説明

蓄熱性樹脂成形体の製造方法

【課題】蓄熱密度(潜熱量)が大きく、蓄熱性能に優れ、且つ、十分な剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体の製造方法を提供する。
【解決手段】脂環式構造含有単量体100重量部、架橋性の重合性単量体を含む重合性単量体を重合して構成されたカプセル壁とそれに内包された蓄熱材とからなる蓄熱材用マイクロカプセル粒子10〜200重量部、及びメタセシス重合触媒を含有してなる脂環式構造含有単量体組成物を、成形型内に注入して、当該型内で塊状重合させることを特徴とする蓄熱性樹脂成形体の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材用マイクロカプセル粒子を含有する樹脂成形体(以下、「蓄熱性樹脂成形体」と称す。)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、熱エネルギーを有効に利用することにより、省エネルギー化を図ることが求められている。その有効な方法として、物質が固体から液体に相変化する時に熱を蓄え(蓄熱)、液体から固体に相変化する時に熱を放出(放熱)するという蓄熱材の性質を利用する方法が用いられている。
【0003】
蓄熱材の熱交換効率を高めるために、蓄熱材をマイクロカプセル化する方法が提案されている。マイクロカプセル化により、蓄熱材が融解(液状)と凝固(固体状)を繰り返す際、蓄熱材の相状態に関係なく、外観を一定に保つことが可能となるため、蓄熱材の取り扱いが容易となり、広範囲な用途で用いることができる。また、外観の変化がないために、成形体中に安定して包含させることが出来るので成形体の製造が容易となる。
【0004】
従来、マイクロカプセル化した蓄熱材(蓄熱材用マイクロカプセル粒子)を、樹脂材料中に含有させた成形体は、住宅の壁、天井、及び床等の建築用内装材として用いられ、予め、冷暖房器具、及び自然エネルギー等で蓄熱した熱を徐々に放熱し、外気温の変動においても、快適に室内温度を維持する用途で多用されてきた。
【0005】
新たに、蓄熱材用マイクロカプセル粒子を含有させた樹脂成形体(以下、「蓄熱性樹脂成形体」と称す。)は、自動車のエンジン周辺部材、自動車の車内内装部材等への応用が検討され始めている。
【0006】
従来、自動車のエンジンを一旦停止させた後、再始動させる際には、エンジンが温まるまでに、多くのエネルギーと時間を要することが問題になっていた。この問題は、寒冷地域、寒冷季節で特に深刻となる。
【0007】
また、自動車の車内で暖房器具を用いる際には、車内を暖めるのに多くのエネルギーを要するため、エンジンからの排熱を利用する試みがなされてきたが、省エネルギーの見地からそもそもエンジンからの排熱量が少ないハイブリッドカーや電気自動車の普及に伴い、これまでの試みでは不十分であることが問題になっていた。
【0008】
そこで、エンジン周辺部材、及び車内内装部材として、蓄熱性樹脂成形体を用いることにより、エンジン始動時には、高温環境下から受ける熱を蓄熱し、エンジンを一旦停止させたとしても、エンジン再始動時には、蓄熱した熱を放熱させることによって、エンジン始動に要するエネルギーと時間を節約することができる。
【0009】
また、エンジンからの排熱が少量であっても、用いる蓄熱性樹脂成形体が十分な蓄熱効果を有するものであれば、エンジンからの排熱を効果的に蓄熱し、暖房使用時には、蓄熱した熱を放熱させることによって、車内を暖めるのに要するエネルギーを節約することができる。
【0010】
エンジン周辺部材、及び車内内装部材として用いる蓄熱性樹脂成形体に求められる性能としては、蓄熱材の漏洩が生じ難く、蓄熱密度(潜熱量)が大きく、蓄熱性能に優れると共に、エンジン始動や連続稼働に伴う振動や熱負荷に対しては、十分な剛性を有し、ゴム弾性を失わず、寸法安定性に優れる等の性能が挙げられる。
【0011】
なお、ここでいう「蓄熱材の漏洩」とは、カプセル壁が破壊されて蓄熱材が外部へ漏出する場合や、蓄熱材とカプセル壁を構成する樹脂との相溶性が高過ぎて、カプセル壁から外部へ蓄熱材が滲出する場合等の蓄熱材を好適に内包させた状態を維持することができなくなった際に生じる不具合のことを指していう。カプセル壁の破壊は、成形時に外圧を受けて生じる場合もある。
【0012】
特許文献1では、蓄熱材を内包するマイクロカプセルを、ゴム中に練り込んだ蓄熱性ゴム材料が開示されている。実施例1においては、マイクロカプセル粉体100部とニトリルゴム(ブタジエンとアクリロニトリルの共重合体)60部とを加熱して混練させた後、加硫工程を経て蓄熱性を有するゴムシートを得る製造方法が記載されている。
【0013】
特許文献2では、蓄熱材を内包するマイクロカプセルを結着樹脂とともに固着せしめた蓄熱材マイクロカプセル固形物が開示されている。実施例1においては、マイクロカプセルを、結着樹脂(ポリメタクリル酸メチル)のラテックスとともに、質量比100:15の割合で混合した後、加熱乾燥して粉体状の蓄熱材マイクロカプセル固形分を得る製造方法が記載されている。
【0014】
特許文献3では、蓄熱材を内包するマイクロカプセルと結着樹脂とからなるマイクロカプセル固形物を加熱加圧成型してなる蓄熱ボードが開示されている。実施例1においては、マイクロカプセル分散液100部(固形質量40部)に、結着樹脂分散液(アクリル系ラテックス)を固形質量で4.4部添加して分散液とし、この分散液を乾燥させてマイクロカプセル固形物を得て、所定の金枠に充填し、加熱加圧成型して蓄熱ボードを得る製造方法が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0015】
【特許文献1】特開2003−261716号公報
【特許文献2】特開2006−96999号公報
【特許文献3】特開2007−119656号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
しかしながら、特許文献1〜3では、使用用途として考慮しているのは、建築用内装材等に関してのみであり、自動車のエンジン周辺部材、及び車内内装部材を使用用途として全く考慮しておらず、エンジン始動や連続稼働に伴う振動や熱負荷に対する、剛性、寸法安定性等の性能についての検討は全く行われていない。
【0017】
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、蓄熱密度(潜熱量)が大きく、蓄熱性能に優れ、且つ、十分な剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意検討したところ、脂環式構造含有単量体に対する蓄熱材用マイクロカプセル粒子の含有量を特定し、メタセシス重合触媒を含有させて脂環式構造含有単量体組成物を調製し、当該脂環式構造含有単量体組成物を成形型内で塊状重合させることにより、蓄熱密度(潜熱量)が大きく、蓄熱性能に優れ、且つ、十分な剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体が得られることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに到った。
【0019】
すなわち本発明の蓄熱性樹脂成形体の製造方法は、脂環式構造含有単量体100重量部、架橋性の重合性単量体を含む重合性単量体を重合して構成されたカプセル壁とそれに内包された蓄熱材とからなる蓄熱材用マイクロカプセル粒子10〜200重量部、及びメタセシス重合触媒を含有してなる脂環式構造含有単量体組成物を、成形型内に注入して、当該型内で塊状重合させることを特徴とするとするものである。
【0020】
前記蓄熱材用マイクロカプセル粒子のカプセル壁を構成する架橋性の重合性単量体の成分比率が、カプセル壁を構成する重合性単量体全量の10〜100重量%であることが好ましい。
【0021】
前記蓄熱性樹脂成形体の製造方法において、前記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径が3〜100μmであり、平均円形度が0.94〜0.995であることが好ましい。
【0022】
前記蓄熱性樹脂成形体の製造方法において、前記脂環式構造含有単量体が、ノルボルネン系単量体であり、前記メタセシス重合触媒が、ルテニウムカルベン錯体であることが好ましい。
【0023】
前記蓄熱性樹脂成形体の製造方法において、前記脂環式構造含有単量体組成物が、さらに充填剤5〜200重量部を含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0024】
上記の如き本発明の蓄熱性樹脂成形体の製造方法によれば、蓄熱密度(潜熱量)が大きく、蓄熱性能に優れ、且つ、十分な剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の蓄熱性樹脂成形体の製造方法は、脂環式構造含有単量体100重量部、架橋性の重合性単量体を含む重合性単量体を重合して構成されたカプセル壁とそれに内包された蓄熱材とからなる蓄熱材用マイクロカプセル粒子10〜200重量部、及びメタセシス重合触媒を含有してなる脂環式構造含有単量体組成物を、成形型内に注入して、当該型内で塊状重合させることを特徴とするものである。
【0026】
本発明の蓄熱性樹脂成形体は、脂環式構造含有単量体、蓄熱材用マイクロカプセル粒子、及びメタセシス重合触媒、さらに、必要に応じて充填剤等のその他の添加物を混合して脂環式構造含有単量体組成物を調製し、当該脂環式構造含有単量体組成物を成形型内に注入して、当該型内で塊状重合させて製造される。
【0027】
本発明においては、調製した脂環式構造含有単量体組成物を、成形型内に注入して、1工程で直接反応成形する方法、すなわち、反応射出成形(Reaction Injection Molding:RIM)法を採用する。
本発明では、RIM法を採用することにより、大型で複雑な形状であっても、比較的容易に所望の蓄熱性樹脂成形体を製造することができる。
【0028】
(脂環式構造含有単量体)
本発明で用いる「脂環式構造含有単量体」とは、主鎖及び/又は側鎖に、不飽和環状炭化水素(シクロアルケン)構造及び/又は飽和環状炭化水素(シクロアルカン)構造を有し、且つ、環外又は環内に重合可能な炭素−炭素不飽和二重結合(C=C)を少なくとも1つ有する単量体のことをいう。
