説明

薬剤の副作用を緩和する活性を有する物質の評価方法及びスクリーニング方法、並びに、これらの方法により同定された物質を有効成分とする副作用緩和剤

【課題】効率的に、かつ容易に、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する物質を評価する方法及びスクリーニングする方法を提供すること;並びに、前記方法により評価又はスクリーニングされた物質を利用し、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和するための副作用緩和剤を提供すること。
【解決手段】(a)自然免疫機構のみを有する生物に薬剤及び被検物質を投与する工程、(b)前記自然免疫機構のみを有する生物における前記薬剤の副作用を検出する工程、(c)前記被検物質が前記副作用を緩和するか否かを評価する工程、を含む評価方法;更に、(d)前記副作用を緩和すると評価された物質を選択する工程、を含むスクリーニング方法;並びに、食用油を有効成分とする、薬剤の副作用を緩和する副作用緩和剤である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自然免疫機構のみを有する生物を利用した、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有する物質の評価方法及びスクリーニング方法、並びに、前記活性を有する食用油を有効成分とする副作用緩和剤に関する。
【背景技術】
【0002】
先進国において、癌は依然として主要な死亡原因である。癌の治療法として、抗癌剤などの化学療法剤の投与は、現在でも多くの症例で行われている。しかしながら、マイトマイシンCなどの多くの抗癌剤は、体重の減少などの重大な副作用を起こすため、患者のQuality of Lifeが低下する場合があり、また、副作用により、癌を治療するのに十分な量を投与できない場合がある(非特許文献1)。したがって、抗癌剤などの副作用を解決することは重要な課題となっている。既に、抗癌剤の投与によって引き起こされる吐き気に対し、制吐剤の投与により副作用を抑制する投与法が確立している(非特許文献2)。また、体重減少などの重篤な副作用に対する緩和法の確立も試みられているが、有効性が確立されたものは少ない。
【0003】
これまでは、特定の物質について着目し、哺乳動物の抗癌剤の評価モデルを用いて、その物質の副作用に対する有用性を検討していた。しかしながら、実際には多数の物質についてスクリーニングを行い、効果を示す物質を得る方法が有用であると考えられる。従来の哺乳動物を用いた方法では、スクリーニングのために多数の個体を用いて実験を行うことは、物理的問題や、コスト、倫理的な観点(非特許文献3、4)から不可能である。したがって、抗癌剤などの薬剤の副作用に対する新薬開発において、これら哺乳動物に代替しうる実験動物の探索の必要性がある。
【0004】
ところで、本発明者らは、哺乳動物に代替しうる実験動物として、カイコ幼虫に着目し、これまでにカイコ幼虫などの自然免疫機構のみを有する生物、又はその培養細胞を利用して、ヒトなどの獲得免疫機構を有する生物に感染する、菌やウイルスに対する治療薬開発のための評価系を開発したことを報告してきた(特許文献1〜2、非特許文献5〜7)。
しかしながら、これらの自然免疫機構のみを有する生物が、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用評価のモデルとなり得るかは、これまで全く不明であった。
【0005】
【特許文献1】WO2001/086287号公報
【特許文献2】WO2005/116269号公報
【非特許文献1】N.Ishiki,H.Onishi,andY.Machida,Evaluation of antitumor and toxic side effects of mitomycin C−estradiol conjugates,Int J Pharm 279(2004)81−93.
【非特許文献2】R.Sharma,P.Tobin,and S.J.Clarke,Management of chemotherapy−induced nausea,vomiting,oral mucositis,and diarrhoea,Lancet Oncol 6(2005)93−102.
【非特許文献3】V.Baumans,Use of animals in experimental research:an ethical dilemma? Gene Ther 11 Suppl 1(2004)S64−66.
【非特許文献4】F.B.Orlans,T.L.Beauchamp,R.Dresser,D.B.Morton,and J.P.Gluck,The Human Use of Animals:Case Studies in Ethical Choice,ed.,Oxford University Press,New York and Oxford 1998.
