薄膜バラン
【課題】小型薄型化に伴う共振周波数の高周波化を防止して良好な通過特性を実現することができる薄膜バランを提供する。
【解決手段】薄膜バラン1は、第1のコイル部C1及び第2のコイル部C2を備える不平衡伝送線路2と、第1のコイル部C1及び第2のコイル部C2にそれぞれ磁気結合する第3のコイル部C3及び第4のコイル部C4を備えた平衡伝送線路3を備える。第1のコイル部C1は、不平衡端子T0に接続され、第2のコイル部C2は、キャパシタD(C成分)を介して接地端子G(接地電位)に接続されている。また、第3のコイル部C3には第1の平衡端子T1が接続され、第4のコイル部C4には第2の平衡端子T2が接続されている。そして、キャパシタDは、平面視において、不平衡端子T0の外側端と接地端子Gの外側端との間の領域S1に設けられている。
【解決手段】薄膜バラン1は、第1のコイル部C1及び第2のコイル部C2を備える不平衡伝送線路2と、第1のコイル部C1及び第2のコイル部C2にそれぞれ磁気結合する第3のコイル部C3及び第4のコイル部C4を備えた平衡伝送線路3を備える。第1のコイル部C1は、不平衡端子T0に接続され、第2のコイル部C2は、キャパシタD(C成分)を介して接地端子G(接地電位)に接続されている。また、第3のコイル部C3には第1の平衡端子T1が接続され、第4のコイル部C4には第2の平衡端子T2が接続されている。そして、キャパシタDは、平面視において、不平衡端子T0の外側端と接地端子Gの外側端との間の領域S1に設けられている。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不平衡−平衡の信号変換を行なうバラン(バラントランス)に関し、特に、小型薄型化に有利な薄膜プロセスにより形成された薄膜バランに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信機器は、アンテナ、フィルタ、RFスイッチ、パワーアンプ、RF−IC、バラン等の各種高周波素子によって構成される。これらのなかで、アンテナやフィルタ等の共振素子は、接地電位を基準とした不平衡型の信号を取り扱う(信号伝送を行う)が、高周波信号の生成や処理を行なうRF−ICは、平衡型の信号を取り扱う(信号伝送を行う)ため、両者を電磁気的に接続する場合には、不平衡−平衡変換器として機能するバランが使用される。
【0003】
近時、携帯電話や携帯端末等の移動体通信機や無線LAN機器等に用いられるバランとして、小型薄型化に有利な薄膜プロセスにより形成された薄膜バランが多用されつつあり、これらの機器の更なる小型化に応えるべく、薄膜バランについても更なる小型薄型化が切望されている。このような薄膜バランとしては、例えば、コイル積層構造を有するチップ型バラン(特許文献1等参照)や、互いに対向配置された不平衡伝送線路と平衡伝送線路によって磁気結合を形成し、不平衡伝送線路の一方端が不平衡端子に接続され、且つ、他方端がキャパシタを介して接地端子に接続されており、平衡伝送路には出力用の平衡端子が接続された構成を有するもの(特許文献2等)が提案されている。
【特許文献1】特開平7−176918号公報
【特許文献2】特開2004−120291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、薄膜バランの通過特性として、その共振周波数は下記式(1);
fr=1/{2π(L・C)1/2} …(1)、
で表される。ここで、式中、frは共振周波数を示し、L(L成分)は、不平衡伝送線路と平衡結合線路部で形成される共振回路の等価的なインダクタンスを示し、C(C成分)は、同キャパシタンスを示す。
【0005】
ところが、薄膜バランを小型薄型化するには、不平衡伝送線路や平衡伝送線路を形成するコイル等の巻回数や線路長が不可避的に低減されてしまうため、共振回路のインダクタンスLが低下してしまい、式(1)から明らかなように、共振周波数fr(通過帯域の周波数)が高周波化してしまう。通常、無線通信等で使用される薄膜バランの周波数の通過特性(所定周波数の減衰特性)は、それが搭載される通信機器やシステムの構成、規格、仕様等から要求仕様が定められており、薄膜バランの特性として特に重要である。具体的には、例えば、通過特性として共振周波数frのピーク値が2400〜2500MHz(2.4GHz帯域)といった数値が指定され、かかる周波数帯域での減衰量を十分に低く抑えるような仕様設計がなされる。しかし、上述の如く、薄膜バランの小型薄型化によって共振周波数frが高周波化すると、上記特許文献1に記載されたチップ型バランのような構成では、かかる要求仕様を満足することが困難となってしまう。
【0006】
そこで、上記式(1)より、共振回路のキャパシタンスCを増大させることにより、共振周波数frの高周波化が抑止され得るが、本発明者の知見によれば、上記特許文献2に記載された薄膜バランのようにキャパシタを設け、キャパシタンスCを単に増大させるだけでは、伝送信号に対して所望の通過特性を得ることが困難なことがある。
【0007】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、小型薄型化に伴う共振周波数の高周波化を防止して、要求される良好な通過特性を実現することができる薄膜バランを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による薄膜バランは、第1の線路部及び第2の線路部を有する不平衡伝送線路と、第1の線路部及び第2の線路部のそれぞれに対向配置された第3の線路部及び第4の線路部を有する平衡伝送線路と、第1の線路部に接続された不平衡端子と、第2の線路部にC成分(容量成分)を介して接続された接地端子と、第3の線路部に接続された第1の平衡端子と、第4の線路部に接続された第2の平衡端子とを備えており、対向配置された線路部により磁気結合が形成される。すなわち、第1の線路部及び第3の線路部により第1の磁気結合が形成され、第2の線路部及び第4の線路部により第2の磁気結合が形成される。また、C成分が、不平衡端子の外側端(接地端子から最も離間した端部)と接地端子の外側端(不平衡端子から最も離間した端部)との間の領域に設けられている。なお、「接地端子」は「接地電位」と同義である。
【0009】
このような構成では、不平衡伝送線路を構成する第2の線路部に接続されたC成分によって、薄膜バランの共振回路にキャパシタンスCが導入され、共振周波数の高周波化が抑えられる。また、本発明者が鋭意研究した結果、そのC成分を、上述の如く、不平衡端子の外側端(接地端子から最も離間した端部)と接地端子の外側端(不平衡端子から最も離間した端部)との間の領域に設けると、伝送信号の通過特性を所望の範囲(仕様)に調整することが可能であることが判明した。
【0010】
