説明

蒸着用材料、ガスバリア性蒸着フィルム及びガスバリア性蒸着フィルムの製造方法

【課題】スプラッシュ現象の発生を抑制し、高いガスバリア性を付与できる蒸着用材料と、その蒸着用材料を用いたガスバリア性蒸着フィルムの製造方法と、その蒸着用材料を用いて蒸着したガスバリア性蒸着フィルムとを提供する。
【解決手段】蒸着用材料は、金属珪素粉末と二酸化珪素粉末と金属銅粉末もしくは酸化銅粉末とを含有した加熱方式の蒸着用材料であって、珪素と銅の合計の原子数に対する酸素の原子数の比が1.0以上1.8以下の範囲内であり、珪素の原子数に対する銅の原子数の比が0.05以上の範囲であることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蒸着用材料、前記蒸着用材料を用いた蒸着フィルム及び前記蒸着用材料を用いた蒸着フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスクや半導体モジュールなどの精密電子部品類、あるいは、食品や医薬品類の包装に用いられる包装材料は、内容物を保護することが必要である。特に、食品包装においては蛋白質や油脂などの酸化や変質を抑制し、味や鮮度を保持することが必要である。
また無菌状態での取り扱いが必要とされる医薬品類においては有効成分の変質を抑制し、効能を維持すること、さらに、精密電子部品類においては金属部分の腐食、絶縁不良などを防止するために、包装材料を透過する酸素や水蒸気、その他内容物を変質させる気体を遮断するガスバリア性を備える包装体が求められている。
【0003】
そのため、従来から温度、湿度などに影響されないアルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フィルムあるいは、ポリビニルアルコール(PVA)、エチレン‐ビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(以下、「PVDC」とも表記する。)、ポリアクリロニトリル(以下、「PAN」とも表記する。)などの樹脂フィルムやこれらの樹脂をラミネートまたはコーティングしたプラスチックフィルムなどが好んで用いられてきた。
【0004】
ところが、アルミニウムなどの金属箔やアルミニウム蒸着フィルムを用いた包装材料は、ガスバリア性には優れるが、不透明であるため、包装材料を透過して内容物を識別することが難しいだけではなく、使用後の廃棄の際に不燃物として処理しなければならいない点や金属探知機による異物検査時に内容物の識別が難しいといった点、電子レンジでの加熱処理ができない点などの不便な点があった。
【0005】
また、ガスバリア性樹脂フィルムやガスバリア性樹脂をコーティングしたフィルムは、温度依存性が大きく、高いガスバリア性を維持できないといった不便な点があった。さらに、PVDCやPANなどは廃棄・焼却の際に有害物質が発生する可能性がある。
そこで、これらの不便な点を克服した包装用材料として、最近では酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化アルミニウム、酸化珪素などの無機酸化物を透明な基材フィルム上に蒸着したガスバリア性フィルムが上市されている。なお、このガスバリア性蒸着フィルムやそれに用いる蒸着用材料等に関する従来技術としては、例えば特許文献1、2に記載されたものがある。
【0006】
ガスバリア性蒸着フィルムは透明性と酸素、水蒸気などのガス遮断性(つまり、ガスバリア性)との両方を有する包装材料として好適とされている。例えば、酸化珪素(以下、「SiO」とも表記する。)を蒸着したフィルムは食品包装用フィルムとして用いられており、SiOを蒸着用材料とした加熱方式による蒸着は非常に成膜速度が速く、生産性が高いといった特徴を有している。
【0007】
しかしながら、蒸着用材料として用いられるSiO(0<x<2)は、金属珪素と二酸化珪素とを原料として真空蒸着法により製造されるため、次に示す不便な点がある。
真空蒸着法は、SiO(0<x<2)の大量生産に適した製造方法ではないため、材料費が高く、製造コストが高くなる場合がある。また、このSiO(0<x<2)は真密度に近い密度を有し、非常に緻密な構造になっている。
【0008】
