説明

薄切片試料作製装置

【課題】薄切片試料の作製時間をより一層短縮することができる薄切片試料作製装置を提供する。
【解決手段】試料ブロックの表層部分をカッターにより薄切りする薄切り動作を行い、撮像部に切削面を撮像させ、当該切削面における被検体の露出面積が予め設定された面積以上になるまで、被検体の露出面積に応じて試料ブロックの表層部分を薄切りする量を可変して前記薄切り動作を行う粗削りをし、被検体の露出面積が予め設定された面積以上になったとき、試料ブロックの表層部分を薄切りする量を予め設定された量にして薄切り動作を行う本削りをする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、理化学試料分析や生体試料等の顕微鏡観察などに利用される薄切片試料を作製する薄切片試料作製装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の装置としては、ミクロトームが知られている。ミクロトームは、パラフィン等で包埋された被検体をカッターによって薄切りすることにより、薄切片試料を作製する装置である。ミクロトームにより作製された薄切片試料は、スライドガラスに貼付けられ、組織観察用の薄切片試料として利用される。
【0003】
ミクロトームを用いた薄切片試料の作製作業は、従来、作業者によって手動で行われており、多大な手間と労力を要するものである。また、薄切片試料に求められる厚さは、非常に薄く(試料によって異なるが例えば3μm〜10μm)、高い均一性も求められる。このため、ミクロトームの使用に熟練した作業者であっても、数十個の試料ブロックを処理するのには、通常、数日かかる。また、同様の作業の繰り返しであるため、肉体的にも精神的にも作業者に過度の負担がかかる。
【0004】
そこで、近年、前記薄切片試料の作製作業を自動化して作業者の負担を軽減する装置が種々提案されている。特許文献1(特開2007−212276号公報)には、試料ブロックの表層部分をカッターにより予め決められた量ずつ粗削りし、当該粗削りを1回行う毎に切削面の良否を判断し、当該切削面を「良」と判断したとき、薄切片試料を作製する本削りを行うように構成された装置が開示されている。特許文献1の装置によれば、試料ブロック中の被検体を観察に好適な面積だけ露出させることを自動的に行うことができるので、作業者の負担を軽減することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−212276号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、薄切り動作を自動的に且つ連続的に行う薄切片試料作製装置においては、所望の枚数の薄切片試料を得るための時間(以下、薄切片試料の作製時間という)のより一層の短縮が求められている。この観点において、特許文献1の装置は未だ改良の余地がある。
【0007】
従って、本発明の目的は、前記課題を解決することにあって、薄切片試料の作製時間をより一層短縮することができる薄切片試料作製装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的を達成するために、本発明は以下のように構成する。
本発明によれば、被検体を包埋する試料ブロックの表層部分をカッターにより薄切りして薄切片試料を作製する薄切片試料作製装置であって、
前記カッターを備える試料ブロック切削部と、
前記試料ブロックを搬送する試料ブロック搬送部と、
前記試料ブロックの表面を撮像する撮像部と、
前記試料ブロック切削部、前記試料ブロック搬送部、及び前記撮像部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記試料ブロック切削部と前記試料ブロック搬送部とを相対的に移動させることにより前記薄切り動作を行い、前記撮像部に前記切削面を撮像させ、当該切削面における前記被検体の露出面積が予め設定された面積以上になるまで、前記被検体の露出面積に応じて前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を可変して前記薄切り動作を行う粗削りをし、前記被検体の露出面積が予め設定された面積以上になったとき、前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を予め設定された量にして前記薄切り動作を行う本削りをする、薄切片試料作製装置を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、前記被検体の露出面積に応じて前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を可変して前記粗削りをするようにしているので、薄切片試料の作製時間をより一層短縮することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態にかかる薄切片試料作製装置の概略構成を示すブロック図である。
