説明

薄膜形成装置

【課題】昇華性の成膜材料6からの安定して分子を放出すると共に、成膜材料6の歩留まりを向上する。
【解決手段】薄膜形成装置は、成膜材料6に向けて電子束を照射する電子銃5を備え、この電子銃5から成膜材料6に電子束を照射し、成膜材料6から分子を放出して個体表面に被着させ、薄膜を形成するものであり、成膜材料6を回転させる回転機構4を備え、成膜材料6を回転しながらその表面に電子銃5から電子束を照射することにより、成膜材料6の表面に対する電子束の照射位置を変えながら分子を放射するものである。このような薄膜形成装置は、特に成膜材料6の表面に対し電子銃5から斜めに電子束を照射する形式のものに適用するとその効果が大きい。また、成膜材料6は電子束の照射により溶融せずに分子を放出する昇華性のものからなるものに適用するのが最適である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置、スパッタリング装置等により、真空中で個体表面上に薄膜を形成する装置に関し、より具体的には、電子銃を備えてこの電子銃から電子束を成膜材料に照射して衝撃することにより成膜材料から分子を放出し、この分子を半導体ウエハやガラス等からなる基板上に被着させて薄膜を形成する薄膜形成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、真空蒸着装置では、クヌードセンセル等の分子線源から薄膜を形成するための材料の分子を放射し、これを基板上の成膜面に堆積させて薄膜を形成する。さらに高温で分子を放出するカーボン等のような薄膜形成装置では、電子銃を使用し、この電子銃から電子束を成膜材料に照射し、その衝撃で成膜材料から分子を放出して薄膜を形成する。
【0003】
成膜材料の中には、溶融せず、分子を放出するカーボンや炭化珪素等のものがある。これらカーボンや炭化珪素等の成膜材料は、クヌードセンセルを使用してるつぼの中の成膜材料を加熱して、電子銃からその成膜材料の表面に電子束を照射し、成膜材料の表面を電子衝撃して分子を放出させる。この分子はるつぼと対向して配置した固体表面である基板の表面に飛来して凝着し、薄膜を形成する。
【0004】
このよう昇華性を有し、分子を放出するときに溶融しない成膜材料を電子束の照射により電子衝撃して分子を放出させる成膜材料では、その表面の中で電子束が照射された個所からのみ分子が放出される。これにより、固体状の成膜材料はその表面の狭い一部のみに電子束が当たり、そこからのみ分子が放出され減っていく。このため、分子の放出が進むと狭い一部の個所のみが深くえぐれ、オーバーハング状態となって分子の放出位置と基板との間に陰を作り、分子が安定して放出されない。特に、電子束を成膜材料の表面に斜めから入射させて成膜するタイプの薄膜形成装置では、オーバーハング状態となって分子の放出位置と基板との間に陰を作るのが早い。
【0005】
このような問題は、単位時間当たりの膜厚増加量、いわゆる成膜レートが安定しないという問題に加え、成膜材料の表面から広く分子を放出することが出来ないことから、成膜材料の歩留まりが低く、成膜材料の利用効率を悪くする。この問題は特に成膜材料が高価ものからなるときは深刻な問題となる。
【特許文献1】特開2005−206914号公報
【特許文献2】特開2002−167659号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は前記従来の薄膜形成装置における課題に鑑み、昇華性の成膜材料に電子束を照射して分子を発生させる薄膜形成装置において、成膜材料からの安定して分子を放出することが出来ると共に、成膜材料の歩留まりを向上することが出来る薄膜形成装置を提供することを目的とする。
【0007】
本発明では、前記の目的を達成するため、成膜材料を回転しながら電子束を照射して分子を放出することにより、特に成膜材料の表面に対して斜めに電子束を照射して分子を発生させる蒸発源に適用して有効なものとした。
【0008】
すなわち、本発明による薄膜形成装置は、成膜材料6に向けて電子束を照射する電子銃5を備え、この電子銃5から成膜材料6に電子束を照射し、成膜材料6から分子を放出して個体表面に被着させ、薄膜を形成するものであり、成膜材料6を回転させる回転機構4を備え、成膜材料6を回転しながらその表面に電子銃5から電子束を照射することにより、成膜材料6の表面に対する電子束の照射位置を変えながら分子を放射するものである。このような薄膜形成装置は、特に成膜材料6の表面に対し電子銃5から斜めに電子束を照射する形式のものに適用するとその効果が大きい。また、成膜材料6は電子束の照射により溶融せずに分子を放出する昇華性のものからなるものに適用するのが最適である。
