説明

蓄熱材マイクロカプセルの製造方法及び蓄熱材マイクロカプセル

【課題】高融点の蓄熱材を用いるものであっても、加圧密閉容器等の高価な装置を用いる必要がなく、しかも、長期の熱履歴やポンプ等によるせん断応力に対しても安定な蓄熱材マイクロカプセルの製造方法及び蓄熱材マイクロカプセルを提供すること。
【解決手段】2個以上の官能基を有するバインダーと脂肪族炭化水素系蓄熱材とが、有機溶剤に該蓄熱材の融点より低い温度で溶解している有機溶剤溶液を、混合条件下で、バインダーと蓄熱材の混合物の析出温度以下に冷却し、該バインダーと該蓄熱材を含む粒子を析出させ、バインダー中の官能基と硬化剤とを反応させて、蓄熱材マイクロカプセルを製造する。有機溶剤は、蓄熱材の融点未満の温度域で、バインダーと蓄熱材に対する溶解度がそれぞれ100g以上である有機溶剤と、該溶解度がそれぞれ10g以下である有機溶剤と、の混合有機溶剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄熱材マイクロカプセルの製造方法及び蓄熱材マイクロカプセルに係り、更に詳細には、蓄熱材とバインダーを含む粒子を内包し、長期の熱履歴、ポンプ等によるせん断応力に対して優れた耐久性を有する蓄熱材マイクロカプセルの製造方法及び蓄熱材マイクロカプセルに関する。
【背景技術】
【0002】
空調等に使用されている熱搬送システムには、熱輸送媒体として、水、エチレングリコール等に代表される顕熱蓄熱材が主に使用されている。これら顕熱蓄熱材は、媒体に生じる温度差を利用している。
一方、相転移に伴う潜熱を利用する潜熱蓄熱材は、熱容量が大きく熱搬送システムの熱効率を大きく向上できる利点がある。潜熱蓄熱材としては、融点及び凝固点を有するものであれば利用可能であるが、物理化学的に安定で且つ潜熱が大きいものが望ましく、代表的な潜熱蓄熱材として、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等の無機化合物の水和物、パラフィンワックス、高級脂肪酸、高級アルコール等の有機化合物等がある。
【0003】
これらの蓄熱材は、通常、蓄熱材を芯物質とし周囲に皮膜を形成させた蓄熱材マイクロカプセルの形態で使用される。
【0004】
マイクロカプセル製造方法の多くは、乳化剤を添加した水中で、液状の蓄熱材を乳化分散し、分散粒子の周囲にメラミン樹脂等からなる皮膜を形成する方法が広く知られている(例えば、特許文献1参照。)。
このメラミン樹脂皮膜は、メラミンとホルムアルデヒドの重縮合により得られ、機械的強度、耐熱性に優れるといった特徴を有するが、一方で、この方法では、メラミンの反応率を上げる為にメラミンの2倍以上のモル数のホルムアルデヒドが添加されるため、人体に有害なホルムアルデヒドが残留する可能性があるという問題点があった。
【特許文献1】特開平5−117642号公報
【0005】
また、高融点の有機化合物からなる蓄熱材のマイクロカプセルを製造する場合、従来の、水中で蓄熱材を乳化分散させる製造方法では、蓄熱材を分散する際に蓄熱材を液状に保つ必要がある。融点が水の沸点付近又はそれ以上であるような高融点の蓄熱材を内包するマイクロカプセルを製造する場合、液全体を蓄熱材の融点以上の温度に保つことが困難となり、製造容器内で蓄熱材の融点よりも低い温度に至った部分が生じた場合には、その部分の蓄熱材は凝固してしまい均一な液滴径の乳化分散液を得ることができない。
これに対して、加圧密閉容器を用いて蓄熱材の融点以上の高温下において、蓄熱材を水中に分散する方法も報告されている(例えば、特許文献2参照。)が、装置が高価になるという問題点があった。
【特許文献2】特開2002−80835号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、高融点の蓄熱材を用いるものであっても、加圧密閉容器等の高価な装置を用いる必要がなく、しかも、長期の熱履歴やポンプ等によるせん断応力に対しても安定な蓄熱材マイクロカプセルの製造方法及び蓄熱材マイクロカプセルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)を一定条件下で用いて簡易に粒子を形成させることにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
即ち、本発明の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法は、1分子中に平均して2個以上の官能基を有するバインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)とが、有機溶剤(D)に該蓄熱材(C)の融点より低い温度で溶解している有機溶剤溶液を、混合条件下で、
上記バインダー(A)と上記蓄熱材(C)の混合物の析出温度以下に冷却し、該バインダー(A)と該蓄熱材(C)を含む粒子を析出させ、
上記バインダー(A)中の官能基と硬化剤(B)とを反応させる、ことを特徴とする。
【0009】
また、本発明の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法の好適形態は、上記有機溶剤(D)は、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満の温度域で、
上記バインダー(A)と上記蓄熱材(C)に対する溶解度(100gの溶媒に溶解する溶質のグラム数)がそれぞれ100g以上である有機溶剤(D1)と、
上記バインダー(A)と上記蓄熱材(C)に対する溶解度がそれぞれ10g以下である有機溶剤(D2)と、の混合有機溶剤であることを特徴とする。
【0010】
更に、本発明の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法の他の好適形態は、上記バインダー(A)は、溶解性パラメータ値が6.5〜9.0の樹脂であることを特徴とする。
【0011】
また、本発明のマイクロカプセルは、上記蓄熱材マイクロカプセルの製造方法により作製されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)を一定条件下で用いて簡易に粒子を形成させることとしたため、高融点の蓄熱材を用いるものであっても、加圧密閉容器等の高価な装置を用いる必要がなく、しかも、長期の熱履歴やポンプ等によるせん断応力に対しても安定な蓄熱材マイクロカプセルの製造方法及び蓄熱材マイクロカプセルを提供を製造できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法について詳細に説明する。なお、本明細書及び特許請求の範囲において、濃度、含有量、充填量などについての「%」は、特記しない限り質量百分率を表すものとする。
【0014】
上述の如く、本発明は、1分子中に平均して2個以上の官能基を有するバインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)とが、有機溶剤(D)に該蓄熱材(C)の融点より低い温度で溶解している有機溶剤溶液を、混合条件下で、
上記バインダー(A)と上記蓄熱材(C)の混合物の析出温度以下に冷却し、該バインダー(A)と該蓄熱材(C)を含む粒子を析出させ、
上記バインダー(A)中の官能基と硬化剤(B)とを反応させることで、蓄熱材マイクロカプセルを製造する。
【0015】
これにより、高融点の蓄熱材を用いるものであっても、加圧密閉容器等の高価な装置を用いる必要がなく、マイクロカプセルの製造が容易になる。特に、高融点の蓄熱材を内包する蓄熱材マイクロカプセルの製造方法として好適であり、得られる蓄熱材マイクロカプセルは、長期の熱履歴、ポンプ等によるせん断応力に対して優れた耐久性を示す。
【0016】
以下に、本発明の詳細を具体的に述べる。
まず、1分子中に平均して2個以上の官能基を有するバインダー(A)について説明する。
上記バインダー(A)としては、ビニル系共重合体、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂等、各種樹脂が使用できる。特に、得られる蓄熱材マイクロカプセルが、耐熱性、耐水性、機械的強度を良好にすることから、また耐久性に優れるようにすることからは、ビニル系共重合体を使用するのが好ましい。
【0017】
また、上記バインダー(A)が有する官能基としては、特に制限はなく、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、加水分解性シリル基、アミド基、酸無水基、(ブロック)イソシアネート基等が挙げられる。得られる蓄熱材マイクロカプセルが、耐熱性、耐水性、機械的強度に優れるようにすることからは、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基又は加水分解性シリル基、及びこれらの任意の組合せに係る官能基が好ましい。
なお、上記バインダー(A)は、2種以上の官能基を有していても良い。また、バインダー(A)は1種の樹脂のみからなるものでも、2種以上の樹脂のブレンド物であっても良い。
