説明

薄膜太陽電池用の溝加工ツール及びその角度規制構造

【課題】溝加工ツールをホルダに取り付ける際に、簡単な作業で正確に角度調整できるようにする。
【解決手段】この薄膜太陽電池用溝加工ツール16は、ホルダ15に保持され、ホルダ15とともに集積型薄膜太陽電池の薄膜上を一方向に移動させて、一方向に延びる溝を薄膜上に形成するためのツールであって、ホルダ15に保持されるツール本体22と、刃先部24と、を備えている。刃先部24は、ツール本体22の先端部に形成され、溝加工用の刃先24f,24gを先端に有する。そして、ツール本体22には、ホルダ15に保持された状態で刃先部24が溝形成方向に対して所定の姿勢に固定されるように、角度規制部が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溝加工ツール、特に、ホルダに保持され、ホルダとともに集積型薄膜太陽電池の薄膜上を一方向に移動させて、一方向に延びる溝を形成するための加工ツールに関する。また、本発明は、この溝加工ツールの取付角度を規制するための角度規制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
薄膜太陽電池として、例えば特許文献1に示されるように、複数の薄膜を積層して形成された集積型薄膜太陽電池が提供されている。この特許文献1に記載された集積型薄膜太陽電池では、ガラス等の基板上にMo膜からなる下部電極膜が形成され、その後、下部電極膜が短冊状に分割される。次に、下部電極膜上にCIGS膜等のカルコパイライト構造化合物半導体膜を含む化合物半導体膜が形成される。そしてさらに、これらの半導体膜の一部がストライプ状に除去されて短冊状に分割され、これらを覆うように上部電極が形成される。そして最後に、上部電極膜の一部がストライプ状に除去されて分割される。
【0003】
以上のようにして、複数のユニットセルが直列接続された集積型薄膜太陽電池が形成される。このとき、膜の一部をストライプ状に除去するために、溝加工ツール及び剥離ツールが用いられる。溝加工ツール及び剥離ツールは、加工機構のテーブル上に、ホルダを介して設置されている。そして、溝加工ツールによって2つの溝が形成された後、剥離ツールによって2つの溝間の薄膜が剥離される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−33498号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に示されるように、溝加工ツールあるいは剥離ツールによって溝を形成し、薄膜を剥離する際には、溝の形成される方向に合わせてツールの取付角度を設定する必要がある。溝の形成される方向に対してツールが所定の角度に設定されていない場合は、所望の溝幅が得られなかったり、またツールの先端が片当たりするために膜剥がれが生じたりする場合がある。
【0006】
以上のような、ツールの取付角度の狂いによって発生する不具合を防止するために、ツール交換時等においては、ツール取付角度の調整作業が必要となる。具体的には、ツールとホルダとをツール角度調整用の別の装置に取り付け、ツールを顕微鏡で確認しながら、ツールの取付角度の調整が行われる。このような調整作業は非常に面倒であり、長い作業時間を要する。
【0007】
本発明の課題は、溝加工ツールをホルダに取り付ける際に、簡単な作業で正確に角度調整できるようにすることにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
請求項1に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールは、ホルダに保持され、ホルダとともに集積型薄膜太陽電池の薄膜上を一方向に移動させて、一方向に延びる溝を薄膜上に形成するためのツールであって、ホルダに保持されるツール本体と、刃先部と、を備えている。刃先部は、ツール本体の先端部に形成され、溝加工用の刃先を先端に有する。そして、ツール本体には、ホルダに保持された状態で刃先部が溝形成方向に対して所定の姿勢に固定されるように、角度規制部が設けられている。
【0009】