【0029】
本発明において、「脂環式構造含有単量体」の「脂環式構造」を構成する炭化水素の炭素数は、好ましくは4〜30、より好ましくは5〜20、さらに好ましくは5〜15であり、当該「脂環式構造」の形態は、主鎖にシクロアルケン構造及びシクロアルカン構造両方の構造を有し、且つ、環内に重合可能な炭素−炭素不飽和二重結合(C=C)を少なくとも1つ有するものであることが好ましい。
【0030】
本発明で用いる「脂環式構造含有単量体」としては、例えば、ノルボルネン系単量体;単環シクロアルケン系単量体;脂環式共役ジエン系単量体;ビニル脂環式炭化水素系単量体;等が挙げられる。
これらの脂環式構造含有単量体は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができるが、本発明においては、ノルボルネン系単量体単独で、或いはノルボルネン系単量体とその他の脂環式構造含有単量体とを組み合わせて用いることが好ましい。
【0031】
ノルボルネン系単量体としては、シクロアルケン構造及びシクロアルカン構造からなるノルボルネン環を有する単量体であれば、特に限定されず、例えば、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:ノルボルネン)、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2,5−ジエン(慣用名:ノルボルナジエン)等の二環体;トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3,8−ジエン(慣用名:ジシクロペンタジエン)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−3−エン(慣用名:5,6−ジヒドロジシクロペンタジエン)、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ−8−エン(8,9−ジヒドロジシクロペンタジエン)等の三環体;テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン(慣用名:テトラシクロドデセン)等の四環体;4,4a,4b,5,8,8a,9,9a−オクタヒドロ−1,4:5,8−ビスメタノ−1H−フルオレン(慣用名:トリシクロペンタジエン)等の五環体;等が代表的に挙げられる。
これらのノルボルネン系単量体は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0032】
本発明においては、所望の剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体を得る観点から、「三環体のノルボルネン系単量体」と「五環体のノルボルネン系単量体」とを組み合わせて用いることが好ましく、中でも、三環体のジシクロペンタジエン(:慣用名)と五環体のトリシクロペンタジエン(:慣用名)とを組み合わせて用いることがより好ましい。
【0033】
本発明においては、上記で例示したように、分子内に置換基を有さないノルボルネン系単量体を用いることができる他、分子内に置換基を有するノルボルネン系単量体(ノルボルネン系単量体の誘導体)を用いることもできる。
ノルボルネン系単量体の誘導体としては、「非極性置換基を有するノルボルネン系単量体(非極性置換基含有ノルボルネン系単量体)」、及び「極性置換基を有するノルボルネン系単量体(極性置換基含有ノルボルネン系単量体)」に大別される。
【0034】
非極性置換基(極性を持たない官能基)としては、例えば、炭素数1〜12のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アルキレン基、フェニル基、ビフェニル基、等が挙げられる。これらの非極性置換基は、1種または2種以上を含有することができる。
【0035】
極性置換基(極性を持つ官能基)としては、例えば、カルボキシル基、エステル基、アルコキシカルボニル基、アルデヒド基、イミド基、シアノ基、イソシアノ基、ヒドロキシ基、ヒドロキシアルキル基、アミノ基、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、ハロ基、フェニルスルホニル基等が挙げられる。これらの極性置換基は、1種または2種以上を含有することができる。
【0036】
これらのノルボルネン系単量体の誘導体は、分子内に非極性置換基又は極性置換基を単独で1つ以上有するノルボルネン系単量体であってもよく、或いは、分子内に非極性置換基及び極性置換基をそれぞれ1つ以上有するノルボルネン系単量体であってもよい。
【0037】
ノルボルネン系単量体の誘導体として、極性置換基含有ノルボルネン系単量体を用いた場合には、後述する無機系充填剤との親和性を向上させ、所望の剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体を得ることができる利点を有する。
しかしながら、蓄熱性樹脂成形体は、低吸水性であることが望ましいことから、用いる極性置換基含有ノルボルネン系単量体が有する、許容できる極性基の蓄熱性樹脂成形体全量(g)に占める割合は、0.01〜3mmol/gであることが好ましく、0.01〜1.5mmol/gであることがより好ましい。
【0038】
非極性置換基含有ノルボルネン系単量体の具体例としては、例えば、二環体として、5−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:5−メチル−2−ノルボルネン)、5−エチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:5−エチル−2−ノルボルネン)などのアルキル基含有ノルボルネン系単量体;5−メチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:5−メチリデン−2−ノルボルネン)、5−エチリデン−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:5−エチリデン−2−ノルボルネン)などのアルキレン基含有ノルボルネン系単量体;5−フェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:5−フェニル−2−ノルボルネン)、2,3−ジフェニル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−2−エン(慣用名:2,3−ジフェニル−2−ノルボルネン)などのフェニル基含有ノルボルネン系単量体;等が挙げられる。
【0039】
また、四環体として、9−メチル−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチル−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのアルキル基含有ノルボルネン系単量体;9−メチリデン−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−エチリデン−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのアルキレン基含有ノルボルネン系単量体;9−フェニル−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのフェニル基含有ノルボルネン系単量体;等が挙げられる。
【0040】
極性置換基含有ノルボルネン系単量体の具体例としては、例えば、二環体として、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸、ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボン酸無水物などのカルボキシル基含有ノルボルネン系単量体;ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボン酸メチルなどのエステル基含有ノルボルネン系単量体;ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2−カルボアルデヒドなどのアルデヒド基含有ノルボルネン系単量体;N−ヒドロキシ−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド、N−メチル−ビシクロ[2.2.1]ヘプタ−5−エン−2,3−ジカルボキシイミドなどのイミド基含有ノルボルネン系単量体;等が挙げられる。
【0041】
また、四環体として、9−メトキシカルボニル−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのアルコキシカルボニル基含有ノルボルネン系単量体;9−メチル−9−メトキシカルボニル−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのアルキル基及びアルコキシカルボニル基含有ノルボルネン系単量体;9−シアノシカルボニル−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのシアノ基含有ノルボルネン系単量体;9−ヒドロキシメチル−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのヒドロキシアルキル基含有ノルボルネン系単量体;9−ジエチルアミノ−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エン、9−N,N’−ジエチルアミノ−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのジアルキルアミノ基含有ノルボルネン系単量体;9−フェニルスルホニル−テトラシクロ[6.2.1.13,6.02,7]ドデカ−4−エンなどのフェニルスルホニル基含有ノルボルネン系単量体;等が挙げられる。
【0042】
「単環シクロアルケン系単量体」としては、シクロアルケン構造からなる環を1つ有する単量体であれば、特に限定されず、例えば、シクロプロペン、シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン、シクロヘプテン、シクロオクテン等が代表的に挙げられる。
