説明

蓄熱機能付吸着材の製造方法及び蓄熱機能付吸着材並びにキャニスター

【課題】蓄熱機能付吸着材において、蒸散燃料等が吸着材へと到達する通過路を適切に確保して吸着・脱着速度の低下を防止して、良好な吸着・脱着性能を確保する。
【解決手段】相変化物質2を高分子化合物4からなる外郭3中に封入してなる蓄熱カプセル1を、バインダーを用いて吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材の製造方法であって、複数の蓄熱カプセル1同士を凝集させる凝集処理を行って蓄熱カプセル凝集体8とする蓄熱カプセル凝集工程と、蓄熱カプセル凝集体8を吸着材の表面に付着させる付着処理を行う付着工程とを含み、凝集処理が、蓄熱カプセル1を110℃以上140℃以下の範囲内の加熱温度で加熱し、隣り合う蓄熱カプセル1の外郭3を構成する高分子化合物4同士の重合反応を進めて蓄熱カプセル1同士を凝集させ、蓄熱カプセル凝集体8を得る加熱凝集処理である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質を高分子化合物からなる外郭中に封入してなる蓄熱カプセルを、吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材の製造方法および蓄熱機能付吸着材、並びに当該蓄熱機能付吸着材を充填したキャニスターに関する。
【背景技術】
【0002】
車両等の内燃機関に供給される蒸散燃料(ガソリン等)が外部(大気中など)に放出されるのを防止するために用いられるキャニスターとして、例えば、吸着式キャニスター、すなわち、車両の停車時等に余剰の蒸散燃料をケース内の吸着材に吸着し、走行時等にはケース内に大気をパージガスとして導入して吸着された蒸散燃料を脱着し、改めて内燃機関等に供給する吸着式キャニスターがある。このような吸着式キャニスターに用いられる吸着材として、例えば、特許文献1には、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質を外郭中に封入してなる蓄熱カプセル(マイクロカプセル、以下において同じ)で構成された蓄熱材と、吸着材とを任意の割合で混合してなる蓄熱機能付吸着材及びその製造方法が開示されている。
【0003】
一般に、吸着材の吸着性能は吸着材の温度が高くなると低くなり、吸着材の脱着性能は吸着材の温度が低くなると低くなる。従って、吸着材にガス等が吸着されたときに発生する吸着熱により吸着材の温度が上昇すると吸着性能の低下につながる。一方、吸着材からガス等が脱着されたときは脱着による吸熱が起こり、吸着材の温度が下降すると脱着性能の低下につながる。このような吸着・脱着性能の低下は、吸脱着熱による吸着材の温度変化に起因することから、蓄熱材に、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質を高分子化合物からなる外郭中に封入してなる蓄熱カプセルを使用することとして、当該蓄熱材と吸着材とを混合して構成(いわゆる蓄熱機能付吸着材)とすることにより、当該相変化物質が相変化する際に潜熱の吸収若しくは放出を行って、吸着材の温度変化を最小限に抑制して、蓄熱材を備えないものより高い吸着・脱着性能を得ることができる。
【0004】
したがって、上記特許文献1に記載の蓄熱機能付吸着材によれば、吸着材の吸脱着熱による温度の上昇および下降を蓄熱材の蓄熱機能により防止して、吸着材の吸着・脱着性能の低下を防止することができる。
【0005】
また、特許文献2には、図6に示すように、吸着材粒子16の表面に当該吸着材粒子16よりも小さい粒子径の蓄熱材粒子15(蓄熱カプセル自体)を付着させる蓄熱機能付吸着材17が開示されている。当該特許文献2に記載の蓄熱機能付吸着材17では、吸着材粒子16の表面に粒子径の比較的小さな蓄熱材粒子15(蓄熱カプセル自体)が満遍なく静電的に付着するので、吸着材粒子16と蓄熱材粒子15(蓄熱カプセル自体)とが接触する面積が向上して、伝熱効率を高くすることができる。
【0006】
さらに、特許文献3には、図7に示すように、蓄熱カプセルを含む蓄熱材18をバインダー19により成型した成型蓄熱材20と、当該成型蓄熱材20と同程度の大きさの成型吸着材21とをバインダー22により一体成型した蓄熱機能付吸着材23が開示されている。当該特許文献3に記載の蓄熱機能付吸着材23では、比較的強度の低い蓄熱材18同士を予めバインダー19により成型して成型蓄熱材20としておき、強度を高めておくことにより、後に成型吸着材21と混合して蓄熱機能付吸着材23としても蓄熱カプセルの破壊を最小限に抑えることができるとともに、成型蓄熱材20と成型吸着材21とがバインダー22により成型されていることで、両者の混合時および吸着・脱着の繰り返し時において、両者の粉化が抑えられて成型吸着材21の細孔の閉鎖による吸着性能の低下を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−145832号公報
【特許文献2】特開2003−311118号公報
【特許文献3】特開2006−68693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記特許文献1に記載されているように、蓄熱材と吸着材とを単に混合して蓄熱機能付吸着材とした場合には、蓄熱材の蓄熱性能により吸着・脱着熱を吸収して吸着性能を向上させることができるが、繰り返し吸着・脱着を行うことにより、それぞれの粒子の分級・分離が起こり蓄熱材と吸着材との接触面積が減少して、良好な蓄熱性能を発揮できず吸着性能が低下する可能性がある。
【0009】
また、上記特許文献2に記載の蓄熱機能付吸着材17を用いた場合には、図6に示すように、蓄熱材粒子15(蓄熱カプセル自体)と吸着材粒子16とが満遍なく静電的に付着して、両者が分離・分級することをある程度防止できるが、吸着性能を有しない比較的小さな蓄熱材粒子15が吸着材粒子16の表面を均一に覆ってしまい、吸着されるべき蒸散燃料等(図6上、吸着対象ガスと表示)が、吸着性能を有する吸着材粒子16に到達するための間隙(通過路)が無くなり、当該吸着材粒子16へ到達するまでに相当の時間を要することとなり、吸着速度が低下し、吸着性能も低下する可能性がある。
【0010】
さらに、上記特許文献3に記載の蓄熱機能付吸着材23を用いた場合には、図7に示すように、成型蓄熱材20と成型吸着材21とを混合する際の蓄熱材18(蓄熱カプセルを含む)の破壊を抑制することができるとともに、成型蓄熱材20および成型吸着材21の粉化を抑えて、粉化物により成型吸着材21の細孔が閉鎖されることを防止できるが、蓄熱材18(蓄熱カプセルを含む)同士をバインダー19とともに混合して成型する際に、少なからず蓄熱材18(蓄熱カプセルを含む)の破壊を伴い成型蓄熱材20の蓄熱性能が不測に低下する可能性がある。また、蓄熱性能を有しないバインダー19を用いて成型蓄熱材20を成型するため、成型蓄熱材20のうちバインダー19の添加分だけ蓄熱材18の占める割合が低下し、その分だけ蓄熱性能が低下するという問題がある。
【0011】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、蓄熱カプセルを、バインダーを用いて吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材において、蒸散燃料等が吸着材へと到達する通過路を適切に確保して吸着・脱着速度の低下を防止して、良好な吸着・脱着性能を確保することができる技術を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するための本発明に係る蓄熱機能付吸着材の製造方法は、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質を高分子化合物からなる外郭中に封入してなる蓄熱カプセルを、バインダーを用いて吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材の製造方法であって、その第1特徴手段は、複数の前記蓄熱カプセル同士を凝集させる凝集処理を行って蓄熱カプセル凝集体とする蓄熱カプセル凝集工程と、当該蓄熱カプセル凝集体を前記吸着材の表面に付着させる付着処理を行う付着工程とを含み、前記凝集処理が、前記複数の蓄熱カプセルを110℃以上140℃以下の範囲内の加熱温度で加熱し、隣り合う前記複数の蓄熱カプセルの外郭を構成する高分子化合物同士の重合反応を進めて前記複数の蓄熱カプセル同士を凝集させ、前記蓄熱カプセル凝集体を得る加熱凝集処理である点にある。