ここでは、ツール本体がホルダに保持された状態では、角度規制部によってツール本体が所定の姿勢に固定される。このため、ツールをホルダに取り付ける際に、顕微鏡等の装置を用いることなく、簡単に常に一定の姿勢で取り付けることができる。そして、ツールの姿勢を常に一定にした状態で溝を加工することができるので、形成される溝の加工品質を安定させることができる。
【0010】
請求項2に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールは、請求項1のツールにおいて、刃先部は、薄膜上の溝が形成される方向に沿って同じ幅で所定の長さにわたって延びている。また、角度規制部は、ツール本体がホルダに保持された状態で、刃先部の延びる方向を溝形成方向に一致させる。
【0011】
ここでは、刃先部が溝形成方向に沿って同じ幅で延びている。このため、刃先が摩耗しても、加工を続けることが可能である。このような構成のツールにおいては、刃先部の延びる方向を溝形成方向に一致させる必要がある。そこで、角度規制部によって、ツール本体がホルダに保持された状態で、刃先部の延びる方向が溝形成方向に一致させられる。
【0012】
請求項3に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールは、請求項2のツールにおいて、刃先部はツール本体の全幅にわたって延びている。
【0013】
この場合は、刃先部の強度を高く維持することができる。また、刃先の摩耗が進んでも、加工可能なツール寿命を延ばすことができる。
【0014】
請求項4に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールは、請求項1から3のいずれかのツールにおいて、角度規制部は、ツール本体の少なくとも一部を矩形にすることによって構成されている。この場合は、ツール本体の少なくとも一部が矩形であるので、この矩形部分をホルダ側の矩形溝に挿入すれば、簡単な構成でツール本体の角度を規制することができる。
【0015】
請求項5に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールは、請求項4のツールにおいて、ツール本体は、すべてにわたって矩形であり、その一部が角度規制部として機能する。
【0016】
この場合は、ツール本体自体が矩形であるので、特別な加工をすることなく角度規制部を構成することができる。
【0017】
請求項6に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造は、集積型薄膜太陽電池の薄膜上に一方向に延びる溝を形成するための加工ツールを、ホルダに対して所定の取付角度で装着するための構造であって、溝加工ツールに形成されたツール側角度規制部と、ホルダ側角度規制部と、を備えている。ホルダ側角度規制部は、ホルダに形成され、ホルダに対する溝加工ツールの取付角度を所定の角度に規制する。また、溝加工ツールは、ホルダに保持されるツール本体と、刃先部と、を備えている。刃先部は、ツール本体の先端部に形成され、溝加工用の刃先を先端に有する。そして、ツール本体には、ホルダに保持された状態で刃先部が溝形成方向に対して所定の姿勢に固定されるように、角度規制部が設けられている。
【0018】
ここでは、溝加工ツールをホルダに保持した状態では、ツール側角度規制部とホルダ側角度規制部とによって、溝加工ツールの刃先部が、溝形成方向に対して所定の姿勢に固定される。このため、前記同様に、簡単な取付作業で、溝加工ツールをホルダに対して常に一定の姿勢で取り付けることができる。また、形成される溝の加工品質を安定させることができる。
【0019】
請求項7に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造は、請求項6の構造において、刃先部は、溝が形成される方向に沿って同じ幅で所定の長さにわたって延びている。また、ツール側角度規制部は、ツール本体がホルダに保持された状態で、刃先部の延びる方向を溝形成方向に一致させる。
【0020】
請求項8に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造は、請求項6又は7の構造において、ツール側角度規制部は、ツール本体の少なくとも一部又は全部が矩形に形成されて構成されている。また、ホルダ側角度規制部は、矩形のツール側角度規制部が嵌め込まれる矩形状の溝である。