かかる作用機序の詳細は未だ不明ではあるが、そのC成分を、不平衡端子の外側端と接地端子の外側端との間の領域に設けると、接地端子側に直接的に接続されたC成分のみではなく、C成分を構成する例えば後述するキャパシタの電極と不平衡端子との間にも浮遊容量のようなキャパシタンスが生起され、不平衡伝送路側の実効的なキャパシタンスが増大することが一つの要因であると推測される。但し、作用はこれに限定されない。
【0011】
また、C成分が、不平衡端子の内側端(接地端子に最も近接した端部)と接地端子の内側端(不平衡端子に最も近接した端部)との間の領域に設けられると、伝送信号の通過特性を更に改善できるので好適である。
【0012】
さらに、C成分と不平衡端子及び接地端子との配置関係に着目すれば、C成分が、平衡端子よりも不平衡端子及び接地端子に近い側(平衡端子から、より離間した遠い側)の領域に設けられていると更に好ましい。すなわち、C成分が、不平衡端子の外側端(好ましくは内側端)と接地端子の外側端(好ましくは内側端)との間の領域で、且つ、平衡端子よりも不平衡端子及び接地端子に近い側に設けられていると一層有用である。こうすれば、伝送信号の通過特性をより一層改善できることが確認された。これは、C成分を構成する例えばキャパシタの電極と不平衡端子との距離が小さくなり、上述したキャパシタの電極と不平衡端子との間に生起されるキャパシタンスが更に増強され、不平衡伝送路側の実効的なキャパシタンスがより一層増大することによるものと推定される。但し、作用はこれに限定されない。
【0013】
具体的には、第1〜第4の線路部が、それぞれコイル部から主として構成されるものが挙げられ、このようにしても、上述したのと同様の作用が奏される。
【0014】
すなわち、本発明による薄膜バランは、第1のコイル部及び第2のコイル部を有する不平衡伝送線路と、第1のコイル部及び第2のコイル部のそれぞれに対向配置された第3のコイル部及び第4のコイル部を有する平衡伝送線路と、第1のコイル部に接続された不平衡端子と、第2のコイルにC成分を介して接続された接地端子と、第3のコイル部に接続された第1の平衡端子と、第4のコイル部に接続された第2の平衡端子とを備えており、C成分が、不平衡端子の外側端と接地端子の外側端との間の領域に設けられたものでもよい。この場合、第1のコイル部及び前記第3のコイル部により第1の磁気結合が形成され、第2のコイル部及び第4のコイル部により第2の磁気結合が形成される。
【0015】
より具体的には、C成分としては、第2のコイル部に接続された第1の電極と、第1の電極に誘電体層を介して対向配置されており且つ接地端子に接続された第2の電極とを有するキャパシタ、又は、そのキャパシタを含むものが挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、接地端子に接続されたC成分(キャパシタ)が、不平衡端子の外側端と接地端子の外側端との間の領域に設けられているので、薄膜バランの小型薄型化に伴う共振周波数の高周波化を有効に防止して、要求される良好な通過特性を達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0018】
図1は、本発明の薄膜バランに係る好適な一実施形態の構成を示す等価回路図である。薄膜バラン1は、線路部L1(第1の線路部)及び線路部L2(第2の線路部)が直列に接続された不平衡伝送線路2と、線路部L3(第3の線路部)及び線路部L4(第4の線路部)が直列に接続された平衡伝送線路3とを備えており、線路部L1及び線路部L3、並びに、線路部L2及び線路部L4によって、それぞれ磁気結合が形成されている。なお、場合によっては、二つの磁気結合成分が明確に区別できない領域も存在し得るが、主として、前者が第1の磁気結合を形成し、後者が第2の磁気結合を形成する。
【0019】
この薄膜バラン1においては、線路部L1における線路部L2との結合端の他端が不平衡端子T0に接続されており、線路部L2における線路部L1との結合端の他端が、C成分(容量成分)であるキャパシタDを介して接地端子G(接地電位)に接続されている。キャパシタDは、線路部L2の他端に接続された電極D1(第1の電極)と接地端子Gに接続された電極D2(第2の電極)が、適宜の誘電体を介して対向設置されたものである。また、線路部L3及び線路部L4におけるそれぞれの結合端との他端は、平衡端子T1(第1の平衡端子)及び平衡端子T2(第2の平衡端子)に接続されている。さらに、線路部L3及び線路部L4の結合部が、接地端子Gと同電位に接地されている。
【0020】
上述した線路部L1〜L4の長さは、薄膜バラン1の仕様に応じて異なり、例えば、変換対象となる伝送信号の1/4波長(λ/4)共振器回路となるよう設定することができる。また、線路部L1〜L4の形状は、上述した磁気結合が形成されれば、任意の形状とすることができ、例えば、渦巻状(コイル状)、蛇行状、直線状、曲線状等の形態が挙げられる。
【0021】
以下に、同図を参照して薄膜バラン1の基本的な動作について説明する。薄膜バラン1では、不平衡端子T0に不平衡信号が入力されると、不平衡信号は線路部L1及び線路部L2を伝播する。そして、線路部L1と線路部L3とが磁気結合(第1の磁気結合)し、線路部L2と線路部L4とが磁気結合(第2の磁気結合)することにより、入力された不平衡信号は位相が180°(π)異なる2つの平衡信号に変換され、これら2つ平衡信号が平衡端子T1,T2からそれぞれ出力される。なお、平衡信号から不平衡信号の変換動作は、上述した不平衡信号から平衡信号への変換動作の逆となる。
【0022】
次に、線路部L1〜L4としてコイル導体からなるコイル部を用いた薄膜バラン1の実施形態の一例について更に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図2〜図6は、第1実施形態の薄膜バラン1における各配線層を概略的に示す水平断面図である。これらのうち、図2は、例えばアルミナ等の絶縁性基板上に形成された配線層B1における水平断面を示し、図3は、例えばSiN等の誘電体層を介して、例えばポリイミド等の絶縁体層(以下同様)中に形成された配線層M0における水平断面を示す。また、図4〜図6は、配線層M0上に絶縁体層を介して順次形成された配線層M1,M2,M3のそれぞれにおける水平断面を示す。このように、薄膜バラン1は、絶縁性基板上に形成された薄膜多層配線層から構成されている。
【0024】
図2〜図6に示す如く、配線層B1,M0〜M3の全ての層に、不平衡端子T0、平衡端子T1,T2、及び、接地端子Gが形成されており、各端子T0〜T2,GはスルーホールPを介して異なる層間において電気的に接続されている。なお、図2〜図6に示す全てのスルーホールPには、上下各層を電気的に導通させるための金属めっきが施されている。以下、各配線層の構成について詳細に説明する。
【0025】
