蓄熱マイクロカプセル及びその製造方法
【課題】従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセル及びその製造方法を提供する。
【解決手段】相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱材を芯物質とし、この芯物質を無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁で被覆することにより、高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルが得られる。
【解決手段】相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱材を芯物質とし、この芯物質を無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁で被覆することにより、高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルが得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材と熱媒体との熱交換手段としては、直接接触による方法が最も効率が良い。しかしながら、蓄熱材と熱媒体とが物理的、化学的に相互作用する場合が多いため、間接接触を行わざるを得ないのが現状である。
【0003】
この間接接触による熱交換手段として、蓄熱材をカプセル化し、カプセル膜を介して熱媒体と熱交換する方法が挙げられる。この方法は、蓄熱材の単位体積当たりの表面積が大きくなるため非常に有効であり、伝熱促進をより有効ならしめるために、カプセルのマイクロ化が種々検討されている。
【0004】
例えば、複合エマルジョン法によるカプセル化法(特許文献1参照)、蓄熱材粒子の表面に熱可塑性樹脂を噴霧する方法(特許文献2参照)、蓄熱材粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(特許文献3参照)、蓄熱材粒子の表面でモノマーを重合させ被覆する方法(特許文献4参照)、界面重縮合反応によるポリアミド皮膜マイクロカプセルの製法(特許文献5参照)等の蓄熱マイクロカプセルの製造方法が開示されている。
【0005】
これらの特許文献で開示されている蓄熱材を内包したマイクロカプセル(以下、蓄熱マイクロカプセルと称する)では、カプセル壁材として、界面重合法やin−Situ法等の手法で得られるポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタンの他、尿素ホルマリン樹脂やメラミンホルマリン樹脂等のアミノプラスト樹脂等の有機高分子が用いられている。また、蓄熱材としては、相変化により蓄熱又は放熱する潜熱蓄熱物質が用いられており、具体的には、n−パラフィン、iso−パラフィン、脂肪酸、高級アルコール等が多く用いられている。これらの物質が蓄熱できる熱量(蓄熱量)は、それぞれの物質の融解潜熱量(ΔH)でほぼ決定され、ΔH=120〜240kJ/kgの範囲である(図16参照)。また、これらの物質が相変化することにより熱の吸放出を行うポイント、即ち、物質の融点はほぼ100℃以下の領域である(図16参照)。
【0006】
ところで、蓄熱マイクロカプセルにおいては、カプセル壁が物理的、化学的に安定であり、堅牢性を有することが求められる。加えて、蓄熱マイクロカプセルが、内包する蓄熱材の相変化温度若しくはそれ以上の高温環境下に曝された場合であっても、カプセルの破壊が生じないような高い耐熱性が求められる。
【0007】
これに関し、蓄熱材として脂肪族系炭化水素化合物を用い、これを内包するカプセル壁材として、物理的、化学的に安定した壁材の合成が可能なin−Situ法により合成された尿素ホルマリン樹脂やメラミンホルマリン樹脂皮膜を用いた蓄熱マイクロカプセルが開示されている(特許文献6参照)。
【特許文献1】特開昭62−1452号公報
【特許文献2】特開昭62−45680号公報
【特許文献3】特開昭62−149334号公報
【特許文献4】特開昭62−225241号公報
【特許文献5】特開平2−258052号公報
【特許文献6】特開2003−306672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜6に開示された蓄熱マイクロカプセルはいずれも、そのカプセル壁材がポリスチレン、ポリエチレン、ポリアミド、メラミンホルマリン樹脂等の有機高分子のみから構成されている。このため、最も耐熱性の高いメラミンホルマリン樹脂であっても、使用環境温度が150℃より高温である場合には、内包された蓄熱材が漏洩し、蓄熱性能が低下してしまう。
【0009】
このため、従来の蓄熱マイクロカプセルは、雰囲気温度150℃以下でしか使用することができないという制約がある。このような耐熱性限界は、メラミンホルマリン樹脂等の有機高分子の耐熱性(ISO75:荷重たわみ温度、別名では熱変形温度)で決定されるものである。
【0010】
これに対して、内燃機関等を熱源とした蓄熱利用においては、その雰囲気温度が200℃以上になることも想定される。このため、内燃機関等を熱源とした蓄熱利用には、従来の蓄熱マイクロカプセルを利用できず、マイクロカプセルの更なる耐熱性の向上が望まれている。
【0011】
また、蓄熱マイクロカプセルに要求される基本性能は、その名の通り蓄熱性能である。この蓄熱性能は、マイクロカプセルに内包される内包物が相変化する際の融解潜熱量を指標として、その優劣が評価される。蓄熱マイクロカプセルの蓄熱性能を向上させる手段としては、次の二通りの手段が挙げられる。第一の手段は、相変化に寄与しないカプセル壁材の厚さを薄くし、単位重量あたりの蓄熱マイクロカプセルにおける内包物の占める比率を増加させる手段である。そして、第二の手段は、融解潜熱量の大きい物質をマイクロカプセル化する手段である。
【0012】
第一の手段としては、カプセル壁の合成過程において、カプセル壁を構成する原料の量を少なくすることが挙げられる。これにより、カプセル壁の薄壁化が可能となり、蓄熱マイクロカプセルの単位重量あたりの蓄熱量を増加させることができる。しかしながら、カプセル壁の薄壁化に伴い、内包物の漏洩や堅牢性の低下、耐熱性の低下等の新たな課題が生じる。この新たに生じた課題に対しては、カプセル壁材の堅牢性、耐熱性を向上させるべく、有機高分子のみから構成されるカプセル壁に、無機物質等で強度補強及び耐熱性の付与を行うことが必要である。
【0013】
第二の手段としては、融解潜熱量の大きい糖類、糖アルコール類、無機塩類、無機塩水和物類等をマイクロカプセル化することが挙げられる。これが可能であれば、蓄熱マイクロカプセルの単位重量あたりの蓄熱量を増加させることができる。しかしながら、従来の蓄熱マイクロカプセルでは、その製造工程において水を使用し、水相と油相との界面においてマイクロカプセルを合成するため、カプセルの内包物は水に不溶であることが必要不可欠である。このため、従来の技術では、融解潜熱量の大きい水溶性の蓄熱物質をマイクロカプセル化することは困難であるという課題を有している。
【0014】
従って、本発明の目的は、上記第一の手段及び第二の手段における課題を解決することにより、単位重量あたりの蓄熱量を大幅に増加させるとともに、内包された蓄熱材の相変化温度若しくはそれ以上の高温環境下(具体的には雰囲気温度が200℃以上)にマイクロカプセルが曝された場合であっても、物理的、化学的に安定でカプセル壁が破壊することがないような高い耐熱性を有する蓄熱マイクロカプセル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱材を芯物質とし、この芯物質を無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁で被覆することにより、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0016】
(1) 蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルであって、前記芯物質は、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質であり、前記カプセル壁は、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁である蓄熱マイクロカプセル。
【0017】
(2) 前記無機化合物は、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸亜鉛、珪酸スズ、及び、珪酸鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物である(1)記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0018】
(3) 前記有機高分子化合物は、アラミド樹脂である(1)又は(2)記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0019】
