薄膜試料の観察方法
【課題】 薄膜試料の膜厚情報を簡単に得ることができて、観察及び又は分析に適した視野を迅速に選択できるようにする。
【解決手段】 下地の無い薄膜試料に電子線を照射して反射電子像を測定する。
反射電子像を測定した条件と同等の条件で膜厚既知の試料からの反射電子信号強度を測定して基準強度とし、反射電子像の反射電子強度と基準強度との強度比の分布を画像表示する。この強度比を観察や分析の目的別に定めた閾値によって複数のクラスに分割し、クラス毎に異なる色を割り当てて画像表示すれば、観察及び又は分析に適した視野を迅速に選択することができる。
【解決手段】 下地の無い薄膜試料に電子線を照射して反射電子像を測定する。
反射電子像を測定した条件と同等の条件で膜厚既知の試料からの反射電子信号強度を測定して基準強度とし、反射電子像の反射電子強度と基準強度との強度比の分布を画像表示する。この強度比を観察や分析の目的別に定めた閾値によって複数のクラスに分割し、クラス毎に異なる色を割り当てて画像表示すれば、観察及び又は分析に適した視野を迅速に選択することができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡(以下「SEM」と略称する)や電子プローブマイクロアナライザ(以下「EPMA」と略称する)による下地の無い薄膜試料の観察方法に係わり、特に下地の無い薄膜試料の膜厚状態を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
SEMやEPMAにより薄膜試料の膜厚測定や組成の分析が行われている。薄膜には下地上に形成された状態の薄膜と下地が無い状態で中空に保持された薄膜が存在する。どちらの状態であるかにより、膜厚や組成の分析方法はそれぞれ異なる。本発明が対象とする「薄膜試料」は、下地が無い状態で中空に保持された薄膜であって、試料に入射した電子線の一部がその試料を透過して入射側と反対の側から出射される試料を指すものとする。
【0003】
特許文献1の特開2000−2674号公報には、X線強度の測定結果に基づいて試料上に形成された薄膜の二次元的な膜厚分布を表示する技術が開示されている。特許文献2の特開平11−183410号公報には、透過電子顕微鏡(TEM)に装備されたエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて薄膜試料に含まれる軽元素を分析するとき定量精度を向上させる技術が開示されている。TEMは専ら下地の無い薄膜試料の観察と分析を行うが、SEMやEPMAにおいても下地の無い薄膜試料の観察や分析を行う場合がある。
【0004】
下地の無い薄膜試料の作製方法として、従来からミクロトームを用いて試料を薄くスライスする方法が用いられているが、近年はイオンビームを照射して試料をスパッタエッチングし薄膜加工する方法が広く用いられるようになっている。特許文献3の特許第3119959号公報には、集束イオンビームを用いて薄膜試料を作製するとき、作製中の試料に電子線を照射し、試料から発生する二次電子、反射電子(後方散乱電子又は背面散乱電子とも称される)、透過電子、X線等をモニターすることにより、薄膜試料の厚さを推定する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−2674号公報
【特許文献2】特開平11−183410号公報
【特許文献3】特許第3119959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
試料を薄膜化することによって、試料に入射した電子線はほとんどエネルギーを失うことなく薄膜を透過する。そのため空間分解能の高い像観察や分析を行うことができる。但し、試料が薄膜として扱えるか否かは、試料の膜厚と加速電圧との相対的関係に依存する。薄膜の厚さと加速電圧が同じでも密度が高ければ薄膜として扱えない場合もある。例えば、生物体や高分子材料は密度が1g/cm3以下程度であるが、銅の密度は8.96g/cm3であり、電子線の拡散の大きさを決める質量厚さは一桁くらい違いがある。ここに、「質量厚さ」とは、密度を考慮した膜厚で、厚さ×密度(g/cm2)で表される。また質量厚さが同じでも、加速電圧が高いほうが試料の透過力は大きい。よって、以下の説明で単に「膜厚」と称しても、密度を考慮した「質量厚さ」を意味する場合がある。
【0007】
図4は、薄膜試料に電子線を照射したとき、試料から発生するX線強度と膜厚との関係を模式的に示したグラフである。横軸は薄膜の膜厚(質量厚さ)、縦軸はX線強度である。膜厚が薄いときはX線強度と膜厚は殆ど比例関係にあるが、厚くなるにつれてX線強度の増加は緩くなり飽和する。なお、以下の説明において電子線の透過しない十分厚い膜厚を「無限厚」と称し、全体として無限厚とみなせる試料を「固体試料」と称す。
【0008】
試料が薄膜であることを前提とした定量分析手法は、電子線がその試料内を通過する間に失うエネルギーは僅かであるような薄膜の場合を仮定して計算式の簡略化などが行われていることが多い。TEMは元来電子線を試料に透過させて観察や分析を行う装置なので、加速電圧の高い電子線で試料の透過が容易である。しかし、SEMやEPMAは本来が試料表面の観察及び又は分析を行う装置であるため、低加速電圧の性能がより重視され、通常の装置の加速電圧はせいぜい数十kV程度である。そのため、SEMやEPMAに装着した透過電子検出器による観察可能な視野は限られる。また、下地の無い薄膜試料の観察や分析を行う場合、加速電圧との相対的関係に依存する膜厚情報(以下、単に「膜厚情報」と略称する)を前もって迅速に知ることのできる有効な手段を持たない。例え知る方法があったとしても、薄膜定量分析法など手間のかかる測定や、電子線エネルギー損失分光法(EELS)等の特別な装置を必要とする。そのため薄膜として扱えない試料に薄膜分析の手法を適用すると思わぬ誤差を生じてしまうことがある。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、薄膜試料の薄膜としての厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した視野を迅速に選択することができる薄膜試料の観察方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、
請求項1に記載の発明は、細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度の二次元分布を測定し、
前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で、膜厚既知の試料からの反射電子の信号強度を測定して得られた反射電子信号強度を基準強度とし、
前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の前記基準強度に対する強度比を算出し、
前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする。
【0011】
また請求項2に記載の発明は、前記薄膜試料中の前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の最大値を与える部位の膜厚が、電子線の透過しない無限厚の膜厚と見做せるとき、前記反射電子信号強度の最大値を前記基準強度とすることを特徴とする。
【0012】
また請求項3に記載の発明は、前記薄膜試料と同じ組成を持ち、その厚さが電子線の透過しない無限厚と見做せる参照試料からの反射電子信号強度を、前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で測定し、
