説明

薄肉粘着性熱伝導シート

【課題】高い熱伝導性と難燃性を有し、かつ被配設体との密着性、取り扱い性に優れた薄肉粘着性熱伝導シートを提供する。
【解決手段】 アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる熱伝導シートであって、当該前記熱伝導シートの厚さが100μm〜500μmであり、粘着力が0.10N/25mm以上であり、引張強度が0.5MPa以上であり、かつ、UL−94での難燃性がV0又はVTM0相当である薄肉粘着性熱伝導シート。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄肉熱伝導シートに関する。更に詳しくは、優れた熱伝導性及び難燃性を有し、被配設体との密着性に優れた薄肉粘着性熱伝導シートに関する。
【背景技術】
【0002】
熱伝導シートは、電子部品等の発熱体からの放熱を促すものであり、電気、電子装置の内部において、発熱源となる電子部品と、放熱板や筐体パネル等のヒートシンクとなる部材との間に介在されるように配置して使用される。そこで、熱伝導シートは、優れた熱伝導性と共に高い難燃性が求められている。また、近年、電子機器の小型化や高集積化が進展する中、発生するシロキサンガスが電子機器の接点不良の原因となるシリコーン系樹脂から非シリコーン系樹脂への転換が求められており、更に、熱伝導シートの電子機器への装着時の作業性向上の点から薄型で粘着性を有する熱伝導シートが望まれている。
【0003】
このような、要求に応えるべくシリコーン系樹脂やゴムに代えてアクリル系ポリウレタン樹脂やアクリル系樹脂を使用することが提案されている(特許文献1、2)。特許文献1には、アクリル系ポリウレタン樹脂が優れた熱伝導性とバランスのとれた粘着性を有することが記載されている。また、特許文献2には、水和金属化合物を所定の割合で含有する、架橋密度の異なるアクリル系熱伝導シート層を積層する多層熱伝導シートが開示されている。この多層熱伝導シートは、ハロゲン含有難燃剤や赤リン、シリコーン系樹脂を用いず、優れた熱伝導性および難燃性を有するとともに取り扱い性や被配設体との密着性に優れていると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献2】特開2002−030212号公報
【特許文献3】特開2005−354002号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のように、熱伝導シートの被配設体への設置箇所は、発熱源となる電子部品と筐体パネル等のヒートシンクとなる部材の間であり、電子部品から部材へ効率良く熱伝導を行う為に、熱伝導シートはその両面に粘着性を有し、電子部品、熱伝導シートそして前記部材ができるだけ密着配置することが望まれる。ところで、一般に熱伝導シートの被配設体への設置は、通常先ず電子部品を設置し、次に熱伝導シートを貼着した後、最終的に筐体パネルを熱伝導シートに貼着させながら嵌合等により装着することにより行われる。この場合、電子部品に貼着した熱伝導シートは、電子部品の形状に沿ってしっかりと貼着すると同時に、貼着時の位置面のズレ等の修正に対応できる必要がある。その為には、熱伝導シートができるだけ薄く、筐体パネルの形状に沿ってしっかりと貼着すると同時に、接合時の調整や修理等の為の開閉時に容易にパネルから剥がれることが必要である。このように、熱伝導シートは、粘着性と共に上記操作に耐え得る強度を有することが必要である。 また、熱伝導シートには、上記のように高い難燃性が必要である。近年、電子部品の軽量薄型化に伴い、このような種々の物性的要請を薄肉の熱伝導シートで達成することが求められている。
【0006】
上記文献1には、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有するアクリルオリゴマーと多官能性イソシアネートの重合反応で得られたアクリル系ポリウレタン樹脂からなる熱電導シートが優れた熱伝導性とバランスのとれた粘着性を有することが記載されている。しかし、難燃性について記載が無く、薄肉化した場合に熱伝導性や粘着性を損なうことなく、高い難燃性を如何に保持させるかについて教示するものではない。また、上記文献2には、水和金属化合物および難燃剤を含有する、優れた熱伝導性および難燃性を有するとともに取り扱い性や被配設体との密着性に優れた多層熱伝導シートが開示されているが、二層であるため生産性に難があり、使用する樹脂も単官能(メタ)アクリル単量体を主体とし、トリアジン骨格含有化合物で架橋したアクリル系樹脂に係るものである。
