説明

蓄熱性布帛

【課題】織物や編物等の布帛において、その生地本来の手触りや透湿性を損うことなく蓄熱性が付与されており、優れた保温性を備えた蓄熱性布帛を提供する。
【解決手段】非導電糸1と導電糸2を用いた織物等の布帛であって、その表面抵抗が、105 〜1010Ω/sqに設定されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱性を有する布帛に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、衣料の保温性を高めるには、生地を多層構造にしたり、内側に綿(わた)や羽毛等を挟むことが行われているが、最近、蓄熱性物質を繊維に付与することにより、比較的薄手で保温性のある生地を得る技術が提案されている(例えば特許文献1参照)。
【0003】
上記蓄熱性物質とは、常温付近に融点を有し、融点を超える温度域から融点以下の温度域に変化した場合に、液相から固相に変化し凝固熱を発熱して「冷却」を遅らせることのできる物質で、上記特許文献1においては、このような蓄熱性物質として、n−パラフィン等があげられ、これをポリウレタン等の壁材で封入してなるマイクロカプセルを、繊維に付着させて保持することが記載されている。
【特許文献1】特開平5−156570号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているように、上記蓄熱性マイクロカプセルを、織物や編物のような繊維構造物に、樹脂バインダーを介して付着保持させる方法では、一定以上の蓄熱効果を得ようとすれば、繊維構造物を厚くして、蓄熱性マイクロカプセルの付着量を多くしなければならず、生地本来の手触りや透湿性が損なわれてしまうという問題がある。また、繊維構造物の部位によって温度分布が異なるため、どの部位においても均一に発熱効果が得られるわけはなく、偏りが生じやすいという問題もある。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みなされたもので、織物や編物等の布帛において、その生地本来の手触りや透湿性を損うことなく蓄熱性が付与されており、優れた保温性を備えた蓄熱性布帛の提供を、その目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明は、繊維構造体からなる布帛であって、上記繊維構造体が導電性複合繊維を含有し、その表面抵抗が、105 〜1010Ω/sqに設定されている蓄熱性布帛を第1の要旨とし、そのなかでも、特に、上記繊維構造体に、蓄熱性マイクロカプセルが樹脂バインダーを介して分散付着されている蓄熱性布帛を第2の要旨とする。
【0007】
また、本発明は、それらのなかでも、特に、上記蓄熱性マイクロカプセルおよび樹脂バインダーの合計付着量が、繊維構造体の乾燥重量に対し0.3〜12.0重量%に設定されている蓄熱性布帛を第3の要旨とし、上記蓄熱性マイクロカプセルが、相転移点10〜35℃のパラフィン系物質を樹脂材で封入してなるものである蓄熱性布帛を第4の要旨とする。
【0008】
そして、本発明は、それらのなかでも、特に、上記布帛が衣料の裏地として用いられるものであり、目付30〜100g/cm2 、厚み0.05〜0.5mmに設定されている蓄熱性布帛を第5の要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
すなわち、本発明の蓄熱性布帛は、導電性複合繊維を含有し、特定の導電性が付与された繊維構造体からなり、適度の熱伝導特性を備えているため、布帛に熱を加えると迅速に温度上昇が行われて蓄熱性を発揮する。一方、高温から低温への環境変化において、布帛を衣料等に適用して着用する場合等においては、人体からの発熱が衣料全体に伝達されるため、温度上昇時ほどは温度下降が迅速に行われず、一定の保温効果を得ることができる。
【0010】