【0021】
ここでは、簡単な構成で、溝加工ツールをホルダに対して常に同じ姿勢に固定することができる。
【0022】
請求項9に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造は、請求項6の構造において、ツール本体側角度規制部は、ツール本体の端部に形成され、溝形成方向と平行に形成された溝である。また、ホルダ側角度規制部はツール本体の端部に形成された溝に係合されるピンである。
【0023】
ここでは、ツール本体の端部に形成された溝に、ホルダに設けられたピンが係合する。この溝とピンとの係合によって、ホルダに対して溝加工ツールが常に一定の姿勢に固定される。
【0024】
請求項10に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造は、請求項6の構造において、ツール本体側角度規制部は、ツール本体の端部に形成され、ツール本体の軸に対して傾斜する傾斜面である。また、ホルダ側角度規制部は傾斜面が当接する規制面を有する。
【0025】
ここでは、ホルダに設けられた規制面に、ツール本体の端部に形成された傾斜面が当接することによって、ホルダに対して溝加工ツールが常に一定の姿勢に固定される。また、ツール本体の傾斜面がホルダ側の規制面に当接するので、溝加工ツールの上方への移動を規制することができる。
【0026】
請求項11に係る薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造は、請求項6の構造において、ツール本体は断面円形に形成されており、ツール側角度規制部はツール本体の一部に形成された平面を有している。また、ホルダはツール本体が挿入される孔を有し、ホルダ側角度規制部は、ホルダの孔に対して直交するネジ孔と、ネジ孔に螺合して先端がツール側角度規制部の平面に当接するネジ部材と、を有する。
【発明の効果】
【0027】
以上のような本発明では、簡単な作業で正確に角度調整して溝加工ツールをホルダに装着することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の一実施形態が採用されたスクライブ装置の外観斜視図。
【図2】第1実施形態によるホルダ組立体の正面図。
【図3】ホルダ組立体の側面図。
【図4】第1実施形態の溝加工ツールの外観斜視図。
【図5】第2実施形態によるホルダ組立体の側面図。
【図6】第2実施形態の溝加工ツールの外観斜視図。
【図7】第3実施形態の角度規制構造の部分図。
【図8】第4実施形態の角度規制構造の側面部分図。
【図9】第4実施形態の溝加工ツールの外観斜視部分図。
【図10】第5実施形態のホルダ組立体の正面図。
【図11】図10のZ方向矢視部分図。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の一実施形態を採用した集積型薄膜太陽電池用スクライブ装置の外観斜視図を図1に示す。
【0030】
−第1実施形態−
[スクライブ装置の全体構成]
この装置は、太陽電池基板Wが載置されるテーブル1と、スクライブヘッド2に設けられたホルダ組立体3と、それぞれ2つのカメラ4及びモニタ5と、を備えている。
【0031】
テーブル1は水平面内において図1のY方向に移動可能である。また、テーブル1は水平面内で任意の角度に回転可能である。
【0032】
スクライブヘッド2は、移動支持機構6によって、テーブル1の上方においてX,Y方向に移動可能である。なお、X方向は、図1に示すように、水平面内でY方向に直交する方向である。移動支持機構6は、1対の支持柱7a,7bと、1対の支持柱7a,7b間にわたって設けられたガイドバー8と、ガイドバー8に形成されたガイド9を駆動するモータ10と、を有している。スクライブヘッド2は、ガイド9に沿って、前述のようにX方向に移動可能である。そして、このスクライブヘッド2には図示しないエアシリンダが設けられており、このエアシリンダによってホルダ組立体3はリニアガイドに沿って上下動が可能である。
【0033】