かかる状況下、本発明の目的は、高い熱伝導性及び難燃性を有し、かつ被配設体との密着性、取り扱い性に優れたアクリル系ポリウレタン樹脂を主体とする薄肉熱伝導シートを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、アクリル系ポリウレタン樹脂を主体としたバインダ樹脂に、無官能性アクリルポリマーを添加することにより、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有させ作製した薄肉熱伝導シートにおいて、粘着力と、熱伝導シート全体の引張強度を所定の範囲に維持することができることを見出し上記課題を解決した。
【0008】
即ち、本発明は、次の(1)から(9)に係るものである。
(1) アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる熱伝導シートであって、前記熱伝導シートの厚さが100μm〜500μmであり、粘着力が0.10N/25mm以上であり、引張強度が0.5MPa以上であり、かつ、UL−94のV0又はVTM0相当の難燃性を有する薄肉粘着性熱伝導シート。
(2) アクリル系ポリウレタン樹脂が、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有するアクリルポリマーと1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する多官能性イソシアネートの反応により得られたものである前記(1)に記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
(3) アクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーの割合が、アクリル系ポリウレタン樹脂中の水酸基を有するアクリルポリマー100重量部に対し、無官能性アクリルポリマーが30〜90重量部である前記(2)に記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
(4) 前記熱伝導シートの硬度が、硬度Cで80以下である前記(1)から(3)のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
(5) 前記熱伝導シートの熱伝導性充填剤が、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムである前記(1)から(4)のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
(6) 前記熱伝導シートの熱伝導率が、0.5W/mK以上である前記(1)から(5)のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
(7) 前記熱伝導シートの引張強度が0.7MPa以上である前記(1)から(6)のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
(8) 難燃剤が、リン系化合物、金属水酸化物、膨張黒鉛および窒素化合物から選ばれた少なくとも1種のノンハロゲン難燃剤である前記(1)から(7)のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
(9)前記熱伝導シートの片面又は両面に剥離フィルムを有する前記(1)から(8)のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
【発明の効果】
【0009】
本発明の熱伝導シートは、高い熱伝導性及び難燃性を有し、かつ被配設体との密着性、取り扱い性に優れた薄肉粘着性熱伝導シートであり、電子部品等の伝熱媒体として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の薄肉粘着性熱伝導シートの製造に用いる装置の概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明につき具体的に説明する。
本発明は、アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる熱伝導シートであって、前記熱伝導シートの厚さが100μm〜500μmであり、粘着力が0.10N/25mm以上であり、引張強度が0.5MPa以上であり、かつ、UL−94での難燃性がV0又はVTM0相当である薄肉粘着性熱伝導シートに係るものである。
【0012】
本発明において、アクリル系ポリウレタン樹脂とは、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有するアクリルポリマーと1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する多官能性イソシアネートとを触媒の存在下に重付加反応させたものである。本発明のアクリル系ポリウレタン樹脂では、そのポリオール成分としてアクリルポリマーが使用される。 なお、アクリルポリマーとは、アクリル系ポリマーとメタクリル系ポリマーの両方をさす。
