蓄電装置及びその作製方法
【課題】充放電による劣化が少なく、高サイクル特性を有する負極を有する蓄電装置を作製する。
【解決手段】正極と、負極と、前記正極及び負極の間に設けられた電解質とを有し、負極は、負極集電体及び負極活物質層を有し、負極活物質層は、負極集電体上に形成される凹凸状のシリコン層と、シリコン層に接する、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層と、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層に接するグラフェンと、を有する蓄電装置を作製する。
【解決手段】正極と、負極と、前記正極及び負極の間に設けられた電解質とを有し、負極は、負極集電体及び負極活物質層を有し、負極活物質層は、負極集電体上に形成される凹凸状のシリコン層と、シリコン層に接する、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層と、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層に接するグラフェンと、を有する蓄電装置を作製する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池などの、蓄電装置の開発が行われている。
【0003】
蓄電装置用の電極は、集電体の一表面に活物質を形成することにより作製される。活物質としては、例えば炭素またはシリコンなど、キャリアとなるイオンの吸蔵及び放出が可能な材料が用いられる。例えば、シリコンまたはリンがドープされたシリコンは、炭素に比べ、約4倍のキャリアとなるイオンを吸蔵することが可能であるため、理論容量が大きく、蓄電装置の大容量化という点において優れている(例えば特許文献1)。
【0004】
しかしながら、キャリアとなるイオンの吸蔵量が増えると、充放電サイクルにおけるキャリアとなるイオンの吸蔵放出に伴う体積の変化が大きく、シリコンの微粉化などが生じてしまい、信頼性の上で問題がある。
【0005】
そこで、シリコン粒子核を炭素層で被覆することで、シリコンの微粉化を防いでいる。また、シリコン粒子核には不純物として酸化シリコンが含まれており、当該シリコンに炭素層を被覆している(特許文献1参照。)。
【0006】
一方、近年、半導体装置において、導電性を有する電子部材としてグラフェンを用いることが検討されている。グラフェンとは、sp2結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいう。
【0007】
グラフェンは化学的に安定であり、且つ電気特性が良好であるため、トランジスタのチャネル領域、ビア、配線等の半導体装置への応用に期待されている。また、リチウムイオンバッテリ用の電極材料の導電性を高めるために、活性電極材料にグラフェンを被覆している(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−215887号公報
【特許文献2】特開2011−29184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、シリコン粒子を負極活物質として用いると、シリコン粒子を炭素層で被覆しても充放電サイクルにより生じる微粉化を抑制することは困難であった。そこで、本発明の一態様は、充放電による劣化が少なく、高サイクル特性を有する負極を有する蓄電装置を作製する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、負極活物質層が、負極集電体上に形成される凹凸状のシリコン層と、該シリコン層に接する、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層と、該酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層に接するグラフェンと、を有する負極を備える蓄電装置である。
【0011】
凹凸状のシリコン層は、負極集電体表面全体を覆う共通部と、該共通部から突出する凸部とで構成される。凹凸状のシリコン層を負極活物質層として用いることで、負極活物質層の表面積が広い。つまり、負極を蓄電装置に搭載した場合、高速な充放電が可能となり、充放電容量がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。また、隣り合う凸部の間には隙間があるため、充電により負極活物質層が膨張しても、凸部同士の接触を低減することが可能であり、凸部の膨張に伴い負極活物質層が崩壊し剥離することが抑制でき、サイクル特性がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0012】
また、凹凸状のシリコン層の表面には、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層を有する。蓄電装置の充電により、酸化シリコン層にキャリアイオンが吸蔵され、酸化シリコンの一部がキャリアイオンを含むシリケート化合物となる。このため、蓄電装置においては、一度の充電の後、酸化シリコン層は、酸化シリコン及びキャリアイオンを含むシリケート化合物を有する混合層となる。キャリアイオンを含むシリケート化合物は、キャリアイオンの移動パスとなる。また、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層は、充放電によるシリコン層の膨張及び収縮を緩和することができるため、充放電によるシリコン層の崩壊を抑制することができる。
【0013】
グラフェンは、単層のグラフェンまたは多層グラフェンを含む。また、グラフェンは、2atomic%以上11atomic%以下、好ましくは3atomic%以上10atomic%以下の酸素を含んでもよい。負極活物質層の表面にグラフェンを有することで、負極活物質層の表面に形成される被膜(SEI(Solid Electrolyte Interface))の膜厚の増加を抑制することが可能であり、放電容量の低下及び電解液の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様により、充放電による劣化が少なく、高サイクル特性を有する負極を有する蓄電装置を作製することができる。また、放電容量を高めた蓄電装置を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】負極を説明する図である。
【図2】負極の作製方法を説明する図である。
【図3】負極の作製方法を説明する図である。
【図4】負極の作製方法を説明する図である。
【図5】正極を説明する図である。
【図6】蓄電装置を説明する図である。
【図7】電気機器を説明する図である。
【図8】負極活物質のHAADF−STEM像である。
【図9】負極活物質のEDX分析結果である。
【図10】負極活物質のTEM像である。
【図11】計算に用いたモデルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
本実施の形態では、充放電による劣化が少なく、高サイクル特性を有する蓄電装置の負極の構造及び作製方法について、図1及び図2を用いて説明する。
【0018】
図1(A)は負極205の断面図である。負極205は、負極集電体201上に負極活物質層203が形成される。
【0019】
なお、活物質とは、キャリアであるイオン(以下、キャリアイオンと示す。)の吸蔵及び放出に関わる物質を指す。活物質層は、活物質の他に、導電助剤、バインダーや、本実施の形態に示す酸化シリコン層または混合層、グラフェン等を有する。よって、活物質と活物質層は区別される。
【0020】
また、キャリアイオンとしてリチウムイオンを用いる二次電池をリチウムイオン二次電池という。また、リチウムイオンの代わりに用いることが可能なキャリアイオンとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオン等がある。
【0021】
ここで、負極205の詳細な構造について、図1(B)乃至図1(D)を用いて説明する。ここでは、負極活物質層203の代表例を、図1(B)、図1(C)、及び図1(D)において、それぞれ負極活物質層203a、203b、203cとして説明する。
【0022】
図1(B)は、負極集電体201に負極活物質層203aが形成される負極の拡大断面図である。負極活物質層203aは、凹凸状であるシリコン層211と、当該シリコン層211の表面を覆う酸化シリコン層213と、酸化シリコン層213を覆うグラフェン215とを有する。
【0023】
負極集電体201は、白金、アルミニウム、銅、チタン等に代表される導電性の高い金属元素を用いることができる。なお、負極集電体201として、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることが好ましい。また、負極集電体201として、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。
【0024】
負極集電体201は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0025】
凹凸状であるシリコン層211としては、キャリアであるイオンの吸蔵放出が可能なシリコンを用いる。または、リン、ボロン等の一導電型を付与する不純物元素が添加されたシリコンを用いてもよい。リン、ボロン等の一導電型を付与する不純物元素が添加されたシリコンは、導電性が高くなるため、負極の導電率を高めることができる。このため、蓄電装置の放電容量をさらに高めることができる。
【0026】
凹凸状であるシリコン層211は、共通部211aと、共通部211aから突出する凸部211bとを有する。共通部211aは、負極集電体201の表面全面に接している領域である。凸部211bは、円柱状、角柱状等の柱状、円錐状または角錐状の針状等の形状を適宜有する。なお、凸部211bを髭状(紐状若しくは繊維状)ということもできる。なお、凸部211bの頂部は湾曲していてもよい。なお、共通部211a及び凸部211bが同じ材料を用いて構成されてもよい。または、共通部211a及び凸部211bが異なる材料を用いて構成されてもよい。
【0027】
なお、共通部211a及び凸部211bの界面は明確でない。このため、シリコン層211において、複数の凸部211bの間に形成される谷のうち最も深い谷の底を含み、且つ負極集電体201の表面と平行な面を、共通部211a及び凸部211bの界面として定義する。
【0028】
また、凸部211bの長手方向は、同一方向に揃わず、不揃いでよい。凸部211bの長手方向が不揃いであると、一の凸部と他の凸部が接する場合があるため、充放電時に凸部211bの剥離(または脱離)が生じにくく好ましい。
【0029】
なお、凸部211bが共通部211aから伸張している方向を長手方向と呼び、長手方向に切断した断面形状を縦断面形状と呼ぶ。また、凸部211bの長手方向と略垂直な面において切断した断面形状を横断面形状と呼ぶ。
【0030】
凸部211bについて、横断面形状における幅は、0.2μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上5μm以下である。また、該凸部211bの長さは、3μm以上1000μm以下、好ましくは6μm以上200μm以下である。
【0031】
なお、凸部211bにおける「長さ」とは、長手方向の断面形状において、凸部211bの頂点(または上面)の中心を通る軸に沿う方向の該頂点と共通部211aの間隔をいう。
【0032】
なお、シリコン層211は、非晶質シリコン、または結晶性シリコンを用いて形成される。図1(B)においては、シリコン層211は非晶質シリコンを用いて形成される。
【0033】
また、図1(C)の拡大断面図に示すように、シリコン層221において、共通部221a及び凸部221bが、結晶性シリコンで形成される芯223aと、非晶質シリコンで形成される外殻223bでと構成されてもよい。非晶質シリコンで形成される外殻223bは、イオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化に強い(例えば、体積変化に伴う応力を緩和する)という特徴を有する。また、結晶性シリコンで形成される芯223aは、導電性及びイオン移動度に優れており、イオンを吸蔵する速度及び放出する速度が単位質量あたりで速いという特徴と有する。従って、負極において、芯223a及び外殻223bを有するシリコン層221を備えることで、高速に充放電が可能となり、充放電容量及びサイクル特性が向上した蓄電装置を作製することができる。
【0034】
さらに、図1(C)に示すシリコン層221を負極活物質層203bに有することで、負極集電体201とシリコン層221の密着性が向上する。これは、負極集電体201に接する領域の多くが非晶質シリコンで形成されると、負極集電体201の表面に対する順応性が高いためである。換言すると、非晶質シリコンのほうが、負極集電体201の表面と整合するように形成されやすいためである。さらに、当該負極を蓄電装置に搭載した場合、イオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化に強い(例えば、体積膨張に伴う応力を緩和する)ため、繰り返しの充放電によって、負極活物質層が崩壊し剥離することを抑制でき、サイクル特性がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0035】
また、図1(D)の拡大断面図に示すように、共通部231a及び凸部231bが、結晶性シリコンで形成される芯233aと、非晶質シリコンで形成される外殻233bでと構成されてもよい。なお、隣り合う凸部231b内に設けられる芯233aは、共通部231aにおいて負極集電体201と接する結晶性シリコンにより接続される。
【0036】
図1(D)に示すシリコン層231を負極活物質層203cに有することで、導電性及びイオン移動度に優れた結晶性シリコンが負極集電体201と広範囲に接している。そのため、負極205全体として導電性をさらに向上させることができる。つまり、本形態を蓄電装置に搭載した場合、さらに高速な充放電が可能となり、充放電容量がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0037】
芯223a、233aの横断面形状における幅は、0.2μm以上3μm以下であればよく、好ましくは0.5μm以上2μm以下であればよい。
【0038】
また、芯223a、233aの長さは特に限定されないが、0.5μm以上1000μm以下とすればよく、好ましくは2.5μm以上100μm以下であればよい。
【0039】
負極205において、負極活物質層203は、凸部211b、221b、231bが突出している分、板状の負極活物質層に比べて表面積が広い。つまり、負極205を蓄電装置に搭載した場合、高速な充放電が可能となり、充放電容量がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。また、隣り合う凸部211b、221b、231bの間には隙間があるため、充電により負極活物質層が膨張しても、凸部同士の接触を低減することが可能であり、凸部の膨張に伴い負極活物質層が崩壊し剥離することを抑制でき、サイクル特性がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0040】
なお、負極において、負極集電体201を用いず、負極活物質層203を集電体として機能させてもよい。また、負極集電体201としてシリサイドを形成する金属材料を用いる場合、負極集電体201において、負極活物質層203と接する側にシリサイド層が形成される場合がある。負極集電体201にシリサイドを形成する金属材料を用いると、チタンシリサイド、ジルコニウムシリサイド、ハフニウムシリサイド、バナジウムシリサイド、ニオブシリサイド、タンタルシリサイド、クロムシリサイド、モリブデンシリサイド、コバルトシリサイド、ニッケルシリサイド等がシリサイド層として形成される。
【0041】
