説明

薬剤の投与及び吸収促進方法

混合ミセル形態の高分子薬剤を含む薬学的組成物を開示する。混合ミセルは、アルカリ金属アルキルサルフェートと、明細書に記載した少なくとも3種類の異なるミセル形成化合物から形成される。ミセルのサイズは、約1−10ナノメータの範囲である。前記組成物を製造及び使用する方法についても開示する。本発明の組成物を投与する方法は、口腔領域を通じて行なうのが望ましく、約30分以内に薬剤のピーク血漿レベルに達することを示した。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
<関連出願の記載>
この出願は、2000年5月19日に出願された米国特許出願第09/574504号の一部継続出願である。なお、前記米国特許出願第09/574504号は、2000年3月6日に出願された米国特許出願第09/519285号の一部継続出願である。また、前記米国特許出願第09/519285号は、1999年8月31日に出願された米国特許出願第09/386284号の一部継続出願である。また、前記米国特許出願第09/386284号は、1998年12月21日に出願された仮特許出願第60/113239号の優先権を主張して、1999年2月17日に出願された米国特許出願第09/251464号の一部継続出願である。
【0002】
<技術分野>
本発明は、ミセル形態の高分子薬剤を含む改良された薬学的組成物に関する。薬学的組成物は、特に口腔及び経肺による投与に有効である。本発明はまた、これらの薬学的組成物の調製及び使用方法に関する。高分子薬剤の吸収速度を高める方法についても開示する。薬剤のピーク血漿レベルは、約30分で得られることができる。
【背景技術】
【0003】
ペプチド及び蛋白質を含む高分子に関して、安全で効果的な経口調製物を得るという目標については、ここ何年もの間、相対的な進歩はほとんどないといってよい。蛋白質及びペプチドの経口調製物を発展させる上で大きな障壁となっているものに、固有浸透性(intrinsic permeability)の不足、ルーメン及び細胞の酵素分解、クリアランスの速さ及び胃腸(gastrointestinal:GI)管での化学的不安定性などがある。これらの障壁に取り組むための薬学的アプローチは、従来の低分子量の有機薬剤に対しては成功しているが、ペプチドや蛋白質の調製物では成功していない。
【0004】
蛋白質やペプチドについては、注射以外の様々な投与ルートが研究されているが、ほとんど又は全く成功していない。投与ルートは、口腔と鼻孔について大いに関心がもたれている。分子が口腔粘膜を透過する能力は、分子量、脂質溶解性及びペプチド蛋白質のイオン化と関係があると考えられる。1000ダルトンより小さい分子は、口腔粘膜を速やかに通過すると考えられる。分子量が増すにつれて、分子の透過性は急激に低下する。脂質溶解性化合物は、非脂質溶解性分子よりも浸透性が大きい。吸収が最大となるのは、イオン化されていないか、又は電荷がニュートラルのときである。それゆえ、荷電分子の最大の課題は、口腔粘膜を通じて吸収させることにある。
【0005】
蛋白質薬剤分子の多くは、分子量が6000ダルトンを越える極めて大きな分子である。これら分子は、高分子であることに加え、脂質溶解性が一般的に大変乏しく、事実上、不浸透性であることもしばしばである。高分子(すなわち、>1000ダルトン)の生体膜への吸収又は運搬を容易にする物質は、当該分野において、エンハンサー(enhancers)又は吸収助剤(absorption aids)と称される。これらの化合物として、一般的には、キレート化剤、胆汁酸塩、脂肪酸、合成親水性化合物、合成疎水性化合物、及び生物分解性の重合体化合物などが挙げられる。エンハンサーの多くは、刺激(irritation)に関して十分な安全プロファイルが欠如し、障壁機能の低下、粘膜繊毛様クリアランス保護メカニズムを損なう等の問題がある。
【0006】
エンハンサーの中でも特に胆汁酸塩や、また蛋白質可溶化剤には、極端に苦く不快な味をもたらすものがある。このため、人間が毎日それらを摂取することはほとんど不可能である。胆汁酸塩ベースの送達システムに関する味の問題に取り組んだ手法として、口腔粘膜用パッチ、二層タブレット、放出制御錠剤の他、プロテアーゼ阻害剤及び様々なポリマーマトリクスの使用がある。
しかしながら、これまでの技術では、治療に必要な濃度の蛋白質含有薬剤を送達することはできなかった。さらにまた、フィルムパッチデバイスは、口内にかなりの組織損傷を生じることがあった。その他に、1種類の胆汁酸又はエンハンサーを、プロテアーゼ阻害剤及び生分解性ポリマー物質と共に使用し、高分子を口、鼻、直腸及び膣のルートを経て送達しようとするものもあったが、これらも同じ様に、患者の中で、蛋白質含有薬剤を治療レベルに到達させることはできなかった。1種類のエンハンサーでは、高分子がさらなる分解を起こすことなく粘膜を通過できる時間内に、口、鼻、直腸及び膣の腔内でのタイトな細胞結合を解放させることはできない。これらの問題は、上記システムの商業的目的での使用をできなくしている。
それゆえ、治療用調製物、特に口腔投与及び経肺投与として有用な高分子を含む治療用調製物の改良が依然として要請されている。また、このような調製物の製造及び使用方法についても要請されている。
【0007】
<発明の要旨>
上記要請に応えるために、本発明は、改良された薬学的組成物を提供するもので、該組成物は、適当な溶媒の中に、高分子薬剤、アルカリ金属アルキルサルフェート及び3種類以上の追加のミセル形成化合物を含んでいる。
薬剤は、1種又は2種以上の蛋白質、ペプチド、ホルモン、ワクチン、又は薬物(drugs)であってよい。高分子薬剤の分子量は、約1,000乃至2,000,000ダルトンの範囲が望ましい。薬剤は、混合ミセル形態で存在し、ミセルのサイズはおよそ1乃至10ナノメータ(nm)である。
【0008】
本明細書で用いられる「混合ミセル(mixed micelles)」という語は、各々が異なるミセル形成化合物を用いて形成された異なる2種類以上のミセルを意味する。例えば、本発明の組成物は、異なる4種類以上のミセル混合物を含んでおり、ミセルとして、薬剤とアルカリ金属アルキルサルフェートとの間で形成されるミセル、薬剤と本明細書で記載する3種類以上の異なる追加のミセル形成化合物との間で形成されるミセルがある。
個々のミセルは、各々が2種類以上のミセル形成化合物から作られることは理解されるだろう。本発明の混合ミセルは、一般的には、口腔又は胃腸管の中の膜の孔よりも小さい。本発明の混合ミセルのサイズはこのように極端に小さいため、被包された(encapsulated)高分子が口粘膜を通して効率良く浸透するのを補助する役割を果たすと考えられる。それゆえ本発明の組成物は、当該分野で既知の薬学的調製物と比べて、特に口粘膜を通る活性薬剤の生物学的利用能を高めることができる。
【0009】
本発明はまた、高分子薬剤の吸収率を高める方法に関するもので、前記薬剤を含む組成物を、アルカリ金属アルキルサルフェート及び3種類以上の追加のミセル形成化合物と共に投与することを含んでいる。この方法は、組成物が口腔領域に投与されるときに特に効果的である。
本発明の投与方法を使用することにより、薬剤の血漿レベルのピークは約30分以内で得られることができる。
【0010】
本発明の薬学的組成物の製造及び使用方法もまた、本発明の範囲内である。
それゆえ、本発明の目的は、高分子薬剤と複数のミセル形成化合物を含む薬学的組成物を提供することである。
本発明のさらなる目的は、高分子薬剤がミセル形態の薬学的組成物を提供することである。
【0011】
本発明のさらなる目的は、高分子薬剤を、特に患者の口腔及び肺の領域へ投与する方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、高分子薬剤とミセル形成化合物を含む薬学的組成物を製造する方法を提供することである。
本発明のさらなる目的は、非常に短い時間内、例えば投与から30分以内に薬剤のピーク血漿レベルをもたらすことである。
本発明のこれらの目的及び他の目的については、以下の説明及び添付の請求の範囲の記載から明らかであろう。
【発明の開示】
【0012】
<発明の詳細な発明>
本発明は、有効量の高分子薬剤と、アルカリ金属アルキルサルフェートと、3種類以上のミセル形成化合物と、適当な溶媒とを含む薬学的組成物に関するもので、前記ミセル化合物は、レシチン、ヒアルロン酸、グリコール酸、乳酸、カモミール抽出物、キュウリ抽出物、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノオレイン、モノオレエート、モノラウレート、リルヂサ油、マツヨイグサ油、メントール、トリヒドロキシオキソコラニルグリシン、グリセリン、ポリグリセリン、リジン、ポリリシン、トリオレイン、ポリオキシエチレンエーテル、ポリドカノールアルキルエーテル、ケノデオキシコレート、デオキシコレート、それらの薬用的に許容される塩、それらの類縁物質、及びそれらの混合物又は組合せからなる群から選択される。
