説明

蓄電デバイス用電極の製造方法

【課題】乾燥時間を大幅に短縮できる蓄電デバイス用電極の製造方法を提供すること。
【解決手段】電極活物質を主体とする電極活物質層が集電体上に形成された蓄電デバイス用の電極を製造する方法であって、以下の工程を包含する。少なくとも前記電極活物質とバインダとを含む固形分材料の凝集物が所定の溶媒に分散されてなる電極活物質層形成用ペーストを調製する工程、前記ペーストを前記集電体上の表面に塗布する工程、前記ペーストが塗布された前記集電体を乾燥することにより前記ペースト中の固形分材料からなる前記電極活物質層を形成する工程。ここで、上記ペーストを調製する工程において、ペーストにおける固形分材料の割合が60〜80質量%で、粒径が20μm以下の前記凝集物の存在比率が99個数%以上、かつ、25℃、せん断速度40s−1における粘度が200〜5000mPa・s、となるように調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電デバイス用電極の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池や電気二重層キャパシタおよびこれらの複合体(典型的にはリチウムイオンキャパシタ)等に代表される蓄電デバイスの重要性が高まっている。特に、軽量で高エネルギー密度が得られるリチウムイオン二次電池は、車両搭載用高出力電源として好ましく用いられる。
リチウム二次電池の一つの典型的な構成では、電荷担体となるリチウムイオンを可逆的に吸蔵および放出し得る電極活物質を含む電極活物質層が導電性部材(集電体)に保持された電極を備えている。また、電気二重層キャパシタの一つの典型的な構成では、陽イオンまたは陰イオンを吸着してイオンと電荷の層(電気二重層)を形成し得る活性炭等の分極材料(活物質ともいう。)を含む電極層が導電性部材(集電体)に保持された電極(分極性電極)を備えている。これらの電極は、代表的には、まず、電極活物質(上記の分極材料を含む。以下同じ。)と、高導電性の導電材と、バインダ(結着剤)等の固形分材料を適切な溶媒に分散させて電極活物質層形成用ペースト状組成物(スラリー状、インク状を含む。以下、かかる組成物を単に「ペースト」という。)を調製し、このペーストを集電体の表面に層状に塗布する。次いでこの塗布したペーストを乾燥させて溶媒を除去し、集電体上に電極活物質を含む電極活物質層を形成することで、製造するようにしている。
【0003】
このような蓄電デバイス用電極の製造に関しては、電極活物質層形成用ペーストに含ませる電極活物質の形態を制御することで、得られる電極および蓄電デバイスの諸性能を向上させる試みが多数なされている。
例えば、特許文献1は、リチウムイオン二次電池の正極活物質であるリチウム遷移金属複合酸化物を特定の化学的組成とすることと相俟って、累積体積−粒度分布曲線において、累積体積分率が20%における曲線の勾配と、累積体積分率が80%における曲線の勾配とをそれぞれ特定の範囲にすることにより、このリチウム遷移金属複合酸化物粒子を用いた電極製造のプレス時に、粒子の圧縮流動が容易となり、高容量の電極が製造できることを開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2001/092158号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記のとおりの活物質粒子等の電極材料の形態の改良は、電極性能の向上を目的としてなされるものであった。すなわち、これまで、電極(製造対象物)ではなく、製造方法を改良することを目的として、電極材料の形態を積極的に変化させたり制御する試みはなされていなかった。
【0006】
本発明は、かかる従来の状況を鑑みて創出されたものであり、その目的とするところは、電極活物質層形成用ペーストの分散状態を制御することで、その乾燥に要する時間およびエネルギーを低減させることができる蓄電デバイス用電極の製造方法を提供することである。また、本発明の他の一の目的は、かかる蓄電デバイス用電極の製造方法を含めた蓄電デバイスの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この出願の発明者らは、蓄電デバイス用電極の製造工程における乾燥に費やす熱量および時間の効率化を図るべく高速乾燥の実現に鋭意研究を重ねてきた。その結果、電極活物質層形成用ペーストを集電体上に塗布して得られた塗膜の高速乾燥には、高速乾燥の条件(および設備)を緻密に制御することよりも、当該塗布材料たる電極活物質層形成用ペーストの状態を最適なものに制御することが極めて有効であることを見出した。本発明は、この知見によりなされたものである。
【0008】
すなわち、ここに開示される蓄電デバイス用電極の製造方法は、電極活物質を主体とする電極活物質層が集電体上に形成された蓄電デバイス用の電極を製造する方法である。かかる製造方法は、少なくとも上記電極活物質とバインダとを含む固形分材料の凝集物が所定の溶媒に分散されてなるペースト状組成物である電極活物質層形成用ペーストを調製する工程、上記ペーストを上記集電体上の表面に塗布する工程、上記ペーストが塗布された上記集電体を乾燥することにより上記ペースト中の固形分材料からなる上記電極活物質層を形成する工程、を包含する。
【0009】
そしてここに開示される蓄電デバイス用電極の製造方法では、上記のペーストを調製する工程において、以下の(A)〜(C)を必須の要件として含むように、ペーストの調製を行っている。
(A)上記ペーストにおける固形分材料の割合が60〜80質量%
(B)粒径が20μm以下の上記凝集物の存在比率が99個数%以上
(C)25℃、せん断速度40s−1(又はそれ以下)における粘度が200〜5000mPa・s
【0010】
かかる構成によれば、電極活物質層形成用ペーストの状態を上記(A)〜(C)のとおりに制御することで、ペーストの高速乾燥が可能となり、乾燥に要するエネルギーおよび熱量を低減するとともに、時間を大幅に短縮して蓄電デバイス用の電極を製造することができる。したがって、特殊な設備および機器等を必要とすることなく、高効率な蓄電デバイス用電極の製造方法が提供されることになる。また、乾燥工程に要する時間、エネルギー、熱量等が削減されることで、コストの低減にもつながり得る。
【0011】
また、上記のペーストを調製する工程では、上記凝集物の存在比率が99個数%以上(すなわち、実質的に全て)となる粒径を、上記電極活物質のレーザ回折散乱法による平均粒径の2倍以下に設定するようにしてもよい。かかる構成によると、電極活物質として微細な粒径を有する材料を用いた場合でも、電極活物質層形成用ペーストの状態をより適切に制御することが可能となる。
【0012】
ここに開示される蓄電デバイス用電極の製造方法の好ましい一態様では、上記乾燥は、温度70〜150℃、時間50〜150秒、風速1〜15m/秒の条件で行うことにより実施し得る。かかる構成によると、形成される電極活物質層にしわやひび割れ等を発生させることなく、上記ペーストを高速に乾燥させることができる。したがって、より効率の良い蓄電デバイス用電極の製造方法が提供される。
【0013】
例えば、上記ペーストの上記集電体への塗布量(目付量)を25〜50mg/cmとした場合に、上記乾燥の時間を120秒以下にすることができる。これは、従来乾燥に要していた時間が450秒程度であることを考慮すると、およそ1/3〜1/4程度であり、乾燥時間を大幅に短縮できることになる。
【0014】
ここに開示される蓄電デバイス用電極の製造方法では、上記の固形分材料として、さらに導電材を添加することも好ましい。このような固形分材料は、電極活物質と導電材とバインダとの質量比で、電極活物質:導電材:バインダ=97〜80:2〜15:1〜5となるように配合し得る。かかる構成によると、例えば、電極活物質として、導電性の低い材料を用いた場合であっても、電極活物質層形成用ペーストの固形分材料として導電材を含むことができる。また、その配合が大きく制限されることはない。
