説明

薄膜形成装置及び薄膜形成方法

【課題】基板表面へ薄膜を形成する際にオペレータによる煩雑な設定操作を少なくして、条件設定のミスを回避することにより、均一な厚さの薄膜を形成する様にした薄膜形成装置と薄膜形成方法を提供する。
【解決手段】オペレータが、ターゲット種類設定部56でターゲット種類を設定し、基板表面に堆積させる膜厚を膜厚設定部57で設定する。予め実験によって、薄膜の堆積速度とイオンビーム電流値との相関関係等をデータテーブル化しておき、そのデータと前記ターゲット種類、膜厚とから積算イオンビーム電流値を算出し、その算出結果を設定して、イオンビーム電流値をモニタして、積算イオンビーム電流値から減算しながらイオンビームの照射を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体製造工程の1工程である基板上へイオンビームスパッタにより成膜処理を行い、薄膜を形成する薄膜形成装置及び薄膜形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
イオンビームスパッタにより薄膜を形成する薄膜形成装置(以下、イオンビームスパッタ装置)は、基板と電極との間にプラズマが介在する薄膜形成装置と比較して、高真空中での成膜が可能であり、薄膜中への不純物の巻込みが少なく、高品質の薄膜を形成できるという利点を有している。
【0003】
イオンビームスパッタにより薄膜を形成する場合、処理条件を設定する工程、成膜処理工程が実行されるが、以下に従来の処理条件の設定、成膜処理について図11及び図12を参照して説明する。
【0004】
成膜制御を行う制御コントローラのシーケンス制御フローは図11に示す、オペレータによるターゲット種類設定(S601)、目標膜厚設定(S602)、加速電圧設定(S603)により決定されるデータ設定フロー(F600)と、図12に示す、成膜経過時間をカウントする成膜フロー(F700)の2つのフローからなる。
【0005】
データ設定フロー(F600)について説明する。ターゲット種類(S601)、目標膜厚(S602)、加速電圧(S603)の3種類を設定する場合、先ず、ターゲット種類設定(S601)によりターゲット選択(S611)し、加速電圧設定(S603)の設定値に於けるイオンビーム最大収束条件21aを実験データテーブル21より取得し、Ar流量、フィラメント電流、減速電圧、中和電流及び加速電圧設定値に於けるイオンビーム電流等の個々の値が決定される(S604)。
【0006】
前記設定された加速電圧設定値に於けるイオンビーム電流値は、次の成膜レートの取得用に利用され(S605)、それ以外の取得値である、フィラメント電流、減速電圧値、中和電流値、Ar流量は、それぞれデータ設定フロー(F600)内で利用される。
【0007】
次に、加速電圧設定値に於けるイオンビーム電流値と、ターゲット種類設定(S601)の組合わせから決定される成膜レートを実験データテーブル21の成膜レートデータ21bより取得する。
【0008】
最後に、目標膜厚設定(S602)の設定値とS605にて取得された成膜レートより、成膜時間を算出し(S606)、その値(TALL )を設定する(S612)。又、後述する成膜フロー(F700)にて経過時間カウント用変数(TPASS)をリセットする(S613)。以上で、データ設定フロー(F600)が完了する。
【0009】
次に成膜フロー(F700)について説明する。
【0010】
前記データ設定フロー(F600)にてイオン源各電源設定値(S614)、Ar流量(S615)等の成膜条件の設定が完了し、このフローでは目標膜厚到達迄イオン源から照射されるイオンビームを照射し続ける動作を行う。図12に示す通り、単位時間のタイマを設け(S701)、その後経過時間(TPASS)をカウントアップし(S702)、最後に成膜時間設定値(TALL )と比較し(S703)、その時間を経過したならば成膜完了(S704)、その時間内ならばタイマから繰返すという動作フローを行う。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2008−174777号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
前述した通り、従来の薄膜形成方法ではデータ設定フロー(F600)と成膜フロー(F700)の2つを行い、イオンビームによる薄膜形成を行う。従来、イオンビーム収束条件と、成膜レートデータは評価実験から予め取得しておくものであり、そのデータテーブル内から該当するデータを探し出し、設定データを入力するには、各事前評価によるデータ取得と条件決定作業が必要である。
【0013】
前記データ設定フロー(F600)では、ターゲット種類設定(S601)によりターゲットを選択し(S611)、加速電圧設定値(S603)に於ける最大イオンビーム収束条件と、ターゲット種類設定(S601)との組合わせから決定される成膜レート(S605)はどちらも、事前評価により取得した実験データテーブル21より取得することになる。
【0014】
この実験データテーブル21よりオペレータが条件決定作業を行うが、この条件決定には、各設定値を基準に多くの設定値を読取る煩雑な作業となる場合が多い。実験データテーブル21のデータがグラフの場合、1つのグラフからその数値を読取り、その数値データに該当する次のグラフから数値を読取るという作業を最低数回行うことになる。この場合、読み間違え、条件数値の間違え等のミスにつながり、正確な成膜条件決定作業が行えないばかりでなく、間違った条件で成膜した場合、膜厚誤差、均一性悪化等の生産性低下を発生させる。
【0015】
又、成膜フロー(F700)では、イオン源から照射されるイオンビームを成膜時間設定値(TALL )の期間、照射し続ける動作を行う。この場合、イオンビームの照射状態はデータ設定フロー(F600)で設定された値を固定されることとなる。然し、成膜レートに大きく関係するイオンビーム電流値は、イオン源電源の出力変動や、イオン源周辺への付着物質等により変化することがある。このイオンビーム電流の変動は微小であっても、成膜時間が多くなるにしたがい、累積誤差として膜厚を大きく変化させる。このことは、ターゲット又は基板へのイオンビーム照射量が変化することと同様であり、再現性のある膜厚を得る為には、成膜時のイオンビーム照射量を一定とする必要がある。
