説明

蓄電素子用電極活物質の製造方法

【課題】蓄電素子用電極活物質の短時間製造方法を提供する。
【解決手段】少なくとも2台のインバータ制御されたマイクロ波発振器を有し、各々のマイクロ波照射域が一つの領域で重複するように配置され、相互にデカップリング状態で運転されるマイクロ波加熱炉を用い、原料成分混合物を前記照射域に供給し、原料成分混合物を加熱することを特徴とする蓄電素子用電極活物質の製造方法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は蓄電素子用電極活物質の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池は、高出力、高エネルギ密度であり、携帯機器用だけでなく、車載用充放電システム及び動力源、電力貯蔵及び供給システム用等、中・大型蓄電池としても注目されている。このようなリチウムイオン二次電池では、高出力特性、安全性、安定性の点で電極活物質(正極活物質、及び負極活物質)が重要な役割をはたしている。電極活物質としては、正極活物質として、コバルト酸リチウムに代表されるコバルト系、スピネルマンガン系、3元系と呼ばれるニッケルとマンガンとコバルトを含有するリチウム複合酸化物、リチウムリン酸鉄に代表されるオリビン系等が挙げられ、負極活物質として、黒鉛類、チタン系、スズ系、シリコン系、金属窒化物系、リチウムやリチウム合金が挙げられる。
【0003】
正極活物質の製造方法は、一般的に原料であるリチウム化合物、金属化合物、及びその他の材料を混合して坩堝等の容器に充填し、数百〜千数百℃に加熱して、数時間保持することで製造される。主に酸化雰囲気で製造されるが、リチウムリン酸鉄を製造する場合は還元雰囲気又は不活性雰囲気で製造される。しかしながら、正極活物質の製造方法は、加熱雰囲気の違いにかかわらず、加熱のために昇温時間、保持時間、冷却時間が必要とされ、短くともほぼ1日を要していた。
【0004】
特許文献1には、特定の非晶性コバルト化合物をコバルト源とすることで、加熱に必要な温度を下げ、所要時間を短縮できることが記載されている。しかしながら製造設備は従来とほとんど同様な焼成設備を使用しており、抜本的な製造時間の短縮には至らなかった。
【0005】
特許文献2には、所要時間がおおよそ1時間未満である3つの製造方法が記載されている。一つ目は噴霧熱分解と呼ばれる方法である。この方法では電池特性良好な蓄電素子用電極活物質を10分程度で製造できる。しかしながら1時間ほどの連続運転でも生成物による設備の閉塞を起こしてしまい、量産設備の高効率運転は困難であった。
【0006】
二つ目はマイクロ波加熱と呼ばれる方法であり、この方法でも電池特性良好な蓄電素子用電極活物資を10分程度で製造できる。マイクロ波加熱は対象物を選択的に加熱できる点に特徴を有するが、実際は坩堝等の容器に充填して加熱される。したがって坩堝壁近傍や開放域近傍には大きな温度分布があり、工業的に均質特性の製品を生産する手法としてはまだ確立されていなかった。この欠点を解決するため炉全体を加熱する方法も提案されている(特許文献3)が、これではマイクロ波加熱の特徴が活かされない。
【0007】
三つ目はロータリーキルンによる加熱で、この方法でも電池特性良好な蓄電素子用電極活物資を10分程度で製造できる。しかしながら加熱される円筒管はアルミナ等のセラミックスの場合、直径200mmの長さ2000mmの管が上限であるため、蓄電素子用電極活物質の生産性が充分でなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−279315号公報
【特許文献2】特開2007−230784号公報
【特許文献3】特開2006−24448号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、短時間で効率良く、連続製造できる蓄電素子用電極活物質の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、少なくとも2台のマイクロ波発振器により重複して形成された照射域に原料成分混合物を供給して加熱することにより、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。