【0015】
したがって、例えば、上記電極活物質として、リチウム遷移金属酸化物等のリチウムイオン二次電池用の正極を構成する正極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池用の正極を製造し得る。あるいは、上記電極活物質としてシリコン等に代表される金属化合物材料等のリチウムイオン二次電池用の負極を構成する負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池用の負極を製造し得る。また、上記電極材料として活性炭等に代表される電気二重層キャパシタ用の電極を構成する分極材料(活物質)を用いることにより、電気二重層キャパシタ用の負極を製造し得る。かかる構成により、所望の性能を有する多様な構成の蓄電デバイス用電極を、高効率かつ少ないエネルギーで製造することができる。
【0016】
ここで開示される蓄電デバイス用電極の製造方法は、上記のとおりの構成により、各種の蓄電デバイス用の電極(正極および負極)の製造に好ましく採用し得る。具体的には、例えば、高容量特性や、充放電サイクル特性、ハイレート充放電特性等の性能に優れた蓄電デバイス用電極を、高効率かつ少ないエネルギーで製造することができる。そしてさらに、本発明は、ここで開示される蓄電デバイス用電極の製造方法により得られた電極を使用する、蓄電デバイスの製造方法を提供し得る。この電極を使用する蓄電デバイスは、例えば、車両に搭載されるモーター駆動の動力源(電源)等として使用される二次電池あるいはキャパシタ等として、適した性能を備え得る。このように、本発明によると、所望の優れた特性を備える蓄電デバイスを、高効率かつ少ないエネルギーで製造する方法の提供が可能とされる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】一実施形態に係る電極製造装置の概略構成を模式的に示す説明図である。
【図2】一実施形態に係る蓄電デバイス(ここでは、リチウムイオン二次電池)の外形を模式的に示す斜視図である。
【図3】図2中のIII−III線に沿う縦断面図である。
【図4】一実施形態に係る正極活物質層形成用ペーストにおける凝集物の粒度分布を示す図である。
【図5】一実施形態に係る正極活物質層形成用ペーストにおける粒径20μm以下の凝集物の存在頻度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0019】
なお、本明細書において「蓄電デバイス」とは、二次電池、キャパシタ(コンデンサともいう)等に代表される繰り返し充電可能なデバイス一般をいう。典型的には、リチウムイオン二次電池(リチウムイオンポリマー電池を含む)、ニッケル水素電池、ニッケル−カドミウム電池、鉛蓄電池、ニッケル−亜鉛電池等の二次電池、リチウムイオンキャパシタ、電気二重層キャパシタ等のキャパシタを包含する。つまり、本発明に関して「蓄電デバイス」は、二次電池等のいわゆる化学反応(ファラデー反応)を蓄電機構とするものに限定されず、電気二重層キャパシタ等の化学反応を伴わない(非ファラデー反応)いわゆる物理現象(誘電分極)を蓄電機構とするもの(物理電池ともいう。)をも含み得る。
さらに、本明細書において「活物質」は、上記蓄電デバイスにおいて各電極を構成し得る電極材料を包含する。例えば、二次電池において活物質は、電荷担体となる化学種(例えば、リチウムイオン二次電池ではリチウムイオン)を可逆的に吸蔵および放出(典型的には挿入および離脱)可能な物質をいう。また、例えば、キャパシタにおいて活物質は、電解質イオン(陽イオン、陰イオン)を吸着および脱着可能な物質をいう。
【0020】
以下、本実施形態に係る蓄電デバイス用電極の製造方法を説明する。ここでは、蓄電デバイス用電極の一実施形態として、リチウムイオン二次電池用の正極の製造を例にして説明を行う。かかる正極は、正極活物質を主体とする正極活物質層が集電体上に形成された構成である。以下に、正極の製造に用いる材料について説明した後、正極の製造方法について詳しく説明する。
【0021】
<正極集電体>
正極集電体は、従来の非水電解液二次電池(典型的にはリチウムイオン二次電池)の正極に用いられる集電体と同様、導電性の良好な金属からなる導電性部材を用いることができる。例えば、アルミニウム、ニッケル、チタン、鉄等を主成分とする金属またはその合金等を用いることができる。より好ましくは、アルミニウムまたはアルミニウム合金である。正極集電体の形状については特に制限はなく、所望の二次電池の形状等に応じて様々なものを考慮することができる。例えば、棒状、板状、シート状、箔状、メッシュ状等の種々の形態のものであり得る。典型的には、シート状のアルミニウム製の正極集電体が用いられる。
【0022】
<正極活物質層>
正極活物質層は、上記正極集電体の表面に形成される。正極活物質層は、正極活物質を主体とし、これがバインダによって固められて正極集電体上に固着されている。正極活物質層には、必要に応じて、導電材が含まれる。
【0023】
<正極活物質>
正極活物質としては、本発明の目的を実現し得る性状の正極活物質である限りにおいて、その組成や形状に特に制限はない。典型的な正極活物質として、リチウムおよび少なくとも1種の遷移金属元素を含む複合酸化物が挙げられる。例えば、コバルトリチウム複合酸化物(LiCoO)、ニッケルリチウム複合酸化物(LiNiO)、マンガンリチウム複合酸化物(LiMn)等である。この他、ニッケル・コバルト系のLiNiCo1−x(0<x<1)、コバルト・マンガン系のLiCoMn1−x(0<x<1)、ニッケル・マンガン系のLiNiMn1−x(0<x<1)やLiNiMn2−x(0<x<2)で表されるような、遷移金属元素を2種含むいわゆる二元系リチウム含有複合酸化物であってよい。また、一般式:
Li(LiMnCoNi)O
(前式中のa、x、y、zはa+x+y+z=1を満足する実数)
で表わされるような、遷移金属元素を3種含むいわゆる三元系リチウム含有複合酸化物、および、一般式:
xLi[Li1/3Mn2/3]O・(1−x)LiMeO
(前式中、Meは1種または2種以上の遷移金属であり、xは0<x≦1を満たす)
で表わされるような、いわゆる固溶型のリチウム過剰遷移金属複合酸化物等であってもよい。
【0024】
また、上記正極活物質として一般式がLiMAO(ここでMは、Fe,Co,NiおよびMnから成る群から選択される少なくとも1種の金属元素であり、Aは、P,Si,SおよびVから成る群から選択される元素である。)で表記されるポリアニオン型化合物も挙げられる。
このような正極活物質を構成する化合物は、例えば、公知の方法で調製して用意することができる。例えば、目的の正極活物質の組成に応じて適宜選択されるいくつかの原料化合物を所定の割合で混合し、その混合物を適切な手段によって焼成する。これにより、正極活物質を構成する化合物としての酸化物を調製することができる。なお、正極活物質(典型的には、リチウム含有複合酸化物)の調製方法は、それ自体は何ら本発明を特徴づけるものではない。
【0025】
また、正極活物質の形状等について厳密な制限はないものの、上記のとおり調製された正極活物質は、適切な手段で粉砕、造粒および分級することができる。これにより、所望する平均粒径および/または粒度分布を有する二次粒子によって実質的に構成される粒状の正極活物質粉末を得ることができる。そしてここに開示される製造方法では、後述する活物質層形成用ペーストの分散性を考慮して、正極活物質は粒径(二次粒子)が20μm以下の範囲のものを用いるようにするとよい。例えば、正極活物質の平均粒径としては、2〜10μm程度であるのが好ましい。より好ましくは、平均粒径は4〜7μm程度である。なお、ここに開示される電極に関して、「平均粒径」とは、特記しない限り、レーザ散乱・回折法に基づく粒度分布測定装置に基づいて測定することができる粒度分布における、積算値50%での粒径を意味する。積算値50%の粒径とは、粒子サイズが小さいものから粒子数を数え、全粒子数のちょうど真ん中の順番にあたる粒子の粒径である(個数基準)。
