説明

薄膜形成方法

【課題】安定したプラズマを高効率に発生させて成膜を行うことができる薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】内部を真空に維持する真空容器11と、真空容器に接続されアンテナ収容室80A内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、を備える薄膜形成装置を用いた薄膜形成方法である。薄膜形成方法は、前記真空容器の内部を真空状態にするとともに、前記アンテナ収容室の内部を真空容器より低く10−3Pa以下の真空状態に減圧する減圧工程と、前記アンテナ85aに高周波電圧を印加して前記真空容器の内部にプラズマを発生させて、前記真空容器内で形成された薄膜をプラズマ処理する工程と、を備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は光学薄膜や光学デバイス、オプトエレクトロニクス用デバイス、半導体デバイス等に用いる薄膜を製造するための薄膜形成方法に係り、特にプラズマ発生手段を備える薄膜形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から真空容器内でプラズマ化させた反応性ガスを用いて基板上への薄膜の形成、形成した薄膜の表面改質、エッチング等のプラズマ処理が行われている。例えば、スパッタ技術を用いて基板上に金属の不完全反応物からなる薄膜を形成し、この不完全反応物からなる薄膜にプラズマ化した反応性ガスを接触させ、金属化合物からなる薄膜を形成する技術が知られている(例えば、特許文献1)。
【0003】
この技術では、薄膜形成装置の真空容器内で反応性ガスをプラズマ化するためにプラズマ発生手段が用いられている。プラズマ発生手段でプラズマ化したガスには、イオン,電子,原子,分子や、活性種(ラジカル,励起状態のラジカル等)が含まれる。プラズマ化したガスに含まれる電子,イオンは薄膜へ損傷を与えるおそれがある一方で、電気的に中性な反応性ガスのラジカルは薄膜の形成に寄与する場合が多い。このため、この従来の技術では、電子,イオンが基板上の薄膜へ向かうのを阻止して、ラジカルを選択的に薄膜に接触させるためにグリッドが用いられていた。このように、グリッドを用いることで、薄膜の形成に寄与するラジカルのプラズマガス中における相対的な密度を向上させて、プラズマ処理の効率化が図られていた。
【0004】
ところで、プラズマを発生させるためのプラズマ発生手段としては、従来から平行平板型,ECR型,誘導結合型等の装置が知られている。誘導結合型の装置としては、円筒型と平板型の装置が知られている(例えば、特許文献2)。
図7は、平板型の従来のプラズマ発生手段380を説明する図である。図7の(A)で示す図は、薄膜形成装置の一部を示した断面図である。図7の(A)に示すように、平板型の従来のプラズマ発生手段380は、真空容器311の一部を石英等の誘電体からなる誘電体板383で構成し、誘電体板383の大気側に位置する外壁に沿ってアンテナ385を配置する。すなわち、アンテナ385は真空容器311の外側、言い換えれば、大気中に設けられている。図7の(B)に、アンテナ385の形状を示す。アンテナ385は、同一平面内で渦状となっている。平板型の従来のプラズマ発生装置380では、アンテナ385にマッチング回路を備えたマッチングボックス387を介して高周波電源389によって100kHz〜50MHzの周波数の電力を印加して真空容器111内にプラズマを発生させるものである。アンテナ385に対する高周波電力の印加は、図7のマッチングボックス387で示すような、インピーダンスマッチングを行うためのマッチング回路を介して行なわれる。図7に示すように、アンテナ385と高周波電源389の間に接続されるマッチング回路は、可変コンデンサ387a,387bとマッチング用コイル387cとを備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001―234338号公報(第2,10,11頁、図1、図2)
【特許文献2】特開平8−83696号公報(第4−6頁、図1、図8)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
平板型の従来のプラズマ発生手段380を薄膜形成装置に用いて成膜する場合、薄膜を形成する空間を形成する真空容器311内の成膜中の圧力は、概ね10〜10−2Paに保持される。大気がおよそ10Paであるため、成膜中に真空容器311の外側と内側で大きな圧力差が生じる。したがって、誘電体板383の強度を、この圧力差に十分に耐えられるように設計する必要があった。例えば、気泡やクラックの少ない高品質の石英ガラスを用いる必要があった。高品質の石英ガラスは高価であり、コストがかかった。また、誘電体板383として石英ガラスを用いた場合、上述の圧力差に耐えるために数十mmの厚さが要求されていた。このように、誘電体板383を厚くすると、真空容器311内で必要な密度のプラズマを発生するためにアンテナ385に対して大きな電力を供給する必要があり、また、誘電体板383の厚みの分だけアンテナ385と真空容器311の内部との距離が広がり、プラズマの発生が非効率になるという問題があった。さらに、アンテナ385が大気中にさらされているために酸化されやすく、メンテナンスの手間がかかったり、アンテナの寿命が短くなったりするという問題もあった。
【0007】
アンテナを大気中ではなく、真空容器内の薄膜を形成する空間に配置する方式のプラズマ発生手段を用いた薄膜形成装置も用いられているが、薄膜を形成する空間にアンテナが配置されているため、アンテナの材料が薄膜に混入するという不都合や、アンテナの表面が汚染されてプラズマが不安定化するという不都合があった。
【0008】
以上の問題点に鑑みて、本発明の目的は、安定したプラズマを高効率に発生させて成膜を行うことができる薄膜形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために請求項1に記載の薄膜形成方法は、内部を真空に維持する真空容器と、該真空容器に接続され前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、を備え、前記プラズマ発生手段は、誘電体で形成された誘電体壁と、該誘電体壁に隣接して設置されたアンテナと、該アンテナを収容するアンテナ収容室を前記誘電体壁とともに形成する蓋体と、前記アンテナ収容室を真空状態に排気するための減圧手段とを有して構成され、前記真空容器の内部と前記アンテナ収容室の内部とが前記誘電体壁によって仕切られて独立した空間を形成しているとともに、前記アンテナ収容室は、前記真空容器より低く10−3Pa以下の真空状態に維持されている薄膜形成装置を用いて薄膜を形成する薄膜形成方法であって、前記真空容器の内部を真空状態にするとともに、前記アンテナ収容室の内部を前記真空容器より低く10−3Pa以下の真空状態に減圧する減圧工程と、前記アンテナに高周波電圧を印加して前記真空容器の内部にプラズマを発生させて、前記真空容器内で形成された薄膜をプラズマ処理する工程と、により薄膜を形成することを特徴とする。