【非特許文献5】H.Hamamoto,K.Kurokawa,C.Kaito,K.Kamura,I.Manitra Razanajatovo,H.Kusuhara,T.Santa,and K.Sekimizu,Quantitative evaluation of the therapeutic effects of antibiotics using silkworms infected with human pathogenic microorganisms,Antimicrob Agents Chemother 48(2004)774−779.
【非特許文献6】C.Kaito,K.Kurokawa,Y.Matsumoto,Y.Terao,S.Kawabata,S.Hamada,and K.Sekimizu,Silkworm pathogenic bacteria infection model for identification of novel virulence genes,Mol Microbiol 56(2005)934−944.
【非特許文献7】C.Kaito,N.Akimitsu,H.Watanabe, and K.Sekimizu,Silkworm larvae as an animal model of bacterial infection pathogenic to humans,Microb Pathog 32(2002)183−190.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記状況に鑑みてなされたものであり、従来における諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、自然免疫機構のみを有する生物を利用し、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用のモデルを提供することを目的とする。また、本発明は、前記モデルを利用し、効率的に、かつ容易に、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する物質を評価する方法、及びスクリーニングする方法を提供することを目的とする。また、本発明は、前記方法により評価又はスクリーニングされた物質を利用した、薬剤の副作用を緩和するための副作用緩和剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行なった結果、世代交代が早く、研究室で容易に飼育でき、遺伝学的解析が進んでいるカイコ(節足動物門、大顎亜門、有翅昆虫類、チョウ目に属する)に着目した。カイコは幼虫が大型であるため、C.elegans(線形動物門、双腺網、桿線虫亜門、カンセンチュウ目に属する)などの小型の生物と比較して、病原体や薬物の注射が極めて容易である(Okada,E.et al.1997.J.Seric.Sci.Jpn.66:116−122.)。このため、カイコ幼虫を用いることにより、精度の高い実験が可能となる。また、カイコ幼虫を使用することは、廉価であり、倫理上の問題もなく、哺乳動物と比較して有用性が高い。
そこで、本発明者らは、カイコ幼虫を利用した薬剤の副作用のモデルの開発を試みた。まず、本発明者らは、薬剤の副作用評価系として、カイコ幼虫が有用であるかについて検討した。その結果、獲得免疫機構を有する哺乳動物において体重減少などの副作用を示すことが知られている抗癌剤である、マイトマイシンCとブレオマイシンが、自然免疫機構のみを有するカイコ幼虫の成長をも阻害することを見出した。また、その副作用の緩和に作用する物質について餌中の成分からスクリーニングを行ったところ、大豆油が部分的に副作用の緩和を起こすことを見出した。これらの知見から、カイコ幼虫を用いた系は、薬剤の副作用を緩和する物質の評価やスクリーニングに、極めて有効であると考えられた。
【0008】
本発明は、自然免疫機構のみを有する生物を利用して、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用の評価モデルを確立した世界で初めての例であり、また、自然免疫機構のみを有する生物を利用して、実際に、薬剤の副作用を緩和する物質を同定した世界で初めての例でもある。
【0009】
本発明は、前記知見に基づくものであり、前記課題を解決するための手段としては、以下の通りである。即ち、
<1> 被検物質が、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有するか否かを評価する方法であって、
(a)自然免疫機構のみを有する生物に、前記薬剤及び前記被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構のみを有する生物における前記薬剤の副作用を検出する工程、並びに、
(c)前記被検物質が前記副作用を緩和するか否かを評価する工程、を含むことを特徴とする方法である。
