説明

蓄電デバイス

【課題】π電子共役雲を有する有機化合物高分子を活物質として用いる蓄電デバイスの電解質溶媒を改良して、設計容量どおりの充放電容量の高い蓄電デバイスを提供する。
【解決手段】正極活物質を含む正極、負極活物質を含む負極、並びに溶媒および溶媒に溶解した電解質塩を含む電解質を具備する蓄電デバイスにおいて、正極活物質及び負極活物質の少なくとも一方が、π電子共役雲を有する有機化合物高分子を含み、溶媒の20℃における比誘電率が55以上90以下である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高出力、高容量、かつ繰り返し特性に優れた蓄電デバイスに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ガソリンと電気の両方のエネルギーで駆動することのできるハイブリッド自動車や、無停電電源、移動体通信機器、携帯電子機器等の電源を必要とする機器の普及に伴い、その電源として、充放電可能な蓄電デバイスの高性能化の要求は非常に大きくなっている。具体的には、出力、容量、繰り返し寿命等の特性において高性能であることが要求されている。
そのような特性を有する蓄電デバイスを実現するために、有機化合物を電極活物質に用いる検討が行われている。最近、高速の充放電が期待できる新しい活物質として、π電子共役雲を有する有機化合物が用いられること、およびその反応メカニズムが本発明者らによって明らかにされている(例えば、特許文献1および2参照)。
【0003】
その電極活物質である、π電子共役雲を有する有機化合物は、低分子化合物から高分子化合物まで用いることができる。高分子化合物は、低分子化合物に比べて電解液などに溶解しにくい性質を有するため、高分子化合物を電極活物質として用いた場合には、電解液への活物質の溶出が抑えられ、サイクル特性の安定性がさらに高められる、ということが開示されている。
具体的には、高分子化合物活物質として、π電子共役雲を有する有機化合物部位を複数有する高分子化合物を用いることができることが開示されている。例えば、ポリアセチレン、ポリメチルメタクリレート鎖を主鎖として有する化合物に、π電子共役雲を有する有機化合物部位を結合させて得られる高分子活物質が開示されている。
【0004】
また、これらπ電子共役雲を有する有機化合物を活物質として用いた蓄電デバイスを構成するための電解質として、溶媒およびこれに溶解した電解質塩からなる電解液を用いることが開示されている。具体的には、溶媒として、例えばエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、γ−ブチロラクトン、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド等の有機溶媒が好ましく用いられることが開示されている。
【0005】
このように、出力、容量、繰り返し寿命等の特性に優れる蓄電デバイスを得るために、電極活物質として、π電子共役雲を有する有機化合物高分子が用いられること、また電解質として、電解質塩を種々の溶媒に溶解して得られる電解液が用いられることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−111374号公報
【特許文献2】特開2004−342605号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
π電子共役雲を有する有機化合物高分子を電極活物質として用いる蓄電デバイスにおいて、電解質として、電解質塩を種々の溶媒に溶解して得られる電解液を用いることができることがわかってはいるものの、用いる溶媒の違いによって、蓄電デバイスの特性がどのように変化するかということに関しては、これまでは全く明らかにされていない。
本発明者らがπ電子共役雲を有する有機化合物高分子を電極活物質とする蓄電デバイスの電解質について鋭意研究を重ねた結果、電解質に用いる溶媒の種類によっては、蓄電デバイスの充放電容量が低下してしまう場合があることがわかった。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、電解質に用いる溶媒の種類によって、蓄電デバイスの充放電容量が低下する原因について詳細に検討した結果、電解質に用いる溶媒の比誘電率と、蓄電デバイスの充放電容量との間に相関があることが明らかとなった。具体的には、用いる溶媒の20℃における比誘電率が55未満の場合、蓄電デバイスの充放電容量が設計容量に対して低下してしまうのに対して、20℃における比誘電率が55以上90以下の場合、設計容量通りの高容量が得られることが明らかとなった。
【0009】
すなわち、本発明の蓄電デバイスは、正極活物質を含む正極と、負極活物質を含む負極と、溶媒および前記溶媒に溶解した電解質塩からなる電解質とを具備し、前記正極活物質および負極活物質の少なくとも一方が、π電子共役雲を有する有機化合物高分子を少なくとも含んでおり、前記溶媒の20℃における比誘電率が55以上90以下であり、前記有機化合物高分子が、前記溶媒に不溶解性の高分子主鎖と、前記高分子主鎖に結合し、かつπ電子共役雲を有する有機化合物の骨格を有する側鎖とを有し、前記π電子共役雲を有する有機化合物の骨格が、後述の一般式(6)で表される骨格であり、一般式(6)中のR1またはR2を介して、前記高分子主鎖に結合していることを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、高出力、高容量、かつ、繰り返し特性に優れた蓄電デバイスを提供することができる。特に、設計容量に対して充放電容量が低下するという問題を解決することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施の形態におけるコイン型蓄電デバイスの概略縦断面図である。
【図2】本発明の一実施の形態における正極の概略断面図である。
【図3】正極活物質粒子の概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施の形態1
以下、本発明を実施するための最良の形態について、図面を参照して説明する。
本実施の形態1における蓄電デバイスは、正極活物質の、π電子共役雲を有する有機化合物高分子として、以下の式(1)に示す分子構造を有する高分子(以下poly−TTFで表す)を含む正極を備えている。この蓄電デバイスは、負極活物質として金属リチウムを含む負極、および電解質として炭酸プロピレンと炭酸エチレンとを体積比1:1の割合で混合した溶媒に、1モル濃度の6フッ化りん酸リチウムを溶解させてなる電解質溶液を用いている。この電解質の溶媒の20℃における比誘電率は78である。また、蓄電デバイスの充放電条件は、定電流充放電で充電上限電圧4.0V、放電下限電圧3.0Vである。
【0013】
【化1】