すなわち本発明は、以下の構成を有する蓄電素子用電極活物質の製造方法を提供する。
[1]少なくとも2台のインバータ制御されたマイクロ波発振器を有し、各々のマイクロ波照射域が一つの領域で重複するように配置され、相互にデカップリング状態で運転されるマイクロ波加熱炉を用い、原料成分混合物を前記照射域に供給し、原料成分混合物を加熱することを特徴とする蓄電素子用電極活物質の製造方法。
[2]前記原料成分混合物が粉体であり、この粉体を前記マイクロ波照射域の上部から落下させて前記照射域を通過させる[1]に記載の蓄電素子用電極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法は、短時間で効率良く、連続製造できる蓄電素子用電極活物質を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明における蓄電素子用電極活物質(以下、必要に応じて活物質と省略する。)は、加熱処理を必要とするほぼ全ての蓄電素子用電極活物質に適用可能である。例えば、非水二次電池であるリチウムイオン二次電池の場合、正極活物質としては、コバルト系、ニッケル系、スピネルマンガン系、3元系、オリビン系等が挙げられる。負極活物質としては、黒鉛類、チタン系、スズ系、シリコン系、金属窒化物系、リチウムやリチウム合金等のリチウム系等が挙げられる。アルカリ二次電池の場合、正極活物質としては、ニッケル水酸化物やコバルト酸化物を複合化させたニッケル水酸化物、負極活物質としてはニッケルやチタンベースの水素吸蔵合金等が挙げられる。また、電気二重層キャパシタ用活物質の場合には、活性炭やホウ素処理活性炭等が挙げられる。
【0013】
<原料成分混合物>
本発明における原料成分混合物は、特に限定されるものではなく、製造する種々の活物質に合わせた原料成分を含むことができる。例えば、オリビン系であるLiFePOの場合、リチウム源及びリン酸源としては、LiHPO又はLiHPO水溶液を使用することができる。なかでも、原料成分の全て或いは一部が共通溶媒からなる溶液であることが、原料成分を均質に混合でき、均質な製品を製造することができることから好ましい。さらに、前記共通溶媒が水であることがより好ましい。リチウムやリン酸の当量を精密に制御するため、その他のリチウム化合物やリン酸化合物を使用してもよい。その他のリチウム源やリン酸源としては、LiCO、LiO、(NHHPO、NHPOが、製品に不用な元素を残留させることが少ないことから好ましい。また、原料成分混合物は、リン酸水溶液に所定量のリチウム化合物を溶解させて調製することも可能である。
【0014】
LiFePOの鉄源としては、鉄2価又は3価の化合物であってもよく、一般なシュウ酸鉄等を原料とすることができる。なかでも、上記リチウム源とリン酸源の水溶液に可溶である点から、鉄の有機酸塩を鉄源に用いることが好ましく、容易に入手可能で極めて安価であることから、Fe、FeOOH、Fe等の酸化鉄類であるのがより好ましい。さらに、合成Feの中間原料であるFeOOHはリン酸水溶液中で微細化し易いことから特に好ましい。
負極活物質であるチタン酸リチウムの場合、原料成分混合物としては、炭酸リチウムと酸化チタンの混合物等が挙げられる。
【0015】
本発明における原料成分混合物は、原料成分の少なくとも一部がマイクロ波を吸収することで加熱される。コバルト及びコバルト酸化物はマイクロ波を良く吸収することが知られているが、ニッケル酸化物、マンガン酸化物、鉄酸化物、シリコン系等はマイクロ波を吸収しにくい。しかしながら、シリコン系のようなマイクロ波をほとんど吸収しない原料を用いる場合には、活物質の微細化と、マイクロ波を吸収しやすい電子伝導性カーボンとの複合化することで加熱することが可能となる。また、シリコン系活物質は電子伝導性が乏しいため、充放電によるLiの挿入と脱離に伴い大きな体積変化を起こす。シリコン系活物質の電子伝導性を高めるためには、活物質の微細化と微細化された活物質の表面へのカーボン被覆、さらには活物質内部へのカーボン導入が有効である。