アルカリ金属アルキルサルフェートの濃度は、組成物全体の約0.1〜20wt./wt.%であり、各ミセル形成化合物の濃度は、組成物全体の約0.1〜20wt./wt.%であり、アルカリ金属アルキルサルフェートとミセル形成化合物の合計濃度は、組成物全体の50wt./wt.%未満である。
【0013】
この明細書で用いられる「高分子(macromolecular)」という語は、分子量が約1000ダルトンよりも大きい薬剤を意味する。本発明の高分子薬剤の分子量は、約2000乃至2,000,000ダルトンが望ましいが、さらに大きな分子量であってもよい。
【0014】
この明細書で用いられる「薬剤(pharmaceutical agent)」という語は、広範囲に亘る物質を含むものであり、人間及び人間以外の動物に用いられる物質で、治療及び研究用のものに限定されるものではない。この用語は、広義には、蛋白質、ペプチド、ホルモン、ワクチン及びドラッグが含まれる。
【0015】
望ましい薬剤として、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン(分子量が約5000ダルトンより少ない)、ヒルログ、ヒルゲン、フリジン、インターフェロン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、イムノグロビン、化学治療剤(chemotherapeutic agents)、ワクチン、糖蛋白質、細菌性トキソイド、ホルモン、カルシトニン、グルカゴン様ペプチド(GLP−1)、高分子抗生物質(すなわち、約1000ダルトンよりも多い)、蛋白質基の血栓溶解化合物、血小板阻害剤、DNA、RNA、遺伝子治療剤(gene therapeutics)、アンチセンスオリゴヌクレオチド、オピオイド、麻酔薬、睡眠薬、ステロイド及び鎮痛剤を挙げることができる。
【0016】
本発明の組成物に含まれるホルモンとして、甲状腺、アンドロゲン、エストロゲン、プロスタグランジン、ソマトトロピン、ゴナドトロピン、エリトロポエチン、インターフェロン、ステロイド及びサイトカインが挙げられるが、これらに限定されるものではない。サイトカインとして、局所的に作用するホルモンの性質を持つ低分子蛋白質があるが、これらに限定されるものでなく、種々の形態のインターロイキン(IL)及び成長因子を挙げることができる。成長因子には、形質転換成長因子(TGP)、線維芽細胞増殖因子(FGF)及びインスリン様成長因子(IGF)などの様々な形態を挙げることができる。本発明に係る組成物に用いられるワクチンには、細菌性ワクチン及びウイルス性ワクチンがあり、例えば、肝炎、インフルエンザ、結核、カナリア痘瘡、水疱瘡、はしか、おたふく風邪、風疹、肺炎、BCG、HIV及びAIDSに対するワクチンがある。細菌性トキソイドには、ジフテリア、破傷風、シュードモナス(Pseudomonas sp.)及びヒト型結核菌(Mycobacterium tuberculosis)が挙げられるが、これらに限定されるものではない。薬物、より具体的には、心血管作動薬又は血栓溶解剤の例として、ヘパリン、ヒルゲン、ヒルロス(hirulos)及びヒルジンが挙げられる。本発明に含まれる高分子薬剤として、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体及び免疫グロビンがある。なお、この記載は全てを網羅しているわけではないことは理解されるべきである。
【0017】
本発明に係る望ましい高分子薬剤は、インスリンである。この明細書で用いられる「インスリン」という語は、天然抽出されたヒトインスリン、コンピテントに作製されたヒトインスリン、ウシ、ブタその他のほ乳類動物から抽出したインスリン、ヒト、ウシ、ブタ、その他のほ乳類動物の遺伝子組み換えで作製されたインスリン、インスリン類縁物質、インスリン誘導体、及びこれらのインスリン生成物の混合物を含むものである。さらにこの用語は、実質的に精製された形態のインスリンポリペプチド及び追加の賦形剤が加えられた市販のインスリンポリペプチドのどちらも含むものである。様々な形態のインスリンは、広く商業的に入手可能である。
なお、「インスリン類縁物質」は、前記インスリンの全てについて、ポリペプチド鎖内の1又は2以上のアミノ酸が代替アミノ酸と置換されたもの、1又は2以上のアミノ酸が削除されたもの、又は1又は2以上のアミノ酸が追加されたものを含む。「インスリン誘導体」は、少なくとも1以上の有機置換基がインスリン鎖の中の1又は2以上のアミノ酸に結合されたインスリン又はその類縁物質を意味する。
【0018】
高分子薬剤は、本発明の薬学的組成物の中ではミセル形態で存在する。当該分野の専門家であれば理解されるように、ミセルは、分子の有極親水性部分が外方に延び、分子の無極疎水性部分が内向きに延びる両親媒性分子のコロイド凝集体(colloidal aggregate)である。以下で説明するように、本発明の調製物を得るために、様々な組合せのミセル形成化合物が用いられる。ミセルはすぐれた吸収能力を有し、またサイズが小さいことから、その存在は、高分子薬剤の吸収を著しく向上させる。さらにまた、薬剤をミセルの中に被包すると、薬剤は、胃腸周辺での素早い分解から保護される。
【0019】
ミセルの粒子サイズは、典型的には、1〜10ナノメータの範囲であり、1〜5ナノメータの範囲のものが多い。ミセルの形状は、様々であり、長球形(prolate)、偏球形(oblate)、球形(spherical)などがあるが、球形ミセルが最も一般的である。
【0020】
本発明の組成物には、有効量の高分子薬剤が含まれるべきである。この明細書で用いられる「有効量(effective amount)」という用語は、例えば、患者の疾患の治療又は予防を所望とおり達成し、患者の生理学的状態を調節するといった所望の結果をもたらすのに必要な薬剤の量を意味する。それゆえ、この量は、患者に治療及び/又は予防効果を有する量と理解されるであろう。この明細書で用いられる「患者(patient)」という用語は、動物界の生物を意味し、人間に限定されるわけではない。なお、有効量は、用いられる薬剤、薬剤について決められるパラメータ、治療される疾患の性質及び程度、治療される患者、及び投与ルートに応じて異なるということは理解されるだろう。有効量の決定は、当該分野の専門家の能力範囲内で行われる。典型的には、本発明の調製物に含まれる薬剤の濃度は、組成物全体の約0.1〜20wt./wt.%であり、約1〜10wt./wt.%がより望ましい。
【0021】
適合性(compatibility)の問題が起こらない限り、どんなアルカリ金属アルキルサルフェートであっても、本発明の組成物に用いることができる。アルキルは、C8乃至C22アルキルが望ましく、ラウリル(C12)がより望ましい。どのアルカリ金属を用いてもよいが、ナトリウムが望ましい。アルカリ金属アルキルサルフェートの濃度は、一般的には組成物全体の約0.1〜20wt./wt.%であるが、組成物全体の約5wt./wt.%より小さい濃度が望ましい。
【0022】
本発明の組成物は、3種類以上のミセル形成化合物をさらに含んでおり、該ミセル形成化合物は、レシチン、ヒアルロン酸、グリコール酸、乳酸、カモミール抽出物、キュウリ抽出物、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノオレイン、モノオレエート、モノラウレート、ルリヂサ油、マツヨイグサ油、メントール、トリヒドロキシオキソコラニルグリシン、グリセリン、ポリグリセリン、リジン、ポリリシン、トリオレイン、ポリオキシエチレンエーテル、ポリドカノールアルキルエーテル、ケノデオキシコレート及びデオキシコレートからなる群から選択される。これらのどの化合物についても、その薬学的に許容される塩及び類縁物質もまた、これら化合物の混合物又は組合せとして本発明の範囲内である。3種類以上の前記ミセル形成化合物の各々は、組成物全体の約0.1〜20wt./wt.%の濃度で本組成物に存在する。より望ましくは、これらミセル形成化合物の各々の濃度は組成物全体の約5wt./wt.%よりも小さい濃度で存在する。本発明の高分子薬剤、特にインスリンを送達する場合、ミセル形成化合物を3種類以上用いると、蓄積効果(cumulative effect)がもたらされる。このため、使用されるミセル形成化合物が1又は2種のみの場合と比べて、送達される薬剤の量は著しく増加する。また、ミセル形成化合物を3種類以上用いると、薬剤組成物の安定性も向上する。
【0023】
アルカリ金属アルキルサルフェートはミセル形成剤として機能し、前記の3種類以上の他ミセル形成化合物に加えて、組成物へ加えられる。アルカリ金属アルキルサルフェートと、3種類以上の追加のミセル形成化合物の合計濃度は、組成物の50wt./wt.%よりも少ない。