【0026】
<導電材>
ここで開示される正極に形成される正極活物質層に導電材を含ませる場合には、導電材は、特定のものに限定されることはなく、従来この種の蓄電デバイスで用いられている各種の導電材を用いることができる。例えば、カーボン粉末やカーボンファイバー等のカーボン材料が導電材として用いられる。カーボン粉末としては、種々のカーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ファーネスブラック、ケッチェンブラック)、グラファイト粉末、等のカーボン粉末を用いることができる。これらのうち一種又は二種以上を併用してもよい。導電材の二次粒子の平均粒径は、活物質の平均粒径の1/500〜1/20程度であることが好ましい。
【0027】
<バインダ>
バインダは、正極活物質層に含まれる上記正極活物質と導電材の各粒子を結着させたり、これらの粒子と正極集電体とを結着させたりする働きを有する。かかるバインダとしては、正極活物質層を形成する際に使用する溶媒に溶解または分散可能なポリマーを用いることができる。
例えば、この溶媒として水性溶媒を用いる場合には、水に溶解する(水溶性の)ポリマー材料として、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、酢酸フタル酸セルロース(CAP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)等のセルロース系ポリマー;ポリビニルアルコール(PVA);等が例示される。また、水に分散する(水分散性の)ポリマー材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のビニル系重合体;ポリエチレンオキサイド(PEO)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、テトラフルオロエチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重含体(PFA)等のフッ素系樹脂;酢酸ビニル共重合体;スチレンブタジエンゴム(SBR)、アクリル酸変性SBR樹脂(SBR系ラテックス)等のゴム類等が例示される。
また、溶媒として非水溶媒を用いる場合には、ポリマー(ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、ポリアクリルニトリル(PAN)など)を好ましく採用することができる。
【0028】
なお、バインダとして例示したポリマー材料は、バインダとしての機能の他に、電極活物質層を形成するために調製する電極活物質層形成用ペースト(以下、単にペーストという場合もある)の増粘剤その他の添加剤としての機能を発揮する目的で使用されることもあり得る。
<溶媒>
溶媒としては、水性溶媒および非水溶媒の何れも使用可能である。水性溶媒としては、水または水を主体とする混合溶媒(水系溶媒)を用いた組成物が例示される。混合溶媒を構成する水以外の溶媒としては、水と均一に混合し得る有機溶媒(低級アルコール、低級ケトン等)の一種又は二種以上を適宜選択して用いることができる。非水溶媒の好適な例としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)が挙げられる。
【0029】
≪蓄電デバイス用電極の製造≫
本発明の一実施形態に係る蓄電デバイス用電極の製造方法について、以下に詳しく説明する。ここでは、特にリチウムイオン二次電池の正極の製造を例にして説明する。この正極の製造方法は、以下の工程を包含する。
ペースト調製工程:少なくとも正極活物質とバインダとを含む固形分材料の凝集物が所定の溶媒に分散されてなる正電極活物質層形成用ペーストを調製する。
塗布工程:上記ペーストを正極集電体の表面に塗布する。
乾燥工程:上記ペーストが塗布された正極集電体を乾燥することにより、ペースト中の固形分材料からなる正極活物質層を形成する。
【0030】
≪ペースト調製工程≫
ペースト調製工程においては、正極活物質層を形成する際に用いる正極活物質層形成用ペーストを調製する。すなわち、具体的には、上記の正極活物質と、バインダと、典型的には導電材とを含む固形分材料を、所定の溶媒に分散させて、正極活物質層形成用ペーストを作製する。固形分材料の溶媒への分散は、例えば、上記の正極活物質、導電材、バインダ等の固形分材料と、必要に応じて分散剤、増粘剤等の各種の添加剤と、溶媒とをミキサーに投入し、混練する。ミキサーとしては、活物質層形成用ペーストの調製に用いられる一般的な混練機を用いることができる。例えば、ニーダー、撹拌機、分散機、混合機などと呼ばれるペーストの調製が可能な装置等を使用できる。
【0031】
上記の固形分材料における配合は、本発明の目的を達する範囲であれば特に限定されるものではない。おおよその目安として、例えば、導電材を用いる場合は、正極活物質(電極活物質)100質量部に対して凡そ1〜30質量部(好ましくは、およそ2〜20質量部、例えば5〜15質量部程度)とすることが例示される。導電材については、電極活物質に予め含有(混合、被覆、担持など)させておいてもよい。また、バインダについては、正極活物質100質量部に対して、例えば0.5〜10質量部とすることができる。さらに、例えば、固形分材料として電極活物質と導電材とバインダとを用いる際には、これらが質量比で、電極活物質:導電材:バインダ=97〜80:2〜15:1〜5となるように配合するのが好ましく、さらには、95〜86:3〜10:2〜4とするのがより好ましい。
【0032】
このペーストにおいて、正極活物質、バインダおよび導電材といった固形分材料は互いに凝集して凝集物を形成し得る。そしてこの凝集物が、溶媒中に分散している。ここに開示される製造方法は、このペーストの調製状態(分散状態)により特徴づけられる。すなわち、ペーストが、以下の(A)〜(C)の特徴を有するように、均質かつ高度に分散するよう調製している。
(A)ペーストにおける固形分材料の割合が60〜80質量%
(B)粒径が20μm以下の上記凝集物の存在比率が99個数%以上
(C)25℃、せん断速度40s−1(又はそれ以下)における粘度が200〜5000mPa・s
【0033】
<A:固形分材料の割合>
上記(A)では、ペーストの固形分材料の割合を60〜80質量%に規定している。この割合は、一般的な正極活物質層形成用ペーストにおける固形分材料の割合(典型的には、50〜60質量%)と比較して、十分に高い値である。ここに開示された製造方法では、ペーストにおける固形分材料の割合が多い、すなわち溶媒の量が少ないほど、後の乾燥工程において溶媒の除去(乾燥)に費やす時間およびエネルギーを削減できるために好ましい。そのため、ペーストにおける固形分材料の割合は60質量%以上とすることが欠かせない。固形分材料の割合が60質量%以上でないと、例えば、乾燥時間の短縮の効果は得られ難い。しかしながら、ペーストにおける固形分材料の割合が多すぎる(すなわち溶媒の量が少なすぎる)と、次工程である塗布工程において、集電体表面へのペーストの塗工性が損なわれるために好ましくない。塗工性が悪いと、たとえば、形成される正極活物質層の表面状態が乱れたり、乾燥工程においてひび割れが生じやすくなったり、正極活物質層の集電体表面への固着性が低下したりしてしまう。したがって、固形分材料の割合は80質量%以下とする。ペーストの固形分材料の割合は、好ましくは、65〜75質量%であり、さらに好適には、68〜72質量%である。
【0034】
<B:凝集物の粒径>
