説明

薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法

【課題】原料容量が20L以上もの大スケールにおいても、光学特性が優れた薄片状酸化亜鉛粒子を安定して製造しうる、薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法を提供する。
【解決手段】亜鉛塩及び水を含む20L以上の混合物に、下記式(1)におけるaが0.45以上となる攪拌条件下で、該亜鉛塩に対してモル比2.0〜3.0のアルカリを、アルカリ溶液として添加時間30〜70秒で添加する工程を有する、薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法。
s(θ)=e-aθ (1)
(式(1)中、Is(θ)は分離強度、eは自然対数の底、θは混合開始からの攪拌時間(単位:秒)を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、酸化亜鉛は化粧料や塗料等の配合成分として汎用されている。これらの分野では、その用途から可視領域では透明で、かつ強い紫外線吸収力を有することが望まれている。このようなものとして、粒径が0.1μm未満の微粒子化された酸化亜鉛が知られている。しかし、この酸化亜鉛は、凝集し易いために分散性が悪く、化粧料や塗料に配合し難いという問題があり、配合した場合には伸びが悪く、実用的でない。
【0003】
このような問題を解決するものとして、酸化亜鉛を薄片状粒子とすることで、凝集を防止し得ると共に、透明性及び紫外線吸収性が優れ、化粧料や塗料等の配合成分として好適な、薄片状酸化亜鉛粉末が提案されている。
例えば、特許文献1には、従来にない形態及び粒径をもった酸化亜鉛粉末の提供を目的として、所定の平均粒子径、平均粒子厚さ、及び平均板状比を有する薄片状酸化亜鉛粉末を含む紫外線吸収剤が開示されている。
また、特許文献2には、透明性及び紫外線吸収性に優れ、化粧料や塗料等の配合成分として好適な薄片状酸化亜鉛粉末を主成分とする紫外線吸収粉末を提供することを目的として、特定形状を有する酸化亜鉛粉末と該酸化亜鉛粉末と一体化した微量元素を含有する紫外線吸収粉末が開示されている。
【0004】
特許文献1、2には、上記の薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法として、亜鉛塩、水溶性アルカリ金属塩を水に溶解させた水溶液を高攪拌下で、アルカリ剤を添加してpH11以上とし、沈殿を発生させ、当該沈殿を濾過、乾燥して、薄片状酸化亜鉛粉末を得る方法が開示されている。このときの攪拌条件について、特許文献1には、攪拌レイノルズ数=(攪拌翼の直径)2×(攪拌回転数)×(溶液の密度)/(溶液の粘性係数)で定義される攪拌レイノルズ数として、十分な攪拌とされる範囲は30以上であり、100〜105が好ましい旨が示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−137152号公報
【特許文献2】特開平7−330334号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
薄片状酸化亜鉛粉末を製造するにあたり、高攪拌することが望ましい。しかしながら、生産に用いるような大スケール(例えば、原料容積が20L以上)では、高い攪拌レイノルズ数を得るための装置は高額であり、製造コストが高くなるという問題を有する。また、攪拌レイノルズ数を特許文献1に示された範囲に設定しても、目標とする光学特性を有する薄片状酸化亜鉛粉末が得られない場合があるという問題があった。
【0007】
本発明は、原料容量が20L以上もの大スケールにおいても、光学特性が優れた薄片状酸化亜鉛粒子を安定して製造しうる、薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、アルカリを添加時の攪拌条件、及びアルカリの添加時間を調整することにより、原料容量が20L以上もの大スケールにおいても、光学特性が優れた薄片状酸化亜鉛粉末が安定して製造し得ることを見出した。
