説明

蓄熱親水性繊維

【課題】 合成繊維でありながら水酸基に由来する十分な親水性を有し、かつ、太陽光などによって得られた熱を蓄えて繊維表面温度を高くすることができる、蓄熱性と親水性を兼ね備えた蓄熱親水性繊維を提供する。
【解決手段】 吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子と変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する熱可塑性樹脂からなる繊維であって、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子の含有量が繊維質量に対して0.1〜20質量%であり、変性ポリビニルアルコール樹脂の含有量が繊維質量に対して3〜40質量%であることを特徴とする蓄熱親水性繊維。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子と変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する熱可塑性樹脂からなる繊維であって、親水性と蓄熱性を兼ね備えた蓄熱親水性繊維に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、合成繊維に吸湿性、放湿性等の親水性を付与した繊維は、衣料、生活資材や産業資材分野において各種の繊維が提案されている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ポリビニルピロリドンやポリエーテルエステルアミドをポリアミドに含有させて吸放湿性(吸湿性と放湿性を有していること)を発現させているポリアミド繊維が提案されている。また、特許文献2では、ポリエチレンオキサイドの架橋物からなる熱可塑性吸水性樹脂をポリアミドやポリエステル中に含有させて吸放湿性を発現させている繊維が提案されている。
【0004】
しかしながら、これらの繊維に含有されている吸放湿性成分は水酸基を有していないため、これらの繊維は、天然繊維のような水酸基由来の親水性、吸放湿性を有しておらず、使用する用途によっては、吸水性、吸放湿性能が不十分である場合があった。
【0005】
これに対して、特許文献3では変性ポリビニルアルコール樹脂を熱可塑性樹脂にブレンドすることで吸水性や吸放湿性を発現させている繊維が提案されている。この変性ポリビニルアルコール樹脂は天然繊維と同様に水酸基を有しているため、十分な吸水性や吸放湿性が得られることが報告されており、インナー、靴下、スキーウェア等の衣料分野や土木建設資材用途や水産資材等各種用途への利用が示されている。
【0006】
衣料分野や産業資材分野において、寒冷地で使用されることも多いが、これらの繊維を低温下で使用すると、物性低下が生じやすく、特に土木建設資材用途や水産資材用途においては必要な強度を維持することが困難となるという問題があった。また、水産資材用途のうち海苔等の海藻類養殖網に用いられる場合、繊維に付着した海藻類胞子の発芽、育成には繊維の温度が高いほうが好ましく、蓄熱性に優れた繊維が求められていた。
【特許文献1】特開平7−150414号
【特許文献2】特開平8−260244号
【特許文献3】特開2005−120529号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記のような問題点を解決し、親水性と蓄熱性とを兼ね備え、寒冷地で使用しても物性低下が生じにくく、衣料用途や産業資材用途における種々の用途に好適に使用することができ、特に、海苔等の海藻類養殖網等の水産資材用途に用いると、繊維に付着した海藻類胞子の発芽や育成に優れた効果を発揮することができる蓄熱親水性繊維を提供することを技術的な課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、上記課題を解決するために検討した結果、本発明に到達した。
【0009】
すなわち、本発明は、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子と変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する熱可塑性樹脂からなる繊維であって、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子の含有量が繊維質量に対して0.1〜20質量%であり、変性ポリビニルアルコール樹脂の含有量が繊維質量に対して3〜40質量%であることを特徴とする蓄熱親水性繊維を要旨とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明の蓄熱親水性繊維は、吸水性物質として水酸基を有する変性ポリビニルアルコールを含有するため、吸水性能に優れ、親水性が向上した親水性繊維とすることができる。さらに、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子を含有するため、太陽光などによって得られた熱を蓄えて繊維の表面温度を高くすることができ、蓄熱性と親水性とを兼ね備えた蓄熱親水性繊維とすることができる。このため、インナー、靴下、スキーウェア等の衣料用途、ロープ、ネット及び植生用資材等の土木建設資材用途、海苔等の海藻類養殖網や人工藻場といった水産資材用途等の各種の用途に好適に使用することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0012】