また、本発明の蓄熱性布帛のなかでも、特に、上記繊維構造体に蓄熱性マイクロカプセルを樹脂バインダーを介して分散付着させたものは、さらに、高温から低温への環境変化において、上記蓄熱性マイクロカプセルの凝固熱の発生によって温度下降を遅らせることができるため、より一層優れた保温効果を得ることができる。
【0011】
さらに、本発明の蓄熱性布帛のなかでも、特に、上記蓄熱性マイクロカプセルおよび樹脂バインダーの合計付着量を、繊維構造体の乾燥重量に対し0.3〜12.0重量%に設定したものは、導電性複合繊維との相乗効果によって、蓄熱による保温効果が充分に発揮されるにもかかわらず、蓄熱性マイクロカプセル自体の付着量は比較的少なく、布帛の風合いが損なわれていないという利点を有する。
【0012】
また、本発明の蓄熱性布帛のなかでも、特に、上記蓄熱性マイクロカプセルとして、相転移点10〜35℃のパラフィン系物質を樹脂材で封入してなるものを用いたものは、とりわけ蓄熱効果が高く、優れた保温効果を得ることができる。
【0013】
そして、上記布帛を衣料の裏地として用いるものであり、目付30〜100g/cm2 、厚み0.05〜0.5mmに設定したものは、軽くてしなやかな風合いを備え、しかも優れた保温効果を有するため、裏地として、非常に優れた特性を備えている。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
つぎに、本発明を実施するための最良の形態について説明する。
【0015】
図1は、本発明の一実施の形態である蓄熱性布帛を示している。この蓄熱性布帛は、平織の織物からなり、その織物全体に、樹脂バインダーを介して、蓄熱性マイクロカプセル(図示せず)が分散付着されている。
【0016】
上記織物の経糸および緯糸としては、主として非導電性繊維からなるマルチフィラメント糸(以下「非導電糸」という)1が用いられており、上記非導電糸1の間に、所定間隔で、導電性複合繊維からなるマルチフィラメント糸(以下「導電糸」という)2が織り込まれている。
【0017】
上記非導電糸1を構成する非導電性繊維は、特に限定するものではなく、6ナイロン、12ナイロン、66ナイロン等のポリアミドおよびそれらの共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンおよびそれらの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等のポリエステルおよびそれらの共重合体等の繊維形成性ポリマーからなる合成繊維、ビスコースレーヨン等の再生繊維、酢酸セルロース等の半合成繊維等、適宜のものを用いることができる。これらは、単独で用いても、2種以上を併用してもよい。その場合、混繊糸等として用いても、2種以上の糸の交織組織にしてもよい。ただし、導電糸2との兼ね合いや取り扱い性の点で、合成繊維を用いることが好ましく、なかでも、耐候堅牢度や寸法安定性の点から、ポリエステル系繊維を用いることが、特に好ましい。
【0018】
上記非導電性繊維によって構成される非導電糸1の繊度は、用途や布帛の形態にもよるが、通常、後述する蓄熱性マイクロカプセルの固着性等を考慮すると、通常、11〜330dtexに設定することが好適であり、裏地等の薄い生地に適用する場合は、11〜110dtexであることが好ましい。
【0019】
一方、導電糸2を構成する導電性複合繊維は、導電性粒子を含有するポリマーからなる導電層と、繊維形成性ポリマーからなる非導電層とを接合した複合繊維である。
【0020】
上記導電性粒子としては、従来から、導電性付与剤として用いられているどのようなものであってもよく、例えば、ファーネス系カーボンブラック、カーボンナノチューブ、ケッチェンブラック、グラファイト、銀、銅、錫、ニッケル、アルミニウム等の導電性を有する金属粉、酸化錫、酸化亜鉛、ITO、ATO等の導電性金属酸化物の微粉末や、酸化チタン等のセラミック微粉末に金属やITO、ATO等の導電性金属酸化物をコーティングした白色系導電粉があげられる。これらは単独で用いても、2種以上を併用してもよい。そして、なかでも、意匠性の点で、酸化チタン等のセラミック微粉末に金属やITO、ATO等の導電性金属酸化物をコーティングした白色系導電粉が好適である。
