説明

薬剤を分散させるための医療器具

【課題】病変組織区域または臓器部分の選択的な治療のために薬物を放出する医療装置を提供する。
【解決手段】圧力下でその領域と接触状態になる医療用具の表面は、様々な組織成分にそれへの良好な接着で結合する、脂溶性の実質的に水に解けない薬物でコートされ、ここで、上記薬物は、隣接している健康な組織に有害な効果を発揮することなく、患部と接触状態になった後、短時間で患部に効果がある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願発明は、特定の組織または臓器部分の選択的な治療法のために薬物を放出する医療装置、およびそのような薬物にコートされた器具の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの病気は、一度に生体全体に影響することはないが、特定の組織に、たいていは、さらに非常に限定された個々の組織領域または臓器部分に限られる。実例を、腫瘍、関節、血管疾患の中に見つけることができる。
【0003】
そのような病気の薬物療法は、全身に広がり、そして特に治療される病気が治療のための適用を制限する重症段階にある場合、健康な組織および臓器に不都合な副作用を引き起こす薬物の経口または静脈内投与によって一般に達成される。病変組織は、投与経路が維持されている間、選択的に病変組織に特異的に結合する薬物(例えば、抗体)を使ってか、あるいは選択的な投与、例えば上記病変組織内への直接的な注射または病変組織に送り込まれる血管へのカテーテルによる供給によってかのいずれかによって治療されうる。選択的な投与の場合には、繰り返し投与が選択肢として存在しない場合、薬物が効果的である短い期間および侵襲性の投与経路により問題が生じるかもしれない。薬物が選択的に病変組織に送り込まれる血流によって投与される時、血液または活性物質溶液が血管を通って素早く流れた場合に上記薬物が十分に取り出されないというさらなる問題がある。
【0004】
これらの問題は、活性物質を徐放する様々な製剤、薬物を放出する移植片、またはより長期間に使用可能な状態を維持する選択的な接触経路、例えば移植されたカテーテルなどによって対処されるのが常だった。
【0005】
生体内に挿入される医療機器、特にカテーテルの表面が、滑走性を高めるか、または血液凝固を防ぐ作用物質でコートされるが、治療効果を持たないことが知られている。
【0006】
さらに、カテーテルは、例えば血管壁に隣接して配置し、そしてそれを通して薬物を高圧で注入する針またはカテーテル壁のせん孔を使った、薬物を動脈壁内に注入するための特殊な器具を備える。
【0007】
他の原理は、動脈壁と活性物質調剤の間の接触時間を延ばすことに基づき、ここで、上記活性物質調剤は、例えば活性物質溶液がバルーンの間のチェンバ内に含まれている二重バルーン・カテーテルを使って十分な期間血流を妨げることによるか、またはバルーンを通りぬける管を通って血流を制限することを可能にするバルーンの円環状の外壁の隙間を使用するかのいずれかによって、カテーテルによって投与される。
【0008】
米国特許第5102402号明細書(特許文献1)によると、マイクロカプセル形態の薬物が、活性物質の遅延放出のためのバルーン・カテーテルの前もって形成された凹部に挿入される。そのバルーンを膨らませる時、前記マイクロカプセルが血管壁に押し付けられて、そこに残って、ゆっくり活性物質を放出する。多くの著者がバルーン・カテーテル上のハイドロゲルにはめ込まれた薬物を用いることを提案するが、一方で、彼らはそのハイドロゲルの機能を、すなわち接着剤として働くように、滑走性を改善するように、または制御された薬物放出のために、特定していない。
【0009】
先に触れた製品の問題点は、製造、品質管理、およびコストの問題を引き起こして、かつ、適用される時に医者および患者にさらなる腹立たしい操作ステップを強いる、それらの複雑な構造である。言及した方法のいくつかは、意図的な血管の拡張を超える望ましくない血管の損傷をもたらすかもしれない。他の痛手は、接触時間を延ばすことを目的とした各々の手段が下流組織への血液および酸素供給における他の減少を引き起こすことである。
【0010】
万全を期すために、我々は天然の細胞膜から得た脂質セラミド物質でコートされた国際公開第01/24866号パンフレット(特許文献2)に記載の再狭窄を予防するための器具をも参照する。この物質は、通常の薬物に見られない細胞壁に対するその親和性のために使用される。当該分野の専門家は、薬物を使用する再狭窄の予防は数日間にわたる活性物質の放出を必要とすると述べ続ける。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】米国特許第5102402号明細書