【0016】
さらに、活物質の微細化と合わせて、金属ケイ素コアを二酸化ケイ素シェルで被覆したコアシェル型シリコン系活物質を採用することにより、充放電時の大きな体積変化に伴うシリコンの崩壊を防止することができる。具体的には、二酸化ケイ素と金属ケイ素の混合物から一酸化ケイ素を合成した後、不活性雰囲気下、本発明のマイクロ波加熱炉で熱処理して不均化することにより、電気化学的に活性な金属ケイ素が電気化学的に不活性な二酸化ケイ素中に分散された、コアシェル型シリコン系活物質を製造することができる。かかる構造によりシリコン系活物質の大きな体積変化が二酸化ケイ素マトリクスにより抑えられ、活物質の崩壊とサイクル劣化を防止できて長期のライフを実現できると考えられる。
【0017】
活物質の微細化には、機械的衝撃を加えて粉砕したり、ジェットミル等で粉砕したりする方法を用いることも可能であるが、上記リチウム源とリン酸源の水溶液中に分散させた分散液に微細化処理を施して微細化する方法が混合と微細化を一つの工程で遂行できる点で好ましい。分散液の微細化処理は、せん断力を加える方法であれば特に限定されないが、効率良く微細化でき、かつ異物の混入を低く制御できる点で、分散液を回転速度の大きく異なる2つのローター間、2つのディスク間、又はローターとステーター間に通して微細化する方法、ノズルから高圧で噴射し、相互に衝突させるか又は遮蔽物に衝突させて微細化する方法、分散液にキャビテーションを起こして微細化する方法、ビーズミル、遊星ボールミル、又はボールミルを用いた方法が好ましい。
【0018】
本発明において微細化された固体原料成分の分散液中における好ましい粒子径は活物質の種類や蓄電素子の種類にも依存される。例えば、LiFePOの場合、均質な合成反応を遂行できることから、メジアン径(D50)は、1μm以下が好ましい。またシリコン系活物質の場合、一酸化ケイ素のD50は、0.1〜30μmが好ましい。メジアン径(D50)は、全粒子の粒径累積%の中央値であり、レーザー回折散乱法によって測定することができる。
【0019】
また、活物質と電子伝導性カーボンとを複合化する方法も種々提案されており、いずれの方法であってもよい。なかでも微細化された活物質であっても均質に複合化できることから、電子伝導性カーボン又は電子伝導性カーボンの前駆体化合物の溶液を用いることが好ましい。導電性カーボン又は前駆体化合物の溶液の溶媒は、取り扱いが容易であることから水であるのが好ましい。水媒体中で微細化処理された原料混合物分散液に電子伝導性カーボン前駆体の水溶液を混合することにより、両者の均質混合が可能となり、最終的に微細な活物質に電子伝導性カーボンを均質に複合化させた活物質を製造できる。
水に可溶な電子伝導性カーボンの前駆体としては、簡便な加熱処理により容易に電子伝導性カーボンに変換可能であることから糖類が好ましく、入手しやすく安価であることからショ糖やブドウ糖がより好ましい。
【0020】
しかしながらショ糖或いはブドウ糖等を含有した水性分散液から噴霧乾燥法により乾燥粉体を得ることは困難である。水性分散液から噴霧乾燥法により乾燥粉体を得るためには、電子伝導性カーボン前駆体に特定のカラメル、オリゴ糖、デキストリン、水溶性食物繊維、水溶性セルロース分解物等を用いるのが有効である。例えば、カラメルを用いる場合、カラメルは、糖類又は糖類の水溶液を加熱して部分分解し、一部が脱水、もう一部が重合した水溶性物質であることから、部分脱水により親水性の−OH基が減少する結果、噴霧乾燥が可能となったものと解釈できる。カラメルとしてはブドウ糖を原料としたものでも、ショ糖を原料としたものでも、マルトースを原料としたものでも、オリゴ糖やデキストリンを原料としたものでも、その他のものでも本発明に使用可能である。これら前駆体は噴霧乾燥法により乾燥可能であるうえショ糖やオリゴ糖と同様に簡便な熱処理で電子伝導性良好なカーボンに変換でき、本発明に好適に用いられる。