酸化シリコン層213は、厚さ2nm以上10nm以下とすることが好ましい。シリコン層211上に酸化シリコン層213を設けることで、蓄電装置の充電時に酸化シリコン中にキャリアであるイオンが挿入される。この結果、Li4SiO4、Na4SiO4、K4SiO4等のアルカリ金属シリケート化合物、Ca2SiO4、Sc2SiO4、Ba2SiO4等のアルカリ土類金属シリケート、Be2SiO4、Mg2SiO4等のシリケート化合物が形成される。これらのシリケート化合物は、キャリアイオンの移動パスとして機能する。また、酸化シリコン層213を有することで、シリコン層211、221、231の膨張を抑制することができる。これらのため、放電容量を維持しつつ、シリコン層211、221、231の崩壊を抑えることができる。なお、充電の後、放電しても、酸化シリコン層213において形成されたシリケート化合物から、キャリアイオンとなる金属イオンは全て放出されず、一部残存するため、酸化シリコン層213は、酸化シリコン及びシリケート化合物の混合層となる。
【0042】
酸化シリコン層213の厚さが2nmより薄いと、充放電によるシリコン層211の膨張を緩和することが困難である。一方、酸化シリコン層213の厚さが10nmより厚いと、キャリアとなるイオンの移動が困難となり、放電容量が低下してしまう。酸化シリコン層213をシリコン層211、221、231上に設けることで、充放電におけるシリコン層211、221、231の膨張及び収縮を緩和し、シリコン層の崩壊を抑制することができる。
【0043】
ここで、シリコン層211の表面に形成される酸化シリコン層213において、リチウムの濃度が低い領域(希薄濃度領域ともいう。)のリチウムの拡散係数Dを計算し、リチウムのシリコン層211への拡散に対する、酸化シリコン層213が及ぼす影響について説明する。
【0044】
はじめに、計算方法を説明する。
【0045】
古典分子動力学計算により、各原子の運動方程式を数値的に解くことにより、原子の運動を検証する。なお、上記計算を行うため古典分子動力学計算ソフトウェアとして、富士通株式会社製のSCIGRESS MEを用いた。
【0046】
本計算では、原子間相互作用を特徴づける経験的ポテンシャルとして、Si−Si間、Si−O間、O−O間ではBorn−Mayer−Hugginsポテンシャルを用い、Si−Li間、Li−O間、Li−Li間ではLennard−Jonesポテンシャルを用いた。計算結果から得られるリチウムの平均自乗変位(MSD)は、数式1で表すことができる。
【0047】
【数1】
なお、r(t)は時間tにおけるリチウムの位置であり、< >tは時間平均を意味する。
【0048】
また、数式2に示すアインシュタインの関係式より、リチウムの拡散係数Dが求まる。
【0049】
【数2】
【0050】
すなわち、リチウムの平均自乗変位(MSD)が線形となる領域におけるグラフの傾きより、リチウムの拡散係数Dが求まる。この拡散係数Dが大きいほど、リチウムが拡散しやすいことを示している。
【0051】
次に、計算モデルについて説明する。
【0052】
リチウムの拡散状態を求める計算における初期構造を図11(A)に示す。一辺が2.1nmの正方形の酸化シリコン層中にリチウムを1原子配置する。上記計算モデルにおいて、原子数、体積(密度2.3g/cm3)、及び温度(27℃)を一定とした古典分子動力学計算を8nsec間(時間刻み幅0.2fsec×4000万ステップ)行った。ここで、拡散状態を求める計算において、3次元周期境界条件を課すことで、3次元の酸化シリコン層を計算するモデルとなっている。
【0053】
次に、上記計算により得られた酸化シリコン層中のリチウムの平均自乗変位(MSD)を図11(B)に示す。
【0054】
図11(B)の曲線の傾きがほぼ一定となっている領域(50psec〜100psec)における曲線の傾きは1.2×10−3nm2/psecである。図11(B)の曲線において傾きがほぼ一定となっている領域は数式2を満たす。数式2の傾きは6Dであるため、リチウムの拡散係数Dは、2.0×10−6cm2/secである。
【0055】
充放電を行う時間は充放電レートが1.0Cで1時間、0.2Cで5時間である。1時間の充放電においてリチウムが酸化シリコン層中を拡散する平均自乗変位(MSD)は、数式2より4.3×10−2cm2であり、リチウムの拡散距離は、2.1×10−1cmであり、リチウムの拡散距離が酸化シリコン層の厚さ(数nm)に比べて十分大きい。このことから、酸化シリコン層によるリチウムのシリコン層への拡散はほとんど阻害されないと考えられる。即ち、リチウムのシリコン層への拡散に対する酸化シリコン層が及ぼす影響は小さいことがわかる。
【0056】
グラフェン215は、単層グラフェンまたは多層グラフェンを含む。グラフェン215は、長さが数μmのシート状である。単層グラフェンは、sp2結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいい、炭素で構成される六員環が平面方向に広がっており、一部に、七員環、八員環、九員環、十員環等の、六員環の一部の炭素結合が切断された多員環が形成される。
【0057】
なお、多員環は、炭素及び酸素で構成される場合がある。または、多員環の炭素に酸素が結合する場合がある。グラフェンに酸素を含む場合、六員環の一部の炭素結合が切断され、結合が切断された炭素に酸素が結合し、多員環が形成される。このため、当該炭素及び酸素の結合の内部には、イオンの移動が可能な通路として機能する間隙を有する。すなわち、グラフェンに含まれる酸素の割合が多いほど、イオンの移動が可能な通路である間隙の割合が増加する。
【0058】
なお、グラフェン215に酸素が含まれる場合、酸素の割合は全体の2atomic%以上11atomic%以下、好ましくは3atomic%以上10atomic%以下である。酸素の割合が低い程、グラフェンの導電性を高めることができる。また、酸素の割合を高める程、グラフェンにおいてイオンの通路となる間隙をより多く形成することができる。
【0059】
グラフェン215が多層グラフェンの場合、複数の単層グラフェンで構成され、代表的には、単層グラフェンが2層以上100層以下で構成される。単層グラフェンが酸素を有することで、単層グラフェンの層間距離は0.34nmより大0.5nm以下、好ましくは0.38nm以上0.42nm以下、更に好ましくは0.39nm以上0.41nm以下となる。通常のグラファイトは、単層グラフェンの層間距離が0.34nmであり、グラフェン215の方が層間距離が長いため、単層グラフェンの表面と平行な方向におけるイオンの移動が容易となる。また、酸素を含み、多員環が構成される単層グラフェンまたは多層グラフェンで構成され、所々に間隙を有する。このため、グラフェン215が多層グラフェンの場合、単層グラフェンの表面と平行な方向、即ち単層グラフェン同士の隙間と共に、グラフェンの表面に対する垂直方向、即ち単層グラフェンそれぞれに設けられる間隙の間をイオンが移動することが可能である。
【0060】
また、グラフェン215は、負極活物質としての機能するため、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0061】
負極活物質として、シリコンを用いることで、黒鉛を負極活物質として用いた場合と比較して、理論吸蔵容量が大きいため、コストの削減及び蓄電装置の小型化につながる。
【0062】
なお、負極活物質としてシリコンを用いると、シリコンはキャリアとなるイオンの吸蔵により体積が4倍程度まで増える。このため、充放電により、負極活物質層203が脆くなり、負極活物質層203aの一部が崩落してしまう。しかしながら、シリコン層211、221、231の周囲を酸化シリコン層213及びグラフェン215が覆うため、体積膨張による負極活物質層203の崩落を防ぐことができる。
【0063】
また、蓄電装置において、負極活物質層203表面が電解質と接触することにより、電解質及び負極活物質が反応し、負極の表面に被膜が形成される。当該被膜はSEIと呼ばれ、電極と電解質の反応を和らげ、安定化させるために必要であると考えられている。しかしながら、当該被膜が厚くなると、キャリアイオンが負極に吸蔵されにくくなり、負極と電解液間のキャリアイオン伝導性の低下及びそれに伴う放電容量の低減などの問題がある。
【0064】
負極活物質層203a表面をグラフェン215で被覆することで、当該被膜の膜厚の増加を抑制することが可能であり、放電容量の低下を抑制することができる。
【0065】
次に、負極活物質層203の作製方法について図2を用いて説明する。ここでは、負極活物質層203の一形態として、図1(B)に示す負極活物質層203aを用いて説明する。
【0066】
図2(A)に示すように、負極集電体201上に凹凸状のシリコン層211を形成する。シリコン層211は、負極集電体201の表面を覆う共通部211aと、共通部211a上に設けられる凸部211bとを有する。
【0067】
凹凸状のシリコン層211は、印刷法、インクジェット法、CVD法等により負極集電体201上に形成することができる。または、塗布法、スパッタリング法、蒸着法などにより膜状のシリコン層を設けた後、該シリコン層の一部を選択的に除去して、凹凸状のシリコン層211を負極集電体201上に形成することができる。
【0068】
ここでは、凹凸状のシリコン層211の形成方法の一形態として、LPCVD(Low Pressure CVD)法を用いる方法について、以下に説明する。
【0069】
シリコン層211をLPCVD法により形成する場合は、シリコン層211の形成時の温度は、400℃より高く、且つLPCVD装置、負極集電体201が耐えうる温度以下とすればよく、好ましくは500℃以上580℃未満とするとよい。
【0070】
シリコン層211を形成する際は、原料ガスとして、シリコンを含む堆積性ガスを用いる。シリコンを含む堆積性ガスとしては、水素化シリコン、フッ化シリコンまたは塩化シリコンがある。具体的には、SiH4、Si2H6、SiF4、SiCl4、Si2Cl6などである。なお、原料ガスに、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンなどの希ガス及び水素ガスのいずれか一以上を含ませてもよい。
【0071】
シリコン層211を形成する際の圧力は、10Pa以上1000Pa以下、好ましくは20Pa以上200Pa以下とするとよい。ただし、図1(C)に示すシリコン層221を形成する場合は、共通部221aにおいて、負極集電体201と接する領域が、非晶質シリコン及び結晶性シリコンで形成される圧力範囲とし、図1(D)に示すシリコン層231を形成する場合は、共通部231aにおいて、負極集電体201と接する領域が、結晶性シリコンで形成される圧力範囲とする。
【0072】
シリコン層211の形成条件において、シリコンを含む堆積性ガスの流量を多くすると堆積速度が速くなるため、非晶質シリコンが形成されやすく、一方で、シリコンを含む堆積性ガスの流量を少なくすると堆積速度が遅くなるため、結晶性シリコンが形成されやすい。そこで、シリコンを含む堆積性ガスの流量は、堆積速度(デポレート)などを考慮して適宜選択すればよい。例えば、シリコンを含む堆積性ガスの流量は、300sccm以上1000sccm以下とすればよい。
【0073】
なお、原料ガスにホスフィンまたはジボランなどを含ませると、シリコン層211に一導電型を付与する不純物元素(リンまたはボロンなど)を含ませることができる。
【0074】
また、図1(D)に示した形態は、LPCVD法によるシリコン層231の形成を2回に分けて行うことで、容易に作製することができる。一度シリコン層の形成を行った後、加熱処理を行い、該加熱処理後に再度シリコン層の形成を行う。該加熱処理によって、共通部231aにおいて、負極集電体201と接する領域を全て、結晶性シリコンで形成することができる。なお、シリコン層231の形成条件は上記と同様であり、該加熱処理は、活物質の形成条件における温度範囲で行えばよいが、原料ガスを供給しない状態で行うことが好ましい。
【0075】
なお、負極集電体201としてシリサイドを形成する金属材料を用いて形成する場合、当該工程において、負極集電体201の一部にシリサイド層が形成される。これは、シリコン層211の原料ガスの活性種(例えば、堆積性ガス由来のラジカルや水素ラジカル等)が負極集電体201に拡散し、負極集電体201を形成する金属材料及び活性種が反応するためである。
【0076】
また、負極集電体201にはあらかじめ凹凸形状を形成してもよい。このようにすることで、単位面積あたりの凸部211bの形成密度を増大させることができる。なお、負極集電体201に凹凸形状を形成するには、負極集電体201上にフォトリソグラフィ工程及びエッチング工程を行えばよい。
【0077】
なお、LPCVD法を用いると、負極集電体201とシリコン層211(特に共通部211a)の界面において、キャリアイオン及び電子の移動が容易となり、さらに密着性を高めることができる。また、スループットを高めることができる。
【0078】
次に、図2(B)に示すように、シリコン層211上に酸化シリコン層213を形成する。
【0079】
酸化シリコン層213は、CVD法、スパッタリング法等の気相法により形成する。ここでは、原料ガスとして、シラン、塩化ジシラン、フッ化シラン等のシリコンを含む堆積性ガスと、一酸化二窒素、酸素等の酸化ガスとを用いたプラズマCVD法により酸化シリコン層を形成することができる。または、テトラエトキシシラン(TEOS:化学式Si(OC2H5)4)、テトラメチルシラン(TMS:化学式Si(CH3)4)等の有機シランを用いたCVD法を用いて形成することができる。
【0080】
次に、図2(C)に示すように、酸化シリコン層213上にグラフェン215を形成する。グラフェン215は、酸化グラフェンを含む分散液を形成した後、該分散液に酸化シリコン層213を浸し、酸化シリコン層213上に酸化グラフェンを設ける。次に、還元処理を行うことで、酸化グラフェンを還元し、酸化シリコン層213上にグラフェン215を形成することができる。当該工程の詳細について、以下に説明する。
【0081】
酸化グラフェンを含む分散液は、酸化グラフェンを溶媒に分散させる方法、溶媒中でグラファイトを酸化し酸化グラファイトを形成した後、酸化グラファイトの各層を分離して酸化グラフェンを遊離させて、酸化グラフェンを含む分散液を形成する方法等がある。
【0082】
本実施の形態では、Hummers法と呼ばれる酸化法を用いて酸化グラフェンを形成する。Hummers法は、単結晶グラファイト粉末に過マンガン酸カリウムの硫酸溶液、過酸化水素水等を加えて酸化反応させて酸化グラファイト溶液を形成する。酸化グラファイトは、グラファイトの炭素の酸化により、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の官能基を有する。このため、複数のグラフェンの層間距離がグラファイトと比較して酸化グラフェンの方が長い。次に、酸化グラファイト溶液に超音波振動を加えることで、層間距離の長い酸化グラファイトを劈開し、酸化グラフェンを形成することができる。なお、Hummers法以外の酸化グラフェンの形成方法を適宜用いることができる。
【0083】
なお、酸化グラフェンは極性を有する液体中においては、当該酸素がマイナスに帯電するため、異なる多層グラフェン同士が凝集しにくい。このため、極性を有する液体においては、均一に酸化グラフェンが分散すると共に、後の工程において、酸化シリコン層213の表面に均一な割合で酸化グラフェンを設けることができる。
【0084】
酸化シリコン層213上に酸化グラフェンを設ける方法としては、塗布法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、電気泳動法等がある。また、これらの方法を複数組み合わせてもよい。
【0085】
酸化シリコン層213上に設けられた酸化グラフェンを還元する方法としては、真空中、空気中、あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)中等の雰囲気で、150℃以上、好ましくは200℃以上の温度、負極集電体201が耐えうる温度以下で加熱する方法がある。加熱する温度が高い程、また、加熱する時間が長いほど、酸化グラフェンが還元されやすく、純度の高い(すなわち、炭素以外の元素の濃度の低い)グラフェンが得られる。または、還元性溶液に浸し、酸化グラフェンを還元する方法がある。
【0086】
なお、Hummers法では、グラファイトを硫酸で処理するため、酸化グラフェンには、スルホン基等も結合しているが、該スルホン基の分解(脱離)は、200℃以上300℃以下、好ましくは200℃以上250℃以下で行われる。したがって、加熱により酸化グラフェンを還元する方法において、酸化グラフェンの還元を300℃以上で行うことが好ましい。