【0024】
ミセル形成化合物の幾つかは、一般的に、脂肪酸、胆汁酸又はそれらの塩として記載されることは理解されるであろう。使用に最適なミセル形成化合物は、用いられる薬剤によって異なるが、当該分野の専門家であれば容易に決定できることである。一般的に、胆汁塩は、親水性薬剤との使用に特に適しており、脂肪酸塩は親油性薬剤との使用に特に適している。本発明で用いる胆汁酸塩は比較的低濃度であるため、これら塩の使用に関連する毒性の問題は、たとえ避けられなくても、最小限に抑えられる。
【0025】
レシチンは、飽和又は不飽和のどちらでもよく、ホスファチジルコリン、ホスファチジルセリン、スフィンゴミエリン、ホスファチジルエタノールアミン、ケファリン及びリゾレシチンからなる群から選択されることが望ましい。
【0026】
ヒアルロン酸の望ましい塩は、アルカリ金属ヒアルロン酸塩であり、特に、ヒアルロン酸ナトリウム、アルカリ土類ヒアルロン酸塩、ヒアルロン酸アルミニウムである。本発明の組成物にヒアルロン酸又はその薬学的に許容される塩を用いるとき、濃度は、組成物全体の約0.1〜約5wt./wt.%が望ましく、約3.5wt./wt.%より少ないのがより望ましい。
【0027】
特に適したミセル形成化合物の組合せとして、(i)ヒアルロン酸ナトリウム、モノオレイン及び飽和リン脂質、(ii)飽和リン脂質、モノオレイン及びグリコール酸、(iii)ヒアルロン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンエーテル及びレシチン、(iv)ポリオキシエチレンエーテル、トリヒドロキシオキソコラニルグリシン及びレシチン、(v)ポリドカノール9ラウリルエーテル、ポリリシン及びトリオレイン、(vi)飽和リン脂質、ポリオキシエチレンエーテル及びグリコール酸、(vii)トリヒドロキシオキソコラニルグリシン、レシチン及びケノデオキシコレート、(viii)トリヒドロキシオキソコラニルグリシン、デオキシコレート及びグリセリン、(ix)ポリドカノール10ラウリルエーテル、ナトリウムオキソコラニルグリシン及びレシチン、(x)ポリドカノール10ラウリルエーテル、ホスファチジルコリン及びオレイン酸、(xi)ポリドカノール10ラウリルエーテル、ヒアルロン酸ナトリウム及びレシチン、(xii)ポリドカノール20ラウリルエーテル、マツヨイグサ油及びレシチン、を挙げることができる。
【0028】
本発明の組成物の前記成分は、適当な溶媒の中に入れられる。この明細書で用いられる「適当な溶媒(suitable solvent)」という用語は、本発明の成分を可溶化させることができ、適合性の問題を起こすことなく、患者に投与することができる溶媒を意味する。溶媒は、水性又は非水性のどちらでも用いることができる。特に望ましい溶媒は水である。その他の適当な溶媒として、アルコール溶液、特にエタノールを挙げることができる。アルコールは、本発明の組成物成分が析出しない濃度で用いられるべきである。なお、溶媒については、組成物中の成分全ての合計が100wt./wt.%、つまり十分な量が加えられるべきである(solvent to q.s.)。典型的には、ミセル形成化合物の添加前に薬剤を可溶化するために、溶媒の一部分が最初に用いられることになるであろう。
【0029】
本発明の組成物は、安定剤及び/又は防腐剤を選択的に含むものである。フェノール化合物は、組成物を安定化させるだけでなく、細菌増殖から保護し、組成物の吸収を促進するために、特に適している。フェノール化合物は、1又は2以上のヒドロキシ基がベンゼン環に直接結合した化合物を意味するものと理解されるであろう。本発明に係る望ましいフェノール化合物として、フェノール、メチルフェノール(m−クレゾールとしても知られている)及びそれらの混合物を挙げることができる。
【0030】
本発明の組成物は、無機塩、酸化防止剤、プロテアーゼ阻害剤及び等張剤のうちの1又は2種以上をさらに含むことができる。これらのどの選択的成分についても、本発明の組成物に用いる量は、当該分野の専門家であれば適宜決めることはできるであろう。当該分野の専門家であれば、着色剤、着香剤、及びその他の化合物でも治療的作用をもたらさない量であれば、調製物の中に含まれてもよいことは理解し得るであろう。代表的な着香剤として、メントール、ソルビトール及びフルーツ着香剤がある。従って、メントールをミセル形成化合物の1つとして用いるとき、メントールは、組成物に香りを与えることにもなる。
【0031】
例えば、インスリンを含む組成物は、少なくとも一種類の無機塩を含んでもよい。無機塩は、胃腸管のチャネルを開く作用を有しており、インスリンを放出するための追加の刺激を与えることもできる。無機塩の例として、ナトリウム塩、カリウム塩、カルシウム塩及び亜鉛塩などを挙げることができ、特に、塩化ナトリウム、塩化カリウム、塩化カルシウム、塩化亜鉛及び炭酸水素ナトリウムなどを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0032】
当該分野の専門家であれば、多くの薬学的組成物について、薬学的活性成分の分解と酸化を防止するために、通常、少なくとも一種類の酸化防止剤が添加されることは理解されるであろう。酸化防止剤は、トコフェロール、デターオキシムメシレート(deteroxime mesylate)、メチルパラベン、エチルパラベン、アスコルビン酸及びそれらの混合物からなる群から選択することができるが、その他にも薬学分野で既知の他の酸化防止剤であってよい。望ましい酸化防止剤はトコフェロールである。パラベンは、組成物の防腐効果も有する。
【0033】
プロテアーゼ阻害剤は、蛋白質分解酵素の作用により薬剤の分解抑制に寄与する。プロテアーゼ阻害剤を用いる場合、プロテアーゼ阻害剤は、組成物の約0.1〜3wt./wt.%の濃度が望ましい。蛋白質分解活性を抑制できるものであれば、適合性の問題がない限り、どんな物質を用いることもできる。プロテアーゼ阻害剤の例として、バシトラシン、バシトラシンメチレンジサリシレートなどのバシトラシン誘導体、大豆トリプシン及びアプロチニンを挙げることができるが、これらに限定されるものではない。バシトラシン及びその誘導体は、組成物全体の1.5〜2wt./wt.%の濃度で用いるのが望ましい。一方大豆トリプシンとアプロチニンの場合、組成物全体の約1〜2wt./wt.%濃度で用いるのが望ましい。
【0034】
また、混合ミセル組成物の調製後、グリセリン又は第二リン酸ナトリウムといったような等張剤を加えることもできる。等張剤は、溶液中のミセルを保つ作用を有する。グリセリンがミセル形成化合物の1つとして用いられる場合、そのグリセリンは等張剤としても作用するだろう。第二リン酸ナトリウムが用いられる場合、細菌の増殖を抑制する作用も有するだろう。
【0035】
本発明の薬学的組成物のpHは、一般的には5〜8の範囲であり、6〜7が望ましい。組成物を所定のpHに調節するのに、塩酸又は水酸化ナトリウムを用いることができる。
【0036】
本発明の組成物は室温又は低温で保存される。蛋白質性薬物は、薬物の劣化を防止し、貯蔵寿命を延ばすために、低温で保存することが望ましい。
【0037】
それゆえ、本発明は、複数のミセル形成剤によって形成された混合ミセルの中に高分子薬剤が封じ込められた薬学的組成物を提供することである。組成物は、口腔又は肺を経て送達されるが、口腔を経た送達が望ましい。口と鼻の粘膜を経て投与された薬物は迅速に吸収され、迅速に作用を開始して、治療血漿レベルに達するので、肝臓での代謝の初回通過効果(first pass effect)が回避され、好ましくない胃腸管の環境への曝露が回避されるという送達効果がもたらされる。追加の利点として、膜部位へのアクセスが容易となるので、薬物の適用、特定場所への集中化、除去を容易に行なうことができる。
【0038】
投与形態は口腔ルートが特に有利である。舌下粘膜は、舌の腹面と口床の粘膜を含んでおり、頬粘膜は頬の内層である。舌下粘膜と頬粘膜は、比較的浸透性を有するから、多くの薬物について、迅速な吸収が可能であり、生物学的利用能にすぐれている。さらにまた、舌下粘膜と頬粘膜は、利用勝手が良く、非回避性(non-evasive)で、アクセスが容易である。胃腸管やその他の器官と比べ、口腔内環境は、酵素活性が低くpHは中性であるので、薬物の生体内での有効時間を長くすることができる。なお、この明細書では、舌下粘膜及び頬粘膜を総称して、「口粘膜(oral mucosae)」として記載する。
【0039】