【0014】
図1は本発明の蓄電デバイスを模式的に示した概略縦断面図である。11は正極端子を兼ねるステンレス鋼製のケースであり、このケースには、正極集電板12、正極13、およびセパレータ14が収容されている。15は負極端子を兼ねるステンレス鋼製の封口板であり、この封口板内には、負極16、負極集電板17、およびスペーサー19が配置されている。18は封口板15の周縁部に装着されたガスケットである。上記のケース11および封口板15を組み合わせ、ケース11の周縁部をガスケット18を介して封口板15の周縁部側へかしめることにより、図示のように密閉された蓄電デバイスが完成する。
【0015】
以下、まず正極活物質である有機化合物高分子の反応メカニズムについて、次に、詳細な検討の結果明らかになった蓄電デバイスの電解質に用いる溶媒の比誘電率と蓄電デバイスの容量特性との関係について、順に説明する。
【0016】
まず、正極活物質であるpoly−TTFの反応メカニズムについて説明する。
高分子活物質の一つであるpoly−TTFは、前記式(1)に分子構造を示すように、π電子共役雲を有する反応部位であるテトラチアフルバレンが側鎖として、高分子主鎖にエステル結合を介して連結した分子構造を有する。反応部位であるテトラチアフルバレンは、それ単体の分子を活物質として用いた場合、用いる溶媒によっては溶解してしまう。このため、電解質として用いることのできる溶媒種、あるいは蓄電デバイスのデバイス構成に制約を受ける。それに対して、poly−TTFは、分子量が大きく、かつ多くの溶媒に不溶性のポリエチレン高分子鎖に結合されていることから、溶媒に対する溶解性が大きく低下し、用いることのできる溶媒種、あるいは蓄電デバイスのデバイス構成に制限が少ないことが期待される活物質材料である。
【0017】
式(1)に示す高分子活物質は、電気的に中性の状態、すなわち電荷を有さない放電状態である。この高分子活物質は、充電されると、式(2)に示すように、テトラチアフルバレンが酸化状態となって電子を放出して、正に帯電する。
【0018】
【化2】