【0018】
更に、上記バインダー(A)は、1分子中に平均して2個以上の官能基を有するものであることが必須であるが、中でも得られる蓄熱材マイクロカプセルの耐熱性、耐水性、機械的強度を良好にすることから、また耐久性に優れるようにすることからは、1分子中に平均して3〜50個の官能基を有するものが好ましい。また、1分子中に平均して10〜30個の官能基を有するものがより好ましい。
【0019】
かかるバインダー(A)を調製する方法としては、バインダー(A)がビニル系共重合体の場合には、調製方法に特に制限はなく、各種の方法が使用できる。中でも、官能基を含有するビニル単量体類と、他のビニル単量体類と共に用いて、これらの各単量体類を有機溶剤中で重合せしめるという方法、いわゆる溶液重合法が最も簡便であるので推奨される。
【0020】
上記溶液重合法によるビニル系共重合体の調製の際には、使用するビニル単量体類の全量、重合開始剤及び有機溶剤を反応器に一括仕込みして重合させるとか、ビニル単量体類の一部及び有機溶剤を仕込んだ反応器に、残りのビニル単量体類及び重合開始剤を、それぞれ、連続的に又は分割により添加して重合させるとか、更には、有機溶剤のみを仕込んだ反応器に、使用するビニル単量体類全量及び重合開始剤を、それぞれ、連続的に又は分割により添加して重合させるなどの方法を適用することができる。
【0021】
当該ビニル系共重合体が有する官能基としては、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基、加水分解性シリル基、アミド基、酸無水基、(ブロック)イソシアネート基などが挙げられる。特に、製造が容易で、且つ得られる蓄熱材マイクロカプセルの耐熱性、耐水性、機械的強度が良好で、耐久性に優れることから、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基又は加水分解性シリル基、及びこれらの官能基を任意に組合わせたものであることが望ましい。
【0022】
官能基を有するビニル単量体類としては、まず官能基が水酸基の場合には、例えば2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリレート類;上掲したような(メタ)アクリレート類と、ε−カプロラクトンの付加反応生成物;
【0023】
2−ヒドロキシエチルビニルエーテル、3−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、2−ヒドロキシプロピルビニルエーテル、4−ヒドロキシブチルビニルエーテル、3−ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピルビニルエーテル、5−ヒドロキシペンチルビニルエーテル、6−ヒドロキシヘキシルビニルエーテル等の水酸基含有ビニルエーテル類;上掲したようなビニルエーテル類と、ε−カプロラクトンとの付加反応生成物;
【0024】
2−ヒドロキシエチル(メタ)アリルエーテル、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アリルエーテル、4−ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、3−ヒドロキシブチル(メタ)アリルエーテル、2−ヒドロキシ−2−メチルプロピル(メタ)アリルエーテル、5−ヒドロキシペンチル(メタ)アリルエーテル、6−ヒドロキシヘキシル(メタ)アリルエーテル等の水酸基含有アリルエーテル類;上掲したような各種のアリルエーテル類と、ε−カプロラクトンとの付加反応生成物などが挙げられる。
【0025】
官能基がカルボキシル基の場合には、例えば、(メタ)アクリル酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸等のカルボキシル基含有単量体類;フマル酸モノメチル、フマル酸モノエチル、フマル酸モノブチル、フマル酸モノイソブチル、フマル酸モノtert−ブチル、フマル酸モノヘキシル、フマル酸モノオクチル、フマル酸モノ2−エチルヘキシル、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノイソブチル、マレイン酸モノtert−ブチル、マレイン酸モノヘキシル、マレイン酸モノオクチル、マレイン酸モノ2−エチルヘキシル等のα,β−不飽和ジカルボン酸と、炭素数が1〜18なる1価アルコールとのモノエステル類;イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチル、イタコン酸モノイソブチル、イタコン酸モノヘキシル、イタコン酸モノオクチル、イタコン酸モノ2−エチルヘキシル等のイタコン酸モノアルキルエステル類などが挙げられる。
【0026】
官能基がエポキシ基の場合には、例えば、グリシジル(メタ)アクリレート、β−メチルグリシジル(メタ)アクリレート、グリシジルビニルエーテル、アリルグリシジルエーテル等のエポキシ基含有ビニル単量体類;(2−オキソ−1,3−オキソラン)メチル(メタ)アクリレート等の(2−オキソ−1,3−オキソラン)基含有ビニル単量体類;3,4−エポキシシクロヘキシル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート、3,4−エポキシシクロヘキシルエチル(メタ)アクリレート等の脂環式エポキシ基含有ビニル単量体類などが挙げられる。
【0027】
官能基が加水分解性シリル基の場合には、例えば、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、γ−(メタ)アクリロイルオキシプロピルメチルジメトキシシラン等の加水分解性シリル基含有ビニル単量体類などが挙げられる。
【0028】
更に、他の共重合可能なビニル単量体類も、必要に応じて使用できるが、かかる他の共重合可能な単量体類としては、例えば、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸n−プロピル、(メタ)アクリル酸イソプロピル、(メタ)アクリル酸n−ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸tert−ブチル又は(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸シクロヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル、(メタ)アクリル酸イソオクチル、(メタ)アクリル酸2−エチルオクチル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸イソデシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸ステアリル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;
【0029】
(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェニル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル又は(メタ)アクリル酸テトラヒドロフルフリル、エチルカルビトール(メタ)アクリレート等のアルキルカルビトール(メタ)アクリレート類;イソボルニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;
【0030】
エチレン、プロピレン、ブテン−1等のα−オレフィン類;塩化ビニル、塩化ビニリデン等の、フルオロオレフィンを除く各種のハロゲン化オレフィン類(ハロ・オレフィン類);スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル単量体類;
【0031】
フマル酸ジメチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジブチル、フマル酸ジオクチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジエチル、イタコン酸ジブチル、イタコン酸ジオクチル等の不飽和ジカルボン酸と、炭素数が1〜18なる1価アルコールとのジエステル類;
【0032】
無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸、無水(メタ)アクリル酸、無水テトラヒドロフタル酸等の酸無水基含有ビニル単量体類;
【0033】
ジエチル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジブチル−2−(メタ)アクリロイルオキシブチルフォスフェート、ジオクチル−2−(メアクリロイルオキシエチルフォスフェート、ジフェニル−2−(メタ)アクリロイルオキシエチルフォスフェート等の燐酸エステル基含有ビニル単量体類;
【0034】
酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、イソ酪酸ビニル、カプロン酸ビニル、カプリル酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、炭素原子数9なる分岐状(分枝状)脂肪族カルボン酸ビニル、炭素原子数10なる分岐状脂肪族カルボン酸ビニル、炭素原子数11なる分岐脂肪族カルボン酸ビニル、ステアリン酸ビニル等の脂肪族カルボン酸ビニル類;
【0035】
シクロヘキサンカルボン酸ビニル、メチルシクロヘキサンカルボン酸ビニル、安息香酸ビニル、p−tert−ブチル安息香酸ビニル等の環状構造を有するカルボン酸のビニルエステル類などが挙げられる。
【0036】
以上に例示したような、種々の官能基含有ビニル単量体類の合計使用量としては、中でも得られる蓄熱材マイクロカプセルの耐熱性、耐水性、機械的強度が良好で、耐久性に優れることから、使用するビニル単量体類全量の2〜50%なる範囲であることが好ましく、5〜20%となる範囲であることがより好ましい。
【0037】
ビニル系共重合体の調製に際して使用する、有機溶剤としては、各種の有機溶剤を使用することができる。かかる有機溶剤としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、イソペンタノール等のアルキルアルコール類;
【0038】
メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;
【0039】
ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;エクソンアロマティックナフサNo.2(米国エクソン社製)等の芳香族炭化水素を含有する混合炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類;アイソパーC、アイソパーE、エクソールDSP100/140、エクソールD30(いずれも米国エクソン社製)、IPソルベント1016(出光石油化学社製)等の脂肪族炭化水素を含有する混合炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の脂環族炭化水素類;
【0040】
テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、n−アミルケトン等のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル類などが挙げられる。
【0041】
ビニル系共重合体の調製の際に使用する重合開始剤としては、種々の化合物を使用することができ、例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−メチルブチロニトリル、2,2’−アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、1,1’−アゾビス−シクロヘキサンカルボニトリル、ジメチル−2,2’−アゾビスイソブチレート、4,4’−アゾビス−4−シアノ吉草酸、2,2’−アゾビス−(2−アミジノプロペン)2塩酸塩、2−tert−ブチルアゾ−2−シアノプロパン、2,2’−アゾビス(2−メチル−プロピオンアミド)2水和物、2,2’−アゾビス[2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロペン]又は2,2’−アゾビス(2,2,4−トリメチルペンタン)等のアゾ化合物;
【0042】
過酸化ベンゾイル、メチルエチルケトンパーオキサイド、キュメンハイドロパーオキサイド、カリウムパーサルフェート、tert−ブチルパーオキシネオデカノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、tert−ブチルパーオキシイソブチレート、1,1−ビス−tert−ブチルパーオキシ−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、tert−ブチルパーオキシーラウレート、tert−ブチルパーオキシイソフタレート、tert−ブチルパーオキシアセテート、tert−ブチルパーオキシベンゾエート、ジクミルパーオキシド又はジ−tert−ブチルパーオキシド等のケトンパーオキシド類;パーオキシケタール類;ハイドロパーオキシド類;ジアルキルパーオキシド類;ジアシルパーオキシド類;パーオキシエステル類;パーオキシジカーボネート類;過酸化水素などが挙げられる。
【0043】
当該ビニル系共重合体の数平均分子量としては、1,000〜200,000の範囲内にあることが適切である。中でも5,000〜100,000なる範囲内にあることが好ましい。当該ビニル系共重合体の数平均分子量が上記した範囲内であれば、耐久性に優れる蓄熱材マイクロカプセルを得ることができる。
【0044】
バインダー(A)がポリエステル樹脂の場合に、当該ポリエステル樹脂を得るための調製方法としては、特に制限はなく、多価アルコールと多塩基酸を縮合せしめる方法により製造する種々の方法が利用できる。
【0045】
官能基としては、調製の容易さから、カルボキシル基、水酸基のいずれか一方又は双方が好ましく採用される。
【0046】
原料として使用し得る多価アルコール及び多塩基酸としては、種々の化合物が使用できる。これら多価アルコールと多塩基酸の使用量を調節することにより、カルボキシル基、水酸基のいずれか一方又は双方を有するポリエステル樹脂を得ることができる。
【0047】
まず、上記多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、トリエチレングリコール、ビス−ヒドロキシエチルテレフタレート、シクロヘキサンジメタノール、オクタンジオール、ジエチルプロパンジオール、ブチルエチルプロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、2,2,4−トリメチルペンタンジオール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールAのエチレンオキサイド付加物、水添ビスフェノールAのプロピレンオキサイド付加物、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、グリセリン、ペンタエリスリトール、トリスヒドロキシエチルイソシアヌレート、ヒドロキシピバリルヒドロキシピバレートなどが挙げられる。
【0048】
他方の、上記多塩基酸としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、メチルテレフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、又はそれらの無水物;コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバチン酸、又はそれらの無水物;マレイン酸、イタコン酸、又はそれらの無水物;フマル酸、テトラヒドロフタル酸、メチルテトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、又はそれらの無水物;シクロヘキサンジカルボン酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸などが挙げられる。
【0049】
更に、原料として、ジメタノールプロピオン酸、ヒドロキシピバレート等の一分子中にカルボキシル基と水酸基とを併せ有する化合物;「カージュラ E10」(オランダ国シェル社製の分岐脂肪族カルボン酸のグリシジルエステル)などのモノエポキシ化合物;メタノール、プロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール等の1価アルコール;安息香酸、p−tert−ブチル安息香酸等の1価の塩基酸;ひまし油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、大豆油脂肪酸等の脂肪酸類なども使用することができる。
【0050】
以上に掲げたような、種々の多価アルコール、多塩基酸、その他の原料等を用いて得られる、ポリエステル樹脂としては、就中、酸価と水酸基価との合計が10〜250(mgKOH/g;以下同様)なる範囲内で、しかも、数平均分子量が500〜10,000なる範囲内であるような形のものの使用が望ましい。
【0051】
酸価と水酸基価との合計が上記範囲内であれば、機械的物性に優れる蓄熱材マイクロカプセルを得ることができる。また、数平均分子量が上記した範囲内であれば、耐久性に優れる蓄熱材マイクロカプセルを得ることができる。
【0052】
当該ポリエステル樹脂の構造は、上述したような樹脂の諸特性値の範囲内であれば、特に制限されるものではなく、分岐構造のものでも、線状構造のものでもよい。
【0053】
なお、本発明において、上記ビニル系共重合体やポリエステル樹脂の数平均分子量の測定は、ゲルパーミュエーションクロマトグラフを用い、下記の条件でポリスチレン換算により求めたものである。
