説明

薄膜用塗布組成物

【課題】光学フィルム上に生産性良く成膜でき、光学的な透明性と防汚性とに優れた薄膜の提供。
【解決手段】少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖と少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖とを含んで構成されるブロックポリマー、加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー、シリル基加水分解脱水縮合触媒、水、有機溶媒、とを少なくとも含むことを特徴とする薄膜用塗布組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は反射防止膜の表面保護層に用いられる塗布組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ディスプレイ装置などの表示機器の視認性を高めるために用いられる反射防止膜は、従来は複数層を積層してなるものが主流であった。これは屈折率が1.4〜1.6である低屈折率層(フッ素系材料、シリカ系材料、有機ポリマー等)と、屈折率1.6以上である高屈折率層(金属酸化物を含有する材料等)とを交互に2層以上積層することによって可視光領域での反射率を低下させるものである。しかしながらこのような複数層からなる反射防止膜は、その製造プロセスが煩雑であることはもちろんであり、さらに可視光領域内での反射率の均一性に乏しく、望まない色合いやギラツキが発生するという問題があった。
【0003】
可視光領域全体にわたり反射率を均一に低く抑えるには、下記のような単層からなる反射防止膜が適している。すなわち、ガラス(屈折率1.52程度)、ポリメチルメタクリレート(屈折率1.49程度)、ポリエチレンテレフタレート(屈折率1.54〜1.67程度)、トリアセチルセルロース(屈折率1.49程度)等のような基板上に単層の低屈折率層を直接設けるか、あるいは基材上に有機系あるいは無機系のハードコート層(屈折率1.45〜1.70程度)を積層した上で単層の低屈折率層を設けることによって、可視光領域内での反射率を均一に低下させるというものである。この場合、低屈折率層の屈折率の値は、用いる基材(ハードコート層が存在する場合はハードコート層)の屈折率の平方根に近ければ近いほど優れた反射防止膜となる。つまり低屈折率層の屈折率を1.40未満、より好ましくは1.30未満に設定することで、反射防止性能を向上させることができる。
【0004】
このような非常に低い屈折率を有する層として、シリカ微粒子からなり、内部に微小な空隙を有するかあるいは表面に微小な凹凸を有する低屈折率層が提案されている(例えば、特許文献3参照)。これらは屈折率1.40未満である層を簡便に形成可能という点では有用であるが、層内に空隙を有するために空隙内部に汚染物質が取り込まれやすく、防汚性に劣るという問題もあった。
【0005】
この問題を解決するために特許文献1では、ガス発泡剤を含んだ薄膜組成物を光学フィルム上に塗布し、紫外線や電子線で硬化させた後に加熱することにより、ガスを発生させて、独立気泡を薄膜中に導入している。しかし、光の散乱を生じないナノサイズの気泡は、気泡サイズを維持するためには高い内部圧が必要であり、そのため、気泡寿命が短く、凝集してマクロ気泡になりやすい。従って、光の散乱を増加しない微小サイズの気泡を、屈折率を明らかに低下させる量、高密度に導入することができないという問題があった。
【0006】
特許文献2では、含フッ素基を有するブロックとポリスチレンブロックからなるブロックコポリマーのミクロ相分離構造を利用して超臨界二酸化炭素を分散相に選択的に溶解させて膨潤させた後、マトリックスをガラス転移温度以下に冷却して固定化した後に二酸化炭素を除去することにより独立気泡をポリマー薄膜中に導入して屈折率を下げる技術が開示されているが、超高圧、回分式の方法であって、生産性が低いという問題がある。
【0007】
非特許文献1では、ポリイミド−ポリプロピレングリコールを用いて、ポリイミドの熱変形温度よりも低い250℃で、ポリプロピレングリコール部分を熱分解することにより、ナノサイズの独立気泡をポリマー膜に導入できることが開示されている。しかしながら、この方法では、高温で長時間(10時間)加熱する必要があり、耐熱性の低い光学フィルム上では実施することができないという問題があった。
【0008】
以上の通り、従来の技術では、光学フィルム上に生産性良く成膜でき、光学的な透明性と防汚性とに優れた低屈折率薄膜は得られていない。
【特許文献1】特許3549108号公報
【特許文献2】特開平5−72727号公報
【特許文献3】特許2913715号公報
【非特許文献1】Chem.Mater.,1997,9,p105
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、光学フィルム上に生産性良く成膜でき、光学的な透明性と防汚性とに優れた低屈折率薄膜を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖と少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖とを含んで構成されるブロックポリマー、加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー、シリル基加水分解脱水縮合触媒、水、有機溶媒、とを少なくとも含むことを特徴とする薄膜用塗布組成物が上記課題を解決し得ることを見出し、この知見に基づいて本発明を完成させるに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、
(1)少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖と少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖とを含んで構成されるブロックポリマー、加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー、シリル基加水分解脱水縮合触媒、水、有機溶媒、とを少なくとも含むことを特徴とする薄膜用塗布組成物。
(2)さらに無機微粒子を含むことを特徴とする上記(1)記載の薄膜用塗布組成物。
(3)上記(1)又は(2)記載の薄膜用塗布組成物を用いて塗布成膜した後、半硬化を行い、開孔剤を含浸し、続いて全硬化を行った後に開孔剤を除去することを特徴とする薄膜の成膜方法。
(4)上記(3)記載の成膜方法により得られる反射防止膜。
である。
【発明の効果】
【0012】
本発明は、光学フィルム上に生産性良く成膜でき、光学的な透明性と防汚性とに優れた低屈折率薄膜を提供するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明について、以下に具体的に説明する。
最初に本発明の薄膜用塗布組成物について説明する。
本発明の少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖と少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖とを含んで構成されるブロックポリマーにおいて、少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖は、本発明の薄膜の成膜方法における開孔剤を選択的に含浸するために導入される。
【0014】
本発明の含フッ素ビニルモノマーは特に限定されないが、テトラフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、フッ化ビニル、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロアルコキシエチレン、パーフルオロアルキルエチレン、テトラフルオロエチレンオキシド、ヘキサフルオロプロピレンオキシド、パーフルオロアルキルエチレンオキシド、(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステル、α−フルオロ(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルなどフッ素系モノマーの(共)重合体が挙げられる。ここで(メタ)アクリル酸とはアクリル酸とメタクリル酸の両方を表す。これらは単独重合体でも2種類以上の共重合体でもよいし、他の任意のモノマーとの共重合体としてもよい。
【0015】
これらの中でも(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルは、重合体の製造方法が容易であり、特にリビングアニオン重合が容易であり、かつ得られる薄膜の光学的な透明性や防汚性が優れたものとなるので好ましい。
【0016】
(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルとは、炭素原子上に存在する一部または全ての水素原子をフッ素原子に置換した構造を有する直鎖状あるいは分岐状のアルコールと、(メタ)アクリル酸とが脱水縮合した構造をもつエステルである。該アルコールのα位、β位、ω位は必ずしも全てフッ素化されている必要はない。特にα位あるいはα位とβ位の両方がフッ素化されていないものはエステルの安定性が高いので好ましい。