【0019】
したがって、負の電荷を有する電解質アニオンがテトラチアフルバレンに配位し、充電状態となる。充電状態となったテトラチアフルバレンは、電子を受け取ることにより、電気的に中性となり、電解質アニオンを放出して放電状態となる。このように高分子活物質は、式(2)のような充電状態と、式(1)のような放電状態とを可逆的に繰り返すことにより、蓄電デバイス活物質として動作することができる。
【0020】
図2に、正極構造の一例として、正極13を拡大して模式的に示した概略断面図を、また、図3には、正極13内に含まれる正極活物質を拡大して模式的に示した概略断面図をそれぞれ示す。図2における12は正極集電体であり、その集電体上に正極13が構成される。正極13は、さらに内部に正極活物質粒子21および導電剤部22を含んでいる。正極13内部に含まれる高分子活物質は、図2に21で示すように、粒子状態として存在する場合がある。導電剤部22は、例えばカーボンブラックのような電子伝導性粒子に、必要に応じてバインダを混合したものから形成されている。導電剤部22は、必要に応じて多孔質となっており、電解質溶液を内部に含浸保持することができる。
【0021】
図3に示すように、正極活物質粒子21は、表層部31と、中心部32とから構成される。電解質溶液は主に多孔質な導電剤部の内部に含浸保持されるため、活物質粒子が電解質溶液と接触することができるのは、表層部31となる。そのため、正極を充電した際には、まず正極活物質の表層部31が酸化状態となって正に帯電し、電解質溶液から移動してきた電解質アニオンが活物質に配位して、活物質が充電状態となる。充電反応が進行するにつれ、徐々に表層部から中心部に向かって充電活物質の占有部分が拡大していく。すなわち、電解質アニオンが電解質溶液から活物質粒子の内部へ、表層部を通過し、中心部に向かって移動していくことにより、活物質粒子内部まで充電反応が進行する。
【0022】
次に、蓄電デバイスの電解質に用いる溶媒の比誘電率と蓄電デバイス特性との関係について説明する。
活物質粒子の中心まで完全に充電反応が進行するためには、活物質粒子の内部を電解質アニオンが移動可能とし、活物質粒子内部まで完全に充放電に寄与させることが、設計どおりの高容量を得るためには必要不可欠である。活物質粒子の内部を電解質アニオンが移動可能とするためには、電解質である電解質塩を溶解する溶媒が非常に重要な役割を担うと考えられる。
【0023】
充電時の活物質の分子構造として、式(2)には、正に帯電した活物質に、電解質アニオンが配位している様子を示した。この際に、正に帯電した活物質と、負の電荷を有する電解質アニオンとの間にはクーロン引力が働くと考えられる。この結合力が強固な場合、電解質アニオンは、活物質分子に強くトラップされてしまうと考えられる。したがって、活物質粒子の表層部が充電された段階で、電解質アニオンは活物質粒子の表層部でトラップされてしまい、電解質溶液中から活物質表層部を通過し、活物質中心部まで進入することが不可能となってしまう。この場合、活物質粒子は粒子内部まで反応することができずに、設計容量より少ない容量しか利用できない、容量低下を起こしてしまう。
【0024】
そのような容量が低下する問題を解決するために、本発明では電解質の溶媒として、比誘電率の高い溶媒を用いる。比誘電率の高い溶媒、本実施の形態では炭酸プロピレン(PC)と炭酸エチレン(EC)とを体積比1:1で混合した溶媒を用いた場合の、充電活物質の分子構造を模式的に式(3)に示す。
【0025】
【化3】

