説明

薄膜パターンの形成方法

【課題】インクジェット法による薄膜パターンの形成方法についての上記提案にも、薄膜パターンのエッジ部が盛り上がるなどの表面平滑性に関する問題がある事を新たに見出した。
本発明の目的は、背景技術で述べたような電子デバイスに求められる表面平滑性に優れる微細な薄膜パターンを精度よく作製する薄膜パターンの形成方法を提供することにある。
【解決手段】加熱した基板の表面に、膜形成材料およびインク溶媒を含むインクをノズルから供給することにより、前記基板の表面に薄膜パターンを形成する方法であって、インク溶媒が沸点100℃以下の低沸点溶媒と、沸点100℃を超える高沸点溶媒とを含み、最も沸点の高い低沸点溶媒の沸点と、最も沸点の低い高沸点溶媒の沸点との温度差が、90℃以上である混合溶媒を使用したインクを用いる薄膜パターンの形成方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜パターンの形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
LCD、PDP、有機EL等のディスプレイや電子ペーパー、タッチパネル、太陽電池などに利用される透明導電膜には、インジウムの一部をスズで置換した酸化インジウム(ITO)や亜鉛の一部をアルミで置換した酸化亜鉛(AZO)、亜鉛の一部をガリウムで置換した酸化亜鉛(GZO)、スズの一部をアンチモンで置換した酸化スズ(ATO)、酸素の一部をフッ素で置換した酸化スズ(FTO)などが用いられる。また近年、透明性やキャリヤ移動度の高さといった観点からアモルファスシリコンや多結晶シリコンといった薄膜トランジスタ(TFT)代替材料として、たとえばインジウム、ガリウム、亜鉛により構成される酸化物(IGZO)が注目を集めている。
【0003】
これらの材料は、一般的に、真空蒸着やスパッタリング、イオンプレーティングといった物理的薄膜パターンの形成方法、または、CVDやスプレー熱分解、ゾルゲル法といった化学的薄膜パターンの形成方法により薄膜パターンの形態で得られる。物理的薄膜パターンの形成方法は、得られる薄膜パターンの均一性や膜質、表面平滑性などに優れるが、製膜装置には高価な真空容器が不可欠であり製造コストに問題がある。また、物理的薄膜パターンの形成方法、化学的薄膜パターンの形成方法のどちらに関しても原料の利用効率が悪く結果として生産性の低下、高コスト化が問題となる。さらに、いずれの薄膜パターンの形成方法も出来上がる膜は連続膜で、デバイス中で所望の機能を発現させるためには、たとえばフォトリソグラフィーで形成したレジストパターンを用い、エッチング処理を行うなど後処理工程が必要となる。
【0004】
そこで、このような課題を解決する手法として、インクジェット法にて、所定の材料を基板の表面に供給して、配線や絶縁層などを所望の薄膜パターンの形成方法が開発されている。インクジェット法では、インクを基板の表面に供給し薄膜パターンを形成する場合、インク溶媒として、結晶性の向上、膜の高密度化、膜内への溶媒の取り込み防止、インク粘度といった観点から水やエタノール、メタノールなどのアルコールおよびそれらの混合溶媒のような低沸点溶媒が用いられる。また、得られる膜の結晶性の向上、膜の高密度化、膜内への溶媒の取り込み防止を達成するには基板の温度をより高い温度に設定する必要がある。
【0005】
しかしながら、低沸点溶媒を高温に加熱した基板の表面に供給した場合、インクを供給した瞬間にインク中のインク溶媒の沸騰が起こり所望のパターン、膜厚、膜質を有する膜の形成ができないだけではなく、薄膜パターン同士の接触や周囲へのインクの飛散による汚染などが生じる場合があった。
【0006】
特許文献1では、微粒子分散液や金属アルコキシド、金属塩等を膜形成材料として薄膜パターンの形成方法が提案されている。これによると、インクジェット法を用いて加熱された基板の表面に膜形成材料を含むインクを供給することで、後処理の必要なしに基板の表面に薄膜パターンを形成することができることが報告されている。また、耐熱性の高い基板を用いる場合、高沸点溶媒をインク溶媒として含有させることにより、結晶性に優れた膜が得られやすくなることが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特表2008−500151号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、インクジェット法による薄膜パターンの形成方法についての上記提案にも、薄膜パターンのエッジ部が盛り上がるなどの表面平滑性に関する問題がある事を新たに見出した。