【0021】
噴霧乾燥可能なその他の糖類としては、水溶性食物繊維や水溶性のセルロース分解物も使用でき、少なくとも2個のヘキソース単位を有し。その結合のうちα−1,4結合を除いた結合の量が20%以上、好ましくは30%以上であるか、又は数平均分子量が350以上、好ましくは400〜数万のいずれか又は2つを満たす糖類が使用可能である。例えば、セルロースを2量体にまで分解されたセロビオースも、平均分子量は350未満であるがヘキソース単位の結合がβ−結合であることから噴霧乾燥可能であり、上記の要件を満たして本発明に使用可能である。これらの糖類は、加熱分解による炭化反応がショ糖とほぼ同様条件で進行するうえ、電子伝導性カーボンの収率がショ糖やブドウ糖より高い。α−1,4結合を除いた結合の量が20%未満であると噴霧乾燥できないので好ましくない。また平均分子量が350未満であると分子鎖末端の−OH基が増え、親水性を増して噴霧乾燥できなくなるので好ましくない。
【0022】
本発明における原料成分混合物は、微細化処理された水性の原料成分分散液や、或いはかかる分散液と電子伝導性カーボン前駆体の水溶液を混合した分散液から、分散媒である水を除去して乾燥することで調製される。乾燥粉体の調製には種々の乾燥プロセスを用いて行うことが可能であるが、粒径制御可能で均質組成の粉体調製が容易であることから、噴霧乾燥や多量の気流中に分散液を供給しながら乾燥させる方法であるのが好ましい。例えば噴霧乾燥の場合、ノズル式、スリット式、回転盤式等、或いは2流体式、3流体式、4流体式等、その他いずれの方法でも好適に使用可能である。乾燥条件は、使用する設備の能力や求める粒径、原料成分等により決定されるものであるが、通常は入り口温度250℃以下、出口温度110℃以下で行われる。かかる条件であれば原料成分間の好ましくない副反応も抑えられることから好ましい。これにより原料成分のほぼ全てを回収でき、得られる凝集粒子の粒子制御も容易である。乾燥された凝集粒子のメジアン径(D50)は、活物質の種類や電池系により異なるが、正極、負極共にD50が0.01〜100μmが好ましく、0.1〜30μmがより好ましい。
【0023】
本発明の製造方法において、活物質と導電助剤となる電子伝導性カーボンなどを複合化することは、活物質と導電助剤を微細かつ強力に結び付けることができ、電池特性の向上の点からも有効である。したがって原料成分混合物中に電子伝導性カーボンを添加して活物質合成過程に電子伝導性カーボンを介在させることは、活物質表面や粒子間間隙に電子伝導性カーボンを強力に担持することができ、電池特性の向上するため好ましい。
【0024】
さらに、車載用電池や大容量電池の場合、極めて信頼性高い安全性と長期の寿命が求められるうえ、限れた容積や質量の中で強力な出力も求められる。この強力な出力を実現するためには、活物質の微細化と活物質表面への電子伝導性カーボン被覆技術が有効である。
【0025】
<蓄電素子用電極活物質の製造方法>
少なくとも2台のインバータ制御されたマイクロ波発振器を有し、各々のマイクロ波照射域が一つの領域で重複するように配置され、相互にデカップル状態で運転されるマイクロ波加熱炉を用い、原料成分混合物を前記照射域に供給し、原料成分混合物を加熱することを特徴とする
本発明の製造方法は、少なくとも2台のインバータ制御されたマイクロ波発振器が各々のマイクロ波照射域を一つの領域で重複させ、相互にデカップル状態で運転されるマイクロ波加熱炉であって、原料成分混合物を前記照射域に供給し、原料成分混合物を加熱することで、活物質を極めて短時間で合成することができる。
【0026】
本発明におけるマイクロ波加熱炉には、マイクロ波を発生できるいかなるマイクロ波発振器であっても使用可能である。マイクロ波発振器としては、なかでも、入手が容易な点からマグネトロン型発生装置、クライストロン型発生装置がより好ましい。マグネトロン型発生装置は、通常2.45GHz帯のマグネトロンが一般的に用いられており、本発明にも好適に用いることができる。
【0027】
