説明

薄膜形成方法及び機能性材料の製造方法

【課題】防汚性等の機能性に優れた薄膜の形成方法及び当該薄膜を有する機能性材料の製造方法を提供する。
【解決手段】
本発明の薄膜形成方法では、疎水液相と、親水液相との2相からなる処理液を調製し、疎水液相と親水液相との界面に、機能性分子を配列させた後、疎水液相と親水液相との界面を光学レンズに横切らせて、光学レンズの表面に機能性分子を移し取って薄膜を形成する。従って、光学レンズの表面に親水性基が配向した状態で機能性分子を移し取ることができ、防汚性等の機能性に優れた薄膜を形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜形成方法及び機能性材料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、基材の表面に薄膜を形成する方法として、ラングミュアーブロジェット法(LB法)を利用した方法が知られている。
例えば、機能性分子を水面上に展開し、その水面に基板を上下させることにより、機能性分子を基板に移し取って薄膜を形成する方法が知られている(例えば、特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平2−000915号公報
【特許文献2】特開昭62−294085号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1,2に記載の方法では、水面に機能性分子を配向性よく整えることができない場合がある。例えば、機能性分子がフッ素系高分子のような防汚性分子の場合、水面上では、単分子膜として均一に展開せず、フッ素系高分子の配向性が乱れてしまい、得られた薄膜の防汚性や耐久性に問題がある。
【0005】
本発明の目的は、機能性に優れた薄膜の形成方法及び当該薄膜を有する機能性材料の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の薄膜形成方法は、基材の表面に薄膜を形成する薄膜形成方法であって、疎水性液体からなる疎水液相と、親水性液体からなる親水液相との2相からなる処理液を調製する処理液調製工程と、前記疎水液相と前記親水液相との界面に、親水性基および疎水性基を有する機能性分子を配列させる配列工程と、前記疎水液相と前記親水液相との界面を前記基材に横切らせて、前記基材の表面に前記機能性分子を移し取って前記薄膜を形成する薄膜形成工程と、を備えることを特徴とする。
【0007】
この構成の発明では、機能性分子は親水性基および疎水性基を有するため、親水液相と疎水液相との界面において、親水性基が親水液相を向き、疎水性基が疎水液相を向くように強く配向させることができる。そのため、処理液から基材を引き上げると、基材の表面に特定方向に配向した状態で機能性分子を移し取ることができる。それ故、防汚性や耐久性などの機能性に優れた薄膜を形成することができる。
【0008】
本発明では、前記疎水性液体は、前記親水性液体よりも密度が高いことが好ましい。
この構成の発明では、親水液相が上相で疎水液相が下相となる。一般に上述のような機能性分子は、疎水液相に溶解しやすいので、下相の疎水液相において、機能性分子の親水性基が親水液相を向くように選択的に配向させることができる。それ故、さらに機能性分子の配向性に優れた薄膜を形成することができる。
【0009】
本発明では、前記基材を前記親水液相に触れないようにして前記疎水液相に浸漬させた後、前記疎水液相と前記親水液相との界面を前記基材に横切らせることが好ましい。
この構成の発明では、基材が疎水液相と親水液相との界面を横切る前に親水液相に触れることがない。その結果、基材が疎水液相と親水液相との界面を横切る前に親水液相に触れる場合と比較して、基材表面に親水性液体が触れるより先に親水性基が触れる確率が高くなる。それ故、基材に機能性分子を良好に移し取ることができ、耐アルカリ性などの機能性に優れた薄膜も形成できる。
【0010】
本発明では、前記処理液調製工程は、前記機能性分子を含有した疎水液相に前記基材を浸漬させた後、前記疎水液相上に前記親水液相を形成して前記処理液を調製することが好ましい。