【0009】
本発明の目的は、背景技術で述べたような電子デバイスに求められる表面平滑性に優れる微細な薄膜パターンを精度よく作製する薄膜パターンの形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
すなわち本発明は、下記の<1>〜<5>を提供する。
<1> 加熱した基板の表面に、膜形成材料およびインク溶媒を含むインクをノズルから供給することにより、前記基板の表面に薄膜パターンを形成する方法であって、インク溶媒が沸点100℃以下の低沸点溶媒と、沸点100℃を超える高沸点溶媒とを含み、最も沸点の高い低沸点溶媒の沸点と、最も沸点の低い高沸点溶媒の沸点との温度差が、90℃以上である混合溶媒を使用したインクを用いる薄膜パターンの形成方法。
<2> 前記インクのノズルからの供給をインクジェット方式で行う<1>に記載の薄膜パターンの形成方法。
<3> 前記インク溶媒の低沸点溶媒と高沸点溶媒との体積比が95:5から20:80であるインク溶媒を用いる<1>または<2>に記載の薄膜パターンの形成方法。
<4> <1>〜<3>のいずれかに記載の薄膜パターンの形成方法により得られる薄膜パターン。
<5> 沸点100℃以下の低沸点溶媒と、沸点100℃を超える高沸点溶媒とを含み、最も沸点の高い低沸点溶媒の沸点と、最も沸点の低い高沸点溶媒の沸点との温度差が、90℃以上である混合溶媒および膜形成材料を含むインク。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、従来の薄膜パターンの形成方法により得られる薄膜パターンと比し、膜の表面平滑性に優れる薄膜パターンを提供することができる。該薄膜パターンは、透明電極および薄膜トランジスタに好適に使用される。また、本発明の薄膜パターンは、多層配線基板、半導体チップの実装構造、電気光学装置、電子機器、ならびに非接触型カード媒体などにも適用可能であり、本発明は、工業的に有用である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明について詳しく説明する。
【0013】
本発明は、加熱した基板の表面に、膜形成材料およびインク溶媒を含むインクをノズルから供給することにより、前記基板の表面に薄膜パターンを形成する方法であって、インク溶媒が沸点100℃以下の低沸点溶媒と、沸点100℃を超える高沸点溶媒とを含み、最も沸点の高い低沸点溶媒の沸点と、最も沸点の低い高沸点溶媒の沸点との温度差が、90℃以上である混合溶媒を使用したインクを用いる薄膜パターンの形成方法である。
【0014】
本発明における加熱とは、ノズルから供給されるインクが基板の表面に到達したときにインクに含まれるインク溶媒の蒸発や膜形成材料の化学変化および/または物理変化させるために必要なエネルギーをインクに与えるためのものである。これにより、膜の物理的な耐久性は向上し、例えばタッチパネルのような摺動、打鍵耐久性が求められる用途において、物理的薄膜パターンの形成方法により得られる薄膜と比し強度に優れる膜を得ることが出来る。具体的な加熱温度としては、供給されるインクに用いられる溶媒の種類もしくは膜形成材料の種類、薄膜パターンの形成が行われる雰囲気により多少異なるが、高沸点溶媒の沸点よりも高いことが好ましい。具体的には300℃以上であることが好ましい。
【0015】
基板の加熱方法は、特に限定はされず、公知の加熱装置・方法を採用すればよい。例えば、ホットプレート等の面状発熱体の上に基板を載せて加熱する方法、温風・熱風ファンヒーターにより基板を加熱する方法等が一般的であるが、これらに限定はされず、基板に紫外線を照射して加熱する方法等の手段を採用することもできる。
【0016】
膜形成材料とは、最終的に膜として得るようにする金属酸化物を、基板に持たせた熱による反応で生成し得る、いわゆる前駆体的な従来公知の各種金属化合物であればよく、その種類は特に限定されず、例えば、有機金属錯体類、金属アルコキシド類、無機金属錯体等が好ましく挙げられる。
【0017】