【0026】
比誘電率の高い溶媒は、充電されて正に帯電したテトラチアフルバレン部に溶媒和し、活物質と電解質アニオンとの静電引力を緩和すると考えられる。これにより、電解質アニオンが、充電された活物質によって強くトラップされなくなり、充電活物質の内部を移動可能となる。したがって、活物質粒子の表層部が充電された段階においても、電解質アニオンは活物質粒子の表層部でトラップされず、電解質溶液中から活物質表層部を通過し、活物質中心部まで進入することが可能となり、活物質粒子は粒子内部まで充放電に利用することができると考えられる。
【0027】
一般的に、アニオンとカチオンとから構成される塩を溶解した溶媒において、塩を解離させ、それぞれのイオンを単独で移動可能とするためには、比誘電率の高い溶媒が有効であることが知られている。また、その原因は、比誘電率の高い溶媒が、塩のカチオンを優先的に溶媒和し、アニオン−カチオン間の静電引力を緩和することによることが知られている。本実施の形態における高分子活物質においても、これと同様のメカニズムで、比誘電率の高い溶媒は、充電された活物質の反応部位であるカチオンに優先的に溶媒和し、アニオン−カチオン間の静電引力を緩和すると推測される。
【0028】
以上のようなメカニズムにより、電解質に用いる溶媒の比誘電率が一定値以上であることが有効であるとが考えられる。また、詳細な検討の結果、溶媒の比誘電率として閾値が存在し、20℃における比誘電率が55以上90以下であることが有効であることがわかった。すなわち、活物質に、π電子共役雲を有する有機化合物高分子を用いる蓄電デバイスにおいて、電解質溶媒の20℃における比誘電率が0以上55未満の場合、活物質粒子の内部まで全て充放電に利用することができず、したがって設計容量に対して容量低下が起こってしまうのに対し、20℃における比誘電率が55以上90以下の場合、活物質粒子の内部まで全て充放電に利用することができ、設計通りの高容量の蓄電デバイスを得ることができるのである。
さらに、比誘電率が高くなると、溶媒の粘度が上昇し、電解液の導電率が低下してしまう場合や、セパレータや極板の溶媒に対しての濡れ性が低下してしまう場合が起こりうる。このような理由により、溶媒の20℃における比誘電率は55〜65であることが好ましい。
【0029】
本発明の蓄電デバイスにおける活物質として利用可能な有機高分子活物質としては、π電子共役雲を有する有機化合物が挙げられる。用いる有機高分子活物質は、高分子であれば特に分子量に制限はないが、平均分子量10000以上のものを好適に用いることができる。溶媒への活物質分子の溶解性が大きく低下し、電解質に用いることのできる溶媒種、あるいは蓄電デバイスのデバイス構成に制限が少ないことが期待されるからである。
また、π電子共役雲を有する有機化合物活物質は、必ずしも高分子体でなくても、分子量10000未満の低分子量体でも活物質として用いることは可能である。しかし、高分子体とは電解質溶媒に対する溶解性が異なるため、電解質として用いることのできる溶媒種は上述の理由以外に、溶解性を考慮した溶媒設計をする必要があり、高分子活物質の場合とは用いる電解質溶媒の最適値は異なると考えられる。したがって、本発明の蓄電デバイスに用いることのできる活物質の対象からは除外されている。
【0030】
π電子共役雲を有する有機化合物高分子としては、例えば以下に示す一般式(4)または(5)で表される構造を有する有機化合物高分子などが挙げられる。
【0031】
【化4】

【0032】
(式(4)中、Xは硫黄原子または酸素原子であり、R1〜R4はそれぞれ独立に鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、鎖状の脂肪族基、または環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)
【0033】
【化5】

【0034】
(式(5)中、Xは窒素原子であり、R1〜R4はそれぞれ独立に鎖状の脂肪族基、環状の脂肪族基、水素原子、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、ニトロ基またはニトロソ基であり、R5およびR6はそれぞれ独立に水素原子、鎖状の脂肪族基、または環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子およびハロゲン原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)
【0035】
また、別のπ電子化合物としては、例えば以下に示す一般式(6)で表される構造を有する有機化合物高分子などが挙げられる。
【0036】
【化6】