【0016】
又、目標膜厚に対し、成膜後の膜厚誤差が問題とならない場合もあるが、極薄膜である数nmを目標膜厚とする場合には、従来の薄膜形成方法では数〜数十nmの誤差を含むことがあり、膜厚再現性を低下させて生産性の低下を発生させる問題が生じる。
【0017】
この様に設定フロー及び成膜フローに於いて、生産性低下へ影響する問題を解決する必要があった。
【0018】
本発明の目的は、従来技術の問題点である、成膜制御を行う制御コントローラのシーケンス動作フローであるデータ設定フローと成膜フローのそれぞれにて発生する、条件設定ミス及びイオンビーム変動により発生する膜厚誤差、均一性悪化を低減させることにより生産性低下の問題を解決し、更にイオンビーム照射量を制御し、膜厚制御性向上を可能とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明は、イオン源からのイオンビームをターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる基板表面への薄膜形成装置であって、前記ターゲットの種類を設定するターゲット種類設定部と、前記基板表面へ堆積させる膜厚を設定する膜厚設定部と、少なくとも、前記ターゲットの種類それぞれに於いて求められた前記基板表面への堆積速度とイオンビーム電流値との相関関係と、前記ターゲット種類設定部にて設定されたターゲットの種類、前記膜厚設定部に設定された膜厚とから積算イオンビーム電流値を求める積算イオンビーム電流値算出部と、該積算イオンビーム電流値算出部で求められた結果により積算イオンビーム電流値を設定する積算イオンビーム電流設定部とを備える薄膜形成装置に係るものである。
【0020】
又本発明は、イオン源からのイオンビームをターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる基板表面への薄膜形成方法であって、ターゲット種類設定手段により前記ターゲットの種類を設定し、膜厚設定手段により前記基板表面に堆積させる薄膜の膜厚を設定し、積算イオンビーム電流値算出部が、前記ターゲットの種類それぞれに於いて求められた基板表面への堆積速度とイオンビーム電流値との相関関係と、前記ターゲット種類設定部にて設定されたターゲットの種類、前記膜厚設定部に設定された膜厚とから、積算イオンビーム電流値を求める工程と、少なくとも前記積算イオンビーム電流値算出部で求められた結果により得られた積算イオンビーム電流値分のイオンビームを、前記ターゲット種類設定部にて設定された種類のターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる工程とを有する薄膜形成方法に係るものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、イオン源からのイオンビームをターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる基板表面への薄膜形成装置であって、前記ターゲットの種類を設定するターゲット種類設定部と、前記基板表面へ堆積させる膜厚を設定する膜厚設定部と、少なくとも、前記ターゲットの種類それぞれに於いて求められた前記基板表面への堆積速度とイオンビーム電流値との相関関係と、前記ターゲット種類設定部にて設定されたターゲットの種類、前記膜厚設定部に設定された膜厚とから積算イオンビーム電流値を求める積算イオンビーム電流値算出部と、該積算イオンビーム電流値算出部で求められた結果により積算イオンビーム電流値を設定する積算イオンビーム電流設定部とを備えたので、実験から得られた関数式導入により設定条件の設定ミスをなくし、イオンビーム照射量を常時監視する機能追加によりイオンビーム照射量を高精度に制御し、この2つを実現することにより、膜厚制御性を向上させるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明に係る薄膜形成装置の断面図である。
【図2】該薄膜成形装置の制御系を示すブロック図である。
【図3】本発明に係る薄膜形成方法による薄膜を形成する手順を説明するフロー図であり、形成する薄膜に関するデータを設定する手順を示している。
【図4】この発明に係る薄膜形成方法による薄膜を形成する手順を説明するフロー図で、図3に示すフロー図の手順で設定されたデータに基づいて、基板表面に薄膜を形成する手順を示している。
【図5】実験データテーブルを関数化した実施例を示す図で、イオンビーム最大収束条件実験により得られたデータから、加速電圧とイオンビーム電流をプロットし、F1 (VACC )関数を求めた例である。
【図6】実験データテーブルを関数化した実施例を示す図で、イオンビーム最大収束条件実験により得られたデータから、加圧電圧とフィラメント電流をプロットし、F2 (IFIRA)関数を求めた例である。
【図7】実験データテーブルを関数化した実施例を示す図で、イオンビーム最大収束条件実験により得られたデータから、加圧電圧とAr流量をプロットし、F6 (FLAR )関数を求めた例である。
【図8】実験データテーブルを関数化した実施例を示す図で、成膜レート実験から得られたデータから、イオンビーム電流と成膜レートをプロットし、F7 (IION ,TG)関数を求めたもので、ターゲットがCoFeBの場合を示す。
【図9】実験データテーブルを関数化した実施例を示す図で、成膜レート実験から得られたデータから、イオンビーム電流と成膜レートをプロットし、F7 (IION ,TG)関数を求めたもので、ターゲットがMgOの場合を示す。
【図10】各イオンビーム変動の出力状態を示すイメージ図である。