図2に示すように、基板上に形成された配線層B1には、キャパシタDの電極D1が、不平衡端子T0の内側端と接地端子Gの内側端との間の領域S2(図示において、紙面縦方向に二点鎖線で境界を記載し且つ幅方向に符号S2を付した領域)で、且つ、後述するコイル部C1〜C4の外周よりも外側で不平衡端子T0に比較的近接した位置に形成されており、配線41によって、接地端子Gの近傍に設けられたスルーホールPに接続されている。
【0026】
なお、同図に示すとおり、不平衡端子T0の内側端は、接地端子Gに最も近接した端部であり、接地端子Gの内側端は、不平衡端子T0に最も近接した端部である。また、領域S2は、同図に示す如く、不平衡端子T0の外側端と接地端子Gの外側端との間の領域S1(図示において、紙面縦方向に一点鎖線で境界を記載し且つ幅方向に符号S1を付した領域)に含まれる。その不平衡端子T0の外側端は、接地端子Gから最も離間した(離れた)端部であり、接地端子Gの外側端は、不平衡端子T0から最も離間した端部である。
【0027】
さらに、図3に示すように、配線層B1の上の配線層M0には、キャパシタDの電極D2(この例では、電極1と同形状を有する)が、配線層B1の電極D1と対向する位置に形成されており、配線42によって、接地端子Gに接続されている。
【0028】
またさらに、図4に示す如く、配線層M1には、不平衡伝送線路2を構成するコイル部C1(第1のコイル部、第1の線路部)及びコイル部C2(第2のコイル部)が隣接して形成されている。各コイル部C1,C2は、1/4波長(λ/4)共振器に相当するものを構成する。コイル部C1を構成するコイル導体11の外側の端部11aは不平衡端子T0に接続されており、コイル導体11の内側の端部11bはスルーホールPに接続されている。一方、コイル部C2を構成するコイル導体12の内側の端部12bはスルーホールPに接続されており、コイル導体12の外側の端部12aは、上述したキャパシタDの電極D1にスルーホールPを介して接続されている。
【0029】
さらにまた、図5に示すように、配線層M2には、平衡伝送線路3を構成するコイル部C3(第3のコイル部、第3の線路部)及びコイル部C4(第4のコイル部、第4の線路部)が隣接して形成されている。各コイル部C3,C4は、コイル部C1,C2と同様に1/4波長(λ/4)共振器に相当するものを構成する。平衡伝送線路3のこれらコイル部C3,C4は、それぞれ、不平衡伝送線路2のコイル部C1,C2に対向配置されており、対向している部分で磁気結合して結合器を構成する。コイル部C3を構成するコイル導体21の外側の端部21aは平衡端子T1に接続されており、コイル導体21の内側の端部21bはスルーホールPに接続されている。一方、コイル部C4を構成するコイル導体22の外側の端部22aは平衡端子T2に接続されており、コイル導体22の内側の端部22bはスルーホールPに接続されている。
【0030】
それから、図6に示すように、配線層M3には、コイル部C3とコイル部C4を接地端子Gに接続するための配線31、及び、コイル部C1とコイル部C2を接続するための配線32が形成されている。配線31は、2つのスルーホールPと接地端子Gとを接続するように形成された分岐配線である。そして、配線31は、2つのスルーホールPを介して、配線層M2に形成されたコイル導体21の端部21b及びコイル導体22の端部22bに接続されている。一方、配線32はスルーホールPを介して配線層M1に形成されたコイル導体11の端部11b及びコイル導体12の端部12bに接続されている。
【0031】
このように、本実施形態においては、一の階層である配線層M1に不平衡伝送線路を構成する2つのコイル部C1,C2が形成され、それに隣り合う別の階層である配線層M2に平衡伝送線路を構成する2つのコイル部C3,C4が形成され、さらに、それら配線層M2に隣り合う配線層M1とは逆側の別の階層である配線層M3にコイル部C1,C2を接続する配線32、及び、コイル部C3,C4を接続する配線31が形成されるとともに、配線層M1に隣り合う配線層M2とは逆側の階層である配線層B1,M0に、それぞれ電極D1,D2を有するキャパシタDが形成された多層配線構造により、図1に示す等価回路を構成する薄膜バラン1が得られる。なお、電極D1,D2を有するキャパシタDは、基板の直上の配線層B1及びその上の配線層M0に形成する代わりに、配線層M3の上層に形成してもよいし、配線層M0と配線層M1の間に形成してもよい。
【0032】
(第2A〜第2K実施形態)
図7〜図17は、本発明に係る第2A〜第2K実施形態の薄膜バラン2A〜2Kにおける配線層B1を概略的に示す水平断面図である。各図に示す如く、薄膜バラン2A〜2Kは、キャパシタDの全体が、平面視において、上述した不平衡端子T0の外側端と接地端子Gの外側端との間の領域S1で、且つ、コイル部C1及びC3に重なる領域、又は、コイル部C2及びC4に重なる領域(すなわち、領域S3の範囲外の領域)に配置されたものである。また、薄膜バラン2A〜2Kのうち、薄膜バラン2B,2D,2Iでは、キャパシタDの全体が、平面視において、上述した不平衡端子T0の内側端と接地端子Gの内側端との間の領域S2に配置されている。なお、各図示においては、キャパシタDの電極D1のみ記載したが、その電極D1に対向する配線層M0における位置に、電極D1と同形状の電極D2が形成されている。
【0033】
(第3A〜第3C実施形態)
図18〜図20は、本発明に係る第3A〜第3C実施形態の薄膜バラン3A〜3Cにおける配線層B1を概略的に示す水平断面図である。各図に示す如く、薄膜バラン3A〜3Cもまた、キャパシタDの全体が、平面視において、不平衡端子T0の内側端と接地端子Gの内側端との間の領域S2に配置されており、さらに、コイル部C1及びC3によって形成される第1の磁気結合領域と、コイル部C2,C4によって形成される第2の磁気結合領域に跨設されたものである。なお、各図示においては、キャパシタDの電極D1のみを記載したが、その電極D1に対向する配線層M0における位置に、電極D1と同形状の電極D2が形成されている。
【0034】
(比較例)
図21は、比較例の薄膜バラン4における配線層B1を概略的に示す水平断面図である。図21に示す如く、比較例の薄膜バラン4は、キャパシタKが、平面視において、不平衡端子T0の外側端と接地端子Gの外側端との間の領域S1に範囲外の領域に配置されたものである。なお、図示においては、キャパシタKの電極K1のみを記載したが、その電極K1に対向する配線層M0における位置に、電極K1と同形状の対向電極(本発明の実施形態において電極D2に相当するもの)が形成されている。また、電極K1は、配線51によって接地端子G近傍のスルーホールPに接続されており、その対向電極は、配線52によって接地端子Gに接続されている。
【0035】
(特性評価)
以上説明した各実施形態の薄膜バラン1,2A〜2K,3A〜3C、及び、比較例の薄膜バラン4について、伝送信号の通過特性(減衰特性)をシミュレーションにより評価した結果を、図22〜図25に示す。シミュレーションにおいては、伝送信号の評価対象周波数(共振周波数fr)を2400〜2500MHzとし、この周波数範囲における減衰量が1dB未満を目標仕様とし、各薄膜バランの通過特性を評価した。