すなわち、本発明は、亜鉛塩及び水を含む20L以上の混合物に、下記式(1)におけるaが0.45以上となる攪拌条件下で、該亜鉛塩に対してモル比2.0〜3.0のアルカリを、アルカリ溶液として添加時間30〜70秒で添加する工程を有する、薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法。
s(θ)=e-aθ (1)
(式(1)中、Is(θ)は分離強度、eは自然対数の底、θは混合開始からの攪拌時間(単位:秒)を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明の製造方法によれば、原料容量が20L以上もの大スケールにおいても、光学特性が優れた薄片状酸化亜鉛粒子を安定して製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】実施例及び比較例で用いた攪拌装置の内部構造を示す斜視図である。
【図2】図1に示した攪拌装置の攪拌槽のみを取り出した斜視図である。
【図3】図1に示した攪拌装置のホモミキサーのみを取り出した斜視図である。
【図4】図3に示したホモミキサーの別視点からの斜視図である。
【図5】図1に示した攪拌装置のパドル翼のみを取り出した斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
〔攪拌条件〕
本発明の薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法において、亜鉛塩及び水を含む20L以上の混合物に、アルカリを含むアルカリ溶液を添加し反応させる際の攪拌条件としては、下記式(1)中のaが0.45以上となる条件下で行われる。
s(θ)=e-aθ (1)
上記式(1)中、Is(θ)は分離強度、eは自然対数の底、θは混合開始からの攪拌時間(単位:秒)を表す。
なお、以下の記載において、aを「混合性指標」ともいう。この混合性指標は、分離強度Is(θ)(Intensity of Segregation)を用いることによって定義され、改訂六版 化学工学便覧にて記載された指標である。
【0012】
s(θ)で表される分離強度とは、攪拌及び混合状態の評価指標であり、例えば「Danckwerts, P.V., 1952. The definition and measurement of some characteristics of mixtures. Applied Science Research A3, p279-296(参考文献1)」において提案されている。この分離強度による混合特性評価は広く知られており、他にも「改訂六版 化学工学便覧, p425-426(参考文献2)」、「最新ミキシング技術の基礎と応用, p23-24(参考文献3)」等にも示されている。
分離強度Is(θ)の定義は、下記式(3)の通りである。
【0013】
【数1】

【0014】
上記式(3)において、θは前記式(1)と同じく、混合開始からの攪拌時間(単位:秒)を表す。また、C(θ,x)は、攪拌時間θ、混合槽内位置xにおける溶質又は分散物の濃度を示し、C0は混合槽内における平均濃度(溶質又は分散物の体積比率)を示す。更に、Vは混合体積(単位:m3)である。
混合開始時(θ=0)において、分離強度Is(0)は1であり、混合されると共に、Is(θ)の値は減少する。そのため、Is(θ)の値が小さいほどより均一に混合されていることを示す。
【0015】
しかし、参考文献3にも指摘されているが、分離強度Is(θ)は混合状態を詳細に規定する重要な指標であるにもかかわらず、C(θ,x)を実験により算出することは困難である。しかし、C(θ,x)の値は、数値シミュレーションによって求めることが可能である。そのため、当該数値シミュレーションにより、式(3)のC(θ,x)の値を算出することで、分離強度Is(θ)を求めることができる。そして、分離強度Is(θ)を混合状態の指標とすることによって、異なる装置、異なる装置スケール間の混合特性を比較、整理することができる。