【図11】従来の薄膜形成方法による薄膜を形成する手順を説明するフロー図であり、形成する薄膜に関するデータを設定する手順を示すもので、図3に対応するものである。
【図12】従来の薄膜形成方法による薄膜を形成する手順を説明するフロー図で、図11に示すフロー図の手順で設定されたデータに基づいて、基板表面に薄膜を形成する手順を示すもので、図4に対応するものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施例を説明する。
【0024】
先ず、図1に於いて、本発明が実施される薄膜形成装置の一例を説明する。
【0025】
薄膜形成装置の1つであるイオンビームスパッタ装置1は、処理室(スパッタリング室)2と、スパッタ用イオン供給部3、ミリング部13及び排気装置50とを具備している。
【0026】
イオンビームスパッタ装置1は、直方体の筐体形状に形成された真空容器4を備えており、真空容器4は処理室としてのスパッタリング室5を構成している。
【0027】
前記真空容器4の1側壁(以下、正面壁とする。)には、前記スパッタリング室5に基板としてのウェーハ6を出入れする為の搬入搬出口7が開設されている。該搬入搬出口7はゲートバルブ(図示せず)によって開閉される様に構成されている。
【0028】
前記スパッタリング室5の上部には、回転軸8を介して回転可能なターゲット9が設けられ、該ターゲット9の表面、裏面は材質がそれぞれ、基板に形成される薄膜と同材質となっており、基板処理の種類に応じて、前記ターゲット9が回転され、表面、裏面が選択される様になっている。
【0029】
スパッタリング室5の下部にはウェーハチャック11が設けられ、該ウェーハチャック11はサーボモータ等によって構成された回転機構12によって回転される様に構成されている。該回転機構12の回転中心線上に、ウェーハチャック11中心、前記ターゲット9の中心が位置する様に前記ターゲット9が配置されている。
【0030】
前記スパッタリング室5の右側壁の下部には、対向したウェーハにイオンを照射することによってウェーハの表面の自然酸化膜及び/又は汚染物質を除去するイオン供給部(以下、ミリング部とする)13が水平に設置されている。
【0031】
該ミリング部13は筐体14を備えており、該筐体14は一端が閉塞した円筒形状に形成されている。筐体14はイオン源室15を形成している。
【0032】
真空容器4の右側壁に於けるミリング部13が設置された部分にはイオン照射口16が大きく開設され、前記筐体14の閉塞壁14aにはイオン種のガスとしてのアルゴンガスをイオン源室15内に導入する為のガス導入管17が接続されている。前記筐体14の外周にはプラズマを閉じ込める為にカスプ磁場を生成する磁石18が設置されている。
【0033】
前記閉塞壁14aにはフィラメント19が設置されており、該フィラメント19にはフィラメント加熱用のフィラメント電源20が電気的に接続されている。該フィラメント電源20にはイオン源室15内にプラズマを形成する為のアーク電源22が接続されている。
【0034】
前記筐体14のイオン照射口16側の端部には、アースに接続された接地電極23と、減速電源24が接続された減速電極25と、抵抗26を介して加速電源27が接続された加速電極28とが、イオン照射口16側から順に並べられて縦断する様に垂直に立設されている。
【0035】
尚、フィラメント電源20、アーク電源22、減速電源24及び加速電源27は、コントローラ29によって制御される様になっている。
【0036】
前記接地電極23、減速電極25及び加速電極28は円形の平板形状に形成されており、イオンビームを透過させる透過孔31が円形の小孔形状で多数穿設されている。ここで、各電極23,25,28に於ける透過孔31群の開口率(開口面積/全体面積)は、全体的に均一になる様に設定されている。
【0037】
スパッタリング室5に於けるミリング部13のイオン照射口16の手前には、イオン照射口16を開閉するシャッタ機構32が設置されており、該シャッタ機構32も前記コントローラ29によって制御される様になっている。
【0038】
前記真空容器4の前記ミリング部13に対向する左側壁の上部には、前記ターゲット9にイオンを照射するスパッタ用イオン供給部3が水平に設置されている。
【0039】
該スパッタ用イオン供給部3はターゲット9にイオンを照射することにより、前記ターゲット9からスパッタ粒子を叩き出してウェーハ6の表面にスパッタリングする様に構成されている。
【0040】
前記スパッタ用イオン供給部3は筐体33を備えており、該筐体33は一端が閉塞した円筒形状に形成され、イオン源室34を形成している。
【0041】
左側壁には前記スパッタ用イオン供給部3と同心にイオン照射口35が大きく開設されている。筐体33の閉塞壁にはイオン種のガスとしてのアルゴンガスをイオン源室34内に導入する為のガス導入管36が接続されている。
【0042】
前記スパッタ用イオン供給部3の筐体33の外周にはプラズマを閉じ込める為にカスプ磁場を生成する磁石37が設置されている。
【0043】
前記筐体33のイオン照射口35と反対側の端部にはフィラメント38が設置されており、該フィラメント38にはフィラメント加熱用のフィラメント電源39が電気的に接続されている。該フィラメント電源39には前記イオン源室34内にプラズマを形成する為のアーク電源40が接続されている。
【0044】
前記筐体33のイオン照射口35側の端部には、アースに接続された接地電極42と、減速電源43が接続された減速電極44と、抵抗45を介して加速電源46が接続された加速電極47が、イオン照射口35側から順に並べられて縦断する様に垂直に立設されている。
【0045】
尚、フィラメント電源39、アーク電源40、減速電源43及び加速電源46は、前記コントローラ29によって制御される様になっている。
【0046】
該コントローラ29は主に各電源39,40,43,46の稼働状況を表示する機能と、前記フィラメント電源39、アーク電源40、減速電源43、加速電源46等の操作量を指令する機能と、薄膜形成に於ける一連のシーケンスを行う機能等を有している。