上記有機金属錯体類としては、例えば、金属ギ酸塩、金属酢酸塩、金属プロピオン酸塩、金属ステアリン酸塩、金属ナフテン酸塩および金属シュウ酸塩等の金属カルボン酸塩、これら金属カルボン酸塩の塩基性塩のほか、金属原子に各種の単座配位子および多座配位子が配位した錯体が挙げられ、これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよく、特に限定はされない。上記多座配位子としては、例えば、ジカルボン酸類、オキシカルボン酸類、ジオキシ化合物、オキシオキシム類、オキシアルデヒド類およびその誘導体、ジオキシ化合物、ジケトン化合物、ケトエステル化合物、オキシキノン類、トロボン類、N−オキシド化合物、アミノカルボン酸類およびその類似化合物、ヒドロキシルアミン類、オキシン類、アルジミン類、オキシオキシム類、オキシアゾ化合物、ニトロソナフトール類、トリアゼン類、ビウレット類、ホルマザン類、ジチゾン類、ピグアニド類、グリオキシム類、ジオキシ化合物、ベンゾインオキシム類、ジアミン類、ヒドラジン誘導体ならびにジチオエーテル類等の二座配位子;アスパラギン酸およびジエチレントリアミン等の三座配位子;ポルフィン類、アザポルフィン類およびフタロシアニン類等の四座配位子;エチレンジアミン四酢酸およびトリスサリチルアルデヒドジイミン等の五座配位子等が挙げられ、これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。
【0018】
上記金属アルコキシド類としては、例えば、チタンテトラ−n−ブトキシド、ジルコニウムテトラ−n−ブトキシド、インジウムトリスメトキシプロポキシド、スズ(IV)テトライソブトキシドおよびアルミニウムトリス−sec−イソプロポキシド等の金属アルコキシドモノマーやその(部分)加水分解物、ならびに、これらの加水分解・縮合物(例えば、チタンテトラ−n−ブトキシドテトラマー等)が挙げられ、これらは1種のみ用いても2種以上を併用してもよい。
【0019】
上記無機金属錯体としては、例えば、金属硫酸塩、金属炭酸塩、金属硝酸塩、金属ハロゲン化物などの無機塩、金属アンミン錯体等が挙げられ、なかでも、低温で酸根が膜に残留し難い点で、金属硝酸塩、金属炭酸塩および金属アンミン錯体等が好ましい。
【0020】
金属酸化物前駆体としてはまた、上記従来公知の各種金属化合物を、必要に応じ溶媒中で加熱すること等により、金属原子の価数を変化させた化合物や、配位子の一部を他の基で置換した化合物(例えば、金属アルコキシカルボキシレート等)等も、好ましく挙げられる。
【0021】
これら金属酸化物前駆体のなかでも、本発明の方法により得られる薄膜パターンにおいて金属酸化物以外の成分を加熱により容易に除去できる点で、有機金属錯体類および金属アルコキシド類が好ましい。また、上記加熱の温度が低く、低温で金属酸化物結晶を生成し易い点で、有機金属錯体類がより好ましく、なかでも、金属カルボン酸塩およびその塩基性塩、ならびに、オキシカルボン酸類およびジケトン化合物の錯体が、特に好ましい。
【0022】
金属酸化物前駆体の金属種ごとの具体例としては、つぎのようなものが挙げられる。すなわち、金属酸化物として酸化ルテニウム(RuO2)を生成させる場合は、ルテニウムトリスアセチルアセトナート等のβジケトン、βケトエステルおよびβジカルボン酸等を配位子とするRu化合物錯体、ならびに、これらを後述するアルコール等の溶媒中で加熱処理してなる化合物等が挙げられる。酸化亜鉛(ZnO)、酸化インジウム(In23)またはフェライトを生成させる場合は、Zn、InまたはFe(その他Co、Ni、MnおよびBa等)のギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩およびシュウ酸塩等の金属カルボン酸塩、オキシカルボン酸類等を配位子とするZn化合物錯体、In化合物錯体またはFe化合物錯体(その他Co化合物錯体、Ni化合物錯体、Mn化合物錯体およびBa化合物錯体等)等が挙げられる。ITOを生成させる場合は、Inのギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩およびシュウ酸塩等の金属カルボン酸塩;オキシカルボン酸類等を配位子とするIn化合物錯体等が挙げられるとともに、Sn(IV)カルボン酸塩およびSn(IV)アルコキシド類等が挙げられる。酸化セリウム(CeO2)を生成させる場合は、Ce酢酸塩等の金属カルボン酸塩、オキシカルボン酸類等を配位子とするCe化合物錯体、およびCe硝酸塩等が挙げられる。酸化チタン(TiO2)を生成させる場合は、Tiテトラブトキシド等の金属アルコキシド化合物、Ti酢酸塩等の金属カルボン酸塩、および、βジケトン等を配位子とするTi化合物錯体等が挙げられる。
【0023】
本発明の薄膜パターンは、必ずしも、金属酸化物(セラミクス)のみで形成されているとは限らないのであって、金属および樹脂からなる薄膜パターン;金属、樹脂および金属酸化物からなる薄膜パターンなどもある。受動素子膜において、例えば、誘電体はチタン酸バリウム/金属の積層体であり、抵抗体は、求められる抵抗値に応じて、ニッケル等の金属膜;酸化ルテニウム系、酸化スズ系等の導電性酸化物膜;カーボンブラック等の導電性粒子を樹脂に分散したコンポジット膜がある。