【特許文献2】国際公開第01/24866号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の根底にある問題は、良好な耐容性を示し、かつ、最小の努力で製造されおよび適用されることができる、健康な組織に損害を与えることなく強い治療効果を与える、特定の組織領域または臓器部分内への薬物放出のための器具を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この問題は、本発明により、請求項1および15の特徴に従って設計されるか、または製造された器具によって解決される。従属請求項は、さらなる特徴と本発明の有利な改良点を開示する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、高度に多用途の、活性物質の即座の放出を容易にする、改善された薬物輸送バルーン・カテーテルまたは単純な工程で製造された類似の医療用具を提供する。驚いたことに、そして現在認められた意見に反して、不活性なマトリックス(ポリマー、ハイドロゲル、マイクロカプセルなど)からの活性物質の連続的な放出、または有効成分の特別な化学的もしくは物理的な状態は、必要とされないか、または有用ではない。従って、デポー製剤を製造するか、または制御するための洗練された技術は必要とされない。
【0015】
狭窄症予防もしくはバルーンの圧力によって生じた内腔の閉塞のために、腫瘍成長の抑制のために、または副行循環の形成を含む治癒過程の促進のために、血管もしくは体内の他の経路がバルーンで広げられた後の治療のために常に要望があるので、本発明による薬物でのカテーテル上のバルーンをコートすることが特に有用である。これは、バルーン表面のすぐ近くで有効になる薬物によって達成されることができる。薬物は、バルーンを膨らませるまで、そのターゲットへのその進路上の強烈な血流によって動脈を通過している間、しっかりとバルーンに付着しており、そして膨らんだバルーンが組織と接触する短い時間(時にたった数秒)に有効量が放出され、バルーンをしぼめた直後に再開する血流がそれをすすがないような方法で組織によって吸収された。
【0016】
コーティングの対象は、少なくとも短時間病変組織に押し付けられる、カテーテルを導くのに使用された本発明のワイヤー、カテーテル針、およびカテーテル部分である。好ましいカテーテル材料は、ポリアミド、ポリアミド混合物およびコポリマー、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンおよびコポリマー、ポリウレタン、天然ゴム、並びにその誘導体である。薬学的な治療のために設計されたカテーテルの長さおよび直径、またはバルーン面積は、その投与量が活性物質μg/表面積mmで計算されるのでそれらの適用に関していずれも決定的に重要でない。例えば、直径2〜4mm、そして長さ1.0〜4.0cmのバルーンが、冠状動脈拡張のために一般に使用される。直径>20mmまで、長さ>10cmまでのバルーンが他の血管に使用されることができる。コートされる表面は、滑らかで(すなわち、活性物質を吸収する特別な構造なしで)、粗いかまたはあらゆる構造を含み;さらに、特別な表面構造が活性物質の接着のために要求されず、そのような構造は接着を妨げもしない。適当な溶剤を選んで、場合により接着に効果する物質を加えることによって、バルーン表面への活性物質の接着が独占的に引き起こされる。それは完全に滑らかなバルーン表面上において驚くほどになお一層強い。
【0017】
加えて、全ての表面が、その製品の滑走性を改善するか、血液がその表面上で凝固するのを防ぐか、またはこれらの医療品のいずれか他の特徴を改善する物質でコートされうるが、しかしコーティングに使用される材料は、環境中に放出されなくてもよく、かつ、この追加のコーティングはターゲット組織の治療のための活性物質の放出、そしてそれにより製品の効能を顕著に減らすわけではない。
【0018】
バルーン・カテーテルは、非常に薄いプラスチックチューブの1cm〜約10cmの長さの部分を膨張させることによって形成される。そして、膨張させた、非常に薄い壁で囲っているバルーン膜は、カテーテル軸に沿って数回折り畳まれて、折り畳まれる時に、膨張領域が、カテーテルの他の部分より直径でわずかにしか大きくならないようにカテーテル軸のまわりにきっちりと巻かれる。バルーン膜のきつい折り畳みは、バルーン・カテーテルをアクセス・ポート、ガイド・カテーテル、および血管の重度に狭窄した区域に通すために必要とされる。
【0019】