【0013】
アクリルポリマーの成分としては、例えば、水酸基を有するヒドロキシエチルアクリレート、ヒドロキシエチルメタアクリレート、ヒドロキシプロピルアクリレート、ヒドロキシプロピルメタアクリレート等のモノマーが挙げられる。
また、イソオクチルアクリレート、2 −エチルヘキシルアクリレート、n −ブチルアクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のモノマーが挙げられる。
更に、物性調整の為にメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、酢酸ビニルなどのモノマーを適宜加えてもよい。これらのアクリルポリマーは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。
これらのモノマーは、ラジカル等の触媒下に、通常の方法で付加重合によりアクリルポリマーとすることができる。本発明の水酸基を有するアクリルポリマーとしては、比較的分子量が小さい液状物が好適に使用される。
【0014】
アクリル系ポリウレタン樹脂の形成のために上記したアクリルポリマーと重付加反応させる多官能性のイソシアネートは、イソシアネート基を分子中に2つ以上有するイソシアネート化合物であり、例えば、テトラメチレン−1 ,4 −ジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート等の脂肪族イソシアネート;シクロヘキサン−1 ,3―ジイソシアネート、シクロヘキシルメタン−4 ,4 −ジイソシアネート等の脂環族イソシアネート;トリレン−2 ,4 −ジイソシアネート、ジフェニルメタン−4 ,4 −ジイソシアネート等の芳香族ジイソシアネート化合物を挙げることができる。これらのイソシアネート化合物は、単量体でもよく、2量体以上のものであってもよい。
【0015】
アクリルポリマーと多官能性イソシアネートの重付加反応は、適当な触媒の存在下において実施する。ここで使用する触媒は、例えば、ジブチル錫ジラウレート、オクテン酸鉛等の有機金属系触媒やトリエチレンジアミン、ノルマルメチルモルフォリン等のアミン系触媒が使用され、特に限定されるものではない。また、重付加反応は、アクリルポリマー及び多官能性イソシアネートを出発物質として使用して、触媒の存在下において、ポリウレタン樹脂の製造に一般的に使用されている重合方法に順じて実施することができる。
なお、本発明において、バインダ樹脂の主体であるアクリルポリマーと多官能性イソシアネートとの反応は、後述の無官能性アクリルポリマー、熱伝導充填剤や難燃剤を混合する前に行うこともできるが、通常は、これらの化合物を混合後に行われる。
【0016】
水酸基のアクリルポリマーへの導入は、上記水酸基を有するモノマーを使用する以外にも、水酸基を有する重合開始剤や重合連鎖移動剤を用いることにより行うことができる。なお、アクリルポリマー中の水酸基に対する多官能性イソシアネート中のイソシアネート基の割合は、目的とするアクリル系ポリウレタン樹脂により適宜決定される。
【0017】
なお、本発明においてバインダ樹脂を構成するアクリル系ポリウレタン樹脂の前駆体となるアクリルポリマーとしては、水酸基の含有量(OHV:mgKOH/g)が、20〜80、好ましくは40〜60であり、分子量(Mw)は、3000〜10000、好ましくは5000〜8000のものが好適に使用される。
このような構成とすることにより、水酸基を有するアクリルポリマーはイソシアネートと反応し、本発明のバインダ樹脂として好適に使用され、また、熱伝導剤や難燃剤を混合した粘着性熱伝導シートとして本発明の目的を達成できる。
【0018】
このようなアクリル系ポリウレタン樹脂の前駆体となるアクリルポリマーとしては、市販品として、アルホン(ARUFON:東亞合成株式会社製)UH2000シリーズやアクトフロー(綜研化学株式会社製)UTシリーズが好適に使用できる。
上記、本発明に好適なアクリルポリマーとするためには、これらの商品(グレード)を2種或いは3種以上適宜ブレンドして調整することが好ましい。
【0019】
本発明において無官能性アクリルポリマーとは、分子中に水酸基等の官能基を有しないアクリルポリマーであり、分子量が1000〜3000で液状のものが好適に使用される。
無官能性アクリルポリマーは、一種の可塑剤としての役目を果たしシートに適度の柔軟性を付与すると共に、粘着性を付与する役割を果たす。
本発明の特徴の一つは、バインダ樹脂としてのアクリル系ポリウレタンと無官能性アクリルポリマーとの組み合わせにある。一般に可塑剤として広く用いられているトリクレジルホスフェートやフタル酸エステル類等の他の可塑剤を用いても、可塑剤が120℃でブリードする為、柔軟性や粘着性が劣り本発明の目的を達成できない。
【0020】