上記(B)は、ペースト中に分散されている凝集物の大きさを規定している。一般的には、上記(A)で規定するペーストの固形分材料の割合を達成するためには、ペースト中に含まれる正極活物質や凝集物の粒径を大きくすることが効果的であると考えられる。すなわち、凝集物の粒径を大きくして表面積を減少させ、溶媒量(例えば、DBP吸油量等でも評価し得る)を低下させるものである。しかしながら、凝集物の粒径を大きくすることは、電極性能の向上に背反するために好ましくない。そこで、ここに開示されるペーストにおいては、凝集物の粒径については20μm以下の大きさのものの存在比率(個数%)で規定するようにしている。凝集物の粒径を20μm以下とし、この凝集物をペースト中に高度に分散させることで、電極性能を維持しつつ上記(A)で規定するペーストの固形分材料の割合を実現している。この凝集物の粒径および存在比率は、例えば、レーザ回折散乱法による粒度分布測定装置を利用して測定することができる。なお、ペーストにおける固形分材料の割合(固形分濃度)が高い場合は、レーザ回折散乱法による測定は困難となる。しかしここに開示されるペーストにおいて該凝集物は高度に分散されているため、測定用の試料ペーストを希釈(例えば50倍に希釈)することで、凝集物の粒径に影響を与えない状態で粒度分布を測定することができる。
【0035】
そしてここに開示される製造方法においては、粒径が20μm以下の凝集物の存在比率が99個数%以上となるようにペーストを調製する。これは、例えば、混練後のペーストを目開きが20μmのフィルターを通過させることで調製することができる。かかる構成とすることで、後の乾燥工程において、例えば固形分材料の割合が60質量%以上のペーストから溶媒を乾燥させるのに費やす時間を著しく削減することができる。粒径が20μm以下の凝集物の存在比率は、99.7個数%以上であることが好ましく、より限定的には99.8個数%以上、さらには100個数%であることがより好ましい。
【0036】
<C:ペーストの粘度>
上記(C)は、ペーストの25℃、せん断速度40s−1における粘度を規定している。なお、この粘度は、粘弾性測定装置(レオメータ)を用いて測定することができる。例えば、アントンパール社製の回転型レオメータ(MCR301等)等を用いることで精度よく測定することができる。一般的な正極活物質層形成用ペーストにおいて、200〜5000mPa・sという粘度は標準的な粘度範囲を含み得る。すなわち、集電体へのペーストの塗工性が良好な範囲に設定され得る。しかしながら、一般的には、ペーストが上記(A)および(B)の条件を満たす場合に粘度は非常に高い値となり、5000mPa・s以下の値を実現するのは極めて困難である。
【0037】
正極活物質層形成用ペーストにおいて、通常、正極活物質粒子は、多数個がバインダおよび導電材粒子等とともに凝集して凝集物を形成する。この凝集物としての大きさ(粒径)は、微細な粒径を有する正極活物質を用いることで小さくすることもできる。しかし一方で、ペーストにおける固形分材料の割合が高くなればなるほど凝集物同士の間隔が狭くなり、凝集物は互いに凝集し合って巨大化したり、粘度が上昇する傾向がある。そのため、たとえ微細な粒径を有する正極活物質を用いた場合であっても、上記(A)〜(C)の要件を満たすことは、容易なことではない。
【0038】
これに対して、ここに開示される製造方法において正極活物質層形成用ペースト中に分散される凝集物は、そのほとんどが、正極活物質粒子同士が凝集した形態のものではない。かかる凝集物は、上記(B)で述べた通り、基本的には単一の正極活物質粒子にバインダおよび導電材粒子等が凝集して凝集物を形成するように調製されている。すなわち、ここに開示されるペーストにおいて、正極活物質粒子はほとんどが凝集することなく、高度に分散された状態を維持している。高濃度なペーストにおける高度な分散は、例えば適切な分散剤をペーストの調整時に適時に投入する等して、凝集物の粒度分布範囲を管理することにより実現され得る。これにより、ここに開示される製造方法では、上記(A)で規定される固形分材料の割合が60質量%以上のペーストにおいて、上記(B)に規定されるように99個数%以上の凝集物の粒径を20μm以下に保ち、さらに上記(C)の25℃、せん断速度40s−1において200〜5000mPa・sという粘度を、同時に実現することを可能としている。ペーストの25℃、せん断速度40s−1における粘度は、400〜3000mPa・sとするのが好ましく、さらには、500〜1500mPa・sとすることができる。
【0039】
なお、上記(B)において、凝集物の大きさ(粒度分布の範囲)を規定するための基準となる「粒径20μm」は、例えば、10μm〜20μm程度の範囲で変更し得る。すなわち、ここに開示される製造方法において、ペースト中の正極活物質粒子は、概ね互いに凝集することなく、高度に分散された状態を維持するよう調製される。したがって、用いる正極活物質の粒径によっては、正極活物質粒子同士が凝集しない状態となるように上記の凝集物の大きさを規定するための粒径を変更してもよい。このような粒径は、たとえば、用いる正極活物質の平均粒径の2倍程度の大きさを目安に設定することができる。この「平均粒径の2倍」とは、活物質粒子が単一で存在するか、あるいは活物質粒子同士が数個程度までなら低い確率で凝集しても許容され得る範囲として想定されている。また、用いる正極活物質の粒度分布を考慮してもいる。具体的には、例えば、平均粒径7μmの正極活物質を用いる場合には、凝集物の大きさを規定するための粒径を14μmとしてもよい。すなわち、上記(B)の条件は、粒径が14μm以下の凝集物の存在比率が99個数%以上となるよう調製する、と考えることができる。
【0040】
≪塗布工程≫
上記の活物質層形成用ペーストの集電体への塗布は、公知の各種の塗工装置を用いて行うことができる。例えば、コーターを用いて、集電体の片面または両面にペーストを塗布することができる。コーターとしては、ペーストを集電体に塗布可能なものであればよく、例えば、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ロールコーターや、ドクターブレードによるコーター、コンマコーターなどを用いることができる。
【0041】
図1は、長尺状の集電体表面に正極活物質層形成用ペーストを塗布し、乾燥させて正極活物質層を形成する、電極製造装置100を示す図である。図1に示すように、電極製造装置100は、概略的には、巻出ロール105、ペースト塗布部120、乾燥炉125および巻取ロール110を備えている。電極製造装置100は、正極集電体62を巻出ロール105から送り出し、ペースト塗布部120において、調製したペーストを正極集電体62上に塗布する。このペースト塗布部120には、上記のとおり公知の塗工装置を備えている。ペースト塗布部120では、例えば、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーター等の適当な塗付装置を使用することによって、正極集電体62上に上記のペーストを好適に塗布することができる。
正極集電体62への正極活物質の塗布量は、例えば、目的の電極を備える二次電池の用途に応じて任意に設定することができる。例えば、10〜50mg/cm程度の範囲内で適宜に設定することができる。
【0042】
図1に示すように、正極集電体62上に正極活物質層64が形成された正極シート66(正極)は、巻取ロール110に巻き取られる。なお、正極シート66は、必要に応じてプレス(圧縮)してもよい。プレス(圧縮)方法としては、従来公知のロールプレス法、平板プレス法等の圧縮方法を採用することができる。これにより、正極活物質層64の厚さを調製することができる。正極活物質層64の厚さを調製するにあたり、膜厚測定器で該厚みを測定し、プレス圧を調製して所望の厚さになるまで複数回圧縮してもよい。
【0043】
≪乾燥工程≫
乾燥工程では、上記のとおり正極集電体の表面に塗布されたペーストから溶媒を除去し、ペーストの乾燥を行う。例えば、図1の例では、ペーストが塗布された正極集電体62は、テンションローラ115によって一定のテンションが加えられた状態で乾燥炉125内へと送り出される。そして、乾燥炉125を通過させながら、正極集電体62上に形成された正極活物質層形成用ペーストから溶剤を蒸発させて乾燥させる。これにより、集電体上に正極活物質層を形成することができる。