本発明のマイクロ波加熱炉は、マイクロ波の高い指向性を活かして、シングルモードのインバータ制御された少なくとも2台のマグネトロン型発生装置を、それぞれが一つの照射域に重ね合わせてマイクロ波を照射できるように配置し、それぞれデカップリング状態で並列運転できる電源装置と組み合わせて運転することにより、形成された一つの照射域は用いた複数台それぞれの出力を総和した出力を生み出すことができる。
【0028】
一般に複数のマグネトロンを同期させて並列運転するのは困難と見られている。しかし例えば四面体の三面対称軸を基準とする3つの面に、それぞれ対称に3つの発信機を配置して商用3相交流に結線すれば、それぞれ独立の電解分布を持つ3つのマイクロ波を1つの領域に集中させて、それぞれデカップリング状態で照射することができる。ここで、デカップリング状態とは、複数のマグネトロンが単純に連動して出力低下してしまうのを防止し、それぞれ位相角制御された任意の出力を発現させながら同時運転できる状態にあることを言う。こうして形成された照射域には個々の発信機の出力を和した総出力が供給される。
【0029】
さらに、2台1組とした3組6台の単相交流変圧器の基本構成回路に、各組一次側を並列接続して3相交流を入力し、各組二次側を直列接続すると、3相交流から6相交流の出力を得ることができる。この3相−6相変換方式にはスター−スター結線とデルタ−スター結線が可能であり、この2つの結線方法には30度の位相差がある。この位相差を利用することで、3相から12層へ直接変換することも可能である。したがって12台のマグネトロンを並列して運転することが可能であり、12個のマイクロ波をそれぞれデカップリング状態で1つの照射域に集中させることで、12台の出力を和した総出力をひとつの領域に集中させて照射することもできる。
【0030】
一方、電力を複数に分配できる電力分配部、分割された電力それぞれの出力位相を可変制御する位相可変部、位相制御された電力出力を増幅する増幅部を組み合わせて、複数のマグネトロンを並列運転することも可能である。本発明にはどのような手法であれ複数のマイクロ波発振器をそれぞれに位相制御して運転できる全ての方法を用いることができる。
マイクロ波発振器の数は、生産性、設備コストの点から、2〜24が好ましく、3〜12が特に好ましい。
【0031】
本発明における原料成分混合物の供給方法は、特に限定されることはなく、種々の方法で行うことが可能である。なかでも、原料成分混合物を直接照射域に供給する方法が、効率良く均質に加熱できることから好ましい。なかでも、効率良い加熱と均質な反応が可能であるため、照射域の上部から原料成分混合物を落下させ、マイクロ波を照射して加熱し、反応させることがより好ましい。さらに、原料成分混合物の粉体を落下させて照射する方法である。原料成分混合物の粉体を落下させて照射する方法であれば、急速加熱と反応後の急速冷却が可能となって、極めて短時間で合成反応を遂行でき、特に好ましい。
原料成分混合物の供給速度は、マイクロ波加熱装置の出力や設備の大きさによっても異なるが、1g/分〜100kg/分が好ましく、10g/分〜10kg/分がより好ましく、0.5kg/分〜3kg/分が特に好ましい。
【0032】
複数のマイクロ波発振器によって原料成分混合物の粉体を加熱する温度、及び照射時間は、原料成分混合物によって適宜調整することができる。例えば、電子伝導性カーボンや電子伝導性カーボンの前駆体を複合化した場合は、電子伝導性カーボンの前駆体水溶液に活物質を分散させた後、噴霧乾燥等により乾燥粉を得、電子伝導性カーボン前駆体を炭化させることによっても電子伝導性カーボンを複合化させた活物質が得られる。
【0033】
加熱温度は、炭化が150℃〜1500℃で進行するため、150〜350℃であれば空気雰囲気下で行うことができるため好ましい。また、加熱温度が300℃以上の場合は、酸素存在下では炭素が燃焼消失するため、好ましくは窒素、アルゴン等の不活性雰囲気中、大気中減圧下或いは還元雰囲気中で行われるのが好ましい。
【0034】