つまり、従来、攪拌レイノルズ数を特定の範囲に設定したとしても、好ましい光学特性を有する薄片状酸化亜鉛粉末が必ずしも得られなかった理由は、同一の攪拌レイノルズ数であったとしても、混合特性を示す分離強度Is(θ)が異なっていたためである。一方、本発明の製造方法では、分離強度Is(θ)による攪拌条件、攪拌装置の整理を行うことで、好ましい光学特性を有する薄片状酸化亜鉛粉末を確実に得ることができる。
【0016】
上記式(3)において、平均濃度C0と混合体積Vの値が一定の場合、分離強度Is(θ)は、攪拌時間θの関数である。濃度分布C(θ,x)は数値シミュレーションにより求め、数値積分される。時刻0(混合開始時)における分離強度Is(θ)は分母C0(1−C0)により正規化されているため、必ずIs(0)=1となる。また、分離強度Is(θ)は時間と共に単調減少する。
【0017】
計算により得られた分離強度Is(θ)をy軸(縦軸)に、攪拌時間θをx軸(横軸)にとり、攪拌時間θと分離強度Is(θ)との関係をプロットし、プロットされたデータを回帰分析により指数関数近似すると、下記式(1)に示す相関関係があることがわかった。
s(θ)=e-aθ (1)
【0018】
分離強度Is(θ)の経時変化は、混合開始の時点からどの程度混合が進んだのかを表している。攪拌開始時の混合状態は、例えば攪拌槽内への混合液投入方法に依存し、攪拌装置には依存しない。すなわち、攪拌装置の性能、攪拌条件を真に表現しているのは、上記式(1)で表される分離強度経時変化曲線の傾きであり、上記式(1)における係数(混合性指標)aがそれに相当する。つまり、混合性指標aは、混合速度ともいえるものである。
本発明において、この混合性指標aは、0.45以上であり、好ましくは0.50以上、より好ましくは0.55以上である。0.45未満であると、均一に混合される時間が長くなり、生成する薄片状酸化亜鉛結晶の厚みが厚くなり光学特性が低下する。
また、混合性指標aの上限としては、好ましくは1.8以下であり、より好ましくは1.1以下、更に好ましくは0.7以下である。1.8以下であれば、高額な攪拌機器を用いることなく調整できることができるため製造コストを抑えることができると共に、生成した結晶が破砕され、結晶サイズが小さくなりすぎることを防ぐことができる。
【0019】
本発明において、上記の混合性指標aは、流体解析ソフトによって求めることができる。使用する流体解析ソフトとしては、特に限定されるものではなく、複数回転基準座標系、スライディングメッシュ、高次離散化手法等がモデル化されており、攪拌槽、混合槽の計算に適した流体解析ソフトであればよい。
また、分離強度Is(θ)は、化学工学特有の概念(指標)であるため、汎用(商用)流体解析ソフトの標準的な機能には、分離強度データの出力機能が含まれていない。そのため、汎用流体解析ソフトを用いて混合性指標aを求めるためには、必要なデータを解析者が取り出すための、カスタマイズ機能が搭載されていることが好ましい。
これらの要件を満たす汎用流体解析ソフトとしては、例えば、FLUENT(アンシス・ジャパン株式会社製)等が挙げられる。
【0020】
<混合性指標を算出するためのシミュレーション手順>
以下、汎用流体解析ソフトを用いた混合性指標を算出するためのシミュレーション手順の一例について説明する。はじめに、モデリングソフトを用いて、攪拌装置のモデル図を作図する。混合性指標は、攪拌混合の際に用いる攪拌装置の構成や大きさ、形態等により影響されるため、攪拌装置のモデリングを行う必要がある。用いるモデリングソフトとしては、特に限定されないが、例えば汎用流体解析ソフトとしてFLUENTを使用する場合、「GAMBIT」「Design Modeler」(共に、アンシス・ジャパン社製)等が挙げられる。
【0021】
攪拌混合の際に用いる攪拌装置には、各種形態の攪拌翼、例えば、多段翼、アンカー型、馬蹄型、スクリュー型、2重リボン、タービン型、プロペラ型、マックスブレンド、ビスター装置等が使用できる。あるいは、例えば、スタティックミキサー、ラインミキサー等を単独あるいは併用してもよい。攪拌混合に使用する攪拌槽の形状は、特に限定されないが円筒状等が使用できる。
