薄型両面スピーカ
【課題】両面から出力される高帯域の音をともに所望方向に傾けることができる薄型両面スピーカを提供する。
【解決手段】2枚の永久磁石板間に配置された振動板上に、永久磁石板のニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターン12が形成され、互いに反対方向へ放音する2つの放音面を有する薄型両面スピーカを構成している。上記振動板は、2以上の振動エリア15a,15bに区分され、各振動エリア15a,15bごとに直線パターン12を連結した配線パターン11a,11bが形成されている。このため、各配線パターン11a,11bに対し、遅延時間の異なる駆動信号を供給すれば、2つの放音面の指向方向を正面方向に対し同じ方向へ傾けることができる。
【解決手段】2枚の永久磁石板間に配置された振動板上に、永久磁石板のニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターン12が形成され、互いに反対方向へ放音する2つの放音面を有する薄型両面スピーカを構成している。上記振動板は、2以上の振動エリア15a,15bに区分され、各振動エリア15a,15bごとに直線パターン12を連結した配線パターン11a,11bが形成されている。このため、各配線パターン11a,11bに対し、遅延時間の異なる駆動信号を供給すれば、2つの放音面の指向方向を正面方向に対し同じ方向へ傾けることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型両面スピーカに係り、更に詳しくは、平板状の薄型筐体の両面から放音することができる薄型両面スピーカの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の永久磁石板間のギャップ(隙間)に振動板が配置され、当該振動板に形成された配線パターンに駆動電流を供給することにより、上記ギャップ内で振動板を振動させ、永久磁石板にそれぞれ形成された放音孔を介して、両面から放音することができる薄型両面スピーカが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この種の薄型両面スピーカは、正反対の方向に向けられた2つの放音面を有し、互いに逆位相となる音波を放出することができる。また、各放音面からは、直進性の高い平面波が放出され、放音面の正面方向への指向性が高い。このため、細長いエリア内において一定の音圧を確保することが求められる用途、例えば、駅のプラットホームに設置されている駅構内放送用のスピーカに好適であると考えられる。
【0004】
図15は、従来の薄型両面スピーカ200の設置例を示した図である。図中では、放音面の正面がプラットホームの長手方向に一致するように、薄型両面スピーカ200がプラットホームの天井に設置されている。薄型両面スピーカ200は、2つの放音面が互いに反対方向を向いていることから、薄型両面スピーカ200を挟んでプラットホーム上の両方向に音場を形成することができる。また、平面波の直進性により、プラットホーム上の比較的遠い位置でも一定の音圧を確保することができる。その一方で、薄型両面スピーカの斜め下方付近では音を聞き取りにくいという問題があり、特に、低音に比べて高音はより指向性が高いため、高音が聞き取りにくいという問題があった。
【0005】
このような場合、両面タイプではない一般的なスピーカであれば、放音面を水平方向よりも下側に向けて設置することにより、遠方における音圧及び音質と、斜め下方向の音圧及び音質とをバランスさせることができる。ところが、薄型両面スピーカの場合、一方の放音面を下側に向けると他方の放音面が上側を向くことになるため、両側に音場を形成することができるという薄型両面スピーカ200のメリットを生かすことができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−331596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、薄型両面スピーカの両面から出力される音の帯域のうち高帯域の音を、ともに所望の方向に届くよう制御することが可能な薄型両面スピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の本発明による薄型両面スピーカは、互いに平行となる帯状のN極及びS極が交互に現れる多極着磁パターンが形成され、異極間のニュートラルゾーンに多数の放音孔が形成された2枚の永久磁石板と、同極を対向させた2枚の上記永久磁石板間に配置され、上記ニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターンが形成された振動板とを備え、上記振動板が、それぞれが隣接する2以上の直線パターンからなる2以上の振動エリアに区分され、上記振動エリアごとに上記直線パターンが連結され、遅延時間を異ならせた同一の駆動信号が供給可能な2以上の配線パターンが形成されている。
【0009】
ニュートラルゾーンは、永久磁石板に垂直な磁界が弱く、永久磁石板に平行な磁界が強い。このため、2枚の永久磁石板間に振動板を配置し、ニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターンを振動板上に形成すれば、直線パターンに駆動信号を供給することにより振動板を厚さ方向に振動させ、その振動音を永久磁石板の放音孔から放出することができる。
【0010】
このような薄型両面スピーカにおいて、振動板を互いに隣接する2以上の振動エリアに区分し、各振動エリアごとに直線パターンを連結した配線パターンを形成し、各配線パターンに対し、遅延時間を異ならせた同一の駆動信号を供給すれば、遅延時間を調整することで、両面から出力される音の帯域うち高帯域の音を、共に所望の方向に届くよう制御することができる。
【0011】
第2の本発明による薄型両面スピーカは、上記構成に加えて、上記振動エリアは矩形からなりであり、それぞれの一辺を対向させて互いに隣接するように構成される。
【0012】
このような構成により、遅延時間を異ならせた同一駆動信号がそれぞれ供給される振動エリアを近接させることが可能となり、高帯域の指向性制御を実現することができる。
【0013】
第3の本発明による薄型両面スピーカは、上記構成に加えて、上記振動板を貫通し、上記永久磁石板間のギャップを規制するギャップ規制部材が、上記振動エリア内又は上記振動エリア間に配置されている。
【0014】
このような構成により、永久磁石板間の距離を均一にすることができ、スピーカ特性を向上させることができる。特に、振動板を2以上の振動エリアに区分するために、永久磁石板の面積が増大したとしても、磁石同士の排斥力により永久磁石板が撓み、永久磁石間の距離が不均一になるのを防止することができる。
【0015】
第4の本発明による薄型両面スピーカは、上記構成に加えて、上記直線パターンが、上記ギャップ規制部材を迂回する迂回パターンを有する。このような構成により、直線パターンを配置すれば振動板の貫通孔と干渉してしまう領域に対しても、直線パターンを配置することができ、同じ面積の振動板上において、より広い振動エリアを確保することができる。
【0016】
第5の本発明による薄型両面スピーカは、上記構成に加えて、上記永久磁石板は、上記迂回パターンに対向する貫通孔を有する。このような構成により、永久磁石板と迂回パターンとの相互作用により発生する逆位相方向や面内方向に振動させる電磁力を抑えることができ、スピーカ特性の劣化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、指向方向を制御可能な小型の薄型両面スピーカを提供することができる。特に、2つの放音面の指向方向を同じ方向に傾けることができる小型の薄型両面スピーカを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1による薄型両面スピーカ100の外観図である。
【図2】図1の薄型両面スピーカ100の展開斜視図である。
【図3】図1の薄型両面スピーカ100のA−A切断線による断面図である。
【図4】図2の振動板1の平面図である。
【図5】図2の永久磁石板2の平面図である。
【図6】図1の薄型両面スピーカ100を用いた拡声システムの一例を示した図である。
【図7】薄型両面スピーカ100の指向特性を模式的に示した説明図である。
【図8】図7の拡声システムの指向特性について、正面方向(0°方向)の音圧レベルの周波数特性を示した図である。
【図9】図7の拡声システムの指向特性について、5°下向きの方向(−5°方向)の音圧レベルの周波数特性を示した図である。
【図10】図7の拡声システムの指向特性について、10°下向きの方向(−10°方向)の音圧レベルの周波数特性を示した図である。
【図11】図7の拡声システムの指向特性について、15°下向きの方向(−15°方向)の音圧レベルの周波数特性を示した図である。
【図12】本発明の形態2による薄型両面スピーカ100について振動板1の一構成例を示した平面図である。