本発明の繊維を構成する主体となる熱可塑性樹脂としては、ポリアミド、ポリエステル、ポリオレフィン等が好ましい。
【0013】
ポリアミドとしては、ポリイミノ−1−オキソテトラメチレン(ナイロン4)、ポリテトラメチレンアジパミド(ナイロン46)、ポリカプラミド(ナイロン6)、ポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)、ポリウンデカナミド(ナイロン11)、ポリラウロラクタミド(ナイロン12)、ポリメタキシレンアジパミド、ポリパラキシリレンデカナミド、ポリビスシクロヘキシルメタンデカナミド等が挙げられる。そして、これらの共重合体やブレンド体であってもよい。中でも、安価で優れた強力と耐久性を有するナイロン6が好ましい。
【0014】
ポリオレフィンとしては、炭素原子数2〜18の脂肪族α−モノオレフィン、例えばエチレン、プロピレン、ブテン−1、ペンテン−1,3−メチルブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1、ドデセン−1、オクタデセン−1からなるホモポリオレフィンが挙げられる。脂肪族α−モノオレフインは、他のエチレン系不飽和モノマー、例えばブタジエン、イソプレン、1,3−ペンタジエン、スチレン、α−メチルスチレンのような類似のエチレン系不飽和モノマーが共重合されたポリオレフィンであってもよい。また、ポリエチレンの場合には、エチレンに対してプロピレン、ブテン−1、ヘキセン−1、オクテン−1又は類似の高級α−オレフィンが10質量%以下共重合されたものであってもよく、ポリプロピレンの場合には、プロピレンに対してエチレン又は類似の高級α−オレフィンが10質量%以下共重合されたものであってもよい。
【0015】
ポリエステルとしては、テレフタル酸、イソフタル酸、ナフタリン−2,6−ジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸あるいはアジピン酸、セバシン酸等の脂肪族ジカルボン酸又はこれらのエステル類を酸成分とし、エチレングリコール、ジエチレングリコール、1,4−ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、シクロヘキサン−1,4−ジメタノール等をジオール成分とするホモポリエステルあるいは共重合体やこれらのブレンド体が挙げられる。また、D-乳酸及び/またはL-乳酸を主成分とする乳酸を重合してなるポリ乳酸であってもよい。なお、これらのポリエステルには、パラオキシ安息香酸、5−ソジウムスルホイソフタル酸、ポリアルキレングリコール、ペンタエリススリトール、ビスフエノールA等が添加あるいは共重合されていてもよい。
【0016】
なお、本発明において、上記したような繊維形成性を有する熱可塑性樹脂には、必要に応じて、例えば酸化チタン、酸化ケイ素、炭酸カルシウム、チッ化ケイ素、クレー、タルクなどの各種無機粒子や架橋高分子粒子、各種金属粒子などの粒子類のほか従来公知の酸化防止剤、抗酸化剤、着色防止剤、耐光剤、包接化合物、帯電防止剤、各種着色剤、各種界面活性剤、各種強化繊維類等の各種添加剤を本発明の効果を損なわない範囲内で添加されていてもよい。
【0017】
そして、本発明の繊維は、上記したような熱可塑性樹脂中に変性ポリビニルアルコール樹脂を含有しているものである。変性ポリビニルアルコールの含有量は、繊維質量に対して3〜40質量%であり、より好ましくは5〜30質量%である。3質量%未満であると、十分な吸水性能を有さず、親水性を有する繊維とすることが困難となる。一方、40質量%を超えると、製糸性が悪くなったり、強伸度等の物性値が低下しやすくなるため、好ましくない。
【0018】
また、変性ポリビニルアルコール樹脂は、熱可塑性樹脂中にブレンド(混合)されて含有されていることが好ましい。すなわち、熱可塑性樹脂中に変性ポリビニルアルコール樹脂が独立した層として存在するのではなく、熱可塑性樹脂中に均一に変性ポリビニルアルコール樹脂がブレンドされていることが好ましく、本発明の繊維は、このようなブレンド体を紡糸して繊維としたものであることが好ましい。これにより、変性ポリビニルアルコール樹脂が繊維中から剥落、溶出することを防ぐことができ、吸水性能の耐久性が向上する。
【0019】