【0036】
各図において、曲線E1,E2A〜E2K,E3A〜E3C,E4が、それぞれ、薄膜バラン1,2A〜2G,3A〜3C,4の評価結果を示し、曲線R4が、薄膜バラン4の評価結果を示す。これらの結果より、各実施形態の薄膜バランにおいては、通過特性が目標仕様を好適に満たしていることが確認された。これらのなかでも、不平衡端子T0の内側端と接地端子Gの内側端との間の領域S2に配置されている薄膜バラン1,2B,2D,2I,3A〜3Cでは、他の実施形態の薄膜バランに比して、通過特性がより向上される傾向にあることが判明した。特に、薄膜バラン1,3A〜3Cに対する評価結果(図22及び図23)から、キャパシタDの電極D1,D2が、平衡端子T1,T2よりも不平衡端子T0により近い位置に設けられた薄膜バランの通過特性がより一層優れていることも確認された。
【0037】
これに対し、比較例の薄膜バラン4は、図25に示す如く、通過特性における目標仕様の周波数域における減衰量が本発明による薄膜バランよりも大きくなってしまい、その目標仕様を満たさないことが判明した。
【0038】
なお、上述したとおり、本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、不平衡端子T0、平衡端子T1,T2、及び接地端子Gの配置は、図示の位置に限定されない。また、薄膜バランを構成する多層配線構造は、図示の層数未満であってもよく、図示の層数より多くてもよい。さらに、配線層B1を最上層に形成し、配線層M3を最下層に形成するように、層構成の天地が逆になった構造であってももちろんよい。さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々のコイル配置を採用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の薄膜バランによれば接地端子に接続されたC成分(キャパシタ)が、不平衡端子の外側端(接地端子から最も離間した端部)と接地端子の外側端(不平衡端子から最も離間した端部)との間の領域に設けられており、これにより、薄膜バランの小型薄型化に伴う共振周波数の高周波化を有効に防止して、所望の良好な通過特性を実現することができるので、特に、小型薄型化が要求される無線通信機器、装置、モジュール、及びシステム、並びにそれらを備える設備、さらには、それらの製造に広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の薄膜バランに係る好適な一実施形態の構成を示す等価回路図である。
【図2】薄膜バラン1の配線層B1における水平断面図である。
【図3】薄膜バラン1の配線層M0における水平断面図である。
【図4】薄膜バラン1の配線層M1における水平断面図である。
【図5】薄膜バラン1の配線層M2における水平断面図である。
【図6】薄膜バラン1の配線層M3における水平断面図である。
【図7】薄膜バラン2Aの配線層B1における水平断面図である。
【図8】薄膜バラン2Bの配線層B1における水平断面図である。
【図9】薄膜バラン2Cの配線層B1における水平断面図である。
【図10】薄膜バラン2Dの配線層B1における水平断面図である。
【図11】薄膜バラン2Eの配線層B1における水平断面図である。
【図12】薄膜バラン2Fの配線層B1における水平断面図である。
【図13】薄膜バラン2Gの配線層B1における水平断面図である。
【図14】薄膜バラン2Hの配線層B1における水平断面図である。
【図15】薄膜バラン2Iの配線層B1における水平断面図である。
【図16】薄膜バラン2Jの配線層B1における水平断面図である。
【図17】薄膜バラン2Kの配線層B1における水平断面図である。
【図18】薄膜バラン3Aの配線層B1における水平断面図である。
【図19】薄膜バラン3Bの配線層B1における水平断面図である。
【図20】薄膜バラン3Cの配線層B1における水平断面図である。
【図21】薄膜バラン4(比較例)の配線層B1における水平断面図である。
【図22】通過特性の評価結果を示すグラフである。
【図23】通過特性の評価結果を示すグラフである。
【図24】通過特性の評価結果を示すグラフである。
【図25】通過特性の評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1,2A〜2K,3A〜3C…本発明に係る薄膜バラン、2…不平衡伝送線路、3…平衡伝送線路、4…比較例の薄膜バラン、11,12,21,22…コイル導体、11a,11b,12a,12b,21a,21b,22a,22b…端部、31,32…配線、41,42…配線、51,52…配線、B1,M0,M1,M2,M3…配線層、C1…コイル部(第1のコイル部、第1の線路部)、C2…コイル部(第2のコイル部、第2の線路部)、C3…コイル部(第3のコイル部、第3の線路部)、C4…コイル部(第4のコイル部、第4の線路部)、D…キャパシタ(C成分、容量成分)、D1…電極(第1の電極)、D2…電極(第2の電極)、G…接地端子(接地電位)、K…キャパシタ、K1…電極、L1…線路部(第1の線路部)、L2…線路部(第2の線路部)、L3…線路部(第3の線路部)、L4…線路部(第4の線路部)、P…スルーホール、S1,S2…領域、T0…不平衡端子、T1…平衡端子(第1の平衡端子)、T2…平衡端子(第2の平衡端子)。
【技術分野】
【0001】
本発明は、不平衡−平衡の信号変換を行なうバラン(バラントランス)に関し、特に、小型薄型化に有利な薄膜プロセスにより形成された薄膜バランに関する。
【背景技術】
【0002】
無線通信機器は、アンテナ、フィルタ、RFスイッチ、パワーアンプ、RF−IC、バラン等の各種高周波素子によって構成される。これらのなかで、アンテナやフィルタ等の共振素子は、接地電位を基準とした不平衡型の信号を取り扱う(信号伝送を行う)が、高周波信号の生成や処理を行なうRF−ICは、平衡型の信号を取り扱う(信号伝送を行う)ため、両者を電磁気的に接続する場合には、不平衡−平衡変換器として機能するバランが使用される。
【0003】
近時、携帯電話や携帯端末等の移動体通信機や無線LAN機器等に用いられるバランとして、小型薄型化に有利な薄膜プロセスにより形成された薄膜バランが多用されつつあり、これらの機器の更なる小型化に応えるべく、薄膜バランについても更なる小型薄型化が切望されている。このような薄膜バランとしては、例えば、コイル積層構造を有するチップ型バラン(特許文献1等参照)や、互いに対向配置された不平衡伝送線路と平衡伝送線路によって磁気結合を形成し、不平衡伝送線路の一方端が不平衡端子に接続され、且つ、他方端がキャパシタを介して接地端子に接続されており、平衡伝送路には出力用の平衡端子が接続された構成を有するもの(特許文献2等)が提案されている。