【0043】
「脂環式共役ジエン系単量体」としては、脂環式構造の環外又は環内に2つの二重結合が1つの単結合により隔てられた共役ジエン構造(C=C−C=C)を少なくとも1つ有する単量体であれば、特に限定されず、例えば、シクロブタジエン、シクロペンタジエン、シクロヘキサジエン、シクロヘプタジエン、シクロオクタジエン等が代表的に挙げられる。
【0044】
「ビニル脂環式炭化水素系単量体」としては、脂環式構造の環外にビニル基(HC=CH−)を少なくとも1つ有する単量体であれば、特に限定されず、例えば、ビニルシクロプロパン、ビニルシクロプロペン、ビニルシクロブタン、ビニルシクロブテン、ビニルシクロペンタン、ビニルシクロペンテン、ビニルシクロヘキサン、ビニルシクロヘキセン、ビニルシクロヘプタン、ビニルシクロヘプテン、ビニルシクロオクタン、ビニルシクロオクテン等が代表的に挙げられる。
【0045】
本発明において脂環式構造含有単量体として用いる、「単環シクロアルケン系単量体」、「脂環式共役ジエン系単量体」、「ビニル脂環式炭化水素系単量体」は、上記でそれぞれ例示したように、分子内に置換基を有さない単量体をそれぞれ用いることができる他、分子内に置換基を有する単量体をそれぞれ用いることもでき、それぞれの誘導体としては、上述したノルボルネン系単量体と同様の非極性置換基、及び極性置換基を有する単量体であってもよい。
【0046】
(蓄熱材用マイクロカプセル粒子)
本発明で用いる「蓄熱材用マイクロカプセル粒子」は、カプセル壁と、それに内包された蓄熱材とからなるカプセル粒子のことをいう。
【0047】
以下において、本発明で用いる「蓄熱材用マイクロカプセル粒子」の代表的な作製方法を挙げる。
【0048】
(1)重合性単量体組成物の調製工程
先ず、カプセル壁を構成する重合性単量体、及び蓄熱材を恒温槽にて溶解させた後に、ビーズミル等の攪拌装置を用いて、攪拌、混合し、均一に分散させて、重合性単量体組成物の調製を行う。
【0049】
本発明において、カプセル壁を構成する重合性単量体、及び蓄熱材を、恒温槽にて溶解するときの設定温度は、重合性単量体の成分、及び蓄熱材の種類により変動するが、20〜60℃に設定することが好ましく、25〜50℃に設定することがより好ましい。
【0050】
本発明においては、カプセル壁を構成する重合性単量体として、所望のカプセル壁が形成されることから、「架橋性の重合性単量体」を含む重合性単量体を用いることが必要である。
【0051】
ここで、「架橋性の重合性単量体」とは、重合可能な官能基を、分子内に2つ以上もつ架橋性の重合性単量体のことをいう。
なお、重合可能な官能基としては、炭素−炭素不飽和二重結合(C=C)が好ましい。
【0052】
「架橋性の重合性単量体」としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン等のビニル系架橋性の重合性単量体;ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル系架橋性の重合性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系架橋性の重合性単量体;等が挙げられる。これらの架橋性の重合性単量体は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0053】
上記架橋性の重合性単量体の中でも、好適なカプセル壁が形成され易いことから、(メタ)アクリル系架橋性の重合性単量体、及びビニル系架橋性の重合性単量体が好ましく用いられ、(メタ)アクリル系架橋性の重合性単量体がより好ましく、なかでも、エチレングリコールジメタクリレートが特に好ましい。
【0054】
本発明において、架橋性の重合性単量体の成分比率は、カプセル壁を構成する重合性単量体全量の10〜100重量%であることが好ましく、30〜100重量%であることがより好ましく、50〜100重量%であることがさらに好ましい。
【0055】
上記架橋性の重合性単量体の成分比率が、上記下限未満である場合には、カプセル壁としての強度が十分に得られず、カプセル壁は破壊され易くなり、蓄熱材を漏洩させてしまう原因になる場合がある。
【0056】
本発明においては、カプセル壁を構成する重合性単量体として、「架橋性の重合性単量体」と共に、「単官能の重合性単量体」を併用して用いることもできる。
【0057】
ここで、「単官能の重合性単量体」とは、重合可能な官能基を、分子内に1つのみ有する重合性単量体のことをいう。
なお、重合可能な官能基としては、炭素−炭素不飽和二重結合(C=C)等が好ましい。
【0058】
「単官能の重合性単量体」としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のモノビニル芳香族系単官能の重合性単量体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル系単官能の重合性単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン系単官能の重合性単量体;等が挙げられる。これらの単官能の重合性単量体は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0059】
上記単官能の重合性単量体の中でも、好適なカプセル壁が形成され易いことから、モノビニル芳香族系単官能の重合性単量体、及び(メタ)アクリル系単官能の重合性単量体が好ましく、なかでも、スチレンが特に好ましい。
【0060】
本発明において、単官能の重合性単量体の成分比率は、重合性単量体全量の90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、50重量%以下であることがさらに好ましい。
【0061】
本発明においては、蓄熱材として、特定の分子量を有する「多分岐化合物」を用いることが好ましい。
ここで、「多分岐化合物」とは、分岐鎖を分子内に2つ以上もつ高分子化合物(重合体)のことをいう。
【0062】
「多分岐化合物」としては、例えば、「多分岐鎖含有α−オレフィン重合体」、及び「3官能以上の多官能脂肪酸エステル化合物」等が挙げられるが、「多分岐鎖含有α−オレフィン重合体」が好ましく用いられる。
【0063】
「多分岐鎖含有α−オレフィン重合体」とは、炭素−炭素不飽和二重結合(C=C)を末端にもつ、炭素数が10以上のα−オレフィンを、重合してなる重合体のことをいう。
【0064】
「α−オレフィン」としては、例えば、1−デセン(C10)、1−ウンデセン(C11)、1−ドデセン(C12)、1−トリデセン(C13)、1−テトラデセン(C14)、1−ペンタデセン(C15)、1−ヘキサデセン(C16)、1−ヘプタデセン(C17)、1−オクタデセン(C18)、1−ノナデセン(C19)、1−エイコセン(C20)、1−ヘンエイコセン(C21)、1−ドコセン(C22)、1−トリコセン(C23)、1−テトラコセン(C24)、1−ペンタコセン(C25)、及び1−ヘキサコセン(C26)等が挙げられる。これらの「α−オレフィン」は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
上記α−オレフィンの中でも、所望の分子量を有する蓄熱材(多分岐化合物)が得られ易いことから、炭素数が10〜30のα−オレフィンが好ましく、炭素数が14〜28のα−オレフィンがより好ましく、炭素数が18〜26のα−オレフィンがさらに好ましく用いられ、なかでも、1−ドコセン(C22)、及び1−テトラコセン(C24)が特に好ましい。
【0066】
「多分岐鎖含有α−オレフィン重合体」は、上述した「α−オレフィン」を触媒の存在下で重合反応させることによって得られるものが好ましい。
「α−オレフィン」の重合反応に用いられる触媒としては、所望の分子量を有する蓄熱材(多分岐化合物)が得られ易いことから、メタロセン化合物が好ましく用いられる。
【0067】
メタロセン化合物としては、例えば、ジメチルシリレンビス(2−メチル−4,5−ベンゾインデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−フェニルインデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリレンビス(2−メチル−4−ナフチルインデニル)ジルコニウムジクロライド、ジメチルシリレンビス(2−メチルインデニル)ジルコニウムジクロライド、エチレンビス(2−メチルインデニル)ジルコニウムジクロライド、(1,2'−ジメチルシリレン)(2,1'−ジメチルシリレン)ビス(3−トリメチルシリルメチル−インデニル)ジルコニウムジクロライド、(1,2'−ジメチルシリレン)(2,1'−ジメチルシリレン)(3−トリメチルシリルメチル−インデニル)(インデニル)ジルコニウムジクロライド、(1,2'−ジメチルシリレン)(2,1'−ジメチルシリレン)ビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、(1,2'−ジメチルシリレン)(2,1'−ジメチルシリレン)ビス(3−n−ブチル−インデニル)ジルコニウムジクロライド、(1,2'−ジメチルシリレン)(2,1'−ジメチルシリレン)(n−ブチル−インデニル)(インデニル)ジルコニウムジクロライド、(1,2'−ジメチルシリレン)(2,1'−ジメチルシリレン)ビス(インデニル)ジルコニウムジクロライド、1,1'−ジメチルシリレンビス[2−エチル−4−(2−フルオロ−4−ビフェニリル)−4H−アズレニル]ジルコニウムジクロライド、及びジメチルシリレン(シクロペンタジエニル)(2,4−ジメチル−4H−1−アズレニル)ジルコニウムジクロライド等のジルコニウムジクロライド化合物;並びにこれらのジルコニウムジクロライド化合物のジクロライドをジメチル或いはジベンジルに置換した化合物等のジルコニウム化合物;並びにこれらのジルコニウム化合物のジルコニウムをチタニウムに置換したチタニウム化合物;等が挙げられる。
これらのメタロセン化合物は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0068】