測定装置 ; 東ソー株式会社製 HLC−8220
カラム ; 東ソー株式会社製 ガードカラムHXL−H
+東ソー株式会社製 TSKgel G5000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G4000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G3000HXL
+東ソー株式会社製 TSKgel G2000HXL
検出器 ; RI(示差屈折計)
データ処理; 東ソー株式会社製 SC−8010
測定条件 ; カラム温度 40℃
溶媒 テトラヒドロフラン
流速 1.0ml/分
標準 ; ポリスチレン
試料 ; 樹脂固形分換算で0.4%のテトラヒドロフラン溶液をマイクロフィルターでろ過したもの(100μl)
【0054】
上記バインダー(A)として用いることのできるエポキシ樹脂としては、特に限定はないが、例えば、ビスフェノール−Aのポリグリシジルエーテルの如きエポキシ樹脂が挙げられる。
【0055】
本発明において、上記バインダー(A)は、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)と親和性を有することが好ましい。
【0056】
上記バインダー(A)の脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)との親和性は、バインダー(A)の溶解性パラメータにより大きく影響される。
ここで、上記バインダー(A)の溶解性パラメータは、以下の方法で求めることができる。
【0057】
サンプル樹脂として上記バインダー(A)0.5gを100mlマイヤーフラスコに秤量し、テトラヒドロフラン(THF)10mlを加えて樹脂を溶解する。溶解した溶液を液温25℃に保持し、マグネチックスターラーで攪拌しながら、50mlビュレットを用いてヘキサンを滴下していき、溶液に濁りが生じた点(濁点)の滴下量(v)を求める。
【0058】
次に、ヘキサンの代わりに脱イオン水を使用したときの、濁点における滴下量(v)を求める。
【0059】
、vより、樹脂の溶解性パラメータ値δは、SUH,CLARKE[J. Polym.Sci.A−1,Vol.5,1671−1681(1967)]により示された式を用いて、以下のようにして求めることができる。
δ=〔(Vmh(1/2)・δmh+(Vmd(1/2)・δmd〕/〔(Vmh(1/2)+(Vmd(1/2)
ここで、
mh=(V・V)/(φ・V+φht・V)、
md=(V・V)/(φ・V+φdt・V
δmh=φ・δ+φht・δ
δmd=φ・δ+φdt・δ
φ,φht;滴定溶剤にヘキサンを使用したときの、濁点における、ヘキサン,THFの体積分率
φ,φdt;滴定溶剤に脱イオン水を使用したときの、濁点における、脱イオン水,THFの体積分率
〔φ=v/(v+10)、φht=10/(v+10)、φ=v/(v+10)、φdt=10/(v+10)〕〔但し、10はTHFの使用容量(10ml)である。〕
δ,δ,δ;ヘキサン,脱イオン水,THFの溶解性パラメータ値
,V,V;ヘキサン,脱イオン水,THFの分子容(ml/mol)
【0060】
上記バインダー(A)の溶解性パラメータの値としては、6.5〜9.0の範囲内であることが好ましく、7.0〜9.0の範囲内であることがより好ましい。上記バインダー(A)の溶解性パラメータの値が6.5〜9.0の範囲内であれば、バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)との間に充分な親和性があり、これらの混合物の析出に際してバインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の分離が防止できるため、機械的強度に優れる蓄熱材マイクロカプセルを製造することができることから、6.5〜9.0の範囲内であることが好ましく、7.0〜9.0の範囲内であることがより好ましい。
【0061】
次に、硬化剤(B)は、上記バインダー(A)の官能基と反応する官能基を一分子中に平均して2個以上有するものが望ましく、適宜選択して使用される。
【0062】
かかる硬化剤(B)としては、上記バインダー(A)の官能基が水酸基の場合、特に代表的なものとしては、ブロックポリイソシアネート化合物や、酸無水物含有基ビニル共重合体等を好適に使用できる。
【0063】
上記ブロックポリイソシアネート化合物としては、例えば、ヘキサメチレンジイソシアネート、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族ジイソシアネート類;キシリレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート等の環状脂肪族ジイソシアネート類;トリレンジイソシアネート、4,4′−ジフェニルメタンジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート類などの有機ジイソシアネート類;上記有機ジイソシアネート類と、多価アルコール、低分子量ポリエステル樹脂(ポリエステルポリオール)又は水などとの付加物;上記有機ジイソシアネート類同志の重合体(イソシアヌレート型ポリイソシアネート化合物をも含む。)や、イソシアネート・ビウレット体などのような各種のポリイソシアネート化合物をブロック化剤で以てブロック化せしめて得られる形のものや、ウレトジオン結合を構造単位として有する、いわゆるセルフ・ブロックポリイソシアネート化合物などが挙げられる。
【0064】
また、上記バインダー(A)の官能基がカルボキシル基の場合、硬化剤(B)としては、例えば、ビスフェノールAのポリグリシジルエーテル等のエポキシ樹脂;グリシジル基含有アクリル樹脂等のエポキシ基含有アクリル樹脂;1,6−ヘキサンジオール、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル類;フタル酸、テレフタル酸、イソフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、メチルヘキサヒドロフタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸等の多価カルボン酸のポリグリシジルエステル類;ビス(3,4−エポキシシクロヘキシル)メチルアジペート等の脂環式エポキシ基含有化合物;トリグリシジルイソシアヌレート、β−ヒドロキシアルキルアミド等のヒドロキシアミド類などが挙げられる。
【0065】
更に、上記バインダー(A)の官能基がエポキシ基の場合、硬化剤(B)としては、例えば、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバチン酸、ドデカン二酸、アイコサン二酸、マレイン酸、シトラコン酸、イタコン酸、グルタコン酸、フタル酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、テトラヒドロフタル酸、ヘキサヒドロフタル酸、シクロヘキセン−1,2−ジカルボン酸、トリメリット酸、ピロメリット酸、又はこれらの酸無水物やウレタン変性物;カルボキシル基含有ビニル共重合体;カルボキシル基含有ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0066】
更にまた、上記バインダー(A)の官能基が加水分解性シリル基の場合、硬化剤(B)としては、例えば、エチレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、グリセリン等の多価アルコール類;トリメトキシシラン、トリエトキシシラン等の加水分解性シリル基含有化合物;水酸基含有ビニル系共重合体、水酸基含有ポリエステル樹脂などが挙げられる。
【0067】
硬化剤(B)は2種以上の官能基を有していても良い。また、硬化剤(B)は単独でも2種以上を併用しても良い。
【0068】
上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の配合比は、官能基の当量比で(A)/(B)=2/1〜1/2の範囲内にあることが好ましく、1/1〜1/2の範囲内にあることがより好ましい。配合比が上記した範囲内にあれば、機械的強度に優れるマイクロカプセルの皮膜を形成させることができる。
【0069】
上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の反応を反応させて得られる蓄熱材マイクロカプセルとしては、水、エチレングリコール、それらの混合溶媒等からなる熱輸送媒体中における分散性が良好なものとなることから、上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の反応物が自己乳化性を有するものとなる組み合わせで用いることが好ましい。
【0070】