【0009】
このような薄膜形成装置では、成膜材料6を回転しながらその表面に電子銃5から電子束を照射することにより、成膜材料6の表面に対する電子束の照射位置を変えながら分子を放射するため、成膜材料6からの分子の放出個所が常に変わることになる。このため、成膜材料6の表面は特定の一個所だけが減ることなく、平準化されるため、一個所に深いえぐれが生じない。このため、分子放出点と基板との間に陰になる部分が生じることなく、安定して分子の放出が行われる。また、成膜材料の表面の減りが広い範囲に平準化されるで、成膜材料の歩留まりも高くなる。
【0010】
特に、成膜材料6の表面に対し電子銃5から斜めに電子束を照射する形式のものでは、成膜材料6を回転しながらその表面に電子銃5から電子束を照射することにより、相対的には成膜材料6の360゜全方向から電子束の照射がなされることになる。このため、一個所に深いえぐれが生じることがない。また、成膜材料の表面の広い範囲にその減りが平準化される。
【発明の効果】
【0011】
以上説明した通り、本発明による薄膜形成装置では、成膜材料6の表面の特定の一個所に深いえぐれが生じないため、安定して分子の放出が行われる。また、成膜材料6の減りがその表面の広い範囲に平準化されるで、成膜材料6の歩留まりも高くなる。これにより、基板の表面上に安定して良好な薄膜を形成することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明では、その目的を達成するため、成膜材料を回転しながらその表面に電子束を照射して分子を放出するようにした。
以下、本発明を実施するための最良の形態について、実施例をあげて詳細に説明する。
【0013】
図1は、薄膜形成装置、特に真空蒸着装置の例を示す概略断面図である。
真空ポンプ(図示せず)を含む真空排気システムにより高真空状態とされる真空チャンバ1の中にホルダ支持部2が設けられ、この下部にホルダ受け9が取り付けられている。このホルダ受け9には、その表面上に薄膜を形成する基板(図示せず)を装着したホルダ8が取り付けられる。
【0014】
このホルダ8の下方には、成膜材料の分子を放出する分子線源3が設けられている。この分子線源3は、クヌードセンセルと呼ばれる形式のもので、成膜材料6を収納したるつぼを、その周囲に配置したヒータ14で囲んだ構造となっている。符合は付していないが、ヒータ14の周囲には熱を反射するリフレクタや高温で部材の保護を図るための冷却器であるシュラウド等が配置されている。
【0015】
るつぼ13の開口部である分子放出側には、回転駆動機構11により回転され、るつぼ13の開口部である分子放出口を開閉するシャッタ10が設けられている。
るつぼ13は、軸受に回転自在に支持された軸15の先端に設けられており、図示の実施例では、この軸15の中心軸は、ホルダ8に取り付けられた基板の成膜面と直交する仮想の直線に対して斜め10゜の角度をもって設置されている。るつぼ13に収納された成膜材料6の表面は、薄膜形成の開始前において前記軸15の中心軸とほぼ直交する。
なおこの角度は任意であって、分子線源3のレイアウトの問題や基板の成膜面に形成する薄膜の結晶配向等、様々な観点から適宜設定するものであり、10゜に限られるものではない。角度0゜、つまりるつぼ13に収納された成膜材料6の表面と基板の成膜面と正対させることも一般的である。
【0016】
さらにこの分子線源3には、前記軸15を回転させる回転機構4が設けられている。図示の実施例として例示した回転機構4は、歯車伝達機構からなる。すなわち前記るつぼ13の軸15と平行に回転自在に軸16が支持され、これら軸15と軸16とに設けられた一対の歯車が互いに噛み合い、伝達機構12を構成している。さらに前記軸16は回転機構7により回転される。回転機構7で軸16を回転することにより、この回転を伝達機構12を介して軸15に伝達し、その先端のるつぼ13とその中の成膜材料6を回転させる。
【0017】