そのため、蒸着用材料としてSiO(0<x<2)を蒸発させてガスバリア性フィルムを製造した場合には、蒸発させる際の加熱による熱衝撃や蒸着用材料内部から発生するガスの圧力により、気化していない蒸着用材料が高温の粒子として飛散するスプラッシュという現象が発生する場合がある。
この高温の粒子がガスバリア性フィルムの基材となる高分子フィルム上に到達した際には、高分子フィルムにピンホールや異物が生じ、バリア性の低下及び外観不良となる場合がある。さらに、上記記載の加熱方式、特に電子銃による加熱は、より大きい熱衝撃を蒸着用材料が受けることで上記のスプラッシュと異物の発生がより顕著に現れることがある。
【0009】
これに対して金属珪素と二酸化珪素とを混合した混合蒸着用材料は、比較的安価で入手可能であるが、加熱時に一酸化珪素よりも蒸気圧が高いために蒸発しにくく、さらに溶融型の蒸着用材料であるため、より大きい熱衝撃が必要となり、SiO(0<x<2)の場合と同様にスプラッシュが発生するといった課題がある。また、二酸化珪素の分解による酸素ガスの発生で成膜室内の圧力が上昇し、蒸着速度の低下、つまり生産性の低下が起こるといった課題がある。また、蒸着膜密度の低下による蒸着膜のバリア性の低下を引き起こすといった課題もある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開平8−296036号公報
【特許文献2】特開平6−016848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、以上の従来技術の課題を解決しようとするものであり、スプラッシュ現象の発生を抑制し、高いガスバリア性を付与できる蒸着用材料と、その蒸着用材料を用いたガスバリア性蒸着フィルムと、その蒸着用材料を用いたガスバリア性蒸着フィルムの製造方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一態様は、金属珪素粉末と、二酸化珪素粉末と、金属銅粉末もしくは酸化銅粉末とを含有した加熱方式の蒸着用材料であって、珪素と銅の合計の原子数に対する酸素の原子数の比(O/(Si+Cu))は、1.0以上、1.8以下の範囲内であり、珪素の原子数に対する銅の原子数の比(Cu/Si)は、0.05以上の範囲であることを特徴とする蒸着用材料である。
【0013】
上記態様によれば、この蒸着用材料を加熱した場合、蒸着用材料の表層には溶融した二酸化珪素が形成されるのでスプラッシュの発生を抑制することができる。さらに、この蒸着用材料を加熱した場合、蒸着用材料に含まれる二酸化珪素が加熱されて酸素ガスが脱離する。そして、この酸素ガスと加熱された金属珪素とが反応してSiO蒸気を形成する。また、二酸化珪素から脱離した酸素ガスと金属銅とが反応してCuO蒸気を形成する。また、酸化銅の場合であっても酸素ガスと反応してCuO蒸気を形成する。よって、このSiO・CuO膜を蒸着膜として高分子フィルム基材上に形成することができ、従来技術と比較して高いバリア性を備えた蒸着フィルムを製造することができる。
【0014】
なお、O/(Si+Cu)が1.0未満の場合には、蒸着用材料に含まれる二酸化珪素が少ないため、蒸着用材料表層の溶融部分が少なく、スプラッシュが発生し易くなる。また、O/(Si+Cu)が1.8を超える場合には、酸素ガスの発生が多くなるため、蒸着膜密度の低下により蒸着膜のバリア性が低下する。また、Cu/Siが0.05未満の場合には、銅成分を添加することによるバリア性向上効果が得られない。
【0015】
また、本発明の別の態様は、前記蒸着用材料の嵩密度は、0.9g/cm以上、1.5g/cm以下の範囲内であることとしても良い。
上記態様によれば、この蒸着用材料を加熱した場合、蒸着用材料の昇温レートが最適となり、スプラッシュの発生を抑制することができる。
なお、嵩密度が0.9g/cm未満の場合には、蒸着用材料の割れやスプラッシュが発生し易くなる。また、嵩密度が1.5g/cmを超える場合には、蒸着用材料の蒸発に必要なエネルギーがより必要となるため、蒸発レートが低くなり、蒸着速度の低下、つまり生産性が低下する。
【0016】
また、本発明の別の態様は、前記二酸化珪素粉末は、結晶構造を20%以上含んでいることとしても良い。
上記態様によれば、この蒸着用材料を加熱した場合、蒸着用材料の蒸発レートが最適となり、スプラッシュの発生を抑制することができる。
なお、結晶化度20%未満、つまり結晶構造20%未満の二酸化珪素粉末を使用すると、蒸着用材料の蒸発レート及び蒸着膜のバリア性が低下する。