前記参照試料からの反射電子信号強度を前記基準強度とすることを特徴とする。
【0013】
また請求項4に記載の発明は、細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度の二次元分布を測定し、
予め求めておいた平均原子番号と反射電子信号強度との関係に基づいて、前記薄膜試料で測定した反射電子信号強度から前記薄膜試料の見かけの平均原子番号を求め、
前記薄膜試料と同じ組成を持つ固体試料について計算で求めた平均原子番号で前記前記薄膜試料の見かけの平均原子番号を除した値が前記強度比と同等であること用いて、前記反射電子信号強度の二次元分布を前記強度比の二次元分布に変換し、
前記薄膜試料の前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする。
【0014】
また請求項5に記載の発明は、前記強度比を閾値によって複数のクラスに分割し、クラス毎に異なる色を割り当てて、前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする。
【0015】
また請求項6に記載の発明は、前記クラスの分割を行う前記強度比の閾値を前記薄膜試料の観察及び/又は分析目的別に設定することを特徴とする。
【0016】
また請求項7に記載の発明は、操作者が前記クラスに含まれる観察及び/又は分析部位の何れかの部位を指定し、前記前記薄膜試料の観察及び/又は分析のうちの何れかを実行するように指示したとき、前記操作者によって指定された部位が前記観察及び/又は分析目的に合致していない場合に、前記操作者に合致しない旨を警告するようにしたことを特徴とする。
【0017】
また請求項8に記載の発明は、薄膜試料から発生する反射電子の信号強度と電子線が透過しない膜厚を持つ試料から発生する反射電子の信号強度との強度比に対する膜厚の関係を予め求めておき、前記強度比に対する膜厚の関係に基づいて、前記薄膜試料の前記強度比の二次元分布を膜厚の二次元分布に変換して画像表示することを特徴とする。
【0018】
また請求項9に記載の発明は、細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子信号強度の二次元分布を測定し、
前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で、膜厚既知の試料からの反射電子信号強度を測定して得られた該反射電子強度を基準強度とし、
前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の前記基準強度に対する強度比を算出し、
薄膜試料から発生する反射電子信号と電子線が透過しない膜厚を持つ試料から発生する反射電子信号との強度比に対する膜厚の関係を予め求めておき、
前記二次元分布を測定した視野の膜厚情報に基づいて、前記強度比に対する膜厚の関係を用いて前記反射電子信号強度を補正し、膜厚の変化による輝度の変化分を除去した反射電子像を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、膜厚に依存して変化する反射電子信号の強度比を二次元分布の画像として表示するようにしたので、薄膜試料の薄膜としての厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0020】
また請求項2に記載の発明によれば、二次元分布の中で無限厚と見做せる部位の反射電子信号強度を基準強度として強度比を求めるようにしたので、厚さが不明な分析視野の厚さを簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0021】
また請求項3に記載の発明によれば、反射電子信号強度の二次元分布の中で、その厚さが無限厚であると見做せる部位が無くても、薄膜試料とは別の無限厚と見做せる参照試料からの基準強度を用いて反射電子信号の強度比を求めることができるので、厚さが不明な分析視野の厚さを簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0022】
また請求項4に記載の発明によれば、薄膜試料の見かけの平均原子番号と、薄膜試料と同じ組成から計算した平均原子番号とから求めた強度比を二次元分布の画像として表示するようにしたので、二次元分布の中でその厚さが無限厚であると見做せる部位が無く、また無限厚と見做せる参照試料が無くても、薄膜試料の薄膜としての厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0023】
また請求項5に記載の発明によれば、反射電子信号の強度比の異なる部位が色わけされて二次元分布として画像表示されるので、厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0024】
また請求項6に記載の発明によれば、薄膜試料の観察及び/又は分析目的別に反射電子信号強度比の異なる部位が色わけされて二次元分布として画像表示されるので、厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0025】
また請求項7に記載の発明によれば、操作者の指定した部位の膜厚が観察及び/又は分析目的に合致していない場合に操作者に合致しない旨を警告するので、常に観察及び/又は分析目的に合致した部位を正しく選択することができる。
【0026】
また請求項8に記載の発明によれば、反射電子信号の強度比を膜厚に換算して表示するようにしたので、分析視野の膜厚情報を定量的に知ることができる。
【0027】
また請求項9に記載の発明によれば、膜厚の影響による反射電子強度の変化を補正し、像質の向上した薄膜試料の反射電子像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものでは無い。各図において、同一または類似の動作を行うものには共通の符号を付し、詳しい説明の重複を避ける。
【0029】
図1に、本発明を実施する電子線装置の概略構成例を示す。図1において、電子線装置の鏡体1の内部は図示しない真空排気装置により真空が保たれている。電子銃2から放出された電子線EBは、集束レンズ3と対物レンズ4により細く絞られ試料8に照射される。電子線EBは走査コイル6により試料8上を二次元的に走査する。電子線EBの試料8への照射により発生した反射電子BEは反射電子検出器7により検出される。反射電子の検出信号は増幅器10、画像処理装置11、バス20を経て制御演算装置16に送られ、表示装置17に走査コイル6の走査に同期した反射電子像として表示される。増幅器制御系12は制御・演算装置16からの指示に基づいて増幅器10の増幅率及びオフセットの設定を制御する。試料8が取り付けられた試料ホルダ9を載置した試料ステージ14は、ステージ制御系15により駆動されて、試料8上の電子線EBの照射位置を変えることができるようになっている。
【0030】
照射電流検出器5は電子線EBの通路に挿脱可能なように支持されており、照射電流値を測定するとき挿入される。電子銃2、集束レンズ3、対物レンズ4、照射電流検出器5、走査コイル6は、バス20、電子線制御系13を介して制御演算装置16によって制御される。記憶装置18には反射電子像の画像データなどが記憶される。19はマウス、キーボードなどの入力装置である。
【0031】
画像処理装置11には、反射電子信号のアナログ/デジタル変換を行うA/D変換器21、フレーム積算等の処理を行う画像演算部22、反射電子像を表示するためのデータを記憶する画像メモリ23が構成されている。増幅器10からのアナログ出力はA/D変換器21によりデジタル変換される。本発明において、増幅器10から出力される反射電子信号強度の測定は、A/D変換器21のA/D変換出力を測定することにより行われる。
