説明

薄切片作製装置、及び、薄切片の搬送方法

【課題】包埋ブロックを薄切して薄切片を作製しつつ、作製した薄切片を確実に受け取って効率良く搬送することが可能な薄切片作製装置、及び、薄切片の搬送方法を提供する。
【解決手段】薄切片作製装置1は、カッター3と、試料台2と、試料台2をカッター3に対して所定の送り方向Xに相対移動させて包埋ブロックBを薄切させる送り手段4と、カッター3の上方の受取位置Pから切れ刃3a後方の引渡位置Qまで搬送方向Yに沿って配設される搬送ベルト20及び搬送ベルト20を走行させる搬送駆動部を有する搬送手段5と、搬送手段5を制御する制御部とを備え、制御部は、送り手段4によって包埋ブロックBを薄切させるのに応じて搬送ベルト20を送り手段4による送り速度に応じた受取速度で走行させるとともに、包埋ブロックBの薄切が完了するのに応じて搬送ベルト20を受取速度よりも高速の搬送速度で走行させるように、搬送駆動部を駆動させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人体や実験動物等から取り出した生体試料を包埋した包埋ブロックを切削して薄切片を作製する薄切片作製装置及び薄切片の搬送方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、人体や実験動物等から取り出した生体試料を検査、観察する方法の1つとして、包埋剤によって生体試料を包埋した包埋ブロックから薄切片を作製した後に、染色処理を行い、生体試料を観察する方法が知られている。このような包埋ブロックから作製される薄切片は、細胞レベルの観察を可能とするため、3〜5μm程度の厚さで均一に、かつ、包埋されている生体試料を損傷しないように切削する必要がある。このため、従来このような包埋ブロックから薄切片を作製する作業は、鋭利な状態に保たれた薄刃のカッターを使用して、熟練な作業者による手作業に委ねられてきた。一方、例えば、前臨床試験においては、一試験当たり数百個の包埋ブロックを作製し、さらに一包埋ブロック当たり数枚の薄切片を作製する。このため、作業者は膨大な枚数の薄切片を作製する必要があるため、近年、薄切片を作製する一連の工程の自動化が望まれている。
【0003】
このような薄切片の作製を自動化する薄切片作製装置としては、包埋ブロックを薄切するカッターと、包埋ブロックを固定する試料台をカッターに向かって移動させて、カッターによって包埋ブロックを薄切させる送り機構と、薄切片が載置されて薄切片を搬送するベルトと、カッターの切れ刃の向きと略平行に切れ刃と近接してカッターの上方に設けられた方向切替部と、カッターの後方に設けられた後部ローラとを備え、ベルトが、カッターの後方からカッターに向って走行し、カッターと方向切替部との間に挿通されて、方向切替部によって上方に折り返されるとともに、後部ローラによってカッターの後方へ巻き戻される構成が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
そして、このような薄切片作製装置においては、ベルトの走行速度を送り機構による移動速度、すなわちカッターによって包埋ブロックを薄切し、薄切片が生成される速度と略等しい速度に設定する。このようにすることで、包埋ブロックから作製される薄切片は、ベルトに引っ張られて切断されてしまい、あるいは、ベルトとカッターの切れ刃との間でしわになってしまうことなく、順次ベルトに引き渡されるものとされている。
【特許文献1】特開2007−178287号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1による装置よれば、ベルトによる搬送速度は、包埋ブロックの移動速度と略等しくなるが、包埋ブロックを薄切する際には薄切する面を平滑として一定の厚さで薄切するために、包埋ブロックの移動速度を非常に遅い速度に設定する必要があった。このため、上記のような装置では、包埋ブロックの薄切から薄切片の搬送までの時間の短縮化が望まれていた。
【0006】
この発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、包埋ブロックを薄切して薄切片を作製しつつ、作製した薄切片を確実に受け取って効率良く搬送することが可能な薄切片作製装置、及び、薄切片の搬送方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、この発明は以下の手段を提案している。
本発明の薄切片作製装置は、包埋ブロックを薄切するカッターと、該包埋ブロックを固定する試料台と、該試料台を前記カッターに対して所定の送り方向に相対移動させて、該カッターによって包埋ブロックを薄切させる送り手段と、前記カッターの上方の受取位置から前記カッターの切れ刃後方の引渡位置まで搬送方向に沿って配設される搬送ベルト、及び、該搬送ベルトを前記搬送方向に沿って走行させる搬送駆動部を有し、包埋ブロックから薄切された薄切片を搬送する搬送手段と、該搬送手段を制御する制御部とを備え、該制御部は、前記送り手段によって前記カッターに対して前記試料台を相対移動させて包埋ブロックを薄切させるのに応じて、前記搬送ベルトを前記送り手段による送り速度に応じた受取速度で走行させるとともに、前記カッターと前記送り手段とによる包埋ブロックの薄切が完了するのに応じて、前記搬送ベルトを前記受取速度よりも高速の搬送速度で走行させるように、前記搬送駆動部を駆動させることを特徴としている。
【0008】
また、本発明は、包埋ブロックをカッターによって薄切することで作製した薄切片を、前記カッターの上方の受取位置から前記カッターの切れ刃後方の所定の引渡位置まで搬送方向に沿って配設された搬送ベルトを走行させることによって搬送する薄切片の搬送方法であって、前記カッターに対して包埋ブロックを所定の送り速度で相対移動させることで包埋ブロックを薄切させるのに応じて、前記搬送ベルトを前記送り速度に応じた受取速度で走行させるとともに、前記カッターによる包埋ブロックの薄切が完了するのに応じて、前記搬送ベルトを前記受取速度よりも高速の搬送速度で走行させることを特徴としている。
【0009】
この発明に係る薄切片作製装置及び薄切片の搬送方法によれば、包埋ブロックを試料台に固定し、送り手段によってカッターに対して所定の送り方向に試料台とともに包埋ブロックを相対移動させることで、カッターによって包埋ブロックを薄切し、薄切片を作製していくことができる。この際、制御部は、包埋ブロックを薄切するのに応じて、搬送駆動部を駆動させて、搬送ベルトを受取速度で走行させる。ここで、該受取速度を、送り手段による送り速度、すなわち包埋ブロックを薄切して薄切片が作製されていく速度に応じた速度とすることで、包埋ブロックから作製される薄切片を過度に引っ張ったり、圧縮したりすることなく、搬送ベルトによって受取位置で受け取ることができる。そして、制御部が、カッターによる包埋ブロックの薄切が完了するのに応じて、搬送駆動部を駆動させて、搬送ベルトの速度を受取速度よりも高速の搬送速度で走行させることで、速やかに引渡位置まで受け取った薄切片を搬送することができる。