次に、本発明の繊維に含有する変性ポリビニルアルコール樹脂としては、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールが好ましい。オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、具体的には、酢酸ビニルと、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル、ポリオキシプロピレン(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルとを共重合し、ついでケン化することにより得られる。この場合、ポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルの共重合割合(含有量)は0.1〜20モル%、中でも0.1〜5モル%とすることが好ましく、ポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテルにおけるポリオキシアルキレンの縮合度は1〜300、中でも3〜50とすることが好ましく、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール全体に占めるオキシアルキレン単位の割合が3〜40質量%であることが好ましい。このことは、共重合体におけるオキシアルキレン単位の局在−非局在の程度およびオキシアルキレン単位の長さに最適範囲があることを示している。
【0020】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールにおける酢酸ビニル単位のケン化度は50〜100モル%、さらには70〜99モル%が好ましく、ポリビニルアルコールの平均重合度は150〜1500、さらには200〜1000が好ましい。なお、共重合成分としてポリオキシアルキレン(メタ)アリルエーテル以外の成分が本発明の目的を損なわない範囲で含有されていてもよく、例えばα−オレフィン(エチレン、プロピレン、長鎖α−オレフィン等)、エチレン性不飽和カルボン酸系モノマー、(アクリレート、メタクリレート、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、塩化ビニル、ビニルエーテル等)等を30モル%以下程度であれば含有してもよい。
【0021】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールを得るときの重合方法としては通常、溶液重合法が採用され、場合により懸濁重合法、エマルジョン重合法などを採用することもできる。ケン化反応としては、アルカリケン化法、酸ケン化法などが採用される。
【0022】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは上記のほか、酢酸ビニルと、ポリオキシエチレン(メタ)アクリレート、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリレート、ポリオキシエチレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシプロピレン(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレン(1−(メタ)アクリルアミド−1,1−ジメチルプロピル)エステル、ポリオキシエチレンビニルエーテル、ポリオキシプロピレンビニルエーテル、ポリオキシエチレンアリルアミド、ポリオキシプロピレンアリルアミド、ポリオキシエチレンビニルアミド、ポリオキシプロピレンビニルアミドなどを共重合し、ついでケン化することによっても得ることができる。
【0023】
この他、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、ポリビニルアルコールに対するアルキレンオキシドの反応、あるいはポリオキシアルキレングリコールに対する酢酸ビニルの重合およびそれに引き続くケン化によっても得ることができる。
【0024】
このようにして得られたオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールは、さらに、(1)融点が50〜250℃のフェノール系化合物、(2)チオエーテル系化合物、(3)ホスファイト系化合物のうちの1種以上をオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールに対して0.01〜5.0質量%、中でも0.1〜0.5質量%添加することが好ましい。これにより、熱安定性を向上させることができる。これらの添加量が0.01質量%未満では熱安定性の向上が期待できず、5.0質量%を超える場合は親水性の低下を招きやすい。
【0025】
