説明

薄片試料作製方法

【課題】FIB加工で薄片試料を作製する際に保護膜形成時に穴が形成されず穴からリデポすることを防ぎ、電子顕微鏡にて良好な像を取得することのできる薄片試料作製方法を提供することを課題とする。
【解決手段】集束イオンビーム装置を用い試料から薄片試料を作製する薄片試料作製方法であって、試料の薄片試料作製箇所にインクを塗布し塗膜を形成する工程と、試料を前記集束イオンビーム装置に導入し、金属系材料を用い薄片試料作製箇所にイオンビームにより保護膜を形成する工程と、前記保護膜が形成された薄片試料作製箇所についてイオンビームによるエッチング加工により薄片試料を作製する工程とを順に備えることを特徴とする薄片試料作製方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透過電子顕微鏡(TEM)や走査電子顕微鏡(SEM)等の顕微鏡を用いて観察をおこなう際の薄片試料作製方法に関する。さらに詳しくは、集束イオンビーム装置(FIB)を用いた断面観察用の薄片試料作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、電子顕微鏡、特に透過電子顕微鏡(TEM)では、試料を電子線が透過する程度の厚みに薄片化する必要があり、様々な方法が用いられてきた。薄片化する方法としては、乳鉢で試料を粉砕する粉砕法や、研磨とイオンミリングを用いたイオン研磨法、断面切削装置ウルトラミクロトームを用いたミクロトーム法や、集束イオンビーム(FIB)装置を用いた薄片加工方法、電解液中で試料を溶解させていく電解研磨法、酸やアルカリでエッチングする化学エッチング法などが主な薄片化方法としておこなわれている。
【0003】
集束イオンビーム(FIB)装置は、Gaイオンにより材料加工をおこなう装置である。半導体分野の断面観察用途に用いられているが、その加工性能から半導体分野だけでなくTEM用の薄片試料作成に用いられることもある。イオンビームにより走査イオン顕微鏡像(SIM像)で観察することが出来るため、微小部観察が可能であり、ミクロン単位の微小な特定領域を観察箇所として狙い、加工することが可能である。また、ガスを噴霧させ、イオンビームで分解するデポジション(以下、デポと表記する)により、特定位置に保護膜としてデポジション膜(以下、デポ膜と表記する)を形成することも可能である。
【0004】
また、FIBの装置構造としては、イオン銃のみを備える装置の他に、さらに、電子銃を搭載してあり走査イオン顕微鏡像(SIM像)と走査電子顕微鏡像(SEM像)の2種類の観察を可能としているFIB装置も存在する。
【0005】
FIB装置にあっては、試料表面にイオンビームまたは電子ビームを照射した際には試料表面にダメージが入る。特に、イオンビームのほうが試料に対し、よりダメージを与えやすい。そのため、FIB装置内で観察をおこなう際は、保護膜を形成することが望ましい。デポ膜は、位置指定をおこなうことでFIB加工をおこなう箇所ににおいて試料表面をダメージから守る保護膜として形成する。
【0006】
また、加工箇所がイオンビームによるダメージを受けないようにすることを目的として、イオン銃のみをもつ構造であればFIB加工のときのみ電流を強い値とし、観察時には電流値を小さくする方法が用いられる。また、FIB装置がイオン銃と電子銃を搭載する構造であれば、観察時にはSEM像で確認する方法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平11−258130号公報
【特許文献2】国際公開第99/005506号
【特許文献3】特開2002−150990号公報
【特許文献4】特開2004−071486号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
集束イオンビーム装置(FIB装置)で薄片試料作製をおこなうにあっては、デポ膜を形成することによりイオンビームからのダメージで表面の構造を破壊されるのを防ぐことができる。また、イオンビームを入射する方向に対し垂直な試料の面の凹凸が激しい場合、イオンビームに垂直な方向に沿って、加工ビーム跡が生じ、厚みムラが生じることがあるが、デポ膜は凹凸を滑らかにするため、この現象を軽減する効果も認められている。
【0009】
しかしながら、半導体分野のパターン試料等のナノメートルオーダーの微細な凹凸形状を表面に有する試料にあっては、表面の凹み部分にデポ膜が均一に成膜されない場合があった。試料表面の微細な凹凸形状の凹部にデポ膜が形成できない場合には、凹部に微小な穴が生じ、微小な穴が形成されると形成された穴の周囲に保護膜由来と推測される加工カス(以降、リデポとする場合がある)が付着し、界面が不明瞭となる場合がある。また、一度生じた微細な穴は、FIBによって埋めることは困難であり、穴が生じた状態が続くことが多い。
