薄型音響電気機械変換器
【課題】 振動板のバタツキを防止することによって、従来よりも良好な音響特性を得ることができる薄型音響電気機械変換器を提供する。
【解決手段】 本発明に係る薄型音響電気機械変換器としての平面スピーカ10は、可撓性を有する薄膜にコイルが密着形成された構造の振動膜12と、この振動膜12に対向して設けられた一対の永久磁石板18および20と、これらを保持する筐体としての前面カバー22および背面板24と、を具備する。コイルに電流が流れると、フレミングの左手の法則に従って、振動膜12の厚み方向に沿う機械力が当該コイルに作用する。そして、コイルに付随して振動膜12が振動することで、音波が発生する。なお、振動膜12は、上下2箇所に設けられた端子板62および64を介して、筐体に固定されている。ゆえに、振動膜12が振動する際のバタツキが防止され、良好な音響特性が得られる。
【解決手段】 本発明に係る薄型音響電気機械変換器としての平面スピーカ10は、可撓性を有する薄膜にコイルが密着形成された構造の振動膜12と、この振動膜12に対向して設けられた一対の永久磁石板18および20と、これらを保持する筐体としての前面カバー22および背面板24と、を具備する。コイルに電流が流れると、フレミングの左手の法則に従って、振動膜12の厚み方向に沿う機械力が当該コイルに作用する。そして、コイルに付随して振動膜12が振動することで、音波が発生する。なお、振動膜12は、上下2箇所に設けられた端子板62および64を介して、筐体に固定されている。ゆえに、振動膜12が振動する際のバタツキが防止され、良好な音響特性が得られる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型音響電気機械変換器に関し、特に、可撓性を有する薄膜にコイルが密着形成された構造の振動膜と、この振動膜に対向して設けられておりコイルの延伸方向を横切る磁界を発生させる磁石板と、これら振動膜および磁石板を保持する筐体と、を具備し、コイルに流れる電流と振動膜の厚み方向に沿って当該コイルに作用する機械力との一方から他方に変換する、薄型音響電気機械変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の薄型音響電気機械変換器として、従来、例えば特許文献1に開示された平面スピーカ(平板スピーカ)がある。この平面スピーカは、永久磁石板と、この永久磁石板に対向するように配置された振動膜と、これら永久磁石板および振動膜間に介在する緩衝部材と、永久磁石板に対する振動膜の相対位置を規制する支持部材と、を具備する。そして、永久磁石板の振動膜と対向する側の面には、その全体にわたって帯状のN極とS極とが交互に現れる平行縞状の多極着磁パターンが形成されている。なお、この多極着磁パターン面のうち、N極とS極との境界付近においては、基本的に当該多極着磁パターン面に垂直な方向の磁界がないことから、これらN極とS極との境界付近は、ニュートラルゾーンと呼ばれている。一方、振動膜は、薄くて柔軟な樹脂フィルムに蛇行形状の導線パターンから成るコイルがプリント配線された構造であって、当該導線パターンの直線部分が永久磁石板のニュートラルゾーンに対応する位置に当たるように、設けられている。さらに、振動膜は、その面内方向の変位のみが規制され、厚み方向には自由に変位できるように、支持部材によって支持されている。そして、緩衝部材は、柔軟でありかつ通気性を有すると共に振動膜と略同じ大きさのシートが積み重ねられた構造のものであり、このシートと永久磁石板との間、若しくは当該シートと振動膜との間に、隙間が形成されるように、配設されている。
【0003】
このように構成された平面スピーカによれば、コイル(導線パターン)の直線部分を直角に横切る方向に磁力線が通る。このため、コイルに駆動電流が供給されると、フレミングの左手の法則に従って、振動膜の厚み方向に沿う機械力(電磁力)が当該コイルに作用する。そして、コイルに付随して振動膜(樹脂フィルム)がその厚み方向に振動し、この結果、音波が発生する。つまり、当該音波の発生のために、駆動電流という電気エネルギから機械力という機械エネルギへの変換が成される。なお、これとは反対に、機械エネルギから電気エネルギへの変換においても、要するにマイクロホンにおいても、従来技術は適用可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−331596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来技術では明示されていないが、通常、コイルの両端は、平面スピーカの筐体に固定された端子に接続される。また、この端子は、外部配線との接続の容易性や外観的な意匠性の見地から、従来技術では、1箇所に集中して設けられる。ところが、端子が1箇所に集中して設けられると、コイルを含む振動膜は、当該1箇所で筐体に固定された状態となる。すると、振動膜が振動する際に、この1箇所が支点となり、当該振動膜がバタバタと暴れて、言わばバタツキを生ずる。このバタツキは、言うまでもなく音響特性に悪影響を与えるため、好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は、振動膜のバタツキを解消することによって、従来よりも良好な音響特性を得ることができる薄型音響電気機械変換器を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、可撓性を有する薄膜にコイルが密着形成された構造の振動膜と、この振動膜に対向して設けられておりコイルの延伸方向を横切る磁界を発生させる磁石板と、これら振動膜および磁石板を保持する筐体と、を具備し、コイルに流れる電流と振動膜の厚み方向に沿って当該コイルに作用する機械力との一方から他方に変換する薄型音響電気機械変換器を、前提とする。この前提の下、振動膜の側縁部分であって或る直線に関して互いに略線対称を成し、かつ当該直線上の或る点に関して互いに略点対称を成す2箇所に、コイルの一対の端末処理部が設けられている。そして、このコイルの一対の端末処理部は、それぞれに対応して筐体に固定された端子に接続されたことを、特徴とする。
【0008】
このように構成された本発明によれば、コイルの延伸方向を横切る磁界が、磁石板から発生されている。ここで、例えば、コイルに電流が流れる、とする。すると、フレミングの左手の法則に従って、振動膜の厚み方向に沿う機械力が当該コイルに作用する。そして、コイルに付随して振動膜(薄膜)がその厚み方向に振動し、この結果、音波が発生する。つまり、当該音波の発生のために、電流という電気エネルギから機械力という機械エネルギへの変換が成され、要するにスピーカが実現される。これとは反対に、振動膜に音波が当たることによって、当該振動膜に機械力が作用する、とする。すると、振動膜がその厚み方向に沿って振動し、これに伴って、コイルも振動する。この結果、フレミングの右手の法則に従って、コイルに電流が流れる。つまり、音波によって作用される機械エネルギから電気エネルギへの変換が成され、要するにマイクロホンが実現される。
【0009】
ところで、本発明においては、振動膜の側縁部分であって或る直線に関して互いに略線対称を成し、かつ当該直線上の或る点に関して互いに略点対称を成す2箇所に、コイルの一対の端末処理部、例えば当該コイルの両端が、設けられている。そして、このコイルの両端は、それぞれに対応して筐体に固定された端子に、接続されている。即ち、コイルを含む振動膜は、当該2箇所で筐体に固定される。そして、この固定状態は、バランスの取れたものとなる。従って、振動膜が振動する際に、上述のバタツキが防止される。
【0010】
なお、本発明においては、偶数本のコイルが形成されていてもよい。この場合、それぞれのコイルは、一端を第1端末部とし、他端を第2端末部とする。そして、それぞれのコイルの第1端末部と第2端末部との間に流れる電流と、当該それぞれのコイルに作用する機械力との関係は、各コイル間で共通するものとする。例えば、或るコイルの第1端末部から第2端末部に向かって電流が流れることによって、当該或るコイルに対して或る方向の機械力が作用する、とする。すると、別のコイルの第1端末部から第2端末部に向かって電流が流れたときにも、当該別のコイルに対して同じ方向の機械力が作用する。また、例えば、振動膜に音波が当たることによって、当該振動膜に機械力が作用したときには、全てのコイルに同じ方向の電流が流れる。このような関係がある上で、それぞれのコイルごとに、第1端末部は、上述した2箇所の一方に設けられ、第2端末部は、当該2箇所の他方に設けられる。また、これら2箇所間で、第1端末部および第2端末部それぞれの数が同じであるものとする。さらに、全ての第1端末部および全ての第2端末部それぞれに対応して、端子が設けられる。
【0011】
この構成によれば、本発明の薄型音響電気機械変換器の使用態様(バリエーション)が豊富になり、かつ柔軟になる。例えば、当該薄型音響電気機械変換器が1台のみで使用される場合には、全てのコイルが直列接続されるようにすればよい。具体的には、上述した2箇所の一方側において、いずれかのコイルの第1端末部に接続された端子と、別のコイルの第2端末部に接続された端子とが、外部配線に接続され、それ以外の端子については、任意の第1端末部に接続されたものと、任意の第2端末部に接続されたものとが、互いに接続される。そして、2箇所の他方側においては、全ての端子について、任意の第1端末部に接続されたものと、任意の第2端末部に接続されたものとが、互いに接続される。これによって、1本の長いコイルが形成されるので、高い変換効率が得られる。しかも、各端子間の接続は、互いの位置が近いもの同士で行われるので、その作業が容易かつ簡潔である。
【0012】