【0017】
上記(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルの具体例として、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、2,2,2−トリフルオロエチルメタクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルメタクリレート、パーフルオロエチルメチルアクリレート、パーフルオロエチルメチルメタクリレート、パーフルオロプロピルメチルアクリレート、パーフルオロプロピルメチルメタクリレート、パーフルオロブチルメチルアクリレート、パーフルオロブチルメチルメタクリレート、パーフルオロペンチルメチルアクリレート、パーフルオロペンチルメチルメタクリレート、パーフルオロヘキシルメチルアクリレート、パーフルオロヘキシルメチルメタクリレート、パーフルオロヘプチルメチルアクリレート、パーフルオロヘプチルメチルメタクリレート、パーフルオロオクチルメチルアクリレート、パーフルオロオクチルメチルメタクリレート、パーフルオロノニルメチルアクリレート、パーフルオロノニルメチルメタクリレート、パーフルオロデシルメチルアクリレート、パーフルオロデシルメチルメタクリレート、パーフルオロウンデシルメチルアクリレート、パーフルオロウンデシルメチルメタクリレート、パーフルオロドデシルメチルアクリレート、パーフルオロドデシルメチルメタクリレート、パーフルオロトリデシルメチルアクリレート、パーフルオロトリデシルメチルメタクリレート、パーフルオロテトラデシルメチルアクリレート、パーフルオロテトラデシルメチルメタクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルアクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロエチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロエチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロプロピル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘプチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロノニル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロノニル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロウンデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロウンデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロドデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロドデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロトリデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロトリデシル)エチルメタクリレート、2−(パーフルオロテトラデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロテトラデシル)エチルメタクリレートなどが挙げられる。これらの中でも、2,2,2−トリフルオロエチルアクリレート、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピルアクリレート、パーフルオロエチルメチルアクリレート、パーフルオロプロピルメチルアクリレート、パーフルオロブチルメチルアクリレート、パーフルオロペンチルメチルアクリレート、パーフルオロヘキシルメチルアクリレート、パーフルオロヘプチルメチルアクリレート、パーフルオロオクチルメチルアクリレート、パーフルオロノニルメチルアクリレート、パーフルオロデシルメチルアクリレート、パーフルオロウンデシルメチルアクリレート、パーフルオロドデシルメチルアクリレート、パーフルオロトリデシルメチルアクリレート、パーフルオロテトラデシルメチルアクリレート、2−(トリフルオロメチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロエチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロプロピル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロブチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロペンチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘキシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロヘプチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロオクチル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロノニル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロウンデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロドデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロトリデシル)エチルアクリレート、2−(パーフルオロテトラデシル)エチルアクリレートが挙げられる。
【0018】
上記(メタ)アクリル酸エステルは単独で用いてもよいが、鎖長の異なるフルオロアルキル基を有する2種類以上、より好ましくは3種類以上、さらに好ましくは4種類以上の(メタ)アクリル酸エステルを用いて共重合体とした方が、開孔剤との親和性が向上して薄膜を製膜しやすくなる場合がある。
【0019】
本発明の少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖は、上記の(メタ)アクリル酸のフルオロアルキルエステルのみからなるポリマーであっても良いが、フッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルとの共重合体とすることが好ましい。
【0020】
フッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルは長鎖エステルである方がより好ましく、炭素数8以上のエステル、具体的には(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が好んで添加される。
【0021】
フッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルが添加される場合、含フッ素ポリマー中におけるフッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルの含有量は1〜80質量%、より好ましくは5〜50質量%、さらに好ましくは10〜30質量%である。
【0022】
次に本発明の少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖について説明する。
【0023】
本発明の少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖は、本発明の薄膜のマトリックスを形成する成分の一つとして導入される。
【0024】
本発明の加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーは、下記式(1)に表される化合物を挙げることができる。
【0025】
1SiR2n(OR33-n (1)
(式中R1は炭素−炭素二重結合を含む有機置換基を表す。R2、R3は各々独立に任意の有機置換基を表す。n=0〜2である。)
1の具体的な例としてはビニル基、アリル基、(メタ)アクリロキシメチル基、(メタ)アクリロキシエチル基、(メタ)アクリロキシプロピル基などが挙げられ、R2の具体的な例としてはメチル基、エチル基、フェニル基などが挙げられ、R3の具体的な例としてはメチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、2−メトキシエトキシ基、2−エトキシエトキシ基などが挙げられる。
【0026】
この中で特に好ましいものは、R1が(メタ)アクリロキシメチル基、(メタ)アクリロキシエチル基、(メタ)アクリロキシプロピル基であるビニルモノマーである。
【0027】
具体的に好適なものとして挙げられるのは、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、2−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、2−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。またこれらの中でも最も好ましいのは3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。これらを混合して用いることが好ましい。