【0010】
FIB装置による薄片試料作製において、試料表面に微小な穴が生じた状態では、穴の隙間から加工済みのカスが反対側面に付着し、穴周囲や観察部位にカスの像が混じることにより、得られる顕微鏡像が不明瞭になるケースがある。特に保護膜が重元素である場合、透過像ではコントラストが暗く、界面などの微小部が観察できないことがある。
【0011】
そこで、本発明は、FIB加工で薄片試料を作製する際に保護膜形成時に穴が形成されず穴からリデポすることを防ぎ、電子顕微鏡にて良好な像を取得することのできる薄片試料作製方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために請求項1に係る発明としては、集束イオンビーム装置を用い試料から薄片試料を作製する薄片試料作製方法であって、試料の薄片試料作製箇所にインクを塗布し塗膜を形成する工程と、試料を前記集束イオンビーム装置に導入し、金属系材料を用い薄片試料作製箇所にイオンビームにより保護膜を形成する工程と、前記保護膜が形成された薄片試料作製箇所についてイオンビームによるエッチング加工により薄片試料を作製する工程とを順に備えることを特徴とする薄片試料作製方法とした。
【0013】
また、請求項2に係る発明としては、前記試料の薄片試料作製箇所にインクを塗布する工程がペンによりおこなわれることを特徴とする請求項1に記載の薄片試料作製方法とした。
【0014】
また、請求項3に係る発明としては、試料の薄片試料作製箇所にインクを塗布し塗膜を形成する工程後、試料表面に導電膜を形成する工程を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の試料薄片作製方法とした。
【0015】
また、請求項4に係る発明としては、前記試料の薄片試料作製箇所表面が凹凸形状を備えており、該凹凸形状の凹部の間隔が1nm以上100nm以下の範囲内であり、且つ、凹部の高さが1nm以上1μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の薄片試料作製方法とした。
【発明の効果】
【0016】
本発明の薄片試料作製方法により、表面に微細な凹凸構造を備えるような試料を電子顕微鏡観察用薄片試料として集束イオンビーム装置で作製する際にリデポのない良好に断面観察をおこなうことのできる薄片試料を作製することができた。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は本発明の薄片試料作製方法における保護膜形成までの断面説明図である。
【図2】図2は本発明のイオンビームによる薄片試料作製の説明図((a)上面図、(b)側面図)である。
【図3】図3は本発明のイオンビームによる薄片試料作製の説明図(斜視図)である。
【図4】図4は従来の薄片試料作製方法の説明図である。
【図5】図5は本発明の薄片試料作製方法の保護膜形成まで別の態様の説明断面図である。
【図6】図6は本発明の薄片試料の断面説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下に本発明の薄片試料作製方法について説明する。
【0019】
本発明の薄片試料作製方法にあっては集束イオンビーム装置を用いる。集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)装置は、イオン源から取り出したイオンビームを、アパーチャ、レンズを用いて5〜10nmに集束させ、試料表面に照射する装置であり、イオンビームと試料表面の相互作用によって、微細な領域の観察、エッチング(除去加工)、デポジション(デポ・付加加工)をおこなうことができる装置である。イオン源としてはGaイオンが用いられる。また、FIB装置としては、イオンビームを照射するイオン銃のみを備える装置の他に、さらに、電子ビームを照射することのできる電子銃を搭載してもよい。
【0020】
本発明の薄片試料作製方法にあっては、以下の(工程1)〜(工程3)を順に備えることを特徴とする。
(工程1)試料の薄片試料作製箇所にインクを塗布し塗膜を形成する工程。
(工程2)試料を前記集束イオンビーム装置に導入し、金属材料を用い薄片試料作製箇所に保護膜を形成する工程。
(工程3)保護膜が形成された薄片試料作製箇所についてイオンビームによるエッチング加工をおこない薄片試料を作製する工程。
【0021】