上記した「3官能以上の多官能脂肪酸エステル化合物」とは、「高級脂肪酸」と「3価以上の多価アルコール」とのエステル化反応により得られるものであって、「高級脂肪酸」のカルボキシル基と「3価以上の多価アルコール」の水酸基とが脱水縮合することによりできたエステル結合を、分子内に3つ以上もつエステル化合物のことをいう。
【0069】
ここで、「高級脂肪酸」とは、炭素数が12以上の脂肪酸のことをいい、直鎖飽和高級脂肪酸、直鎖不飽和高級脂肪酸、分岐飽和高級脂肪酸、及び分岐不飽和高級脂肪酸とに大別される。本発明においては、なかでも、直鎖飽和高級脂肪酸が好ましく用いられる。
【0070】
「直鎖飽和高級脂肪酸」としては、例えば、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、アラキン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、リグノセリン酸(C24)、セロチン酸(C26)、モンタン酸(C28)、及びメリシン酸(C30)等が挙げられる。これらの「直鎖飽和高級脂肪酸」は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0071】
これらの中でも、所望の分子量を有する蓄熱材が得られ易いことから、炭素数が12〜28の直鎖飽和高級脂肪酸が好ましく用いられ、炭素数が14〜26の直鎖飽和高級脂肪酸がより好ましく、炭素数が16〜24の直鎖飽和高級脂肪酸が更に好ましく、なかでも、ステアリン酸(C18)、アラキン酸(C20)、及びベヘン酸(C22)が特に好ましい。
【0072】
ここで、「3価以上の多価アルコール」としては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール等の3価アルコール;ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、テトラヒドロキシシクロヘキサン等の4価アルコール;トリグリセリン、キシリトール、アラビトール、ペンタヒドロキシベンゼン等の5価アルコール;ジペンタエリスリトール、テトラグリセリン、ソルビトール、マンニトール等の6価アルコール;ペンタグリセリン等の7価アルコール;ショ糖、ヘキサグリセリン、トリペンタエリスリトール等の8価アルコール;等が挙げられる。これらの「3価以上の多価アルコール」は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0073】
これらの中でも、所望の分子量を有する蓄熱材が得られ易いことから、4価以上の多価アルコールが好ましく、6価以上の多価アルコールがより好ましく、なかでも、ジペンタエリスリトール、及びヘキサグリセリンが特に好ましい。
【0074】
本発明において、蓄熱材として用いる「多分岐化合物」の数平均分子量(Mn)は、1,000〜100,000であることが好ましく、5,000〜50,000であることがより好ましく、10,000〜35,000であることがさらに好ましい。
【0075】
上記多分岐化合物の数平均分子量(Mn)が、上記下限未満である場合には、カプセル壁を形成する架橋性の重合性単量体と蓄熱材との相溶性が高くなり過ぎ、特に、高温環境下に長時間曝すと、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。一方、上記多分岐化合物の数平均分子量(Mn)が、上記上限を超える場合には、重合性単量体組成物の調製工程において、重合性単量体と蓄熱材との相溶性が低くなり過ぎ、カプセル壁を好適に形成させることができず、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。
【0076】
また、上記多分岐化合物の重量平均分子量(Mw)は、1,500〜200,000であることが好ましく、10,000〜100,000であることがより好ましく、20,000〜50,000であることが更に好ましい。
【0077】
上記多分岐化合物の重量平均分子量(Mw)が、上記下限未満である場合には、カプセル壁を形成する架橋性の重合性単量体と蓄熱材との相溶性が高くなり過ぎ、特に、高温環境下に長時間曝すと、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。一方、上記多分岐化合物の重量平均分子量(Mw)が、上記上限を超える場合には、重合性単量体組成物の調製工程において、重合性単量体と蓄熱材との相溶性が低くなり過ぎ、カプセル壁を好適に形成させることができず、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。
【0078】
また、上記多分岐化合物の数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、1〜3であることが好ましく、1〜2.5であることがより好ましく、1〜2であることが更に好ましい。
【0079】
上記多分岐化合物の分子量分布(Mw/Mn)が、上記上限を超える場合には、蓄熱材の低分子量成分が、カプセル壁から外部へ滲出し易くなり、蓄熱材を好適に内包させた状態を維持することが難しくなる場合がある。
【0080】
なお、多分岐化合物の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパミエーションクロマトグラフ(GPC)法によって、GPC測定装置を用いて測定され、ポリスチレン換算して求められる値であり、例えば、東ソー社製のGPC測定装置(商品名:HLC−8220GPC)を用いて測定することができる。
【0081】
本発明において、蓄熱材の融点(Tm)(蓄熱材の相転移温度)は、5〜150℃であることが好ましく、10〜120℃であることがより好ましく、20〜80℃であることが更に好ましい。
ここで、「融点(Tm)」とは、示差走査熱量計(DSC)によるDSC曲線において、ピークのトップの温度として定義される値のことをいう。
【0082】
なお、蓄熱材の融点(Tm)は、示差走査熱量分析機を用いて測定される値であり、例えば、セイコーインスツル社製の示差走査熱量分析機(型式名:DSC 6200)を用いて測定することができる。
【0083】
上記蓄熱材の融点(Tm)(蓄熱材の相転移温度)が、上記下限未満である場合には、蓄熱材の相転移に伴う吸熱反応の効果が得られ難くなる場合がある。一方、上記蓄熱材の融点(Tm)(蓄熱材の相転移温度)が、上記上限を超える場合には、蓄熱材の相転移に伴う発熱反応の効果が得られ難くなる場合がある。
【0084】
本発明において、蓄熱材の含有量は、カプセル壁となる架橋性樹脂100重量部に対して、30〜100重量部であることが好ましく、40〜90重量部であることがより好ましく、50〜80重量部であることが更に好ましい。
なお、「架橋性樹脂」とは、カプセル壁を構成する架橋性の重合性単量体を含む重合性単量体を重合してなる重合体のことをいう。
【0085】
上記蓄熱材の含有量が、上記下限未満である場合には、蓄熱材としての機能を十分に発揮させることができず、蓄熱性能に劣る場合がある。一方、上記蓄熱材の含有量が、上記上限を超える場合には、重合性単量体組成物の調製工程において、蓄熱材が重合性単量体に溶解し難くなり、カプセル壁を好適に形成させることができず、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。
【0086】
(2)懸濁液を得る工程(液滴形成工程)
上記(1)重合性単量体組成物の調製工程により得られた重合性単量体組成物を、水系
分散媒体中に懸濁させて懸濁液(重合性単量体組成物分散液)を得る。
ここで、「懸濁」とは、水系分散媒体中で重合性単量体組成物の液滴を形成させることを意味する。
【0087】
液滴形成のための分散処理は、例えば、インライン型乳化分散機(荏原製作所社製、商品名:エバラマイルダー MDN303V)、高速乳化・分散機(プライミクス社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等の強攪拌が可能な装置を用いて行なうことができる。
【0088】
水系分散媒体としては、水単独でもよいが、低級アルコール、及び低級ケトン等の水に溶解可能な溶剤を併用することもできる。
【0089】
液滴形成において、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の粒径コントロール、及び円形度を向上させるために、水系分散媒体中に分散安定化剤を含有させて用いることが好ましい。
【0090】
分散安定化剤としては、例えば、硫酸バリウム、及び硫酸カルシウム等の硫酸塩;炭酸バリウム、炭酸カルシウム、及び炭酸マグネシウム等の炭酸塩;リン酸カルシウム等のリン酸塩;酸化アルミニウム、及び酸化チタン等の金属酸化物;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム、及び水酸化第二鉄等の金属水酸化物;ポリビニルアルコール、メチルセルロース、及びゼラチン等の水溶性高分子化合物;アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、及び両性界面活性剤等の有機高分子化合物;等が挙げられる。
これらの中でも、金属酸化物及び金属水酸化物が好ましく、特に難水溶性の金属水酸化物が好ましく、水酸化マグネシウムが最も好ましい。
【0091】
分散安定化剤の添加量は、重合性単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが好ましく、0.2〜10重量部であることがより好ましい。
【0092】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウム等の無機過硫酸塩;4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、及び2,2'−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジ−t−ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、及びt−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;等が挙げられる。これらの中でも、有機過酸化物が好ましく用いられる。