【0047】
前記接地電極42、減速電極44及び加速電極47は、前記接地電極23、減速電極25及び加速電極28と同様に、円形の平板形状に形成されており、イオンビームを透過させる透過孔31が円形の小孔形状で多数穿設されている。又、各電極42,44,47に於ける透過孔31群の開口率(開口面積/全体面積)は、全体的に均一になる様に設定されている。
【0048】
真空容器4のスパッタ用イオン供給部3が設置された左側壁の下部には排気口49が開口されている。排気口49には排気装置50が接続され、該排気装置50は直管の配管51、該配管51に接続された排気ポンプ52を具備している。
【0049】
排気口49は前記ミリング部13から供給されたイオンが直接照射されない位置に配置されている。即ち、前記排気口49は、前記ミリング部13で生成されたイオンがイオン照射口16からスパッタリング室5に供給された後、左側壁乃至ウェーハ6に到達する(照射する)が該イオンが直接照射しない様に、イオン照射口16と対向しない様に下部にずらされて設けられている。
【0050】
この様に排気ポンプ52をスパッタ用イオン供給部3の下方に設置することにより、スパッタ用イオン供給部3の下方に形成されるデッドスペースを有効に活用することができる。
【0051】
以下、前記スパッタ用イオン供給部3の作用について説明する。
【0052】
スパッタリングすべきウェーハ6は予め所定の圧力に減圧されたスパッタリング室5に搬入搬出口7から搬入されて、水平姿勢の前記ウェーハチャック11上に受渡される。
【0053】
続いて、搬入搬出口7がゲートバルブ(図示せず)によって閉じられた後に、スパッタリング室5が排気ポンプ52によって真空引きされ、スパッタリング室5の圧力が1/100〜1/1000Paに減圧される。
【0054】
その後に、アルゴンガスがガス導入管17から前記イオン源室15に所定の流量(例えば、10sccm)だけ供給される。
【0055】
続いて、ウェーハチャック11が回転機構12によって回転されつつ、イオン照射口16がシャッタ機構32によって開かれて、ミリング部13からイオンビームがウェーハ6に照射され、ウェーハ6はイオンミリング加工される。
【0056】
イオンミリング加工とは、イオンビームを対象物(ウェーハ)に照射することにより、対象物を削る加工方法を言う。このイオンミリング加工により、ウェーハ6の表面の酸化膜や汚染物質が除去される。
【0057】
この際、前記ウェーハ6は回転されているので、イオンビームのウェーハ6に対する照射量は、ウェーハ6の照射面の中心と周辺部とで略同一となる。従って、ミリング部13のイオンビームによるウェーハ6に対するイオンミリング加工量は、ウェーハ6の全面に亘って均一な分布となる。
【0058】
ここで、ミリング部13の作動を説明する。
【0059】
前記フィラメント電源20がONすると、フィラメント19から熱電子が放出する。
【0060】
減速電極25及び加速電源27がONした後に、アーク電源22がONすると、イオン源室15内で電子が加速されて移動し、アルゴン原子に衝突して電離する。
【0061】
この現象により、イオン源室15内でアルゴンプラズマが発生する。
【0062】
プラズマが発生すると、アルゴンイオンとアルゴン原子及び電子等の間で衝突が繰返し起こり、電離や励起や再結合等の他の現象も同時に発生する。
【0063】
加速電極28はプラスの電位、減速電極25はマイナスの電位、接地電極23は0Vであり、これらの電位差から生じる電界により、イオンビームが発生される。
【0064】
加速電極28と減速電極25との間の電位差により、アルゴンイオンだけが透過孔31群からスパッタリング室5に、イオンビームとして引き出される。
【0065】
減速電極25と接地電極23との間の電位差は、スパッタリング室5内にある電子がイオン源室15内に入込むのを阻止する役目を果たす。
【0066】
尚、アルゴンイオンが照射されることによるチャージアップを防止する等アルゴンイオンを電気的に中和する為に、接地電極23のスパッタリング室5側には、図示しない中和用のフィラメント(ニュートラライザ)が設置される。
【0067】
ところで、イオンの運動エネルギが大きな領域(10kV〜数MeV)では、主として入射イオンが固体内に注入する現象(イオン注入)が起こり、中程度の運動エネルギ領域では(数百eV〜数千eV)では、固体原子を飛出させるスパッタリング現象が起こり、非常に低い運動エネルギ領域(数eV〜数百eV)では、入射原子は固体内部に深く入込むことができずに、固体表面に付着・結合する現象が起こる。
【0068】
そこで、ミリング部13に於いては、スパッタリング現象が起こる中程度の運動エネルギ領域(数百eV〜数千eV)を使用して、アルゴンイオンのイオンビームをウェーハ6に照射することにより、ウェーハ6の表面の自然酸化膜及び汚染物質を飛び出させて除去する。
【0069】
以上のミリング部13によるウェーハ6の表面に対するイオンミリング加工が終了した後に、スパッタリング工程が実行される。
【0070】
前記ウェーハチャック11が回転機構12によって回転されつつ、スパッタ用イオン供給部3からアルゴンイオンのイオンビームが前記ターゲット9に照射される。
【0071】
前記イオンビームが前記ターゲット9に照射されると、ターゲット9からスパッタ粒子(例えば、チタン分子)が飛出す。飛出したスパッタ粒子がウェーハ6の表面に蒸着し、ウェーハ6の表面にはターゲット9の金属のスパッタリング膜が形成される。
【0072】
尚、スパッタ用イオン供給部3の作動は、前述したミリング部13の作用と同様であるので説明を省略する。
【0073】
以上のスパッタ用イオン供給部3によるウェーハ6に対するスパッタリング膜の形成処理が終了すると、スパッタリング作動が停止される。その後に、搬入搬出口7が開放されて、ウェーハチャック11に保持されたウェーハ6が搬入搬出口7から搬出される。
【0074】
次に、前記コントローラ29について図2を参照して説明する。
【0075】