無官能性アクリルポリマーの成分としては、例えば、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソオクチルアクリレート、2 −エチルヘキシルアクリレート、n −ブチルアクリレート、メトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシエチル(メタ)アクリレート等のモノマーが挙げられる。
これらのアクリルポリマーは、単独で使用してもよく、2種以上を混合して使用してもよい。これらのモノマーは、ラジカル等の触媒下に、通常の方法で付加重合によりアクリルポリマーとすることができる。本発明の無官能性アクリルポリマーとしては、比較的分子量が小さい液状物が好適に使用される。
【0021】
このような無官能性アクリルポリマーとしては、市販品として、アルホン(ARUFON:東亞合成株式会社製)UP-1000シリーズが好適に使用できる。
これらの商品は、バインダ樹脂の硬さや引張強度をコントロールするために、2種又は3種以上の異なる品番のものを適宜混合して用いることができる。
【0022】
次に、アクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーとの配合割合について説明する。本発明の熱伝導シートを構成するアクリル系ポリウレタン樹脂および無官能性アクリルポリマーの配合割合は、要求される引張強度や粘着力により適宜変更されるが、一般にはアクリル系ポリウレタン樹脂中の水酸基を有するアクリルポリマー(以下、「水酸基含有アクリルポリマー」ということもある。)100重量部に対し無官能性アクリルポリマーの添加量は20〜100重量部、好ましくは30〜90重量部である。無官能性アクリルポリマーの添加量が20重量部未満では熱伝導シートの強度は増すもののシートが硬くなり熱伝導率が下がってくる。一方100重量部を超えると熱伝導シートの熱伝導率は上がるがシートの強度が低くなり取り扱いが難しくなる。
【0023】
本発明のアクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂とは、アクリル系ポリウレタン樹脂を主成分として含有することをいい、例えば、更に粘着性を付与する為に粘着剤のような他の化合物や樹脂を本発明の目的、効果を損なわない範囲で適宜追加することができる。
【0024】
次に、本発明において使用される熱伝導性充填剤の例としては、アルミニウム、銅、銀などの金属、アルミナ、マグネシアなどの金属酸化物、水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムなどの金属水酸化物、窒化アルミニウム、窒化ホウ素、窒化ケイ素などの窒化物、カーボンナノチューブなどから選ばれた1種又は2種以上の混合物が挙げられる。その形状としては、粉状、繊維状、針状、燐片状、球状などの物質が挙げられる。これらの中でも金属水酸化物が好適に使用され、とりわけ水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムがより好適に使用される。
本発明においては熱伝導性充填剤として、金属酸化物、金属水酸化物を使用する場合は、その平均粒子径は0.1〜50μmであることが好ましく、一般には充填密度を上げる為に、その平均粒径の範囲内で比較的粒径の大きな粒子と小さな粒子を混合して使用される。また、添加量は水酸基含有アクリルポリマー100重量部に対し、300〜700重量部、好ましくは400〜600重量部である。添加量が少ないと熱伝導効率が悪くなり、多すぎると柔軟性が少なくなる。
粘着性熱伝導シートは、被配設体からの放熱効率の観点から、その熱伝導率が0.5W/mK以上、好ましくは1.0W/mKである。
【0025】
本発明において、難燃剤としては、実質的にハロゲンを含有しない難燃剤(「ノンハロゲン難燃剤」ということがある。)が好ましく、従来から使用されている水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウム等の金属水酸化物や他のノンハロゲン難燃剤が使用できる。
ノンハロゲン難燃剤のうち、金属水酸化物としては、特に水酸化アルミニウム、水酸化マグネシウムが好ましく、これらの水酸化物は上記熱伝導性充填剤としても、また本難燃剤の両方の効果を有することから本発明で有用である。
また、他のノンハロゲン難燃剤としては、例えばリン系化合物、膨張黒鉛、ポリフェニレンエーテル、又はトリアジン骨格含有化合物を挙げることができる。これらの他のノンハロゲン難燃剤のうち、難燃性の効果を発現する上で最も好ましいものは、リン系化合物である。リン系化合物としては、リン酸エステル類、芳香族縮合リン酸エステル類、ポリリン酸アンモニウム類等を挙げることができる。なかでも、ポリリン酸アンモニウム類が好ましく用いられる。なお、これらの難燃剤を単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることもできる。