また、例えば、複数台の薄型音響電気機械変換器が使用される場合には、これら複数台の薄型音響電気機械変換器間で全てのコイルが直列接続されるようにすればよい。具体的には、それぞれの薄型音響電気機械変換器ごとに、上述した2箇所の一方側において、いずれかのコイルの第1端末部に接続された端子と、別のコイルの第2端末部に接続された端子と、を除く全ての端子について、任意の第1端末部に接続されたものと、任意の第2端末部に接続されたものとが、互いに接続される。また、当該2箇所の他方側においても、同様に、いずれかのコイルの第1端末部に接続された端子と、別のコイルの第2端末部に接続された端子と、を除く全ての端子について、任意の第1端末部に接続されたものと、任意の第2端末部に接続されたものとが、互いに接続される。そして、或る薄型音響電気機械変換器における上述した2箇所の一方側と、別の薄型音響電気機械変換器における当該2箇所の他方側との間で、未接続とされている各端子のうち、第1端子部に接続されたものと、第2端子部に接続されたものとが、互いに接続される。これと同様の接続が、全ての薄型音響電気機械変換器間で成される。ただし、1台の薄型音響電気機械変換器については、当該2箇所の一方側において、未接続とされている2つの端子同士が接続される。併せて、別の薄型音響電気機械変換器については、当該2箇所の他方側において、未接続とされている2つの端子に外部配線が接続される。これによって、複数台の薄型音響電気機械変換器間で全てのコイルが直列接続され、言い換えれば当該各薄型音響電気機械変換器が直列接続され、いわゆるアレイが構成される。しかも、各薄型音響電気機械変換器間の接続は、互いに近い位置にある端子間で成されるので、その作業が容易かつ簡潔である。
【0013】
本発明は、スピーカに好適である。特に、振動膜が大きいスピーカほど、好適である。即ち、上述した従来技術のように振動膜が1箇所で固定されている場合には、当該振動膜が大きいほど、上述のバタツキが生じ易くなる。本発明は、このようにバタツキが生じ易い大きな振動膜を有するスピーカに極めて有効である。
【0014】
また、本発明がスピーカに適用される場合、コイルは、自身の延伸方向を横切る方向に突出した突出部を有するものであってもよい。このような突出部がコイルに設けられることによって、当該突出部が設けられた部分におけるコイルと薄膜との密着力が増大する。これは、当該突出部が設けられた部分において、コイルに付随して振動する薄膜の応答性が向上することを意味する。その一方で、突出部が設けられた部分では、当該突出部の分だけ重量が増大するので、これもまた応答性に影響する。即ち、突出部が設けられることによって、振動膜全体の応答性が変わり、ひいてはスピーカ全体の音響特性が変わる。言い換えれば、当該突出部は、スピーカ全体の音響特性を制御する制御手段として機能する。なお、突出部には、電流は流れないので、当該突出部が設けられることによって、コイルに流れる電流に特段な影響を与えることはない。
【0015】
さらに、振動膜が存在する空間と外部空間とを連通する連通路が設けられている場合には、この連通路に合わせて突出部が設けられるのが、望ましい。即ち、ここで言う連通路は、振動膜が振動することによって発生する音波を外部空間に向かって放出させるための音波放出路として機能する。従って、このような音波放出路として機能する連通路に合わせて突出部が設けられることで、当該突出部の有効性がより顕著になる。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明によれば、コイルを含む振動膜が、2箇所でバランスの取れた状態で固定される。従って、振動膜が1箇所で固定されるためにバタツキを生じる従来技術とは異なり、当該バタツキが防止される。ゆえに、従来よりも良好な音響特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る平面スピーカの概略構成を示す図である。
【図2】同平面スピーカの組み立て図である。
【図3】同平面スピーカにおける振動膜の概略構成を示す図解図である。
【図4】同振動膜の固定状態を示す図解図である。
【図5】同平面スピーカの使用態様を示す図解図である。
【図6】図5とは異なる使用態様を示す図解図である。
【図7】本実施形態の比較対照用としての従来技術における振動膜の固定状態を示す図解図である。
【図8】同従来技術の別の例を示す図解図である。
【図9】図3とは異なる態様の振動膜を示す図解図である。
【図10】図9とはさらに異なる態様の振動膜を示す図解図である。
【図11】図10とはさらに異なる態様の振動膜を示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明が適用された平面スピーカ10の一実施形態について、以下に説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る平面スピーカ10は、外観的には扁平の概略直方体状のものである。そして、構造的には、図2に示す組み立て図からも分かるように、1枚の振動膜12と、この振動膜12の両面を挟むように設けられた2枚の緩衝部材14および16と、これらの緩衝部材14および16をさらに外側から挟むように設けられた2つの永久磁石板18および20と、筐体としての前面カバー22および背面板24と、から成る。
【0020】
振動膜12は、図3に示すように、概略矩形の薄膜26と、この薄膜26の前面および背面それぞれに形成された蛇行形状のコイル28および30と、から成る。このうち、薄膜26は、例えば厚さ寸法が30[μm]程度の可撓性を有する樹脂製フィルムである。このような樹脂製フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムや芳香族ポリイミドフィルム等がある。また、薄膜26の上端縁および下端縁それぞれの中央には、凹状の切欠32および34が設けられている。
【0021】
一方、コイル28および30は、例えばプリント配線技術によって形成された厚さ寸法が20[μm]〜50[μm]の銅箔パターンであり、互いに共役な関係にある。詳しくは、前面側のコイル28の一端、例えば図3(a)における上方側の端部36は、第1端末部としてのプラス端子とされており、このプラス端子36は、上方側の切欠32の側縁近傍に設けられている。そして、この前面側のコイル28の他端38は、第2端末部としてのマイナス端子とされており、このマイナス端子38は、下方側の切欠34の側縁近傍に設けられている。これに対して、背面側のコイル30の一端、例えば図3(b)における上方側の端部40は、第2端末部としてのマイナス端子とされており、このマイナス端子40は、上方側の切欠32の側縁近傍に設けられている。そして、この背面側のコイル30の他端42は、第1端末部としてのプラス端子とされており、このプラス端子42は、下方側の切欠34の側縁近傍に設けられている。さらに、前面側のコイル28において、水平方向に沿って延伸するように多数設けられている直線部分と、背面側のコイル30において、同様に設けられている多数の直線部分とは、薄膜26を挟んで、互いに重なっている。そして、前面側のコイル28のプラス端子36と、背面側のコイル30のマイナス端子40とは、上方側の切欠32を挟んで、互いに対向しており、前面側のコイル28のマイナス端子38と、背面側のコイル30のプラス端子42とは、下方側の切欠34を挟んで、互いに対向している。
【0022】
この共役関係によれば、例えば、前面側のコイル28のプラス端子36からマイナス端子38に向かって電流が流れると共に、背面側のコイル30のプラス端子42からマイナス端子40に向かって電流が流れるとき、これらの電流は、それぞれの直線部分において互いに同じ方向に流れることになる。そして、前面側のコイル28のマイナス端子38からプラス端子36に向かって電流が流れると共に、背面側のコイル30のマイナス端子40からプラス端子42に向かって電流が流れるときにも、これらの電流は、それぞれの直線部分において互いに同じ方向に流れる。また、前面側のコイル28のプラス端子36と、背面側のコイル30のマイナス端子40と、を1つの端子群として見ると共に、前面側のコイル28のマイナス端子38と、背面側のコイル30のプラス端子42と、を1つの端子群として見ると、これらの端子群は、薄膜26の中心に関して、互いに点対称を成す。併せて、当該各端子群は、薄膜26の中心を通りかつ各コイル28および30それぞれの直線部分に平行な直線に関して、線対称を成す。要するに、これらの端子群は、図3の上下方向および左右方向のそれぞれにおいて、バランスよく配置されている。
【0023】
図1および図2に戻って、緩衝部材14および16は、いずれも振動膜12(薄膜26)と略同じ大きさの概略矩形のシートであり、柔軟性および通気性を有する素材によって形成されている。このような素材としては、例えば不織布がある。また、振動膜12の背面側に位置する緩衝部材16には、当該振動膜12(薄膜26)と同様の切欠44(下側の切欠については図示せず)が設けられている。
【0024】
永久磁石板18および20は、いずれも適当な厚みがあり、それぞれの表面は振動膜12よりも少し大きめの概略平板状のものであり、例えばフェライトや希土類磁性粉を含んだ樹脂磁石またはゴム磁石によって形成されている。そして、図には示さないが、(緩衝部材14を挟んで)振動膜12の前面側に位置する永久磁石板18の当該振動膜12と対向する側の面には、上述した前面側コイル28の各直線部分の並び方向に沿ってN極とS極とが交互に現れる平行縞状の多極着磁パターンが形成されている。より詳しくは、多極着磁パターン面の各N極と各S極との各境界部分は、ニュートラルゾーンとされており、これらのニュートラルゾーンが、前面側コイル28の各直線部分と対向するように、当該多極着磁パターンが形成されている。さらに、各ニュートラルゾーン上の適宜の位置に、例えば千鳥格子状に、永久磁石板18をその前面側から背面側に貫通するように、複数の貫通孔46,46,…が設けられている。なお、多極着磁パターンを含む永久磁石板18の構成や、当該多極着磁パターンと前面側コイル28との位置関係、各貫通孔46,46,…の穿設位置については、上述した従来技術(特許文献1)と同様であるので、これ以上の詳しい説明は省略する。