【0010】
このような方法により、アンテナの酸化を防止するとともに、収容室にプラズマが発生することを抑制できる。
【0011】
このとき、前記減圧工程において、前記アンテナ収容室と前記真空容器との圧力差を小さくすると好適である。このようにすると、真空容器の内部とアンテナ収容室を仕切る誘電体壁を比較的薄くすることができる。
【0012】
さらに、前記減圧工程は、真空容器の内部と、アンテナ収容室の内部を同時に排気し、真空容器の内部を10−2Pa〜10Paに減圧し、次に、アンテナ収容室を前記真空容器より10−3Pa以下にまで減圧すると好適である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の薄膜形成方法によれば、アンテナの酸化を防止するとともに、アンテナ収容室にプラズマが発生することを抑制できるため、安定したプラズマを効率的に発生させることが可能となる。
【0014】
また、アンテナ収容室を真空容器より減圧して、同時に真空容器の内部とアンテナ収容室の内部の圧力差が大きくならないようにしているので、アンテナの酸化を防止するとともに、アンテナ収容室にプラズマが発生することを抑制できるため、安定したプラズマを効率的に発生させることが可能である状態を保持し、真空容器の内部とアンテナ収容室の圧力差が少ない状態となるため、真空容器の内部とアンテナ収容室を仕切る誘電体壁を比較的薄くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に用いる薄膜形成装置について説明する一部断面をとった上面の説明図である。
【図2】本発明に用いる薄膜形成装置について説明する一部断面をとった側面の説明図である。
【図3】本発明のプラズマ発生手段を説明する要部説明図である。
【図4】本発明のプラズマ発生手段を説明する要部説明図である。
【図5】プラズマ発生手段の他の実施形態を説明する要部説明図である。
【図6】プラズマ発生手段の他の実施形態を説明する要部説明図である。
【図7】平板型の従来のプラズマ発生手段を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の一実施形態を図面に基づいて説明する。なお、以下に説明する部材,配置等は本発明を限定するものでなく、本発明の趣旨の範囲内で種々改変することができるものである。
【0017】
図1乃至図4は、スパッタ装置1について説明する説明図である。図1が理解の容易のために一部断面をとったスパッタ装置1の上面の説明図、図2が、図1の線A−B−Cに沿って一部断面をとった側面の説明図である。図3は、本発明のプラズマ発生手段を説明する要部説明図である。図4は、図3のD−D断面図である。スパッタ装置1は本発明の薄膜形成方法の一例である。
【0018】
本実施形態では、スパッタの一例であるマグネトロンスパッタを行うスパッタ装置1を用いているが、これに限定されるものでなく、マグネトロン放電を用いない2極スパッタ等、他の公知のスパッタを行うスパッタ装置を用いることもできる。
【0019】
本実施形態のスパッタ装置1によれば、目的の膜厚よりもかなり薄い薄膜をスパッタで作成し、プラズマ処理を行うことを繰り返すことで目的の膜厚の薄膜を基板上に形成できる。本実施形態では、スパッタとプラズマ処理によって平均0.01〜1.5nmの膜厚の薄膜を形成する工程を繰り返すことで、目的とする数nm〜数百nm程度の膜厚の薄膜を形成する。
【0020】
本実施形態のスパッタ装置1は、真空容器11と、薄膜を形成させる基板を真空容器11内で保持するための基板ホルダ13と、基板ホルダ13を駆動するためのモータ17と、仕切壁12,16と、マグネトロンスパッタ電極21a,21bと、中周波交流電源23と、プラズマを発生するためのプラズマ発生手段80と、を主要な構成要素としている。
【0021】
真空容器11は、公知のスパッタ装置で通常用いられるようなステンレス製で、略直方体形状を備える中空体である。真空容器11の形状は中空の円柱状であってもよい。
基板ホルダ13は、真空容器11内の略中央に配置されている。基板ホルダ13の形状は円筒状であり、その外周面に複数の基板(不図示)を保持する。なお、基板ホルダ13の形状は円筒状ではなく、中空の多角柱状や、円錐状であってもよい。基板ホルダ13は、真空容器11から電気的に絶縁されている。これにより、基板における異常放電を防止することが可能となる。基板ホルダ13は、円筒の筒方向の中心軸線Z(図2参照)が真空容器11の上下方向になるように真空容器11内に配設される。基板ホルダ13は、真空容器11内の真空状態を維持した状態で、真空容器11の上部に設けられたモータ17によって中心軸線Zを中心に回転駆動される。
【0022】
基板ホルダ13の外周面には、多数の基板(不図示)が、基板ホルダ13の中心軸線Zに沿った方向(上下方向)に所定間隔を保ちながら整列させた状態で保持される。本実施形態では、基板の薄膜を形成させる面(以下「膜形成面」という)が、基板ホルダ13の中心軸線Zと垂直な方向を向くように、基板が基板ホルダに保持されている。
【0023】
仕切壁12,16は、真空容器11の内壁面から基板ホルダ13へ向けて立設して設けられている。本実施形態における仕切壁12,16は、向かい合う1対の面が開口した筒状の略直方体をした、ステンレス製の部材である。仕切壁12,16は、真空容器11の側内壁と基板ホルダ13との間に、真空容器11の側壁から基板ホルダ13の方向へ立設した状態で固定される。このとき仕切壁12,16の開口した一方側が真空容器11の側内壁側に、他方側が基板ホルダ13に面する向きで、仕切壁12,16は固定される。また、仕切壁12,16の基板ホルダ13側に位置する端部は、基板ホルダの外周形状に沿った形状になっている。
【0024】