【0028】
少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖は、上記の加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーのみから構成されても良いが、本発明で好んで添加される無機微粒子との親和性向上のために無機微粒子と共有結合を形成することが可能な官能基を有するコモノマーを含んでいることが好ましい。
【0029】
上記式(1)で表される化合物以外であって、少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖に含まれることが好ましいモノマー単位としては、例えばヒドロキシル基を有する(メタ)アクリル酸エステル、エポキシ環を有する(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸のt−ブチルエステルやアダマンチルエステル(これらは容易に加水分解されカルボキシル基を生成し、下層の低屈折率層との密着性に寄与する)なども使用可能である。
【0030】
また、少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖は、上記の加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーのみから構成されても良いが、前記のフッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルを含む場合は種々の塗布溶媒に対する溶解性が向上して取り扱いが容易になるほか、防汚性がさらに向上する場合があるので好ましい。
【0031】
フッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルが長鎖エステルである方がこの効果が発現しやすい傾向にあり、炭素数8以上のエステル、具体的には(メタ)アクリル酸オクチル、(メタ)アクリル酸ノニル、(メタ)アクリル酸デシル、(メタ)アクリル酸ウンデシル、(メタ)アクリル酸ドデシル、(メタ)アクリル酸トリデシル、(メタ)アクリル酸テトラデシル、(メタ)アクリル酸ペンタデシル、(メタ)アクリル酸ヘキサデシル、(メタ)アクリル酸ヘプタデシル、(メタ)アクリル酸オクタデシル等が好ましい。
【0032】
少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖中における前記無機微粒子との親和性向上のために無機微粒子と共有結合を形成することが可能な官能基を有するコモノマー及びフッ素を含まない(メタ)アクリル酸エステルの含有率は1〜80質量%、より好ましくは5〜70質量%、さらに好ましくは10〜60質量%である。
【0033】
本発明の少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖の分子量は特に制限を受けないが、重量平均分子量の値が500〜1000000、より好ましくは1000〜100000、さらに好ましくは5000〜50000の範囲が適している。
【0034】
また、少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖の分子量は特に制限を受けないが、重量平均分子量の値が500〜1000000、より好ましくは1000〜100000、さらに好ましくは5000〜50000の範囲が適している。
【0035】
少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖の分子量に対する少なくとも含フッ素モノマー単位を有するポリマー鎖の分子量の比は0.05〜20、好ましくは0.1〜5、さらに好ましくは0.2〜2である。この範囲で光学的な透明性と防汚性とに優れた低屈折率薄膜が得られる。
【0036】
本発明のブロックコポリマーの重合方法は、特に限定されず、公知の方法を用いることが可能であるが、重合によって得られてくる重量平均分子量と数平均分子量の比が、1.01〜2.00、好ましくは、1.01〜1.50、さらに好ましくは1.01〜1.20の範囲入る重合方法が好ましく、具体的には、リビングアニオン重合法を例示することができる。
【0037】
重合は、−100℃〜20℃の温度範囲で行われるのが好ましい。重合温度の下限は、用いるビニルモノマーの反応性により異なるが、少なくとも重合が完結する温度である必要があり、通常、−100℃以下でも重合進行するが、反応速度が遅くなる。20℃以上では、移動反応や、停止反応等の副反応が起こり、目的とする構造制御された重合体を得ることが困難となる。重合温度は、重合反応中一定である必要はなく、重合反応の進行に従い任意の速度で上昇させてもかまわない。例えば、添加するビニルモノマーを2分割し、最初低温で重合を行った後、昇温してからさらにビニルモノマーを添加して重合を行うこともできる。
【0038】
本発明に用いられるビニルモノマーの重合溶媒に対する濃度は、特に制限されないが、通常5〜40質量%の範囲である。
【0039】
ブロックコポリマーを製造するために、含フッ素ビニルモノマーと加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーの重合させる順番は、どちらが先であっても構わないが、好ましくは、含フッ素ビニルモノマー単位からなるポリマー鎖(X)の方が、水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー鎖(Y)よりも、重合溶媒に対する溶解性が低い傾向があるため、水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーを先に重合させておいて、続いて含フッ素ビニルモノマーを添加する。なお、各ブロックにコモノマーを入れたい場合であって、ランダムに入れたい場合は、それぞれの含フッ素ビニルモノマーまたは水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーにコモノマーを混合して重合系に添加することが好ましく、また、ブロックに入れたい場合は、それぞれの含フッ素ビニルモノマーまたは水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーの添加とコモノマーの添加を逐次的に行って各ブロックをブロック構造にすることが好ましい。
【0040】
本発明に用いる重合溶媒は、重合反応に関与せず、かつポリマーと相溶性のある極性溶媒であれば、特に制限されず、具体的には、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、トリオキサン等のエーテル系化合物、N,N’−テトラメチルエチレンジアミン、ヘキサメチルホスホリックトリアミド(HMPA)等の3級アミン等を例示することができ、特にテトラヒドロフランが好ましい。また、これらの溶媒は、1種単独で、または2種以上の混合溶媒として用いることができる。
【0041】
また、極性の低い脂肪族、芳香族又は脂環式炭化水素化合物であっても、ポリマーと比較的相溶性があれば、極性溶媒と組み合わせることにより使用することができる。具体的には、トルエンとテトラヒドロフラン等のエーテル系溶媒の組み合わせも使用することができ、この場合、エーテル系溶媒対してトルエンを50体積%以下用いるのが好ましい。
【0042】
本発明において用いられる重合開始剤は、アルカリ金属又は有機アルカリ金属からなり、アルカリ金属としては、リチウム、ナトリウム、カリウム、セシウム等を例示することができ、有機アルカリ金属としては、上記アルカリ金属のアルキル化物、アリル化物、アリール化物等を使用することができ、具体的には、エチルリチウム、n−ブチルリチウム、sec−ブチルリチウム、t−ブチルリチウム、エチルナトリウム、リチウムビフェニル、リチウムナフタレン、リチウムトリフェニル、ナトリウムナフタレン、カリウムナフタレン、α−メチルスチレンナトリウムジアニオン、1,1−ジフェニルヘキシルリチウム、1,1−ジフェニル−3−メチルペンチルリチウム、1,4−ジリチオ−2−ブテン、1,6−ジリチオヘキサン、ポリスチリルリチウム、クミルカリウム、クミルセシウム等を挙げることができ、これらの化合物は、1種単独で、または2種以上を混合して用いることができる。
【0043】
本発明のブロックコポリマーの重合方法においては、必要に応じて、鉱酸のアルカリ金属塩又はアルカリ土類金属塩等よりなる添加剤を、重合開始時、または重合中に添加することができる。そのような添加剤として、具体的には、ナトリウム、カリウム、リチウム、バリウム、マグネシウムの硫酸塩、硝酸塩、ホウ酸塩等の鉱酸塩やハロゲン化物を例示することができ、より具体的にはリチウムやバリウムの塩化物、臭化物、ヨウ化物や、ホウ酸リチウム、硝酸マグネシウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム等を挙げることができるが、これらの中でも、リチウムのハロゲン化物、例えば、塩化リチウム、臭化リチウム、ヨウ化リチウム又はフッ化リチウム、特に塩化リチウムを使用することが好ましい。
【0044】