本発明の混合ミセル調製物の浸透及び吸収を改善するには、本発明の組成物を噴射剤(propellant)と共に投与することによって達成することができる。噴射剤として、テトラフルオロエタン、ヘプタフルオロエタン、ジメチルフルオロプロパン、テトラフルオロプロパン、ブタン、イソブタン、ジメチルエーテル並びに他の非CFC噴射剤及びCFC噴射剤を挙げることができる。薬剤と噴射剤の比は、5:95乃至25:75が望ましい。望ましい噴射剤は、水素含有クロロフルオロカーボン、水素含有フルオロカーボン、ジメチルエーテル及びジエチルエーテルである。より望ましい噴射剤は、HFA−134a(1,1,1,2−テトラフルオロエタン)である。
【0040】
本発明の組成物は、定量インヘラー(metered dose inhaler)又は定量スプレー装置を通じて送達されることが望ましい。定量インヘラーは、薬剤の肺への一般的な送達形態として知られている。定量装置を用いる1つの利点は、投与毎に正確な薬剤量を送達できることであり、もう一つの利点は、装置が自己完結型(self-contained)なので汚染可能性が最小限に抑えられることである。
【0041】
本発明はまた、本発明の薬学的組成物を製造する方法を提供するものである。本発明の組成物は、高分子薬剤の溶液、アルカリ金属アルキルサルフェート、3種類以上のミセル形成化合物、及び所望により安定剤その他の添加剤を混合することによって調製することができる。薬剤を加える量は、目的に合った有効量とすべきである。ミセル形成化合物は、同時に加えてもよいし、順次加えてもよい。混合ミセルは、ほぼどんな種類の成分混合方法でも形成されるが、約10ナノメータ以下のサイズのミセルを得るには、激しく撹拌を行なうことが望ましい。本発明の組成物について、上記の薬剤、溶媒、アルカリ金属アルキルサルフェート、ミセル形成化合物及び選択的添加剤は全て、本発明の方法の使用に適している。
【0042】
一実施例として、第1ミセル組成物は、薬学的活性剤を含む溶液を、少なくともアルカリ金属アルキルサルフェートと混合することにより調製され、第1ミセル組成物が形成される。第1ミセル組成物は次に、3種類以上の追加のミセル形成化合物と混合され、混合ミセル組成物が形成される。他の実施例として第1ミセル組成物の調製は、薬学的活性剤、アルカリ金属アルキルサルフェート及び少なくとも1種の追加のミセル形成化合物を含む溶液を混合することによって行ない、該組成物に、残りのミセル形成化合物を加え、激しく撹拌する。なお、アルカリ金属アルキルサルフェートと3種類以上のミセル形成化合物の全てを一度に薬剤溶液へ加えるべきでない。
【0043】
調製物を安定させ、細菌増殖から保護するために、安定剤を混合ミセル組成物に添加することができる。安定剤は、フェノール及び/又はm−クレゾールが望ましい。なお、安定剤の添加は、何れかのミセル形成成分と同時に加えることもできる。混合ミセル組成物の形成後、等張剤を加えることもできる。同様に、この時に、前述した他の選択的添加剤を加えることもできる。エアゾールによる投与形態が所望される場合、調製物は次に、エアゾールディスペンサーに入れられ、ディスペンサーに噴射剤を充填する。噴射剤は、加圧下では、ディスペンサーの中で液状である。本発明の組成物がディスペンサーの中にあるとき、液相は、噴射剤相と分離していてもよい。しかしながら、液相と噴射剤相が1つ、つまり一相となるように、成分の比率を簡単な実験により調節することが望ましい。2相である場合、例えば定量弁を通じて内容物の一部を投薬する前に、ディスペンサーをシェイクする必要がある。分配された量の薬剤が、定量弁を通じて、微細な霧状で噴射される。
【0044】
本発明の具体的な一実施例は、薬学的組成物を作る方法を提供するものであって、
(a) 適当な溶媒の中で、高分子薬剤をアルカリ金属アルキルサルフェートと混合し、該混合物に3種類以上のミセル形成化合物を添加して、混合ミセル高分子薬学的組成物を生成することを含んでおり、前記ミセル形成化合物は、レシチン、ヒアルロン酸、グリコール酸、乳酸、カモミール抽出物、キュウリ抽出物、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノオレイン、モノオレエート、モノラウレート、ルリヂサ油、マツヨイグサ油、メントール、トリヒドロキシオキソコラニルグリシン、グリセリン、ポリグリセリン、リジン、ポリリシン、トリオレイン、ポリオキシエチレンエーテル、ポリドカノールアルキルエーテル、ケノデオキシコレート、デオキシコレート、それらの薬学的に許容される塩、それらの類縁物質、及びそれらの混合物又は組合せからなる群から選択される。
【0045】
アルカリ金属アルキルサルフェートを含むミセル形成化合物の各々は、濃度が組成物全体の0.1〜20wt./wt.%であり、その合計濃度は、組成物全体の50wt./wt.%よりも少ない。
【0046】
前記方法は、安定剤を添加するステップをさらに含むことができる。安定剤として、フェノール、m−クレゾール及びそれらの混合物からなる群から選択されるフェノール化合物が挙げられる。安定剤の添加は、アルカリ金属アルキルサルフェートの添加前、添加中又は添加後のどの場合でもよいし、ミセル形成化合物の添加前、添加中、添加後のどの場合でもよい。
前記方法は、組成物をエアゾールディスペンサーに入れ、ディスペンサーに噴射剤を充填するステップをさらに含むことができる。
【0047】
本発明の他の実施例において、本発明の方法は、
(a) 適当な溶媒の中で、高分子薬剤を、アルカリ金属アルキルサルフェート及び少なくとも1種類のミセル形成化合物と混合して、第1の混合ミセル高分子薬学的組成物を生成することを含んでおり、前記ミセル形成化合物は、レシチン、ヒアルロン酸、グリコール酸、乳酸、カモミール抽出物、キュウリ抽出物、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、モノオレイン、モノオレエート、モノラウレート、ルリヂサ油、マツヨイグサ油、メントール、トリヒドロキシオキソコラニルグリシン、グリセリン、ポリグリセリン、リジン、ポリリシン、トリオレイン、ポリドカノールアルキルエーテル(polydocano alkyl ethers)、ケノデオキシコレート、デオキシコレート、それらの薬学的に許容される塩、それらの類縁物質、及びそれらの混合物又は組合せからなる群から選択され、
(b) 第1の組成物に対し、ステップ(a)で加えたものと同じ群から選択されるが、ステップ(a)で加えたものとは異なる2種類以上のミセル形成化合物を加えることを含んでいる。
【0048】
また、ステップ(a)の際、或いはステップ(a)の後で、前述した安定剤を組成物に加えることもできる。混合は、激しく行なってもよいし、そうでなくてもよい。激しい混合は、例えば、電磁攪拌機又はプロペラ攪拌機などの高速攪拌機や、ソニケータによって行なうことができる。混合は激しく行なうのが望ましい。
【0049】
本発明はまた、本発明の組成物及び噴射剤が入れられた定量エアゾールディスペンサーを提供するもので、該ディスペンサーの中で、高分子薬剤及び噴射剤を含む溶液は単相である。
【0050】
本発明はまた、定量スプレー装置を用いて、内部で混合された組成物を口の中へスプレーすることにより、本発明の薬学的組成物を投与する方法を提供するものである。投与は、インヘラーなしで口腔内へスプレーすることにより行なう。本発明の薬学的組成物と噴射剤を口腔内へスプレーする前に、ディスペンサーをシェイクすることが必要な場合又は望ましい場合がある。本発明のインスリン含有組成物を口の中に投与したときの血漿レベルと血糖値(blood glucose levels)は、インスリンを注入したときに達成されるレベルと同程度である。本発明の方法は、無痛及び無針治療であること、また使い勝手が良いことなどの点で、注射の場合と比べて、生活の質を著しく改善するものである。
【0051】
口腔を通じて投与されるインスリンの場合、第1ミセル溶液の調製は、まず水その他の溶媒を、次に塩酸(典型的には5M)を粉末インスリンに加え、粉末が溶解して、透明な溶液が得られるまで撹拌することにより行なう。次に、溶液を水酸化ナトリウムで中和することもできる。モルヒネやフェンタニルのような他の薬剤は、水溶性で、水や他の溶媒と直接混合することも可能である。中和した溶液に、アルキル硫酸ナトリウムを、単独で、又は少なくとも一種類のミセル形成化合物と共に加え、低速で撹拌する。アルキル硫酸ナトリウムとしてのラウリル硫酸ナトリウムの水溶液の一般的な濃度は、溶液の約5wt./wt.%よりも少ない。典型的には、ミセル溶液中に存在するインスリンは、最終組成物の約0.1〜20wt./wt.%の濃度である。
【0052】
このようにして作製された溶液を、ソニケーション又は高速撹拌によって激しく混合することにより、ミセル溶液が生成される。前述したように、その他のミセル形成化合物を加えることもできる。組成物の中でミセルの均一な粒径分布を確実に得るには、混合は、高速ミキサー又はソニケータによって行なえばよい。
【0053】