【0010】
また、上記の薄切片作製装置において、前記制御部は、さらに、前記搬送速度で走行する前記搬送ベルトによって搬送される薄切片が前記引渡位置近傍に達するのに応じて、前記搬送ベルトを前記搬送速度よりも低速の引渡速度で走行させるように、前記搬送駆動部を駆動させることがより好ましい。
【0011】
また、上記の薄切片の搬送方法において、前記搬送速度で走行する前記搬送ベルトによって搬送する薄切片が前記引渡位置近傍に達するのに応じて、前記搬送ベルトを前記搬送速度よりも低速の引渡速度で走行させることがより好ましい。
【0012】
この発明に係る薄切片作製装置及び薄切片の搬送方法によれば、搬送ベルトによって搬送される薄切片が、受取位置から引渡位置に向かって搬送され、引渡位置近傍に達すると、制御部は、これに応じて搬送駆動部を駆動させて搬送ベルトを搬送速度よりも低速の引渡速度で走行させる。このため、薄切片を搬送ベルトによって搬送速度で速やかに引渡位置まで搬送しつつ、引渡位置においては搬送ベルトを引渡速度にすることによって確実に次工程に引き渡すことができる。
【0013】
また、上記の薄切片作製装置において、前記引渡位置で前記搬送ベルト上の薄切片を受け取る薄切片受取手段を備え、前記制御部は、さらに、前記搬送ベルトによって搬送される薄切片が前記薄切片受取手段に引き渡された後に、前記搬送駆動部の駆動を停止させることがより好ましい。
【0014】
また、上記の薄切片の搬送方法において、前記搬送ベルトによって搬送される薄切片が前記引渡位置で次工程に引き渡された後に、前記搬送ベルトの走行を停止させることがより好ましい。
【0015】
この発明に係る薄切片作製装置及び薄切片の搬送方法によれば、薄切片が、搬送ベルトによって引渡位置まで搬送され、薄切片受取手段によって受け取られ、次工程に引き渡された後に、制御部は、搬送駆動部の駆動を停止させて、搬送ベルトの走行を停止させる。このため、搬送駆動部を不必要に駆動させることがなく、省エネルギー化、各機構の耐久時間の向上を図ることができる。
【0016】
また、上記の薄切片作製装置において、前記制御部は、前記カッターと前記送り手段とにより包埋ブロックの前端から薄切を開始して包埋ブロックの前端から前記カッターの前記切れ刃までの最大距離が、該切れ刃から前記受取位置までの距離と等しくなるまでに、前記搬送ベルトが前記受取速度で走行を開始するように前記搬送駆動部を駆動させることがより好ましい。
【0017】
また、上記の薄切片の搬送方法において、前記制御部は、前記カッターにより包埋ブロックの前端から薄切を開始して包埋ブロックの前端から前記カッターの切れ刃までの最大距離が、該切れ刃から前記受取位置までの距離と等しくなるまでに、前記搬送ベルトの前記受取速度での走行を開始させることがより好ましい。
【0018】
この発明に係る薄切片作製装置及び薄切片の搬送方法によれば、制御部は、包埋ブロックの前端から薄切を開始して包埋ブロックの前端からカッターの切れ刃までの最大距離が、切れ刃から受取位置までの距離と等しくなるまでに、搬送駆動部を駆動させて受取速度となるようにして搬送ベルトの走行を開始させる。このため、包埋ブロックから作製される薄切片の先端が、受取位置に達するまでに予め搬送ベルトを受取速度で走行させておくことができ、薄切片が受取位置に達した際には、包埋ブロックを薄切しながら搬送ベルトによって確実に作製される薄切片を受け取ることができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明の薄切片作製装置によれば、制御部によって搬送ベルトを受取速度から搬送速度に切り替えるように搬送駆動部を駆動させることによって、包埋ブロックを薄切して薄切片を作製しつつ、作製した薄切片を確実に受け取って効率良く搬送することができる。
また、本発明の薄切片の搬送方法によれば、搬送ベルトを受取速度から搬送速度に切り換えて走行させることによって、包埋ブロックを薄切して作製された薄切片を確実に受け取って効率良く搬送することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
(第1の実施形態)
図1から図6は、この発明に係る第1の実施形態を示している。図1及び図2に示す薄切片作製装置1は、生体試料が包埋された包埋ブロックBから厚さ3〜5μm程度の極薄の薄切片を作製し、薄切片に含まれる生体試料を検査、観察する過程において、自動的に、包埋ブロックBから薄切片を薄切し、次工程に搬送する装置である。生体試料は、例えば、人体や実験動物等から取り出した臓器などの組織であり、医療分野、製薬分野、食品分野、生物分野などで適時選択されるものである。また、包埋ブロックBは、上記のような生体試料を包埋剤によって包埋、すなわち周囲を覆い固めたものである。ここで、包埋剤は、上記のように液状化と冷却固化が容易に可能とされるとともに、エタノールに浸漬することで溶解する材質であり、樹脂やパラフィンなどである。また、包埋ブロックBは、基本的に略長方形の切削面B2を有した直方体状に成形されており、本実施形態においても、直方体状に形成されているものとして説明するが、必ずしもこのような形状に限られるものではない。以下、薄切片作製装置1の構成について説明する。
【0021】
図1及び図2に示すように、薄切片作製装置1は、包埋ブロックBが載置されたカセットCを固定する試料台2と、包埋ブロックBを薄切するカッター3と、試料台2を移動させる送り手段である送り機構4と、カッター3によって包埋ブロックBから薄切された薄切片B1を所定の搬送方向に沿って搬送する搬送手段5と、搬送手段5で搬送された薄切片B1を受け取る薄切片受取手段である液槽6と、各構成を制御する制御部であるコントローラ7とを備える。試料台2には、包埋ブロックBが載置されたカセットCを挟持部材9a、9bにより二方向から挟み込んで固定するとともに、位置決めするブロック固定機構9が設けられている。
【0022】