<2> 獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)自然免疫機構のみを有する生物に、前記薬剤及び被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構のみを有する生物における前記薬剤の副作用を検出する工程、
(c)前記被検物質が前記副作用を緩和するか否かを評価する工程、並びに、
(d)前記副作用を緩和すると評価された物質を選択する工程、を含むことを特徴とする方法である。
<3> 薬剤が、マイトマイシンC及びブレオマイシンの少なくともいずれかである前記<1>から<2>のいずれかに記載の方法である。
<4> 自然免疫機構のみを有する生物が、昆虫類に属する生物である前記<1>から<3>のいずれかに記載の方法である。
<5> 昆虫類に属する生物が、カイコである前記<4>に記載の方法である。
<6> 薬剤の副作用を緩和する副作用緩和剤であって、食用油を有効成分とすることを特徴とする副作用緩和剤である。
<7> 食用油が、大豆に由来する前記<6>に記載の副作用緩和剤である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によると、従来における諸問題を解決することができ、自然免疫機構のみを有する生物を利用した、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用のモデルを提供することができる。また、本発明によると、前記モデルを利用し、効率的に、かつ容易に、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する物質を評価する方法、及びスクリーニングする方法を提供することができる。また、本発明によると、前記方法により評価又はスクリーニングされた物質を利用した、薬剤の副作用を緩和するための副作用緩和剤を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
(評価方法、スクリーニング方法)
本発明の評価方法は、被検物質が、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有するか否かを評価する方法であり、以下の工程(a)〜工程(c)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
また、本発明のスクリーニング方法は、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有する物質をスクリーニングする方法であり、以下の工程(a)〜工程(d)を含み、必要に応じて更にその他の工程を含む。
前記評価方法及び前記スクリーニング方法(以下、単に、前記「方法」と称することがある)は、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有する物質の評価又はスクリーニングを、自然免疫機構のみを有する生物を利用して行うことを特徴とする。
【0012】
<工程(a)>
前記方法においては、まず、自然免疫機構のみを有する生物に、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤及び被検物質を投与する(工程(a))。
【0013】
−自然免疫機構のみを有する生物−
前記「自然免疫機構」とは、獲得免疫(後天性免疫)機構によらない免疫的生体防御機構(先天性免疫機構)を意味する。脊椎動物は、病原体の侵入に対し、抗体などの侵入者を特異的に認識する分子を利用して生体を防御する獲得免疫機構を有するが、無脊椎動物や植物はこのような獲得免疫機構を有しない。即ち、前記「自然免疫機構のみを有する生物」とは、換言すれば、獲得免疫機構を有しない無脊椎動物及び植物である。
【0014】
したがって、前記「自然免疫機構のみを有する生物」としては、特に制限はなく、無脊椎動物及び植物の中から目的に応じて適宜選択することができるが、中でも、昆虫類に属する生物が好適に挙げられる。前記「昆虫類」とは、節足動物門大顎亜門の一網であって、カマアシムシ類、トビムシ類、無翅昆虫類及び有翅昆虫類の4亜綱からなる綱を意味する。前記「昆虫類に属する生物」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、取り扱いの便宜性から、幼虫であることが好ましい。前記幼虫としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、鱗翅目(ガやチョウを含む)、甲虫目(カブトムシを含む)の幼虫などが挙げられる。なお、前記幼虫は、前記薬剤や前記被検物質の投与のしやすさの観点から、大型の幼虫であることが好ましい。前記「大型の幼虫」とは、体長が1cm以上である幼虫を指す。前記幼虫としては、例えば、カイコ(カイコガ)の幼虫が好適に挙げられる。