真空容器11の内壁面,仕切壁12,基板ホルダ13の外周面に囲繞されて、スパッタを行うための成膜プロセスゾーン20が形成されている。また、真空容器11の内壁面,後述のプラズマ発生手段80,仕切壁16,基板ホルダ13の外周面に囲繞されて、プラズマを発生させて基板上の薄膜に対してプラズマ処理を行うための反応プロセスゾーン60が形成されている。本実施形態では、真空容器11の仕切壁12が固定されている位置から、基板ホルダ13の中心軸線Zを中心にして約90度回転させた位置に仕切壁16が固定されている。このため、成膜プロセスゾーン20と反応プロセスゾーン60が、基板ホルダ13の中心軸線Zに対して約90度ずれた位置に形成される。したがって、モータ17によって基板ホルダ13が回転駆動されると、基板ホルダ13の外周面に保持された基板が、成膜プロセスゾーン20に面する位置と反応プロセスゾーン60に面する位置との間で搬送されることになる。真空容器11の成膜プロセスゾーン20と反応プロセスゾーン60との間の位置には、排気用の配管15aが接続され、この配管には真空容器11内を排気するための真空ポンプ15が接続されている。
【0025】
仕切壁16の反応プロセスゾーン60に面する壁面には、熱分解窒化硼素(Pyrolytic Boron Nitride)からなる保護層Pが被覆されている。さらに、真空容器11の内壁面の反応プロセスゾーン60に面する部分にも熱分解窒化硼素からなる保護層Pが被覆されている。熱分解窒化硼素は、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition)を利用した熱分解法によって仕切壁16や真空容器11の内壁面へ被覆される。
【0026】
成膜プロセスゾーン20には、マスフローコントローラ25,26が配管を介して連結されている。マスフローコントローラ25は、不活性ガスを貯留するスパッタガスボンベ27に接続されている。マスフローコントローラ26は、反応性ガスを貯留する反応性ガスボンベ28に接続されている。不活性ガスと反応性ガスは、マスフローコントローラ25,26で制御されて成膜プロセスゾーン20に導入される。不活性ガスとしては、例えばアルゴンガス等である。反応性ガスとしては、例えば酸素ガス,窒素ガス,弗素ガス,オゾンガス等を用いることができる。
【0027】
成膜プロセスゾーン20には、基板ホルダ13の外周面に対向するように、真空容器11の壁面にマグネトロンスパッタ電極21a,21bが配置されている。このマグネトロンスパッタ電極21a,21bは、不図示の絶縁部材を介して接地電位にある真空容器11に固定されている。マグネトロンスパッタ電極21a,21bは、トランス24を介して、中周波交流電源23に接続され、交番電界が印加可能に構成されている。本実施形態の中周波交流電源23は、1k〜100kHzの交番電界を印加するものである。マグネトロンスパッタ電極21a,21bには、ターゲット29a,29bが保持される。ターゲット29a,29bの形状は平板状であり、ターゲット29a,29bの基板ホルダ13の外周面と対向する面が、基板ホルダ13の中心軸線Zと垂直な方向を向くように保持される。
【0028】
なお、スパッタを行う成膜プロセスゾーンを一箇所だけではなく、複数箇所設けることもできる。すなわち、図1の破線で示すように、真空容器11に成膜プロセスゾーン20と同様の成膜プロセスゾーン40を設けることもできる。例えば、真空容器11に仕切壁14を設けて、成膜プロセスゾーン20に対して基板ホルダ13を挟んで対象の位置に、成膜プロセスゾーン40を形成することができる。成膜プロセスゾーン40には、成膜プロセスゾーン20と同様に、マグネトロンスパッタ電極41a,41bが配置されている。マグネトロンスパッタ電極41a,41bは、トランス44を介して、中周波交流電源43に接続され、交番電界が印加可能に構成されている。マグネトロンスパッタ電極41a,41bには、ターゲット49a,49bが保持される。成膜プロセスゾーン40には、マスフローコントローラ45,46が配管を介して連結されている。マスフローコントローラ45は不活性ガスを貯留するスパッタガスボンベ47に、マスフローコントローラ46は反応性ガスを貯留する反応性ガスボンベ48に接続されている。真空容器11の成膜プロセスゾーン40と反応プロセスゾーン60との間の位置には、排気用の配管が接続され、この配管には真空容器11内を排気するための真空ポンプ15’が接続される。真空ポンプ15’を真空ポンプ15と共通に使用してもよい。
【0029】
真空容器11の反応プロセスゾーン60に対応する壁面には、プラズマ発生手段80を設置するための開口11aが形成されている。また、反応プロセスゾーン60には、マスフローコントローラ75を介して不活性ガスボンベ77内の不活性ガスを導入するための配管や、マスフローコントローラ76を介して反応性ガスボンベ78内の反応性ガスを導入するための配管が接続されている。
【0030】
図1乃至図4を用いて、本実施形態のプラズマ発生手段80を説明する。
プラズマ発生手段80は、反応プロセスゾーン60に面して設けられている。本実施形態のプラズマ発生手段80は、本発明の蓋体としてのケース体81と、本発明の誘電体壁としての誘電体板83と、固定枠84と、アンテナ85a,85bと、固定具88と、減圧手段としての配管15a,真空ポンプ15を有して構成されている。
【0031】
ケース体81は、真空容器11の壁面に形成された開口11aを塞ぐ形状を備え、ボルト(不図示)で真空容器11の開口11aを塞ぐように固定されている。ケース体81が真空容器11の壁面に固定されることで、プラズマ発生手段80は真空容器11に接続されている。本実施形態において、ケース体81はステンレスで形成されている。誘電体板83は、板状の誘電体で形成されている。本実施形態において、誘電体板83は石英で形成されている。なお、誘電体板83は石英ではなくAl等のセラミックス材料で形成されたものでもよい。固定枠84は、ケース体81に誘電体板83を固定するために用いられるもので、ロの字形状を備えた枠体である。固定枠84とケース体81がボルト(不図示)で連結されることで、固定枠84とケース体81の間に誘電体板83が挟持され、これにより誘電体板83がケース体81に固定されている。誘電体板83がケース体81に固定されることで、ケース体81と誘電体板83によってアンテナ収容室80Aが形成されている。すなわち、本実施形態では、ケース体81と誘電体板83に囲まれてアンテナ収容室80Aが形成されている。
【0032】
ケース体81に固定された誘電体板83は、開口11aを介して真空容器11の内部(反応プロセスゾーン60)に臨んで設けられている。このとき、アンテナ収容室80Aは、真空容器11の内部と分離している。すなわち、アンテナ収容室80Aと真空容器11の内部とは、誘電体板83で仕切られた状態で独立した空間を形成している。また、アンテナ収容室80Aと真空容器11の外部は、ケース体81で仕切られた状態で独立の空間を形成している。本実施形態では、このように独立の空間として形成されたアンテナ収容室80Aの中に、アンテナ85a,85bが設置されている。なお、アンテナ収容室80Aと真空容器11内部の反応プロセスゾーン60、アンテナ収容室80Aと真空容器11外部との間は、Oリングで気密が保たれている。