本発明の薄片試料作製方法においては、試料の薄片作製箇所にインクを塗布し、塗膜を形成する工程(工程1)を備えることを特徴とする。試料の薄片試料作製箇所に形成されるインクからなる塗膜は、インクの毛細管現象により試料表面の凹凸形状を埋める形で薄片試料作製箇所に平滑な面を提供することができる。インクからなる塗膜は、微小な穴を有さず平滑な表面を与える。したがって、塗膜上に形成される保護膜についても微小な穴有さない。したがって、形成されるイオンビームにより薄片試料作製をおこなう工程(工程3)においてリデポが発生せず、良好な観察をおこなうことのできる薄片試料を提供することができる。
【0022】
薄片試料作製箇所に塗布されるインクは、乾固しやすく、試料と反応しないインクであることが好ましい。また熱に対してある程度の耐性を有しており、電子線ビームやGaイオンビーム照射の発熱で変形を生じないインクであることが好ましい。インクの塗布手段としては文房具の万年筆、フェルトペン等のペンによりおこなわれることが好ましい。
【0023】
文房具の万年筆、フェルトペン等のペンは筆記用具であるため、ハンドリングがしやすく、インキに色がついているため、マーキング個所を目視で確認しやすいというメリットもある。また、インキに有機溶剤が用いられているが、大半はエタノールであり、速乾性であると同時にガラス、金属をはじめとする様々な素材に対し変質させることなく用いることができる。インキは油性、水性のものに分かれ、また染料系、顔料系に分かれるが、のちの工程が真空下でのドライ条件での加工用であるため、試料表面に対してはじくことなく塗布可能であり、かつ試料と化学反応を生じないものであれば、種類は問わない。透過電子顕微鏡像で観察する場合は、無機成分が多いとコントラストが暗くなるため、試料表面を形成する材料が無機成分主体であれば、有機系インキのほうがコントラスト差が出て観察時に見やすくなるため好適に使用することができる。また試料表面を形成する材料が有機成分主体であれば、無機系インキの使用でコントラスト差が出て見やすくなるため好適に使用することができる。また、インキにより塗膜を形成する方法は大気圧下、常温下で気軽に塗布可能なため、低真空状態でおこなうのが一般的である蒸着法と比べると、手間がかからないという利点を有する。
【0024】
インクにより形成される塗膜の厚さとしては、試料表面の凹凸形状の凹部の深さ以上凹凸形状の凸部表面の位置から5μm以下の範囲内とすることが好ましい。塗膜の厚さが凹凸の凹部の深さを下回る場合、塗膜により平滑な面が得られずに次工程での保護膜(デポ膜)形成工程において凹部部分に穴が生じてしまうことがある。一方、塗膜の厚さが微小凹凸の凸表面位置から5μmを超える場合、薄片厚みが厚くなるため、観察部位を観察に十分な厚みまで薄片化するまでの加工の時間が長くなることがある。
【0025】
図1に本発明の薄片試料作製方法における保護膜形成までの断面説明図を示した。図1にあっては、表面に凹凸構造を備える試料1表面にインキを塗布し塗膜2を形成し(図1(a)、(b))、試料1を集束イオンビーム装置(FIB)に導入し金属材料もしくはカーボン材料を用い保護膜であるデポ膜3を形成する(図1(d))。
【0026】
集束イオンビーム装置(FIB)内で保護膜であるデポ膜を形成することにより、試料をイオンビームによるダメージから守ることができる。
【0027】
集束イオンビーム装置において保護膜であるデポ膜を形成するにあっては、試料表面に原料ガスを導入し、イオンビームを照射することにより薄片作製箇所にデポ膜を形成する。このとき原料ガスとしては金属系材料を用いることができ、具体的には、原料ガスとしてタングステン系材料、カーボン系材料を用いることができる。
【0028】
集束イオンビーム装置において形成される保護膜であるデポ膜の厚さとしては、0.10μm以上5μm以下の範囲内とすることが好ましい。デポ膜の厚さが0.10μmに満たない場合、形成されるデポ膜が保護膜として機能せずに薄片試料の表面部分がダメージを受け良好な観察ができないことがある。一方、デポ膜の厚さが5μmを超える場合にあっては、観察部位を観察に十分な厚みまで薄片化する加工の時間が長くなってしまうことがある。
【0029】
試料表面の薄片作製箇所に保護膜を形成後、イオンビームによるエッチング加工により薄片試料作製がおこなわれる。図2に本発明のイオンビームによる薄片試料作製の説明図((a)上面図、(b)側面図)を示した。また、図3に本発明のイオンビームによる薄片試料作製の説明図(斜視図)を示した。
【0030】
図2、図3において試料1はイオンビームにより加工箇所1bの部分がエッチング加工され、薄片試料1aとなる。
【0031】