【0021】
上記導電性粒子の大きさは、その形状が粒状のものである場合、平均粒子径が3μm以下、なかでも1μm以下となるよう設定することが好適である。また、その形状が細長いものである場合、その長軸が3μm以下、アスペクト比が10〜200の範囲内のものが好適である。すなわち、導電性粒子が上記範囲よりも大きすぎると、複合繊維を紡糸する際に糸切れが生じやすく、また、糸切れしなくても繊維内にボイドが発生して繊維物性を損なうおそれがあるからである。
【0022】
そして、上記導電性粒子を含有させるポリマーとしては、公知のあらゆる熱可塑性重合体があげられる。例えば、6ナイロン、12ナイロン、66ナイロン等のポリアミドおよびそれらの共重合体、ポリプロピレン、ポリエチレン等のポリオレフィンおよびそれらの共重合体、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリテトラメチレンテレフタレート等のポリエステルおよびそれらの共重合体、ポリビニル、ポリエーテル、ポリカーボネート等があげられる。これらのポリマーは、繊維形成性であることが、紡糸可能性の見地から好ましいが、多少繊維形成性が劣っていても、非導電層と接合した状態で複合紡糸することが可能であれば、特に問題はない。
【0023】
なお、上記導電層における導電性は、その比抵抗が104 Ω・cm以下、特に102 Ω・cm以下であることが好適である。
【0024】
一方、上記導電層と接合される非導電層を構成する繊維形成性ポリマーとしては、前述の、非導電糸1を構成する繊維のうち、合成繊維の説明として述べた繊維形成性ポリマーと同様のものがあげられる。そして、前記繊維形成性ポリマーと同様、耐候堅牢度や寸法安定性の点から、ポリエステル系のものが好適である。
【0025】
そして、本発明の導電性複合繊維は、上記導電層を構成する導電粒子含有ポリマーからなる導電チップと、上記非導電層を構成する非導電性の繊維形成性ポリマーからなる非導電チップとを用い、所定の複合繊維製造用の口金を備えた溶融紡糸装置にかけ、所定の押出速度で両者を口金から同心円的に押し出して冷却後、延伸巻き取りを行うことによって得ることができる。
【0026】
なお、上記導電性複合繊維において、導電層と非導電層の接合形態は、適宜に設定することができるが、その例を、図2(a)〜(i)に示す。3が導電層、4が非導電層である。これらのうち、特に、導電層3が繊維表面に露出して、繊維表面に導電粒子が露出しているものが、熱伝導度を高める上で好ましい。
【0027】
また、図1の織物において、導電糸2は、上記導電性複合繊維のみで構成してもよいし、導電性複合繊維からなるマルチフィラメント糸と非導電性繊維からなるマルチフィラメント糸を合わせた合撚糸等であってもよい。これらの導電糸2の繊度は、通常、11〜330dtex、なかでも、20〜100dtexであることが好適である。そして、裏地等の薄い生地に適用する場合は、11〜56dtexであることが好ましい。
【0028】
上記非導電糸1と導電糸2とを用いて構成される織物は、その表面抵抗が、105 〜1010Ω/sqに設定されていなければならない。すなわち、表面抵抗が105 Ω/sq未満では、熱伝導性が高すぎて、温度下降率が大きく、保温性が乏しくなるからである。逆に、表面抵抗が1010Ω/sqを超えると、熱伝導性が悪く、蓄熱効果が得られない。
【0029】
そして、上記織物の熱伝導率は、0.5×10-4〜5.0×10-4W/cm・K(カトーテック社製、サーモラボIIにて測定)であることが好適である。すなわち、この範囲内であれば、効率よく体内から放出される熱を蓄え、適度に保温することができるからである。
【0030】