【0033】
本実施形態では、アンテナ収容室80Aの内部を排気して真空状態にするために、アンテナ収容室80Aに排気用の配管15aが接続されている。配管15aには、真空ポンプ15が接続されている。本実施形態において、配管15aは真空容器11の内部へも連通している。配管15aには、真空ポンプ15から真空容器11の内部に連通する位置にバルブV1、V2が設けられている。また、配管15aには、真空ポンプ15からアンテナ収容室80Aの内部に連通する位置にバルブV1、V3が設けられている。バルブV2,V3のいずれかを閉じることで、アンテナ収容室80Aの内部と真空容器11の内部との間での気体の移動は阻止される。真空容器11の内部の圧力や、アンテナ収容室80Aの内部の圧力は、真空計(不図示)で測定される。
【0034】
本実施形態では、スパッタ装置1に制御装置(不図示)を備えている。この制御装置には、真空計の出力が入力される。制御装置は、入力された真空計の測定値に基づいて、真空ポンプ15による排気を制御して、真空容器11の内部やアンテナ収容室80Aの内部の真空度を調整する機能を備える。本実施形態では、制御装置がバルブV1,V2,V3の開閉を制御することで、真空容器11の内部とアンテナ収容室80Aの内部を同時に、又は独立して排気できる。
【0035】
アンテナ85aとアンテナ85bは、高周波電源89から電力の供給を受けて、真空容器11の内部(反応プロセスゾーン60)に誘導電界を発生させ、プラズマを発生させるためのものである。本実施形態のアンテナ85a,85bは、銅で形成された円管状の本体部と、本体部の表面を被覆する銀で形成された被覆層を備えている。アンテナ85aのインピーダンスを低下するためには、電気抵抗の低い材料でアンテナ85a,85bを形成するのが好ましい。そこで、高周波の電流がアンテナの表面に集中するという特性を利用して、アンテナ85a,85bの本体部を安価で加工が容易な、しかも電気抵抗も低い銅で円管状に形成し、アンテナ85a,85bの表面を銅よりも電気抵抗の低い銀で被覆している。このように構成することで、高周波に対するアンテナ85a,85bのインピーダンスを低減して、アンテナ85aに電流を効率よく流して、プラズマを発生させる効率を高めている。
【0036】
アンテナ85a及びアンテナ85bは、平面上で渦を成した形状を備える。アンテナ85aとアンテナ85bとは、ケース体81と誘電体板83との間に形成されたアンテナ収容室80Aの中に、渦を成す面が反応プロセスゾーン60を向いた状態で誘電体板83に隣接して設置される。言い換えれば、アンテナ85a及びアンテナ85bは、アンテナ85a及びアンテナ85bの渦を成す面が板状の誘電体板83の壁面に対向した状態で、アンテナ85a及びアンテナ85bの渦の中心軸線と垂直な方向で上下に隣り合って設置されている。したがって、モータ17を作動させて、基板ホルダ13を中心軸線Z周りに回転させると、基板ホルダの外周に保持された基板は、基板の膜形成面がアンテナ85a,85bの渦を成す面と対向するように、上下に並んだアンテナ85a,85bに対して横方向に搬送される。
【0037】
アンテナ85aとアンテナ85bは、高周波電源89に対して並列に接続されている。アンテナ85a,85bは、マッチング回路を収容するマッチングボックス87を介して高周波電源89に接続されている。マッチングボックス87内には、図4に示すように、可変コンデンサ87a,87bが設けられている。本実施形態では、アンテナ85aに対してアンテナ85bが並列に接続されているため、従来のマッチング回路(図7参照)でマッチング用コイル387cが果たす役目の全部又は一部を、アンテナ85bが果たす。したがって、マッチングボックス内での電力損失を軽減し、高周波電源89から供給される電力をアンテナ85a,85bでプラズマの発生に有効に活用することができる。また、インピーダンスマッチングもとりやすくなる。
【0038】
渦状のアンテナ85a,85bは、導線部86a,86bを介してマッチングボックス87に接続されている。導線部86a,86bは、アンテナ85a,85bと同様の素材からなる。ケース体81には、導線部86a,86bを挿通するための挿通孔81aが形成されている。アンテナ収容室80A内側のアンテナ85a,85bと、アンテナ収容室80A外側のマッチングボックス87,高周波電源89とは、挿通孔81aに挿通される導線部86aを介して接続される。導線部86a,86bと挿通孔81aとの間にはシール部材81bが設けられ、アンテナ収容室80Aの内外で気密が保たれる。
【0039】
本実施形態では、導線部86a,86bの長さに余裕をもたせて、アンテナ85aとアンテナ85bとの間隔Dを調整できるようになっている。本実施形態のスパッタ装置1では、アンテナ85a,85bを固定具88によって固定する際に、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dを調整することができる。
【0040】
固定具88は、アンテナ85a,85bをアンテナ収容室80Aに設置するためのものである。本実施形態の固定具88は、固定板88a,88bと、固定ボルト88c,88dで構成される。固定板88a,88bには、アンテナ85a,85bが嵌合されている。アンテナ85a,85bが嵌合された固定板88a,88bは、固定ボルト88c,88dでケース体81に取り付けられている。ケース体81には上下方向に複数のボルト穴が形成され、固定板88a,88bは、いずれかのボルト穴を用いてケース体81に取り付けられている。すなわち、使用されるボルト穴の位置によって、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dが調整されている。なお、アンテナ85a,85bと固定板88a,88bとを絶縁するために、少なくとも、アンテナ85a,85bと固定板88a,88bとの接触面が絶縁材で形成されている。
【0041】
以上の構成を備えるプラズマ発生手段80が、真空容器11に組み付けられる手順を説明する。
まず、固定具88を用いてアンテナ85a,85bをケース体81に固定する。このとき、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dや、アンテナ85aの径Raや、アンテナ85bの径Rbに合わせた固定具88を用いる。続いて、固定枠84を用いて、ケース体81に誘電体板83を固定する。これにより、アンテナ85a,85bは、誘電体板83と固定板88a,88bとの間に挟持された状態となる。また、ケース体81、誘電体板83、アンテナ85a,85b、固定具88が一体的になる。続いて、真空容器11の開口11aを塞ぐように、ケース体81を真空容器11に対してボルト(不図示)で固定する。以上によって、プラズマ発生手段80が、真空容器11に組み付けられ、アンテナ収容室80Aと、反応プロセスゾーン60(真空容器11の内部)と、真空容器11の外側が、それぞれ独立の空間として形成され、アンテナ85a,85bがアンテナ収容室80Aに設置される。