この構成の発明では、予め疎水液相に基材を浸漬させておくことで、基材が疎水液相と親水液相との界面を横切る前に親水液相に触れることがないようにできる。その結果、基材が疎水液相と親水液相との界面を横切る前に親水液相に触れる場合と比較して、基材表面に親水性液体が触れるより先に親水性基が触れる確率が高くなる。それ故、基材に機能性分子を良好に移し取ることができ、耐アルカリ性などの機能性に優れた薄膜も形成できる。
【0011】
本発明では、前記疎水性液体は、前記親水性液体よりも密度が低くてもよい。
この構成の発明では、親水液相と疎水液相との界面において、親水性基が親水液相を向き、疎水性基が疎水液相を向くように強く配向させることができるので、処理液から基材を引き上げると、基材の表面に特定方向に配向した状態で機能性分子を移し取ることができる。それ故、機能性分子の配向性に優れた薄膜を形成することができるので、機能性に優れた薄膜を容易に形成することができる。
【0012】
本発明では、前記疎水性基は、パーフルオロアルキル基を有することが好ましい。
この構成の発明では、機能性分子は疎水液相と親和性が高くなり、疎水液相に選択的に溶解するため、機能性分子が親水液相に溶解することを抑制することができる。
従って、疎水液相と親水液相との界面に容易に機能性分子を配列させることができるので、機能性分子の配向性により優れた薄膜を形成することができる。
【0013】
本発明では、前記機能性分子は、防汚性分子であることが好ましい。
この構成の発明では、防汚性に優れた薄膜を形成することができる。
【0014】
本発明の機能性材料の製造方法は、上述の薄膜形成方法により、基材の表面に薄膜を形成することを特徴とする。
この構成の発明では、防汚性や耐久性などの機能性に優れた機能性材料を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の第1実施形態に係る薄膜形成方法を説明するための工程図。
【図2】前記第1実施形態に係る薄膜形成方法の配列工程を示す概略図。
【図3】前記第1実施形態に係る薄膜形成方法の薄膜形成工程を示す概略図。
【図4】本発明の第2実施形態に係る薄膜形成方法を示す概略図。
【図5】本発明の第3実施形態に係る薄膜形成方法を示す概略図。
【図6】比較例に係る薄膜形成方法を示す概略図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
〔第1実施形態〕
以下、本発明の第1実施形態に係る薄膜形成方法及び機能性材料の製造方法について図1から図3までの図面を用いて説明する。図1は、本発明の第1実施形態に係る薄膜形成方法を説明するための工程図であり、図2は、第1実施形態に係る薄膜形成方法の配列工程を示す概略図であり、図3は、第1実施形態に係る薄膜形成方法の薄膜形成工程を示す概略図である。
【0017】
[薄膜形成方法]
第1実施形態の薄膜形成方法は、図1に示すように、プラズマ処理工程S1と、処理液調製工程S2と、配列工程S3と、薄膜形成工程S4と、加熱工程S5とを備え、基材の表面に機能性分子のラングミュアーブロジェット(LB)膜を形成する方法である。基材としては、プラスチック製の光学レンズ11を例示する。
【0018】
プラズマ処理工程S1では、光学レンズ11と機能性分子との密着性を向上させるために、光学レンズ11の表面にプラズマ処理を実施する。表面処理としては、コロナ放電、マイクロ波などの高電圧放電などを用い、プラズマにより処理する。
光学レンズ11は、表面にSiO層を有するものであり、例えば、最外層がSiO層の反射防止層とハードコート層とが積層されたものでもある。
【0019】
処理液調製工程S2では、処理槽12に機能性分子を含んだ疎水性液体を導入する。そして、表面処理された光学レンズ11を疎水性液体に浸漬させる。次に処理槽12に親水性液体を導入する。これにより、疎水性液体からなる疎水液相13Aと、親水性液体からなる親水液相13Bとの2相からなる処理液13を調製する。ここで、図2に示すように、疎水性液体の密度は、親水性液体よりも高く、疎水液相13Aが下相で親水液相13Bが上相である。処理液13には、疎水液相13Aと親水液相13Bとの界面13Cが形成される。
【0020】
機能性分子としては、例えば、防汚剤として使用されるものが例示でき、疎水性基14Aと親水性基14Bとを有する防汚性分子14からなる。