この難燃剤の含量は、水酸基含有アクリルポリマー100重量部に対し、10〜60重量部、好ましくは20〜40重量部であり、10重量部未満では所望の難燃効果が得られず、60重量部を超えると熱伝導性が損なわれる。
【0026】
なお、本発明の熱伝導シートとは、熱伝導フィルムを含む概念であり、厚みが100μm〜500μm、好ましくは200μm〜400μm、で使用される。このような、薄肉の熱伝導シートでは、上記熱伝導性充填剤や難燃剤の添加量が制限され、熱伝導性と難燃性のバランスをとりながら薄肉化するためには、熱伝導フィルムの厚みが100μm以上でないと目的とする熱伝導性と難燃性が得られない。
【0027】
本発明の粘着性熱伝導シートは、粘着力が0.10N/25mm以上である熱伝導シートに係るものである。好ましくは、粘着力が0.20N/25mm以上である。粘着力が0.10N/25mm未満であると筐体等との粘着性が少なくシートの脱落が起こるおそれがある。
【0028】
次に、本発明の熱伝導シートは、引張強度が0.5MPa以上、好ましくは0.7MPa以上、より好ましくは1.0MPa以上であることが必要である。熱伝導シートの引張強度が0.5MPa未満であると、後述の剥離シートを剥がすときに破断する恐れがありばかりでなく、製品として被着体に貼合したり、貼合したものを修正・調整する際に破断が生じる。
【0029】
また、本発明の熱伝導シートは、硬度が、好ましくは硬度Cによる測定で、80以下、より好ましくは75以下である。硬度Cが80を超えると、密着性に問題が生じる。
【0030】
なお、本発明の粘着性熱伝導シートは、通常、その片面又は両面に剥離フィルムを貼合したものとして使用される。剥離フィルムとしては、延伸ポリプロピレン(OPP)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、紙等があげられ、なかでもPETが好適に使用される。なお、剥離シートの厚さは、通常10〜75μmである。
【実施例】
【0031】
以下、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、粘着性熱伝導シートの物性評価は次の方法によった。
【0032】
(1)熱伝導率(単位:W/mK)
ASTM D5470に準拠して測定した。
(2)粘着力(単位:N/25mm)
JIS Z0237に準拠して測定した。
(3)引張強度(単位:MPa)
JIS K6251に準拠して測定した。
(4)難燃性
膜厚が250μm以上のシートについては、UL−94V 燃焼試験に準拠して測定した。一方、膜厚が250μm未満のシートについては、試料が溶け落ちてUL−94V 燃焼試験に準拠した測定が出来ないことから、次の条件下、VTM試験で評価しVTM0かどうかを判定した。
1)V試験(垂直燃焼試験):幅13mm×長さ125mmの試料を10秒×2回、接炎した。
2)VTM試験(薄手材料翠帳試験):幅50mm×長さ200mm試料を筒状に巻いて3秒×2回接炎した。
(5)硬度C
JIS K7312に準拠して測定した。
【0033】
実施例1〜5
(1)塗工液の調整
バインダ樹脂のプレポリマー成分として液状の水酸基含有アクリルポリマー、アルホンUH−2032(東亜合成化学工業株式会社製、Mw:2000、OH値:110)および同UH−2000(Mw:11000、OH値:20)、また、無官能性アクリルポリマーとして、アルホンUP−1021(東亜合成化学工業株式会社製、(Mw:1600、OH基を含まず))を使用した。ここに、OH値は、官能基としての水酸基の含有率(単位: mgKOH/g)を示す。これらのアクリルポリマーに、更にイソシアネートおよび反応触媒並びに熱伝導性充填剤、難燃剤を配合し塗工液を調整した。各実施例における各成分の配合割合(固形物換算)を表1に示す。配合割合は、いずれも水酸基含有アクリルポリマーの合計量を100重量部として、無官能性アクリルポリマーその他の各成分の量を設定した。
なお、熱伝導性充填剤としては、粒子径40μmの水酸化アルミニウムと1μmの水酸化アルミニウムとを、重量比8:2の割合で混合したものを使用した(例えば、実施例1では、粒子径40μmの水酸化アルミニウム:384重量部、粒子径1μmの水酸化アルミニウム:93重量部)。また、難燃剤としては、ポリリン酸アンモニウムを使用した。
【0034】
まず、上記バインダ樹脂、熱伝導充填剤、及び難燃剤の所定量を混合容器に入れて遊星式撹拌装置で撹拌して混合した。次いで樹脂硬化剤としてイソシアネート(三井化学ポリウレタン株式会社製、商品名;タケネート(登録商標)D127N)と反応触媒(ジブチルスズジラウリレート)を加え、さらに有機溶剤として前記配合物全体対し4重量%量のメチルエチルケトンを加えて減圧し脱泡しながら均一になるまで撹拌し、塗工液を調整した。
