説明

薄膜装飾方法および装飾された釣り・スポーツ用品

【課題】物品の表面に、薄膜で多色の装飾を簡易に形成する薄膜装飾方法、および物品の性能を低下させず、美観に優れ、軽量化をはかることができる釣り・スポーツ用品を提供する。
【解決手段】本発明の薄膜装飾方法は、基材シート上に少なくとも接着剤層、装飾層、およびそれら接着剤層と装飾層を覆う形状のアプリケーション層を設けた転写マークシートを用いて、部材本体上に装飾を施すものであって、転写マークシートの基材シートを剥離して、装飾層を上記接着剤層を介して部材本体に貼着し、次いでアプリケーション層を除去して部材本体上に転写マークを形成し、更にそれを覆うようにオーバーコート層を設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄膜化によって物品の性能を低下させない薄膜装飾方法および装飾された釣り・スポーツ用品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高機能を有する物品に装飾を施すことが行われているが、それによって物品自体の性能を低下させることがあった。例えば、釣竿、ゴルフ・シャフト、マウンテンバイクのフレーム、スキーのストック等のスポーツ用品では、軽量で且つ高機能性を有することが要求されているが、商品としての装飾は欠かすことができない。従来、これらの物品には、模様やブランド名などの装飾が施された後、その表面を透明又は半透明の塗料を塗布することによってオーバーコート層を形成している。その場合、部品本体の軽量化が進むにつれて、オーバーコート層の重量が総重量の約10%にもなるという現象が生じている。
【0003】
ところで、装飾を施す方法としては、塗装や印刷によって絵柄などを部品本体上に直接又は金属層を介して設ける方法(特許文献1、2)や、裏面に粘着剤層を設けた基材シート上にスクリーン印刷などによって装飾が施されたタイプの粘着シートを、部品本体に貼着する方法が採用されている。特に装飾用の粘着シートは、その取り扱いが簡便なため、広く使用されるようになっている。
【0004】
しかしながら、これらの方法はいずれも種々の問題を有している。前者の方法は、単純な絵柄模様の場合は薄膜化がはかれるという利点があるが、複雑なデザイン模様を施すことは困難である。すなわち、通常知られている直接印刷、吹き付け塗装やシゴキ塗装等によって管状物品等に装飾層を設ける場合、長時間の乾燥工程が必要であり、複雑なデザインを施す場合には、複数回の塗装および乾燥工程、あるいは複数回の印刷および乾燥工程を必要とし、時間、労力、コスト高などの問題があり、したがって、複数色のデザインを印刷あるいは塗装によって形成することは実用的ではなかった。
【0005】
一方、粘着シートによる装飾は、次のような問題を有している。すなわち、粘着シートの基材シートはその厚さが最低でも10μm程度あり、その基材シート上に印刷により装飾層が形成されているので、粘着シートを部品本体に貼着した後、オーバーコート層を形成する際に、部品本体と貼着した粘着シートとの間に段差が発生して、美観を損ない、商品価値を下げるという問題があった。この問題を解決するためには、オーバーコート層の形成に、塗装を4〜5回繰り返すことが行われているが、塗装を繰り返すことによって段差の発生は解消されるものの、オーバーコート層の膜厚が大きくなって、物品本体の物性又は機能が妨げられるという問題があった。
【特許文献1】特開平11−98938号公報
【特許文献2】特許第3410311号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、釣り・スポーツ用品等の物品に装飾を施す際における上記のような問題を解決することを目的としてなされたものである。すなわち、本発明の目的は、物品の表面に、薄膜で多色の装飾を簡易に形成する薄膜装飾方法を提供することにある。本発明の他の目的は、物品の性能を低下させず、美観に優れ、軽量化をはかることができる釣り・スポーツ用品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の薄膜装飾方法は、基材シート上に少なくとも接着剤層、装飾層、およびそれら接着剤層と装飾層を覆う形状のアプリケーション層を設けた転写マークシートを用いて、部材本体上に装飾を施すものであって、転写マークシートの基材シートを剥離して、上記接着剤層を介して装飾層を部材本体に貼着し、次いでアプリケーション層を除去して部材本体上に転写マークを形成することを特徴とする。