LiFePO原料成分混合の粉体と電子伝導性カーボン前駆体の複合体の場合は、LiFePOの合成と前駆体の炭化が、本発明におけるマイクロ波加熱炉を用いた加熱工程1つで遂行することができる。LiFePOの合成は、不活性雰囲気下の300〜1250℃、好ましくは350〜1200℃にて熱処理され、オリビン型構造のLiFePOの合成と前駆体の電子伝導性カーボンへの変換が同時に進行する。特に前駆体化合物が糖類の場合、糖類はLiFePO合成時の還元剤としても機能することから、合成反応をスムースに行き渡らせるのに好適である。なお加熱温度が300℃より低いと合成反応は遂行し難く、また1250℃より高いと副反応物が生成してしまう。
【0035】
シリコン系である一酸化ケイ素と電子伝導性カーボン前駆体の複合体の場合も、不均化反応と前駆体の炭化を本発明におけるマイクロ波加熱炉を用いた加熱工程1つで遂行することができる。一酸化ケイ素の不均化は不活性雰囲気下の900〜1500℃、好ましくは1000〜1350℃で行われ、活物質となるシリコンと二酸化ケイ素からなるコアシェル型シリコン系活物質の合成及び前駆体の電子伝導性カーボンへの変換がなされる。このようにして粒子の表面及び小粒子の小粒子間界面や間隙にまで行き渡った電子伝導性カーボンを有する活物質が製造できる。
【0036】
加熱時間は、処理温度や粒子径、粒子形態にも依存して一概には決められないが通常は1秒〜48時間が好ましい。
本発明の製造方法は、極めて短時間で活物質の合成が可能であることから、活物質の肥大化や焼結を起こすことなく合成反応を遂行できる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明のマイクロ波加熱炉を真上から観察した模式図。
【図2】本発明のマイクロ波加熱炉を真横から観察した模式図。
【図3】実施例1で製造したLiFePO(A)のX線回折パターン図。
【図4】実施例1で製造したLiFePO(A)の粒度分布図。
【図5】実施例1で製造したLiFePO(A)のSEM図。
【図6】比較例2で製造した黒色生成物(C)のX線回折パターン図。図中矢印はLiFePOに帰属されない主な回折ピークである。
【図7】実施例2で製造したLiCoO(D)のX線回折パターン図。
【実施例】
【0038】
以下に実施例によって本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の解釈はこれらによって制限されるものではない。なお、実施例において電池の容量維持率は以下の式で求めた。
容量維持率(%)=100サイクル目の放電容量/初期放電容量 X 100。
【0039】
[マイクロ波加熱炉]
実施例で使用のマイクロ波加熱炉の概略図を下記図1及び図2に示す。図1は直径3cmの照射域に、0.5kwのマグネトロン6台が均等に配置され、各マグネトロンから発振されたシングルモードマイクロ波が重なり合って照射域を形成していることを示している。図2は各マイクロ波が照射域上方30°の方向から照射されていることを示している。6台のマグネトロンはそれぞれ、商用3相交流から6相交流に変換された各相に1台ずつ接続されている。一方比較のため1.0kwのマグネトロン1台のみを接続した加熱炉も準備した。
【0040】
[実施例1]
313.1gの85質量%H3PO4を純水1000gで希釈した。このリン酸水溶液を撹拌しながら100.3gのLi2CO3を加えて溶解させ、リン酸二水素リチウムの水溶液を得た。この水溶液を撹拌しながら、鉄1当量当たりの分子量が92.2であるFeOOHを250.5g加え、さらに純水400gを追加して水性分散液を調製した。この分散液を直径0.1mmのジルコニアビーズを用いたビーズミルにより1時間微細化処理し、D50が0.16μmである水性分散液を得た。この水性分散液にブドウ糖由来のカラメルを62質量%含有するカラメル水溶液82.9gを加え、リチウムリン酸鉄を合成するための原料成分と導電性カーボンの前駆体であるカラメル等を含有した水性の原料成分混合物分散液を得た。続いて原料成分混合物分散液を4流体ノズル型噴霧乾燥機を用いて乾燥し、D50が2.9μmの原料成分混合物粉体を得た。