(1)融点が50〜250℃のフェノール系化合物としては、2,5−ジ−t−ブチルハイドロキノン、2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール、4,4′−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、2,2′−メチレン−ビス(4−メチル−6−t−ブチルフェノール)、テトラキス−[メチレン−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニルプロピオネート]メタン、オクタデシル−3−(3′,5′−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4′−チオビス−(6−t−ブチルフェノール)、N,N′−ヘキサメチレン−ビス(3,5−ジ−t−ブチル−4′−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、ペンタエリスチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−t−ブチルフェニル)ブタンなどが挙げられる。
【0026】
(2)チオエーテル系化合物としては、ペンタエリスリトール−テトラキス−(β−ラウリルチオプロピオネート)、テトラキス[メチレン−3−(ドデシルチオ)プロピオネート]メタン、ビス[2−メチル−4−{3−n−アルキルチオプロピオニルオキシ}−5−t−ブチルフェニル]スルフィド等が挙げられる。
【0027】
(3)ホスファイト系化合物としては、トリフェニルホスファイト、トリス(p−ノニルフェニル)ホスファイト、トリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ホスファイト、ジフェニルイソオクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイトやフェニルジイソオクチルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリイソオクチルホスファイト、トリステアリルホスファイト、その他のテトラキス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)−4,4′−ビフェニレンホスホナイト、ジ(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト等が挙げられる。
【0028】
さらには、本発明におけるオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールには、(4)炭素数が10以上の脂肪酸あるいはその塩、脂肪酸アミド系化合物、脂肪酸エステル系化合物の少なくとも1種をオキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールに対して0.01〜3.0質量%、中でも0.1〜0.5質量%添加することが好ましく、これにより熱安定性がさらに向上する。
【0029】
(4)炭素数10以上の脂肪酸あるいはその塩とは、ラウリン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、オレイン酸、リシノール酸、アラキジニン酸、ベヘニン酸、エルカ酸等の高級脂肪酸または、ヒドロキシステアリン酸、ヒドロキシリシノール酸等のヒドロキシ脂肪酸、あるいはこれらのマグネシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、亜鉛等の金属塩等が挙げられ、中でもステアリン酸、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸カルシウム、ベヘニン酸マグネシウムが実用的である。また、(4)の脂肪酸アミド系化合物とは、ステアリン酸アミド、パルミチン酸アミド、オレイン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エルカ酸アミド等の脂肪酸アミドあるいはメチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスステアリン酸アミド等のアルキレンビス脂肪酸アミドが挙げられる。さらに、脂肪酸エステル系化合物とは、ブチルステアレート、ブチルパルミチレート等の1価アルコールの脂肪酸エステル、エチレングリコールモノステアレート等の多価アルコールの脂肪酸エステル等が挙げられる。
【0030】
オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコールに(1)〜(4)の化合物を添加する方法としては、常用の方法、即ち撹拌機付き溶融缶、押出機、ロール混練機等を用いて溶融混合し、ペレット化することが好ましい。溶融混合温度は160〜250℃、中でも180〜230℃とすることが好ましい。
【0031】
前記したように変性ポリビニルアルコール樹脂を熱可塑性樹脂中に添加して混合する際には、変性ポリビニルアルコールに各種の成分を含有させたペレットを作成した後、熱可塑性樹脂中に添加し、溶融混合してもよいが、(1)〜(4)の各成分を前以て変性ポリビニルアルコール中に溶融ブレンドしたペレットとせず、変性ポリビニルアルコール樹脂、(1)〜(4)の各成分、熱可塑性樹脂をそれぞれ添加して直接溶融混合してもよい。
【0032】
また、変性ポリビニルアルコール樹脂中には、発明の効果を損なわない範囲で他のポリマーを配合することもでき、また、可塑剤、充填剤、着色剤、安定剤をはじめ、種々の添加剤を配合することもできる。