【0024】
金属、酸化物系導電膜、導電性ポリマーからなる薄膜パターンは、例えば、電極および配線に利用できる。
【0025】
膜形成材料として、金属酸化物粒子も本発明では採用しうるが、低温で金属酸化物膜として成立させるためには、粒子径が微細である方が好ましく、具体的には、20nm以下が好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
【0026】
金属酸化物粒子は、通常、溶媒中に分散されたものが膜形成材料として使用される。
【0027】
金属膜を得させるための膜形成材料としては、たとえば、金属前駆体の他に、金属粒子が挙げられる。
【0028】
金属前駆体としては、銅、銀、金、白金族金属等の金属の有機金属錯体;銅、銀、金、白金族金属等の金属の金属アルコキシド類;銅、銀、金、白金族金属等の金属の無機金属錯体等が好ましく挙げられる。すなわち、金属酸化物前駆体の具体例として前述したものと同様の化合物が好ましく挙げられる。また、必要に応じて、金属化を促進するための還元剤をインク中に用いることも好ましく採用し得る。金属前駆体は、通常、溶媒中に溶解または分散されたものが膜形成材料として使用される。
【0029】
また、金属粒子としては、低温で金属膜として成立させるためには、粒子径が微細である方が好ましく、具体的には、20nm以下が好ましく、10nm以下がさらに好ましい。
【0030】
金属粒子は、通常、溶媒中に分散されたものが膜形成材料として使用される。
【0031】
樹脂膜を得させるための膜形成材料としては、たとえば、樹脂そのもの、樹脂前駆体および樹脂粒子が挙げられる。樹脂前駆体としては、重合、縮合または架橋により樹脂を形成し得る、アクリル系、スチレン系、エポキシ系等の各種モノマー;アクリル系、スチレン系、エポキシ系等の各種オリゴマー;架橋剤等が例示される。これらの膜形成材料は、通常、溶媒中に溶解または分散されたものが膜形成材料として使用される。また、樹脂膜を形成させる原料を混合した段階で硬化が進みやすいような原料系の場合には、膜形成材料を複数に分けて、別々のノズルから噴霧供給することが好ましく採用される。また、樹脂粒子としては、均一な薄膜パターンとして成立させるためには、粒子径が微細である方が好ましく、具体的には、50nm以下が好ましく、20nm以下がさらに好ましい。樹脂粒子は、通常、溶媒中に分散されたものが膜形成材料として使用される。
【0032】
その他の膜形成材料としては、カーボンブラック、金属硫化物、金属窒化物、金属酸窒化物、合金等を形成し得る、前駆体または粒子も本発明では採用し得る。
【0033】
また、金属酸化物粒子、金属粒子、その他の粒子等の粒子が樹脂中に分散したコンポジット膜、金属と金属酸化物とからなるコンポジット膜等のいわゆるコンポジット膜の場合は、各成分の前駆体を膜形成材料としてインク中に溶解または分散したものを膜形成材料してもよいし、前記粒子を分散し、樹脂を溶解した、いわゆる塗料組成物を膜形成材料として用いることもできる。
【0034】
なお、膜形成材料は、1つの薄膜パターン中に複数種類が併用されてよいのである。
【0035】
例えば、金属酸化物と金属および/または樹脂でできている薄膜パターンを得る場合の主材料としては、金属酸化物前駆体と金属微粒子および/または樹脂微粒子(溶液化した樹脂であってもよい。)が使用されるのである。
【0036】
本発明におけるインク溶媒は、100℃以下の低沸点溶媒と、沸点100℃を超える高沸点溶媒とを含む。本発明におけるインク溶媒は、最も沸点の高い低沸点溶媒の沸点と、最も沸点の低い高沸点溶媒の沸点との温度差が、90℃以上である。混合溶媒を使用したインクとは、前記加熱した基板にインクを吐出し、インクが基板に到達した際に、はじめに低沸点溶媒の蒸発が起こり、蒸発によって膜形成材料の高濃度化がもたらされ、その結果として濃厚で高粘度な状態となりパターン形状の安定化を達成することが出来るという特徴を有する。その後、高沸点溶媒の蒸発と膜形成材料の化学変化および/または物理変化が起こり所望の特性を有するパターニングされた薄膜を得ることが出来る。これにより表面平滑性を有する薄膜パターンが得られる。
【0037】
沸点差が90℃以下の場合、低沸点溶媒の蒸発による膜形成材料の高濃度化が十分に起こらないため膜のエッジ部が盛り上がるなどパターンの表面平滑性を十分に制御することが出来ない。
【0038】