【0041】
次に本発明のマイクロ波加熱炉を窒素ガス置換した後、水素5体積%含有する窒素ガスを0.8リットル/分の流速で供給しながら、照射域上部より原料成分混合物粉体を15g/分の速度で供給し、照射域の温度を610℃に制御しながら10分間加熱処理を続けたら、D50が2.5μmのオリビン型LiFePO(A)が117.3g得られた。図3、図4、図5はそれぞれ(A)のX線回折パターン図、粒径分布図、SEM観察写真(倍率は1000倍)である。図より(A)はオリビン型構造を有する、微細な一次粒子の結晶性良好なLiFePOであることが確認された。
【0042】
LiFePO(A)の1.2gとカルボキシメチルセルロース(以下CMCと称する。)0.013g、アセチレンブラック0.067g、水1.27gをプラスティックチューブに秤量し、スピンドル型ホモジナイザーで2分間撹拌した後、プロピレンとテトラフルオロエチレンの共重合体(以下PrTFEと称する。)を34.5質量%含有する水性エマルション0.039gと、ポリテトラフルオロエチレン(以下PTFEと称する。)を60.4質量%含有する水性エマルション0.089gを加えて前記ホモジナイザーで2秒間撹拌して水性ペーストを得た。このペーストをアルミ箔に塗布して乾燥した後に、圧延して所定の大きさに打ち抜き、正極板とした。
【0043】
この正極板とリチウム箔の負極板にそれぞれリード線を取り付け、ポリオレフィン系セパレータを介してステンレス製セルケースに収納した。続いて、エチレンカーボネートとジエチレンカーボネートの混合液に六フッ化リン酸リチウムを1モル/リットル溶かした電解質溶液を注入し、モデルセルとした。
このモデルセルの電池特性を以下のようにして評価した。すなわち、充放電測定装置を用い、25℃において充電電流0.6mA/cmで電池電圧4.3Vになるまで受電した後、放電電流2.0mA/cmで(1.25Cレートの相当する。)で2.0Vになるまで放電する充放電の繰り返しを行い、初期放電容量と100サイクル後の放電容量を求めて評価した。その結果を表1に示した。
【0044】
[比較例1]
マイクロ波加熱炉に替えて比較のために準備した1.0kwのマグネトロン1台のみを接続したマイクロ波加熱炉を使用し、15g/分の原料成分混合物粉体供給速度に替えて5g/分の速度で供給したことを除き、実施例1と同様にして10分間加熱処理を続けたところ、35.3gの黒色生成物(B)が得られた。しかしながら、黒色生成物(B)のX線回折パターン図には酸化鉄その他の副生成物或いは未反応原料のものと判断される回折ピークが残るもので、良好なLiFePOは合成できなかった。
【0045】
[比較例2]
原料成分混合物粉体供給速度を2.5g/分に替えたことを除き比較例1度同様にして10分間加熱処理を続けたら、11.5gの黒色生成物(C)が得られた。黒色生成物(C)のX線回折パターン図を図6に示したが、副反応性生物或いは未反応原料のものと判断される回折ピークが残っており、良好なLiFePOは合成できなかった。
【0046】
[実施例2]
市販のCoOOHを入手して分析した結果、コバルト含有量が64.4質量%で、H1.09CoO1.97の組成式で示され、CuKαを線源とするX線回折における2θ=36〜37.5度付近の回折ピークの半値幅が2.1であった。このコバルト含有量と半値幅の関係は特許第4224143号公報から、リチウムコバルト複合酸化物用のコバルト源として好ましいことを確認した。
【0047】
CoOOHの273.6gとLiCOの111.1gを900gの純水中に分散させた原料成分混合物分散液を高圧下で相互に衝突させて微細化処理し、固体原料成分のD50を0.97μmとなるまで解砕した。続いてこの原料成分混合物分散液を実施例1と同様にして噴霧乾燥し、D50が3.1μmの原料成分混合物粉体を得た。
【0048】
原料成分混合物粉体を、マイクロ波加熱炉照射域の上部から15g/分の速度で供給し、照射域の温度を820℃に制御しながら10分間加熱処理を続けたところ、D50が2.9μmのLiCoO(D)が112.5g得られた。図7は(D)のX線回折パターン図である。