【0042】
本実施形態では、ケース体81、誘電体板83、アンテナ85a,85b、固定具88を一体的にした状態で、ケース体81と真空容器11をボルトで固定することでプラズマ発生手段80を真空容器11と接続できるため、プラズマ発生手段80を真空容器11に着脱するのが容易である。
【0043】
次に、本実施形態のスパッタ装置1を用いて、反応プロセスゾーン60にプラズマを発生させる手順を説明する。
まず、真空ポンプ15を作動させて、真空容器11の内部と、アンテナ収容室80Aを減圧する。このとき、制御装置は配管15aに設けられたバルブV1,V2,V3を総て開放し、真空容器11の内部と、アンテナ収容室80Aの内部を同時に排気して、真空容器11の内部及びアンテナ収容室80Aの内部を真空状態にする。制御装置は、真空計の測定値を監視して、真空容器11の内部とアンテナ収容室80Aの内部の圧力差が大きくならないように(例えば、10Pa以上の圧力差が生じないように)、バルブV1,V2,V3の開閉を適宜制御する。その後、制御装置は、真空容器11の内部が10−2Pa〜10Paになったところで一旦バルブV2を閉じる。アンテナ収容室80Aは、さらに10−3Pa以下にまで減圧される。つづいて、アンテナ収容室80A内部が10−3Pa以下になったところでバルブV3を閉じる。続いて、真空容器11の内部が10−2Pa〜10Paを保持した状態で、反応性ガスボンベ78内の反応性ガスを、マスフローコントローラ76を介して反応プロセスゾーン60へ導入する。
【0044】
真空容器11の内部とアンテナ収容室80Aの内部を上記所定の圧力に保持した状態で、高周波電源89からアンテナ85a,85bに13.56MHzの電圧を印加して、反応プロセスゾーン60に反応性ガスのプラズマを発生させる。このとき、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dや、アンテナ85aの径Raや、アンテナ85bの径Rb等に応じた分布のプラズマが発生する。反応プロセスゾーン60に発生させて反応性ガスのプラズマによって、基板ホルダ13に配置された基板に対してプラズマ処理を行う。
【0045】
以上のように、本実施形態では、薄膜を形成または処理する空間を形成する真空容器11の内部をプラズマが発生する圧力に保持して、真空容器11の内部とは独立した空間を形成するアンテナ収容室80Aの内部を真空容器11の内部よりも低いプラズマが発生しにくい圧力に保持して、真空容器11内にプラズマを発生させている。このため、アンテナ収容室80Aにプラズマが発生することを抑制して、真空容器11の内部に効率的にプラズマを発生させることができる。
【0046】
さらに、本実施形態では、アンテナ収容室80Aと真空容器11の内部とは、誘電体板83で仕切られた状態で独立した空間とされ、アンテナ収容室80Aの内部にアンテナ85a,85bを設け、アンテナ収容室80Aを減圧した状態で真空容器11の内部にプラズマを発生させる構成となっている。このため、大気中にアンテナ85a,85bを設置した状態でプラズマを発生させる従来の場合(図7参照)に比べて、アンテナ85a,85bの酸化を抑制することができる。したがって、アンテナ85a,85bの長寿命化を図ることができる。また、アンテナ85a,85bが酸化することにより、プラズマが不安定化することを抑制することができる。
【0047】
また、本実施形態では、真空容器11の内部及びアンテナ収容室80Aの内部の圧力を監視して、真空容器11の内部と、アンテナ収容室80Aの内部で大きな圧力差が生じないように減圧を行い、真空容器11の内部を10−2Pa〜10Pa程度の真空に保持し、アンテナ収容室80Aを10−3Pa以下に保持して、真空容器11の内部にプラズマを発生させる構成にしている。そして、アンテナ収容室80Aと真空容器11の内部が誘電体板83で仕切られ、アンテナ収容室80Aと真空容器11外部がケース体81で仕切られている。このため、大気中にアンテナ185を設置して、真空容器111の内部と真空容器の外部とを誘電体板183で仕切る従来の場合(図7参照)に比べて、本実施形態では、アンテナ収容室80Aと真空容器11の内部の圧力差を小さく保つことができるため、誘電体板83の厚みを従来に比べて薄く設計することができ、効率的にプラズマを発生させることが可能となるとともに、安価な誘電体板83を使用して低コスト化を図ることができる。
【0048】
また、本実施形態によれば、アンテナ85aとアンテナ85bの上下方向の間隔Dを調整することで、基板ホルダ13に配置される基板に対するプラズマの分布を調整することができる。また、アンテナ85aの径Raや、アンテナ85bの径Rb、又はアンテナ85a,85bの太さ等を独立に変更することができるため、アンテナ85aの径Raや、アンテナ85bの径Rb又は太さ等を調整することでも、プラズマの分布を調整することができる。また、本実施形態では、図4に示すように、アンテナ85aやアンテナ85bが大小の半円から構成される全体形状を備えているが、アンテナ85aやアンテナ85bの全体形状を、矩形などの形状に変更して、プラズマの分布を調整することも可能である。
【0049】
特に、横方向に搬送される基板の搬送方向と交差する上下方向にアンテナ85aとアンテナ85bを並べて、アンテナ85a,85b両者の間隔も調整することができるため、基板の搬送方向に交差する方向で広範囲にプラズマ処理を行う必要がある場合に、プラズマの密度分布を容易に調整することができる。例えば、本実施形態のようなカルーセル型のスパッタ装置1を用いてプラズマ処理を行う場合には、基板ホルダ13での基板の配置,スパッタ条件等により、基板ホルダの上方に位置する薄膜と、中間に位置する薄膜の膜厚に違いが生じている場合がある。このような場合でも、本実施形態のプラズマ発生手段80を用いれば、膜厚の違いに対応してプラズマの密度分布を適宜調整することができるという利点がある。
【0050】
また、本実施形態では、上述のように、仕切壁16の反応プロセスゾーン60に面する壁面や、真空容器11の内壁面の反応プロセスゾーン60に面する部分に熱分解窒化硼素が被覆することで、反応プロセスゾーン60のラジカルの密度を高く維持して、より多くのラジカルを基板上の薄膜と接触させてプラズマ処理の効率化を図っている。すなわち、仕切壁16や真空容器11の内壁面に化学的に安定な熱分解窒化硼素を被覆することで、プラズマ発生手段80によって反応プロセスゾーン60に発生したラジカル又は励起状態のラジカルが仕切壁16や真空容器11の内壁面と反応して消滅することを抑制している。また、仕切壁16で反応プロセスゾーン60に発生するラジカルが基板ホルダの方向へ向くようにコントロールできる。