【0017】
また、本発明の別の態様は、高分子フィルム基材と、上記態様の蒸着用材料を前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の面に蒸着させて形成した蒸着膜とを含み、前記蒸着膜は、珪素と銅の合計の原子数に対する酸素の原子数の比(O/(Si+Cu))が1.6以上、1.9以下の範囲内であり、前記珪素の原子数に対する前記銅の原子数の比(Cu/Si)が0.05以上の範囲であることを特徴とするガスバリア性蒸着フィルムである。
【0018】
上記態様によれば、蒸着用材料を加熱して高分子フィルム基材の表面に蒸着膜を形成する場合、蒸着用材料の表層には溶融した二酸化珪素が形成されるので、スプラッシュの発生が抑制される。
なお、O/(Si+Cu)が1.6未満の場合には、蒸着膜に含まれる二酸化珪素が少ないため、蒸着フィルムの透明性が低下する。また、O/(Si+Cu)が1.9を超える場合には、蒸着膜に含まれる二酸化珪素が多くなるため、蒸着膜密度の低下により蒸着膜のバリア性が低下する。また、Cu/Siが0.05未満の場合には、銅成分の含有によるバリア性向上の効果が得られない。
【0019】
また、本発明の別の態様は、上記態様の蒸着用材料を高分子フィルム基材の表面に蒸着させて、蒸着膜を形成する工程を含むことを特徴とするガスバリア性蒸着フィルムの製造方法である。
上記態様によれば、蒸着用材料を加熱してフィルム基材の表面に蒸着膜を形成する場合、蒸着用材料の表層には溶融した二酸化珪素が形成されるのでスプラッシュの発生を抑制することができる。さらに、蒸着用材料に含まれる二酸化珪素が加熱されると酸素ガスが脱離する。そして、この酸素ガスと加熱された金属珪素とが反応してSiO蒸気を形成する。また、二酸化珪素から脱離した酸素ガスと金属銅とが反応してCuO蒸気を形成する。また、酸化銅の場合であっても酸素ガスと反応してCuO蒸気を形成する。よって、このSiO・CuO膜を蒸着膜としてフィルム基材上に形成することができ、従来技術と比較して高いバリア性を備えた蒸着フィルムを製造することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明の蒸着用材料によれば、生産性向上のために高い出力での蒸着法(例えば、電子ビーム加熱蒸着法)を利用した場合でもスプラッシュ現象を抑制でき、高いガスバリア性の蒸着フィルムを得ることができる。また、本発明の蒸着用材料を用いてガスバリア性蒸着フィルムを製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】ガスバリア性蒸着フィルムの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について説明する。図1は、本実施形態に係るガスバリア性蒸着フィルム3の断面図である。ガスバリア性蒸着フィルム3は、高分子フィルム基材1と、高分子フィルム基材1の一方の面に接して設けられた無機酸化物膜2とを含んでいる。
<ガスバリア性蒸着フィルム3の製造方法>
本実施形態に係るガスバリア性蒸着フィルム3は、後述する蒸着用材料を加熱し蒸発させ、高分子フィルム基材1の一方の面に無機酸化物膜2を形成させることで製造される。この無機酸化物膜2の形成には、ガスバリア性能や均一性の観点から、例えば真空蒸着方式を用いることができる。
上記真空蒸着方式のうち、電子ビームやレーザービーム等による加熱蒸着法が好ましく用いられ、特に電子ビーム加熱蒸着法が成膜速度または蒸着用材料の昇温降温が短時間で行える点で有効である。
【0023】
<蒸着用材料>
以下、無機酸化物膜2の形成において用いられる蒸着用材料について説明する。
本実施形態に係る蒸着用材料は、金属珪素粉末と、二酸化珪素粉末と、金属銅粉末もしくは酸化銅粉末とを含有している。そして、この蒸着用材料に含まれる、珪素と銅の合計の原子数に対する酸素の原子数の比(以下、「O/(Si+Cu)」とも表記する。)は1.0以上、1.8以下の範囲内である。また、珪素の原子数に対する銅の原子数の比(以下、「Cu/Si」とも表記する。)は0.05以上の範囲である。このように、O/(Si+Cu)及びCu/Siを管理することで、電子ビームによる熱衝撃に対して破壊されにくく、即ち、耐熱衝撃性が向上し、スプラッシュ現象を抑制することができる。
【0024】