【0013】
上記第1特徴手段によれば、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質を高分子化合物からなる外郭中に封入してなる蓄熱カプセルを、バインダーを用いて吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材を製造するにあたって、複数の前記蓄熱カプセル同士を凝集させる凝集処理を行って蓄熱カプセル凝集体とする蓄熱カプセル凝集工程と、当該蓄熱カプセル凝集体を前記吸着材の表面に付着させる付着処理を行う付着工程とを含むものとする。
【0014】
ここで、凝集とは、蓄熱カプセル粒子同士が集まり、これら粒子同士がバインダー等を必要とせずに結合して、一体となることをいい、蓄熱カプセル凝集体とは、当該一体となった複数の蓄熱カプセル粒子の集合体をいう。すなわち、凝集は、バインダー等を用いて蓄熱カプセル粒子同士を結合する成型とは異なる概念である。また、複数の蓄熱カプセル粒子の外郭間において、一部重合反応が進んで結合していてもよい。
【0015】
これにより、複数の蓄熱カプセル同士が凝集して当該蓄熱カプセルよりも大きな蓄熱カプセル凝集体を形成し、当該蓄熱カプセル凝集体をバインダーにより吸着材に付着させることができ、蓄熱カプセル凝集体がある程度の大きさとなっているため、蒸散燃料等の吸着対象ガスが吸着材へと到達するための間隙(通過路)が確保された蓄熱機能付吸着材を得ることができる。すなわち、蒸散燃料等の吸着対象ガスを吸着・脱着する際において、吸着材の表面に付着した蓄熱カプセル凝集体によって通路を妨げられることがなく、吸着・脱着速度の低下を防止できるとともに、吸着性能の低下をも適切に防止することができる。
また、蓄熱カプセル凝集体は、一度形成されると水と混合されても再分散してしまうことがなく、吸着材の表面に付着させる際などにおいて、一部に水を用いたとしても、凝集したままの状態で維持させることが可能である。
【0016】
さて、このような蓄熱カプセル凝集体の大きさ(平均粒子径)としては、蓄熱カプセル凝集体間にある程度の蒸散燃料等の通過路が形成されることで、蓄熱カプセル凝集体の大きさが小さい場合に緻密な層ができて蒸散燃料等が吸着材に到達できないことを充分に防止でき、吸着・脱着速度の低下を充分に防止することができるとともに、蓄熱カプセル凝集体の大きさが大きい場合に蓄熱カプセル凝集体を吸着材に付着させても剥離したり、蓄熱機能付吸着材の充填密度の低下による体積あたりの吸着性能が低下することを防止できる大きさ(平均粒子径)の範囲とすることが好ましい。このような範囲として、具体的には、平均粒子径が、10μm以上1000μm以下の範囲であると、蓄熱カプセル凝集体間にある程度の蒸散燃料等の通過路が充分に形成され、吸着・脱着速度の低下、付着性の問題および蓄熱機能付吸着材の充填密度の低下を充分に抑制でき、好ましい。
【0017】
また、蓄熱カプセル同士を凝集させて蓄熱カプセル凝集体とするので、蓄熱カプセル凝集体を形成する際において、バインダーを必要とせず、当該バインダーが不要である分、蓄熱材の含有量を増やすことができるとともに、蓄熱カプセル凝集体を形成する際の蓄熱カプセルの破壊をほぼ皆無にすることができ、蓄熱性能の低下を防止して吸着・脱着性能を良好に維持した蓄熱機能付吸着材を得ることができる。
さらに、蓄熱カプセル凝集体を、バインダーを用いて吸着材に付着させるので、繰り返し吸着・脱着を行ったとしても両者が分離・分級することが抑制され、蓄熱性能の低下による吸着・脱着性能の低下を防止した蓄熱機能付吸着材を得ることができる。
【0018】
加えて、上記第1特徴手段によれば、加熱により蓄熱カプセル同士の凝集を起こさせることができる。さらに、蓄熱カプセルの外郭を構成する高分子化合物の重合反応を、加熱凝集処理により促進して、凝集した蓄熱カプセル同士の一体化を行うことができ、蓄熱カプセルを加熱するという簡単な処理により、蓄熱カプセルよりも大きく、強固な蓄熱カプセル凝集体を得ることができる。具体的には、例えば、粉末状の蓄熱カプセルが完成している場合において、当該粉末状の蓄熱カプセルを所定温度で加熱することで、蓄熱カプセルの外郭を構成する高分子化合物の重合反応が進むことに伴い、蓄熱カプセル同士が相互に結合して、複数の蓄熱カプセル同士が凝集・一体化した蓄熱カプセル凝集体を得ることができる。
また、上記加熱処理における加熱温度を、110℃以上140℃以下の範囲内とするので、蓄熱カプセル同士の凝集を適切に行うとともに、高分子化合物の重合反応を促進し、複数の蓄熱カプセルにおける高分子化合物同士の結合を促進しつつ、蓄熱カプセルが熱により破壊されない程度の加熱をすることができ、蓄熱性能の低下を防止し、吸着・脱着速度の低下を防止する蓄熱機能付吸着材を得ることができる。
ここで、加熱温度を110℃以上とするのは、更なる重合反応を十分に進めるためであり、一方、140℃以下とするのは、蓄熱カプセルの外郭を構成する高分子化合物の熱分解を抑制するためである。
【0019】
本発明に係る蓄熱機能付吸着材の製造方法の第2特徴手段は、第1特徴手段に加えて、前記加熱凝集処理が、前記蓄熱カプセルが含まれる分散液を乾燥して、粉末状の蓄熱カプセルを完成した後に、前記粉末状の蓄熱カプセルに対して加熱を行う処理である点にある。
【0020】
上記目的を達成するための本発明に係る蓄熱機能付吸着材の製造方法は、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質を高分子化合物からなる外郭中に封入してなる蓄熱カプセルを、バインダーを用いて吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材の製造方法であって、その第3特徴手段は、複数の前記蓄熱カプセル同士を凝集させる凝集処理を行って蓄熱カプセル凝集体とする蓄熱カプセル凝集工程と、当該蓄熱カプセル凝集体を前記吸着材の表面に付着させる付着処理を行う付着工程とを含み、前記凝集処理が、前記複数の蓄熱カプセルが含まれる分散液に凝集剤を添加し、前記蓄熱カプセル凝集体を得る添加凝集処理であり、前記凝集剤が、アミン化合物、アルデヒド化合物、メチロール化合物、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物および金属塩からなる群より選択されるいずれか一つ以上である点にある。
【0021】
上記第3特徴手段によれば、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質を高分子化合物からなる外郭中に封入してなる蓄熱カプセルを、バインダーを用いて吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材を製造するにあたって、複数の前記蓄熱カプセル同士を凝集させる凝集処理を行って蓄熱カプセル凝集体とする蓄熱カプセル凝集工程と、当該蓄熱カプセル凝集体を前記吸着材の表面に付着させる付着処理を行う付着工程とを含むものとする。