【0093】
重合開始剤を添加する時機は、重合性単量体組成物を、分散安定化剤を含有する水系分散媒体中に分散させた後、液滴形成前の段階で添加されてもよいが、重合性単量体組成物に直接添加されてもよい。
【0094】
重合開始剤の添加量は、重合性単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが好ましく、0.3〜15重量部であることがより好ましく、1.0〜10重量部であることが更に好ましい。
【0095】
(3)重合工程
上記(2)懸濁液を得る工程(液滴形成工程)により得られた懸濁液を、加熱し、重合反応を行い、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液を得る。
【0096】
重合温度は、特に限定されないが、50〜100℃であることが好ましく、60〜95℃であることがより好ましい。
重合に要する時間は、重合性単量体の成分、及び重合開始剤の種類により変動するが、1〜20時間であることが好ましく、2〜15時間であることがより好ましい。
【0097】
重合性単量体組成物の液滴を安定に分散させた状態で重合を行うために、本工程においても上記(2)懸濁液を得る工程(液滴形成工程)に引き続き、攪拌による分散処理を行いながら重合反応を進行させてもよい。
【0098】
(4)回収工程
重合工程により得られる蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液を、分散安定剤の除去を行った後、水洗浄及び脱水といった一連の操作を必要に応じて数回繰り返し行い、得られた固形分を乾燥させて、蓄熱材用マイクロカプセル粒子を回収する。
【0099】
先ず、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液中に残存する分散安定化剤を除去するために、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液に、酸又はアルカリを添加し洗浄を行なうことが好ましい。
【0100】
使用した分散安定化剤が、酸に可溶な化合物である場合、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液へ酸を添加し、一方、使用した分散安定化剤が、アルカリに可溶な化合物である場合、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液へアルカリを添加する。
【0101】
分散安定化剤として、酸に可溶な化合物を使用した場合、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液へ酸を添加し、pHを6.5以下に調整することが好ましい。より好適にはpH6.0以下に調整することが望ましい。
添加する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、及び蟻酸、酢酸等の有機酸を用いることができるが、分散安定化剤の除去効率が大きいことや製造設備への負担が小さいことから、特に硫酸が好適である。
【0102】
以下において、前述の懸濁重合法により得られる蓄熱材用マイクロカプセル粒子の粒径特性について述べる。
【0103】
本発明において、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)は、3〜100μmであることが好ましく、5〜50μmであることがより好ましく、10〜30μmであることが更に好ましい。
【0104】
上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)が、上記下限未満である場合には、懸濁重合法で製造し難いばかりでなく、表面積が大きくなることによって蓄熱の持続性が悪くなる場合がある。一方、上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)が、上記上限を超える場合には、カプセル壁が相対的に薄くなるため、カプセル壁が破損し易くなり、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。
【0105】
蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比である粒径分布(Dv/Dn)は、1.0〜1.3であることが好ましく、1.0〜1.25であることがより好ましい。
【0106】
上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の粒径分布(Dv/Dn)が、上記上限を超える場合には、小粒径粒子の割合が増えて、上記した様に蓄熱の持続性が悪くなる場合がある。
【0107】
なお、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)、及び個数平均粒径(Dn)は、粒径測定機を用いて測定される値であり、例えば、ベックマン・コールター社製の粒径測定機(商品名:マルチサイザー)を用いて測定することができる。
【0108】
蓄熱材用マイクロカプセル粒子の平均円形度は、0.94〜0.995であることが好ましく、0.95〜0.995であることがより好ましく、0.96〜0.995であることが更に好ましい。
【0109】
ここで、「円形度」とは、粒子像と同じ投影面積を有する円の周囲長を、粒子の投影像の周囲長で除した値として定義される。また、本発明における平均円形度は、粒子の形状を定量的に表現する簡便な方法として用いたものであり、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の凹凸の度合いを示す指標であり、平均円形度は蓄熱材用マイクロカプセル粒子が完全な球形の場合に1を示し、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の表面形状が複雑になるほど小さな値となる。平均円形度は、0.4μm以上の円相当径の粒子について測定された各粒子の円形度(Ci)をn個の粒子について下記計算式1よりそれぞれ求め、次いで、下記計算式2より平均円形度(Ca)を求める。
計算式1:
円形度(Ci)=粒子の投影面積に等しい円の周囲長/粒子投影像の周囲長
【0110】
【数1】

【0111】
上記計算式2において、fiは、円形度(Ci)の粒子の頻度である。
上記円形度及び平均円形度は、例えば、シスメックス社製のフロー式粒子像分析装置「FPIA−2000」、「FPIA−2100」、及び「FPIA−3000」等を用いて測定することができる。
【0112】
本発明において、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の潜熱量(Q)は、10J/g以上であることが好ましく、15J/g以上であることがより好ましい。
なお、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の潜熱量(Q)は、示差走査熱量分析機を用いて測定される値であり、例えば、セイコーインスツル社製の示差走査熱量分析機(型式名:DSC 6200)を用いて測定することができる。
【0113】
上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の潜熱量(Q)が、上記下限未満である場合には、蓄熱材としての機能を十分に発揮させることができず、蓄熱性能に劣る場合がある。
【0114】
本発明では、蓄熱材用マイクロカプセル粒子を、脂環式構造含有単量体100重量部に対して、10〜200重量部、より好ましくは20〜150重量部、さらに好ましくは30〜120重量部の割合で用いる。
上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の使用量が、上記下限未満である場合には、蓄熱性樹脂成形体として、所望の蓄熱性能が十分に得られない場合がある。一方、上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の使用量が、上記上限を超える場合には、蓄熱性樹脂成形体として、所望の剛性が十分に得られず、寸法安定性に劣る場合がある。
【0115】
(メタセシス重合触媒)
本発明においては、脂環式構造含有単量体が環外又は環内に有している重合可能な炭素−炭素不飽和二重結合(C=C)を開裂させて、塊状重合反応を促進させて、RIM法により成形型内で蓄熱性樹脂成形体を製造するために、脂環式構造含有単量体組成物中に、メタセシス重合触媒を含有させる。
【0116】
本発明で用いる「メタセシス重合触媒」は、脂環式構造含有単量体を重合できるものであれば、特に限定されないが、金属カルベン錯体が好ましく用いられる。金属カルベン錯体は、単体として金属カルベン錯体であるものを使用しても、反応液中で金属カルベン錯体を形成させて使用してもよい。
【0117】
ここで、「金属カルベン錯体」とは、カルベン(「:C<」又は「:C=」)が配位子として、中心金属原子(M)と直接結合してなる構造(「M=C<」又は「M=C=」)を有する有機金属錯体のことをいい、下記式1又は式2の一般式で表わされるものが代表的に挙げられる。
【0118】
【化1】

【0119】
【化2】

【0120】
上記式1及び式2中、Mは中心金属原子、X及びXはアニオン性配位子、L及びLは中性の電子供与基(ルイス塩基)、R及びRは置換基を表す。
なお、X、X、L、L、R、Rのうち2個以上は、互いに結合して多座キレート配位子を形成していてもよい。
【0121】
ここで、「アニオン性配位子」とは、中心金属原子(M)との結合から引き離されたときに負の電荷をもつ配位子のことをいい、「中性の電子供与基」とは、中心金属原子(M)との結合から引き離されたときに中性の電荷をもつ基のことをいう。
【0122】