該コントローラ29は、CPU55を中心として構成されており、該CPU55にはターゲット種類設定部56、目標膜厚設定部57、加速電圧設定部58、記憶部59、積算イオンビーム電流値算出部61、積算イオンビーム電流値設定部62が接続され、前記ターゲット種類設定部56、前記目標膜厚設定部57、前記加速電圧設定部58はオペレータによって種々の設定がされ、設定値は前記CPU55に入力される。
【0076】
前記ターゲット種類設定部56ではスパッタリング処理に供されるターゲットの種類が設定され、前記目標膜厚設定部57では、基板表面に形成される膜厚が設定される。又、加速電圧設定部58による設定により、後述する様に、イオンビーム最大収束条件関数群が生成される。
【0077】
前記記憶部59には、ターゲット種類に対応した薄膜形成の際に基板表面にスパッタリングにより堆積される堆積速度とイオンビーム電流値との相関関係を実験から取得したデータがデータテーブルとして格納されている。該記憶部59と前記CPU55との間で情報の交換が行われる。
【0078】
又、目標膜厚設定部57により設定された膜厚を得るのに必要なイオンビーム電流の積算値を算出する積算イオンビーム電流値算出部61とCPU55との間で積算イオンビーム電流値の算出に必要な情報と、算出された積算イオンビーム電流値とに関する情報の交換が行われる。この積算イオンビーム電流値算出部61で求められた結果が積算イオンビーム電流値設定部62に送出される。
【0079】
次に、図3及び図4を参照して、本実施例に係る薄膜形成装置の作用を説明し、併せて薄膜形成方法の実行手順を説明する。
【0080】
本実施例では、オペレータによる前記ターゲット種類設定部56でのターゲット種類の設定(S201)、目標膜厚設定部57での目標膜厚の設定(S202)、加速電圧設定部58での加速電圧の設定(S203)により決定されるデータ設定フロー(F200)と、基板処理中の成膜経過時間をカウントする成膜フロー(F300)の2つのフローから構成される。
【0081】
前記データ設定フロー(F200)について説明する。条件としてターゲット種類(TG)、目標膜厚(DEPOTHICK )、加速電圧(VACC )の3種類を設定する場合、先ず、S201でターゲット種類(TG)によりターゲットを選択し(S211)、加速電圧設定値(VACC )に於ける各設定値(S203)を、前記記憶部59に格納されている、イオンビーム最大収束条件の実験データテーブルより得た関数群41を作成する。
【0082】
この関数群41を作成する手段は、実験取得データより作成したプロット点の近似式又は近似曲線式作成ツールを利用し作成する場合や、直接プロット点から最小二乗法等により求める場合等が考えられる。例えば、一次関数として求められる関数は、使用する加速電圧設定値(VACC )を設定すると、その加速電圧設定時のイオンビーム最大収束条件になる各設定値がそれぞれ算出できる形式としておき、図3に示す様にイオンビーム電流値(IION )はF1 (VACC )関数(41a)より、フィラメント電流値(IFILA)はF2 (VACC )関数(41c)より、減速電圧値(VDEC )はF3 (VACC )関数(41d)より、中和電流値(INEU )はF4 (VACC )関数(41e)より、アーク電圧(VARC )はF5 (VACC )関数(41f)より、Ar流量値(FLAR )はF6 (VACC )関数(41g)より、それぞれ決定される。
【0083】
上記は条件としてターゲット種類(TG)(S201)、目標膜厚(DEPOTHICK )(S202)、加速電圧(VACC )(S203)の3種類を設定する場合を説明したが、ターゲット種類(TG)、目標膜厚(DEPOTHICK )、成膜レート(DEPORATE)を条件とした場合も同様に本発明手法を利用することが可能である。
【0084】
先ず、積算イオンビーム電流値設定部62に於ける積算イオンビーム電流値(IALL )の設定(S212)について説明する。
【0085】
F1 (VACC )関数より決定されたイオンビーム電流値(IION )41aとターゲット種類(TG)(S201)により成膜レート(DEPORATE)41bがF7 (IION ,TG)関数より決定される。このF7 (IION ,TG)関数は前記したイオンビーム最大収束条件の実験データより得た関数群(F1 (VACC )〜F6 (VACC ))41と同様、ターゲット種類とイオンビーム電流との組合わせから決定される成膜レート(DEPORATE)を実験データテーブルより得た、近似値線(式)等の関数群となる。
【0086】
例えば、一次関数として求められる各ターゲットのイオンビーム電流値(IION )と成膜レート(DEPORATE)の関係を関数化したものである。更に、前記イオンビーム電流値(IION )41aと成膜レート(DEPORATE)41b、目標膜厚(DEPOTHICK )(S202)とから前記積算イオンビーム電流値算出部61に於いて積算イオンビーム電流値(IALL )を算出し(S204)設定する。これは、目標膜厚(DEPOTHICK )を成膜レート(DEPORATE)で除算し、必要成膜時間を算出し、これに加速電圧設定値(VACC )に於けるイオンビーム電流値(IION )を乗算し、算出している。この積算イオンビーム電流値(IALL )が、目標膜厚迄にターゲット9へ照射されるイオンビーム電流値の総和となる。
【0087】
次に、イオン源各電源出力設定方法及びAr流量出力設定方法について説明する。
【0088】
これは加速電圧設定部58で設定(S203)された加速電圧設定値(VACC )に於ける各設定値をイオンビーム最大収束条件の実験データより得た関数群41からそれぞれ設定する。加速電圧設定値(VACC )はそのまま加速電源46へ、フィラメント電流値(IFILA)はF2 (VACC )関数より得た数値41cをフィラメント電源39へ、減速電圧値(VDEC )はF3 (VACC )関数より得た数値41dを減速電源43へ、中和電流値(INEU )はF4 (VACC )関数より得た数値41eを中和電源へ設定し、アーク電圧(VARC )はF5 (VACC )関数より得た数値41fをアーク電源40へ設定する(S213)。又、Ar流量値(FLAR )はF6 (VACC )関数より得た数値41gをMFC(マスフローコントローラ)へ設定する(S214)。