望ましい実施例では、本発明のミセル薬学的組成物を調製した後、フェノール及び/又はm−クレゾールを添加する。前述したように、他の成分、例えば等張剤、着香料、酸化防止剤、塩、プロテアーゼ阻害剤又は他の薬学的に許容しうる化合物などをエアゾールディスペンサーに加えることもできる。調製物はエアゾールディスペンサーに入れられる。ディスペンサーには、公知の要領にて、噴射剤が充填される。
【0054】
上記成分の具体的濃度については、当該分野の専門家であれば、ここで提供される一般的ガイドラインに基づいて決定することができる。成分の量は、スプレーしたときに、泡が生成するような組成物にならないようにその限界を定め、微細な霧状スプレーとする必要がある。口腔を通じて吸収させるには、注射又は胃腸管を通じて投与するときの通常の薬量の2倍又は3倍に増やすことが望ましいことがある。
【0055】
エアゾールディスペンサーからスプレーされるエアゾール液滴の望ましいサイズは、少なくともその一部分は、薬剤が送達されるべき場所によって決定される。例えば、肺の中へ送達する場合、粒子サイズは約5μmよりも小さいサイズが望ましい。一方、口腔に吸収させる場合、粒子サイズは約5−10μmが望ましい。
【0056】
本発明はまた、高分子薬剤の吸収速度を高める方法に関するもので、高分子薬剤を、アルカリ金属アルキルサルフェートと3種類以上の前記ミセル形成化合物と共に投与することを含んでいる。この方法は、組成物を患者の口腔領域に直接投与することが望ましい。
【0057】
本発明のどの方法の場合にも、口腔への投与は、インヘラー無しで、調製物を口の中へスプレーすることにより行われ、液滴は肺の中へ引き込まれることなく、口腔内に滞留する。
【0058】
追加の態様において、本発明は、薬剤を患者の口腔又は肺の粘膜へ投与する方法を提供するものであり、前記薬剤を含む組成物を、定量ディスペンサーで口腔又は肺の粘膜へスプレーすることを含んでいる。その結果、薬剤は口腔又は肺の粘膜を通して吸収され、約1時間以内で薬剤のピーク血漿レベルが得られる。約45分以内で薬剤のピーク血漿レベルが得られるのが望ましいが、最も望ましいのは、約30分以内である。口腔粘膜は、頬粘膜であるのが望ましい。
【0059】
薬剤は、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルログ、ヒルゲン、フリジン、インターフェロン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、イムノグロビン、化学治療剤、ワクチン、糖蛋白質、細菌性トキソイド、ホルモン、カルシトニン、グルカゴン様ペプチド、抗生物質、血栓溶解化合物、血小板阻害剤、DNA、RNA、遺伝子療法剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、睡眠薬、ステロイドから成る群から選択される。薬剤は、インスリンであるのが望ましい。
【0060】
本明細書で使用される「ピーク血漿レベル(peak plasma level)」という用語は、プラスマイナス約10%の範囲で、血液中で測定された薬剤の最も高い値を意味する。
【0061】
さらなる態様において、本発明は、薬剤を患者の口腔粘膜へ投与する方法を提供するものであり、前記薬剤を含む組成物を、定量ディスペンサーで口腔粘膜へスプレーすることを含んでいる。その結果、薬剤は口腔粘膜を通して吸収され、約1時間以内で薬剤のピーク血漿レベルが得られる。約45分以内で薬剤のピーク血漿レベルが得られるのが望ましいが、最も望ましいのは、約30分以内である。口腔粘膜は、頬粘膜であるのが望ましい。
【0062】
薬剤は、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルログ、ヒルゲン、フリジン、インターフェロン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、イムノグロビン、化学治療剤、ワクチン、糖蛋白質、細菌性トキソイド、ホルモン、カルシトニン、グルカゴン様ペプチド、抗生物質、血栓溶解化合物、血小板阻害剤、DNA、RNA、遺伝子治療剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、睡眠薬、オピオイド、麻酔薬、鎮痛剤及びステロイドから成る群から選択される。薬剤は、インスリン、モルヒネ又はフェンタニルであるのが望ましい。
【0063】
追加の態様において、本発明は、患者の口腔又は肺の粘膜へ投与される薬剤の吸収を高める方法を提供するものであり、前記薬剤を含む組成物を、定量ディスペンサーで口腔又は肺の粘膜へスプレーすることを含んでいる。その結果、薬剤は口腔又は肺の粘膜を通して吸収され、約1時間以内で薬剤のピーク血漿レベルが得られる。約45分以内で薬剤のピーク血漿レベルが得られるのが望ましいが、最も望ましいのは、約30分以内である。口腔粘膜は、頬粘膜であるのが望ましい。
【0064】
薬剤は、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルログ、ヒルゲン、フリジン、インターフェロン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、イムノグロビン、化学治療剤、ワクチン、糖蛋白質、細菌性トキソイド、ホルモン、カルシトニン、グルカゴン様ペプチド、抗生物質、血栓溶解化合物、血小板阻害剤、DNA、RNA、遺伝子治療剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、睡眠薬及びステロイドから成る群から選択される。薬剤は、インスリンが望ましい。
【0065】
さらなる態様において、本発明は、患者の口腔粘膜へ投与される薬剤の吸収を高める方法を提供するものであり、前記薬剤を含む組成物を、定量ディスペンサーで口腔粘膜へスプレーする。薬剤は口腔粘膜を通して吸収され、約1時間以内で薬剤のピーク血漿レベルが得られる。約45分以内で薬剤のピーク血漿レベルが得られるのが望ましいが、最も望ましいのは、約30分以内である。口腔粘膜は、頬粘膜であるのが望ましい。
【0066】
薬剤は、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルログ、ヒルゲン、フリジン、インターフェロン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、イムノグロビン、化学治療剤、ワクチン、糖蛋白質、細菌性トキソイド、ホルモン、カルシトニン、グルカゴン様ペプチド、抗生物質、血栓溶解化合物、血小板阻害剤、DNA、RNA、遺伝子治療剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、睡眠薬、オピオイド、麻酔薬、鎮痛剤及びステロイドから成る群から選択される。薬剤は、インスリン、モルヒネ又はフェンタニルが望ましい。
【0067】
<実験>
次の実験は、発明の例示を目的とするものであって、いかなる意味においても発明を限定するものと解すべきではない。
実験1
約100mgの粉末インスリンを撹拌器付きガラスビーカの中へ入れる。10mlの蒸留水を加え、溶液を低速で撹拌する。この溶液に、インスリンが完全に溶解するまで、5M HCl(pH2)溶液を滴下し、加える。次に、ゆっくり撹拌しながら、この溶液に5
M NaOH溶液を、pHが約7〜8になるまで滴下し、中和する。この溶液に、ラウリル硫酸ナトリウム50mg、デオキシコレート36mg、トリヒドロキシオキソコラニルグリシン(グリココール酸ナトリウム)50mg、及び第二リン酸ナトリウム20mgを加え、化合物を完全に溶解する。次に、グリセリン250mgを、2000rpmの高速条件で撹拌しながら加える。溶液を30分間撹拌した後、10℃で貯蔵する。この混合物に、m−クレゾール40mg及びフェノール40mgを加える。なお、デオキシコレートに代えて、ケノデオキシコレート又はポリオキシエチレンエーテルを使用することもできる。
【0068】
溶液を、ピペットを用いて、10ml容量のガラスバイアル瓶の中へ入れた(1ml/バイアル)。バイアル瓶はHFA−134a噴射剤が充填され、室温で貯蔵される。
インスリン吸収効果方法を用いて、幾人かの糖尿病患者に対して、この調製物をテストした。糖尿病の被験者(ボランティア)10人には、前夜からの絶食と、投与前に朝食を採らないように依頼した。被験者は、インスリンの投与後、高カロリーの食事をとった。さらに4時間後、血糖値を測定した。結果を表1に示す。第1日目、被検者には、プラセボパフ(placebo puffs)と経口血糖降下剤(メトフォルミン、錠剤)を施した。第2日目、被験者に、前述の通り調製した口腔用インスリンを70ユニット投与した。第3日目、被験者に、本発明の口腔用インスリン組成物を70ユニット投与した。表1に示されるように、本発明の口腔用インスリン組成物は、血糖値の制御という点で、経口血糖降下剤よりも遙かに良好な結果を示した。
【0069】
【表1】