【0032】
なお、実際の装置では、上述した以外にも非点補正コイル、像移動コイル、絞りなどが配置されているが、ここでは概略の説明にとどめるため、これらの説明は省略している。
【0033】
次に、図5のフロー図を参照しながら、本発明を実施する手順の一例を説明する。本発明は、膜厚が厚い試料より薄い試料の反射電子信号強度が低くなる特性を利用して膜厚情報を迅速に得る方法である。そのため、まず反射電子検出器からの信号を正しく測定した反射電子像を得る必要がある。図3は膜厚と反射電子信号強度との関係を表すグラフである。グラフの横軸は薄膜の膜厚(質量厚さ)、縦軸は画像処理部11に構成されるAD変換器21の出力である。
【0034】
フロー図のステップS1において、操作者は入力装置19により制御演算装置16を介して、反射電子信号の増幅器のゼロレベルと増幅率を設定する。このとき、図3のグラフに示すように、薄膜試料の膜厚がゼロ(又は電子線を照射しない条件、照射電流や加速電圧を充分小さくした条件等反射電子が発生しない状態)における信号強度D0がAD変換器の出力の最小値Min.を下回らず、且つ充分厚い膜からの信号強度DSがAD変換器の出力の最大値Max.を上回らないように増幅器10のゼロレベルと増幅率は増幅器制御系12により設定される。
【0035】
ステップS2において、制御演算装置16は反射電子像を測定し、画像処理部11を介して画像データを取り込み記憶装置18に記憶する。反射電子像の各画素に対応する反射電子信号強度の測定は信号強度D0を基準として行う。図9は、このようにして取り込まれた反射電子像のデータ構造を示す概念図である。各画素の反射電子信号強度は二次元のデジタルデータとして記憶される。図9の例は、横方向がI=1〜N、縦方向がJ=1〜Mに分割された画素(I,J)の反射電子信号強度B(I,J)が記憶されている場合を示している。即ち、画素(I,J)におけるAD変換出力がD(I,J)ならば、
B(I,J)=D(I,J)−D0
である。
【0036】
ステップS3において、取り込まれた反射電子像の視野の中に、信号強度D0を下回る部位や信号強度DSを上回る部位が存在すればステップS1に戻る。取り込まれた反射電子像に問題が無ければ、ステップS4に進む。ステップS4において、操作者は表示装置17に表示された反射電子像をみて、反射電子信号強度比(以下、「強度比」と略称することがある)の計算に必要な基準強度BAVを求めるための領域を指定する。例えば図6の反射電子像中において、最も輝度の高い部分が無限厚と見做せる場合、その領域をマウス等で丸印のように囲み、基準強度BAVを求めるための領域として指定する。指定された領域内に含まれる画素の反射電子信号強度の平均値を求め基準強度BAVとする。
【0037】
ステップS5において、基準強度BAVを用いて反射電子像の全ての画素について、強度比を求める。画素(I,J)の強度比をR(I,J)とすると、
R(I,J)=B(I,J)/BAV
である。
【0038】
ステップS6において、操作者は各画素が強度比R(I,J)で表された画像を表示する条件を指定する。例えば、図7は、強度比を0.1刻みの閾値でクラス分けし、各々のクラスに明るさの異なる灰色を割り当てた反射電子信号の強度比の二次元分布(以下、「強度比マップ」と称すことがある)の表示例である。操作を簡単にするためには、操作者がいちいち指定しなくても自動的に図7に示すような単純な閾値の設定で表示されるようになっていても良い。
【0039】
図8は、強度比を観察や分析の目的別に閾値でクラス分けした強度比マップの表示例である。例えば、強度比閾値が、0〜0.05(黒色)は高分解能の像観察、0.05〜0.1(暗い灰色)は高分解能の分析、0.1〜0.5(明るい灰色)は定量及び微量分析、0.5以上(白色)は薄膜分析に不適切等の分類をしておけば、表示された画像から目的とする部位を容易に確認することができる。また、反射電子像の測定条件、試料の種類や観察、分析の目的に応じた分類の条件を複数登録しておき、適宜呼び出して表示条件の指定に使用できるようにしても良い。
【0040】
図7と図8の画像は、反射電子信号の強度比をそのまま二次元分布として表示している。イオンビームなどを用いて作製された試料は、多くの場合試料の周辺部から中央部に行くに従って薄くなっている。そのような試料で分析に適した部位を探す程度の目的であれば、相対的な膜厚の変化が分かればよいので、強度比の分布を表示するだけでも十分役に立つ情報である。
【0041】
もし膜厚の絶対値の分布を得たい場合は、図11に示すように膜厚と強度比の関係を用いる。図11のグラフは、膜厚が既知の複数の薄膜試料を用いて反射電子強度を測定し、膜厚との関係をプロットしたものである。横軸はSi(Siはシリコンの元素記号)の膜厚(nm)、左端の縦軸は反射電子信号強度(任意スケール)、右端の縦軸は膜厚が最大の試料の反射電子信号強度を基準強度と見做した時の基準強度との強度比を表している。グラフに示されるように近似曲線を求めておくと、強度比R1から膜厚T1を計算で求めることができる。図7と図8において、強度比閾値を膜厚に換算して表示すれば、膜厚の絶対値で表示された画像を得ることができる。
【0042】
なお、図7と図8に示した強度比マップは白黒の濃淡で表示した例を示しているが、それぞれのクラスに異なる色を割り当てて、カラー画像として表示するようにしても良い。
【0043】
さらに、例えば、図8の例のように強度比を観察や分析の目的別に閾値でクラス分けされている場合、試料ステージか又は電子線を移動させて部位を指定したとき、その部位で行われるべき観察及び/又は分析に対して、その部位の座標が目的別のクラスに合致しなければ、目的に合致しない部位であることを操作者に警告する機能を持たせるようにしても良い。
【0044】
上記の本発明を実施する手順の説明において、基準強度BAVを求める領域を反射電子像中に含まれる領域とした。しかし実際の薄膜試料では、基準強度を得るのに十分な膜厚を持つ部位を含む視野を見つけられない場合もある。そのような場合は、薄膜試料を作製したのと同じ材料で薄膜化前の試料を参照試料として、同じ測定条件で反射電子像を測定し、得られた反射電子信号強度から基準強度BAVを求めるようにしても良い。
【0045】
また、薄膜試料を作製したのと同じ材料で薄膜化前の試料も入手できない場合もある。そのような場合に、平均原子番号と反射電子信号強度との関係を利用して強度比を求める方法を以下に説明する。
【0046】
図10は固体試料(薄膜ではない試料)における平均原子番号と反射電子信号強度との関係を表すグラフである。横軸に試料の平均原子番号、縦軸に反射電子信号強度をとっている。平均原子番号と反射電子信号強度との関係は、平均原子番号が既知の標準試料を用いて予め作成しておくことができる。但し、加速電圧、照射電流、反射電子信号の増幅器や画像処理部の設定条件を、薄膜試料の測定時と同じ条件にしておかなければならない。
【0047】
図10のグラフにおいて、ZsとBsをそれぞれ薄膜化前の固体試料の平均原子番号と反射電子信号強度、ZmとBmをそれぞれ薄膜試料の見かけの平均原子番号と測定された反射電子信号強度とする。Bmは実際の薄膜試料で測定した反射電子像から求められる。しかし固体試料に比べて電子線が試料を突き抜けるので固体試料としての見かけの平均原子番号はZsより小さくなりZmとなる。固体試料の組成が分かっていれば、Zsは計算によって求めることができる。ここで、Bm/Bsは薄膜試料の強度比と同じ意味をもつが薄膜化前の試料が無いのでBsを知ることはできない。しかし、
Bm/Bs=Zm/Zs
の関係があり、ZmとZsは上記の方法で求めることができるので、結局反射電子像を強度比マップに変換することができる。
【0048】