【0015】
また、前記昆虫類に属する生物以外の自然免疫機構のみを有する生物としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、クモ、サソリ等の昆虫類以外の節足動物、ナメクジ、カタツムリ等の軟体動物、ミミズ等の環形動物、ヒトデ、ウニ等のキョク皮動物、ギョウ虫、回虫等の線形動物、ヒドラ、イソギンチャク、クラゲ等の腔腸動物、イネ、ダイコン等の全ての植物などが挙げられる。これらの生物も、前記自然免疫機構のみを有する生物として用いることが考えられる。
【0016】
−獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤−
前記「獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤」としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、コイ等の魚類、ニワトリ等の鳥類、マウス、ラット、ウサギ、イヌ、ネコ、サル、ヒト等の哺乳動物に対する薬剤などが挙げられる。
【0017】
前記「薬剤」としては、ヒトなどの獲得免疫機構を有する生物に対して副作用を示すものであれば、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、抗生物質抗癌剤(ドキソルビシン、ピラルビシン、ダウノルビシン、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ブレオマイシンなど)、代謝拮抗剤(メトトレキサート、フルオロウラシルなど)、アルカロイド系抗癌剤(エトポシド、イリノテカンなど)、アルキル化剤(シクロホスファミドなど)、その他(シスプラチンなど)が挙げられる。また、細菌・真菌感染症に対する化学療法剤などの細胞毒性を示す薬剤を用いることも可能である。
【0018】
−被検物質−
前記「被検物質」としては、特に制限はなく、前記薬剤の副作用に対する緩和作用を評価したい所望の物質を用いることができ、例えば、細胞抽出物、細胞培養上清、発酵微生物産生物、海洋生物抽出物、植物抽出物、精製蛋白質、粗精製蛋白質、ペプチド、非ペプチド性化合物、合成低分子化合物、天然化合物などが挙げられる。
【0019】
−投与−
前記薬剤や前記被検物質の、前記自然免疫機構のみを有する生物への投与方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、腹腔内投与、血液中への注射、飼料(餌)への添加、腸内への注入などが挙げられる。
また、前記薬剤や前記被検物質の、前記自然免疫機構のみを有する生物への投与量としても、特に制限はなく、例えば、投与対象生物、薬剤、被検物質の種類や、投与対象生物の副作用の程度などに応じて適宜選択することができる。一般的には、ヒトでの体重あたりの投与量を、カイコに換算して投与することができ、当業者であれば、適切な投与量を選択することが可能である。
【0020】
<工程(b)>
前記方法においては、次いで、前記自然免疫機構のみを有する生物における前記薬剤の副作用を検出する(工程(b))。
検出する前記薬剤の副作用としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、体重増加の抑制、体重の減少、自然免疫機構のみを有する生物の殺傷、食べる餌の量の減少(食欲不振)、細菌感染症への感受性の増大(免疫の低下)、血液中の細胞数の減少(白血球減少)、催吐、下痢、運動量の低下(沈鬱)、筋の異常収縮・異常弛緩(けいれん、麻痺など)、背脈管収縮の周期性の異常(心拍の異常)(括弧内は、ヒト等の獲得免疫機構を有する生物での対応する症状の例示)などが挙げられる。
また、前記副作用の検出方法としては、特に制限はなく、検出したい副作用の種類に応じて、例えば、公知の検出方法の中から適宜選択することができる。
【0021】
<工程(c)>
前記方法においては、次いで、前記被検物質が前記副作用を緩和するか否かを評価する(工程(c))。
前記副作用を緩和するか否かの評価方法としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記被検物質を投与しなかった場合(対照)と比較して、前記被検物質を投与した場合に、前記自然免疫機構のみを有する生物における前記薬剤の副作用の程度が低減(緩和)されたときに、前記被検物質は、前記獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有すると評価することができる。
以上、前記工程(a)〜工程(c)により、前記評価方法を行うことができる。前記評価方法により、効率的に、かつ容易に、前記被検物質が前記獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有するか否かを評価することができる。
【0022】