2つのカメラ4はそれぞれ台座12に固定されている。各台座12は支持台13に設けられたX方向に延びるガイド14に沿って移動可能である。2つのカメラ4は上下動が可能であり、各カメラ4で撮影された画像が対応するモニタ5に表示される。ここで、太陽電池基板Wの表面には位置を特定するためのアライメントマークが設けられている。このアライメントマークを2つのカメラ4で撮影することによって、アライメントマークの位置が特定される。そして、特定されたアライメントマークの位置に基づいて、テーブル1に載置された太陽電池基板Wの方向ズレが検出される。
【0034】
[ホルダ組立体]
ホルダ組立体3は、スクライブヘッド2の一面に固定されており、スクライブヘッド2とともにX,Y方向に移動可能であり、またスクライブヘッド2に対して上下方向に移動可能である。ホルダ組立体3を取り出して図2及び図3に示す。図2はホルダ組立体3の正面図、図3はその側面図である。
【0035】
このホルダ組立体3は、スクライブヘッド2に固定されるホルダ15と、ホルダ15に保持された溝加工ツール16と、を備えている。また、ホルダ15及び溝加工ツール16には、溝加工ツール16をホルダ15に対して所定の取付角度で取り付けるための角度規制構造が設けられている。
【0036】
<ホルダ>
ホルダ15は、プレート状の部材であって、スクライブヘッド2に取り付けられる第1主面17と、逆側の第2主面18と、を有している。また、ホルダ15には、上下に2つの貫通孔19が形成されている。これらの貫通孔19を貫通する2本のボルト20によって、ホルダ15はスクライブヘッド2に固定される。また、ホルダ15には、下方から上方に向けて所定長さの溝21が形成されている。溝21は、第2主面18に形成されており、所定の深さを有する矩形形状である。また、この溝21の上部にはストップ面21aが形成されている。このストップ面21aに溝加工ツール16の上端面が当接している。これにより、溝加工ツール16の上方への移動が規制されている。
【0037】
<溝加工ツール>
溝加工ツール16は、ホルダ15の矩形溝21に挿入され、また、前述のように、溝加工ツール16の上端面が矩形溝21のストップ面21aに当接している。溝加工ツール16は、超硬合金又は焼結ダイヤモンド等の硬質材料で形成されており、ツール本体22と、刃先部24と、から構成されている。ツール本体22は、ホルダ15の矩形溝21に対応して矩形に形成されている。刃先部24はツール本体22の先端部にツール本体22と一体に形成されている。刃先部24は、図4に示すように、底面24aと、前面24b及び後面24cと、左右の側面24d,24eと、を有している。底面24aは長方形に形成されている。前面24b及び後面24cは、底面24aと直交して上方に延び、ツール本体22の面と同一平面である。左右の側面24d,24eは、底面24aの長辺から底面24aと直交して上方に延び、互いに平行に形成されている。なお、ツール本体22から左右の側面24d,24eにかけては、下方に行くにしたがって先細になる傾斜面となっている。
【0038】
以上のような溝加工ツール16においては、刃先部24の底面24aと前面24b及び後面24cとによって形成される角部24f,24gが、それぞれ基板を加工する際の刃先となる。刃先部24は、刃先24f,24gと同じ幅で、ツール本体22の幅と同じ長さにわたって形成されている。このため、刃先24f,24gが加工によって摩耗しても、加工される溝の幅が変わることはない。
【0039】
そして、この溝加工ツール16を含むホルダ組立体3は、太陽電池基板Wに対して刃先部24の前面24b及び後面24cを所定角度だけ傾斜させた状態で、すなわち刃先24f又は24gが基板Wに接するように、スクライブヘッド2に取り付けられる。
【0040】
<角度規制構造>
基板Wの薄膜上に溝を形成する場合は、溝加工ツール16の刃先24f又は24gを、その刃が、形成すべき溝が延びる方向(溝形成方向)と直交するように当て、溝加工ツール16を溝形成方向に沿って移動させる。また、前述のように、溝加工ツール16の刃先部24は、摩耗が進んでも続けて使用可能なように、刃先24f,24gが長手方向(溝形成方向)に沿って同じ幅で延びている。以上の理由から、刃先24f及び24gの刃が溝形成方向と直交するように溝加工ツール16の取付角度を規制する必要がある。
【0041】