上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の反応物が自己乳化性を有するものとなる組み合わせとしては、特に限定はないが、中でも、上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の反応物が塩基性化合物で中和された酸基を有するものとなる組み合わせが好ましい。具体的には、上記バインダー(A)、上記硬化剤(B)のいずれか一方又は双方として、カルボキシル基等の酸基を有するものを用いた組み合わせが挙げられ、自己乳化性を有する反応物とするためには、これらの反応時又は反応後に塩基性化合物による中和を行えばよい。
【0071】
上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の反応物が自己乳化性を有するものとなる組み合わせが、上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の反応が酸基とエポキシ基の反応となる組み合わせである場合、酸基とエポキシ基の反応が促進されることから、上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の反応の際に、反応物に自己乳化性を付与するための酸基の塩基性化合物による中和を同時に行うことが好ましい。
【0072】
なお、上記バインダー(A)が、上記硬化剤(B)と反応させるための官能基としてカルボキシル基を有するものである場合、上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)との反応物に自己乳化性を付与する組み合わせとするには、上記バインダー(A)中のカルボキシル基を上記硬化剤(B)中のカルボキシル基と反応する基に対して過剰とすることが必要である。例えば、カルボキシル基を有するバインダー(A1)と硬化剤(B)の配合比は、当量比で(A1)/(B)=20/1〜1.3/1の範囲とすることが好ましい。
【0073】
また、逆に、上記硬化剤(B)が、上記バインダー(A)と反応させるための官能基としてカルボキシル基を有するものである場合、上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)との反応物に自己乳化性を付与する組み合わせとするには、上記硬化剤(B)中のカルボキシル基を上記バインダー(A)中のカルボキシル基と反応する基に対して過剰とすることが必要である。例えば、上記バインダー(A)とカルボキシル基を有する硬化剤(B1)の配合比は、当量比で(A)/(B1)=1/20〜1/1.3の範囲とすることが好ましい。
【0074】
次に、本発明で使用する脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)としては、例えば、炭素数10〜20の脂肪族炭化水素、パラフィンワックス(石油又は天然ガスを原料として、減圧蒸留留出油から分離精製することにより製造される、常温において固形のワックス;炭素数20〜40程度)、マイクロクリスタリンワックス(石油を原料として、減圧蒸留残渣油又は重質留出油から分離精製した常温において固形のワックス;炭素数30〜60程度)等の脂肪族炭化水素や、炭素数10以上の高級脂肪酸及びそのエステル、炭素数10以上の高級アルコール及びそのエーテル等が代表的なものとして挙げられる。
これら脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の中でも、融点が40〜150℃であるものは、上記バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)を含む粒子の析出温度の制御を容易に行うことができることから好ましい。更に、パラフィンワックスとマイクロクリスタリンワックスは、いずれも蓄熱容量が高く蓄熱材としての性能に優れ、安全性が高く、使用目的に応じた融点のものが容易に入手できることから特に好ましい。
【0075】
かかる、パラフィンワックスとしては、例えば、「HNP−9」、「FNP−0090」、「FT115」〔いずれも日本精鑞(株)製〕;マイクロクリスタリンワックスとしては、「Hi−Mic−1090」、「Hi−Mic−1070」〔いずれも日本精鑞(株)製〕等が代表的なものとして例示される。
【0076】
また、これら脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)は、2種以上を混合して使用することも可能である。必要であれば、金属粉、各種顔料等を添加して熱伝導性、比重等を調整することも可能である。
【0077】
脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の使用量は、上記バインダー(A)と硬化剤(B)の合計に対する上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の重量比〔(C)/(A+B)〕が95/5〜50/50となる範囲が好ましい。より好ましくは90/10〜75/25となる範囲が良い。重量比が上記した範囲内にあれば、蓄熱性能に優れ、耐熱性、耐水性、機械的強度が良好で、耐久性にも優れるマイクロカプセルを得ることができる。
【0078】
次に、本発明で用いる有機溶剤(D)としては、上記バインダー(A)と上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)を、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満の温度において溶解して有機溶剤溶液(I)とすることが可能で、且つこの有機溶剤溶液(I)を混合条件下で冷却した際に、上記バインダー(A)と上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の混合物を析出する有機溶剤であれば、1種の有機溶剤のみからなるものであっても、2種以上の有機溶剤からなる混合有機溶剤であってもよいが、中でもバインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の混合物の析出が容易で、この析出に際してバインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の分離を防止でき、機械的強度に優れる蓄熱材マイクロカプセルを効率的に製造できることから、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満の温度範囲内のいずれか〔通常、融点未満であって融点に近い比較的高温側の温度領域、例えば、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満〜融点より50℃低い温度の領域〕において、上記バインダー(A)と上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)に対する溶解度(100gの溶媒に溶解する溶質のグラム数)がそれぞれ100g以上の有機溶剤(D1)と、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満の温度範囲内において、バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)に対する溶解度がそれぞれ10g以下の有機溶剤(D2)の混合有機溶剤であることが好ましい。
【0079】
上記有機溶剤(D1)の選択に当たっては、上記バインダー(A)と上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の両方と親和性を有するものであることが好ましい。
【0080】
アルキル基の炭素数が4以上のアルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、芳香族系有機溶剤、脂肪族系有機溶剤(環状脂肪族系有機溶剤も含む。以下同様。)は、上記バインダー(A)と上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)との親和性が高く、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)を、その融点未満の温度範囲内で溶解させることができ、より低い温度条件下でマイクロカプセルの製造が可能になることから、有機溶剤(D1)として好ましく使用できる。
【0081】
上記有機溶剤(D1)の中でも、芳香族系有機溶剤、脂肪族系有機溶剤は、上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)との親和性がより高く、当該有機溶剤の存在下では、上記バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の混合が容易で、得られるマイクロカプセルの機械的強度が高まることから、有機溶剤(D1)が芳香族系有機溶剤、脂肪族系有機溶剤のいずれか一方又は双方を含む有機溶剤であることが特に好ましい。
【0082】