【図2】粗削りの動作と本削りの動作の切り換えに関する流れを示すフローチャートである。
【図3】球形の被検体が包埋された試料ブロックを粗削りしたときの、追加粗削り量と試料ブロックの切削面における被検体の露出面積率とを関係を示すグラフである。
【図4】球形の被検体が包埋された試料ブロックを示す断面図である。
【図5A】図4の試料ブロックを500μm粗削りしたときの断面図である。
【図5B】図4の試料ブロックを500μm粗削りしたときの上面図である。
【図6A】図5Aの試料ブロックを更に500μm粗削りしたときの断面図である。
【図6B】図5Bの試料ブロックを更に500μm粗削りしたときの上面図である。
【図7A】図6Aの試料ブロックを更に500μm粗削りしたときの断面図である。
【図7B】図6Bの試料ブロックを更に500μm粗削りしたときの上面図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の発明者らは、前記従来技術の課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、以下の知見を得た。
【0012】
例えば、図4に示すような半径800μmの球形の被検体120aが包埋された試料ブロック120を500μmずつ粗削りした場合には、試料ブロック120は、図5A〜図7Bに示すように変化する。図5A,図6A,図7Aは、試料ブロック120を500μmずつ粗削りしたときの状態を示す断面図であり、図5B,図6B,図7Bは、それらの上面図である。
【0013】
図6A,図6Bに示す状態及び図7A,図7Bに示す状態では、既に被検体120aの半分以上が粗削りされている。これらの状態で本削りを開始した場合、当該本削りにより作製される薄切片試料における被検体120の面積は、次第に小さくなる。このため、被検体120aの面積が観察に好適な面積以上である薄切片試料を所望の枚数得ることができないおそれがある。
【0014】
試料ブロック120の包埋される被検体120aは、人間や動物の組織など再度採取することが困難なものが多い。このため、被検体120aを粗削りしすぎることは、絶対に避けなければならない。
【0015】
被検体120aを粗削りしすぎることを防ぐには、1回当たりの粗削り量を小さくすればよい。しかしながら、この場合、当然ながら、薄切片試料の作製時間が長くなる。また、包理材としてはパラフィンが通常使用されるが、その表面は若干の凹状になることがあり、その場合、粗削り時間が非常にかかることになる。そこで、本発明の発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、被検体120aの露出面積に応じて試料ブロック120の表層部分を薄切りする量を可変することで、薄切片試料の作製時間をより一層短縮でき且つ被検体120aを粗削りしすぎることも防止できることを知見した。これらの知見に基づき、本発明の発明者らは、以下の本発明に想到した。
【0016】
本発明の第1態様によれば、被検体を包埋する試料ブロックの表層部分をカッターにより薄切りして薄切片試料を作製する薄切片試料作製装置であって、
前記カッターを備える試料ブロック切削部と
前記試料ブロックを搬送する試料ブロック搬送部と、
前記試料ブロックの表面を撮像する撮像部と、
前記試料ブロック切削部、前記試料ブロック搬送部、及び前記撮像部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記試料ブロック切削部と前記試料ブロック搬送部とを相対的に移動させることにより前記薄切り動作を行い、前記撮像部に前記切削面を撮像させ、当該切削面における前記被検体の露出面積が予め設定された面積以上になるまで、前記被検体の露出面積に応じて前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を可変して前記薄切り動作を行う粗削りをし、前記被検体の露出面積が予め設定された面積以上になったとき、前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を予め設定された量にして前記薄切り動作を行う本削りをする、薄切片試料作製装置を提供する。
【0017】