なお、反射電子強度信号の強度比を用いる他にも、図4に示されるX線強度と膜厚との関係から明らかなように、一定の測定条件下におけるX線強度から膜厚を求めることができる。またEELSを備えた装置では、EELSのデータから膜厚を知ることが可能である。そのため、これらの膜厚情報と図11に示す反射電子信号強度比との関係から、反射電子像の膜厚に依存する輝度の変化を補正し、像質を改善することができる。図12は膜厚の影響受けている薄膜試料の反射電子像の例である。図13は、薄膜試料の図12に示す反射電子像と同じ視野を、特性X線を用いて測定した膜厚を表す膜厚分布像である。図14は、図12に示す反射電子像の輝度を、図13の膜厚と図11の膜厚と反射電子強度との関係を表すデータに基づいて補正した反射電子像である。膜厚の影響による反射電子強度の上下方向の輝度変化が補正され、像質が向上していることが分かる。
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、膜厚に依存して変化する反射電子信号の強度比を二次元分布の画像として表示するようにしたので、薄膜試料の薄膜としての厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した視野を迅速に選択することができる。
【0050】
また、分析視野の膜厚情報と反射電子強度との関係から、膜厚の影響による反射電子強度の変化を補正し、像質の向上した反射電子像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明を実施する電子線装置の概略構成例。
【図2】本発明を実施する電子線装置の画像処理部の概略構成例。
【図3】膜厚と反射電子信号強度との関係を表すグラフ。
【図4】膜厚とX線強度との関係を表すグラフ。
【図5】本発明を実施する手順の一例を説明するためのフロー図。
【図6】薄膜試料の反射電子像の例。
【図7】反射電子信号の強度比を単純な閾値でクラス分けした強度比マップの表示例。
【図8】反射電子信号の強度比を観察や分析の目的別に閾値でクラス分けした強度比マップの表示例。
【図9】反射電子信号強度の測定により取り込まれた反射電子像のデータ構造を示す概念図。
【図10】固体試料における平均原子番号と反射電子信号強度との関係を説明するためのグラフ。
【図11】Siの膜厚と反射電子信号の強度比の関係を示すグラフ。
【図12】膜厚の影響を受けている薄膜試料の反射電子像の例。
【図13】特性X線を用いて測定した薄膜試料の膜厚を表す膜厚分布像。
【図14】膜厚マップの膜厚データを用いて膜厚の影響を補正した反射電子像の例。
【符号の説明】
【0052】
(同一または類似の動作を行うものには共通の符号を付す。)
EB 電子線 BE 反射電子
1 鏡体 2 電子銃
3 集束レンズ 4 対物レンズ
5 照射電流検出器 6 走査コイル
7 反射電子検出器 8 試料
9 試料ホルダ 10 増幅器
11 画像処理部 12 増幅器制御系
13 電子線制御系 14 試料ステージ
15 ステージ制御系 16 制御演算装置
17 表示装置 18 記憶装置
19 入力装置 20 バス
21 A/D変換器 22 画像演算部
23 画像メモリ
【技術分野】
【0001】
本発明は、走査電子顕微鏡(以下「SEM」と略称する)や電子プローブマイクロアナライザ(以下「EPMA」と略称する)による下地の無い薄膜試料の観察方法に係わり、特に下地の無い薄膜試料の膜厚状態を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
SEMやEPMAにより薄膜試料の膜厚測定や組成の分析が行われている。薄膜には下地上に形成された状態の薄膜と下地が無い状態で中空に保持された薄膜が存在する。どちらの状態であるかにより、膜厚や組成の分析方法はそれぞれ異なる。本発明が対象とする「薄膜試料」は、下地が無い状態で中空に保持された薄膜であって、試料に入射した電子線の一部がその試料を透過して入射側と反対の側から出射される試料を指すものとする。
【0003】
特許文献1の特開2000−2674号公報には、X線強度の測定結果に基づいて試料上に形成された薄膜の二次元的な膜厚分布を表示する技術が開示されている。特許文献2の特開平11−183410号公報には、透過電子顕微鏡(TEM)に装備されたエネルギー分散型X線分光器(EDS)を用いて薄膜試料に含まれる軽元素を分析するとき定量精度を向上させる技術が開示されている。TEMは専ら下地の無い薄膜試料の観察と分析を行うが、SEMやEPMAにおいても下地の無い薄膜試料の観察や分析を行う場合がある。
【0004】
下地の無い薄膜試料の作製方法として、従来からミクロトームを用いて試料を薄くスライスする方法が用いられているが、近年はイオンビームを照射して試料をスパッタエッチングし薄膜加工する方法が広く用いられるようになっている。特許文献3の特許第3119959号公報には、集束イオンビームを用いて薄膜試料を作製するとき、作製中の試料に電子線を照射し、試料から発生する二次電子、反射電子(後方散乱電子又は背面散乱電子とも称される)、透過電子、X線等をモニターすることにより、薄膜試料の厚さを推定する技術が開示されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−2674号公報
【特許文献2】特開平11−183410号公報
【特許文献3】特許第3119959号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
試料を薄膜化することによって、試料に入射した電子線はほとんどエネルギーを失うことなく薄膜を透過する。そのため空間分解能の高い像観察や分析を行うことができる。但し、試料が薄膜として扱えるか否かは、試料の膜厚と加速電圧との相対的関係に依存する。薄膜の厚さと加速電圧が同じでも密度が高ければ薄膜として扱えない場合もある。例えば、生物体や高分子材料は密度が1g/cm3以下程度であるが、銅の密度は8.96g/cm3であり、電子線の拡散の大きさを決める質量厚さは一桁くらい違いがある。ここに、「質量厚さ」とは、密度を考慮した膜厚で、厚さ×密度(g/cm2)で表される。また質量厚さが同じでも、加速電圧が高いほうが試料の透過力は大きい。よって、以下の説明で単に「膜厚」と称しても、密度を考慮した「質量厚さ」を意味する場合がある。
【0007】
図4は、薄膜試料に電子線を照射したとき、試料から発生するX線強度と膜厚との関係を模式的に示したグラフである。横軸は薄膜の膜厚(質量厚さ)、縦軸はX線強度である。膜厚が薄いときはX線強度と膜厚は殆ど比例関係にあるが、厚くなるにつれてX線強度の増加は緩くなり飽和する。なお、以下の説明において電子線の透過しない十分厚い膜厚を「無限厚」と称し、全体として無限厚とみなせる試料を「固体試料」と称す。
【0008】
試料が薄膜であることを前提とした定量分析手法は、電子線がその試料内を通過する間に失うエネルギーは僅かであるような薄膜の場合を仮定して計算式の簡略化などが行われていることが多い。TEMは元来電子線を試料に透過させて観察や分析を行う装置なので、加速電圧の高い電子線で試料の透過が容易である。しかし、SEMやEPMAは本来が試料表面の観察及び又は分析を行う装置であるため、低加速電圧の性能がより重視され、通常の装置の加速電圧はせいぜい数十kV程度である。そのため、SEMやEPMAに装着した透過電子検出器による観察可能な視野は限られる。また、下地の無い薄膜試料の観察や分析を行う場合、加速電圧との相対的関係に依存する膜厚情報(以下、単に「膜厚情報」と略称する)を前もって迅速に知ることのできる有効な手段を持たない。例え知る方法があったとしても、薄膜定量分析法など手間のかかる測定や、電子線エネルギー損失分光法(EELS)等の特別な装置を必要とする。そのため薄膜として扱えない試料に薄膜分析の手法を適用すると思わぬ誤差を生じてしまうことがある。