【0044】
ここに開示される製造方法では、乾燥はいわゆる高速乾燥を採用し得る。乾燥温度は、バインダの融点以下とすることが望ましく、50℃〜175℃程度であり得る。好ましくは70℃〜150℃である。また、乾燥時間はペーストの塗布量に依存するため限定することは困難であるが、例えば、10〜50mg/cm程度の目付量の場合には450秒未満の範囲で設定するのを目安とすることができる。代表的には、40秒〜300秒程度であり、好ましくは50秒〜150秒である。また、風速が1〜15m/秒程度の送風を伴っても良い。このような高速での乾燥は、具体的には、50℃〜175℃の設定温度に設定した炉内に、例えば、1〜15m/秒程度の風速で送風しながら、40〜300秒間かけて上記ペーストを塗布した正極集電体62を通過させることで、実施することができる。例えば、上記ペーストの集電体への塗布量(目付量)を25〜50mg/cmとした場合には、このような高速乾燥を行うことにより、乾燥の時間を120秒以下にすることができる。この場合の乾燥時間は、たとえば、90秒以下、さらには72秒以下のレベルにまで短縮することができる。
【0045】
上記の高速乾燥は、通常の乾燥条件(乾燥条件:温度100〜130(℃)、時間90〜180(s)、風速8〜12(m/秒)等)と比較して、乾燥時間を大幅に短縮できる。したがって、短時間で効率的な乾燥が実現可能とされる。そしてここにされた製造方法では、上記のとおりの高速での乾燥に適した状態に正極活物質層形成用ペーストの分散状態を制御している。したがって、高速乾燥に供した場合であっても、正極活物質層は正常に乾燥され、例えば、しわや、ひび割れ等が発生することはない。これは、例えば正極活物質層形成用ペーストの目付量を40mg/cm以上と多量に設定した場合であっても同様に、高速で高品質な乾燥を行うことができる。なお、ここに開示される製造方法により調製されていない一般的な正極活物質層形成用ペーストを上記の高速乾燥に供すると、乾燥の途中に正極活物質層の表面にしわや、ひび割れが生じたりする事態となる。このようなしわおよびひび割れの発生は、正極の電極機能を著しく低下させるものとなる。したがって、一般的な正極活物質層形成用ペーストを高速乾燥に供するには、何らかの特別な乾燥手段、乾燥条件を考慮することが不可欠となる。
【0046】
なお、ここに開示された製造方法において、上記乾燥を行う手段としては、余分な揮発成分を除去できるものであれば特に限定されない。例えば、熱風装置、各種赤外線装置、電磁誘導装置、マイクロ波装置等の適当な乾燥装置を使用することができる。
これにより、電極活物質層形成用ペーストの乾燥のための時間および必要なエネルギーが低減された二次電池用電極の製造方法が実現される。またこの製造方法により得られる二次電池用電極は、バインダおよび導電材の均一分布により耐久性が向上されてもいる。
【0047】
≪二次電池の構築≫
次に、上記正極を使用してリチウムイオン二次電池を製造する方法の一形態を説明する。まず、上述した正極(正極シート66)と組み合わせて使用するのに適する負極、セパレータ等について説明する。ここで製造されるリチウムイオン二次電池は、従来と同様の構成をとり得る。かかる負極を構成する負極集電体としては、例えば、銅、ニッケル、チタン、ステンレス鋼等を主体とする合金材を用いることが好ましい。負極集電体の形状は、正極の形状と同様で棒状体、板状体、箔状体、シート状体、網状体等であり得る。典型的にはシート状のものを用いることができる。
【0048】
負極に形成される負極活物質層に含まれる負極活物質としては、リチウムを吸蔵および放出可能な材料であれば特に制限はされない。例えば、典型例として、黒鉛等から成る粉末状の炭素材料が挙げられる。例えば、黒鉛粒子を好ましく用いることができる。その他、具体的には、例えばSi、Ti、Ge、Sn、Pb、Al、Ga、In、Zn、As、Sb、Bi等の金属またはこれらの金属元素を主体とする金属合金、もしくは金属化合物(好ましくはリチウム・チタン酸化物(LiTi12)等の金属酸化物)からなる金属材料、を構成金属元素とするとしてもよい。また、例えば、表面が炭素被膜によって充分に被覆された導電性に優れた粒状負極活物質を好適に用いることもできる。この場合、負極活物質層に導電材を含有させないか、あるいは従来よりも導電材の含有率を低減させることができる。
【0049】
負極に形成される負極活物質層には、上記負極活物質の他に、例えば上記正極活物質層に配合され得る一種又は二種以上の材料を必要に応じて含有させることができる。そのような材料として、上記の正極活物質層の構成材料として列挙したようなバインダ(結合剤)、導電材および分散剤等として機能し得る各種の材料を同様に使用し得る。なお、バインダについては水系のものに限定されることなく、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)等の溶剤系バインダを用いることもできる。
【0050】
負極の作製においても、典型的には、少なくとも負極活物質とバインダとを含む固形分材料を従来と同様の適当な溶媒(水、有機溶媒等)に分散させてなる負極活物質層形成用ペーストを調製する。そして調製した負極活物質層形成用ペーストを負極集電体に塗布し、乾燥させた後、必要に応じて圧縮(プレス)することによって、負極集電体と該負極集電体上に形成された負極活物質層とを備える負極を作製することができる。この負極の製造も、ここに開示される電極の製造方法に従って実施してもよいし、従来と同様の方法で製造しても良い。従来法については、本発明を特徴付けるものではないため、詳細な説明は省略する。
【0051】
また、正極と負極とともに使用されるセパレータとしては、従来と同様のセパレータを使用することができる。例えば、樹脂からなる多孔性シート(微多孔質樹脂シート)を好ましく用いることができる。かかる多孔性シートの構成材料としては、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン等のポリオレフィン系樹脂が好ましい。
【0052】
特に、PEシート、PPシート等の単層シート、PE層とPP層とが積層された二層構造シート、二層のPP層の間に一層のPE層が挟まれた形態の三層構造シート等、の多孔質ポリオレフィンシートを好適に使用し得る。なお、電解質として固体電解質もしくはゲル状電解質を使用する場合には、セパレータが不要な場合(すなわちこの場合には電解質自体がセパレータとして機能し得る。)があり得る。
【0053】
電解質としては、従来からリチウムイオン二次電池に用いられる非水系の電解質(典型的には電解液)と同様のものを特に限定なく使用することができる。かかる非水系の電解質は、典型的には、適当な非水溶媒(有機溶媒)に電解質として機能し得るリチウム塩を含有させた組成を有する。上記電解質には、従来からリチウムイオン二次電池に用いられるリチウム塩を適宜選択して使用することができる。
【0054】
かかるリチウム塩として、LiPF、LiClO、LiAsF、Li(CFSON、LiBF、LiCFSO等が例示される。かかる電解質は、一種のみを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。特に好ましい例として、LiPFが挙げられる。上記非水溶媒として、エチレンカーボネート(EC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ジメチルカーボネート(DMC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)等のカーボネート類が例示される。かかる非水溶媒は、一種のみを単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0055】