【0087】
上記還元処理において、隣接するグラフェン同士が結合し、より巨大な網目状あるはシート状となる。また、当該還元処理において、酸素の脱離により、グラフェンには間隙が形成される。更には、グラフェン同士が基体の表面に対して、平行に重なり合う。この結果、グラフェンの層間及びグラフェンの間隙においてイオンの移動が可能なグラフェンが形成される。
【0088】
以上の工程により、負極集電体201上に負極活物質層203が設けられた負極を形成することができる。
【0089】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1と異なる酸化シリコン層213の形成方法について、説明する。
【0090】
本実施の形態では、シリコン層211の一部を酸化することで、酸化シリコン層213を形成することができる。シリコン層211の酸化方法としては、シリコン層211を加熱する方法、シリコン層211を酸化雰囲気で発生させたプラズマに曝す方法、シリコン層211を、酸化剤を含む溶液に浸す方法等がある。
【0091】
シリコン層211を加熱して、シリコン層211上に酸化シリコン層213を形成する方法としては、シリコン層211が酸化する温度で加熱をする。なお、加熱雰囲気は酸化性ガス雰囲気を用いることが好ましい。酸化性ガスとは、酸素、オゾン、一酸化二窒素等がある。なお、酸化性ガス雰囲気中にハロゲンを導入してもよい。この結果、ハロゲンを含む酸化シリコン層213をシリコン層211上に形成することができる。
【0092】
シリコン層211を酸化雰囲気で発生させたプラズマに曝す方法としては、酸化性ガス雰囲気、代表的には、酸素、オゾン、一酸化二窒素等の雰囲気でプラズマを発生させ、該プラズマにシリコン層211を曝す。この結果、シリコン層211のシリコンとプラズマ中の酸素ラジカルが反応し、酸化シリコン層213を形成することができる。
【0093】
シリコン層211を、酸化剤を含む溶液に浸す方法としては、オゾン水、過酸化水素等の酸化剤を含む溶液にシリコン層211を浸す。この結果、酸化剤によりシリコン層211のシリコンを酸化し、酸化シリコン層213を形成することができる。
【0094】
この後、実施の形態1と同様の工程により、酸化シリコン層213上にグラフェン215を形成することで、負極活物質層203を形成することができる。
【0095】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1及び実施の形態2と異なる方法により、シリコン層211上に酸化シリコン層213及びグラフェン215を形成する方法について、図3を用いて説明する。
【0096】
図3(A)に示すように、実施の形態1と同様に、負極集電体201上にシリコン層211を形成する。
【0097】
次に、シリコン層211を酸化グラフェンが分散された分散液に浸す。この結果、図3(B)に示すように、シリコン層211上に酸化グラフェン214を付着させる。
【0098】
次に、真空雰囲気、窒素雰囲気、または希ガス雰囲気で加熱処理をし、酸化グラフェン214を還元して、図3(C)に示すようにグラフェン215を形成する。また、当該還元工程において、シリコン層211と酸化グラフェンに含まれる酸素が反応し、シリコン層211及びグラフェン215の間に、酸化シリコン層213を形成することができる。
【0099】
以上の工程により、負極活物質層203を形成することができる。本実施の形態では、酸化グラフェンの還元処理と共に、酸化シリコン層を形成することが可能であり、負極の作製工程数を削減できる。
【0100】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態1乃至実施の形態3と異なる方法により、シリコン層211上に酸化シリコン層213及びグラフェン215を形成する方法について、図4を用いて説明する。
【0101】
実施の形態3と同様に、図4(A)に示すように、負極集電体201上にシリコン層211を形成する。
【0102】
次に、図4(B)に示すように、酸化グラフェンを有する溶液を用いた電気泳動法でシリコン層211の一部を酸化して、シリコン層211上に酸化シリコン層213を形成すると共に、酸化シリコン層213の表面に酸化グラフェン214を設ける。
【0103】
次に、真空雰囲気、窒素雰囲気、または希ガス雰囲気で加熱処理をし、酸化グラフェン214を還元して、グラフェン215を形成する。
【0104】
以上の工程により、負極活物質層203を形成することができる。本実施の形態では、酸化シリコン層を形成しつつ、酸化シリコン層上に酸化グラフェンを設けることが可能であり、負極の作製工程数を削減できる。
【0105】
(実施の形態5)
本実施の形態では、蓄電装置の構造及び作製方法について説明する。
【0106】
はじめに、正極及びその作製方法について説明する。
【0107】
図5(A)は正極311の断面図である。正極311は、正極集電体307上に正極活物質層309が形成される。
【0108】
正極集電体307は、白金、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス等の導電性の高い材料を用いることができる。また、正極集電体307は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0109】
正極活物質層309は、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、V2O5、Cr2O5、MnO2等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0110】
または、オリビン型構造のリチウム含有複合酸化物(一般式LiMPO4(Mは、Fe(II),Mn(II),Co(II),Ni(II)の一以上)を用いることができる。一般式LiMPO4の代表例としては、LiFePO4、LiNiPO4、LiCoPO4、LiMnPO4、LiFeaNibPO4、LiFeaCobPO4、LiFeaMnbPO4、LiNiaCobPO4、LiNiaMnbPO4(a+bは1以下、0<a<1、0<b<1)、LiFecNidCoePO4、LiFecNidMnePO4、LiNicCodMnePO4(c+d+eは1以下、0<c<1、0<d<1、0<e<1)、LiFefNigCohMniPO4(f+g+h+iは1以下、0<f<1、0<g<1、0<h<1、0<i<1)等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0111】
または、一般式Li2MjSiO4(Mは、Fe(II),Mn(II),Co(II),Ni(II)の一以上、0≦j≦2)等のリチウム含有複合酸化物を用いることができる。一般式Li2MSiO4の代表例としては、Li2FeSiO4、Li2NiSiO4、Li2CoSiO4、Li2MnSiO4、Li2FeaNibSiO4、Li2FeaCobSiO4、Li2FekMnlSiO4、Li2NikColSiO4、Li2NikMnlSiO4(k+lは1以下、0<k<1、0<l<1)、Li2FemNinCoqSiO4、Li2FemNinMnqSiO4、Li2NimConMnqSiO4(m+n+qは1以下、0<m<1、0<n<1、0<q<1)、Li2FerNisCotMnuSiO4(r+s+t+uは1以下、0<r<1、0<s<1、0<t<1、0<u<1)等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0112】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、正極活物質層309として、上記リチウム化合物及びリチウム含有複合酸化物において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0113】
図5(B)は、正極活物質層309の平面図である。正極活物質層309は、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な粒子状の正極活物質321と、当該正極活物質321の複数を覆いつつ、当該正極活物質321が内部に詰められたグラフェン323とを有する。複数の正極活物質321の表面を異なるグラフェン323が覆う。また、一部において、正極活物質321が露出していてもよい。なお、グラフェン323は、実施の形態1に示すグラフェン215を適宜用いることができる。
【0114】
正極活物質321の粒径は、20nm以上100nm以下が好ましい。なお、正極活物質321内を電子が移動するため、正極活物質321の粒径はより小さい方が好ましい。
【0115】
また、正極活物質層309はグラフェン323を有することで、正極活物質321の表面に炭素膜が被覆されていなくとも十分な特性が得られるが、炭素膜が被覆されている正極活物質及びグラフェン323を共に用いると、キャリアが正極活物質間をホッピングし、電流が流れるためより好ましい。
【0116】
図5(C)は、図5(B)の正極活物質層309の一部における断面図である。正極活物質層309は、正極活物質321、及び該正極活物質321を覆うグラフェン323を有する。グラフェン323は断面図においては線状で観察される。同一のグラフェンまたは複数のグラフェンにより、複数の正極活物質を内包する。即ち、同一のグラフェンまたは複数のグラフェンの間に、複数の正極活物質が内在する。なお、グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の正極活物質を内包する場合がある。また、グラフェンに覆われず、一部の正極活物質が露出している場合がある。
【0117】
正極活物質層309の厚さは、20μm以上100μm以下の間で所望の厚さを選択する。なお、クラックや剥離が生じないように、正極活物質層309の厚さを適宜調整することが好ましい。
【0118】
なお、正極活物質層309には、グラフェンの体積の0.1倍以上10倍以下のアセチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボン粒子(カーボンナノファイバー等)、公知のバインダーを有してもよい。
【0119】
なお、正極活物質においては、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が膨張するものがある。このため、充放電により、正極活物質層が脆くなり、正極活物質層の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、正極活物質の周辺をグラフェン323で覆うことで、正極活物質が充放電により体積変化しても、正極活物質の分散や正極活物質層の崩落を妨げることが可能である。即ち、グラフェンは、充放電にともない正極活物質の体積が増減しても、正極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
【0120】
また、グラフェン323は、複数の正極活物質と接しており、導電助剤としても機能する。また、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な正極活物質321を保持する機能を有する。このため、正極活物質層にバインダーを混合する必要が無く、正極活物質層当たりの正極活物質量を増加させることが可能であり、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0121】
次に、正極活物質層309の作製方法について説明する。
【0122】
粒子状の正極活物質及び酸化グラフェンを含むスラリーを形成する。次に、正極集電体上に、当該スラリーを塗布した後、実施の形態1に示すグラフェンの作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、正極活物質を焼成すると共に、酸化グラフェンに含まれる酸素を脱離させ、グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンに残存する。以上の工程により、正極集電体307上に正極活物質層309を形成することができる。この結果、正極活物質層の導電性が高まる。
【0123】
酸化グラフェンは酸素を含むため、極性液体中では負に帯電する。この結果、酸化グラフェンは互いに分散する。このため、スラリーに含まれる正極活物質が凝集しにくくなり、焼成による正極活物質の粒径の増大を低減することができる。このため、正極活物質内の電子の移動が容易となり、正極活物質層の導電性を高めることができる。
【0124】
次に、蓄電装置の構造及び作製方法について説明する。
【0125】
本実施の形態の蓄電装置の代表例であるリチウムイオン二次電池の一形態について図6を用いて説明する。ここでは、リチウムイオン二次電池の断面構造について、以下に説明する。
【0126】
図6は、リチウムイオン二次電池の断面図である。
【0127】
リチウムイオン二次電池400は、負極集電体407及び負極活物質層409で構成される負極411と、正極集電体401及び正極活物質層403で構成される正極405と、負極411及び正極405で挟持されるセパレータ413とで構成される。なお、セパレータ413中には電解質415が含まれる。また、負極集電体407は外部端子419と接続し、正極集電体401は外部端子417と接続する。外部端子419の端部はガスケット421に埋没されている。即ち、外部端子417、419は、ガスケット421によって絶縁されている。
【0128】
負極集電体407及び負極活物質層409は、実施の形態1乃至実施の形態3に示す負極集電体201及び負極活物質層203を適宜用いて形成すればよい。
【0129】
正極集電体401及び正極活物質層403はそれぞれ、本実施の形態に示す正極集電体307及び正極活物質層309を適宜用いることができる。
【0130】
セパレータ413は、絶縁性の多孔体を用いる。セパレータ413の代表例としては、セルロース(紙)、ポリエチレン、ポリプロピレン等がある。
【0131】
電解質415の溶質は、キャリアイオン有する材料を用いる。電解質の溶質の代表例としては、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、Li(C2F5SO2)2N等のリチウム塩がある。
【0132】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、電解質415の溶質として、上記リチウム塩において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0133】
また、電解質415の溶媒としては、キャリアイオンの移送が可能な材料を用いる。電解質415の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また、電解質415の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が高まる。また、リチウムイオン二次電池400の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。
【0134】
また、電解質415として、Li3PO4等の固体電解質を用いることができる。なお、電解質415として固体電解質を用いる場合は、セパレータ413は不要である。
【0135】
外部端子417、419は、ステンレス鋼板、アルミニウム板なとの金属部材を適宜用いることができる。
【0136】
なお、本実施の形態では、リチウムイオン二次電池400として、ボタン型リチウムイオン二次電池を示したが、封止型リチウムイオン二次電池、円筒型リチウムイオン二次電池、角型リチウムイオン二次電池等様々な形状のリチウムイオン二次電池とすることができる。また、正極、負極、及びセパレータが複数積層された構造、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
【0137】
次に、本実施の形態に示すリチウムイオン二次電池400の作製方法について説明する。
【0138】
実施の形態1乃至本実施の形態3に示す作製方法により、適宜、正極405及び負極411を作製する。
【0139】