【0037】
(式(6)中、X1〜X4はそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、テルル原子であり、R1〜R2はそれぞれ独立に鎖状の脂肪族基、または環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、ホウ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)
【0038】
活物質である有機化合物高分子は、上記一般式(4)〜(6)の構造の反応部位であるπ電子共役雲を有する有機化合物同士が結合してなる高分子であってもよいし、あるいは、上記のような反応部位であるπ電子共役雲を有する有機化合物分子を側鎖として、非反応部位である電解質溶媒に不溶解性の高分子主鎖に結合してなる高分子であってもよい。
【0039】
後者の高分子活物質の場合、電解質溶媒に不溶解性の高分子主鎖として用いる高分子主鎖に制限はなく用いることができる。具体的には、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアセチレン、ポリメチルメタクリレート、ポリスチレン、ポリウレタン、ポリアクリロニトリル、ポリメチルペンテン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン等の炭化水素高分子、あるいはこれらのハロゲン化高分子等の種々の高分子主鎖に結合させることができる。
例えば一般式(4)および(5)の構造の反応部位を有する有機高分子体の例としては、以下に示す化学式(7)および(8)で表される化合物が具体例として挙げられる。
【0040】
【化7】

【0041】
【化8】

【0042】
また、例えば一般式(6)の構造の反応部位を有する有機高分子体の例としては、以下に示す化学式(9)〜(15)で表される化合物が具体例として挙げられる。
【0043】
【化9】