【特許文献1】特開平7−176918号公報
【特許文献2】特開2004−120291号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、薄膜バランの通過特性として、その共振周波数は下記式(1);
fr=1/{2π(L・C)1/2} …(1)、
で表される。ここで、式中、frは共振周波数を示し、L(L成分)は、不平衡伝送線路と平衡結合線路部で形成される共振回路の等価的なインダクタンスを示し、C(C成分)は、同キャパシタンスを示す。
【0005】
ところが、薄膜バランを小型薄型化するには、不平衡伝送線路や平衡伝送線路を形成するコイル等の巻回数や線路長が不可避的に低減されてしまうため、共振回路のインダクタンスLが低下してしまい、式(1)から明らかなように、共振周波数fr(通過帯域の周波数)が高周波化してしまう。通常、無線通信等で使用される薄膜バランの周波数の通過特性(所定周波数の減衰特性)は、それが搭載される通信機器やシステムの構成、規格、仕様等から要求仕様が定められており、薄膜バランの特性として特に重要である。具体的には、例えば、通過特性として共振周波数frのピーク値が2400〜2500MHz(2.4GHz帯域)といった数値が指定され、かかる周波数帯域での減衰量を十分に低く抑えるような仕様設計がなされる。しかし、上述の如く、薄膜バランの小型薄型化によって共振周波数frが高周波化すると、上記特許文献1に記載されたチップ型バランのような構成では、かかる要求仕様を満足することが困難となってしまう。
【0006】
そこで、上記式(1)より、共振回路のキャパシタンスCを増大させることにより、共振周波数frの高周波化が抑止され得るが、本発明者の知見によれば、上記特許文献2に記載された薄膜バランのようにキャパシタを設け、キャパシタンスCを単に増大させるだけでは、伝送信号に対して所望の通過特性を得ることが困難なことがある。
【0007】
そこで、本発明はかかる事情に鑑みてなされたものであり、小型薄型化に伴う共振周波数の高周波化を防止して、要求される良好な通過特性を実現することができる薄膜バランを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明による薄膜バランは、第1の線路部及び第2の線路部を有する不平衡伝送線路と、第1の線路部及び第2の線路部のそれぞれに対向配置された第3の線路部及び第4の線路部を有する平衡伝送線路と、第1の線路部に接続された不平衡端子と、第2の線路部にC成分(容量成分)を介して接続された接地端子と、第3の線路部に接続された第1の平衡端子と、第4の線路部に接続された第2の平衡端子とを備えており、対向配置された線路部により磁気結合が形成される。すなわち、第1の線路部及び第3の線路部により第1の磁気結合が形成され、第2の線路部及び第4の線路部により第2の磁気結合が形成される。また、C成分が、不平衡端子の外側端(接地端子から最も離間した端部)と接地端子の外側端(不平衡端子から最も離間した端部)との間の領域に設けられている。なお、「接地端子」は「接地電位」と同義である。
【0009】
このような構成では、不平衡伝送線路を構成する第2の線路部に接続されたC成分によって、薄膜バランの共振回路にキャパシタンスCが導入され、共振周波数の高周波化が抑えられる。また、本発明者が鋭意研究した結果、そのC成分を、上述の如く、不平衡端子の外側端(接地端子から最も離間した端部)と接地端子の外側端(不平衡端子から最も離間した端部)との間の領域に設けると、伝送信号の通過特性を所望の範囲(仕様)に調整することが可能であることが判明した。
【0010】
かかる作用機序の詳細は未だ不明ではあるが、そのC成分を、不平衡端子の外側端と接地端子の外側端との間の領域に設けると、接地端子側に直接的に接続されたC成分のみではなく、C成分を構成する例えば後述するキャパシタの電極と不平衡端子との間にも浮遊容量のようなキャパシタンスが生起され、不平衡伝送路側の実効的なキャパシタンスが増大することが一つの要因であると推測される。但し、作用はこれに限定されない。
【0011】
また、C成分が、不平衡端子の内側端(接地端子に最も近接した端部)と接地端子の内側端(不平衡端子に最も近接した端部)との間の領域に設けられると、伝送信号の通過特性を更に改善できるので好適である。
【0012】
さらに、C成分と不平衡端子及び接地端子との配置関係に着目すれば、C成分が、平衡端子よりも不平衡端子及び接地端子に近い側(平衡端子から、より離間した遠い側)の領域に設けられていると更に好ましい。すなわち、C成分が、不平衡端子の外側端(好ましくは内側端)と接地端子の外側端(好ましくは内側端)との間の領域で、且つ、平衡端子よりも不平衡端子及び接地端子に近い側に設けられていると一層有用である。こうすれば、伝送信号の通過特性をより一層改善できることが確認された。これは、C成分を構成する例えばキャパシタの電極と不平衡端子との距離が小さくなり、上述したキャパシタの電極と不平衡端子との間に生起されるキャパシタンスが更に増強され、不平衡伝送路側の実効的なキャパシタンスがより一層増大することによるものと推定される。但し、作用はこれに限定されない。
【0013】
具体的には、第1〜第4の線路部が、それぞれコイル部から主として構成されるものが挙げられ、このようにしても、上述したのと同様の作用が奏される。
【0014】
すなわち、本発明による薄膜バランは、第1のコイル部及び第2のコイル部を有する不平衡伝送線路と、第1のコイル部及び第2のコイル部のそれぞれに対向配置された第3のコイル部及び第4のコイル部を有する平衡伝送線路と、第1のコイル部に接続された不平衡端子と、第2のコイルにC成分を介して接続された接地端子と、第3のコイル部に接続された第1の平衡端子と、第4のコイル部に接続された第2の平衡端子とを備えており、C成分が、不平衡端子の外側端と接地端子の外側端との間の領域に設けられたものでもよい。この場合、第1のコイル部及び前記第3のコイル部により第1の磁気結合が形成され、第2のコイル部及び第4のコイル部により第2の磁気結合が形成される。
【0015】
より具体的には、C成分としては、第2のコイル部に接続された第1の電極と、第1の電極に誘電体層を介して対向配置されており且つ接地端子に接続された第2の電極とを有するキャパシタ、又は、そのキャパシタを含むものが挙げられる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、接地端子に接続されたC成分(キャパシタ)が、不平衡端子の外側端と接地端子の外側端との間の領域に設けられているので、薄膜バランの小型薄型化に伴う共振周波数の高周波化を有効に防止して、要求される良好な通過特性を達成することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して説明する。なお、図面中、同一の要素には同一の符号を付し、重複する説明を省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は、図示の比率に限定されるものではない。また、以下の実施の形態は、本発明を説明するための例示であり、本発明をその実施の形態のみに限定する趣旨ではない。さらに、本発明は、その要旨を逸脱しない限り、さまざまな変形が可能である。