中心金属原子(M)は、バナジウム(V)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、ドブニウム(Db)などの5族遷移金属;クロム(Cr)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)などの6族遷移金属;鉄(Fe)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)などの8族遷移金属;コバルト(Co)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)などの9族遷移金属;等の遷移金属の中から任意に選ばれる。
これらの中でも、ルテニウム(Ru)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、オスミウム(Os)が好ましく、ルテニウム(Ru)がより好ましい。
【0123】
及びRは、互いに独立して、水素原子;フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、リン原子、ケイ素原子を含んでいてもよい炭素数1〜20の炭化水素基;等の置換基の中から任意に選ばれる。
なお、炭化水素基としては、例えば、炭素数2〜20のアルケニル基、アルキニル基、アルキル基、アリール基、カルボキシル基、アルケニルオキシ基、アルキニルオキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、アルキルチオ基、アリールチオ基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基等が挙げられる。
【0124】
及びXは、互いに独立して、水素原子;フッ素原子、臭素原子、塩素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;アルキル基、アルケニル基、置換アリル基、置換シクロペンタジエニル基等の鎖状、分岐状又は環状で置換又は非置換の炭化水素基;アリール基等の芳香族炭化水素基;アセチルアセトナト基、ジケトネート基、アルコキシ基、アリールオキシ基、アルコキシカルボニル基、カルボキシル基等の酸素原子を含む炭化水素基;アルキルチオ基、アルケニルチオ基、アリールチオ基等の硫黄原子を含む炭化水素基;アルキルスルフォネート基、アリールスルフォネート基、アルキルスルホニル基、アルキルスルフィニル基等の酸素原子と硫黄原子とを含む炭化水素基;等のアニオン性配位子の中から任意に選ばれる。
これらの中でも、ハロゲン原子が好ましく、塩素原子がより好ましい。
【0125】
及びLは、互いに独立して、酸素;水;芳香族化合物、環状ジオレフィン類、オレフィン類等の置換又は非置換の不飽和炭化水素化合物;エ−テル類、カルボニル類、エステル類等の酸素原子を含む炭化水素化合物;アミド類、アミン類、ピリジン類等の窒素原子を含む炭化水素類;ニトリル類、イソシアニド類等の酸素原子と窒素原子とを含む炭化水素類;ホスフィン類等のリン原子を含む炭化水素類;ホスフィナイト類、ホスファイト類等の酸素原子とリン原子とを含む炭化水素類;スルホキシド類、チオエーテル類等の酸素原子と硫黄原子とを含む炭化水素類;チオシアネ−ト類等の窒素原子と硫黄原子とを含む化合物;スチビン類等のアンチモン原子を含む化合物;窒素、酸素、リン、硫黄、ヒ素、セレン等のヘテロ原子を含むカルベン化合物;等の中性の電子供与基(ルイス塩基)の中から任意に選ばれる。
これらの中でも、ホスフィン類;カルベン化合物が好ましく、中でも、トリアルキルホスフィン、トリシクロアルキルホスフィン、トリアリールホスフィン等の三置換体のホスフィン類;窒素、酸素、リン、硫黄を含むカルベン化合物がより好ましい。
【0126】
本発明で用いる「メタセシス重合触媒」としては、上記で例示した金属カルベン錯体の中でも、メタセシス反応(本発明では「塊状重合反応」に相当する。)を促進させる効果(触媒活性効果)が高いことから、「ルテニウムカルベン錯体」がより好ましく用いられる。
【0127】
「ルテニウムカルベン錯体」の具体例としては、例えば、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)−3−メチル−2−ブテニリデンルテニウム(IV)ジクロリド、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)ベンジリデンルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3-ジメシチルイミダゾリジン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3-ジメシチルイミダゾリジン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド、ベンジリデン(1,3-ジメシチル-4,5-ジブロモイミダゾリン-2-イリデン)(トリシクロヘキシルホスフィン)ルテニウムジクロリド等が挙げられる。
これらの中でも、ビス(トリシクロヘキシルホスフィン)−3−メチル−2−ブテニリデンルテニウム(IV)ジクロリドが好ましく用いられる。
【0128】
本発明では、メタセシス重合触媒を、脂環式構造含有単量体100重量部に対して、好ましくは0.01〜1重量部、より好ましくは0.02〜0.5重量部、さらに好ましくは0.03〜0.2重量部の割合で用いることが望ましい。
上記メタセシス重合触媒の使用量が、上記下限未満である場合には、塊状重合反応を促進させる効果が十分に得られず、蓄熱性樹脂成形体の製造効率を低下させる場合がある。一方、上記メタセシス重合触媒の使用量が、上記上限を超える場合には、調製した脂環式構造含有単量体組成物を、成形型内に注入する前から、塊状重合反応が促進され、注入ノズルが詰まり易くなる等の不具合が生じる場合がある。
【0129】
本発明で用いるメタセシス重合触媒は、触媒活性効果を高める観点から、塊状重合を阻害しない程度に少量の不活性溶剤に溶解又は分散させて用いることもできる。
不活性溶剤としては、例えば、流動パラフィン;ペンタン、ヘキサン、ヘプタンなどの鎖状脂肪族炭化水素溶剤;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、デカヒドロナフタレン、トリシクロデカン、シクロオクタンなどの脂環式炭化水素溶剤;ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素溶剤;ジエチルエーテル、テトラヒドロフランなどのエーテル系溶剤;等が挙げられる。
【0130】
本発明で用いるメタセシス重合触媒は、不活性溶剤の他にも、触媒活性効果を高める観点から、活性剤、及び活性調節剤を併用して、塊状重合を阻害しない程度に少量の活性剤及び/又は活性調節剤に溶解又は分散させて用いることもできる。
【0131】
活性剤としては、例えば、エチルアルミニウムジクロリド、ジエチルアルミニウムクロリドなどのアルキルアルミニウムハライド;これらのアルキルアルミニウムハライドの、アルキル基の一部をアルコキシ基で置換したアルコキシアルキルアルミニウムハライド;有機スズ化合物;等が挙げられる。
【0132】
メタセシス重合触媒として5族又は6族遷移金属を中心金属原子にもつメタセシス重合触媒を用いる場合の活性調節剤としては、n-プロパノール、n-ブタノール、n-ヘキサノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、イソプロピルアルコール、t-ブチルアルコールなどのアルコール類;1,3-ジクロロ-2-プロパノール、2-クロロエタノール、1-クロロブタノールなどのハロアルコール類;エステル類;エーテル類;ニトリル類;等が挙げられ、これらの中でも、アルコール類、ハロアルコール類が好ましく用いられる。
【0133】
また、メタセシス重合触媒として金属カルベン錯体を用いる場合の活性調節剤としては、トリシクロペンチルホスフィン、トリシクロヘキシルヘキシルホスフィン、トリフェニルホスフィン、トリフェニルホスファイト、n-ブチルホスフィンなどのリン原子を含むルイス塩基化合物;n-ブチルアミン、ピリジン、4-ビニルピリジン、アセトニトリル、エチレンジアミン、N-ベンジリデンメチルアミン、ピラジン、ピペリジン、イミダゾールなどの窒素原子を含むルイス塩基化合物;が挙げられる。
【0134】
また、脂環式構造含有単量体として、ビニルノルボルネン、プロペニルノルボルネン、イソプロペニルノルボルネンなどのアルキニル基含有ノルボルネン系単量体を用いる場合には、当該アルキニル基含有ノルボルネン系単量体は、脂環式構造含有単量体としての機能を有する他に、活性調節剤としても作用する。
【0135】
なお、メタセシス重合触媒は、触媒活性効果を低下させないものであれば、液状の老化防止剤、可塑剤、エラストマー等の溶剤に溶解又は分散させて用いてもよい。
【0136】
(充填剤)
本発明においては、所望の剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体を得る観点から、脂環式構造含有単量体組成物中に、充填剤を含有させることが好ましい。
本発明で用いる充填剤としては、「無機系充填剤」、及び「有機系充填剤」に大別される。
【0137】
無機系充填剤としては、例えば、鉄、銅、ニッケル、金、銀、アルミニウム、鉛、タングステン等の金属粒子又は繊維又はウィスカー;カーボンブラック、グラファイト、活性炭、炭素バルーン、炭化ケイ素等の炭素粒子又は繊維又はウィスカー;シリカ、シリカバルーン、アルミナ、酸化チタン、酸化鉄、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、酸化スズ、酸化アンチモン、酸化ベリリウム、バリウムフェライト、ストロンチウムフェライト等の酸化物粒子又は繊維又はウィスカー;水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の水酸化物粒子又は繊維又はウィスカー;炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、炭酸水素ナトリウム等の炭酸塩粒子又は繊維又はウィスカー;硫酸カルシウム等の硫酸塩粒子又は繊維又はウィスカー;タルク、クレー、マイカ、カオリン、フライアッシュ、モンモリロナイト、ケイ酸カルシウム、ガラス、ガラスバルーン等のケイ酸塩粒子又は繊維又はウィスカー;チタン酸カルシウム、チタン酸ジルコン酸鉛等のチタン酸塩又は繊維又はウィスカー;窒化アルミニウム、窒化ケイ素、窒化ホウ素等の窒化物粒子又は繊維又はウィスカー;等が挙げられる。中でも、ガラス繊維が好ましい。