【0070】
上記の手順を繰り返し行ない、その結果を次に示す。
【表2】

【0071】
実験2
実験1と同じ要領にてインスリン溶液を調製した。この溶液に、ラウリル硫酸ナトリウム7mg、ポリオキシエチレンエーテル(10ラウリル)7mg、トリヒドロキシオキソコラニルグリシン7mgを加え、完全に溶解させる。次に、水アルコール溶液(7mg/mL)に溶解させた7mgのレシチンを、2000rpmの高速条件で撹拌しながら加える。溶液を30分間撹拌した後、10℃で貯蔵する。得られた混合ミセル溶液のインスリンは、約200ユニットである。この混合物に、フェノール5mg、m−クレゾール5mg及びグリセリン10mgを加える。
【0072】
溶液を、10ml容量のガラスバイアル瓶の中へピペットで入れた(1mL/バイアル)。自動ガス充填装置Paramasol 2008を用いて、HFA−134a噴射剤をバイアル瓶に充填する。噴射剤の量は、エアゾール瓶の1操作につき2ユニットのインスリンが供給されるように、9mLショットサイズに調節される。バイアルのバルブは、操作1回につき、2ユニットのインスリンが含まれる100μLがスプレーされるように設計される。ガラスバイアルの中の調製物は、噴射剤を含み、単一の相、すなわち均質である。
【0073】
空気力学的な粒子サイズは、USP Anderson(登録商標)の8段式カスケードインパクタMark IIにより測定される。インパクタはメタノールで清浄化され、30℃で空気乾燥される。ガラスファイバーフィルタを受け皿(collection plates)に設置する。アクチュエータをインパクタのマウスピースに取り付け、USPの導入ポート及びジェット台に組み立てる。真空ポンプを接続し、空気の流量を28.3L/分に設定した。バイアルは10秒間シェイクして準備され、それを2回繰り返した後、排出される。ショットは、アクチュエータをマウスピースの中へ排出することで送達され、これは25回繰り返された。水10mL中に0.6mLのEDTAを含むpH8.7の液を用いて、マウスピースを洗浄し、堆積したインスリンを集めた。フィルターを取り除いて、シンチレーションバイアル瓶に入れ、15分間ソニケータに付した。次に、RP−HPLCを用いて、インスリンの量を分析した。得られた結果を表3(1操作につき2ユニット)及び表4(1操作につき4ユニット)に示す。
【0074】
【表3】

【0075】
【表4】

【0076】
これらの試験結果では、平均粒子サイズは約7μmであった。また、3−8ステージでは、そのステージの全てが示されてはいないが、インスリンの堆積(deposition)は認められず、大部分の粒子が約6μmよりも大きいことを示している。これは、調製物の大部分は口腔で堆積し、肺の深いところでは堆積しないことを示唆する。
【0077】
さらに、ショットサイズの正確さを調べるための試験を行なった。試験は、ティール管の中へショットを発射し、サンプル収集前後の管の重量を測定することにより行なった。試験の結果は、1操作当たり2ユニットのショットの場合、重さは0.075〜0.083グラムであり、約±5%の範囲内であった。試験の結果は、1操作当たり4ユニットのショットの場合、重さは0.076〜0.083グラムであり、約±5%の範囲内であった。試験の結果は、1操作当たり6ユニットのショットの場合、重さは0.070〜0.082グラムであり、約±8%の範囲内であった。HPLCの分析結果では、送達された投与量は、1操作当たり2ユニットの場合、2.01〜2.07ユニット、1操作当たり4ユニットの場合、3.9〜4.4ユニット、1操作当たり6ユニットの場合、5.8〜6.3ユニットであった。
【0078】
糖尿病の被験者10人に対して、前夜からの絶食と、投与前に朝食を採らないように依頼した。第1日目、被験者に10ユニットのインスリン(エリ・リリー(Eli Lilly)から入手した標準の即効性インスリン)を注射した。第2日目、この実験のインスリン60ユニット(6ユニットずつ10パフ)を、被験者の口の中へインヘラーなしで投与した。RIA法により3時間周期的に血漿インスリン濃度を測定した。測定結果の平均値(マイクロモル/mL)を表5に示す。また、バイヤーのグルコメータ・エリート(Bayer's Glucometer Elite)を用いて、血糖値を3時間間隔でモニターした。測定結果の平均値(ミリモル/リットル)を表6に示す。
【0079】
【表5】

この試験では、本発明の組成物を送達する場合、インスリン直接注入法とスプレー法とでは、血漿インスリンレベルは同程度の結果を示した。
【0080】
【表6】

この試験では、本発明の組成物を送達する場合、インスリン直接注入法とスプレー法とでは、血糖値は同程度の結果を示した。
【0081】
試験は、10パフずつ40ユニットをスプレーしたものと、10ユニット注射したものについて、前述の血漿レベルと血糖値を測定し、比較した。試験結果を、表7(血漿)及び表8(血糖)に示す。
【0082】
【表7】