次に、正極405、セパレータ413、及び負極411を電解質415に含浸させる。次に、外部端子417に、正極405、セパレータ413、ガスケット421、負極411、及び外部端子419の順に積層し、「コインかしめ機」で外部端子417及び外部端子419をかしめてコイン型のリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【0140】
なお、外部端子417及び正極405の間、または外部端子419及び負極411の間に、スペーサ、及びワッシャを入れて、外部端子417及び正極405の接続、並びに外部端子419及び負極411の接続をより高めてもよい。
【0141】
(実施の形態6)
本発明の一態様に係る蓄電装置は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0142】
本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画または動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0143】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0144】
図7に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図7において、表示装置5000は、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置5000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体5001、表示部5002、スピーカー部5003、蓄電装置5004等を有する。本発明の一態様に係る蓄電装置5004は、筐体5001の内部に設けられている。表示装置5000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を無停電電源として用いることで、表示装置5000の利用が可能となる。
【0145】
表示部5002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0146】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0147】
図7において、据え付け型の照明装置5100は、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置5100は、筐体5101、光源5102、蓄電装置5103等を有する。図7では、蓄電装置5103が、筐体5101及び光源5102が据え付けられた天井5104の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5103は、筐体5101の内部に設けられていても良い。照明装置5100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を無停電電源として用いることで、照明装置5100の利用が可能となる。
【0148】
なお、図7では天井5104に設けられた据え付け型の照明装置5100を例示しているが、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井5104以外、例えば側壁5105、床5106、窓5107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0149】
また、光源5102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0150】
図7において、室内機5200及び室外機5204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機5200は、筐体5201、送風口5202、蓄電装置5203等を有する。図7では、蓄電装置5203が、室内機5200に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5203は室外機5204に設けられていても良い。或いは、室内機5200と室外機5204の両方に、蓄電装置5203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機5200と室外機5204の両方に蓄電装置5203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0151】
なお、図7では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0152】
図7において、電気冷凍冷蔵庫5300は、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫5300は、筐体5301、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303、蓄電装置5304等を有する。図7では、蓄電装置5304が、筐体5301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫5300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫5300の利用が可能となる。
【0153】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0154】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫5300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われない夜間において、蓄電装置5304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われる昼間において、蓄電装置5304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0155】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0156】
本実施例では、負極活物質層として、凹凸を有するシリコン層上に酸化シリコン層及びグラフェンを作製し、TEMにより観察した。はじめに、試料の作製方法について、説明する。
【0157】
はじめに、0.5mg/mlの酸化グラフェン水溶液を調整した。また、チタンシート上に凹凸状のシリコン層を形成した。
【0158】
凹凸状のシリコン層は、厚さ0.1mm、直径12mmのチタンシート上に、原料として流量300sccmのシラン及び流量300sccmの窒素を圧力150Pa、温度550℃のチャンバーに導入するLPCVD法により形成した。この後、大気雰囲気で保管した。
【0159】
次に、酸化グラフェン分散液を用意した。当該溶液は、実施の形態1で説明したようにHummers法で酸化グラファイトを形成した後に超音波振動を加えることで、作製することができるが、本実施例では、Graphene Supermarket社製の酸化グラフェン水溶液(濃度:0.275mg/ml、フレークサイズ:0.5μm〜5μm)を用いた。
【0160】
次に、電気泳動法を用いて凹凸状のシリコン層上に酸化シリコン層を形成すると共に、該酸化シリコン層上に酸化グラフェンを設けた。ここでは、酸化グラフェン分散液中に、凹凸状のシリコン層をチタンシートごと浸漬し、また、電極としてステンレス板を浸漬した。ここでは、チタンシートとステンレス板との距離を1cmとした。そして、チタンシート及びステンレス板の間に10Vの電圧を30秒印加した。このとき流れた電荷量は0.223Cであった。
【0161】
次に、50℃のホットプレートで数分乾燥した後、300℃に保たれたガラスチューブオーブンにおいて10時間放置して酸化グラフェンの還元処理を行い、グラフェンを形成した。以上の工程により、試料1を作製した。
【0162】
また、比較例として、試料1において、グラフェンを形成しない試料を比較試料1として作製した。
【0163】
試料1の断面をHAADF−STEM(High−Angle Annular Dark−Field Scanning Transmission Electron Microscopy)で観察した結果を図8に示す。point2はシリコン層であり、point3は観察を促すためのカーボン層である。シリコン層及びカーボン層の間(point1)に、コントラストの異なる領域を有する。次に、アスタリスクで示されるpoint1〜point3の組成元素について、EDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy)を用いて分析した。
【0164】
図9(A)〜(C)はそれぞれpoint1〜point3の元素分析結果を示す。
【0165】
図9(A)においては、Si、O、及びCが検出されており、point1には、酸化シリコン層が形成されていることがわかる。
【0166】
なお、シリコン層の一部であるpoint2においては、図9(B)に示すように、Siが検出されており、カーボン層の一部であるpoint3においては、図9(C)に示すように、Cが検出された。
【0167】
次に、試料1及び比較試料1をTEM(Transmission Electron Microscopy)で観察した結果を図10に示す。
【0168】
試料1及び比較試料1の断面TEM写真をそれぞれ図10(A)(倍率205万倍)及び図10(B)(倍率150万倍)に示す。図10(A)において、凹凸状のシリコン層501上には酸化シリコン層503が形成され、酸化シリコン層503上にはグラフェン505が形成されている。コントラストの低い(白い)線状の層がシリコン層の表面形状に沿って積層している。当該線状の領域が結晶性の高いグラフェン505である。グラフェン505上には、観察を促すためのカーボン層507が設けられている。また、酸化シリコン層の平均膜厚は3.9nmであり、グラフェン505の平均膜厚は0.73nmであった。
【0169】
一方、図10(B)において、凹凸状のシリコン層511上には、酸化シリコン層513が形成されている。酸化シリコン層513上には、観察を促すためのカーボン層517が設けられている。酸化シリコン層の平均膜厚は、1.63nmであった。
【0170】
比較試料1から、凹凸状のシリコン層を大気雰囲気で保管することで、凹凸状のシリコン層の表面には自然酸化層が形成されることが分かる。また、試料1及び比較試料1の比較から、電気泳動法及び酸化グラフェンの還元処理により、凹凸状のシリコン層上には自然酸化層と共に、新たに酸化シリコン層が形成され、且つ酸化シリコン層上にグラフェンが形成されることが分かる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電装置及びその作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、リチウムイオン二次電池、リチウムイオンキャパシタ、空気電池などの、蓄電装置の開発が行われている。
【0003】
蓄電装置用の電極は、集電体の一表面に活物質を形成することにより作製される。活物質としては、例えば炭素またはシリコンなど、キャリアとなるイオンの吸蔵及び放出が可能な材料が用いられる。例えば、シリコンまたはリンがドープされたシリコンは、炭素に比べ、約4倍のキャリアとなるイオンを吸蔵することが可能であるため、理論容量が大きく、蓄電装置の大容量化という点において優れている(例えば特許文献1)。
【0004】
しかしながら、キャリアとなるイオンの吸蔵量が増えると、充放電サイクルにおけるキャリアとなるイオンの吸蔵放出に伴う体積の変化が大きく、シリコンの微粉化などが生じてしまい、信頼性の上で問題がある。
【0005】
そこで、シリコン粒子核を炭素層で被覆することで、シリコンの微粉化を防いでいる。また、シリコン粒子核には不純物として酸化シリコンが含まれており、当該シリコンに炭素層を被覆している(特許文献1参照。)。
【0006】
一方、近年、半導体装置において、導電性を有する電子部材としてグラフェンを用いることが検討されている。グラフェンとは、sp2結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいう。
【0007】
グラフェンは化学的に安定であり、且つ電気特性が良好であるため、トランジスタのチャネル領域、ビア、配線等の半導体装置への応用に期待されている。また、リチウムイオンバッテリ用の電極材料の導電性を高めるために、活性電極材料にグラフェンを被覆している(特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2000−215887号公報
【特許文献2】特開2011−29184号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、シリコン粒子を負極活物質として用いると、シリコン粒子を炭素層で被覆しても充放電サイクルにより生じる微粉化を抑制することは困難であった。そこで、本発明の一態様は、充放電による劣化が少なく、高サイクル特性を有する負極を有する蓄電装置を作製する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の一態様は、負極活物質層が、負極集電体上に形成される凹凸状のシリコン層と、該シリコン層に接する、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層と、該酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層に接するグラフェンと、を有する負極を備える蓄電装置である。
【0011】
凹凸状のシリコン層は、負極集電体表面全体を覆う共通部と、該共通部から突出する凸部とで構成される。凹凸状のシリコン層を負極活物質層として用いることで、負極活物質層の表面積が広い。つまり、負極を蓄電装置に搭載した場合、高速な充放電が可能となり、充放電容量がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。また、隣り合う凸部の間には隙間があるため、充電により負極活物質層が膨張しても、凸部同士の接触を低減することが可能であり、凸部の膨張に伴い負極活物質層が崩壊し剥離することが抑制でき、サイクル特性がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0012】
また、凹凸状のシリコン層の表面には、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層を有する。蓄電装置の充電により、酸化シリコン層にキャリアイオンが吸蔵され、酸化シリコンの一部がキャリアイオンを含むシリケート化合物となる。このため、蓄電装置においては、一度の充電の後、酸化シリコン層は、酸化シリコン及びキャリアイオンを含むシリケート化合物を有する混合層となる。キャリアイオンを含むシリケート化合物は、キャリアイオンの移動パスとなる。また、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層は、充放電によるシリコン層の膨張及び収縮を緩和することができるため、充放電によるシリコン層の崩壊を抑制することができる。
【0013】
グラフェンは、単層のグラフェンまたは多層グラフェンを含む。また、グラフェンは、2atomic%以上11atomic%以下、好ましくは3atomic%以上10atomic%以下の酸素を含んでもよい。負極活物質層の表面にグラフェンを有することで、負極活物質層の表面に形成される被膜(SEI(Solid Electrolyte Interface))の膜厚の増加を抑制することが可能であり、放電容量の低下及び電解液の劣化を抑制することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明の一態様により、充放電による劣化が少なく、高サイクル特性を有する負極を有する蓄電装置を作製することができる。また、放電容量を高めた蓄電装置を作製することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】負極を説明する図である。