そこで、ホルダ15及び溝加工ツール16には、溝加工ツール16がホルダ15に対して所定の角度で固定されるように、角度規制構造が設けられている。なお、この実施形態では、前述のように、刃先24f,24gの刃が溝形成方向と直交するように、溝加工ツール16の角度が設定される。
【0042】
以上の角度規制構造は、ホルダ15に形成された矩形溝21と、矩形のツール本体22と、から構成されている。すなわち、矩形のツール本体22を矩形溝21に嵌め込むことによって、ホルダ15に対して溝加工ツール16の刃先24f,24gの角度を固定することができる。
【0043】
また、角度規制構造は、矩形溝21及び矩形のツール本体22に加えて、固定プレート26を有している。固定プレート26には、横方向に並ぶ2つの貫通孔27が形成されている。そして、固定プレート26は、各貫通孔27を貫通しホルダ15の対応するネジ孔28に螺合する2本のボルト29によって、ホルダ15の第2主面18に固定されている。このようにして、固定プレート26は、ホルダ15の矩形溝21に挿入された溝加工ツール16の上方のほぼ1/3を覆っている。
【0044】
また、固定プレート26には貫通するネジ孔26aが形成されている。ネジ孔26aは、固定プレート26がホルダ15に固定された状態で、溝加工ツール16に臨むような位置に設けられている。そして、このネジ孔26aにネジ部材30を螺合することで、ネジ部材30の先端が溝加工ツール16を矩形溝21の底面に対して押圧する。これにより、溝加工ツール16が矩形溝21から落下するのが防止されている。
【0045】
[動作]
前述のように、溝加工ツール16は、底面24aの長手方向が溝形成方向(ツール移動方向)に沿うように、かつ刃先24f又は24gが溝形成方向と直交するようにスクライブヘッド2にセットされる。また、溝加工ツール16は、刃先部24の前面24b及び後面24cが太陽電池基板Wに対して所定角度だけ傾斜した状態でスクライブヘッド2にセットされる。
【0046】
以上のような状態で、テーブル1をY方向に所定ピッチで移動させるたびに、ホルダ組立体3を下降させ、溝加工ツール16の刃先24f又は24gを太陽電池基板Wの表面に押し付ける。そして、ホルダ組立体3をX方向に移動させることにより、太陽電池基板Wの表面にX方向に沿った溝が形成される。
【0047】
[特徴]
本実施形態では、矩形のツール本体22をホルダ15の矩形溝21に挿入し、溝加工ツール16の取付角度を規制している。このため、非常に簡単な構成で、かつ簡単な取付作業で、溝加工ツール16をホルダ15に常に一定の姿勢で取り付けることができる。したがって、このような溝加工ツール16によって形成される溝の加工品質が安定する。
【0048】
また、溝加工ツール16の刃先部24は、溝が形成される方向に沿って、同じ幅でツール本体22の全体長さにわたって連続して延びている。このため、刃先が摩耗しても加工を続けることができ、ツール寿命を長くすることができる。
【0049】
−第2実施形態−
図5及び図6にホルダ及び溝加工ツールの第2実施形態を示す。なお、この第2実施形態では、ホルダ35及び溝加工ツール36以外の構成については、第1実施形態と同様の構成である。
【0050】
<ホルダ>
ホルダ35はベースプレート37と支持ブロック38とを有している。ベースプレート37は、スクライブヘッド2に取り付けられる第1主面39と、逆側の第2主面40と、を有している。また、前記同様に、ホルダ35のベースプレート37には、複数の貫通孔(図示せず)が形成されており、この貫通孔を貫通するボルトによって、ホルダ35がスクライブヘッド2に固定される。
【0051】
支持ブロック38は、ベースプレート37の第2主面40に固定されている。支持ブロック38のベースプレート37への固定方法は特に限定されるものではなく、ボルト、溶接、一体形成等が採用可能である。支持ブロック38には上下方向に貫通する円形の貫通孔38aが形成されている。そして、この貫通孔38aに溝加工ツール36が挿入されて支持されている。なお、支持ブロック38の貫通孔38aに挿入された溝加工ツール36を固定するための構成は第1実施形態と同様である。すなわち、支持ブロック38に外面から貫通孔38aに向けて貫通するように形成されたネジ孔38bと、このネジ孔38bに螺合し溝加工ツール36の外周面に当接するネジ部材41とによって、溝加工ツール36が支持ブロック38に保持されている。