疎水性基14Aとしては、直鎖状若しくは分岐状のパーフルオロアルキル基又はアルキル基である。
パーフルオロアルキル基の末端としては、CF基,C基,C基などが例示でき、アルキル基の末端としては、CH基,C基,C基などが例示できる。
【0021】
親水性基14Bとしては、光学レンズ11のSiO層と反応する官能基であり、アルコキシ基、アルコキシアルコキシ基、アルケニルオキシ基、アシロキシ基、ケトオキシム基、アミノ基、アミド基、アミノオキシ基、ハロゲン原子などが例示できる。
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが例示できる。
アルコキシアルコキシ基としては、メトキシメトキシ基、メトキシエトキシ基、エトキシエトキシ基などが例示できる。
アルケニルオキシ基としては、アリロキシ基、イソプロペノキシ基などが例示できる。
アシロキシ基としては、アセトキシ基、プロピオニルオキシ基、ブチルカルボニルオキシ基、ベンゾイルオキシ基などが例示できる。
ケトオキシム基としては、ジメチルケトオキシム基、メチルエチルケトオキシム基、ジエチルケトオキシム基、シクロペンタノキシム基、シクロヘキサノキシム基などが例示できる。
アミノ基としては、N−メチルアミノ基、N−エチルアミノ基、N−プロピルアミノ基、N−ブチルアミノ基、N,N−ジメチルアミノ基、N,N−ジエチルアミノ基、N−シクロヘキシルアミノ基などが例示できる。
アミド基としては、N−メチルアセトアミド基、N−エチルアセトアミド基、N−メチルベンズアミド基などが例示できる。
アミノオキシ基としては、N,N−ジメチルアミノオキシ基、N,N−ジエチルアミノオキシ基などが例示できる。
ハロゲン原子の場合は、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子などが例示できる。
【0022】
疎水性液体としては、パーフルオロ基を有し炭素数が4以上の有機化合物、パーフルオロエーテル油、クロロトリフルオロエチレンオリゴマー油、フロン225(CFCFCHClとCClFCFCHClFの混合物)などの非極性ないし低極性化合物からなる液体を例示することができる。
パーフルオロ基を有し炭素数が4以上の有機化合物としては、例えば、パーフルオロヘキサン、パーフルオロシクロブタン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3−ジメチルシクロヘキサン、パーフルオロ−4−メトキシブタン、パーフルオロ−4−エトキシブタン、メタキシレンヘキサフロライドなどが挙げられる。
また、その他の疎水性液体を構成する化合物としては、ベンゼン、トルエン、クロロホルム、酢酸エチル、塩化メチレンなどが挙げられる。
これらの疎水性液体は、1種単独又は2種以上の非極性化合物や低極性化合物を混合したものでもよい。
【0023】
親水性液体としては、極性プロトン性液体又は極性非プロトン性液体のいずれでもよく、これらの液体を1種単独又は2種以上混合したものでもよい。
極性プロトン性液体としては、水、低級アルコール類、カルボン酸などが例示できる。低級アルコール類としては、メタノール、エタノール、1−ブタノール、2−プロパノール、1−プロパノールなどが例示できる。カルボン酸としては、ギ酸、酢酸などが例示できる。
極性非プロトン性液体としては、テトラヒドロフラン、アセトン、アセトニトリル、N,N−ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなどが例示できる。
【0024】
配列工程S3では、図2に示すように、光学レンズ11を疎水液相13Aに保持した状態で、所定時間、処理液13を静置する。これにより、疎水液相13Aと親水液相13Bとの界面13Cに防汚性分子14を配列させる。
ここで、防汚性分子14の疎水性基14Aがパーフルオロアルキル基等であるため、選択的に疎水液相13Aに溶解する。そして、防汚性分子14は、親水性基14Bが親水液相13Bを向くように配向する。
【0025】
薄膜形成工程S4では、図3に示すように、光学レンズ11に界面13Cを横切らせるように、光学レンズ11を引き上げて、光学レンズ11の表面に防汚性分子14を移し取る。ここで、光学レンズ11の表面は、プラズマ処理されているため、親水性となっている。そのため、防汚性分子14の親水性基14Bが光学レンズ11の表面に配向する。