特に本発明の加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーを用いてリビングアニオン重合を行う場合には、科学文献、Macromolecules,1992,Vol.25,No.5,p1391(Ozaki,Hirao,Nakahama)に開示された技術に従って、テトラヒドロフラン中で1,1−ジフェニルエチレンとn−ブチルリチウムを用いて開始剤を形成し、塩化リチウム存在下で重合を行う。
【0045】
得られた本発明のブロックコポリマーは、公知の再沈精製によって精製して用いるが、重合後にアニオンリビング末端を公知の方法によって失活させた後、得られる重合液をそのまま本発明の表面保護層用塗布組成物に用いることが好ましい。
【0046】
次に本発明の加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーについて説明する。
【0047】
本発明の加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーは、上記のブロックコポリマーと混合して組成物として用いられ、上記のブロックコポリマーが有する加水分解脱水縮合可能なシリル基と加水分解脱水縮合を行うことで含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖を含み、且つ多官能の高架橋性を有するポリマーを形成し、これが薄膜の機械的強度に優れるマトリックス層となる。
【0048】
本発明の加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーは、上記ブロックコポリマーの箇所で記載した加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーと同じモノマーを用いることができる。具体的に好適なものとして挙げられるのは、アクリロキシメチルトリメトキシシラン、メタクリロキシメチルトリメトキシシラン、アクリロキシメチルトリエトキシシラン、メタクリロキシメチルトリエトキシシラン、2−アクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−メタクリロキシエチルトリメトキシシラン、2−アクリロキシエチルトリエトキシシラン、2−メタクリロキシエチルトリエトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−アクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシランである。またこれらの中でもより好ましいものは3−アクリロキシプロピルトリメトキシシラン、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシランである。これらを混合して用いることが好ましい。
【0049】
本発明の加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーの添加量は、上記ブロックコポリマーに対する質量比として、0.01〜100、好ましくは0.1〜10、より好ましくは0.2〜5である。この範囲で光学的に透明であって、層の屈折率が低く、機械的強度においても満足する薄膜を与える。
【0050】
本発明の薄膜用塗布組成物は、少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖と少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖とを含んで構成されるブロックポリマー及び加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー以外に、ビニル基含有モノマーが添加されていることが好ましい。
【0051】
上記ビニル基含有モノマーとしては、特に限定されないが、(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリレート系のモノマーが好ましい。
【0052】
好ましい単官能(メタ)アクリレートの具体例は、メチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、ペンチル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸アルキルエステル類、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートなどの水酸基を有する(メタ)アクリル酸エステル類が挙げられる。さらに、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソオクチルオキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシトリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート、3、4−エポキシシクロヘキシルメチル(メタ)アクリレート等の末端にエポキシ基を有する(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリル酸ダイマー類、無水マレイン酸やその誘導体などの不飽和ジカルボン酸なども使用し得る。このようなモノマーは単独で用いても、または2種類以上で混合して用いてもよい。
【0053】
また、好ましい多官能(メタ)アクリレートの具体例は、エチレンジ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、グリセリントリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート等が挙げられ、特に好ましくは、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレートである。これらは単独、または、混合物で使用することが好ましい。また、単官能モノマーと多官能モノマーとを混合して使用することが好ましい。
【0054】
これらの少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖と少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖とを含んで構成されるブロックポリマー及び加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー以外に添加されるビニル基含有モノマーの量比は、少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖と少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖とを含んで構成されるブロックポリマー及び加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーの合計質量に対して、0.01〜10、好ましくは0.1〜5である。この範囲で光学的に透明であって、層の屈折率が低く、機械的強度においても満足する薄膜を与える。
【0055】
さらに本発明の薄膜塗布組成物中のポリマー及びモノマーの全質量に対するブロックポリマー中の少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖の質量比は0.01〜0.7、好ましくは0.05〜0.5、より好ましくは0.1〜0.4である。この範囲で光学的に透明であって、層の屈折率が低く、機械的強度においても満足する低屈折率薄膜を与える。
【0056】
本発明のシリル基加水分解脱水縮合触媒は、金属キレート化合物、酸性化合物(有機酸、無機酸)、アルカリ性化合物(有機塩基、無機塩基)を挙げることができる。
【0057】
金属キレート化合物としては公知の加水分解脱水縮合触媒を用いることができるが、具体例としては、トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)チタン、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)チタン、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)チタン、テトラキス(アセチルアセトナート)チタン、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)チタン、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)チタン、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)チタン、テトラキス(エチルアセトアセテート)チタン、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)チタン、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)チタン、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)チタンなどのチタンキレート化合物;トリエトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、テトラキス(アセチルアセトナート)ジルコニウム、トリエトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−i−プロポキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−n−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−sec−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリ−t−ブトキシ・モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジエトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−i−プロポキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−n−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−sec−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ジ−t−ブトキシ・ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノエトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−i−プロポキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−n−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−sec−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ−t−ブトキシ・トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、テトラキス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、モノ(アセチルアセトナート)トリス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、ビス(アセチルアセトナート)ビス(エチルアセトアセテート)ジルコニウム、トリス(アセチルアセトナート)モノ(エチルアセトアセテート)ジルコニウムなどのジルコニウムキレート化合物;トリス(アセチルアセトナート)アルミニウム、トリス(エチルアセトアセテート)アルミニウムなどのアルミニウムキレート化合物;などを挙げることができる。
【0058】
有機酸としては、例えば、酢酸、プロピオン酸、ブタン酸、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、シュウ酸、マレイン酸、メチルマロン酸、アジピン酸、セバシン酸、没食子酸、酪酸、メリット酸、アラキドン酸、シキミ酸、2−エチルヘキサン酸、オレイン酸、ステアリン酸、リノール酸、リノレイン酸、サリチル酸、安息香酸、p−アミノ安息香酸、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸、ギ酸、マロン酸、スルホン酸、フタル酸、フマル酸、クエン酸、酒石酸などを挙げることができる。
【0059】
無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、フッ酸、リン酸などを挙げることができる。
【0060】
有機塩基としては、例えば、ピリジン、ピロール、ピペラジン、ピロリジン、ピペリジン、ピコリン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、ジメチルモノエタノールアミン、モノメチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ジアザビシクロオクラン、ジアザビシクロノナン、ジアザビシクロウンデセン、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイドなどを挙げることができる。
【0061】
無機塩基としては、例えば、アンモニア、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウムなどを挙げることができる。
【0062】
また、光や熱によって酸や塩基を生成する化合物も用いることができる。光により酸を発生するものとしては、イオン性化合物と非イオン性化合物がある。イオン性化合物としては、重金属、ハロゲンイオンを含まないものがよく、トリオルガノスルホニウム塩系化合物が好ましい。具体的には、トリフェニルスルホニウムの、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、や1−ジメチルチオナフタレンのメタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、1−ジメチルチオ−4−ヒドロキシナフタレンの、メタンスルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、1−ジメチルチオ−4,7−ジヒドロキシナフタレンの、メタンスルホン酸塩、トリフルオロメタンスルホン酸塩、カンファースルホン酸塩、p−トルエンスルホン酸塩、などが挙げられる。非イオン性の光酸発生剤としては、ハロゲン含有化合物、ジアゾケトン化合物、ジアゾメタン化合物、スルホン化合物、スルホン酸エステル化合物、カルボン酸エステル化合物、リン酸エステル化合物、スルホンイミド化合物、スルホンベンゾトリアゾール化合物等を用いることができる。
【0063】
光塩基発生剤としては、コバルトなど遷移金属錯体、オルトニトロベンジルカルバメート類、α,α−ジメチル−3,5−ジメトキシベンジルカルバメート類、アシルオキシイミノ類などを例示することができる。
【0064】
光照射により発生する塩基の種類としては有機、無機の塩基のいずれの場合も好ましく用いることができるが、好ましい光塩基発生剤の具体例として、遷移金属錯体としては、ブロモペンタアンモニアコバルト過塩素酸塩、ブロモペンタメチルアミンコバルト過塩素酸塩、ブロモペンタプロピルアミンコバルト過塩素酸塩、ヘキサアンモニアコバルト過塩素酸塩、ヘキサメチルアミンコバルト過塩素酸塩、ヘキサプロピルアミンコバルト過塩素酸塩などがあげられる。
【0065】
光酸発生剤または光塩基発生剤の添加量は、ブロックコポリマーに対して、0.001〜20質量%が好ましく、0.01〜10質量%がさらに好ましい。
【0066】
これら触媒のうち、有機塩基、無機塩基、有機酸、無機酸が好ましく、より好ましくは有機酸を挙げることができる。これらの触媒は、1種あるいは2種以上を同時に使用してもよい。有機酸としては、トリフルオロメタンスルホン酸、p−トルエンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、モノクロロ酢酸、ジクロロ酢酸、トリクロロ酢酸、トリフルオロ酢酸が好ましく、特に好ましくはトリフルオロメタンスルホン酸である。
【0067】
本発明のシリル基加水分解脱水縮合触媒は、薄膜用塗布組成物に含まれる全ての加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位質量100質量部に対して、0.001質量部〜50質量部、好ましくは0.01質量部〜20質量部、さらに好ましくは0.1質量部〜10質量部である。この範囲で光学的に透明であって、層の屈折率が低く、機械的強度においても満足する薄膜を与える。
【0068】
本発明の薄膜用塗布組成物に含まれる水は、薄膜用塗布組成物に含まれる全ての加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位質量100質量部に対して、1質量部〜100000質量部、好ましくは5質量部〜10000質量部、さらに好ましくは10質量部〜1000質量部である。この範囲で光学的に透明であって、層の屈折率が低く、機械的強度においても満足する薄膜を与える。
【0069】
本発明の薄膜用塗布組成物に含まれる有機溶媒は、加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー、シリル基加水分解脱水縮合触媒、水を好ましくは均一に相溶させ、且つ、塗布した際に期待する膜厚及び膜質が得られる有機溶剤であれば特に限定されないが、具体的には、炭素数1〜6の一価アルコール、炭素数1〜6の二価アルコール、グリセリンなどのアルコール類の他、ホルムアミド、N−メチルホルムアミド、N−エチルホルムアミド、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジエチルホルムアミド、N−メチルアセトアミド、N−エチルアセトアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N,N−ジエチルアセトアミド、N−メチルピロリドンなどのアミド類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル、ジ(n−プロピル)エーテル、ジイソプロピルエーテル、ジグライム、1、4−ジオキサン、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテルなどのエーテル類、ギ酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸エチル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールジアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、炭酸ジエチル、炭酸エチレン、炭酸プロピレンなどのエステル類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルプロピルケトン、メチル(n−ブチル)ケトン、メチルイソブチルケトン、メチルアミルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノンなどのケトン類、アセトニトリル、プロピオニトリル、n−ブチロニトリル、イソブチロニトリルなどのニトリル類、ジメチルスルホキシド、ジメチルスルホン、スルホランなどが好適に用いられる。これらの中でもより好ましい溶媒は、炭素数1〜6の一価アルコール類またはエチレングリコールモノメチルエーテルやプロピレングリコールモノメチルエーテルなどのアルカノールエーテル類である。これらの溶媒は、本発明の目的を損なわない限り混合したり、他の任意の溶媒あるいは添加物を混合しても良い。