【図13】本発明の形態3による薄型両面スピーカ100について振動板1の一構成例を示した平面図である。
【図14】本発明の形態4による薄型両面スピーカ100について振動板1の一構成例を示した平面図である。
【図15】従来の薄型両面スピーカ200の設置例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
図1〜図3は、本発明の実施の形態1による薄型両面スピーカ100の一構成例を示した図であり、図1は薄型両面スピーカ100の外観図、図2は薄型両面スピーカ100の一部を展開した展開斜視図、図3は、図1のA−A切断線による断面図である。この薄型両面スピーカ100は、2つの筐体パネル3で挟まれた薄い矩形平板形状からなり、2つの筐体パネル3から、平面波をそれぞれ放音することができる。つまり、筐体パネル3が放音面となり、2つの放音面から互いに反対方向に向けてそれぞれ放音する。
【0020】
薄型両面スピーカ100は、1枚の振動板1、2枚の永久磁石板2、2枚の筐体パネル3、2つの筐体フレーム4、2枚の緩衝シートbs及び2枚のフィルタftを備えている。2枚の永久磁石板2は、振動板1を挟むように互いに対向して配置され、振動板1の配線パターン11に駆動信号を供給することにより、永久磁石板2間のギャップ内において振動板1を厚さ方向に振動させることができる。また、2枚の筐体パネル3は、2枚の永久磁石板2を挟み込むように互いに対向して配置され、筐体フレーム4は、永久磁石板2の端面を覆うように配置されている。さらに、2枚の緩衝シートbsが、振動板1及び永久磁石板2の間にそれぞれ配置され、2枚のフィルタftが、永久磁石板2及び筐体パネル3の間にそれぞれ配置されている。
【0021】
振動板1は、配線パターン11が形成された可撓性フィルムであり、例えば、銅からなる配線パターン11がポリイミドからなる樹脂フィルム上に形成されている。配線パターン11は、互いに平行な多数の直線パターン12を連結した蛇行パターンからなり、振動板1のコーナー部に立設された給電端子1tに接続されている。給電端子1tは、筐体フレーム4の端子孔4tと、筐体パネル3の端子孔3tを通って、外部端子etに接続されている。このため、給電端子1tを介して、外部端子etから配線パターン11へ駆動信号を供給することができる。また、配線パターン11は、振動板1の両面に形成されており、直線パターン12は、振動板1を挟んで重複するように、同じ位置に同じパターンが形成されている。
【0022】
永久磁石板2は、板状の永久磁石であり、振動板1と対向する内側の主面に多極着磁パターンが形成されている。この多極着磁パターンは、帯状のN極及びS極が交互に現れるように、多数のN極及びS極を互いに平行に配列させたパターンである。隣接するN極及びS極間には、永久磁石板2に垂直な磁界が最小となる帯状のニュートラルゾーンが形成されている。このニュートラルゾーン上に永久磁石板2を貫通する多数の放音孔2hが形成されている。
【0023】
2枚の永久磁石板2は、同極同士を対向させた状態で、対向するニュートラルゾーン間に振動板1の直線パターン12を挟み込むように配置されている。一般に、永久磁石板2に平行な磁界はニュートラルゾーンにおいて最大となるが、永久磁石板2の同極同士を対向させることによって、上記磁界における磁束密度を更に高めることができる。このようなニュートラルゾーンに対応する位置に振動板1の直線パターン12を配置すれば、振動板1を厚み方向に振動させるための電磁力を最も効率よく発生させることができる。
【0024】
筐体パネル3及び筐体フレーム4は、永久磁石板2を収容する筐体を構成している。振動板1は、その周縁部が2枚の筐体フレーム4で挟み込まれ、これらの筐体フレーム4が2枚の筐体パネル3で挟み込まれることにより、振動板1が、薄型両面スピーカ100の厚さ方向の中央で支持されている。また、板状の筐体パネル3が、永久磁石板2の外側の主面を覆い、枠状の筐体フレーム4が、永久磁石板2の側面を覆うことにより、永久磁石板2からの磁束漏洩を防止している。さらに、筐体パネル3には、筐体パネル3を貫通する多数の放音孔3hが設けられている。これらの放音孔3hは、永久磁石板2の放音孔2hに対応する位置に形成され、振動板1の振動により発生した音は、永久磁石の放音孔2hと、筐体パネル3の放音孔3hとを介して、筐体パネル3から自由空間に放出される。
【0025】
緩衝シートbsは、振動板1と永久磁石板2との衝突による異音発生を防止するための緩衝材であり、通気性が良好な素材、例えば不織布が用いられる。緩衝シートbsの厚さは、振動板1及び永久磁石板2の間隔よりも薄く、振動板1及び緩衝シートbsの間には、振動板1が振動可能な空間が形成されている。フィルタftは、外部から粉塵の侵入を防止するための防塵材であり、通気性の良好な素材が用いられる。
【0026】
3組のボルト20、スペーサ21及びナット22は、2枚の筐体パネル3を互いに締結し、その間隔を規制する締結手段であり、筐体パネル3上の周縁部よりも内側に設けられている。スペーサ21は、締結孔1j,2jを通って、振動板1及び永久磁石板2を貫通し、その両端を筐体パネル3の内側主面に当接させた筒状体であり、ボルト20は、当該スペーサ21内を通って、2枚の筐体パネル3を横断した後、ナット22と螺合させている。つまり、上記締結手段が筐体パネル3の間隔を規制することにより、筐体パネル3に挟まれている永久磁石板2のギャップ幅も規制することができる。つまり、上記締結手段は、永久磁石板2のギャップ規制手段として機能している。
【0027】
永久磁石板2の同極同士を対向させた場合、永久磁石板2間に排斥力が作用する。このため、永久磁石板2の周縁部のみを支持した場合、永久磁石板2が排斥力により撓み、主面中央付近のギャップが周縁部よりも増大し、スピーカ特性が劣化する。このため、筐体パネル3の主面の中央付近において、永久磁石板2のギャップ幅を規制し、永久磁石板2間のギャップを均一にすれば、スピーカ特性を向上させ、製品ごとの品質のバラツキを抑えることができる。
【0028】
ここでは、2枚の筐体パネル3を互いに締結する締結手段により、永久磁石板2間のギャップ幅を規制する例について説明したが、例えば、永久磁石板2間にスペーサを配置し、永久磁石板2を互いに締結することにより、そのギャップ幅を規制してもよいことは言うまでもない。また、永久磁石板2のギャップ規制は、その主面の中央付近で行うことが望ましいが、2以上のギャップ規制手段を備える場合には、主面中央に関し対称となる位置に配置してもよい。
【0029】
図4は、図1の薄型両面スピーカ100の詳細な構成例を示した図であり、振動板1の平面図が示されている。この振動板1は、2つの振動エリア15a,15bに区分され、互いに独立した2つの配線パターン11a,11bが、振動エリア15a,15bに対応づけて形成されている。振動板1上で互いに平行となるように形成された多数の直線パターン12は、それぞれのグループが互いに隣接する直線パターン12で構成されるように、2つのグループに区分され、振動エリア15a,15bは、各グループに属する直線パターン12の配置領域として定義される。つまり、各振動エリア15a,15bは、振動板1を直線パターン12に平行な直線で分割することによって得られる領域であり、それぞれの一辺を対向させて互いに隣接する矩形領域となる。
【0030】
配線パターン11aは、振動エリア15a内に形成された2以上の直線パターン12を連結した蛇行パターンとして形成される。同様にして、配線パターン11bは、振動エリア15b内に形成された2以上の直線パターン12を連結した蛇行パターンとして形成される。また、これらの配線パターン11a,11bは、互いに異なる給電端子1tに接続されており、これらの給電端子1tに異なる駆動信号を供給することにより、振動エリア15a,15bを互いに独立して起振させることができる。図中では、3つの締結孔1jが、いずれも振動エリア15a,15b間に形成され、振動板1の周縁部以外の位置においても永久磁石板2のギャップを規制しているので、永久磁石板2のギャップを均一にすることができる。
【0031】
ここで、振動エリア15a,15b間に締結孔1jを設けると、締結孔1jの直径よりも大きな幅を有する非振動エリアが振動エリア15a,15b間に形成され、各振動エリア15a,15bの面積を狭くしてしまうという問題が生じる。そこで、締結孔1jを迂回する迂回パターン12nを有する迂回直線パターン12mを用いることにより、非振動エリアを最小化している。
【0032】
迂回直線パターン12mは、直線パターン12のうち、締結孔1jと干渉する部分を非直線形状からなる迂回パターン12nに置き換えたパターンであり、締結孔1jによって2以上に分断された直線パターンを迂回パターン12nを介在させて連結したパターンである。さらに、隣接する迂回直線パターン12mと干渉する部分がある直線パターン12についても、同様にして、当該部分を迂回パターン12nに置き換えて、迂回直線パターン12mにすることができる。つまり、一方の振動エリア15a(15b)内であって、他方の振動エリア15b(15a)との境界付近に迂回直線パターン12mを配置することにより、非振動エリアを狭小化し、振動エリア15a,15bの面積を広げることができる。