【0089】
以上の様にデータ設定フロー(F200)ではターゲット種類(TG)(S201)、目標膜厚(DEPOTHICK )(S202)、加速電圧(VACC )(S203)の3種類の入力条件を、イオンビーム最大収束条件実験及び成膜レート実験から得られた実験データテーブル21を関数化し、その関数群41から各設定値を設定する。これらの関数群41は成膜制御を行う前記コントローラ29の前記記憶部59に格納され、前記CPU55が前記関数群41に基づき演算を実行する。
【0090】
次に、本実施例の成膜フロー(F300)について説明する。この成膜フロー(F300)では、目標膜厚到達迄イオン源から照射されるイオンビームを照射し続ける動作を行う。従来技術では成膜中の経過監視は時間であったが、本実施例では成膜中の経過監視をイオンビーム電流値により行う。
【0091】
即ち、図3に示す様に、通常1秒のタイマを設け(S301)、データ設定フロー(F200)で設定した、積算イオンビーム電流値(IALL )(S204)から成膜中に実際出力されているイオンビーム電流モニタ値(IMONI)(S303)を減算していき(S302)、その電流値がゼロとなった場合に(S304/YES)、成膜完了とする動作フローを行う。
【0092】
ここで用いるイオンビーム電流モニタ値(IMONI)(S303)は、加速電源46から出力されるアナログ信号を用いるが、加速電源46とコントローラ29間の配線径路でのノイズにより値が変動する場合がある為、平均化処理した値を利用することが望ましい。
【0093】
上記の2つのデータ設定フロー(F200)と成膜フロー(F300)とを行って、イオンビームによる薄膜形成を行う。
【0094】
本実施例方式によれば、条件決定方式では設定条件の設定ミスをなくし、ターゲット種類(TG)、目標膜厚(DEPOTHICK )、加速電圧(VACC )の3種類の入力条件の入力のみで、コントローラ29内プログラムに設けた関数により成膜に必要な条件が自動設定され、又、成膜中のイオン源電流の出力変動や、イオン源周辺への付着物質等によりイオンビーム電流の変動を検出し、実際にターゲット9へ照射されるイオンビーム照射量を常時監視し目標膜厚到達の状態を監視することができる。
【0095】
特に、実際にターゲット9へ照射されるイオンビーム照射量を常時監視することは、成膜状態をリアルタイムに監視しながら成膜することとなり、微小な電流変化による成膜状態の変動を吸収し、正確な膜厚制御が可能となる。この様に、イオンビーム照射量を制御することで、膜厚制御性を向上させることが可能となる。
【0096】
本実施例のイオンビーム最大収束条件実験及び成膜レート実験から得られた実験データテーブル21を関数化した例を図5〜図9を参照して説明する。
【0097】
F1 :イオンビーム電流関数
図5は、イオンビーム最大収束条件実験により得られたデータから、加速電圧とイオンビーム電流をプロット(◆)し、F1 (VACC )関数を求めた例である。グラフ内の破線はプロットしたデータから求めた近似線であり、
y=0.0008x−0.2114 (式1)
がF1 関数式(最適関数)である。
【0098】
上記関数式(式1)より任意の加速電圧時のイオンビーム最大収束条件となるイオンビーム電流値(IION )が求められる。これをコントローラ29内プログラムに組込むことで、オペレータによる加速電圧設定値(VACC )より瞬時に求められる。このことより、従来の問題点である複数個の実験データテーブルからの読み間違い、数値読み違い等の初歩的ミスをなくすことが可能となる。
【0099】
上記関数式を利用すると、例えば、加速電圧(VACC )1000[V]時のイオンビーム最大収束条件となるビーム電流値はy=0.0008×1000−0.2114より、0.5886[A]となる。この数値をF7 (成膜レート関数)及び積算イオンビーム電流値算出計算式へ代入し、成膜レート(DEPORATE)及び積算イオンビーム電流値(IALL )それぞれを求めることができる。
【0100】
F2 :フィラメント電流関数
図6は、イオンビーム最大収束条件実験より得られたデータから、横軸を加速電圧(VACC )[V]:x、縦軸をフィラメント電流値(IFIRA)「A」:yとしてプロット(◆)し、グラフ上の破線はプロットしたデータより求めた近似式であり、
y=0.0095x+20.292 (式2)
がF2 関数式(最適関数)となる。
【0101】
運用方法と作用は、F1 関数(イオンビーム電流関数)と同様である。
上記関数式を利用すると、例えば加速電圧(VACC )1000[V]時のイオンビーム最大収束条件となるフィラメント電流値はy=0.0095×1000+20.292より29.792[A]となる。この数値は、イオン源電源出力設定としてそのまま利用される。
【0102】
F3 :減速電圧関数、F4 :中和電流関数、F5 :アーク電圧関数
F3 ,F4 ,F5 それぞれの関数式は、下記の様になる。
F3 :減速電圧関数 y=200(定数)
F4 :中和電流関数 y=10(定数)[但し、絶縁膜時のみ使用。それ以外は0(定数)とする]
F5 :アーク電圧関数 y=70(定数)
上記関数は、現時点でのイオンビーム最大収束条件実験では各条件を固定して行っていた為、加速電圧にかかわらず常に一定条件となっている。但し、各パラメータ(減速電圧、中和電流、アーク電圧)の最適条件化により更なる膜質向上策としての見込みがあることと、今後の追加条件実験によるデータ取得で関数化は容易にできることから、本実施例では関数式として扱っている。
【0103】
F6 :Ar流量関数
図7は、イオンビーム最大収束条件実験より得られたデータから、横軸を加速電圧(VACC )[V]:x、縦軸をAr流量値(FLAR )[sccm]:yとしてプロット(◆)し、グラフ上の破線はプロットしたデータより求めた近似式であり、