カテーテルのバルーンは、折り畳まれた時、または開かれた時にコートすることができる。方法は常に変わらず、かつ、十分に均一な表面被覆を提供して、たとえ開かれた時にコートされた後でも再び折り畳まれたとしても活性物質はバルーン・カテーテルの表面に付着する。
【0020】
開かれている時にコートされたバルーンは、コーティングによる少しの影響なしに生産される。例えば前もって形成された折り目と屈曲をもつバルーン膜を使うことによって、その構造が膨張のために失われず、そして圧力がバルーンから放出される時に第一の要因として外力を必要とすることなくバルーン膜が少なくともゆるく再び折り畳まれることを可能にする。この事前折り畳みの後にだけ、前もって形成された折り目が外圧か真空によって圧縮される。折り目は活性物質を保持するのに必要とされない。さらに、再度の折り畳みは、非常に滑らかな材料による小さな機械的力を使って達成されることができて、同様に、使用される道具を滑りやすい生体適合性液体によって湿らせる、ここで、有効成分は解けやすくないか、または少なくとも溶やすくはない。
【0021】
本発明の他の変更に従って、簡単に折り畳まれたバルーン・カテーテルのバルーンは、それらを低粘度活性物質溶液に浸すことによってコートされる。溶剤および活性物質は非常に密集した折り目の中にも浸透する、ここで、それらは再現性のある用量を含み、そして続くあらゆるステップによっても傷つかない、驚くほど均一なコートを形成する。溶液、あるいは溶剤が乾いた後に外面に付着したコートがそこに残されるか、またはバルーンの折り目の中に配置された活性物質部分だけが保持されるように他のステップにより取り除かれる。
【0022】
コーティング後、バルーンが折り畳まれる時にステントをバルーン・カテーテルの上にかぶせ、その上にしっかりと押しつけることができる。さらに必要とされる唯一のステップが、例えばエチレンオキサイドを使う殺菌である。
【0023】
このように展開された操作サイクルは、非常に単純で、障害に影響を受けにくく、機械的、化学的、そして物理的に敏感なコーティング材によってさえも実行されることができる。この方法を使っているコーティングが、折り目の望ましくない緩みか、または折り目のくっつきをもたらさずに、この方法で用いられた活性物質が血流によってすすがれないように十分にしっかりと付着するが、しかしバルーンをターゲット組織内で膨らせた時に活性物質のほとんどを放出することが分かった。
【0024】
好適な薬物は、あらゆる組織成分に結合する、脂溶性で、ほぼ水不溶性で、かつ、強く作用する薬物である。それらのブタノール対水性緩衝液(pH7)の構成比が0.5、好ましくは1、そして特に好ましくは5の時、またはそれらのオクタノール対水性緩衝液(pH7)の構成比が1、好ましくは10、そして特に好ましくは50超の時、薬物は脂溶性と呼ばれる。あるいは、またはこれに加えて、10重量%超、好ましくは50重量%超、そして特に好ましくは80重量%超の百分率で、薬物が可逆的におよび/または不可逆的に細胞成分に結合するである。細胞増殖もしくは炎症プロセスの阻害剤か、または抗酸化剤、例えばパクリタキセルと他のタキサン、ラパマイシンと関連物質、タクロリムスと関連物質、コルチコイド、性ホルモン(エストロゲン、エストラジオール、抗アンドロゲン)と関連物質、スタチン、エポシロン、プロブコール、プロスタサイクリン、血管形成インデューサーなどが好ましい。
【0025】
これらの物質は、様々な医療品の表面上に、乾燥固体としてまたはオイルとして好ましくは存在する。最小粒径(たいてい<5μm、好ましくは<1μm、特に好ましくは<0.1μm)が好ましく、前記薬物の一般に乏しい水溶性にもかかわらず、それらの広い表面積のために組織との接触によって速く溶けて、そしてマイクロカプセルとして機能しない、すなわち、自発的に、そして速く溶ける、最も優れた粒径のアモルファス非晶性構造であることが特に好ましい。有効用量が最小またはアモルファス粒子の形で存在し;より大きな粒子は組織における活性物質濃度にほとんど寄与しないが、あらゆる障害も引き起こさないことは十分である。投与量は所望の効果と使用された薬物の効能に依存する。それは最大5μg/mmまでであり、この容量は上限を構成することもない。よりわずかな投与量を扱うことはより簡単である。
【0026】