【0018】
図1は、本発明の薄膜バランに係る好適な一実施形態の構成を示す等価回路図である。薄膜バラン1は、線路部L1(第1の線路部)及び線路部L2(第2の線路部)が直列に接続された不平衡伝送線路2と、線路部L3(第3の線路部)及び線路部L4(第4の線路部)が直列に接続された平衡伝送線路3とを備えており、線路部L1及び線路部L3、並びに、線路部L2及び線路部L4によって、それぞれ磁気結合が形成されている。なお、場合によっては、二つの磁気結合成分が明確に区別できない領域も存在し得るが、主として、前者が第1の磁気結合を形成し、後者が第2の磁気結合を形成する。
【0019】
この薄膜バラン1においては、線路部L1における線路部L2との結合端の他端が不平衡端子T0に接続されており、線路部L2における線路部L1との結合端の他端が、C成分(容量成分)であるキャパシタDを介して接地端子G(接地電位)に接続されている。キャパシタDは、線路部L2の他端に接続された電極D1(第1の電極)と接地端子Gに接続された電極D2(第2の電極)が、適宜の誘電体を介して対向設置されたものである。また、線路部L3及び線路部L4におけるそれぞれの結合端との他端は、平衡端子T1(第1の平衡端子)及び平衡端子T2(第2の平衡端子)に接続されている。さらに、線路部L3及び線路部L4の結合部が、接地端子Gと同電位に接地されている。
【0020】
上述した線路部L1〜L4の長さは、薄膜バラン1の仕様に応じて異なり、例えば、変換対象となる伝送信号の1/4波長(λ/4)共振器回路となるよう設定することができる。また、線路部L1〜L4の形状は、上述した磁気結合が形成されれば、任意の形状とすることができ、例えば、渦巻状(コイル状)、蛇行状、直線状、曲線状等の形態が挙げられる。
【0021】
以下に、同図を参照して薄膜バラン1の基本的な動作について説明する。薄膜バラン1では、不平衡端子T0に不平衡信号が入力されると、不平衡信号は線路部L1及び線路部L2を伝播する。そして、線路部L1と線路部L3とが磁気結合(第1の磁気結合)し、線路部L2と線路部L4とが磁気結合(第2の磁気結合)することにより、入力された不平衡信号は位相が180°(π)異なる2つの平衡信号に変換され、これら2つ平衡信号が平衡端子T1,T2からそれぞれ出力される。なお、平衡信号から不平衡信号の変換動作は、上述した不平衡信号から平衡信号への変換動作の逆となる。
【0022】
次に、線路部L1〜L4としてコイル導体からなるコイル部を用いた薄膜バラン1の実施形態の一例について更に説明する。
【0023】
(第1実施形態)
図2〜図6は、第1実施形態の薄膜バラン1における各配線層を概略的に示す水平断面図である。これらのうち、図2は、例えばアルミナ等の絶縁性基板上に形成された配線層B1における水平断面を示し、図3は、例えばSiN等の誘電体層を介して、例えばポリイミド等の絶縁体層(以下同様)中に形成された配線層M0における水平断面を示す。また、図4〜図6は、配線層M0上に絶縁体層を介して順次形成された配線層M1,M2,M3のそれぞれにおける水平断面を示す。このように、薄膜バラン1は、絶縁性基板上に形成された薄膜多層配線層から構成されている。
【0024】
図2〜図6に示す如く、配線層B1,M0〜M3の全ての層に、不平衡端子T0、平衡端子T1,T2、及び、接地端子Gが形成されており、各端子T0〜T2,GはスルーホールPを介して異なる層間において電気的に接続されている。なお、図2〜図6に示す全てのスルーホールPには、上下各層を電気的に導通させるための金属めっきが施されている。以下、各配線層の構成について詳細に説明する。
【0025】
図2に示すように、基板上に形成された配線層B1には、キャパシタDの電極D1が、不平衡端子T0の内側端と接地端子Gの内側端との間の領域S2(図示において、紙面縦方向に二点鎖線で境界を記載し且つ幅方向に符号S2を付した領域)で、且つ、後述するコイル部C1〜C4の外周よりも外側で不平衡端子T0に比較的近接した位置に形成されており、配線41によって、接地端子Gの近傍に設けられたスルーホールPに接続されている。
【0026】
なお、同図に示すとおり、不平衡端子T0の内側端は、接地端子Gに最も近接した端部であり、接地端子Gの内側端は、不平衡端子T0に最も近接した端部である。また、領域S2は、同図に示す如く、不平衡端子T0の外側端と接地端子Gの外側端との間の領域S1(図示において、紙面縦方向に一点鎖線で境界を記載し且つ幅方向に符号S1を付した領域)に含まれる。その不平衡端子T0の外側端は、接地端子Gから最も離間した(離れた)端部であり、接地端子Gの外側端は、不平衡端子T0から最も離間した端部である。
【0027】
さらに、図3に示すように、配線層B1の上の配線層M0には、キャパシタDの電極D2(この例では、電極1と同形状を有する)が、配線層B1の電極D1と対向する位置に形成されており、配線42によって、接地端子Gに接続されている。
【0028】
またさらに、図4に示す如く、配線層M1には、不平衡伝送線路2を構成するコイル部C1(第1のコイル部、第1の線路部)及びコイル部C2(第2のコイル部)が隣接して形成されている。各コイル部C1,C2は、1/4波長(λ/4)共振器に相当するものを構成する。コイル部C1を構成するコイル導体11の外側の端部11aは不平衡端子T0に接続されており、コイル導体11の内側の端部11bはスルーホールPに接続されている。一方、コイル部C2を構成するコイル導体12の内側の端部12bはスルーホールPに接続されており、コイル導体12の外側の端部12aは、上述したキャパシタDの電極D1にスルーホールPを介して接続されている。
【0029】
さらにまた、図5に示すように、配線層M2には、平衡伝送線路3を構成するコイル部C3(第3のコイル部、第3の線路部)及びコイル部C4(第4のコイル部、第4の線路部)が隣接して形成されている。各コイル部C3,C4は、コイル部C1,C2と同様に1/4波長(λ/4)共振器に相当するものを構成する。平衡伝送線路3のこれらコイル部C3,C4は、それぞれ、不平衡伝送線路2のコイル部C1,C2に対向配置されており、対向している部分で磁気結合して結合器を構成する。コイル部C3を構成するコイル導体21の外側の端部21aは平衡端子T1に接続されており、コイル導体21の内側の端部21bはスルーホールPに接続されている。一方、コイル部C4を構成するコイル導体22の外側の端部22aは平衡端子T2に接続されており、コイル導体22の内側の端部22bはスルーホールPに接続されている。
【0030】
