説明

蓄電装置

【課題】 巻回型蓄電素子を金属ケース内に収納してなる蓄電装置において、振動を受けた場合や金属ケースに膨れが生じたとしても、金属ケース内で巻回型蓄電素子が動かないように、巻回型蓄電素子を簡単な組立作業で確実に固定する。
【解決手段】 帯状に形成された電極体の1対をセパレータを介して渦巻き状に巻回してなる蓄電素子10に所定の電解液を含浸させて有底筒状の金属ケース20内に収納し、その開口部を封口体21にて封止するとともに、各電極体に取り付けられているリード部材11a,11bを直接的もしくは外部引出端子を介して封口体21から外部に引き出してなる蓄電装置において、金属ケース20の底部内周面に沿って蓄電素子10の角部を支持する弾性材からなる支持リング30を配置する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、所定の電解液が含浸された巻回型蓄電素子を有底筒状の金属ケース内に収納してなる蓄電装置に関し、さらに詳しく言えば、金属ケース内で巻回型蓄電素子を固定する技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
蓄電装置には、アルミニウム電解コンデンサ,電池,電気二重層コンデンサそれにレドックスキャパシタなどが含まれるが、ここでは巻回型の電気二重層コンデンサを例にして説明する。
【0003】
巻回型の電気二重層コンデンサは、蓄電素子としてアルミニウムエッチング箔などの集電体に活性炭およびカーボンブラックなどを主体とする分極性電極を付着した電極体の1対をセパレータ紙を介して巻回したコンデンサ素子を備え、同コンデンサ素子に所定の電解液を含浸させたのち、有底円筒状の金属ケース(多くの場合、アルミケース)内に収納し、その金属ケースの開口部を封口板によって封口することにより製造される。
【0004】
なお、各集電体にはリード箔が固着されているとともに、封口板には外部引出端子が設けられており、封口板を金属ケースの開口部に取り付ける際に、リード箔と外部引出端子とが接続される。
【0005】
特に車載用途などにおいてよく見られるが、外部からの衝撃や振動により金属ケース内でコンデンサ素子が動くと、リード箔が断線したりショートすることがある。そのため、金属ケース内でのコンデンサ素子の動きを封ずる必要があり、これには次のような方法が知られている。
【0006】
まず第1の方法として、金属ケース内に加熱により溶融したAPP(アタクチックポリプロピレン)を注入して固化させてコンデンサ素子を固定する方法がある。第2の方法として、封口後の金属ケースの周面に同ケース内に向かって出っ張る縦方向もしくは横方向に溝を形成することによりコンデンサ素子を固定する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0007】
第3の方法として、コンデンサ素子を収納する前に、金属ケースの周面にあらかじめ同ケース内に向かって出っ張る溝を形成し、その金属ケース内にコンデンサ素子を収納して固定する方法がある(例えば、特許文献2参照)。第4の方法として、金属ケース内に板バネなどのバネ手段を設けてコンデンサ素子を固定する方法がある(例えば、特許文献3参照)。
【0008】
【特許文献1】特開2000−124086号公報
【特許文献2】特開2000−30981号公報
【特許文献3】特開2004−311831号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記第1のAPPによる固定方法では、次のような危険性が指摘されている。すなわち、有機系電解液を使用する場合、電気二重層コンデンサの組み立てはほぼ絶乾状態のドライボックス内で行われるが、そのドライボックス内にAPPを溶融させる熱源(約150℃)を持ち込むことは火災の原因になりかねないし、作業者に火傷を負わせる危険性がある。また、APP中の残留水分がコンデンサの性能に悪影響を与えるおそれもある。
【0010】
上記第2の封口後の溝加工による固定方法によると、その加工工程が増えるため、生産性の点で好ましくない。また、溝加工時にコンデンサ素子に過大な圧力が加えられないようにするための調整が難しい。
【0011】
上記第3の事前の溝加工による固定方法では、溝加工済みの金属ケース内にコンデンサ素子を挿入するため、コンデンサ素子を挿入し得るだけのクリアランスが必要とされる。このクリアランスは、コンデンサ素子の外径寸法のバラツキを見込んで設定されるため、コンデンサ素子を完全に固定することは難しい。
【0012】
また、上記第4のバネ手段による固定方法では、板バネなどの調達にコストがかかるばかりでなく、コンデンサ素子に過大な圧力が加えられないようにするためのバネ圧の調整が難しい。また、バネ手段を金属ケース内に収納することに伴って、その収納スペース分だけ金属ケースを大型にするか、もしくはコンデンサ素子を小さくする必要があり、そのいずれかを犠牲にしなければならない。