以下、ここに開示される蓄電デバイス用電極の製造方法で製造された正極シート(正極)を備えるリチウムイオン二次電池を製造する方法の一形態を図面を参照しつつ説明するが、本発明をかかる実施形態に限定することを意図したものではない。即ち、ここに開示される蓄電デバイス用電極の製造方法で製造された電極が採用される限りにおいて、使用される電極活物質の組成や形態、構築される蓄電デバイスの種類や形状(外形やサイズ)には特に制限されない。例えば、蓄電デバイスとしてリチウムイオン二次電池を製造する場合は、電池外装ケースは角型形状、円筒形状等の形状でもよく、あるいは小型のボタン形状であってもよい。また、外装がラミネートフィルム等で構成される薄型シートタイプであってもよい。以下の実施形態では角型形状の電池について説明する。
【0056】
なお、以下の図面において、同じ作用を奏する部材、部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略することがある。また、各図における寸法関係(長さ、幅、厚さ等)は、必ずしも実際の寸法関係を反映するものではない。
図2は、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池を模式的に示す斜視図である。図3は、図2中のIII−III線に沿う縦断面図である。図2および図3に示すように、本実施形態に係るリチウムイオン二次電池10は、上記の構成材料(正負極それぞれの活物質、正負極それぞれの集電体、セパレータ等)を具備する電極体50と、該電極体50および適当な非水系の電解質(典型的には電解液)を収容する角型形状(典型的には扁平な直方体形状)の電池ケース15とを備える。
【0057】
ケース15は、上記扁平な直方体形状における幅狭面の一つが開口部20となっている箱型のケース本体30と、その開口部20に取り付けられて(例えば溶接されて)該開口部20を塞ぐ蓋体25とを備えている。ケース15を構成する材質としては、一般的なリチウムイオン二次電池で使用されるものと同様のものを適宜使用することができ、特に制限はない。例えば、金属(例えばアルミニウム、スチール等)製の容器、合成樹脂(例えばポリオレフィン系樹脂等、ポリアミド系樹脂等の高融点樹脂等)製の容器等を好ましく用いることができる。本実施形態に掛かるケース15は例えばアルミニウム製である。
【0058】
蓋体25は、ケース本体30の開口部20の形状に適合する長方形状に形成されている。さらに、蓋体25には、外部接続用の正極端子60と負極端子70とがそれぞれ設けられており、これらの端子60,70の一部は蓋体25からケース15の外方に向けて突出するように形成されている。また、従来のリチウムイオン二次電池のケースと同様に、蓋体25には、電池異常の際にケース15内部で発生したガスをケース15の外部に排出するための安全弁(図示せず)が設けられている。安全弁は、ケース15内部の圧力が所定レベルを超えて上昇したときに、開弁してケース15の外部にガスを排出する機構を備えていれば特に制限無く使用することができる。
【0059】
本実施形態では、図3に示すように、リチウムイオン二次電池10は、捲回電極体50を備えている。電極体50は、捲回軸が横倒しとなる姿勢(すなわち、上記開口部20が捲回軸に対して横方向に位置する向き)でケース本体30に収容されている。電極体50は、長尺シート状の正極集電体62の表面に正極活物質層64が形成された正極シート(正極)66と、長尺シート状の負極集電体(電極集電体)72の表面に負極活物質層(電極活物質層)74が形成された負極シート(負極)76とを2枚の長尺状のセパレータシート80とともに重ね合わせて捲回し、得られた電極体50を側面方向から押しつぶして拉げさせることによって扁平形状に形成されている。
【0060】
また、捲回される正極シート66において、その長手方向に沿う一方の端部には正極活物質層64が形成されずに正極集電体62が露出している、他方、捲回される負極シート76においても、その長手方向に沿う一方の端部は負極活物質層74が形成されずに負極集電体72が露出している。そして、正極集電体62の上記露出している端部に正極端子60が接合され、上記扁平形状に形成された捲回電極体50の正極シート66と電気的に接続されている。同様に、負極集電体72の上記露出している端部に負極端子70が接合され、負極シート76と電気的に接続されている。なお、正負極端子60,70と正負極集電体62,72とは、例えば、超音波溶接、抵抗溶接等によりそれぞれ接合され得る。
上記構成の捲回電極体50を構成する材料および部材自体は、正極または負極として、ここで開示される電極の製造方法に従って製造された電極(ここでは正極シート66)を採用すること以外は、従来のリチウムイオン二次電池の電極体と同様でよく特に制限はない。
【0061】
本実施形態では、上記作製した正極シート66および負極シート76を2枚のセパレータ(例えば多孔質ポリオレフィン樹脂)80とともに積み重ね合わせて捲回する。これにより、得られた捲回電極体50の捲回軸が横倒しとなるように、ケース本体30内に捲回電極体50を収容する。そして、適当な支持塩(例えばLiPF等のリチウム塩)を適当量(例えば濃度1M)含むECとDMCとの混合溶媒(例えば質量比1:1)のような非水電解液を注入する。その後、ケース本体30の開口部20に蓋体25を装着し封止することによって本実施形態のリチウムイオン二次電池10を構築することができる。ケース本体30の開口部20の封止は、例えば、ケース本体30に蓋体25を溶接するとよい。この場合、溶接は、例えばレーザ溶接で行なうとよい。
【0062】
上述した実施形態では、正極シート66の製造に際してここに開示されたリチウムイオン二次電池用電極の製造方法が適用されている。かかる形態は、正極に限定されず、例えば、リチウムイオン二次電池の負極の製造に対しても適用することができる。また、上述した実施形態では、リチウムイオン二次電池10を例示したが、本発明は、リチウムイオン二次電池に限られず、その他の蓄電デバイスの製造にも適用することができる。例えば、ニッケル水素電池等の二次電池の電極(正極および負極)やリチウムイオンキャパシタや電気二重層キャパシタ等のキャパシタの電極(正極および負極)に対しても適用することができる。これによると、電極の製造において高速乾燥が可能となり、乾燥時間が大幅に短縮されるため、乾燥に要する時間およびエネルギーが大幅に低減される。したがって、二次電池の製造に際しても、製造時間およびエネルギーの削減を図ることが可能とされる。
【0063】
(実施例)
以下、具体的ないくつかの実施例として、上述した製造方法によって蓄電デバイス用電極(ここではリチウムイオン二次電池用正極)を構築し、その製造方法の評価を行った。
【0064】
≪正極の製造方法≫
<正極活物質層形成用ペーストの調製工程>
まず、リチウムイオン二次電池用正極を製造するための正極活物質層形成用ペーストを調製した。すなわち、正極活物質、導電材およびバインダからなる固形分材料を、正極活物質:導電材:バインダの配合が質量比で91〜93:6〜4:3となる範囲内で配合した。これら固形分材料を必要に応じて分散剤とともに所定量の溶媒と混合、撹拌し、固形分材料の凝集物を溶媒中に十分に分散させることで、正極活物質層形成用ペーストを調製した。
固形分材料には、以下の材料を用いた。
正極活物質:LiNi1/3Mn1/3Co1/3(平均粒径:10μm)
導電材:アセチレンブラック(AB)(平均一次粒径:48nm)
バインダ:ポリフッ化ビニリデン(PVDF)
また、溶媒には、N−メチルピロリドン(NMP)を用い、分散剤には塩基性トリアジン誘導体を用いた。
【0065】
<塗布工程>
次に、正極集電体として厚さ15μmのアルミニウム箔を用意し、上記の正極活物質層形成用ペーストを正極集電体の両面に塗布した。正極集電体へのペーストの塗布量(目付量)は、乾燥後の正極活物質層が集電体の片面で20mg/cm、両面の合計で40mg/cmとなるように塗布した。