この試験では、本発明の組成物を送達する場合、インスリン直接注入法とスプレー法とでは、血漿インスリンは同程度の結果を示した。
【0083】
【表8】

この試験では、本発明の組成物を送達する場合、インスリン直接注入法とスプレー法とでは、血糖値は同程度の結果を示した。
【0084】
実験3
実験1と同じ要領にてインスリン溶液を調製した。この溶液に、インスリン溶液1mlにつき、ラウリル硫酸ナトリウム30.4mg、ポリドカノール9ラウリルエーテル30.4mg、ポリリジン10.0mgを加え、化合物を完全に溶解する。次に、インスリン溶液1mlにつきトリオレイン15.2mgを、2000rpmの高速条件で撹拌しながら加える。溶液を30分間撹拌した後、10℃で貯蔵する。得られた溶液は混合ミセル溶液である。この混合物に対し、インスリン溶液1mlにつき、m−クレゾール15.2mgを加える。
【0085】
溶液を、ピペットにて、ガラスバイアル瓶の中へ入れた(1mL/バイアル)。自動ガス充填装置(Pamasol 2008)(Paramasolは登録商標)を用いて、HFA−134a噴射剤10.8gをガラスバイアル瓶に充填した。バイアルのバルブは、操作1回につき、6ユニットのインスリンが含まれる100μLのスプレーが供給されるように設計されている。噴射剤を含むガラスバイアルの中の調製物は、単一相、すなわち均質である。
【0086】
糖尿病の被験者10人に対して、前夜からの絶食と、投与前に朝食を採らないように依頼した。第1日目、被験者に10ユニットのインスリンを注射した。第2日目、この実験のインスリン60ユニット(6ユニットずつ10パフ)を、被験者の口の中へインヘラーなしで投与した。RIA法により3時間間隔で血漿インスリンレベルを測定した。測定結果の平均値(マイクロモル/mL)を表9に示す。また、バイヤーのグルコメータ・エリート(Bayer's Glucometer Elite)を用いて、血糖値を3時間間隔でモニターした。測定結果の平均値(ミリモル/リットル)を表10に示す。
【0087】
【表9】

この試験では、本発明の組成物を送達した場合、インスリン直接注入法とスプレー法とでは、血漿インスリンレベルは同程度の結果を示した。
【0088】
【表10】

この試験では、本発明の組成物を送達した場合、インスリン直接注入法とスプレー法とでは、血糖値は同程度の結果を示した。
【0089】
実験4
実験1と同じ要領にてインスリン溶液を調製した。溶液1mlにつきインスリンが600ユニットになるまで、溶液を蒸留水で希釈する。次に、この溶液1mlを10mL容量のガラスバイアル瓶に移し、半自動ガス充填装置(Paramasol 2008)を用いて、HFA−134a噴射剤10.8gをガラスバイアル瓶に充填する。
【0090】
気相と液相がはっきりと分離していることが観察された。バイアル瓶を振ってみたが、それでも組成物は均質にならなかった。
ショットサイズを正確に求めるための試験を行なった。試験は、ティール管の中へショットを発射し、サンプル収集前後の管の重量を測定することにより行なった。試験の結果は、1操作当たり6ユニットのショットを5回続けて行なったところ、重さは0.094、0.110、0.200、0.150及び0.050グラムであり、平均値の約±60%の範囲内であった。これは、実験2(本発明の範囲内の組成物について記載している)の±8%と対比される。
【0091】
HPLCの分析結果では、平均送達量は、ショット5〜10では1操作当たり5.4ユニット、ショット45〜50では1操作当たり7.1ユニット、ショット85〜90では1操作当たり8.6ユニットであった。
この実験と実験2の結果を比較すると、一定量の送達は、本発明のミセル形成成分で達成されるが、本発明のミセル形成成分でないときは達成されないことを示した。
【0092】
実験5
1mlにつき10,000ユニットを含む濃縮インスリン10mlを、ガラスビーカの中へ入れる。この溶液に、ラウリル硫酸ナトリウム7mg、ポリオキシエチレンエーテル(10ラウリル)7mg、トリヒドロキシオキソコラニルグリシン7mg、レシチン7mgを加える。それらが完全に溶解するまで、撹拌を行なった。この溶液に、フェノール7mg及びm−クレゾール7mgを加え、十分に混合した。
【0093】
次に、この溶液1mlをピペットにて10mL容量のガラスバイアル瓶に入れた。バイアル瓶は定量弁を有している。次に、ガス充填装置(Paramasol 2008)を用いて、HFA−134a噴射剤をバイアル瓶に充填する。噴射剤の量は、バルブ操作1回につきインスリン10ユニット(1操作につき100μLのショット)が送達されるように、バイアル1本につき9mLに調節されている。ガラスバイアル瓶の中の噴射剤を含む調製物は、単一相、すなわち均質である。
【0094】
糖尿病の被験者10人に対して、前夜からの絶食と、投与前に朝食を採らないようにしてもらった。第1日目、各被験者に7ユニットのエリ・リリー(Eli Lilly)が市販する標準の即効性インスリンを注射した。第2日目、この実験のインスリン調製物70ユニット(10ユニットずつ7パフ)を、被験者の口の中へインヘラーなしで投与した。血液サンプルを集め、バイヤーのグルコメータ・エリート(Bayer's Glucometer Elite)を用いて、血漿血糖値を3時間間隔で測定した。測定結果の平均値(ミリモル/mL)を表11に示す。また、インスリン値は、RIA法により3時間間隔でモニターした。測定結果の平均値(マイクロモル/リットル)を表12に示す。
【0095】
【表11】

【0096】
【表12】

この試験では、本発明の組成物を投与する場合、インスリン直接注入法とスプレー法とでは、インスリン値は同程度の結果を示した。
【0097】
実験6
1mlにつき10,000ユニットを含む濃縮インスリン10mlを、ガラスビーカの中へ入れる。この溶液に、ラウリル硫酸ナトリウム15mg、ケノデオキシコレート15mg、トリヒドロキシオキソコラニルグリシン15mg、レシチン7mgを加える。それらが完全に溶解するまで、撹拌を行なった。この溶液に、フェノール7mg及びm−クレゾール7mgを加え、十分に混合した。
【0098】
この溶液1mlをピペットで、10mL容量のガラスバイアル瓶に入れた。瓶は、定量弁を有している。次に、ガス充填装置(Paramasol 2008)を用いて、HFA−134a噴射剤をバイアル瓶に充填した。噴射剤の量は、バルブ操作1回につきインスリン10ユニット(1操作につき100μLのショット)が送達されるように、バイアル1本につき9mLに調節されている。ガラス瓶の中の噴射剤を含む調製物は、単一相、すなわち均質である。
【0099】
糖尿病の被験者10人に対して、前夜からの絶食と、投与前に朝食を採らないようにしてもらった。第1日目、各被験者に7ユニットのエリ・リリー(Eli Lilly)が市販する標準の即効性インスリンを注射した。インスリンを投与して15分後、各被験者は250カロリーのSustacal(登録商標)ドリンクを与えられ、各被験者は10分以内にこれを飲んだ。第2日目、この実験のインスリン70ユニット(10ユニットずつ7パフ)を、被験者の口の中へインヘラーなしで投与した。インスリンを投与して15分後、各被験者は250カロリーのSustacal(登録商標)ドリンクを与えられ、各被験者は10分以内にこれを飲んだ。血液サンプルを集め、バイヤーのグルコメータ・エリート(Bayer's Glucometer Elite)を用いて、血漿血糖値を4時間間隔で測定した。測定結果の平均値(ミリモル/mL)を表13に示す。
【0100】
【表13】