ここで、凝集とは、蓄熱カプセル粒子同士が集まり、これら粒子同士がバインダー等を必要とせずに結合して、一体となることをいい、蓄熱カプセル凝集体とは、当該一体となった複数の蓄熱カプセル粒子の集合体をいう。すなわち、凝集は、バインダー等を用いて蓄熱カプセル粒子同士を結合する成型とは異なる概念である。また、複数の蓄熱カプセル粒子の外郭間において、一部重合反応が進んで結合していてもよい。
これにより、複数の蓄熱カプセル同士が凝集して当該蓄熱カプセルよりも大きな蓄熱カプセル凝集体を形成し、当該蓄熱カプセル凝集体をバインダーにより吸着材に付着させることができ、蓄熱カプセル凝集体がある程度の大きさとなっているため、蒸散燃料等の吸着対象ガスが吸着材へと到達するための間隙(通過路)が確保された蓄熱機能付吸着材を得ることができる。すなわち、蒸散燃料等の吸着対象ガスを吸着・脱着する際において、吸着材の表面に付着した蓄熱カプセル凝集体によって通路を妨げられることがなく、吸着・脱着速度の低下を防止できるとともに、吸着性能の低下をも適切に防止することができる。
また、蓄熱カプセル凝集体は、一度形成されると水と混合されても再分散してしまうことがなく、吸着材の表面に付着させる際などにおいて、一部に水を用いたとしても、凝集したままの状態で維持させることが可能である。
さて、このような蓄熱カプセル凝集体の大きさ(平均粒子径)としては、蓄熱カプセル凝集体間にある程度の蒸散燃料等の通過路が形成されることで、蓄熱カプセル凝集体の大きさが小さい場合に緻密な層ができて蒸散燃料等が吸着材に到達できないことを充分に防止でき、吸着・脱着速度の低下を充分に防止することができるとともに、蓄熱カプセル凝集体の大きさが大きい場合に蓄熱カプセル凝集体を吸着材に付着させても剥離したり、蓄熱機能付吸着材の充填密度の低下による体積あたりの吸着性能が低下することを防止できる大きさ(平均粒子径)の範囲とすることが好ましい。このような範囲として、具体的には、平均粒子径が、10μm以上1000μm以下の範囲であると、蓄熱カプセル凝集体間にある程度の蒸散燃料等の通過路が充分に形成され、吸着・脱着速度の低下、付着性の問題および蓄熱機能付吸着材の充填密度の低下を充分に抑制でき、好ましい。
また、蓄熱カプセル同士を凝集させて蓄熱カプセル凝集体とするので、蓄熱カプセル凝集体を形成する際において、バインダーを必要とせず、当該バインダーが不要である分、蓄熱材の含有量を増やすことができるとともに、蓄熱カプセル凝集体を形成する際の蓄熱カプセルの破壊をほぼ皆無にすることができ、蓄熱性能の低下を防止して吸着・脱着性能を良好に維持した蓄熱機能付吸着材を得ることができる。
さらに、蓄熱カプセル凝集体を、バインダーを用いて吸着材に付着させるので、繰り返し吸着・脱着を行ったとしても両者が分離・分級することが抑制され、蓄熱性能の低下による吸着・脱着性能の低下を防止した蓄熱機能付吸着材を得ることができる。
加えて、上記第3特徴手段によれば、複数の蓄熱カプセルが含まれる分散液に凝集剤を添加する添加凝集処理を行うことにより、複数の蓄熱カプセル同士を凝集させて、蓄熱カプセルよりも大きな蓄熱カプセル凝集体を簡単な処理で得ることができる。具体的には、例えば、蓄熱カプセルのカプセル化処理中において、当該蓄熱カプセルが分散した分散液に所定量の凝集剤を添加することにより、当該蓄熱カプセルの帯電電荷量を小さくして分散性を低下させることで、蓄熱カプセル同士を相互に凝集させて、容易に蓄熱カプセル凝集体を得ることができる。上記凝集剤としては蓄熱カプセルの外郭に存在する未反応基と結合することができるものを用いるとより効果的である。これらより、蓄熱カプセル凝集体はバインダー等を用いることなく得ることができ、しかも、凝集剤の添加量は、蓄熱カプセルに対して極めて微量でよいため、蓄熱機能付吸着材に対する蓄熱カプセル凝集体の割合を低下させることもない。なお、凝集剤は、アミン化合物、アルデヒド化合物、メチロール化合物、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物および金属塩からなる群より選択されるいずれか一つ以上の凝集剤が用いられる。
【0022】
本発明に係る蓄熱機能付吸着材の製造方法の第4特徴手段は、第3特徴手段に加えて、前記凝集剤の添加量が、前記蓄熱カプセルに対して0.1質量%以上3質量%以下である点にある。
上記第4特徴手段によれば、蓄熱カプセル凝集体はバインダー等を用いることなく得ることができ、しかも、凝集剤の添加量は、蓄熱カプセルに対して極めて微量でよいため、蓄熱機能付吸着材に対する蓄熱カプセル凝集体の割合を低下させることもなく、蓄熱性能を低下させることがない。
【0023】
本発明に係る蓄熱機能付吸着材の製造方法の第5特徴手段は、第1〜第4特徴手段の何れか一つに加えて、(前記蓄熱カプセル凝集体の平均粒子径:前記吸着材の平均粒子径)の比が、(1:30)以上(1:200)以下の範囲に設定されている点にある。
上記第5特徴手段を採用すると、蒸散燃料等の通過路の確保、蓄熱カプセル凝集体の吸着材への付着性、蓄熱機能付吸着材の充填密度の観点から好ましい。
【0024】
本発明に係る蓄熱機能付吸着材の製造方法の第6特徴手段は、第1〜第5特徴手段の何れか一つに加えて、前記蓄熱カプセル凝集体の表面に、当該蓄熱カプセル凝集体における前記蓄熱カプセルの外郭を構成する高分子化合物が有する未反応基と反応する基を有する樹脂の被覆層を形成する点にある。
【0025】
上記第6特徴手段によれば、被覆層により蓄熱カプセル凝集体の強度を向上させることで、蓄熱機能付吸着材が吸着・脱着を行って相変化物質の膨張・収縮による繰り返し応力を蓄熱カプセル凝集体に与えたとしても、破壊されないような充分な耐久性(熱履歴耐久性)を得ることができる。すなわち、蓄熱カプセル凝集体を構成する蓄熱カプセルの外郭は高分子化合物で構成されており、当該高分子化合物には、カプセル化の段階で重合反応が進んでいない未反応基が相当数存在する。この未反応基と反応する基を有する樹脂を、蓄熱カプセルの外郭に被覆して被覆層を設け、未反応基の重合反応を進め、未反応基を減少させることで、当該外郭の強度を向上させて、熱履歴耐久性を得るものであり、当該被覆層が蓄熱カプセルの外表面を拘束して、相変化物質の膨張及び収縮による繰り返し応力が生じても蓄熱カプセルの外郭、ひいては蓄熱カプセル凝集体の疲労破壊を防止することができる。また、上記凝集処理として凝集剤が添加された場合には、当該凝集剤が、複数の蓄熱カプセル同士を凝集させるとともに、複数の蓄熱カプセル同士における被覆層を構成する樹脂同士の架橋を促進することができ、蓄熱カプセル凝集体の強度をより向上させることができる。
【0026】
本発明に係る蓄熱機能付吸着材の製造方法の第7特徴手段は、第6特徴手段に加えて、前記高分子化合物がメラミン樹脂であり、前記被覆層がポリビニルアルコールである点にある。
【0027】
上記第7特徴手段によれば、蓄熱カプセル凝集体における蓄熱カプセルの外郭を構成する高分子化合物としてのメラミン樹脂の表面において重合反応が行われたにもかかわらず、未反応で残存している未反応基に、反応する基を有する樹脂としてのポリビニルアルコールが被覆されて、当該未反応基及び反応する基が反応し重合反応が進むことにより、メラミン樹脂とポリビニルアルコールとの結合が強くなり、蓄熱カプセルの外郭の強度が向上することとなる。これにより、蓄熱カプセル凝集体の強度がより向上することとなる。
特に、ポリビニルアルコールは、親水性の樹脂の中でも特に水酸基を多く含み、かつ熱可塑性樹脂であることから、メラミン樹脂の表面に被覆することにより、被覆された被覆層のガスバリア性、柔軟性および成膜性をより一層高いものとすることができる。また、メラミン樹脂は、機械的強度が強く、ガスバリア性の高い疎水性の樹脂である。したがって、蓄熱カプセルの外郭の強度をより一層強化して、相変化物質の膨張および収縮による繰り返し応力に充分に対抗することができる。