【0052】
<溝加工ツール>
溝加工ツール36は丸棒を加工して形成されたものである。この溝加工ツール36は、超硬合金又はダイヤモンド等の硬質材料で形成されており、ツール本体42と、刃先部44と、から構成されている。ツール本体42は、支持ブロック38の円形の貫通孔38aに対応して断面円形である。刃先部44はツール本体42の先端部にツール本体42と一体に形成されている。刃先部44は、第1実施形態と全く同様の構成である。すなわち、図6に示すように、底面44aと、前面44b及び後面44cと、左右の側面44d,44eと、を有している。また、刃先部44の底面44aと前面44b及び後面44cとによって形成される角部44f,44gが、それぞれ基板を加工する際の刃先となることも、第1実施形態と同様である。
【0053】
<角度規制構造>
この第2実施形態において、角度規制構造は、ツール側角度規制部とホルダ側角度規制部とから構成されている。
【0054】
ツール本体側角度規制部は、ツール本体42の上端部に形成された突起部46の傾斜面46a,46bである。より詳細には、ツール本体42の上端部は、側方から見て三角形状に形成されている。すなわち、ツール本体42の上端部は、側方から見て、上方に行くに従って細くなっており、ベースプレート37側に第1傾斜面46aを有し、逆側に第2傾斜面46bを有している。したがって、この突起部46によって形成される第1及び第2傾斜面46a,46bは、溝形成方向に沿って延びている。なお、溝形成方向は、刃先部44が延びる方向でもある。
【0055】
また、ホルダ側角度規制部は、ホルダ35を構成するベースプレート37の第2主面40上に設けられた位置決めブロック48である。位置決めブロック48には、断面逆V字形状の溝49が形成されている。この溝49は溝形成方向に沿って延びている。そして、溝49の両側の壁面(規制面)49a,49bに溝加工ツール36の突起部46の第1傾斜面46a及び第2傾斜面46bがそれぞれ当接している。
【0056】
このように、溝加工ツール36に設けられた傾斜面46a,46bと、ホルダ35に設けられた位置決めブロック48の溝49の規制面49a,49bと、によって、溝加工ツール36のホルダ35に対する取付角度が規制されている。また、位置決めブロック48によって、溝加工ツール36の上方への移動が規制されている。
【0057】
このような実施形態によっても、簡単な取付作業で、溝加工ツール36をホルダ35に常に一定の姿勢で取り付けることができ、この溝加工ツール36によって形成される溝の加工品質が安定する。また、前記同様に、溝加工ツール36のツール寿命を長くすることができる。
【0058】
−第3実施形態−
図7に第3実施形態を示す。この第3実施形態では、ホルダ側角度規制部のみが第2実施形態と異なり、他の構成は第2実施形態と同様である。
【0059】
図7に示すように、ホルダ側角度規制部を構成する位置決めブロック52は、1つの傾斜面52aのみを有している。この傾斜面52aは、前記同様に溝形成方向に沿って延びており、ツール側角度規制部を構成するツール本体42の突起部46の傾斜と同角度の傾斜を有している。そして、溝加工ツール36の突起部46の第1傾斜面46a又は第2傾斜面46bを傾斜面52aに当接させることにより、溝加工ツール36のホルダ35に対する取付角度の規制と、上方への移動の規制を行うことができる。
【0060】
−第4実施形態−
図8及び図9に第4実施形態を示す。この第4実施形態では、溝加工ツール54は丸棒を加工して形成されており、断面が円形のツール本体55と、ツール本体55の先端部に形成された刃先部56と、を有している。刃先部56の構成については前記各実施形態とい全く同様であるので、説明は省略する。また、ホルダについては、第2実施形態のホルダ35と同様であり、支持ブロック38を有している。支持ブロック38には貫通孔38a及びネジ孔38bが設けられている。なお、この第4実施形態では、ホルダに位置決めブロックは設けられていない。
【0061】
ツール側角度規制部は、図9に示すように、ツール本体55の一部に形成された平面部55aにより構成されている。平面部55aはツール本体55の外周の一部を、軸方向に直交し、かつ溝形成方向(刃先の延びる方向)に平行な方向にカットして形成されたものである。