【図2】負極の作製方法を説明する図である。
【図3】負極の作製方法を説明する図である。
【図4】負極の作製方法を説明する図である。
【図5】正極を説明する図である。
【図6】蓄電装置を説明する図である。
【図7】電気機器を説明する図である。
【図8】負極活物質のHAADF−STEM像である。
【図9】負極活物質のEDX分析結果である。
【図10】負極活物質のTEM像である。
【図11】計算に用いたモデルを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、実施の形態について図面を参照しながら説明する。但し、実施の形態は多くの異なる態様で実施することが可能であり、趣旨及びその範囲から逸脱することなくその形態及び詳細を様々に変更し得ることは当業者であれば容易に理解される。従って、本発明は、以下の実施の形態の記載内容に限定して解釈されるものではない。
【0017】
(実施の形態1)
本実施の形態では、充放電による劣化が少なく、高サイクル特性を有する蓄電装置の負極の構造及び作製方法について、図1及び図2を用いて説明する。
【0018】
図1(A)は負極205の断面図である。負極205は、負極集電体201上に負極活物質層203が形成される。
【0019】
なお、活物質とは、キャリアであるイオン(以下、キャリアイオンと示す。)の吸蔵及び放出に関わる物質を指す。活物質層は、活物質の他に、導電助剤、バインダーや、本実施の形態に示す酸化シリコン層または混合層、グラフェン等を有する。よって、活物質と活物質層は区別される。
【0020】
また、キャリアイオンとしてリチウムイオンを用いる二次電池をリチウムイオン二次電池という。また、リチウムイオンの代わりに用いることが可能なキャリアイオンとしては、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属イオン、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等のアルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオン等がある。
【0021】
ここで、負極205の詳細な構造について、図1(B)乃至図1(D)を用いて説明する。ここでは、負極活物質層203の代表例を、図1(B)、図1(C)、及び図1(D)において、それぞれ負極活物質層203a、203b、203cとして説明する。
【0022】
図1(B)は、負極集電体201に負極活物質層203aが形成される負極の拡大断面図である。負極活物質層203aは、凹凸状であるシリコン層211と、当該シリコン層211の表面を覆う酸化シリコン層213と、酸化シリコン層213を覆うグラフェン215とを有する。
【0023】
負極集電体201は、白金、アルミニウム、銅、チタン等に代表される導電性の高い金属元素を用いることができる。なお、負極集電体201として、シリコン、チタン、ネオジム、スカンジウム、モリブデンなどの耐熱性を向上させる元素が添加されたアルミニウム合金を用いることが好ましい。また、負極集電体201として、シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素で形成してもよい。シリコンと反応してシリサイドを形成する金属元素としては、ジルコニウム、チタン、ハフニウム、バナジウム、ニオブ、タンタル、クロム、モリブデン、タングステン、コバルト、ニッケル等がある。
【0024】
負極集電体201は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0025】
凹凸状であるシリコン層211としては、キャリアであるイオンの吸蔵放出が可能なシリコンを用いる。または、リン、ボロン等の一導電型を付与する不純物元素が添加されたシリコンを用いてもよい。リン、ボロン等の一導電型を付与する不純物元素が添加されたシリコンは、導電性が高くなるため、負極の導電率を高めることができる。このため、蓄電装置の放電容量をさらに高めることができる。
【0026】
凹凸状であるシリコン層211は、共通部211aと、共通部211aから突出する凸部211bとを有する。共通部211aは、負極集電体201の表面全面に接している領域である。凸部211bは、円柱状、角柱状等の柱状、円錐状または角錐状の針状等の形状を適宜有する。なお、凸部211bを髭状(紐状若しくは繊維状)ということもできる。なお、凸部211bの頂部は湾曲していてもよい。なお、共通部211a及び凸部211bが同じ材料を用いて構成されてもよい。または、共通部211a及び凸部211bが異なる材料を用いて構成されてもよい。
【0027】
なお、共通部211a及び凸部211bの界面は明確でない。このため、シリコン層211において、複数の凸部211bの間に形成される谷のうち最も深い谷の底を含み、且つ負極集電体201の表面と平行な面を、共通部211a及び凸部211bの界面として定義する。
【0028】
また、凸部211bの長手方向は、同一方向に揃わず、不揃いでよい。凸部211bの長手方向が不揃いであると、一の凸部と他の凸部が接する場合があるため、充放電時に凸部211bの剥離(または脱離)が生じにくく好ましい。
【0029】
なお、凸部211bが共通部211aから伸張している方向を長手方向と呼び、長手方向に切断した断面形状を縦断面形状と呼ぶ。また、凸部211bの長手方向と略垂直な面において切断した断面形状を横断面形状と呼ぶ。
【0030】
凸部211bについて、横断面形状における幅は、0.2μm以上10μm以下、好ましくは1μm以上5μm以下である。また、該凸部211bの長さは、3μm以上1000μm以下、好ましくは6μm以上200μm以下である。
【0031】
なお、凸部211bにおける「長さ」とは、長手方向の断面形状において、凸部211bの頂点(または上面)の中心を通る軸に沿う方向の該頂点と共通部211aの間隔をいう。
【0032】
なお、シリコン層211は、非晶質シリコン、または結晶性シリコンを用いて形成される。図1(B)においては、シリコン層211は非晶質シリコンを用いて形成される。
【0033】
また、図1(C)の拡大断面図に示すように、シリコン層221において、共通部221a及び凸部221bが、結晶性シリコンで形成される芯223aと、非晶質シリコンで形成される外殻223bでと構成されてもよい。非晶質シリコンで形成される外殻223bは、イオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化に強い(例えば、体積変化に伴う応力を緩和する)という特徴を有する。また、結晶性シリコンで形成される芯223aは、導電性及びイオン移動度に優れており、イオンを吸蔵する速度及び放出する速度が単位質量あたりで速いという特徴と有する。従って、負極において、芯223a及び外殻223bを有するシリコン層221を備えることで、高速に充放電が可能となり、充放電容量及びサイクル特性が向上した蓄電装置を作製することができる。
【0034】
さらに、図1(C)に示すシリコン層221を負極活物質層203bに有することで、負極集電体201とシリコン層221の密着性が向上する。これは、負極集電体201に接する領域の多くが非晶質シリコンで形成されると、負極集電体201の表面に対する順応性が高いためである。換言すると、非晶質シリコンのほうが、負極集電体201の表面と整合するように形成されやすいためである。さらに、当該負極を蓄電装置に搭載した場合、イオンの吸蔵及び放出に伴う体積変化に強い(例えば、体積膨張に伴う応力を緩和する)ため、繰り返しの充放電によって、負極活物質層が崩壊し剥離することを抑制でき、サイクル特性がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0035】
また、図1(D)の拡大断面図に示すように、共通部231a及び凸部231bが、結晶性シリコンで形成される芯233aと、非晶質シリコンで形成される外殻233bでと構成されてもよい。なお、隣り合う凸部231b内に設けられる芯233aは、共通部231aにおいて負極集電体201と接する結晶性シリコンにより接続される。
【0036】
図1(D)に示すシリコン層231を負極活物質層203cに有することで、導電性及びイオン移動度に優れた結晶性シリコンが負極集電体201と広範囲に接している。そのため、負極205全体として導電性をさらに向上させることができる。つまり、本形態を蓄電装置に搭載した場合、さらに高速な充放電が可能となり、充放電容量がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0037】
芯223a、233aの横断面形状における幅は、0.2μm以上3μm以下であればよく、好ましくは0.5μm以上2μm以下であればよい。
【0038】
また、芯223a、233aの長さは特に限定されないが、0.5μm以上1000μm以下とすればよく、好ましくは2.5μm以上100μm以下であればよい。
【0039】
負極205において、負極活物質層203は、凸部211b、221b、231bが突出している分、板状の負極活物質層に比べて表面積が広い。つまり、負極205を蓄電装置に搭載した場合、高速な充放電が可能となり、充放電容量がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。また、隣り合う凸部211b、221b、231bの間には隙間があるため、充電により負極活物質層が膨張しても、凸部同士の接触を低減することが可能であり、凸部の膨張に伴い負極活物質層が崩壊し剥離することを抑制でき、サイクル特性がさらに向上した蓄電装置を作製することができる。
【0040】
なお、負極において、負極集電体201を用いず、負極活物質層203を集電体として機能させてもよい。また、負極集電体201としてシリサイドを形成する金属材料を用いる場合、負極集電体201において、負極活物質層203と接する側にシリサイド層が形成される場合がある。負極集電体201にシリサイドを形成する金属材料を用いると、チタンシリサイド、ジルコニウムシリサイド、ハフニウムシリサイド、バナジウムシリサイド、ニオブシリサイド、タンタルシリサイド、クロムシリサイド、モリブデンシリサイド、コバルトシリサイド、ニッケルシリサイド等がシリサイド層として形成される。
【0041】
酸化シリコン層213は、厚さ2nm以上10nm以下とすることが好ましい。シリコン層211上に酸化シリコン層213を設けることで、蓄電装置の充電時に酸化シリコン中にキャリアであるイオンが挿入される。この結果、Li4SiO4、Na4SiO4、K4SiO4等のアルカリ金属シリケート化合物、Ca2SiO4、Sc2SiO4、Ba2SiO4等のアルカリ土類金属シリケート、Be2SiO4、Mg2SiO4等のシリケート化合物が形成される。これらのシリケート化合物は、キャリアイオンの移動パスとして機能する。また、酸化シリコン層213を有することで、シリコン層211、221、231の膨張を抑制することができる。これらのため、放電容量を維持しつつ、シリコン層211、221、231の崩壊を抑えることができる。なお、充電の後、放電しても、酸化シリコン層213において形成されたシリケート化合物から、キャリアイオンとなる金属イオンは全て放出されず、一部残存するため、酸化シリコン層213は、酸化シリコン及びシリケート化合物の混合層となる。
【0042】
酸化シリコン層213の厚さが2nmより薄いと、充放電によるシリコン層211の膨張を緩和することが困難である。一方、酸化シリコン層213の厚さが10nmより厚いと、キャリアとなるイオンの移動が困難となり、放電容量が低下してしまう。酸化シリコン層213をシリコン層211、221、231上に設けることで、充放電におけるシリコン層211、221、231の膨張及び収縮を緩和し、シリコン層の崩壊を抑制することができる。
【0043】
ここで、シリコン層211の表面に形成される酸化シリコン層213において、リチウムの濃度が低い領域(希薄濃度領域ともいう。)のリチウムの拡散係数Dを計算し、リチウムのシリコン層211への拡散に対する、酸化シリコン層213が及ぼす影響について説明する。
【0044】
はじめに、計算方法を説明する。
【0045】
古典分子動力学計算により、各原子の運動方程式を数値的に解くことにより、原子の運動を検証する。なお、上記計算を行うため古典分子動力学計算ソフトウェアとして、富士通株式会社製のSCIGRESS MEを用いた。
【0046】
本計算では、原子間相互作用を特徴づける経験的ポテンシャルとして、Si−Si間、Si−O間、O−O間ではBorn−Mayer−Hugginsポテンシャルを用い、Si−Li間、Li−O間、Li−Li間ではLennard−Jonesポテンシャルを用いた。計算結果から得られるリチウムの平均自乗変位(MSD)は、数式1で表すことができる。
【0047】
【数1】
なお、r(t)は時間tにおけるリチウムの位置であり、< >tは時間平均を意味する。
【0048】
また、数式2に示すアインシュタインの関係式より、リチウムの拡散係数Dが求まる。
【0049】
【数2】
【0050】
すなわち、リチウムの平均自乗変位(MSD)が線形となる領域におけるグラフの傾きより、リチウムの拡散係数Dが求まる。この拡散係数Dが大きいほど、リチウムが拡散しやすいことを示している。
【0051】
次に、計算モデルについて説明する。
【0052】
リチウムの拡散状態を求める計算における初期構造を図11(A)に示す。一辺が2.1nmの正方形の酸化シリコン層中にリチウムを1原子配置する。上記計算モデルにおいて、原子数、体積(密度2.3g/cm3)、及び温度(27℃)を一定とした古典分子動力学計算を8nsec間(時間刻み幅0.2fsec×4000万ステップ)行った。ここで、拡散状態を求める計算において、3次元周期境界条件を課すことで、3次元の酸化シリコン層を計算するモデルとなっている。
【0053】
次に、上記計算により得られた酸化シリコン層中のリチウムの平均自乗変位(MSD)を図11(B)に示す。
【0054】
図11(B)の曲線の傾きがほぼ一定となっている領域(50psec〜100psec)における曲線の傾きは1.2×10−3nm2/psecである。図11(B)の曲線において傾きがほぼ一定となっている領域は数式2を満たす。数式2の傾きは6Dであるため、リチウムの拡散係数Dは、2.0×10−6cm2/secである。
【0055】
充放電を行う時間は充放電レートが1.0Cで1時間、0.2Cで5時間である。1時間の充放電においてリチウムが酸化シリコン層中を拡散する平均自乗変位(MSD)は、数式2より4.3×10−2cm2であり、リチウムの拡散距離は、2.1×10−1cmであり、リチウムの拡散距離が酸化シリコン層の厚さ(数nm)に比べて十分大きい。このことから、酸化シリコン層によるリチウムのシリコン層への拡散はほとんど阻害されないと考えられる。即ち、リチウムのシリコン層への拡散に対する酸化シリコン層が及ぼす影響は小さいことがわかる。
【0056】
グラフェン215は、単層グラフェンまたは多層グラフェンを含む。グラフェン215は、長さが数μmのシート状である。単層グラフェンは、sp2結合を有する1原子層の炭素分子のシートのことをいい、炭素で構成される六員環が平面方向に広がっており、一部に、七員環、八員環、九員環、十員環等の、六員環の一部の炭素結合が切断された多員環が形成される。
【0057】
なお、多員環は、炭素及び酸素で構成される場合がある。または、多員環の炭素に酸素が結合する場合がある。グラフェンに酸素を含む場合、六員環の一部の炭素結合が切断され、結合が切断された炭素に酸素が結合し、多員環が形成される。このため、当該炭素及び酸素の結合の内部には、イオンの移動が可能な通路として機能する間隙を有する。すなわち、グラフェンに含まれる酸素の割合が多いほど、イオンの移動が可能な通路である間隙の割合が増加する。
【0058】
なお、グラフェン215に酸素が含まれる場合、酸素の割合は全体の2atomic%以上11atomic%以下、好ましくは3atomic%以上10atomic%以下である。酸素の割合が低い程、グラフェンの導電性を高めることができる。また、酸素の割合を高める程、グラフェンにおいてイオンの通路となる間隙をより多く形成することができる。
【0059】