よって、蓄熱カプセル及び蓄熱カプセル凝集体の強度の向上のみならず、熱履歴耐久性の向上をも図ることができる。
【0028】
上記目的を達成するための本発明に係る蓄熱機能付吸着材の第1特徴構成は、第1〜第7特徴手段の何れか一つの蓄熱機能付吸着材の製造方法により製造された蓄熱機能付吸着材である点にある。
【0029】
上記蓄熱機能付吸着材の第1特徴構成によれば、複数の蓄熱カプセル同士が凝集して比較的大きくなった蓄熱カプセル凝集体を、バインダーにより吸着材の表面に付着させた蓄熱機能付吸着材を得て、蒸散燃料や吸着対象ガス等を吸着・脱着する際において、吸着材の表面に付着した蓄熱カプセル凝集体によって通路を妨げられることがなく、吸着・脱着速度が低下することを防止できるとともに、吸着性能の低下をも適切に防止することができる。
【0030】
上記目的を達成するための本発明に係るキャニスターの第1特徴構成は、第1〜第7特徴手段の何れか一つの蓄熱機能付吸着材の製造方法により製造された蓄熱機能付吸着材を、ケース内に充填してなる点にある。
【0031】
上記キャニスターの第1特徴構成によれば、高い吸着・脱着速度を維持している上記蓄熱機能付吸着材をキャニスターのケース内に充填することにより、ガソリンなどの蒸散燃料等を即座に当該ケース内の蓄熱機能付吸着材に吸着若しくは当該蓄熱機能付吸着材から脱着でき、適切な吸着・脱着性能の維持を可能としたキャニスターを得ることができる。また、キャニスターのケースは容量が制限されていることから、蓄熱カプセル凝集体を凝集する際にバインダーを用いず、吸着材および蓄熱カプセル凝集体以外の材料をできるだけ少なくして蓄熱および吸着・脱着性能を向上させた上記蓄熱機能付吸着材を用いることで、限られた容積を有効に利用して、吸着・脱着効率の良いキャニスターを得ることができる。さらに、蓄熱カプセルを凝集する際には、蓄熱カプセルの破壊がほぼ皆無であることから、蓄熱カプセル凝集体を構成する相変化物質が吸着材へ吸着されることによる細孔の閉塞を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本方法における付着処理の概略を示した模式図
【図2】本方法における添加凝集処理の概略を示す模式図
【図3】本方法における加熱凝集処理の概略を示す模式図
【図4】加熱凝集処理により凝集された蓄熱カプセル凝集体を示すSEM写真
【図5】蓄熱カプセル凝集体が付着した蓄熱機能付吸着材の表面状態を示すSEM写真
【図6】従来の蓄熱機能付吸着材の概略を示す模式図
【図7】従来の蓄熱機能付吸着材の概略を示す模式図
【図8】比較例1の蓄熱機能付吸着材の表面状態を示すSEM写真
【発明を実施するための形態】
【0033】
本発明に係る蓄熱機能付吸着材7の製造方法(以下、本方法と略称する)の実施形態について、図面に基づいて説明する。
〔第1実施形態〕
本方法は、図1に示すように、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質2を高分子化合物4からなる外郭3中に封入してなる蓄熱カプセル1を、バインダー5を用いて吸着材6の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材7を製造する方法であり、さらに、図2、図3に示すように、複数の上記蓄熱カプセル1同士を凝集させる凝集処理を行って蓄熱カプセル凝集体8とする蓄熱カプセル凝集工程と、上記蓄熱カプセル凝集体8を上記吸着材6の表面に付着させる付着処理を行う付着工程とを実行するものである。なお、これら、図1から図3は、上記蓄熱カプセル1、蓄熱カプセル凝集体8、蓄熱機能付吸着材7などをわかり易くするため、模式的に表現している。
【0034】
図1は、複数の蓄熱カプセル1が凝集した蓄熱カプセル凝集体8をバインダー5と混合して、吸着材6の表面にスプレーすることにより、当該吸着材6の表面に蓄熱カプセル凝集体8を付着させる付着処理(付着工程)を示した概略図である。また、図2および図3は、複数の蓄熱カプセル1を凝集させて、上記蓄熱カプセル凝集体8を得る凝集処理(蓄熱カプセル凝集工程)を示した概略図である。
【0035】
[蓄熱カプセル1]
蓄熱カプセル1は、図1に示すように、温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質2を高分子化合物4からなる外郭3中に封入してなるマイクロカプセルにより構成される。
上記相変化物質2としては、相変化に伴って潜熱の吸収および放出を生じる化合物であれば、特に制限されないが、蓄熱機能付吸着材7の用途に対応して相変化を生じる温度(例えば融点、凝固点など)に応じて化合物を選択することができ、例えば、融点が−150℃〜100℃程度、キャニスター用として好ましくは、0℃〜50℃程度の有機化合物および無機化合物を採用できる。具体的に例示すると、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘプタデカン、オクタデカン、ノナデカン、エイコサン、ヘンイコサン、ドコサンなどの直鎖の脂肪族炭化水素、天然ワックス、石油ワックス、LiNO3・3H2O、Na2SO4・10H2O、Na2HPO4・12H2Oなどの無機化合物の水和物、カプリン酸、ラウリン酸等の脂肪酸、炭素数が12〜15の高級アルコール、パルミチン酸メチル等のエステル化合物などを用いることができる。なお、相変化としては、固体−液体間等の相変化を例示することができる。
上記相変化物質2は、上記から選ばれる2種以上の化合物を併用してもよい。2種以上の相変化物質2を併用する場合、各相変化物質2の相変化を生じる温度の差が、0℃〜100℃程度、キャニスター用として好ましくは、0℃〜15℃となるような組み合わせが好ましい。
また、相変化物質2の過冷却現象を防止するために、必要に応じて相変化物質2の融点より高融点の化合物を添加して用いてもよい。
【0036】
そして、これらを芯材料として、例えば、コアセルベーション法、in−situ法(界面反応法)等の公知の方法により、マイクロカプセルとしたものを蓄熱カプセル1として用いることができる。例えば、相変化物質2を媒体中で界面活性剤等の乳化剤を用いて乳化し、これに後述する所望の高分子化合物4(樹脂等)に対応する初期縮合物(プレポリマー)を添加した後、70℃程度に加熱し重合反応を進めることにより、外郭3(樹脂壁等)を有し、相変化物質2を外郭3中に封入した蓄熱カプセル1の分散液(スラリー液)1aを調整することができる。なお、これら蓄熱カプセル分散液1aを乾燥させれば、蓄熱カプセル1の固形物(粉末状の蓄熱カプセル1)を得ることができる。
【0037】
蓄熱カプセル1(マイクロカプセル)の外郭3としては、公知の高分子化合物4を特に制限なく用いることができるが、例えば、ホルムアルデヒド−メラミン樹脂、メラミン樹脂、ホルムアルデヒド−尿素樹脂、尿素樹脂、尿素−ホルムアルデヒド−ポリアクリル酸共重合体、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、ポリアクリロニトリル、ポリエチレン、ポリブチルメタクリレート、ゼラチン等を用いることができる。好ましくは、熱硬化性樹脂、特にメラミン樹脂を用いるとよい。
【0038】
蓄熱カプセル1の外郭3の厚さとしては、カプセル強度および蓄熱性能を確保できるとともに、熱履歴耐久性を確保することができる厚さであれば特に制限されないが、151nm以上300nm以下の範囲が好ましい。特に上記外郭3の厚さを、185nm〜250nm、より好ましくは200nm〜240nm、最も好ましくは220nmとするとよい。この範囲とすることで、従来、採用が困難とされていた上記外郭3の厚さが比較的厚い場合においても、熱履歴耐久性を充分なものとしつつ、混合時の強度および耐溶剤性を向上させることができる。具体的には、上記外郭3の厚さの下限を、好ましくは185nm、より好ましくは200nmとすることにより、混合時の強度および耐溶剤性を、より一層向上させることができ、上記外郭3の上限を、好ましくは250nm、より好ましくは240nmとすることにより、熱履歴耐久性の低下をより一層防止することができる。特に、上記外郭3の厚みを、220nmとすることにより、混合時の強度および耐溶剤性の向上ならびに熱履歴耐久性の低下の防止を両立させて、最良の状態とすることができる。