そして、加熱工程S5では、光学レンズ11にアニール処理を実施し、光学レンズ11に付着した疎水性液体及び親水性液体を除去するとともに、光学レンズ11の表面に防汚性分子14を反応させ、薄膜を形成する。
【0026】
[機能性材料の製造方法]
第1実施形態の薄膜形成方法により光学レンズ11の表面に薄膜を形成することで、機能性材料としての防汚性光学レンズ11を製造することができる。
【0027】
[第1実施形態の効果]
(1)第1実施形態の薄膜形成方法では、疎水液相13Aと、親水液相13Bとの2相からなる処理液13を調製し、界面13Cに防汚性分子14を配列させた後、界面13Cを光学レンズ11に横切らせて、光学レンズ11の表面に防汚性分子14を移し取って薄膜を形成した。
【0028】
従って、界面13Cにおいて、親水性基14Bが親水液相13Bを向き、疎水性基14Aが疎水液相13Aを向くように強く配向させることができる。それ故、処理液13から光学レンズ11を引き上げると、光学レンズ11の表面に親水性基14Bが配向した状態で防汚性分子14を移し取ることができ、配向性に優れた薄膜を形成することができる。従って、防汚性及び耐久性に優れた薄膜を形成することができる。
【0029】
(2)また、疎水性液体は、親水性液体よりも密度が高いので、親水液相13Bが上相となり疎水液相13Aが下相となる。防汚性分子14は一般に疎水液相13Aに溶解しやすいため、下相の疎水液相13Aにおいて、防汚性分子14の親水性基14Bが親水液相13Bを向くように選択的に配向させることができる。従って、特定方向に防汚性分子14を配向させた状態で光学レンズ11に移し取ることができるので、さらに防汚性分子14の配向性に優れた薄膜を形成することができる。
【0030】
(3)さらに、処理液調製工程S2では、防汚性分子14を含有した疎水液相13Aに光学レンズ11を浸漬させた後、疎水液相13A上に親水液相13Bを形成して処理液13を調製した。
それ故、親水液相13Bが上相で疎水液相13Aが下相となり、しかも予め疎水液相13Aに光学レンズ11を浸漬させており、基材が親水液相に触れることがない。それ故、光学レンズ11に防汚性分子14を良好に移し取ることができるので、耐アルカリ性などの機能性に優れた薄膜も形成できる。
【0031】
(4)そして、疎水性基14Aは、パーフルオロアルキル基を有しているため、防汚性分子14は疎水液相13Aと親和性が高くなり、疎水液相13Aに選択的に溶解させることができる。よって、防汚性分子14が親水液相13Bに溶解することを抑制することができる。
それ故、界面13Cに容易に防汚性分子14を配列させることができるため、配向性に優れた薄膜を形成することができる。
【0032】
(5)また、機能性分子として、防汚性分子14を採用したため、防汚性に優れた薄膜を形成することができる。
(6)第1実施形態の機能性材料の製造方法では、上述の薄膜形成方法により、光学レンズ11の表面に薄膜を形成するため、防汚性及び耐久性に優れた防汚性光学レンズ11を製造することができる。
【0033】
〔第2実施形態〕
次に、本発明の第2実施形態に係る薄膜形成方法及び機能性材料の製造方法について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、同符号を付し、その説明を省略又は簡略する。図4は、本発明の第2実施形態に係る薄膜形成方法を示す概略図である。
【0034】
第2実施形態の薄膜形成方法と第1実施形態の薄膜形成方法では、処理液調製工程S2と配列工程S3と薄膜形成工程S4とが異なる。
第2実施形態の処理液調製工程S2では、まず、処理槽12に親水性液体を導入する。次に防汚性分子14を含んだ疎水性液体を導入する。ここで、疎水性液体の密度が親水性液体よりも低いため、図4に示すように、疎水液相23Aが上相となり、親水液相23Bが下相となる処理液23が調製される。そして、親水液相23Bに光学レンズ11を浸漬させる。
次に、配列工程S3により、疎水液相23Aと親水液相23Bとの界面23Cに防汚性分子14を配列させる。ここで、防汚性分子14は、疎水性基14A及び親水性基14Bを有しているため、親水性基14Bが親水液相23Bを向くように配列する。なお、疎水液相23Aでは、防汚性分子14が空気との界面23Dにおいて疎水性基14Aを空気側に向ける傾向があるが、きれいな配列には至っていないと考えられる。