【0033】
図5は、図1の薄型両面スピーカ100の詳細な構成例を示した図であり、永久磁石板2の平面図が示されている。図中に破線で示されているのは、振動板1上の配線パターン11及び締結孔1jに対応する永久磁石板2上の位置である。
【0034】
放音孔2hは、互いに平行に形成された多数の帯状のニュートラルゾーン上に形成されている。永久磁石板2は、その主面に多数のN極及びS極が交互かつ等間隔に配置されているため、異極間の中央に形成される多数のニュートラルゾーンも、それぞれが帯状となり、互いに等間隔かつ平行となるように形成される。このため、永久磁石板2のニュートラルゾーンのパターンを振動板1の直線パターン12と対応づけることは容易であるが、迂回パターン12nに対応づけることはできない。しかも、迂回パターン12nにも対応づけられる変則的なニュートラルゾーンのパターンを形成することは困難である。
【0035】
しかしながら、迂回パターン12nが、ニュートラルゾーン以外のN極又はS極の領域と対向している場合、振動板1を逆位相方向や面内方向に振動させる電磁力が発生し、スピーカ特性を劣化させてしまう。このため、永久磁石板2の締結孔2jが、振動板1の締結孔1jだけでなく、振動板1の迂回パターン12nにも対向するように、締結孔2jを広げることによって、迂回パターン12nが、ニュートラルゾーン以外の永久磁石板2と対向するのを防止している。
【0036】
図6は、図1の薄型両面スピーカ100を用いた拡声システムの一例を示した図である。この拡声システムでは、振動エリア15a,15bの一方に対し、遅延させた駆動信号を供給することにより、指向方向を正面方向に対し傾けることができる。
【0037】
この薄型両面スピーカ100は、天井に取り付けられ、筐体パネル3の正面方向が水平方向となるように、天井から垂下させている。例えば、駅の構内放送設備として、各筐体パネル3の正面方向をプラットホームの長手方向に一致させて、プラットホームの天井に取り付けられる。振動板1は、上側の振動エリア15aと下側の振動エリア15bとに区分され、これらの振動エリア15a,15bに対応する2つの配線パターン11a,11bが形成されており、下側の配線パターン11bに対し、上側の配線パターン11aよりも遅延させた駆動信号を供給することにより、指向方向を水平方向よりも下側に向けている。
【0038】
音源装置50から出力された駆動信号は、遅延回路51及び上側の配線パターン11aに供給される一方、遅延回路51で遅延させた駆動信号は、下側の配線パターン11bに供給される。遅延回路51は、少なくとも音声帯域について、駆動信号を一定時間だけ遅延させる回路である。例えば、LC素子からなるローパスフィルタ回路は、通過帯域内では、振幅がほぼ一定で、位相の遅れ角が周波数に比例して大きくなる特性を有している。このため、このようなローパスフィルタ回路を利用することにより、音声帯域内の各周波数帯域について、遅延時間が一定となる遅延回路を実現することができる。
【0039】
図中の遅延距離Dは、遅延回路51における遅延時間の間に音波が進む距離を示しており、上側の振動エリア15a(配線パターン11a)からの音波と、下側の振動エリア15b(配線パターン11b)からの音波の位相が揃う波面は、水平方向よりも下方向に傾いている。このため、指向方向を正面方向よりも下方向に向けることができる。しかも、2つの筐体パネル3の指向方向を同時に下方向に傾けることができるため、2つの放音面の指向方向をともに下側に向け、薄型両面スピーカ100の両側において、それぞれ遠方における音圧及び音質と、スピーカ斜め下方向における音圧及び音質とをバランスさせることができる。
【0040】
図7は、薄型両面スピーカ100の指向特性を模式的に示した説明図である。図中の53H、53Lは、いずれも音声帯域内の周波数における指向特性であり、指向特性53Hは、指向特性53Lよりも高い周波数に関するものである。図7に示した通り、薄型両面スピーカ100は、周波数が高くなるほど指向性も高くなる。このため、薄型両面スピーカ100を天井に取り付けた場合、その斜め下方付近では、低音は聞き取れるが、高音は聞き取りにくくなる。しかしながら、図6の拡声システムを用いて、指向方向を下側へ傾けることにより、薄型両面スピーカ100の斜め下方付近でも、低音及び高音をともに聞き取り易くすることができる。
【0041】
図8〜図11は、図6の拡声システムの指向特性についての測定結果を示した図であり、薄型両面スピーカ100から一定距離を隔てた位置における音圧レベルに関し、3方向についての測定結果が示されている。図8は、筐体パネル3の正面方向(0°方向)、図9は、正面方向よりも5°下向きの方向(−5°方向)、図10は、正面方向よりも10°下向きの方向(−10°方向)、図11は、正面方向よりも15°下向きの方向(−15°方向)について、それぞれ音圧レベルの周波数特性が示されている。また、図中の実線55は、下側の配線パターン11bの駆動信号を遅延させた場合における周波数特性であり、破線56は、遅延させなかった場合における周波数特性である。
【0042】
この測定結果によれば、指向性の低い5kHz以下の帯域では、いずれの方向を比較しても、また、同一方向における特性55,56を比較しても、音圧レベルにほとんど差は生じていない。しかしながら、5kHzよりも高い帯域に注目すれば、特性55,56の音圧レベルの大小関係が、方向によって逆転していることがわかる。すなわち、0度方向では、遅延させない特性56の音圧レベルの方が大きいが、−5°方向では、特性55,56の音圧レベルがほぼ等しくなり、−10°方向では、遅延させた特性55の音圧レベルの方が大きくなっている。また、−15°方向では、遅延させない特性56において発生している7kHz付近のディップ(落ち込み)が、遅延させた特性55では発生しておらず、7kHz付近の音が聞こえ易くなっていることがわかる。つまり、配線パターン11aへの駆動信号に比べて、配線パターン11bへの駆動信号を遅延させることによって、5〜15kHzの周波数帯域について、指向方向を下側に向けることができ、斜め下方向において聞き取り易くなっていることがわかる。
【0043】
本実施の形態による薄型両面スピーカ100は、2枚の永久磁石板2間に振動板1を配置し、ニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターン12を振動板1上に形成している。このため、直線パターン12に駆動信号を供給することにより、振動板1を厚さ方向に振動させ、その振動音を永久磁石板2の放音孔2hから放出することができる。
【0044】
このような薄型両面スピーカ100において、振動板1を2以上の振動エリア15a,15bに区分し、各振動エリア15a,15bごとに直線パターン12を連結した配線パターン11a,11bが形成されている。このため、各配線パターン11a,11bに対し、異なる駆動信号を供給すれば、振動エリアごとに異なる音を生成させることができる。従って同一の振動板1を2以上の振動エリア15a,15bごとに振動させ、2以上のスピーカとして用いることができる。しかも、1つの振動板を2以上の振動エリアに区分して使用するため、2以上のスピーカを備えた従来のスピーカアレイ装置に比べ、装置サイズを大幅に小型化することができる。
【0045】
また、本実施の形態による薄型両面スピーカ100は、振動エリア15a,15bに対応する2以上の給電端子1tを備え、配線パターン11a,11bが、異なる給電端子1tにそれぞれ接続されている。このため、各給電端子1tに対し、遅延時間の異なる駆動信号を供給すれば、薄型両面スピーカの指向方向を制御することができる。従って、薄型両面スピーカの指向方向を放音面の正面方向に対し傾けることができる。しかも、2つの放音面の指向方向を同じ方向に同時に傾けることができる。さらに、遅延時間を調整することにより、正面方向と指向方向のなす角度を調整することもできる。つまり、従来のスピーカアレイ装置と同様に使用することができる。
【0046】
また、本実施の形態による薄型両面スピーカ100は、ボルト20、スペーサ21及びナット22からなる筐体パネル3の締結手段が、永久磁石板2間のギャップ幅を規制しているため、永久磁石板2が撓み、中央部のギャップが周縁部よりも広くなるのを防止している。このため、永久磁石板2間のギャップを均一にすることができ、スピーカ特性を向上させ、製品ごとの品質のバラツキを抑えることができる。
【0047】
また、本実施の形態では、2以上の配線パターン11a,11bに対し、遅延時間の異なる同一の駆動信号を供給することにより、指向方向を傾ける場合の例について説明したが、例えば、各配線パターン11a,11bに対し、異なる音源装置から供給された駆動信号をそれぞれ供給し、振動エリア15a,15bごとに異なる音声を出力させることもできる。
【0048】
実施の形態2.