【0035】
(2)塗工処理
次に、図1を参照しながら塗工方法について説明する。
塗工装置(株式会社ヒラノテクシード製、コンマダイレクトコーター;型番TM-MC)を使用して、粘着性熱伝導シートを作製した。本実施例の熱伝導シートの支持材となる剥離フィルムとして、送り出しロールに巻回された厚み50μmのPETフィルムを用いた。
剥離フィルム(PETフィルム)を送り出しロール1から塗工機のバックロール2に送り、その上に塗工液を乗せ、PETフィルム上とコンマヘッド3との間隙を400μmに調整し均一に塗工した。そして乾燥炉4に送り、温度60℃、通過時間10分間の条件下で揮発分を蒸発させ、樹脂乾燥被膜を有する塗工シートとして、案内ロール6,7を経て、送り出しロール10からラミネータロール8に供給された剥離フィルム(PETフィルム)と共に巻き取ロール9に巻き取った。この塗工シートは、さらに巻き取ったロールごと乾燥機内(図示せず。) に収容し、温度80℃、60分間の条件下で剥離フィルム上の樹脂被膜を完全に硬化させて本実施例の粘着性熱伝導シートを得た。この熱伝導シートの膜厚は250μm(剥型フイルム含で350μm)であった。なお、本実施例の検証試験に用いる試験片は、各試験に必要な所定長さに裁断した粘着性熱伝導シートを用いた。配合割合、試験結果を併せて表1、表2にそれぞれ示した。
得られた熱伝導シートは、いずれも0.20N/25mm以上の粘着力を有し、熱伝導率、引張強度も本発明の目的を満足するものであった。また、難燃性もV0相当であった。
【0036】
実施例6
実施例1の(1)塗工液の調整において、熱伝導性充填剤として、粒子径40μmの水酸化アルミニウムと粒子径1μmの水酸化マグネシウムを、重量比8:2の割合で混合したものを使用した以外は、実施例1と同様に行い塗工液を調整した。
この塗工液を実施例1の(2)塗工処理と同様に実施し、粘着性熱伝導シートを得た。この熱伝導シートの総膜厚は250μm(剥型フイルム含で350μm)であった。塗工液の配合割合、得られた熱伝導シートの試験結果を併せて表1、表2にそれぞれ示した。
熱伝導性充填剤を水酸化アルミニウムと水酸化マグネシウムとの併用にしても実施例1とほぼ同様な結果が得られた。
【0037】
比較例1
実施例1の(1)塗工液の調整において、熱伝導性充填剤として、粒子径70μmの酸化アルミニウムを636重量部と粒子径1μmの酸化アルミニウムとを153重量部(重量比8:2の割合。実施例1の水酸化アルミニウムの場合と同一体積とした。)で混合したものを使用した以外は、実施例1と同様に行い塗工液を調整した。
この塗工液を実施例1の(2)塗工処理と同様に実施し、粘着性熱伝導シートを得た。この熱伝導シートの総膜厚は250μm(剥型フイルム含で350μm)であった。塗工液の配合割合、得られた熱伝導シートの試験結果を併せて表1、表2にそれぞれ示した。
得られた熱伝導シートは、いずれも0.20N/25mm以上の粘着力を有し、熱伝導率、引張強度も本発明の目的を満足するものであったが、難燃性がV2相当であり本発明の目的に届かなかった。
比較例2
実施例1の(1)塗工液の調整において、無官能性アクリルポリマーを使用しない以外は、実施例1と同様に行い塗工液を調整した。
この塗工液を実施例1の(2)塗工処理と同様に実施し、粘着性熱伝導シートを得た。この熱伝導シートの総膜厚は250μm(剥型フイルム含で350μm)であった。塗工液の配合割合、得られた熱伝導シートの試験結果を併せて表1、表2にそれぞれ示した。得られた熱伝導シートは、硬度が高く、粘着力が本発明の目的を満足しなかった。
【0038】
比較例3
実施例1において、無官能性アクリルポリマー(UP−1021)に代え、可塑剤であるトリクレジルホスフェート(TCP)(第八化学工業株式会社製)を使用した以外は、同様に塗工液の調整を行い、また粘着性熱伝導シートを作製した。この熱伝導シートの総膜厚は250μm(剥型フイルム含で350μm)であった。配合割合、試験結果を併せて表1、表2に示した。また、信頼性試験として、120℃で保持後の熱伝導率、引張強度、伸び(%)、硬度を評価した。
【0039】
無官能性アクリルポリマーの代わりにTCPを使用した比較例3の粘着性熱伝導シートは、初期の粘着力、引張強度は、本発明の粘着性熱伝導シートの要件を満足する(表2)。しかしながら、120℃保持100時間後の熱伝導シートは、各物性が劣化し、特に硬度が増加してシートの柔軟性が低下し、製品として使用できないものであった。120℃保持100時間後の比較例3の熱伝導シートの表面を観察すると、明らかにTCPのブリードが確認された。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
実施例7