組織による改善された吸収に関して、カテーテル、針、またはワイヤー表面への良好な接着は、乏しい水溶解度をもつ強く脂溶性の活性物質を水にすぐに溶けるマトリックス物質の中に埋め込むことによって達成される。好適なマトリックス物質は、低分子(分子量<5000D、好ましくは<2000D)の親水性物質、例えば造影剤および医療の様々な診断上の手順のため生体内で使用される染料、糖および関連物質、例えば糖アルコール、低分子ポリエチレングリコール、生体適合性の有機および無機塩、例えば安息香酸塩、ならびにサリチル酸の塩または他の誘導体などである。造影剤の例は、ヨウ化エックス線造影剤と常磁性キレートであり、染料の例は、インドシアニングリーン、フルオレセイン、およびメチレンブルーである。同様に、賦形剤は、製品の貯蔵期間を改善するか、特定の追加の薬学的効果を生み出すかまたは品質管理のために役立つかもしれない。
【0027】
本発明の他の態様において、医薬活性物質は、粒子に吸着されるか、または低分子マトリックスを有する好適な医療品の表面に適用されることができる。今回も同様に、好適な粒子は、生体適合性であることが知られている診断法、例えばフェライトおよび超音波検査のための様々な造影剤である。
あらゆる種類の賦形剤を、有効成分より低いか、または高い用量で使用することができる。
【0028】
薬物および先に言及された賦形剤の溶液、懸濁液、または乳濁液を使って医療品をコートした。溶液、懸濁液、または乳濁液のための好適な媒体は、例えばエタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、グリセリン、水、またはその混合物である。溶剤の選択は、活性物質とアジュバントの溶解度、コートされる表面の濡れ、そして溶媒の留去後に残ったコーティングおよび粒子の構造、表面へのそれらの接着、ならびに非常に短い接触時間での組織への活性物質の移行に対する影響に基づく。
【0029】
コーティングは、浸漬、展着、一定量を表面にデリバリーする器具による適用、または様々な温度でのスプレー、そして場合により、雰囲気中への溶剤の蒸気充満によって実行されることができる。必要とされる場合、異なる溶剤と賦形剤を使って、前記手段を数回繰り返すことができる。
【0030】
使用できる状態にある折り畳まれたバルーン・カテーテルのバルーンは、活性物質を含む溶液にそれらを浸漬することによって、または他の手段によって、カテーテルの機能性を損なうことなく、驚くほど均一で、再現性のある、用量制御可能なコーティングを与えられることができる。バルーンが不飽和の活性物質溶液に何度も浸漬される時、先に用いられた活性物質は完全にはぎ取られるわけではなく;代わりに、バルーンの活性物質含有量が再現性のある様式で増やされる。
外面にゆるく接着される過剰な溶液、またはコーティング溶液からの過剰な物質は、コーティングの効能を損なうことなく簡単な方法で取り除かれることができる。
【0031】
本発明に従って設計され、そして製造された様々な型の医療器具は、組織との短期、すなわち数秒間、数分間、または数時間、の接触に参加する。例えば損傷への応答としての過剰な成長を防ぐためか、または腫瘍成長を減らすために、医療品のすぐ近くで薬物により組織を薬理学的に治療することは、新血管新生を高めるかまたは炎症反応を減らすために、症例によっては望ましい。これら全ての症例において、高い局所薬物濃度は、先に述べられた方法を使って驚くほど長時間達成されることができる。主な利点は、記載の物品および方法の用途の並外れた汎用性である。
【0032】
好ましい適用は、バルーン・カテーテルの膨張によって誘発された血管壁の過剰増殖を減少させることである。これは、ステントを移植した場合に、薬物によってこれらのステント表面をコートすることによって達成されうる、しかし上記ステントによってカバーされた血管区域に関してのみである。同様に、コート・バルーン・カテーテルは、治療を必要とする、そのステントの前と直後の少し離れたあらゆる領域をも治療し、そしてそれは、他のステントの移植を必要とすることなく、ステントが移植された区域、およびステントを移植すべきでない、または移植できない血管を治療することができる。長期間にわたって薬物を放出するステントと比べての利点は、改善された治癒、ならびに同時に起こる過剰増殖の良好な抑制と血栓症の危険性の減少である。
【0033】
バルーン・カテーテルのコーティング、血流中でのコーティングの接着、再狭窄の抑制、およびカテーテルの活性物質含有量に関する実施例を参照して、本発明のいくつかの態様を以下に説明する。
【実施例】
【0034】
実施例1:
酢酸エチル中のパクリタキセルによる膨張したバルーン・カテーテルのコーティング
BMT, Oberpfaffenhofen/ Munich, Germany製のバルーン・カテーテル、製品名Joker Lite、バルーン寸法2.5mm×20mmを、最大まで膨らませ、そして酢酸エチル中、1mlあたり18.8mgのパクリタキセル、+1%の医療用オリーブ油中に1分間全長を浸漬し、乾燥させた:パクリタキセル含有量39μg(エタノールによる抽出後、HPLC)。