実施の形態1では、振動板1を2つの振動エリア15a,15bに区分し、これらの振動エリア15a,15bに対応づけて、互いに独立した2つの配線パターン11a,11bを形成する場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、振動板1'を3つの振動エリア15a〜15cに区分し、これらの振動エリア15a〜15cに対応づけて、互いに独立した3つの配線パターン11a〜11cを形成する場合について説明する。
【0049】
図12は、本発明の形態2による薄型両面スピーカ100の要部について一構成例を示した図であり、振動板1'の一構成例が示されている。この振動板1'は、3つの振動エリア15a〜15cに区分されている。各振動エリア15a〜15cは、それぞれ2以上の直線パターン12を内包している。配線パターン11a〜11cは、対応する振動エリア15a〜15c内の直線パターン12を連結した蛇行パターンであり、それぞれ異なる給電端子1tに接続されている。その他の構成は、実施の形態1と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0050】
本実施の形態によれば、振動板1'を3以上の振動エリア15a〜15cに区分し、各振動エリア15a〜15cを異なる駆動信号によって独立して駆動することができる。このため、独立した振動板をそれぞれ有する3つのスピーカを備えた複合スピーカに比べて小型の複合スピーカを実現することができる。また、振動板1'を3つの振動エリア15a〜15cに区分し、遅延時間の異なる駆動信号を供給することにより、指向特性についてより自由度の高い制御を行うことができる。
【0051】
また、振動板1'を区分する振動エリア15a,15b,…の数が多くなれば、駆動エリアの数に応じて振動板1の面積も大きくなる。その結果、永久磁石板2が撓み易くなり、永久磁石板2間のギャップのばらつきも大きくなる傾向にある。このため、振動板1を3以上の駆動エリアに区分する場合、永久磁石板2のギャップを規制するギャップ規制手段を設けることが特に好適である。
【0052】
実施の形態3.
上記実施の形態では、ギャップ規制手段を駆動エリア15a〜15c間に配置する場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、駆動エリア15b内にギャップ規制手段を設ける場合について説明する。
【0053】
図13は、本発明の形態3による薄型両面スピーカ100の要部について一構成例を示した図であり、振動板1の一構成例が示されている。この振動板1''も、3つの振動エリア15a〜15cに区分されているが、3つの締結孔1jが振動エリア5b内に形成されている点で図12の振動板1'とは異なる。つまり、3組のボルト20、スペーサ21及びナット22からなる締結手段が、振動エリア5b内に配置されている。
【0054】
一般に、薄型両面スピーカは、永久磁石板2間のギャップ幅が所定範囲から外れると、スピーカ特性が著しく劣化する。このため、駆動エリア15a〜15c間にギャップ規制手段を設ける構成に代えて、駆動エリア15b内にギャップ規制手段を設ける構成を採用し、永久磁石板2間ギャップを均一化してもよい。
【0055】
この場合、振動エリア15b内において、締結孔1jと干渉する直線パターン12を間引くと、振動エリア5b内に非振動エリアが形成され、各振動エリア15bの面積が実質的に狭くなり、スピーカ特性を劣化させてしまうという問題が生じる。そこで、締結孔1jを迂回する迂回パターン12nを有する迂回直線パターン12mを用いることにより、締結孔1jを配置することによって生じる振動エリア15b内に非振動エリアを最小化している。
【0056】
なお、永久磁石板2の締結孔2jを広げて、振動板1''の締結孔1j及び迂回パターン12nに対向させることにより、迂回パターン12nが、ニュートラルゾーン以外の永久磁石板2と対向するのを防止することができる点は、上記実施の形態1,2の場合と同様である。
【0057】
実施の形態4.
上記実施の形態では、直線パターン12が振動板1の長手方向と平行に延び、2以上の振動エリア15a〜15cの互いに対向する辺、つまり、振動エリア15a〜15cの境界線が、直線パターン12と平行となる場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、直線パターン12が振動板1の短手方向と平行に延び、振動エリア15a,15bの境界線が、直線パターン12の延伸方向と交差している場合について説明する。
【0058】
図14は、本発明の形態4による薄型両面スピーカ100の要部について一構成例を示した図であり、振動板1の一構成例が示されている。この振動板1'''は、2つの振動エリア15a,15bに区分されている。図4の振動板1(実施の形態1)の場合と比較すれば、直線パターン12が略中央で分割され、その一方が振動エリア15aに属し、他方が振動エリア15bに属している点で異なる。
【0059】
直線パターン12は、振動板1'''の短手方向と平行となるように配置され、図示しない多極着磁パターンも上記短手方向と平行となるように配置されている。そして、振動エリア15a,15bの境界線は、直線パターン12及び図示しない多極着磁パターンの延伸方向と直交している。つまり、振動板1を2以上の振動エリア15a,15bに分割する際、2以上の振動エリア15a,15bの対向する辺は、実施の形態1〜3で示したように、直線パターン12及び着磁パターンの延伸方向と一致するように分割することもできるし、本実施の形態で示したように、交差するように分割することもできる。
【0060】
なお、上記実施の形態では、同一の振動エリア15a〜15cに属する直線パターン12を連結して蛇行パターンを形成する場合の例について説明したが、本発明は、このような場合のみに限定されない。すなわち、互いに隣接する直線パターン12に逆方向に電流が流れるように、多数の直線パターン12が連結されていればよく、蛇行パターンのみに限定されない。
【符号の説明】
【0061】
1,1',1'',1''' 振動板
1j 締結孔
1t 給電端子
2 永久磁石板
2h 放音孔
2j 締結孔
3 筐体パネル
3h 放音孔
3t 端子孔
4 筐体フレーム
4t 端子孔
10 樹脂フィルム
11,11a〜11c 配線パターン
12 直線パターン
12m 迂回直線パターン
12n 迂回パターン
14 保護膜
15a〜15c 振動エリア
50 音源装置
51 遅延回路
100 薄型両面スピーカ
bs 緩衝シート
et 外部端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型両面スピーカに係り、更に詳しくは、平板状の薄型筐体の両面から放音することができる薄型両面スピーカの改良に関する。
【背景技術】
【0002】
2枚の永久磁石板間のギャップ(隙間)に振動板が配置され、当該振動板に形成された配線パターンに駆動電流を供給することにより、上記ギャップ内で振動板を振動させ、永久磁石板にそれぞれ形成された放音孔を介して、両面から放音することができる薄型両面スピーカが知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この種の薄型両面スピーカは、正反対の方向に向けられた2つの放音面を有し、互いに逆位相となる音波を放出することができる。また、各放音面からは、直進性の高い平面波が放出され、放音面の正面方向への指向性が高い。このため、細長いエリア内において一定の音圧を確保することが求められる用途、例えば、駅のプラットホームに設置されている駅構内放送用のスピーカに好適であると考えられる。