(4) 前記潜熱蓄熱物質は、糖、糖アルコール、無機塩、及び、無機塩水和物よりなる群から選ばれる少なくとも一種である(1)から(3)いずれか記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0020】
本発明に係る蓄熱マイクロカプセルは、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質で構成される芯物質を被覆するカプセル壁が、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成されたものである。即ち、融解潜熱量の大きい水溶性の蓄熱物質がマイクロカプセル化されたものであるため、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有する。また、カプセル壁が有機高分子化合物だけでなく、無機化合物と有機高分子化合物との複合材により形成されたものであるため、物理的、化学的に安定で堅牢性を有するうえ、優れた耐熱性をも有する。具体的には、本発明に係る蓄熱マイクロカプセルは、使用環境温度250℃までの耐熱性を有するため、内燃機関等を熱源とした蓄熱の利用に有効である。
【0021】
(5) 蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、前記芯物質を、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質とし、この潜熱蓄熱物質を、珪酸ナトリウム及び芳香族ジアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、炭化水素系溶媒中に芳香族ジカルボン酸塩化物を添加して混合することにより、油相を形成する工程と、前記水相と前記油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、前記W/O分散系を、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化スズ、及び、塩化鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物を含有する水溶液中に添加して混合することにより、W/O/W’分散系を調整する工程と、前記W/O/W’分散系を加熱攪拌することにより、前記潜熱蓄熱物質を内包し且つアラミド樹脂と珪酸塩とが複合化されて形成されたカプセル壁を得る工程と、を含む蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【0022】
(6) 蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、前記芯物質を、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質とし、この潜熱蓄熱物質を、珪酸ナトリウム及び芳香族ジアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、炭化水素系溶媒中に芳香族ジカルボン酸塩化物を添加して混合することにより、油相を形成する工程と、前記水相と前記油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、炭化水素溶媒中に、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化スズ、及び、塩化鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物、及び、リン酸エステルを添加して混合することにより、Ca、Mg、Zn、Sn等のイオンを含む無機イオン添加溶液を調整する工程と、前記W/O分散系を攪拌しながら前記無機イオン添加溶液中に添加して混合した後、加熱攪拌することにより、前記潜熱蓄熱物質を内包し且つアラミド樹脂と珪酸塩とが複合化されて形成されたカプセル壁を得る工程と、を含む蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【0023】
本発明に係る蓄熱マイクロカプセルの製造方法によれば、水溶性の潜熱蓄熱物質で構成される芯物質を被覆するカプセル壁が、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された蓄熱マイクロカプセルを製造できる。従って、本発明に係る製造方法によれば、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルを提供できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る蓄熱マイクロカプセルによれば、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0026】
<潜熱蓄熱物質>
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルの芯物質を構成する潜熱蓄熱物質は、相変化に伴う潜熱を利用して蓄熱又は放熱を行うものである。具体的には、水溶性の潜熱蓄熱物質が用いられる。例えば、糖、糖アルコール、無機塩、及び、無機塩水和物よりなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましく用いられる。
【0027】
特に、内燃機関等を熱源とした蓄熱に利用する場合には、潜熱蓄熱物質の融点は高い方が好ましく、具体的には、融点が30℃〜200℃の物質であることが好ましい。
【0028】
また、蓄熱マイクロカプセルの熱伝導性や比重を調節する目的、及び、過冷却を防止する目的で、カーボン、金属粉、アルコール等が添加されたものであってもよい。
【0029】
<カプセル壁>
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルのカプセル壁は、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成されたものである。好ましい無機化合物として、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸亜鉛、珪酸スズ、珪酸鉄等の珪酸塩が単独あるいは併用される。例えば、珪酸カルシウムは、珪酸ナトリウム(Na2SiO3)に塩化カルシウム(CaCl2)を反応させて合成される。
【0030】
また、有機高分子化合物としては、アラミド樹脂が好ましく用いられる。アラミド樹脂は、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸塩化物とを反応させて合成される。例えば、芳香族ジアミンであるp−フェニレンジアミン(PPDA)と、芳香族ジカルボン酸塩化物である二塩化イソフタロイル(IPDC)とを反応させることにより、アラミド樹脂が得られる。
【0031】
<蓄熱マイクロカプセルの製造方法>
[製造例一]
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルの製造方法の一例を、図1に示すフローに沿って説明する。なお、この製造方法では、無機化合物として珪酸カルシウム、有機高分子化合物としてアラミド樹脂、芯物質を構成する潜熱蓄熱物質としてキシリトールを用いる。また、珪酸カルシウムの原料として珪酸ナトリウム及び塩化カルシウムを用い、アラミド樹脂の原料としてp−フェニレンジアミン(PPDA)及び二塩化イソフタロイル(IPDC)を用いる。
【0032】
[工程(1)]
先ず、珪酸ナトリウム水溶液中に、キシリトールとp−フェニレンジアミンとを含有する水溶液を添加して混合し、水相を作製する。また、これに並行して、ケロシン等の炭化水素系溶媒中に二塩化イソフタロイルを添加して混合し、油相を作製する。次いで、これら水相及び油相を混合した後、ホモジナイザー等の攪拌機により加熱攪拌して微粒子を生成し、W/O分散系10を調製する。この工程(1)により調製されるW/O分散系10の模式図を図2に示す。
【0033】
なお、工程(1)において油相を作製する際には、和光純薬社製「Span80」に代表されるようなソルビタンモノオレエート等の分散剤を添加して、安定的に分散させることが好ましい。粒径は特に限定されないが、10μm〜20μmであることが好ましく、ホモジナイザー等の攪拌条件の変更により、粒径を制御することができる。また、W/O分散系10を調製する際の加熱温度は、芯物質として使用する潜熱蓄熱物質の種類により適宜設定される。
【0034】
[工程(2)]
工程(1)で得られたW/O分散系10を、塩化カルシウム水溶液中に添加して混合した後、インペラーにより室温下で攪拌を行い、W/O/W’分散系20を調整する。なお、W/O/W’分散系を調整する際には、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)やポリビニルアルコール(PVA)等の分散安定剤を併せて添加し、安定的に分散させることが好ましい。この工程(2)により調製されるW/O/W’分散系20の模式図を図3に示す。
【0035】
[工程(3)]