なお、O/(Si+Cu)が1.0未満の場合には、蒸着用材料に含まれる二酸化珪素が少ないため、蒸着用材料表層の溶融部分が少なく、スプラッシュが発生し易くなる。また、O/(Si+Cu)が1.8を超える場合には、酸素ガスの発生が多くなるため、蒸着膜密度の低下により無機酸化物膜2のバリア性が低下する。また、成膜室内の圧力が上昇するので、蒸着速度の低下、つまり生産性の低下も起こる。また、Cu/Siが0.05未満の場合には、銅成分を添加することによるバリア性向上効果が得られない。
【0025】
さらに、上記蒸着用材料の嵩密度は、0.9g/cm以上、1.5g/cm以下の範囲内であっても良い。
なお、嵩密度が0.9g/cm未満の場合には、蒸着用材料の割れやスプラッシュが発生し易くなる。また、嵩密度が1.5g/cmを超える場合には、蒸着用材料の蒸発に必要なエネルギーがより必要となるため、蒸発レートが低くなり、蒸着速度の低下、つまり生産性が低下する。
【0026】
本実施形態に係る蒸着用材料は、電子ビーム加熱による蒸着の際、好適には蒸着用材料の嵩密度を管理することで、緻密構造にならないようにして熱伝導性を低くすることができる。そして、低い熱伝導性を持つ二酸化珪素を混合したことにより、電子ビーム加熱による急激な温度上昇による突沸の発生を抑制し、スプラッシュ現象の発生を低減させることができる。
【0027】
上記蒸着用材料は二酸化珪素を含んでいるために、電子ビームによって蒸着用材料を加熱することで、二酸化珪素から酸素ガスが発生する。そして、この酸素ガスが、金属珪素と、金属銅もしくは酸化銅と反応する。具体的には、二酸化珪素が加熱されると酸素ガスが脱離し、加熱された金属珪素とこの酸素ガスとが反応しSiO蒸気となる。この際、二酸化珪素から発生した酸素ガスが金属珪素の近傍にあるため、突沸し難くなる。
【0028】
また、金属銅は二酸化珪素から脱離した酸素ガスと反応しCuO蒸気となる。これと同様の反応により、酸化銅も蒸発しCuO蒸気となる。このため、高分子フィルム基材1上に無機酸化物膜2としてSiO・CuO膜を形成することができるので、高いバリア性を備える蒸着フィルムを形成することができる。また、蒸着用材料を加熱することで、蒸着用材料の表層には溶融した二酸化珪素が形成されるので、スプラッシュの発生を抑制することができる。
【0029】
さらに、上記蒸着用材料に含まれる金属珪素と、二酸化珪素と、金属銅もしくは酸化銅とはそれぞれ粉末であって、各粉末の粒径が同程度であると混ざりやすく、1μmから100μmの範囲内にある粉末を用いることで蒸着用材料の昇温プロセスが簡易になる。これは、金属珪素が蒸着用材料に均一に混合されることで、材料が温まり易く電子ビームのデフォーカスが起こりにくいためと考えられる。
【0030】
上記蒸着用材料に含まれる二酸化珪素は、少なくとも20%はX線的に結晶構造を有していることが望ましい。二酸化珪素の結晶部分と非結晶部分との測定には、X線回折装置(XRD)を用いて、それぞれのピークを分離し、積分強度の比から結晶化度を求めた。結晶化度20%未満、つまり結晶構造20%未満の二酸化珪素を使用すると、蒸着用材料の蒸発レート及び蒸着膜である無機酸化物膜2のバリア性が低下する。
【0031】
また、上記蒸着用材料を用いて形成した無機酸化物膜2に関して、O/(Si+Cu)は1.6以上、1.9以下の範囲内にあることが望ましい。O/(Si+Cu)が1.6未満の場合には、無機酸化物膜2に含まれる二酸化珪素が少ないため、フィルムの透明性が低下する。また、O/(Si+Cu)が1.9を超える場合には、無機酸化物膜2に含まれる二酸化珪素が多くなるため、蒸着膜密度の低下により無機酸化物膜2のバリア性が低下する。
【0032】
また、上記蒸着用材料を用いて蒸着した無機酸化物膜2に関して、Cu/Siは0.05以上が望ましい。Cu/Siが0.05未満の場合には、銅成分の含有によるバリア性向上の効果が得られない。
なお、本実施形態に係る高分子フィルム基材1は、特に制限を受けるものではなく公知のものを使用することができる。例えば、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン等)、ポリエステル系(ポリエチレンナフタレート、ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアミド系(ナイロン―6、ナイロン―66等)、ポリスチレン、エチレンビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリビニルアルコール、ポリカーボネイト、ポリエーテルスルホン、アクリル、セルロース系(トリアセチルセルロース、ジアセチルセルロース等)などの高分子のフィルム基材が挙げられるが、特に限定されない。