実施例1の(1)塗工液の調整において、水酸基含有アクリルポリマーの使用量を、アルホンUH−2032が70重量部、UH−2000が30重量部とした以外は、実施例1と同様に行い塗工液を調整した。
この塗工液を実施例1の(2)塗工処理と同様に実施し、粘着性熱伝導シートを得た。塗工液の配合割合、得られた熱伝導シートの試験結果を併せて表3、表4にそれぞれ示した。
【0043】
実施例8
実施例1の(1)塗工液の調整において、水酸基含有アクリルポリマーの使用量を、アルホンUH−2032が30重量部、UH−2000が70重量部とした以外は、実施例1と同様に行い塗工液を調整した。
この塗工液を実施例1の(2)塗工処理と同様に実施し、粘着性熱伝導シートを得た。塗工液の配合割合、得られた熱伝導シートの試験結果を併せて表3、表4にそれぞれ示した。
【0044】
【表3】

【0045】
【表4】

【0046】
実施例9
実施例1の(1)塗工液を使用し、(2)塗工処理を行い膜厚の異なる熱伝導シートを得た。得られた各シートの難燃性評価を行った。シート膜厚および難燃性評価を表5に示す。
【0047】
【表5】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明により、優れた熱伝導性及び難燃性を有し、被配設体との密着性に優れた薄肉粘着性熱伝導シートが提供される。本発明のシートは、非シリコーン系の樹脂からなり電子機器の熱伝導シートとして好適に使用することができる。
【符号の説明】
【0049】
1 送り出しロール
2 バックロール
3 コンマヘッド
4 乾燥炉
5 案内ロール
6 案内ロール
7 案内ロール
8 ラミネータロール
9 巻き取りロール
10 送り出しロール

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アクリル系ポリウレタン樹脂を主体とするバインダ樹脂、無官能性アクリルポリマー、熱伝導性充填剤および難燃剤を含有してなる熱伝導シートであって、前記熱伝導シートの厚さが100μm〜500μmであり、粘着力が0.10N/25mm以上であり、引張強度が0.5MPa以上であり、かつ、UL−94での難燃性がV0又はVTM0相当であることを特徴とする薄肉粘着性熱伝導シート。
【請求項2】
アクリル系ポリウレタン樹脂が、1分子中に少なくとも2個の水酸基を有するアクリルポリマーと1分子中に少なくとも2個のイソシアネート基を有する多官能性イソシアネートの反応により得られたものである請求項1に記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
【請求項3】
アクリル系ポリウレタン樹脂と無官能性アクリルポリマーの割合が、アクリル系ポリウレタン樹脂中の水酸基を有するアクリルポリマー100重量部に対し、無官能性アクリルポリマーが30〜90重量部である請求項2に記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
【請求項4】
前記熱伝導シートの硬度が、硬度Cで80以下である請求項1から3にいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
【請求項5】
前記熱伝導シートの熱伝導性充填剤が、水酸化アルミニウム及び/又は水酸化マグネシウムである請求項1から4のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
【請求項6】
前記熱伝導シートの熱伝導率が、0.5W/mK以上である請求項1から5のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
【請求項7】
前記熱伝導シートの引張強度が、0.7MPa以上である請求項1から6のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
【請求項8】
難燃剤が、リン系化合物、金属水酸化物、膨張黒鉛および窒素化合物から選ばれた少なくとも1種のノンハロゲン難燃剤である請求項1から7のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。
【請求項9】
前記熱伝導シートの片面又は両面に剥離フィルムを有することを特徴とする請求項1から8のいずれかに記載の薄肉粘着性熱伝導シート。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2011−219565(P2011−219565A)
【公開日】平成23年11月4日(2011.11.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−88130(P2010−88130)
【出願日】平成22年4月6日(2010.4.6)
【出願人】(391020078)日本ジッパーチュービング株式会社 (13)
【Fターム(参考)】