送り機構4は、試料台2の下方に設けられ、試料台2に固定された包埋ブロックBを薄切する送り方向Xに移動させるXステージ4aと、包埋ブロックBを厚さ方向Zに位置調整するZステージ4bとを有する。そして、コントローラ7は、Xステージ4aによって一定の送り速度で、カッター3に向かって送り方向Xに試料台2を移動させることが可能であり、これによりカッター3によって送り速度で試料台2に固定された包埋ブロックBを薄切していくことが可能となっている。また、コントローラ7は、Zステージ4bによって一定量だけ厚さ方向Zに包埋ブロックBを移動させることが可能であり、これにより対応する厚さだけカッター3によって包埋ブロックBを薄切することが可能となっている。
【0023】
ここで、試料台2と隣接する位置には、包埋ブロックBのサイズを検出するブロックサイズ検出器10と、包埋ブロックBの位置を検出するブロック位置検出器11と、包埋ブロックBの種類を検出するブロック種類検出器12とが設けられている。ブロックサイズ検出器10は、例えば、試料台2の上方に配置される撮像手段と、該撮像手段からの画像を解析する解析手段とで構成されており、包埋ブロックBの切削面B2を撮像した画像データを解析することにより、包埋ブロックBの切削面B2の送り方向Xに沿う辺の長さと、これと直交する方向の辺の長さとを検出することが可能となっている。ブロック位置検出器11は、例えば、レーザ光により包埋ブロックBの位置を検出するもので、レーザ光を送り方向Xと直交する方向で、包埋ブロックBに向かって照射し、その反射光を検出することで、包埋ブロックBの送り方向Xの位置を検出することが可能となっている。なお、上記のブロックサイズ検出器10の撮像手段によって包埋ブロックBの位置を検出することも可能である。また、ブロック種類検出器12は、例えば、バーコード及び2次元バーコードリーダであり、カセットCに予め印刷されているバーコード及び2次元バーコードを読み取ることでカセットCに載置された包埋ブロックBの種類を検出することが可能となっている。
【0024】
また、カッター3は、カッター固定部15に固定されている。カッター固定部15は、カッター3の切れ刃3aを下向きとして所定の角度で傾斜するようにして支持する固定台16と、固定台16に対してカッター3を上側から挟み込む刃押さえ17とを有している。なお、図示しないがカッター固定部15の固定台16の両端は、装置の外郭をなすフレームに固定されている。また、刃押さえ17の上面17aは、液体貯留部18として、凹状に形成されていて、後述するように給排手段25によって液体として水Wを貯留することが可能となっている。ここで、本実施形態では、液体貯留部18の底面18bは、親水性となる表面処理が行われている。親水性の表面処理は、例えば、酸化チタン膜を形成するなどして行われている。なお、本実施形態では、カッター3は、切れ刃3aが送り機構4による包埋ブロックBの送り方向Xと直交するようにカッター固定部15に固定されており、すなわち、引き角を90度として説明する。
【0025】
また、薄切片受取手段である液槽6は、液体として例えば水Wが貯留されており、包埋ブロックBから作製され、搬送された薄切片B1を、浮遊させて、次工程のスライドガラスへの薄切片の引渡しを可能とさせるものである。また、搬送手段5は、搬送方向Yに沿ってカッター3の上方から液槽6の内部まで配設された無端状の搬送ベルト20と、搬送ベルト20を走行させるローラ群21と、ローラ群21の一つである中間ローラ21cを回転駆動させる搬送駆動部22とを有する。ここで、搬送ベルト20による搬送方向Yは、平面視してカッター3の切れ刃3aと直交するように設定されていて、引き角を90度とする本実施形態においては、平面視して送り方向Xと略一致している。搬送ベルト20は、本実施形態では、網目状に形成されていて、特に水Wをしみ込みやすくするため親水性の線材で形成されていることが好ましい。
【0026】
ローラ群21は、カッター3に近接する側で搬送ベルト20を第一折返し部20aとして折り返す方向切替ローラ21aと、カッター3の切れ刃3a後方となる液槽6内部に設けられて搬送ベルト20を第二折返し部20bとして折り返す後部ローラ21bと、方向切替ローラ21aと後部ローラ21bとの間で搬送ベルト20の角度を変更する中間ローラ21c、21dとを有する。方向切替ローラ21aは、少なくとも一部が液体貯留部18の内部に収容されて、カッター3の切れ刃3aの向きと略平行となるようにして、刃押さえ17に回転可能に支持されている。そして、図3に示すように、搬送ベルト20は、下方から方向切替ローラ21aに巻き回されて第一折返し部20aで上方へ折り返され、当該第一折返し部20aで上方に折り返した位置を受取位置Pとして、カッター3によって薄切された薄切片B1を受け取ることが可能となっている。また、上記のように方向切替ローラ21aが液体貯留部18の内部に収容されているから、液体貯留部18に水Wが貯留された状態では、第一折返し部20aを折り返された搬送ベルト20は、液体貯留部18の水Wで湿潤な状態とすることが可能となっている。
【0027】
ここで、図3に示すように、方向切替ローラ21aと、液体貯留部18の切れ刃3a側の壁面18aとの離間距離は、大きくなると、搬送ベルト20が包埋ブロックBから薄切されて受取位置Pまで延びてくる薄切片B1と離れてしまうので、できる限り小さくする方が好ましい。一方で、搬送ベルト20が液体貯留部18の壁面18aと接触してしまうと、搬送ベルト20の走行が阻害され、また、液体貯留部18の水Wが壁面18a側に行き渡らないことから、方向切替ローラ21aは壁面18aと僅かに離間していることが好ましい。特に、液体貯留部18に貯留される液体の種類と、搬送ベルト20の材質にもよるが、搬送ベルト20と壁面18aとを所定の間隙に設定することで、貯留される液体の液面W2が、壁面18aの上端18cから搬送ベルト20の薄切片B1が載置される表面20cに向かって、表面張力によって傾斜して形成されるようになり、該液面W2により薄切片B1を吸着して誘導することができるので、より好ましい。
【0028】
また、図1に示すように、後部ローラ21bは、液槽6の内部で、液槽6に回転可能に支持されていて、液槽6に貯留された液体である水Wに浸漬されている。このため、薄切片B1を載置しつつ液槽6に向かって走行する搬送ベルト20の上側は、後部ローラ21bで第二折返し部20bとして下方へ折り返されて、第一折返し部20aに向かって走行することが可能となっている。また、搬送ベルト20は、第二折返し部20b近傍で、液槽6内部の水Wに浸漬されることとなり、液面W3と接する位置を引渡位置Qとして薄切片B1を水Wに引き渡すことが可能となっている。
【0029】