これらの無機系充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0138】
有機系充填剤としては、例えば、木粉;デンプン;有機顔料;塩化ビニル;各種エラストマー;廃プラスチック;ポリエステル、ポリスチレン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、尿素樹脂等の樹脂のビーズ;シリコーン樹脂、ポリアミド樹脂、ポリエステル樹脂、ポリフェニレンオキサイド樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、フェノール系熱硬化性樹脂等の樹脂の微粒子;カーボン繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維(ナイロン)、ポリエステル繊維等の有機化合物からなる繊維;等が挙げられる。中でも、カーボン繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維が好ましい。
これらの有機系充填剤は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0139】
本発明においては、脂環式構造含有単量体組成物の塊状重合を阻害させることなく、所望の剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体を得る観点から、無機系充填剤が好ましく用いられ、中でも、ガラス繊維がより好ましく用いられる。
【0140】
本発明で用いる充填剤の長軸径は、0.05〜1μmであることが好ましく、0.08〜0.5μmであることがより好ましく、0.1〜0.4μmであることがさらに好ましい。
なお、充填剤が粒子である場合には、長軸径は体積平均粒径に相当する。
【0141】
ここで、「長軸径」とは、粒子の2次元投影像を2本の平行線で挟んだとき、その平行線の間隔が最大となる粒子の幅のことをいう。一方、「短軸径」とは、長軸径の中点において、その長軸径に対して直行する粒子の幅のことをいう。
なお、「長軸径」及び「短軸径」は、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて、粒子を高倍率で写真撮影し、撮影された粒子の拡大写真から求められる値である。
【0142】
本発明で用いる充填剤のアスペクト比(長軸径/短軸径)は、2〜70であることが好ましく、5〜50であることがより好ましく、10〜40であることがさらに好ましい。
上記充填剤のアスペクト比が、上記下限未満である場合には、所望の剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体が得られない場合がある。一方、上記充填剤のアスペクト比が、上記上限を超える場合には、調製された脂環式構造含有単量体組成物を、注入ノズルを通じて成形型内に注入する際、当該注入ノズルが詰まり易くなる等の不具合が生じる場合がある。
【0143】
本発明では、充填剤を、脂環式構造含有単量体100重量部に対して、好ましくは5〜200重量部、より好ましくは10〜100重量部、さらに好ましくは20〜60重量部の割合で用いることが望ましい。
上記充填剤の使用量が、上記下限未満である場合には、所望の剛性を有し、寸法安定性に優れた蓄熱性樹脂成形体が得られない場合がある。一方、上記充填剤の使用量が、上記上限を超える場合には、調製された脂環式構造含有単量体組成物を、注入ノズルを通じて成形型内に注入する際、当該注入ノズルが詰まり易くなる等の不具合が生じる場合がある。
【0144】
本発明で用いる充填剤は、脂環式構造含有単量体との親和性を好適化し、脂環式構造含有単量体組成物中での分散性を向上させて、得られる蓄熱性樹脂成形体の剛性及び寸法安定性を向上させることができることから、予め、疎水化処理剤を用いて表面処理が施されたものを用いることが好ましい。
【0145】
充填剤を表面処理するために用いる疎水化処理剤としては、一般に充填剤の疎水化処理剤として用いられているものであれば、特に限定されず、例えば、シランカップリング剤;チタネートカップリング剤;アルミニウムカップリング剤;ステアリン酸等の脂肪酸;油脂;界面活性剤;ワックス;その他の高分子;等が代表的に挙げられる。
【0146】
本発明で用いる充填剤を表面処理する方法としては、一般に充填剤の表面処理方法として用いられている方法であれば、特に限定されず、乾式法、及び湿式法等の方法を採用することができる。
例えば、乾式法による表面処理としては、充填剤を高速で攪拌しながら、疎水化処理剤を滴下又は噴霧する方法を代表的に挙げることができ、一方、湿式法による表面処理としては、疎水化処理剤を分散させた有機溶媒を攪拌しながら、充填剤を加える方法、又は充填剤を分散させた有機溶媒を攪拌しながら、疎水化処理剤を加える方法を代表的に挙げることができる。
【0147】
(蓄熱性樹脂成形体)
本発明においては、上述のようにして調製された脂環式構造含有単量体組成物を、成形型内に注入して、成形型内を適切に加温し、塊状重合反応を進行させ、反応射出成形(RIM)により成形型内で、当該脂環式構造含有単量体組成物を硬化させて、所望の蓄熱性樹脂成形体を製造する。
【0148】
本発明において、反応射出成形に用いる成形型としては、特に限定されず、例えば、ステンレス、スチール、アルミニウム、亜鉛合金、ニッケル、銅などの金属からなる成形型;金属とシリコン材料からなる成形型;等が挙げられる。
【0149】
成形型内の温度(塊状重合温度)は、30〜150℃であることが好ましく、50〜120℃であることがより好ましく、60〜100℃であることがさらに好ましい。
【0150】
また、成形型内の圧力(塊状重合圧力)は、0.01〜5MPaであることが好ましく、0.03〜3MPaであることがより好ましく、0.05〜1MPaであることがさらに好ましい。
【0151】
塊状重合時間は、用いる脂環式構造含有単量体の種類及びその使用量、並びに、用いるメタセシス重合触媒の種類及びその使用量等に応じて、適宜調整すればよい。
【0152】
本発明において製造される蓄熱性樹脂成形体の潜熱量(蓄熱密度)(Q)は、3kJ/kg以上であることが好ましく、5kJ/kg以上であることがより好ましい。
なお、蓄熱性樹脂成形体の潜熱量(蓄熱密度)(Q)は、示差走査熱量分析機を用いて測定される値であり、例えば、セイコーインスツル社製の示差走査熱量分析機(型式名:DSC 6200)を用いて測定することができる。
【0153】
上述した本発明の製造方法で得られる蓄熱性樹脂成形体は、脂環式構造含有単量体に対する蓄熱材用マイクロカプセル粒子の含有量を特定し、メタセシス重合触媒を含有させて脂環式構造含有単量体組成物を調製し、当該脂環式構造含有単量体組成物を成形型内で塊状重合させることにより、蓄熱密度(潜熱量)が大きく、蓄熱性能に優れ、且つ、十分な剛性を有し、寸法安定性に優れる蓄熱性樹脂成形体である。
【実施例】
【0154】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
本実施例及び比較例において行った試験方法は以下のとおりである。
【0155】
(1)蓄熱材用マイクロカプセル粒子
(1−1)体積平均粒径(Dv)、個数平均粒径(Dn)、及び粒径分布(Dv/Dn)
蓄熱材用マイクロカプセル粒子を約0.1g秤量し、ビーカーに取り、分散剤としてアルキルベンゼンスルホン酸水溶液(富士フィルム社製、商品名:ドライウエル)0.1mlを加え、更に専用電解液(ベックマン・コールター社製、商品名:アイソトンII−PC)を10〜30ml加え、超音波分散機で20W、3分間分散処理させた後、粒径測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザー)を用いて、アパーチャー径;100μm、媒体;アイソトンII−PC、測定粒子個数;100,000個の条件下で、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)、及び個数平均粒径(Dn)を測定し、粒径分布(Dv/Dn)を算出した。
【0156】
(1−2)平均円形度
容器中に、予めイオン交換水10mlを入れ、その中に分散剤としての界面活性剤(アルキルベンゼンスルホン酸)0.02gを加え、更に蓄熱材用マイクロカプセル粒子0.02gを加え、超音波分散機で60W、3分間分散処理を行った。
測定時の蓄熱材用マイクロカプセル粒子濃度を3,000〜10,000個/μlとなるように調整し、0.4μm以上の円相当径の蓄熱材用マイクロカプセル粒子1,000〜10,000個についてフロー式粒子像分析装置(シメックス社製、商品名:FPIA−2100)を用いて測定した。測定値から平均円形度を求めた。
円形度は下記計算式1に示され、平均円形度は、その数平均を取ったものである。
計算式1:
(円形度)=(粒子の投影面積に等しい円の周囲長)/(粒子投影像の周囲長)
【0157】
(1−3)潜熱量(J/g)
精秤した測定試料(蓄熱材用マイクロカプセル粒子)を、示差走査熱量計(セイコーインスツル社製、型式名:DSC 6200)に導入し、昇温速度:10℃/分、温度領域:0℃〜100℃の条件で測定を行ない、DSC曲線を得た。
得られたDSC曲線とベースラインとの差の積分値を潜熱量(Q)として、潜熱量(Q)を、精秤した測定試料の重量で除し、単位重量当たりの潜熱量に換算して求めた。
【0158】
(2)蓄熱性樹脂成形体
(2−1)潜熱量(kJ/kg)
作製した4mm厚の蓄熱性樹脂成形体の表面から、約1mm厚となるように、サンプルを5〜10mg切り出し、精秤した。
精秤したサンプルを、その平滑面が下になるようにして、示差走査熱量計(セイコーインスツル社製、型式名:DSC 6200)に導入し、昇温速度:10℃/分、温度領域:0℃〜110℃の条件で測定を行ない、DSC曲線を得た。
得られたDSC曲線とベースラインとの差の積分値を潜熱量(Q)として、潜熱量(Q)を、精秤したサンプルの重量で除し、単位重量当たりの潜熱量に換算して求めた。
【0159】