本発明の第2態様によれば、前記制御部は、前記予め設定された面積に対する前記被検体の露出面積の割合が予め設定された割合よりも小さいとき、前記予め設定された面積に対する前記被検体の露出面積の割合が予め設定された割合よりも大きいときよりも、前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を大きくする、第1態様に記載の薄切片試料作製装置を提供する。
【0018】
本発明の第3態様によれば、前記制御部は、前記被検体の露出面積が前記予め設定された面積に近づくに従い、前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を小さくする、第1又は2態様に記載の薄切片試料作製装置を提供する。
【0019】
本発明の第4態様によれば、前記制御部は、前記被検体の露出面積の増加量が予め設定された増加量よりも小さくなったとき、前記粗削りを終了して前記本削りを開始する、第1〜3態様のいずれか1つに記載の薄切片試料作製装置を提供する。
【0020】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。
【0021】
《実施形態》
本発明の実施形態にかかる薄切片試料作製装置の概略構成について説明する。図1は、本発明の実施形態にかかる薄切片試料作製装置の概略構成を示すブロック図である。
【0022】
図1において、薄切片試料作製装置100は、試料ブロック20の表層部分をカッター41により薄切りして薄切片試料24を作製する薄切り動作を自動的に且つ連続的に行う装置である。試料ブロック20は、被検体20aをパラフィン等の包埋材の中に埋め込んだものである。被検体20aとしては、例えば、人間や動物の組織などの生体試料が挙げられる。
【0023】
薄切片試料作製装置100は、複数の試料ブロック20を収納する試料ブロック収納部30を備えている。試料ブロック収納部30に収納された複数の試料ブロック20から選択された1つの試料ブロックは、試料ブロック搬送部1によりカッター41を備える試料ブロック切削部4へと搬送される。
【0024】
試料ブロック搬送部1は、試料ブロック収納部30から次に薄切り処理される試料ブロック20を取り出して位置A上に搬送したのち、当該試料ブロック20を位置A〜Cの間で往復搬送可能に構成されている。なお、位置A〜Cは、横方向(±X軸方向)に直線的に整列している。また、試料ブロック搬送部1は、試料ブロック20の表層部分がカッター41により薄切り可能な高さに位置するように、試料ブロック20の高さ位置(±Z軸方向)を調整可能に構成されている。
【0025】
位置Aの上方には、試料ブロック20の高さ位置を検出する高さ検出部2が配置されている。位置Bの上方には、カッター41により薄切りされて露出した試料ブロック20を撮像する撮像部3が配置されている。撮像部3は、例えば、白色光源や単色LED光源のような試料ブロック表面を照射する部分と、CCDカメラのような画像データを得るための撮影部分とを有するように構成されている。位置Cの上方には、カッター41を保持して試料ブロック20の表層部分を薄切可能な試料ブロック切削部4が配置されている。
【0026】
また、位置Cの上方には、試料ブロック20の表層部分がカッター41によって薄切りされることにより得られた薄切片試料24を保持するキャリアテープ21が供給される。キャリアテープ21は、供給リール5から繰り出され、ガイドローラ81,82に案内されて位置Cの上方に供給される。位置Cの上方で薄切片試料24を保持したキャリアテープ21は、ガイドローラ83,84に案内されて巻取リール6に巻き取られる。
【0027】
供給リール5には、繰り出しモータ51が設けられている。繰り出しモータ51が駆動されることにより、供給リール5からキャリアテープ21が繰り出される。また、巻取リール6には、巻取モータ61が設けられている。巻取モータ61が常に駆動されることにより、巻取リール6には常に一定のトルクがかけられている。これにより、繰り出しモータ51の駆動により供給リール5から繰り出されたキャリアテープ21は、当該繰り出しと同時に巻取リール6に巻き取られる。
【0028】
キャリアテープ21に保持された薄切片試料24は、ガイドローラ83,84の間に配置された薄切片貼付部7によりスライドガラス22に貼り付けられる。薄切片貼付部7は、キャリアテープ21の走行経路の上流側(−X軸方向側)に配置された一対のガイドローラ71と、キャリアテープ21の走行経路の下流側(+X軸方向側)に配置された一対のガイドローラ72とを備えている。薄切片貼付部7は、一対のガイドローラ71,71の間と一対のガイドローラ72,72の間でキャリアテープ21を挟んで下方に撓ませ、当該キャリアテープ21に保持された薄切片試料24を、水などの接着液23が供給されたスライドガラス22に接触させる。これにより、薄切片試料24がスライドガラス22に貼り付けられる。以下、薄切片試料24が貼り付けられたスライドガラスを、薄切片付きスライドガラスという。