工程(2)で得られたW/O/W’分散系20を加熱攪拌させながら、界面における珪酸カルシウムの合成反応及びアラミド樹脂の合成反応を開始、進行させる。このときの界面における反応の様子を模式的に図4〜図6に示す。図4に示すように、水相中に含まれるカルシウムイオン11が、内水相中に含まれる珪酸ナトリウム12と反応し、珪酸カルシウム15が合成される(図5参照)。また、油相中に含まれる二塩化イソフタロイル13が、内水相中に含まれるp−フェニレンジアミン14と反応し、アラミド樹脂16が形成され、珪酸カルシウム15とアラミド樹脂16とが複合化される(図6参照)。
【0036】
なお、上記工程(2)において、W/O分散系10を塩化カルシウム水溶液中に添加するタイミングを適宜変更することにより、カプセル壁組成、即ち、珪酸カルシウムとアラミド樹脂との複合状態を調整することも可能である。
【0037】
最後に、解乳化して洗浄を行うことにより、キシリトール微粒子を被覆し、アラミド樹脂と珪酸カルシウムとが複合化されて形成されたカプセル壁を有する蓄熱マイクロカプセルが得られる。
【0038】
[製造例二]
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルの製造方法の別の一例を、図7に示すフローに沿って説明する。なお、この製造方法では、製造例一と同様に、無機化合物として珪酸カルシウム、有機高分子化合物としてアラミド樹脂、芯物質を構成する潜熱蓄熱物質としてキシリトールを用いる。また、珪酸カルシウムの原料として珪酸ナトリウム及び塩化カルシウムを用い、アラミド樹脂の原料としてp−フェニレンジアミン(PPDA)及び二塩化イソフタロイル(IPDC)を用いる。
【0039】
[工程(1)]
本製造例における工程(1)は、上記製造例一における工程(1)と同様であり、先ず、珪酸ナトリウム水溶液中に、キシリトールとp−フェニレンジアミンとを含有する水溶液を添加して混合し、水相を作製する。また、これに並行して、ケロシン等の炭化水素系溶媒中に二塩化イソフタロイルを添加して混合し、油相を作製する。次いで、これら水相及び油相を混合した後、ホモジナイザー等の攪拌機により加熱攪拌して微粒子を生成し、W/O分散系を調製する。
【0040】
なお、工程(1)において油相を作製する際には、上記製造例一における工程(1)と同様に、和光純薬社製「Span80」に代表されるようなソルビタンモノオレエート等の分散剤を添加して、安定的に分散させることが好ましい。粒径は特に限定されないが、10μm〜20μmであることが好ましく、ホモジナイザー等の攪拌条件の変更により、粒径を制御することができる。また、W/O分散系を調製する際の加熱温度は、芯物質として使用する潜熱蓄熱物質の種類により適宜設定される。
【0041】
[工程(2)]
工程(1)とは別に、ケロシン等の炭化水素系溶媒中にリン酸ジ(2エチルヘキシル)(D2EHPA)に代表されるようなリン酸エステル系界面活性剤、若しくは酸性モノホスホン酸モノエステル系の界面活性剤、及び、塩化カルシウムを添加して混合し、インペラーにより室温下で攪拌を行い、カルシウムイオン添加溶液を作製する。
【0042】
[工程(3)]
工程(2)で得られたカルシウムイオン添加溶液をインペラーにより室温下で攪拌しながら、工程(1)で得られたW/O分散系を添加して混合する。この混合溶液を加熱攪拌し、界面における珪酸カルシウムの合成反応及びアラミド樹脂の合成反応を開始、進行させる。このときの界面における反応の様子を模式的に図8〜図10に示す。図8に示すように、油相中に含まれるカルシウムイオン11が、内水相中に含まれる珪酸ナトリウム12と反応し、珪酸カルシウム15が合成される(図9参照)。また、油相中に含まれる二塩化イソフタロイル13が、内水相中に含まれるp−フェニレンジアミン14と反応し、アラミド樹脂16が形成され、珪酸カルシウム15とアラミド樹脂16とが複合化される(図10参照)。
【0043】
なお、上記工程(3)において、W/O分散系をカルシウムイオン添加溶液中に添加するタイミングを適宜変更することにより、カプセル壁組成、即ち、珪酸カルシウムとアラミド樹脂との複合状態を調整することも可能である。
【0044】
最後に、解乳化して洗浄を行うことにより、キシリトール微粒子を被覆し、アラミド樹脂と珪酸カルシウムとが複合化されて形成されたカプセル壁を有する蓄熱マイクロカプセルが得られる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
図1に示すフローに沿って蓄熱マイクロカプセルを製造した。先ず、Na2SiO3(珪酸ナトリウム:関東化学社製)6kmol/m3水溶液10ml中に、キシリトール(東京化成社製)30gと、純水30mlに対してPPDA(関東化学社製)2.1gを溶解させて得られたPPDA溶液と、を全て混合して水相を作製した。
【0047】
ケロシン(和光純薬社製)80mlに、IPDC(関東化学社製)2.0gと、分散剤としてソルビタンモノオレエート(「Span80」和光純薬社製)1.6gと、を添加して混合し、油相を作製した。
【0048】
作製した水相と油相とを混合した後、ホモジナイザーにより液温70℃下5000rpmで10分間攪拌し、W/O分散系を作製した。
【0049】
作製したW/O分散系を、CaCl2(関東化学社製)2.03gと、分散安定剤としてDBS(関東化学社製)0.5gと、純水250mlに対してPVA(関東化学社製)1.25gを溶解させて得られたPVA水溶液と、を溶解させた蒸留水250ml中に投入した。次いで、インペラーにて室温下500rpmで2時間攪拌を行い、W/O/W’分散系を作製した。
【0050】
作製したW/O/W’分散系を、60℃下400rpmで24時間攪拌しながら界面反応を開始させ、珪酸カルシウム壁及びポリアラミド壁を合成した。
【0051】
最後に、解乳化、洗浄を行って蓄熱マイクロカプセルを得た。
【0052】
<実施例2>
図7に示すフローに沿って蓄熱マイクロカプセルを製造した。先ず、Na2SiO3(珪酸ナトリウム:関東化学社製)6kmol/m3水溶液10ml中に、キシリトール(東京化成社製)30gと、純水30mlに対してPPDA(関東化学社製)2.1gを溶解させて得られたPPDA溶液と、を全て混合して水相を作製した。
【0053】
ケロシン(和光純薬社製)80mlに、IPDC(関東化学社製)2.0gと、分散剤としてソルビタンモノオレエート(「Span80」和光純薬社製)1.6gとを混合し、油相を作製した。
【0054】
作製した水相と油相とを混合した後、ホモジナイザーにより液温70℃下5000rpmで10分間攪拌し、W/O分散系を作製した。
【0055】
別途、ケロシン(和光純薬社製)200ml中に、D2EHPA(関東化学社製)16.2gと、CaCl2(関東化学社製)2kmol/m3水溶液200mlと、を添加して混合した。次いで、インペラーにて室温下400rpmで24時間攪拌し、カルシウムイオン添加溶液を作製した。
【0056】
作製したカルシウムイオン添加溶液をインペラーにて室温下400rpmで攪拌しながら、上記で作製したW/O分散系を添加して混合した。この混合液を、60℃下400rpmで24時間攪拌して界面反応を開始、進行させ、珪酸カルシウム壁及びポリアラミド壁を合成した。
【0057】
最後に、解乳化、洗浄を行って蓄熱マイクロカプセルを得た。
【0058】
<比較例>
比較例として、特開2003−306672号公報に記載の製造方法に従って、蓄熱マイクロカプセルを製造した。先ず、メラミン粉末(関東化学社製メラミン「25093−02」(2、4、6−トリアミノ−1、3、5−トリアジン))12質量部に、37%ホルムアルデヒド水溶液15.4質量部と水40質量部を加え、pHを8に調整した後、約70℃まで加熱してメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得た。
【0059】
次いで、pHを4.5に調整した10%スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100質量部中に、蓄熱材としてn−オクタデカン(融解熱ΔH=240kJ/kg、融点30〜32℃)80質量部を激しく攪拌しながら添加し、粒子径が3.0μmになるまで乳化を行った。
【0060】
得られた乳化液に上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液全量を添加し、70℃で2時間攪拌した後、pHを9まで上げて水を添加し、乾燥固形分濃度40%の蓄熱マイクロカプセル分散液を得た。
【0061】
最後に、解乳化して洗浄を行い、蓄熱マイクロカプセルを得た。
【0062】
<拡大観察>
実施例1により得られた蓄熱マイクロカプセルについて、日立製作所製の走査透過電子顕微鏡(加速電圧200kV、10kV)による拡大観察を行った結果得られた拡大写真を図11及び図12に示す。図11は、蓄熱マイクロカプセルを表面から拡大観察して得られたものであり、この図11から、実施例1で得られた蓄熱マイクロカプセルは、真球に近い形状を有していることが確認された。また、図12は、蓄熱マイクロカプセルの断面を拡大観察して得られたものであり、この図12から、実施例1で得られた蓄熱マイクロカプセルは、内包物を内包した状態でカプセル化されていることが確認された。
【0063】
<断面組成分析>