LiCoO(D)から実施例1と同様にして正極板を作製して電池特性を評価した結果を表1に示した。
【0049】
[実施例3]
炭酸ニッケルを大気中700℃にて15時間焼成して調製した酸化ニッケルの0.9モル、炭酸マンガンを大気中700℃にて15時間焼成して調製した二酸化マンガンの0.9モル、実施例2で使用したのと同様のCoOOHの0.9モル、LiCOの0.375モルを1.5kgの純水に分散させ、実施例1と同様にビーズミルで微細化処理後、カラメル水溶液50gを添加してから噴霧乾燥し、D50が3.0μmの原料成分混合物粉体を得た。
【0050】
マイクロ波加熱炉に合成空気(酸素対窒素の体積比は22対78とした)を0.8リットル/分の流速で供給しながら、照射域上部より原料成分混合物粉体を15g/分の速度で供給し、照射域の温度を890℃に制御しながら10分間加熱処理を続けたら、D50が2.9μmのリチウム(ニッケル・マンガン・コバルト)複合酸化物(E)が112.5g得られた。
リチウム(ニッケル・マンガン・コバルト)複合酸化物(E)から実施例1と同様にして正極板を作製して電池特性を評価した結果を表1に示した。
【0051】
[実施例4]
実施例1と同様のカラメル水溶液98gを1200gの純水で希釈した。この水溶液を撹拌しながらD50が0.36μmの一酸化ケイ素480gを加えて、水性分散液とした。この水性分散液を実施例1と同様にして噴霧乾燥し、D50が3.6μmの原料成分混合物粉体を得た。
次にマイクロ波加熱炉をアルゴンガス置換した後、アルゴンガスを0.8リットル/分の流速で供給しながら、照射域上部より原料成分混合物粉体を15g/分の速度で供給し、照射域の温度を1300℃に制御しながら10分間加熱処理を続けた。その結果D50が3.4μmである不均化されたシリコン系負極活物質(F)が得られた。
【0052】
LiFePO(A)の1.2gに替えて、シリコン系負極活物質(F)の0.63gと黒鉛の0.63gを用い、0.067gのアセチレンブラックを用いなかったことを除き、実施例1と同様にして電極塗工用の水性ペーストを調製した。このペーストを銅箔に塗布して乾燥した後に、圧延して所定の大きさに打ち抜き、電極板とした。このシリコン系電極板はリチウムイオン電池等の負極板として利用できるが、電池特性の評価は対極にリチウム箔を用いてこれを負極とし、本シリコン系電極板は正極として取扱い、実施例1と同様にして評価した。その結果を表1に示した。
【0053】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は蓄電デバイス等用電極活物質の製造に利用でき、特性良好な電極活物質を極めて短時間に製造できる。
【符号の説明】
【0055】
1:マイクロ波が重複して照射されている照射域
2、3、4、5、6、7:マグネトロン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも2台のインバータ制御されたマイクロ波発振器を有し、各々のマイクロ波照射域が一つの領域で重複するように配置され、相互にデカップリング状態で運転されるマイクロ波加熱炉を用い、原料成分混合物を前記照射域に供給し、原料成分混合物を加熱することを特徴とする蓄電素子用電極活物質の製造方法。
【請求項2】
前記原料成分混合物が粉体であり、該粉体を前記マイクロ波照射域の上部から落下させて前記照射域を通過させる請求項1に記載の蓄電素子用電極活物質の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−233340(P2011−233340A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−102090(P2010−102090)
【出願日】平成22年4月27日(2010.4.27)
【出願人】(000000044)旭硝子株式会社 (2,665)
【Fターム(参考)】