攪拌装置のモデル図の作図に際し、これらのホモミキサー、タービン翼、パドル翼、攪拌槽、各攪拌翼を支持する部品、邪魔板等を作図する。
作図した後、流体部分の計算格子(メッシュ)を作成する。なお、ホモミキサーのモデリングは、簡略化されたホモミキサー吐出面にホモミキサーによる吐出流量を境界条件設定するという手法により、簡略化が可能である。適切な計算結果を得る観点から、計算格子サイズを小さくし、かつ、計算格子体積歪み(Skew)も小さくすることが好ましい。
【0022】
実際にシミュレーションを行うにあたっては、攪拌に用いるホモミキサー、パドルミキサー、タービンミキサー等の回転数や、用いる原料の配合割合や物性等も設定する。また、定常流体計算と非定常分離強度計算の2段階に分けて計算を行うことが好ましい。定常流体計算により一定回転数で攪拌している状況下での流動状態を求めることができ、非定常分離強度計算により溶質(又は分散物)の移流拡散状況を求めることができる。これにより一定攪拌回転数における混合性指標を得ることができる。非定常分離強度計算は、一種のトレーサー解析であるとも言える。計算を2段階に分けることで、計算時間の短縮を図ることができる。
また、非定常計算の初期条件として定常流体計算の結果を用いる必要がある上、流体計算と分離強度計算は相互に連成しないため、流体計算と分離強度計算をひとまとめにし、非定常計算を行ったとしても結果に相違はない。
【0023】
非定常解析において解析実時間(計算に要する時間ではなく、式(1)のθに相当する攪拌開始からの時間)は、少なくとも5秒以上で設定することが好ましい。5秒以上の解析実時間での解析であれば、式(1)の近似曲線傾き(混合性指標)を適切に算出することができる。なお、長時間の解析を行っても近似曲線傾きが大きく変化することはないので、解析実時間は、20秒以下で十分であり、10秒前後が好ましい。
シミュレーションによって得られる10秒間分の分離強度データは、サンプリング間隔を1秒以下としてデータ出力することが好ましい。1秒以下であれば、サンプリング間隔の大きさが適度であり、近似の際のデータ点数が粗過ぎることがなく、適切な近似曲線傾きを得ることができる。
【0024】
混合性指標を算出する目的は、前述したように攪拌装置の性能、攪拌条件を適切に表現することにある。亜鉛塩及び水を含む混合物とアルカリ溶液との反応において、反応途中の混合液粘度は最大で200mmPa・sに達する。一般に、低粘度液よりも高粘度液の方が、攪拌、混合が困難である。
そこで、混合性指標を求めるための流体計算を行うにあたっては、工程中で最も粘度が高い状態におけるシミュレーションを行う必要がある。すなわち、粘度200mmPa・sの環境下でのシミュレーションを行うことが好ましく、当該粘度において攪拌レイノルズ数は102オーダーとなる。流れは、層流状態で解析を行う方が好ましい。
【0025】
〔薄片状酸化亜鉛の製造方法〕
本発明の薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法は、亜鉛塩及び水を含む20L以上の混合物に、上述の特定の攪拌条件下で、該亜鉛塩に対してモル比2.0〜3.0のアルカリを、アルカリ溶液として添加時間30〜70秒で添加する工程を有する。
一つの好ましい実施形態として、本発明の薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法は、次の工程1、2を有してもよい。
工程1:亜鉛塩及び水を含む20L以上の混合物を調製する工程。
工程2:工程1で調製された混合物に、上述の特定の攪拌条件下で、亜鉛塩に対してモル比2.0〜3.0のアルカリを、アルカリ溶液として添加時間30〜70秒で添加する工程。
また、必要に応じて、下記の工程3を更に有することが好ましい。
工程3:工程2の後、熟成処理をし、沈殿を採取して加熱乾燥する工程。
【0026】
<工程1>
工程1では、亜鉛塩及び水を含む20L以上の混合物を調製し得る。