また、コントローラ7は、搬送駆動部22を制御することにより、後述するように、搬送ベルト20を受取速度、搬送速度、及び、引渡速度の3種類の速度で走行させることが可能となっている。ここで、受取速度は、作製された薄切片B1を受取位置Pにおいて搬送ベルト20で受け取る際の搬送ベルト20の速度である。受取速度は、送り機構4のXステージ4aによる送り速度に応じて設定され、切れ刃3aの引き角が90度である本実施形態では、送り速度と略等しいか、若しくは、送り速度の50%程度までの範囲で送り速度よりも遅く設定されている。また、搬送速度は、搬送ベルト20で作製された薄切片B1を搬送する際の速度で、受取速度よりも高速に設定されている。また、引渡速度は、搬送ベルト20から液槽6内部の水Wに薄切片B1を引き渡す際の速度で、搬送速度よりも低速に設定されている。なお、搬送速度については、受取速度によって異なる速度としても良いが、送り速度に応じて変動する受取速度よりも十分に大きな速度として、一定の値に設定しても良く、引渡速度もこれに応じて一定の値として良い。
【0030】
また、本実施形態の薄切片作製装置1は、さらに、液体貯留部18に液体である水Wを給排する給排手段25と、包埋ブロックBから作製されていく薄切片B1に圧縮気体Gを吹き付ける送気手段26と、包埋ブロックBに加湿を行う加湿器27と、各機構の駆動時間等を計測するタイマー28とを備える。給排手段25は、水Wを供給する供給槽25aと、供給槽25aから水Wを汲み上げる供給ポンプ25bと、液体貯留部18に開口し供給ポンプ25bからの水Wを供給する供給管25cと、液体貯留部18に開口する排出管25dと、排出管25dを介して液体貯留部18の内部の水Wを吸い出して供給槽25aに排出する排出ポンプ25eとを有する。供給管25cは、搬送ベルト20の幅方向一方側に隣接して設けられていて、開口が液体貯留部18の内部において、切れ刃3a側となるように設けられている。また、排出管25dは、搬送ベルト20の幅方向他方側に隣接して設けられていて、同様に開口が液体貯留部18の内部において、切れ刃3a側となるように設けられている。また、供給ポンプ25b及び排出ポンプ25eによる流量や駆動時間は、コントローラ7により制御されている。
【0031】
また、送気手段26は、カッター3の切れ刃3a前方に対向配置された吹出しノズル26aと、吹出しノズル26aと送気管26bを介して接続されて圧縮気体Gとして圧縮空気を生成するコンプレッサー26cと、送気管26bに設けられて圧縮気体Gの流量を調整するバルブ26dとを有する。吹出しノズル26aは、切れ刃3aと略平行に配設された細長の開口を有し、薄切される包埋ブロックBの切削面B2上に、切れ刃3aに向かう方向で、かつ、切れ刃3aから離間した位置に圧縮気体Gを吹き付け可能に配置されている。また、バルブ26dの開閉量は、コントローラ7により制御されている。また、図3に示すように、吹出しノズル26aには、吹出しノズル26aの位置を調整する吹付位置調整手段29が設けられている。吹付位置調整手段29は、切れ刃3aの前後方向に向かって位置調整を行う距離調整部29aと、包埋ブロックBの切削面B2からの高さの調整を行う高さ調整部29bと、吹出しノズル26aから吹き出される圧縮気体Gの吹き出し角度φを調整する角度調整部29cとを有する。そして、吹付位置調整手段29による吹出しノズル26aの位置調整は、コントローラ7により制御されている。また、加湿器27は、ミスト状の気体を切削面B2に向かって吹き付け可能であり、図示しない移動機構によりコントローラ7の制御のもと、必要に応じて切削面B2の上方に配置させることが可能となっている。
【0032】
また、コントローラ7は、図示しないがメモリを有しており、当該メモリに各種包埋ブロックを薄切するための薄切条件がテーブルデータとして記憶されている。具体的には、薄切条件としては、包埋ブロックBに包埋されている生体試料の種類、及び、包埋ブロックBのサイズと対応させて、面合わせの回数、薄切する厚さ、薄切時における必要加湿量、薄切速度すなわち送り機構による送り方向Xへの送り速度、並びに、送気手段26において吹出しノズル26aの位置条件(切れ刃3aの前後方向に向かう距離、切削面B2からの高さ、圧縮気体Gを吹き出す角度など)、及び圧縮気体Gを吹き出す圧力、時間、開始及び終了のタイミングなどが挙げられる。そして、コントローラ7は、包埋ブロックの種類及びサイズに応じてテーブルデータから決定される薄切条件に従って、各構成を制御し、包埋ブロックBから薄切片B1の作製を行う。以下に、コントローラ7による制御の詳細、並びに、薄切片作製装置1による作用を説明する。
【0033】
図4から図6は、コントローラ7による制御に基づく、薄切片の作製、搬送のフローを示している。まず、準備工程S1として、図4に示すフローに基づいて、以下の動作を行う。試料台2に、包埋ブロックBが載置されたカセットCを載置し、ブロック固定機構9によって固定すると、ブロック種類検出器12は、カセットCに印刷されている情報からカセットCに載置されている包埋ブロックBの種類を検出し、種類データとしてコントローラ7に入力する(ステップS1−1)。次に、ブロックサイズ検出器10が、包埋ブロックBのサイズを検出し、サイズデータとしてコントローラ7に入力する(ステップS1−2)。次に、コントローラ7は、図示しないメモリに記憶されているテーブルを参照し(ステップS1−3)、入力された種類データ及びサイズデータと対応する薄切条件を決定する(ステップS1−4)。
【0034】
そして、次に面合わせを行う。すなわち、まず、コントローラ7は、加湿器27を駆動させて、予め決定した薄切条件の一つである必要加湿量に基づいて、包埋ブロックBの切削面B2の加湿を行う(ステップS1−5)。次に、コントローラ7は、面合わせとして包埋ブロックBを切削する(ステップS1−6)。すなわち、コントローラ7は、まず、予め決定した薄切条件である薄切する厚さに基づいて、送り機構4のZステージ4bを駆動して、包埋ブロックBを対応する分だけ厚さ方向Zに移動させる。次に、コントローラ7は、薄切条件の一つとして決定した薄切速度に基づいて、送り機構のXステージ4aを駆動して、包埋ブロックBをカッター3に向けて送り方向Xに移動させていく。これにより包埋ブロックBは、予め薄切条件として決定された厚さ、速度で、薄切されることとなる。なお、面合わせ時における包埋ブロックBの切削屑は、図示しないが下方の回収する手段に回収され廃棄される。次に、コントローラ7は、面合わせの回数が、薄切条件として予め決定された回数Nだけ実施されたかを判定する(ステップS1−7)。この場合は、まだ一回目であるので、回数Nに達していないと判定し、現在の回数1に1を加算し(ステップS1−8)、再度ステップS1−5からの面合わせを繰り返し実施する。そして、ステップS1−7において、所定回数Nだけ面合わせを実施したと判定された場合には、次の薄切片作製工程S2に移行して、図5に示すフローを実施する。
【0035】