【0025】
振動膜12の背面側に位置する永久磁石板20についても、同様に、(緩衝部材16を挟んで)当該振動膜12と対向する側の面に、多極着磁パターンが形成されている。詳しくは、背面側コイル30の各直線部分の並び方向に沿ってN極とS極とが交互に現れるように、当該多極着磁パターンが形成されている。そして、この背面側の多極着磁パターンの各ニュートラルゾーンは、背面側コイル30の各直線部分に対向している。さらに、当該背面側の多極着磁パターンと、上述した前面側の多極着磁パターンとは、振動膜12(および緩衝部材14,16)を挟んで、互いのN極同士およびS極同士が対向するように、形成されている。つまり、多極着磁パターンもまた、前面側と背面側とで、互いに共役な関係にある。そして、この背面側の多極着磁パターンの各ニュートラルゾーン上にも、永久磁石板20をその前面側から背面側に貫通するように、複数の貫通孔48,48,…が設けられている。そしてさらに、当該永久磁石板20の上端縁および下端縁それぞれの中央には、緩衝部材16と同様に、凹状の切欠50および52(特に図1(d)参照)が設けられている。
【0026】
前面カバー22は、鉄板等の高透磁率の金属製であり、その内部空間に、背面板24を除く全ての構成要素が収容される。特に、前面側の永久磁石板18は、その磁気吸着力によって、当該前面カバー22の内側面に固定される。そして、この前面カバー22にも、永久磁石板18の各貫通孔46,46,…と対向する位置に、貫通孔54,54,…が設けられている。さらに、この前面カバー22の側面の背面側部分には、次に説明する背面板24の各切り込み部56,56,…に係止される複数の係止爪58,58,…が設けられている。
【0027】
背面板24もまた、高透磁率金属製であり、この背面板24に設けられた各切り込み部56,56,…に上述の前面カバー22の各係止爪58,58,…が係止されることで、当該前面カバー22と共に筐体を完成する。併せて、この背面板24の内側面に、背面側の永久磁石板20が磁気吸着力によって固定される。このとき、当該背面側の永久磁石板20と、上述した前面側の永久磁石板18との間には、或る一定の大きさの隙間、例えば数[mm]の隙間59が、設けられる。そして、この隙間59内に、振動膜12と各緩衝部材14および16とが適当な余裕(遊び)を持って、介在する。さらに、この背面板24にも、永久磁石板20の各貫通孔48,48,…と対向する位置に、貫通孔60,60,…が設けられている。また、この背面板24の上端縁および下端縁それぞれの中央付近に、端子台62および64が設けられている。
【0028】
このうちの上方側の端子台62は、特に図4に示すように、前面側コイル28のプラス端子36と接続される上方側プラス端子66と、背面側コイル30のマイナス端子40と接続される上方側マイナス端子68と、を有している。なお、これらの上方側の端子66および68は、いずれも背面板24と絶縁された状態で、外部に引き出されている(厳密にはそれぞれに対応する外部端子に接続されている)。また、この端子台62側の各端子66および68と、振動膜12側の各端子36および40との接続は、いずれもワイヤ等の適当な導電線によって実現されるが、当該振動膜12側の各端子36および40それぞれの銅箔パターンが端子台62側の各端子66および68にまで延長されることによって実現されてもよい。そして、これら端子台62側の各端子66および68と振動膜12側の各端子36および40との接続のために、上述の如く背面側の永久磁石板20の上端縁に切欠部50が設けられると共に、背面側の緩衝部材16の上端縁に切欠部44が設けられ、さらに振動膜12(薄膜26)の上端縁に切欠部32が設けられている。
【0029】
一方、下方側の端子台64は、前面側コイル28のマイナス端子38と接続される下方側マイナス端子70と、背面側コイル30のプラス端子42と接続される下方側プラス端子72と、を有している。そして、これらの下方側の端子70および72は、いずれも背面板24と絶縁された状態で、外部に引き出されている。なお、この下方側端子台64の各端子70および72と、振動膜12側の各端子38および42との接続も、ワイヤ等の適当な導電線によって実現されるが、当該振動膜12側の各端子38および42それぞれの銅箔パターンが端子台64側の各端子70および72にまで延長されることによって実現されてもよい。また、これら端子台64側の各端子70および72と振動膜12側の各端子38および42との接続のために、背面側の永久磁石板20の下端縁に切欠部52が設けられると共に、背面側の緩衝部材16の下端縁に図示しない切欠部が設けられ、さらに振動膜12(薄膜26)の下端縁に切欠部34が設けられている。
【0030】
このように構成された平面スピーカ10は、1台のみで使用されるときには、図5に示すような態様とされる。即ち、上方側の各端子66および68同士が、被覆ケーブル等の適当な導電線74によって接続される。こうすることで、上述の図4からも分かるように、前面側コイル28と背面側コイル30とが互いに直列接続される。そして、下方側の各端子70および72が、図示しない外部配線に接続される。つまり、これらの端子70および72間に、オーディオ信号が入力される。
【0031】
このようにしてオーディオ信号が入力されると、このオーディオ信号に従う電流が前面側コイル28および背面側コイル30それぞれに流れる。そして、特にそれぞれのコイル28および30の直線部分において、当該電流は、磁界を直角に横切る方向に流れる。すると、フレミングの左手の法則に従って、振動膜12(薄膜26)の厚み方向に沿う機械力が、当該各コイル28および30に同時に作用する。しかも、この機械力が作用する方向は、各コイル28および30間で同じである。つまり、各コイル28および30は、同時かつ同じ方向に振動する。そして、これらのコイル28および30に付随して、振動膜12が振動する。この結果、音波が発生する。詳しくは、前面側に対しては、当該前面側の永久磁石板18に設けられた各貫通孔46,46,…と、前面カバー22に設けられた各貫通孔54,54,…とを介して、音波が外部に放出される。そして、背面側に対しては、当該背面側の永久磁石板20に設けられた各貫通孔48,48,…と、背面板24に設けられた各貫通孔60,60,…とを介して、音波が外部に放出される。
【0032】
また、複数台、例えば2台の平面スピーカ10および10が使用されるときは、図6に示すような態様とされる。即ち、1台の平面スピーカ10については、図5に示したのと同様に、その上方側端子66および68同士が、適当な導電線74によって接続される。そして、この平面スピーカ10の下方側マイナス端子70と、別の平面スピーカ10の上方側プラス端子66とが、適当な導電線76によって接続される。さらに、当該平面スピーカ10の下方側プラス端子72と、別の平面スピーカ10の上方側マイナス端子68とが、適当な導電線78によって接続される。こうすることで、各平面スピーカ10および10間で全てのコイル28,28,30および30が直列接続される。言い換えれば、2台の平面スピーカ10および10から成るアレイスピーカが実現される。そして、当該別の平面スピーカ10の未接続とされている下方側の各端子70および72に、図示しない外部配線が接続される。
【0033】
なお、この図6に示す態様においては、各平面スピーカ10および10間の接続は、一方の下方側端子70および72(端子台64)と他方の上方側端子66および68(端子台66)との間で成されるので、その作業が極めて容易かつ簡潔である。また、意匠性にも優れる。このことは、3台以上の平面スピーカ10,10,…が接続される場合にも、全く同様である。
【0034】
ところで、本実施形態においては、図4に示したように、振動膜12は、その上端側および下端側の2箇所で、各端子台62および64を介して、筐体である背面板24に固定される。そして、この固定箇所である2箇所は、振動膜12(薄膜26)の中心に関して、互いに点対称を成す。併せて、当該2箇所は、振動膜12の中心を通りかつ水平方向に沿って延伸する直線に関して、線対称を成す。この結果、振動膜12は、当該2箇所において、バランスの取れた状態で筐体24に固定される。
【0035】
これに対して、上述した従来技術では、例えば図7に示すように、振動膜100が、1つの端子台102を介して、つまり1箇所で、筐体に固定される。このため、当該従来技術では、振動膜100が振動する際にバタツキを生ずる。なお、図7は、図4に倣って、振動膜100の固定状態を分かり易く例示したものであり、この図7では、振動膜100の本体としての薄膜103の片面にのみ、1本のコイル104が密着形成されている。そして、このコイル104の両端106および108は、端子台102に設けられた2つの端子110および112に接続されている。このような構成は、従来技術(特許文献1)には明示されていないが、当該従来技術においては、概ねこれと同様の構成が実用されている。
【0036】
また、従来技術においても、例えば図8に示すように、振動膜100(薄膜103)の両面にコイル120および122が形成される場合がある。ただし、この場合、従来技術では、各コイル120および122それぞれの一端(図8における上方側の端部)124および126が、端子台102の各端子110および112に接続される。そして、当該各コイル120および122それぞれの他端(図8における下方側の端部)は、スルーホール130を介して、互いに接続される。つまり、従来技術では、振動膜100の両面にコイル120および122が形成される場合であっても、当該振動膜100は1箇所でのみ筐体に固定される。ゆえに、依然としてバタツキが生じる。