【0051】
以下に、上述のスパッタ装置1を用いたプラズマ処理の方法として、基板上にスパッタで形成した不完全酸化ケイ素(SiOx(x<2))の薄膜に対してプラズマ処理を行い、その不完全酸化ケイ素よりも酸化が進んだ酸化ケイ素(SiOx(x<x≦2))の薄膜を形成する方法について例示する。なお、不完全酸化ケイ素とは、酸化ケイ素SiOの構成元素である酸素が欠乏した不完全な酸化ケイ素SiOx(x<2)のことである。
【0052】
まず、基板及びターゲット29a,29bをスパッタ装置1に配置する。基板は基板ホルダ13に保持させる。ターゲット29a,29bは、それぞれマグネトロンスパッタ電極21a,21bに保持させる。ターゲット29a,29bの材料としてケイ素(Si)を用いる。次に、真空容器11の内部,アンテナ収容室80Aの内部を上述の所定の圧力に減圧し、モータ17を作動させて、基板ホルダ13を回転させる。その後、真空容器11の内部,アンテナ収容室80Aの内部の圧力が安定した後に、成膜プロセスゾーン20の圧力を、0.1Pa〜1.3Paに調整する。
【0053】
次に、成膜プロセスゾーン20内に、スパッタ用の不活性ガスであるアルゴンガスと、反応性ガスである酸素ガスを、スパッタガスボンベ27、反応性ガスボンベ28からマスフローコントローラ25,26で流量を調整しながら導き、成膜プロセスゾーン20のスパッタを行うための雰囲気を調整する。次に、中周波交流電源23からトランス24を介して、マグネトロンスパッタ電極21a,21bに周波数1〜100KHzの交流電圧を印加し、ターゲット29a,29bに、交番電界が掛かるようにする。これにより、ある時点においてはターゲット29aがカソード(マイナス極)となり、その時ターゲット29bは必ずアノード(プラス極)となる。次の時点において交流の向きが変化すると、今度はターゲット29bがカソード(マイナス極)となり、ターゲット29aがアノード(プラス極)となる。このように一対のターゲット29a,29bが、交互にアノードとカソードとなることにより、プラズマが形成され、カソード上のターゲットに対してスパッタを行う。
【0054】
スパッタを行っている最中には、アノード上には非導電性あるいは導電性の低い酸化ケイ素(SiOx(x≦2))が付着する場合もあるが、このアノードが交番電界によりカソードに変換された時に、これら酸化ケイ素(SiOx(x≦2))がスパッタされ、ターゲット表面は元の清浄な状態となる。そして、一対のターゲット29a,29bが、交互にアノードとカソードとなることを繰り返すことにより、常に安定なアノード電位状態が得られ、プラズマ電位(通常アノード電位とほぼ等しい)の変化が防止され、基板の膜形成面に安定してケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx(x<2))からなる薄膜が形成される。なお、成膜プロセスゾーン20で形成する薄膜の組成は、成膜プロセスゾーン20に導入する酸素ガスの流量を調整することや、基板ホルダ13の回転速度を制御することで、ケイ素(Si)にしたり、酸化ケイ素(SiO)にしたり、或いは不完全酸化ケイ素(SiOx(x<2))にしたりできる。
【0055】
成膜プロセスゾーン20で、基板の膜形成面にケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx(x<2))からなる薄膜を形成させた後には、基板ホルダ13の回転駆動によって基板を、成膜プロセスゾーン20に面する位置から反応プロセスゾーン60に面する位置に搬送する。反応プロセスゾーン60には、反応性ガスボンベ78から反応性ガスとして酸素ガスを導入するとともに、不活性ガスボンベ77から不活性ガスとしてアルゴンガスを導入する。次に、アンテナ85a,85bに、13.56MHzの高周波電圧を印加して、プラズマ発生手段80によって反応プロセスゾーン60にプラズマを発生させる。反応プロセスゾーン60の圧力は、0.7Pa〜1Paに維持する。また、少なくとも反応プロセスゾーン60にプラズマを発生させている際中は、アンテナ収容室80Aの内部の圧力は、10−3Pa以下を保持する。
【0056】
次に、基板ホルダ13が回転して、ケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx(x<2))からなる薄膜が形成された基板が反応プロセスゾーン60に面する位置に搬送されてくると、反応プロセスゾーン60では、ケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx(x<2))からなる薄膜をプラズマ処理によって酸化反応させる工程を行う。すなわち、プラズマ発生手段80によって反応プロセスゾーン60に発生させた酸素ガスのプラズマでケイ素或いは不完全酸化ケイ素(SiOx(x<2))を酸化反応させて、所望の組成の不完全酸化ケイ素(SiOx2(x<x2<2))或いは酸化ケイ素(SiO)に変換させる。
【0057】
以上の工程によって、上記例では、所望の組成の酸化ケイ素(SiOx(x≦2))薄膜を作成することができる。さらに、以上の工程を繰り返すことで、薄膜を積層させて所望の膜厚の薄膜を作成することができる。
【0058】
以上は、所望の組成の酸化ケイ素(SiOx(x≦2))薄膜を作成する場合を説明したが、スパッタを行う成膜プロセスゾーンを一箇所だけではなく複数箇所設けてスパッタを行うことで、異なる組成の薄膜を繰り返し積層させた薄膜を形成することもできる。例えば、上述のように、スパッタ装置1に成膜プロセスゾーン40を設けて、ターゲット49a,49bとしてニオブ(Nb)を用いる。そして、酸化ケイ素薄膜を作成した場合と同様の方法で、酸化ケイ素薄膜の上に所望の組成の酸化ニオブ(NbOy(y<2.5))薄膜を作成する。そして、成膜プロセスゾーン20でのスパッタ,反応プロセスゾーン60でのプラズマ処理による酸化,成膜プロセスゾーン40でのスパッタ,反応プロセスゾーン60でのプラズマ処理による酸化という工程を繰り返すことで、所望の組成の酸化ケイ素(SiOx(x≦2))薄膜と酸化ニオブ(NbOy(y≦2.5))薄膜を繰り返し積層させた薄膜を形成することができる。
【0059】
以上に説明した実施の形態は、例えば、次の(a)〜(l)のように、改変することもできる。また、(a)〜(l)を適宜組合せて改変することもできる。なお、以下の説明では、上記の実施形態と同一の部材は同一の符号を用いて説明している。