【0009】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたものであって、薄膜試料の薄膜としての厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した視野を迅速に選択することができる薄膜試料の観察方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の問題を解決するために、
請求項1に記載の発明は、細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度の二次元分布を測定し、
前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で、膜厚既知の試料からの反射電子の信号強度を測定して得られた反射電子信号強度を基準強度とし、
前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の前記基準強度に対する強度比を算出し、
前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする。
【0011】
また請求項2に記載の発明は、前記薄膜試料中の前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の最大値を与える部位の膜厚が、電子線の透過しない無限厚の膜厚と見做せるとき、前記反射電子信号強度の最大値を前記基準強度とすることを特徴とする。
【0012】
また請求項3に記載の発明は、前記薄膜試料と同じ組成を持ち、その厚さが電子線の透過しない無限厚と見做せる参照試料からの反射電子信号強度を、前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で測定し、
前記参照試料からの反射電子信号強度を前記基準強度とすることを特徴とする。
【0013】
また請求項4に記載の発明は、細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度の二次元分布を測定し、
予め求めておいた平均原子番号と反射電子信号強度との関係に基づいて、前記薄膜試料で測定した反射電子信号強度から前記薄膜試料の見かけの平均原子番号を求め、
前記薄膜試料と同じ組成を持つ固体試料について計算で求めた平均原子番号で前記前記薄膜試料の見かけの平均原子番号を除した値が前記強度比と同等であること用いて、前記反射電子信号強度の二次元分布を前記強度比の二次元分布に変換し、
前記薄膜試料の前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする。
【0014】
また請求項5に記載の発明は、前記強度比を閾値によって複数のクラスに分割し、クラス毎に異なる色を割り当てて、前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする。
【0015】
また請求項6に記載の発明は、前記クラスの分割を行う前記強度比の閾値を前記薄膜試料の観察及び/又は分析目的別に設定することを特徴とする。
【0016】
また請求項7に記載の発明は、操作者が前記クラスに含まれる観察及び/又は分析部位の何れかの部位を指定し、前記前記薄膜試料の観察及び/又は分析のうちの何れかを実行するように指示したとき、前記操作者によって指定された部位が前記観察及び/又は分析目的に合致していない場合に、前記操作者に合致しない旨を警告するようにしたことを特徴とする。
【0017】
また請求項8に記載の発明は、薄膜試料から発生する反射電子の信号強度と電子線が透過しない膜厚を持つ試料から発生する反射電子の信号強度との強度比に対する膜厚の関係を予め求めておき、前記強度比に対する膜厚の関係に基づいて、前記薄膜試料の前記強度比の二次元分布を膜厚の二次元分布に変換して画像表示することを特徴とする。
【0018】
また請求項9に記載の発明は、細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子信号強度の二次元分布を測定し、
前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で、膜厚既知の試料からの反射電子信号強度を測定して得られた該反射電子強度を基準強度とし、
前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の前記基準強度に対する強度比を算出し、
薄膜試料から発生する反射電子信号と電子線が透過しない膜厚を持つ試料から発生する反射電子信号との強度比に対する膜厚の関係を予め求めておき、
前記二次元分布を測定した視野の膜厚情報に基づいて、前記強度比に対する膜厚の関係を用いて前記反射電子信号強度を補正し、膜厚の変化による輝度の変化分を除去した反射電子像を表示することを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
請求項1に記載の発明によれば、膜厚に依存して変化する反射電子信号の強度比を二次元分布の画像として表示するようにしたので、薄膜試料の薄膜としての厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0020】
また請求項2に記載の発明によれば、二次元分布の中で無限厚と見做せる部位の反射電子信号強度を基準強度として強度比を求めるようにしたので、厚さが不明な分析視野の厚さを簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0021】
また請求項3に記載の発明によれば、反射電子信号強度の二次元分布の中で、その厚さが無限厚であると見做せる部位が無くても、薄膜試料とは別の無限厚と見做せる参照試料からの基準強度を用いて反射電子信号の強度比を求めることができるので、厚さが不明な分析視野の厚さを簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0022】
また請求項4に記載の発明によれば、薄膜試料の見かけの平均原子番号と、薄膜試料と同じ組成から計算した平均原子番号とから求めた強度比を二次元分布の画像として表示するようにしたので、二次元分布の中でその厚さが無限厚であると見做せる部位が無く、また無限厚と見做せる参照試料が無くても、薄膜試料の薄膜としての厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0023】
また請求項5に記載の発明によれば、反射電子信号の強度比の異なる部位が色わけされて二次元分布として画像表示されるので、厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0024】
また請求項6に記載の発明によれば、薄膜試料の観察及び/又は分析目的別に反射電子信号強度比の異なる部位が色わけされて二次元分布として画像表示されるので、厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した部位を迅速に選択することができる。
【0025】
また請求項7に記載の発明によれば、操作者の指定した部位の膜厚が観察及び/又は分析目的に合致していない場合に操作者に合致しない旨を警告するので、常に観察及び/又は分析目的に合致した部位を正しく選択することができる。
【0026】
また請求項8に記載の発明によれば、反射電子信号の強度比を膜厚に換算して表示するようにしたので、分析視野の膜厚情報を定量的に知ることができる。
【0027】