<工程(d)>
また、前記スクリーニング方法においては、更に、前記工程(c)で前記副作用を緩和すると評価された物質を選択する(工程(d))。
種々の被検物質を用いて前記工程(a)〜工程(c)による評価を行い、次いで、本工程(d)において、種々の被検物質の中から前記副作用を緩和する物質を選択することにより、効率的に、かつ容易に、前記獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有する物質をスクリーニングすることができる。
【0023】
なお、前記方法により、前記獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有する物質であると同定された物質は、例えば、その構造や由来などに応じて、化学合成や精製などの手法により、適宜生成することができる。また、前記物質は直接、又は薬学的に許容される担体などと混合して、例えば、副作用の緩和を目的として生体に投与することができる。
また、本発明者らは実際に、前記方法を利用して、食用油が、前記獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有することを見出した(実施例2参照、後述)。したがって、前記食用油は、例えば、後述する本発明の副作用緩和剤として有用である。
【0024】
(副作用緩和剤)
本発明の副作用緩和剤は、薬剤の副作用を緩和することができ、食用油を有効成分として含有し、必要に応じて更にその他の成分を含有する。
【0025】
−食用油−
前記食用油としては、その由来に特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、植物由来でも、動物由来でも、人工的に合成したものであってもよい。中でも、前記食用油としては、大豆油が好適に挙げられる。
前記副作用緩和剤中の前記食用油の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0026】
−その他の成分−
また、前記その他の成分としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、薬学的に許容される担体などが挙げられる。前記薬学的に許容される担体としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記副作用緩和剤を各種の剤型として用いる場合には、その剤型に応じて適宜選択することができる。
前記副作用緩和剤中の前記その他の成分の含有量としても、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。
【0027】
−剤型−
前記剤型としては、特に制限はなく、例えば、所望の投与方法に応じて適宜選択することができ、例えば、経口固形剤(錠剤、被覆錠剤、顆粒剤、散剤、カプセル剤等)、経口液剤(内服液剤、シロップ剤、エリキシル剤等)、注射剤(溶液、懸濁液、用事溶解用固形剤等)、吸入散剤などが挙げられる。
【0028】
前記経口固形剤としては、例えば、前記有効成分に、賦形剤、必要に応じて結合剤、崩壊剤、滑沢剤、着色剤、矯味・矯臭剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
前記賦形剤としては、例えば、乳糖、白糖、塩化ナトリウム、ブドウ糖、デンプン、炭酸カルシウム、カオリン、微結晶セルロース、珪酸などが挙げられる。前記結合剤としては、例えば、水、エタノール、プロパノール、単シロップ、ブドウ糖液、デンプン液、ゼラチン液、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルスターチ、メチルセルロース、エチルセルロース、シェラック、リン酸カルシウム、ポリビニルピロリドンなどが挙げられる。前記崩壊剤としては、例えば、乾燥デンプン、アルギン酸ナトリウム、カンテン末、炭酸水素ナトリウム、炭酸カルシウム、ラウリル硫酸ナトリウム、ステアリン酸モノグリセリド、乳糖などが挙げられる。前記滑沢剤としては、例えば、精製タルク、ステアリン酸塩、ホウ砂、ポリエチレングリコールなどが挙げられる。前記着色剤としては、例えば、酸化チタン、酸化鉄などが挙げられる。前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。
【0029】
前記経口液剤としては、例えば、前記有効成分に、矯味・矯臭剤、緩衝剤、安定化剤等の添加剤を加え、常法により製造することができる。
前記矯味・矯臭剤としては、例えば、白糖、橙皮、クエン酸、酒石酸などが挙げられる。前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、トラガント、アラビアゴム、ゼラチンなどが挙げられる。
【0030】
前記注射剤としては、例えば、前記有効成分に、pH調節剤、緩衝剤、安定化剤、等張化剤、局所麻酔剤などを添加し、常法により皮下、筋肉内、及び静脈内用注射剤を製造することができる。