真空チャンバ1の側方には、電子束を発射する電子銃5が設けられている。この電子銃5は、熱電子を発生させ、これを収束すると共に加速電圧で加速して発射し、加速された電子束として前記るつぼ13に設けられた薄膜材料6の表面に照射するものである。図示の実施例では、電子銃5は、その電子束の照射方向が分子線源3のるつぼ13の軸15の中心軸、つまり薄膜材料6の回転中心軸に対して37゜の角度をなすように設置されている。この角度は必要に応じて設定するもので、37゜に限られるものではない。
【0018】
このような装置では、るつぼ13に収納した成膜材料6を回転させながら、その表面に電子銃5から斜めに電子束を照射することが出来る。
このような場合に成膜材料6を回転させずに電子束を照射すると、図2(b)に示すように、固体状の成膜材料6の表面の狭い一部のみに電子束が当たり、そこからのみ分子が放出される。このため、分子放出時に溶融しない昇華性の成膜材料6では、分子の放出が進むと図2(b)に二点鎖線で示すように、狭い一部の個所のみが深くえぐれ、オーバーハング状態となる。これにより、分子の放出位置と基板との間に陰が生じ、分子が安定して放出されない。
【0019】
これに対して成膜材料6を回転させながら電子束を照射すると、相対的には成膜材料6の360゜全方向から電子束の照射がなされることになる。このため、図2(a)に示すように、一個所だけが深くえぐれることがない。また、図2(a)に二点鎖線で示すように、成膜材料6の表面の減りが広い範囲に平準化される。これにより、オーバーハング状態とならないため、安定して分子の放出が行われる。
【0020】
図1に示すような薄膜形成装置を使用し、成膜材料6としてカーボンを使用して成膜実験を行った。分子線源3とその成膜材料6、電子銃5、基板ホルダ8に保持した基板の成膜面及び水晶振動子膜厚計17の位置関係は図3の通りである。基板加熱温度は600℃、成膜材料は直径20mm、厚さ13mmでありヒータ電源は24V×8Aとした。
【0021】
同じ条件で成膜材料6を回転して成膜したのと、比較のために成膜材料6を回転しないで成膜したのと2つの試験を行い、成膜時間毎の成膜レート、すなわち単位時間当たりの成膜厚さを図4と図5に示した。図4が成膜材料6を回転したとき、図5が成膜材料6を回転しないときの結果である。
この結果から、明らかに成膜材料6を回転したときの図4では、測定時間毎の成膜レートが安定しているのに対し、成膜材料6を回転しないときの図5では、測定時間毎の成膜レートが安定せずに、ばらついているのが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】本発明による薄膜形成装置の一実施例を示す概略縦断側面図である。
【図2】同実施例において、成膜材料を回転しながら電子束を照射して分子を放出した場合と成膜材料を回転せずに電子束を照射して分子を放出した場合との成膜材料の減り具合を概念的に示す断面図である。
【図3】同実施例においてカーボンの成膜実験を行ったときの各機器の配置関係を示す概略縦断部分側面図である。
【図4】前記カーボンの成膜実験において、成膜材料を回転しながら電子束を照射して成膜を行ったときの時間当たりの成膜レートの例を示すグラフである。
【図5】前記カーボンの成膜実験において、成膜材料を回転せずに電子束を照射して成膜を行ったときの時間当たりの成膜レートの例を示すグラフである。
【符号の説明】
【0023】
4 回転機構
5 電子銃
6 成膜材料

【特許請求の範囲】
【請求項1】
成膜材料(6)に向けて電子束を照射する電子銃(5)を備え、この電子銃(5)から成膜材料(6)に電子束を照射し、成膜材料(6)から分子を放出して個体表面に被着させ、薄膜を形成する薄膜形成装置において、成膜材料(6)を回転する回転機構(4)を備え、成膜材料(6)を回転しながらその表面に電子銃(5)から電子束を照射することにより、同成膜材料6の表面に対する電子束の照射位置を変えながら分子を放出することを特徴とする薄膜形成装置。
【請求項2】
成膜材料(6)の表面に対し電子銃(5)から斜めに電子束が照射されることを特徴とする請求項1に記載の薄膜形成装置。
【請求項3】
成膜材料(6)は電子束の照射により溶融せずに分子を放出する昇華性のものからなることを特徴とする請求項1または2に記載の薄膜形成装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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