すなわち、図5に示すように、まず、コントローラ7は、搬送手段5の搬送駆動部22を駆動して、搬送ベルト20を、受取速度で走行させる(ステップS2−1)。ここで、受取速度は、上記のように、送り機構4のXステージ4aによる送り方向Xへの送り速度と対応して決定されているものであり、例えば本実施形態では、コントローラ7は、決定された薄切条件の一つである薄切速度となる送り速度に基づいて、送り速度の60%となるように受取速度を決定し、搬送駆動部22を駆動させている。次に、コントローラ7は、加湿器27を駆動し、再び決定された必要加湿量で面合わせ完了後の包埋ブロックBの切削面B2の加湿を行う(ステップS2−2)。
【0036】
次に、包埋ブロックBの薄切を行う(ステップS2−3)。すなわち、コントローラ7は、まず、薄切条件の一つとして決定した薄切する厚さに基づいて、送り機構4のZステージ4bを駆動して、包埋ブロックBを対応する分だけ厚さ方向Zに移動させる。次に、薄切条件の一つとして決定した薄切速度に基づいて、送り機構のXステージ4aを駆動して、包埋ブロックBをカッター3に向けて送り方向Xに移動させていく。これにより包埋ブロックBは、予め薄切条件として決定された厚さ、薄切速度で、順次薄切されて薄切片B1が作製されていくこととなる。なお、本実施形態では、面合わせ及び、薄切片作製時における薄切する厚さ及び速度を区別することなく説明しているが、両工程における厚さ及び速度を異なるものとしても良い。
【0037】
また、ステップS2−3における包埋ブロックBの薄切に伴って、コントローラ7は、給排手段25の供給ポンプ25bを駆動して、刃押さえ17の液体貯留部18に、供給管25cから水Wを供給する(ステップS2−4)。なお、液体貯留部18への水Wの供給量は、液体貯留部18の容量に応じて予め設定されており、コントローラ7は、タイマー28による計測結果に基づいて対応する時間、予め設定されている流量で水Wを供給させることにより、図3に示すように、液体貯留部18の切れ刃3a側の壁面18aの上端18cに液面W2が設定されるようにする。ここで、本実施形態では、液体貯留部18の底面18bに親水性の表面処理が施されていることから、搬送ベルト20の一端側の供給管25cから供給された水Wを円滑に全体に亙って行き渡らせることができる。また、液体貯留部18の切れ刃3a側の壁面18aと、方向切替ローラ21aとの位置関係から、壁面18aの上端から搬送ベルト20の表面20cへは、表面張力によって貯留される水Wの液面W2が傾斜して形成されることとなる。そして、受取速度で走行している搬送ベルト20は、液槽6の水Wを通過して湿潤状態になるとともに、さらに、液体貯留部18の水Wを通過することで、最適な湿潤状態として、第一折返し部20aで折り返されて上側を受取位置Pから引渡位置Qへ走行することとなる。一方で、コントローラ7は、供給ポンプ25bを駆動して、所定時間、所定流量で水Wを供給し、液体貯留部18の切れ刃3a側の壁面18aの上端18cに液面W2が位置するように設定した後は、予め設定された上記流量より小さい流量で水Wを連続して供給していく。このため、搬送ベルト20の走行に伴って、液体貯留部18の水Wが搬送ベルト20に順次付着しても、常に液体貯留部18の水Wの量を一定に保つことができる。
【0038】
また、ステップS2−5として、コントローラ7は、包埋ブロックBを薄切していくに際して、包埋ブロックBの送り方向Xの位置を、ブロック位置検出器11によって検出して入力されるブロック位置データに基づいて監視する。そして、コントローラ7は、包埋ブロックBが、予め設定された吹付け位置に達したと判断した場合には、送気手段26により、薄切条件として予め決定されている圧力、時間、開始及び終了のタイミングで、吹出しノズル26aから圧縮気体Gを包埋ブロックBの切削面B2に吹き付けさせる(ステップS2−6)。なお、吹出しノズル26aの位置は、吹付位置調整手段29により予め決定されている薄切条件に基づいて調整されている。ここで、包埋ブロックBの吹付け位置とは、包埋ブロックBの前端B3が、カッター3の切れ刃3aに接触し、薄切が開始されてからの薄切して薄切片B1として作製された長さ、すなわち包埋ブロックBの前端B3からカッター3の切れ刃3aまでの距離Lbが、カッター3の切れ刃3aから受取位置Pまでの距離Lp以上となる位置であり、本実施では両者が略等しくなる位置として設定されている。
【0039】
そして、包埋ブロックBが薄切されて薄切片B1が次第に作製されていくに従い、薄切片B1は、作製される厚さ、包埋されている生体試料の性質によりカールしてしまうが、ステップS2−6で送気手段26により包埋ブロックBの切削面B2に圧縮気体Gを吹き付けることにより、圧縮気体Gは、包埋ブロックの切削面上に、切れ刃に向かう方向で、かつ、切れ刃から離間した位置で、一度吹き付けられた後に、切削面B2に沿って薄切片B1が作製されていく切れ刃3aに向かって吹き付けられることとなる。このため、作製されて切れ刃3aから延びる薄切片B1には、切れ刃3aが位置する根元部分から吹き込むこととなり、カールしてしまったとしても、カール状の薄切片B1の内部に吹き込むこととなる。このため、薄切片B1は、カールしてしまったとしても、圧縮気体Gにより、押し潰されてしまうことなく、カール状を呈する内部から押し広げられることとなり、確実に伸張させることができる。そして、送気手段26による送気を、包埋ブロックBが吹付け位置となった時に行うことで、伸張した薄切片B1の先端は、受取位置Pに達し、搬送ベルト20に接触することとなる。このため、薄切片B1は、包埋ブロックBから作製されつつ、作製された先端側が搬送ベルト20によって受け取られ、受取位置Pから引渡位置Qへ搬送方向Yに沿って搬送されることとなる。ここで、搬送ベルト20は、湿潤状態にあり、特に液体貯留部18の水Wに受取位置Pの直前に浸漬されることにより、最適な湿潤状態とすることができ、浸潤した水Wの吸着力により確実に薄切片B1を受け取ることができる。さらに、本実施形態では、液体貯留部18の水Wの液面W2が壁面18aの上端18cから搬送ベルト20の表面20cへ、表面張力によって傾斜して形成されているので、薄切片B1は、液面W2に吸着されて搬送ベルト20の表面20cに誘導されることとなり、より確実に搬送ベルト20によって薄切片B1を受け取ることができる。
【0040】
また、受け取られた薄切片B1の先端側は、搬送ベルト20によって順次搬送されるとともに、基端側では包埋ブロックBからさらに作製されることとなる。この際、搬送ベルト20の速度が、上記受取速度に設定されていることから、搬送される先端側が、基端側で作製されていく速度よりも速くなって引っ張られ、切れることを防ぐことができる。また、搬送される先端側が、基端側で作製されていく速度よりも遅すぎて、受取位置Pとカッター3の切れ刃3aとの間で作製された薄切片B1が圧縮されてしわになることを防ぐことができる。