上記織物において、表面抵抗が上記の範囲となるよう設定するには、通常、適宜の導電性を付与した導電糸2を、適宜の割合で織り込むことによって行われる。その割合は、織物の織密度や糸の太さ等によっても異なるが、例えば、織物の経緯の少なくとも一方に、2〜10mmの間隔で、導電糸2を織り込むことが好適である。
【0031】
一方、上記織物に分散付着される蓄熱性マイクロカプセルとは、所定の蓄熱性物質を、適宜の壁材で封入したものである。
【0032】
上記蓄熱性物質とは、常温付近に融点、凝固点等の相転移点(相転移温度)を有し、「冷却」を遅らせることのできる物質である。上記蓄熱性物質としては、例えば、オクタデカン、ヘプタデカン、ヘキサデカン等のパラフィン系炭化水素、石油ワックス類、ポリテトラメチレンエーテルグリコール、ポリペンタメチレンエーテルグリコール、ポリヘキサメチレンエーテルグリコール、エポキシポリオール等のポリマー骨格にエーテル基を有したポリオール、さらにはポリカーボネートポリオール等のポリマー骨格にカーボネート基を有したポリオール、それらの共重合体、ポリエーテルポリオール、ポリカーボネートポリオールを種々変性した変性ポリオール等、ポリドコシルメタクリレート、ポリヘンエイコシルメタクリレート、ポリエイコシルアクリレート等のメタクリル酸またはアクリル酸の長鎖アルキル炭化水素エステル等の重合体があげられる。
【0033】
上記蓄熱性物質の相転移点は、10〜35℃の範囲の領域を含むものが好適である。これは、融点がこの範囲であっても、凝固点がこの範囲であってもよいという趣旨である。すなわち、体感的に「寒い」、「冷たい」と感じる領域に相転移点を有するものが好適であり、10℃以上であると、充分な蓄熱効果を体感しやすい。また、35℃以下であれば、「暑い」と感じて皮膚表面が発汗を開始することにより、蓄熱性が体感できないということがない。そして、なかでも、液相から固相への相転移に伴う凝固点が23〜27℃であることが、人が心地よいと感じる蓄熱効果が得られ、好適である。
【0034】
また、上記蓄熱性物質において、相転移に伴う融解や凝固により発生する潜熱は、10〜250J(ジュール)/g程度であることが好適である。すなわち、潜熱が10J/g未満では、蓄熱性を発現および体感するのに不充分となるおそれがあり、逆に、250J/gを超えると、相転移するまでのエネルギー量と時間が必要なため、その間、人体から発熱される熱が多量に奪われ、逆に「寒い」と感じたりして、蓄熱性に寄与することができなくなるおそれがあるからである。そして、なかでも、潜熱が100〜230J/gのものが、特に蓄熱性を体感しやすく、好適である。
【0035】
これらの点から、特に好ましい蓄熱性物質としては、融点が35℃未満、凝固点が10℃以上であるオクタデカン、ヘプタデカン、ポリテトラメチレンエーテルグリコール等があげられる。
【0036】
また、上記蓄熱性物質を封入するのに用いられる壁材としては、取り扱い性等の観点から、一定の機械的強度を備えたものが好ましく、例えば、ポリウレタン、尿素−ホルマリン樹脂、メラミン−ホルマリン樹脂等の樹脂材や、サイクロデキストリン等があげられる。特に、尿素−ホルマリン樹脂またはメラミン−ホルマリン樹脂が好ましく、特に低ホルマリン系のものが好適である。
【0037】
そして、上記壁材で前記蓄熱性物質を封入してなる蓄熱性マイクロカプセルの大きさは、通常、平均粒子径1〜50μm、好ましくは5〜25μmであって、特に粒径分布の90%以上が5〜25μmの範囲に入るものが好適である。また、壁材の厚みは、壁材の種類にもよるが、通常、0.1〜30μmのものが好ましく、特に0.5〜6μm程度のものがより好適である。
【0038】
さらに、上記蓄熱性マイクロカプセルを繊維構造体に分散付着させるための樹脂バインダーとしては、従来から、マイクロカプセルを繊維構造体に分散付着させるために用いられているどのようなものであっても差し支えないが、例えばシリコン系樹脂バインダーや水溶性ウレタン系樹脂バインダーが好適である。なかでも、水への分散性に優れ水で容易に希釈可能なシリコン系水性エマルジョン型バインダーが特に好ましい。