前記インク中には、例えば、以下に述べる反応促進剤および添加剤などを添加することが出来る。これらの反応促進剤および添加剤などは必要に応じて複数種類使用されてよい。
【0039】
反応促進剤とは、膜形成材料の酸化反応などを化学的に励起し膜形成を促進するものとしては、たとえば、下記1)〜3)が例示される。
【0040】
1)金属酸化物膜を得る場合:過酸化水素等の酸化剤。なお、前駆体として金属アルコキシドを用いた場合は、加水分解・縮合触媒等。
【0041】
2)金属膜を得る場合:アルデヒド、有機アミン等の還元剤等。
【0042】
3)樹脂膜を得る場合:重合、縮合反応を促進する開始剤、触媒等。
【0043】
添加剤は、膜形成材料の溶解安定性を高めたり、高濃度で溶解させたりするために、必要に応じ、インク中に添加されるものであって、本発明の効果が損なわれない範囲で、配合される。このような添加剤としては、例えば、アミン等の塩基性物質、カルボン酸等の酸性物質、ノニオン性、アニオン性、カチオン性および両性の界面活性剤、π電子を有する芳香環、C=Cの二重結合等の不飽和結合を有する不飽和脂肪族炭化水素のほか、前述した2座配位子等の多座配位子として列挙した化合物等が好ましく挙げられる。これら添加剤は、少量で高い効果が得られる点で好ましく、例えば、金属化合物前駆体中の金属原子に対しモル比で0.01〜5の使用量で溶解性向上の効果を得ることができ、また、得られる膜の結晶性に悪影響を与えない点でも好ましい。
【0044】
100℃以下の低沸点溶媒とは、沸点が100℃以下であるということ以外は特に限定されるものでないが、金属化合物前駆体との親和性が高く溶解させやすい溶媒が好ましい。例えば、水(沸点100℃);メタノール(沸点65℃)、エタノール(沸点78℃)、イソプロピルアルコール(沸点82℃)、1−プロピルアルコール(沸点97℃)、2−ブタノール(沸点100℃)などのアルコール類;酢酸メチル(沸点58℃)、酢酸エチル(沸点77℃)などの酢酸エステル類;アセトン(沸点56℃)、メチルエチルケトン(沸点80℃)などのケトン類が挙げられ、なかでも、有害性が低い点では、エタノールが好ましく、低温で溶媒残留のない膜が得られやすい点では、メタノール、エタノールおよびイソプロパノール等が好ましい。
【0045】
100℃を超える高沸点溶媒とは、沸点が100℃を超えるということ以外は特に限定されるものでないが、金属化合物前駆体との親和性が高く溶解させやすい溶媒が好ましい。該溶媒としては、例えば、イソブチルアルコール(沸点107℃)、イソペンチルアルコール(沸点132℃)、1−ブタノール(沸点118℃)、3−メトキシブタノール(沸点161℃)、シクロヘキサノール(沸点161℃)、メチルシクロヘキサノール(沸点166℃)、α−テルピネオール(沸点219℃)、ベンジルアルコール(沸点206℃)などのアルコール類;酢酸プロピル(沸点102℃)、酢酸イソブチル(沸点118℃)、酢酸ブチル(沸点126℃)、酢酸ペンチル(沸点150℃)などの酢酸エステル類;メチルイソブチルケトン(沸点116℃)、ジイソブチルケトン(沸点168℃)、シクロヘキサノン(沸点156℃)、4−ヒドロキシ−4−メチル−2−ペンタノン(沸点168℃)、メチルシクロヘキサノン(沸点163℃)、イソホロン(沸点215℃)などのケトン類;エチレングリコール(沸点197℃)、ジエチレングリコール(沸点244℃)、プロピレングリコール(沸点188℃)などのグリコール類;1,4−ジオキサン(沸点101℃)、エチレングリコールモノメチルエーテル(沸点125℃)、エチレングリコールモノエチルエーテル(沸点136℃)、エチレングリコールモノノルマルブチルエーテル(沸点170℃)、エチレングリコールモノターシャリーブチルエーテル(沸点153℃)、酢酸2−メトキシメチル(沸点145℃)、酢酸2−エトキシエチル(沸点156℃)、酢酸ジエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点247℃)、3−メトキシ−3−メチルブタノール(沸点174℃)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート(沸点156℃)、3−メトキシ−3−メチルブチルアセテート(沸点188℃)、1−メトキシ−2−プロパノール(沸点120℃)、1−メトキシプロピル−2−アセテート(沸点146℃)、1−エトキシ−2プロパノール(沸点132℃)、プロピレングリコールモノプロピルエーテル(沸点150℃)、3−メトキシブチルアセテート(沸点171℃)、3−エトキシプロピオンサンエチル(沸点170℃)、プロピレングリコールモノメチルエーテルプロピオネート(沸点160℃)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール、沸点230℃)、トリエチレングリコールモノブチルエーテル(沸点271℃)などのグリコールエーテル類が挙げられ、エチレングリコール、ブチルカルビトールなどが好ましく採用される。