なお、上記外郭3の厚さは、蓄熱カプセル1の固形物をミクロトームにより切断した断面を走査顕微鏡で観察することにより測定した。
上記外郭3の厚さは、所望のカプセル粒径になるように相変化物質2を乳化させ、そこに外郭3を構成する高分子化合物4を所定量添加することにより、制御することができる。
蓄熱カプセル1の外郭3と相変化物質2との重量比(外郭:相変化物質)は、特に制限されないが、通常40:60〜5:95程度、好ましくは30:70〜10:90程度である。
【0039】
蓄熱カプセル1の平均粒子径は、必要な蓄熱量、カプセル強度、耐溶剤性等の観点から適宜選択することができるが、所望の蓄熱性能を確保しつつ、蓄熱カプセル3の破壊を防止することができる、2.8μm〜15μm程度の平均粒子径が好ましい。すなわち、蓄熱カプセル1の平均粒子径が2.8μm程度よりも小さいと、当該蓄熱カプセル1の外郭3の膜厚が薄くなって、蓄熱量および耐溶剤性が低下し、また、15μm程度よりも大きいと、強度が低下し、好ましくない。この際、蓄熱カプセル1に対する外郭3の体積割合は5%以上30%以下程度がよい。なお、平均粒子径とは、蓄熱カプセル粒子の体積換算値の平均粒子径を表すものであり、一定体積の粒子を小さいものから順に篩い分けし、その50%体積に当たる粒子が分別された時点での粒子径をいう。
【0040】
[蓄熱カプセル凝集体8]
蓄熱カプセル凝集体8は、図2、図3に示すように、複数の上記蓄熱カプセル1同士を凝集させる凝集処理(蓄熱カプセル凝集工程)を行うことで形成される。
ここで、凝集とは、蓄熱カプセル粒子1同士が集まり、これら粒子自身がバインダー等を必要とせずに結合して、一体となることをいい、蓄熱カプセル凝集体8とは、当該一体となった複数の蓄熱カプセル粒子1の集合体をいう。すなわち、凝集は、バインダー等を用いて蓄熱カプセル粒子1同士を結合する成型とは異なる概念である。また、複数の蓄熱カプセル粒子1の外郭3間において、一部重合反応が進んで結合していてもよい。
したがって、蓄熱カプセル凝集体8は、複数の蓄熱カプセル1同士がバインダー等を必要とすることなく結合して一体となっており、蓄熱カプセル凝集体8に対する蓄熱カプセル1の含有量が非常に高く構成されており、高い蓄熱性能を有している。また、蓄熱カプセル凝集体8は、一度形成されると水と混合されても再分散してしまうことがなく、吸着材6の表面に付着させる際、一部に水を用いたとしても、凝集したままの状態で維持させることが可能である。
【0041】
蓄熱カプセル凝集体8の大きさ(平均粒子径)は、図1に示すような吸着材6に付着した蓄熱カプセル凝集体8間にある程度の蒸散燃料等の通過路が形成されることで、蓄熱カプセル凝集体8の大きさが小さい場合に緻密な層ができて蒸散燃料等が吸着材6に到達できないことを防止でき、吸着・脱着速度の低下を防止することができるとともに、蓄熱カプセル凝集体8の大きさが大きい場合に蓄熱カプセル凝集体8を吸着材6に付着させても剥離したり、蓄熱機能付吸着材7の充填密度の低下による体積あたりの吸着性能が低下することを防止できる大きさ(平均粒子径)の範囲であることが好ましい。このような範囲として、具体的には、平均粒子径が、10μm以上1000μm以下の範囲であると、蓄熱カプセル凝集体8間にある程度の蒸散燃料等の吸着対象ガスの通過路が形成され、吸着・脱着速度の低下、付着性の問題および蓄熱機能付吸着材7の充填密度の低下を抑制でき、好ましく、より好ましくは15μm以上500μm以下、さらに好ましくは20μm以上100μm以下である。
なお、後述する吸着材6若しくは粒状吸着材6aの平均粒子径との関係では、蓄熱カプセル凝集体8の平均粒子径を、平均粒子径の比(蓄熱カプセル凝集体8:吸着材6若しくは粒状吸着材6a)が、(1:30)以上(1:200)以下となるように形成することが、蒸散燃料等の吸着対象ガスの通過路の確保、蓄熱カプセル凝集体8の吸着材6への付着性、蓄熱機能付吸着材7の充填密度の観点から好ましい。
【0042】
[凝集処理]
凝集処理としては、複数の蓄熱カプセル1同士を凝集させて蓄熱カプセル凝集体8とすることができる処理であればよく、図2(a)、(b)に示すように、蓄熱カプセル1に凝集剤9を添加する添加凝集処理、或いは、図3に示すように、粉状の蓄熱カプセル1を集めて加熱する加熱凝集処理を行う。
【0043】
添加凝集処理は、複数の蓄熱カプセル1が含まれる分散液に凝集剤9を添加し、当該蓄熱カプセル1よりも大きい蓄熱カプセル凝集体8を得る処理である。
例えば、図2(a)に示すように、蓄熱カプセル1のカプセル化処理中において、蓄熱カプセル1が分散した分散液1aに所定量の凝集剤9を添加することにより、当該蓄熱カプセル1の帯電電荷量を小さくして分散性を低下させることで、蓄熱カプセル1同士を相互に凝集させて蓄熱カプセル凝集体8を得て、当該蓄熱カプセル凝集体8が分散した分散液8aを比較的簡単に得ることができる。例えば、当該分散液8aを乾燥させれば、固体状の蓄熱カプセル凝集体8を複数得ることができる。また、蓄熱カプセル1の外郭3に存在する未反応基と結合するような凝集剤9を用いると、乾燥時の温度により効果的に凝集状態を維持した蓄熱カプセル凝集体8を得ることができる。よって、蓄熱カプセル凝集体8はバインダー等を用いることなく得ることができ、しかも、凝集剤9の添加量は、蓄熱カプセル1に対して極めて微量でよいため、蓄熱機能付吸着材7に対する蓄熱カプセル凝集体8の割合を低下させることもない。
凝集剤9の添加量は、特に限定されないが、蓄熱性能を低下させることがないように、蓄熱カプセルに対して0.1質量%以上3質量%以下で添加することが好ましい。
凝集剤9としては、エチレンジアミン、尿素等のアミン化合物、グリオキサール、ホルマリン等のアルデヒド化合物、水溶性メラミン樹脂等のメチロール化合物、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物、硝酸ジルコニア、塩化ジルコニア、チタンアルコキシド等の金属塩等が使用でき、場合によってはこれらを複数組み合わせて使用してもよい。
【0044】
ここで、蓄熱カプセル凝集体8には樹脂10からなる被覆層11を設けてもよい。当該被覆層11を設ける場合には、例えば、図2(b)に示すように、凝集剤9を蓄熱カプセル1の分散液1aに添加する際に、樹脂10を加え、再度攪拌を行うことで、高分子化合物4からなる外郭3の表面に樹脂10からなる被覆層11を形成した蓄熱カプセル凝集体8の分散液8aを得ることができる。この場合、当該凝集剤9が、複数の蓄熱カプセル1同士を凝集させ、蓄熱カプセル1の外郭3を構成する高分子化合物4の有する未反応基と当該被覆層11を構成する樹脂10の有する反応する基との重合反応が進むことにより、蓄熱カプセル1と被覆層11との結合が強固になる。さらに、当該凝集剤9が、複数の蓄熱カプセル1同士における被覆層11を構成する樹脂10同士の架橋を促進して、蓄熱カプセル凝集体8の強度をより向上させることができる。なお、上記分散液1aに、凝集剤9及び樹脂10を添加する順序は特に問わない。したがって、図2(a)に示す分散液1aに樹脂10を添加して蓄熱カプセル1自体に被覆層を設けた後、凝集剤9を添加して凝集させて当該被覆層を構成する樹脂10同士の架橋を促進して、蓄熱カプセル凝集体8に被覆層11を設けることもできる。