【0039】
上記樹脂バインダーによって繊維構造体に蓄熱性マイクロカプセルを分散付着させる方法としては、通常、樹脂バインダーと蓄熱性マイクロカプセルを所定割合で含有する水性の処理液を、パッディング方、スプレー法、浸漬脱液法、コーティング法等によって繊維構造体に供給した後、乾燥する方法があげられる。
【0040】
使用する樹脂バインダーの量は、重量比で、蓄熱性マイクロカプセルの0.1〜20倍、好ましくは0.1〜15倍に設定することが好適である。そして、繊維構造体に付着させるマイクロカプセルおよび樹脂バインダーの量は、繊維構造体に対する両者の付着量が、0.3〜12.0重量%(以下「%」と略す)、好ましくは0.5〜9.0%に設定することが好適である。すなわち、0.3%より少ないと、得られる蓄熱性布帛の蓄熱効果および耐久性が不充分となるおそれがあり、逆に12.0%を超えると、蓄熱性布帛の風合いが悪くなるおそれがあるからである。
【0041】
なお、上記樹脂バインダーおよび蓄熱性マイクロカプセルを繊維構造体に供給する際、その処理液に、柔軟剤、風合い調整剤、染料フィックス剤、反応型樹脂、縮合型樹脂、触媒等の仕上げ剤を、必要に応じて適宜配合することができる。
【0042】
このようにして得られる蓄熱性布帛は、導電性複合繊維を含み特定の表面抵抗を備えた織物に、蓄熱性マイクロカプセルが分散付着されているため、適度の熱伝導特性と蓄熱性を備えており、布帛に熱を加えると迅速に温度上昇が行われて蓄熱性を発揮する。一方、高温から低温への環境変化においては、上記蓄熱性マイクロカプセルの凝固熱の発生によって温度下降を遅らせることができ、非常に優れた保温効果を得ることができる。
【0043】
なお、上記の例では、導電性複合繊維を含み特定の表面抵抗を備えた織物(繊維構造体)に、蓄熱性マイクロカプセルを分散付着しているが、上記蓄熱性マイクロカプセルは、必ずしも用いる必要はない。すなわち、表面抵抗が105 〜1010Ω/sqの導電性が付与された繊維構造体は、適度の熱伝導特性を備えているため、布帛に熱を加えると迅速に温度上昇が行われて蓄熱性を発揮する。一方、高温から低温への環境変化において、布帛を衣料等に適用して着用する場合等においては、人体からの発熱が衣料全体に伝達されるため、温度上昇時ほどは温度下降が迅速に行われず、一定の保温効果を得ることができる。
【0044】
そして、本発明の蓄熱性布帛において、繊維構造体は、上記の例に限らず、織物、編物のいずれの形態をとるものであってもよい。例えば、織物として、平織物の外、綾織、朱子織等の織物があげられる。また、編物として、シングルトリコット、ダブルトリコット等の編物があげられる。そして、繊維素材として、綿や羊毛、麻、絹等の天然繊維を適宜混合して用いることもできる。
【0045】
また、本発明の蓄熱性布帛は、特定の表面抵抗を付与した繊維構造体からなるものであり、蓄熱性マイクロカプセルを付与した場合であっても、その使用量を低く抑えることができるため、薄手の、柔軟な風合いをもつ生地に適用することが好適である。そのような生地として、例えば裏地をあげることができる。
【0046】
本発明の蓄熱性布帛を、裏地に適用する場合、布帛の目付は30〜100g/cm2 、厚みは0.05〜0.5mmに設定することが好適である。すなわち、裏地には、軽量性と柔軟性が要求されるからである。
【0047】
上記裏地に要求される特性を実現するために、繊維構造体における導電性複合繊維の含有割合は、0.5〜4%に設定することが好適である。例えば、織物の場合、経緯の少なくとも一方は、導電性複合繊維を含む導電糸2(図1参照)を、2〜8mmの間隔で織り込むことが好適である。
【0048】
そして、導電糸2の繊度は10〜50dtexであることが好適であり、非導電糸1の繊度は11〜110dtexであることが好適である。
【0049】