また請求項9に記載の発明によれば、膜厚の影響による反射電子強度の変化を補正し、像質の向上した薄膜試料の反射電子像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下図面を参照しながら、本発明の実施の形態について説明する。但し、この例示によって本発明の技術範囲が制限されるものでは無い。各図において、同一または類似の動作を行うものには共通の符号を付し、詳しい説明の重複を避ける。
【0029】
図1に、本発明を実施する電子線装置の概略構成例を示す。図1において、電子線装置の鏡体1の内部は図示しない真空排気装置により真空が保たれている。電子銃2から放出された電子線EBは、集束レンズ3と対物レンズ4により細く絞られ試料8に照射される。電子線EBは走査コイル6により試料8上を二次元的に走査する。電子線EBの試料8への照射により発生した反射電子BEは反射電子検出器7により検出される。反射電子の検出信号は増幅器10、画像処理装置11、バス20を経て制御演算装置16に送られ、表示装置17に走査コイル6の走査に同期した反射電子像として表示される。増幅器制御系12は制御・演算装置16からの指示に基づいて増幅器10の増幅率及びオフセットの設定を制御する。試料8が取り付けられた試料ホルダ9を載置した試料ステージ14は、ステージ制御系15により駆動されて、試料8上の電子線EBの照射位置を変えることができるようになっている。
【0030】
照射電流検出器5は電子線EBの通路に挿脱可能なように支持されており、照射電流値を測定するとき挿入される。電子銃2、集束レンズ3、対物レンズ4、照射電流検出器5、走査コイル6は、バス20、電子線制御系13を介して制御演算装置16によって制御される。記憶装置18には反射電子像の画像データなどが記憶される。19はマウス、キーボードなどの入力装置である。
【0031】
画像処理装置11には、反射電子信号のアナログ/デジタル変換を行うA/D変換器21、フレーム積算等の処理を行う画像演算部22、反射電子像を表示するためのデータを記憶する画像メモリ23が構成されている。増幅器10からのアナログ出力はA/D変換器21によりデジタル変換される。本発明において、増幅器10から出力される反射電子信号強度の測定は、A/D変換器21のA/D変換出力を測定することにより行われる。
【0032】
なお、実際の装置では、上述した以外にも非点補正コイル、像移動コイル、絞りなどが配置されているが、ここでは概略の説明にとどめるため、これらの説明は省略している。
【0033】
次に、図5のフロー図を参照しながら、本発明を実施する手順の一例を説明する。本発明は、膜厚が厚い試料より薄い試料の反射電子信号強度が低くなる特性を利用して膜厚情報を迅速に得る方法である。そのため、まず反射電子検出器からの信号を正しく測定した反射電子像を得る必要がある。図3は膜厚と反射電子信号強度との関係を表すグラフである。グラフの横軸は薄膜の膜厚(質量厚さ)、縦軸は画像処理部11に構成されるAD変換器21の出力である。
【0034】
フロー図のステップS1において、操作者は入力装置19により制御演算装置16を介して、反射電子信号の増幅器のゼロレベルと増幅率を設定する。このとき、図3のグラフに示すように、薄膜試料の膜厚がゼロ(又は電子線を照射しない条件、照射電流や加速電圧を充分小さくした条件等反射電子が発生しない状態)における信号強度D0がAD変換器の出力の最小値Min.を下回らず、且つ充分厚い膜からの信号強度DSがAD変換器の出力の最大値Max.を上回らないように増幅器10のゼロレベルと増幅率は増幅器制御系12により設定される。
【0035】
ステップS2において、制御演算装置16は反射電子像を測定し、画像処理部11を介して画像データを取り込み記憶装置18に記憶する。反射電子像の各画素に対応する反射電子信号強度の測定は信号強度D0を基準として行う。図9は、このようにして取り込まれた反射電子像のデータ構造を示す概念図である。各画素の反射電子信号強度は二次元のデジタルデータとして記憶される。図9の例は、横方向がI=1〜N、縦方向がJ=1〜Mに分割された画素(I,J)の反射電子信号強度B(I,J)が記憶されている場合を示している。即ち、画素(I,J)におけるAD変換出力がD(I,J)ならば、
B(I,J)=D(I,J)−D0
である。
【0036】
ステップS3において、取り込まれた反射電子像の視野の中に、信号強度D0を下回る部位や信号強度DSを上回る部位が存在すればステップS1に戻る。取り込まれた反射電子像に問題が無ければ、ステップS4に進む。ステップS4において、操作者は表示装置17に表示された反射電子像をみて、反射電子信号強度比(以下、「強度比」と略称することがある)の計算に必要な基準強度BAVを求めるための領域を指定する。例えば図6の反射電子像中において、最も輝度の高い部分が無限厚と見做せる場合、その領域をマウス等で丸印のように囲み、基準強度BAVを求めるための領域として指定する。指定された領域内に含まれる画素の反射電子信号強度の平均値を求め基準強度BAVとする。
【0037】
ステップS5において、基準強度BAVを用いて反射電子像の全ての画素について、強度比を求める。画素(I,J)の強度比をR(I,J)とすると、
R(I,J)=B(I,J)/BAV
である。
【0038】
ステップS6において、操作者は各画素が強度比R(I,J)で表された画像を表示する条件を指定する。例えば、図7は、強度比を0.1刻みの閾値でクラス分けし、各々のクラスに明るさの異なる灰色を割り当てた反射電子信号の強度比の二次元分布(以下、「強度比マップ」と称すことがある)の表示例である。操作を簡単にするためには、操作者がいちいち指定しなくても自動的に図7に示すような単純な閾値の設定で表示されるようになっていても良い。
【0039】
図8は、強度比を観察や分析の目的別に閾値でクラス分けした強度比マップの表示例である。例えば、強度比閾値が、0〜0.05(黒色)は高分解能の像観察、0.05〜0.1(暗い灰色)は高分解能の分析、0.1〜0.5(明るい灰色)は定量及び微量分析、0.5以上(白色)は薄膜分析に不適切等の分類をしておけば、表示された画像から目的とする部位を容易に確認することができる。また、反射電子像の測定条件、試料の種類や観察、分析の目的に応じた分類の条件を複数登録しておき、適宜呼び出して表示条件の指定に使用できるようにしても良い。
【0040】
図7と図8の画像は、反射電子信号の強度比をそのまま二次元分布として表示している。イオンビームなどを用いて作製された試料は、多くの場合試料の周辺部から中央部に行くに従って薄くなっている。そのような試料で分析に適した部位を探す程度の目的であれば、相対的な膜厚の変化が分かればよいので、強度比の分布を表示するだけでも十分役に立つ情報である。
【0041】
もし膜厚の絶対値の分布を得たい場合は、図11に示すように膜厚と強度比の関係を用いる。図11のグラフは、膜厚が既知の複数の薄膜試料を用いて反射電子強度を測定し、膜厚との関係をプロットしたものである。横軸はSi(Siはシリコンの元素記号)の膜厚(nm)、左端の縦軸は反射電子信号強度(任意スケール)、右端の縦軸は膜厚が最大の試料の反射電子信号強度を基準強度と見做した時の基準強度との強度比を表している。グラフに示されるように近似曲線を求めておくと、強度比R1から膜厚T1を計算で求めることができる。図7と図8において、強度比閾値を膜厚に換算して表示すれば、膜厚の絶対値で表示された画像を得ることができる。
【0042】
なお、図7と図8に示した強度比マップは白黒の濃淡で表示した例を示しているが、それぞれのクラスに異なる色を割り当てて、カラー画像として表示するようにしても良い。
【0043】