それから、図6に示すように、配線層M3には、コイル部C3とコイル部C4を接地端子Gに接続するための配線31、及び、コイル部C1とコイル部C2を接続するための配線32が形成されている。配線31は、2つのスルーホールPと接地端子Gとを接続するように形成された分岐配線である。そして、配線31は、2つのスルーホールPを介して、配線層M2に形成されたコイル導体21の端部21b及びコイル導体22の端部22bに接続されている。一方、配線32はスルーホールPを介して配線層M1に形成されたコイル導体11の端部11b及びコイル導体12の端部12bに接続されている。
【0031】
このように、本実施形態においては、一の階層である配線層M1に不平衡伝送線路を構成する2つのコイル部C1,C2が形成され、それに隣り合う別の階層である配線層M2に平衡伝送線路を構成する2つのコイル部C3,C4が形成され、さらに、それら配線層M2に隣り合う配線層M1とは逆側の別の階層である配線層M3にコイル部C1,C2を接続する配線32、及び、コイル部C3,C4を接続する配線31が形成されるとともに、配線層M1に隣り合う配線層M2とは逆側の階層である配線層B1,M0に、それぞれ電極D1,D2を有するキャパシタDが形成された多層配線構造により、図1に示す等価回路を構成する薄膜バラン1が得られる。なお、電極D1,D2を有するキャパシタDは、基板の直上の配線層B1及びその上の配線層M0に形成する代わりに、配線層M3の上層に形成してもよいし、配線層M0と配線層M1の間に形成してもよい。
【0032】
(第2A〜第2K実施形態)
図7〜図17は、本発明に係る第2A〜第2K実施形態の薄膜バラン2A〜2Kにおける配線層B1を概略的に示す水平断面図である。各図に示す如く、薄膜バラン2A〜2Kは、キャパシタDの全体が、平面視において、上述した不平衡端子T0の外側端と接地端子Gの外側端との間の領域S1で、且つ、コイル部C1及びC3に重なる領域、又は、コイル部C2及びC4に重なる領域(すなわち、領域S3の範囲外の領域)に配置されたものである。また、薄膜バラン2A〜2Kのうち、薄膜バラン2B,2D,2Iでは、キャパシタDの全体が、平面視において、上述した不平衡端子T0の内側端と接地端子Gの内側端との間の領域S2に配置されている。なお、各図示においては、キャパシタDの電極D1のみ記載したが、その電極D1に対向する配線層M0における位置に、電極D1と同形状の電極D2が形成されている。
【0033】
(第3A〜第3C実施形態)
図18〜図20は、本発明に係る第3A〜第3C実施形態の薄膜バラン3A〜3Cにおける配線層B1を概略的に示す水平断面図である。各図に示す如く、薄膜バラン3A〜3Cもまた、キャパシタDの全体が、平面視において、不平衡端子T0の内側端と接地端子Gの内側端との間の領域S2に配置されており、さらに、コイル部C1及びC3によって形成される第1の磁気結合領域と、コイル部C2,C4によって形成される第2の磁気結合領域に跨設されたものである。なお、各図示においては、キャパシタDの電極D1のみを記載したが、その電極D1に対向する配線層M0における位置に、電極D1と同形状の電極D2が形成されている。
【0034】
(比較例)
図21は、比較例の薄膜バラン4における配線層B1を概略的に示す水平断面図である。図21に示す如く、比較例の薄膜バラン4は、キャパシタKが、平面視において、不平衡端子T0の外側端と接地端子Gの外側端との間の領域S1に範囲外の領域に配置されたものである。なお、図示においては、キャパシタKの電極K1のみを記載したが、その電極K1に対向する配線層M0における位置に、電極K1と同形状の対向電極(本発明の実施形態において電極D2に相当するもの)が形成されている。また、電極K1は、配線51によって接地端子G近傍のスルーホールPに接続されており、その対向電極は、配線52によって接地端子Gに接続されている。
【0035】
(特性評価)
以上説明した各実施形態の薄膜バラン1,2A〜2K,3A〜3C、及び、比較例の薄膜バラン4について、伝送信号の通過特性(減衰特性)をシミュレーションにより評価した結果を、図22〜図25に示す。シミュレーションにおいては、伝送信号の評価対象周波数(共振周波数fr)を2400〜2500MHzとし、この周波数範囲における減衰量が1dB未満を目標仕様とし、各薄膜バランの通過特性を評価した。
【0036】
各図において、曲線E1,E2A〜E2K,E3A〜E3C,E4が、それぞれ、薄膜バラン1,2A〜2G,3A〜3C,4の評価結果を示し、曲線R4が、薄膜バラン4の評価結果を示す。これらの結果より、各実施形態の薄膜バランにおいては、通過特性が目標仕様を好適に満たしていることが確認された。これらのなかでも、不平衡端子T0の内側端と接地端子Gの内側端との間の領域S2に配置されている薄膜バラン1,2B,2D,2I,3A〜3Cでは、他の実施形態の薄膜バランに比して、通過特性がより向上される傾向にあることが判明した。特に、薄膜バラン1,3A〜3Cに対する評価結果(図22及び図23)から、キャパシタDの電極D1,D2が、平衡端子T1,T2よりも不平衡端子T0により近い位置に設けられた薄膜バランの通過特性がより一層優れていることも確認された。
【0037】
これに対し、比較例の薄膜バラン4は、図25に示す如く、通過特性における目標仕様の周波数域における減衰量が本発明による薄膜バランよりも大きくなってしまい、その目標仕様を満たさないことが判明した。
【0038】
なお、上述したとおり、本発明は、上記の各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を変更しない限度において様々な変形が可能である。例えば、不平衡端子T0、平衡端子T1,T2、及び接地端子Gの配置は、図示の位置に限定されない。また、薄膜バランを構成する多層配線構造は、図示の層数未満であってもよく、図示の層数より多くてもよい。さらに、配線層B1を最上層に形成し、配線層M3を最下層に形成するように、層構成の天地が逆になった構造であってももちろんよい。さらに、本発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々のコイル配置を採用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明の薄膜バランによれば接地端子に接続されたC成分(キャパシタ)が、不平衡端子の外側端(接地端子から最も離間した端部)と接地端子の外側端(不平衡端子から最も離間した端部)との間の領域に設けられており、これにより、薄膜バランの小型薄型化に伴う共振周波数の高周波化を有効に防止して、所望の良好な通過特性を実現することができるので、特に、小型薄型化が要求される無線通信機器、装置、モジュール、及びシステム、並びにそれらを備える設備、さらには、それらの製造に広く適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明の薄膜バランに係る好適な一実施形態の構成を示す等価回路図である。