【0013】
したがって、本発明の課題は、巻回型蓄電素子を金属ケース内に収納してなる蓄電装置において、振動を受けた場合や金属ケースに膨れが生じたとしても、金属ケース内で巻回型蓄電素子が動かないように、巻回型蓄電素子を簡単な組立作業で確実に固定することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するため、本発明は、帯状に形成された電極体の1対をセパレータを介して渦巻き状に巻回してなる蓄電素子を含み、上記蓄電素子に所定の電解液を含浸させて有底筒状の金属ケース内に収納し、上記金属ケースの開口部を封口体にて封止するとともに、上記各電極体に取り付けられているリード部材を直接的もしくは外部引出端子を介して上記封口体から外部に引き出してなる蓄電装置において、上記金属ケースの底部内周面に沿って上記蓄電素子の角部を支持する弾性材からなる支持リングが配置されていることを特徴としている。
【0015】
本発明において、上記支持リングは、上記蓄電素子の外径よりも大径で上記金属ケースの内周面に沿って配置される外周部と、上記蓄電素子の外径よりも小径で上記金属ケースの底面に沿って配置される内周部とを含み、上記外周部の上端と上記内周部の内周端との間に上記蓄電素子の角部に接する傾斜面が形成されていることが好ましい。なお、上記傾斜面は曲率を持たない平面もしくは所定曲率の凹湾曲面のいずれであってもよい。
【0016】
また、上記支持リングは一部分に切欠き部を有するC字状であってもよく、その場合、上記切欠き部が円周の1/3以内であることが好ましい。また、上記傾斜面を含む角部支持体が上記支持リングの円周方向に所定の間隔をもって複数配置されている態様も本発明に含まれる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、金属ケースの底部内周面に沿って蓄電素子の角部を支持する弾性材からなる支持リングを配置するという簡単な構成により、蓄電素子が確実に固定され、振動を受けた場合はもとより金属ケースに膨れが生じたとしても、金属ケース内で蓄電素子が動くことがなく、良好な耐振動性を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、図1ないし図4により、本発明の実施形態について説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。図1は本発明が適用された巻回型電気二重層コンデンサの内部構造を示す断面図,図2は支持リングの半周分を示す斜視図,図3および図4は支持リングの変形例を模式的に示す平面図である。
【0019】
まず、図1を参照して、この実施形態に係る蓄電装置は、蓄電素子としてのコンデンサ素子10を有底円筒状の金属ケース20内に収納してなる巻回型の電気二重層コンデンサである。
【0020】
この電気二重層コンデンサにおいて、コンデンサ素子10は、図示しないアルミニウムエッチング箔などの集電体に活性炭およびカーボンブラックなどを主体とする分極性電極を付着した電極体の1対をセパレータ紙を介して巻回してなり、所定の電解液が含浸された状態で金属ケース20内に収納される。なお、上記各集電体からは例えばアルミニウム材からなるリード箔11a,11bが引き出されている。
【0021】
金属ケース20は、通常この分野でよく用いられるアルミニウム材であってよく、その開口部は封口板21によって封口される。この例において、封口板21には、ベークライトやフェノール樹脂などの硬質基板21aにゴム膜21bを積層してなる硬質封口板が用いられている。
【0022】
封口板21は、1対のラグ端子(外部引出端子)22a,22bを備え、封口板21を金属ケース20に取り付けるに先だって、リード箔11a,11bとラグ端子22a,22bとが接続される。なお、金属ケース20に対する封口板21の固着方法は常法にしたがってよい。すなわち、封口板21を金属ケース20に形成されている横絞り溝23に係止させて配置したのち、開口部の端縁をかしめればよい。
【0023】
なお、アルミニウム電解コンデンサの場合には、コンデンサ素子10にともにアルミニウムからなる陽極箔と陰極箔とをセパレータ紙を介し対向させて渦巻き状に巻回してなるコンデンサ素子が用いられ、リード箔11a,11bに代えてタブ端子が用いられるとともに、封口板21に代えてゴム封口体が用いられ、そのタブ端子がゴム封口体を貫通して直接的にケース外に引き出される。
【0024】
本発明においては、金属ケース20内でのコンデンサ素子10の動き(振動)を封ずるため、金属ケース20の底部内周面に沿って配置され、すなわち金属ケース20の内周面20aと底面20bとにかけて配置され、コンデンサ素子10の角部を支持する支持リング30を備える。
【0025】