【0033】
また、高分子フィルム基材1として、透明フィルムを用いることは、大量生産に適するため好ましい。また、厚さに関しては、特に制限を受けるものではなく、ガスバリア性蒸着フィルムを形成する蒸着加工などの加工性を考慮すると、実用的には12μmから188μmの範囲内であることが好ましい。
また、無機酸化物膜2の厚さは、一般的には5nmから300nmの範囲内であることが望ましく、その値は適宜選択することができる。
【0034】
ただし、その厚さが5nm未満であると均一な膜が得られないことや膜厚が十分ではないことがあり、十分なバリア性能を発揮できない場合がある。また、膜厚が300nmを超える場合は、膜にフレキシビリティを保持させることができず、成膜後に折り曲げ、引張りなどの外的要因により、膜に亀裂が生じる恐れがある。
また、無機酸化物膜2は高分子フィルム基材1の一方の面に形成されることに限られず、両面に形成されても良い。また、無機酸化物膜2は多層に形成されても良い。また、表裏で異なる組成の無機酸化物膜2を高分子フィルム基材1の一方の面あるいは両面に形成しても良い。
【実施例1】
【0035】
以下に、本発明の実施例を具体的に説明する。
<実施例1>
金属珪素には50μm以下の径を有する粉末が95%以上含まれているものを使用し、二酸化珪素には結晶構造を95%含み、且つ50μm以下の径を有する粉末が95%以上含まれているものを使用し、金属銅には50μm以下の径を有する粉末が95%以上含まれているものを使用した。O/(Si+Cu)が1.3となるようにし、Cu/Siが0.16となるように混合した金属珪素と二酸化珪素と金属銅からなる蒸着用材料を作製し、蒸着用材料の嵩密度が1.0g/cmとなるようにプレス成型した。
そして、電子ビーム加熱方式の真空蒸着装置で、電子銃から放出する電子ビームを混合蒸着用材料に照射し蒸発させ、高分子フィルム基材1上に無機酸化物膜2を蒸着することで、ガスバリア性蒸着フィルム3を得た。
【0036】
<実施例2>
金属珪素には50μm以下の径を有する粉末が95%以上含まれているものを使用し、二酸化珪素には結晶構造を95%含み、且つ50μm以下の径を有する粉末が95%以上含まれているものを使用し、酸化銅には50μm以下の径を有する粉末が95%以上含まれているものを使用した。O/(Si+Cu)が1.4となるようにし、Cu/Siが0.11となるように混合した金属珪素と二酸化珪素と酸化銅からなる蒸着用材料を作製し、蒸着用材料の嵩密度が1.0g/cmとなるようにプレス成型した。
そして、実施例1と同様の蒸着方法を用いて、ガスバリア性蒸着フィルム3を得た。
以下に本発明の比較例について説明する。
【0037】
<比較例1>
金属珪素には50μm以下の径を有する粉末が95%以上含まれているものを使用し、二酸化珪素には結晶構造を95%含み、且つ50μm以下の径を有する粉末が95%以上含まれているものを使用した。珪素の原子数に対する酸素の原子数の比(以下、「O/Si」とも表記する。)が1.5となるように混合した金属珪素と二酸化珪素からなる混合蒸着用材料を作製し、混合蒸着用材料の嵩密度が1.0g/cmとなるようにプレス成型した。
そして、実施例1と同様の蒸着方法を用いて、ガスバリア性蒸着フィルム3を得た。
【0038】
<比較例2>
比較例1で作製した混合蒸着用材料と同様の混合蒸着用材料を作製し、混合蒸着用材料の嵩密度が1.5g/cmとなるようにプレス成型した。
そして、実施例1と同様の蒸着方法を用いて、ガスバリア性蒸着フィルム3を得た。
実施例1、2及び比較例1、2のガスバリア性蒸着フィルム3について、以下の方法で、スプラッシュの発生をチェックした。また、水蒸気透過率を測定評価した。さらに、無機酸化物膜2のO/(Si+Cu)及びCu/Siを測定した。
以下に示す表1は、上記測定の結果を示すものである。
【0039】
<スプラッシュ>
実施例1、2及び比較例1、2のガスバリア性蒸着フィルム3の500mm幅100m長について、目視によって、スプラッシュによるピンホールや異物の有無を調べた。スプラッシュによるピンホールや異物が無い場合を「○」とし、スプラッシュによるピンホールや異物が1から10個までを「△」とし、スプラッシュによるピンホールや異物が11個以上あるものを「×」として、各蒸着用材料について表1中に示した。