【0008】
本発明においては、部材本体に形成された転写マークを覆うようにオーバーコート層を設けることが好ましい。また、本発明において用いる転写マークシートには、装飾層の外周に勾配が形成されているのが好ましい。また、接着剤層および装飾層は、基材シート上にパターン状に形成されていてもよい。さらに、装飾層には金属薄膜層が存在していてもよい。さらにまた、転写マークシートには、装飾層上に透明樹脂保護層が設けられていてもよい。
【0009】
本発明の装飾された釣り・スポーツ部品は、所定形状を有する部材本体上に、転写マークおよび該転写マークを覆うオーバーコート層が設けられたものであって、上記転写マークは、基材シート上に少なくとも接着剤層、装飾層、およびそれら接着剤層と装飾層を覆う形状のアプリケーション層を設けた転写マークシートを用い、該基材シートを剥離して、上記接着剤層を介して装飾層を部材本体に貼着し、次いでアプリケーション層を除去することによって形成されたものであることを特徴とする。
【0010】
本発明の薄膜装飾方法が適用される物品は、何等限定されるものではなく、具体的には、釣り・スポーツ部品として、釣り用品、ゴルフ用品、スキー用品、テニス用品等があげられ、例えば、釣竿、ゴルフ・シャフト、自転車のフレーム、スキーのストック等の管状部品が例示される。また、3次元曲面を有する、例えばヘルメット、ガソリンタンク等をあげることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の薄膜装飾方法は、上記のように、基材シート上に少なくとも接着剤層、装飾層、およびそれら接着剤層と装飾層を覆う形状のアプリケーション層を設けた転写マークシートを用いるから、部材本体上に形成される転写マークは、接着剤層と装飾層を含む極薄層より構成され、その結果、オーバーコート層を設けても部材本体と転写マークとの間に段差は発生せず、オーバーコート層自体の膜厚も薄くすることができる。更に、形成される装飾された釣り・スポーツ用品は、物品の性能を低下させず、美観に優れ、軽量化がはかられるという効果を生じる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明を説明する。まず、本発明において使用する転写マークシートについて説明する。図1は、本発明に使用する転写マークシートの一例の模式的断面図である。転写マークシート10は、基材シート11の上に、接着剤層12を介して装飾層13が設けられ、その上を覆うようにアプリケーション層14が形成された構造を有している。図2は、本発明に使用する転写マークシートの他の一例の模式的断面図である。この図の場合、装飾層13は、着色インク層13aと金属薄膜層13bとより構成されている。
【0013】
転写マークシートの基材シートは、接着剤層と剥離可能な公知のシート状物であれば如何なるものでも使用できるが、具体的には、市販されている紙、布、箔などの各種の台紙、ポリエチレン、塩化ビニル樹脂、ポリエステル樹脂などのプラスチックシート、又はそれらの表面をシリコーン樹脂等で剥離処理したものなどがあげられる。特に、基材シート表面に水溶性糊層を設けた台紙が本発明において特に好ましく用いられる。
【0014】
基材シート上には、接着剤層が設けられるが、接着剤層は装飾層と同一の形状になるようにパターン状に形成されていてもよい。接着剤層としては、熱硬化型接着剤、感圧接着剤、感熱接着剤などが使用できるが、装飾層のバインダーと同種のもの、例えば、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂などの熱硬化型樹脂よりなる接着剤が好ましく使用できる。より薄膜化とするために、接着剤層に着色剤、充填剤等を含有させ、接着性の装飾層としてもよい。この場合の接着性装飾層の外周には勾配を設けることができる。接着剤層の膜厚は、装飾層との合計の厚さが1〜8μmの範囲になるように設定するのが好ましい。