【0004】
図15は、従来の薄型両面スピーカ200の設置例を示した図である。図中では、放音面の正面がプラットホームの長手方向に一致するように、薄型両面スピーカ200がプラットホームの天井に設置されている。薄型両面スピーカ200は、2つの放音面が互いに反対方向を向いていることから、薄型両面スピーカ200を挟んでプラットホーム上の両方向に音場を形成することができる。また、平面波の直進性により、プラットホーム上の比較的遠い位置でも一定の音圧を確保することができる。その一方で、薄型両面スピーカの斜め下方付近では音を聞き取りにくいという問題があり、特に、低音に比べて高音はより指向性が高いため、高音が聞き取りにくいという問題があった。
【0005】
このような場合、両面タイプではない一般的なスピーカであれば、放音面を水平方向よりも下側に向けて設置することにより、遠方における音圧及び音質と、斜め下方向の音圧及び音質とをバランスさせることができる。ところが、薄型両面スピーカの場合、一方の放音面を下側に向けると他方の放音面が上側を向くことになるため、両側に音場を形成することができるという薄型両面スピーカ200のメリットを生かすことができないという問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−331596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記の事情に鑑みてなされたものであり、薄型両面スピーカの両面から出力される音の帯域のうち高帯域の音を、ともに所望の方向に届くよう制御することが可能な薄型両面スピーカを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
第1の本発明による薄型両面スピーカは、互いに平行となる帯状のN極及びS極が交互に現れる多極着磁パターンが形成され、異極間のニュートラルゾーンに多数の放音孔が形成された2枚の永久磁石板と、同極を対向させた2枚の上記永久磁石板間に配置され、上記ニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターンが形成された振動板とを備え、上記振動板が、それぞれが隣接する2以上の直線パターンからなる2以上の振動エリアに区分され、上記振動エリアごとに上記直線パターンが連結され、遅延時間を異ならせた同一の駆動信号が供給可能な2以上の配線パターンが形成されている。
【0009】
ニュートラルゾーンは、永久磁石板に垂直な磁界が弱く、永久磁石板に平行な磁界が強い。このため、2枚の永久磁石板間に振動板を配置し、ニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターンを振動板上に形成すれば、直線パターンに駆動信号を供給することにより振動板を厚さ方向に振動させ、その振動音を永久磁石板の放音孔から放出することができる。
【0010】
このような薄型両面スピーカにおいて、振動板を互いに隣接する2以上の振動エリアに区分し、各振動エリアごとに直線パターンを連結した配線パターンを形成し、各配線パターンに対し、遅延時間を異ならせた同一の駆動信号を供給すれば、遅延時間を調整することで、両面から出力される音の帯域うち高帯域の音を、共に所望の方向に届くよう制御することができる。
【0011】
第2の本発明による薄型両面スピーカは、上記構成に加えて、上記振動エリアは矩形からなりであり、それぞれの一辺を対向させて互いに隣接するように構成される。
【0012】
このような構成により、遅延時間を異ならせた同一駆動信号がそれぞれ供給される振動エリアを近接させることが可能となり、高帯域の指向性制御を実現することができる。
【0013】
第3の本発明による薄型両面スピーカは、上記構成に加えて、上記振動板を貫通し、上記永久磁石板間のギャップを規制するギャップ規制部材が、上記振動エリア内又は上記振動エリア間に配置されている。
【0014】
このような構成により、永久磁石板間の距離を均一にすることができ、スピーカ特性を向上させることができる。特に、振動板を2以上の振動エリアに区分するために、永久磁石板の面積が増大したとしても、磁石同士の排斥力により永久磁石板が撓み、永久磁石間の距離が不均一になるのを防止することができる。
【0015】
第4の本発明による薄型両面スピーカは、上記構成に加えて、上記直線パターンが、上記ギャップ規制部材を迂回する迂回パターンを有する。このような構成により、直線パターンを配置すれば振動板の貫通孔と干渉してしまう領域に対しても、直線パターンを配置することができ、同じ面積の振動板上において、より広い振動エリアを確保することができる。
【0016】
第5の本発明による薄型両面スピーカは、上記構成に加えて、上記永久磁石板は、上記迂回パターンに対向する貫通孔を有する。このような構成により、永久磁石板と迂回パターンとの相互作用により発生する逆位相方向や面内方向に振動させる電磁力を抑えることができ、スピーカ特性の劣化を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、指向方向を制御可能な小型の薄型両面スピーカを提供することができる。特に、2つの放音面の指向方向を同じ方向に傾けることができる小型の薄型両面スピーカを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施の形態1による薄型両面スピーカ100の外観図である。
【図2】図1の薄型両面スピーカ100の展開斜視図である。
【図3】図1の薄型両面スピーカ100のA−A切断線による断面図である。
【図4】図2の振動板1の平面図である。
【図5】図2の永久磁石板2の平面図である。
【図6】図1の薄型両面スピーカ100を用いた拡声システムの一例を示した図である。
【図7】薄型両面スピーカ100の指向特性を模式的に示した説明図である。
【図8】図7の拡声システムの指向特性について、正面方向(0°方向)の音圧レベルの周波数特性を示した図である。
【図9】図7の拡声システムの指向特性について、5°下向きの方向(−5°方向)の音圧レベルの周波数特性を示した図である。
【図10】図7の拡声システムの指向特性について、10°下向きの方向(−10°方向)の音圧レベルの周波数特性を示した図である。
【図11】図7の拡声システムの指向特性について、15°下向きの方向(−15°方向)の音圧レベルの周波数特性を示した図である。
【図12】本発明の形態2による薄型両面スピーカ100について振動板1の一構成例を示した平面図である。
【図13】本発明の形態3による薄型両面スピーカ100について振動板1の一構成例を示した平面図である。
【図14】本発明の形態4による薄型両面スピーカ100について振動板1の一構成例を示した平面図である。
【図15】従来の薄型両面スピーカ200の設置例を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
実施の形態1.