用いる亜鉛塩としては、亜鉛の硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、塩化物、及びこれらの水和物等が挙げられる。
亜鉛塩と混合する水としては、そのまま水を配合してもよいが、水の代わりに、硫酸水溶液、硝酸水溶液、酢酸水溶液等の酸水溶液を用いてもよい。
【0027】
また、上記混合物には、更に、水溶性アルカリ金属塩を含有することが好ましい。水溶性アルカリ金属塩を含有することで、凝集を抑制し、光学特性が優れた薄片状酸化亜鉛粉末を安定して得ることができる。
水溶性アルカリ金属塩としては、水溶性であり、電離すると、SO42-、NO3-、CH3COO-、PO43-、CO32-、C242-、Cl−等の酸基が放出する化合物であればよいが、凝集抑制の効果の観点から、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等が好ましい。これらの水溶性アルカリ金属塩は、単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
水溶性アルカリ金属塩の含有量は、凝集抑制の効果の観点から、亜鉛塩100モルに対して、好ましくは5〜40モル、より好ましくは10〜35モル、更に好ましくは15〜30モルである。
【0028】
他に、上記混合物は、更に、微量元素を含有する塩も配合し、混合することが好ましい。微量元素を含有する塩を配合することで、得られる薄片状酸化亜鉛粉末の表面又はその内部に微量元素が結合・保持され、それにより紫外線吸収性を向上させることができる。
微量元素を含有する塩としては、鉄、ジルコニウム、カルシウム、ゲルマニウム、マンガン、マグネシウム又はイットリウムの硫酸塩、硝酸塩、酢酸塩、リン酸塩、炭酸塩、シュウ酸塩、塩化物等が挙げられる。
これらの微量元素を含有する塩の含有量は、紫外線吸収性の向上効果の観点から、亜鉛塩100モルに対して、好ましくは0.005〜1.0モル、より好ましくは0.01〜0.5モルである。
【0029】
各成分を配合後、これらの成分を混合し20L以上の混合物が得る際に用いる装置としては特に制限はないが、次工程で用いる攪拌装置を使用することが好ましい。また、本工程での混合条件は、特に限定されず、次工程での攪拌条件下と同様の条件で混合してもよい。
【0030】
<工程2>
工程2では、工程1で得られた混合物に、上述の特定の攪拌条件下で、亜鉛塩に対してモル比2.0〜3.0のアルカリを、アルカリ溶液として添加時間30〜70秒で添加する工程であり、本工程終了後に、酸化亜鉛の沈殿物が得られる。
用いる攪拌装置としては、各種形態の攪拌翼、例えば、多段翼、アンカー型、馬蹄型、スクリュー型、2重リボン、タービン型、プロペラ型、マックスブレンド、ビスター装置等が使用できる。あるいは、例えば、スタティックミキサー、ラインミキサー等を単独あるいは併用してもよい。攪拌混合に使用する槽の形状は、特に限定されないが円筒状等が使用できる。
また、本工程では、上述のシミュレーションにより得られた混合性指標aが0.45以上の攪拌条件下で攪拌混合するため、分離強度Is(θ)の値を好適値に保つことができ、20L以上もの大スケールにおいても、光学特性の優れた薄片状酸化亜鉛粉末を安定して製造することができる。
なお、混合物の容積としては、20L以上であるが、本発明の効果をより得る観点から、好ましくは30L以上、より好ましくは35L以上である。
【0031】
本工程で用いるアルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化アンモニウム等が挙げられるが、これらの中で、水酸化ナトリウムが好ましい。
添加するアルカリの亜鉛塩1モルに対するモル比は2.0〜3.0であり、好ましくは2.2〜2.8、より好ましくは2.3〜2.7である。モル比が2.0未満であると、酸化亜鉛の結晶厚みが厚くなり透明性が低下し、3.0を超えると生成した酸化亜鉛結晶が溶解するため好ましくない。
これらのアルカリは、水等に溶解させ、アルカリ溶液として、混合物に添加する。添加することで、酸化亜鉛の沈殿物が生成される。アルカリ溶液の添加方法としては、適切な大きさや厚みを有する酸化亜鉛の結晶を得る観点から、滴下することが好ましい。