【0044】
【化10】

【0045】
【化11】

【0046】
【化12】

【0047】
【化13】

【0048】
【化14】

【0049】
【化15】

【0050】
また、これら活物質を含んだ電極を作製する際には、電子伝導性を付与する目的で、導電剤を用いてもよい。具体的には、カーボンブラック、グラファイト、アセチレンブラック等の炭素材料、ポリアニリン、ポリピロール、またはポリチオフェンなどの導電性高分子と、これら活物質を混合して電極を形成してもよい。また、イオン導電性助剤として、ポリエチレンオキシドなどからなる固体電解質、またはポリメタクリル酸メチルなどからなるゲル電解質を正極中に含ませてもよい。さらに、活物質の結着性を向上させるために、ポリフッ化ビニリデン、フッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン−テトラフルオロエチレン共重合体、ポリエチレン、ポリイミド、ポリアクリル酸などのバインダを正極中に含ませてもよい。集電体には、一般の電池と同様、金属箔、金属メッシュ、導電性フィラーを含む樹脂フィルムなどが用いられる。
【0051】
次に、本発明の蓄電デバイスに用いることのできる電解質について説明する。本発明の電解質は、アニオンとカチオンとからなる塩を溶媒に溶解させて得ることができる。
塩としては、以下のアニオンとカチオンとからなる塩を使用することが可能である。アニオン種としては、ハロゲン化物アニオン、過塩素酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、4フッ化ほう酸アニオン、6フッ化リン酸アニオン、トリフルオロメタンスルホン酸アニオン、ノナフルオロ−1−ブタンスルホン酸アニオン、ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドアニオン、ビス(パーフルオロエチルスルホニル)イミドアニオンなどが挙げられる。カチオン種としては、リチウム、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属カチオンや、マグネシウムなどのアルカリ土類金属カチオン、テトラエチルアンモニウムや1,3−エチルメチルイミダゾリウムに代表される4級アンモニウムカチオン等が挙げられる。
【0052】
カチオン種としては、4級アンモニウムカチオンやリチウムカチオンを好適に用いることができる。その理由は、次のとおりである。すなわち、4級アンモニウムカチオンは、イオン移動度が高く、導電率の高い電解液を得ることができること、また対極として反応速度の速い活性炭等の電気二重層容量を有する負極を用いることができることから、高出力な蓄電デバイスを得ることができる。また、リチウムカチオンは、対極として反応電位が低く、容量密度の高い、リチウムを吸蔵放出可能な負極を用いることができることから、高電圧、高エネルギー密度な蓄電デバイスを得ることができる。
【0053】
本発明の蓄電デバイスに用いることのできる溶媒としては、比誘電率が55以上90以下となる溶媒であれば、非水二次電池や非水系電気二重層キャパシタに用いることのできる溶媒は使用可能である。
具体的には、環状炭酸エステルを含んでいる溶媒は好適に用いることができる。なぜなら、環状炭酸エステルは、エチレンカーボネートの90、プロピレンカーボネートの65に代表されるように、非常に高い比誘電率を有していることから、これら溶媒を成分として含むことにより、20℃における比誘電率55以上90以下の溶媒を容易に得ることができるからである。環状炭酸エステルの中でもプロピレンカーボネートが好適である。なぜなら、凝固点が−49℃とエチレンカーボネートよりも低く、蓄電デバイスを低温でも作動させることができるからである。
【0054】
また、環状エステルを含んでいる溶媒もまた好適に用いることができる。なぜなら、環状エステルは、γ−ブチロラクトンの42に代表されるように、非常に高い比誘電率を有していることから、これら溶媒を成分として含むことにより、20℃における比誘電率55以上90以下の溶媒を容易に得ることができるからである。γ−ブチロラクトン単体では、20℃における比誘電率55以上90以下の範囲内には入っていないが、誘導体化することにより、それ自身をより比誘電率を高くして、単体で用いてもよいし、環状炭酸エステル等の他の溶媒と混合して、20℃における比誘電率55以上90以下の範囲内の溶媒として用いてもよい。
【0055】
また、溶媒は1種類の単体で用いてもよいし、複数の溶媒を混合して用いてもよい。その他の溶媒として用いることのできる溶媒としては、鎖状炭酸エステル、鎖状エステル、環状あるいは鎖状のエーテル等が用いられる。具体的には、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、テトラヒドロフラン、ジオキソラン、スルホラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド等の非水溶媒が用いられる。
これら溶媒を用いる電解質は、少なくとも正極内部に含浸されて用いることができるが、必要に応じて、固体電解質あるいはゲル電解質等をさらに用いてもよい。
【0056】
本発明の蓄電デバイスにおける、負極活物質には、特に制限はないが、グラファイト、非晶質炭素などの炭素材料、リチウム金属、リチウム含有複合窒化物、リチウム含有チタン酸化物、珪素、珪素を含む合金、珪素酸化物、錫、錫を含む合金、および錫酸化物等のリチウムを可逆的に吸蔵・放出することのできる材料、もしくは、活性炭などの電気二重層容量を有する炭素材料、π電子共役雲を有する有機化合物材料などを用いることができる。これら負極材料は、それぞれ単独で用いてもよいし、複数の負極材料と混合して用いてもよい。
本実施の形態では、π電子共役雲を有する有機化合物高分子を正極活物質に用い、負極に金属リチウムを用いた例を示したが、デバイス構成はこの限りではなく、π電子共役雲を有する有機化合物を負極活物質に用いてもよいし、あるいは正・負極活物質ともに酸化還元可能な有機化合物を活物質として用いてもよい。
【0057】
本発明は、正極活物質および負極活物質の少なくとも一方にπ電子共役雲を有する有機化合物高分子を含み、電解質溶媒に20℃における比誘電率が55以上90以下の溶媒を用いることにより、高出力、高容量、かつ、繰り返し特性に優れた蓄電デバイスを提供することができる。特に、設計容量に対して充放電容量が低下するという問題を解決することができる。
【実施例】
【0058】
以下に本発明の蓄電デバイスについて、実施例とともに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されない。
《実施例1》
正極は、以下のようにして作製した。活物質として、π共役電子雲を有する有機化合物高分子として、上記の化学式(1)に示す分子構造を有する高分子であるpoly−TTFを用いた。poly−TTFはポリビニルアルコールとテトラチアフルバレンカルボキシル誘導体を脱水縮合により反応させて合成した。用いたpoly−TTFの平均分子量はおよそ50000、理論最大容量は190mAh/gであった。poly−TTFは、乳鉢で粉砕してから用いた。乳鉢粉砕後のπ共役ポリマー活物質の粒子径はおよそ10μm程度であった。活物質としてpoly−TTFの37.5mgと、導電剤のアセチレンブラック100mgとを均一に混合し、さらにバインダのポリテトラフルオロエチエン25mgを加えて混合し、正極合剤を得た。この正極合剤をアルミニウム金網の上に圧着し、真空乾燥した後、これを直径13.5mmの円盤状に打ち抜き裁断して正極極板を得た。正極活物質の塗布重量は、極板単位面積あたり1.7mg/cm2であった。
【0059】
負極活物質としては、金属リチウム(厚み300μm)を直径15mmの円盤状に打ち抜き、同じく直径15mmの円盤状のステンレス鋼製集電板に貼り付けて、負極を作製した。
電解質には、溶媒として炭酸エチレン(EC)と炭酸プロピレン(PC)とを体積比1:1で混合した溶媒に、1mol/L濃度の6フッ化りん酸リチウムを溶解して得た電解液を用いた。用いた溶媒の20℃における比誘電率は78である。なお、溶媒の比誘電率は、静電容量方式により測定した。
電解液は、正極、負極、および厚み20μmの多孔質ポリエチレンシートからなるセパレータに含浸させた。
これら正極、負極、およびセパレータを、図1に示すようなコイン型電池のケース、およびガスケットを装着した封口板で挟み、プレス機にてかしめ封口し、コイン型蓄電デバイスを得た。
【0060】
《実施例2》
実施例2の蓄電デバイスは、電解液以外は実施例1と全く同じ構成である。電解液は、PCに、1mol/L濃度の6フッ化りん酸リチウムを溶解したものである。用いた溶媒の20℃における比誘電率は65である。
【0061】
《実施例3》
実施例3の蓄電デバイスは、電解液以外は実施例1と全く同じ構成である。電解液は、PCと炭酸ジエチル(DEC)とを体積比12:1で混合した溶媒に、1mol/L濃度の6フッ化りん酸リチウムを溶解したものを用いた。用いた溶媒の20℃における比誘電率は60である。
【0062】
《実施例4》
実施例4の蓄電デバイスは、電解液以外は実施例1と全く同じ構成である。電解液は、PCとDECとを体積比5:1で混合した溶媒に、1mol/L濃度の6フッ化りん酸リチウムを溶解したものを用いた。用いた溶媒の20℃における比誘電率は55である。
【0063】
《比較例1》
比較例1の蓄電デバイスは、電解液以外は実施例1と全く同じ構成である。電解液は、PCとDECとを体積比3.2:1で混合した溶媒に、1mol/L濃度の6フッ化りん酸リチウムを溶解したものを用いた。用いた溶媒の20℃における比誘電率は50である。
【0064】
《比較例2》
比較例2の蓄電デバイスは、電解液以外は実施例1と全く同じ構成である。電解液は、PCとDECとを体積比1.5:1で混合した溶媒に、1mol/L濃度の6フッ化りん酸リチウムを溶解したものを用いた。用いた溶媒の20℃における比誘電率は40である。
【0065】
《比較例3》
比較例3の蓄電デバイスは、電解液以外は実施例1と全く同じ構成である。電解液は、PCとDECとを体積比1:1で混合した溶媒に、1mol/L濃度の6フッ化りん酸リチウムを溶解したものを用いた。用いた溶媒の20℃における比誘電率は34である。
【0066】
実施例1〜4、および比較例1〜3の蓄電デバイスについて充放電容量を以下のように評価した。
温度20℃の環境下において、充電上限電圧4.0V、放電下限電圧3.0Vとして0.1mAの定電流で充放電した。充電終了後、放電を開始するまでの休止時間はなしとした。そして、初回の充放電時の充電容量を活物質重量で割った値、すなわち活物質の単位重量あたりの充電容量を、充放電容量として評価した。
その評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】