【0062】
一方、ホルダ側角度規制部は、ホルダを構成する支持ブロック38のネジ孔38b及びネジ部材41によって構成されている。すなわち、支持ブロック38のネジ孔38bに螺合するネジ部材41の先端を、ツール本体55の平面部55aに当接させることによって、溝加工ツール54のホルダに対する取付角度が規制されている。
【0063】
以上のように、この第4実施形態では、ツール本体55の平面部55aと、支持ブロック38のネジ孔38b及びこれに螺合するネジ部材41によって、角度規制構造が構成されている。また、この角度規制構造によって、溝加工ツール54がホルダに対して上下方向に移動するのが規制されている。
【0064】
−第5実施形態−
図10及び図11に第5実施形態を示す。図11は、図10のZ方向矢視図である。この第5実施形態では、溝加工ツール60は丸棒を加工して形成されており、断面が円形のツール本体61と、ツール本体61の先端部に形成された刃先部62と、を有している。刃先部62は前記各実施形態と全く同様である。また、溝加工ツール及びホルダ以外は前記各実施形態と同様の構成である。
【0065】
ホルダ64は、直方体形状のブロック部材からなるベース部材65と、支持ブロック66と、角度規制用のピン67と、を有している。
【0066】
支持ブロック66には貫通孔66aが縦方向に形成され、ネジ孔66bが横方向に形成されている。ネジ孔66bは、前記各実施形態と同様に、支持ブロック66の外周面から貫通孔66aに貫通するように形成されている。なお、ベース部材65は2つのボルト67によってスクライブヘッド2に固定される。また、支持ブロック66は2つのボルト68によってベース部材65に固定されている。
【0067】
ツール側角度規制部は、ツール本体61の上端部に形成されたV字形状の溝70である。このV溝70は、基板表面に形成される溝の方向(刃先の延びる方向)と平行に形成されている。
【0068】
一方、ホルダ側角度規制部は、前述のピン67により構成されている。溝加工ツール60は、ツール本体61のV溝70の両壁面70a,70bがピン67の外周面に当接するように支持ブロック66に装着されている。
【0069】
以上のように、この第5実施形態では、ツール本体61のV溝70と、ホルダ64に設けられたピン67と、によって、角度規制構造が構成されている。また、この角度規制構造によって、溝加工ツール60がホルダ64に対して上方に移動するのが規制されている。
【0070】
なお、支持ブロック66の貫通孔68aに挿入された溝加工ツール60が下方に落下しないように固定するための構成は第1実施形態と同様である。すなわち、支持ブロック66のネジ孔66bに螺合し溝加工ツール60の外周面に当接するネジ部材72によって、溝加工ツール60が支持ブロック66に保持されている。
【0071】
[他の実施形態]
本発明は以上のような実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲を逸脱することなく種々の変形又は修正が可能である。
【0072】
前記各実施形態において角度規制構造を構成する傾斜面、ピン、溝等の延びる方向は、それぞれの図に示した方向に限定されるものではない。これらが当接することによって溝加工ツールの取付角度が規制される構造であれば、どのような方向に形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0073】
15,35,64 ホルダ
16,36,54,60 溝加工ツール
21 矩形溝
22,55,61 ツール本体
24,56,62 刃先部
30,41 ネジ部材
46a,46b,52a 傾斜面
49 溝
49a,49b 規制面
55a 平面部
67 ピン
70 V溝

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホルダに保持され、前記ホルダとともに集積型薄膜太陽電池の薄膜上を一方向に移動させて、前記一方向に延びる溝を前記薄膜上に形成するための加工ツールであって、
前記ホルダに保持されるツール本体と、
前記ツール本体の先端部に形成され、前記溝加工用の刃先を先端に有する刃先部と、
を備え、