そして、薄膜形成工程S4では、光学レンズ11を親水液相23Bから疎水液相23Aに引き上げる。ここで、光学レンズ11全体が疎水液相23Aに移動した時点で一旦引き上げを停止して、光学レンズ11を疎水液相23Aに保持する。そして、所定時間光学レンズ11を疎水液相23Aに保持した後、再度光学レンズ11を引き上げて疎水液相23Aから取り出す。その後、加熱工程S5を実施する。
第2実施形態の疎水性液体を構成する化合物としては、ヘキサン、ベンゼン、トルエン、ジエチルエーテル、酢酸エチルなどが好ましく、これらの疎水性液体は、1種単独又は2種以上を混合したものでもよい。
第2実施形態の機能性材料の製造方法は、第2実施形態の薄膜形成方法により光学レンズ11の表面に薄膜を形成して防汚性光学レンズ11を製造する方法である。
【0035】
第2実施形態の薄膜形成方法及び機能性材料の製造方法によれば、第1実施形態の効果(1)、(4)、(5)、(6)と同様の効果を奏する。
【0036】
〔第3実施形態〕
次に、本発明の第3実施形態に係る薄膜形成方法及び機能性材料の製造方法について説明する。なお、第1実施形態と同様の構成については、その説明を省略又は簡略する。図5は、本発明の第3実施形態に係る薄膜形成方法を示す概略図である。
【0037】
まず、第3実施形態の薄膜形成方法では、薄膜を形成する対象となる基材が第1実施形態と異なる。すなわち、第1実施形態の薄膜形成方法では、基材として光学レンズなどを例示したが、第3実施形態の薄膜形成方法では、基材として表面にSiO層を有するフィルム31を例示する。
【0038】
次に、第3実施形態の薄膜形成方法において使用する薄膜形成装置3を説明する。
薄膜形成装置3は、大気プラズマ装置36と、処理槽32と、加熱装置37と、基材移動手段とを備える。
大気プラズマ装置36は、フィルム31を挟む様に一対配置されている。これにより、フィルム31の両面を表面処理する。
処理槽32は、略中央に、界面33Cを横切る仕切り38が配置されている。この仕切り38は、フィルム31が導入される導入槽38Aと、フィルム31が引き出される引出槽38Bとを区切っている。引出槽38Bでは、疎水性液体からなる疎水液相33A上に、親水性液体からなる親水液相33Bが形成されているが、導入槽38Aには、親水液相33Bが形成されていない。また、引出槽38Bには、疎水液相33Aと親水液相33Bとの界面33Cが形成されている。
【0039】
加熱装置37は、フィルム31を挟む様に二対配置されている。これにより、フィルム31に付着した疎水性液体及び親水性液体を除去して薄膜を形成する。
基材移動手段は、処理槽32の導入槽38A側に配置された第1ロール39Aと、処理槽32中に配置された第2ロール39Bと、処理槽32の引出槽38B側に配置された第3ロール39Cとを備え、大気プラズマ装置36、処理槽32、加熱装置37の順にフィルム31を移動させて巻き取る。また、基材移動手段は、第1ロール39A、第2ロール39B及び第3ロール39Cにより、導入槽38Aへのフィルム31の浸漬と、処理液33からのフィルム31の引き上げとを連続的に実施する。
第3実施形態の薄膜形成方法では、薄膜形成装置3を用いて、第1実施形態と同様にプラズマ処理工程S1と、処理液調製工程S2と、配列工程S3と、薄膜形成工程S4と、加熱工程S5とを実施する。すなわち、大気プラズマ装置36、導入槽38Aの疎水液相33A、引出槽38Bの親水液相33B、加熱装置37の順に、フィルム31を移動させて、連続的に薄膜を形成する。
第3実施形態の機能性材料の製造方法では、第3実施形態の薄膜形成方法によりフィルム31の表面に薄膜を形成して機能性フィルム31を製造することができる。
【0040】
[第3実施形態の効果]
第3実施形態の薄膜形成方法及び機能性材料の製造方法によれば、第1実施形態の(1)から(6)までの効果に加えて、以下の効果を奏する。
(7)仕切り38によって、疎水性液体のみを含む導入槽38Aと、疎水性液体及び親水性液体を含む引出槽38Bとを仕切っているため、連続的に疎水液相33Aから親水液相33Bに移動させることができる。従って、機能性に優れた薄膜を連続的に形成することができる。