【0033】
さらに、本発明の繊維は、上記したような熱可塑性樹脂中に吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子を含有しているものである。
【0034】
吸光熱変換機能とは、太陽光線や電燈等の光を吸収して熱エネルギーに変換する機能をいう。このような吸光熱変換機能を有するセラミックとしては、例えばチタン、ジルコニウム、ハフニウムの如き周期律表第IV族の遷移金属の炭化物や、珪素、ホウ素、タンタルなどの炭化物、チタン、珪素、クロム、ジルコニウム、鉄、銅などの酸化物や、雲母、方解石などの結晶体、カーボンブラックなどを挙げることができる。特に好ましいものは、吸光熱変換機能力の大きい周期律表第IV族の遷移金属の炭化物である。
【0035】
これらの吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子は、粒径が10μm 以下、中でも1μm 以下の微粒子とすることが好ましい。粒子が大きすぎると、繊維に含有させる場合に製糸工程での濾材の目詰まりや、糸切れなどによる可紡性の低下などの問題が生じる。また、たとえ紡糸を行うことができても、延伸工程でも糸切れが発生しやすくなる。
【0036】
吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子の含有量は、繊維質量に対して0.1〜20質量%であり、より好ましくは1〜10質量%である。0.1質量%未満であると、目的とする蓄熱保温性が得られず、20質量%を超えると、操業性が悪化し、得られる繊維の強度も低下しやすくなる。
【0037】
吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子を熱可塑性樹脂中に含有させる方法としては、紡糸時にセラミック微粒子と熱可塑性樹脂とを直接混合して溶融紡糸する方法、予め熱可塑性樹脂と吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子とをニーダなどの混練機や混合機などで混合したものを溶融紡糸する方法がある。
【0038】
本発明の繊維は、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子と変性ポリビニルアルコール樹脂とを含有する1種類の熱可塑性樹脂のみからなる単一型のものであっても、また、2種類以上の熱可塑性樹脂からなる複合型のものであってもよい。
【0039】
本発明の繊維を複合型の繊維(複合繊維)とする場合、複合形状としては、芯鞘型やサイドバイサイド型等の貼り合わせ型や海島型等の形状のものが挙げられる。中でも芯鞘型の複合繊維とすることが好ましい。
【0040】
なお、本発明の繊維を上記のような複合繊維とする場合も、変性ポリビニルアルコールの含有量を繊維質量に対して3〜40質量%、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子の含有量を繊維質量に対して0.1〜20質量%とする。
【0041】
本発明の繊維を芯鞘型の複合繊維とする場合、少なくとも鞘部を構成する熱可塑性樹脂中に変性ポリビニルアルコール樹脂が含有されていることが好ましい。つまり、繊維に吸水性等の親水性を付与するには、繊維の表面に変性ポリビニルアルコール樹脂が存在するほうが、より効果的であるからである。
【0042】
また、本発明の繊維を芯鞘型の複合繊維とする場合、少なくとも芯部に吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子が含有されていることが好ましい。つまり、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子が芯部に含有されていると、変換された熱エネルギーによって繊維内部から温められるため蓄熱効果が高くなるためである。
【0043】
さらに、本発明の繊維が芯鞘型の複合繊維である場合、芯鞘複合比(質量比)は、芯/鞘=80/20〜20/80、中でも40/60〜60/40とすることが好ましい。芯鞘複合比が上記範囲外であると、製糸性に劣ったり、強伸度等の物性値が低下しやすくなり、好ましくない。
【0044】
本発明の繊維は、マルチフィラメント、モノフィラメントのいずれでもよく、繊維を構成する単繊維の断面形状はいかなるものでもよく、例えば丸、楕円、3角、多葉形状、正方形、長方形、菱形、繭型、馬蹄型等を挙げることができ、これらの形状を一部変更したものであってもよい。また、これら各種断面形状の繊維を適宜組み合わせて用いることができる。
【0045】
本発明の繊維がマルチフィラメントの場合、マルチフィラメントを構成する単糸の繊度は3.3〜22dtex、マルチフィラメントの総繊度は55〜2200dtexが好ましい。
【0046】
本発明の繊維がモノフィラメントの場合、モノフィラメントの単糸繊度は、産業資材用途として撚糸して用いる場合は、集束性、耐久性及び製織性等の点から55〜1100dtexが好ましく、さらには220〜670dtexとすることが好ましい。