【0037】
さらに、図8に示す従来の振動膜100おいては、各コイル120および122を直列接続する手段として、スルーホール130が採用されているが、このスルーホール130の形成には、相応のコストが掛かる。従って、このようなスルーホール130が形成されると、当然に、振動膜100の製造コストが高騰し、ひいてはスピーカ全体の価格が高騰する。また、スルーホール130に代えて、例えばワイヤ等の適当な導電線によって、各コイル120および122が直列接続されることもあるが、この場合、当該ワイヤも一緒に振動膜100と振動することになる。そうなると、当該ワイヤが振動膜100にとって不本意な負荷となり、ひいては音響特性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0038】
一方、本実施形態では、図8に示したようなスルーホール130など必要なく、また、振動膜12にとって不本意な負荷となるものも存在しない。この点においても、本実施形態は、従来技術に比べて、有益である。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、振動膜12が、2箇所でバランスの取れた状態で筐体24に固定される。従って、従来技術とは異なり、当該振動膜12がバタツキを生ずることはない。ゆえに、従来よりも良好な音響特性を得ることができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、振動膜12は、その厚み方向にのみ変位し、その内面方向には変位しない。これは、当該振動膜12の周縁が、前面カバー22の内周面によって規制されるからである。つまり、前面カバー22の内周面は、振動膜12の内面方向への変位を規制(制限)する規制手段として、機能する。これに対して、上述した従来技術では、振動膜の四隅に設けられたそれぞれの穴に支持棒が挿通されることで、当該振動膜の内面方向への変位が規制される(特に当該従来技術の第0021段落参照)。本実施形態においても、この従来技術におけるのと同様の要領で、振動膜12の内面方向への変位が規制されてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、振動膜12として、概略方形状のものが採用されたが、これに限らない。例えば、円形状や楕円状、六角形や八角形等の多角形状のものが採用されてもよい。ただし、当該振動膜12としては、これを2箇所でバランスよく筐体に固定できる形状のもの、つまり自身の中心に関して点対称を成し、かつ当該中心を通る直線に関して線対称を成す部分を有するものが、好ましい。なお、振動膜12の形状が変わると、これに応じて、永久磁石板18および20等の他の構成要素についても、それぞれの形状が適宜に変わることは、言うまでもない。
【0042】
さらに、本実施形態においては、振動膜12側の各端子36,38,40および42が、各端子台62および64側の端子66,68,70および72に接続されることによって、当該振動膜12が、当該各端子台62および64を介して、筐体24に固定されることとしたが、これに限らない。例えば、テープ等の別の手段によって、振動膜12が筐体24に固定されてもよい。
【0043】
そして、振動膜12については、前面側コイル28に、例えば図9に示すような突出部としての×状の附属パターン80,80,…が設けられると共に、背面側コイル30にも、同様の附属パターン80,80,…が設けられてもよい。このうち、前面側の附属パターン80,80,…は、前面側コイル28と共に、銅箔パターンによって形成されており、それぞれの位置は、前面側の永久磁石板18に設けられた各貫通孔46,46,…の位置に合わせられている。一方、背面側の附属パターン82,82,…もまた、背面側コイル30と共に、銅箔パターンによって形成されており、それぞれの位置は、背面側の永久磁石板20に設けられた各貫通孔48,48,…の位置に合わせられている。このような附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられることで、当該附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられた部分におけるコイル28と薄膜26との密着力が増大する。これは、当該附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられた部分において、それぞれのコイル28および30に附属して振動する薄膜26の応答性が向上することを意味する。その一方で、これらの附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられた部分では、当該附属パターン80,80,…および82,82,…の分だけ重量が増大するので、これもまた応答性に影響する。即ち、附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられることによって、振動膜12全体の応答性が変わり、ひいては平面スピーカ10全体の音響特性が変わる。言い換えれば、当該附属パターン80,80,…および82,82,…は、平面スピーカ10全体の音響特性を制御する制御手段として機能する。従って、これらの附属パターン80,80,…および82,82,…を適宜に形成することで、より良好な音響特性を得ることができる。なお、このような附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられることによって、それぞれのコイル28および30に流れる電流が影響を受けることが、懸念される。しかし、附属パターン80,80,…および82,82,…には電流は流れないので、そのような懸念は無用である。
【0044】
また、附属パターン80,80,…および82,82,…は、図10に示すような○状のものであってもよい。勿論、これ以外の形状、例えば□状のものや△状のものであってもよい。さらに、振動膜12の場所によって、附属パターン80,80,…および82,82,…の形状を変えてもよいし、当該附属パターン80,80,…および82,82,…の大きさや数(ピッチ)を変えてもよい。いずれにしても、希望の音響特性が得られるように、当該附属パターン80,80,…および82,82,…を形成すればよい。
【0045】
特に、図11に示すように、前面側の付属パターン80,80,…と、背面側の付属パターン82,82,…とが、言わば半ピッチずつ互いにずれた状態で形成されることによって、次のような効果が得られる。即ち、図9(または図10)に示したように、振動膜12の前面側と背面側との同じ位置に附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられると、この附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられた部分と、そうでない部分とで、振動膜12の機械的強度に大きな差異が生じ、併せて、重量差も生じる。この場合、振動膜12が振動する際に、当該振動膜12に不本意な歪みや撓みが生じ、音響特性に悪影響を及ぼす恐れがある。これに対して、図11に示す構成では、前面側の付属パターン80,80,…と、背面側の付属パターン82,82,…とが、振動膜12の全面にわたって一様に形成された状態にあるので、当該振動板12の全面にわたって一様な機械的強度となり、重量も一様となる。従って、振動膜12が振動する際の不本意な歪みや撓みが抑えられ、特に長手方向における当該不本意な歪みや撓みが抑えられる。このことは、良好な音響特性を得るのに、大きく貢献する。
【0046】
さらに、本実施形態では、振動膜12(薄膜26)の両面にコイル28および30が形成されるようにしたが、これに限らない。例えば、振動膜12の片面にのみコイルが形成されてもよいし、当該片面に複数本のコイル、厳密には偶数本のコイル、が形成されてもよい。また、振動膜12の両面にコイルが形成される場合には、当該両面のそれぞれに複数本のコイルが形成されてもよい。この場合、両面間でコイルの本数が同じであるのが、望ましい。
【符号の説明】
【0047】
10 平面スピーカ
12 振動膜
18,20 永久磁石板
22 前面カバー
24 背面板
26 薄膜
28,30 コイル
36,38,40,42 端子
62,64 端子台
66,68,70,72 端子
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄型音響電気機械変換器に関し、特に、可撓性を有する薄膜にコイルが密着形成された構造の振動膜と、この振動膜に対向して設けられておりコイルの延伸方向を横切る磁界を発生させる磁石板と、これら振動膜および磁石板を保持する筐体と、を具備し、コイルに流れる電流と振動膜の厚み方向に沿って当該コイルに作用する機械力との一方から他方に変換する、薄型音響電気機械変換器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の薄型音響電気機械変換器として、従来、例えば特許文献1に開示された平面スピーカ(平板スピーカ)がある。この平面スピーカは、永久磁石板と、この永久磁石板に対向するように配置された振動膜と、これら永久磁石板および振動膜間に介在する緩衝部材と、永久磁石板に対する振動膜の相対位置を規制する支持部材と、を具備する。そして、永久磁石板の振動膜と対向する側の面には、その全体にわたって帯状のN極とS極とが交互に現れる平行縞状の多極着磁パターンが形成されている。なお、この多極着磁パターン面のうち、N極とS極との境界付近においては、基本的に当該多極着磁パターン面に垂直な方向の磁界がないことから、これらN極とS極との境界付近は、ニュートラルゾーンと呼ばれている。一方、振動膜は、薄くて柔軟な樹脂フィルムに蛇行形状の導線パターンから成るコイルがプリント配線された構造であって、当該導線パターンの直線部分が永久磁石板のニュートラルゾーンに対応する位置に当たるように、設けられている。さらに、振動膜は、その面内方向の変位のみが規制され、厚み方向には自由に変位できるように、支持部材によって支持されている。そして、緩衝部材は、柔軟でありかつ通気性を有すると共に振動膜と略同じ大きさのシートが積み重ねられた構造のものであり、このシートと永久磁石板との間、若しくは当該シートと振動膜との間に、隙間が形成されるように、配設されている。