【0041】
[変形例]
なお、本発明は、上述した各実施形態に限定されるものではなく、本発明の目的を達成できる範囲で以下に示される変形をも含むものである。
例えば、前記実施形態では、基材としてプラスチック製の光学レンズを採用したが、ガラス製の光学レンズでもよい。また、光学レンズとしては、眼鏡用、顕微鏡用、望遠鏡用などでもよい。基材としては、光学レンズ、フィルムに限らず、金属板、シートなどでもよい。
【0042】
また、前記実施形態では、機能性分子として防汚性分子を例示したが、防水性分子でも良い。
そして、前記実施形態では、疎水性液体に光学レンズを浸漬させた後に、疎水性液体上に親水性液体を導入する手順を示したがこれに限られない。例えば、疎水性液体に光学レンズを浸漬させる前に、親水性液体を導入して予め2相からなる処理液を調製し、その処理液に光学レンズを浸漬させる手順でも良い。この場合、親水性液体に純水などの高沸点の液体を使用すれば、疎水性液体の蒸発を防止できるという付随的効果も得られる。
さらに、前記実施形態では、基材に機能性分子を累積させる構成でも良い。すなわち、疎水性相から親水性相に向かう方向又は親水性相から疎水性相に向かう方向に基材を繰り返し移動させて基材に機能性分子を累積させても良い。なお、親水性液体の量やpH、疎水性液体の量や機能性分子の濃度、処理液の温度、基材の移動速度などは適宜設定してよい。
【実施例】
【0043】
第1から第3実施形態までのそれぞれに対応する実施例について説明する。まず、第1実施形態の薄膜形成法に対応する実施例1,2と、比較例1,2とについて説明する。図6は、比較例1に係る薄膜形成方法を示す概略図である。
【0044】
[実施例1]
基材として、ハードコート層と最外層がSiO層である反射防止層とを有する眼鏡用プラスチックレンズ(商品名「セイコースーパーソブリン」セイコーエプソン株式会社製)を用意した。
このプラスチックレンズの表面を活性化するためにプラズマ処理を行った。プラズマ処理の条件としては、処理圧力:0.1Torr、導入ガス:乾燥air、電極間距離:24cm、電源出力:DC1KV、処理時間:60秒とした。
防汚性分子としての含フッ素シラン化合物(商品名「AES−6」ダイキン工業株式会社製)を疎水性液体のハイドロフルオロエーテル(商品名「HFE−7200」住友3M株式会社製)に希釈して0.2%の疎水性液体を調製した。
プラズマ処理したプラスチックレンズを疎水性液体に浸漬し、その後、疎水性液体上に親水性液体として純水を導入した。純水は、親水液相が約10mmとなるように導入した。これにより疎水液相(下相)と親水液相(上相)の2相からなる処理液を調製した。
そして、プラスチックレンズを疎水液相に浸漬させた状態で10分保持した後150mm/分にて引き上げ、処理液を塗布した。
その後、処理液が塗布されたプラスチックレンズを60℃に設定した恒温槽に投入し、2時間保持することでアニール処理を実施し、プラスチックレンズに防汚性の薄膜を形成した。
【0045】
[実施例2]
基材として、最外層がSiO層である反射防止層を有する光学ガラス(商品名「B270」SCHOTT日本株式会社製)を用いた以外は、実施例1と同様にした。
【0046】
[比較例1]
図6に示すように、処理槽12に親水性液体を導入せずに、防汚性分子を含んだ疎水性液体43Aのみでプラスチックレンズに防汚性の薄膜を形成した以外は、実施例1と同様にした。ここで、比較例1では、図6に示すように、疎水性液体43Aのみであるため、界面45Cには配列した防汚性分子44の数が比較的少ない状態となっている。
【0047】
[比較例2]
処理槽に親水性液体を導入せずに、防汚性分子を含んだ疎水性液体のみで光学ガラスに防汚性の薄膜を形成した以外は、実施例2と同様にした。
【0048】
次に、本発明の第2実施形態の薄膜形成方法に対応する実施例3と、比較例3とについて説明する。
[実施例3]
基材として、最外層がSiO層の反射防止層を有する光学ガラス(商品名「B270」SCHOTT日本株式会社製)を用意した。
この光学ガラスの表面を活性化するためにプラズマ処理を行った。プラズマ処理の条件としては、実施例1と同様とした。