実施例1により得られた蓄熱マイクロカプセルを、DiATOME社製のナイフを備えたLeica社製ミクロトームを用いて切断し、断面を露出させた。次いで、この断面について、上記電子顕微鏡を用いた断面拡大観察を行うとともに、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(ノーラン社製UTW型EDS、ビーム径1nmφ)を用いて、断面の元素分析を実施した。具体的には、ケイ素、酸素、炭素の3つの元素分布分析を実施した。その結果を図13に示す。図13に示される通り、内包物は炭素元素が主体であることが確認されたことから、キシリトールが内包されているものと考えられた。一方、カプセル壁はケイ素及び酸素が主体であり、一部炭素が確認されたことから、珪酸カルシウムとアラミド樹脂とが複合されたカプセル壁が形成されているものと考えられた。
【0064】
<耐熱性、融点、融解熱の評価>
実施例及び比較例により得られた蓄熱マイクロカプセルについて、耐熱性、融点、融解熱の評価を行った。
【0065】
<耐熱性>
実施例及び比較例により得られたそれぞれの蓄熱マイクロカプセルについて、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA:Seiko Instruments社製EXSTAR6000−TG/DTA6200)を用い、蓄熱マイクロカプセルのTG測定を行った。その結果得られたTG曲線は図14に示す通りであり、このTG曲線における重量減少の開始温度を耐熱性の評価の指標とした。
【0066】
図14のTG曲線に示されるように、比較例では、重量低下が150〜200℃で見られた。これに対して実施例1、2いずれも、重量低下が250〜300℃で見られ、重量低下の開始温度が約100℃高温側にシフトしていることが分かった。これにより、本実施例の蓄熱マイクロカプセルは、比較例の蓄熱マイクロカプセルに比べて優れた耐熱性を有することが確認された。
【0067】
<融点、融解熱>
実施例及び比較例により得られた蓄熱マイクロカプセルについて、示差走査熱量測定装置(DSC:Seiko Instruments社製SSC/5520)を用い、吸熱ピーク、発熱ピークの温度を測定した。その結果得られたDSCチャートを図15に示した。
【0068】
図15に示されるように、実施例1、2により得られた蓄熱マイクロカプセルはいずれも、キシリトールが固体から液体に相変化したことに起因する吸熱ピークが見られた。即ち、実施例1、2の蓄熱マイクロカプセルにおいて、内包された蓄熱物質であるキシリトールの相変化に起因するピークが見られたことにより、蓄熱マイクロカプセルとしての機能を有していることが確認された。
【0069】
また、実施例及び比較例それぞれにおける吸熱ピークのピーク面積値より、実施例1の蓄熱量が169kJ/kg、実施例2の蓄熱量が182kJ/kgであるのに対し、比較例の蓄熱量は145kJ/kgであった。この蓄熱量の差異は、主に、内包している芯物質の融解潜熱量の差異によるものである。これらの結果から、本実施例により作製された蓄熱マイクロカプセルはいずれも、比較例により作製された蓄熱マイクロカプセルに比して、大きな単位重量あたりの蓄熱量を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一のフロー図である。
【図2】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図3】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図4】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図5】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図6】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図7】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例二のフロー図である。
【図8】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例二を説明するための図面である。
【図9】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例二を説明するための図面である。
【図10】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例二を説明するための図面である。
【図11】実施例1の蓄熱マイクロカプセルの表面拡大写真である。
【図12】実施例1の蓄熱マイクロカプセルの断面拡大写真である。
【図13】実施例1の蓄熱マイクロカプセルの断面組成分析結果を示す図面である。
【図14】実施例及び比較例のTG曲線を示す図である。
【図15】実施例及び比較例のDSC曲線を示す図である。
【図16】潜熱蓄熱物質の種類と融点−融解熱の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 W/O分散系
2 W/O/W’分散系
11 カルシウムイオン
12 珪酸ナトリウム
13 二塩化イソフタロイル
14 p−フェニレンジアミン
15 珪酸カルシウム
16 アラミド樹脂
【技術分野】
【0001】
本発明は、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセル及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
蓄熱材と熱媒体との熱交換手段としては、直接接触による方法が最も効率が良い。しかしながら、蓄熱材と熱媒体とが物理的、化学的に相互作用する場合が多いため、間接接触を行わざるを得ないのが現状である。
【0003】
この間接接触による熱交換手段として、蓄熱材をカプセル化し、カプセル膜を介して熱媒体と熱交換する方法が挙げられる。この方法は、蓄熱材の単位体積当たりの表面積が大きくなるため非常に有効であり、伝熱促進をより有効ならしめるために、カプセルのマイクロ化が種々検討されている。
【0004】
例えば、複合エマルジョン法によるカプセル化法(特許文献1参照)、蓄熱材粒子の表面に熱可塑性樹脂を噴霧する方法(特許文献2参照)、蓄熱材粒子の表面に液中で熱可塑性樹脂を形成する方法(特許文献3参照)、蓄熱材粒子の表面でモノマーを重合させ被覆する方法(特許文献4参照)、界面重縮合反応によるポリアミド皮膜マイクロカプセルの製法(特許文献5参照)等の蓄熱マイクロカプセルの製造方法が開示されている。
【0005】
これらの特許文献で開示されている蓄熱材を内包したマイクロカプセル(以下、蓄熱マイクロカプセルと称する)では、カプセル壁材として、界面重合法やin−Situ法等の手法で得られるポリスチレン、ポリアクリロニトリル、ポリアミド、ポリアクリルアミド、エチルセルロース、ポリウレタンの他、尿素ホルマリン樹脂やメラミンホルマリン樹脂等のアミノプラスト樹脂等の有機高分子が用いられている。また、蓄熱材としては、相変化により蓄熱又は放熱する潜熱蓄熱物質が用いられており、具体的には、n−パラフィン、iso−パラフィン、脂肪酸、高級アルコール等が多く用いられている。これらの物質が蓄熱できる熱量(蓄熱量)は、それぞれの物質の融解潜熱量(ΔH)でほぼ決定され、ΔH=120〜240kJ/kgの範囲である(図16参照)。また、これらの物質が相変化することにより熱の吸放出を行うポイント、即ち、物質の融点はほぼ100℃以下の領域である(図16参照)。
【0006】
ところで、蓄熱マイクロカプセルにおいては、カプセル壁が物理的、化学的に安定であり、堅牢性を有することが求められる。加えて、蓄熱マイクロカプセルが、内包する蓄熱材の相変化温度若しくはそれ以上の高温環境下に曝された場合であっても、カプセルの破壊が生じないような高い耐熱性が求められる。
【0007】
これに関し、蓄熱材として脂肪族系炭化水素化合物を用い、これを内包するカプセル壁材として、物理的、化学的に安定した壁材の合成が可能なin−Situ法により合成された尿素ホルマリン樹脂やメラミンホルマリン樹脂皮膜を用いた蓄熱マイクロカプセルが開示されている(特許文献6参照)。
【特許文献1】特開昭62−1452号公報
【特許文献2】特開昭62−45680号公報
【特許文献3】特開昭62−149334号公報
【特許文献4】特開昭62−225241号公報
【特許文献5】特開平2−258052号公報
【特許文献6】特開2003−306672号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1〜6に開示された蓄熱マイクロカプセルはいずれも、そのカプセル壁材がポリスチレン、ポリエチレン、ポリアミド、メラミンホルマリン樹脂等の有機高分子のみから構成されている。このため、最も耐熱性の高いメラミンホルマリン樹脂であっても、使用環境温度が150℃より高温である場合には、内包された蓄熱材が漏洩し、蓄熱性能が低下してしまう。
【0009】
このため、従来の蓄熱マイクロカプセルは、雰囲気温度150℃以下でしか使用することができないという制約がある。このような耐熱性限界は、メラミンホルマリン樹脂等の有機高分子の耐熱性(ISO75:荷重たわみ温度、別名では熱変形温度)で決定されるものである。