【0029】
薄切片付きスライドガラス22は、スライドガラス搬送部8により伸展部9へ搬送される。スライドガラス搬送部8は、薄切片付きスライドガラス22を伸展部9へ搬送するとともに、スライドガラス収納部(図示せず)から薄切片試料24を未貼付のスライドガラス22を取り出して薄切片貼付部7の下方へ搬送する。伸展部9は、加温板(図示せず)を備え、薄切片試料24の皺の伸展を行うとともに、スライドガラス22上の水分を完全に蒸発させて薄切片試料24をスライドガラス22に密着固定する。
【0030】
試料ブロック搬送部1などの各構成要素は、制御部10により動作を制御される。制御部10は、入力部(図示せず)に入力された情報に基づいて、各構成要素の動作を制御する。入力部は、例えば、薄切片付きスライドガラスの製作枚数や1枚のスライドガラス当たりの薄切片試料の貼り付け数などを入力可能に構成されている。
【0031】
次に、薄切片試料24の作製動作について説明する。この薄切片試料24の作製動作は、制御部10の制御の下に行われる。なお、通常、試料ブロック20が試料ブロック収納部30に収納された状態では、被検体20aは外部に露出しない(あるいは僅かに露出する)ように包埋材の中に埋め込まれている。このため、本実施形態においては、被検体20aの露出面積が予め設定された面積以上になるまで試料ブロック20の表層部分を粗削りし、その後、3〜10μm程度の薄切片試料24を作製する本削りを行うようにしている。まず、粗削りの基本的な動作について説明する。
【0032】
まず、試料ブロック搬送部1が試料ブロック収納部30から次に薄切り処理される試料ブロック20を取り出し、位置Aに搬送する。
次いで、高さ検出部2が試料ブロック20の高さ位置を検出する。
次いで、試料ブロック搬送部1が、高さ検出部2の検出情報に基づいて、試料ブロック20の表層部分がカッター41の延在方向(±Y軸方向)及び試料ブロック20の搬送方向(±X軸方向)に対して平行になるように平面出しするとともに試料ブロック20の表層部分がカッター41に粗削りされるように、試料ブロック20の高さ位置を調整する。
【0033】
次いで、試料ブロック搬送部1が試料ブロック20を位置Bに搬送する。
次いで、撮像部3が試料ブロック20の表面を撮像する。これにより、試料ブロック20中の被検体20aの最大投影領域(最大投影面積)を認識する。
次いで、試料ブロック搬送部1が試料ブロック20を位置Cに搬送する。これにより、試料ブロック20の表層部分がカッター41により粗削りされる。
【0034】
次いで、試料ブロック搬送部1が試料ブロック20を位置Bに搬送する。
次いで、撮像部3が、カッター41により薄切りされて露出した試料ブロック20の切削面を撮像する。
【0035】
試料ブロック20の切削面における被検体20aの露出面積が予め設定された面積(例えば前記最大投影領域の80%)未満であるとき、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20の表層部分がカッター41に粗削りされるように試料ブロック20の高さ位置を調整する。なお、このときの高さ位置の調整については後で詳しく説明する。その後、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を位置Cに搬送する。これにより、試料ブロック20の表層部分がカッター41により再度粗削りされる。その後、試料ブロック搬送部1が試料ブロック20を位置Bに搬送し、撮像部3が再度試料ブロック20の切削面を撮像する。この試料ブロック20の粗削り及び切削面の撮像動作は、試料ブロック20の切削面における被検体20aの露出面積が予め設定された面積以上になるまで繰り返される。
【0036】
試料ブロック20の切削面における被検体20aの露出面積が予め設定された面積以上になると、粗削りの動作を終了し、本削りの動作に移行する。なお、粗削りと本削りとで異なるカッター41又は異なるカッター41の刃先41aの位置を使用する場合、あるいは粗削りの厚さと本削りの厚さが異なる場合は、作製される切片の厚さ精度を良くするため、本削りに使用されるカッター41又はカッター41の刃先41aの位置で、薄切片試料24の作製前(本削り前)に本削り厚さで数回薄切りのみを行う、いわゆる捨て切り動作を行うのが好ましい。
【0037】