y=0.0167x−1.2 (式3)
がF6 関数式(最適関数)となる。
【0104】
運用方法と作用は、F1 関数(イオンビーム電流関数)と同様である。
上記関数式を利用すると、例えば、加速電圧(VACC )1000[V]時のイオンビーム最大収束条件となるビーム電流値はy=0.0167×1000−1.2より、15.5[sccm]となる。この数値は、Ar流量出力設定としてそのまま利用される。
【0105】
F7 :成膜レート関数(ターゲットをCoFeBとした場合)
図8は、ターゲットをCoFeBとした場合の成膜評価実験データから、横軸をイオンビーム電流(IION )[A]:x、縦軸を成膜レート(DEPORATE)[nm/sec]:yとしてプロット(◆)し、グラフ上の破線はプロットしたデータより求めた近似式であり、
y=0.5696x+0.0033 (式4)
がCoFeBターゲットのF7 関数式(最適関数)となる。
【0106】
F7 :成膜レート関数(ターゲットをMgOとした場合)
図9は、ターゲットをMgOとした場合の成膜評価実験データから、横軸をイオンビーム電流(IION )[A]:x、縦軸を成膜レート(DEPORATE)[nm/sec]:yとしてプロット(◆)し、グラフ上の破線はプロットしたデータより求めた近似式であり、
y=0.1561x+0.0028 (式5)
がターゲットをMgOとした場合のF7 関数式(最適関数)である。
【0107】
ターゲット種類ごとに求めた関数式F7 :成膜レート関数により、F1 :イオンビーム電流関数より求めた電流値を代入することで、そのイオンビーム電流値での成膜レート(DEPORATE)[nm/sec]が求められる。
次に、求められた成膜レート(DEPORATE)とオペレータ入力値である目標膜厚設定(DEPOTHICK )を積算イオンビーム電流値算出計算式に代入すると、積算イオンビーム電流値が簡単に求められる。
【0108】
例えば、ターゲットCoFeB、目標膜厚(DEPOTHICK )5[nm]、加速電圧(VACC )400[V]とした場合の、積算イオンビーム電流値を求める場合を下記に示す。
【0109】
まず、加速電圧400[V]の時のイオンビーム電流値をF1 :イオン電流関数から求め、
ION =0.0008×400−0.2114=0.1086[A]
次に、求めたイオンビーム電流値での、ターゲットCoFeB成膜レートをF7 :成膜レート関数から求め、
DEPORATE=0.5696×0.1086+0.0033≒0.0065[nm/sec](小数点以下第4位を四捨五入)
最後に、求めた成膜レートでの、積算イオンビーム電流値を算出する。
ALL =5/0.0065×0.1086=83.538[A]
【0110】
又、上記以外のフィラメント電流値、減速電圧値、中和電流値、アーク電圧値、Ar流量値については、F2 〜F6 のそれぞれの関数式から算出する。
【0111】
成膜時は、オペレータ設定値のTGターゲット種類設定、目標膜厚設定(DEPOTHICK )、加速電圧設定(VACC )の3つを設定すれば、F1 〜F7 の関数群により、成膜時の最適条件の一括設定が可能となる。
【0112】
以下、ターゲットMgO、目標膜厚(DEPOTHICK )5[nm]、加速電圧(VACC )400[V]も同様に求められる。
ION =0.0008×400−0.2114=0.1086[A]
DEPORATE=0.1561×0.1086+0.0028≒0.0020[nm/sec](小数点以下第4位を四捨五入)
ALL =5/0.0020×0.1086=271.5[A]
【0113】
次に、成膜中の経過監視をイオンビーム電流値に基づき実行した場合の利点について図10を参照して説明する。
【0114】
1)イオン源電源出力変動(リップル)によるイオンビーム電流値変動監視
それぞれのイオン源電源(フィラメント電源、アーク電源、減速電源、加速電源、中和電源)内が固有で持っているリップル成分が常時イオンビーム電流値の変動に現れる現象により、成膜時の合計イオンビーム値が変動し、正確な膜厚制御ができなくなる(膜厚は積算イオンビーム電流値から決定される為)。
又、このリップル成分は電源内部のスイッチング回路構成、部品等によって決まり、電源の出力が常に決まった周期で変動するものであり、これを改善する(なくす)為には、一般的に高価な電気部品を使用した特殊電源を用いる必要があり、こうした高性能電源を使用することは現実的ではない。
従来方式(経過時間のみで制御)の場合、このリップルによる変動を捉えることができず、正味の積算イオンビーム電流値が計画したものと異なる状態が発生し、結果、目標膜厚と実際の膜厚が異なることとなっていた。本実施例では、このリップルを含むイオンビーム電流値を監視し、実際の積算イオンビーム電流値を制御することで、目標膜厚と実際の膜厚の誤差が低減し、膜厚制御性が向上する。
【0115】
2)イオン源周辺への付着物質等によるイオンビーム電流値変動監視
イオン源内から照射されるイオンビームはターゲットに当たり、その際、ターゲットから放出されたターゲット分子が基板へ照射し、その分子を積層させ膜形成を行うスパッタ成膜の場合、ターゲットから放出されるターゲット分子は基板だけではなく、その周辺(真空容器、イオン源等)へも放出される。このターゲット分子がイオン源内部へ照射された場合は、イオン源内部の電極表面及び壁面へ付着することとなり、特に導電性ターゲットのターゲット分子の付着が電極表面へ蓄積されていく過程の内、付着膜が膜剥がれを起さない極薄膜の時は、電圧印加された電極表面状態が微小変化し、電極間から引出すイオンビーム電流値が変動する。付着膜が膜剥がれを起す場合、電極間短絡によりイオン源が停止し、洗浄による膜の除去が必要となる。
従来方式(経過時間のみで制御)の場合、この付着膜によるイオンビーム電流の変動を捉えることができず、正味の積算イオンビーム電流値が計画したものと異なる状態が発生し、結果、目標膜厚と実際の膜厚が異なることとなっていた。本実施例では、付着膜によるイオンビーム電流値を監視し、実際の積算イオンビーム電流値を制御することで、目標膜厚と実際の膜厚の誤差が低減し、膜厚制御性が向上する。