<乾燥工程>
その後、ペーストを塗布した集電体を高速乾燥に供した。高速乾燥は、トンネル式の乾燥炉内をペーストを塗布された集電体が通過する間に施される。乾燥炉内は、入口から第1ゾーン、第2ゾーン、第3ゾーンに分けられており、各ゾーンには電極の両方の面にそれぞれ送風が可能なように複数のスポットファンが配置されている。また、各ゾーン毎に、乾燥温度、スポットファンのon/offおよび風速等の条件を設定することができる。高速乾燥の条件は、急激な乾燥を避けるため、乾燥炉入り口側の第1ゾーンのみ乾燥温度100℃で、電極の下面側の2台のみファンを作動させてそれぞれ風速5m/秒の送風を行うようにした。続く第2ゾーン、第3ゾーンでは、乾燥温度150℃、電極の上面側3台、下面側2台のファンを作動させてそれぞれ風速5m/秒の送風を行うものとした。
乾燥後、塗布物をプレスして正極活物質層を備える正極シートを作製した。
【0066】
≪活物質層形成用ペーストの評価≫
<正極活物質層形成用ペースト中の凝集物の粒度分布>
正極活物質層形成用ペーストにおける固形分材料の配合は、正極活物質:導電材:バインダの質量比で91〜93:6〜4:3とし、ペーストにおける固形分材料の割合を73〜60質量%の間で5とおりに変化させて、分散剤とともに溶媒に分散させて、正極活物質層形成用ペースト調製した。すなわち、ペースト1は固形分材料の割合を73質量%とし、ペースト2は固形分材料の割合を68質量%とし、ペースト3は固形分材料の割合を64質量%とし、ペースト4は固形分材料の割合を62質量%とし、ペースト5は固形分材料の割合を60質量%とした。また、ペースト中の凝集物の分散の状態に時間変化がないかを調べるため、ペースト6として、固形分材料の割合を60質量%としたサンプル5を約24時間静置したものを用意した。
【0067】
これらのペースト1〜6について、ペースト中の凝集物の粒度分布を測定し、その結果を図4に示した。凝集物の粒度分布は、レーザー回折式粒度分布測定装置(日機装(株)社製、MT3300)を用いて測定した。なお、ペースト1〜6は、高濃度な溶液であるため50倍に希釈して凝集物の粒径に影響を与えない状態で粒度分布の測定を行った。
図4からわかるとおり、ここに開示された電極の製造方法によると、平均粒径(あるは粒度分布等)が適切に管理された正極活物質を用いることで、正極活物質層形成用ペーストの固形分材料の割合(固形分濃度)を73〜60質量%の間で精確に調製できることが確認された。また、ペースト1〜6のいずれもが、粒径20μm以下の粒子の存在頻度が99.85%以上であり、活物質同士が凝集することがほとんどなく、高度な分散状態を有していることが解かった。また、25℃、せん断速度40s−1における粘度はいずれも200〜5000mPa・sの範囲内であった。なお、ペースト6の粒度分布から、約24時間静置されたペストにおいて凝集物同士がさらに凝集して巨大な凝集体を形成することはなく、高度な分散状態は約24時間以上も維持されることが確認された。
【0068】
≪乾燥工程の評価≫
<サンプル1>
サンプル1は、正極活物質層形成用ペーストにおける固形分材料の配合を、正極活物質:導電材:バインダの質量比で91:6:3とし、ペーストにおける固形分材料の割合(NV)を52質量%としてペーストを調製し、後は上記の製造方法のとおり、このペーストを用いて正極を製造したものである。このサンプル1では分散剤を添加せずにペーストを調製している。また、サンプル1は従来の典型的な正極の製造方法により製造される正極を模したものであって、ペーストの調製に際して、ここに開示された製造方法は適用していない。
このサンプル1の正極活物質層形成用ペーストの25℃、40s−1における粘度を測定したところ、表1に示した通り、2782mP・sであった。粘度の測定にはレオメータ(アントンパール社製、MCR301)を用いた。
また、乾燥工程において、まず、このサンプル1用のペーストを塗布した集電体を上記のとおりの高速乾燥に供した。すると、正極集電体に塗布されたペーストの表面にひび割れが発生してしまった。
そこで、乾燥条件を多様に変化させて、ひび割れ等が発生せずに最も短い時間で乾燥を完了することができる乾燥限界時間を調べた。その結果、サンプル1の限界乾燥時間は450秒であった。なお、乾燥に要した時間は、ガスクロマトグラフィーにより溶媒として用いたNMP量を測定することで行った。すなわち、乾燥開始から炉内のサンプル1の正極活物質層形成用ペーストの端部断面付近の気体を採取し、ガスクロマトグラフィーによりNMP量を測定して、NMPが不検出となった時点で乾燥完了と判断した。また、ひび割れの発生の有無は、乾燥後の電極を目視確認することで評価した。
【0069】
<サンプル2〜8>
サンプル2〜8は、サンプル1の正極活物質層形成用ペーストにおける固形分材料の割合と、固形分配合を調整することで粘度を変化させて、正極活物質層形成用ペーストを調製し、後は上記の製造方法のとおり、このペーストを用いて正極を製造したものである。サンプル2〜8は分散剤を添加してペーストを調製している。
得られたサンプル2〜8の製造に用いたペーストの固形分材料の割合(NV)と、粘度(25℃、40s−1)を測定し、下記表1に示した。また、乾燥工程においてサンプル2〜8の乾燥限界時間を測定し、サンプル1のペーストの乾燥限界時間(450秒)と比較してどれだけ短縮されたかを、「短縮時間」として併せて表1に示した。
【0070】
【表1】

【0071】
表1からわかるとおり、ペーストの固形分材料の割合を60質量%未満としたサンプル5〜8の場合には、溶媒量が多いため、ペーストの粘度を変化させてもペーストの乾燥時間を短縮できないか、もしくはごく短時間しか短縮できないことがわかった。また、ペーストの固形分材料の割合を60質量%以上としたサンプル2および3の場合であっても、ペーストの粘度が5000mPa・sより高すぎたため、ペーストの乾燥時間を短縮することはできなかった。これに対し、ペーストの固形分材料の割合を60質量%以上にし、かつ、粘度を5000mPa・s以下としたサンプル4については、ペーストの乾燥時間を450秒間から180秒も大幅に(40%)短縮できることがわかった。このことから、ペーストの固形分材料の割合を60質量%以上とし、かつ、粘度を5000mPa・s以下とすることで、ペーストの乾燥時間の短縮に大きな効果があることが確認できた。
【0072】
<サンプル9〜13>
サンプル9〜13では、正極活物質層形成用ペーストにおける固形分材料の割合を60質量%で一定とし、混練条件によってペースト中に分散される粒径が20μm以下の凝集物の存在比率を変化させている。具体的には、混練機としてプラネタリーミキサおよびディスパーミキサを備える多軸攪拌機を採用し、それぞれの回転数を35rpm/3000rpmに設定して、混練時間を変化させた。すなわち、サンプル9は混練時間を60分とし、サンプル10は混練時間を50分とし、サンプル11は混練時間を40分とし、サンプル12は混練時間を30分とし、サンプル13は混練時間を20分とした。そして、えられたペーストを用いて正極を製造したものである。なお、サンプル9〜13は分散剤を添加してペーストを調製している。そして、後は上記の製造方法のとおり、このペーストを用いて正極を製造したものである。
表2は、左から、サンプル9〜13の製造に用いたペーストにおける粒径が20μm以下の凝集物の存在比率を測定した結果と、固形分材料の割合(NV)とを示した。また、乾燥工程においてサンプル9〜13の乾燥限界時間を測定し、サンプル1のペーストの乾燥限界時間を(450秒)と比較してどれだけ短縮されたかを、表2の「短縮時間」の欄に記載した。また、ペースト中の粒径が20μm以下の凝集物の存在比率と、乾燥工程の短縮時間との関係を、図5に示した。
【0073】
【表2】

【0074】