【0040】
<水蒸気バリア性>
実施例1、2及び比較例1、2のガスバリア性蒸着フィルム3の水蒸気バリア性を水蒸気透過度測定装置(モダンコントロール社製 MOCON PERMATRAN 3/21)を用いて40℃90%RHの雰囲気で測定した。
<無機酸化物膜2のO/(Si+Cu)及びCu/Si>
実施例1、2及び比較例1、2のガスバリア性蒸着フィルム3の無機酸化物膜2のO/(Si+Cu)及びCu/Siを以下の方法で測定した。無機酸化物膜2が形成された高分子フィルム基材1を10mm×10mm角に切り取り、X線光電子分光装置(ESCA)により、膜の組成分析を行った。Arイオンで無機酸化物膜2の深さ方向に組成分析を3回以上繰り返し、その平均を求め、O/(Si+Cu)及びCu/Siを算出した。
【0041】
なお、表1において、「材料」とは本実施形態に係る「蒸着用材料」を指し、「蒸着膜」とは「無機酸化物膜2」を指し、「水蒸気バリア性」とは「水蒸気透過度」を指す。
【0042】
【表1】

【0043】
<比較結果>
表1から、比較例2のガスバリア性蒸着フィルム3ではスプラッシュの発生が確認されたのに対し、その他の実施例1、2及び比較例1のガスバリア性蒸着フィルム3ではスプラッシュの発生は確認されなかった。これは、蒸着用材料の高い嵩密度によってスプラッシュが発生することを意味する。
さらに、金属銅もしくは酸化銅を蒸着用材料に加えることで顕著な水蒸気バリア性の向上がみられる。金属珪素と二酸化珪素の蒸着用材料(つまり、比較例1、2)からなる無機酸化物膜2の水蒸気バリア性が1g/m・dayより悪いのに対し、金属銅もしくは酸化銅を加えた蒸着用材料(つまり、実施例1、2)からなる無機酸化物膜2ではSiOとCuOとの複合膜となることで1g/m・dayより良い水蒸気バリア性が得られており、従来技術と比較して、本実施形態に係る蒸着用材料は水蒸気バリア性が向上したと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
生産性も高く、安価に高いガスバリア性能を持つ透明ガスバリア性フィルムを提供できることで、食品、日用品、医療品の包装分野あるいは比包装分野での酸素及び水蒸気を遮断が必要な部材分野に幅広く適応できる。
【符号の説明】
【0045】
1 高分子フィルム基材
2 無機酸化物膜
3 ガスバリア性蒸着フィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属珪素粉末と、二酸化珪素粉末と、金属銅粉末もしくは酸化銅粉末とを含有した加熱方式の蒸着用材料であって、
珪素と銅の合計の原子数に対する酸素の原子数の比(O/(Si+Cu))は、1.0以上、1.8以下の範囲内であり、
珪素の原子数に対する銅の原子数の比(Cu/Si)は、0.05以上の範囲であることを特徴とする蒸着用材料。
【請求項2】
前記蒸着用材料の嵩密度は、0.9g/cm以上、1.5g/cm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載の蒸着用材料。
【請求項3】
前記二酸化珪素粉末は、結晶構造を20%以上含んでいることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の蒸着用材料。
【請求項4】
高分子フィルム基材と、
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の蒸着用材料を前記高分子フィルム基材の少なくとも一方の面に蒸着させて形成した蒸着膜とを含み、
前記蒸着膜は、珪素と銅の合計の原子数に対する酸素の原子数の比(O/(Si+Cu))が1.6以上、1.9以下の範囲内であり、前記珪素の原子数に対する前記銅の原子数の比(Cu/Si)が0.05以上の範囲であることを特徴とするガスバリア性蒸着フィルム。
【請求項5】
請求項1から請求項3の何れか一項に記載の蒸着用材料を高分子フィルム基材の表面に蒸着させて、蒸着膜を形成する工程を含むことを特徴とするガスバリア性蒸着フィルムの製造方法。

【図1】
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