【0032】
アルカリ溶液の添加時間は、30〜70秒であるが、好ましくは35〜65秒、より好ましくは40〜60秒である。30秒未満であると、結晶サイズが小さくなることで得られる酸化亜鉛の平均板状比(平均粒子径/平均粒子厚さ)が小さくなり光学特性が低下する。また、70秒を超えると、結晶の厚みが大きくなることで得られる酸化亜鉛の平均板状比が小さくなることや、微量元素を含有する塩を配合する場合、混合物中に亜鉛とは沈殿pHの異なる微量元素を亜鉛と同時に沈殿生成させ、亜鉛に微量元素を均一に保持させることが困難になるため、光学特性が低下する。
添加時の温度としては、30℃以下が好ましい。30℃以下であれば、得られる酸化亜鉛を薄片状にし易く、球状又は塊状粒子となるのを防ぎ易く、光学特性を向上させることができる。
【0033】
<工程3>
工程3では、工程2の後、熟成処理をし、沈殿を採取して加熱乾燥する。当該工程は任意の工程である。
熟成処理は、沈殿生成後、必要に応じて加温しながら保持することにより行うことが好ましい。熟成処理の処理条件としては、より結晶性のよい薄片状酸化亜鉛を得る観点から、約60〜100℃で30分〜5時間処理することが好ましい。
熟成処理後は、必要に応じて水洗し、濾過等の手段で沈殿を採取し、加熱乾燥することが好ましい。乾燥温度としては、あまり高温となり過ぎないことが望ましく、好ましくは約200〜300℃、より好ましくは220〜250℃であり、乾燥時間としては、好ましくは1〜20時間、より好ましくは5〜15時間である。
【0034】
〔薄片状酸化亜鉛粉末〕
本発明の製造方法により得られる薄片状酸化亜鉛粉末は、特定範囲の平均粒径、平均粒子厚さ及び平均板状比を有するものであることが好ましい。
平均粒径としては、好ましくは0.1〜1μm、より好ましくは0.2〜0.7μm、更に好ましくは0.3〜0.5μmである。0.1μm以上であれば、凝集による分散性の低下を防ぐことができ、1μm以下であれば優れた透明性及び紫外線吸収性が得られる。
平均粒子厚さとしては、好ましくは0.005〜0.2μm、より好ましくは0.01〜0.1μm、更に好ましくは0.01〜0.05μmである。0.005μm以上であれば、薄片状形態が崩れ難く、0.2μm以下であれば、化粧料に配合した場合に不快感が生じることがなく、実用性に優れる。
平均板状比としては、好ましくは7以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは11以上である。3以上であれば、優れた透明性を有する。なお、平均板状比は、平均粒子径と平均粒子厚さとの比((平均粒子径)/(平均粒子厚さ))を意味する。
【0035】
本発明の製造方法で得られる薄片状酸化亜鉛粉末は、微量元素が薄片状酸化亜鉛粉末の表面又はその内部に結合・保持されていることが好ましい。
微量元素は、鉄、ジルコニウム、カルシウム、ゲルマニウム、マンガン、マグネシウム及びイットリウムからなる群から選ばれる1種以上の元素である。これらは単独でも2種以上を組み合わせても用いることもでき、組み合わせの例としては、ジルコニウムと鉄、ジルコニウムとマグネシウム、鉄とマグネシウム、鉄とカルシウム、マグネシウムとゲルマニウム等を挙げることができる。
微量元素の含有量は、亜鉛塩100モルに対して、好ましくは0.005〜1.0モル、より好ましくは0.01〜0.5モルである。当該範囲であれば、十分に紫外線吸収性を向上させることができる。
【0036】
本発明では、薄片状酸化亜鉛粉末の光学特性は、下記式(2)で表わされる光学特性Pの値により評価できる。
P=log(100/T370)/log(100/T500) (2)
(式(2)中、T370及びT370は、それぞれ370nm及び500nmでの吸光度を表す。)
本発明の製造方法により得られる薄片状酸化亜鉛粉末の光学特性Pは、6以上であることが好ましく、6.2以上がより好ましく、6.4以上が更に好ましい。当該光学特性の値は、大きくなるほど、可視光透明性に比べ紫外線遮蔽性が高くなることを示す。紫外線遮蔽能が高く肌に塗布したときに白くなり難いことを示す