【0035】
実施例2:
酢酸エチル中のパクリタキセルによる折り畳まれたバルーン・カテーテルのコーティング
BMT, Oberpfaffenhofen/ Munich, Germany製のバルーン・カテーテル、製品名Joker Lite、バルーン寸法2.5mm×20mmを、折り畳まれた状態で、酢酸エチル中、1mlあたり18.8mgのパクリタキセル、+1%の医療用オリーブ油中に1分間全長を浸漬し、そして乾燥させた:パクリタキセル含有量69μg。
【0036】
実施例3:
酢酸エチル中のパクリタキセルによる折り畳まれたバルーン・カテーテルのコーティング
a)BMT, Oberpfaffenhofen/ Munich, Germany製のバルーン・カテーテル、製品名Joker Lite、バルーン寸法2.5mm×20mmを、折り畳まれた状態で、酢酸エチル中、1mlあたり16.6mgのパクリタキセル中に1分間全長を浸漬し、そして4時間乾燥させた:パクリタキセル含有量54μg。
b)同じ手順、しかし溶液A(=3.33mlの酢酸エチル+100.0mgのパクリタキセル)中への各々の浸漬後の1時間の乾燥時間を伴い、さらに2回5秒間浸漬した:パクリタキセル含有量126μg。
c)同じ手順、しかし同じ溶液中への各々の浸漬後の1時間の乾燥時間を伴い、さらに4回5秒間浸漬した:パクリタキセル含有量158μg。
【0037】
実施例4:
アセトン中のパクリタキセルによるバルーン・カテーテルのコーティング
9.0mlのアセトン中に350mgのパクリタキセルを溶かし;BMT, Oberpfaffenhofen/ Munich, Germany製のバルーン・カテーテル、製品名Joker Lite、バルーン寸法2.5mm×20mmを、最大まで膨らませ、1分間全長を浸漬し、そして取り出す。溶剤を室温で12時間乾燥させる。そしてバルーンをしぼませて、PTFEコートした道具を使って共通の方法で折り畳む。場合により、当業者はバルーン上に好適な寸法のステントを圧着することができる:バルーン上に29μgのパクリタキセル。
【0038】
実施例5:
アセトン中のパクリタキセルによるバルーン・カテーテルのコーティング
a)BMT製の折り畳まれたバルーン・カテーテル、製品名Allegro、バルーン寸法2.5×20mmの、0.15mlのエタノール+4.5μlのUltravist 300(Schering AG, Berlin, Germany製のエックス線造影剤)+1.35mlのアセトン+0.8mgのスダンレッド+30.0mgのパクリタキセルの混合物中への浸漬:
上記カテーテルの折り畳まれたバルーン部分を5回浸漬した、ここで1回目は1分間浸漬し、その後3時間乾燥させる、そして1時間の間隔で4回、各5秒間浸漬する;続いて、ステントを圧着し、そしてエチレンオキサイドを使った共通の方法によりそのカテーテルを殺菌する:パクリタキセル含有量172μg、活性物質の分解物はHPLCでは検出されなかった。
b)飽和したマンニトール水性溶液をUltravist 300の代わりに使用する。
c)飽和したサリチル酸ナトリウム水溶液(pH7.5)をUltravist 300の代わりに使用する。
d)5mgのアセチルサリチル酸を、(5a)に従って完成した溶液に加える。
e)5mgのグリセリンを、(5a)に従って完成した溶液に加える。
【0039】
実施例6:
血流中における活性物質の接着
12本のBMT製のバルーン・カテーテル、製品名Allegro、バルーン寸法2.5×20mmを使用した。各々6本のカテーテルの折り畳まれたバルーン部分を、[0.15mlのエタノール+4.5μlのUltravist 300+1.35mlのアセトン+0.8mgのスダンレッド+30.0mgパクリタキセル]中、または[1.5mlの酢酸エチル+0.8mgのスダンレッド+31.0mgパクリタキセル]中のいずれかに5回浸漬した、ここで1回目は1分間浸漬し、その後3時間乾燥させる、そして1時間の間隔で4回、各5秒間浸漬する;そして各々のグループの折り畳まれたバルーン3本を、50mlのヒト血液中、37℃で5分間穏やかに動かし、そしてパクリタキセル含有物を測定するために取り出した:血中でインキュベートしなかった3本の対照カテーテルと比較した場合、5分間の血中移動による減少の平均値(1つのコーティング方法あたりn=3)。
アセトン:12%
酢酸エチル:10%
【0040】
実施例7:
ブタ冠状動脈における血管形成術およびステント挿入術後の再狭窄抑制の試験
3.5×20mmまたは3.0×20mmの、BMT製Joker Lite型の折り畳まれたバルーン・カテーテルを、以下の