【図2】薄膜バラン1の配線層B1における水平断面図である。
【図3】薄膜バラン1の配線層M0における水平断面図である。
【図4】薄膜バラン1の配線層M1における水平断面図である。
【図5】薄膜バラン1の配線層M2における水平断面図である。
【図6】薄膜バラン1の配線層M3における水平断面図である。
【図7】薄膜バラン2Aの配線層B1における水平断面図である。
【図8】薄膜バラン2Bの配線層B1における水平断面図である。
【図9】薄膜バラン2Cの配線層B1における水平断面図である。
【図10】薄膜バラン2Dの配線層B1における水平断面図である。
【図11】薄膜バラン2Eの配線層B1における水平断面図である。
【図12】薄膜バラン2Fの配線層B1における水平断面図である。
【図13】薄膜バラン2Gの配線層B1における水平断面図である。
【図14】薄膜バラン2Hの配線層B1における水平断面図である。
【図15】薄膜バラン2Iの配線層B1における水平断面図である。
【図16】薄膜バラン2Jの配線層B1における水平断面図である。
【図17】薄膜バラン2Kの配線層B1における水平断面図である。
【図18】薄膜バラン3Aの配線層B1における水平断面図である。
【図19】薄膜バラン3Bの配線層B1における水平断面図である。
【図20】薄膜バラン3Cの配線層B1における水平断面図である。
【図21】薄膜バラン4(比較例)の配線層B1における水平断面図である。
【図22】通過特性の評価結果を示すグラフである。
【図23】通過特性の評価結果を示すグラフである。
【図24】通過特性の評価結果を示すグラフである。
【図25】通過特性の評価結果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0041】
1,2A〜2K,3A〜3C…本発明に係る薄膜バラン、2…不平衡伝送線路、3…平衡伝送線路、4…比較例の薄膜バラン、11,12,21,22…コイル導体、11a,11b,12a,12b,21a,21b,22a,22b…端部、31,32…配線、41,42…配線、51,52…配線、B1,M0,M1,M2,M3…配線層、C1…コイル部(第1のコイル部、第1の線路部)、C2…コイル部(第2のコイル部、第2の線路部)、C3…コイル部(第3のコイル部、第3の線路部)、C4…コイル部(第4のコイル部、第4の線路部)、D…キャパシタ(C成分、容量成分)、D1…電極(第1の電極)、D2…電極(第2の電極)、G…接地端子(接地電位)、K…キャパシタ、K1…電極、L1…線路部(第1の線路部)、L2…線路部(第2の線路部)、L3…線路部(第3の線路部)、L4…線路部(第4の線路部)、P…スルーホール、S1,S2…領域、T0…不平衡端子、T1…平衡端子(第1の平衡端子)、T2…平衡端子(第2の平衡端子)。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の線路部及び第2の線路部を有する不平衡伝送線路と、
前記第1の線路部及び前記第2の線路部のそれぞれに対向配置され且つ磁気結合する第3の線路部及び第4の線路部を有する平衡伝送線路と、
前記第1の線路部に接続された不平衡端子と、
前記第2の線路部にC成分を介して接続された接地端子と、
前記第3の線路部に接続された第1の平衡端子と、
前記第4の線路部に接続された第2の平衡端子と、
を備えており、
前記C成分が、前記不平衡端子の外側端と前記接地端子の外側端との間の領域に設けられた、
薄膜バラン。
【請求項2】
前記C成分が、前記不平衡端子の内側端と前記接地端子の内側端との間の領域に設けられた、
請求項1記載の薄膜バラン。
【請求項3】
前記C成分が、前記平衡端子よりも前記不平衡端子及び前記接地端子に近い側の領域に設けられた、
請求項1又は2記載の薄膜バラン。
【請求項4】
前記第1の線路部は、第1のコイル部を有し、
前記第2の線路部は、第2のコイル部を有し、
前記第3の線路部は、第3のコイル部を有し、
前記第4の線路部は、第4のコイル部を有する、
請求項1〜3のいずれか1項記載の薄膜バラン。
【請求項5】
前記C成分は、前記第2の線路部コイル部に接続された第1の電極と、該第1の電極に誘電体層を介して対向配置されており且つ前記接地端子に接続された第2の電極と、を有するキャパシタを含む、
請求項4項記載の薄膜バラン。
【請求項1】
第1の線路部及び第2の線路部を有する不平衡伝送線路と、
前記第1の線路部及び前記第2の線路部のそれぞれに対向配置され且つ磁気結合する第3の線路部及び第4の線路部を有する平衡伝送線路と、
前記第1の線路部に接続された不平衡端子と、
前記第2の線路部にC成分を介して接続された接地端子と、
前記第3の線路部に接続された第1の平衡端子と、
前記第4の線路部に接続された第2の平衡端子と、
を備えており、
前記C成分が、前記不平衡端子の外側端と前記接地端子の外側端との間の領域に設けられた、
薄膜バラン。
【請求項2】
前記C成分が、前記不平衡端子の内側端と前記接地端子の内側端との間の領域に設けられた、
請求項1記載の薄膜バラン。
【請求項3】
前記C成分が、前記平衡端子よりも前記不平衡端子及び前記接地端子に近い側の領域に設けられた、
請求項1又は2記載の薄膜バラン。
【請求項4】
前記第1の線路部は、第1のコイル部を有し、
前記第2の線路部は、第2のコイル部を有し、
前記第3の線路部は、第3のコイル部を有し、
前記第4の線路部は、第4のコイル部を有する、
請求項1〜3のいずれか1項記載の薄膜バラン。
【請求項5】
前記C成分は、前記第2の線路部コイル部に接続された第1の電極と、該第1の電極に誘電体層を介して対向配置されており且つ前記接地端子に接続された第2の電極と、を有するキャパシタを含む、
請求項4項記載の薄膜バラン。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図20】
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【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【公開番号】特開2010−154474(P2010−154474A)
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−333093(P2008−333093)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年7月8日(2010.7.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【出願人】(000003067)TDK株式会社 (7,238)
【Fターム(参考)】
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