上記のような被覆層11は、高分子化合物4の未反応基と反応する基を有する樹脂10であれば、特に制限されないが、親水性樹脂であるポリビニルアルコール、ポリアクリルアミド、エチレンビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリビニルアルコール−ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン−ポリ酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン−ポリビニルアルコール共重合体などが好ましく、特にポリビニルアルコールが好ましい。なお、高分子化合物4が、メラミン樹脂である場合の未反応基は、メチロール基であり、この未反応基と反応するポリビニルアルコールが有する基は、水酸基、酢酸基(原料であるポリ酢酸ビニルの残渣基)である。また、高分子化合物4が、メラミン樹脂である場合の未反応基と反応する基を有する樹脂10は、メチロール化合物、フェノール樹脂、イソシアネート化合物、エポキシ化合物、アクリル酸、アルデヒド化合物等を用いることができる。
被覆層11を形成する樹脂10の添加量としては、蓄熱カプセル1の質量に対して、1質量%〜5質量%、好ましくは、1質量%〜3質量%がよい。
【0045】
加熱凝集処理は、複数の蓄熱カプセル1を加熱することで凝集させて、当該蓄熱カプセル1よりも大きい蓄熱カプセル凝集体8を得る処理である。
例えば、図3に示すように、蓄熱カプセル分散液1aを乾燥させて得た粉末状の蓄熱カプセル1が完成している場合において、当該粉末状の蓄熱カプセル1を所定温度で加熱することで、蓄熱カプセル1同士の凝集を起こさせることができる。加えて、加熱により蓄熱カプセル1の外郭3を構成する高分子化合物4の重合反応が進むことに伴い、隣り合う複数の蓄熱カプセル1の外郭3を構成する高分子化合物4同士においても重合反応が進むことにより相互に強固に結合して、複数の蓄熱カプセル1同士が凝集・一体化して当該蓄熱カプセル1よりも大きな蓄熱カプセル凝集体8を得ることができる。このように加熱凝集処理を行なった蓄熱カプセル凝集体8の電子顕微鏡写真(SEM写真)を図4に示す。図4では、蓄熱カプセル1が複数凝集して、1つの蓄熱カプセル凝集体8を形成している。
【0046】
加熱凝集処理の加熱温度としては、110℃以上140℃以下の範囲内とする。これにより、蓄熱カプセル1同士の凝集を適切に行うとともに、高分子化合物4の重合反応を促進し、複数の蓄熱カプセル1における高分子化合物4同士の結合を促進しつつ、蓄熱カプセル1が熱により破壊されない程度の加熱をすることができ、蓄熱性能の低下を防止し、吸着・脱着速度の低下を防止する蓄熱機能付吸着材7を得ることができる。
ここで、加熱温度を110℃以上とするのは、更なる重合反応を十分に進めるためであり、一方、140℃以下とするのは、蓄熱カプセル1の外郭3を構成する高分子化合物4の熱分解を抑制するためである。なお、同様の理由から加熱温度を、110℃以上130℃以下とすることが、より好ましい。
加熱凝集処理を行う時間は、特に制限されないが、経済性の観点から1時間から5時間程度の範囲内で行うことが好ましい。
【0047】
[吸着材6]
吸着材6は、ガス等を吸着することができる公知の吸着材、キャニスターの場合には蒸散燃料を吸着することができる公知の吸着材を用いることができるが、例えば、活性炭、ゼオライト、シリカゲル、有機金属錯体(フマル酸銅、テレフタル酸銅、シクロヘキサンジカルボン酸銅など)など、またはこれらの混合物を用いることができる。
吸着材6が吸着対象とするガス等としては、メタン、メタンを主成分とするガス(天然ガス、消化ガスなど)、エタン、プロパン、ジメチルエーテル、CO2、硫化水素、酸素、窒素、NOX、SOX、CO、アセチレン、エチレン、アンモニア、メタノール、エタノール、水、クロロホルム、アルデヒドなどが例示されるが、吸着材6がキャニスターのケース内に充填される場合には、蒸散燃料、特に、ガソリンとなる。
吸着材6は、活性炭等を破砕したものを用いてもよいし、破砕したものをバインダー12と混錬して公知の造粒機により粒状に成型して粒状吸着材6aとして用いてもよい。
バインダー12としては、公知のバインダー(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)を用いることができるが、蓄熱機能付吸着材7の使用用途、条件に応じて、適宜選択することができ、例えば、シリカ、アルミナ、ベントナイト等の無機系、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース、ラテックス、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、フェノール樹脂、アミドエステル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂等を用いることができる。特に、当該蓄熱機能付吸着材7をキャニスターに用いる場合には、耐溶剤性(耐蒸散燃料性)、耐水性が要求されるため、この要求を満たすバインダー12を用いることが必要である。例えば、フェノール系、アクリル系、イソシアネート系、メラミン系、ウレタン系、アミドエステル系等の熱硬化性樹脂で、粒状吸着材6aのJIS硬度(JIS K 1474)が90%以上となる熱硬化性樹脂が好ましい。
粒状吸着材6aの形状は、特に制限されないが、ペレット(円柱状、球状)、ディスク、ブロック、ハニカム等の任意の形状に成型することができる。
また、吸着材6若しくは粒状吸着材6aの平均粒子径は、特に制限されないが、通常、0.1mm〜4mm程度、好ましくは0.3mm〜3.5mm程度、より好ましくは0.5mm〜3.0mm程度から選択することができる。
なお、上記蓄熱カプセル凝集体8の平均粒子径との関係では、吸着材6若しくは粒状吸着材6aの平均粒子径を、平均粒子径の比(蓄熱カプセル凝集体8:吸着材6若しくは粒状吸着材6a)が、(1:30)以上(1:200)以下となるように形成することが、蒸散燃料等の通過路の確保、蓄熱カプセル凝集体8の吸着材6への付着性、蓄熱機能付吸着材7の充填密度の観点から好ましい。
【0048】
[蓄熱機能付吸着材7]
蓄熱機能付吸着材7は、蓄熱カプセル1を凝集させた蓄熱カプセル凝集体8を、バインダーにより吸着材6の表面に付着させる付着処理により形成されるが、付着させる方法は特に制限されない。例えば、図1に示すように、蓄熱カプセル凝集体8が含まれる分散液8aにバインダー5を加えて、この分散液8aを粒状吸着材6aの表面にスプレーしてもよく、また、蓄熱カプセル凝集体8が含まれる分散液8aにバインダー5を加えて、この分散液8aに粒状吸着材6aを浸漬させてもよい。
これにより、図1に示すように、蓄熱カプセル1よりも大きな蓄熱カプセル凝集体8が、バインダー5により吸着材6の表面に確実に付着して、蒸散燃料等の吸着対象ガスが通過することができる間隙(通過路)が確保され、分離・分級を確実に防止しつつ、吸着・脱着速度の低下を防止可能な蓄熱機能付吸着材7を得ることができる。このようにして得られた蓄熱機能付吸着材7の表面の電子顕微鏡写真(SEM写真)を、図5に示す。図5では、吸着材に付着した蓄熱カプセル凝集体8がバインダー5に覆われて(複数膨らんでいる箇所が、それぞれ蓄熱カプセル凝集体8が存在する箇所である)、確実に固定されていることがわかる。
蓄熱機能付吸着材7は、その形状に特に制限はなく、例えば、ペレット(円柱状、球状)、ディスク、ブロック、ハニカム等の任意の形状に成型することができる。平均粒子径は、特に制限されないが、通気抵抗の観点から通常、キャニスターに用いる場合には、0.1mm〜4mm程度、好ましくは0.5mm〜3.6mm程度、より好ましくは1mm〜3mm程度である。