溶液A)3.33mlの酢酸エチル(EA)+100.0mgのパクリタキセル、または
溶液B)0.45mlのエタノール+100μlのUltravist370+4.5mlのアセトン(ac)+150.0mgのパクリタキセル、
のいずれかの中に1分間浸漬し、そして室温で一晩乾燥させた。それぞれ、もう1回の(低い用量=L)またはもう4回の(高い用量=H)の浸漬工程を、翌日に1時間の間隔でぴったり5秒間実行した。
活性物質含有量は、平均して溶液(B)中への2回の浸漬後に250μg、溶液(B)中への5回の浸漬後に500μg、溶液(A)において400μgとなった。
パクリタキセルによりコートされたカテーテルか、または未コートのカテーテルを、合計22頭のブタの左前冠状動脈(left anterior coronary artery)または外側冠状動脈(lateral coronary artery)内にステントを移植するために使用して、そしてその血管を組織過形成による再狭窄を刺激するためにわずかに過剰拡張した。前記動物を、5週間後に血管造影により観察し(reangiographed)、そして血管造影図で示された血管狭窄を、自動コンピュータ・プログラムを使って計測した。
【0041】
【表1】

【0042】
非コートおよびコート・カテーテルによるステント挿入術5週間後の冠動脈造影の定量;狭窄=ステント挿入術の直後の内腔直径と比べた場合のステント領域の百分率による内腔直径の減少;平均値と治療効果の統計的有意性。
【0043】
実施例8:
血管膨張およびステント挿入術後のカテーテルの活性物質含有量
ステント挿入術及び動物からの除去の後に、長さ約3cmの実施例8のバルーンを、バルーン・カテーテルから切り離し、そして1.5mlのエタノール中に移した。HPLCを使ってパクリタキセル含有量を測定した。全ての入手可能なコート・バルーンと抽出した非コート・バルーンを試験した。
【0044】
【表2】

【0045】
最大10%の用量が、バルーンが膨らむ前に失われ、そして約10%の量がバルーンに残っていることが実施例6からわかる。
【0046】
実施例9:
プロブコールを、1mlにつき100mgの濃度でアセトンに加える;その溶液を、先の実施例に記載のとおりバルーン・カテーテルをコートするために使用する。
【0047】
実施例10:
ラパマイシンを、ジエチルエーテル中に10mg/mlの濃度で溶かす。先の実施例で記載のとおりカテーテルのバルーン部分をコートし;コーティング溶液から取り出した後に、バルーンを水平にし、そしてできる限りすぐにそれらの縦軸に回転させ続けなくてはならない。
【0048】
実施例11:
エポシロンBを、2mg/mlの濃度で酢酸エチル中に溶かし;その溶液を先の実施例の記載のとおりバルーン・カテーテルをコートするために使用する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
特定の病変組織または臓器部分の選択的な治療法のために薬物を放出する医療器具であって、少なくとも短時間上記病変組織に押し付けられることによって上記病変組織と接触状態になり、かつ、組織と接触している時に活性物質を直ちに放出する器具の表面に、あらゆる組織成分に結合し、脂溶性でおおむね水に不溶である薬物が、付着している、ことを特徴とする前記医療器具。
【請求項2】
ステントなしのまたはステントを結合したバルーン・カテーテル、カテーテルおよび/またはその一部、針、およびガイドワイヤー、ならびにステントが活性物質の担体として使用されることを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項3】
予め形成された縦の折り目のあるバルーンが薬物コーティングに使用され、かつ、再折り畳み傾向が膨張によって失われないことを特徴とする、請求項2に記載の器具。
【請求項4】
前記バルーンが、薬物が本質的に損傷することなく折り畳むために必要な力に耐えるように十分によく接着する非常に滑らかな材料から成ることを特徴とする、請求項2に記載の器具。
【請求項5】
完全に折り畳まれた状態での、低い粘性の活性物質溶液中への浸漬によってコートされたバルーンが使用されることを特徴とする、請求項2に記載の器具。
【請求項6】
折り目によって覆われた領域だけが、適用後に乾燥させた薬物によってコートされることを特徴とする、請求項2〜5のいずれか1項に記載の器具。
【請求項7】
前記脂溶性薬物が、細胞増殖または炎症プロセスの阻害剤であるか、あるいは抗酸化剤であることを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項8】