かかる有機溶剤(D1)としては、例えば、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、n−ペンタノール、イソペンタノール等の、アルキル基の炭素数4が以上のアルキルアルコール類;メチルイソブチルケトン、n−アミルケトン等の、アルキル基の炭素数4が以上のケトン類;酢酸n−ブチル、酢酸イソブチル、酢酸n−アミル、酢酸イソアミル、酢酸ヘキシル、プロピオン酸ブチル等の、アルキル基の炭素数4が以上のエステル類;
【0083】
メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類;
【0084】
ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;エクソンアロマティックナフサNo.2(米国エクソン社製)等の、芳香族炭化水素を含有する混合炭化水素類;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−オクタン等の脂肪族炭化水素類;アイソパーC、アイソパーE、エクソールDSP100/140,エクソールD30(いずれも米国エクソン社製)、IPソルベント1016(出光石油化学社製)等の、脂肪族炭化水素を含有する混合炭化水素類;シクロペンタン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン等の環状脂肪族炭化水素類などが挙げられる。
【0085】
上記有機溶剤(D2)は、上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満の温度範囲内において、上記バインダー(A)と上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)に対する溶解度がそれぞれ10g以下の有機溶剤、即ち、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満において、上記バインダー(A)と上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)のほとんどが、いずれも溶解しない有機溶剤であり、この有機溶剤(D2)を上記有機溶剤(D1)と組み合わせて使用することにより、上記バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の混合物の析出の際のバインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の分離と、析出した粒子中のバインダー(A)と硬化剤(B)を反応させる際の系全体のゲル化を防止することができ、目的とする蓄熱材マイクロカプセルが得られる。
【0086】
かかる有機溶剤(D2)としては、例えば、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール等の炭素数3以下のアルコール;エチレングリコール、プロピレングリコール等の多価アルコールなどが挙げられる。
【0087】
更に、本発明では、上記した以外の有機溶剤(D3)を必要により併用してもよいが、その使用量は有機溶剤(D1)〜(D3)の合計に対して通常20%以下が望ましい。かかる有機溶剤(D3)としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジイソプロピルエーテル、ジ−n−ブチルエーテル等のエーテル類;アセトン、メチルエチルケトン等の、アルキル基の炭素数が3以下のケトン類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n−プロピル、酢酸イソプロピル、プロピオン酸エチル等の、アルキル基の炭素数が3以下のエステル類などが挙げられる。
【0088】
なお、上記バインダー(A)や上記硬化剤(B)の溶液重合等による調製の際に用いた有機溶剤は、分離せずにそのまま有機溶剤(D1)、(D2)又は(D3)の一部又は全部として使用することもできる。また、有機溶剤(D1)、(D2)、(D3)は、それぞれ2種以上の有機溶剤を混合して用いてもよい。
【0089】
有機溶剤(D)として有機溶剤(D1)と(D2)の混合有機溶剤を用いる場合、これらの使用比率は、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満の温度範囲内のいずれかにおいて、上記バインダー(A)と上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)に対する溶解度(100gの溶媒に溶解する溶質のグラム数)がそれぞれ100g以上となる比率であればよいが、その重量比(D1/D2)が10/90〜80/20となる範囲内にあることが好ましい。また、30/70〜60/40となる範囲内にあることがより好ましい。
【0090】
また、有機溶剤溶液(I)中の有機溶剤(D)の含有量は、上記バインダー(A)と上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)を脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満の温度範囲内で溶解するのに必要な量以上であればよく、特に限定されないが、固形分〔バインダー(A)と硬化剤(B)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の合計〕濃度が5〜70%となる範囲内であることが好ましい。また、10〜40%となる範囲内であることがより好ましい。
【0091】
有機溶剤溶液(I)の溶剤組成、固形分濃度が上記した範囲内にあれば、製造時に脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)が凝集を起こしたり、系全体がゲル化したりすることなく、目的とする蓄熱材マイクロカプセルを効率よく製造することができる。
【0092】
本発明の製造方法により蓄熱材マイクロカプセルを製造するには、1分子中に2個以上の官能基を有するバインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)を有機溶剤(D)に溶解させてなり、更に必要に応じて各種添加剤をも含んでなる、有機溶剤溶液(I)を調製した後、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点よりも低い温度において、混合条件下で、上記バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の混合物の析出温度以下に冷却して、上記バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)を含む粒子(E)を析出させた後、上記バインダー(A)中の官能基と反応する硬化剤(B)と反応させればよい。
【0093】
粒子(E)を析出させる工程では、混合条件が非常に重要であり、条件が適当でない場合には、粒子(E)が冷却途中で凝集・固化してしまい、蓄熱材マイクロカプセルが得られなくなることがある。
【0094】
かかる混合条件としては、系の撹拌速度と冷却速度が重要であり、例えば、タービン翼、パドル翼等の回転型攪拌翼を有する攪拌機を用いる場合では、上記有機溶剤溶液(I)を、150rpm以上、より好ましくは250rpm以上の撹拌速度で混合しながら、1〜50℃/hrの冷却速度で冷却することが好ましく、1〜20℃/hrの冷却速度で徐冷することがより好ましい。
なお、析出した粒子(E)は、上記バインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の混合物を含んでなる粒子であるが、その混合状態は、必ずしも均一である必要はなく、例えば表面側の上記バインダー(A)の含有率が高い傾斜構造の粒子である場合には、より機械的強度に優れる蓄熱材マイクロカプセル得られることになるため、好ましい。
【0095】
上記したような混合条件下、析出温度よりも低い任意の温度において、上記バインダー(A)と硬化剤(B)を反応せしめることにより、蓄熱材マイクロカプセルの分散液を得ることができる。
【0096】
硬化剤(B)を有機溶剤溶液(I)に加える方法としては、
1)上記バインダー(A)と上記脂肪族系炭化水素蓄熱材(C)が溶解した有機溶剤溶液(I)に、予め硬化剤(B)を加えて混合しておき、有機溶剤溶液(I)を冷却してバインダー(A)と硬化剤(B)と脂肪族系炭化水素蓄熱材(C)を含む粒子を析出させた後、バインダー(A)と硬化剤(B)を反応させる方法、
2)有機溶剤溶液(I)を冷却してバインダー(A)と脂肪族系炭化水素蓄熱材(C)を含む粒子を析出させた後、硬化剤(B)を加えてバインダー(A)と反応させる方法、
等があり、いずれの方法も使用できる。
また、予め上記バインダー(A)と脂肪族系炭化水素蓄熱材(C)が溶解した有機溶剤溶液(I)に、硬化剤(B)の一部を加えて混合しておき、有機溶剤溶液(I)を冷却してバインダー(A)と硬化剤(B)の一部と脂肪族系炭化水素蓄熱材(C)を含む粒子を析出させた後に、残りの硬化剤(B)を加えて、バインダー(A)と硬化剤(B)を反応させてもよい。