【0003】
このように構成された平面スピーカによれば、コイル(導線パターン)の直線部分を直角に横切る方向に磁力線が通る。このため、コイルに駆動電流が供給されると、フレミングの左手の法則に従って、振動膜の厚み方向に沿う機械力(電磁力)が当該コイルに作用する。そして、コイルに付随して振動膜(樹脂フィルム)がその厚み方向に振動し、この結果、音波が発生する。つまり、当該音波の発生のために、駆動電流という電気エネルギから機械力という機械エネルギへの変換が成される。なお、これとは反対に、機械エネルギから電気エネルギへの変換においても、要するにマイクロホンにおいても、従来技術は適用可能とされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−331596号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上述の従来技術では明示されていないが、通常、コイルの両端は、平面スピーカの筐体に固定された端子に接続される。また、この端子は、外部配線との接続の容易性や外観的な意匠性の見地から、従来技術では、1箇所に集中して設けられる。ところが、端子が1箇所に集中して設けられると、コイルを含む振動膜は、当該1箇所で筐体に固定された状態となる。すると、振動膜が振動する際に、この1箇所が支点となり、当該振動膜がバタバタと暴れて、言わばバタツキを生ずる。このバタツキは、言うまでもなく音響特性に悪影響を与えるため、好ましくない。
【0006】
そこで、本発明は、振動膜のバタツキを解消することによって、従来よりも良好な音響特性を得ることができる薄型音響電気機械変換器を提供することを、目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この目的を達成するために、本発明は、可撓性を有する薄膜にコイルが密着形成された構造の振動膜と、この振動膜に対向して設けられておりコイルの延伸方向を横切る磁界を発生させる磁石板と、これら振動膜および磁石板を保持する筐体と、を具備し、コイルに流れる電流と振動膜の厚み方向に沿って当該コイルに作用する機械力との一方から他方に変換する薄型音響電気機械変換器を、前提とする。この前提の下、振動膜の側縁部分であって或る直線に関して互いに略線対称を成し、かつ当該直線上の或る点に関して互いに略点対称を成す2箇所に、コイルの一対の端末処理部が設けられている。そして、このコイルの一対の端末処理部は、それぞれに対応して筐体に固定された端子に接続されたことを、特徴とする。
【0008】
このように構成された本発明によれば、コイルの延伸方向を横切る磁界が、磁石板から発生されている。ここで、例えば、コイルに電流が流れる、とする。すると、フレミングの左手の法則に従って、振動膜の厚み方向に沿う機械力が当該コイルに作用する。そして、コイルに付随して振動膜(薄膜)がその厚み方向に振動し、この結果、音波が発生する。つまり、当該音波の発生のために、電流という電気エネルギから機械力という機械エネルギへの変換が成され、要するにスピーカが実現される。これとは反対に、振動膜に音波が当たることによって、当該振動膜に機械力が作用する、とする。すると、振動膜がその厚み方向に沿って振動し、これに伴って、コイルも振動する。この結果、フレミングの右手の法則に従って、コイルに電流が流れる。つまり、音波によって作用される機械エネルギから電気エネルギへの変換が成され、要するにマイクロホンが実現される。
【0009】
ところで、本発明においては、振動膜の側縁部分であって或る直線に関して互いに略線対称を成し、かつ当該直線上の或る点に関して互いに略点対称を成す2箇所に、コイルの一対の端末処理部、例えば当該コイルの両端が、設けられている。そして、このコイルの両端は、それぞれに対応して筐体に固定された端子に、接続されている。即ち、コイルを含む振動膜は、当該2箇所で筐体に固定される。そして、この固定状態は、バランスの取れたものとなる。従って、振動膜が振動する際に、上述のバタツキが防止される。
【0010】
なお、本発明においては、偶数本のコイルが形成されていてもよい。この場合、それぞれのコイルは、一端を第1端末部とし、他端を第2端末部とする。そして、それぞれのコイルの第1端末部と第2端末部との間に流れる電流と、当該それぞれのコイルに作用する機械力との関係は、各コイル間で共通するものとする。例えば、或るコイルの第1端末部から第2端末部に向かって電流が流れることによって、当該或るコイルに対して或る方向の機械力が作用する、とする。すると、別のコイルの第1端末部から第2端末部に向かって電流が流れたときにも、当該別のコイルに対して同じ方向の機械力が作用する。また、例えば、振動膜に音波が当たることによって、当該振動膜に機械力が作用したときには、全てのコイルに同じ方向の電流が流れる。このような関係がある上で、それぞれのコイルごとに、第1端末部は、上述した2箇所の一方に設けられ、第2端末部は、当該2箇所の他方に設けられる。また、これら2箇所間で、第1端末部および第2端末部それぞれの数が同じであるものとする。さらに、全ての第1端末部および全ての第2端末部それぞれに対応して、端子が設けられる。
【0011】
この構成によれば、本発明の薄型音響電気機械変換器の使用態様(バリエーション)が豊富になり、かつ柔軟になる。例えば、当該薄型音響電気機械変換器が1台のみで使用される場合には、全てのコイルが直列接続されるようにすればよい。具体的には、上述した2箇所の一方側において、いずれかのコイルの第1端末部に接続された端子と、別のコイルの第2端末部に接続された端子とが、外部配線に接続され、それ以外の端子については、任意の第1端末部に接続されたものと、任意の第2端末部に接続されたものとが、互いに接続される。そして、2箇所の他方側においては、全ての端子について、任意の第1端末部に接続されたものと、任意の第2端末部に接続されたものとが、互いに接続される。これによって、1本の長いコイルが形成されるので、高い変換効率が得られる。しかも、各端子間の接続は、互いの位置が近いもの同士で行われるので、その作業が容易かつ簡潔である。
【0012】
また、例えば、複数台の薄型音響電気機械変換器が使用される場合には、これら複数台の薄型音響電気機械変換器間で全てのコイルが直列接続されるようにすればよい。具体的には、それぞれの薄型音響電気機械変換器ごとに、上述した2箇所の一方側において、いずれかのコイルの第1端末部に接続された端子と、別のコイルの第2端末部に接続された端子と、を除く全ての端子について、任意の第1端末部に接続されたものと、任意の第2端末部に接続されたものとが、互いに接続される。また、当該2箇所の他方側においても、同様に、いずれかのコイルの第1端末部に接続された端子と、別のコイルの第2端末部に接続された端子と、を除く全ての端子について、任意の第1端末部に接続されたものと、任意の第2端末部に接続されたものとが、互いに接続される。そして、或る薄型音響電気機械変換器における上述した2箇所の一方側と、別の薄型音響電気機械変換器における当該2箇所の他方側との間で、未接続とされている各端子のうち、第1端子部に接続されたものと、第2端子部に接続されたものとが、互いに接続される。これと同様の接続が、全ての薄型音響電気機械変換器間で成される。ただし、1台の薄型音響電気機械変換器については、当該2箇所の一方側において、未接続とされている2つの端子同士が接続される。併せて、別の薄型音響電気機械変換器については、当該2箇所の他方側において、未接続とされている2つの端子に外部配線が接続される。これによって、複数台の薄型音響電気機械変換器間で全てのコイルが直列接続され、言い換えれば当該各薄型音響電気機械変換器が直列接続され、いわゆるアレイが構成される。しかも、各薄型音響電気機械変換器間の接続は、互いに近い位置にある端子間で成されるので、その作業が容易かつ簡潔である。
【0013】
本発明は、スピーカに好適である。特に、振動膜が大きいスピーカほど、好適である。即ち、上述した従来技術のように振動膜が1箇所で固定されている場合には、当該振動膜が大きいほど、上述のバタツキが生じ易くなる。本発明は、このようにバタツキが生じ易い大きな振動膜を有するスピーカに極めて有効である。
【0014】
また、本発明がスピーカに適用される場合、コイルは、自身の延伸方向を横切る方向に突出した突出部を有するものであってもよい。このような突出部がコイルに設けられることによって、当該突出部が設けられた部分におけるコイルと薄膜との密着力が増大する。これは、当該突出部が設けられた部分において、コイルに付随して振動する薄膜の応答性が向上することを意味する。その一方で、突出部が設けられた部分では、当該突出部の分だけ重量が増大するので、これもまた応答性に影響する。即ち、突出部が設けられることによって、振動膜全体の応答性が変わり、ひいてはスピーカ全体の音響特性が変わる。言い換えれば、当該突出部は、スピーカ全体の音響特性を制御する制御手段として機能する。なお、突出部には、電流は流れないので、当該突出部が設けられることによって、コイルに流れる電流に特段な影響を与えることはない。
【0015】