さらに、織物の場合、経方向および緯方向のそれぞれのCF(カバーファクター)の和が1500〜2500程度となるよう製織することが、衣料として使用した場合における着心地と蓄熱性の点で好適である。すなわち、経緯のCFの和が1500未満では、織物自体の目付が不足し保温性が得られにくく、2500を超えると、織物の柔らかさが損なわれて着心地が悪いものとなるおそれがあるからである。なお、上記CFは、下記の式により求めることができる。
【0050】
【数1】

【実施例】
【0051】
つぎに、本発明の実施例について、比較例と併せて説明する。
【0052】
〔実施例1〕
経糸にポリエステル糸A(56dtex/48f)を用い、緯糸にポリエステル糸B(84dtex/72f)を用い、1インチ(2.54cm)当たり、それぞれ経112本、緯80本配し、さらに緯糸として、ポリエステル糸Aと、単位長さ当たりの電気抵抗値が3.4×108 Ω/cmの白色系導電性複合繊維からなる糸C(22dtex/3f:カネボウ合繊社製、22T/3・B68)とを合わせた合撚糸(A+C)を5mm間隔で配し、平織物を製作した。このものの目付は62g/m2 、表面抵抗は6.0×108 Ω/sq、熱伝導率は2.0×10-4W/cm・Kであった。
【0053】
〔実施例2〕
上記実施例1で得られたと同様の平織物を用意した。そして、ヘプタデカン(融点22℃)をメラミン−ホルマリン樹脂で封入した蓄熱性マイクロカプセル(平均粒径20μm、内包率80%)10%、アクリル酸を主成分とする乳化重合体40%含有のエマルジョン溶液バインダー4%、ノニオン系界面活性剤1.5%、水84.5%の組成からなるコーティング溶液を調製し、ナイフコーターを用いて、この液を上記平織物に塗布した。塗布量は30g/m2 とした。そして、120℃×2分、150℃×1分の熱処理を行い、乾燥することにより、蓄熱性マイクロカプセル付の平織物を得た。このものの目付は67g/m2 、表面抵抗は8.2×108 Ω/sq、熱伝導率は1.8×10-4W/cm・Kであった。そして、上記蓄熱性マイクロカプセルと樹脂バインダーの合計付着量は、織物乾燥重量に対し、5%であった。
【0054】
〔比較例1〕
経糸にポリエステル糸A(56dtex/48f)を用い、緯糸にポリエステル糸B(84dtex/72f)を用い、1インチ(2.54cm)当たり、それぞれ経112本、緯80本配し、白色系導電性複合繊維からなる糸Cは含まない平織物を製作した。このものの目付は60g/m2 、熱伝導率は1.5×10-4W/cm・Kであった。なお、表面抵抗は測定できなかった。
【0055】
〔比較例2〕
比較例1と同様にして、白色系導電性複合繊維からなる糸Cは含まない平織物を製作した。そして、実施例2と同様にして、上記平織物に対し蓄熱性マイクロカプセルの分散付着を行い、蓄熱性マイクロカプセル付の平織物を得た。このものの目付は、63g/m2 、熱伝導率は1.2×10-4W/cm・Kであった。なお、表面抵抗は測定できなかった。
【0056】
これらの実施例品および比較例品の導電性(表面抵抗)、保温性、柔軟性、着用感について、下記の方法に従って評価した。その結果を、後記の表1に併せて示す。
【0057】
〔表面抵抗〕
布帛(平織物)を、気温25℃、湿度60%の雰囲気下に24時間放置した後、ACL−Staticide社製のMegohmmeter MODEL800を用いて、布帛の表面抵抗を測定した。
【0058】
〔保温性〕
各平織物を、12cm四方の正方形に裁断して裏地Aとし、これを、同じく12cm四方の正方形に切り取った平織物の表地B(経糸:カネボウ合繊社製、56T/48DND、緯糸:同社製、84T/72SWD、織密度:経120本/2.54cm、緯89本/2.54cm)の裏面に接着した。これを、図3に示すように、中央に10cm四方の正方形の切欠き穴10が形成された接着台紙11に貼り付け、図4に示すように、深さ3cm×15cm×15cmの凹部が中央に形成された発泡スチロール製の試料支持台13に装着し(係合部は図示せず)、表地Bの表面を、50cm離れた位置から写真用レフランプ(ナショナル社製、PRF−500WB)14で照射した。そして、照射1分後、5分後、10分後と、消灯1分後、5分後、10分後の裏地Aの温度を、K型熱電対からなる温度センサ15で測定した。照射時の温度上昇が早く、消灯後の温度下降が遅いほど、保温性は高い。