本削り動作においては、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20の表層部分がカッター41に薄切り(3μm〜10μm程度)されるように試料ブロック20の高さ位置を調整する。その後、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を位置Cへ搬送する。これにより、試料ブロック20の表層部分がカッター41により薄切りされ、薄切片試料24が作製される。その後、試料ブロック搬送部1が、試料ブロック20を位置Cから位置Bなどへ退避させ、試料ブロック20の表層部分がカッター41に薄切りされるように試料ブロック20の高さ位置を調整する。この試料ブロック20の高さ位置の調整、薄切り、及び退避の動作が、前記入力部(図示せず)に入力された情報に基づく任意の回数、自動的且つ連続的に繰り返され、任意の枚数の薄切片試料24が作製される。
【0038】
前記本削りの動作により作製された薄切片試料24は、キャリアテープ21に貼り付けられる。なお、このとき、薄切片試料24がキャリアテープ21により確実に貼り付くように、キャリアテープ21の表面に加湿、冷却及び帯電などの処理をしておくことが好ましい。キャリアテープ21に貼り付けられた薄切片試料24は、繰り出しモータ51及び巻取モータ61の駆動により薄切片貼付部7に搬送され、薄切片貼付部7によりスライドガラス22に貼り付けられる。その後、薄切片付きスライドガラス22は、スライドガラス搬送部8により伸展部9へ搬送される。その後、伸展部9が、薄切片試料24の皺を伸展するとともに、薄切片試料24をスライドガラス22に密着固定させる。
【0039】
図2は、粗削りの動作と本削りの動作の切り換えに関する流れを示すフローチャートである。これらの動作は、制御部10の制御の下に行われる。なお、前記と重複する部分については省略しながら説明する。
【0040】
ステップS1では、試料ブロック20の表層部分をカッター41により粗削りする。
【0041】
ステップS2では、カッター41により薄切りされて露出した試料ブロック20の切削面を撮像部3により撮像する。
【0042】
ステップS3では、試料ブロック20の切削面における被検体20aの露出面積が予め設定された面積(例えば前記最大投影領域の80%)以上であるか否か判定する。被検体20aの露出面積が予め設定された面積未満であるとき、ステップS4に移行し、被検体20aの露出面積が予め設定された面積以上であるとき、ステップS5に移行する。
【0043】
ステップS4では、被検体20aの露出面積に応じて薄切り量を可変するように、試料ブロック20の高さ位置を調整する。ステップS4が終了すると、ステップS1に戻る。
【0044】
ステップS5では、試料ブロック20の表層部分をカッター41により本削りする。
【0045】
次に、被検体20aの露出面積に応じて薄切り量を可変する際の具体例について述べる。図3は、半径800μmの球形の被検体20aが包埋された試料ブロック20(図4に示す試料ブロック120と同様)を粗削りしたときの、追加粗削り量と試料ブロック20の切削面における被検体20aの露出面積率との関係を示すグラフである。ここで、追加粗削り量とは、被検体20aの露出面積率を100%にするのに必要な粗削り量をいう。また、粗削り量とは、粗削り動作時における薄切り量をいう。被検体20aの露出面積率は、被検体20aの最大投影領域に対する被検体20aの露出面積の割合(%)を示している。下記表1は、被検体20aの露出面積率に対する試料ブロック20の表層部分の追加粗削り量の設定例を示している。
【0046】
【表1】

【0047】
制御部10は、試料ブロック20の表層部分の追加粗削り量を被検体20aの露出面積率に応じて可変するように試料ブロック搬送部1を制御し、薄切片試料24を作製する薄切り動作を行う。例えば、被検体20aの露出面積率が25%のとき、制御部10は、試料ブロック20の表層部分がカッター41により669μmの追加粗削り量で薄切りされるように試料ブロック搬送部1に試料ブロック20の高さ位置を調整させる。また、例えば、被検体20aの露出面積率が90%のとき、制御部10は、試料ブロック20の表層部分がカッター41により252μmの追加粗削り量で薄切りされるように試料ブロック搬送部1に試料ブロック20の高さ位置を調整させる。これにより、1回の粗削り動作で被検体20aの露出面積率を100%近くにすることができ、薄切片試料24の作製時間を大幅に短縮することができる。
【0048】
以上、本実施形態によれば、被検体20aの露出面積率に応じて試料ブロック20の表層部分を薄切りする量を可変して前記粗削りをするようにしているので、薄切片試料24の作製時間をより一層短縮することができる。
【0049】