【0068】
表1に示すように、電解液に用いる溶媒の20℃における比誘電率が55以上90以下の実施例1〜4においては、活物質の単位重量当たり178mAh/g以上と、活物質のほぼ理論容量に近い高容量が得られた。
一方、比較例1〜3のように、電解液に用いる溶媒の20℃における比誘電率が55未満の場合においては、活物質の単位重量当たり28mAh/g以下と、設計に対して大きく容量が低下してしまう減少が見られた。これは、充電時の正に帯電した活物質分子への溶媒の溶媒和が十分でなく、活物質粒子の表層部しか充放電に寄与できなくなってしまったためと考えられる。
【0069】
上記のように、活物質としてπ電子共役雲を有する有機化合物高分子を少なくとも含む蓄電デバイスにおいて、電解質の溶媒に20℃における比誘電率が55以上90以下の溶媒を用いることによって、高出力、高容量、かつ、繰り返し特性に優れた蓄電デバイスを提供することができる。特に、設計容量に対しての充放電容量の低下という問題を解決することができる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明の蓄電デバイスは、高出力、高容量かつ、繰り返し特性に優れている。したがって、各種携帯機器あるいは輸送機器、無停電電源などの用途に使用することができる。
【符号の説明】
【0071】
11 ケース
12 正極集電板
13 正極
14 セパレータ
15 封口板
16 負極
17 負極集電板
18 ガスケット
21 正極活物質粒子
22 導電剤部
31 正極活物質粒子の表層部
32 正極活物質粒子の中心部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極活物質を含む正極、負極活物質を含む負極、並びに溶媒および前記溶媒に溶解した電解質塩を含む電解質を具備し、
前記正極活物質および負極活物質の少なくとも一方が、π電子共役雲を有する有機化合物高分子を含んでおり、
前記溶媒の20℃における比誘電率が、55以上90以下であり、
前記有機化合物高分子が、前記溶媒に不溶解性の高分子主鎖と、前記高分子主鎖に結合し、かつπ電子共役雲を有する有機化合物の骨格を有する側鎖とを有し、
前記π電子共役雲を有する有機化合物の骨格が、下記一般式で表される骨格であり、R1またはR2を介して、前記高分子主鎖に結合している蓄電デバイス。
【化1】