【0070】
本発明の薄膜用塗布組成物に含まれる有機溶媒は、上記ブロックコポリマー、加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー、シリル基加水分解脱水縮合触媒、水を好ましくは均一に相溶させ、且つ、塗布した際に期待する膜厚及び膜質が得られるように添加すればよいが、好ましくはブロックコポリマー100質量部に対して、1000質量部〜100000質量部、より好ましくは、10000質量部〜100000質量部である。この範囲で塗布成膜した際に下層との密着性が良く、且つ、膜の緻密性に優れ、膜厚も調整しやすい。
【0071】
本発明の薄膜用塗布組成物は、さらに無機微粒子を添加しておくことも好ましい。この無機微粒子は、薄膜の機械的強度を高くする効果を有する。無機微粒子の種類としては二酸化ケイ素(シリカ)微粒子、二酸化チタン微粒子、酸化アルミニウム微粒子、酸化ジルコニウム微粒子、炭酸カルシウム微粒子、硫酸バリウム微粒子、タルク、カオリンおよび硫酸カルシウム微粒子などを例示することができる。また無機微粒子が導電性を有していれば、帯電防止機能を付与することも可能である。導電性を有する無機微粒子としては亜鉛、スズ、インジウム、アンチモン、チタン、ガリウム、アルミニウム、ジルコニウム、モリブデン、セリウム、タンタル、イットリウムから選ばれる少なくとも1種の金属の酸化物あるいは複合酸化物からなる無機酸化物微粒子(代表的なものとしてITO(スズ含有酸化インジウム)微粒子、ATO(スズ含有酸化アンチモン)微粒子などがある)や、銅、銀、ニッケル、低融点合金(ハンダなど)の金属微粒子、各種のカーボンブラック、金属繊維、炭素繊維など公知のものが用いられる。これら微粒子の中でも特にシリカ微粒子が好ましい。また、シリカ微粒子がつながって鎖状または枝分かれした鎖状になったもの、複数のこれらの形状のものが凝集してブドウの房状になった形状のものも好ましい。屈折率をより低いものにするためにシリカ微粒子の内部に独立気泡を有する中空シリカ微粒子を用いることも好ましい。
【0072】
上記無機微粒子の平均粒子径は、0.01〜2μmであることが好ましく、0.02〜0.5μmであることがさらに好ましい。また無機微粒子は単独でも各々複数種を混合して用いても構わない。
【0073】
上記無機微粒子の添加量比は、上記ブロックコポリマーと加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーとの合計の質量に対して、0.01〜10、好ましくは0.05〜5、より好ましくは0.1〜2、さらに好ましくは0.2〜1、特に好ましくは0.3〜0.8の範囲である。この範囲において、薄膜の機械的強度を発現する。
【0074】
本発明の薄膜用塗布組成物は、塗布成膜する前に予め、加水分解脱水縮合可能なシリル基を加水分解や脱水縮合を進行させておくことが好ましい。上記ブロックコポリマーと加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーとがシロキサン結合を形成して共有結合で繋がる。反応の条件としては、上記薄膜用塗布組成物を室温〜100℃の範囲で10分間〜1週間の期間攪拌することで達成できる。また、前記無機微粒子を添加する場合もブロックコポリマーや加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーと無機微粒子とが共有結合を介して結合していることが好ましく、無機微粒子表面の官能基とシリル基とを反応させることによって共有結合を形成せしめる。この場合も反応の条件としては、室温〜100℃の範囲で10分間〜1週間の期間攪拌することで達成できる。
【0075】
なお、本発明の薄膜用塗布組成物は、後述の薄膜成膜方法における半硬化や全硬化において、加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーを重合硬化させるが、好ましくは放射線重合開始剤による重合硬化を行うために、放射線重合開始剤が添加されていることが好ましい。放射線重合開始剤は、加水分解脱水縮合可能なシリル基の加水分解や脱水縮合を進行させた後に添加して薄膜用塗布組成物となすことが好ましい。
【0076】
放射線重合開始剤の具体例としては、例えば、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、キサントン、フルオレノン、ベンズアルデヒド、フルオレン、アントラキノン、トリフェニルアミン、カルバゾール、3−メチルアセトフェノン、4−クロロベンゾフェノン、4,4' −ジメトキシベンゾフェノン、4,4' −ジアミノベンゾフェノン、ミヒラーケトン、ベンゾインプロピルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンジルジメチルケタール、1−(4−イソプロピルフェニル)−2−ヒドロキシ−2−メチルプロパン−1−オン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、チオキサントン、ジエチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2−メチル−1−〔4−(メチルチオ)フェニル〕−2−モリフォリノ−プロパン−1−オン、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)ブタン−1−オン、1−〔4−(2−ヒドロキシエトキシ)−フェニル〕−2−ヒドロキシ−2−メチル−1−プロパン−1−オンなどを挙げることができる。これらの化合物は、単独であるいは2種以上を併用することができる。
【0077】
上記放射線重合開始剤の添加量は、加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマーに対する質量比で、0.001〜0.1であり、好ましくは0.005〜0.05である。この範囲で光学的に透明であって、層の屈折率が低く、機械的強度においても満足する薄膜を与える。
【0078】
また、薄膜用塗布組成物には、さらに、着色剤(顔料、染料)、消泡剤、増粘剤、レベリング剤、難燃剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、酸化防止剤や改質用樹脂を添加してもよい。
【0079】
次に本発明の薄膜の成膜方法について説明する。
薄膜の成膜方法は、薄膜用塗布組成物を用いて塗布成膜した後、半硬化を行い、開孔剤を含浸し、続いて全硬化を行った後に開孔剤を除去することを特徴とする。
【0080】
まず、本発明の薄膜を塗布成膜する対象の基材は、前記塗布組成物を塗布成膜することができるものであれば特に限定されず、任意の形状をもつ金属、ガラス、セラミック、プラスチック等どのような基材でも用いることができる。特に好ましい基材としては、ディスプレイ等の表示材料に用いられる透明基板である。透明基板としては透明なガラス板や透明樹脂基板が挙げられ、透明樹脂基板がより好ましい。透明樹脂基板としては(メタ)アクリル樹脂板、(メタ)アクリル樹脂シート、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体樹脂板、スチレン−(メタ)アクリル酸メチル共重合体樹脂シート、ポリエチレンフィルム、ポリプロピレンフィルム、トリアセチルセルロース、セルロースアセテートプロピオネートなどのセルロースアセテート系フィルム、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレートなどのポリエステル系フィルム、ポリカーボネート系フィルム、ノルボネン系フィルム、ポリアリレート系フィルムおよびポリスルフォン系フィルムなどが挙げられる。
【0081】
本発明の塗布成膜における塗布方法は、浸漬、スピンコーター、ナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアロールコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スプレイコーター、ダイコーター等の公知の塗布法を用いて実施することができる。これらのうち、透明樹脂基板がフィルム状の場合、連続塗布が可能なナイフコーター、バーコーター、ブレードコーター、スクイズコーター、リバースロールコーター、グラビアロールコーター、スライドコーター、カーテンコーター、スプレイコーター、ダイコーター等の方法が好ましく用いられる。