本発明の薄片試料作製にあっては、薄片作製箇所の両面からイオンビーム加工をおこなうことにより薄片試料を作製することができる。図2(a)に示すように、保護用のデポ膜3を試料1表面の幅方向に長く、長方形型に形成する。そして、図2(b)に示すように長方形の長辺に対して狭めていくようにエッチング加工していき、薄片試料1a側になるに従い深く加工する。イオンビーム加工にあっては、エッチングレートの速い高エネルギーのイオンビームを用いて粗加工をおこない、薄片化するにつれ、低エネルギーのイオンビームを用いて仕上げ加工することが好ましい。そして、最終的に薄片試料の底(ボトム)と両端(サイド)をイオンビームによって試料1から切り離す。そして、切り離された薄片試料したものを採取し、透過電子顕微鏡(TEM)、走査電子顕微鏡(SEM)により断面観察をおこなう。
【0032】
このとき、最終的に電子線の透過する厚さまで試料を薄くし薄片試料としたのち、薄片試料を採取してTEM観察試料台である支持膜付きメッシュグリッドにのせて透過型電子顕微鏡観察をおこなうことができる。また、試料を1μm〜2μm厚みの薄片の状態で採取し、TEM観察試料台であるグリッド移動させた後に電子線の透過する厚さまで加工をして薄片試料とし、透過電子顕微鏡観察をおこなうこともできる。すなわち、薄片試料作製にあっては、薄片試料を試料から切り離してから仕上げ加工をおこなうこともできる。
【0033】
図4に従来の薄片試料作製方法の説明図を示した。表面に微細な凹凸構造を備える試料に対してインキによる塗膜を形成せずにFIB装置内で保護膜であるデポ膜を形成した場合には、試料表面の凹部においてデポ膜3を埋めることができずに微細な穴9が形成される(図4(a))。そして、微細な穴を有する保護膜の上からイオンビームによるエッチング加工をおこなった際には、穴9の底部近傍にリデポと呼ばれる加工カス10が付着してしまい(図4(b))、試料の表面近傍において良好な断面観察をおこなうことができなくなってしまう。
【0034】
本発明にあっては、保護膜を形成する前に試料表面にインクによる塗膜を形成することにより、試料の薄片作製箇所において表面の凹凸構造を埋める形で平坦な塗膜を形成することができる。そして平坦な塗膜上に保護膜であるデポ膜を形成することにより、デポ膜中の微細な穴の発生を防ぐことができる。したがって、薄片試料断面にリデポのない断面観察を良好におこなうことのできる薄片試料を得ることができる。
【0035】
図5に本発明の薄片試料作製方法の保護膜形成まで別の態様の説明断面図を示した。図5の薄片試料作製方法にあっては、表面に凹凸構造を備える試料1表面にインキを塗布し塗膜2を形成し(図5(a)、(b))、次に、塗膜2上に導電膜4を形成し(図5(c))、導電膜4形成後、試料を集束イオンビーム装置(FIB)に導入し金属材料もしくはカーボン材料を用い保護膜であるデポ膜3を形成する(図5(d))。
【0036】
図5に示したように塗膜上に導電膜を形成することにより、試料表面が導電性を有さない場合にチャージアップを防止し、FIB装置内での観察を容易に可能とすることができる。また、同時に塗膜の保護膜としても機能する。導電膜形成材料としては、Pt、Ag、Au、C、W、Al、Cr等の金属材料などを用いることができる。また、導電膜形成方法としては、蒸着法、スパッタリング法、プラズマCVD法、イオンプレーティング法、イオンビームアシスト法等の真空成膜法を用いることができる。
【0037】
なお、導電膜はチャージアップ防止を目的として、試料表面全体に形成されることが好ましい。また、導電膜の厚さとしては0.05μm以上1.0μm以下の範囲内であることが好ましい。導電膜の厚さが0.05μmに満たない場合にあっては、イオンビームでの短時間の観察で導電膜が消失してしまい塗膜にダメージが入り、塗膜が変形し観察が困難となってしまうことがある。また、試料表面に十分な導電性を付与することができず、FIB装置内で絶縁性の試料表面を観察した際にチャージアップしてしまうことがある。なお、導電膜の厚さは厚いほど好ましいが、真空成膜法により形成される導電膜の厚さが1.0μmを超える場合にあっては、成膜時間が長時間となってしまい非効率である。
【0038】
図6に本発明の薄片試料の断面説明図を示した。本発明の薄片試料にあっては、薄片試料作製箇所において試料1表面が凹凸形状を備えており、該凹凸形状の凹部の間隔(S)が1nm以上100nm以下の範囲内であり、且つ、凹部の高さ(H)が1nm以上1μm以下の範囲内であることが好ましい。
【0039】
