説明

蓄電池

【課題】電池反応に関与する金属として全て鉄を使用することにより、安価で安全な蓄電池を提供する。
【解決手段】蓄電池は、正極5と、正極5に接する電解液を保持する正極セル3と、負極6と、負極6に接する電解液を保持する負極セル4と、正極セル3と負極セル4を分離する分離膜2とを有し、正極セル3では2価及び3価の鉄イオンの反応、負極セル4では2価の鉄イオン及び鉄の反応により電荷の充放電を行う。電池の酸化還元反応を金属鉄及びそのイオンによって行うため、原料コストを著しく低下させた蓄電池を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、充電及び放電が繰り返し可能な2次電池に関するものであり、特に、電解液の鉄イオンの価数変化のみを電池反応として利用した蓄電池に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の電解液中の金属イオンの価数変化のみを電池反応としたものとしてレドックスフロー型の電池があり、単一金属を用いたものにバナジウム系のレドックスフロー電池がある(例えば特許文献1)。
【0003】
図2は、特許文献1に記載されたレドックスフロー電池の断面図である。当該電池は、電池反応セル21を分離膜22によって分離された正極セル23と負極セル24にそれぞれ正極25と負極26が挿入されており、電解液は正極液タンク27、負極液タンク28をポンプ29によって循環させることができるよう構成されている。正極セル23、正極液タンク27には4価、5価のバナジウムイオンが蓄えられており、また負極セル24、負極液タンク28には2価、3価のバナジウムイオンが蓄えられている。
【0004】
バナジウムのレドックスフロー電池では、充電時に正極液タンク27に蓄えられた5価と4価のバナジウムイオンがポンプ29によって正極セル23に送られて外部回路30から電子を受取り還元される。また、負極液タンク28に蓄えられた2価と3価のバナジウムイオンがポンプ29によって負極セル24に送られ、外部回路30に電子を放出して3価に酸化される。そして放電時には、正極液タンク27、負極液タンク28においてそれぞれ充電時と逆の反応によって電子を取り出すものである。
【特許文献1】特許第2724817号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、バナジウム系のレドックスフロー電池は使用金属が1種類であるものの、バナジウムは資源として偏在性が強く、供給が不安定となりやすく、高価なものである。
【0006】
本発明は、上記従来の課題を解決するもので、安価で安全な蓄電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の蓄電池は、正極と、前記正極に接する電解液を保持する正極セルと、負極と、前記負極に接する電解液を保持する負極セルと、前記正極セルと負極セルを分離する分離膜とを有し、前記正極セルでは2価及び3価の鉄イオンの反応、前記負極セルでは2価の鉄イオン及び鉄の反応により電荷の充放電を行うことを特徴とするものである。
【0008】
これにより、電池の酸化還元反応を金属鉄及びそのイオンによって行うため、原料コストを著しく低下させた蓄電池を実現することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の蓄電池は、分離膜を隔てて、正極セルでは2価及び3価の鉄イオンの反応、負極セルでは2価の鉄イオン及び鉄の反応により電荷の充放電を行うことにより、全て安価な鉄を使用して蓄電池を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
第1の発明は、正極と、前記正極に接する電解液を保持する正極セルと、負極と、前記負極に接する電解液を保持する負極セルと、前記正極セルと負極セルを分離する分離膜とを有し、前記正極セルでは2価及び3価の鉄イオンの反応、前記負極セルでは2価の鉄イオン及び鉄の反応により電荷の充放電を行うものである。
【0011】
鉄は、埋蔵量も多くてリサイクルも容易であり、低コストな材料である。本発明は、電池反応に鉄及び鉄イオンのみを使用するので、構成材料を安価に製造することができる。
【0012】
第2の発明は、特に、第1の発明の電解液がカーボンの微粉末によって混合させたことを特徴とするものである。電解液に導電性のカーボンを添加することにより、内部抵抗を低下させることができ、したがって、充電電荷量に対する放電電荷量の割合の低下を抑えることができる。
【0013】
第3の発明は、第1と第2の発明の電解液のpHが2未満であるものである。金属イオンは高いpH領域では酸化鉄として析出してしまう。酸化鉄の生成は充電、放電の性能に悪影響を及ぼす。ここで本構成の鉄の酸化還元電位は、1.21V程度であるため電解液のpHを2未満とすることによって酸化鉄の析出を抑えることができる。
【0014】