【0116】
3)電極部熱変形によるイオンビーム電流値変動監視
イオン源内部でプラズマを発生させる構造上、プラズマ発生前後ではフィラメントの熱電子及びプラズマによりイオン源内部の温度は局所的に1000〜2000[K]と高温状態になる。この高温状態からイオンを引き出す電極部にも熱伝導により熱が伝わり、その熱により電極の歪みが極僅か(数μm程度)だが発生する。この電極歪みにより、引出されるイオンビーム電流値が変動する。
従来方式(経過時間のみで制御)の場合、この電極の熱変形によるイオンビーム電流の変動を捉えることができず、正味の積算イオンビーム電流値が計画したものと異なる状態が発生し、結果、目標膜厚と実際の膜厚が異なることとなっていた。本実施例では、電極の熱変形によるイオンビーム電流値を監視し、実際の積算イオンビーム電流値を制御することで、目標膜厚と実際の膜厚の誤差が低減し、膜厚制御性が向上する。
【0117】
成膜中の経過監視をイオンビーム電流値で行うことにより、上記1),2),3)の作用及び効果がある。
即ち、イオンビーム電流値の変動は成膜制御性の悪化を招く虞れがあり、これを改善する為に、経時的又は突発的に発生するイオンビーム電流値変動を監視することで、膜厚制御性が向上する。
【0118】
(付記)
又、本実施例は以下の実施の態様を含む。
【0119】
(付記1)イオン源からのイオンビームをターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる基板表面への薄膜形成装置であって、前記ターゲットの種類を設定するターゲット種類設定部と、前記基板表面へ堆積させる膜厚を設定する膜厚設定部と、加圧電圧設定部と、少なくとも、前記ターゲットの種類それぞれに於いて求められた前記基板表面への堆積速度とイオンビーム電流値との相関関係と、前記ターゲット種類設定部にて設定されたターゲットの種類、前記膜厚設定部に設定された膜厚とから積算イオンビーム電流値を求める積算イオンビーム電流値算出部と、該積算イオンビーム電流値算出部で求められた結果により積算イオンビーム電流値を設定する積算イオンビーム電流設定部とを備える薄膜形成装置。
【0120】
(付記2)イオン源からのイオンビームをターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる基板表面への薄膜形成方法であって、ターゲット種類設定手段によりターゲットの種類を設定し、膜厚設定手段により基板表面に堆積させる薄膜の膜厚を設定し、加圧電圧設定手段により加圧電圧を設定し、積算イオンビーム電流値算出部が、ターゲットの種類それぞれに於いて求められた基板表面への堆積速度とイオンビーム電流値との相関関係と、ターゲット種類設定部にて設定されたターゲットの種類、膜厚設定部に設定された膜厚とから、積算イオンビーム電流値を求める工程と、少なくとも前記積算イオンビーム電流値算出部で求められた結果により得られた積算イオンビーム電流値分のイオンビームを、前記ターゲット種類設定部にて設定された種類のターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる工程とを有する薄膜形成方法。
【符号の説明】
【0121】
5 スパッタリング室
6 ウェーハ(基板)
9 ターゲット
21 実験データテーブル
34 イオン源室
35 イオン照射口
38 フィラメント
39 フィラメント電源
40 アーク電源
41 関数群
42 接地電極
43 減速電源
44 減速電極
45 抵抗
46 加速電源
47 加速電極
55 CPU
56 ターゲット種類設定部
57 目標膜厚設定部
58 加速電圧設定部
59 記憶部
61 積算イオンビーム電流値算出部
62 積算イオンビーム電流値設定部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
イオン源からのイオンビームをターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる基板表面への薄膜形成装置であって、前記ターゲットの種類を設定するターゲット種類設定部と、前記基板表面へ堆積させる膜厚を設定する膜厚設定部と、少なくとも、前記ターゲットの種類それぞれに於いて求められた前記基板表面への堆積速度とイオンビーム電流値との相関関係と、前記ターゲット種類設定部にて設定されたターゲットの種類、前記膜厚設定部に設定された膜厚とから積算イオンビーム電流値を求める積算イオンビーム電流値算出部と、該積算イオンビーム電流値算出部で求められた結果により積算イオンビーム電流値を設定する積算イオンビーム電流設定部とを備える薄膜形成装置。
【請求項2】
イオン源からのイオンビームをターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる基板表面への薄膜形成方法であって、ターゲット種類設定手段により前記ターゲットの種類を設定し、膜厚設定手段により前記基板表面に堆積させる薄膜の膜厚を設定し、積算イオンビーム電流値算出部が、前記ターゲットの種類それぞれに於いて求められた基板表面への堆積速度とイオンビーム電流値との相関関係と、前記ターゲット種類設定部にて設定されたターゲットの種類、前記膜厚設定部に設定された膜厚とから、積算イオンビーム電流値を求める工程と、少なくとも前記積算イオンビーム電流値算出部で求められた結果により得られた積算イオンビーム電流値分のイオンビームを、前記ターゲット種類設定部にて設定された種類のターゲットに向けて照射し、イオンビームによりスパッタされた粒子を基板表面に堆積させる工程とを有する薄膜形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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