図2に示すように、支持リング30は、コンデンサ素子10の外径よりも大径で金属ケース20の内周面20aに沿って配置される外周部31と、コンデンサ素子10の外径よりも小径で金属ケース20の底面20bに沿って配置される内周部32とを含み、外周部31の上端31aと内周部32の内周端32aとにかけてコンデンサ素子10の角部に接する傾斜面33が形成されている。傾斜面33は支持リング30の上方から見てすり鉢状を呈するが、その面は曲率を持たない平面もしくは所定曲率の凹湾曲面のいずれであってもよい。
【0026】
支持リング30は、金属ケース20に形成されている横絞り溝23による小径部分を通して容易に金属ケース20内に配置し得るようにするとともに、コンデンサ素子10の角部にフィットできるようにするため、その全体が弾性材よりなる。
【0027】
弾性材としては、ポリプロピレン,ポリエステル,ポリエチレンテレフタレート,ナイロンなどの合成樹脂やゴムなどが例示されるが、耐薬品性が良好で電解液に侵されず、ハロゲンイオンなどの不純物の溶出がなく、しかも長期にわたって強度劣化をきたさないものを選択することが重要である。
【0028】
また、支持リング30自体を金属ケース20内にがたつきなく固定するため、外周部31を金属ケース20の内径と実質的に同一径とするか、もしくは支持リング30の少なくとも一部分に金属ケース20の内径よりも若干大径である膨出部31bを形成することが好ましい。
【0029】
支持リング30は、金属ケース20の底部内周面の全周にわたって配置される環状であることが好ましいが、図3に示すように、一部分に切欠き部34を有するC字状であってもよく、このような態様も本発明に含まれる。この場合、コンデンサ素子10の固定を確実にするため、切欠き部34は円周の1/3以内であることが好ましい。
【0030】
また、別の変形例として、図4に示すように、上記傾斜面33を含む角部支持体35を支持リング30の円周方向に所定の間隔をもって複数配置してもよい。この角部支持体35は、図2に示す支持リング30から外周部31を部分的に切り欠くことにより形成することができる。各角部支持体35間は内周部32により連結されているが、均等に配置されることが好ましい。
【0031】
この巻回型電気二重層コンデンサを含めて電解液を使用するコンデンサは、長期の電圧印加時において電解液の分解によりガスが発生し、これにより内圧が高まってケースの底部が膨らみコンデンサ素子10の固定が不十分となり耐振動性が著しく低下するが、本発明によれば、金属ケース20内で上記支持リング30によりコンデンサ素子10を固定するようにしているため、ケースの底部に膨らみが発生しても、良好な耐振動性を維持することができる。
【実施例】
【0032】
次に、本発明の具体的な実施例と比較例について説明する。各例ともに、集電体として粗面化加工したアルミニウム箔を用い、その一方の面に、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)をバインダーとして活性炭とカーボン(導電補助材)とを混練してシート状とした分極性電極を導電性接着材で貼り付けて一体化して1対の電極を作成し、その各々に引き出しリード箔を溶接したのち、厚さ50μmのセパレータを介して渦巻き状に巻回して直径35〜36mmのコンデンサ素子を作成した。そして、このコンデンサ素子に電解液を含浸したのち、下記の各例にしたがってアルミニウム製の有底円筒状のケース内に収納し、そのケース開口部を封口板にて封止して、外形寸法が直径40mm,高さ80mmの電気二重層コンデンサを試作した。
【0033】
《実施例1》
上記コンデンサ素子をケースに収納するにあたって、ケースの底部内周面の全周にわたってポリプロピレンからなる環状の支持リングを配置し、この支持リングの傾斜面にて上記コンデンサ素子の角部を支持させて電気二重層コンデンサを組み立てた。図2の支持リング30の図面に、この実施例1で用いた支持リングの実寸を示す。
【0034】
《実施例2》
上記実施例1の支持リングを1/4周長にわたって切り欠いたC字状の支持リングを用いて、上記コンデンサ素子の角部を支持させて電気二重層コンデンサを組み立てた。
【0035】
《実施例3》
上記実施例1の支持リングを1/3周長にわたって切り欠いたC字状の支持リングを用いて、上記コンデンサ素子の角部を支持させて電気二重層コンデンサを組み立てた。
【0036】
〈比較例1〉
上記実施例1の支持リングを1/2周長にわたって切り欠いたC字状の支持リングを用いて、上記コンデンサ素子の角部を支持させて電気二重層コンデンサを組み立てた。
【0037】
〈比較例2〉
支持リングを用いることなく、上記コンデンサ素子をケース内に収納して電気二重層コンデンサを組み立てた。
【0038】
〈比較例3〉