【0041】
そして、ステップS2−7として、コントローラ7は、ブロック位置検出器11から入力されるブロック位置データを監視し、包埋ブロックBがカッター3の切れ刃3aを通過と判断した場合、すなわち包埋ブロックBの薄切が完了した場合には、送り機構4のXステージ4aの駆動を停止させ、ステップS2−8に移行する。ステップS2−8では、コントローラ7は、給排手段25の供給ポンプ25bの駆動を停止させて液体貯留部18への水Wの供給を停止させ、搬送工程S3に移行して、図6に示すフローを実施する。
【0042】
すなわち、図6に示すように、まず、コントローラ7は、給排手段25の排出ポンプ25eを駆動して、液体貯留部18の水Wを排出管25dから排出させる(ステップS3−1)。次に、コントローラ7は、搬送駆動部22を制御して、搬送ベルト20の走行する速度を、受取速度から搬送速度に切り替える(ステップS3−2)。このため、搬送ベルト20に受け取られた薄切片B1は、受取速度より高速の搬送速度で引渡位置Qまで速やかに搬送されることとなる。そして、コントローラ7は、ステップS2−1で搬送ベルト20の走行を開始してからの走行距離を監視し、薄切片B1が引渡位置Q近傍に到達するように予め設定された走行距離分だけ走行させた否かの判定を行い(ステップS3−3)、当該走行距離分だけ走行させた場合には、給排手段25による液体貯留部18からの水Wの排出を停止し(ステップS3−4)、さらに、搬送駆動部22を制御して搬送ベルト20の走行する速度を搬送速度から引渡速度に切り替える(ステップS3−5)。このため、搬送ベルト20上の薄切片B1は、引渡速度で引渡位置Qまで達し、引渡位置Qに位置する液槽6の水Wの液面W3に触れて、搬送ベルト20から離脱して水Wに引き渡されることとなる(ステップS3−6)。そして、コントローラ7は、搬送ベルト20の走行距離が、受取位置Pから引渡位置Qまでの搬送距離以上となったら、搬送駆動部22の駆動を停止し、搬送ベルト20の走行を停止させる。
【0043】
以上のように、本実施形態の薄切片作製装置1では、コントローラ7による制御のもと、薄切片B1を作製する際には、搬送ベルト20を受取速度で走行させるとともに、薄切片B1の作製が完了した後には、搬送ベルト20を受取速度より高速の搬送速度で走行させて薄切片B1の搬送を行っている。このため、搬送ベルト20によって作製された薄切片B1が引っ張られたり、圧縮されたりすることなく、受取位置Pで確実に受け取ることができるとともに、受け取った後には、搬送速度で効率良くに搬送することができる。ここで、搬送ベルト20で薄切片B1を受け取るのに際して、包埋ブロックBの前端B3からカッター3の切れ刃3aまでの距離Lbが、切れ刃3aから受取位置Pまでの距離Lpと等しくなるまでに、搬送ベルト20を受取速度で走行させることで、薄切片B1の先端が受取位置Pに達した際には、包埋ブロックBを薄切しながら搬送ベルト20によって確実に薄切片B1を受け取ることができる。さらに、この際に、送気手段26によって圧縮気体Gを吹き付けることで、作製されていく薄切片B1がカールしてしまったとしても、伸張させて搬送ベルト20に受け取らせることができる。
【0044】
また、コントローラ7は、搬送ベルト20の走行距離を監視し、薄切片B1が引渡位置Q近傍に達した後に搬送速度より低速の引渡速度に切り換えて、液槽6の水Wへの引き渡しを行っているので、薄切片B1を搬送ベルト20によって搬送速度で速やかに引渡位置Qまで搬送しつつ、引渡位置Qにおいては搬送ベルト20を引渡速度にすることによって、しわやねじれ等が生じてしまうおそれなく、確実に液槽6の水Wに引き渡すことができる。さらに、コントローラ7は、薄切片B1が、搬送ベルト20によって引渡位置Qまで搬送され、液槽6の水Wに引き渡された後に、搬送ベルト20の走行を停止させているので、搬送駆動部22を不必要に駆動させることがなく、省エネルギー化、各機構の耐久時間の向上を図ることができる。
【0045】
なお、本実施形態では、準備工程S1において、各種薄切条件はテーブルデータを参照して決定するものとしたが、全て手動入力によって決定しても良い。また、薄切片作製工程S2において、最初にステップS2−1として搬送ベルト20を受取速度で走行させるものとしたが、これに限るものではない。少なくとも薄切を開始して包埋ブロックBの前端B3から切れ刃3aまでの距離Lbが、すなわち薄切した長さが、切れ刃3aから受取位置Pまでの距離Lpと等しくなるまでに、搬送ベルト20を受取速度で走行させるようにすれば良い。また、ステップS2−4として給排手段25による液体貯留部18への水Wを貯留させるタイミングとしては、本実施形態に限られず、準備工程S1において実施しておいても良く、少なくとも作製されていく薄切片B1の先端が受取位置Pに達するまでに供給が完了していれば良い。また、給排手段25による水Wの供給量の管理としては、時間によるものに限られず、例えば液体貯留部18に液面センサを設けてこれにより管理するものとしても良い。また、給排手段25による液体貯留部18からの水Wの排出について、ステップS3−3で薄切片B1を引渡位置Q近傍に搬送するまで継続的に排出を行うものとしているが、排出が完了していれば、その時点で排出ポンプ25eの駆動を停止させても良い。
【0046】
また、送り機構4により、カッター3に対して包埋ブロックBを固定した試料台2を送り方向X及び厚さ方向Zに移動させて薄切するものとしたが、これに限るものではなく、カッター3を移動させるものとしても良い。なお、この場合には、搬送ベルト20も追従して移動可能とする必要がある。また、本実施形態では、カッター3の切れ刃3aは、引き角θが90度として、送り方向Xと直交するようにしてカッター固定部15に固定されているものとしたが、これに限るものではなく、図7に示すように一定の引き角θを有するものとしても良い。なお、図7においては、簡略化のため、送気手段26などを省略している。この場合、搬送手段5の搬送ベルト20による搬送方向Yは、切れ刃3aと平面視して直交する方向となるため、送り方向Xとは平面視して引き角θ分だけ異なる方向となる。また、受取速度としては、送り速度Vbの搬送方向Y成分、すなわち送り速度Vbに引き角θの正弦を乗じた値<Vb・sinθ>と略等しいか、若しくは<Vb・sinθ>の50%程度までの範囲で<Vb・sinθ>よりも遅く設定すれば良い。
【0047】