グラフェン215が多層グラフェンの場合、複数の単層グラフェンで構成され、代表的には、単層グラフェンが2層以上100層以下で構成される。単層グラフェンが酸素を有することで、単層グラフェンの層間距離は0.34nmより大0.5nm以下、好ましくは0.38nm以上0.42nm以下、更に好ましくは0.39nm以上0.41nm以下となる。通常のグラファイトは、単層グラフェンの層間距離が0.34nmであり、グラフェン215の方が層間距離が長いため、単層グラフェンの表面と平行な方向におけるイオンの移動が容易となる。また、酸素を含み、多員環が構成される単層グラフェンまたは多層グラフェンで構成され、所々に間隙を有する。このため、グラフェン215が多層グラフェンの場合、単層グラフェンの表面と平行な方向、即ち単層グラフェン同士の隙間と共に、グラフェンの表面に対する垂直方向、即ち単層グラフェンそれぞれに設けられる間隙の間をイオンが移動することが可能である。
【0060】
また、グラフェン215は、負極活物質としての機能するため、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0061】
負極活物質として、シリコンを用いることで、黒鉛を負極活物質として用いた場合と比較して、理論吸蔵容量が大きいため、コストの削減及び蓄電装置の小型化につながる。
【0062】
なお、負極活物質としてシリコンを用いると、シリコンはキャリアとなるイオンの吸蔵により体積が4倍程度まで増える。このため、充放電により、負極活物質層203が脆くなり、負極活物質層203aの一部が崩落してしまう。しかしながら、シリコン層211、221、231の周囲を酸化シリコン層213及びグラフェン215が覆うため、体積膨張による負極活物質層203の崩落を防ぐことができる。
【0063】
また、蓄電装置において、負極活物質層203表面が電解質と接触することにより、電解質及び負極活物質が反応し、負極の表面に被膜が形成される。当該被膜はSEIと呼ばれ、電極と電解質の反応を和らげ、安定化させるために必要であると考えられている。しかしながら、当該被膜が厚くなると、キャリアイオンが負極に吸蔵されにくくなり、負極と電解液間のキャリアイオン伝導性の低下及びそれに伴う放電容量の低減などの問題がある。
【0064】
負極活物質層203a表面をグラフェン215で被覆することで、当該被膜の膜厚の増加を抑制することが可能であり、放電容量の低下を抑制することができる。
【0065】
次に、負極活物質層203の作製方法について図2を用いて説明する。ここでは、負極活物質層203の一形態として、図1(B)に示す負極活物質層203aを用いて説明する。
【0066】
図2(A)に示すように、負極集電体201上に凹凸状のシリコン層211を形成する。シリコン層211は、負極集電体201の表面を覆う共通部211aと、共通部211a上に設けられる凸部211bとを有する。
【0067】
凹凸状のシリコン層211は、印刷法、インクジェット法、CVD法等により負極集電体201上に形成することができる。または、塗布法、スパッタリング法、蒸着法などにより膜状のシリコン層を設けた後、該シリコン層の一部を選択的に除去して、凹凸状のシリコン層211を負極集電体201上に形成することができる。
【0068】
ここでは、凹凸状のシリコン層211の形成方法の一形態として、LPCVD(Low Pressure CVD)法を用いる方法について、以下に説明する。
【0069】
シリコン層211をLPCVD法により形成する場合は、シリコン層211の形成時の温度は、400℃より高く、且つLPCVD装置、負極集電体201が耐えうる温度以下とすればよく、好ましくは500℃以上580℃未満とするとよい。
【0070】
シリコン層211を形成する際は、原料ガスとして、シリコンを含む堆積性ガスを用いる。シリコンを含む堆積性ガスとしては、水素化シリコン、フッ化シリコンまたは塩化シリコンがある。具体的には、SiH4、Si2H6、SiF4、SiCl4、Si2Cl6などである。なお、原料ガスに、ヘリウム、ネオン、アルゴン、キセノンなどの希ガス及び水素ガスのいずれか一以上を含ませてもよい。
【0071】
シリコン層211を形成する際の圧力は、10Pa以上1000Pa以下、好ましくは20Pa以上200Pa以下とするとよい。ただし、図1(C)に示すシリコン層221を形成する場合は、共通部221aにおいて、負極集電体201と接する領域が、非晶質シリコン及び結晶性シリコンで形成される圧力範囲とし、図1(D)に示すシリコン層231を形成する場合は、共通部231aにおいて、負極集電体201と接する領域が、結晶性シリコンで形成される圧力範囲とする。
【0072】
シリコン層211の形成条件において、シリコンを含む堆積性ガスの流量を多くすると堆積速度が速くなるため、非晶質シリコンが形成されやすく、一方で、シリコンを含む堆積性ガスの流量を少なくすると堆積速度が遅くなるため、結晶性シリコンが形成されやすい。そこで、シリコンを含む堆積性ガスの流量は、堆積速度(デポレート)などを考慮して適宜選択すればよい。例えば、シリコンを含む堆積性ガスの流量は、300sccm以上1000sccm以下とすればよい。
【0073】
なお、原料ガスにホスフィンまたはジボランなどを含ませると、シリコン層211に一導電型を付与する不純物元素(リンまたはボロンなど)を含ませることができる。
【0074】
また、図1(D)に示した形態は、LPCVD法によるシリコン層231の形成を2回に分けて行うことで、容易に作製することができる。一度シリコン層の形成を行った後、加熱処理を行い、該加熱処理後に再度シリコン層の形成を行う。該加熱処理によって、共通部231aにおいて、負極集電体201と接する領域を全て、結晶性シリコンで形成することができる。なお、シリコン層231の形成条件は上記と同様であり、該加熱処理は、活物質の形成条件における温度範囲で行えばよいが、原料ガスを供給しない状態で行うことが好ましい。
【0075】
なお、負極集電体201としてシリサイドを形成する金属材料を用いて形成する場合、当該工程において、負極集電体201の一部にシリサイド層が形成される。これは、シリコン層211の原料ガスの活性種(例えば、堆積性ガス由来のラジカルや水素ラジカル等)が負極集電体201に拡散し、負極集電体201を形成する金属材料及び活性種が反応するためである。
【0076】
また、負極集電体201にはあらかじめ凹凸形状を形成してもよい。このようにすることで、単位面積あたりの凸部211bの形成密度を増大させることができる。なお、負極集電体201に凹凸形状を形成するには、負極集電体201上にフォトリソグラフィ工程及びエッチング工程を行えばよい。
【0077】
なお、LPCVD法を用いると、負極集電体201とシリコン層211(特に共通部211a)の界面において、キャリアイオン及び電子の移動が容易となり、さらに密着性を高めることができる。また、スループットを高めることができる。
【0078】
次に、図2(B)に示すように、シリコン層211上に酸化シリコン層213を形成する。
【0079】
酸化シリコン層213は、CVD法、スパッタリング法等の気相法により形成する。ここでは、原料ガスとして、シラン、塩化ジシラン、フッ化シラン等のシリコンを含む堆積性ガスと、一酸化二窒素、酸素等の酸化ガスとを用いたプラズマCVD法により酸化シリコン層を形成することができる。または、テトラエトキシシラン(TEOS:化学式Si(OC2H5)4)、テトラメチルシラン(TMS:化学式Si(CH3)4)等の有機シランを用いたCVD法を用いて形成することができる。
【0080】
次に、図2(C)に示すように、酸化シリコン層213上にグラフェン215を形成する。グラフェン215は、酸化グラフェンを含む分散液を形成した後、該分散液に酸化シリコン層213を浸し、酸化シリコン層213上に酸化グラフェンを設ける。次に、還元処理を行うことで、酸化グラフェンを還元し、酸化シリコン層213上にグラフェン215を形成することができる。当該工程の詳細について、以下に説明する。
【0081】
酸化グラフェンを含む分散液は、酸化グラフェンを溶媒に分散させる方法、溶媒中でグラファイトを酸化し酸化グラファイトを形成した後、酸化グラファイトの各層を分離して酸化グラフェンを遊離させて、酸化グラフェンを含む分散液を形成する方法等がある。
【0082】
本実施の形態では、Hummers法と呼ばれる酸化法を用いて酸化グラフェンを形成する。Hummers法は、単結晶グラファイト粉末に過マンガン酸カリウムの硫酸溶液、過酸化水素水等を加えて酸化反応させて酸化グラファイト溶液を形成する。酸化グラファイトは、グラファイトの炭素の酸化により、カルボニル基、カルボキシル基、ヒドロキシル基等の官能基を有する。このため、複数のグラフェンの層間距離がグラファイトと比較して酸化グラフェンの方が長い。次に、酸化グラファイト溶液に超音波振動を加えることで、層間距離の長い酸化グラファイトを劈開し、酸化グラフェンを形成することができる。なお、Hummers法以外の酸化グラフェンの形成方法を適宜用いることができる。
【0083】
なお、酸化グラフェンは極性を有する液体中においては、当該酸素がマイナスに帯電するため、異なる多層グラフェン同士が凝集しにくい。このため、極性を有する液体においては、均一に酸化グラフェンが分散すると共に、後の工程において、酸化シリコン層213の表面に均一な割合で酸化グラフェンを設けることができる。
【0084】
酸化シリコン層213上に酸化グラフェンを設ける方法としては、塗布法、スピンコート法、ディップ法、スプレー法、電気泳動法等がある。また、これらの方法を複数組み合わせてもよい。
【0085】
酸化シリコン層213上に設けられた酸化グラフェンを還元する方法としては、真空中、空気中、あるいは不活性ガス(窒素あるいは希ガス等)中等の雰囲気で、150℃以上、好ましくは200℃以上の温度、負極集電体201が耐えうる温度以下で加熱する方法がある。加熱する温度が高い程、また、加熱する時間が長いほど、酸化グラフェンが還元されやすく、純度の高い(すなわち、炭素以外の元素の濃度の低い)グラフェンが得られる。または、還元性溶液に浸し、酸化グラフェンを還元する方法がある。
【0086】
なお、Hummers法では、グラファイトを硫酸で処理するため、酸化グラフェンには、スルホン基等も結合しているが、該スルホン基の分解(脱離)は、200℃以上300℃以下、好ましくは200℃以上250℃以下で行われる。したがって、加熱により酸化グラフェンを還元する方法において、酸化グラフェンの還元を300℃以上で行うことが好ましい。
【0087】
上記還元処理において、隣接するグラフェン同士が結合し、より巨大な網目状あるはシート状となる。また、当該還元処理において、酸素の脱離により、グラフェンには間隙が形成される。更には、グラフェン同士が基体の表面に対して、平行に重なり合う。この結果、グラフェンの層間及びグラフェンの間隙においてイオンの移動が可能なグラフェンが形成される。
【0088】
以上の工程により、負極集電体201上に負極活物質層203が設けられた負極を形成することができる。
【0089】
(実施の形態2)
本実施の形態では、実施の形態1と異なる酸化シリコン層213の形成方法について、説明する。
【0090】
本実施の形態では、シリコン層211の一部を酸化することで、酸化シリコン層213を形成することができる。シリコン層211の酸化方法としては、シリコン層211を加熱する方法、シリコン層211を酸化雰囲気で発生させたプラズマに曝す方法、シリコン層211を、酸化剤を含む溶液に浸す方法等がある。
【0091】
シリコン層211を加熱して、シリコン層211上に酸化シリコン層213を形成する方法としては、シリコン層211が酸化する温度で加熱をする。なお、加熱雰囲気は酸化性ガス雰囲気を用いることが好ましい。酸化性ガスとは、酸素、オゾン、一酸化二窒素等がある。なお、酸化性ガス雰囲気中にハロゲンを導入してもよい。この結果、ハロゲンを含む酸化シリコン層213をシリコン層211上に形成することができる。
【0092】
シリコン層211を酸化雰囲気で発生させたプラズマに曝す方法としては、酸化性ガス雰囲気、代表的には、酸素、オゾン、一酸化二窒素等の雰囲気でプラズマを発生させ、該プラズマにシリコン層211を曝す。この結果、シリコン層211のシリコンとプラズマ中の酸素ラジカルが反応し、酸化シリコン層213を形成することができる。
【0093】
シリコン層211を、酸化剤を含む溶液に浸す方法としては、オゾン水、過酸化水素等の酸化剤を含む溶液にシリコン層211を浸す。この結果、酸化剤によりシリコン層211のシリコンを酸化し、酸化シリコン層213を形成することができる。
【0094】
この後、実施の形態1と同様の工程により、酸化シリコン層213上にグラフェン215を形成することで、負極活物質層203を形成することができる。
【0095】
(実施の形態3)
本実施の形態では、実施の形態1及び実施の形態2と異なる方法により、シリコン層211上に酸化シリコン層213及びグラフェン215を形成する方法について、図3を用いて説明する。
【0096】
図3(A)に示すように、実施の形態1と同様に、負極集電体201上にシリコン層211を形成する。
【0097】
次に、シリコン層211を酸化グラフェンが分散された分散液に浸す。この結果、図3(B)に示すように、シリコン層211上に酸化グラフェン214を付着させる。
【0098】
次に、真空雰囲気、窒素雰囲気、または希ガス雰囲気で加熱処理をし、酸化グラフェン214を還元して、図3(C)に示すようにグラフェン215を形成する。また、当該還元工程において、シリコン層211と酸化グラフェンに含まれる酸素が反応し、シリコン層211及びグラフェン215の間に、酸化シリコン層213を形成することができる。
【0099】
以上の工程により、負極活物質層203を形成することができる。本実施の形態では、酸化グラフェンの還元処理と共に、酸化シリコン層を形成することが可能であり、負極の作製工程数を削減できる。
【0100】
(実施の形態4)
本実施の形態では、実施の形態1乃至実施の形態3と異なる方法により、シリコン層211上に酸化シリコン層213及びグラフェン215を形成する方法について、図4を用いて説明する。
【0101】
実施の形態3と同様に、図4(A)に示すように、負極集電体201上にシリコン層211を形成する。
【0102】
次に、図4(B)に示すように、酸化グラフェンを有する溶液を用いた電気泳動法でシリコン層211の一部を酸化して、シリコン層211上に酸化シリコン層213を形成すると共に、酸化シリコン層213の表面に酸化グラフェン214を設ける。
【0103】
次に、真空雰囲気、窒素雰囲気、または希ガス雰囲気で加熱処理をし、酸化グラフェン214を還元して、グラフェン215を形成する。
【0104】
以上の工程により、負極活物質層203を形成することができる。本実施の形態では、酸化シリコン層を形成しつつ、酸化シリコン層上に酸化グラフェンを設けることが可能であり、負極の作製工程数を削減できる。
【0105】
(実施の形態5)
本実施の形態では、蓄電装置の構造及び作製方法について説明する。
【0106】
はじめに、正極及びその作製方法について説明する。
【0107】
図5(A)は正極311の断面図である。正極311は、正極集電体307上に正極活物質層309が形成される。
【0108】
正極集電体307は、白金、アルミニウム、銅、チタン、ステンレス等の導電性の高い材料を用いることができる。また、正極集電体307は、箔状、板状、網状等の形状を適宜用いることができる。
【0109】
正極活物質層309は、LiFeO2、LiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、V2O5、Cr2O5、MnO2等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0110】
または、オリビン型構造のリチウム含有複合酸化物(一般式LiMPO4(Mは、Fe(II),Mn(II),Co(II),Ni(II)の一以上)を用いることができる。一般式LiMPO4の代表例としては、LiFePO4、LiNiPO4、LiCoPO4、LiMnPO4、LiFeaNibPO4、LiFeaCobPO4、LiFeaMnbPO4、LiNiaCobPO4、LiNiaMnbPO4(a+bは1以下、0<a<1、0<b<1)、LiFecNidCoePO4、LiFecNidMnePO4、LiNicCodMnePO4(c+d+eは1以下、0<c<1、0<d<1、0<e<1)、LiFefNigCohMniPO4(f+g+h+iは1以下、0<f<1、0<g<1、0<h<1、0<i<1)等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0111】