使用された薬物が、パクリタキセルおよび他のタキサン、ラパマイシンおよび関連物質、タクロリムスおよび関連物質、コルチコイド、性ホルモンおよび関連物質、スタチン、エポシロン、プロブコール、プロスタサイクリン、血管形成インデューサーであることを特徴とする、請求項7に記載の装置。
【請求項9】
脂溶性薬物が、それぞれの物品表面上に乾燥固体またはオイルとして存在することを特徴とする、請求項7または8に記載の装置。
【請求項10】
前記薬物の有効用量が、有効成分の乏しい水可溶性にもかかわらずそれらの広い表面積のために速く溶解する、0.1μm〜5μmの範囲の粒径をもつアモルファス構造体を含むことを特徴とする、請求項9に記載の器具。
【請求項11】
前記脂溶性薬物が、すぐに水に溶けるマトリックス材料中に埋め込まれて、前記器具表面への良好な接着を達成し、かつ、組織による吸収を改善することを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項12】
前記マトリックス材料が、分子量5000D未満の低分子親水性材料から成ることを特徴とする、請求項11に記載の装置。
【請求項13】
前記脂溶性薬物が、粒子に吸収されるか、または低分子マトリックスを有する器具表面に適用されることを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項14】
前記表面が、器具の滑走性のような特別な効果を与えるか、または血液凝固を防ぐ物質によってさらにコートされることを特徴とする、請求項1に記載の器具。
【請求項15】
溶液、懸濁液、または乳濁液媒体中の前記脂溶性薬物および賦形剤を、浸漬、展着、またはスプレー工程、あるいは一定量を器具表面にデリバリーすると同時に上記表面に軽く付着した過剰な媒体および材料を取り除く道具を使って適用することを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の器具の製造方法。
【請求項16】
前記コーティング工程が、再現性のある活性物質含有量の増加のために、同じまたは異なる溶液、懸濁液、または乳濁液媒体、および/または賦形剤を用いて、繰り返し実行されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
エタノール、イソプロパノール、酢酸エチル、ジエチルエーテル、アセトン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、グリセリン、水、またはその混合物が、溶液、懸濁液、および乳濁液媒体として使用されることを特徴とする、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
使用状態にある折り畳まれたバルーンが圧着されたステントを有するか、またはそれを持たない、殺菌前またはその後にコートされる薬物担体として提供されることを特徴とする、請求項15〜17のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記バルーンが折り畳まれていない状態でそれぞれの脂溶性薬物によってコートされ、そしてそのバルーンが、場合により生体適合性滑走剤によって湿らされた、特別に潤滑化する道具を用いて折り畳まれることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
バルーン・カテーテルと結合したステントが、コーティングより前に、またはその後に付けられることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項21】
完全にコートされた器具が、エチレンオキサイドを使って殺菌されることを特徴とする、請求項15に記載の方法。
【請求項22】
血管疾患または血液循環の障害を治療するための、請求項1〜21のいずれか1項に記載のとおり設計、および製造された医療器具の使用。
【請求項23】
体内の開かれた通路を作り出すための、請求項1〜21のいずれか1項に記載のとおり設計、および製造された医療器具の使用。

【公開番号】特開2010−214205(P2010−214205A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−156947(P2010−156947)
【出願日】平成22年7月9日(2010.7.9)
【分割の表示】特願2004−538694(P2004−538694)の分割
【原出願日】平成15年8月26日(2003.8.26)
【出願人】(300049958)バイエル・シエーリング・ファーマ アクチエンゲゼルシャフト (357)
【Fターム(参考)】