そして、引き角θとした場合、図5に示すステップS2−5における送気手段26による圧縮気体Gの吹き付けのタイミングとしては、包埋ブロックBの前端B3から切り刃3aまでの最大距離Lbmax、すなわち前端B3の角部B3aから、切れ刃3aまでの垂直距離と、切れ刃3aから受取位置Pまでの距離Lp(図3参照)との関係により決定される。なお、図7に示すように、最大距離Lbmaxは、包埋ブロックBを位置M1から位置M2まで移動させて、前端B3の角部B3aから薄切を開始してからの送り方向Xの薄切した長さLbxを用いれば、<Lbx・sinθ>で表わされる。そして、搬送ベルト20を受取速度で走行を開始するタイミングも同様で、最大距離Lbmaxが、切れ刃3aから受取位置Pまでの距離Lpとなるまでであれば良い。
【0048】
また、本実施形態では、搬送手段5の搬送ベルト20は、カッター3に対して一定の状態を保ったまま走行するものとしたが、これに限ることはない。図8に示すように、角度調整手段30を備えて、第一折返し部20aから上方の搬送ベルト20の角度を調整可能な構成としても良い。すなわち、図8に示す変形例では、上下に一つずつ中間ローラ21e、21fが設けられている。そして、角度調整手段30は、第一折返し部20aの上側で搬送ベルト20の裏面に当接する角度調整ローラ30aと、角度調整ローラ30aをスライドさせる第一スライド機構30bと、搬送ベルト20の張力を調整するためのテンション用ローラ30cと、テンション用ローラ30cをスライドさせる第二スライド機構30dとを備える。角度調整ローラ30aは、方向切替ローラ21aと中間ローラ21cとの間において搬送ベルト20の裏面側に配置されている。そして、第一スライド機構30bは、角度調整ローラ30aを搬送ベルト20に向かって進退させることで、搬送ベルト20において、第一折返し部20aの上側の角度を調整することが可能である。また、テンション用ローラ30cは、第二スライド機構30dによって搬送ベルト20に向かって進退させて、搬送ベルト20の張力を変化させることが可能である。そして、角度調整ローラ30aと連動して、テンション用ローラ30cもスライドさせることで、角度調整ローラ30aによる角度調整に係らず、搬送ベルト20の張力を一定に保つように調整することが可能となっている。
【0049】
このような変形例では、コントローラ7による制御のもと、包埋ブロックBの種類などに応じて角度調整手段30により搬送ベルト20を調整することができる。そして、例えば、薄切した際の薄切片B1のカールの曲がりがきつい場合などには搬送ベルト20を切れ刃3a側に接近するように角度調整を行うことで、作製された薄切片B1をより確実に受け取ることができる。
【0050】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図9から図11は、本発明の第2の実施形態を示したものである。なお、本実施形態では、給排手段25を備えていない点、及び、コントローラ7による制御フローが一部異なる点を除いて、第1の実施形態の薄切片作製装置1と同様の構成を有しているので、装置の全体図については省略し、図1を参照して説明するものとする。以下、第1の実施形態と薄切片の作製、搬送のフローで異なる点を中心として説明する。
【0051】
すなわち、図9に示すように、本実施形態の薄切片作製装置では、準備工程S10において、コントローラ7は、ステップS1−4で薄切条件を決定した後に、ステップS1−10として、搬送駆動部22を駆動させて搬送ベルト20を受取速度で走行させ、この後にステップS1−5〜S1−7の面合わせを実施する。ここで、予め搬送ベルト20を走行させ、さらにその速度を低速の受取速度としておくことによって、液槽6の水Wを通過した搬送ベルト20は、水Wを含ませて第一折返し部20aまで搬送されることとなる。そして、搬送ベルト20が第一折返し部20aで下方から上方へ折り返されることで、搬送ベルト20によって液槽6から搬送された水Wは、落下し、液体貯留部18に貯留されることとなる。このため、面合わせを実施しながら搬送ベルト20の走行を繰り返し行うことで、液体貯留部18を水Wで満たすことができ、搬送ベルト20は、自ら液体貯留部18に貯めた水Wによって好適に湿潤な状態を保つことができる。このため、薄切片作製工程S20においては、図10に示すように、液体貯留部18への水Wの供給を能動的に行わずとも、受取位置Pで作製された薄切片B1を搬送ベルト20で確実に受け取ることができる。
【0052】
また、図11に示すように、本実施形態では、ステップS3−6で薄切片B1が液槽6の水Wに引き渡された後に、ステップS3−10として、再び搬送ベルト20を搬送速度で所定時間走行させる。ここで、搬送ベルト20を受取速度よりも高速の搬送速度で走行させることで、搬送ベルト20が第二折返し部20bから下側で液槽6から液体貯留部18に搬送する水Wの量よりも、第一折返し部20aから上側で液体貯留部18から掻き出す水Wの量の方が多くなる。このため、搬送ベルト20の走行を所定時間継続することで、液体貯留部18の水Wを排出させることができる。そして、ステップS3−10の実施が完了したら、ステップS3−7に移行して、搬送ベルト20の走行を停止して動作を終了させる。なお、ステップS3−10での実施完了は、予め液体貯留部18の水Wを排出するのに十分な時間を設定しておき、コントローラ7がタイマー28による計測結果に基づいて、搬送ベルト20の走行を所定時間を行ったかどうか判定することによって判断される。
【0053】
以上のように、本実施形態では、搬送ベルト20の走行と速度調整により、液体貯留部18の水Wの量を調整することができ、給排手段25を省略することができるので、構成を簡略化し、低コスト化を図ることができる。なお、上記においては、液体貯留部18に水Wを供給する際には、搬送ベルト20を受取速度に、排出する際には搬送速度に設定するものとしたが、これに限るものではない。図9に示すステップS1−10においては、液槽6から搬送される水Wの量と液体貯留部18から掻き出される水Wの量との収支が均衡する速度よりも遅い速度であれば、液槽6から搬送される水Wの量の方が多くなり、液体貯留部18に水Wを供給することができる。また、図11に示すステップS3−10においては、上記均衡する速度よりも速い速度であれば、液体貯留部18から掻き出される水Wの量の方が多くなり、液体貯留部18から水Wを排出させることができる。また、受取速度及び搬送速度が上記条件に当てはまらない場合にも当然に、液体貯留部18に水Wを供給し、排出させる際の速度は、受取速度及び搬送速度と異なる速度に設定されることとなる。
【0054】