上記従来技術で説明した第3の事前の溝加工による固定方法を適用し、上記ケースにあらかじめ素子固定のための溝を形成し、支持リングを用いることなく、上記コンデンサ素子をケース内に収納して電気二重層コンデンサを組み立てた。この場合、溝部分の内径は上記コンデンサ素子の挿入性を考慮して36.5mmとした。
【0039】
〈比較例4〉
上記従来技術で説明した第1のAPP(アタクチックポリプロピレン)による固定方法を適用して、上記コンデンサ素子をケースの底部にAPPで固定して電気二重層コンデンサを組み立てた。
【0040】
上記実施例1〜3,比較例1〜4ともに試料数は3個とし、コンデンサの内圧を高めるための前処理として、70℃の温度雰囲気下で2.7Vの電圧を連続して200時間印加した。その結果、ケースの底部は1mm前後膨らんでいた。
【0041】
これらの各試料について、振幅1.5mm,加速度重力が20Gとなるように振動周波数を調整し、X,Y,Zの各方向についてそれぞれ2時間の耐振動試験を3回繰り返して行い、その試験前と試験後において、1kHzでの交流内部抵抗(ESR;単位mΩ)を測定した。その結果を表1に示す。なお、表1におけるESRの数値は3個の試料中、もっとも変化の大きかった試料についてのものである。
【0042】
【表1】

【0043】
これから分かるように、本発明(実施例1〜3)によれば、支持リングを半周分とした比較例1および支持リングを使用しない比較例2に比べて明らかに耐振動性の向上を図ることができる。また、ケースに素子固定用の溝を形成した比較例3と比較しても、ESRの変化倍率を約1/3程度に低減することができる。
【0044】
なお、本発明(実施例1〜3)によるESRの変化倍率と比較例4によるESRの変化倍率はほぼ同値であるが、これは支持リングをケースの底部内周面に設けるという簡単な構成によって、作業が煩雑かつ危険性が伴うAPPによる固定方法と同等の耐振動性が得られることを意味している。
【産業上の利用可能性】
【0045】
以上、図1に示す巻回型電気二重層コンデンサを例にして本発明を説明したが、本発明は、これ以外の蓄電装置である例えばアルミニウム電解コンデンサ,電池,レドックスキャパシタなどにも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【図1】本発明が適用された巻回型電気二重層コンデンサの内部構造を示す断面図。
【図2】支持リングの半周分を示す斜視図。
【図3】支持リングの変形例を模式的に示す平面図。
【図4】支持リングの別の変形例を模式的に示す平面図。
【符号の説明】
【0047】
10 コンデンサ素子(蓄電素子)
11a,11b リード箔
20 金属ケース
20a 内周面
20b 底面
21 封口板
22a,22b 外部引出端子
23 横絞り溝
30 支持リング
31 外周部
32 内周部
33 傾斜面

【特許請求の範囲】
【請求項1】
帯状に形成された電極体の1対をセパレータを介して渦巻き状に巻回してなる蓄電素子を含み、上記蓄電素子に所定の電解液を含浸させて有底筒状の金属ケース内に収納し、上記金属ケースの開口部を封口体にて封止するとともに、上記各電極体に取り付けられているリード部材を直接的もしくは外部引出端子を介して上記封口体から外部に引き出してなる蓄電装置において、
上記金属ケースの底部内周面に沿って上記蓄電素子の角部を支持する弾性材からなる支持リングが配置されていることを特徴とする蓄電装置。
【請求項2】
上記支持リングは、上記蓄電素子の外径よりも大径で上記金属ケースの内周面に沿って配置される外周部と、上記蓄電素子の外径よりも小径で上記金属ケースの底面に沿って配置される内周部とを含み、上記外周部の上端と上記内周部の内周端との間に上記蓄電素子の角部に接する傾斜面が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の蓄電装置。
【請求項3】
上記傾斜面が曲率を持たない平面もしくは所定曲率の凹湾曲面であることを特徴とする請求項1または2に記載の蓄電装置。
【請求項4】
上記支持リングは一部分に切欠き部を有するC字状であって、上記切欠き部が円周の1/3以内であることを特徴とする請求項1,2または3に記載の蓄電装置。
【請求項5】
上記傾斜面を含む角部支持体が上記支持リングの円周方向に所定の間隔をもって複数配置されていることを特徴とする請求項1,2または3に記載の蓄電装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−202888(P2006−202888A)
【公開日】平成18年8月3日(2006.8.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−11432(P2005−11432)
【出願日】平成17年1月19日(2005.1.19)
【出願人】(000103220)エルナー株式会社 (48)
【Fターム(参考)】