この際の、バインダー(A)と硬化剤(B)の反応条件は、バインダー(A)と硬化剤(B)が十分に反応する条件であればよく、特に限定されるものではないが、反応温度は粒子の析出温度より15℃低い温度〜析出温度未満の範囲で、反応時間は通常1〜40時間、好ましくは5〜20時間の範囲である。
【0097】
上記1)の方法による場合には、予め上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)が混合された状態にあるため、バインダー(A)と硬化剤(B)の反応を速やかに行わせることができる。また、粒子表面だけでなく、粒子内部でもバインダー(A)と硬化剤(B)の反応が起きるため内部架橋された粒子が形成され、粒子の機械的強度が向上しうる。
【0098】
また、上記2)の方法による場合には、上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の反応が粒子表面で選択的に進行して強固な皮膜を形成させることができる。
【0099】
但し、上記1)の方法による場合には、粒子析出前であっても上記バインダー(A)と硬化剤(B)の反応が徐々に進行するため、有機溶剤溶液(I)中の硬化剤(B)の添加から粒子析出までの時間、上記バインダー(A)と硬化剤(B)中の官能基の濃度、有機溶剤溶液(I)中のバインダー(A)と硬化剤(B)の合計の濃度を、上記バインダー(A)と硬化剤(B)の反応が粒子析出までに大きく進行しないように適宜調整すると共に、硬化剤(B)を溶解後、直ちに粒子を析出させる工程に移ることが好ましい。粒子を析出させる前に上記バインダー(A)と硬化剤(B)の反応が大きく進行してしまうと、系全体がゲル化して目的とする蓄熱材マイクロカプセルが得られないことがある。
【0100】
上記バインダー(A)と硬化剤(B)の反応時は、温度を一定に維持してもしなくても良いが、一定温度で反応させた方が、より均一な皮膜を有する蓄熱材マイクロカプセルが得られることから好ましい。この反応の際には、硬化触媒を使用しても良い。
【0101】
かくして得られる蓄熱材マイクロカプセル分散液は、必要により有機溶剤(D)の一部乃至全部を除去した後、得られた蓄熱材マイクロカプセル又はその分散液を水、エチレングリコール、それらの混合溶媒等の熱輸送媒体中に添加して使用される。
【0102】
なお、有機溶剤(D)として有機溶剤(D1)を含有する有機溶剤を用いた場合、有機溶剤(D1)を除去することが必要であり、有機溶剤(D1)を除去しないと、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点や凝固点が変化して、目的とする温度範囲で蓄熱材の相転移が起こらなくなることがあり、熱搬送システムの熱効率向上が達成できない。
【0103】
蓄熱材マイクロカプセル分散液から有機溶剤(D)の一部を除去する手段としては、特に制限はなく、蒸留等、種々の方法が利用できる。また、蓄熱材マイクロカプセル分散液から有機溶剤(D)の全部を除去して固形化する手段としては、特に制限はなく、常温乾燥、加熱強制乾燥、真空乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥、加圧濾過、吸引濾過等、種々の方法が利用でき、また2種類以上の方法を併用しても良い。中でも噴霧乾燥法は、単位時間当たりの処理能力が高く、一工程で有機溶剤の除去、固形粒子の回収が可能であることから推奨される。
【0104】
噴霧乾燥に用いる装置は、噴霧された蓄熱材マイクロカプセル分散液から有機溶剤を除去することのできるものであればよく、例えば噴霧された蓄熱材マイクロカプセル分散液を熱源ガスと接触させて有機溶剤を揮発させる噴霧乾燥装置などが使用できる。有機溶剤を揮発させることから、装置は防爆仕様であることが望ましい。また、噴霧された蓄熱材マイクロカプセル分散液を乾燥させるために使用される、熱源ガス中の溶剤の蒸気含有量を低く保つという観点からは、溶剤回収装置を備えることが望ましい。
【0105】
噴霧された蓄熱材マイクロカプセル分散液を熱源ガスと接触させて有機溶剤を揮発させる噴霧乾燥装置を使用する場合において、蓄熱材マイクロカプセル分散液と熱源ガスの接触方式は特に限定されず、通常用いられているような、並流式、向流式、並流・向流混合式のようないずれの方式でもよい。装置内の圧力は、常圧でも、減圧又は加圧でもよく、特に制限はない。
【0106】
蓄熱材マイクロカプセル分散液の噴霧方式についても、回転円盤式、二流体ノズル式、圧力ノズル式など、公知慣用のものがいずれも使用できる。
【0107】
また、噴霧乾燥を行う際の蓄熱材マイクロカプセル分散液の不揮発分濃度は、噴霧乾燥装置の仕様、噴霧乾燥する条件に応じて適宜決定すればよい。
【0108】
通常、噴霧乾燥により得られた蓄熱材マイクロカプセルを含む熱源ガスは、引き続き、サイクロンに代表される分級装置へ導かれ、粒子の捕集・分級が行われる。本発明の製造方法で得られる蓄熱材マイクロカプセルの粒度分布を整えるため、粗大粒子や微細粒子を除去するための分級が必要な場合は市販されている一般的な分級機を用いることもできる。
【0109】
熱源ガスとしては、不活性ガスが望ましい。なかでもコスト等の点からは窒素ガスの使用が望ましい。更に有機溶剤(D)の蒸発をより効率的に行わせるために、蓄熱材マイクロカプセル分散液を、噴霧乾燥する前に予備加熱しても良い。
【0110】
かくして得られる蓄熱材マイクロカプセルは、そのままで使用することができるが、更に、必要に応じて、真空乾燥、通気乾燥、流動層乾燥等の他の乾燥方法で二次乾燥させてもよい。
【0111】
また、得られた蓄熱材マイクロカプセルは、更に必要に応じて、造粒工程などにより、粒子径を調整して使用してもよい。
【実施例】
【0112】
以下、本発明を実施例及び比較例により更に詳述するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、特に断りのない限り、「部」及び「%」は、すべて質量基準である。
【0113】
1.バインダー(A−1)の調製
温度計、撹拌機、還流冷却器及び窒素導入口を備えた反応容器に、n−ブタノール560部を入れ、80℃にまで昇温した。これに、スチレン150部、メチルメタクリレート100部、ステアリルメタクリレート650部、アクリル酸70部、γ−メタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン30部、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート10部及びn−ブタノール100部からなる混合物を、4時間に亘って滴下した。滴下終了後も、同温度に、更に10時間保持して重合反応を続行し、反応を完結せしめることによって、バインダー(A−1)の溶液(A’−1)を得た。
得られたバインダー(A−1)は、数平均分子量35,000、溶解性パラメータ7.9、溶液(A’−1)の固形分濃度は60.2%であった。
【0114】
2.バインダー(A−2)の調製
温度計、撹拌機、還流冷却器及び窒素導入口を備えた反応容器に、トルエン560部を入れ、80℃にまで昇温した。これに、スチレン150部、n−ブチルメタクリレート300部、2−エチルヘキシルアクリレート400部、グリシジルメタクリレート150部、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート20部及びトルエン100部からなる混合物を、4時間に亘って滴下した。滴下終了後も、同温度に、更に10時間保持して重合反応を続行し、反応を完結せしめることによって、バインダー(A−2)の溶液(A’−2)を得た。
得られたバインダー(A−2)は、数平均分子量25,000、溶解性パラメータ8.6、溶液(A’−2)の固形分濃度は60.3%であった。
【0115】
3.硬化剤(B)の調製
温度計、撹拌機、還流冷却器及び窒素導入口を備えた反応容器に、イソプロピルアルコール1100部を入れ、80℃にまで昇温した。これに、スチレン300部、n−ブチルメタクリレート350部、メタクリル酸350部、tert−ブチルパーオキシ2−エチルヘキサノエート70部及びイソプロピルアルコール100部からなる混合物を、6時間に亘って滴下した。滴下終了後も、同温度に、更に10時間保持して重合反応を続行し、反応を完結せしめることによって、カルボキシル基を含有する硬化剤(B−1)の溶液(B’−1)を得た。
得られた硬化剤(B−1)は、数平均分子量3,800、溶液(B’−1)の固形分濃度は47.0%であった。
【0116】
(実施例1)