表2および図5からわかるとおり、ペーストの固形分材料の割合が60質量%で一定であっても、粒径が20μm以下の凝集物の存在比率の違いによって乾燥工程の短縮時間が大きく影響されることが解かった。すなわち、ペーストの固形分材料の割合が60質量%の場合、粒径が20μm以下の凝集物の存在比率が90質量%付近では乾燥時間の短縮効果は全く見られない。しかしながら存在比率が97質量%付近で乾燥時間の短縮効果がみられ始め、その効果は99質量%付近で急激に増大することが解かる。また、乾燥時間の短縮効果は、粒径が20μm以下の凝集物の存在比率が0.1%異なるだけで大きな影響をうけることが解かる。なお、ここには具体的なデータを示していないが、ペーストの固形分材料の割合を60質量%以上で様々に変化させた場合の結果を総合すると、ペーストの固形分材料の割合が60質量%以上の場合、粒径が20μm以下の凝集物の存在比率を99質量%以上にすることで、いずれも乾燥時間の大幅な短縮効果が得られることが確認された。
【0075】
<サンプル14>
上記サンプル1〜13の結果から、正極活物質層形成用ペーストにおける固形分材料の配合を、正極活物質:導電材:バインダの質量比で93:4:3とし、ペーストにおける固形分材料の割合を60質量%となるようにしてサンプル14のペーストを調製した。このサンプル14の撹拌条件は上記サンプル9と同様にし、分散剤を用いて調整した。その結果、得られたペーストにおける粒径が20μm以下の凝集物の存在比率は99.9%であり、ペーストの粘度は5000mP・s以下であった。
このペーストを用いて、後は上記の製造方法のとおり、このペーストを用いて正極を製造した。その結果、上記のとおりの高速乾燥における乾燥時間は72秒であった。すなわち、乾燥炉入り口側の第1ゾーンのみ乾燥温度100℃で、電極の下面側の2台のみファンを作動させてそれぞれ風速5m/秒の送風を行い、続く第2ゾーン、第3ゾーンでは、乾燥温度150℃、電極の上面側3台、下面側2台のファンを作動させてそれぞれ風速5m/秒の送風を行う乾燥炉を、72秒で通過させることで乾燥を行うことができた。短縮時間は378秒で、サンプル1と比較して実に84%もの乾燥時間の短縮を図ることができた。この結果からわかるとおり、ここに開示された製造方法に従って正極活物質層形成用ペーストを調製することにより、乾燥工程における乾燥時間を大きく短縮できることが確認された。特に、サンプル14については、乾燥時間を80%以上短縮することができ、ここに開示された電極製造方法により大幅な製造時間の低減が可能なことが解かる。またこの製造時間の低減は、乾燥に要する熱量の有効利用および生産性の向上にもつながり、コストの削減をも実現できることがわかった。
【0076】
なお、サンプル1およびサンプル14について、これを正極として用いてラミネートセル型のリチウム電池を組み立ててその性能を評価した。その結果、サンプル1およびサンプル14の正極のいずれも、電池容量、容量維持率等の特性について、同等の性能が得られることが確認された。すなわち、ここに開示された製造方法によると、製造される電池の性能を損なうことなく、製造時間(乾燥時間)および製造に要するエネルギーを低減して、電極を製造することができる。
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
ここで開示される技術によると、特別な乾燥設備、機器等を必要とせずに、乾燥時間(ひいては乾燥に要する熱量やエネルギー)が大幅に短縮できる蓄電デバイス用電極の製造方法を提供することができる。この製造方法は、活物質層形成用ペーストにおいて凝集物を高度に分散させているため、二次電池用電極の性能を損ねることなく、高速での乾燥を実現するものである。従って、本発明によると、かかる製造方法により製造された電極を用いることで、製造時間および製造エネルギーを削減でき、それによってコストの低減を実現し得る蓄電デバイスの製造方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0078】
10 リチウムイオン二次電池
15 電池ケース
20 開口部
25 蓋体
30 ケース本体
50 捲回電極体
60 正極端子
62 正極集電体(電極集電体)
64 正極活物質層(電極活物質層)
66 正極シート(正極)
70 負極端子
72 負極集電体(電極集電体)
74 負極活物質層(電極活物質層)
76 負極シート(負極)
80 セパレータ
100 電極製造装置
105 巻出ロール
110 巻取ロール
115 テンションローラ
120 ペースト塗布部
125 乾燥炉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極活物質を主体とする電極活物質層が集電体上に形成された蓄電デバイス用の電極を製造する方法であって、
少なくとも前記電極活物質とバインダとを含む固形分材料の凝集物が所定の溶媒に分散されてなる電極活物質層形成用ペーストを調製する工程、
前記ペーストを前記集電体上の表面に塗布する工程、
前記ペーストが塗布された前記集電体を乾燥することにより前記ペースト中の固形分材料からなる前記電極活物質層を形成する工程、を包含し、
前記ペーストを調製する工程において、
前記ペーストにおける固形分材料の割合が60〜80質量%で、
粒径が20μm以下の前記凝集物の存在比率が99個数%以上、かつ、
25℃、せん断速度40s−1における粘度が200〜5000mPa・s、
となるように調製する、蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項2】
前記ペーストを調製する工程において、前記電極活物質のレーザ回折散乱法による平均粒径の2倍以下の粒径を有する前記凝集物の存在比率が、99個数%以上となるように前記ペーストを調製する、請求項1記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項3】
前記乾燥は、70〜150℃の雰囲気において、風速1〜15m/秒で50〜150秒間の送風を行うことにより実施する、請求項1または2に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項4】
前記ペーストの前記集電体への塗布量を25〜50mg/cmとしたときの、前記乾燥の時間を120秒以下にする、請求項1〜3の何れか一項に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項5】
前記固形分材料として、さらに導電材を添加する、請求項1〜4の何れか一項に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項6】
前記固形分材料として電極活物質と導電材とバインダとを用い、これらが質量比で、電極活物質:導電材:バインダ=97〜80:2〜15:1〜5となるように配合する、請求項5に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項7】
前記電極活物質としてリチウムイオン二次電池用の正極を構成する正極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池用の正極を製造する、請求項1〜6の何れか一項に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法。
【請求項8】
請求項1〜7の何れか一項に記載の蓄電デバイス用電極の製造方法により得られた電極を使用する、蓄電デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2013−73749(P2013−73749A)
【公開日】平成25年4月22日(2013.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−211074(P2011−211074)
【出願日】平成23年9月27日(2011.9.27)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】