【0015】
接着剤層の上に形成される装飾層は、特に限定されるものではないが、1種以上の着色印刷インクによって形成することができ、具体的には、例えば、飽和ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル樹脂、塩化ビニル系樹脂、セルロース樹脂、エポキシ樹脂などをビヒクルとして、着色顔料を混入したインクを用い、印刷法によって形成することができる。印刷法によって形成する場合、装飾層の外周に勾配を形成することができる。また、装飾層には、メタリック模様、金属薄膜層、ホログラム箔層等を含ませてもよく、それにより光輝性を示す外観を得ることができる。これら金属薄膜層などは、着色インク層の上に設けても、また下に設けてもよい。
【0016】
装飾層の膜厚は、5μm以下の範囲に設定され、軽量化の観点からは、好ましくは3μm以下、より好ましくは0.5μm以下の範囲に設定されるが、隠蔽性および耐磨耗性の点を考慮すると、0.3〜5μmの範囲に設定するのが好ましい。
【0017】
装飾層の上には、透明又は半透明の樹脂保護層を設けてもよい。樹脂保護層は、装飾層と後に形成されるオーバーコート層との密着性を向上させ、あるいは、着色インク層上に金属薄膜層、ホログラム箔層等が形成される場合には、それらを保護する目的で設けられる。
【0018】
本発明において使用する転写マークシートは、接着層および装飾層を覆うように透明なアプリケーション層を設けるのが好ましい。アプリケーション層は、例えば、塩化ビニル系樹脂、アクリル樹脂などを主体とする樹脂組成物を、例えばスクリーン印刷法によって形成することができる。アプリケーション層は、透明な着色層であってもよい。アプリケーション層の膜厚は、転写終了後、容易に剥離できるようにするために、例えば40〜50μmの範囲に設定すればよい。
【0019】
次に、本発明の薄膜装飾方法について管状物品に装飾を行う場合を例にとって説明する。図3は、上記図1に示す転写マークシートを用いて、本発明の薄膜装飾方法を実施する工程図である。まず、転写マークシートの基材シートを剥離した後、露出した接着剤層13が、下地塗膜層2が施された管状物品1に面するようにして装飾層を貼着する(図3a)。次に、装飾層の上を覆っているアプリケーション層14を剥離し、その後、露出した装飾層を覆うようにオーバーコート層3を形成する(図3b)。オーバーコート層の形成は、吹き付け塗装、ディッピング塗装、シゴキ塗装などを適用することができる。
【実施例1】
【0020】
基材シートとして水溶性糊層を設けた台紙を使用し、その上に膜厚4μmの熱硬化性接着剤層、膜厚2μmの装飾層を設け、それらを覆うように膜厚40μmのアクリル樹脂よりなるアプリケーション層を設けたものを転写マークシートとして使用した。
【0021】
この転写マークシートを水中に1〜3分間浸漬して、基材シートを取り除いた。次いで、管状被着体の上に基材シートが取り除かれた転写マークシートを載せ、位置決めを行った後、ゴムのスキージ等を使用して被着体と転写マークシートとの間の水分を取り除き、更に乾いた布などで管状被着体上に残った水分を拭き取った。次いで、25℃で30分放置し、仮接着を行った。アプリケーションフィルムを剥離して除去した後、装飾層を含む管状被着体全体にオーバーコート用ウレタン系塗料を吹き付けた。この吹き付け塗装を2回行い、135℃で30分間加熱乾燥して、膜厚40μmのオーバーコート層を形成した。
【0022】
装飾された管状被着体において、装飾層は形成されたオーバーコート層に埋没した状態になっており、外観上装飾層による凹凸は認められなかった。また、形成されたオーバーコート層の膜厚が薄いので、物品本来の物性(機能性)が保たれると共に、管状被着体が軽量化され、商品価値が向上した。
【実施例2】
【0023】