さらに、振動膜が存在する空間と外部空間とを連通する連通路が設けられている場合には、この連通路に合わせて突出部が設けられるのが、望ましい。即ち、ここで言う連通路は、振動膜が振動することによって発生する音波を外部空間に向かって放出させるための音波放出路として機能する。従って、このような音波放出路として機能する連通路に合わせて突出部が設けられることで、当該突出部の有効性がより顕著になる。
【発明の効果】
【0016】
上述したように、本発明によれば、コイルを含む振動膜が、2箇所でバランスの取れた状態で固定される。従って、振動膜が1箇所で固定されるためにバタツキを生じる従来技術とは異なり、当該バタツキが防止される。ゆえに、従来よりも良好な音響特性を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明の一実施形態に係る平面スピーカの概略構成を示す図である。
【図2】同平面スピーカの組み立て図である。
【図3】同平面スピーカにおける振動膜の概略構成を示す図解図である。
【図4】同振動膜の固定状態を示す図解図である。
【図5】同平面スピーカの使用態様を示す図解図である。
【図6】図5とは異なる使用態様を示す図解図である。
【図7】本実施形態の比較対照用としての従来技術における振動膜の固定状態を示す図解図である。
【図8】同従来技術の別の例を示す図解図である。
【図9】図3とは異なる態様の振動膜を示す図解図である。
【図10】図9とはさらに異なる態様の振動膜を示す図解図である。
【図11】図10とはさらに異なる態様の振動膜を示す図解図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明が適用された平面スピーカ10の一実施形態について、以下に説明する。
【0019】
図1に示すように、本実施形態に係る平面スピーカ10は、外観的には扁平の概略直方体状のものである。そして、構造的には、図2に示す組み立て図からも分かるように、1枚の振動膜12と、この振動膜12の両面を挟むように設けられた2枚の緩衝部材14および16と、これらの緩衝部材14および16をさらに外側から挟むように設けられた2つの永久磁石板18および20と、筐体としての前面カバー22および背面板24と、から成る。
【0020】
振動膜12は、図3に示すように、概略矩形の薄膜26と、この薄膜26の前面および背面それぞれに形成された蛇行形状のコイル28および30と、から成る。このうち、薄膜26は、例えば厚さ寸法が30[μm]程度の可撓性を有する樹脂製フィルムである。このような樹脂製フィルムとしては、ポリエチレンテレフタレートフィルムや芳香族ポリイミドフィルム等がある。また、薄膜26の上端縁および下端縁それぞれの中央には、凹状の切欠32および34が設けられている。
【0021】
一方、コイル28および30は、例えばプリント配線技術によって形成された厚さ寸法が20[μm]〜50[μm]の銅箔パターンであり、互いに共役な関係にある。詳しくは、前面側のコイル28の一端、例えば図3(a)における上方側の端部36は、第1端末部としてのプラス端子とされており、このプラス端子36は、上方側の切欠32の側縁近傍に設けられている。そして、この前面側のコイル28の他端38は、第2端末部としてのマイナス端子とされており、このマイナス端子38は、下方側の切欠34の側縁近傍に設けられている。これに対して、背面側のコイル30の一端、例えば図3(b)における上方側の端部40は、第2端末部としてのマイナス端子とされており、このマイナス端子40は、上方側の切欠32の側縁近傍に設けられている。そして、この背面側のコイル30の他端42は、第1端末部としてのプラス端子とされており、このプラス端子42は、下方側の切欠34の側縁近傍に設けられている。さらに、前面側のコイル28において、水平方向に沿って延伸するように多数設けられている直線部分と、背面側のコイル30において、同様に設けられている多数の直線部分とは、薄膜26を挟んで、互いに重なっている。そして、前面側のコイル28のプラス端子36と、背面側のコイル30のマイナス端子40とは、上方側の切欠32を挟んで、互いに対向しており、前面側のコイル28のマイナス端子38と、背面側のコイル30のプラス端子42とは、下方側の切欠34を挟んで、互いに対向している。
【0022】
この共役関係によれば、例えば、前面側のコイル28のプラス端子36からマイナス端子38に向かって電流が流れると共に、背面側のコイル30のプラス端子42からマイナス端子40に向かって電流が流れるとき、これらの電流は、それぞれの直線部分において互いに同じ方向に流れることになる。そして、前面側のコイル28のマイナス端子38からプラス端子36に向かって電流が流れると共に、背面側のコイル30のマイナス端子40からプラス端子42に向かって電流が流れるときにも、これらの電流は、それぞれの直線部分において互いに同じ方向に流れる。また、前面側のコイル28のプラス端子36と、背面側のコイル30のマイナス端子40と、を1つの端子群として見ると共に、前面側のコイル28のマイナス端子38と、背面側のコイル30のプラス端子42と、を1つの端子群として見ると、これらの端子群は、薄膜26の中心に関して、互いに点対称を成す。併せて、当該各端子群は、薄膜26の中心を通りかつ各コイル28および30それぞれの直線部分に平行な直線に関して、線対称を成す。要するに、これらの端子群は、図3の上下方向および左右方向のそれぞれにおいて、バランスよく配置されている。
【0023】
図1および図2に戻って、緩衝部材14および16は、いずれも振動膜12(薄膜26)と略同じ大きさの概略矩形のシートであり、柔軟性および通気性を有する素材によって形成されている。このような素材としては、例えば不織布がある。また、振動膜12の背面側に位置する緩衝部材16には、当該振動膜12(薄膜26)と同様の切欠44(下側の切欠については図示せず)が設けられている。
【0024】
永久磁石板18および20は、いずれも適当な厚みがあり、それぞれの表面は振動膜12よりも少し大きめの概略平板状のものであり、例えばフェライトや希土類磁性粉を含んだ樹脂磁石またはゴム磁石によって形成されている。そして、図には示さないが、(緩衝部材14を挟んで)振動膜12の前面側に位置する永久磁石板18の当該振動膜12と対向する側の面には、上述した前面側コイル28の各直線部分の並び方向に沿ってN極とS極とが交互に現れる平行縞状の多極着磁パターンが形成されている。より詳しくは、多極着磁パターン面の各N極と各S極との各境界部分は、ニュートラルゾーンとされており、これらのニュートラルゾーンが、前面側コイル28の各直線部分と対向するように、当該多極着磁パターンが形成されている。さらに、各ニュートラルゾーン上の適宜の位置に、例えば千鳥格子状に、永久磁石板18をその前面側から背面側に貫通するように、複数の貫通孔46,46,…が設けられている。なお、多極着磁パターンを含む永久磁石板18の構成や、当該多極着磁パターンと前面側コイル28との位置関係、各貫通孔46,46,…の穿設位置については、上述した従来技術(特許文献1)と同様であるので、これ以上の詳しい説明は省略する。
【0025】
振動膜12の背面側に位置する永久磁石板20についても、同様に、(緩衝部材16を挟んで)当該振動膜12と対向する側の面に、多極着磁パターンが形成されている。詳しくは、背面側コイル30の各直線部分の並び方向に沿ってN極とS極とが交互に現れるように、当該多極着磁パターンが形成されている。そして、この背面側の多極着磁パターンの各ニュートラルゾーンは、背面側コイル30の各直線部分に対向している。さらに、当該背面側の多極着磁パターンと、上述した前面側の多極着磁パターンとは、振動膜12(および緩衝部材14,16)を挟んで、互いのN極同士およびS極同士が対向するように、形成されている。つまり、多極着磁パターンもまた、前面側と背面側とで、互いに共役な関係にある。そして、この背面側の多極着磁パターンの各ニュートラルゾーン上にも、永久磁石板20をその前面側から背面側に貫通するように、複数の貫通孔48,48,…が設けられている。そしてさらに、当該永久磁石板20の上端縁および下端縁それぞれの中央には、緩衝部材16と同様に、凹状の切欠50および52(特に図1(d)参照)が設けられている。
【0026】
前面カバー22は、鉄板等の高透磁率の金属製であり、その内部空間に、背面板24を除く全ての構成要素が収容される。特に、前面側の永久磁石板18は、その磁気吸着力によって、当該前面カバー22の内側面に固定される。そして、この前面カバー22にも、永久磁石板18の各貫通孔46,46,…と対向する位置に、貫通孔54,54,…が設けられている。さらに、この前面カバー22の側面の背面側部分には、次に説明する背面板24の各切り込み部56,56,…に係止される複数の係止爪58,58,…が設けられている。
【0027】
背面板24もまた、高透磁率金属製であり、この背面板24に設けられた各切り込み部56,56,…に上述の前面カバー22の各係止爪58,58,…が係止されることで、当該前面カバー22と共に筐体を完成する。併せて、この背面板24の内側面に、背面側の永久磁石板20が磁気吸着力によって固定される。このとき、当該背面側の永久磁石板20と、上述した前面側の永久磁石板18との間には、或る一定の大きさの隙間、例えば数[mm]の隙間59が、設けられる。そして、この隙間59内に、振動膜12と各緩衝部材14および16とが適当な余裕(遊び)を持って、介在する。さらに、この背面板24にも、永久磁石板20の各貫通孔48,48,…と対向する位置に、貫通孔60,60,…が設けられている。また、この背面板24の上端縁および下端縁それぞれの中央付近に、端子台62および64が設けられている。
【0028】
