持部材である衛帯筐9とをケーシング1に収納して構成されている。なお、図1は、弁体5が上端位置、つまり弁全開時における状態を示し、図2は弁体5が下端位置、つまり弁全閉時における状態を示す。
【0016】
ケーシング1の内部には、弁座3により上下に仕切られた弁室が形成されている。弁座3により仕切られた弁室の上部に、蒸気が流入する流入口11が設けられている。弁座3により仕切られた弁室の下部に、図示していない蒸気の流出口が設けられている。
【0017】
衛帯筐9は、弁座3により仕切られた弁室の底部に固定され、弁棒7が上下方向に挿通される穴13が設けられている。弁棒7の上端部には弁体5が固定され、弁体5は弁座3の上方に接離可能に配置されている。弁棒7の下部には弁棒7を上下方向に駆動するための図示していない弁棒駆動手段が設けられている。
【0018】
また、穴13の下部には拡径部13aが形成され、穴13の上部に縮径部13bが形成されている。また、拡径部13aと縮径部13bに対応させて、弁棒7にも拡径部7aと縮径部7bが形成されている。穴13の拡径部13aと縮径部13bとの間に形成された段差部には弁棒7の拡径部7aと縮径部7bの段差部が係止され弁体5の上端位置を規制するようにしている。穴13の拡径部13aには弁棒7の拡径部7aが挿通される円筒状のブッシュ19が嵌挿されており、ブッシュ19の内径は拡径部7aが摺動自由に移動可能な径に設定されている。弁棒7の段差部及び穴13の段差部はテーパー状に形成され、弁体5上端位置にあるときに互いの段差部が密接して蒸気流が弁棒7の摺動部に流れ込むのを抑制するようにしている。
【0019】
次に、本実施形態の特徴部である弁棒の保護構造について説明する。弁体5の衛帯筐9に対向する端部には弁体7の縮径部7bより大径の穴23が設けられ、穴23と弁棒7との間には環状の溝部25が形成されている。衛帯筐9の弁体5に対向する端部の筒状部17は、溝部25内に進入可能に形成されている。穴23の軸方向の距離D1と筒状部17の軸方向の距離D2は、弁棒のストロークD3以上に設定されている。いいかえれば、弁体5が弁座3に当接されたときの環状の溝部25と衛帯筐9の筒状部17とが重なり合う部分の軸方向の長さは、弁体5のストロークD3以上としている。ここで、ストロークD3は弁全開時と弁全閉時における弁棒7の軸方向に移動する距離の差とする。D1とD2は弁体5と弁棒7が互いに衝突しない距離に設定している。
【0020】
また、弁全閉時における筒状部17の外面と穴23の内面との間の隙間及び穴13の縮径部13bの内面と弁棒7の縮径部7bの外面との間の隙間は、蒸気条件によって変化する材質の線膨張係数や金属表面に析出する酸化スケール生成量などを十分考慮し、弁棒の作動性に影響を与えない程度(例えば、5mm)に設定している。
【0021】
次に、このように構成される蒸気弁の動作について説明する。まず、図2に示すように、弁全閉時においては、弁体5と弁座3とが密接しているため蒸気は流出口側へ流れない。次に、図1に示すように、弁棒駆動手段により弁棒7を駆動して弁体5を上昇させると、図示していないボイラなどより流入口11を介して流入した蒸気は、矢印に示すように弁体5と弁座3との間に生じた隙間を流通し、速度が上昇した蒸気流の一部が弁体5及び衛帯筐9に衝突して流出口へ流れる。このとき、弁棒7の上昇に伴い弁体5に進入されていた筒状部17が蒸気流に露出するが、蒸気流は筒状部17に衝突して流出口へと流れ、弁棒7には蒸気流が直接当たることがない。さらに弁棒7を上昇させると、衛帯筐9の段差部に弁棒7の段差部が係止され弁体5が上端位置となり、蒸気の流量は最大となる。このとき、穴23の軸方向の距離D1と筒状部17の軸方向の距離D2を弁棒のストロークD3以上に設定しているので、弁棒7は筒状部17に覆われており、蒸気流は筒状部17に衝突して流出口へと流れ、弁棒7の全ストローク範囲で蒸気流が弁棒7に直接当たることがない。
【0022】