前記pH調節剤及び前記緩衝剤としては、例えば、クエン酸ナトリウム、酢酸ナトリウム、リン酸ナトリウムなどが挙げられる。前記安定化剤としては、例えば、ピロ亜硫酸ナトリウム、EDTA、チオグリコール酸、チオ乳酸などが挙げられる。前記等張化剤としては、例えば、塩化ナトリウム、ブドウ糖などが挙げられる。前記局所麻酔剤としては、例えば、塩酸プロカイン、塩酸リドカインなどが挙げられる。
【0031】
−薬剤−
また、前記副作用緩和剤の副作用緩和の対象となる前記薬剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、前記評価方法、スクリーニング方法の項目で例示したような、ヒトなどの獲得免疫機構を有する生物に対して副作用を示す薬剤などが挙げられる。
【0032】
−投与−
前記副作用緩和剤は、例えば前記剤型に応じて、経口、又は非経口で投与することができる。
前記副作用緩和剤の投与対象となる生物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ヒトなどの獲得免疫機構を有する生物であってもよいし、カイコなどの自然免疫機構のみを有する生物であってもよい。
また、前記副作用緩和剤の投与量は、特に制限はなく、例えば、ヒトに投与する場合には、医師などが、疾患の種類、患者の年齢、体重、症状、遺伝的背景等を考慮した上で、適宜選択することができる。
【0033】
[効果]
本発明者らは、自然免疫機構のみを有する生物、例えば、カイコ幼虫を用いて、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を評価することができ、更に、前記副作用を緩和する活性を有する物質を評価、及びスクリーニングすることができることを世界で初めて見出した。カイコ幼虫などの自然免疫機構のみを有する生物を用いることにより、従来のように哺乳動物を用いた場合と比較して、より効率的に、かつ、より容易に、薬剤の副作用を緩和する候補物質を単離、同定することができる。また、前記自然免疫機構のみを有する生物は、哺乳動物と比較して、低コストであり、扱いやすい。そのため、実験経費や実験スペースを節減することもでき、即ち、低コストで、かつ簡便に、薬剤の副作用を緩和する副作用緩和剤の開発が可能となる。
【実施例】
【0034】
以下に本発明の実施例について説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
なお、本実施例に用いるカイコ幼虫は、カイコ幼虫の卵[Hu・Yo x Tukuba・Ne]をEhime Sansyu(Ehime,Japan)より購入し、27℃にて孵化させ、育てた。また、カイコ幼虫には、特に記さない限り、Silkmate 2S(Nosan Corporation,Yokohama,Japan)を餌として与え、4令眠まで飼育した。マイトマイシンCは協和発酵工業(株)より、ブレオマイシンはシグマ社より購入した。
【0035】
(実施例1:カイコ幼虫における抗癌剤投与による成長抑制)
マイトマイシンC、ブレオマイシンなどの抗癌剤は、哺乳動物において体重減少などの副作用を示すことが知られている。そこで、カイコ幼虫においても抗癌剤による副作用が検討できるか否かを明らかにする目的で、カイコ幼虫にマイトマイシンC及びブレオマイシンのいずれかを注射し、成長に影響が見られるか否かを検討した。具体的には、5令1日目のカイコ幼虫に、種々の用量のマイトマイシンC、又はブレオマイシンを投与し、餌を加え、27℃にて飼育し、個々に経時的に体重を測定した。1群につき10匹を使用した。
【0036】
その結果、マイトマイシンCは0.1mgの投与により、また、ブレオマイシンは10μgの投与により、5令カイコ幼虫の成長を阻害することが分かった(図1〜2)。したがって、カイコ幼虫を用いて、哺乳動物の体重に与える抗癌剤の副作用の有無を検討可能であることが示された。
【0037】
(実施例2:大豆油の餌への添加による、マイトマイシンCによって引き起こされるカイコ幼虫の成長阻害の緩和)
次に、抗癌剤によって引き起こされるカイコ幼虫の体重減少の抑制に働く因子があるか否かを検討した。具体的には、まず、カイコ幼虫の人工飼料を、表1に従い、それぞれの粉末/液体を混合し、加温融解させて作製した。次いで、それぞれの成分を除いたもの、又は5倍量加えた餌を、マイトマイシンCを血液内に注射したカイコ幼虫(5令1日目)に与え、体重増加を個々に経時的に測定した。1群につき10匹を用いた。
【0038】
【表1】

【0039】
その結果、大豆油に、抗癌剤の副作用を部分的に緩和する効果があることが分かった(図3)。したがって、カイコ幼虫は抗癌剤の副作用緩和に作用する物質を評価、探索する系として有用であることが示された。
【0040】