このうちの上方側の端子台62は、特に図4に示すように、前面側コイル28のプラス端子36と接続される上方側プラス端子66と、背面側コイル30のマイナス端子40と接続される上方側マイナス端子68と、を有している。なお、これらの上方側の端子66および68は、いずれも背面板24と絶縁された状態で、外部に引き出されている(厳密にはそれぞれに対応する外部端子に接続されている)。また、この端子台62側の各端子66および68と、振動膜12側の各端子36および40との接続は、いずれもワイヤ等の適当な導電線によって実現されるが、当該振動膜12側の各端子36および40それぞれの銅箔パターンが端子台62側の各端子66および68にまで延長されることによって実現されてもよい。そして、これら端子台62側の各端子66および68と振動膜12側の各端子36および40との接続のために、上述の如く背面側の永久磁石板20の上端縁に切欠部50が設けられると共に、背面側の緩衝部材16の上端縁に切欠部44が設けられ、さらに振動膜12(薄膜26)の上端縁に切欠部32が設けられている。
【0029】
一方、下方側の端子台64は、前面側コイル28のマイナス端子38と接続される下方側マイナス端子70と、背面側コイル30のプラス端子42と接続される下方側プラス端子72と、を有している。そして、これらの下方側の端子70および72は、いずれも背面板24と絶縁された状態で、外部に引き出されている。なお、この下方側端子台64の各端子70および72と、振動膜12側の各端子38および42との接続も、ワイヤ等の適当な導電線によって実現されるが、当該振動膜12側の各端子38および42それぞれの銅箔パターンが端子台64側の各端子70および72にまで延長されることによって実現されてもよい。また、これら端子台64側の各端子70および72と振動膜12側の各端子38および42との接続のために、背面側の永久磁石板20の下端縁に切欠部52が設けられると共に、背面側の緩衝部材16の下端縁に図示しない切欠部が設けられ、さらに振動膜12(薄膜26)の下端縁に切欠部34が設けられている。
【0030】
このように構成された平面スピーカ10は、1台のみで使用されるときには、図5に示すような態様とされる。即ち、上方側の各端子66および68同士が、被覆ケーブル等の適当な導電線74によって接続される。こうすることで、上述の図4からも分かるように、前面側コイル28と背面側コイル30とが互いに直列接続される。そして、下方側の各端子70および72が、図示しない外部配線に接続される。つまり、これらの端子70および72間に、オーディオ信号が入力される。
【0031】
このようにしてオーディオ信号が入力されると、このオーディオ信号に従う電流が前面側コイル28および背面側コイル30それぞれに流れる。そして、特にそれぞれのコイル28および30の直線部分において、当該電流は、磁界を直角に横切る方向に流れる。すると、フレミングの左手の法則に従って、振動膜12(薄膜26)の厚み方向に沿う機械力が、当該各コイル28および30に同時に作用する。しかも、この機械力が作用する方向は、各コイル28および30間で同じである。つまり、各コイル28および30は、同時かつ同じ方向に振動する。そして、これらのコイル28および30に付随して、振動膜12が振動する。この結果、音波が発生する。詳しくは、前面側に対しては、当該前面側の永久磁石板18に設けられた各貫通孔46,46,…と、前面カバー22に設けられた各貫通孔54,54,…とを介して、音波が外部に放出される。そして、背面側に対しては、当該背面側の永久磁石板20に設けられた各貫通孔48,48,…と、背面板24に設けられた各貫通孔60,60,…とを介して、音波が外部に放出される。
【0032】
また、複数台、例えば2台の平面スピーカ10および10が使用されるときは、図6に示すような態様とされる。即ち、1台の平面スピーカ10については、図5に示したのと同様に、その上方側端子66および68同士が、適当な導電線74によって接続される。そして、この平面スピーカ10の下方側マイナス端子70と、別の平面スピーカ10の上方側プラス端子66とが、適当な導電線76によって接続される。さらに、当該平面スピーカ10の下方側プラス端子72と、別の平面スピーカ10の上方側マイナス端子68とが、適当な導電線78によって接続される。こうすることで、各平面スピーカ10および10間で全てのコイル28,28,30および30が直列接続される。言い換えれば、2台の平面スピーカ10および10から成るアレイスピーカが実現される。そして、当該別の平面スピーカ10の未接続とされている下方側の各端子70および72に、図示しない外部配線が接続される。
【0033】
なお、この図6に示す態様においては、各平面スピーカ10および10間の接続は、一方の下方側端子70および72(端子台64)と他方の上方側端子66および68(端子台66)との間で成されるので、その作業が極めて容易かつ簡潔である。また、意匠性にも優れる。このことは、3台以上の平面スピーカ10,10,…が接続される場合にも、全く同様である。
【0034】
ところで、本実施形態においては、図4に示したように、振動膜12は、その上端側および下端側の2箇所で、各端子台62および64を介して、筐体である背面板24に固定される。そして、この固定箇所である2箇所は、振動膜12(薄膜26)の中心に関して、互いに点対称を成す。併せて、当該2箇所は、振動膜12の中心を通りかつ水平方向に沿って延伸する直線に関して、線対称を成す。この結果、振動膜12は、当該2箇所において、バランスの取れた状態で筐体24に固定される。
【0035】
これに対して、上述した従来技術では、例えば図7に示すように、振動膜100が、1つの端子台102を介して、つまり1箇所で、筐体に固定される。このため、当該従来技術では、振動膜100が振動する際にバタツキを生ずる。なお、図7は、図4に倣って、振動膜100の固定状態を分かり易く例示したものであり、この図7では、振動膜100の本体としての薄膜103の片面にのみ、1本のコイル104が密着形成されている。そして、このコイル104の両端106および108は、端子台102に設けられた2つの端子110および112に接続されている。このような構成は、従来技術(特許文献1)には明示されていないが、当該従来技術においては、概ねこれと同様の構成が実用されている。
【0036】
また、従来技術においても、例えば図8に示すように、振動膜100(薄膜103)の両面にコイル120および122が形成される場合がある。ただし、この場合、従来技術では、各コイル120および122それぞれの一端(図8における上方側の端部)124および126が、端子台102の各端子110および112に接続される。そして、当該各コイル120および122それぞれの他端(図8における下方側の端部)は、スルーホール130を介して、互いに接続される。つまり、従来技術では、振動膜100の両面にコイル120および122が形成される場合であっても、当該振動膜100は1箇所でのみ筐体に固定される。ゆえに、依然としてバタツキが生じる。
【0037】
さらに、図8に示す従来の振動膜100おいては、各コイル120および122を直列接続する手段として、スルーホール130が採用されているが、このスルーホール130の形成には、相応のコストが掛かる。従って、このようなスルーホール130が形成されると、当然に、振動膜100の製造コストが高騰し、ひいてはスピーカ全体の価格が高騰する。また、スルーホール130に代えて、例えばワイヤ等の適当な導電線によって、各コイル120および122が直列接続されることもあるが、この場合、当該ワイヤも一緒に振動膜100と振動することになる。そうなると、当該ワイヤが振動膜100にとって不本意な負荷となり、ひいては音響特性に悪影響を及ぼす恐れがある。
【0038】
一方、本実施形態では、図8に示したようなスルーホール130など必要なく、また、振動膜12にとって不本意な負荷となるものも存在しない。この点においても、本実施形態は、従来技術に比べて、有益である。
【0039】
以上のように、本実施形態によれば、振動膜12が、2箇所でバランスの取れた状態で筐体24に固定される。従って、従来技術とは異なり、当該振動膜12がバタツキを生ずることはない。ゆえに、従来よりも良好な音響特性を得ることができる。
【0040】
なお、本実施形態においては、振動膜12は、その厚み方向にのみ変位し、その内面方向には変位しない。これは、当該振動膜12の周縁が、前面カバー22の内周面によって規制されるからである。つまり、前面カバー22の内周面は、振動膜12の内面方向への変位を規制(制限)する規制手段として、機能する。これに対して、上述した従来技術では、振動膜の四隅に設けられたそれぞれの穴に支持棒が挿通されることで、当該振動膜の内面方向への変位が規制される(特に当該従来技術の第0021段落参照)。本実施形態においても、この従来技術におけるのと同様の要領で、振動膜12の内面方向への変位が規制されてもよい。
【0041】
また、本実施形態では、振動膜12として、概略方形状のものが採用されたが、これに限らない。例えば、円形状や楕円状、六角形や八角形等の多角形状のものが採用されてもよい。ただし、当該振動膜12としては、これを2箇所でバランスよく筐体に固定できる形状のもの、つまり自身の中心に関して点対称を成し、かつ当該中心を通る直線に関して線対称を成す部分を有するものが、好ましい。なお、振動膜12の形状が変わると、これに応じて、永久磁石板18および20等の他の構成要素についても、それぞれの形状が適宜に変わることは、言うまでもない。
【0042】
さらに、本実施形態においては、振動膜12側の各端子36,38,40および42が、各端子台62および64側の端子66,68,70および72に接続されることによって、当該振動膜12が、当該各端子台62および64を介して、筐体24に固定されることとしたが、これに限らない。例えば、テープ等の別の手段によって、振動膜12が筐体24に固定されてもよい。
【0043】