(a) 上記の実施形態では、薄膜形成装置の一例として、スパッタ装置について説明したが、プラズマ発生手段は、他のタイプの薄膜形成装置にも適用できる。薄膜形成装置としては、例えば、プラズマを用いたエッチングを行うエッチング装置、プラズマを用いたCVDを行うCVD装置等でもよい。また、プラスチックの表面処理をプラズマを用いて行う表面処理装置に用いても適用できる。
(b) 上記の実施形態では、所謂カルーセル型のスパッタ装置を用いているが、これに限定されるものではない。本発明は、基板がプラズマを発生させる領域に面して搬送される他のスパッタ装置を用いても適用できる。
【0060】
(c) 上記の実施形態では、固定枠84を用いて、ケース体81に誘電体板83を固定して、ケース体81、誘電体板83、アンテナ85a,85b、固定具88を一体的にした状態で、ケース体81と真空容器11をボルトで固定することでプラズマ発生手段を真空容器11と接続した。しかし、誘電体板83の固定の方法、プラズマ発生手段の接続の方法はこれに限定されるものではない。例えば、図5に示すように、改変することもできる。図5は、プラズマ発生手段の他の実施形態を説明する要部説明図である。図5に示した実施形態では、真空容器111と固定枠184をボルト(不図示)で連結することで、真空容器111と固定枠184との間に、誘電体壁としての誘電体板183を挟持させて、誘電体板183を真空容器111に固定している。そして、真空容器111に固定された誘電体板183を覆うように、蓋体としてのケース体181が真空容器111にボルトで固定され、プラズマ発生手段180が真空容器111に固定されている。
【0061】
そして、ケース体181と誘電体板183で囲まれてアンテナ収容室180Aが形成されている。アンテナ収容室180Aの内部を減圧できるように、アンテナ収容室180Aに配管15aが接続され、配管15aの先に真空ポンプ15が接続されている。なお、上記の実施形態においてアンテナ85a,85bが固定具88を用いてケース体81に固定されていたのと同様に、アンテナ85a,85bは、固定具188を用いてケース体181に固定されている。ケース体181を真空容器111から取り外せば、アンテナ85a,85bの着脱や、アンテナ85a,85bの形状の変更等を容易に行うことができる。
【0062】
(d) 上記の実施形態では、プラズマ発生手段として、図1乃至図4に示すような、板状の誘電体板83に対して同一平面状で渦をなすアンテナ85a,85bを固定した誘導結合型(平板型)のプラズマ発生手段を用いているが、他のタイプのプラズマ発生手段を備えた薄膜形成装置にも適用される。すなわち、誘電体で形成された円筒形の誘電体壁の周囲に渦状に巻回させたアンテナに高周波の電力を印加して、円筒形の誘電体壁に囲まれた領域に誘導電界を発生させてプラズマを発生させる誘導結合型(円筒型)のプラズマ発生手段に対しても本発明を適用できる。
【0063】
図6は誘導結合型(円筒型)のプラズマ発生手段を説明する要部説明図である。図6に示した実施形態では、誘電体壁として誘電体板283を備える。誘電体板283は円筒形状を備えている。真空容器211と固定枠284をボルト(不図示)で連結することで、真空容器211と固定枠284との間に、本発明の誘電体壁としての誘電体板283を挟持させて、誘電体板283を真空容器211に固定している。そして、真空容器211に固定された誘電体板283を覆うように、蓋体としてのケース体281が真空容器211にボルトで固定され、プラズマ発生手段280が真空容器211に固定されている。
【0064】
そして、ケース体281と誘電体板283で囲まれてアンテナ収容室280Aが形成されている。アンテナ収容室280Aの内部を減圧できるように、アンテナ収容室280Aに配管15aが接続され、配管15aの先に真空ポンプ15が接続されている。アンテナ285は、円筒状の誘電体板の外周に巻回されている。上記の実施形態においてアンテナ85a,85bが固定具88を用いてケース体81に固定されていたのと同様に、アンテナ285は、固定具288を用いてケース体281に固定されている。ケース体281を真空容器211から取り外せば、アンテナ285の着脱や、アンテナ285の形状の変更等を容易に行うことができる。
【0065】
なお、図6に示した実施形態において、ケース体281と固定枠84の間に誘電体板283を挟持させることで、ケース体281に誘電体板283を固定して、ケース体281、誘電体板283、アンテナ285、固定具288を一体的にした構成とすることもできる。このように構成すれば、ケース体281と真空容器211をボルトで固定することでプラズマ発生手段280を真空容器211と接続できるため、プラズマ発生手段280を真空容器211に着脱するのが容易となる。
【0066】
(e) 上記の実施形態では、配管15aが真空容器11の内部と、アンテナ収容室80Aの内部と、両方に接続され、配管15aに接続された真空ポンプ15で、真空容器11の内部およびアンテナ収容室80Aの排気を行っていた。しかし、真空容器11の内部、アンテナ収容室80Aの内部それぞれに独立の配管を接続して、各配管に接続した独立の真空ポンプで、真空容器11の内部およびアンテナ収容室80Aの内部を排気するようにしてもよい。
(f) 上記の実施形態では、固定板88a,88bに誘電体板83を嵌合し、固定ボルト88c,88dで固定板88a,88bをケース体81に固定することで、アンテナ85a,85bをアンテナ収容室80Aに設置したが、要は、間隔Dを調整してアンテナ85a,85bを固定できれば他の方法でもよい。
【0067】
(g) 上記の実施形態では、仕切壁16の反応プロセスゾーン60に面する壁面や、真空容器11の内壁面の反応プロセスゾーン60に面に熱分解窒化硼素からなる保護層Pを形成したが、他の部分にも熱分解窒化硼素からなる保護層Pを形成してもよい。例えば、仕切壁16の反応プロセスゾーン60に面する壁面だけではなく、仕切壁16の他の部分にも熱分解窒化硼素を被覆してもよい。これにより、ラジカルが仕切壁16と反応して、ラジカルが減少するのを最大限回避することができる。また、例えば、真空容器11の内壁面の反応プロセスゾーン60に面する部分だけではなく、真空容器11の内壁面における他の部分、例えば内壁面の全体に熱分解窒化硼素を被覆してもよい。これにより、ラジカルが真空容器11の内壁面と反応して、ラジカルが減少するのを最大限回避することができる。仕切壁12に熱分解窒化硼素を被覆してもよい。
【0068】