(式中、X1〜X4はそれぞれ独立に硫黄原子、酸素原子、セレン原子、またはテルル原子であり、R1〜R2はそれぞれ独立に鎖状の脂肪族基、または環状の脂肪族基であり、前記脂肪族基は、酸素原子、窒素原子、硫黄原子、ケイ素原子、リン原子、およびホウ素原子よりなる群から選ばれる少なくとも1種を含んでもよい。)
【請求項2】
前記有機化合物高分子の分子量が10000以上である請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項3】
前記溶媒の20℃における比誘電率が、55以上65以下である請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項4】
前記π電子共役雲を有する有機化合物の骨格が、テトラチアフルバレン骨格である請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項5】
前記有機化合物高分子が、下記式で表される構造を有する請求項1記載の蓄電デバイス。
【化2】

(式中、nはモノマーユニットの繰り返し数を示す。)
【請求項6】
前記溶媒が、環状炭酸エステルを含んでいる請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項7】
前記溶媒が、環状エステルを含んでいる請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項8】
前記電解質塩が、アニオンとカチオンとからなり、前記カチオンが4級アンモニウム塩を含んでいる請求項1記載の蓄電デバイス。
【請求項9】
前記電解質塩が、アニオンとカチオンとからなり、前記カチオンがリチウムイオンである請求項1記載の蓄電デバイス。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−151131(P2012−151131A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−110266(P2012−110266)
【出願日】平成24年5月14日(2012.5.14)
【分割の表示】特願2007−24202(P2007−24202)の分割
【原出願日】平成19年2月2日(2007.2.2)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】