防汚性分子としての含フッ素シラン化合物(商品名「KP−801M」信越化学工業株式会社製)を疎水性液体のヘキサンに希釈して0.2%の疎水性液体を調製した。この疎水性液体に純水を静かに導入し、疎水性液体の下相として親水液相を約100mmの高さとなるように形成し、これにより親水液相(下相)と疎水液相(上相)との2相からなる処理液を調製した。
次に、光学ガラスを親水液相(下相、純水相)に導入した。そして、光学ガラスが親水液相に浸漬された時点で、150mm/分にて引上げた。光学ガラス全体が疎水液相(上相、ヘキサン相)に移動した時点で引上げを停止し、1分間保持した。その後、150mm/分にて再度引上げ、処理液から光学ガラスを取り出した。
その後、60℃に設定した恒温槽に投入して、アニール処理を実施し、2時間保持することで防汚性の薄膜を形成した。
なお、光学ガラスの浸漬時間を1分としたのは、含フッ素シラン化合物の分子量が約500と小さいので、容易に吸着させることができるためである。
【0049】
[比較例3]
処理槽に親水性液体を導入せずに、防汚性分子を含んだ疎水性液体のみで光学ガラスに防汚性の薄膜を形成した以外は、実施例3と同様にした。
【0050】
次に、本発明の第3実施形態の薄膜形成方法に対応する実施例4と、比較例4とについて説明する。
[実施例4]
基材として、最外層がSiO層である反射防止層を有する樹脂製フィルムを用意した。そして、この樹脂製フィルムの表面を活性化するために適当な条件で大気プラズマ処理を行った。
防汚性分子としての含フッ素シラン化合物(商品名「AES−6」ダイキン工業株式会社製)を疎水性液体のハイドロフルオロエーテル(商品名「HFE−7200」住友3M株式会社製)に希釈して0.2%の疎水性液体を調製した。
プラズマ処理した樹脂製フィルムを疎水性液体に導入した。処理槽は、仕切板によって導入槽と引出槽の2つに区分けされており、引出槽上に親水性液体として純水を導入した。純水は、親水液相が約10mmとなるように導入した。これにより引出槽にのみ疎水液相(下相)と親水液相(上相)の2相からなる処理液を調製した。
その状態で、適当なスピードで樹脂製フィルムを巻き取ることにより、樹脂製フィルムに処理液を塗布した。
その後、加熱装置にて、60℃に加熱し、樹脂製フィルムに防汚性の薄膜を形成した。
【0051】
[比較例4]
処理槽に親水性液体を導入せずに、防汚性分子を含んだ疎水性液体のみで樹脂製フィルムに防汚性の薄膜を形成した以外は、実施例4と同様にした。
【0052】
次に、実施例1から実施例4まで、比較例1から比較例4までにおいて形成された薄膜について、拭き耐久性試験及び耐アルカリ性試験を行い、下記評価方法に基づき評価した。なお、実施例3および比較例3では、薄膜が撥水膜であり撥油性がないためインクはじき性とインク拭き取り性は評価しなかった。
【0053】
(拭き耐久性試験の試験方法)
木綿布を用い、基材の表面を200gの荷重をかけながら、5000回往復させた。拭き耐久性試験前後の防汚性能について、接触角と油性インクはじき性と油性インク拭き取り性によって評価した。その結果を表1に示す。
【0054】
(耐アルカリ性試験の試験方法)
0.05Nに調整した水酸化ナトリウム水溶液中に、基材の一部を切り取った試験片を3時間浸漬し、浸漬後の試験片を水でよく洗った。その試験片のアルカリ浸漬前後の防汚性能について、接触角と油性インクはじき性と油性インク拭き取り性によって評価した。その結果を表2に示す。
【0055】
(評価方法)
(評価1:接触角)
接触角の測定には、接触角計(「CA−D型」協和界面科学株式会社製)を使用し、液滴法による水接触角を測定した。
【0056】
(評価2:インクはじき性)
基材の表面に、黒色油性マーカー(「ハイマッキーケア」ゼブラ株式会社製)により約4cmの直線を描いた後5分間放置した。該マーク部のインクのはじき具合を下記の基準にて判定した。
(基準)
○;点状にはじく
△;部分的にはじく
×;はっきり線が引ける
【0057】
(評価3:インク拭き取り性)
基材の表面に、黒色油性マーカー(「ハイマッキーケア」ゼブラ株式会社製)により約4cmの直線を描いた後5分間放置した。放置後、該マーク部をワイプ紙(「ケイドライ」株式会社クレシア製)によって拭き取りを行い、その拭き取り易さを下記の基準にて判定した。
(基準)
○;10回以下の拭き取りで完全に除去