タービン翼を備えた撹拌機、温度計、コンデンサー及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、蓄熱材として「FNP−0090」〔日本精鑞(株)製パラフィンワックス、融点90℃)2000部、バインダー(A−1)の溶液(A′−1)800部、n−ブタノール2200部、トルエン1700部、エチレングリコール1300部及び硬化剤(B)としてγ−グリシドキシプロピルトリエトキシシラン10部を仕込み、攪拌しながら昇温した。85℃において、蓄熱材が完全に溶解したことを確認した。同温度で加熱を止め、300rpmで撹拌しながら5℃/hrの冷却速度で徐冷したところ、80℃で粒子の析出が認められた。かくして得られた粒子分散液に、硬化触媒として「ジブチル錫ジラウレート」0.8部を加え、300rpmで撹拌しながら75℃で10時間反応させることによって、蓄熱材マイクロカプセル(P−1)の分散液(S−1)を得た。
分散液(S−1)の固形分濃度は18.5%、蓄熱材マイクロカプセル(P−1)の体積平均粒子径は25μmであった。なお、体積平均粒子径は、日機装(株)製粒度分布測定装置「マイクロトラックHRA(X−100)」を用いて測定した値である(以下、同様。)。
【0117】
(評価試験1)
得られた蓄熱材マイクロカプセル(P−1)の分散液(S−1)11000部に、ジメチルエタノールアミン30部を加えて撹拌し、バインダー(A−1)の酸基を中和した。更に75℃、0.1kPaで減圧蒸留してn−ブタノールとトルエンを除去した後、イオン交換水とエチレングリコールを加えて撹拌することにより、分散媒組成がイオン交換水/エチレングリコール=5/5(重量比)で、固形分濃度が30.0%の蓄熱材マイクロカプセル分散液を調製した。得られた蓄熱材マイクロカプセル分散液を、ラジエータ等の放熱系を含む冷却水循環回路内を電動ポンプを用いて、最大流量12L/min、配管最細部(コア部)流速0.3m/s、冷媒温度は最大95℃の条件で循環させた結果、蓄熱材マイクロカプセルの破損は認められなかった。
【0118】
(実施例2)
タービン翼を備えた撹拌機、温度計、コンデンサー及び窒素ガス導入口を備えた反応容器に、蓄熱材として「Hi−Mic−1090」〔日本精鑞(株)製マイクロクリスタリンワックス、融点88℃〕2000部、バインダー(A−2)の溶液(A’−2)640部、トルエン1200部及びイソプロピルアルコール4000部を仕込み、攪拌しながら昇温した。83℃において、蓄熱材が完全に溶解したことを確認した。同温度で加熱を止め、400rpmで撹拌しながら5℃/hrの冷却速度で徐冷したところ、80℃で粒子の析出が認められた。液温を79℃に維持しながら、硬化剤(B−1)の溶液(B’−1)352部を投入し、液温79℃で12時間維持してバインダー(A−2)と硬化剤(B−1)を反応せしめることによって、蓄熱材マイクロカプセル(P−2)の分散液(S−2)を得た。
得られた分散液(S−2)の固形分濃度は31.0%であった。
【0119】
かくして得られた分散液(S−2)に、イソプロピルアルコール8000部を加え、溶剤回収装置を備えた防爆型の垂直下降並流式噴霧乾燥装置で噴霧乾燥した。噴霧方式として二流体ノズル方式を用い、噴霧ガス圧は0.3MPaとした。熱源ガスとしては窒素ガスを用い、熱源ガスの温度は45℃に設定した。50℃に予備加熱した蓄熱材マイクロカプセル分散液(S−2)を供給速度5kg/hrで噴霧乾燥装置中に噴霧し、装置内で乾燥された蓄熱材マイクロカプセルをサイクロンで捕集することによって、蓄熱材マイクロカプセル(P−2)を得た。
得られた蓄熱材マイクロカプセル(P−2)の体積平均粒子径は35μm、不揮発分は99.2%であった。
【0120】
(評価試験2)
得られた蓄熱材マイクロカプセル(P−2)2000部と水酸化カリウム11部を、イオン交換水/エチレングリコール=5/5(重量比)の分散媒4000部に添加し、撹拌して蓄熱材マイクロカプセル分散液を調製した。得られた蓄熱材マイクロカプセル分散液を、ラジエータ等の放熱系を含む冷却水循環回路内を電動ポンプを用いて、最大流量12L/min、配管最細部(コア部)流速0.3m/s、冷媒温度は最大95℃の条件で循環させた結果、蓄熱材マイクロカプセルの破損は認められなかった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1分子中に平均して2個以上の官能基を有するバインダー(A)と脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)とが、有機溶剤(D)に該蓄熱材(C)の融点より低い温度で溶解している有機溶剤溶液を、混合条件下で、
上記バインダー(A)と上記蓄熱材(C)の混合物の析出温度以下に冷却し、該バインダー(A)と該蓄熱材(C)を含む粒子を析出させ、
上記バインダー(A)中の官能基と硬化剤(B)とを反応させる、ことを特徴とする蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項2】
上記有機溶剤(D)は、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点未満の温度域で、
上記バインダー(A)と上記蓄熱材(C)に対する溶解度(100gの溶媒に溶解する溶質のグラム数)がそれぞれ100g以上である有機溶剤(D1)と、
上記バインダー(A)と上記蓄熱材(C)に対する溶解度がそれぞれ10g以下である有機溶剤(D2)と、の混合有機溶剤であることを特徴とする請求項1に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項3】
上記有機溶剤(D1)と上記有機溶剤(D2)の混合比(D1/D2)が重量換算で10/90〜80/20であることを特徴とする請求項2に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項4】
上記有機溶剤(D1)は、脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点より50℃低い温度から融点未満までの温度域で、
上記バインダー(A)と上記蓄熱材(C)に対する溶解度がそれぞれ100g以上の有機溶剤であることを特徴とする請求項2又は3に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項5】
上記有機溶剤(D1)が芳香族系有機溶剤及び/又は脂肪族系有機溶剤を含有して成ることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つの項に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項6】
上記バインダー(A)は、溶解性パラメータ値が6.5〜9.0の樹脂であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つの項に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項7】
上記バインダー(A)がビニル系共重合体であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1つの項に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項8】
上記バインダー(A)の有する官能基が、水酸基、カルボキシル基、エポキシ基及び加水分解性シリル基から成る群より選ばれた少なくとも1種の官能基であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1つの項に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項9】
上記バインダー(A)と上記硬化剤(B)の合計量に対する上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の重量比〔(C)/(A+B)〕が、95/5〜50/50であることを特徴とする請求項1〜8のいずれか1つの項に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項10】
上記脂肪族炭化水素系蓄熱材(C)の融点が40〜150℃であることを特徴とする請求項1〜9のいずれか1つの項に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項11】
上記有機溶剤(D)を噴霧乾燥法により除去することを特徴とする請求項1〜10のいずれか1つの項に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1つの項に記載の蓄熱材マイクロカプセルの製造方法により作製されたことを特徴とするマイクロカプセル。

【公開番号】特開2008−106164(P2008−106164A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−290701(P2006−290701)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000003997)日産自動車株式会社 (16,386)
【出願人】(000002886)大日本インキ化学工業株式会社 (2,597)
【Fターム(参考)】