第4の発明は、特に、第3の発明の電解液がアスコルビン酸を含有しているものである。アスコルビン酸は、ヒドロキシ基とカルボニル基のはたらきにより高い酸性を示し、また、食品添加物として安全性も確認されたものである。したがって、アスコルビン酸を適量加えることによってpHを2未満とすることができる。
【0015】
第5の発明は、特に、正極セルと負極セルの体積比が2対1であるものである。負極セルでは2価の鉄イオン1個が電子2個を受け取り金属鉄となって析出する一方、正極セルでは2価の鉄イオン1個が電子を1個放出して3価の鉄イオンとなる。すなわち、充電反応に関わる2価の鉄イオンのモル比は、正極セルと負極セルで2対1となり、それ以外のモル比であればどちらかのセル中のイオンが未反応となって残ってしまう。したがって、本発明によれば、未反応の2価の鉄イオンを最小限に抑えることができ、体積及び重量当たりのエネルギー密度を大きくすることができる。
【0016】
以下、本発明の蓄電池の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。なお、この実施の形態によって本発明が眼底されるものではない。
(実施の形態1)
図1は、本発明の第1の実施の形態による蓄電池の断面図である。
【0017】
蓄電池は、電池反応セル1を分離膜2によって分離された正極セル3と負極セル4によって構成されており、それぞれのセルの壁面に正極5と負極6が配置され、外枠7によって固定されている。そして、それぞれの極と電源8及び負荷9とが導通されている。
【0018】
分離膜2は孔径0.1μm、厚み5μmの微細孔樹脂膜であり、正極5及び負極6は厚さ2mmの樹脂含浸黒鉛材、外枠7は厚さ2mmのチタン板を使用した。そして電源8と負荷9とはリード線によってチタン板の外枠7を介して電極と電気的に接続している。ここで、正極5と分離膜3との距離は3mmであり、負極6と分離膜3との距離は1.5mmである。
【0019】
電解液は、モル分率0.17の塩化第一鉄、モル分率0.17の塩化アンモニウム、モル分率0.002のアスコルビン酸を水に溶かし、さらに1次粒子径が数十nmのカーボンブラックを全重量の10分の1添加して混合させたものである。この状態でリトマス試験紙によってpHがほぼ1の強酸であることが確認できた。
【0020】
以上のような構成の蓄電池において、充電、放電の効率の評価法を述べる。
【0021】
まず、電源8によって電流が50mAの一定値となるように電圧を10分間印加する。そして電源8を短絡して2分間保持する。その後50Ωの抵抗を有した負荷9につなぎ変えて放電させる。このとき流れた電流を測定しておく。充電、放電によって移動した電荷は電流値より見積もることができる。ここで、充電した電荷量に対する放電した電荷量の割合を充放電効率とする。
【0022】
本評価法では、電解液にカーボンを混合させた場合とさせない場合、電解液のpHを2未満とした場合と2以上とした場合、正極セルと負極セルの体積比を1対1とした場合と2対1とした場合について、充放電効率の値の大きさ、充放電の繰り返しの安定性を比較した。その結果、いずれの場合も本実施の形態の構成の蓄電池の方が、充電効率が高く、繰り返しの充放電においても安定した効率を得ることができた。
【産業上の利用可能性】
【0023】
本発明による蓄電池は、低コストの蓄電池である。この蓄電池は、変電所や工場に設置するための大容量の電池として利用できるだけでなく、安全性も高いため家庭用の電池、例えば夜間電力を蓄え、昼間使うための蓄電池に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の実施の形態1における蓄電池の断面図
【図2】従来の蓄電池の断面図
【符号の説明】
【0025】
2 分離膜
3 正極セル
4 負極セル
5 正極
6 負極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、前記正極に接する電解液を保持する正極セルと、負極と、前記負極に接する電解液を保持する負極セルと、前記正極セルと負極セルを分離する分離膜とを有し、前記正極セルでは2価及び3価の鉄イオンの反応、前記負極セルでは2価の鉄イオン及び鉄の反応により電荷の充放電を行うことを特徴とする蓄電池。
【請求項2】
電解液はカーボンの微粉末が混合されて成る請求項1に記載の蓄電池。
【請求項3】
電解液のpHが2未満である請求項1または2に記載の蓄電池。
【請求項4】
電解液はアスコルビン酸を含有して成る請求項3に記載の蓄電池。
【請求項5】
正極セルと負極セルの体積比が2対1であることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電池。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−92635(P2010−92635A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−259252(P2008−259252)
【出願日】平成20年10月6日(2008.10.6)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】