本発明の薄片試料作製方法にあっては、表面に微細な凹凸構造を備える試料に対し好適に用いることができる。特に、凹凸形状の凹部の間隔(S)が1nm以上100nm以下の範囲内であり、且つ、凹部の高さ(H)が1nm以上1μm以下の範囲内である試料にあっては、FIB装置内で保護膜であるデポ膜を形成した際に試料表面の凹部において保護膜を埋めることができずに微細な穴が形成されやすい。凹凸形状の凹部の間隔(S)が1nm以上100nm以下の範囲内であり、且つ、凹部の高さ(H)が1nm以上1μm以下の範囲内である試料に対して本発明の薄片試料作製方法を用いることにより、薄片試料作製箇所において表面の凹凸構造を埋める形で平滑な塗膜を形成し、塗膜上に形成される保護膜内に穴が形成されることを防ぎ、良好な観察をおこなうことができる。
【実施例】
【0040】
表面がCrからなる金属材料からなり、凹部の幅および高さが平均50nmの凹凸形状が表面に形成されている試料において、加工個所を光学顕微鏡にて決定し、極細フェルトペンにて加工予定個所に軽く触れる程度の筆圧で点を描いた。点を描いたのち、光学顕微鏡にて写真を取得し、常温大気圧下にて1分程度放置し、乾固させ塗膜を形成した。次に、マグネトロンスパッタにて0.10μm設定でPt蒸着をおこない導電膜を形成した。導電膜を形成したのち、試料をFIB加工用冶具に導電性テープで固定し、集束イオンビーム装置(FIB装置)内に導入した。FIB装置は電子銃とイオン銃を搭載したタイプである。FIB装置内で、SEM観察により、フェルトペンで印をつけた加工位置を、光学顕微鏡の写真をもとに特定したのち、Wデポで、幅20μm、縦2μm、厚み2μm程度の保護膜を形成した。細長いWデポ膜を挟むように両端よりエッチング加工をおこなった。2μm厚みまでエッチング加工したのち、試料傾斜角度を変更し、底部分であるボトム部分と試料両端のサイド部分に切れ込みを入れた。サイドの一部を残し、プローブ先端を試料片に接するように近づけ、接している個所にWデポ膜を成膜し、プローブと試料を接着させる。接着させたのち、残していたサイドの一部をイオンビームで切り落とし、プローブに接着している薄片試料を試料から切り離した。薄片試料はTEM観察用のグリッドにWデポ膜で接着させ、グリッドと試料が接着したのち、プローブと試料をイオンビームで切り離した。グリッドに付着している薄片試料は厚み約2μmであったが、両面より弱電流ビームにて、厚み50〜100nm程度までさらに薄片化させた。得られた薄片試料を透過電子顕微鏡を用いて観察したところ、フェルトペンにて形成した塗膜とPt導電膜とWデポ膜が3層生成しており、試料凹凸の間にも穴が空くことなく入り込んでいた。また、試料が金属であったため、有機成分主体のフェルトペンの保護膜のコントラストが明るく、界面のコントラスト差がつき、薄片試料の凹凸断面形状、試料表面近傍の断面状態が見易くなった。また、薄片試料にするため加工をおこなうにしたがい、表面に位置するWデポ膜が削れて膜厚が小さくなった。最終的に断面観察をおこなった結果、Wデポ膜の厚さは0.4μmであり、導電膜の厚さは0.08μmであり、フェルトペンによる塗膜の厚さは0.2μmであった。
【符号の説明】
【0041】
1 試料
1a 薄片試料
1b エッチング加工箇所
2 塗膜
3 保護膜(デポ膜)
4 導電膜
9 穴(微小な穴)
10 リデポ(加工カス)
H 凹部高さ
S 凹部幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
集束イオンビーム装置を用い試料から薄片試料を作製する薄片試料作製方法であって、
試料の薄片試料作製箇所にインクを塗布し塗膜を形成する工程と、
試料を前記集束イオンビーム装置に導入し、金属系材料を用い薄片試料作製箇所にイオンビームにより保護膜を形成する工程と、
前記保護膜が形成された薄片試料作製箇所についてイオンビームによるエッチング加工により薄片試料を作製する工程と
を順に備えることを特徴とする薄片試料作製方法。
【請求項2】
前記試料の薄片試料作製箇所にインクを塗布する工程がペンによりおこなわれることを特徴とする請求項1に記載の薄片試料作製方法。
【請求項3】
試料の薄片試料作製箇所にインクを塗布し塗膜を形成する工程後、試料表面に導電膜を形成する工程を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の試料薄片作製方法。
【請求項4】
前記試料の薄片試料作製箇所表面が凹凸形状を備えており、該凹凸形状の凹部の間隔が1nm以上100nm以下の範囲内であり、且つ、凹部の高さが1nm以上1μm以下の範囲内であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれかに記載の薄片試料作製方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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