△;11回から20回までの拭き取りで完全に除去
×;20回の拭き取り後も除去されない部分が残る
【0058】
【表1】

【0059】
【表2】

【0060】
実施例1,2,4と比較例1,2,4とを比較すると、実施例1,2,4では、下相の疎水液相と上相の親水液相からなる2相の処理液を用いて、基材の表面に防汚性の薄膜を形成したため、試験前後を通じて拭き耐久性及び耐アルカリ性に優れたプラスチックレンズ、光学ガラス、樹脂製フィルムが得られることがわかった。
初期接触角を実施例1,2,4と比較例1,2,4でそれぞれ比較すると、実施例1,2,4の初期接触角が大きくなっている。このことより防汚性分子の配向性が向上していることがわかる。
また、実施例3では、下相の親水液相と上相の疎水液相からなる2相の処理液を用いたため、疎水性液体しか用いていない比較例3の場合と比較して、試験前後での拭き耐久性及び耐アルカリ性の低下度合が小さく、良好な機能性を有する光学レンズが得られることがわかった。
【符号の説明】
【0061】
11…基材としての光学レンズ、12,32…処理槽、13…処理液、13A,23A,33A…疎水液相、13B,23B,33B…親水液相、14,24…防汚性分子、14A…疎水性基、14B…親水性基、13C,23C,33C…界面、
31…基材としてのフィルム

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
疎水性液体からなる疎水液相と、親水性液体からなる親水液相との2相からなる処理液を調製する処理液調製工程と、
前記疎水液相と前記親水液相との界面に、親水性基および疎水性基を有する機能性分子を配列させる配列工程と、
前記疎水液相と前記親水液相との界面を前記基材に横切らせて、前記基材の表面に前記機能性分子を移し取って前記薄膜を形成する薄膜形成工程と、
を備えることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
請求項1に記載の薄膜形成方法において、
前記疎水性液体は、前記親水性液体よりも密度が高いことを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項3】
請求項2に記載の薄膜形成方法において、
前記基材を前記親水液相に触れないようにして前記疎水液相に浸漬させた後、前記疎水液相と前記親水液相との界面を前記基材に横切らせることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項4】
請求項3に記載の薄膜形成方法において、
前記処理液調製工程は、前記機能性分子を含有した疎水液相に前記基材を浸漬させた後、前記疎水液相上に前記親水液相を形成して前記処理液を調製することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項5】
請求項1に記載の薄膜形成方法において、
前記疎水性液体は、前記親水性液体よりも密度が低いことを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれかに記載の薄膜形成方法において、
前記疎水性基は、パーフルオロアルキル基を有することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項7】
請求項1から請求項6までのいずれかに記載の薄膜形成方法において、
前記機能性分子は、防汚性分子であることを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項8】
請求項1から請求項7までのいずれかに記載の薄膜形成方法により、基材の表面に薄膜を形成することを特徴とする機能性材料の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−147890(P2011−147890A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11761(P2010−11761)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000002369)セイコーエプソン株式会社 (51,324)
【Fターム(参考)】