このように、弁体5が開閉動作したときでも、弁棒7が蒸気流にさらされないので、蒸気流に同伴する固形粒子が弁棒7に当たるのを遮ることができ、固形粒子によるエロージョンを抑制することができる。その結果、蒸気弁の弁棒の耐エロージョン性を向上することができる。
【0023】
なお、上記実施形態においては、弁体5に設けた環状の溝部25に衛帯筐9の筒状部17を進入させるようにしているが、本実施形態に限るものではなく、弁体5の衛帯筐9に対向する端部を円筒状に延在して形成し、衛帯筐9の弁体5に対向する端部に円筒状の弁体5の端部が挿入される環状の溝部を設け、弁体5が弁座3に当接されたときの環状の溝部と弁体5とが重なり合う部分の軸方向の長さを弁体5のストローク以上とするようにしてもよい。
【0024】
本実施形態においては、ケーシング1には12%クロム鋼を用い、弁座3、弁体5、衛帯筐9には9%クロム鋼が用いることができる。しかし、ケーシング1、弁座3、弁体5、衛帯筐9の材質はこれに限るものではなく、耐食性、耐熱性を有するものであればよく、例えば、クロム−モリブデン−バナジウム鋼、9%クロム鋼、12%クロム鋼などを用いることができる。
【0025】
また、ブッシュ19には、例えば、Co基合金(ステライト)を用い、弁棒7としては、例えば、耐酸化性(酸化スケール生成の抑制)と耐摩耗性(高温硬さの向上)の高いインコロイ(ニッケル‐クロム‐鉄が主成分)を用いることができる。また、弁棒表面には耐摩耗性向上するために窒化処理を行うことができる。しかし、ブッシュ19及び弁棒7はこれらに限るものではなく、耐食性、耐熱性、耐磨耗性を有するものであればよい。
【0026】
また、弁棒は、表面に窒化処理を行うことが望ましい。この窒化処理は500〜600℃の温度条件下で母材表面に窒素を浸透させ窒化鉄の硬化層を生成させる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の一実施形態の蒸気弁の要部を示す構成断面図である。
【図2】本実施形態の蒸気弁の動作を説明するための構成断面図である。
【符号の説明】
【0028】
1 ケーシング
2 開口
3 弁座
5 弁体
7 弁棒
9 衛帯筐
11 流入口
13、23 穴
17 筒状部
19 ブッシュ
25 溝部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開口を有する弁座と、該弁座の開口に対向して設けられた弁体と、該弁体を前記弁座に接離する方向に移動させる弁棒と、該弁棒を摺動自由に支持する円筒状の支持部材とを備えた蒸気弁において、
前記弁体と前記支持部材は、対向する端部が前記弁体の可動範囲において互いに重なり合う形状に形成されていることを特徴とする蒸気弁。
【請求項2】
請求項1に記載の蒸気弁において、
前記弁体の前記支持部材に対向する端部には、前記支持部材の端部が挿入される環状溝が設けられ、前記弁体が前記弁座に当接されたときの前記環状溝と前記支持部材とが重なり合う部分の軸方向の長さは、前記弁体のストローク以上であることを特徴とする蒸気弁。
【請求項3】
請求項1に記載の蒸気弁において、
前記弁体は、前記支持部材に対向する端部が円筒状に延在して形成されてなり、前記支持部材の前記弁体に対向する端部には、前記弁体の端部が挿入される環状溝が設けられ、前記弁体が前記弁座に当接されたときの前記環状溝と前記弁体とが重なり合う部分の軸方向の長さは、前記弁体のストローク以上であることを特徴とする蒸気弁。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−174324(P2009−174324A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−10640(P2008−10640)
【出願日】平成20年1月21日(2008.1.21)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】