基材シートとして水溶性糊層を設けた台紙を使用し、その上に膜厚4μmの熱硬化性接着剤層、膜厚2μmの着色インク層、および膜厚2μmの金属薄膜層よりなる装飾層を設け、それらを覆うように膜厚40μmのアクリル樹脂よりなるアプリケーション層を設けたものを転写マークシートとして使用し、実施例1の場合と同様に処理して装飾された管状被着体を作成した。
【0024】
図4は、その場合を示すものである。下地塗膜層を設けた管状物品1の上に、基材シートを剥離した転写マークシートを貼着し、更にアプリケーション層を取り除き、着色インク層13aおよび金属薄膜層13bよりなる装飾層を形成し、その上を覆うようにオーバーコート層3を設けた構造を有している。
【0025】
図4に示されるように、着色インク層13aおよび金属薄膜層13bよりなる装飾層はオーバーコート層に埋没した状態になっているので、外観上装飾層による凹凸は認められなかった。また、形成されたオーバーコート層の膜厚が薄いので、物品本来の物性(機能性)が保たれると共に、管状被着体が軽量化され、商品価値が向上した。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明に使用する転写マークシートの一例の模式的断面図である。
【図2】本発明に使用する転写マークシートの他の一例の模式的断面図である。
【図3】本発明の薄膜装飾方法を説明するための工程図である。
【図4】本発明の薄膜装飾方法によって装飾された被着体の部分構造断面図である。
【0027】
1…管状物品、2…下地塗装層、3…オーバーコート層、10…転写マークシート、11…基材シート、12…接着剤層、13…装飾層、13a…着色インク層、13b…金属薄膜層、14…アプリケーション層。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材シート上に少なくとも接着剤層、装飾層、および該接着剤層と該装飾層を覆う形状のアプリケーション層を設けた転写マークシートを用いて、部材本体に装飾を施す薄膜装飾方法において、転写マークシートの基材シートを剥離して、上記接着剤層を介して装飾層を部材本体に貼着し、次いでアプリケーション層を除去して部材本体上に転写マークを形成することを特徴とする薄膜装飾方法。
【請求項2】
部材本体に形成された転写マークを覆うようにオーバーコート層を設けることを特徴とする請求項1に記載の薄膜装飾方法。
【請求項3】
上記装飾層の外周に勾配が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜装飾方法。
【請求項4】
上記接着剤層および上記装飾層が、基材シート上にパターン状に形成されていることを特徴とする請求項1に記載の薄膜装飾方法。
【請求項5】
上記接着剤層と上記装飾層の膜厚の合計が1〜8μmである請求項1に記載の薄膜装飾方法。
【請求項6】
上記装飾層が金属薄膜層を含むことを特徴とする請求項1に記載の薄膜装飾方法。
【請求項7】
上記転写マークシートが装飾層上に透明樹脂保護層を有することを特徴とする請求項1に記載の薄膜装飾方法。
【請求項8】
部材本体が、釣具、スポーツ用品より選択された管状構造の物品であることを特徴とする請求項1に記載の薄膜装飾方法。
【請求項9】
所定形状を有する部材本体上に、転写マークおよび該転写マークを覆うオーバーコート層が設けられた釣り・スポーツ部品であって、該転写マークは、基材シート上に少なくとも接着剤層、装飾層、およびそれら接着剤層と装飾層を覆う形状のアプリケーション層を設けた転写マークシートを用い、該基材シートを剥離して、上記接着剤層を介して装飾層を部材本体に貼着し、次いでアプリケーション層を除去することによって形成されたものであることを特徴とする装飾された釣り・スポーツ部品。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−23944(P2008−23944A)
【公開日】平成20年2月7日(2008.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−201735(P2006−201735)
【出願日】平成18年7月25日(2006.7.25)
【出願人】(391046562)株式会社倉本産業 (18)
【Fターム(参考)】