【0010】
これに対して、内燃機関等を熱源とした蓄熱利用においては、その雰囲気温度が200℃以上になることも想定される。このため、内燃機関等を熱源とした蓄熱利用には、従来の蓄熱マイクロカプセルを利用できず、マイクロカプセルの更なる耐熱性の向上が望まれている。
【0011】
また、蓄熱マイクロカプセルに要求される基本性能は、その名の通り蓄熱性能である。この蓄熱性能は、マイクロカプセルに内包される内包物が相変化する際の融解潜熱量を指標として、その優劣が評価される。蓄熱マイクロカプセルの蓄熱性能を向上させる手段としては、次の二通りの手段が挙げられる。第一の手段は、相変化に寄与しないカプセル壁材の厚さを薄くし、単位重量あたりの蓄熱マイクロカプセルにおける内包物の占める比率を増加させる手段である。そして、第二の手段は、融解潜熱量の大きい物質をマイクロカプセル化する手段である。
【0012】
第一の手段としては、カプセル壁の合成過程において、カプセル壁を構成する原料の量を少なくすることが挙げられる。これにより、カプセル壁の薄壁化が可能となり、蓄熱マイクロカプセルの単位重量あたりの蓄熱量を増加させることができる。しかしながら、カプセル壁の薄壁化に伴い、内包物の漏洩や堅牢性の低下、耐熱性の低下等の新たな課題が生じる。この新たに生じた課題に対しては、カプセル壁材の堅牢性、耐熱性を向上させるべく、有機高分子のみから構成されるカプセル壁に、無機物質等で強度補強及び耐熱性の付与を行うことが必要である。
【0013】
第二の手段としては、融解潜熱量の大きい糖類、糖アルコール類、無機塩類、無機塩水和物類等をマイクロカプセル化することが挙げられる。これが可能であれば、蓄熱マイクロカプセルの単位重量あたりの蓄熱量を増加させることができる。しかしながら、従来の蓄熱マイクロカプセルでは、その製造工程において水を使用し、水相と油相との界面においてマイクロカプセルを合成するため、カプセルの内包物は水に不溶であることが必要不可欠である。このため、従来の技術では、融解潜熱量の大きい水溶性の蓄熱物質をマイクロカプセル化することは困難であるという課題を有している。
【0014】
従って、本発明の目的は、上記第一の手段及び第二の手段における課題を解決することにより、単位重量あたりの蓄熱量を大幅に増加させるとともに、内包された蓄熱材の相変化温度若しくはそれ以上の高温環境下(具体的には雰囲気温度が200℃以上)にマイクロカプセルが曝された場合であっても、物理的、化学的に安定でカプセル壁が破壊することがないような高い耐熱性を有する蓄熱マイクロカプセル及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた。その結果、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱材を芯物質とし、この芯物質を無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁で被覆することにより、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルが得られることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0016】
(1) 蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルであって、前記芯物質は、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質であり、前記カプセル壁は、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁である蓄熱マイクロカプセル。
【0017】
(2) 前記無機化合物は、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸亜鉛、珪酸スズ、及び、珪酸鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物である(1)記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0018】
(3) 前記有機高分子化合物は、アラミド樹脂である(1)又は(2)記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0019】
(4) 前記潜熱蓄熱物質は、糖、糖アルコール、無機塩、及び、無機塩水和物よりなる群から選ばれる少なくとも一種である(1)から(3)いずれか記載の蓄熱マイクロカプセル。
【0020】
本発明に係る蓄熱マイクロカプセルは、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質で構成される芯物質を被覆するカプセル壁が、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成されたものである。即ち、融解潜熱量の大きい水溶性の蓄熱物質がマイクロカプセル化されたものであるため、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有する。また、カプセル壁が有機高分子化合物だけでなく、無機化合物と有機高分子化合物との複合材により形成されたものであるため、物理的、化学的に安定で堅牢性を有するうえ、優れた耐熱性をも有する。具体的には、本発明に係る蓄熱マイクロカプセルは、使用環境温度250℃までの耐熱性を有するため、内燃機関等を熱源とした蓄熱の利用に有効である。
【0021】
(5) 蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、前記芯物質を、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質とし、この潜熱蓄熱物質を、珪酸ナトリウム及び芳香族ジアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、炭化水素系溶媒中に芳香族ジカルボン酸塩化物を添加して混合することにより、油相を形成する工程と、前記水相と前記油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、前記W/O分散系を、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化スズ、及び、塩化鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物を含有する水溶液中に添加して混合することにより、W/O/W’分散系を調整する工程と、前記W/O/W’分散系を加熱攪拌することにより、前記潜熱蓄熱物質を内包し且つアラミド樹脂と珪酸塩とが複合化されて形成されたカプセル壁を得る工程と、を含む蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【0022】
(6) 蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、前記芯物質を、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質とし、この潜熱蓄熱物質を、珪酸ナトリウム及び芳香族ジアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、炭化水素系溶媒中に芳香族ジカルボン酸塩化物を添加して混合することにより、油相を形成する工程と、前記水相と前記油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、炭化水素溶媒中に、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化スズ、及び、塩化鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物、及び、リン酸エステルを添加して混合することにより、Ca、Mg、Zn、Sn等のイオンを含む無機イオン添加溶液を調整する工程と、前記W/O分散系を攪拌しながら前記無機イオン添加溶液中に添加して混合した後、加熱攪拌することにより、前記潜熱蓄熱物質を内包し且つアラミド樹脂と珪酸塩とが複合化されて形成されたカプセル壁を得る工程と、を含む蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【0023】
本発明に係る蓄熱マイクロカプセルの製造方法によれば、水溶性の潜熱蓄熱物質で構成される芯物質を被覆するカプセル壁が、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された蓄熱マイクロカプセルを製造できる。従って、本発明に係る製造方法によれば、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルを提供できる。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係る蓄熱マイクロカプセルによれば、従来に比して高い単位重量あたりの蓄熱量を有し、且つ、物理的、化学的に安定で耐熱性に優れた蓄熱マイクロカプセルを提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら具体的に説明する。