以上、本発明の実施形態について図面を参照して詳述したが、具体的な構成はこの実施形態に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等も含まれる。
【0055】
なお、上記各実施形態では、液体貯留部18を備えるものとしたが、これに限るものではなく、液体貯留部18を備えない構成としても良い。少なくとも、上記のように搬送ベルト20を受取速度から搬送速度に切り換えることで、作製した薄切片B1を確実に受け取り、効率良く搬送することができる。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置を示す全体図である。
【図2】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置を示すブロック図である。
【図3】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置のカッター近傍の詳細を示す断面図である。
【図4】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置を使用して薄切片を作製する際の準備工程の詳細を示すフロー図である。
【図5】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置を使用して薄切片を作製する際の薄切片作製工程の詳細を示すフロー図である。
【図6】この発明の第1の実施形態の薄切片作製装置を使用して薄切片を作製する際の搬送工程の詳細を示すフロー図である。
【図7】この発明の第1の実施形態の第1の変形例の薄切片作製装置のカッター近傍の詳細を示す平面図である。
【図8】この発明の第1の実施形態の第2の変形例の薄切片作製装置を示す側面図である。
【図9】この発明の第2の実施形態の薄切片作製装置を使用して薄切片を作製する際の準備工程の詳細を示すフロー図である。
【図10】この発明の第2の実施形態の薄切片作製装置を使用して薄切片を作製する際の薄切片作製工程の詳細を示すフロー図である。
【図11】この発明の第2の実施形態の薄切片作製装置を使用して薄切片を作製する際の搬送工程の詳細を示すフロー図である。
【符号の説明】
【0057】
1 薄切片作製装置
2 試料台
3 カッター
3a 切れ刃
4 送り機構(送り手段)
5 搬送手段
6 液槽(薄切片受取手段)
7 コントローラ(制御部)
20 搬送ベルト
22 搬送駆動部
P 受取位置
Q 引渡位置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
包埋ブロックを薄切するカッターと、
該包埋ブロックを固定する試料台と、
該試料台を前記カッターに対して所定の送り方向に相対移動させて、該カッターによって包埋ブロックを薄切させる送り手段と、
前記カッターの上方の受取位置から前記カッターの切れ刃後方の引渡位置まで搬送方向に沿って配設される搬送ベルト、及び、該搬送ベルトを前記搬送方向に沿って走行させる搬送駆動部を有し、包埋ブロックから薄切された薄切片を搬送する搬送手段と、
該搬送手段を制御する制御部とを備え、
該制御部は、前記送り手段によって前記カッターに対して前記試料台を相対移動させて包埋ブロックを薄切させるのに応じて、前記搬送ベルトを前記送り手段による送り速度に応じた受取速度で走行させるとともに、前記カッターと前記送り手段とによる包埋ブロックの薄切が完了するのに応じて、前記搬送ベルトを前記受取速度よりも高速の搬送速度で走行させるように、前記搬送駆動部を駆動させることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項2】
請求項1に記載の薄切片作製装置において、
前記制御部は、さらに、前記搬送速度で走行する前記搬送ベルトによって搬送される薄切片が前記引渡位置近傍に達するのに応じて、前記搬送ベルトを前記搬送速度よりも低速の引渡速度で走行させるように、前記搬送駆動部を駆動させることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項3】
請求項1また請求項2に記載の薄切片作製装置において、
前記引渡位置で前記搬送ベルト上の薄切片を受け取る薄切片受取手段を備え、
前記制御部は、さらに、前記搬送ベルトによって搬送される薄切片が前記薄切片受取手段に引き渡された後に、前記搬送駆動部の駆動を停止させることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれかに記載の薄切片作製装置において、
前記制御部は、前記カッターと前記送り手段とにより包埋ブロックの前端から薄切を開始して包埋ブロックの前端から前記カッターの前記切れ刃までの最大距離が、該切れ刃から前記受取位置までの距離と等しくなるまでに、前記搬送ベルトが前記受取速度で走行を開始するように前記搬送駆動部を駆動させることを特徴とする薄切片作製装置。
【請求項5】
包埋ブロックをカッターによって薄切することで作製した薄切片を、前記カッターの上方の受取位置から前記カッターの切れ刃後方の所定の引渡位置まで搬送方向に沿って配設された搬送ベルトを走行させることによって搬送する薄切片の搬送方法であって、
前記カッターに対して包埋ブロックを所定の送り速度で相対移動させることで包埋ブロックを薄切させるのに応じて、前記搬送ベルトを前記送り速度に応じた受取速度で走行させるとともに、前記カッターによる包埋ブロックの薄切が完了するのに応じて、前記搬送ベルトを前記受取速度よりも高速の搬送速度で走行させることを特徴とする薄切片の搬送方法。
【請求項6】
請求項5に記載の薄切片の搬送方法において、
前記搬送速度で走行する前記搬送ベルトによって搬送する薄切片が前記引渡位置近傍に達するのに応じて、前記搬送ベルトを前記搬送速度よりも低速の引渡速度で走行させることを特徴とする薄切片の搬送方法。
【請求項7】
請求項5または請求項6に記載の薄切片の搬送方法において、
前記搬送ベルトによって搬送される薄切片が前記引渡位置で次工程に引き渡された後に、前記搬送ベルトの走行を停止させることを特徴とする薄切片の搬送方法。
【請求項8】
請求項5から請求項7いずれかに記載の薄切片の搬送方法において、
前記制御部は、前記カッターにより包埋ブロックの前端から薄切を開始して包埋ブロックの前端から前記カッターの切れ刃までの最大距離が、該切れ刃から前記受取位置までの距離と等しくなるまでに、前記搬送ベルトの前記受取速度での走行を開始させることを特徴とする薄切片の搬送方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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