上記光学特性Pが6以上であれば、可視光透過性に比べ紫外線遮蔽性能が高く、例えば、得られた薄片状酸化亜鉛粉末を含む化粧品は、肌に塗布したときに白くなり難い。
【実施例】
【0037】
以下の実施例及び比較例により得られた薄片状酸化亜鉛粉末の光学特性の測定、平均粒子径及び平均粒子厚さの測定は、下記の方法により行った。
〔光学特性の測定〕
得られた薄片状酸化亜鉛粉末を0.03重量%となるようにグリセリン/水=9/1(重量比)に分散させ、この分散液を光路長1mmのセルに入れ、分光光度計(島津製作所製、製品名「Solid−Spec3700」)にて、積分球無しの条件で250nm〜700nmの透過スペクトルを測定し、370nm及び500nmでの吸光度を得た。当該吸光度の値に基づき、上述の式(2)から光学特性の値Pを算出した。当該光学特性Pの値は、大きくなるほど、可視光透明性に比べ紫外線遮蔽性が高いことを示す。
〔平均粒子径、平均粒子厚さの測定〕
平均粒子径は、透過電子顕微鏡(日本電子株式会社製、製品名「JEM−2100」)を用いて酸化亜鉛粒子を撮影し、現像した写真中、任意の視野の任意の粒子20個についての粒子径の平均を繰り返し測定することにより求めた。長円形の酸化亜鉛粒子については、長軸と短軸との相加平均を粒子径とみなした。
平均粒子厚さは、上記の平均粒子径の測定で用いた写真中、板厚を読み取れる全ての粒子について板厚を測定し、これらの算術平均により平均粒子厚さを求めた。
また、上記の測定により得た値を基に、(平均粒子径)/(平均粒子厚さ)の値を平均板状比とした。
【0038】
実施例1
(攪拌装置)
図1には、本実施例で使用した攪拌装置の内部構造を示し、図2〜5には、当該攪拌装置の各構成が示している。なお、図2〜5に示された数値の単位はmmである。本実施例で用いた攪拌装置10は、攪拌槽11内に、タービン翼を有するホモミキサー12、パドル翼13を備え、ホモミキサー、タービン翼、パドル翼がそれぞれ独立にモーター駆動される複合型攪拌翼を持ち、各回転数を調整することができる攪拌装置を用いた。
【0039】
(混合性指標(a)の計算)
上記攪拌装置のモデリングを、モデリングソフト「GAMBIT」(アンシス・ジャパン社製)を用いて行い、計算格子サイズを、主に6面体格子により約52万格子、体積歪みの最大値は0.79とした。このモデルを設定し、また、ホモミキサー回転数;3000rpm、ホモミキサー攪拌部から吐出される流量;110L/min、パドルミキサー回転数;75rpm、タービンミキサー回転数;75rpm、パドルミキサーとタービンミキサーの回転方向は逆方向であるとの攪拌装置の条件を設定し、汎用流体解析ソフト「FLUENT」(アンシス・ジャパン株式会社製)により定常流計算を行い、そのデータを元に非定常流計算を行った。非定常流計算の解析実時間は10秒で1秒間隔のデータを出力した。時間をx軸に、分離強度Is(θ)の値をy軸にとり、上記計算で得られたデータをプロットし、最小2乗近似をし、混合性指標を求めた。得られた混合性指標のaの値は0.61であった。
【0040】
(薄片状酸化亜鉛粉末の調製)
硫酸亜鉛7水和物4.69kg、硫酸ナトリウム0.520kg、硫酸鉄4.53g、及び水31.5kgを、図1に示す攪拌装置にいれて、ホモミキサー回転数;3000rpm、ホモミキサー攪拌部から吐出される流量;110L/min、パドルミキサー回転数;75rpm、タービンミキサー回転数;75rpmで攪拌し、34.6Lの混合物を得た。また、この攪拌条件下(混合性指標;a=0.61)で、添加時間を40秒とし、2N水酸化ナトリウム水溶液19.3kg(硫酸亜鉛7水和物に対して2.45モル)を21℃で添加した。また、同攪拌条件下で10分攪拌した後、加熱し、85℃〜95℃で90分間、ホモミキサー2000rpm、パドルミキサー35rpm、タービンミキサー35rpmで攪拌した。その後、40℃まで冷却後、水洗、ろ過を2回繰り返し、ろ液のpHを10以下にした。100℃で一晩乾燥後、230℃で10時間乾燥を行い、薄片状酸化亜鉛粉末を得た。得られた粉末は、10wt%グリセリン水溶液に添加し、超音波洗浄器で30分間分散させた。この分散液を光路長1mmのセルで吸光度を測定し、光学特性の値Pを算出した。