図1〜図3は、本発明の実施の形態1による薄型両面スピーカ100の一構成例を示した図であり、図1は薄型両面スピーカ100の外観図、図2は薄型両面スピーカ100の一部を展開した展開斜視図、図3は、図1のA−A切断線による断面図である。この薄型両面スピーカ100は、2つの筐体パネル3で挟まれた薄い矩形平板形状からなり、2つの筐体パネル3から、平面波をそれぞれ放音することができる。つまり、筐体パネル3が放音面となり、2つの放音面から互いに反対方向に向けてそれぞれ放音する。
【0020】
薄型両面スピーカ100は、1枚の振動板1、2枚の永久磁石板2、2枚の筐体パネル3、2つの筐体フレーム4、2枚の緩衝シートbs及び2枚のフィルタftを備えている。2枚の永久磁石板2は、振動板1を挟むように互いに対向して配置され、振動板1の配線パターン11に駆動信号を供給することにより、永久磁石板2間のギャップ内において振動板1を厚さ方向に振動させることができる。また、2枚の筐体パネル3は、2枚の永久磁石板2を挟み込むように互いに対向して配置され、筐体フレーム4は、永久磁石板2の端面を覆うように配置されている。さらに、2枚の緩衝シートbsが、振動板1及び永久磁石板2の間にそれぞれ配置され、2枚のフィルタftが、永久磁石板2及び筐体パネル3の間にそれぞれ配置されている。
【0021】
振動板1は、配線パターン11が形成された可撓性フィルムであり、例えば、銅からなる配線パターン11がポリイミドからなる樹脂フィルム上に形成されている。配線パターン11は、互いに平行な多数の直線パターン12を連結した蛇行パターンからなり、振動板1のコーナー部に立設された給電端子1tに接続されている。給電端子1tは、筐体フレーム4の端子孔4tと、筐体パネル3の端子孔3tを通って、外部端子etに接続されている。このため、給電端子1tを介して、外部端子etから配線パターン11へ駆動信号を供給することができる。また、配線パターン11は、振動板1の両面に形成されており、直線パターン12は、振動板1を挟んで重複するように、同じ位置に同じパターンが形成されている。
【0022】
永久磁石板2は、板状の永久磁石であり、振動板1と対向する内側の主面に多極着磁パターンが形成されている。この多極着磁パターンは、帯状のN極及びS極が交互に現れるように、多数のN極及びS極を互いに平行に配列させたパターンである。隣接するN極及びS極間には、永久磁石板2に垂直な磁界が最小となる帯状のニュートラルゾーンが形成されている。このニュートラルゾーン上に永久磁石板2を貫通する多数の放音孔2hが形成されている。
【0023】
2枚の永久磁石板2は、同極同士を対向させた状態で、対向するニュートラルゾーン間に振動板1の直線パターン12を挟み込むように配置されている。一般に、永久磁石板2に平行な磁界はニュートラルゾーンにおいて最大となるが、永久磁石板2の同極同士を対向させることによって、上記磁界における磁束密度を更に高めることができる。このようなニュートラルゾーンに対応する位置に振動板1の直線パターン12を配置すれば、振動板1を厚み方向に振動させるための電磁力を最も効率よく発生させることができる。
【0024】
筐体パネル3及び筐体フレーム4は、永久磁石板2を収容する筐体を構成している。振動板1は、その周縁部が2枚の筐体フレーム4で挟み込まれ、これらの筐体フレーム4が2枚の筐体パネル3で挟み込まれることにより、振動板1が、薄型両面スピーカ100の厚さ方向の中央で支持されている。また、板状の筐体パネル3が、永久磁石板2の外側の主面を覆い、枠状の筐体フレーム4が、永久磁石板2の側面を覆うことにより、永久磁石板2からの磁束漏洩を防止している。さらに、筐体パネル3には、筐体パネル3を貫通する多数の放音孔3hが設けられている。これらの放音孔3hは、永久磁石板2の放音孔2hに対応する位置に形成され、振動板1の振動により発生した音は、永久磁石の放音孔2hと、筐体パネル3の放音孔3hとを介して、筐体パネル3から自由空間に放出される。
【0025】
緩衝シートbsは、振動板1と永久磁石板2との衝突による異音発生を防止するための緩衝材であり、通気性が良好な素材、例えば不織布が用いられる。緩衝シートbsの厚さは、振動板1及び永久磁石板2の間隔よりも薄く、振動板1及び緩衝シートbsの間には、振動板1が振動可能な空間が形成されている。フィルタftは、外部から粉塵の侵入を防止するための防塵材であり、通気性の良好な素材が用いられる。
【0026】
3組のボルト20、スペーサ21及びナット22は、2枚の筐体パネル3を互いに締結し、その間隔を規制する締結手段であり、筐体パネル3上の周縁部よりも内側に設けられている。スペーサ21は、締結孔1j,2jを通って、振動板1及び永久磁石板2を貫通し、その両端を筐体パネル3の内側主面に当接させた筒状体であり、ボルト20は、当該スペーサ21内を通って、2枚の筐体パネル3を横断した後、ナット22と螺合させている。つまり、上記締結手段が筐体パネル3の間隔を規制することにより、筐体パネル3に挟まれている永久磁石板2のギャップ幅も規制することができる。つまり、上記締結手段は、永久磁石板2のギャップ規制手段として機能している。
【0027】
永久磁石板2の同極同士を対向させた場合、永久磁石板2間に排斥力が作用する。このため、永久磁石板2の周縁部のみを支持した場合、永久磁石板2が排斥力により撓み、主面中央付近のギャップが周縁部よりも増大し、スピーカ特性が劣化する。このため、筐体パネル3の主面の中央付近において、永久磁石板2のギャップ幅を規制し、永久磁石板2間のギャップを均一にすれば、スピーカ特性を向上させ、製品ごとの品質のバラツキを抑えることができる。
【0028】
ここでは、2枚の筐体パネル3を互いに締結する締結手段により、永久磁石板2間のギャップ幅を規制する例について説明したが、例えば、永久磁石板2間にスペーサを配置し、永久磁石板2を互いに締結することにより、そのギャップ幅を規制してもよいことは言うまでもない。また、永久磁石板2のギャップ規制は、その主面の中央付近で行うことが望ましいが、2以上のギャップ規制手段を備える場合には、主面中央に関し対称となる位置に配置してもよい。
【0029】
図4は、図1の薄型両面スピーカ100の詳細な構成例を示した図であり、振動板1の平面図が示されている。この振動板1は、2つの振動エリア15a,15bに区分され、互いに独立した2つの配線パターン11a,11bが、振動エリア15a,15bに対応づけて形成されている。振動板1上で互いに平行となるように形成された多数の直線パターン12は、それぞれのグループが互いに隣接する直線パターン12で構成されるように、2つのグループに区分され、振動エリア15a,15bは、各グループに属する直線パターン12の配置領域として定義される。つまり、各振動エリア15a,15bは、振動板1を直線パターン12に平行な直線で分割することによって得られる領域であり、それぞれの一辺を対向させて互いに隣接する矩形領域となる。
【0030】
配線パターン11aは、振動エリア15a内に形成された2以上の直線パターン12を連結した蛇行パターンとして形成される。同様にして、配線パターン11bは、振動エリア15b内に形成された2以上の直線パターン12を連結した蛇行パターンとして形成される。また、これらの配線パターン11a,11bは、互いに異なる給電端子1tに接続されており、これらの給電端子1tに異なる駆動信号を供給することにより、振動エリア15a,15bを互いに独立して起振させることができる。図中では、3つの締結孔1jが、いずれも振動エリア15a,15b間に形成され、振動板1の周縁部以外の位置においても永久磁石板2のギャップを規制しているので、永久磁石板2のギャップを均一にすることができる。
【0031】
ここで、振動エリア15a,15b間に締結孔1jを設けると、締結孔1jの直径よりも大きな幅を有する非振動エリアが振動エリア15a,15b間に形成され、各振動エリア15a,15bの面積を狭くしてしまうという問題が生じる。そこで、締結孔1jを迂回する迂回パターン12nを有する迂回直線パターン12mを用いることにより、非振動エリアを最小化している。
【0032】
迂回直線パターン12mは、直線パターン12のうち、締結孔1jと干渉する部分を非直線形状からなる迂回パターン12nに置き換えたパターンであり、締結孔1jによって2以上に分断された直線パターンを迂回パターン12nを介在させて連結したパターンである。さらに、隣接する迂回直線パターン12mと干渉する部分がある直線パターン12についても、同様にして、当該部分を迂回パターン12nに置き換えて、迂回直線パターン12mにすることができる。つまり、一方の振動エリア15a(15b)内であって、他方の振動エリア15b(15a)との境界付近に迂回直線パターン12mを配置することにより、非振動エリアを狭小化し、振動エリア15a,15bの面積を広げることができる。