なお、被検体20aの露出面積(率)が小さいときは、粗削り量を大きくしても被検体20aを切削しすぎる可能性は低い。一方、被検体20aの露出面積(率)が大きいときは、粗削り量が大きいままであると、被検体20aを切削しすぎる可能性が高い。このため、被検体20aの露出面積(率)が予め設定された値(例えば50%)よりも小さいときは、被検体20aの露出面積率が予め設定された値よりも大きいときよりも、試料ブロック20の表層部分を薄切りする量を大きくするようにすることが好ましい。これにより、被検体20aを粗削りしすぎることを防止しつつ、薄切片試料24の作製時間をより一層短縮することができる。
【0050】
また、被検体20aの露出面積が予め設定された面積に近づくに従い、試料ブロック20の表層部分を薄切りする量を小さくすることが好ましい。この場合であっても、被検体20aを粗削りしすぎることを防止しつつ、薄切片試料24の作製時間をより一層短縮することができる。
【0051】
なお、前記実施態様では、1回の粗削り動作毎に薄切り厚みを可変し、1回の粗削り動作毎に撮像部3で被検体2aの露出面積を確認するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、1回の粗削り動作の薄切り厚みは一定にし、被検体20aの露出面積率に応じて、連続した薄切りを行い、その連続した薄切り回数を可変させることで薄切り量を可変させるようにしても良い。なお、連続した薄切りとは、薄切り動作と薄切り動作との間に撮像部3での露出面積の確認を行わないことをいう。例えば、被検体20aの露出面積率に応じた追加粗削り量が50μmである場合、1回の粗削り動作当たり10μmの薄切り厚みで5回の粗削り動作を連続して行い(その間の撮像部3での露出面積確認は省略)、5回の粗削り動作の終了後、撮像部3で被検体2aの露出面積を確認する。このように、被検体20aの露出面積率に応じて、次に撮像部3で試料ブロック20を撮像するまでの粗削り動作の回数を可変するようにして、撮像部3での被検体20aの露出面積の検出から次の被検体20aの露出面積の検出までの薄切り量を可変してもよい。この場合、粗削り動作の回数自体は、設定された追加粗削り量を1回の粗削り動作で処理する前記の場合と比べて増加するが、撮像部3の撮像動作、すなわち被検体20aの露出面積の確認(検出)回数は、従来までの1回の粗切り動作毎に撮像する場合と比べて、大幅に減少する。その結果、薄切片試料の作製時間を従来より大幅に短縮することができる。また、この場合、カッター41の高さ位置の調整を一定ピッチにすることができるので、当該調整を容易にすることができるという利点がある。
【0052】
なお、前記の場合、被検体20aの露出面積(率)が小さいときは、連続薄切り回数を多くしても被検体20aを切削しすぎる可能性は低い。一方、被検体20aの露出面積(率)が大きいときは、連続薄切り回数が多いままであると、被検体20aを切削しすぎる可能性が高い。このため、被検体20aの露出面積(率)が小さいときは、被検体20aの露出面積率が大きいときよりも、試料ブロック20の表層部分を連続した薄切りする回数を多くするようにすることが好ましい。これにより、被検体20aを粗削りしすぎることを防止しつつ、薄切片試料24の作製時間をより一層短縮することができる。
【0053】
また、被検体20aの露出面積が予め設定された面積に近づくに従い、試料ブロック20の表層部分を薄切りする量を小さくすることが好ましい。すなわち、連続した薄切り回数を少なくすることが好ましい。これにより、被検体20aを粗削りしすぎることを防止しつつ、薄切片試料24の作製時間をより一層短縮することができる。
【0054】
なお、薄切片試料作製装置では被検体20aとして生体試料を扱うことが多いため、1回の粗削り動作の薄切り厚みを厚くすると、試料ブロック中の被検体20aにダメージを与える恐れがある。したがって、前記薄切り厚みはほぼ一定にし、連続した薄切り回数を可変させることで、薄切り量を可変させることが好ましい。なお、パラフィンを用いた生体試料ブロックの場合、1回の粗削り動作当たりの薄切り厚みは5〜30μm程度に設定することが好ましい。
【0055】
なお、前記実施形態では、被検体20aが球形であるとしたが、実際の被検体20aは種々の形状のものがある。この場合、被検体20aの露出面積に応じた粗削り量は、経験則に基づき適宜設定すればよい。
【0056】
また、被検体20aの形状や埋込状態によっては、被検体20aの露出面積が予め設定された面積(例えば最大投影領域の80%)以上にならないことが有り得る。この場合、被検体20aを粗削りしすぎることになる。一方、被検体20aの露出面積の増加量が小さくなることは、被検体20aの観察に好適な面積が露出するポイントが近いことを意味すると考えられる。例えば、図3に示す試料ブロック20の場合、被検体20aの露出面積率が0〜90%のときの増加率に比べて、被検体20aの露出面積率が90〜100%のときの増加率は小さくなっている。このため、被検体20aの露出面積の増加量が予め設定された増加量よりも小さくなったとき、粗削りを終了して本削りを開始することが好ましい。これにより、被検体20aを粗削りしすぎることをより一層防止することができる。