(h) 上記の実施形態では、熱分解窒化硼素を仕切壁16の反応プロセスゾーン60に面する壁面や、真空容器11の内壁面に被覆した場合を説明したが、酸化アルミニウム(Al)や、酸化ケイ素(SiO)や、窒化ホウ素(BN)を被覆することでも、プラズマ発生手段で発生させたプラズマ中のラジカル又は励起状態のラジカルが、真空容器の内壁面やプラズマ収束壁の壁面と反応して消滅することを抑制することができる。
(i) 上記の実施形態では、アンテナ85aの円管状の本体部を銅で、被覆層を銀で形成したが、本体部を安価で加工が容易な、しかも電気抵抗も低い材料で形成し、電流が集中する被覆層を本体部よりも電気抵抗の低い材料で形成すればよいため、他の材料の組合せでもよい。例えば、本体部をアルミニウム又はアルミニウム−銅合金で形成したり、被覆層を銅,金で形成したりしてもよい。アンテナ85bの本体部,被覆層も同様に改変できる。また、アンテナ85aと、アンテナ85bを、異なる材料で形成してもよい。
【0069】
(j) 上記の実施形態では、反応プロセスゾーン60に反応性ガスとして酸素を導入しているが、その他に、オゾン,一酸化二窒素(NO)等の酸化性ガス、窒素等の窒化性ガス、メタン等の炭化性ガス、弗素,四弗化炭素(CF)等の弗化性ガスなどを導入することで、本発明を酸化処理以外のプラズマ処理にも適用することができる。
(k) 上記の実施形態では、ターゲット29a,29bの材料としてケイ素を、ターゲット49a,49bの材料としてニオブを用いているが、これに限定されるものでなく、これらの酸化物を用いることもできる。また、アルミニウム(Al),チタン(Ti),ジルコニウム(Zr),スズ(Sn),クロム(Cr),タンタル(Ta),テルル(Te),鉄(Fe),マグネシウム(Mg),ハフニウム(Hf),ニッケル・クロム(Ni−Cr),インジウム・スズ(In−Sn)などの金属を用いることができる。また、これらの金属の化合物,例えば、Al,TiO,ZrO,Ta,HfO等を用いることもできる。勿論、ターゲット29a,29b,49a,49bの材料を総て同じにしてもよい。これらのターゲットを用いた場合、反応プロセスゾーン60におけるプラズマ処理により、Al,TiO,ZrO,Ta,SiO,Nb,HfO,MgF等の光学膜ないし絶縁膜、ITO等の導電膜、Feなどの磁性膜、TiN,CrN,TiCなどの超硬膜を作成できる。TiO,ZrO,SiO,Nb,Taのような絶縁性の金属化合物は、金属(Ti,Zr,Si)に比べスパッタ速度が極端に遅く生産性が悪いので、特に本発明の薄膜形成方法を用いてプラズマ処理すると有効である。
【0070】
(l) 上記の実施形態では、ターゲット29aとターゲット29b、ターゲット49aとターゲット49bは同一の材料で構成されているが、異種の材料で構成してもよい。同一の金属ターゲットを用いた場合は、上述のように、スパッタを行うことによって単一金属の不完全反応物が基板に形成され、異種の金属ターゲットを用いた場合は合金の不完全反応物が基板に形成される。
【符号の説明】
【0071】
1・・・スパッタ装置、11,111,211・・・真空容器、11a・・・開口、12,14,16・・・仕切壁、13・・・基板ホルダ、15・・・真空ポンプ、15a・・・配管、17・・・モータ、20,40・・・成膜プロセスゾーン、21a,21b,41a,41b・・・マグネトロンスパッタ電極、23,43・・・中周波交流電源、24,44・・・トランス、25,26,45,46,75,76・・・マスフローコントローラ、27,47・・・スパッタガスボンベ、28,48,78・・・反応性ガスボンベ、29a,29b,49a,49b・・・ターゲット、60・・・反応プロセスゾーン、77・・・不活性ガスボンベ、80,180,280・・・プラズマ発生手段、80A,180A,280A・・・アンテナ収容室、81,181,281・・・ケース体、81a・・・挿通孔、81b・・・シール部材、83,183,283・・・誘電体板、84,184,284・・・固定枠、85a,85b,285・・・アンテナ、86a,86b・・・導線部、87・・・マッチングボックス、87a,87b・・・可変コンデンサ、88,188,288・・・固定具、88a,88b・・・固定板、88c,88d・・・固定ボルト、89・・・高周波電源、311・・・真空容器、380・・・プラズマ発生手段、383・・・誘電体板、385・・・アンテナ、387a,387b・・・可変コンデンサ、387c・・・マッチング用コイル、V1,V2,V3・・・バルブ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部を真空に維持する真空容器と、該真空容器に接続され前記真空容器内にプラズマを発生させるプラズマ発生手段と、を備え、前記プラズマ発生手段は、誘電体で形成された誘電体壁と、該誘電体壁に隣接して設置されたアンテナと、該アンテナを収容するアンテナ収容室を前記誘電体壁とともに形成する蓋体と、前記アンテナ収容室を真空状態に排気するための減圧手段とを有して構成され、前記真空容器の内部と前記アンテナ収容室の内部とが前記誘電体壁によって仕切られて独立した空間を形成しているとともに、前記アンテナ収容室は、前記真空容器より低く10−3Pa以下の真空状態に維持されている薄膜形成装置を用いて薄膜を形成する薄膜形成方法であって、
前記真空容器の内部を真空状態にするとともに、前記アンテナ収容室の内部を前記真空容器より低く10−3Pa以下の真空状態に減圧する減圧工程と、
前記アンテナに高周波電圧を印加して前記真空容器の内部にプラズマを発生させて、前記真空容器内で形成された薄膜をプラズマ処理する工程と、により薄膜を形成することを特徴とする薄膜形成方法。
【請求項2】
前記減圧工程において、前記アンテナ収容室と前記真空容器との圧力差を小さくすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成方法。
【請求項3】
前記減圧工程は、真空容器の内部と、アンテナ収容室の内部を同時に排気し、真空容器の内部を10−2Pa〜10Paに減圧し、次に、アンテナ収容室を前記真空容器より10−3Pa以下にまで減圧することを特徴とする請求項1又は2に記載の薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2010−174378(P2010−174378A)
【公開日】平成22年8月12日(2010.8.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−64396(P2010−64396)
【出願日】平成22年3月19日(2010.3.19)
【分割の表示】特願2004−65763(P2004−65763)の分割
【原出願日】平成16年3月9日(2004.3.9)
【出願人】(390007216)株式会社シンクロン (52)
【Fターム(参考)】