【0082】
本発明の塗布成膜における成膜方法は、塗布を行った後、塗布組成物に含まれる溶媒を乾燥するために室温〜200℃の範囲で静置、送風、マイクロ波照射などを5秒〜10分間行う。これらの温度、時間などは使用する基材や溶媒の種類に応じて適宜決定される。
【0083】
本発明の薄膜の厚さは、10nm〜1000nmの範囲が好ましく、50nm〜200nmの範囲がより好ましい。この範囲で光学的に透明であって、層の屈折率が低く、機械的強度においても満足する薄膜を与える。
【0084】
本発明の薄膜成膜方法における半硬化は、薄膜用組成物が塗布された透明基材の塗布面に電磁波や電子線を照射することにより薄膜用塗布組成物中のビニル基を重合させる。この際、完全に硬化させずに部分硬化の段階で重合反応を停止させる。これにより、後述の開孔剤を含浸させる際に、マトリックス構造が安定化して、開孔剤を含浸させても薄膜形状が崩れず、且つ含フッ素基が凝集した微小分散相へより選択的に開孔剤を含浸することが可能となる。すなわち、紫外線照射や電子線照射等による硬化条件を基準に、硬化時間、硬化条件、または塗膜に与えるエネルギー積算量を変化させることにより硬化を一旦停止させる。一例として、紫外線照射による全硬化条件の照射線量の約約数〜数10%である。このようにして、完全には硬化していない(すなわち半硬化)状態の薄膜が形成される。
【0085】
なお、本発明の半硬化は、薄膜用組成物に熱重合開始剤を添加しておいて、乾燥や加熱条件を変化させることにより、完全に硬化する条件よりも硬化反応が抑えられる条件にすることで、実施することが好ましい。
【0086】
好ましい熱重合開始剤としては、有機アゾ化合物、有機ペルオキシド、及びベンズピナコールシリルエーテルのようなC−C切断開始剤が挙げられる。ペルオキソ化合物の適切な代表例としては、ジアシルペルオキシド、ペルオキシカルボン酸エステル、ペルオキシジカーボネート、ペルケタール、ジアルキルペルオキシド、ペルオキソカルボン酸及びそれらのエステル、ケトンペルオキシド及び/又はヒドロペルオキシド、特に、ジ(3,5,5−トリメチルヘキセノイル)ペルオキシド、ジデカノイルペルオキシド、ジラウロイルペルオキシド、ジベンゾイルペルオキシド、ジ(2−エチルヘキシル)ペルオキシジカルボネート、ジシクロへキシルペルオキソジカーボネート、ジ(4−tert−ブチルシクロヘキシル)ペルオキシジカルボネート、ジミリスチル・ペルオキシジカルボネート、ジアセチル・ペルオキシジカルボネート、ジ−tert−ブチル・ペルオキシオキサレート、及び、ビバリン酸、ネオデカン酸、又は2−エチルへキサン酸と、tert−ブチルヒドロペルオキシド、tert−アミルヒドロペルオキシド、クミルヒドロペルオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジヒドロペルオキシへキサン、1,3−ジ(2−ヒドロキシ−ペルオキシイソプロピル)ベンゼンとの間の反応生成物からのペルオキシカルボン酸エステルが挙げられる。特に適切な熱重合開始剤としては、アゾ化合物、特に、2,2'−アゾビス(4−メトキシ−2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、2,2'−アゾビス(2−メチル−ブチロニトリル)、2,2'−アゾビス(N−(2−プロペニル)−2−メチルプロピオンアミド)及び/又はジメチル2,2'−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、ジメチル2,2'−アゾイソブチレートが挙げられる。さらに適切な熱重合開始剤としては、ベンズピナコールシリルエーテルが挙げられる。
【0087】
これらの熱重合開始剤は1種又は2種以上混合して使用してもよい。これらの熱重合開始剤を使用する場合は前述の放射線重合開始剤に替えて添加する。熱重合重合開始剤は、加水分解脱水縮合可能なシリル基の加水分解や脱水縮合を進行させた後に添加して薄膜用塗布組成物となすことが好ましい。
【0088】
本発明の薄膜成膜方法における開孔剤の含浸は、上記半硬化薄膜に開孔剤を接触させることによって含浸させる。半硬化薄膜の表面に開孔剤を塗布する方法(吹き付け器機等を使用し塗布する方法、ロールコーター等で塗布する方法)や半硬化薄膜を開孔剤に浸漬させる方法、開孔剤を加圧注入する方法を用いることができる。開孔剤の含浸を容易にするために加熱することや超音波を照射することなども好ましく用いることができる。また、開孔剤を含浸する際に、前記の放射線重合開始剤や熱重合開始剤を開孔剤に混合しておくことが好ましい。
【0089】
本発明の薄膜成膜方法における開孔剤は、含ハロゲン系溶剤や極性溶剤が好ましく用いられる。好ましい極性溶剤としては、DMSO(ジメチルスルホキシド)、DMF(ジメチルホルムアミド)、ホルムアミド、アセトアミド、HMPA(ヘキサメチルリン酸トリアミド)、N−メチルピロリドン、スルホラン、ニトロメタンなどが挙げられる。また含ハロゲン系溶剤としては、含フッ素系溶剤が好んで用いられ、好ましい具体例としては、非プロトン性溶媒としては、例えば、パーフルオロベンゼン、ペンタフルオロベンゼン、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、1,4−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン等のポリフルオロ芳香族化合物、パーフルオロトリブチルアミン、パーフルオロトリプロピルアミン等のポリフルオロトリアルキルアミン化合物、パーフルオロデカリン、パーフルオロシクロヘキサン、パーフルオロ−1,3,5−トリメチルシクロヘキサン等のポリフルオロシクロアルカン化合物、パーフルオロ−2−ブチルテトラヒドロフラン等のポリフルオロ環状エーテル化合物、などが挙げられる。
【0090】
また、パーフルオロヘキサン、パーフルオロオクタン、パーフルオロデカン、パーフルオロドデカン、パーフルオロ−2,7−ジメチルオクタン、1,1,2−トリクロロ−1,2,2−トリフルオロエタン、1,1,1−トリクロロ−2,2,2−トリフルオロエタン、1,3−ジクロロ−1,1,2,2,3−ペンタフルオロプロパン、1,1,1,3−テトラクロロ−2,2,3,3−テトラフルオロプロパン、1,1,3,4−テトラクロロ−1,2,2,3,4,4−ヘキサフルオロブタン、パーフルオロ−1,2−ジメチルヘキサン、パーフルオロ−1,3−ジメチルヘキサン、2H,3H−パーフルオロペンタン、1H−パーフルオロヘキサン、1H−パーフルオロオクタン、1H−パーフルオロデカン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロヘキサン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロオクタン、1H,1H,1H,2H,2H−パーフルオロデカン、3H,4H−パーフルオロ−2−メチルペンタン、2H,3H−パーフルオロ−2−メチルペンタン、1H−1,1−ジクロロパーフルオロプロパン、1H−1,3−ジクロロパーフルオロプロパン等のポリフルオロアルカン化合物、などが挙げられる。
【0091】
また、プロトン性含フッ素溶媒も好ましく用いられ、トリフルオロエタノール、2,2,3,3,3−ペンタフルオロ−1−プロパノール、2−(パーフルオロブチル)エタノール、2−(パーフルオロヘキシル)エタノール、2−(パーフルオロオクチル)エタノール、2−(パーフルオロデシル)エタノール、2−(パーフルオロ−3−メチルブチル)エタノール、1H,1H,3H−テトラフルオロ−1−プロパノール、1H,1H,5H−オクタフルオロ−1−ペンタノール、1H,1H,7H−ドデカフルオロ−1−ヘプタノール、1H,1H,9H−ヘキサデカフルオロ−1−ノナノール、2H−ヘキサフルオロ−2−プロパノール、1H,1H,3H−ヘキサフルオロ−2−ブタノールなどの含フッ素アルコールが例示できる。
【0092】
これらの含フッ素溶媒は単独または混合して用いることが可能であるが、これらの他にも広範な化合物を用いることができる。
【0093】
なお、開孔剤は半硬化する前に添加することが好ましい。この場合は、本発明の薄膜用塗布組成物に含まれる有機溶媒よりも高い沸点を示す開孔剤を用いることが好ましい。
【0094】
本発明の薄膜成膜方法における全硬化は、放射線重合開始剤を添加した場合は、電磁波照射や電子線照射による硬化を行い、残留している放射線重合開始剤によって完全に硬化させることによって達成される。また、熱重合開始剤を添加した場合は、残留している熱重合開始剤によって開孔剤含浸後に加熱することによって完全に硬化できる。
【0095】
本発明の薄膜成膜方法における開孔剤の除去は、硬化後の薄膜成膜を有する部材(光学フィルム上に薄膜を成膜した部材等)を加熱空気と接触させて揮散させる方法、減圧条件下で揮散させる方法、さらに電子線照射等により開孔剤を分解揮散させる方法があり、好ましくは加熱空気と接触させて揮散させる方法、減圧条件下で揮散させる方法が用いられる。
【0096】