前記ツール本体には、前記ホルダに保持された状態で前記刃先部が前記溝形成方向に対して所定の姿勢に固定されるように、角度規制部が設けられている、
薄膜太陽電池用溝加工ツール。
【請求項2】
前記刃先部は、前記薄膜上の溝が形成される方向に沿って同じ幅で所定の長さにわたって延びており、
前記角度規制部は、前記ツール本体が前記ホルダに保持された状態で、前記刃先部の延びる方向を前記溝形成方向に一致させる、
請求項1に記載の薄膜太陽電池用溝加工ツール。
【請求項3】
前記刃先部は前記ツール本体の全幅にわたって延びている、請求項2に記載の薄膜太陽電池用溝加工ツール。
【請求項4】
前記角度規制部は、前記ツール本体の少なくとも一部を矩形にすることによって構成されている、請求項1から3のいずれかに記載の薄膜太陽電池用溝加工ツール。
【請求項5】
前記ツール本体は、すべてにわたって矩形であり、その一部が前記角度規制部として機能する、請求項4に記載の薄膜太陽電池用溝加工ツール。
【請求項6】
集積型薄膜太陽電池の薄膜上に一方向に延びる溝を形成するための加工ツールを、ホルダに対して所定の取付角度で装着するための構造であって、
前記溝加工ツールに形成されたツール側角度規制部と、
前記ホルダに形成され、前記ホルダに対する前記溝加工ツールの取付角度を所定の角度に規制するためのホルダ側角度規制部と、
を備え、
前記溝加工ツールは、
前記ホルダに保持されるツール本体と、
前記ツール本体の先端部に形成され、前記溝加工用の刃先を先端に有する刃先部と、
を備え、
前記ツール本体には、前記ホルダに保持された状態で前記刃先部が前記溝形成方向に対して所定の姿勢に固定されるように、角度規制部が設けられている、
薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造。
【請求項7】
前記刃先部は、前記溝が形成される方向に沿って同じ幅で所定の長さにわたって延びており、
前記ツール側角度規制部は、前記ツール本体が前記ホルダに保持された状態で、前記刃先部の延びる方向を前記溝形成方向に一致させる、
請求項6に記載の薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造。
【請求項8】
前記ツール側角度規制部は、前記ツール本体の少なくとも一部又は全部が矩形に形成されて構成されており、
前記ホルダ側角度規制部は、前記矩形のツール側角度規制部が嵌め込まれる矩形状の溝である、
請求項6又は7に記載の薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造。
【請求項9】
前記ツール本体側角度規制部は、前記ツール本体の端部に形成され、前記溝形成方向と平行に形成された溝であり、
前記ホルダ側角度規制部は前記ツール本体の端部に形成された溝に係合されるピンである、
請求項6に記載の薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造。
【請求項10】
前記ツール本体側角度規制部は、前記ツール本体の端部に形成され、前記ツール本体の軸に対して傾斜する傾斜面であり、
前記ホルダ側角度規制部は前記傾斜面が当接する規制面を有する、
請求項6に記載の薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造。
【請求項11】
前記ツール本体は丸棒状に形成されており、
前記ツール側角度規制部は前記ツール本体の一部に形成された平面を有し、
前記ホルダは前記ツール本体が挿入される孔を有し、
前記ホルダ側角度規制部は、前記ホルダの孔に対して直交するネジ孔と、前記ネジ孔に螺合して先端が前記ツール側角度規制部の平面に当接するネジ部材と、を有する、
請求項6に記載の薄膜太陽電池用溝加工ツールの取付角度規制構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−142236(P2011−142236A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2498(P2010−2498)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(390000608)三星ダイヤモンド工業株式会社 (383)
【Fターム(参考)】