【0046】
インクにおける、膜形成材料、すなわち、金属酸化物前駆体、樹脂、金属微粒子および樹脂微粒子の含有割合(金属酸化物膜の場合は金属酸化物換算で)は、前述したインクジェットなどのノズル供給方式に適した液状態の保持と基板への良好な塗工性とが得られるようであれば、特に限定されるものではないが、例えば、該インク全体に対し、0.01〜20重量%であることが好ましく、より好ましくは0.1〜10重量%、さらに好ましくは0.5〜3重量%である。膜形成材料の主材料含有割合が上記範囲を満たすよう、膜形成材料の主材料や溶媒の量を調整すればよい。
【0047】
本発明に用いられるノズルは、インクを微細液滴状にして供給できるノズルであればよく、インクジェット方式のノズルに特に限らないが、以下では、理解を容易にするために、インクジェット方式を例に挙げて、説明することとする。一般に、噴射ノズルを備えた部分はインクジェットヘッドと称されるが、インクジェットヘッドには噴射ノズルが1本のみ備えられていてもよいし(シングルヘッド)、2本以上備えられていてもよく(マルチヘッド)、噴射ノズルの個数は特に限定されない。マルチヘッドの場合、噴射ノズルの個数は、作製したい膜の線幅と噴射する液滴の大きさとの比(線幅/液滴の大きさ)に応じて適宜選択すればよい。インクジェット方式を採用することにより、後処理工程なしに所望のパターンの膜を容易に形成することができ、時間的・コスト的な面から見ても非常に生産性に優れ、かつ、非常に正確なパターンを形成することができる。
【0048】
インクジェット方式での往復供給を行う際は、噴射ノズルよりインクを微細液滴状に供給させることが可能な装置であれば、特に限定はされず、何れの供給装置を用いることもできるが、後述するインクジェット方式を用いて上記方式でのインクの供給を行うことが好ましい。
【0049】
噴射ノズルから供給させるインクの液滴の大きさは、該ノズルの管径(内口径)、インクの粘度、表面張力、および、インクの供給速度等に依存し、特に限定はされないが、より低温で、均一な形状の、均一な膜厚分布を有する金属酸化物結晶膜を形成しやすい点で、最大直径2000μm以下であることが好ましく、より好ましくは500μm以下、特に好ましくは100μm以下である。現状のインクジェット技術では、一般に、ミクロンオーダーの大きさが下限であるが、将来的にはナノメートルオーダーの大きさの液滴形成も可能になると考えられ、そのような場合にも本発明の方法は適用可能であり、成膜温度の低温化などの点でより一層効果を発揮することができる。
【0050】
噴射ノズルから基板表面に供給するインクの速度は、実用性の高い範囲を考慮すると、噴射ノズル1つ当たり、1ピコリットル/分〜10ミリリットル/分とすることが好ましく、より好ましくは10ピコリットル/分〜50マイクロリットル/分である。インクの供給速度を調整することにより、得られる金属酸化物膜の厚みを制御することができ、また、一度供給した部分に繰り返して供給する(積層する)ようにし、その回数を適宜調整することによっても膜厚を制御することができる。例えば、抵抗体素子としての金属酸化物膜を形成する場合は、厚みを制御することにより抵抗値を容易に制御することができる。なお、噴射ノズルの管径の微細化技術、および、インクジェットヘッドや基板固定台の移動速度の高速化制御技術の進展に伴い、フェムトリットル/分あるいはそれ以下の供給速度にすることも可能になると考えられるが、そのような場合にも本発明の方法は適用可能であり、成膜温度の低温化などの点でより一層効果を発揮することができる。また、10ミリリットル/分を超える高速噴射で供給する場合であっても、本発明の方法は好ましく適用できる。
【0051】
噴射ノズルからのインクの供給は、一般には、一定間隔で吐出(噴射)を繰り返す、いわゆるパルス供給により行う。パルス供給においては、パルス幅(すなわち、1回の吐出にかかる時間)は、1マイクロ秒〜1ミリ秒とすることが好ましく、より好ましくは20〜50マイクロ秒であり、一方、パルス間隔(すなわち、n回目の吐出開始時から(n+1)回目の吐出開始時までの時間)は、1マイクロ秒〜1ミリ秒とすることが好ましく、より好ましくは40〜100マイクロ秒である。パルス幅およびパルス間隔を上記範囲に制御することは、結晶構造(結晶子径、結晶配向)や膜厚分布が均一な膜を得やすい等の点で好ましい。