【0033】
図5は、図1の薄型両面スピーカ100の詳細な構成例を示した図であり、永久磁石板2の平面図が示されている。図中に破線で示されているのは、振動板1上の配線パターン11及び締結孔1jに対応する永久磁石板2上の位置である。
【0034】
放音孔2hは、互いに平行に形成された多数の帯状のニュートラルゾーン上に形成されている。永久磁石板2は、その主面に多数のN極及びS極が交互かつ等間隔に配置されているため、異極間の中央に形成される多数のニュートラルゾーンも、それぞれが帯状となり、互いに等間隔かつ平行となるように形成される。このため、永久磁石板2のニュートラルゾーンのパターンを振動板1の直線パターン12と対応づけることは容易であるが、迂回パターン12nに対応づけることはできない。しかも、迂回パターン12nにも対応づけられる変則的なニュートラルゾーンのパターンを形成することは困難である。
【0035】
しかしながら、迂回パターン12nが、ニュートラルゾーン以外のN極又はS極の領域と対向している場合、振動板1を逆位相方向や面内方向に振動させる電磁力が発生し、スピーカ特性を劣化させてしまう。このため、永久磁石板2の締結孔2jが、振動板1の締結孔1jだけでなく、振動板1の迂回パターン12nにも対向するように、締結孔2jを広げることによって、迂回パターン12nが、ニュートラルゾーン以外の永久磁石板2と対向するのを防止している。
【0036】
図6は、図1の薄型両面スピーカ100を用いた拡声システムの一例を示した図である。この拡声システムでは、振動エリア15a,15bの一方に対し、遅延させた駆動信号を供給することにより、指向方向を正面方向に対し傾けることができる。
【0037】
この薄型両面スピーカ100は、天井に取り付けられ、筐体パネル3の正面方向が水平方向となるように、天井から垂下させている。例えば、駅の構内放送設備として、各筐体パネル3の正面方向をプラットホームの長手方向に一致させて、プラットホームの天井に取り付けられる。振動板1は、上側の振動エリア15aと下側の振動エリア15bとに区分され、これらの振動エリア15a,15bに対応する2つの配線パターン11a,11bが形成されており、下側の配線パターン11bに対し、上側の配線パターン11aよりも遅延させた駆動信号を供給することにより、指向方向を水平方向よりも下側に向けている。
【0038】
音源装置50から出力された駆動信号は、遅延回路51及び上側の配線パターン11aに供給される一方、遅延回路51で遅延させた駆動信号は、下側の配線パターン11bに供給される。遅延回路51は、少なくとも音声帯域について、駆動信号を一定時間だけ遅延させる回路である。例えば、LC素子からなるローパスフィルタ回路は、通過帯域内では、振幅がほぼ一定で、位相の遅れ角が周波数に比例して大きくなる特性を有している。このため、このようなローパスフィルタ回路を利用することにより、音声帯域内の各周波数帯域について、遅延時間が一定となる遅延回路を実現することができる。
【0039】
図中の遅延距離Dは、遅延回路51における遅延時間の間に音波が進む距離を示しており、上側の振動エリア15a(配線パターン11a)からの音波と、下側の振動エリア15b(配線パターン11b)からの音波の位相が揃う波面は、水平方向よりも下方向に傾いている。このため、指向方向を正面方向よりも下方向に向けることができる。しかも、2つの筐体パネル3の指向方向を同時に下方向に傾けることができるため、2つの放音面の指向方向をともに下側に向け、薄型両面スピーカ100の両側において、それぞれ遠方における音圧及び音質と、スピーカ斜め下方向における音圧及び音質とをバランスさせることができる。
【0040】
図7は、薄型両面スピーカ100の指向特性を模式的に示した説明図である。図中の53H、53Lは、いずれも音声帯域内の周波数における指向特性であり、指向特性53Hは、指向特性53Lよりも高い周波数に関するものである。図7に示した通り、薄型両面スピーカ100は、周波数が高くなるほど指向性も高くなる。このため、薄型両面スピーカ100を天井に取り付けた場合、その斜め下方付近では、低音は聞き取れるが、高音は聞き取りにくくなる。しかしながら、図6の拡声システムを用いて、指向方向を下側へ傾けることにより、薄型両面スピーカ100の斜め下方付近でも、低音及び高音をともに聞き取り易くすることができる。
【0041】
図8〜図11は、図6の拡声システムの指向特性についての測定結果を示した図であり、薄型両面スピーカ100から一定距離を隔てた位置における音圧レベルに関し、3方向についての測定結果が示されている。図8は、筐体パネル3の正面方向(0°方向)、図9は、正面方向よりも5°下向きの方向(−5°方向)、図10は、正面方向よりも10°下向きの方向(−10°方向)、図11は、正面方向よりも15°下向きの方向(−15°方向)について、それぞれ音圧レベルの周波数特性が示されている。また、図中の実線55は、下側の配線パターン11bの駆動信号を遅延させた場合における周波数特性であり、破線56は、遅延させなかった場合における周波数特性である。
【0042】
この測定結果によれば、指向性の低い5kHz以下の帯域では、いずれの方向を比較しても、また、同一方向における特性55,56を比較しても、音圧レベルにほとんど差は生じていない。しかしながら、5kHzよりも高い帯域に注目すれば、特性55,56の音圧レベルの大小関係が、方向によって逆転していることがわかる。すなわち、0度方向では、遅延させない特性56の音圧レベルの方が大きいが、−5°方向では、特性55,56の音圧レベルがほぼ等しくなり、−10°方向では、遅延させた特性55の音圧レベルの方が大きくなっている。また、−15°方向では、遅延させない特性56において発生している7kHz付近のディップ(落ち込み)が、遅延させた特性55では発生しておらず、7kHz付近の音が聞こえ易くなっていることがわかる。つまり、配線パターン11aへの駆動信号に比べて、配線パターン11bへの駆動信号を遅延させることによって、5〜15kHzの周波数帯域について、指向方向を下側に向けることができ、斜め下方向において聞き取り易くなっていることがわかる。
【0043】
本実施の形態による薄型両面スピーカ100は、2枚の永久磁石板2間に振動板1を配置し、ニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターン12を振動板1上に形成している。このため、直線パターン12に駆動信号を供給することにより、振動板1を厚さ方向に振動させ、その振動音を永久磁石板2の放音孔2hから放出することができる。
【0044】
このような薄型両面スピーカ100において、振動板1を2以上の振動エリア15a,15bに区分し、各振動エリア15a,15bごとに直線パターン12を連結した配線パターン11a,11bが形成されている。このため、各配線パターン11a,11bに対し、異なる駆動信号を供給すれば、振動エリアごとに異なる音を生成させることができる。従って同一の振動板1を2以上の振動エリア15a,15bごとに振動させ、2以上のスピーカとして用いることができる。しかも、1つの振動板を2以上の振動エリアに区分して使用するため、2以上のスピーカを備えた従来のスピーカアレイ装置に比べ、装置サイズを大幅に小型化することができる。
【0045】
また、本実施の形態による薄型両面スピーカ100は、振動エリア15a,15bに対応する2以上の給電端子1tを備え、配線パターン11a,11bが、異なる給電端子1tにそれぞれ接続されている。このため、各給電端子1tに対し、遅延時間の異なる駆動信号を供給すれば、薄型両面スピーカの指向方向を制御することができる。従って、薄型両面スピーカの指向方向を放音面の正面方向に対し傾けることができる。しかも、2つの放音面の指向方向を同じ方向に同時に傾けることができる。さらに、遅延時間を調整することにより、正面方向と指向方向のなす角度を調整することもできる。つまり、従来のスピーカアレイ装置と同様に使用することができる。
【0046】
また、本実施の形態による薄型両面スピーカ100は、ボルト20、スペーサ21及びナット22からなる筐体パネル3の締結手段が、永久磁石板2間のギャップ幅を規制しているため、永久磁石板2が撓み、中央部のギャップが周縁部よりも広くなるのを防止している。このため、永久磁石板2間のギャップを均一にすることができ、スピーカ特性を向上させ、製品ごとの品質のバラツキを抑えることができる。
【0047】
また、本実施の形態では、2以上の配線パターン11a,11bに対し、遅延時間の異なる同一の駆動信号を供給することにより、指向方向を傾ける場合の例について説明したが、例えば、各配線パターン11a,11bに対し、異なる音源装置から供給された駆動信号をそれぞれ供給し、振動エリア15a,15bごとに異なる音声を出力させることもできる。
【0048】
実施の形態2.