本実施例により、本発明者らは、カイコ幼虫への抗癌剤の投与により、哺乳動物と同様、カイコ幼虫においても体重減少という副作用が生じることを見出した(実施例1)。また、大豆油により、この抗癌剤の副作用が緩和されることを見出した(実施例2)。本発明者らが見出したこれらの知見は、カイコ幼虫などの自然免疫機構のみを有する生物が、ヒトなどの獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用のモデルとなりうることを意味する。したがって、本実施例により、自然免疫機構のみを有する生物を用いて、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用の評価が可能であること、また、前記副作用の緩和に作用する物質の評価、探索が可能であることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明の評価方法、本発明のスクリーニング方法は、効率的に、かつ容易に薬剤の副作用の緩和に作用する物質の評価、探索を行うことができるので、例えば、抗癌剤等の副作用を軽減するための、副作用緩和剤の開発に有用であると考えられる。また、本発明の副作用緩和剤は、マイトマイシンC等の抗癌剤による体重減少等の副作用の緩和に有用であると考えられる。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1】図1は、マイトマイシンCのカイコ幼虫に対する成長阻害効果を示す図である。5令カイコ幼虫に、リン酸緩衝液(PBS)又はマイトマイシンCを0.1mg投与し、餌を与え経時的に体重を測定した。各群につき10匹のカイコ幼虫を用い、平均値を求めた。
【図2】図2は、ブレオマイシンのカイコ幼虫に対する成長阻害効果を示す図である。5令カイコ幼虫に、0.9%NaCl又はブレオマイシン1、10、100μgを投与し、餌を与え経時的に体重を測定した。各群につき10匹のカイコ幼虫を用い、平均値を求めた。
【図3】図3は、大豆油の、マイトマイシンCの副作用緩和効果を示す図である。5令カイコ幼虫に、マイトマイシンC 0.1mgの投与群及び非投与群に、大豆油を通常量加えた人工飼料、及び5倍量加えた人工飼料を与え、経時的に体重増加を測定した。各群につき10匹のカイコ幼虫を用い、平均値を求めた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
被検物質が、獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有するか否かを評価する方法であって、
(a)自然免疫機構のみを有する生物に、前記薬剤及び前記被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構のみを有する生物における前記薬剤の副作用を検出する工程、並びに、
(c)前記被検物質が前記副作用を緩和するか否かを評価する工程、を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
獲得免疫機構を有する生物に対する薬剤の副作用を緩和する活性を有する物質をスクリーニングする方法であって、
(a)自然免疫機構のみを有する生物に、前記薬剤及び被検物質を投与する工程、
(b)前記自然免疫機構のみを有する生物における前記薬剤の副作用を検出する工程、
(c)前記被検物質が前記副作用を緩和するか否かを評価する工程、並びに、
(d)前記副作用を緩和すると評価された物質を選択する工程、を含むことを特徴とする方法。
【請求項3】
薬剤が、マイトマイシンC及びブレオマイシンの少なくともいずれかである請求項1から2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
自然免疫機構のみを有する生物が、昆虫類に属する生物である請求項1から3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
昆虫類に属する生物が、カイコである請求項4に記載の方法。
【請求項6】
薬剤の副作用を緩和する副作用緩和剤であって、食用油を有効成分とすることを特徴とする副作用緩和剤。
【請求項7】
食用油が、大豆に由来する請求項6に記載の副作用緩和剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2008−39415(P2008−39415A)
【公開日】平成20年2月21日(2008.2.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−209972(P2006−209972)
【出願日】平成18年8月1日(2006.8.1)
【出願人】(501481492)株式会社ゲノム創薬研究所 (25)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(504237832)ノーベルファーマ株式会社 (2)
【Fターム(参考)】