【0026】
<潜熱蓄熱物質>
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルの芯物質を構成する潜熱蓄熱物質は、相変化に伴う潜熱を利用して蓄熱又は放熱を行うものである。具体的には、水溶性の潜熱蓄熱物質が用いられる。例えば、糖、糖アルコール、無機塩、及び、無機塩水和物よりなる群から選ばれる少なくとも一種が好ましく用いられる。
【0027】
特に、内燃機関等を熱源とした蓄熱に利用する場合には、潜熱蓄熱物質の融点は高い方が好ましく、具体的には、融点が30℃〜200℃の物質であることが好ましい。
【0028】
また、蓄熱マイクロカプセルの熱伝導性や比重を調節する目的、及び、過冷却を防止する目的で、カーボン、金属粉、アルコール等が添加されたものであってもよい。
【0029】
<カプセル壁>
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルのカプセル壁は、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成されたものである。好ましい無機化合物として、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸亜鉛、珪酸スズ、珪酸鉄等の珪酸塩が単独あるいは併用される。例えば、珪酸カルシウムは、珪酸ナトリウム(Na2SiO3)に塩化カルシウム(CaCl2)を反応させて合成される。
【0030】
また、有機高分子化合物としては、アラミド樹脂が好ましく用いられる。アラミド樹脂は、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸塩化物とを反応させて合成される。例えば、芳香族ジアミンであるp−フェニレンジアミン(PPDA)と、芳香族ジカルボン酸塩化物である二塩化イソフタロイル(IPDC)とを反応させることにより、アラミド樹脂が得られる。
【0031】
<蓄熱マイクロカプセルの製造方法>
[製造例一]
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルの製造方法の一例を、図1に示すフローに沿って説明する。なお、この製造方法では、無機化合物として珪酸カルシウム、有機高分子化合物としてアラミド樹脂、芯物質を構成する潜熱蓄熱物質としてキシリトールを用いる。また、珪酸カルシウムの原料として珪酸ナトリウム及び塩化カルシウムを用い、アラミド樹脂の原料としてp−フェニレンジアミン(PPDA)及び二塩化イソフタロイル(IPDC)を用いる。
【0032】
[工程(1)]
先ず、珪酸ナトリウム水溶液中に、キシリトールとp−フェニレンジアミンとを含有する水溶液を添加して混合し、水相を作製する。また、これに並行して、ケロシン等の炭化水素系溶媒中に二塩化イソフタロイルを添加して混合し、油相を作製する。次いで、これら水相及び油相を混合した後、ホモジナイザー等の攪拌機により加熱攪拌して微粒子を生成し、W/O分散系10を調製する。この工程(1)により調製されるW/O分散系10の模式図を図2に示す。
【0033】
なお、工程(1)において油相を作製する際には、和光純薬社製「Span80」に代表されるようなソルビタンモノオレエート等の分散剤を添加して、安定的に分散させることが好ましい。粒径は特に限定されないが、10μm〜20μmであることが好ましく、ホモジナイザー等の攪拌条件の変更により、粒径を制御することができる。また、W/O分散系10を調製する際の加熱温度は、芯物質として使用する潜熱蓄熱物質の種類により適宜設定される。
【0034】
[工程(2)]
工程(1)で得られたW/O分散系10を、塩化カルシウム水溶液中に添加して混合した後、インペラーにより室温下で攪拌を行い、W/O/W’分散系20を調整する。なお、W/O/W’分散系を調整する際には、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム(DBS)やポリビニルアルコール(PVA)等の分散安定剤を併せて添加し、安定的に分散させることが好ましい。この工程(2)により調製されるW/O/W’分散系20の模式図を図3に示す。
【0035】
[工程(3)]
工程(2)で得られたW/O/W’分散系20を加熱攪拌させながら、界面における珪酸カルシウムの合成反応及びアラミド樹脂の合成反応を開始、進行させる。このときの界面における反応の様子を模式的に図4〜図6に示す。図4に示すように、水相中に含まれるカルシウムイオン11が、内水相中に含まれる珪酸ナトリウム12と反応し、珪酸カルシウム15が合成される(図5参照)。また、油相中に含まれる二塩化イソフタロイル13が、内水相中に含まれるp−フェニレンジアミン14と反応し、アラミド樹脂16が形成され、珪酸カルシウム15とアラミド樹脂16とが複合化される(図6参照)。
【0036】
なお、上記工程(2)において、W/O分散系10を塩化カルシウム水溶液中に添加するタイミングを適宜変更することにより、カプセル壁組成、即ち、珪酸カルシウムとアラミド樹脂との複合状態を調整することも可能である。
【0037】
最後に、解乳化して洗浄を行うことにより、キシリトール微粒子を被覆し、アラミド樹脂と珪酸カルシウムとが複合化されて形成されたカプセル壁を有する蓄熱マイクロカプセルが得られる。
【0038】
[製造例二]
本実施形態に係る蓄熱マイクロカプセルの製造方法の別の一例を、図7に示すフローに沿って説明する。なお、この製造方法では、製造例一と同様に、無機化合物として珪酸カルシウム、有機高分子化合物としてアラミド樹脂、芯物質を構成する潜熱蓄熱物質としてキシリトールを用いる。また、珪酸カルシウムの原料として珪酸ナトリウム及び塩化カルシウムを用い、アラミド樹脂の原料としてp−フェニレンジアミン(PPDA)及び二塩化イソフタロイル(IPDC)を用いる。
【0039】
[工程(1)]
本製造例における工程(1)は、上記製造例一における工程(1)と同様であり、先ず、珪酸ナトリウム水溶液中に、キシリトールとp−フェニレンジアミンとを含有する水溶液を添加して混合し、水相を作製する。また、これに並行して、ケロシン等の炭化水素系溶媒中に二塩化イソフタロイルを添加して混合し、油相を作製する。次いで、これら水相及び油相を混合した後、ホモジナイザー等の攪拌機により加熱攪拌して微粒子を生成し、W/O分散系を調製する。
【0040】
なお、工程(1)において油相を作製する際には、上記製造例一における工程(1)と同様に、和光純薬社製「Span80」に代表されるようなソルビタンモノオレエート等の分散剤を添加して、安定的に分散させることが好ましい。粒径は特に限定されないが、10μm〜20μmであることが好ましく、ホモジナイザー等の攪拌条件の変更により、粒径を制御することができる。また、W/O分散系を調製する際の加熱温度は、芯物質として使用する潜熱蓄熱物質の種類により適宜設定される。
【0041】
[工程(2)]
工程(1)とは別に、ケロシン等の炭化水素系溶媒中にリン酸ジ(2エチルヘキシル)(D2EHPA)に代表されるようなリン酸エステル系界面活性剤、若しくは酸性モノホスホン酸モノエステル系の界面活性剤、及び、塩化カルシウムを添加して混合し、インペラーにより室温下で攪拌を行い、カルシウムイオン添加溶液を作製する。
【0042】
[工程(3)]
工程(2)で得られたカルシウムイオン添加溶液をインペラーにより室温下で攪拌しながら、工程(1)で得られたW/O分散系を添加して混合する。この混合溶液を加熱攪拌し、界面における珪酸カルシウムの合成反応及びアラミド樹脂の合成反応を開始、進行させる。このときの界面における反応の様子を模式的に図8〜図10に示す。図8に示すように、油相中に含まれるカルシウムイオン11が、内水相中に含まれる珪酸ナトリウム12と反応し、珪酸カルシウム15が合成される(図9参照)。また、油相中に含まれる二塩化イソフタロイル13が、内水相中に含まれるp−フェニレンジアミン14と反応し、アラミド樹脂16が形成され、珪酸カルシウム15とアラミド樹脂16とが複合化される(図10参照)。
【0043】
なお、上記工程(3)において、W/O分散系をカルシウムイオン添加溶液中に添加するタイミングを適宜変更することにより、カプセル壁組成、即ち、珪酸カルシウムとアラミド樹脂との複合状態を調整することも可能である。
【0044】
最後に、解乳化して洗浄を行うことにより、キシリトール微粒子を被覆し、アラミド樹脂と珪酸カルシウムとが複合化されて形成されたカプセル壁を有する蓄熱マイクロカプセルが得られる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0046】
<実施例1>
図1に示すフローに沿って蓄熱マイクロカプセルを製造した。先ず、Na2SiO3(珪酸ナトリウム:関東化学社製)6kmol/m3水溶液10ml中に、キシリトール(東京化成社製)30gと、純水30mlに対してPPDA(関東化学社製)2.1gを溶解させて得られたPPDA溶液と、を全て混合して水相を作製した。
【0047】
ケロシン(和光純薬社製)80mlに、IPDC(関東化学社製)2.0gと、分散剤としてソルビタンモノオレエート(「Span80」和光純薬社製)1.6gと、を添加して混合し、油相を作製した。