【0052】
本発明は、前記インク溶媒の低沸点溶媒と高沸点溶媒との体積比が95:5から20:80の範囲であるインク溶媒を用いることが好ましい。
【0053】
本発明の薄膜パターンの形成方法に用い得る基板の材質としては、特に限定されず、例えば、酸化物、窒化物、炭酸塩等のセラミクス、ガラスなどの無機物;PET(ポリエチレンテレフタレート)、PBT(ポリブチレンテレフタレート)、PEN(ポリエチレンナフタレート)などのポリエステル樹脂、ポリカーボネート樹脂、ポリフェニレンサルファイド樹脂、ポリエーテルスルホン樹脂、ポリエーテルイミド樹脂、ポリイミド樹脂、アモルファスポリオレフィン樹脂、ポリアリレート樹脂、アラミド樹脂、ポリエーテルエーテルケトン樹脂、液晶ポリマーなどの耐熱性樹脂のほか、従来公知の(メタ)アクリル樹脂、PVC(ポリ塩化ビニル)樹脂、PVDC(ポリ塩化ビニリデン)樹脂、PVA(ポリビニルアルコール)樹脂、EVOH(エチレンービニルアルコール共重合)樹脂、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PVF(ポリビニルフルオライド)、ETFE(テトラフルオロエチレンーエチレン共重合体)等のフッ素樹脂、エポキシ樹脂、ポリオレフィン樹脂等の各種樹脂、および、これら各種樹脂(フィルム、シート等)にアルミニウム、アルミナ、シリカなどを蒸着したもの;銀や銅やシリコン等の各種金属類;ガラス繊維コンポジットエポキシ樹脂およびシリカコンポジットエポキシ樹脂などの有機質無機質コンポジット類などが好ましく挙げられる。
また、上記基板の材質は、機能面においても、特に限定はされず、例えば、光学的には透明、不透明;電気的には絶縁体、導電体、p型またはn型の半導体、低誘電体または高誘電体;磁気的には磁性体、非磁性体;など、用途・使用目的等に応じて選択すればよい。
【0054】
本発明の薄膜パターンの形成方法を行う雰囲気としては、有機金属錯体類、金属アルコキシド類、無機金属錯体等の熱分解を促進することを目的として、空気中や酸素雰囲気中で行ったり、金属やカーボンブラック、金属硫化物、金属窒化物、金属酸窒化物、合金等を製膜する際には窒素や水素、アンモニアおよびそれらの混合雰囲気などの還元雰囲気中で行ったりすることが出来る。
【実施例】
【0055】
次に、本発明を実施例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものでもない。なお、特に断らない限り、得られた膜の電気特性、光学特性、結晶構造については、次の評価によりおこなった。
【0056】
得られた膜付き基板における膜部分の結晶性の有無および同定を、薄膜X線回折装置(マック・サイエンス社製、製品名:MXP−3VA(型式))を用い、下記測定条件で、薄膜X線回折測定を行い評価した。具体的には、下記測定条件で行った。
【0057】
(測定条件)
X線:CuKα1線(波長:1.54056Å),40kV,40mA
走査範囲:2θ=20〜80°
スキャンスピード:1°/min
X線入射角度:0.5°
【0058】
電気特性の評価は、JIS K 7149に準拠した4探針法による測定方法により、表面抵抗(シート抵抗)を測定し、触針式膜厚計により、膜厚を測定し、この表面抵抗の値と膜厚の値を用いて、以下の式(1)により膜の抵抗率を求めることにより行った。
【0059】
抵抗率(Ωcm)=表面抵抗(Ω/□)×膜厚(cm) (1)
【0060】
光学特性の評価は、可視分光光度計を用いて、JIS R 1635に規定された方法により、可視光透過率を測定することにより行った。
【0061】
薄膜パターンの表面平滑性の評価には、光干渉非接触表面形状計測システム(菱化システム製、R3300GLite)を用いて行い、ランダムに抽出した視野の最も高い位置と最も低い位置の高低差が50nm以下である場合を○、100nm以下である場合を△、100nm以上である場合を×とした。
【0062】
実施例1
(インクの調製)
低沸点溶媒としてエタノール(EtOH、関東化学社製、99.5%)と高沸点溶媒としてブチルカルビトール(CH3(CH23(OCH2CH22OH、関東化学社製、99.5%)が80:20の体積比になるように調整し、60℃に加熱しながら攪拌し、酢酸亜鉛二水和物(Zn(CH3COO)2・2H2O、高純度化学社製、純度99.9%)を、0.02Mになるように溶かし入れ、インクとしてZnO前駆体溶液を得た。