【0059】
〔柔軟性〕
JIS L 1096 剛軟性の測定 6.19.4 D法(ハートループ法)により測定し、下記の3段階で評価した。
○:65以上(柔らかい)
△:60以上65未満(コシがあり、やや硬い)
×:60未満(硬い)
【0060】
〔着用感〕
各平織物を裏地として用い、上記〔保温性〕で用いた表地Bと同様の表地とともに、婦人用スカートを仕立て、モニター10名に着用させて、25℃の部屋で1時間過ごさせた。つぎに、15℃の部屋に移動させて1時間過ごさせた。そして、スカートの着用感を、下記の3段階で官能評価させた。
○:温度変化を感じず、保温性があると感じられた。 △:やや温度変化を感じたが、ある程度保温性があると感じられた。
×:保温性が感じられなかった。
【0061】
【表1】

【0062】
〔実施例3,4、比較例3,4〕
実施例1と同様の非導電糸1と導電糸2を用い、導電糸2の織り込み割合を変えることにより、得られる表面抵抗を、下記の表2に示すように変えた。それ以外は実施例1と同様にして、平織物を得た。これらについて、上記と同様にして、保温性等を評価し、下記の表2に併せて示した。
【0063】
【表2】

【0064】
〔実施例5〜8〕
蓄熱性マイクロカプセルおよび樹脂バインダーの合計付着量(繊維構造体の乾燥重量に対する割合)を、下記の表3に示すように変えた。それ以外は実施例2と同様にして、平織物を得た。これらについて、上記と同様にして、保温性等を評価し、下記の表3に併せて示した。
【0065】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】本発明の一実施例を示す模式的な説明図である。
【図2】(a)〜(i)は、いずれも本発明に用いられる導電性複合繊維の断面形状の例を示している。
【図3】本発明における保温性の評価方法の説明図である。
【図4】本発明における保温性の評価方法の説明図である。
【符号の説明】
【0067】
1 非導電糸
2 導電糸

【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維構造体からなる布帛であって、上記繊維構造体が導電性複合繊維を含有し、その表面抵抗が、105 〜1010Ω/sqに設定されていることを特徴とする蓄熱性布帛。
【請求項2】
請求項1記載の繊維構造体に、蓄熱性マイクロカプセルが樹脂バインダーを介して分散付着されている請求項1記載の蓄熱性布帛。
【請求項3】
上記蓄熱性マイクロカプセルおよび樹脂バインダーの合計付着量が、繊維構造体の乾燥重量に対し0.3〜12.0重量%に設定されている請求項2記載の蓄熱性布帛。
【請求項4】
上記蓄熱性マイクロカプセルが、相転移点10〜35℃のパラフィン系物質を樹脂材で封入してなるものである請求項2または3記載の蓄熱性布帛。
【請求項5】
上記布帛が衣料の裏地として用いられるものであり、目付30〜100g/cm2 、厚み0.05〜0.5mmに設定されている請求項1〜4のいずれか一項に記載の蓄熱性布帛。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−118075(P2006−118075A)
【公開日】平成18年5月11日(2006.5.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−305782(P2004−305782)
【出願日】平成16年10月20日(2004.10.20)
【出願人】(000000952)カネボウ株式会社 (120)
【出願人】(596154239)カネボウ合繊株式会社 (29)
【Fターム(参考)】