さらに、例えば、図8の例のように強度比を観察や分析の目的別に閾値でクラス分けされている場合、試料ステージか又は電子線を移動させて部位を指定したとき、その部位で行われるべき観察及び/又は分析に対して、その部位の座標が目的別のクラスに合致しなければ、目的に合致しない部位であることを操作者に警告する機能を持たせるようにしても良い。
【0044】
上記の本発明を実施する手順の説明において、基準強度BAVを求める領域を反射電子像中に含まれる領域とした。しかし実際の薄膜試料では、基準強度を得るのに十分な膜厚を持つ部位を含む視野を見つけられない場合もある。そのような場合は、薄膜試料を作製したのと同じ材料で薄膜化前の試料を参照試料として、同じ測定条件で反射電子像を測定し、得られた反射電子信号強度から基準強度BAVを求めるようにしても良い。
【0045】
また、薄膜試料を作製したのと同じ材料で薄膜化前の試料も入手できない場合もある。そのような場合に、平均原子番号と反射電子信号強度との関係を利用して強度比を求める方法を以下に説明する。
【0046】
図10は固体試料(薄膜ではない試料)における平均原子番号と反射電子信号強度との関係を表すグラフである。横軸に試料の平均原子番号、縦軸に反射電子信号強度をとっている。平均原子番号と反射電子信号強度との関係は、平均原子番号が既知の標準試料を用いて予め作成しておくことができる。但し、加速電圧、照射電流、反射電子信号の増幅器や画像処理部の設定条件を、薄膜試料の測定時と同じ条件にしておかなければならない。
【0047】
図10のグラフにおいて、ZsとBsをそれぞれ薄膜化前の固体試料の平均原子番号と反射電子信号強度、ZmとBmをそれぞれ薄膜試料の見かけの平均原子番号と測定された反射電子信号強度とする。Bmは実際の薄膜試料で測定した反射電子像から求められる。しかし固体試料に比べて電子線が試料を突き抜けるので固体試料としての見かけの平均原子番号はZsより小さくなりZmとなる。固体試料の組成が分かっていれば、Zsは計算によって求めることができる。ここで、Bm/Bsは薄膜試料の強度比と同じ意味をもつが薄膜化前の試料が無いのでBsを知ることはできない。しかし、
Bm/Bs=Zm/Zs
の関係があり、ZmとZsは上記の方法で求めることができるので、結局反射電子像を強度比マップに変換することができる。
【0048】
なお、反射電子強度信号の強度比を用いる他にも、図4に示されるX線強度と膜厚との関係から明らかなように、一定の測定条件下におけるX線強度から膜厚を求めることができる。またEELSを備えた装置では、EELSのデータから膜厚を知ることが可能である。そのため、これらの膜厚情報と図11に示す反射電子信号強度比との関係から、反射電子像の膜厚に依存する輝度の変化を補正し、像質を改善することができる。図12は膜厚の影響受けている薄膜試料の反射電子像の例である。図13は、薄膜試料の図12に示す反射電子像と同じ視野を、特性X線を用いて測定した膜厚を表す膜厚分布像である。図14は、図12に示す反射電子像の輝度を、図13の膜厚と図11の膜厚と反射電子強度との関係を表すデータに基づいて補正した反射電子像である。膜厚の影響による反射電子強度の上下方向の輝度変化が補正され、像質が向上していることが分かる。
【0049】
以上説明したように、本発明によれば、膜厚に依存して変化する反射電子信号の強度比を二次元分布の画像として表示するようにしたので、薄膜試料の薄膜としての厚さが不明な分析視野の膜厚情報を簡単に知ることができて、観察及び又は分析に適した視野を迅速に選択することができる。
【0050】
また、分析視野の膜厚情報と反射電子強度との関係から、膜厚の影響による反射電子強度の変化を補正し、像質の向上した反射電子像を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明を実施する電子線装置の概略構成例。
【図2】本発明を実施する電子線装置の画像処理部の概略構成例。
【図3】膜厚と反射電子信号強度との関係を表すグラフ。
【図4】膜厚とX線強度との関係を表すグラフ。
【図5】本発明を実施する手順の一例を説明するためのフロー図。
【図6】薄膜試料の反射電子像の例。
【図7】反射電子信号の強度比を単純な閾値でクラス分けした強度比マップの表示例。
【図8】反射電子信号の強度比を観察や分析の目的別に閾値でクラス分けした強度比マップの表示例。
【図9】反射電子信号強度の測定により取り込まれた反射電子像のデータ構造を示す概念図。
【図10】固体試料における平均原子番号と反射電子信号強度との関係を説明するためのグラフ。
【図11】Siの膜厚と反射電子信号の強度比の関係を示すグラフ。
【図12】膜厚の影響を受けている薄膜試料の反射電子像の例。
【図13】特性X線を用いて測定した薄膜試料の膜厚を表す膜厚分布像。
【図14】膜厚マップの膜厚データを用いて膜厚の影響を補正した反射電子像の例。
【符号の説明】
【0052】
(同一または類似の動作を行うものには共通の符号を付す。)
EB 電子線 BE 反射電子
1 鏡体 2 電子銃
3 集束レンズ 4 対物レンズ
5 照射電流検出器 6 走査コイル
7 反射電子検出器 8 試料
9 試料ホルダ 10 増幅器
11 画像処理部 12 増幅器制御系
13 電子線制御系 14 試料ステージ
15 ステージ制御系 16 制御演算装置
17 表示装置 18 記憶装置
19 入力装置 20 バス
21 A/D変換器 22 画像演算部
23 画像メモリ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度の二次元分布を測定し、
前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で、膜厚既知の試料からの反射電子の信号強度を測定して得られた反射電子信号強度を基準強度とし、
前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の前記基準強度に対する強度比を算出し、
前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする薄膜試料観察方法。
【請求項2】
前記薄膜試料中の前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の最大値を与える部位の膜厚が、電子線の透過しない無限厚の膜厚とほぼ同等と見做せるとき、前記反射電子信号強度の最大値を前記基準強度とすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜試料観察方法。
【請求項3】
前記薄膜試料と同じ組成を持ち、その厚さが電子線の透過しない無限厚と見做せる参照試料からの反射電子信号強度を、前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で測定し、
前記参照試料からの反射電子信号強度を前記基準強度とすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜試料観察方法。
【請求項4】
細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度の二次元分布を測定し、
予め求めておいた平均原子番号と反射電子信号強度との関係に基づいて、前記薄膜試料で測定した反射電子信号強度から前記薄膜試料の見かけの平均原子番号を求め、
前記薄膜試料と同じ組成を持つ固体試料について計算で求めた平均原子番号で前記前記薄膜試料の見かけの平均原子番号を除した値が前記強度比と同等であること用いて、前記反射電子信号強度の二次元分布を前記強度比の二次元分布に変換し、
前記薄膜試料の前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする薄膜試料観察方法。
【請求項5】