【0057】
また、前記実施形態では、試料ブロック搬送部1により試料ブロック20を試料ブロック切削部4へ搬送することにより、薄切片試料24を作製するようにしたが、本発明はこれに限定されない。例えば、試料ブロック切削部4のカッター41を試料ブロック搬送部1に保持された試料ブロック20へ移動させて、薄切片試料24を作製するようにしてもよい。すなわち、試料ブロック切削部4と試料ブロック搬送部1とを相対的に移動させることにより、薄切片試料24を作製するようにしてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0058】
本発明にかかる薄切片試料作製装置は、薄切片試料の作製時間をより一層短縮することができるので、理化学試料分析や生体試料等の顕微鏡観察などに利用される薄切片試料作製装置として有用である。
【符号の説明】
【0059】
1 試料ブロック搬送部
2 高さ検出部
3 撮像部
4 試料ブロック切削部
5 供給リール
6 巻取リール
7 薄切片貼付部
8 スライドガラス搬送部
9 伸展部
10 制御部
20 試料ブロック
21 キャリアテープ
22 スライドガラス
23 接着液
24 薄切片試料
30 試料ブロック収納部
41 カッター
51 繰り出しモータ
61 巻取モータ
71,72,81〜84 ガイドローラ
100 薄切片試料作製装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検体を包埋する試料ブロックの表層部分をカッターにより薄切りして薄切片試料を作製する薄切片試料作製装置であって、
前記カッターを備える試料ブロック切削部と、
前記試料ブロックを搬送する試料ブロック搬送部と、
前記試料ブロックの表面を撮像する撮像部と、
前記試料ブロック切削部、前記試料ブロック搬送部、及び前記撮像部を制御する制御部と、
を備え、
前記制御部は、前記試料ブロック切削部と前記試料ブロック搬送部とを相対的に移動させることにより前記薄切り動作を行い、前記撮像部に前記切削面を撮像させ、当該切削面における前記被検体の露出面積が予め設定された面積以上になるまで、前記被検体の露出面積に応じて前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を可変して前記薄切り動作を行う粗削りをし、前記被検体の露出面積が予め設定された面積以上になったとき、前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を予め設定された量にして前記薄切り動作を行う本削りをする、薄切片試料作製装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記予め設定された面積に対する前記被検体の露出面積の割合が予め設定された割合よりも小さいとき、前記予め設定された面積に対する前記被検体の露出面積の割合が予め設定された割合よりも大きいときよりも、前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を大きくする、請求項1に記載の薄切片試料作製装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記被検体の露出面積が前記予め設定された面積に近づくに従い、前記試料ブロックの表層部分を薄切りする量を小さくする、請求項1又は2に記載の薄切片試料作製装置。
【請求項4】
前記制御部は、前記被検体の露出面積の増加量が予め設定された増加量よりも小さくなったとき、前記粗削りを終了して前記本削りを開始する、請求項1〜3のいずれか1つに記載の薄切片試料作製装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5A】
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【図5B】
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【図6A】
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【図6B】
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【図7A】
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【図7B】
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