実施の形態1では、振動板1を2つの振動エリア15a,15bに区分し、これらの振動エリア15a,15bに対応づけて、互いに独立した2つの配線パターン11a,11bを形成する場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、振動板1'を3つの振動エリア15a〜15cに区分し、これらの振動エリア15a〜15cに対応づけて、互いに独立した3つの配線パターン11a〜11cを形成する場合について説明する。
【0049】
図12は、本発明の形態2による薄型両面スピーカ100の要部について一構成例を示した図であり、振動板1'の一構成例が示されている。この振動板1'は、3つの振動エリア15a〜15cに区分されている。各振動エリア15a〜15cは、それぞれ2以上の直線パターン12を内包している。配線パターン11a〜11cは、対応する振動エリア15a〜15c内の直線パターン12を連結した蛇行パターンであり、それぞれ異なる給電端子1tに接続されている。その他の構成は、実施の形態1と同様であるため、重複する説明は省略する。
【0050】
本実施の形態によれば、振動板1'を3以上の振動エリア15a〜15cに区分し、各振動エリア15a〜15cを異なる駆動信号によって独立して駆動することができる。このため、独立した振動板をそれぞれ有する3つのスピーカを備えた複合スピーカに比べて小型の複合スピーカを実現することができる。また、振動板1'を3つの振動エリア15a〜15cに区分し、遅延時間の異なる駆動信号を供給することにより、指向特性についてより自由度の高い制御を行うことができる。
【0051】
また、振動板1'を区分する振動エリア15a,15b,…の数が多くなれば、駆動エリアの数に応じて振動板1の面積も大きくなる。その結果、永久磁石板2が撓み易くなり、永久磁石板2間のギャップのばらつきも大きくなる傾向にある。このため、振動板1を3以上の駆動エリアに区分する場合、永久磁石板2のギャップを規制するギャップ規制手段を設けることが特に好適である。
【0052】
実施の形態3.
上記実施の形態では、ギャップ規制手段を駆動エリア15a〜15c間に配置する場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、駆動エリア15b内にギャップ規制手段を設ける場合について説明する。
【0053】
図13は、本発明の形態3による薄型両面スピーカ100の要部について一構成例を示した図であり、振動板1の一構成例が示されている。この振動板1''も、3つの振動エリア15a〜15cに区分されているが、3つの締結孔1jが振動エリア5b内に形成されている点で図12の振動板1'とは異なる。つまり、3組のボルト20、スペーサ21及びナット22からなる締結手段が、振動エリア5b内に配置されている。
【0054】
一般に、薄型両面スピーカは、永久磁石板2間のギャップ幅が所定範囲から外れると、スピーカ特性が著しく劣化する。このため、駆動エリア15a〜15c間にギャップ規制手段を設ける構成に代えて、駆動エリア15b内にギャップ規制手段を設ける構成を採用し、永久磁石板2間ギャップを均一化してもよい。
【0055】
この場合、振動エリア15b内において、締結孔1jと干渉する直線パターン12を間引くと、振動エリア5b内に非振動エリアが形成され、各振動エリア15bの面積が実質的に狭くなり、スピーカ特性を劣化させてしまうという問題が生じる。そこで、締結孔1jを迂回する迂回パターン12nを有する迂回直線パターン12mを用いることにより、締結孔1jを配置することによって生じる振動エリア15b内に非振動エリアを最小化している。
【0056】
なお、永久磁石板2の締結孔2jを広げて、振動板1''の締結孔1j及び迂回パターン12nに対向させることにより、迂回パターン12nが、ニュートラルゾーン以外の永久磁石板2と対向するのを防止することができる点は、上記実施の形態1,2の場合と同様である。
【0057】
実施の形態4.
上記実施の形態では、直線パターン12が振動板1の長手方向と平行に延び、2以上の振動エリア15a〜15cの互いに対向する辺、つまり、振動エリア15a〜15cの境界線が、直線パターン12と平行となる場合の例について説明した。これに対し、本実施の形態では、直線パターン12が振動板1の短手方向と平行に延び、振動エリア15a,15bの境界線が、直線パターン12の延伸方向と交差している場合について説明する。
【0058】
図14は、本発明の形態4による薄型両面スピーカ100の要部について一構成例を示した図であり、振動板1の一構成例が示されている。この振動板1'''は、2つの振動エリア15a,15bに区分されている。図4の振動板1(実施の形態1)の場合と比較すれば、直線パターン12が略中央で分割され、その一方が振動エリア15aに属し、他方が振動エリア15bに属している点で異なる。
【0059】
直線パターン12は、振動板1'''の短手方向と平行となるように配置され、図示しない多極着磁パターンも上記短手方向と平行となるように配置されている。そして、振動エリア15a,15bの境界線は、直線パターン12及び図示しない多極着磁パターンの延伸方向と直交している。つまり、振動板1を2以上の振動エリア15a,15bに分割する際、2以上の振動エリア15a,15bの対向する辺は、実施の形態1〜3で示したように、直線パターン12及び着磁パターンの延伸方向と一致するように分割することもできるし、本実施の形態で示したように、交差するように分割することもできる。
【0060】
なお、上記実施の形態では、同一の振動エリア15a〜15cに属する直線パターン12を連結して蛇行パターンを形成する場合の例について説明したが、本発明は、このような場合のみに限定されない。すなわち、互いに隣接する直線パターン12に逆方向に電流が流れるように、多数の直線パターン12が連結されていればよく、蛇行パターンのみに限定されない。
【符号の説明】
【0061】
1,1',1'',1''' 振動板
1j 締結孔
1t 給電端子
2 永久磁石板
2h 放音孔
2j 締結孔
3 筐体パネル
3h 放音孔
3t 端子孔
4 筐体フレーム
4t 端子孔
10 樹脂フィルム
11,11a〜11c 配線パターン
12 直線パターン
12m 迂回直線パターン
12n 迂回パターン
14 保護膜
15a〜15c 振動エリア
50 音源装置
51 遅延回路
100 薄型両面スピーカ
bs 緩衝シート
et 外部端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに平行となる帯状のN極及びS極が交互に現れる多極着磁パターンが形成され、異極間のニュートラルゾーンに多数の放音孔が形成された2枚の永久磁石板と、
同極を対向させた2枚の上記永久磁石板間に配置され、上記ニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターンが形成された振動板とを備え、
上記振動板は、それぞれが隣接する2以上の直線パターンからなる2以上の振動エリアに区分され、
上記振動エリアごとに上記直線パターンが連結され、遅延時間を異ならせた同一の駆動信号が供給可能な2以上の配線パターンが形成されていることを特徴とする薄型両面スピーカ。
【請求項2】
上記各振動エリアは矩形からなり、それぞれの一辺を対向させて互いに隣接していることを特徴とする請求項1に記載の薄型両面スピーカ。
【請求項3】
上記振動板を貫通し、上記永久磁石板間のギャップを規制するギャップ規制部材が、上記振動エリア内又は上記振動エリア間に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の薄型両面スピーカ。
【請求項4】
上記直線パターンは、上記ギャップ規制部材を迂回する迂回パターンを有することを特徴とする請求項3に記載の薄型両面スピーカ。
【請求項5】
上記永久磁石板は、上記迂回パターンに対向する貫通孔を有することを特徴とする請求項4に記載の薄型両面スピーカ。
【請求項1】
互いに平行となる帯状のN極及びS極が交互に現れる多極着磁パターンが形成され、異極間のニュートラルゾーンに多数の放音孔が形成された2枚の永久磁石板と、
同極を対向させた2枚の上記永久磁石板間に配置され、上記ニュートラルゾーンに対応する多数の直線パターンが形成された振動板とを備え、
上記振動板は、それぞれが隣接する2以上の直線パターンからなる2以上の振動エリアに区分され、
上記振動エリアごとに上記直線パターンが連結され、遅延時間を異ならせた同一の駆動信号が供給可能な2以上の配線パターンが形成されていることを特徴とする薄型両面スピーカ。
【請求項2】
上記各振動エリアは矩形からなり、それぞれの一辺を対向させて互いに隣接していることを特徴とする請求項1に記載の薄型両面スピーカ。
【請求項3】
上記振動板を貫通し、上記永久磁石板間のギャップを規制するギャップ規制部材が、上記振動エリア内又は上記振動エリア間に配置されていることを特徴とする請求項2に記載の薄型両面スピーカ。
【請求項4】
上記直線パターンは、上記ギャップ規制部材を迂回する迂回パターンを有することを特徴とする請求項3に記載の薄型両面スピーカ。
【請求項5】
上記永久磁石板は、上記迂回パターンに対向する貫通孔を有することを特徴とする請求項4に記載の薄型両面スピーカ。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2012−100233(P2012−100233A)
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−250191(P2010−250191)
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000223182)ティーオーエー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成24年5月24日(2012.5.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月8日(2010.11.8)
【出願人】(000223182)ティーオーエー株式会社 (190)
【Fターム(参考)】
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