前記強度比を閾値によって複数のクラスに分割し、クラス毎に異なる色を割り当てて、前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の薄膜試料観察方法。
【請求項6】
前記クラスの分割を行う前記強度比の閾値を前記薄膜試料の観察及び/又は分析目的別に設定することを特徴とする請求項5に記載の薄膜試料観察方法。
【請求項7】
操作者が前記クラスに含まれる観察及び/又は分析部位の何れかの部位を指定し、前記前記薄膜試料の観察及び/又は分析のうちの何れかを実行するように指示したとき、前記操作者によって指定された部位が前記観察及び/又は分析目的に合致していない場合に、前記操作者に合致しない旨を警告するようにしたことを特徴とする請求項6に記載の薄膜試料観察方法。
【請求項8】
薄膜試料から発生する反射電子の信号強度と電子線が透過しない膜厚を持つ試料から発生する反射電子の信号強度との強度比に対する膜厚の関係を予め求めておき、前記強度比に対する膜厚の関係に基づいて、前記薄膜試料の前記強度比の二次元分布を膜厚の二次元分布に変換して画像表示することを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の薄膜試料観察方法。
【請求項9】
細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子信号強度の二次元分布を測定し、
前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で、膜厚既知の試料からの反射電子信号強度を測定して得られた該反射電子強度を基準強度とし、
前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の前記基準強度に対する強度比を算出し、
薄膜試料から発生する反射電子信号と電子線が透過しない膜厚を持つ試料から発生する反射電子信号との強度比に対する膜厚の関係を予め求めておき、
前記二次元分布を測定した視野の膜厚情報に基づいて、前記強度比に対する膜厚の関係を用いて前記反射電子信号強度を補正し、膜厚の変化による輝度の変化分を除去した反射電子像を表示することを特徴とする薄膜試料観察方法。
【請求項1】
細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度の二次元分布を測定し、
前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で、膜厚既知の試料からの反射電子の信号強度を測定して得られた反射電子信号強度を基準強度とし、
前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の前記基準強度に対する強度比を算出し、
前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする薄膜試料観察方法。
【請求項2】
前記薄膜試料中の前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の最大値を与える部位の膜厚が、電子線の透過しない無限厚の膜厚とほぼ同等と見做せるとき、前記反射電子信号強度の最大値を前記基準強度とすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜試料観察方法。
【請求項3】
前記薄膜試料と同じ組成を持ち、その厚さが電子線の透過しない無限厚と見做せる参照試料からの反射電子信号強度を、前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で測定し、
前記参照試料からの反射電子信号強度を前記基準強度とすることを特徴とする請求項1に記載の薄膜試料観察方法。
【請求項4】
細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度の二次元分布を測定し、
予め求めておいた平均原子番号と反射電子信号強度との関係に基づいて、前記薄膜試料で測定した反射電子信号強度から前記薄膜試料の見かけの平均原子番号を求め、
前記薄膜試料と同じ組成を持つ固体試料について計算で求めた平均原子番号で前記前記薄膜試料の見かけの平均原子番号を除した値が前記強度比と同等であること用いて、前記反射電子信号強度の二次元分布を前記強度比の二次元分布に変換し、
前記薄膜試料の前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする薄膜試料観察方法。
【請求項5】
前記強度比を閾値によって複数のクラスに分割し、クラス毎に異なる色を割り当てて、前記強度比の二次元分布を画像として表示することを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載の薄膜試料観察方法。
【請求項6】
前記クラスの分割を行う前記強度比の閾値を前記薄膜試料の観察及び/又は分析目的別に設定することを特徴とする請求項5に記載の薄膜試料観察方法。
【請求項7】
操作者が前記クラスに含まれる観察及び/又は分析部位の何れかの部位を指定し、前記前記薄膜試料の観察及び/又は分析のうちの何れかを実行するように指示したとき、前記操作者によって指定された部位が前記観察及び/又は分析目的に合致していない場合に、前記操作者に合致しない旨を警告するようにしたことを特徴とする請求項6に記載の薄膜試料観察方法。
【請求項8】
薄膜試料から発生する反射電子の信号強度と電子線が透過しない膜厚を持つ試料から発生する反射電子の信号強度との強度比に対する膜厚の関係を予め求めておき、前記強度比に対する膜厚の関係に基づいて、前記薄膜試料の前記強度比の二次元分布を膜厚の二次元分布に変換して画像表示することを特徴とする請求項1乃至7の何れかに記載の薄膜試料観察方法。
【請求項9】
細く絞った電子線を薄膜試料に照射し、該薄膜試料から発生する反射電子の信号強度に基づいて薄膜試料を観察する方法であって、
下地の無い薄膜試料に電子線を照射して、該薄膜試料から発生する反射電子信号強度の二次元分布を測定し、
前記二次元分布を測定した条件と同じ条件で、膜厚既知の試料からの反射電子信号強度を測定して得られた該反射電子強度を基準強度とし、
前記二次元分布として測定された反射電子信号強度の前記基準強度に対する強度比を算出し、
薄膜試料から発生する反射電子信号と電子線が透過しない膜厚を持つ試料から発生する反射電子信号との強度比に対する膜厚の関係を予め求めておき、
前記二次元分布を測定した視野の膜厚情報に基づいて、前記強度比に対する膜厚の関係を用いて前記反射電子信号強度を補正し、膜厚の変化による輝度の変化分を除去した反射電子像を表示することを特徴とする薄膜試料観察方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
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【図14】
【公開番号】特開2009−2658(P2009−2658A)
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−160897(P2007−160897)
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年1月8日(2009.1.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年6月19日(2007.6.19)
【出願人】(000004271)日本電子株式会社 (811)
【Fターム(参考)】
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