本発明の基材上に薄膜が塗布成膜された部材は反射防止膜として有用であり、液晶やプラズマディスプレイなどの表示材料にのみならず、メガネレンズ、ゴーグル、コンタクトレンズなどの視力矯正用部材、車の窓やインパネメーター、ナビゲーションシステムなどの自動車部品、窓ガラスなどの住宅・建築部材、ビニルハウスの光透過性フィルムやシートなどの農芸製品、太陽電池、光電池などの電池部材、タッチパネル、光ファイバー、光ディスクなどの電子情報機器部品、照明グローブ、蛍光灯、鏡、時計などの家庭用品、ショーケース、額、半導体リソグラフィー、コピー機器などの業務用部材、パチンコ台ガラスやゲーム機など、表面保護、防汚性、視認性の向上が求められる様々な分野における部材として応用することが可能である。
【0097】
また、本発明の薄膜は独立気泡による空隙を有するため、層間絶縁膜や電気絶縁体、及び断熱材や緩衝材としても有用である。
【実施例】
【0098】
本発明を実施例、比較例を用いて更に具体的に説明する。
【0099】
(1)屈折率の測定
FE−3000型反射分光計(大塚電子株式会社)を用いて、波長250〜800nmの範囲での反射スペクトルを測定し、該装置付属のソフトウェア「FE−Analysis」を用いて薄膜の屈折率を求めた。
【0100】
(2)光学的透明性の評価
日本電色工業株式会社製NDH2000型濁度計を用いて、JISK7361−1に規定される方法にてヘイズを測定することによって評価した。ヘイズが1未満であれば○、ヘイズが1以上であれば、×とした。
【0101】
(3)鉛筆硬度
JISのK5400記載に基づき、2Hの硬度の鉛筆を用い、500g荷重下で行った。5回試験して傷が入る場合が2本以下の場合をパスしたとして○、3本以上の場合を×とした。
【0102】
(4)防汚性
指紋拭き取り性で評価した。得られた薄膜上に指紋を付け、すぐにティッシュで拭き取りを行った。指紋を拭き取ることができれば○、拭き取れなければ×とした。
【0103】
[合成例1]
乾燥テトラヒドロフラン180gに1,1−ジフェニルエチレン0.8mmolを溶解し、攪拌しながらn−ブチルリチウム0.5mmolを添加し、−78℃に冷却した。塩化リチウム1.5mmolを添加して重合開始剤を系中に準備した。続いてまず3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン10gを添加して重合させ、次にパーフルオロオクチルエチルメタクリレート10gを添加してブロック重合させた後、メタノールを少量添加してリビング末端を停止させ、ジブロックコポリマーを含んだテトラヒドロフラン溶液を得た。
【0104】
[実施例1]
合成例1のブロックコポリマー溶液3g(ブロックコポリマーとして0.3g)、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1g、1N−硝酸溶液0.1g、プロピレングリコールモノメチルエーテル10gを混合し、室温で6時間攪拌した後、さらに1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.1gとプロピレングリコールモノメチルエーテル100gを添加して薄膜用塗布組成物を得た。
【0105】
ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート10g、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.5g、エタノール10g、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.0gを混合し、ハードコート層用塗布組成物を得た。
【0106】
片面に易接着処理がなされた厚さ125μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(商品名コスモシャインA4100、東洋紡績株式会社)上に、前記のハードコート層用塗布組成物をバーコーター(米国R.D.Specialties,Inc.製の#7ロッドを装着)を用いて塗布し、120℃にて10秒間乾燥し、続いて紫外線硬化装置(UVC−2519型、高圧水銀灯を装着、ウシオ電機株式会社)を用いて出力160W、コンベア速度2m/分、光源距離100mmにて紫外線照射することによってハードコート層を形成した。
【0107】
該ハードコート層上に、上記薄膜用塗布組成物をバーコーター(#6ロッドを装着)を用いて塗布し、50℃にて30秒間乾燥し、続いて紫外線硬化装置を用いて出力120W、コンベア速度8m/分で紫外線照射することによって半硬化の薄膜を形成した。
【0108】
続いて1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンを塗布、含浸させた後、出力160W、コンベア速度2m/分で紫外線照射を行って全硬化させ、さらに50℃で真空乾燥10分を行うことで独立気泡を導入して、薄膜を得た。
【0109】
結果を表1に示す。得られた低屈折率層薄膜の屈折率は十分低い値であり、光学的な透明性と防汚性とに優れていた。また、光学フィルム上に生産性良く成膜でき、反射防止膜の生産性にも優れる。
【0110】
[実施例2]
実施例1の薄膜用塗布組成物の3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1gに替えて、3−メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン0.5gとペンタエリスリトールトリアクリレート1gを用い、1,3−ビス(トリフルオロメチル)ベンゼンに替えて、1H,1H,5H−オクタフルオロ−1−ペンタノールを用いた以外は同様に実施した。
【0111】
結果を表1に示す。得られた低屈折率層薄膜の屈折率は十分低い値であり、光学的な透明性と防汚性とに優れていた。また、光学フィルム上に生産性良く成膜でき、反射防止膜の生産性にも優れる。
【0112】
[比較例1]
熱発泡性化合物 α,α′−アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)0.5g、単官能アクリル酸ダイマー(東亜合成(株)製、M−5600)10g、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン0.1gとからなる発泡性塗布組成物を実施例1のハードコート/PET上にバーコーター(米国R.D.Specialties,Inc.製の#6ロッドを装着)を用いて塗布した。この発泡性薄膜に紫外線照射(出力120W、コンベア速度2m/分)を行った後、110℃、15分間加熱した。結果を表1に示す。得られた膜はヘイズが高かった。
【0113】
[比較例2]
特許2913715号の実施例に従い、モノメチルトリエトキシシランを17g秤量し、これにエタノール14g、及び1−ブタノール22g添加混合し、均一溶液とした。この溶液に水を11g、燐酸を0.5g加え、さらに1時間撹拌した。この溶液に14gのエタノール、22gのブタノール及び3.3gのポリエチレングリコールを加えさらに10分間の撹拌を行ったものを塗布溶液とした。この塗布溶液中へ、厚さ1.1mm、直径50mmの円板状の石英ガラス板を浸漬した後ゆっくりと引き上げて、フロートガラス板上に塗布膜を形成した。その後この塗布膜をつけたガラス板を室温において5分間乾燥し、350℃に保ったオーブン中で15分間熱処理を行った。この熱処理により、塗布膜中に分散していたポリエチレングリコールは完全に分解、燃焼してしまい、塗布膜は透明な700nmの厚みの膜となった。結果を表1に示す。得られたサンプルの分光反射特性を測定したところ350〜850nmの範囲で分光反射率が0.7%以下で優れた反射防止特性を示した。しかしながら、表面に開孔が多いためか、散乱が多く、ヘイズが高く、耐擦傷性及び防汚性は共に×であった。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0114】
本発明は、光学フィルム上に生産性良く成膜でき、光学的な透明性と防汚性とに優れた薄膜を提供する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも含フッ素ビニルモノマー単位を有するポリマー鎖と少なくとも加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー単位からなるポリマー鎖とを含んで構成されるブロックポリマー、加水分解脱水縮合可能なシリル基を有するビニルモノマー、シリル基加水分解脱水縮合触媒、水、有機溶媒、とを少なくとも含むことを特徴とする薄膜用塗布組成物。
【請求項2】
さらに無機微粒子を含むことを特徴とする請求項1記載の薄膜用塗布組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の薄膜用塗布組成物を用いて塗布成膜した後、半硬化を行い、開孔剤を含浸し、続いて全硬化を行った後に開孔剤を除去することを特徴とする薄膜の成膜方法。
【請求項4】
請求項3記載の成膜方法により得られる反射防止膜。

【公開番号】特開2007−284623(P2007−284623A)
【公開日】平成19年11月1日(2007.11.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−116066(P2006−116066)
【出願日】平成18年4月19日(2006.4.19)
【出願人】(000000033)旭化成株式会社 (901)
【Fターム(参考)】