これらの試験では、本発明の組成物を投与する場合、インスリン直接注入法とスプレー法とでは、血糖値は同程度の結果を示した。
【0101】
実験7
本発明の追加の実施例を、上述の方法を用いて調製した。実験1と同じ要領にてインスリン溶液を、下記の追加の成分及び量と共に調製した。
グリセリン 250mg
フェノール 30mg
デオキシコール酸ナトリウム 30mg
ラウリル硫酸ナトリウム 40mg
グリココール酸ナトリウム 60mg
試験は、この組成物に対して実施され、定量ディスペンサーで頬部の口腔粘膜へ投与し、薬剤のピーク血漿レベルを測定して注射の場合と比較した。データは、表14に表形式で示し、図1及び2にグラフ形式で示す。図1(タイプ2の糖尿病患者の組成物のピーク血漿レベル)及び図2(タイプ1の糖尿病患者の組成物のピーク血漿レベル)に見られるように、ピーク血漿レベルは、約30分以内で得られる。これらの結果は、無痛療法で速やかな吸収を達成できることを示している。
【0102】
【表14】

【0103】
実験8
本発明の追加の実施例を、上述の方法を用いて調製した。フェンタニル溶液の調製を、水に粉末クエン酸フェンタニルを溶かして、下記の追加の成分及び量を加えて行なった。
クエン酸フェンタニル 0.5mg
ポリオキシエチレン−9−ラウリルエーテル 45mg
グリセリン 60mg
フェノール 50mg
ラウリル硫酸ナトリウム 40mg
グリココール酸ナトリウム 30mg
エタノール 0.20ml
注入用蒸留水 約1ml
HFA 134A(噴射剤) 10.0g
試験は、この組成に対して実施され、定量ディスペンサーで頬部の口腔粘膜へ投与した、フェンタニルのピーク血漿レベルを測定して注射の場合と比較した。データは、表15及び表16に表形式で示し、図3にグラフ形式で示す。
【0104】
【表15】

【0105】
【表16】

【0106】
本発明の具体的実施例を説明のために例示したが、当該分野の専門家であれば、特許請求の範囲に記載された発明から逸脱することなく、本発明の詳細について種々の変形をなし得ることは明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0107】
本発明は、下記の限定されない図面によって、さらに説明される。
【図1】タイプ1の糖尿病患者に対して、注射と本発明の方法に係る口腔投与した場合の血漿インスリンレベルを比較するグラフである。
【図2】タイプ2の糖尿病患者に対して、注射と本発明の方法に係る口腔投与した場合の血漿インスリンレベルを比較するグラフである。
【図3】注射と本発明の方法に係る口腔投与した場合の血漿フェンタニルのレベルを比較するグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の口腔又は肺の粘膜へ薬剤を投与する方法であって、
前記薬剤を含む組成物を、定量ディスペンサーで口腔又は肺の粘膜へスプレーすることを含んでおり、
前記薬剤は、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルログ、ヒルゲン、フリジン、インターフェロン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、イムノグロビン、化学治療剤、ワクチン、糖蛋白質、細菌性トキソイド、ホルモン、カルシトニン、グルカゴン様ペプチド、抗生物質、血栓溶解化合物、血小板阻害剤、DNA、RNA、遺伝子治療剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、睡眠薬及びステロイドから成る群から選択され、
前記薬剤は、口腔又は肺の粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約1時間以内に得られる、方法。
【請求項2】
薬剤は口腔又は肺の粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約45分以内に得られる請求項1の方法。
【請求項3】
薬剤が口腔又は肺の粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約30分以内に得られる請求項1の方法。
【請求項4】
薬剤はインスリンである請求項1の方法。
【請求項5】
薬剤はインスリンである請求項3の方法。
【請求項6】
口腔粘膜は頬粘膜である請求項1の方法。
【請求項7】
口腔粘膜は頬粘膜である請求項3の方法。
【請求項8】
患者の口腔又は肺の粘膜へ投与される薬剤の吸収を促進する方法であって、
薬剤を含む組成物を、定量ディスペンサーで口腔又は肺の粘膜へをスプレーすることを含んでおり、
前記薬剤は、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルログ、ヒルゲン、フリジン、インターフェロン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、イムノグロビン、化学治療剤、ワクチン、糖蛋白質、細菌性トキソイド、ホルモン、カルシトニン、グルカゴン様ペプチド、抗生物質、血栓溶解化合物、血小板阻害剤、DNA、RNA、遺伝子治療剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、睡眠薬及びステロイドから成る群から選択され、
前記薬剤は、口腔又は肺の粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約1時間以内に得られる、方法。
【請求項9】
薬剤は口腔又は肺の粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約45分以内に得られる請求項8の方法。
【請求項10】
薬剤は口腔又は肺の粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約30分以内に得られる請求項8の方法。
【請求項11】
薬剤はインスリンである請求項8の方法。
【請求項12】
薬剤はインスリンである請求項10の方法。
【請求項13】
口腔粘膜が頬粘膜である請求項8の方法。
【請求項14】
口腔粘膜は頬粘膜である請求項10の方法。
【請求項15】
患者の口腔粘膜へ薬剤を投与する方法であって、
薬剤を含む組成物を、定量ディスペンサーで口腔粘膜へスプレーすることを含んでおり、
薬剤は、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルログ、ヒルゲン、フリジン、インターフェロン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、イムノグロビン、化学治療剤、ワクチン、糖蛋白質、細菌性トキソイド、ホルモン、カルシトニン、グルカゴン様ペプチド、抗生物質、血栓溶解化合物、血小板阻害剤、DNA、RNA、遺伝子治療剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、オピオイド、麻酔薬、睡眠薬、ステロイド及び鎮痛剤から成る群から選択され、
前記薬剤は、口腔粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約1時間以内に得られる、方法。
【請求項16】
薬剤は口腔粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約45分以内に得られる請求項15の方法。
【請求項17】
薬剤は口腔粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約30分以内に得られる請求項15の方法。
【請求項18】
薬剤はインスリンである請求項15の方法。
【請求項19】
薬剤はインスリンである請求項17の方法。
【請求項20】
口腔粘膜は頬粘膜である請求項15の方法。
【請求項21】
口腔粘膜が頬粘膜である請求項17の方法。
【請求項22】
患者の口腔又は肺の粘膜へ投与される薬剤の吸収を促進する方法であって、
薬剤を含む組成物を、定量ディスペンサーで口腔粘膜へスプレーすることを含んでおり、
薬剤は、インスリン、ヘパリン、低分子量ヘパリン、ヒルログ、ヒルゲン、フリジン、インターフェロン、サイトカイン、モノクローナル抗体、ポリクローナル抗体、イムノグロビン、化学治療剤、ワクチン、糖蛋白質、細菌性トキソイド、ホルモン、カルシトニン、グルカゴン様ペプチド、抗生物質、血栓溶解化合物、血小板阻害剤、DNA、RNA、遺伝子治療剤、アンチセンスオリゴヌクレオチド、オピオイド、麻酔薬、睡眠薬、ステロイド及び鎮痛剤から成る群から選択され、
その薬剤は、口腔粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約1時間以内に得られる、方法。
【請求項23】
薬剤は口腔粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約45分以内に得られる請求項22の方法。
【請求項24】
薬剤は口腔粘膜から吸収され、薬剤のピーク血漿レベルが約30分以内に得られる請求項22の方法。
【請求項25】
薬剤はインスリンである請求項22の方法。
【請求項26】
薬剤がインスリンである請求項24の方法。
【請求項27】
口腔粘膜は頬粘膜である請求項22の方法。
【請求項28】
口腔粘膜は頬粘膜である請求項24の方法。
【請求項29】
薬剤はフェンタニルである請求項15の方法。
【請求項30】
薬剤はフェンタニルである請求項22の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2006−501220(P2006−501220A)
【公表日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−528775(P2004−528775)
【出願日】平成15年8月14日(2003.8.14)
【国際出願番号】PCT/IB2003/003908
【国際公開番号】WO2004/016243
【国際公開日】平成16年2月26日(2004.2.26)
【出願人】(501120627)ジェネレクス ファーマシューティカルズ インコーポレイテッド (3)
【氏名又は名称原語表記】GENEREX PHARMACEUTICALS INC.
【Fターム(参考)】