(ガラス基板の処理)
ガラス基板(コーニング社製7059)を蒸留水中に浸漬し10分間超音波照射した後、取り出した基板をエタノール中に浸漬しさらに10分間超音波照射した。取り出した基板にプラズマ照射機(キーエンス社製ST7000)を用いて表面処理を30秒間、10セットの条件で表面の親水化処理を行った。
(インクジェット装置および吐出条件)
X−Yテーブル、基板加熱用ヒーターおよびピエゾ式インクジェットノズル(Microjet製、オリフィス径70μm)から構成されるインクジェット装置を用いた。基板加熱用ヒーターを300℃に設定し、ノズルを輻射熱から守るために冷却水循環ユニットを設置した。インクの吐出条件は、印加電圧100V、時間50μsとし、同じ位置に滴下数20の条件でドットパターンを形成した。さらに、同様の印加電圧、時間の条件にて、X軸方向におけるドットピッチを20μm、Y軸方向におけるドットピッチを100μmとし滴下数5の条件で薄膜パターンの製膜を行った。
【0063】
実施例2
インク溶媒の高沸点溶媒としてエチレングリコール(HOCH2CH2OH、関東化学社製、99.5%)を用いた以外は実施例1と同様にして薄膜パターンの製膜を行った。
低沸点溶媒としてエタノール(EtOH、関東化学社製、99.5%)と高沸点溶媒としてエチレングリコール(HOCH2CH2OH、関東化学社製、99.5%)が90:10の体積比になるように調整し、60℃に加熱しながら攪拌し、酢酸亜鉛二水和物(Zn(CH3COO)2・2H2O、高純度化学社製、純度99.9%)を、0.02Mになるように溶かし入れ、インクとしてZnO前駆体溶液を得た。
【0064】
比較例1
インク溶媒に高沸点溶媒を用いずに低沸点溶媒のみを用い、低沸点溶媒としてエタノール(EtOH、関東化学社製、99.5%)を用いた以外は実施例1と同様にして薄膜パターンの製膜を行った。
【0065】
比較例2
インク溶媒に低沸点溶媒を用いずに高沸点溶媒のみを用い、高沸点溶媒としてブチルカルビトール(CH3(CH23(OCH2CH22OH、関東化学社製、99.5%)を用いた以外は実施例1と同様にして薄膜パターンの製膜を行う。
【0066】
比較例3
インク溶媒に低沸点溶媒として、2−プロパノール(前記イソプロピルアルコールと同義。)((CH32CHOH、関東化学社製、99.5%)を、高沸点溶媒としてベンジルアルコール(C65CH2OH、関東化学社製、99.0%)および2−ブトキシエタノール(前記エチレングリコールモノノーマルブチルエーテルと同義。)(CH3(CH23OCH2CH2OH、関東化学社製、98.0%)を15:20:65の体積比に調整した混合溶媒を用いた以外は実施例1と同様にして薄膜パターンの製膜を行った。
【0067】
表1には、実施例1、2および比較例1〜3で得られたドットについて分析した結果に関してそれぞれ示す。
【0068】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱した基板の表面に、膜形成材料およびインク溶媒を含むインクをノズルから供給することにより、前記基板の表面に薄膜パターンを形成する方法であって、インク溶媒が沸点100℃以下の低沸点溶媒と、沸点100℃を超える高沸点溶媒とを含み、最も沸点の高い低沸点溶媒の沸点と、最も沸点の低い高沸点溶媒の沸点との温度差が、90℃以上である混合溶媒を使用したインクを用いる薄膜パターンの形成方法。
【請求項2】
前記インクのノズルからの供給をインクジェット方式で行う請求項1に記載の薄膜パターンの形成方法。
【請求項3】
前記インク溶媒の低沸点溶媒と高沸点溶媒との体積比が95:5から20:80であるインク溶媒を用いる請求項1または2に記載の薄膜パターンの形成方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の薄膜パターンの形成方法により得られる薄膜パターン。
【請求項5】
沸点100℃以下の低沸点溶媒と、沸点100℃を超える高沸点溶媒とを含み、最も沸点の高い低沸点溶媒の沸点と、最も沸点の低い高沸点溶媒の沸点との温度差が、90℃以上である混合溶媒および膜形成材料を含むインク。

【公開番号】特開2012−130905(P2012−130905A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−257155(P2011−257155)
【出願日】平成23年11月25日(2011.11.25)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】