バインダー5としては、公知のバインダー(熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂)を用いることができるが、蓄熱機能付吸着材7の使用用途、条件に応じて、適宜選択することができ、例えば、シリカ、アルミナ、ベントナイト等の無機系、メチルセルロース、カルボキシルメチルセルロース等のセルロース、ラテックス、ポリビニルアルコール、酢酸ビニル、フェノール樹脂、アミドエステル樹脂、アクリル樹脂、メラミン樹脂等を用いることができる。特に、当該蓄熱機能付吸着材7をキャニスターに用いる場合には、耐溶剤性(耐蒸散燃料性)、耐水性が要求されるため、この要求を満たすバインダー5を用いることが必要である。例えば、フェノール系、アクリル系、イソシアネート系、メラミン系、ウレタン系、アミドエステル系等の熱硬化性樹脂で、JIS硬度(JIS K 1474)が90%以上となる熱硬化性樹脂が好ましい。
蓄熱カプセル凝集体8の配合割合は、蓄熱機能付吸着材7に吸着させる蒸散燃料、ガス等に合わせて適宜設定することができるが、吸着材6(粒状吸着材6a)とバインダー5との合計質量に対し、5質量%程度以上30質量%程度以下とすることが好ましい。なお、この蓄熱カプセル凝集体8の質量には、必要に応じて添加された、凝集剤9、被覆層11を形成するための樹脂10等の質量を含む。
バインダー5の添加量としては、蓄熱カプセル凝集体8を吸着材6に付着させるために充分な量であればよく、具体的には、吸着材6(粒状吸着材6a)の質量に対して0.5質量%程度以上5.0質量%程度以下、好ましくは1.0質量%程度以上3.0質量%程度以下であればよい。
【0049】
以下、本方法を、実施例を用いて具体的に説明する。
(比較例1)
メラミン粉末5gに37%ホルムアルデヒド水溶液6.5gと水10gを加え、pHを8に調整した後、約70℃まで加熱しメラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液を得た。pHを4.5に調整したスチレン無水マレイン酸共重合体のナトリウム塩水溶液100g中に、相変化物質2として相変化温度が39℃程度で、潜熱蓄熱量が220J/g程度のエステル化合物を80g溶解した混合液を激しく攪拌しながら添加し、粒径が9μm程度になるまで乳化を行った。この乳化された水溶液中に、上記メラミン−ホルムアルデヒド初期縮合物水溶液全量を添加し、70℃で2時間攪拌を行った後、pHを9に調整しカプセル化を行った。このカプセル化処理により、メラミン樹脂からなる外郭3中に相変化物質2としての上記エステル化合物が封入された、約9μmの粒径を有する蓄熱カプセル1の分散液1aを得た。この分散液1aをスプレードライして蓄熱カプセル1の粉末とし、石炭系活性炭ペレット(粒状吸着材6a)に対して当該蓄熱カプセル1の粉末を15質量%、バインダー5としてのメチルセルロースを2質量%の割合で添加した分散液を、上記石炭系活性炭ペレット(平均粒子径3mm)の表面にドラム式流動層スプレーコーティング装置を用いて、スプレーすることにより蓄熱機能付吸着材を得た。このように製造した蓄熱機能付吸着材の表面状態を示す電子顕微鏡写真(SEM写真)を図8に示す。図8では、蓄熱カプセル1自体を、バインダー5により吸着材6に付着させているため、吸着材の表面に非常に緻密な層が形成されていることがわかる。
【0050】
(実施例1)
上記比較例1における蓄熱カプセル1のカプセル化処理中において、図2(b)に示すように、分散液1aに、蓄熱カプセル1に対して0.2質量%のホルマリン(凝集剤9)および2質量%のポリビニルアルコール(被覆層11を形成するための樹脂10)を加え、80℃にて加熱処理後スプレードライにより蓄熱カプセル凝集体8の粉末とし、石炭系活性炭ペレット(粒状吸着材6a)に対して当該蓄熱カプセル凝集体8の粉末を15質量%、バインダー5としてのメチルセルロースを2質量%の割合で添加した分散液8aを、図1に示すように、上記石炭系活性炭ペレット(平均粒子径3mm)の表面にドラム式流動層スプレーコーティング装置を用いて、スプレーすることにより蓄熱機能付吸着材7を得た。すなわち、実施例1では、図2(b)に示す凝集処理としての添加凝集処理を行い、被覆層11を有する蓄熱カプセル凝集体8を粒状吸着材6aの表面に付着させている。
【0051】
(実施例2)
上記比較例1における蓄熱カプセル1の粉末を形成した段階において、図3に示すように、当該蓄熱カプセル1の粉末を、130℃で2時間、加熱凝集処理して、蓄熱カプセル凝集体8の粉末とし、石炭系活性炭ペレット(粒状吸着材6a)に対して当該蓄熱カプセル凝集体8の粉末を15質量%、バインダー5としてのメチルセルロースを2質量%の割合で添加した分散液8aを、図1に示すように、上記石炭系活性炭ペレット(平均粒子径3mm)の表面にドラム式流動層スプレーコーティング装置を用いて、スプレーすることにより蓄熱機能付吸着材7を得た。すなわち、実施例2では、図3に示す凝集処理としての加熱凝集処理を行い、蓄熱カプセル凝集体8を粒状吸着材6aの表面に付着させている。なお、この蓄熱機能付吸着材7の表面状態は、図5に示すように、粒状吸着材6aに付着した蓄熱カプセル凝集体8がバインダー5に覆われて(複数膨らんでいる箇所が、それぞれ蓄熱カプセル凝集体8が存在する箇所である)、確実に固定されている状態にある。
【0052】
(実施例3)
上記実施例2において、分散液8a中の石炭系活性炭ペレットに対する蓄熱カプセル凝集体8の添加割合を、20質量%とする以外は同様にして蓄熱機能付吸着材7を得た。すなわち、実施例3では、図3に示す凝集処理としての加熱凝集処理を行い、蓄熱カプセル凝集体8を粒状吸着材6aの表面に付着させている。
【0053】
(結果)
実施例1〜3により得られた蓄熱機能付吸着材7、および比較例1により得られた蓄熱機能付吸着材に対して、以下の方法でブタンワーキングキャパシティを測定した。ここで、ブタンワーキングキャパシティは、所定の条件下で、吸着対象としてのブタンガスの吸着および脱着を繰り返して、検査対象の吸着材がどの程度の量のブタンガスを吸着・脱着できるかを検出して、吸着材の吸着・脱着性能を知ることができる方法である。
具体的には、上記の各蓄熱機能付吸着材を500mlの金属製キャニスターに充填し、25℃で99%のn−ブタンを0.5L/minでダウンフローにて吸着させ、出口のブタン濃度が5000ppmに達した時に停止した。次に、室温で空気を7.5L/minで20分間上記金属製キャニスターにアップフローで流し、n−ブタンを脱着させた。この吸着・脱着を繰り返し行ない、その内の第4、5および6回目の吸着量および脱着量の値の平均値によって、ブタンワーキングキャパシティ(平均ブタン吸着・脱着量(g))を求めた。その結果を、表1に示す。
【0054】
【表1】

【0055】
したがって、表1に示すように、添加凝集処理を行った実施例1、加熱凝集処理を行った実施例2および3では、これら凝集処理を行わなかった比較例1と比較して、同条件下におけるブタンガスの吸着・脱着量が向上していることが判明した。これは、凝集処理を行って、比較的平均粒子径の大きな蓄熱カプセル凝集体8を粒状吸着材6aの表面に付着させていることにより、ブタンワーキングキャパシティーの測定時において比較的流速の速いダウンフローおよびアップフローを行った場合でも、蓄熱カプセル凝集体8によってブタンガスの通過路を閉鎖することなく、良好な吸着・脱着速度を維持することができ、吸着性能の低下が生じないことにより、ブタンガスの吸着・脱着量が向上しているものと考えられる。
一方、比較例1では、図8に示すように、吸着材6の表面に蓄熱カプセル1自体からなる緻密な層が形成され、ブタンガスが吸着材6に到達することを妨げられて、吸着・脱着速度が低下して、ブタンガスの吸着・脱着量が低下しているものと考えられる。
また、実施例2と実施例3は、同様の加熱凝集処理を行っているものの、蓄熱カプセル凝集体8の添加量が異なっていることから、当該添加量の多い実施例3の蓄熱機能付吸着材7では、蓄熱可能な蓄熱量が向上して、蓄熱性能が向上し、吸着・脱着量が向上しているものと考えられる。