【0048】
作製した水相と油相とを混合した後、ホモジナイザーにより液温70℃下5000rpmで10分間攪拌し、W/O分散系を作製した。
【0049】
作製したW/O分散系を、CaCl2(関東化学社製)2.03gと、分散安定剤としてDBS(関東化学社製)0.5gと、純水250mlに対してPVA(関東化学社製)1.25gを溶解させて得られたPVA水溶液と、を溶解させた蒸留水250ml中に投入した。次いで、インペラーにて室温下500rpmで2時間攪拌を行い、W/O/W’分散系を作製した。
【0050】
作製したW/O/W’分散系を、60℃下400rpmで24時間攪拌しながら界面反応を開始させ、珪酸カルシウム壁及びポリアラミド壁を合成した。
【0051】
最後に、解乳化、洗浄を行って蓄熱マイクロカプセルを得た。
【0052】
<実施例2>
図7に示すフローに沿って蓄熱マイクロカプセルを製造した。先ず、Na2SiO3(珪酸ナトリウム:関東化学社製)6kmol/m3水溶液10ml中に、キシリトール(東京化成社製)30gと、純水30mlに対してPPDA(関東化学社製)2.1gを溶解させて得られたPPDA溶液と、を全て混合して水相を作製した。
【0053】
ケロシン(和光純薬社製)80mlに、IPDC(関東化学社製)2.0gと、分散剤としてソルビタンモノオレエート(「Span80」和光純薬社製)1.6gとを混合し、油相を作製した。
【0054】
作製した水相と油相とを混合した後、ホモジナイザーにより液温70℃下5000rpmで10分間攪拌し、W/O分散系を作製した。
【0055】
別途、ケロシン(和光純薬社製)200ml中に、D2EHPA(関東化学社製)16.2gと、CaCl2(関東化学社製)2kmol/m3水溶液200mlと、を添加して混合した。次いで、インペラーにて室温下400rpmで24時間攪拌し、カルシウムイオン添加溶液を作製した。
【0056】
作製したカルシウムイオン添加溶液をインペラーにて室温下400rpmで攪拌しながら、上記で作製したW/O分散系を添加して混合した。この混合液を、60℃下400rpmで24時間攪拌して界面反応を開始、進行させ、珪酸カルシウム壁及びポリアラミド壁を合成した。
【0057】
最後に、解乳化、洗浄を行って蓄熱マイクロカプセルを得た。
【0058】
<比較例>
比較例として、特開2003−306672号公報に記載の製造方法に従って、蓄熱マイクロカプセルを製造した。先ず、メラミン粉末(関東化学社製メラミン「25093−02」(2、4、6−トリアミノ−1、3、5−トリアジン))12質量部に、37%ホルムアルデヒド水溶液15.4質量部と水40質量部を加え、pHを8に調整した後、約70℃まで加熱してメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得た。
【0059】
次いで、pHを4.5に調整した10%スチレン−無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100質量部中に、蓄熱材としてn−オクタデカン(融解熱ΔH=240kJ/kg、融点30〜32℃)80質量部を激しく攪拌しながら添加し、粒子径が3.0μmになるまで乳化を行った。
【0060】
得られた乳化液に上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液全量を添加し、70℃で2時間攪拌した後、pHを9まで上げて水を添加し、乾燥固形分濃度40%の蓄熱マイクロカプセル分散液を得た。
【0061】
最後に、解乳化して洗浄を行い、蓄熱マイクロカプセルを得た。
【0062】
<拡大観察>
実施例1により得られた蓄熱マイクロカプセルについて、日立製作所製の走査透過電子顕微鏡(加速電圧200kV、10kV)による拡大観察を行った結果得られた拡大写真を図11及び図12に示す。図11は、蓄熱マイクロカプセルを表面から拡大観察して得られたものであり、この図11から、実施例1で得られた蓄熱マイクロカプセルは、真球に近い形状を有していることが確認された。また、図12は、蓄熱マイクロカプセルの断面を拡大観察して得られたものであり、この図12から、実施例1で得られた蓄熱マイクロカプセルは、内包物を内包した状態でカプセル化されていることが確認された。
【0063】
<断面組成分析>
実施例1により得られた蓄熱マイクロカプセルを、DiATOME社製のナイフを備えたLeica社製ミクロトームを用いて切断し、断面を露出させた。次いで、この断面について、上記電子顕微鏡を用いた断面拡大観察を行うとともに、エネルギー分散型蛍光X線分析装置(ノーラン社製UTW型EDS、ビーム径1nmφ)を用いて、断面の元素分析を実施した。具体的には、ケイ素、酸素、炭素の3つの元素分布分析を実施した。その結果を図13に示す。図13に示される通り、内包物は炭素元素が主体であることが確認されたことから、キシリトールが内包されているものと考えられた。一方、カプセル壁はケイ素及び酸素が主体であり、一部炭素が確認されたことから、珪酸カルシウムとアラミド樹脂とが複合されたカプセル壁が形成されているものと考えられた。
【0064】
<耐熱性、融点、融解熱の評価>
実施例及び比較例により得られた蓄熱マイクロカプセルについて、耐熱性、融点、融解熱の評価を行った。
【0065】
<耐熱性>
実施例及び比較例により得られたそれぞれの蓄熱マイクロカプセルについて、示差熱熱重量同時測定装置(TG/DTA:Seiko Instruments社製EXSTAR6000−TG/DTA6200)を用い、蓄熱マイクロカプセルのTG測定を行った。その結果得られたTG曲線は図14に示す通りであり、このTG曲線における重量減少の開始温度を耐熱性の評価の指標とした。
【0066】
図14のTG曲線に示されるように、比較例では、重量低下が150〜200℃で見られた。これに対して実施例1、2いずれも、重量低下が250〜300℃で見られ、重量低下の開始温度が約100℃高温側にシフトしていることが分かった。これにより、本実施例の蓄熱マイクロカプセルは、比較例の蓄熱マイクロカプセルに比べて優れた耐熱性を有することが確認された。
【0067】
<融点、融解熱>
実施例及び比較例により得られた蓄熱マイクロカプセルについて、示差走査熱量測定装置(DSC:Seiko Instruments社製SSC/5520)を用い、吸熱ピーク、発熱ピークの温度を測定した。その結果得られたDSCチャートを図15に示した。
【0068】
図15に示されるように、実施例1、2により得られた蓄熱マイクロカプセルはいずれも、キシリトールが固体から液体に相変化したことに起因する吸熱ピークが見られた。即ち、実施例1、2の蓄熱マイクロカプセルにおいて、内包された蓄熱物質であるキシリトールの相変化に起因するピークが見られたことにより、蓄熱マイクロカプセルとしての機能を有していることが確認された。
【0069】
また、実施例及び比較例それぞれにおける吸熱ピークのピーク面積値より、実施例1の蓄熱量が169kJ/kg、実施例2の蓄熱量が182kJ/kgであるのに対し、比較例の蓄熱量は145kJ/kgであった。この蓄熱量の差異は、主に、内包している芯物質の融解潜熱量の差異によるものである。これらの結果から、本実施例により作製された蓄熱マイクロカプセルはいずれも、比較例により作製された蓄熱マイクロカプセルに比して、大きな単位重量あたりの蓄熱量を有することが確認された。
【図面の簡単な説明】
【0070】
【図1】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一のフロー図である。
【図2】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図3】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図4】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図5】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図6】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例一を説明するための図面である。
【図7】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例二のフロー図である。
【図8】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例二を説明するための図面である。
【図9】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例二を説明するための図面である。
【図10】実施形態の蓄熱マイクロカプセルの製造例二を説明するための図面である。
【図11】実施例1の蓄熱マイクロカプセルの表面拡大写真である。
【図12】実施例1の蓄熱マイクロカプセルの断面拡大写真である。
【図13】実施例1の蓄熱マイクロカプセルの断面組成分析結果を示す図面である。
【図14】実施例及び比較例のTG曲線を示す図である。
【図15】実施例及び比較例のDSC曲線を示す図である。