そして、振動膜12については、前面側コイル28に、例えば図9に示すような突出部としての×状の附属パターン80,80,…が設けられると共に、背面側コイル30にも、同様の附属パターン80,80,…が設けられてもよい。このうち、前面側の附属パターン80,80,…は、前面側コイル28と共に、銅箔パターンによって形成されており、それぞれの位置は、前面側の永久磁石板18に設けられた各貫通孔46,46,…の位置に合わせられている。一方、背面側の附属パターン82,82,…もまた、背面側コイル30と共に、銅箔パターンによって形成されており、それぞれの位置は、背面側の永久磁石板20に設けられた各貫通孔48,48,…の位置に合わせられている。このような附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられることで、当該附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられた部分におけるコイル28と薄膜26との密着力が増大する。これは、当該附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられた部分において、それぞれのコイル28および30に附属して振動する薄膜26の応答性が向上することを意味する。その一方で、これらの附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられた部分では、当該附属パターン80,80,…および82,82,…の分だけ重量が増大するので、これもまた応答性に影響する。即ち、附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられることによって、振動膜12全体の応答性が変わり、ひいては平面スピーカ10全体の音響特性が変わる。言い換えれば、当該附属パターン80,80,…および82,82,…は、平面スピーカ10全体の音響特性を制御する制御手段として機能する。従って、これらの附属パターン80,80,…および82,82,…を適宜に形成することで、より良好な音響特性を得ることができる。なお、このような附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられることによって、それぞれのコイル28および30に流れる電流が影響を受けることが、懸念される。しかし、附属パターン80,80,…および82,82,…には電流は流れないので、そのような懸念は無用である。
【0044】
また、附属パターン80,80,…および82,82,…は、図10に示すような○状のものであってもよい。勿論、これ以外の形状、例えば□状のものや△状のものであってもよい。さらに、振動膜12の場所によって、附属パターン80,80,…および82,82,…の形状を変えてもよいし、当該附属パターン80,80,…および82,82,…の大きさや数(ピッチ)を変えてもよい。いずれにしても、希望の音響特性が得られるように、当該附属パターン80,80,…および82,82,…を形成すればよい。
【0045】
特に、図11に示すように、前面側の付属パターン80,80,…と、背面側の付属パターン82,82,…とが、言わば半ピッチずつ互いにずれた状態で形成されることによって、次のような効果が得られる。即ち、図9(または図10)に示したように、振動膜12の前面側と背面側との同じ位置に附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられると、この附属パターン80,80,…および82,82,…が設けられた部分と、そうでない部分とで、振動膜12の機械的強度に大きな差異が生じ、併せて、重量差も生じる。この場合、振動膜12が振動する際に、当該振動膜12に不本意な歪みや撓みが生じ、音響特性に悪影響を及ぼす恐れがある。これに対して、図11に示す構成では、前面側の付属パターン80,80,…と、背面側の付属パターン82,82,…とが、振動膜12の全面にわたって一様に形成された状態にあるので、当該振動板12の全面にわたって一様な機械的強度となり、重量も一様となる。従って、振動膜12が振動する際の不本意な歪みや撓みが抑えられ、特に長手方向における当該不本意な歪みや撓みが抑えられる。このことは、良好な音響特性を得るのに、大きく貢献する。
【0046】
さらに、本実施形態では、振動膜12(薄膜26)の両面にコイル28および30が形成されるようにしたが、これに限らない。例えば、振動膜12の片面にのみコイルが形成されてもよいし、当該片面に複数本のコイル、厳密には偶数本のコイル、が形成されてもよい。また、振動膜12の両面にコイルが形成される場合には、当該両面のそれぞれに複数本のコイルが形成されてもよい。この場合、両面間でコイルの本数が同じであるのが、望ましい。
【符号の説明】
【0047】
10 平面スピーカ
12 振動膜
18,20 永久磁石板
22 前面カバー
24 背面板
26 薄膜
28,30 コイル
36,38,40,42 端子
62,64 端子台
66,68,70,72 端子
【特許請求の範囲】
【請求項1】
可撓性を有する薄膜にコイルが密着形成された構造の振動膜と、上記振動膜に対向して設けられ上記コイルの延伸方向を横切る磁界を発生させる磁石板と、上記振動膜および上記磁石板を保持する筐体と、を具備し、上記コイルに流れる電流と上記振動膜の厚み方向に沿って該コイルに作用する機械力との一方から他方に変換する薄型音響電気機械変換器において、
上記振動膜の側縁部分であって或る直線に関して互いに略線対称を成しかつ該直線上の或る点に関して互いに略点対称を成す2箇所に上記コイルの一対の端末処理部がそれぞれ設けられ、
上記一対の端末処理部それぞれに対応して上記筐体に固定された端子に該一対の端末処理部それぞれが接続されたこと、
を特徴とする、薄型音響電気機械変換器。
【請求項2】
偶数の上記コイルが形成されており、
上記偶数のコイルそれぞれは上記一対の端末処理部として第1端末部と第2端末部とを備えており、
上記偶数のコイルそれぞれに流れる上記電流と該偶数のコイルそれぞれに作用する上記機械力との関係が該偶数のコイル間で共通しており、
上記偶数のコイルそれぞれごとに上記第1端末部は上記2箇所の一方に設けられ上記第2端末部は該2箇所の他方に設けられ、
上記2箇所間で上記第1端末部および上記第2端末部それぞれの数が同じであり、
全ての上記第1端末部および全ての上記第2端末部それぞれに対応して上記端子が設けられた、
請求項1に記載の薄型音響電気機械変換器。
【請求項3】
スピーカである、
請求項1または2に記載の薄型音響電気機械変換器。
【請求項4】
上記コイルは自身の延伸方向を横切る方向に突出した突出部を有する、
請求項3に記載の薄型音響電気機械変換器。
【請求項5】
上記振動膜が存在する空間と外部空間とを連通する連通路が設けられており、
上記連通路に合わせて上記突出部が設けられた、
請求項4に記載の薄型音響電気機械変換器。
【請求項1】
可撓性を有する薄膜にコイルが密着形成された構造の振動膜と、上記振動膜に対向して設けられ上記コイルの延伸方向を横切る磁界を発生させる磁石板と、上記振動膜および上記磁石板を保持する筐体と、を具備し、上記コイルに流れる電流と上記振動膜の厚み方向に沿って該コイルに作用する機械力との一方から他方に変換する薄型音響電気機械変換器において、
上記振動膜の側縁部分であって或る直線に関して互いに略線対称を成しかつ該直線上の或る点に関して互いに略点対称を成す2箇所に上記コイルの一対の端末処理部がそれぞれ設けられ、
上記一対の端末処理部それぞれに対応して上記筐体に固定された端子に該一対の端末処理部それぞれが接続されたこと、
を特徴とする、薄型音響電気機械変換器。
【請求項2】
偶数の上記コイルが形成されており、
上記偶数のコイルそれぞれは上記一対の端末処理部として第1端末部と第2端末部とを備えており、
上記偶数のコイルそれぞれに流れる上記電流と該偶数のコイルそれぞれに作用する上記機械力との関係が該偶数のコイル間で共通しており、
上記偶数のコイルそれぞれごとに上記第1端末部は上記2箇所の一方に設けられ上記第2端末部は該2箇所の他方に設けられ、
上記2箇所間で上記第1端末部および上記第2端末部それぞれの数が同じであり、
全ての上記第1端末部および全ての上記第2端末部それぞれに対応して上記端子が設けられた、
請求項1に記載の薄型音響電気機械変換器。
【請求項3】
スピーカである、
請求項1または2に記載の薄型音響電気機械変換器。
【請求項4】
上記コイルは自身の延伸方向を横切る方向に突出した突出部を有する、
請求項3に記載の薄型音響電気機械変換器。
【請求項5】
上記振動膜が存在する空間と外部空間とを連通する連通路が設けられており、
上記連通路に合わせて上記突出部が設けられた、
請求項4に記載の薄型音響電気機械変換器。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2010−251816(P2010−251816A)
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−95760(P2009−95760)
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000223182)ティーオーエー株式会社 (190)
【出願人】(599084980)株式会社プロトロ (6)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年11月4日(2010.11.4)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年4月10日(2009.4.10)
【出願人】(000223182)ティーオーエー株式会社 (190)
【出願人】(599084980)株式会社プロトロ (6)
【Fターム(参考)】
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