【0041】
実施例2〜4、比較例1〜4
混合性指標a、及び2N水酸化ナトリウム水溶液の添加時間を、表1に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして、薄片状酸化亜鉛粉末を得た。また、得られた薄片状酸化亜鉛粉末について、実施例1と同様に、光学特性を算出した。その結果を表1に示す。
【0042】
実施例5
原料重量、硫酸亜鉛7水和物2345g、硫酸ナトリウム260g、硫酸鉄2.27gを水15.8kg、添加する2N水酸化ナトリウム水溶液を9.7kg(硫酸亜鉛7水和物に対して2.45モル)とした以外は、実施例1と同様にして、薄片状酸化亜鉛粉末を得た。また、得られた薄片状酸化亜鉛粉末について、実施例1と同様にして、光学特性を算出した。その結果を表1に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
表1より、実施例1〜5の方法により得られた薄片状酸化亜鉛粉末は、優れた光学特性を有することがわかる。また、比較例1〜3のように、2N水酸化ナトリウム水溶液の添加時間が30〜70秒の範囲から外れる場合や、比較例4のように混合性指標aが0.45未満の場合、薄片状酸化亜鉛粉末の光学特性が実施例に比べて劣ることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0045】
本発明の製造方法により得られる薄片状酸化亜鉛粉末は、可視領域では透明で、かつ強い紫外線吸収力を有することが望まれている化粧料や塗料等の用途の配合成分として好適である。
【符号の説明】
【0046】
10 攪拌装置
11 攪拌槽
12 ホモミキサー
13 パドル翼

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛塩及び水を含む20L以上の混合物に、下記式(1)におけるaが0.45以上となる攪拌条件下で、該亜鉛塩に対してモル比2.0〜3.0のアルカリを、アルカリ溶液として添加時間30〜70秒で添加する工程を有する、薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法。
s(θ)=e-aθ (1)
(式(1)中、Is(θ)は分離強度、eは自然対数の底、θは混合開始からの攪拌時間(単位:秒)を表す。)
【請求項2】
前記混合物が、更に、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、塩化ナトリウム、及び塩化カリウムから選択される1種以上の水溶性アルカリ金属塩を含有する、請求項1に記載の薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法。
【請求項3】
薄片状酸化亜鉛粉末の平均粒径が0.1〜1μmであり、平均粒子厚さが0.005〜0.2μmである、請求項1又は2に記載の薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法。
【請求項4】
薄片状酸化亜鉛粉末の下記式(2)で表わされる光学特性Pが6以上である、請求項1〜3のいずれかに記載の薄片状酸化亜鉛粉末の製造方法。
P=log(100/T370)/log(100/T500) (2)
(式(2)中、T370及びT370は、それぞれ370nm及び500nmでの吸光度を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−176860(P2012−176860A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−39956(P2011−39956)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000000918)花王株式会社 (8,290)
【Fターム(参考)】