(2−2)曲げ強度(MPa)
製造した蓄熱性樹脂成形体から、試験片を切り出し、JIS K 7171(プラスチック−曲げ特性の求め方)に準拠して、曲げ強度を測定した。
曲げ強度の測定値が高いほど、剛性に優れた成形体として評価することができる。
【0160】
(2−3)線膨張率(×10−5/℃)
製造した蓄熱性樹脂成形体から、試験片を切り出し、JIS K 7197(プラスチックの熱機械分析による線膨脹率試験方法)に準拠して、線膨張率を測定した。
線膨張率の測定値が低いほど、寸法安定性に優れた成形体として評価することができる。
【0161】
(製造例1:蓄熱材用マイクロカプセル粒子)
単官能重合性単量体としてスチレン50部、及び架橋性の重合性単量体として(メタ)アクリル系単量体であるエチレングリコールジメタクリレート50部を、攪拌装置で50℃に保温しながら攪拌、混合し、均一に分散させた。
ここに、蓄熱材として多官能脂肪酸エステル化合物であるジペンタエリスリトールヘキサミリステート(数平均分子量Mn=1,840、融点Tm=64℃)40部を加え、攪拌、混合し、溶解して、重合性単量体組成物を調製した。
【0162】
他方、室温下で、イオン交換水500部に、25%塩化マグネシウム水溶液25部を加え、攪拌させた。
ここに、10%水酸化ナトリウム水溶液14部を、攪拌しながら、徐々に加え、水酸化マグネシウムコロイド分散液(難水溶性の金属水酸化物コロイド分散液)を調製した。
【0163】
上記により得られた水酸化マグネシウムコロイド分散液に、室温下で、上記重合性単量体組成物を投入し、液滴が安定するまで撹拌させた。
ここに、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油社製、商品名:パーブチルO)3部を加え、インライン型乳化分散機(荏原製作所社製、商品名:エバラマイルダー MDN303V)を用いて、15,000rpmの回転数で18分間高剪断攪拌して、重合性単量体組成物の液滴形成を行い、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液(重合性単量体組成物分散液)を得た。
【0164】
上記により得られた懸濁液(重合性単量体組成物分散液)を、攪拌翼を装着した反応器内に投入して、昇温を開始し、温度を80℃に維持しながら、重合反応を行った。
重合転化率が80%に達したときに、さらに昇温し、温度を90℃に維持しながら、重合反応を4時間継続させた。その後、反応器を、室温まで冷却し、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液を得た。
【0165】
上記により得られた蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液を、室温下で、攪拌しながら硫酸を滴下し、pHが6.0以下となるまで酸洗浄を行い、蓄熱材用マイクロカプセル粒子表面に付着した水酸化マグネシウムを溶解させた。
酸洗浄後の蓄熱材用マイクロカプセル粒子の水分散液を濾過分離し、得られた固形分に、新たにイオン交換水500部を加え、再スラリー化させて、水洗浄処理(洗浄・濾過・脱水)を数回繰り返し行い、再び固形分を得た。
【0166】
上記により得られた固形分を、乾燥機の容器内に入れ、40℃で65時間、乾燥を行ない、実施例1の蓄熱材用マイクロカプセル粒子を得た。
なお、得られた蓄熱材用マイクロカプセル粒子の一部を採取し、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)、個数平均粒径(Dn)、平均円形度を測定したところ、それぞれ26μm、20μm、及び0.977であった。さらに、粒径分布(Dv/Dn)を算出したところ1.30であった。また、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の潜熱量は、16J/gであった。
【0167】
(実施例1)
脂環式構造含有単量体としてノルボルネン系単量体であるジシクロペンタジエン(3環体)90部及びトリシクロペンタジエン(5環体)10部からなる混合単量体100部に、製造例1で得られた蓄熱材用マイクロカプセル粒子60部、及び無機充填剤としてシランカップリング剤で表面処理された平均繊維長さが0.3mmのガラス繊維(日東紡社製、商品名:SS 10−420、アスペクト比:30)25部を加えて均一に混合し、脂環式構造含有単量体を含む反応原液(A)を調製した。
【0168】
一方、メタセシス重合触媒としてルテニウムカルベン錯体であるビス(トリシクロヘキシルホスフィン)−3−メチル−2−ブテニリデンルテニウム(IV)ジクロリドを流動パラフィンに7重量%の濃度となるように加えて均一に溶解又は分散し、メタセシス重合触媒を含む反応原液(B)を調製した。
【0169】
次に、ステンレス板(縦:200mm、横:300mm)を2枚用意し、そのうちの1枚には、ステンレス板の内面を全体に均一に加温できるように、ステンレス板の外面に、ヒーター線を取り付けた。
【0170】
矩形状のシリコン材料(厚さ:4mm、幅:20mm)を用意し、当該シリコン材料を2枚のステンレス板のそれぞれの周縁に沿って当て、当該シリコン材料を介して2枚のステンレス板同士をパッキングし、側壁がシリコン材料からなるステンレス製の成形型(縦:200mm、横:300mm、厚さ:20mm)を作製した。
【0171】
次に、当該成形型の側壁のいずれか一面の一部を開口させて、注入孔を1つ設け、そこへ注入ノズルを挿し込んだ。そして、注入孔を設けた側壁が上面となるように成形型を配置した。
【0172】
ステンレス板の外面に取り付けたヒーター線によって、成形型内を90℃になるまで加温させた後、上述した脂環式構造含有単量体を含む反応原液(A)185部及びメタセシス重合触媒を含む反応原液(B)1部を混合し、得られた混合反応液を、注入ノズルを通じて成形型内に流し込み、90℃にて30分間硬化させて、蓄熱性樹脂成形体を作製した。
【0173】
上記により作製した蓄熱性樹脂成形体を、成形型から取り外し、さらに110℃にて120分間硬化させて、実施例1の蓄熱性樹脂成形体を製造した。
【0174】
(実施例2)
実施例1において、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の添加量を60部から50部に変更し、充填剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の蓄熱性樹脂成形体を製造した。
【0175】
(実施例3)
実施例1において、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の添加量を60部から20部に変更し、メタセシス重合触媒の種類をルテニウムカルベン錯体から六塩化タングステンに変更し、充填剤の添加量を25部から15部に変更したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の蓄熱性樹脂成形体を製造した。六塩化タングステンは、ノルボルネン系単量体であるジシクロペンタジエンまたはトリシクロペンタジエンと反応してカルベン錯体を形成する。
【0176】
(比較例1)
実施例1において、蓄熱材用マイクロカプセル粒子、及び充填剤を用いなかったこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の蓄熱性樹脂成形体を製造した。
【0177】
(結果)
各実施例及び比較例で得られた蓄熱性樹脂成形体の試験結果を、表1に示す。
【0178】
【表1】

【0179】
(結果のまとめ)
表1に記載されている試験結果より、以下のことが分かる。
比較例1の製造方法で得られた蓄熱性樹脂成形体は、蓄熱材用マイクロカプセル粒子、及び充填剤を用いずに製造されたことに起因し、潜熱量が得られない他、寸法安定性にやや劣るものであった。
【0180】
これに対して、実施例1〜3の製造方法で得られた蓄熱性樹脂成形体は、本発明で特定する脂環式構造含有単量体組成物を得て製造されたことに起因し、蓄熱密度(潜熱量)が大きく、蓄熱性能に優れ、且つ、十分な剛性を有し、寸法安定性に優れるものであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂環式構造含有単量体100重量部、架橋性の重合性単量体を含む重合性単量体を重合して構成されたカプセル壁とそれに内包された蓄熱材とからなる蓄熱材用マイクロカプセル粒子10〜200重量部、及びメタセシス重合触媒を含有してなる脂環式構造含有単量体組成物を、成形型内に注入して、当該型内で塊状重合させることを特徴とする蓄熱性樹脂成形体の製造方法。
【請求項2】
前記蓄熱材用マイクロカプセル粒子のカプセル壁を構成する架橋性の重合性単量体の成分比率が、カプセル壁を構成する重合性単量体全量の10〜100重量%であることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱性樹脂成形体の製造方法。
【請求項3】
前記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径が3〜100μmであり、平均円形度が0.94〜0.995であることを特徴とする請求項1又は2に記載の蓄熱性樹脂成形体の製造方法。
【請求項4】
前記脂環式構造含有単量体が、ノルボルネン系単量体であり、前記メタセシス重合触媒が、ルテニウムカルベン錯体であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の蓄熱性樹脂成形体の製造方法。
【請求項5】
前記脂環式構造含有単量体組成物が、さらに充填剤5〜200重量部を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の蓄熱性樹脂成形体の製造方法。

【公開番号】特開2011−52076(P2011−52076A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−200845(P2009−200845)
【出願日】平成21年8月31日(2009.8.31)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】