【図16】潜熱蓄熱物質の種類と融点−融解熱の関係を示す図である。
【符号の説明】
【0071】
1 W/O分散系
2 W/O/W’分散系
11 カルシウムイオン
12 珪酸ナトリウム
13 二塩化イソフタロイル
14 p−フェニレンジアミン
15 珪酸カルシウム
16 アラミド樹脂
【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルであって、
前記芯物質は、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質であり、
前記カプセル壁は、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁である蓄熱マイクロカプセル。
【請求項2】
前記無機化合物は、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸亜鉛、珪酸スズ、及び、珪酸鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物である請求項1記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項3】
前記有機高分子化合物は、アラミド樹脂である請求項1又は2記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項4】
前記潜熱蓄熱物質は、糖、糖アルコール、無機塩、及び、無機塩水和物よりなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1から3いずれか記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項5】
蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、
前記芯物質を、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質とし、この潜熱蓄熱物質を、珪酸ナトリウム及び芳香族ジアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、
炭化水素系溶媒中に芳香族ジカルボン酸塩化物を添加して混合することにより、油相を形成する工程と、
前記水相と前記油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、
前記W/O分散系を、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化スズ、及び、塩化鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物を含有する水溶液中に添加して混合することにより、W/O/W’分散系を調整する工程と、
前記W/O/W’分散系を加熱攪拌することにより、前記潜熱蓄熱物質を内包し且つアラミド樹脂と珪酸塩とが複合化されて形成されたカプセル壁を得る工程と、を含む蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、
前記芯物質を、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質とし、この潜熱蓄熱物質を、珪酸ナトリウム及び芳香族ジアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、
炭化水素系溶媒中に芳香族ジカルボン酸塩化物を添加して混合することにより、油相を形成する工程と、
前記水相と前記油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、
炭化水素溶媒中に、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化スズ、及び、塩化鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物、及び、リン酸エステルを添加して混合することにより、無機イオン添加溶液を調整する工程と、
前記W/O分散系を攪拌しながら前記無機イオン添加溶液中に添加して混合した後、加熱攪拌することにより、前記潜熱蓄熱物質を内包し且つアラミド樹脂と珪酸塩とが複合化されて形成されたカプセル壁を得る工程と、を含む蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【請求項1】
蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルであって、
前記芯物質は、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質であり、
前記カプセル壁は、無機化合物と有機高分子化合物とが複合化されて形成された複合カプセル壁である蓄熱マイクロカプセル。
【請求項2】
前記無機化合物は、珪酸カルシウム、珪酸マグネシウム、珪酸亜鉛、珪酸スズ、及び、珪酸鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物である請求項1記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項3】
前記有機高分子化合物は、アラミド樹脂である請求項1又は2記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項4】
前記潜熱蓄熱物質は、糖、糖アルコール、無機塩、及び、無機塩水和物よりなる群から選ばれる少なくとも一種である請求項1から3いずれか記載の蓄熱マイクロカプセル。
【請求項5】
蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、
前記芯物質を、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質とし、この潜熱蓄熱物質を、珪酸ナトリウム及び芳香族ジアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、
炭化水素系溶媒中に芳香族ジカルボン酸塩化物を添加して混合することにより、油相を形成する工程と、
前記水相と前記油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、
前記W/O分散系を、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化スズ、及び、塩化鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物を含有する水溶液中に添加して混合することにより、W/O/W’分散系を調整する工程と、
前記W/O/W’分散系を加熱攪拌することにより、前記潜熱蓄熱物質を内包し且つアラミド樹脂と珪酸塩とが複合化されて形成されたカプセル壁を得る工程と、を含む蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
蓄熱性を有する芯物質と、この芯物質を被覆するカプセル壁と、を有する蓄熱マイクロカプセルの製造方法であって、
前記芯物質を、相変化により蓄熱又は放熱する水溶性の潜熱蓄熱物質とし、この潜熱蓄熱物質を、珪酸ナトリウム及び芳香族ジアミンを含有する水溶液中に添加して混合することにより、水相を形成する工程と、
炭化水素系溶媒中に芳香族ジカルボン酸塩化物を添加して混合することにより、油相を形成する工程と、
前記水相と前記油相とを混合して加熱攪拌することにより、W/O分散系を調製する工程と、
炭化水素溶媒中に、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化亜鉛、塩化スズ、及び、塩化鉄よりなる群から選ばれる一種又は二種以上の混合物、及び、リン酸エステルを添加して混合することにより、無機イオン添加溶液を調整する工程と、
前記W/O分散系を攪拌しながら前記無機イオン添加溶液中に添加して混合した後、加熱攪拌することにより、前記潜熱蓄熱物質を内包し且つアラミド樹脂と珪酸塩とが複合化されて形成されたカプセル壁を得る工程と、を含む蓄熱マイクロカプセルの製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図14】
【図15】
【図16】
【図11】
【図12】
【図13】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図14】
【図15】
【図16】
【図11】
【図12】
【図13】
【公開番号】特開2007−238912(P2007−238912A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−166722(P2006−166722)
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成18年6月15日(2006.6.15)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【Fターム(参考)】
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