【0047】
次に、本発明の繊維の製造方法について一例を用いて説明する。
【0048】
本発明の繊維を芯鞘型複合繊維とする場合、を変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する熱可塑性樹脂及び吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子を含有する熱可塑性樹脂を用いて、常用の複合紡糸装置を使用して溶融紡糸を行う。
【0049】
マルチフィラメントの場合、まず、紡糸装置より溶融紡糸し、紡出糸条を冷却装置で冷却し、紡糸油剤を付与した後、引き取りローラで未延伸糸として引き取る。冷却風の温度や風量、引き取りローラの速度等は特に限定されるものではなく、適宜選定される。この未延伸糸を一旦捲き取ってから延伸する二工程法、糸条を延伸することなく高速で捲き取り、高配向未延伸糸を得る方法、捲き取ることなく連続して延伸する直接紡糸延伸法によって目的とする繊維を得る。延伸を行う際には、1段又は2段以上の多段延伸を行う。延伸方法や延伸温度、延伸倍率等は、繊維を構成する重合体の種類や所望の強伸度特性等を考慮して適切に選定される。また、延伸された糸条は、必要に応じて熱処理や弛緩処理が行われた後、巻き取られる。
【0050】
また、モノフィラメントの場合、紡糸装置より溶融紡糸し、紡出されたモノフィラメントを液体等で冷却し、次いで、冷却固化したモノフィラメントを一旦巻き取った後又は巻き取ることなく延伸する。延伸は、1段又は2段以上の多段延伸を行い、延伸後、気体中で弛緩熱処理を行い、巻き取る。
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。実施例中の各種の特性値については以下のようにして測定、評価を行った。
A.ポリアミドの相対粘度:
96%硫酸を溶媒とし、濃度1g/dl、温度25℃で測定した。
B.ポリエステルの相対粘度:
フェノールとテトラクロロエタンとの等質量混合溶液を溶媒とし、濃度0.5g/100cc、温度20℃の条件で常法により測定した。
C.吸水性(cm):
得られた繊維を33“28Gの丸編機(福原精機株式会社製LPJ−H型)を用い、インターロック組織にて目付150g/mの織物に編成して試料とし、この試料を温度25℃、相対湿度60%の条件下で2時間調湿した後、JIS L−1907(繊維製品の吸水性試験方法)に記載されたバイレック法に従い、10分後の水の吸い上げ高さを測定した。
D.蓄熱保温性:
得られた繊維の平織物(緯糸密度113本/2.54cm、経糸密度77本/2.54cm)とPET繊維(84dtex/36f)の平織物(緯糸密度113本/2.54cm、経糸密度77本/2.54cm)とを金属版に貼り、常温より昇温し、60℃で30分間保持後、自然冷却して、15℃に保持し、写真用100W白色光源を照射し、織物の表面温度を赤外線映像装置(日本電子社製サーモビュアJTG−IB/IBT型)で観察し、両織物の表面温度差を測定した。
【0052】
参考例
〈変性ポリビニルアルコール樹脂の製造方法〉
オキシアルキレンの縮合度が平均20のポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテルと酢酸ビニルとをメタノール中でアゾビスイソブチロニトリルの存在下に共重合し、ついで残存モノマーを追い出した後、水酸化ナトリウムのメタノール溶液を加えてケン化した。ケン化反応により生じたスラリーから共重合体をろ別し、メタノールで3回洗浄を行い、ついで、酢酸ナトリウム1モルあたり1.5モルの酢酸を加えた後、再びメタノールで2回洗浄を行い、酢酸ナトリウム含有量を0.07質量%、酢酸0.026質量%(酢酸ナトリウム1モルに対して0.5モル)に調整した後、乾燥して、オキシアルキレン基含有ポリビニルアルコール系樹脂(以下、EO−PVAと略記する)を得た。
このポリマーの平均重合度は270、ポリオキシエチレン(メタ)アリルエーテル単位の共重合割合は1.0モル%、ポリマー全体に占めるオキシアルキレン単位の割合は16.1質量%、酢酸ビニル成分のケン化度は96モル%、酢酸ナトリウム含有量は0.07質量%、酢酸含有量は0.026質量%であった。
上記で得たEO−PVAにフェノール系化合物として、融点120℃のペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]を0.3質量%添加し、ラウンドダイを備えた二軸押出機に供給し、温度210℃で押出してペレット状の変性ポリビニルアルコール樹脂を得た。
【0053】
実施例1