または、一般式Li2MjSiO4(Mは、Fe(II),Mn(II),Co(II),Ni(II)の一以上、0≦j≦2)等のリチウム含有複合酸化物を用いることができる。一般式Li2MSiO4の代表例としては、Li2FeSiO4、Li2NiSiO4、Li2CoSiO4、Li2MnSiO4、Li2FeaNibSiO4、Li2FeaCobSiO4、Li2FekMnlSiO4、Li2NikColSiO4、Li2NikMnlSiO4(k+lは1以下、0<k<1、0<l<1)、Li2FemNinCoqSiO4、Li2FemNinMnqSiO4、Li2NimConMnqSiO4(m+n+qは1以下、0<m<1、0<n<1、0<q<1)、Li2FerNisCotMnuSiO4(r+s+t+uは1以下、0<r<1、0<s<1、0<t<1、0<u<1)等のリチウム化合物を材料として用いることができる。
【0112】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、正極活物質層309として、上記リチウム化合物及びリチウム含有複合酸化物において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0113】
図5(B)は、正極活物質層309の平面図である。正極活物質層309は、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な粒子状の正極活物質321と、当該正極活物質321の複数を覆いつつ、当該正極活物質321が内部に詰められたグラフェン323とを有する。複数の正極活物質321の表面を異なるグラフェン323が覆う。また、一部において、正極活物質321が露出していてもよい。なお、グラフェン323は、実施の形態1に示すグラフェン215を適宜用いることができる。
【0114】
正極活物質321の粒径は、20nm以上100nm以下が好ましい。なお、正極活物質321内を電子が移動するため、正極活物質321の粒径はより小さい方が好ましい。
【0115】
また、正極活物質層309はグラフェン323を有することで、正極活物質321の表面に炭素膜が被覆されていなくとも十分な特性が得られるが、炭素膜が被覆されている正極活物質及びグラフェン323を共に用いると、キャリアが正極活物質間をホッピングし、電流が流れるためより好ましい。
【0116】
図5(C)は、図5(B)の正極活物質層309の一部における断面図である。正極活物質層309は、正極活物質321、及び該正極活物質321を覆うグラフェン323を有する。グラフェン323は断面図においては線状で観察される。同一のグラフェンまたは複数のグラフェンにより、複数の正極活物質を内包する。即ち、同一のグラフェンまたは複数のグラフェンの間に、複数の正極活物質が内在する。なお、グラフェンは袋状になっており、該内部において、複数の正極活物質を内包する場合がある。また、グラフェンに覆われず、一部の正極活物質が露出している場合がある。
【0117】
正極活物質層309の厚さは、20μm以上100μm以下の間で所望の厚さを選択する。なお、クラックや剥離が生じないように、正極活物質層309の厚さを適宜調整することが好ましい。
【0118】
なお、正極活物質層309には、グラフェンの体積の0.1倍以上10倍以下のアセチレンブラック粒子や1次元の拡がりを有するカーボン粒子(カーボンナノファイバー等)、公知のバインダーを有してもよい。
【0119】
なお、正極活物質においては、キャリアとなるイオンの吸蔵により体積が膨張するものがある。このため、充放電により、正極活物質層が脆くなり、正極活物質層の一部が崩落してしまい、この結果蓄電装置の信頼性が低下する。しかしながら、正極活物質の周辺をグラフェン323で覆うことで、正極活物質が充放電により体積変化しても、正極活物質の分散や正極活物質層の崩落を妨げることが可能である。即ち、グラフェンは、充放電にともない正極活物質の体積が増減しても、正極活物質同士の結合を維持する機能を有する。
【0120】
また、グラフェン323は、複数の正極活物質と接しており、導電助剤としても機能する。また、キャリアイオンの吸蔵放出が可能な正極活物質321を保持する機能を有する。このため、正極活物質層にバインダーを混合する必要が無く、正極活物質層当たりの正極活物質量を増加させることが可能であり、蓄電装置の放電容量を高めることができる。
【0121】
次に、正極活物質層309の作製方法について説明する。
【0122】
粒子状の正極活物質及び酸化グラフェンを含むスラリーを形成する。次に、正極集電体上に、当該スラリーを塗布した後、実施の形態1に示すグラフェンの作製方法と同様に、還元雰囲気での加熱により還元処理を行って、正極活物質を焼成すると共に、酸化グラフェンに含まれる酸素を脱離させ、グラフェンに間隙を形成する。なお、酸化グラフェンに含まれる酸素は全て還元されず、一部の酸素はグラフェンに残存する。以上の工程により、正極集電体307上に正極活物質層309を形成することができる。この結果、正極活物質層の導電性が高まる。
【0123】
酸化グラフェンは酸素を含むため、極性液体中では負に帯電する。この結果、酸化グラフェンは互いに分散する。このため、スラリーに含まれる正極活物質が凝集しにくくなり、焼成による正極活物質の粒径の増大を低減することができる。このため、正極活物質内の電子の移動が容易となり、正極活物質層の導電性を高めることができる。
【0124】
次に、蓄電装置の構造及び作製方法について説明する。
【0125】
本実施の形態の蓄電装置の代表例であるリチウムイオン二次電池の一形態について図6を用いて説明する。ここでは、リチウムイオン二次電池の断面構造について、以下に説明する。
【0126】
図6は、リチウムイオン二次電池の断面図である。
【0127】
リチウムイオン二次電池400は、負極集電体407及び負極活物質層409で構成される負極411と、正極集電体401及び正極活物質層403で構成される正極405と、負極411及び正極405で挟持されるセパレータ413とで構成される。なお、セパレータ413中には電解質415が含まれる。また、負極集電体407は外部端子419と接続し、正極集電体401は外部端子417と接続する。外部端子419の端部はガスケット421に埋没されている。即ち、外部端子417、419は、ガスケット421によって絶縁されている。
【0128】
負極集電体407及び負極活物質層409は、実施の形態1乃至実施の形態3に示す負極集電体201及び負極活物質層203を適宜用いて形成すればよい。
【0129】
正極集電体401及び正極活物質層403はそれぞれ、本実施の形態に示す正極集電体307及び正極活物質層309を適宜用いることができる。
【0130】
セパレータ413は、絶縁性の多孔体を用いる。セパレータ413の代表例としては、セルロース(紙)、ポリエチレン、ポリプロピレン等がある。
【0131】
電解質415の溶質は、キャリアイオン有する材料を用いる。電解質の溶質の代表例としては、LiClO4、LiAsF6、LiBF4、LiPF6、Li(C2F5SO2)2N等のリチウム塩がある。
【0132】
なお、キャリアイオンが、リチウムイオン以外のアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ベリリウムイオン、またはマグネシウムイオンの場合、電解質415の溶質として、上記リチウム塩において、リチウムの代わりに、アルカリ金属(例えば、ナトリウムやカリウム等)、アルカリ土類金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム等)、ベリリウム、またはマグネシウムを用いてもよい。
【0133】
また、電解質415の溶媒としては、キャリアイオンの移送が可能な材料を用いる。電解質415の溶媒としては、非プロトン性有機溶媒が好ましい。非プロトン性有機溶媒の代表例としては、エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、γーブチロラクトン、アセトニトリル、ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等があり、これらの一つまたは複数を用いることができる。また、電解質415の溶媒としてゲル化される高分子材料を用いることで、漏液性を含めた安全性が高まる。また、リチウムイオン二次電池400の薄型化及び軽量化が可能である。ゲル化される高分子材料の代表例としては、シリコンゲル、アクリルゲル、アクリロニトリルゲル、ポリエチレンオキサイド、ポリプロピレンオキサイド、フッ素系ポリマー等がある。
【0134】
また、電解質415として、Li3PO4等の固体電解質を用いることができる。なお、電解質415として固体電解質を用いる場合は、セパレータ413は不要である。
【0135】
外部端子417、419は、ステンレス鋼板、アルミニウム板なとの金属部材を適宜用いることができる。
【0136】
なお、本実施の形態では、リチウムイオン二次電池400として、ボタン型リチウムイオン二次電池を示したが、封止型リチウムイオン二次電池、円筒型リチウムイオン二次電池、角型リチウムイオン二次電池等様々な形状のリチウムイオン二次電池とすることができる。また、正極、負極、及びセパレータが複数積層された構造、正極、負極、及びセパレータが捲回された構造であってもよい。
【0137】
次に、本実施の形態に示すリチウムイオン二次電池400の作製方法について説明する。
【0138】
実施の形態1乃至本実施の形態3に示す作製方法により、適宜、正極405及び負極411を作製する。
【0139】
次に、正極405、セパレータ413、及び負極411を電解質415に含浸させる。次に、外部端子417に、正極405、セパレータ413、ガスケット421、負極411、及び外部端子419の順に積層し、「コインかしめ機」で外部端子417及び外部端子419をかしめてコイン型のリチウムイオン二次電池を作製することができる。
【0140】
なお、外部端子417及び正極405の間、または外部端子419及び負極411の間に、スペーサ、及びワッシャを入れて、外部端子417及び正極405の接続、並びに外部端子419及び負極411の接続をより高めてもよい。
【0141】
(実施の形態6)
本発明の一態様に係る蓄電装置は、電力により駆動する様々な電気機器の電源として用いることができる。
【0142】
本発明の一態様に係る蓄電装置を用いた電気機器の具体例として、表示装置、照明装置、デスクトップ型或いはノート型のパーソナルコンピュータ、DVD(Digital Versatile Disc)などの記録媒体に記憶された静止画または動画を再生する画像再生装置、携帯電話、携帯型ゲーム機、携帯情報端末、電子書籍、ビデオカメラ、デジタルスチルカメラ、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器、電気洗濯機、エアコンディショナーなどの空調設備、電気冷蔵庫、電気冷凍庫、電気冷凍冷蔵庫、DNA保存用冷凍庫、透析装置などが挙げられる。また、蓄電装置からの電力を用いて電動機により推進する移動体なども、電気機器の範疇に含まれるものとする。上記移動体として、例えば、電気自動車、内燃機関と電動機を併せ持った複合型自動車(ハイブリッドカー)、電動アシスト自転車を含む原動機付自転車などが挙げられる。
【0143】
なお、上記電気機器は、消費電力の殆ど全てを賄うための蓄電装置(主電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電力の供給が停止した場合に、電気機器への電力の供給を行うことができる蓄電装置(無停電電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。或いは、上記電気機器は、上記主電源や商用電源からの電気機器への電力の供給と並行して、電気機器への電力の供給を行うための蓄電装置(補助電源と呼ぶ)として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることができる。
【0144】
図7に、上記電気機器の具体的な構成を示す。図7において、表示装置5000は、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を用いた電気機器の一例である。具体的に、表示装置5000は、TV放送受信用の表示装置に相当し、筐体5001、表示部5002、スピーカー部5003、蓄電装置5004等を有する。本発明の一態様に係る蓄電装置5004は、筐体5001の内部に設けられている。表示装置5000は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5004に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5004を無停電電源として用いることで、表示装置5000の利用が可能となる。
【0145】
表示部5002には、液晶表示装置、有機EL素子などの発光素子を各画素に備えた発光装置、電気泳動表示装置、DMD(Digital Micromirror Device)、PDP(Plasma Display Panel)、FED(Field Emission Display)などの、半導体表示装置を用いることができる。
【0146】
なお、表示装置には、TV放送受信用の他、パーソナルコンピュータ用、広告表示用など、全ての情報表示用表示装置が含まれる。
【0147】
図7において、据え付け型の照明装置5100は、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を用いた電気機器の一例である。具体的に、照明装置5100は、筐体5101、光源5102、蓄電装置5103等を有する。図7では、蓄電装置5103が、筐体5101及び光源5102が据え付けられた天井5104の内部に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5103は、筐体5101の内部に設けられていても良い。照明装置5100は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5103に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5103を無停電電源として用いることで、照明装置5100の利用が可能となる。
【0148】
なお、図7では天井5104に設けられた据え付け型の照明装置5100を例示しているが、本発明の一態様に係る蓄電装置は、天井5104以外、例えば側壁5105、床5106、窓5107等に設けられた据え付け型の照明装置に用いることもできるし、卓上型の照明装置などに用いることもできる。
【0149】
また、光源5102には、電力を利用して人工的に光を得る人工光源を用いることができる。具体的には、白熱電球、蛍光灯などの放電ランプ、LEDや有機EL素子などの発光素子が、上記人工光源の一例として挙げられる。
【0150】
図7において、室内機5200及び室外機5204を有するエアコンディショナーは、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を用いた電気機器の一例である。具体的に、室内機5200は、筐体5201、送風口5202、蓄電装置5203等を有する。図7では、蓄電装置5203が、室内機5200に設けられている場合を例示しているが、蓄電装置5203は室外機5204に設けられていても良い。或いは、室内機5200と室外機5204の両方に、蓄電装置5203が設けられていても良い。エアコンディショナーは、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5203に蓄積された電力を用いることもできる。特に、室内機5200と室外機5204の両方に蓄電装置5203が設けられている場合、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5203を無停電電源として用いることで、エアコンディショナーの利用が可能となる。
【0151】