よって、凝集処理を行って比較的大きい平均粒子径の蓄熱カプセル凝集体8を、バインダー5を用いて粒状吸着材6aの表面に付着させて蓄熱機能付吸着材7とすることにより、蒸散燃料等の吸着対象ガスが通過路を閉鎖されることなく、良好な吸着・脱着速度を維持することができ、吸着性能の低下が生じず、ブタンガスの吸着・脱着量が向上することが判明した。
【0056】
〔別実施形態〕
(1)
上記第1実施形態では、本方法により製造された蓄熱機能付吸着材7の用途は特に限定していないが、当該蓄熱機能付吸着材7を、特にキャニスターに用いることもできる。
ここで、キャニスターとは、一般に、車両等の内燃機関に供給される蒸散燃料(有機溶剤等)が外部(大気中など)に放出されるのを防止するために、車両の停車時等には余剰の蒸散燃料をケース内の吸着材6に吸着し、走行時等にはケース内に大気をパージガスとして導入して、吸着された蒸散燃料を脱着し、改めて内燃機関等に供給するものである。
【0057】
このようなキャニスターにおいては、蓄熱材と吸着材とを混合した蓄熱機能付吸着材をケース内に充填して用いることがあるが、この場合、蒸散燃料等の吸着・脱着に伴う若しくはキャニスターの振動に伴う蓄熱材と吸着材との分離・分級により接触面積が低下して、蓄熱性能が低下するおそれがある。
また、キャニスターにおいては、頻繁に蒸散燃料等の吸着・脱着が行われ、しかも、蒸散燃料等が当該キャニスターのケース内に流入、若しくはケース内から蒸散燃料等が流出する際には、できるだけ早く応答して吸着・脱着を行う必要がある。
【0058】
したがって、第1実施形態において説明した、吸着・脱着速度が高く、蓄熱カプセル凝集体8と吸着材6との分離・分級を防止することができる蓄熱機能付吸着材7を、キャニスターのケースに充填して用いると、長期間にわたり、良好な吸着・脱着速度を確保しつつ、吸着・脱着性能の低下を防止することができるキャニスターを得ることができる。
【0059】
なお、キャニスターは、ケース内にガソリン等の蒸散燃料が流通する流通路が設けられ、当該流通路の一端側の壁には、蒸散燃料が流入する流入口と蒸散燃料が流出する流出口とが設けられ、当該流通路の他端側の壁には、大気が流入する大気流入口が設けられている。
このようなキャニスターにおいては、車両停止時等には燃料タンクから流入口を通じて流入した蒸散燃料が、ケース内の流通路に充填された蓄熱機能付吸着材7に吸着され、車両走行時には当該吸着された蒸散燃料が、大気流入口から流入した大気により脱着させられて、当該蒸散燃料が流出口から内燃機関へ供給され燃焼させられる、という蒸散燃料の吸着・脱着操作が行われる。
【0060】
(2)
上記第1実施形態では、複数の蓄熱カプセル1を凝集させた蓄熱カプセル凝集体8を作成し、吸着材6(粒状吸着材6a)の表面に付着させた蓄熱機能付吸着材7としたが、上記凝集処理(加熱凝集処理、又は添加凝集処理)により蓄熱カプセル凝集体8を作成した後に吸着材6の表面に付着させたか、あるいは吸着材6の表面に蓄熱カプセル1を付着させた後に蓄熱カプセル凝集体8を作成したかなど、どのような処理をどのような順序で行ったかを問わず、上記凝集処理(加熱凝集処理、又は添加凝集処理)により作成された蓄熱カプセル凝集体8がバインダーにより吸着材6に付着されてなる蓄熱機能付吸着材7としてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本発明に係る蓄熱機能付吸着材の製造方法は、蓄熱カプセルを、バインダーを用いて吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材において、蒸散燃料等が吸着材へと到達する通過路を適切に確保して吸着・脱着速度の低下を防止して、良好な吸着・脱着性能を確保することができる技術として有効に利用可能である。
【符号の説明】
【0062】
1:蓄熱カプセル
1a:分散液
2:相変化物質
3:外郭
4:高分子化合物
5:バインダー
6:吸着材
7:蓄熱機能付吸着材
8:蓄熱カプセル凝集体
9:凝集剤
10:樹脂
11:被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質を高分子化合物からなる外郭中に封入してなる蓄熱カプセルを、バインダーを用いて吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材の製造方法であって、
複数の前記蓄熱カプセル同士を凝集させる凝集処理を行って蓄熱カプセル凝集体とする蓄熱カプセル凝集工程と、当該蓄熱カプセル凝集体を前記吸着材の表面に付着させる付着処理を行う付着工程とを含み、
前記凝集処理が、前記複数の蓄熱カプセルを110℃以上140℃以下の範囲内の加熱温度で加熱し、隣り合う前記複数の蓄熱カプセルの外郭を構成する高分子化合物同士の重合反応を進めて前記複数の蓄熱カプセル同士を凝集させ、前記蓄熱カプセル凝集体を得る加熱凝集処理である蓄熱機能付吸着材の製造方法。
【請求項2】
前記加熱凝集処理が、前記蓄熱カプセルが含まれる分散液を乾燥して、粉末状の蓄熱カプセルを完成した後に、前記粉末状の蓄熱カプセルに対して加熱を行う処理である請求項1に記載の蓄熱機能付吸着材の製造方法。
【請求項3】
温度変化に応じて潜熱の吸収および放出を生じる相変化物質を高分子化合物からなる外郭中に封入してなる蓄熱カプセルを、バインダーを用いて吸着材の表面に付着させてなる蓄熱機能付吸着材の製造方法であって、
複数の前記蓄熱カプセル同士を凝集させる凝集処理を行って蓄熱カプセル凝集体とする蓄熱カプセル凝集工程と、当該蓄熱カプセル凝集体を前記吸着材の表面に付着させる付着処理を行う付着工程とを含み、
前記凝集処理が、前記複数の蓄熱カプセルが含まれる分散液に凝集剤を添加し、前記蓄熱カプセル凝集体を得る添加凝集処理であり、
前記凝集剤が、アミン化合物、アルデヒド化合物、メチロール化合物、多官能エポキシ化合物、多官能イソシアネート化合物および金属塩からなる群より選択されるいずれか一つ以上である蓄熱機能付吸着材の製造方法。
【請求項4】
前記凝集剤の添加量が、前記蓄熱カプセルに対して0.1質量%以上3質量%以下である請求項3に記載の蓄熱機能付吸着材の製造方法。
【請求項5】
(前記蓄熱カプセル凝集体の平均粒子径:前記吸着材の平均粒子径)の比が、(1:30)以上(1:200)以下の範囲に設定されている請求項1〜4の何れか一項に記載の蓄熱機能付吸着材の製造方法。
【請求項6】
前記蓄熱カプセル凝集体の表面に、当該蓄熱カプセル凝集体における前記蓄熱カプセルの外郭を構成する高分子化合物が有する未反応基と反応する基を有する樹脂の被覆層を形成する請求項1〜5の何れか一項に記載の蓄熱機能付吸着材の製造方法。
【請求項7】
前記高分子化合物がメラミン樹脂であり、前記被覆層がポリビニルアルコールである請求項6に記載の蓄熱機能付吸着材の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の蓄熱機能付吸着材の製造方法により製造された蓄熱機能付吸着材。
【請求項9】
請求項1〜7の何れか一項に記載の蓄熱機能付吸着材の製造方法により製造された蓄熱機能付吸着材を、ケース内に充填してなるキャニスター。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−115792(P2011−115792A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−28983(P2011−28983)
【出願日】平成23年2月14日(2011.2.14)
【分割の表示】特願2007−5810(P2007−5810)の分割
【原出願日】平成19年1月15日(2007.1.15)
【出願人】(000000284)大阪瓦斯株式会社 (2,453)
【Fターム(参考)】