相対粘度が2.6であるナイロン6チップに上記参考例で得られた変性ポリビニルアルコールを含有量が繊維全体の5質量%となるように添加、均一に溶融混合し、さらに、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子として粒径0.7μmの炭化ジルコニウム微粒子(ZrC)を用い、含有量が繊維全体の5質量%となるように均一に溶融混合して混合組成物を得た。この混合組成物を1軸エクストルダーに連続供給し、245℃で溶融して、24孔の紡糸孔を有する紡糸口金を載置した溶融紡糸装置を用いて、紡糸温度を260℃として溶融紡糸を行った。紡出糸条に冷却装置より15℃の空気を吹き付けて冷却し、油剤を付与した後、4000m/分の速度で巻き取り、繊度が78dtex、フィラメント数が24本、丸断面のマルチフィラメント(高配向未延伸糸)を得た。
【0054】
実施例2〜3、比較例1〜4
変性ポリビニルアルコール、炭化ジルコニウム微粒子の添加量を変更し、繊維中の含有量が表1に示す値となるように種々変更した以外は、実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。
【0055】
実施例4
吸光熱変換機能力を有するセラミック微粒子として、酸化鉄(Fe2O3)を用い、繊維中の含有量が表1に示す値となるようにした以外は実施例1と同様にしてマルチフィラメントを得た。
【0056】
実施例5
相対粘度が2.6であるナイロン6チップに上記参考例で得られた変性ポリビニルアルコールを含有量が繊維全体の10質量%となるように添加、均一に溶融混合して親水性樹脂組成物を得た。また、同様にして相対粘度が2.6であるナイロン6チップに粒径0.7μmの炭化ジルコニウム微粒子(ZrC)を含有量が繊維全体の3質量%となるように均一に溶融混合してセラミック混合組成物を得た。この親水性樹脂組成物を鞘成分、セラミック混合組成物を芯成分とし、通常の複合紡糸装置を使用して芯成分:鞘成分の質量比が1:1となるようにして溶融紡糸を行った。このとき、紡糸温度を260℃とし、24孔の紡糸孔を有する紡糸口金を載置する溶融紡糸装置を用いた。紡出糸条に冷却装置にて15℃の空気を吹き付けて冷却し、油剤を付与した後、4000m/分の速度で巻き取り、繊度が78dtex、フィラメント数が24本、丸断面のマルチフィラメント(高配向未延伸糸)を得た。
【0057】
実施例6
相対粘度が1.41のPETを用い、上記参考例で得られた変性ポリビニルアルコールを含有量が繊維全体の20質量%となるように添加、均一に溶融混合し、さらに、粒径0.7μmの炭化ジルコニウム微粒子(ZrC)を含有量が繊維全体の5質量%となるように均一に溶融混合して混合組成物を得た。この混合組成物を1軸エクストルダーに連続供給し、36孔の紡糸孔を有する紡糸口金を載設した溶融紡糸装置を用いて、紡糸温度を290℃として溶融紡糸を行った。紡出糸条に冷却装置にて15℃の空気を吹き付けて冷却し、油剤を付与した後、1400m/分の速度で温度90℃の引き取りローラで引き取り、続いて温度130℃の最終延伸ローラに掛けて3.0倍延伸し、4200m/分の速度で捲き取り、繊度が84dtex、フィラメント数が36本の丸断面のマルチフィラメント(高配向未延伸糸)を得た。
【0058】
比較例5
相対粘度が1.41のPETに、炭化ジルコニウム微粒子(ZrC)を添加しなかった以外は実施例6と同様にしてマルチフィラメントを得た。
【0059】
【表1】

【0060】
表1から明らかなように、実施例1〜6の繊維は操業性よく得ることができ、吸水性(親水性)、蓄熱保温性ともに優れていた。
一方、比較例1の繊維は変性ポリビニルアルコールの含有量が少ないため、吸水性が低く、親水性が十分ではなかった。また、比較例2の繊維は変性ポリビニルアルコールの含有量が多すぎたため、紡糸、延伸時に糸切れが多発し、繊維を採取することができなかった。また、比較例3、5の繊維はセラミック微粒子を含有していなかったため、蓄熱保温性に劣っていた。比較例4の繊維はセラミック微粒子の含有量が多すぎたため、紡糸、延伸時に糸切れが多発し、繊維を採取することができなかった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子と変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する熱可塑性樹脂からなる繊維であって、吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子の含有量が繊維質量に対して0.1〜20質量%であり、変性ポリビニルアルコール樹脂の含有量が繊維質量に対して3〜40質量%であることを特徴とする蓄熱親水性繊維。
【請求項2】
吸光熱変換機能を有するセラミック微粒子と変性ポリビニルアルコール樹脂を含有する熱可塑性樹脂からなる繊維が芯鞘型の複合繊維である請求項1記載の蓄熱親水性繊維。


【公開番号】特開2007−56411(P2007−56411A)
【公開日】平成19年3月8日(2007.3.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−244362(P2005−244362)
【出願日】平成17年8月25日(2005.8.25)
【出願人】(399065497)ユニチカファイバー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】