なお、図7では、室内機と室外機で構成されるセパレート型のエアコンディショナーを例示しているが、室内機の機能と室外機の機能とを1つの筐体に有する一体型のエアコンディショナーに、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることもできる。
【0152】
図7において、電気冷凍冷蔵庫5300は、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を用いた電気機器の一例である。具体的に、電気冷凍冷蔵庫5300は、筐体5301、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303、蓄電装置5304等を有する。図7では、蓄電装置5304が、筐体5301の内部に設けられている。電気冷凍冷蔵庫5300は、商用電源から電力の供給を受けることもできるし、蓄電装置5304に蓄積された電力を用いることもできる。よって、停電などにより商用電源から電力の供給が受けられない時でも、本発明の一態様に係る蓄電装置5304を無停電電源として用いることで、電気冷凍冷蔵庫5300の利用が可能となる。
【0153】
なお、上述した電気機器のうち、電子レンジ等の高周波加熱装置、電気炊飯器などの電気機器は、短時間で高い電力を必要とする。よって、商用電源では賄いきれない電力を補助するための補助電源として、本発明の一態様に係る蓄電装置を用いることで、電気機器の使用時に商用電源のブレーカーが落ちるのを防ぐことができる。
【0154】
また、電気機器が使用されない時間帯、特に、商用電源の供給元が供給可能な総電力量のうち、実際に使用される電力量の割合(電力使用率と呼ぶ)が低い時間帯において、蓄電装置に電力を蓄えておくことで、上記時間帯以外において電力使用率が高まるのを抑えることができる。例えば、電気冷凍冷蔵庫5300の場合、気温が低く、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われない夜間において、蓄電装置5304に電力を蓄える。そして、気温が高くなり、冷蔵室用扉5302、冷凍室用扉5303の開閉が行われる昼間において、蓄電装置5304を補助電源として用いることで、昼間の電力使用率を低く抑えることができる。
【0155】
本実施の形態は、上記実施の形態と適宜組み合わせて実施することが可能である。
【実施例1】
【0156】
本実施例では、負極活物質層として、凹凸を有するシリコン層上に酸化シリコン層及びグラフェンを作製し、TEMにより観察した。はじめに、試料の作製方法について、説明する。
【0157】
はじめに、0.5mg/mlの酸化グラフェン水溶液を調整した。また、チタンシート上に凹凸状のシリコン層を形成した。
【0158】
凹凸状のシリコン層は、厚さ0.1mm、直径12mmのチタンシート上に、原料として流量300sccmのシラン及び流量300sccmの窒素を圧力150Pa、温度550℃のチャンバーに導入するLPCVD法により形成した。この後、大気雰囲気で保管した。
【0159】
次に、酸化グラフェン分散液を用意した。当該溶液は、実施の形態1で説明したようにHummers法で酸化グラファイトを形成した後に超音波振動を加えることで、作製することができるが、本実施例では、Graphene Supermarket社製の酸化グラフェン水溶液(濃度:0.275mg/ml、フレークサイズ:0.5μm〜5μm)を用いた。
【0160】
次に、電気泳動法を用いて凹凸状のシリコン層上に酸化シリコン層を形成すると共に、該酸化シリコン層上に酸化グラフェンを設けた。ここでは、酸化グラフェン分散液中に、凹凸状のシリコン層をチタンシートごと浸漬し、また、電極としてステンレス板を浸漬した。ここでは、チタンシートとステンレス板との距離を1cmとした。そして、チタンシート及びステンレス板の間に10Vの電圧を30秒印加した。このとき流れた電荷量は0.223Cであった。
【0161】
次に、50℃のホットプレートで数分乾燥した後、300℃に保たれたガラスチューブオーブンにおいて10時間放置して酸化グラフェンの還元処理を行い、グラフェンを形成した。以上の工程により、試料1を作製した。
【0162】
また、比較例として、試料1において、グラフェンを形成しない試料を比較試料1として作製した。
【0163】
試料1の断面をHAADF−STEM(High−Angle Annular Dark−Field Scanning Transmission Electron Microscopy)で観察した結果を図8に示す。point2はシリコン層であり、point3は観察を促すためのカーボン層である。シリコン層及びカーボン層の間(point1)に、コントラストの異なる領域を有する。次に、アスタリスクで示されるpoint1〜point3の組成元素について、EDX(Energy Dispersive X−ray spectroscopy)を用いて分析した。
【0164】
図9(A)〜(C)はそれぞれpoint1〜point3の元素分析結果を示す。
【0165】
図9(A)においては、Si、O、及びCが検出されており、point1には、酸化シリコン層が形成されていることがわかる。
【0166】
なお、シリコン層の一部であるpoint2においては、図9(B)に示すように、Siが検出されており、カーボン層の一部であるpoint3においては、図9(C)に示すように、Cが検出された。
【0167】
次に、試料1及び比較試料1をTEM(Transmission Electron Microscopy)で観察した結果を図10に示す。
【0168】
試料1及び比較試料1の断面TEM写真をそれぞれ図10(A)(倍率205万倍)及び図10(B)(倍率150万倍)に示す。図10(A)において、凹凸状のシリコン層501上には酸化シリコン層503が形成され、酸化シリコン層503上にはグラフェン505が形成されている。コントラストの低い(白い)線状の層がシリコン層の表面形状に沿って積層している。当該線状の領域が結晶性の高いグラフェン505である。グラフェン505上には、観察を促すためのカーボン層507が設けられている。また、酸化シリコン層の平均膜厚は3.9nmであり、グラフェン505の平均膜厚は0.73nmであった。
【0169】
一方、図10(B)において、凹凸状のシリコン層511上には、酸化シリコン層513が形成されている。酸化シリコン層513上には、観察を促すためのカーボン層517が設けられている。酸化シリコン層の平均膜厚は、1.63nmであった。
【0170】
比較試料1から、凹凸状のシリコン層を大気雰囲気で保管することで、凹凸状のシリコン層の表面には自然酸化層が形成されることが分かる。また、試料1及び比較試料1の比較から、電気泳動法及び酸化グラフェンの還元処理により、凹凸状のシリコン層上には自然酸化層と共に、新たに酸化シリコン層が形成され、且つ酸化シリコン層上にグラフェンが形成されることが分かる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極及び負極の間に設けられた電解質とを有し、
前記負極は、負極集電体及び負極活物質層を有し、
前記負極活物質層は、前記負極集電体上に形成される凹凸状のシリコン層と、
前記シリコン層に接する、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層と、
前記酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層に接するグラフェンと、
を有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
請求項1において、前記酸化シリコン層または前記混合層の厚さは、2nm以上10nm以下であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記シリコン層は、結晶性シリコンで形成されることを特徴とする蓄電装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記シリコン層は、非晶質シリコンで形成されることを特徴とする蓄電装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、前記シリコン層は、結晶性シリコンと、前記結晶性シリコンを覆う非晶質シリコンとを有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項6】
負極集電体上に、凹凸状のシリコン層を形成し、
前記シリコン層上に、気相法により酸化シリコン層を形成し、
前記シリコン層及び前記酸化シリコン層を酸化グラフェンが分散された分散液に浸し、前記酸化シリコン層表面に前記酸化グラフェンを設けた後、還元処理を行って、前記酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項7】
負極集電体上に、凹凸状のシリコン層を形成し、
前記シリコン層を酸化して、前記シリコン層を覆う酸化シリコン層を形成し、
前記シリコン層及び前記酸化シリコン層を酸化グラフェンが分散された分散液に浸し、前記酸化シリコン層表面に前記酸化グラフェンを設けた後、還元処理を行って、前記酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項8】
請求項7において、前記シリコン層を酸化性ガス雰囲気中で発生させたプラズマに曝して、前記酸化シリコン層を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項9】
請求項7において、前記シリコン層を酸化剤を含む溶液に浸して、前記酸化シリコン層を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項10】
請求項7において、前記シリコン層を加熱して、前記酸化シリコン層を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項11】
負極集電体上に、凹凸状のシリコン層を形成し、
前記シリコン層を酸化グラフェンが分散された分散液に浸し、前記シリコン層表面に前記酸化グラフェンを設けた後、還元処理を行って、前記酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成すると共に、前記シリコン層の一部を酸化して、前記シリコン層及び前記グラフェンの間に、酸化シリコン層を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項12】
負極集電体上に、凹凸状のシリコン層を形成し、
前記シリコン層を酸化グラフェンが分散された分散液に浸し、電気泳動法により前記シリコン層表面に前記酸化グラフェンを設けると共に、前記シリコン層の一部を酸化し、前記シリコン層上に酸化シリコン層を形成し、
還元処理を行って、前記酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項13】
請求項6乃至請求項12のいずれか一項において、前記還元処理は、真空雰囲気、窒素雰囲気、または希ガス雰囲気で加熱することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項1】
正極と、負極と、前記正極及び負極の間に設けられた電解質とを有し、
前記負極は、負極集電体及び負極活物質層を有し、
前記負極活物質層は、前記負極集電体上に形成される凹凸状のシリコン層と、
前記シリコン層に接する、酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層と、
前記酸化シリコン層または酸化シリコン及びシリケート化合物を有する混合層に接するグラフェンと、
を有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
請求項1において、前記酸化シリコン層または前記混合層の厚さは、2nm以上10nm以下であることを特徴とする蓄電装置。
【請求項3】
請求項1または請求項2において、前記シリコン層は、結晶性シリコンで形成されることを特徴とする蓄電装置。
【請求項4】
請求項1または請求項2において、前記シリコン層は、非晶質シリコンで形成されることを特徴とする蓄電装置。
【請求項5】
請求項1または請求項2において、前記シリコン層は、結晶性シリコンと、前記結晶性シリコンを覆う非晶質シリコンとを有することを特徴とする蓄電装置。
【請求項6】
負極集電体上に、凹凸状のシリコン層を形成し、
前記シリコン層上に、気相法により酸化シリコン層を形成し、
前記シリコン層及び前記酸化シリコン層を酸化グラフェンが分散された分散液に浸し、前記酸化シリコン層表面に前記酸化グラフェンを設けた後、還元処理を行って、前記酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項7】
負極集電体上に、凹凸状のシリコン層を形成し、
前記シリコン層を酸化して、前記シリコン層を覆う酸化シリコン層を形成し、
前記シリコン層及び前記酸化シリコン層を酸化グラフェンが分散された分散液に浸し、前記酸化シリコン層表面に前記酸化グラフェンを設けた後、還元処理を行って、前記酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項8】
請求項7において、前記シリコン層を酸化性ガス雰囲気中で発生させたプラズマに曝して、前記酸化シリコン層を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項9】
請求項7において、前記シリコン層を酸化剤を含む溶液に浸して、前記酸化シリコン層を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項10】
請求項7において、前記シリコン層を加熱して、前記酸化シリコン層を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項11】
負極集電体上に、凹凸状のシリコン層を形成し、
前記シリコン層を酸化グラフェンが分散された分散液に浸し、前記シリコン層表面に前記酸化グラフェンを設けた後、還元処理を行って、前記酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成すると共に、前記シリコン層の一部を酸化して、前記シリコン層及び前記グラフェンの間に、酸化シリコン層を形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項12】
負極集電体上に、凹凸状のシリコン層を形成し、
前記シリコン層を酸化グラフェンが分散された分散液に浸し、電気泳動法により前記シリコン層表面に前記酸化グラフェンを設けると共に、前記シリコン層の一部を酸化し、前記シリコン層上に酸化シリコン層を形成し、
還元処理を行って、前記酸化グラフェンを還元してグラフェンを形成することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【請求項13】
請求項6乃至請求項12のいずれか一項において、前記還元処理は、真空雰囲気、窒素雰囲気、または希ガス雰囲気で加熱することを特徴とする蓄電装置の作製方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図8】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図9】
【図8】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2013−65547(P2013−65547A)
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−182092(P2012−182092)
【出願日】平成24年8月21日(2012.8.21)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成25年4月11日(2013.4.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成24年8月21日(2012.8.21)
【出願人】(000153878)株式会社半導体エネルギー研究所 (5,264)
【Fターム(参考)】
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